<本発明の第1>
本発明の第1は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に配置され、導電性炭素材料に触媒成分が担持されてなる触媒を含むカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置され、導電性炭素材料に触媒成分が担持されてなる触媒を含むアノード触媒層と、を有する、電解質膜−電極接合体であって、前記アノード触媒層が、0.005mg/cm2以上のイリジウムおよび0.1mg/cm2以下の白金を含有し、前記カソード触媒層が、少なくとも、前記導電性炭素材料に担持されてなる白金を含有する、電解質膜−電極接合体である。
[カソード触媒層]
まず、カソード触媒層についての説明を行う。本発明のカソード触媒層において、担体としては、導電性を有する炭素材料(本明細書中「導電性炭素材料」とも称する)が使用される。なお、本明細書中、「触媒層」は「触媒」を含むものであり、「触媒」は「担体」および「触媒成分」から構成される。
本発明のカソード触媒層は、電解質膜の一方の側に配置される。そして、本発明のカソード触媒層は、導電性炭素材料に触媒成分が担持されてなる触媒を含み、かかる触媒成分として、少なくとも白金を含む(つまり、白金担持カーボンを含む)。
本発明においては、下記で説明するアノード触媒層において、単位触媒塗布面積当たりの白金の量が有意に少ない(かかる白金の量については、アノード触媒層の説明の項でも詳述する)。その代わりにイリジウムが所定量以上含有されている。そのことによって、燃料電池の起動時や水素欠乏解消後のカソードカーボン腐食を抑制し、電池としての発電性能も有意に保持している。
上記の通り、本発明のカソード触媒層において、触媒成分としては、少なくとも白金を含む。なお、白金以外の他の触媒成分が含まれてもよい。かような触媒成分としては、特に制限はなく、具体的には、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などが挙げられる。触媒成分は、酸化物ではなく、金属として添加することにより、より効果的に働く(アノードにおいても然りである)。
前記合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できる。合金の組成は、好ましくは、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が70〜10原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。また、触媒成分の大きさ(平均粒径)は、1〜10nm、より好ましくは1〜5nmであることが好ましい。ここで、触媒成分の平均粒径が1nm未満であると、触媒成分の表面積が大きくなるものの、電位の変化で溶出しやすくなり、経時的な性能低下が大きい可能性がある。また、触媒成分の平均粒径が10nmを超えると、触媒成分の表面積が小さくなりすぎて、3相界面を十分確保することが難しく、また、発電性能が低下する可能性がある。なお、カソード触媒層に用いられる触媒成分の大きさ(平均粒径)は、同一であってもあるいは異なるものであってもよく、所望の作用を奏するように、適宜選択される。また、本発明における「触媒成分の平均粒径」は、X線回折における当該物質の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる粒子径の平均値により測定することができる。
本発明のカソード触媒層において、担体としての導電性炭素材料の比表面積は、250m2/g以上を有すると好ましい。なお、本明細書中、比表面積は、BET法によって測定された表面積である。
前記比表面積が上記範囲であれば、前記担体への触媒成分の分散性が良好であり、十分な発電性能が達成でき、しかも、カソードカーボン腐食を有意に抑制することができる。ただし、カソード触媒層を構成する担体が一定の比表面積以上(250m2/g以上)を有しているため、担持される触媒成分がよく分散する。そのため、触媒成分の表面積を高く維持することができるため、発電性能が高くなる。換言すると、比表面積の高いカーボンを用いても、十分に低い酸素還元活性にすることができる。そのため、起動もしくは水素欠乏解消後のカソードカーボン腐食を抑制することができる。そうであるため、カソード触媒層を構成する導電性炭素材料として、大きな比表面積を有するカーボン(例えば、250m2/g以上)を用いることができ、カソードカーボン腐食の抑制効果を確実に得ながら、発電性能を高めることができる。
ここで、カソードカーボン腐食が起こるメカニズムを説明する。
燃料電池スタックを起動する際、アノード内に水素と酸素が混在することによって、セル内が電池部分とそうでない部分に分かれる。そのことによって、電池電圧による電圧がかかり、自然状態よりもカソード側が高電位になり、カソードカーボンが腐食する。この劣化を抑制するための効果的なものの一つとして、アノードの酸素還元活性を下げるという方策が挙げられる。アノードの酸素還元活性を下げることによって、結果的にカソードにかかる電位が低くなり、それによってカソードカーボン腐食を抑制することができる。
燃料電池スタック内が空気雰囲気の状態の際に、アノードに水素を供給したとき、アノード内は水素が存在している箇所と空気が存在している箇所に分かれる。実際は、アノード内が時間と共に水素に置換されていくが、ここでは簡易的にアノードの半分が水素雰囲気に、もう半分が空気雰囲気になっているものとして説明する。カソードの全面には空気が存在しているため、アノードが水素雰囲気であるセルの半分は電池となる。しかし、もう半分は電池と成り得ないため、電圧差が生じ、セパレータなどを通じて電子が流れる。アノードの水素雰囲気下では、
の反応が生じ、その対極であるカソードでは、
の反応が生じる。また、上記反応に伴いアノードの空気雰囲気下では、
の反応が生じ、その対極であるカソードでは、高電位になることで、
の2つの反応が生じることになる。
以上が、カソードカーボンが腐食されるメカニズムである。ただ、本発明の技術的範囲が、かかるメカニズムによって限定されることはないことはいうまでもない。
上記(3)における反応において、電位が低ければ低いほどカソード腐食部の電位は低くなりカソードカーボン腐食を抑制することができる。この反応活性が低ければカソードカーボン腐食を抑制することができる。ここで、実施例の項においても詳細に説明するが、カソードカーボン腐食を抑制する効果を確実に得るためには、上記(3)の反応における所定の条件において、一定の電位以下であることが好ましい。
当該所定の条件は、以下の通りである。すなわち、セル温度80℃における空気雰囲気下の燃料極側の分極曲線(アノードガス:空気(RH=80%)、カソードガス:水素(RH=80%)、走査範囲:1〜0V vs.RHE、走査速度:5mV/sec)を取得した際、酸素還元反応による電流密度が100mA/cm2のときである。そのときの電位を0.5V以下にすることで、カソード腐食部電位を1.3V程度に抑えることができる。
1.3Vや特に1.5Vなどの高電位において、同じ電位でも担体としての導電性炭素材料の種類によってカーボン腐食量が異なる。カーボン腐食がしにくい導電性炭素材料をカソード触媒層に用いることによって、耐久性を高めることは可能である。本発明においては、後に詳述するアノード触媒層において、担持される白金の量が一定量以下に制御し、カソードカーボン腐食を有意に抑制させる。つまり、カーボン腐食がしにくい、比表面積が小さな導電性炭素材料を用いる必要がなく、電池としての発電性能を有意に向上させる。
そのため、カソード触媒層において、大きな比表面積を有するカーボン(例えば、250m2/g以上)を用いることができ、白金などを含む触媒を高分散させることができる。このように触媒成分の表面積を高く維持することができるため、スタックの耐久性を高めながらも、発電性能を高く維持することができる。
本発明のカソード触媒層において、担体としての導電性炭素材料の大きさは、特に限定されないが、触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
また、本発明のカソード触媒層において、単位触媒塗布面積当たりの触媒成分(例えば、白金のみ)の質量(mg/cm2)は、本発明の目的(カソードカーボン腐食を抑制する)ことを達成することを鑑みると、好ましくは0.01〜1.0mg/cm2であり、より好ましくは0.05〜0.5mg/cm2であり、さらに好ましくは0.1〜0.4mg/cm2である。なお、本明細書中、「単位触媒塗布面積当たりの触媒成分の質量(mg/cm2)」の測定(確認)方法は、ICPもしくはICP−AESを用いる。また、所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒成分の質量(mg/cm2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、スラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量の調整することができる。
また、本発明のカソード触媒層において、担体における触媒成分の担持率は、触媒(つまり、担体と、触媒成分)の全量に対して、好ましくは20〜70質量%、より好ましくは30〜50質量%とするのがよい。担持量(担持率とも称する場合がある)が前記範囲であれば、十分な触媒成分の担体上での分散度、発電性能の向上、経済上での利点、単位質量あたりの触媒活性が達成できるため好ましい。
また、本発明のカソード触媒層において、担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。
本発明のカソード触媒層において、カソード触媒は、担体としての導電性炭素材料に、白金や白金合金を担持(触媒種の担持濃度、30〜70質量%)したものであることが好ましい。上記において、導電性炭素材料としては、ケッチェンブラック、バルカン、アセチレンブラック、ブラックパール、予め高温で熱処理したカーボン担体、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバーなどがある。本発明のカソード触媒層においては、アセチレンブラック、予め高温で熱処理したケッチェンブラックが、一定以上の比表面積を有しうる点で好ましい。なお、予めの高温での熱処理条件は、特に制限はないが、不活性雰囲気下で、好ましくは2000〜2500℃である。
また、本発明のカソード触媒層において、カソード触媒層の厚みは、1〜20μm、より好ましくは2〜15μmである。この範囲とすることにより、酸素の還元反応(カソード側)の触媒作用が十分発揮できる。
[アノード触媒層]
続いて、アノード触媒層についての説明を行う。なお、説明の重複を避けるため、カソード触媒層で説明した事項が同様に妥当する場合は、この項には記載しない場合もある。
本発明のアノード触媒層は、前記電解質膜の他方の側に配置される。そして、本発明のアノード触媒層は、導電性炭素材料に触媒成分が担持されてなる触媒を含み、かかる触媒成分として、0.005mg/cm2以上のイリジウムおよび0.1mg/cm2以下の白金を含む。
なお、燃料電池における運転時においては、その電位によって酸化物の形態になる場合があるため、これらの範囲は、イリジウム・白金単体として換算したものとする。なお、本明細書中「単位触媒塗布面積当たりの触媒成分の質量(mg/cm2)」の測定(確認)方法は、上記述べた通り、ICPもしくはICP−AESを用いるが、いずれかの方法によって測定した値が、本発明の所定の量に含まれれば、本発明の技術的範囲に含まれるものとする。
本発明においては、アノード触媒層における単位触媒塗布面積当たりのイリジウムの質量が0.005mg/cm2以上である。イリジウムは、酸素還元活性が有意に低いため、燃料電池の起動時または水素欠乏が解消された後のカソードカーボン腐食を抑制することができる。イリジウムの質量が0.005mg/cm2以上であると、燃料電池の運転に必要な水素酸化活性は維持し、アノード触媒層を構成する触媒成分として白金のみを用いた際の発電性能と同等にすることができる。それだけではなく、アノード触媒層が高い水電解活性を有し、燃料欠乏時のアノードカーボン腐食を抑制する効果も有する。さらには、水電解反応時の触媒への水の供給量が増加され、水電解反応時に発生する酸素の排出性向上によって、水電解反応の維持を図ることができる。さらに、燃料電池が水素不足の状態で転極状態に陥った際に、高い水電解活性維持し、アノードカーボン腐食を抑制することもできる。
上記の通り、本発明においては、アノード触媒層における単位触媒塗布面積当たりのイリジウムの質量が0.005mg/cm2以上であるため、耐久性を高めるために、カソード触媒層に用いられる担体として発電性能の低い導電性炭素材料を用いる必要がなく、発電性能の高い導電性炭素材料をカソード触媒層に用いることが可能になる。そのため、カソードの耐久性のみならず、発電性能を向上させることも可能である。
本発明のアノード触媒層において、白金は含まれても含まれなくてもよい。つまり、アノード触媒層における触媒成分は、所定量以上のイリジウムのみでもよいし、他に、所定量以下の白金が含まれてもよい。無論、それら以外の他の触媒成分が含まれてもよい。かかる他の触媒成分としては、上記カソード触媒層において説明された成分が同様に妥当する。ただ、コストの理由から、含まれるとしても0.1mg/cm2以下程度であることが好ましい。
本発明のアノード触媒層において、イリジウムの量(mg/cm2)は、0.005mg/cm2以上であるが、好ましくは0.005〜1.0mg/cm2であり、より好ましくは0.01〜0.3mg/cm2である。0.01mg/cm2以上が好ましいのは、発電性能を高く維持するためである。また、1.0mg/cm2以下であると、触媒調製の際に添加するイリジウムの量あたりのカーボン腐食の抑制効果が高く、つまり、コストを低減することができる。また、0.3mg/cm2以下が好ましいのは、そのことによって、アノード触媒層の厚みを所定値以下にすることができ、プロトン移動抵抗を低下させ、ガス拡散性を維持することができ、高いカーボン腐食耐性を持ったまま発電性能を高めることができるからである。
なお、イリジウムの量(mg/cm2)が、0.005mg/cm2であったり、それを少し超える程度であったりする場合は、白金が含まれることがより好ましく、具体的には、白金が0.01mg/cm2以上含有されることが好ましい。
一方で、アノード触媒層において、担持される白金の量が0.1mg/cm2以下とすることによって、低い酸素還元活性を有し、起動時もしくは水素欠乏解消後のカソードカーボン腐食を抑制することができる。そのため、スタックの耐久性を向上することができる。本発明においては、有意に少量の白金が含まれることを許容することによって、カソードカーボン腐食を抑制しながら、発電性能が有意に向上する。なお、0.1mg/cm2を超えて白金が含まれると、起動時や発電時の燃料ガスと酸化剤ガスの混在によるカソードカーボン腐食劣化を同時に抑制できず、カソードカーボン腐食が進む。本発明のアノード触媒層において、担持される白金の量が0.1mg/cm2以下であるが、好ましくは0〜0.01mg/cm2である。かかる範囲であると、発電性能が向上し、カソードカーボン腐食劣化は抑えられる。
カーボン腐食を抑制する(耐久性を上げること)と、発電性能を向上させることは、トレードオフの関係にある。アノード触媒層を構成する触媒成分を担持する導電性炭素材料の比表面積が小さくなると、発電性能が低下する虞がある。本発明においては、要求される発電性能を維持するために許容されるカーボン腐食量を概算(算出)することができる。それは、燃料電池の耐久時間は有限であるため、目標とする耐久時間を決めることによって、水素欠乏時に流れる平均電流密度、水素欠乏の平均継続時間、水素欠乏頻度から、許容されるアノードカーボン腐食の電流密度を算出することができる。
実施例の項においても詳細に説明するが、耐久性を十分得るためには、所定の条件において、アノード触媒層において測定されるカーボン腐食電流量が一定値以下であることが好ましい。それは、アノード触媒層を構成する導電性炭素材料の使用量あたりのカーボン腐食電流量が高いほどカーボン腐食速度が高くなるため耐久性は低くなり、逆に低いほどカーボン腐食速度が低くなるため耐久性は高くなるからである。
当該所定の条件は、以下の通りである。すなわち、実施例の項においても詳述するが、セル温度50℃における空気雰囲気下の燃料極側の分極曲線(アノードガス:空気RH=80%、カソードガス:水素RH=80%、走査範囲:1V〜2V、走査速度:5mV/sec)を取得した際の水電解反応とカーボン腐食反応による電流密度の和が、100mA/cm2のときである。そのとき、アノード触媒層を構成する導電性炭素材料の量あたりのカーボン腐食電流量が12A/g以下とすることが好ましい。12A/g以下とすることによって、耐久性を十分に得ることができる。つまり、確実にアノードカーボン腐食量を低く抑えることができるため、アノード触媒層を構成する導電性炭素材料をより適切に選択できる。よって、アノード触媒層を構成する導電性炭素材料の種類、その添加量を適切なものとすることができ、十分な耐久性を得ることができる。なお、「水電解反応とカーボン腐食反応による電流密度の和が、100mA/cm2のとき」との条件は、実用性を確保するために必要な耐久条件としてこの電流密度を仮定している。つまり、燃料電池自動車の場合、稼動時間に対する平均電流密度はこの程度であるため、特殊な使われ方をしない限り、「100mA/cm2」程度で見積もっておけば十分であると考えられる。なお、後述する実施例において「電流密度の和が、200mA/cm2」という条件でも実験を行ったが、「電流密度の和が、100mA/cm2」と同様の結果が得られた。すなわち、アノード触媒層を構成する触媒成分として一定量以上(0.005mg/cm2)のイリジウムが含有されることによって、有意にアノードカーボン腐食を抑制することが分かる(つまり、「0.005mg/cm2」の技術的意義がこの結果によっても支持できる)。
なお、かかる所定の条件でカーボン腐食電流量を測定した場合に、12A/g以下となった場合、アノード触媒層の触媒成分としてイリジウムが単位担体面積あたり一定量以上担持されていることが推定され、本発明の技術的範囲を少なくとも一部実施していることが推定される。ところで、アノードの水素欠乏による劣化は、カソードのそれと比べて、スタック全体の耐久性に影響しないことを付言しておく。
上記において、本発明のアノード触媒層において、イリジウムの量(mg/cm2)は、0.005mg/cm2以上であると規定した。好ましくは、0.005〜1.0mg/cm2、より好ましくは、0.01〜0.3mg/cm2である。ただ、さらに好ましくはアノード触媒層を構成する担体としての導電性炭素材料の種類によって、イリジウムの量を調整することがよい。例えば、カーボン腐食耐性の低い導電性炭素材料(Carbon type(1) BET比表面積=800m2/g)では、イリジウム量が0.096mg/cm2以上であることが好ましく、0.1mg/cm2以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.1〜1.0mg/cm2である。カーボン腐食耐性を比較的有する導電性炭素材料(Carbon type(2) BET比表面積=250m2/g)では、イリジウム量が約0.05mg/cm2以上であることが好ましく、0.05〜0.2mg/cm2であり、さらに好ましくは0.05〜0.1mg/cm2である。カーボン腐食耐性が高い導電性炭素材料(Carbon type(3) BET比表面積=125m2/g)ではイリジウム量が約0.02mg/cm2以上であることが好ましく、より好ましくは0.02〜0.15mg/cm2であり、さらに好ましくは0.02〜0.1mg/cm2である。なお、これらの範囲を決定した根拠は、実施例の記載に基づくものである。なお、かかる実施例においては、アノード触媒層の触媒成分としてイリジウムのみを添加している。しかしながら、アノード触媒層の触媒成分として、0.1mg/cm2以下の白金が含まれても、白金はイリジウムと比較して水電解反応に殆ど寄与しないことが後述の実施例によって判明したので、所定量以下の白金を含んでも、かかる好ましいイリジウム量の範囲は変化しないことを付言する。
Carbon type(1)、Carbon type(2)およびCarbon type(3)は、それぞれ、当業界で通常使用される、最も耐久性の低い部類のもの、耐久性の中程度の部類のもの、最も耐久性の高い部類に分類される。そして、本発明に規定するアノード触媒層の触媒成分としてイリジウムの一定範囲の量は、耐久性の低い部類のものCarbon type(1)を用いた場合でも効果(寿命)が得られる(確認できている)量である。つまり、より腐食耐性が高いカーボン種Carbon type(3)またはそれよりも耐性のあるカーボン種を用いた場合はさらに寿命が延びる。無論、寿命はカーボン種の腐食耐性のみではなく触媒層トータルの特性で決まることもある。
一方で、カーボン腐食電流量(mg/cm2)のデータを取得するには、厳密に言えばガス分析装置による二酸化炭素計測が必要となる。耐久性を十分得るためには、実施例の項でも詳述するが、セル温度50℃における空気雰囲気下の燃料極側の分極曲線(アノードガス:空気RH=80%、カソードガス:水素RH=80%、走査範囲:1V〜2V、走査速度:5mV/sec)を取得した際の水電解反応による電流密度(厳密には測定電流値に水電解反応電流とカーボン腐食反応電流が含まれる)が100mA/cm2のときである。そのときの電位が1.635V以下であることが望ましい。より好ましくは1.5V以下である。なお、かかる所定の条件で電位を測定した場合に、1.635V以下となった場合、カーボン腐食電流量が12A/g以下であるものと推定されるため、上記と同様に、本発明の技術的範囲を少なくとも一部実施していることが推定される。かかる「1.635V以下」は、最も腐食しやすい部類のカーボン種(Carbon type(1))を用いた場合においても「カーボン腐食電流量が12A/g以下とする」ことができる条件である。1.635V以下であれば、十分な水電解活性を得ることができ、確実に燃料電池発電中の水素欠乏時のアノードカーボン腐食を十分抑制することができる。そのため、アノードに使用するカーボンが選択でき、高い性能を維持したまま確実にスタック耐久性を向上することができる。
なお、アノード触媒層においても、カソード触媒層で説明した合金の組成の説明、触媒成分の形状や大きさの説明は、同様に妥当する。
本発明のアノード触媒層において、担体としては、導電性炭素材料が使用される。ただし、担体としての導電性炭素材料の比表面積は、好ましくは250m2/g未満、より好ましくは150m2/g未満であるが、触媒成分の分散性の観点から、100m2/g以上が好ましい。かかる比表面積が上記範囲であれば、前記担体への触媒成分の分散性が良好であり、十分な発電性能が達成でき、しかも、アノードカーボン腐食を有意に抑制することができる。
また、アノード触媒層において、導電性炭素材料の大きさは、カソード触媒層で説明した通りである。
また、本発明のアノード触媒層において、担体における触媒成分の担持率は、触媒(つまり、担体と触媒成分)の全量に対して、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは30〜50質量%とするのがよい。上記において、触媒成分とは、0.005mg/cm2以上のイリジウム、またさらにその他の触媒成分を含む場合、その触媒成分との総計である。担持率が60質量%を超えると、発電性能が低下したり、アノード触媒層の構造破壊を招くおそれがある。カーボン腐食抑制効果を高くするには、イリジウムの有効表面積を高くする必要があるため、分散を良くする必要があり、できるだけ触媒を低担持率としたい。しかし、低担持率にすることで触媒層厚みが上昇しガス拡散性の悪化、プロトン伝導性の悪化、電気伝導性の悪化を招いたり、カーボン使用量が極端に増加することでカーボン腐食による触媒層構造破壊が促進されるなどの悪影響がある。そのため、アノードの触媒層厚みをある所定厚み以下にすることが望まれる。
本発明のアノード触媒層は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)で観測することで、触媒層の厚みを測定することができる。アノード触媒層は平坦状に作製されるため、巨視的には平坦だが、微視的には平坦ではなく、触媒層の厚みが薄い部分と厚い部分が生じうる。本発明におけるアノード触媒層は、厚みの上限値が6μm以下である。
本発明のアノード触媒層の厚みは、好ましくは0.1〜6μm、より好ましくは0.1〜1μmである。この範囲とすることにより、水電解反応が十分発揮できる。触媒担持量0.1mg/cm2、触媒担持率を30%としたときの触媒層厚みは6μm程度であり、触媒担持率が30%以下とすると6μmを超える可能性がある。そうすると、性能低下や触媒層構造破壊を招くおそれがある。イリジウムを多く入れすぎると触媒層厚みが厚くなり発電性能が低下する恐れがある。また、貴金属使用量が増加するため当然ながらコストが増加する。一方で、アノード触媒層厚みを6μm以下にすれば、アノード触媒層内のガス拡散性を維持することができるため、発電性能を高めることができる。また、電解質膜からの水移動量を十分に確保できるため、より長く水電解反応を継続することができ、短い時間の水素欠乏だけでなく、長い時間の水素欠乏にも効果を発揮することができる。また、現在当業界で使用されているMEAに用いられる材料系を用いた場合に、物質輸送や車両に搭載する観点から鑑みた場合に望ましい。また、水素の酸化反応が十分発揮できる。
本発明のアノード触媒層において、担体への触媒成分の担持は、上記述べたとおり、公知の方法で行うことができる。
本発明のアノード触媒層において、アノード触媒は、担体としての導電性炭素材料に、イリジウムを0.005mg/cm2以上担持させ、発電性能を向上させる目的では白金が含まれることが好ましいが、上限は、0.1mg/cm2以下である。上記において、導電性炭素材料としては、ケッチェンブラック、バルカン、アセチレンブラック、ブラックパール、予め高温で熱処理したカーボン担体、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバーなどがある。本発明のアノード触媒層において、導電性炭素材料として、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、予め高温で熱処理したケッチェンブラックが好ましい。なお、予めの高温での熱処理条件は、不活性雰囲気下で、好ましくは2000〜2500℃である。
本発明のカソード触媒層・アノード触媒層は、それぞれ、プロトン導電性物質を含む。
前記プロトン導電性物質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくとも高いプロトン伝導性を有する部材であればよい。この際使用できるプロトン導電性物質は、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質とに大別される。
前記フッ素系電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
前記炭化水素系電解質として、具体的には、ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸等が好適な一例として挙げられる。
プロトン導電性物質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましい。なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。特に、本発明において、プロトン導電性物質としてナフィオン(登録商標、デュポン社製)等のスルホン酸基を有するものを使用する場合には、EWが600〜1100程度のものを使用することが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、スルホン酸基1モルあたりの乾燥膜重量を表わし、小さいほどスルホン酸基の比重が大きいことを意味する。
また、プロトン導電性物質の量は、特に制限されない。担体質量(C)に対する前記プロトン導電性物質質量(I)の比(Ionomer/Carbon;I/C)が、0.5〜2.0、より好ましくは0.7〜1.6となるような量であることが好ましい。このような範囲であると、十分なプロトン伝導性およびガス拡散性が達成しうる。なお、上記I/C比は、以下に詳述する触媒インク(スラリー)を作製する際に予め混合する触媒層中に含まれる担体質量および電解質固形分を測定しておき、これらの混合比を調整することにより、算出され、また、制御できる。また、触媒層を分析して、前記I/Cを求める際の、担体の質量(C)とは、触媒の質量から触媒成分の質量を差し引いたものとする。触媒成分の質量は誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって定量することができる。触媒層を分析して、前記I/Cを求める際の、触媒層中のプロトン導電性物質質量(I)は、19F NMRによるプロトン導電性物質の構造解析、および、電量滴定によるS原子の定量、の2つを組合わせることで定量することができる。
[本発明のアノード触媒層・カソード触媒層の製造方法]
本発明の第1において、カソード触媒層・アノード触媒層は、本発明の所定量の所定の触媒成分が担持された担体(触媒)、プロトン導電性物質および溶剤を含む触媒インクを、転写法などの方法によって製造できる。このようなカソード触媒層・アノード触媒層の製造方法は、特に制限されず、公知の転写方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できるが、例えば、以下のような方法が使用できる。
すなわち、カソード触媒インク・アノード触媒インクをそれぞれ調製する。次に、カソード触媒インク・アノード触媒インク(以下、単に「触媒インク」とも称する)を転写用台紙上にそれぞれ塗布・乾燥して、カソード触媒層を形成する。この際、転写用台紙としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート等の、ポリエステルシートなどの公知のシートが使用できる。なお、転写用台紙は、使用する触媒インク(特にインク中のカーボン等の担体)の種類に応じて適宜選択される。また、溶剤としては、特に制限されず、カソード触媒層を形成するのに使用される通常の溶剤が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノール、エタノール、n−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール等の低級アルコールが使用できる。また、溶剤の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できる。
触媒インクは、増粘剤を含んでもよい。増粘剤の使用は、触媒インクが転写用台紙上にうまく塗布できない場合などに有効である。この際使用できる増粘剤は、特に制限されず、公知の増粘剤が使用できる。例えば、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などが挙げられる。これらのうち、プロピレングリコール(PG)が好ましく使用される。これは、プロピレングリコール(PG)を使用することにより、触媒インクの沸点が高まり溶媒蒸発速度が小さくなる。例えば、転写法で電解質膜に触媒層を形成する上で、まず膜とは別の転写用台紙上にスクリーンプリンターなどを使用して触媒インクを塗布、乾燥する。この際、触媒インク中にPGを添加することにより、塗布された触媒インク中の溶媒蒸発速度が抑制され、前記乾燥過程後の触媒層にひび割れ(クラック)が生じることを抑制・防止できる。また、増粘剤を使用する際の、増粘剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全質量に対して、好ましくは5〜20質量%である。
また、触媒インクは、撥水性高分子を含んでもよい。撥水性高分子の使用は、触媒インクが転写用台紙上にうまく塗布できない場合などに有効である。この際使用できる撥水性高分子は、特に制限されず、公知の撥水性高分子が使用できる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。また、撥水性高分子を使用する際の、撥水性高分子の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全質量に対して、好ましくは0.1〜20質量%である。
触媒インクは、触媒、プロトン導電性物質および溶剤、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。
また、触媒インクは、上記したようにして混合されたスラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散する、あるいは、この混合スラリーをサンドグラインダー、循環式ボールミル、循環式ビーズミルなどの装置でよく粉砕させた後、減圧脱泡操作を加えることによって作製されることが好ましい。
また、転写用台紙上への触媒インクの塗布方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。
上記方法において、それぞれ塗布されたカソード/アノード触媒層の乾燥条件は、各触媒層から溶剤を完全に除去できる条件であれば特に制限されない。具体的には、触媒インクの塗布層(触媒層)を真空乾燥機内にて、室温〜100℃、より好ましくは50〜80℃で、1〜50時間、乾燥する。この際、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
このようにして、アノード触媒層・カソード触媒層を製造することができる。
[電解質膜]
本発明の電解質膜−電極接合体において、本発明のカソード触媒層と、本発明のアノード触媒層と、の間に電解質膜が配置される。
本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に配置され、本発明のカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置され、本発明のアノード触媒層と、を有する。
電解質膜としては、特に限定されず、アノード触媒層・カソード触媒層に用いたものと同様のプロトン導電性物質を含む膜が挙げられる。また、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)に代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子形固体高分子電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記電解質膜に用いられる高分子電解質と、各触媒層に用いられるプロトン導電性物質とは、同じであっても異なっていてもよいが、各触媒層と電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
前記電解質膜の厚みとしては、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μmである。製膜時の強度やMEA作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、MEA作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
また、本発明で用いることができる電解質膜としては、上記フッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂による膜に加えて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などから形成された多孔質状の薄膜に、リン酸やイオン性液体等の電解質成分を含浸したものを使用してもよい。
[MEAの製造方法]
カソード触媒層−電解質膜−アノード触媒層(MEA)は、上記の本発明のアノード触媒層および本発明のカソード触媒層によって電解質膜を挟持した後、当該積層についてホットプレスを行なうことによって製造できる。無論、この製造方法に限定されない。この際、ホットプレス条件は、各触媒層および電解質膜が十分密接に接合できる条件であれば特に制限されないが、100〜200℃、より好ましくは110〜170℃で、電極面に対して1〜5MPaのプレス圧力で行なうのが好ましい。これにより電解質膜と各触媒層との接合性を高めることができる。ホットプレスを行なった後、転写用台紙を剥がすことにより、カソード触媒層−電解質膜−アノード触媒層の積層体(MEA)を得ることができる。
なお、本発明のMEAは、下記に詳述されるようにガス拡散層をさらに有しているとよい。この際、ガス拡散層は、上記方法において、転写用台紙を剥がした、あるいは上記で作製された積層体(MEA)をさらにガス拡散層で挟持することによって、さらに各触媒層に接合することが好ましい。または、触媒層を予めガス拡散層表面上に形成して触媒層−ガス拡散層接合体(MEA)を製造した後、上記したのと同様にして、この触媒層−ガス拡散層接合体で電解質膜をホットプレスにより挟持・接合することもまた好ましい。
この際、MEAに用いられるガス拡散層(GDL)としては、特に限定されず公知のものが同様にして使用でき、例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料を基材とするものなどが挙げられる。前記基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。厚さが、30μm未満であると十分な機械的強度などが得られない恐れがあり、500μmを超えるとガスや水などが透過する距離が長くなり望ましくない。
各触媒層をガス拡散層表面上に形成する方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、スプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。また、各触媒層のガス拡散層表面上への形成条件は、特に制限されず、上記したような具体的な形成方法によって従来と同様の条件が適用できる。
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、前記基材に撥水剤を含ませることが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、前記ガス拡散層は、前記基材上に撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層を有するものであってもよい。
前記カーボン粒子としては、特に限定されず、カーボンブラック、黒鉛、膨張黒鉛などの従来一般的なものであればよい。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく挙げられる。前記カーボン粒子の粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
前記カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、前記基材に用いられる上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられる。
前記カーボン粒子層における、カーボン粒子と撥水剤との混合比は、カーボン粒子が多過ぎると期待するほど撥水性が得られない恐れがあり、撥水剤が多過ぎると十分な電子伝導性が得られない恐れがある。これらを考慮して、カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、質量比で、90:10〜40:60程度とするのがよい。
前記カーボン粒子層の厚さは、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
ガス拡散層に撥水剤を含有させる場合には、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。
ガス拡散層において基材上にカーボン粒子層を形成する場合には、カーボン粒子、撥水剤等を、溶媒中に分散させることによりスラリーを調製する。次に、前記スラリーを基材上に塗布し乾燥、もしくは、前記スラリーを一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを前記ガス拡散層上に塗布する方法などを用いればよい。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。上記方法において、スラリーの調製に使用される溶媒としては、特に制限されない。例えば、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノールやエタノール等のアルコール系溶媒が好ましく使用できる。
なお、触媒層と電解質膜と、および好ましくはガス拡散層を含む接合体の製造方法は、上述した方法に限定されない。すなわち、触媒インクを電解質膜上に塗布・乾燥させた後ホットプレスして、触媒層を電解質膜と接合し、得られた接合体をガス拡散層で挟持して、MEAとする方法;触媒インクを、前記ガス拡散層上に塗布・乾燥させて触媒層を形成し、これを電解質膜とホットプレスにより接合する方法、などであってもよく各種公知技術を適宜用いて行えばよい。
<本発明の第2>
本発明の第2は、本発明の第1の電解質膜−電極接合体(MEA)を用いてなる燃料電池である。
本発明のMEAを用いることにより、発電性能および耐久性にも優れる信頼性の高い燃料電池を提供することができる。したがって、本発明はまた、本発明の電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池を提供するものである。
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
前記燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはMEAをセパレータで挟持した構造を有する。
前記セパレータとしては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、従来公知のものであれば制限なく用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。セパレータの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
また、各触媒層に供給されるガスが外部にリークするのを防止するために、ガスケット層上の触媒層が形成されていない部位にさらにガスシール部が設けられてもよい。前記ガスシール部を構成する材料としては、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスシール部の厚さとしては、2mm〜50μm、望ましくは1mm〜100μm程度とすればよい。
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
通常の単セルとは異なり複数枚のセルを組み合わせて構成される燃料電池スタックではアノードの水素欠乏が発生し易いので、本発明による耐久性向上の効果を最大限発揮することができる。
<本発明の第3>
前記燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
特に、前記高分子電解質形燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求されることによるカーボン担体や触媒金属(Ptなど)の腐食が生じやすい自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
すなわち、本発明の第3は、本発明の第2の燃料電池をモータ駆動用電源として搭載した、車両である。本発明を車両に搭載する燃料電池スタックに適用することで、定置用の燃料電池スタックとは異なり移動用の燃料電池スタックの方がよりアノードの水素欠乏が発生し易いので、耐久性向上の効果を最大限発揮することができる。
なお、当該車両には、個々の燃料電池セルの異常を検知し異常を対策する装置をさらに具備していると好ましい。
異常検知システムとは、例えばセル電圧を検知しておき、他のセルと大きく乖離したり、所定電圧を下回ったりした場合を異常として検知するシステムのことである。燃料電池スタックには複数のセルによって構成されており、異常検知箇所はセル1つずつであってもよいし、複数枚に1つでもよい。異常を検知した場合、電流取り出しを停止したり、燃料供給を増やしたり、燃料欠乏状態を解消する操作を実施したりできる。そのため、異常検知システムおよびその対策が具備されている燃料電池システムにおいては、燃料極の燃料欠乏によるカーボン腐食劣化は最小限に抑えることができる。
アノードの燃料欠乏は常に発生するものではなく、一時的且つ異常な状態である。そのため、いつどのような状態で発生するか予測するのは困難である。また、予想以上に燃料欠乏頻度が高いことも想定され、その場合せっかくのカーボン腐食耐性向上効果も失われる可能性もある。以上のことから、カーボン腐食耐性向上の効果を最大限、しかも確実に発揮するには、異常検知システムが搭載されていることが最も好ましい。
なお、かような異常検知システムについては、従来公知のものを使用することができ、例えば、特開2005−100827号公報に記載されているようなものを用いるとよい。異常検知システムを搭載している燃料電池搭載自動車に適用することで、水素欠乏を検知することで水素欠乏を短い時間で対策することができるため、急激なカーボン腐食を起こすことがなくなり、イリジウムを入れた効果が発揮でき、耐久性向上の効果を最大限発揮することができる。
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
<実施例1>
1.アノード触媒層の作製
導電性炭素材料としてケッチェンブラック(Ketjenblack International社製 商品名Ketjenblack、BET比表面積=800m2/g)にイリジウムを担持して、触媒を得た。なお、イリジウムの平均粒径は5nm、イリジウムの担持率は25.9質量%であった。
この触媒5gに対して、15倍量の精製水を加え、減圧脱泡操作を5分間加えた。これに、10倍量のn−プロピルアルコールを加え、さらにDuPont製のDE2020CSを含む溶液(固形分20%の溶液、EW=1,000)を加えた。溶液中の高分子電解質の含有量は、触媒の炭素成分質量に対する固形分質量比が、Ionomer/Carbon(I/C比)=0.9/1.0とした。得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量の触媒スラリーを2回に分けて印刷し、60℃で24時間乾燥させた。形成されるアノード触媒層のサイズは、5cm×5cmとした。また、ポリテトラフルオロエチレンシート上の塗布層は、白金量が0mg/cm2(つまり、白金を添加しない)およびイリジウム量(イリジウムの平均粒径5nm)が0.1mg/cm2(アノード触媒層の厚み:4〜5μm)となるように調整した。こうしてアノード触媒層塗布シートA1を得た。アノード触媒層の厚みを範囲として表記する。
2.カソード触媒層の作製
導電性炭素材料としてケッチェンブラック(Ketjenblack International社製 商品名Ketjenblack、BET比表面積=800m2/g:Carbon Type 1)に白金を担持した。その後、白金を担持したケッチェンブラックを、95%体積水素−5%体積窒素のガス流通雰囲気下、1000℃で30分間処理して触媒(白金粒子の平均粒径5nm、白金担持率50.1質量%)を得た。このようにして得られた触媒10gに対して、15倍量の精製水を加え、減圧脱泡操作を5分間加えた。これに、10倍量のn−プロピルアルコールを加え、さらにDuPont製のDE2020CSを含む溶液(固形分20%の溶液、EW=1,000)を加えた。溶液中の高分子電解質の含有量は、触媒のカーボン質量に対する固形分質量比が、Ionomer/Carbon(I/C比)=0.9/1.0とした。得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量の触媒スラリーを4回に分けて印刷し、60℃で24時間乾燥させた。形成されるカソード触媒層のサイズは、5cm×5cmとした。また、ポリテトラフルオロエチレンシート上の塗布層は、白金量が0.4mg/cm2(カソード触媒層の平均厚み11μm)になるように調整した。こうしてカソード触媒層塗布シートB1を得た。
3.MEAの作製
固体高分子電解質膜としてNafion NRE211(膜厚25μm)と、先に作製したポリテトラフルオロエチレンシート上に形成された触媒層(アノード側にアノード触媒層塗布シートA1、カソード側にカソード触媒層塗布シートB1)を重ね合わせた。その際には、アノード触媒層、固体高分子電解質膜、カソード触媒層を、この順序で積層させた。その後、130℃、0.8MPaで、10分間ホットプレスし、ポリテトラフルオロエチレンシートのみを剥がして、MEAを得た。
4.MEAの性能評価
MEAの両面側に、ガス拡散層として市販のミル層付きカーボンペーパ(SGLカーボン社製24BC、大きさ6.0cm×5.5cmに切り出し、カーボンペーパ厚さ200μm)と、ガス流路付きガスセパレータとを各々配置し、さらに金メッキした金属製(銅・鉄等)集電板により挟持して、ガス拡散層をさらに有するMEAを作製し、評価用単位セルとした。
セル温度を50℃とし、アノードにRH=80%の空気を、カソードにRH=80%の水素を供給した状態で、カソードの電位を基準としてアノードの電位を1Vから2Vに5mV/secの電位上昇速度で走査した。
アノードにおいては、水の電気分解反応によって酸素が発生すると同時に、カーボンの腐食反応によって二酸化炭素が発生する。そのため、電流を計測するのみでは前記2つの酸化反応を分離することができないため、電位走査中のアノードから排出されるガスを分析することによって、酸素の増加量から水電解反応量を、二酸化炭素の増加量からカーボン腐食反応量を算出した。以上のような評価を実施することによって、アノード触媒仕様によって水電解反応とカーボン腐食反応がどのように変化するかを知ることができる。
なお、アノードに空気、カソードに水素を供給し、通常とは逆の制御であるが、これは、意図的に転極させているためである。つまり、アノード側の水電解活性を評価するため、意図的に通常の燃料電池の運転時と反転(転極)させて評価を行っている。従来カソードで電流−電位曲線を取得する測定において、単セルの接続を逆転させて測定を行っている。この評価ではアノード側の電位を正確に測定するために、カソード側に水素を供給しカソードの電位を基準としている。アノードに窒素を供給しても同様の実験ができるが、水電解反応は約1.4V以上において反応するためそれに近い電位から測定開始することによって評価時間を短縮することができる。そのため、ここでは開放電圧が約1Vとなるようにアノードには空気を用いた。
まず、水電解反応量についての評価を行う。
<実施例2>
アノード触媒層の作製において、白金量が0.1mg/cm2およびイリジウム量が0.0125mg/cm2となるように調整した以外は、実施例1と同様にMEAの作製を行い、MEAの水電解反応量を測定した。なお、アノード触媒層の厚みは2〜3μmであり、イリジウム(イリジウムの平均粒径5nm)の担持率は5.8質量%であり、白金の平均粒径は5nm、白金の担持率は47.3質量%であった。
<実施例3>
アノード触媒層の作製において、白金量が0.1mg/cm2およびイリジウム量が0.0333mg/cm2となるように調整した以外は、実施例1と同様にMEAの作製を行い、MEAの水電解反応量を測定した。なお、イリジウム(イリジウムの平均粒径5nm)の担持率は14.2質量%であり、白金(白金の平均粒径は5nm)の担持率は43.1質量%であり、アノード触媒層の厚み2〜3μmであった。
<参考例1>
アノード触媒層の作製において、白金量が0.1mg/cm2およびイリジウム量が0mg/cm2(つまり、イリジウムを添加しない)となるように調整した以外は、実施例1と同様にMEAの作製を行い、MEAの水電解反応量を測定した。なお、白金(白金の平均粒径は5nm)の担持率は46.3質量%であり、アノード触媒層の厚み2〜3μmであった。
図1に、アノードに添加したイリジウム量に対する水電解反応量のグラフを示す。横軸をイリジウム添加量、縦軸を水電解反応電流量とし、アノード電位1.5Vおよび1.6Vにおける値をプロットした。この結果から、イリジウム添加量に対し水電解反応量がほぼ比例関係にあることが分かる。以上の結果から、水電解反応活性支配の電位範囲においてイリジウム添加量と水電解反応が比例するということが推測される。また、白金が水電解反応にほとんど寄与しないことが推測される。
続いて、カーボン腐食反応量についての評価を行う。より具体的には、カソードに用いられる導電性炭素材料(カーボン)の比表面積のベストモードを探す。
<参考例2>
参考例1と同様にMEAの作製を行い、MEAのカーボン腐食反応量を算出した。
<参考例3>
カソード触媒層における導電性炭素材料として、アセチレンブラック(電気化学工業社製、BET比表面積=250m2/g Carbon Type 2)を用いた以外は、参考例2と同様にMEAのカーボン腐食反応量を算出した。
<参考例4>
カソード触媒層における導電性炭素材料として、ケッチェンブラック(Ketjenblack International社製 商品名Ketjenblack、BET比表面積=800m2/g)を不活性雰囲気下で熱処理(2000〜2500℃)したもの(BET比表面積=125m2/g:Carbon Type 3)を用いた以外は、参考例2と同様にMEAのカーボン腐食反応量を算出した。
図2に、カソード触媒層におけるカーボンの比表面積を変えた際の腐食量を示す。図2から明らかなように、電位が上昇すると共に、カーボン腐食量は増大する。導電性炭素材料の種類によって電位に曝される表面積が異なるなどしてカーボン腐食反応電流量が大きく異なることが分かる。なお、カーボン腐食量は、触媒成分の種類・量に関らず、カーボン周辺の含水量および電位が一定であれば決まる値である。これにより、カソードで用いるカーボンの比表面積は250m2/gが好ましいことがわかる。
続いて、図3および図4(図3の尺を変えた図である)ならびに図5の説明を行う。
図3〜5は、図1および2から導き出すことができる。上記の通り、図1から、水電解活性はイリジウム添加量に比例すると仮定した。その仮定に基づいて、図1から、100mA/cm2(200mA/cm2)における水電解反応量からアノード電位を導き出し、各アノード電位からカーボン腐食反応量を導き出した。そのことによって、イリジウム添加量に対するカーボン腐食反応量を導き出すことができる(図3〜図5)。
具体的には、図1から特定の水電解反応量(例えば、100mA/cm2)における電位(例えば、1.6V)と、その際に添加されたイリジウム量(例えば、約0.03mg/cm2)が導き出せる。一方で、図2から、各アノード電位(例えば、1.6V)における各カーボン腐食反応量が導き出せる。これらの相関関係に基づいて、図3および図4が導き出せる(図3および4は、100mA/cm2における水電解反応量からカーボン腐食量を算出した)。
図3および図4から明らかな通り、イリジウムの添加量(mg/cm2)を増やすほどカーボン腐食量(mA/cm2)が抑制されることが分かる。カーボン腐食量(mA/cm2)は、アノード触媒層における導電性炭素材料の種類によって大きく異なり、その結果、耐久性も大きく変わることになる。ただ、導電性炭素材料の種類としていずれのものを用いても、イリジウムの添加量としては、少なくとも0.005mg/cm2必要であることが分かる。また、200mA/cm2における水電解反応量からアノード電位を算出し、それぞれの導電性炭素材料における電位に対するカーボン腐食反応電流量を算出した(図5)。図5から分かる通り、カーボン腐食量が、100mA/cm2に比して全体的に増加したが、それは微々たるものであった。この結果から、燃料電池が水素不足の状態で転極状態に陥った際に、アノード側がさらに高電位になったとしても、イリジウムの添加量としては、少なくとも0.005mg/cm2必要であることが分かる。
続いて、図6に、イリジウム添加量(mg/cm2)に対するカーボン腐食抑制率(質量%)の関係を示す。カーボン腐食抑制率は、イリジウムを含まない白金0.1mg/cm2を担持したMEAで行った腐食試験で減少した導電性炭素材料量とイリジウムを含んだMEAで行った腐食試験で減少した導電性炭素材料量の差をイリジウムを含まない白金0.1mg/cm2を担持したMEAで行った腐食試験で減少した導電性炭素材料量で割った値に、100を掛けた値である。この値は、イリジウムを添加することによるカーボン腐食抑制効果を示す指標である。
イリジウムが添加されることで、アノードにかかる電位は抑制される。アノードにかかる電位が抑制されることによって、カーボン腐食が抑制される。図6から明らかな通り、イリジウムの添加量が僅かであったとしてもカーボン腐食は大きく抑制されることが分かる。一方で、1.0mg/cm2を超えてからはカーボン腐食を抑制する効果は、殆ど上昇しないことが分かる。
続いて、アノード触媒層に添加するイリジウム量に対する発電性能についての測定を行う。
<実施例4>
アノード触媒層の作製において、白金量が0mg/cm2およびイリジウム量が0.005mg/cm2(アノード触媒層の厚み:〜1μm)となるように調整した以外は、実施例1と同様にMEAを作製し、評価用単位セルとした。
評価用単セルの、アノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には酸化剤として酸素を供給した。両ガスとも供給圧力は大気圧とし、水素ガス温度は80℃および相対湿度80%、空気ガス温度は80℃および相対湿度80%、セル温度は80℃に設定した。また、水素利用率は67%、空気利用率は10%とした。この条件下で、電流密度1A/cm2で発電させた際のセル電圧を初期セル電圧として測定した。なお、セル電圧は1A/cm2のときの固体高分子電解質膜抵抗値を補正した値である。
<実施例5>
イリジウム量が0.01mg/cm2(アノード触媒層の厚み:〜1μm)となるように調整した以外は、実施例4と同様に発電性能評価を行った。
<実施例6>
イリジウム量が0.018mg/cm2(アノード触媒層の厚み:〜1μm)となるように調整した以外は、実施例4と同様に発電性能評価を行った。
<実施例7>
イリジウム量が0.023mg/cm2(アノード触媒層の厚み:〜1μm)となるように調整した以外は、実施例4と同様に発電性能評価を行った。
<実施例8>
イリジウム量が0.054mg/cm2(アノード触媒層の厚み:1〜2μm)となるように調整した以外は、実施例4と同様に発電性能評価を行った。
<参考例5>
アノード触媒層の作製において、白金量が0.05mg/cm2およびイリジウム量が0mg/cm2(アノード触媒層の厚み:1〜2μm)となるように調整した以外は、実施例2と同様にMEAを作製し、評価用単位セルとし、評価を行った。
図7の結果から、発電性能を有意に向上させることを鑑みると、イリジウムは、0.01mg/cm2以上添加されていると特に好ましいことが分かる。また、触媒成分がイリジウムである場合と、白金である場合とは、同様のセル電圧であることが分かる。なお、イリジウムは、0.1mg/cm2以下であることが好ましい。0.1mg/cm2以下が好ましいのは、そのことによって、アノード触媒層の厚みを所定値以下にすることができ、プロトン移動抵抗を低下させ、ガス拡散性を維持することができ、高いカーボン腐食耐性を持ったまま発電性能を高めることができるからである。
次に、アノード触媒層の厚みに対する発電性能評価を行う。
<参考例6>
アノード触媒層における導電性炭素材料として、導電性炭素材料としてケッチェンブラック(Ketjenblack International社製 商品名Ketjenblack、BET比表面積=800m2/g)を不活性雰囲気下で熱処理(2000〜2500℃)したもの(BET比表面積=125m2/g:Carbon Type(3))を用いた。
アノード触媒層の作製において、白金量が0.1mg/cm2およびイリジウム量が0mg/cm2(つまり添加しない)とし、アノード触媒層の厚みを1〜2μm、白金の担持率50質量%となるように調整した以外は、実施例1と同様にMEAの作製を行い、評価用単位セルとした。
評価用単セルの、アノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には酸化剤として酸素を供給した。両ガスとも供給圧力は大気圧とし、水素ガス温度は80℃および相対湿度80%、空気ガス温度は80℃および相対湿度80%、セル温度は80℃に設定した。また、水素利用率は67%、空気利用率は10%とした。この条件下で、電流密度1A/cm2で発電させた際のセル電圧を初期セル電圧として測定した。なお、セル電圧は1A/cm2のときの固体高分子電解質膜抵抗値を補正した値である。
<参考例7>
アノード触媒層の厚みを4〜5μm、白金担持率30%となるように調整した以外は、参考例6と同様に発電性能評価を行った。
<参考例8>
アノード触媒層の厚みを8〜9μm、白金担持率20%となるように調整した以外は、参考例6と同様に発電性能評価を行った。
<参考例9>
アノード触媒層の厚みを42〜43μm、白金担持率5%となるように調整した以外は、参考例6と同様に発電性能評価を行った。
図8の結果から、発電性能を維持させることを鑑みると、アノード触媒層は6μm以下であることが特に好ましいことが分かる。
続いて、図9に、触媒塗布面積あたりのイリジウムの添加量に対する、アノード触媒層を構成する各導電性炭素材料使用量当たりのカーボン腐食電流(A/g)を示す。図9も、図3〜図5から必然的に導き出すことができる。図3〜図5からカーボン腐食反応量(電流密度(mA/cm2))を導き出すことができる。そして、アノード触媒層を作製するのに使用された導電性炭素材料の質量(g)は、イリジウムの量(mg/cm2)とイリジウムの担持率(%)から計算で導き出すことができる。その結果から、導電性炭素材料の使用量あたりのカーボン腐食電流(A/g)を導出することができる。
上記も述べたが、12A/g以下とすることによって、耐久性を十分に得ることができる。つまり、確実にアノードカーボン腐食量を低く抑えることができるため、アノード触媒層を構成する導電性炭素材料をより適切に選択できる。よって、アノード触媒層を構成する導電性炭素材料の種類、その添加量を適切なものとすることができ、十分な耐久性を得ることができる。このデータから「12A/g以下」との観点で考えた場合、導電性炭素材料の種類によって、それを達成するためのイリジウムの添加量を選択することが好ましい。つまり、十分な耐久性を得るために必要な導電性炭素材料の使用量あたりのカーボン腐食電流12A/g以下を得るには、カーボン腐食耐性の低いCarbon type(1)ではイリジウム量が約0.1mg/cm2以上が好ましく、Carbon type(2)ではイリジウム量が約0.05mg/cm2以上が好ましく、カーボン腐食耐性の高いCarbon type(3)ではイリジウム量が約0.02mg/cm2以上が好ましいことが分かる。なお、この値はアノードに触媒としてイリジウムのみを添加した場合について示したが、白金を入れてもその値は大きく変化しないため、イリジウムと白金を添加する場合においてもイリジウム量は上記の値のままでよい。
なお、上記図8のデータを取得するにはガス分析装置による二酸化炭素計測が必要となる。耐久性を十分得るためにはセル温度50℃における空気雰囲気下の燃料極側の分極曲線(アノードガス:空気RH=80%、カソードガス:水素RH=80%、走査範囲:1V〜2V、走査速度:5mV/sec)を取得した際の水電解反応による電流密度(厳密には測定電流値に水電解反応電流とカーボン腐食反応電流が含まれる)が100mA/cm2のときの電位が1.635V以下であることが望ましい。なお、図2に示しているように、カーボン種によって異なるが、1.635V以下にすることでカーボン腐食を効果的に抑制することができる。なお、1.635Vは上記で述べたように、許容されるカーボン腐食量から逆算した値であり、この値以下にするためには少なくともアノード触媒層に添加するイリジウムは0.01mg/cm2以上であることが好ましい。
続いて、図10、図11および図12について、説明を行う。
白金およびイリジウムを用いる限りアノードの水素酸化活性(上記で説明した反応(1))は十分に高く大きな差異を生じないため、電流値によらず反応による過電圧はゼロとした。上記で説明した反応(2)、(3)、(4)については所定条件にて電位を変えながら電流を取得することによって分極曲線を得ることができる。これらの結果から起動時のカソードカーボン腐食電位を一義的に簡易的に計算することができる。反応(3)の過電圧を大きくすることによってカソード腐食部の電位上昇を抑制でき、カソードのカーボン腐食反応を抑制することができる。
図10に、アノードの触媒担持量に対するカソード腐食電位を示す。触媒はそれぞれ白金、イリジウムが単独で入っているものとして計算した値である。なお、カソードの触媒は白金であり、0.4mg/cm2である。アノードに白金を0.1mg/cm2以上添加することでカソード腐食電位が高くなることが分かる。一方で、イリジウムを0.4mg/cm2以上添加してもカソード腐食電位は高くならないことが分かる。図10の導出方法をより詳しく説明する。上記で説明した反応(1)と反応(2)の電位差が起電力となり、反応(4)と反応(3)の電位差に等しくなるように反応が進む。その際の反応(4)の電位が図9のカソード腐食電位となる。なお、かかるカソード電位に基づいてカソードのカーボン腐食量が図2等から導かれ、図10が導かれる。
図11、図12に、それぞれ、アノードの触媒担持量(イリジウム、白金)に対するカソードカーボン腐食量を示す。図10の腐食電位に基づき、比表面積250m2/gのカーボンの腐食量を算出した。
これらによると、アノードに添加する触媒量が少ないほどカーボン腐食量が減少することが分かる。図10と同様、白金を0.1mg/cm2以上添加することによってカーボン腐食が大きくなるため、起動時のカソードカーボン腐食を抑制するにはアノードに添加する白金量は、0.1mg/cm2以下である。
上記も述べたが、上記反応(3)において、100mA/cm2における電位が低ければ低いほどカソード腐食部の電位は低くなりカーボン腐食を抑制することができる。この反応活性が低ければカーボン腐食を抑制することができる。以上を鑑みると、100mA/cm2における電位が0.5V以下であればカソード腐食部電位を1.3V程度に抑えることができ、比表面積の高いカーボンを用いても腐食量は小さく、性能低下を効果的に抑えることができる。