(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る多方向入力装置1の分解斜視図である。図2は、多方向入力装置1を後部斜め下方から見た分解斜視図である。なお、以下においては、説明の便宜上、図1および図2に示す上下方向を「多方向入力装置1の上下方向」と呼ぶものとする。
図1および図2に示すように、この多方向入力装置1は、概して箱状のハウジング2内に、弾性部材を構成するコイルばね3と、コイルばね3の上端部を受けるばね受け部材4と、互いに直交した状態でハウジング2に回動可能に保持された第1連動部材5および第2連動部材6と、多方向入力装置1の上下方向に延在し、その傾倒動作に応じて第1連動部材5および第2連動部材6を回動させる操作部材7と、第1連動部材5および第2連動部材6の回動動作をそれぞれ検出する第1検出手段8および第2検出手段9と、を含んで構成される。
ハウジング2は、開口部211が形成された上ケース21と、上ケース21に対向配置される蓋部材22と、上ケース21および蓋部材22の間に配置される中間ケース23と、から構成される。このようなハウジング2の内部(上ケース21と中間ケース23との間)には、一定の空間が形成され、この空間内に多方向入力装置1の各種の構成部材が収容される。
上ケース21は、例えば、絶縁性の樹脂材料を成形して構成され、概して下方側に開口した矩形状の箱状に形成されている。上ケース21の中央部には、円形状の開口部211が設けられている。開口部211の周囲には、上方側にドーム状に突出した上壁部としての壁部212が設けられている。上ケース21の外周壁部には、後述する蓋部材22の保持脚片222と係合する複数本(本実施の形態において8本)の係合溝213aが設けられている。係合溝213aの略中央部には、外側に突出する爪部213bが設けられている。爪部213bは、後述する保持脚片222のスナップ孔222aとスナップ係合する。上ケース21の外周壁部のうち、特定の隣接する2辺には、後述する第1検出手段8および第2検出手段9を配置するための下方側に開口した断面U字状(円弧状)の切り欠き部213cが設けられている(図2参照)。切り欠き部213cの周囲には、外側に突出する複数のボス213dが設けられている。これらのボス213dは、第1検出手段8を構成するGMR素子8bまたは第2検出手段9を構成するGMR素子9bが取り付けられた部分に位置するフレキシブル基板11および補強板11a,11bを上ケース21に取り付けるために利用されるものであり、後述するフレキシブル基板11および補強板11a,11bの貫通孔111に挿通されるとともに、この貫通孔111から突出する先端部がつぶされてかしめられる。なお、図2において、ボス213dは、かしめ後の形状で示されている。
上ケース21の下面には、開口部211を囲むように、下方側に突出して複数(本実施の形態において4つ)の壁部214a〜214dが設けられている。壁部214a〜214dには、それぞれ下方側に開口した断面U字状(円弧状)の軸受け部215が設けられている。壁部214aと上ケース21の外周壁部との間には、後述する磁石9aを収納するための収納部216aが設けられている。壁部214bと上ケース21の外周壁部との間には、後述する磁石8aを収納するための収納部216bが設けられている。また、上ケース21の下面(天井面)には、下方側に突出して複数本(本実施の形態において4本)の突起217が設けられている。上ケース21の下面には、後述する中間ケース23のクラッシュリブを有する突部233が圧入される、複数(本実施の形態において4つ)の孔部218が設けられている。
蓋部材22は、取付部材を構成するものであり、シールドとして機能する磁性体、例えば、ステンレス等の金属板で構成されている。蓋部材22は、コイルばね3の下端部を受ける矩形状の矩形状に設けられた底面部221と、この底面部221の外周辺部から上方側に向けて直角に延出する複数本(本実施の形態において8本)の保持脚片222と、同じく底面部221の外周辺部のうち特定の隣接する2辺から上方側に向けて直角に延出する遮蔽片223と、を有している。底面部221は、その一部を下方側へ突出させた弾性片221aを有している。保持脚片222は、それぞれ略矩形状にくり抜かれて形成されたスナップ孔222aを有している。これらの保持脚片222が、上ケース21の係合溝213aと係合し、スナップ孔222aと爪部213bとがスナップ結合することにより、蓋部材22と上ケース21とが結合する。遮蔽片223は、それぞれ上ケース21の切り欠き部213cに対応する位置に設けられている。また、蓋部材22の上面中央には、絶縁性の樹脂材料からなる軸受け部材10がかしめて取り付けられている。軸受け部材10には、上方側に突出する一対の壁部10aが対向して設けられている。一対の壁部10aの上面側は、球面状の凹部形状に形成されている。また、軸受け部材10には、一対の壁部10aと直交するように、略長方形状の凹部10bが設けられている。
中間ケース23は、例えば、絶縁性の樹脂材料を成形して構成され、概して矩形状に設けられている。中間ケース23の中央部には、矩形状の開口部231が設けられている。開口部231の周囲には、コイルばね3を挿通可能な複数(本実施の形態において4つ)の貫通孔232が設けられている。本実施の形態において、貫通部としての貫通孔232は、矩形状である開口部231の四隅に対応して設けられており、開口部231と連通している。中間ケース23の上面には、上方側に向けて突出する複数(本実施の形態において4つ)のクラッシュリブを備えた突部233が設けられている。突部233の外周に設けられたクラッシュリブは、中間ケース23と上ケース21を結合させる際に、上ケース21の孔部218に圧入されて潰され、中間ケース23が上ケース21に圧入固定される。中間ケース23には、上ケース21の収納部216a,216bに対応する位置に、貫通部234a,234bが設けられている。また、開口部231を挟んで、貫通部234bと対向する位置には、後述する第1連動部材5の軸部55bに設けられた突出片57が挿入されるスリット状の規制部235が設けられている。規制部235は、第1連動部材5が回動軸線方向に移動するのを規制する役割を果たす。中間ケース23には、後述するIC12に対応する位置に、開口部236が設けられている。中間ケース23の下面には、開口部236に隣接して、下方側に突出する複数のボス237が設けられている(図2参照)。これらのボス237は、IC12が取り付けられた部分に位置するフレキシブル基板11および補強板11cを中間ケース23に取り付けるために利用されるものであり、後述するフレキシブル基板11および補強板11cの貫通孔111に挿通されるとともに、この貫通孔111から突出する先端部が潰されてかしめられる。
コイルばね3は、例えば、鉄(ピアノ線)などの導電性を有する金属線材により構成され、複数(本実施の形態において4つ)の略同一構造のコイルばね3a〜3dが中間ケース23の貫通孔232内に配置されている。多方向入力装置1における弾性部材としてコイルばね3を用いることにより、長期にわたって、良好な復帰性能を確保することが可能となる。
ばね受け部材4は、例えば、リン青銅などの非磁性体の金属板で構成され、概して矩形状に設けられた基部41と、基部41から上方側に向けて略直角に延出する複数(本実施の形態において4つ)の延出部42と、延出部42の上端部から外方側に向けて略直角に延出する受け部43と、受け部43の外端部から下方側に向けて略直角に延出する側壁部44と、を有している。基部41は、平板状に設けられ、その中央部には概して円形状の開口部41aが設けられている。延出部42は、略矩形状の基部41の四隅からそれぞれ上方側に延出する。受け部43は、平板状に設けられ、その中央部には平面視略円形状を有し、下方側に円筒状に突出する筒状部43aがそれぞれ設けられている。各筒状部43aには、上ケース21の突起217が挿通される。この突起217により、ばね受け部材4(受け部43)が上下移動可能に案内されている。また、各筒状部43aの外周側には、コイルばね3a〜3dがそれぞれ配置される。このとき、延出部42と側壁部44とでコイルばね3a〜3dを挟んだ状態となり、コイルばね3a〜3dの上端部は受け部43の下面に当接する。すなわち、ばね受け部材4の受け部43で、コイルばね3a〜3dの上端部を受ける状態となる。また、受け部43をL字状に曲げた側壁部44を設けることにより、ばね受け部材4の強度を高めることが可能となる。また、基部41は、受け部43で受けたコイルばね3の付勢力を後述する第1連動部材5および第2連動部材6に作用させている。すなわち、基部41は、第1連動部材5と第2連動部材6の下面に弾接している。なお、ばね受け部材4は、上ケース21と中間ケース23との間に配設されている。
第1連動部材5は、例えば、絶縁性の樹脂材料を成形して構成される。図3は、第1連動部材5の上面図である。第1連動部材5は、対向して配置される長尺の一対の側壁部51と、これらの側壁部51の両端部同士を連結する連結部52と、を有している。側壁部51は、その両端部から長手方向の中央位置にかけて、上方側になだらかな凸形状となるように形成されている。側壁部51および連結部52の内側には、平面視にて概して長方形状の長孔からなる開口部53が設けられている。側壁部51の長手方向の中央位置には、一対の側壁部51を連結するように、概して円柱状の軸部54が設けられている。軸部54は、その中央部の径が、両端部の径よりも小径に形成されている。軸部54は、後述する操作部材7と係合して、この操作部材7の上方側および下方側への移動を規制する役割を果たす。この軸部54により操作部材7の上方側および下方側への移動を規制できるので、操作部材7とハウジング2との直接的な接触を防止することができ、操作部材7やハウジング2の破損を防止することが可能となる。また、連結部52には、それぞれ装置本体の側方側に突出して設けられる概して円柱状の軸部55a,55bが設けられている。軸部55a,55bは、それぞれ上ケース21の壁部214b,214dに設けられた軸受け部215に挿通されることにより、上ケース21(壁部214b,214d)と中間ケース23の上面との間で回動可能に支持されている。一方の軸部55aの先端部には、磁石受け56が設けられている。この磁石受け56には、第1連動部材5の回動動作を検出する第1検出手段8を構成する磁石8aがかしめで固定されている。磁石8aは、概して円筒形状を有し、上ケース21の収納部216b内に収納可能な寸法に設けられている。他方の軸部55bの先端部には、下方側に突出する突出片57が設けられている。さらに、連結部52には、それぞれ開口部53側に突出して設けられる規制部58が設けられている。規制部58は、円柱状の軸部55a,55bを開口部53側に突出させ、その上半分を斜めに切り落とした形状に設計されている。この規制部58は、操作部材7が一定位置以上に回動するのを規制する役割を果たす。なお、ばね受け部材4の基部41と当接する第1連動部材5の下面、本実施の形態における側壁部51の両端部と連結部52の下面は、平坦面となっている。操作部材7の非操作時には、第1連動部材5の下面(平坦面)は、コイルばね3の付勢力を受けたばね受け部材4の基部41と面接触している(図9参照)。
第2連動部材6は、第1連動部材5の上方側に、延在方向(回動軸線方向)が第1連動部材5に対して直交するように配設されている。第2連動部材6は、例えば、絶縁性の樹脂材料を成形して構成される。図4は、第2連動部材6の上面図である。第2連動部材6は、上方側に向かってアーチ状に湾曲形成されており、そのアーチ状部分の長手方向に沿って長孔61が形成されている。アーチ状部分は、上ケース21のドーム状に突出した壁部212の内部に収容される寸法に設定されている(図8参照)。このように、上ケース21の開口部211の周囲に形成された壁部212の内部に第2連動部材6のアーチ状部分を収容できるので、上ケース21の壁部212以外の部分を薄型化でき、多方向入力装置1が搭載される機器の設計の自由度を確保できる。また、長孔61は、後述する操作部材7の肩部73の寸法と略同一に設定されている。長孔61の下面の長辺部分に沿って、すなわち、短手方向端部の内面側には、略円弧状の凹部61aが設けられている。また、第2連動部材6の長手方向の両端には、側壁部62が設けられている。これらの側壁部62には、それぞれ装置本体の側方側に突出して設けられる概して円柱状の軸部63a,63bが設けられている。軸部63a,63bは、それぞれ上ケース21の壁部214a,214bに設けられた軸受け部215に挿通されることにより、上ケース21(壁部214a,214b)と中間ケース23の上面との間で回動可能に支持される。一方の軸部63aの先端部には、磁石受け64が設けられている。この磁石受け64には、第2連動部材6の回動動作を検出する第2検出手段9を構成する磁石9aがかしめで固定されている。磁石9aは、上ケース21の収納部216a内に収納可能な寸法に設けられている。なお、ばね受け部材4の基部41と当接する第2連動部材6の下面である側壁部62の下面は、平坦面となっている。操作部材7の非操作時において、第2連動部材6の下面は、コイルばね3の付勢力により、ばね受け部材4の基部41と面接触している(図10参照)。
操作部材7は、例えば、絶縁性の樹脂材料を成形して構成され、上端部に設けられた平面視にて概して円形状の頭部71と、基部を構成する円柱状の軸部72と、軸部72の上下方向の中間位置に設けられた肩部73と、を有している。図5Aは、操作部材7の側面図であり、図5Bは、操作部材7の下面図である。操作部を構成する頭部71の径は、上ケース21の開口部211の径よりも大径に設定されている。また、軸部72の径は、上ケース21の開口部211の径よりも小径に設定されている。多方向入力装置1を組み立てた状態では、上ケース21の開口部211には開口部211の径より小径である軸部72が挿通される。したがって、開口部211と軸部72との間に生じる隙間から、異物がハウジング2内に入り込むおそれがある。これに対し、操作部材7に、少なくとも非操作状態において開口部211を覆う目隠し部を設けてもよい。目隠し部の形状は、例えば、鍔状や上ケース21のドーム状に突出した壁部212に沿った形状とすることができる。この目隠し部は、操作部材7に一体に成形して設けてもよいし、エラストマー等を操作部材7に2色成形して設けてもよい。また、操作部材7とは別部材のエラストマーやラバー等からなるリング状の弾性部材を、操作部材7に取り付けることにより目隠し部を設けてもよい。軸部72の下端部は、蓋部材22に取り付けられた軸受け部材10における壁部10aの球面状の凹部形状に対応して、球面状の凸部形状に形成されている。また、軸部72の下端部には、下方側に開口した断面U字状(円弧状)の凹溝部72aが設けられている。凹溝部72aは、第1連動部材5の軸部54とスナップ係合する。肩部73は、長手形状部を構成するものであり、概して直方体形状を有しており、長辺部分が軸部72から装置全体の両側方側(図5Aの左右方向)に突出して設けられている(図5B参照)。肩部73の上面は、短辺部分に沿って上に凸となる略円弧状に形成されている。肩部73の短辺の寸法は、軸部72の径と略同一である。肩部73の長辺方向の両端部における下部側中央には、略直方体形状に切り欠かれた切り欠き部74が設けられている。
第1検出手段8を構成する磁気検出素子としてのGMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)8bおよび第2検出手段9を構成する磁気検出素子としてのGMR素子9bは、フレキシブル基板11上に設けられている。フレキシブル基板11には、GMR素子8b,9bの他に、アンプとして機能するIC12と、コネクタ13とが設けられている。GMR素子8b,9bは、磁石8a,9aの回転角度を検出し、IC12によって検出結果を増幅して、コネクタ13を介して検出結果を外部に出力する。GMR素子8b,9bが設けられた部分のフレキシブル基板11の裏面には、補強板11b,11aが両面粘着テープ等によって取り付けられている。フレキシブル基板11および補強板11a,11bには、上ケース21のボス213dを挿通するための貫通孔111が設けられている。IC12が設けられた部分のフレキシブル基板11の裏面には、補強板11cが取り付けられている。フレキシブル基板11および補強板11cには、中間ケース23のボス237を挿通するための貫通孔111が設けられている。なお、GMR素子8b,9bおよびIC12は樹脂により封止されている。
続いて、本実施の形態に係る多方向入力装置1を組み立てた状態について説明する。図6は、多方向入力装置1を組み立てた状態の斜視図である。図7は、図6に示す多方向入力装置1から上ケース21を取り外した場合の斜視図である。図8は、多方向入力装置1に上ケース21を取り付けた場合における、図7のA−A線矢視断面図である。図9は、図6に示す多方向入力装置1から上ケース21を取り外した場合の断面図であり、図7のB−B線矢視断面図である。図10は、図6に示す多方向入力装置1から上ケース21を取り外した場合の断面図であり、図7のC−C線矢視断面図である。
図6に示すように、このような構成を有する多方向入力装置1を組み立てると、上ケース21の係合溝213aに蓋部材22の保持脚片222が係合し、爪部213bとスナップ孔222aとがスナップ結合した状態で、上ケース21と蓋部材22とが中間ケース23を介して一体化され、ハウジング2が構成される。GMR素子8b(図6において不図示)に対応して設けられた補強板11bは、貫通孔111にボス213dが挿通されて、かしめで取り付けられている。GMR素子8bと対向する部分の補強板11bを覆うように、蓋部材22の遮蔽片223が位置している。操作部材7(軸部72)は、上方向に突出しており、操作部材7の操作部としての頭部71が、上ケース21の開口部211から露出した状態で、各構成部品がハウジング2内の空間に収容される。コネクタ13は、ハウジング2の外部に露出している。
図7に示すように、上ケース21の内部においては、第2連動部材6の下方側に第1連動部材5が直交して配置されている。第2連動部材6および第1連動部材5の下面の平坦面に、ばね受け部材4の基部41が当接して配置されている。コイルばね3(3a〜3d)の一部(下端側部分)は、それぞれ中間ケース23の貫通孔232に収容されている。コイルばね3の下端部は、蓋部材22の底面部221に当接しており、コイルばね3の上端部は、それぞればね受け部材4の受け部43に当接している。このように、コイルばね3の一部を、蓋部材22およびばね受け部材4の間に位置する貫通孔232内に弾性変形可能に設けることにより(図8参照)、多方向入力装置1の上下方向(操作部材7の突出方向)において、コイルばね3の少なくとも一部を、第1連動部材5および第2連動部材6とオーバーラップさせている。この構成により、高さ方向の寸法を小さくすることができるので、コイルばね3が収容されるハウジング2を薄型化することができ、ひいては多方向入力装置1全体の薄型化が可能となる。
また、コイルばね3a〜3dは、ハウジング2内において、平面視にて直交して配置される第1連動部材5および第2連動部材6の延設方向の間の方向に配置されている。すなわち、図7において、操作部材7の突出方向側(上方側)から見た場合に、磁石8aの位置を0°、磁石9aの位置を90°、第1連動部材5の軸部55bの位置を180°、第2連動部材6の軸部63bの位置を270°と表わすと、コイルばね3a〜3dの位置は、それぞれ45°、135°、225°、315°と表わすことができる(ただし、図7においてコイルばね3b(135°)は不図示)。このような構成とすることで、デッドスペースとなり易いハウジング2内の四隅部近傍のスペースを有効に利用することができるため、ハウジング2の小型化が可能となる。
なお、図8に示すように、コイルばね3が収容される中間ケース23の貫通孔232は2段構造となっており、第1の収容部を構成するその下側(蓋部材22側)の径が第2の収容部を構成する上側(ばね受け部材4側)の径よりも小径に構成されている。この構成により、コイルばね3の下端部である座巻部分は、貫通孔232に対してほとんど隙間なく収容される。一方、コイルばね3の下端部寄りの中間部分(座巻以外の部分)は、貫通孔232に対して隙間を有して収容される。これにより、コイルばね3が弾性変形した際に、コイルばね3の下端部の横ずれを防ぎ、また、コイルばね3の中間部分の側面が貫通孔232の内側壁面に当たることを防ぐことができる。したがって、コイルばね3の弾性変形に伴う動きを円滑にすることができるため、操作性が損なわれる事態を防止することが可能となる。
また、図8に示すように、金属材料からなるばね受け部材4と蓋部材22とは、金属線材からなるコイルばね3を介して導通している。蓋部材22には、下方側へ突出する弾性片221aが設けられている(図2参照)。これにより、操作部材7に落ちた操作者の静電気を、ばね受け部材4、コイルばね3および蓋部材22を介して、多方向入力装置1が実装されるプリント基板などのグランドパターンに放出することができるため、静電気に起因する装置内部のIC等の電気部品の破壊を防止することが可能となる。
図7に示すように、第1連動部材5の磁石受け56および磁石8aは、中間ケース23の貫通部234bにその一部が収容されている。この状態において、磁石8aは、図9に示すように、補強板11bに支持されたフレキシブル基板11上のGMR素子8bと対向している。第1連動部材5の回動動作は、磁石受け56を介して、磁石8aに伝達される。
同様に、第2連動部材6の磁石受け64および磁石9aは、中間ケース23の貫通部234aにその一部が収容されている。この状態において、磁石9aは、図10に示すように、補強板11aに支持されたフレキシブル基板11上のGMR素子9bと対向している。第2連動部材6の回動動作は、磁石受け64を介して、磁石9aに伝達される。
このように、本実施の形態に係る多方向入力装置1においては、第1連動部材5に連結された磁石8aと、この磁石8aに対向配置されるGMR素子8bとで、第1連動部材5の回動動作を検出する第1検出手段8を構成し、第2連動部材6に連結された磁石9aと、この磁石9aに対向配置されるGMR素子9bとで、第2連動部材6の回転動作を検出する第2検出手段9を構成している。本実施の形態に係る多方向入力装置1においては、非接触式の検出手段により第1連動部材5および第2連動部材6の回動動作を検出できるので、接触式の検出手段に比べて磨耗等の不具合を防止でき、長期間にわたって検出精度を確保することが可能となる。
図11Aは、第1検出手段8(第2検出手段9)の構成を示す正面模式図であり、図11Bは、第1検出手段8(第2検出手段9)の構成を示す側面模式図である。図11Aに示すように、磁石8a(9a)は、中心を通る長手方向の軸で磁石8a(9a)を2分割した際に、その上半分と下半分とで磁極が異なるよう構成されている。このような磁石8a(9a)の構成とすることで、多方向入力装置1の周囲(例えば、下方側)の磁石の影響を受けにくくすることができる。なお、GMR素子8b(9b)は、磁石8a(9a)の中心位置に対向配置されている。
第1検出手段8(第2検出手段9)においては、磁石8a(9a)による外部磁界(図11Bに示す矢印B)をGMR素子8b(9b)に作用させている。GMR素子8b(9b)の電気抵抗値は、磁石8a(9a)による外部磁場の向きに応じて変化するため、GMR素子8b(9b)の出力信号からGMR素子8b(9b)と磁石8a(9a)との相対回転量(回転角度)を検出できる。多方向入力装置1においては、第1検出手段8(第2検出手段9)で検出されるこの相対回転量(回転角度)に基づいて、第1連動部材5(第2連動部材6)の回転角度を検出することが可能となる。
この場合において、第1連動部材5の突出片57は、図7に示すように、中間ケース23に形成された規制部235に挿入されている。このように突出片57を規制部235に挿入することにより、第1連動部材5の回動軸線方向への移動を規制できる。このため、第1連動部材5を精度よく回動可能に保持することができ、第1検出手段8として磁石8aおよびGMR素子8bを利用する場合であっても、精度良く回転角度を検出することが可能となる。
なお、本実施の形態では、第1連動部材5の回動軸線方向への移動を上ケース21の壁部214bによっても規制している。すなわち、壁部214bに設けられた軸受け部215に、第1連動部材5の軸部55aが挿通されることにより、壁部214bが連結部52と磁石受け56との間に配置されることで、第1連動部材5の回動軸線方向への移動が規制される。同様に、第2連動部材6の回動軸線方向への移動を上ケース21の壁部214aによって規制している。この場合には、壁部214aに設けられた軸受け部215に、第2連動部材6の軸部63aが挿通されることにより、壁部214aが側壁部62と磁石受け64との間に配置されることで、第2連動部材6の回動軸線方向への移動が規制される。このように、壁部214b,214aは、対応する連動部材(第1連動部材5、第2連動部材6)の回動軸線方向に沿った動きを規制する規制部として機能する。ここでは、連動部材(第1連動部材5、第2連動部材6)の回動軸線方向への移動を規制する規制部を上ケース21に設けた場合について説明しているが、規制部を中間ケース23に形成するようにしてもよい。また、上ケース21および中間ケース23の双方に設けることも可能である。第1連動部材5および第2連動部材6におけるそれぞれの回動軸線方向に沿った動きを規制する規制部を設けることにより、連動部材(第1連動部材5、第2連動部材6)を精度よく回動動作可能に保持することができ、検出手段(第1検出手段8、第2検出手段9)として、非接触式の磁石8a,9aとGMR素子8b,9bとを用いる場合であっても、精度よく回転角度を検出することが可能となる。
操作部材7の軸部72は、ハウジング2内において直交して配置される第2連動部材6の長孔61および第1連動部材5の開口部53に挿通されている。そして、操作部材7は、軸部72に設けられた凹溝部72aが第1連動部材5の軸部54とスナップ係合することで、第1連動部材5および第2連動部材6に連結されるとともに、第1連動部材5に回転可能に支持される。多方向入力装置1においては、このように連結される操作部材7により、操作者からの傾倒操作を受け付け可能に構成されている。
操作部材7は、図7に示すように、傾倒操作されていない初期状態において、互いに直交するように配置された第1連動部材5および第2連動部材6のそれぞれの延在方向と交差する方向に突出している。より詳細には、操作部材7の軸部72は、軸部72の軸線方向(延在方向)が第1連動部材5および第2連動部材6のそれぞれ回動軸線と直交するように、上方向に突出して配置されている。そして、軸部72は、上ケース21の開口部211から外部へ突出している。このように、操作部材7が直立状態に保持されるのは、コイルばね3の付勢力を受けたばね受け部材4と面接触している第1連動部材5および第2連動部材6と操作部材7とが、係合していることによる。すなわち、本実施の形態においては、コイルばね3の付勢力が作用する第1連動部材5および第2連動部材6を介して、操作部材7が初期状態に復帰するものである。
また、多方向入力装置1が組み立てられた状態において、図9に示すように、操作部材7の肩部73の上面は、第2連動部材6の凹部61aの下面とクリアランスを有して対向配置される。このため、操作部材7が不所望に上方側へ引っ張られると、操作部材7は、そのクリアランス分だけ上方へ移動した後、第2連動部材6の下面と当接する。ここで、操作部材7の肩部73の上面と第2連動部材6の下面との間のクリアランスは、第1連動部材5の軸部54の半径より小さく設定されている。このため、肩部73が凹部61aの下面と当接するまで上方へ移動しても、軸部54と操作部材7の凹溝部72aとのスナップ係合が外れることはない。
また、多方向入力装置1が組み立てられた状態において、操作部材7の軸部72の下端部(凸部形状の部分)は、軸受け部材10の壁部10aの上面に形成された凹部形状の内部に、壁部10aの上面(凹部形状の部分)とクリアランスを有して対向配置されている(図9参照)。このため、操作部材7が不所望に強い力で押し込まれると、軸部72の下端部が壁部10aの上面に当接する。この当接により、操作部材7から第1連動部材5の軸部54に加えられる押圧の荷重(負荷)を抑制することができ、軸部54を含む第1連動部材5の破損や変形を防止することが可能となる。ここで、軸部72の下端部は球面状の凸部形状に形成されており、壁部10aの上面が軸部72の下端部の凸部形状に対応した球面状の凹部形状となっていることから、操作部材7に加えられた押圧の荷重を、蓋部材22に取り付けられた軸受け部材10によって、効果的に受けることができる。
続いて、本実施の形態に係る多方向入力装置1の組み立て方法について説明する。なお、以下に示す組み立て順序は一例にすぎず、その順序は適宜変更が可能である。
まず、フレキシブル基板11を中間ケース23に取り付ける。具体的には、IC12が取り付けられた部分における補強板11cの貫通孔111に、中間ケース23の下面に設けられたボス237を挿通し、かしめて取り付ける。続いて、中間ケース23の貫通孔232に、それぞれコイルばね3a〜3dを収容する。その後、コイルばね3a〜3dの上端部が受け部43の下面に当接するように、コイルばね3a〜3d上にばね受け部材4を設置する。このとき、コイルばね3a〜3dの上端部内周側には筒状部43aが挿通され、かつ、ばね受け部材4の延出部42と側壁部44との間にコイルばね3a〜3dが収まった状態とする。
操作部材7は、軸部72を、上ケース21の開口部211に挿通した後、第2連動部材6の長孔61に挿通し、その後、軸部72に設けられた凹溝部72aと第1連動部材5に設けられた軸部54とをスナップ係合することにより取り付ける。これにより、上ケース21、操作部材7、第1連動部材5および第2連動部材6が連結する。この操作部材7の取り付け方法について、すなわち、操作部材7、第1連動部材5および第2連動部材6の連結方法について、図面に基づいて詳細に説明する。図12は、操作部材7、第1連動部材5および第2連動部材6を後部斜め下方から見た分解斜視図である。図13は、操作部材7の軸部72を第2連動部材6の長孔61に挿通した状態を示す下面図である。図14は、操作部材7と第2連動部材6と第1連動部材5とを連結した状態を示す下面図である。なお、理解を容易とするために、図12〜図14において、操作部材7の頭部71と第2連動部材6との間に配設される上ケース21は図示を省略する。
図12に示すように、操作部材7には、略直方体形状の肩部73が設けられている。第2連動部材6には、略長方形状の長孔61が設けられている。第1連動部材5には、長手方向中央部に軸部54を有する略長方形状の開口部53が設けられている。図12に示す状態において、操作部材7の肩部73と第1連動部材5の開口部53とは、その長手方向が一致する。第2連動部材6の長孔61の長手方向は、肩部73および開口部53の長手方向と直交する。また、操作部材7の肩部73の長手方向の長さ、第2連動部材6の長孔61の長手方向の長さおよび第1連動部材5の開口部53の長手方向の長さは、略同一である。それぞれの短手方向の長さも、略同一である。また、操作部材7に設けられた凹溝部72aと、第1連動部材5に設けられた軸部54とは、図12に示す状態において、その長手方向(延在方向)が一致している。
まず、上ケース21の開口部211に挿通された状態における操作部材7の軸部72を、第2連動部材6の長孔61に挿通する。図12に示す状態から操作部材7を下方へ移動し、その軸部72を、第2連動部材6の長孔61に挿通しようとすると、肩部73の長手方向の長さが長孔61の短手方向の長さよりも長いために、肩部73が長孔61を通過することができず、軸部72を長孔61に挿通させることができない。そのため、軸部72を長孔61に挿通させるには、まず、操作部材7を図12に示す状態から90°回転させ、肩部73の長手方向と長孔61の長手方向とを一致させる必要がある。肩部73の長手方向と長孔61の長手方向とを一致させた状態で、操作部材7を下方へ移動させると、肩部73が長孔61を通過し、軸部72を長孔61に挿通することができる(図13参照)。図13に示すように、肩部73の断面略長方形状と、長孔61の略長方形状とは、略同一形状に構成されている。
続いて、軸部72に設けられた凹溝部72aと第1連動部材5に設けられた軸部54とをスナップ係合する。このスナップ係合の前に、凹溝部72aの長手方向と、軸部54の長手方向とを一致させるため、再度、操作部材7を90°回転させる。図13に示す状態から、操作部材7を90°回転させると、肩部73の長手方向と長孔61の長手方向とが直交した状態となるため、肩部73が長孔61を通過できなくなり、操作部材7は第2連動部材6の一部により上方側への移動が規制される。そして、凹溝部72aの長手方向と、軸部54の長手方向とを一致させた状態で、操作部材7を下方へ移動させると、凹溝部72aと軸部54とが当接し、さらに、操作部材7を下方へ移動させることで凹溝部72a内に軸部54が押し込まれて、両者をスナップ係合することができる(図14参照)。なお、軸部54が凹溝部72aにスナップ係合される部分は、図14より理解できるように、軸部54の中央部ではなく、その両端部(太径部分)である。すなわち、凹溝部72aを挟んで互いにわずかに突出する突出部分が操作部材7の軸部72の下端部に設けられており、この突出部分が軸部54の両端部を乗り越えることで、両者がスナップ係合している。これにより、操作部材7が第1連動部材5に対して回転可能に支持される。このように第1連動部材5に回転可能に支持される一方、第2連動部材6により上方側への移動が規制されることから、組み立てられた多方向入力装置1において、第1連動部材5に対する操作部材7の係合が外れるのを防止でき、装置における信頼性を高めることができる。特に、所定角度回転した状態の操作部材7の肩部73と、第2連動部材6との当接により操作部材7の上方側への移動を規制しているので、第1連動部材5に対する操作部材7の係合が外れるのを簡単な構成で確実に防止できる。
なお、このとき、略円弧状に形成された肩部73の上面は、長孔61の長辺に沿って下面に形成された略円弧状の凹部61aに沿った状態で対向配置されている。これにより、肩部73の上面と第2連動部材6の下面とを面で接触させることができるので、操作部材7を上方向に引っ張った時の応力を分散することができ、各部材(操作部材、第2連動部材及びハウジング)の破損又は変形を抑制することが可能となる。特に、第1連動部材5に設けられた軸部54と操作部材7に設けられた凹溝部72aとを係合させ、第1連動部材5で操作部材7を回転可能に支持しているので、例えば、一対の突起と一対の凹部とで操作部材7を回転可能に支持する場合と比べて部材の磨耗を低減でき、長期間に亘って精度の高い操作部材7の回転動作を維持させることが可能となる。また、凹溝部72aが下方側を開口したものであることから、第1連動部材5の軸部54にスナップ係合する際の位置決めが容易となり、組み立て性を良好なものとすることができる。なお、本実施の形態においては、操作部材7の凹溝部72aは、軸部72の軸線方向(延在方向)に沿って下方側を開口するものであるが、凹溝部72aはこれに限られず、軸線方向に対して角度を有して下方側を開口していてもよい。
このように、操作部材7は、軸部72が上ケース21の開口部211に挿通された後、第2連動部材6および第1連動部材5と連結される。この場合において、操作部材7の頭部71は、上ケース21の開口部211より大きい。したがって、第2連動部材6により操作部材7の上方側への移動が規制される一方、頭部71により操作部材7のハウジング2内への移動が制限されることから、操作部材7の脱落を考慮することなく多方向入力装置1を組み立てることができるので、組み立て時の作業性を向上することが可能となる。
続いて、多方向入力装置1を組み立てるために、操作部材7、第2連動部材6と連結された第1連動部材5を、ばね受け部材4の基部41上に設置する。このとき、第1連動部材5に連結された磁石8aの一部が、中間ケース23の貫通部234bに収容され、突出片57が、中間ケース23の規制部235に挿入されるよう位置を調整する。また、第2連動部材6に連結された磁石9aの一部が、中間ケース23の貫通部234aに収容されるよう位置を調整する。このように位置を調整した後、上ケース21の孔部218に、中間ケース23のクラッシュリブを備えた突部233を圧入し、上ケース21と中間ケース23とを固定する。
その後、GMR素子8bが取り付けられた部分のフレキシブル基板11および補強板11bの貫通孔111に、上ケース21の外側面に設けられたボス213dを挿通し、かしめて取り付ける。同様に、GMR素子9bが取り付けられた部分のフレキシブル基板11および補強板11aの貫通孔111に、ボス213dを挿通し、かしめて取り付ける。そして、一体化した中間ケース23および上ケース21と、蓋部材22とを組み立てる。具体的には、上ケース21の係合溝213aと蓋部材22の保持脚片222とを係合し、さらに、爪部213bとスナップ孔222aとをスナップ係合して、一体化した中間ケース23および上ケース21に、蓋部材22を取り付ける。これにより、ハウジング2が完成し、図6に示すような多方向入力装置1が組み立てられる。
また、多方向入力装置1の組み立て方法として、ハウジング2を構成する中間ケース23および上ケース21を一体化した後にこれを逆さにした状態で、中間ケース23の貫通孔232に、それぞれコイルばね3a〜3dを収容することもできる。これにより、組み立て時の作業性を向上させることが可能となる。
次に、本実施の形態に係る多方向入力装置1において、操作部材7に対して傾倒操作を受け付けた場合の動作の一例について説明する。図15,16は、本実施の形態に係る多方向入力装置1で傾倒操作を受け付けた場合の操作状態を説明するための断面図である。図15は、操作部材7に対して、第2連動部材6の長手方向(X方向とする)に傾倒操作を受け付けた場合の断面図を示している。ここで、図15は、中間ケース23の上面が見えるように、わずかに斜め上方側から見た断面図としている。図16は、操作部材7に対して、第2連動部材6の短手方向(Y方向とする)に傾倒操作を受け付けた場合の断面図を示している。なお、図15,16においては、説明の便宜上、上ケース21を取り外した状態について示している。
図15に示すように、操作部材7に対してX方向への傾倒操作を受け付けた場合、操作部材7は、第1連動部材5の両端部に設けられた軸部55a,55bを回動支点として、同図に示すP方向に回動する。この場合、操作部材7に対する傾倒操作は、第1連動部材5におけるX方向の回動動作に変換される。第1連動部材5のX方向の回動動作に伴って、第1連動部材5に連結された磁石8a(図15において不図示)も同一方向に回転する。そして、この磁石8aの回転に応じた信号が、第1検出手段8によって検出される。具体的には、磁石8aの回転によって、磁石8aによる外部磁場の向きが変化し、GMR素子8bの電気抵抗値が変化する。このGMR素子8bの出力信号から検出される、GMR素子8bと磁石8aとの相対回転量(回転角度)に基づいて、磁石8aの回転角度が検出される。
また、操作部材7に対する傾倒操作が行われると、第1連動部材5の回動に伴って、ばね受け部材4の基部41と面接触していた連結部52の下面の一部(角部)がばね受け部材4の基部41を押圧し、ばね受け部材4を下方側に押し下げる力が働く。この力により、コイルばね3が弾性圧縮され、ばね受け部材4が下方側に押し下げられる。このとき、ばね受け部材4全体が均一に下方側へ移動するのではなく、第1連動部材5の連結部52により押圧力を受けた一方側(図15の左側)に位置するばね受け部材4の方が、他方側(図15の右側)に位置するばね受け部材4よりも大きく下方側へ押し下げられる。なお、図15においては、便宜上、ばね受け部材4は均一に押し下げられた状態で描かれている。また、ばね受け部材4が押し下げられたとき、第2連動部材6の軸部63a,63bは、中間ケース23の上面によって支持されるため、第2連動部材6がばね受け部材4とともに下方側へ移動することはない。なお、第1連動部材5の軸部55a,55bも中間ケース23の上面で支持されている。
一方、操作部材7に対する傾倒操作が解除された場合には、コイルばね3の付勢力によりばね受け部材4が押し上げられて第1連動部材5が初期状態に復帰し、この第1連動部材5を介して、操作部材7が初期位置に復帰される。これに伴って第1連動部材5に連結された磁石8aが操作前の初期位置に復帰することで、初期位置に応じた信号がコネクタ13を介して外部出力される。
また、図16に示すように、操作部材7に対してY方向への傾倒操作を受け付けた場合、操作部材7は、第2連動部材6の両端部に設けられた軸部63a,63bを回動支点として、同図に示すQ方向に回動する。この場合、操作部材7に対する傾倒操作は、第2連動部材6におけるY方向の回動動作に変換される。第2連動部材6のY方向の回動動作に伴って、第2連動部材6に連結された磁石9a(図16において不図示)も同一方向に回転する。そして、この磁石9aの回転に応じた信号が、第2検出手段9によって検出される。具体的には、磁石9aの回転によって、磁石9aによる外部磁場の向きが変化し、GMR素子9bの電気抵抗値が変化する。このGMR素子9bの出力信号から検出される、GMR素子9bと磁石9aとの相対回転量(回転角度)に基づいて、磁石9aの回転角度が検出される。
また、操作部材7に対する傾倒操作が行われると、第2連動部材6の回転に伴って、ばね受け部材4の基部41と面接触していた側壁部62の下面の一部(角部)がばね受け部材4の基部41を押圧し、ばね受け部材4を下方側に押し下げる力が働く。この力により、コイルばね3が弾性圧縮され、ばね受け部材4が下方側に押し下げられる。このとき、ばね受け部材4全体が均一に下方側へ移動するのではなく、第2連動部材6の側壁部62により押圧力を受けた一方側(図16の右側)に位置するばね受け部材4の方が、他方側(図16の左側)よりも大きく下方側へ押し下げられる。なお、図16においては、便宜上、ばね受け部材4が均一に押し下げられた状態で描かれている。また、第1連動部材5および第2連動部材6は、それぞれ軸部55a,55b,63a,63bが中間ケース23の上面により支持されているため、ばね受け部材4とともに下方側へ移動することはない。
一方、操作部材7に対する傾倒操作が解除された場合には、コイルばね3の付勢力によりばね受け部材4が押し上げられて第2連動部材6が初期状態に復帰し、この第2連動部材6を介して、操作部材7が初期位置に復帰される。これに伴って第2連動部材6に連結された磁石9aが操作前の初期位置に復帰することで、初期位置に応じた信号がコネクタ13を介して外部出力される。
また、操作部材7がX方向とY方向との中間方向に傾倒操作された場合には、図15と図16の組み合わせの動作となり、第1連動部材5と第2連動部材6の両方が回動する。そして、操作部材7に対する傾倒操作が解除されると、第1連動部材5および第2連動部材6を介して、操作部材7が初期状態に復帰する。
以上説明したように、本実施の形態に係る多方向入力装置1においては、多方向入力装置1の上下方向(操作部材7の突出方向)に沿って、弾性部材であるコイルばね3の少なくとも一部を、第1連動部材5および第2連動部材6とオーバーラップさせるため、高さ方向の寸法を小さくすることができ、コイルばね3が収容されるハウジング2を薄型化することが可能となり、ひいては多方向入力装置全体1の薄型化が可能となる。また、操作部材7を復帰させるための弾性部材としてコイルばね3を用いることにより、長期にわたって、良好な復帰性能を確保することが可能となる。
また、コイルばね3を2つの連動部材間に配置されるため、デッドスペースとなり易いハウジング2内の四隅部近傍のスペースを有効に利用することができ、ハウジング2の小型化が可能となる。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る多方向入力装置30は、操作部材の構成、上ケースの構成、ばね受け部材の構成が異なる点で、第1の実施の形態に係る多方向入力装置1と相違する。以下、第2の実施の形態に係る多方向入力装置30の構成について、第1の実施の形態に係る多方向入力装置1との相違点を中心に説明する。なお、第2の実施の形態に係る多方向入力装置30において、第1の実施の形態に係る多方向入力装置1と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図17は、本発明の一実施の形態に係る多方向入力装置30の分解斜視図である。図18は、多方向入力装置30を後部斜め下方から見た分解斜視図である。図17および図18に示すように、この多方向入力装置30は、上ケース32、中間ケース23および蓋部材22から構成される概して箱状のハウジング2内に、弾性部材を構成するコイルばね3と、コイルばね3の上端部を受けるばね受け部材33と、互いに直交した状態でハウジング2に回動可能に保持された第1連動部材5および第2連動部材6と、多方向入力装置30の上下方向に延在し、その傾倒動作に応じて第1連動部材5および第2連動部材6を回動させる操作部材31と、第1連動部材5および第2連動部材6の回動動作をそれぞれ検出する第1検出手段8および第2検出手段9と、を含んで構成される。
操作部材31は、第1の実施の形態に係る多方向入力装置1における操作部材7に、さらにフランジ部311を設けた構成である。図19Aは、操作部材31の側面図であり、図19Bは、操作部材31の下面図である。図19Aに示すように、操作部材31は、頭部71と肩部73との間にフランジ部311が設けられている。フランジ部311は、第1連動部材5および第2連動部材6の上方側に配設される。フランジ部311は、下面視にて概して円形状を有し(図19B参照)、フランジ部311の径は頭部71の径よりも小径に設定されている。フランジ部311の下面部には、平面状の平面部311aが設けられている。
上ケース32は、例えば、絶縁性の樹脂材料を成形して構成され、概して下方側に開口した箱状に設けられている。上ケース32の中央部には、円形状の開口部211が設けられている。開口部211の周囲には、上方側にドーム状に突出した壁部212が設けられている。上ケース32の外周壁部には、蓋部材22の保持脚片222と係合する複数本(本実施の形態において8本)の係合溝213aが設けられている。係合溝213aの略中央部には、保持脚片222に設けられたスナップ孔222aとスナップ係合する、外側に突出する爪部213bが設けられている。上ケース32の外周壁部のうち、特定の隣接する2辺には、第1検出手段8および第2検出手段9を配置するための下方側に開口した断面U字状(円弧状)の切り欠き部213cが設けられている(図18参照)。切り欠き部213cの周囲には、外側に突出する複数のボス213dが設けられている。これらのボス213dは、第1検出手段8を構成するGMR素子8bまたは第2検出手段9を構成するGMR素子9bが取り付けられた部分のフレキシブル基板11および補強板11a,11bを上ケース32に取り付けるために利用されるものであり、フレキシブル基板11および補強板11a,11bの貫通孔111に挿通されるとともに、この貫通孔111から突出する先端部がつぶされてかしめられる。なお、図18において、ボス213dは、かしめ後の形状で示されている。
上ケース32の下面には、開口部211を囲むように、複数(本実施の形態において4つ)の壁部214a〜214dが設けられている。壁部214a〜214dには、それぞれ下方側に開口した断面U字状(円弧状)の軸受け部215が設けられている。壁部214aと上ケース32の外周壁部との間には、磁石9aを収納するための収納部216aが設けられている。壁部214bと上ケース32の外周壁部との間には、磁石8aを収納するための収納部216bが設けられている。また、上ケース32の下面には、開口部211を囲み、かつ、壁部214a〜214dそれぞれを間に挟むように、複数(本実施の形態において4つ)の溝部321が設けられている。溝部321には、後述するばね受け部材33の延出部332および受け部333が収納される。溝部321には、それぞれ下方側に突出する突起217が設けられている。上ケース32の下面には、中間ケース23のクラッシュリブを備える突部233が圧入される、複数(本実施の形態において4つ)の孔部218が設けられている。また、上ケース32の下面には、多方向入力装置30を組み立てた際にIC12と対向する位置に、凹部322が設けられている。
ばね受け部材33は、例えば、絶縁性の樹脂材料を成形して構成され、概して円筒状に設けられた基部331と、基部331から下方側に向けて斜め外側に延出する複数(本実施の形態において4つ)の延出部332と、延出部332の下端部から基部331の径方向外側に向けて延出する受け部333と、を有している。基部311は、第1連動部材5および第2連動部材6の上方側であって、操作部材31のフランジ部311の下面側に配設される。基部331の中央部には、円形状の開口部331aが設けられている。開口部331aの径は、上ケース32の開口部211の径と略同径か、わずかに小径に設定されている。受け部333は、平板状に設けられ、その中央部には貫通孔333aがそれぞれ設けられている。また、受け部333の下面には、貫通孔333aを中心として、貫通孔333aの径よりも大径の凹部333bがそれぞれ設けられている。凹部333bには、それぞれコイルばね3の上端部が収容される。すなわち、ばね受け部材33の受け部333で、コイルばね3の上端部を受ける状態となる。また、貫通孔333aには、それぞれ上ケース32の突起217が挿通される。このように、貫通孔333aに挿通された突起217は、ばね受け部材33を上下動可能に案内する案内部として機能する。これにより、コイルばね3それぞれの付勢力が異なっても、ばね受け部材33を円滑に上下移動させることができ、良好な操作が可能となる。
続いて、本実施の形態に係る多方向入力装置30を組み立てた状態について説明する。図20は、多方向入力装置30を組み立てた状態から上ケース32を取り外した場合の斜視図である。図21は、多方向入力装置30に上ケース32を取り付けた状態における、図20のD−D線矢視断面図である。図22は、多方向入力装置30を組み立てた状態から上ケース32を取り外した場合の断面図であり、図20のE−E線矢視断面図である。
図20に示すように、上ケース32の内部においては、第2連動部材6の下方に第1連動部材5が直交して配置されている。第2連動部材6および第1連動部材5の上方に、ばね受け部材33の基部331が配置されている。コイルばね3(3a〜3d)は、それぞれ中間ケース23の貫通孔232に収容されている。コイルばね3の下端部は、蓋部材22の底面部221により受け止められている。コイルばね3の上端部は、それぞればね受け部材33の受け部333の下面に設けられた凹部333b(図20において不図示)に収容されている。このように、コイルばね3の一部を、蓋部材22およびばね受け部材33の間に位置する貫通孔232内に弾性変形可能に設けることにより、多方向入力装置30の上下方向(操作部材31の突出方向)において、コイルばね3の少なくとも一部を、第1連動部材5および第2連動部材6とオーバーラップさせることができる。この構成により、高さ方向の寸法を小さくすることができるので、コイルばね3が収容されるハウジング2を薄型化することができ、ひいては多方向入力装置30全体の薄型化が可能となる。
また、コイルばね3a〜3dは、ハウジング2内において平面視にて直交して配置される第1連動部材5および第2連動部材6の延設方向の間の方向に配置されている。すなわち、図20において、操作部材31の突出方向側(上方側)から見た場合に、磁石8aの位置を0°、磁石9aの位置を90°、第1連動部材5の軸部55bの位置を180°、第2連動部材6の軸部63bの位置を270°と表わすと、コイルばね3a〜3dの位置は、それぞれ45°、135°、225°、315°と表わすことができる(ただし、図20においてコイルばね3b(135°)は不図示)。このような構成とすることで、デッドスペースとなり易いハウジング2内の四隅部近傍のスペースを有効に利用することができるため、ハウジング2の小型化が可能となる。
また、コイルばね3の付勢力を受けたばね受け部材33の基部331上面は、操作部材31のフランジ部311下面の平面部311aと弾接する(図21,22参照)。この構成により、フランジ部311とばね受け部材33の基部331とを直接接触させることができるため、操作者に違和感のない操作感触を与えることが可能となる。また、操作部材31に対する傾倒操作が解除された場合に、コイルばね3の付勢力を受けたばね受け部材33の基部331上面と操作部材31のフランジ部311下面とが面接触して操作部材31を精度良く直立状態に復帰させることが可能となる。
なお、フランジ部311は、ばね受け部材33を介してコイルばね3の付勢力を受けるため、フランジ部311には上方側(上ケース32側)に向かう力が作用している。ここで、フランジ部311が設けられた操作部材31は、第1連動部材5の軸部54とスナップ係合している。このため、軸部54が規制部となって、操作部材31の上方側への移動が規制されており、フランジ部311が上ケース32の天井面(壁部212の下面)と当接するのを避けることができる。したがって、操作部材31が傾倒操作されても、フランジ部311と上ケース32との摺接を防止することができ、操作部材31や上ケース32の磨耗の発生を抑制することが可能となる。
以上説明したように、本実施の形態に係る多方向入力装置30においては、多方向入力装置30の上下方向(操作部材31の突出方向)に沿って、弾性部材であるコイルばね3の少なくとも一部を、第1連動部材5および第2連動部材6とオーバーラップさせるため、高さ方向の寸法を小さくすることができ、コイルばね3が収容されるハウジング2を薄型化することが可能となり、ひいては多方向入力装置全体30の薄型化が可能となる。また、弾性部材としてコイルばね3を用いることにより、長期にわたって、良好な復帰性能を確保することが可能となる。
また、ばね受け部材33の基部331上面と、操作部材31のフランジ部311下面の平面部311aとが当接する構成により、フランジ部311とばね受け部材33の基部331とを直接接触させることができるため、操作者に違和感のない操作感触を与えることが可能となる。また、操作部材31に対する傾倒操作が解除された場合に、操作部材31を精度良く直立状態に復帰させることが可能となる。
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、さまざまに変更して実施可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更が可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施可能である。
例えば、上記実施の形態においては、平面視にて直交して配置される第1連動部材5と第2連動部材6との間に位置する4箇所にコイルばね3をそれぞれ1つずつ設けた構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。操作部材7(31)が復帰する力を強くしたい場合には、4箇所にコイルばね3を複数個ずつ設けてもよい。また、第1連動部材5と第2連動部材6との間に位置する4箇所に配設するコイルばね3の数を、例えば、1個、2個、1個、2個というように、各箇所で異ならせてもよい。この構成は、操作部材7(31)の復帰特性に方向性を持たせたい場合に有効である。