以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の一態様に係る回路基板用積層板を概略的に示す斜視図である。図2は、図1に示す回路基板用積層板のII−II線に沿った断面図である。
図1及び図2に示す回路基板用積層板1は、金属基板2と、絶縁層3と、金属箔4とを含んでいる。なお、図1及び図2において、X及びY方向は金属基板2の主面に平行であり且つ互いに直交する方向であり、Z方向はX及びY方向に対して垂直な厚さ方向である。図1には、一例として矩形状の回路基板用積層板1を描いているが、回路基板用積層板1は他の形状を有していてもよい。
金属基板2は、例えば、単体金属又は合金からなる。金属基板2の材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、アルミニウム合金、又はステンレスを使用することができる。金属基板2は、炭素などの非金属を更に含んでいてもよい。例えば、金属基板2は、炭素と複合化したアルミニウムを含んでいてもよい。また、金属基板2は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
金属基板2は、高い熱伝導率を有している。典型的には、金属基板2は、60W・m−1・K−1以上の熱伝導率を有している。
金属基板2は、可撓性を有していてもよく、可撓性を有していなくてもよい。金属基板2の厚さは、例えば、0.2乃至5mmの範囲内にある。
絶縁層3は、金属基板2上に設けられている。絶縁層3は、樹脂3aと無機充填材3bとを含有している。絶縁層3の厚さは、例えば、50乃至200μmの範囲内にある。
絶縁層3が含んでいる樹脂3aは、電気絶縁性である。この樹脂3aは、無機充填材3b同士を結合させるバインダとしての役割を果たしている。更に、この樹脂3aは、金属箔4を金属基板2に接着させる接着剤としての役割を果たしている。加えて、この樹脂3aは、絶縁層3の表面を平坦にする役割を果たしている。
絶縁層3に占める樹脂3aの割合は、例えば15乃至55体積%の範囲内にあり、典型的には20乃至50体積%の範囲内にある。この割合を過度に小さくすると、絶縁層3と金属基板2若しくは金属箔4との接着強度が低下するか、又は、絶縁層3の表面を平坦にすることが困難になる。この割合を過度に大きくすると、回路基板用積層板1の熱抵抗が大きくなる。
樹脂3aとしては、例えば、エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BTレジン)、ポリフェニレンオキシド、水添スチレン−ブタジエン樹脂、水添スチレン−イソブチレン樹脂、ポリアミドイミド、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリエステル、アクリル樹脂又はアクリルゴムを使用することができる。これらは、単独で又は混合して使用することができる。
樹脂3aの少なくとも一部として、液晶ポリエステルを使用してもよい。液晶ポリエステルは、電気絶縁性の材料である。液晶ポリエステルは、他の多くの樹脂と比較して、比抵抗値がより大きい。
また、液晶ポリエステルは、長期間に亘って優れた熱安定性を示す。従って、液晶ポリエステルの使用は、高熱を発する電気又は電子素子、例えばパワー素子、特には炭化珪素基板を用いたパワー素子を、この回路基板用積層板1から得られる金属ベース回路基板に搭載させる場合に特に有利である。
液晶ポリエステルは、典型的には熱可塑性を有している。液晶ポリエステルとしては、例えば、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するものを使用することができる。そのような液晶ポリエステルとしては、例えば、下記一般式(1)乃至(3)で表される構造単位を有しているものを使用することができる。
下記一般式(1)乃至(3)において、Ar1は、例えばフェニレン基又はナフチレン基を表し、Ar2は、例えばフェニレン基、ナフチレン基又は下記一般式(4)で表される基を表し、Ar3は、例えばフェニレン基又は下記一般式(4)で表される基を表し、X及びYは、例えば、それぞれ独立にO又はNHを表している。Ar、Ar2及びAr3の芳香族環に結合している水素原子は、例えば、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。また、下記一般式(4)において、Ar11及びAr12は、例えば、それぞれ独立にフェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、例えば、O、CO又はSO2を表している。
−O−Ar1−CO− …(1)
−CO−Ar2−CO− …(2)
−X−Ar3−Y− …(3)
−Ar11−Z−Ar12− …(4)
この液晶ポリエステルでは、上記一般式(1)乃至(3)で表される構造単位の合計に対して、上記一般式(1)で表される構造単位の割合は、例えば、30乃至80モル%の範囲内にある。この場合、上記一般式(1)乃至(3)で表される構造単位の合計に対して、上記一般式(2)で表される構造単位の割合は、例えば、10乃至35モル%の範囲内にある。そして、この場合、上記一般式(1)乃至(3)で表される構造単位の合計に対して、上記一般式(3)で表される構造単位の割合は、例えば、10乃至35モル%の範囲内にある。
一般式(1)で表される構造単位は芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり、一般式(2)で表される構造単位は芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり、一般式(3)で表される構造単位は芳香族ジアミン又はフェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来の構造単位である。このような構造単位(1)乃至(3)をそれぞれ誘導する化合物をモノマーとして用い、それらモノマーを重合することにより、上記の液晶ポリエステルが得られる。
なお、この液晶ポリエステルを得るための重合反応の進行を容易にする観点からは、上述のモノマーの代わりに、それらのエステル形成性誘導体やアミド形成性誘導体を用いてもよい。
上記カルボン酸のエステル形成性誘導体又はアミド形成性誘導体としては、例えば、ポリエステルやポリアミドを生成する反応を促進するように、カルボキシル基が酸塩化物及び酸無水物などの反応活性が高い誘導体となっているもの、並びに、エステル交換反応又はアミド交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように、カルボキシル基がアルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているものが挙げられる。
また、上記フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体又はアミド形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルやポリアミドを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものが挙げられる。
また、上記アミノ基のアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とエステルを形成しているものが挙げられる。
上記構造単位(1)乃至(3)で表される構造単位としては、具体的には、下記のものを例示することができる。但し、上記構造単位(1)乃至(3)で表される構造単位は、これらに限定されるものではない。
一般式(1)で表される構造単位としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸及び4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸から選ばれる芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来の構造単位等が挙げられる。液晶ポリエステルは、これら構造単位のうち1種のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。特に、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位又は2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸由来の構造単位を有する芳香族液晶ポリエステルを用いることが好ましい。
全構造単位の合計に対して、一般式(1)で表される構造単位が占める割合は、例えば30.0乃至80.0モル%の範囲内にあり、好ましくは35.0乃至40.0モル%の範囲内にある。
一般式(1)で表される構造単位の全構造単位に対する割合を大きくすると、後述する非プロトン性溶媒に対する液晶ポリエステルの溶解性が低下する。この割合が小さい場合、ポリエステルが液晶性を示さない傾向がある。
一般式(2)で示される構造単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸から選ばれる芳香族ジカルボン酸に由来の構造単位が挙げられる。液晶ポリエステルは、これら構造単位のうち1種のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。とりわけ、後述する非プロトン性溶媒に対する液晶ポリエステルの溶解性の観点からは、イソフタル酸由来の構造単位を有する液晶ポリエステルを用いることが好ましい。
全構造単位の合計に対して、一般式(2)で表される構造単位が占める割合は、例えば10.0乃至35.0モル%の範囲内にあり、好ましくは30.0乃至32.5モル%の範囲内にある。
一般式(2)で表される構造単位の全構造単位に対する割合を大きくすると、ポリエステルの液晶性が低下する傾向がある。この割合を小さくすると、非プロトン性溶媒に対するポリエステルの溶解性が低下する傾向がある。
一般式(3)で表される構造単位としては、例えば、3−アミノフェノール及び4−アミノフェノールなどのフェノール性水酸基を有する芳香族アミン由来構造単位、並びに、1,4−フェニレンジアミン及び1,3−フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミン由来の構造単位を挙げることができる。液晶ポリエステルは、これらの構造単位のうち1種のみを含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。なかでも、液晶ポリエステルの製造において行う重合反応の観点から、4−アミノフェノール由来の構造単位を有する液晶ポリエステルを用いることが好ましい。
全構造単位の合計に対して、一般式(3)で表される構造単位が占める割合は、例えば10.0乃至35.0モル%の範囲内にあり、好ましくは30.0乃至32.5モル%の範囲内にある。
一般式(3)で表される構造単位の全構造単位に対する割合を大きくすると、ポリエステルの液晶性が低下する傾向がある。この割合を小さくすると、非プロトン性溶媒に対する液晶ポリエステルの溶解性が低下する傾向がある。
なお、一般式(3)で表される構造単位と、一般式(2)で表される構造単位とは、実質的に等量であることが好ましい。一般式(3)で表される構造単位の全構造単位に対する割合と一般式(2)で表される構造単位の全構造単位に対する割合との差を−10乃至+10モル%の範囲内とすることにより、芳香族液晶ポリエステルの重合度を制御することもできる。
上記液晶ポリエステルの製造方法は、特に限定されない。この液晶ポリエステルの製造方法としては、例えば、一般式(1)で表される構造単位に対応する芳香族ヒドロキシカルボン酸と、一般式(3)で表される構造単位に対応する水酸基を有する芳香族アミン又は芳香族ジアミンのフェノール性水酸基若しくはアミノ基とを、過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化し、得られたアシル化物(エステル形成性誘導体やアミド形成性誘導体)と、一般式(2)で表される構造単位に対応する芳香族ジカルボン酸とをエステル交換(重縮合)して溶融重合する方法が挙げられる。
上記アシル化物としては、予めアシル化して得た脂肪酸エステルを用いてもよい(例えば、特開2002−220444号公報又は特開2002−146003号公報を参照のこと)。
上記アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量は、フェノール性水酸基とアミノ基との合計に対して、1.0乃至1.2倍当量であることが好ましく、1.05乃至1.1倍当量であることがより好ましい。
脂肪酸無水物の添加量が少ない場合、エステル交換(重縮合)時にアシル化物や原料モノマーなどが昇華し、反応系が閉塞し易い傾向にある。また、脂肪酸無水物の添加料が多い場合、得られる芳香族液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向にある。
上記アシル化反応は、130乃至180℃で5分乃至10時間に亘って行うことが好ましく、140乃至160℃で10分乃至3時間に亘って行うことがより好ましい。
上記アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は、特に限定されない。この脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、及び無水β−ブロモプロピオン酸が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
これらの中でも、価格と取り扱い性との観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸及び無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは無水酢酸である。
上記エステル交換及びアミド交換反応においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8乃至1.2倍当量であることが好ましい。
また、上記エステル交換及びアミド交換反応は、130乃至400℃で0.1乃至50℃/分の割合で昇温しながら行うことが好ましく、150乃至350℃で0.3乃至5℃/分の割合で昇温しながら行うことがより好ましい。
上記アシル化して得た脂肪酸エステルとカルボン酸やアミンとをエステル交換及びアミド交換させる際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物とは、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
なお、アシル化反応並びにエステル交換及びアミド交換反応は、触媒の存在下で行ってもよい。この触媒としては、例えば、ポリエステルの重合用触媒として慣用のものを使用することができる。そのような触媒としては、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム及び三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、並びに、N,N−ジメチルアミノピリジン及びN−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒を挙げることができる。
上記触媒の中でも、N,N−ジメチルアミノピリジン及びN−メチルイミダゾールなどの窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002−146003号公報を参照のこと)。
上記触媒は、通常、モノマー類の投入時に投入される。この触媒は、アシル化後に除去してもよく、除去しなくてもよい。この触媒を除去しない場合には、アシル化と連続してエステル交換を行うことができる。
上記エステル交換及びアミド交換反応による重合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、これを粉砕してパウダー状又はフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことができる。具体的には、例えば、窒素等の不活性雰囲気下、20乃至350℃で、1乃至30時間に亘って固相状態で熱処理する方法が挙げられる。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。
なお、適当な攪拌機構を設けることにより、溶融重合と固相重合とを同一の反応槽において行うこともできる。
固相重合後、得られた液晶ポリエステルは、公知の方法により、例えばペレット状に成形してもよい。
上記液晶ポリエステルの製造は、回分装置及び/又は連続装置を用いて行うことができる。
上記液晶ポリエステルは、下記の方法で求められる流動開始温度が250℃以上であることが好ましく、260℃以上であることがより好ましい。このような液晶ポリエステルを使用した場合、流動開始温度がより低い液晶ポリエステルを使用した場合と比較して、絶縁層3と金属箔4との間で、及び、絶縁層3と金属基板2との間で、より高度の密着性が得られる。
また、上記液晶ポリエステルは、流動開始温度が300℃以下であることが好ましく、290℃以下であることがより好ましい。このような液晶ポリエステルは、流動開始温度がより高い液晶ポリエステルと比較して、溶媒への溶解性がより高い傾向にある。
ここで、「流動開始温度」とは、フローテスタによる溶融粘度の評価において、かかる芳香族ポリエステルの溶融粘度が9.8MPaの圧力下で4800Pa・s以下になる最低温度をいう。
なお、1987年発行の書籍「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」(小出直之編、95乃至105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行)によれば、1970年代に液晶ポリエステル樹脂が開発されて以降、液晶ポリエステル樹脂の分子量の目安として、フロー温度(本明細書で使用している用語「流動開始温度」と同等)が用いられている。
上記液晶ポリエステルの流動開始温度の制御は、例えば、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、そのポリマーを粉砕してパウダー状又はフレーク状にした後、公知の固相重合方法により流動開始温度を調整することで容易に実施できる。
より具体的には、例えば、溶融重合工程の後、窒素等の不活性雰囲気下、210℃を超える温度で、より好ましくは220乃至350℃の温度で、1乃至10時間に亘って固相状態で熱処理する方法によって得られる。固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。例えば、窒素などの不活性雰囲気下、攪拌することなく静置した状態で、225℃で3時間に亘って固相重合を行ってもよい。
無機充填材3bは、絶縁層3のほぼ全体に亘って分布している。典型的には、絶縁層3の厚さ方向に対して垂直な各断面において、無機充填材3bはほぼ均一に分布している。そして、典型的には、絶縁層の厚さ方向に対して平行な各断面において、無機充填材3bの密度は、金属基板2側から金属箔4側へ向けて減少している。
絶縁層3に占める無機充填材3bの割合は、例えば45乃至85体積%の範囲内にあり、典型的には50乃至80体積%の範囲内にある。この割合を過度に小さくすると、熱抵抗が大きくなる。この割合を過度に大きくすると、無機充填材3b同士の接着強度が低下するか、絶縁層3と金属基板2若しくは金属箔4との接着強度が低下するか、又は、絶縁層3の表面を平坦にすることが困難になる。
絶縁層3に占める無機充填材3bの体積比は、金属基板2側の領域と比較して、金属箔4側の領域においてより小さい。なお、この構造は、例えば、波長分散型X線分析装置(WDX)を用いて、無機充填材3bが含んでいる特定の元素の量又は濃度を絶縁層3の厚さ方向に測定することによって確認することができる。
この測定によって得られる分布において、金属基板2からの距離が絶縁層3の厚さの10%以下の区域における先の元素の度数の最大値Fmaxに対する、金属基板2からの距離が絶縁層3の厚さの90%乃至100%の区域における先の元素の度数の最小値Fminの比Fmin/Fmaxは、例えば0.75乃至0.95の範囲内にあり、典型的には0.8乃至0.9の範囲内にある。
この比Fmin/Fmaxを過度に大きくすると、金属箔4をパターニングすることによって得られる回路パターンの絶縁層3からの剥離が生じ易くなるか、又は、絶縁層3と金属箔4との界面の平坦性が低下する。比Fmin/Fmaxを過度に小さくすると、C絶縁層3と金属基板2との接着強度が低下する。
なお、WDXを用いて得られる結果は、誤差を含んでいる可能性がある。従って、そのような場合は、誤差を十分に小さくするべく、複数の位置で測定を行い、それら測定結果から得られる比Fmin/Fmaxの平均値を利用してもよい。
無機充填材3bは、典型的には、樹脂3aと比較して熱伝導率が高く、絶縁性に優れている。無機充填材3bは、例えば、30W・m-1・K-1以上の熱伝導率を有している。
無機充填材3bは、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム及び酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、又は窒化硼素などの非金属化合物からなる。無機充填材3bは、これら材料の1つのみを含んでいてもよく、2つ以上を含んでいてもよい。
無機充填材3bは、球状粒子であってもよく、非球状粒子であってもよく、それらの混合物であってもよいが、球状粒子であることが好ましい。球状粒子は、他の形状を有している粒子と比較して、樹脂溶液に分散させたときに生じる粘度の増加が少ない。また、典型的には、球状粒子は、他の形状を有している粒子と比較して、より高密度に充填することができる。
無機充填材3bとして、非球状の絶縁微粒子を凝集させてなる球状の二次粒子を使用してもよい。球状の二次粒子は、例えば、非球状の絶縁微粒子と分散媒と必要に応じてバインダとを含んだ分散液を噴霧乾燥することにより得られる。
無機充填材3bの少なくとも一部として、樹脂3aとの密着性及び後述する分散液中での分散性を向上させるべく、上述した粒子に表面処理を施してなるものを使用してもよい。この表面処理に使用可能な表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウム又はジルコニウム系のカップリング剤、長鎖脂肪酸、イソシアナート化合物、及び、例えば、エポキシ基、メトキシシラン基、アミノ基若しくは水酸基を含んだ極性高分子又は反応性高分子を挙げることができる。
無機充填材3bの平均粒径は、例えば、0.1乃至100μmの範囲内にある。ここで、「平均粒径」は、レーザ回折散乱法によって測定した粒子の平均粒径を意味している。
金属箔4は、絶縁層3上に設けられている。金属箔4は、絶縁層3を間に挟んで金属基板2と向き合っている。
金属箔4は、例えば、単体金属又は合金からなる。金属箔4の材料としては、例えば、銅又はアルミニウムを使用することができる。金属箔4の厚さは、例えば、10乃至500μmの範囲内にある。
次に、上述した回路基板用積層板1から得られる金属ベース回路基板1’について説明する。
図3は、図1及び図2に示す回路基板用積層板1から得られる金属ベース回路基板1’の一例を概略的に示す断面図である。
図3に示す金属ベース回路基板1’は、金属基板2と、絶縁層3と、回路パターン4’とを含んでいる。回路パターン4’は、図1及び図2を参照しながら説明した回路基板用積層板1の金属箔4をパターニングすることにより得られる。このパターニングは、例えば、金属箔4の上にマスクパターンを形成し、金属箔4の露出部をエッチングによって除去することにより得られる。金属ベース回路基板1’は、例えば、先の回路基板用積層板1の金属箔4に対して上記のパターニングを行い、必要に応じて、切断及び穴あけ加工などの加工を行うことにより得ることができる。
この金属ベース回路基板1’は、後で説明するように、放熱性及び耐熱性に優れている。加えて、この金属ベース回路基板1’は、絶縁層3に占める無機充填材の割合が高いにも拘らず、回路パターン4’は十分なピール強度を有している。
なお、この金属ベース回路基板1’は、例えば、自動車に搭載される。この場合、金属ベース回路基板1’は、例えば、電動パワーステアリングコントロールユニット、LED(light-emitting diode)ヘッドアップディスプレイ、オートマチックトランスミッション、ABS(antilock braking system)モジュール、エンジン制御コントロールユニット、又はLEDメータパネルにおいて使用され得る。
また、この金属ベース回路基板1’は、他の用途、例えば、LED照明器具、バックライトがLEDを含んだ表示板、又は、エレベータ及び電車などの電力系統において使用することも可能である。
上述した回路基板用積層板1及び金属ベース回路基板1’は、例えば、以下の方法により製造する。図1乃至図5を参照しながら説明する。
図4は、図1及び図2に示す回路基板用積層板1の製造における第1工程を概略的に示す断面図である。図5は、図1及び図2に示す回路基板用積層板1の製造における第2工程を概略的に示す断面図である。
図1及び図2に示す回路基板用積層板1を製造するに当っては、まず、図4に示す転写シート11を準備する。転写シート11は、離型フィルム5と、その上に形成された絶縁層3’とを含んでいる。
離型フィルム5は、絶縁層3’を剥離可能に支持した支持体である。離型フィルム5の形状に特に制限はないが、絶縁層3’を連続式で形成する場合、典型的には、離型フィルム5として帯形状を有しているものを使用する。
離型フィルム5としては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム及びポリメチルペンテンフィルムなどの樹脂フィルムを、単独で又は2種以上をラミネートして使用することができる。或いは、離型フィルム5として、紙又は樹脂フィルムの表面にシリコーン樹脂を塗布してなるものを使用してもよい。
離型フィルム5は、十分な耐熱性及び耐溶剤性を有している必要がある。また、離型フィルム5は、ガス透過性が高いこと、具体的には、気化した溶媒を透過させる能力が高いことが望ましい。この観点では、離型フィルム5として、ポリエステルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム又はポリプロピレンフィルムを使用することが好ましい。また、離型フィルム5の厚さは、強度及びガス透過性の観点から、30乃至150μmの範囲内とすることが好ましい。
離型フィルム5は、透明部を含んでいてもよい。例えば、離型フィルム5のうち絶縁層3’を支持する部分は、そのほぼ全体が透明であってもよい。このような構成を採用すると、この透明部を介した観察によって、絶縁層3’に不具合があるか否かを確認することができる。
絶縁層3’は、樹脂3a’と無機充填材3bとを含んだ層である。絶縁層3’は、樹脂3a’と無機充填材3bと溶媒とを含んだ塗工液を離型フィルム5上に塗布し、この塗膜を加熱して溶媒の少なくとも一部を除去することによって得られる。
樹脂3a’は、例えば、樹脂3a、その未硬化物、又はそれらの混合物である。この樹脂としては、その溶媒への溶解性を考慮して、分子量が比較的小さなものを使用することが好ましい。
絶縁層3’は、溶媒を含んでいてもよく、溶媒を含んでいなくてもよい。溶媒を含んでいる絶縁層3’は、高い靭性又は柔軟性を有しており、転写シート11を図示しないロールに巻き取った場合でも脆性破壊を生じ難い。また、樹脂3a’として熱可塑性樹脂を使用した場合、絶縁層3’に溶媒を含有させると、樹脂3a’の軟化温度がより低くなる。従って、後述する転写をより低い温度で行うことができる。
絶縁層3’は、例えば、以下の方法により製造する。
まず、溶媒に樹脂3a’を溶解させる。溶媒としては、樹脂3a’を溶解させることが可能であれば、純粋物質を使用してもよく、混合物を使用してもよい。
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、メチルエチルケトン及びアセトンなどの低沸点溶媒;メチルセロソルブ及びブチルセロソロブなどのセロソルブ類、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド並びにジメチルスルホキシドなどの高沸点極性溶媒;又はそれらの2つ以上を含んだ混合物を使用することができる。
樹脂3a’として液晶ポリエステルを使用する場合、この溶媒としては、ハロゲン原子を含まない非プロトン性溶媒を用いることが好ましい。そのような非プロトン性溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒;アセトン及びシクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒;γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒;エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒;トリエチルアミン及びピリジンなどのアミン系溶媒;アセトニトリル及びサクシノニトリルなどのニトリル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素及びN−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;ニトロメタン及びニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒;ジメチルスルホキシド及びスルホランなどのスルフィド系溶媒;ヘキサメチルリン酸アミド及びトリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒が挙げられる。
これらの中でも、双極子モーメントが3乃至5の溶媒が、上述した溶解性の観点から好ましい。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、及びγ−ブチロラクトン等のラクトン系溶媒が好ましく、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン(NMP)が特に好ましい。更に、1気圧における沸点が180℃以下である揮発性の高い溶媒を使用した場合、樹脂と無機充填材3bとを含んだ分散液からなる塗膜を形成した後に、この塗膜から溶媒を除去し易い。この観点からは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)が特に好ましい。
この溶液には、液晶ポリエステルなどの樹脂を、溶媒100質量部に対して、例えば10乃至50質量部、好ましくは20乃至40質量部含有させる。樹脂の量が過度に少ない場合、塗膜から大量の溶媒を除去しなければならない。それ故、絶縁層3’の外観不良を生じ易い。樹脂の量を過度に多くすると、上述した溶液又は分散液が高粘度化する傾向があり、その取り扱い性が低下する。
この溶液には、他の成分を更に溶解させてもよい。例えば、この溶液には、シランカップリング剤及びチタンカップリング剤などのカップリング剤並びにイオン吸着剤などの添加剤を加えてもよい。
次に、無機充填材3bを先の溶液中に分散させて、樹脂と無機充填材3bとを含んだ分散液を塗工液として得る。無機充填材は、例えば、ボールミル、3本ロール、遠心攪拌機、ビーズミル又はホモミキサを用いて、粉砕しつつ上記溶液中に分散させてもよい。
なお、ここでは、溶媒に樹脂3a’を溶解させてなる溶液に無機充填材3bを分散させる方法について説明したが、溶媒に無機充填材3bを分散させてなる分散液に樹脂3a’を溶解させてもよい。
次いで、この塗工液を脱泡し、これを離型フィルム5の一方の主面上に塗布する。離型フィルム5の分散液を塗布する面は、滑らかであり、典型的には平坦面である。塗工液の塗布には、例えば、ロールコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、ダイスコータ法又はコンマコータ法を利用することができる。塗工液の塗布は、連続式で行ってもよく、単板式で行ってもよい。
以上のようにして離型フィルム5上に塗膜を形成した後、この塗膜を乾燥させる。これにより、絶縁層3’を含んだ転写シート11を得る。
この方法では、塗工液を塗布してから塗膜の乾燥を終了するまでの時間内に、塗膜中で無機充填材3bを不均一に分布させる。具体的には、無機充填材3bを、その密度が離型フィルム5側からその反対側へ向けて減少するように分布させる。この分布は、例えば、重力を利用して無機充填材3bを沈降させることによって生じさせることができる。
無機充填材3bの沈降の生じ易さは、例えば、無機充填材3bの平均粒径、樹脂3a’及び溶媒を含んだ溶液の粘度、無機充填材3bの溶液との親和性、それらの比重の差、及び溶媒の蒸発速度に依存する。具体的には、平均粒径が小さな無機充填材3bは、平均粒径が大きな無機充填材3bと比較して沈降し難い。また、無機充填材3bは、粘度がより大きな溶液、無機充填材3bとの親和性がより大きな溶液、又は無機充填材3bとの比重の差が小さな溶液中では沈降し難い。そして、溶媒の蒸発が進行すると溶液の粘度が高くなるため、溶媒の蒸発速度を高くすると、無機充填材3bの沈降は生じ難くなる。
上述した塗膜の乾燥は、例えば、溶媒の一部が塗膜中に残留するように行う。この場合、塗膜の乾燥は、例えば、絶縁層3’における溶媒の量が、乾燥時の固形分と溶媒量との総和に対して1乃至25%となるように行ってもよい。
上記の通り、溶媒を含んでいる絶縁層3’は、高い柔軟性を有しており、転写シート11をロールに巻き取った場合でも脆性破壊を生じ難い。また、溶媒を含んだ絶縁層3’に溶媒を残留させた場合、溶媒を完全に除去した場合と比較して、後述する転写をより低い温度で行うことができる。
絶縁層3’中の溶媒残存量の適正値は、樹脂及び無機充填材の種類に依存する。例えば、樹脂及び無機充填材としてそれぞれ液晶ポリエステル及び窒化硼素を使用した場合であって、溶媒としてN−メチルピロリドン又はN,N−ジメチルアセトアミドを使用したときには、塗膜の乾燥は、絶縁層3’における溶媒の量が、乾燥前の塗膜が含んでいる溶媒の量の5乃至25%となるように行うことが好ましい。
次に、絶縁層3’を離型フィルム5から金属箔4上へと転写して、図5に示す構造12を得る。
具体的には、まず、転写シート11と金属箔4とを、絶縁層3’が金属箔4と接触するように重ね合わせる。そして、この状態で、それらに熱及び圧力を加える。これにより、絶縁層3’を金属箔4に接着する。
その後、離型フィルム5を金属箔4から剥離する。絶縁層3’の金属箔4に対する接着強度が、絶縁層3’の離型フィルム5に対する接着強度と比較してより高ければ、絶縁層3’を金属箔4上に残したまま、離型フィルム5のみを除去することができる。
以上のようにして、図5に示す構造12を得る。
この方法によって得られる構造12は、絶縁層3’が均一な厚さを有している。これについて、以下に説明する。
絶縁層3’は、滑らかな表面を有している離型フィルム5上に形成したものである。それ故、図4に示す転写シート11において、絶縁層3’の離型フィルム5側の第1主面は滑らかである。この第1主面の滑らかさは、図5に示す構造12においても維持される。
また、図4に示す転写シート11において、絶縁層3’の第1主面とは反対側の第2主面は、第1主面と比較して滑らかさに劣る。しかしながら、この第2主面に隣接した領域は、無機充填材3bの密度が低いので、熱及び圧力を加えることによって表面形状を容易に変化させる。それ故、図5に示す構造12において、第2主面は滑らかである。
以上の通り、図5に示す構造12において、絶縁層3’の第1及び第2主面は滑らかである。それ故、この構造12では、第1又は第2主面の凹凸に起因した絶縁層3’の厚さのばらつきは小さい。
以上のようにして図5に示す構造12を得た後、絶縁層3’を完全に乾燥させる。絶縁層3’は、転写の際に加える熱によって完全に乾燥させてもよい。但し、通常、転写に最適な温度条件と乾燥に最適な温度条件とは異なっており、典型的には、それらは別々の工程で行う。
また、乾燥後、更に高い温度で絶縁層3’を熱処理してもよい。こうすると、樹脂の分子量を調節することができる。
次に、上述した構造12と金属基板2とを貼り合せる。具体的には、まず、構造12と金属基板2とを、絶縁層3’が金属基板2と接触するように重ね合わせる。そして、この状態で、それらに熱及び圧力を加える。これにより、絶縁層3としての絶縁層3’を金属基板2に接着する。このようにして、図1及び図2に示す回路基板用積層板1を得る。
その後、金属箔4をパターニングする。例えば、金属箔4の上にマスクパターンを形成し、金属箔4の露出部をエッチングによって除去する。これにより、図3に示す回路パターン4’を得る。更に、必要に応じて、切断及び穴あけ加工などの加工を行う。以上のようにして、図4に示す金属ベース回路基板1’を完成する。
上述した方法によって得られる回路基板用積層板1では、図2に示すように、無機充填材3bは、絶縁層3中で、その密度が金属基板2側から金属箔4側へ向けて減少するように分布している。それ故、この回路基板用積層板1から得られる金属ベース回路基板1’においても、無機充填材3bは、図3に示すように、その密度が金属基板2側から回路パターン4’側へ向けて減少するように分布している。
絶縁層3に占める樹脂3aの割合が大きくなるほど、接着強度は大きくなる。それ故、この金属ベース回路基板1’では、回路パターン4’は、金属基板2と比較して、絶縁層3に対する接着強度がより大きい。従って、上述した方法によって得られる回路基板用積層板1を金属ベース回路基板1の製造に使用すると、無機充填材3bの量を減らすことなしに、回路パターン4’のピール強度が不十分となるのを防止できる。即ち、放熱性を犠牲にすることなしに、回路パターン4’のピール強度が不十分となるのを防止できる。
このように、上述した構成を採用すると、回路パターン4’のピール強度が不十分となるのを防止できる。回路パターン4’と絶縁層3との接着強度が高ければ、回路パターン4’をより微細に形成したとしても、その剥離を生じ難い。即ち、上記の構成は、回路パターン4’の微細化に有利である。
また、一般的な金属ベース回路基板では、無機充填材として窒化硼素を使用すると、高い放熱性及び耐電圧を達成できるが、その反面で、回路パターンのピール強度が不十分となる。特に、絶縁層に占める窒化硼素の割合を大きく、例えば45乃至85体積%の範囲内とすると、回路パターンのピール強度は大幅に低下する。これに対し、図1乃至図5を参照しながら説明した構成を採用すると、無機充填材3bとして窒化硼素を使用し且つ絶縁層3に占める窒化硼素の割合を大きくした場合であっても、回路パターン4’のピール強度が不十分となるのを防止することができる。即ち、窒化硼素を使用することに伴う不都合を生じることなしに、窒化硼素の利益を享受することができる。
なお、図3に示すように、この金属ベース回路基板1’では、金属基板2は、回路パターン4’と比較して、絶縁層3との接触面積がより大きい。それ故、金属基板2と絶縁層3との結合には、回路パターン4’と絶縁層3との結合ほど大きな接着強度は要求されない。従って、上記のように無機充填材3bを分布させたとしても、絶縁層3の金属基板2からのピール強度が不十分となることはない。
また、上述の通り、図5に示す構造12では、絶縁層3’の第1及び第2主面は滑らかであり、第1又は第2主面の凹凸に起因した絶縁層3’の厚さのばらつきは小さい。それ故、上記の方法によって得られる回路基板用積層板1においても、絶縁層3の両主面は滑らかであり、その厚さのばらつきは小さい。従って、上述した方法によると、絶縁層3の厚さのばらつきに起因して耐電圧が不十分となることはない。
更に、上述した方法によると、以下の理由で、接着強度、放熱性及び耐電圧に関して優れた性能を達成することができる。
一般に、塗膜の乾燥は、その表面から進行する。また、金属基板及び金属箔は、ガス不透過性である。それ故、金属基板又は金属箔上に形成した塗膜を乾燥させるべく加熱すると、乾燥した表面と金属基板又は金属箔とによって、塗膜の深部に存在している溶媒の外部への放出が妨げられる。その結果、この乾燥工程において又は加熱を伴う後工程において、先の塗膜から得られる絶縁層内に又はこの絶縁層と金属基板若しくは金属箔との間に気孔(ボイド)を生じる可能性がある。ボイドは、絶縁層と金属基板又は金属箔との接着強度、並びに、金属ベース回路基板の放熱性及び耐電圧を低下させ得る。
ボイドは、極めて高い圧力でプレスを行うことによって除去できる可能性がある。しかしながら、実際には、そのようなプレスを行ったとしても、ボイドを完全に除去することは困難である。
図1乃至図5を参照しながら説明した方法では、離型フィルム5上に塗膜を形成し、この塗膜から溶媒の一部を除去することによって絶縁層3’を得る。絶縁層3’の第1主面側の表面領域は、その第2主面側の表面領域と比較して、無機充填材3bの密度がより高い。即ち、前者は、後者と比較して、ガス透過性がより高い。また、一般に、離型フィルム5は、金属箔4と比較して、ガス透過性がより高い。それ故、この方法によると、溶媒を、絶縁層3’の露出面側から外部へと放出させることができるのに加え、絶縁層3’から離型フィルム5を介して外部へと放出させることができる。
また、この方法では、絶縁層3’を離型フィルム5から金属箔4上へと転写した直後に、絶縁層3’を乾燥工程に供する。即ち、この方法によると、転写前には第2主面を露出させた状態で絶縁層3’を乾燥させ、転写後には第1主面を露出させた状態で絶縁層3’を乾燥させることができる。
従って、この方法によると、溶媒が絶縁層3’中に残留するのを抑制することができ、また、気化した溶媒に起因して絶縁層3’にボイドが発生するのを防止することができる。即ち、上述した方法によると、接着強度、放熱性及び耐電圧に関して優れた性能を達成することができる。
なお、一般に、熱可塑性樹脂は、熱硬化性樹脂と比較して、平均分子量が著しく大きい。それ故、熱可塑性樹脂を含んだ塗工液は、熱硬化性樹脂を含んだ塗工液と比較して遥かに高粘度である。
高粘度の塗工液からなる塗膜を乾燥工程に供した場合、塗膜の表面は深部と比較して遥かに速い速度で乾燥し、この乾燥した表面は塗膜の深部の乾燥を妨げる。このため、熱可塑性樹脂を含んだ塗工液を使用した場合、熱硬化性樹脂を含んだ塗工液を使用した場合と比較して、絶縁層中に過剰量の溶媒が残留し易い。
また、一部の樹脂、例えば液晶ポリエステル及びポリアミドイミドは、ガス透過性が低い。そして、これら樹脂を溶解させるための溶媒としては、高沸点溶媒を使用することが多い。それ故、絶縁層を形成するための塗工液が液晶ポリエステル又はポリアミドイミドと高沸点溶媒とを含んでいる場合、一般には、絶縁層から溶媒を十分に除去することは難しい。即ち、この場合も、絶縁層中に過剰量の溶媒が残留し易い。
図1乃至図5を参照しながら説明した方法によると、上記の通り、転写前に第2主面を露出させた状態で絶縁層3’を乾燥させること、気化した溶媒を絶縁層3’から離型フィルム5を介して外部へと放出させること、及び、転写後に第1主面を露出させた状態で絶縁層3’を乾燥させることが可能である。従って、絶縁層中に過剰量の溶媒が残留し易い場合であっても、不要な溶媒が絶縁層3’中に残留するのを抑制することができ、また、気化した溶媒に起因して絶縁層3’にボイドが発生するのを防止することができる。即ち、接着強度、放熱性及び耐電圧に関して優れた性能を達成することができる。
図1乃至図5を参照しながら説明した方法では、転写シート11の絶縁層3’に溶媒を含有させた場合、転写シート11をロールに巻き取ることができる。ロールに巻き取った転写シート11は、在庫するのに都合がよい。そして、この中間製品としての転写シート11は金属基板2及び金属箔4を含んでいないので、これを使用すると、以下に説明するように製造の自由度が大きくなる。
金属箔4は、金属基板2とは異なり、一般にはロールに巻き取ることができる。そのため、金属箔4上に塗工液を塗布する方法によれば、連続式の製造が容易であるのに加え、絶縁層3を形成した金属箔4を中間製品として在庫することができる。しかしながら、この方法では、中間製品を金属箔4の種類毎に在庫しなければならない。
転写シート11は、金属基板2及び金属箔4を含んでいないので、金属基板2及び金属箔4の種類毎に在庫する必要はない。それ故、多量の中間製品を在庫として抱えることなしに、回路基板用積層板1を製造することができる。
また、金属箔4として、例えば、厚さが500μm程度の銅箔を使用する場合、そのような金属箔4は、一般には、ロールに巻かれた状態では提供されず、複数枚のシートとして提供される。金属箔4上への塗工液の塗布を断続的に行う方法では、厚さの均一性に優れた絶縁層3を高い生産性で製造することは難しい。
離型フィルム5には、寸法の制約がない。それ故、離型フィルム5上には、塗工液を連続的に塗布することができ、厚さの均一性に優れた絶縁層3を高い生産性で容易に製造することができる。そして、離型フィルム5から金属箔4への絶縁層3’の転写は、金属箔4の寸法とは無関係に行うことができる。即ち、転写シート11を使用した場合、絶縁層3の厚さの均一性に優れた回路基板用積層板1を高い生産性で製造することができる。
以下に、本発明の例を記載する。
<液晶ポリエステルの製造>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、1976g(10.5モル)の2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸と、1474g(9.75モル)の4−ヒドロキシアセトアニリドと、1620g(9.75モル)のイソフタル酸と、2374g(23.25モル)の無水酢酸とを仕込んだ。反応器内の雰囲気を窒素ガスで十分に置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温させ、この温度で3時間に亘って還流させた。
その後、留出した副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、170分かけて300℃まで昇温させ、トルクの上昇が認められた時点を反応終了と見做して、内容物を取り出した。取り出した内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕することにより、比較的低分子量の液晶ポリエステルの粉末を得た。
得られた粉末の流動開始温度を島津製作所フローテスタCFT−500によって測定したところ、235℃であった。また、この液晶ポリエステル粉末を、窒素雰囲気において223℃で3時間に亘って加熱処理して、固相重合を生じさせた。固相重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
<液晶ポリエステル溶液の調製>
上述した方法によって得られた2200gの液晶ポリエステルを、7800gのN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に加え、100℃で2時間に亘って加熱して液晶ポリエステル溶液を得た。この溶液の粘度は320cPであった。なお、この粘度は、B型粘度計(東機産業製、「TVL−20型」、ロータNo.21(回転数:5rpm))を用いて、23℃で測定した値である。
<実施例1>
上述した方法により得られた液晶ポリエステル溶液に窒化硼素(水島合金鉄株式会社製、「HP−40」、平均粒径15μm)を添加して、分散液を調製した。ここでは、窒化硼素は、この分散液から得られる絶縁層において、窒化硼素からなる無機充填材が占める割合が60体積%となるように添加した。
この分散液を遠心式攪拌脱泡機で5分間に亘って攪拌した後、これを離型フィルム上に塗布した。ここでは、離型フィルムとして、帯形状を有しており、厚さが100μmのポリエステルフィルムを使用した。次いで、この塗膜を70℃で6分間に亘って乾燥させ、更に100℃で6分間に亘って乾燥させた。これにより、離型フィルムと絶縁層とからなり、この絶縁層の厚さが約100μmの転写シートを得た。
なお、この転写シートの絶縁層には、乾燥前の塗膜が含んでいた溶媒の10%が残留していた。また、この転写シートは、ロールに巻き取っても、絶縁層の脆性破壊を生じることはなかった。
次に、転写シートと金属箔とを重ね合わせ、一対の熱ロール間に通過させることによって、それらに熱及び圧力を加えた。ここでは、金属箔として、厚さが70μmの銅箔を使用した。転写シートと金属箔とは、転写シートの絶縁層が金属箔と接触するように重ね合わせた。転写シート側の熱ロールの温度は130℃に設定し、金属箔側の熱ロールの温度は150℃に設定した。これにより、絶縁層と金属箔とを貼り合せた。
離型フィルムを剥離した後、絶縁層と金属箔とからなる積層体を乾燥処理に供した。具体的には、この積層体を10時間かけて300℃にまで昇温し、続いて、この温度に3時間に亘って維持した。
次いで、上記の積層体と金属基板とを、金属基板と金属箔との間に絶縁層が介在するように重ね合わせた。ここでは、金属基板として、厚さが2mmのアルミニウム基板を使用した。そして、これらを、15MPaの圧力を加えながら330℃で15分間に亘って加熱処理して熱接着させた。
以上のようにして、回路基板用積層板を製造した。
この回路基板用積層板について、絶縁層の密度Dを測定した。また、分散液の組成及び単位面積当たりの塗工量などに基づいて、気泡含有率がゼロであると仮定した場合の絶縁層の密度D’を算出した。そして、密度Dと密度D’との比D/D’を1から減じ、これを百分率で表したものを気孔率として求めた。その結果、気孔率は0%であった。
次に、この回路基板用積層板を用いて、耐電圧、Tピール強度及び熱抵抗を測定した。また、この回路基板用積層板の耐熱性を評価した。更に、この回路基板用積層板について、絶縁層内での無機充填材の分布を調べた。以下に、これらの測定及び評価方法を記載する。
耐電圧:
所定の寸法に切断した回路基板用積層板を絶縁油中に浸漬させ、室温で金属箔と金属基板との間に交流電圧を印加した。印加電圧を上昇させ、絶縁破壊を生じる最低電圧を耐電圧とした。
Tピール強度試験:
所定の寸法に切断した回路基板用積層板の金属箔をエッチングにより部分的に除去して、幅10mmの金属箔パターンを形成した。この金属箔パターンの一端を掴み、金属箔パターンのうち剥離した部分が金属基板の主面に対して垂直となるように力を加えながら、金属箔パターンを50mm/分の速度でアルミニウム基板から引き剥がした。このとき、金属箔パターンに加えた力をTピール強度とした。
熱抵抗:
30mm×40mmの寸法に切断した回路基板用積層板の金属箔をエッチングにより部分的に除去して、14mm×10mmのランドを形成した。このランドに半田を用いてトランジスタ(C2233)を取り付けた後、これを、金属基板がシリコーングリース層を介して冷却装置の冷却面と接するように水冷却装置にセットした。次いで、トランジスタに30Wの電力Pを供給して、トランジスタの温度T1と冷却装置の冷却面の温度T2とを測定した。このようにして得られた温度T1と温度T2との差T1−T2を求め、この差T1−T2と供給した電力Pとの比(T1−T2)/Pを熱抵抗とした。
耐熱性:
50mm×50mmの寸法に切断した回路基板用積層板の金属箔をエッチングにより部分的に除去して、矩形状のランドを形成した。このエッチングは、金属箔を除去した領域の寸法とランドの寸法との各々が25mm×50mmとなるように行った。次いで、300℃の半田浴にランドを4分間に亘って接触させ、その後、金属箔の状態を観察した。そして、金属箔に膨れ又は剥がれを生じた場合には不合格と判定し、金属箔に膨れ及び剥がれの何れも生じなかった場合には合格と判定した。
無機充填材の分布:
WDXを用いて、回路基板用積層板の絶縁層における硼素の分布を、その厚さ方向に測定した。ここでは、絶縁層の金属基板側の主面から金属箔側の主面までの区間を、0.8μmのピッチで線分析した。そして、この測定結果を平均値が1となるように換算し、これによって得られた硼素の分布を無機充填材の分布とした。
以上の条件で各測定及び評価を行ったところ、耐電圧は7.0乃至8.0kV、Tピール強度は10.9N/cm、熱抵抗は0.13℃/Wであり、耐熱性は「合格」と判定された。また、分布曲線における無機充填材の頻度は、金属基板の近傍では1.03乃至1.10であり、金属箔の近傍では0.85であった。なお、本例において得られた分布曲線を図6に示す。
図6は、実施例1に係る回路基板用積層板の絶縁層における無機充填材の分布を示すグラフである。
図6において、横軸は、金属基板からの距離を、金属基板から銅箔までの距離を1とした相対値で表している。また、図6において、縦軸は、無機充填材の頻度を表している。
図6において、実線で表した曲線は、無機充填材の分布曲線である。他方、破線は、分布曲線を直線で近似したものである。
図6に示すように、本例に係る回路基板用積層板の絶縁層では、無機充填材の密度は、金属基板側から金属箔側へ向けて減少していた。
<比較例1>
本例では、まず、実施例1において行ったのと同様の方法により分散液を調製した。この分散液は、離型フィルム上に塗布する代わりに、厚さが70μmの銅箔上に塗布した。次いで、この塗膜を乾燥処理に供した。具体的には、この塗膜を10時間かけて300℃にまで昇温し、続いて、この温度に3時間に亘って維持した。これにより、厚さが約100μmの絶縁層と金属箔とからなる積層体を得た。更に、上記の積層体と厚さが2mmのアルミニウム基板とを、実施例1で行ったのと同様の方法により熱接着させた。以上のようにして、回路基板用積層板を製造した。
この回路基板用積層板について、実施例1で行ったのと同様の方法により、各種測定及び評価を行った。その結果、気孔率は2%、耐電圧は4.0乃至7.0kV、Tピール強度は7.5N/cm、熱抵抗は0.15℃/Wであり、耐熱性は「合格」と判定された。また、分布曲線における無機充填材の頻度は、金属基板の近傍では0.90であり、金属箔の近傍では1.05乃至1.10であった。なお、本例において得られた分布曲線を図7に示す。
図7は、比較例1に係る回路基板用積層板の絶縁層における無機充填材の分布を示すグラフである。
図7において、横軸は、金属基板からの距離を、金属基板から金属箔までの距離を1とした相対値で表している。また、図7において、縦軸は、無機充填材の頻度を表している。
図7において、実線で表した曲線は、無機充填材の分布曲線である。他方、破線は、分布曲線を直線で近似したものである。
図7に示すように、本例に係る回路基板用積層板の絶縁層では、無機充填材の密度は、金属箔側から金属基板側へ向けて減少していた。
<実施例2>
20質量部のポリアミドイミド樹脂(日立化成社製、「HP5000」)を100質量部のN−メチルピロリドンに溶解させて、樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液に、例1において使用したのと同様の窒化硼素を添加して、分散液を調製した。ここでは、窒化硼素は、この分散液から得られる絶縁層において、窒化硼素からなる無機充填材が占める割合が70体積%となるように添加した。
この分散液を遠心式攪拌脱泡機で5分間に亘って攪拌した後、これを離型フィルム上に塗布した。ここでは、離型フィルムとして、帯形状を有しており、表面がシリコーン樹脂で離型処理され、厚さが100μmのポリエステルフィルムを使用した。次いで、この塗膜を70℃で10分間に亘って乾燥させた。これにより、離型フィルムと絶縁層とからなり、この絶縁層の厚さが約100μmの転写シートを得た。
なお、この転写シートの絶縁層には、乾燥前の塗膜が含んでいた溶媒の10%が残留していた。また、この転写シートは、ロールに巻き取っても、絶縁層の脆性破壊を生じることはなかった。
次に、転写シートと金属箔とを重ね合わせ、一対の熱ロール間に通過させることによって、それらに熱及び圧力を加えた。ここでは、金属箔として、厚さが70μmの銅箔を使用した。転写シートと金属箔とは、転写シートの絶縁層が金属箔と接触するように重ね合わせた。また、各熱ロールの温度は150℃に設定した。これにより、絶縁層と金属箔とを貼り合せた。
離型フィルムを剥離した後、絶縁層と金属箔とからなる積層体を乾燥処理に供した。具体的には、この絶縁層を170℃で1時間に亘って乾燥させた。
次いで、上記の積層体と金属基板とを、金属基板と金属箔との間に絶縁層が介在するように重ね合わせた。ここでは、金属基板として、厚さが2mmのアルミニウム基板を使用した。そして、これらを、10MPaの圧力を加えながら250℃で15分間に亘って加熱処理して熱接着させた。
以上のようにして、回路基板用積層板を製造した。
この回路基板用積層板について、実施例1で行ったのと同様の方法により、各種測定及び評価を行った。その結果、気孔率は0%、耐電圧は7.0kV、Tピール強度は20.0N/cm、熱抵抗は0.18℃/Wであった。また、絶縁層における無機充填材の密度は、金属基板側から金属箔側へ向けて減少していた。分布曲線における無機充填材の頻度は、金属基板の近傍では約1.10であり、金属箔の近傍では約0.80であった。
<比較例2>
本例では、まず、実施例2において行ったのと同様の方法により分散液を調製した。この分散液は、離型フィルム上に塗布する代わりに、厚さが70μmの銅箔上に塗布した。次いで、この塗膜を乾燥処理に供した。具体的には、この塗膜を170℃で1時間に亘って乾燥させた。これにより、厚さが約100μmの絶縁層と金属箔とからなる積層体を得た。更に、上記の積層体と厚さが2mmのアルミニウム基板とを、実施例2で行ったのと同様の方法により熱接着させた。以上のようにして、回路基板用積層板を製造した。
この回路基板用積層板について、実施例1で行ったのと同様の方法により、各種測定及び評価を行った。その結果、気孔率は3%、耐電圧は2.0乃至5.0kV、Tピール強度は15.0N/cm、熱抵抗は0.20℃/Wであった。また、絶縁層における無機充填材の密度は、金属箔側から金属基板側へ向けて減少していた。具体的には、分布曲線における無機充填材の頻度は、金属基板の近傍では約0.85であり、金属箔の近傍では約1.10であった。
<実施例3>
100質量部のビスフェノールA系エポキシ樹脂(アデカ社製、「EP4100G」、エポキシ当量190)と、85質量部の酸無水物系硬化剤(アデカ社製、「EH3326」、酸化650)とを、50質量部のトルエンと50質量部のブチルセロソルブとの混合液に溶解させて、樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液に球状アルミナ(昭和電工社製、「AS40」、平均粒径11μm)を添加して、分散液を調製した。ここでは、球状アルミナは、この分散液から得られる絶縁層において、球状アルミナからなる無機充填材が占める割合が75体積%となるように添加した。
この分散液を遠心式攪拌脱泡機で5分間に亘って攪拌した後、これを離型フィルム上に塗布した。ここでは、離型フィルムとして、帯形状を有しており、表面がシリコーン樹脂で離型処理され、厚さが100μmのポリエステルフィルムを使用した。次いで、この塗膜を70℃で10分間に亘って乾燥させた。これにより、離型フィルムと絶縁層とからなり、この絶縁層の厚さが約100μmの転写シートを得た。
なお、この転写シートの絶縁層には、乾燥前の塗膜が含んでいた溶媒の10%が残留していた。また、この転写シートは、ロールに巻き取っても、絶縁層の脆性破壊を生じることはなかった。
次に、転写シートと金属箔とを重ね合わせ、一対の熱ロール間に通過させることによって、それらに熱及び圧力を加えた。ここでは、金属箔として、厚さが70μmの銅箔を使用した。転写シートと金属箔とは、転写シートの絶縁層が金属箔と接触するように重ね合わせた。また、各熱ロールの温度は80℃に設定した。これにより、絶縁層と金属箔とを貼り合せた。
離型フィルムを剥離した後、絶縁層と金属箔とからなる積層体を乾燥処理に供した。具体的には、この絶縁層を100℃で10分間に亘って乾燥させた。
次いで、上記の積層体と金属基板とを、金属基板と金属箔との間に絶縁層が介在するように重ね合わせた。ここでは、金属基板として、厚さが2mmのアルミニウム基板を使用した。そして、これらを、5MPaの圧力を加えながら180℃で60分間に亘って加熱処理して熱接着させた。
以上のようにして、回路基板用積層板を製造した。
この回路基板用積層板について、実施例1で行ったのと同様の方法により、各種測定及び評価を行った。その結果、気孔率は0%、耐電圧は5.0kV、Tピール強度は20.0N/cm、熱抵抗は0.20℃/Wであり、耐熱性は「合格」と判定された。また、絶縁層における無機充填材の密度は、金属基板側から金属箔側へ向けて減少していた。分布曲線における無機充填材の頻度は、金属基板の近傍では約1.10であり、金属箔の近傍では約0.85であった。
<比較例3>
本例では、まず、実施例3において行ったのと同様の方法により分散液を調製した。この分散液は、離型フィルム上に塗布する代わりに、厚さが70μmの銅箔上に塗布した。次いで、この塗膜を乾燥処理に供した。具体的には、この塗膜を100℃で10分間に亘って乾燥させた。これにより、厚さが約100μmの絶縁層と金属箔とからなる積層体を得た。更に、上記の積層体と厚さが2mmのアルミニウム基板とを、実施例3で行ったのと同様の方法により熱接着させた。以上のようにして、回路基板用積層板を製造した。
この回路基板用積層板について、実施例1で行ったのと同様の方法により、各種測定及び評価を行った。その結果、気孔率は2%、耐電圧は約2.0kV、Tピール強度は15.0N/cm、熱抵抗は0.25℃/Wであった。また、絶縁層における無機充填材の密度は、金属箔側から金属基板側へ向けて減少していた。具体的には、分布曲線における無機充填材の頻度は、金属基板の近傍では約0.85であり、金属箔の近傍では約1.10であった。
[1]
支持体上に形成され、電気絶縁性の樹脂と電気絶縁性の無機充填材と任意に溶媒とを含有した絶縁層を、前記支持体から金属箔上へと転写する工程と、
前記絶縁層を間に挟んで前記金属箔と金属基板とを貼り合せる工程と
を含んだ回路基板用積層板の製造方法。
[2]
前記支持体は帯形状を有し、
前記方法は、
前記樹脂と前記無機充填材と前記溶媒とを含有した塗工液を前記支持体上にその長さ方向に沿って塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜から前記溶媒の一部のみを除去して前記絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層を前記支持体とともにロールに巻き取る工程と、
前記絶縁層の転写に先立ち、巻き取った前記絶縁層を前記支持体とともに前記ロールから繰り出す工程と
を更に含んだ[1]に記載の方法。
[3]
前記支持体は透明部を含み、
前記方法は、前記絶縁層の転写に先立ち、前記透明部を介した観察によって前記絶縁層の不具合の有無を確認する工程を更に含んだ[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
支持体上に形成され、電気絶縁性の樹脂と電気絶縁性の無機充填材と任意に溶媒とを含有した絶縁層を、前記支持体から金属箔上へと転写する工程と、
前記絶縁層を間に挟んで前記金属箔と金属基板とを貼り合せる工程と、
前記金属箔をパターニングする工程と
を含んだ金属ベース回路基板の製造方法。
[5]
金属基板と、
前記金属基板と向き合った金属箔と、
前記金属基板と前記金属箔との間に介在してそれらを互いに貼り合せている絶縁層であって、電気絶縁性の樹脂と電気絶縁性の無機充填材とを含有し、前記絶縁層に占める前記無機充填材の体積比が、前記金属基板側の領域と比較して、前記金属箔側の領域においてより小さい絶縁層と
を具備した回路基板用積層板。
[6]
金属基板と、
前記金属基板と向き合った回路パターンと、
前記金属基板と前記回路パターンとの間に介在してそれらを互いに貼り合せている絶縁層であって、電気絶縁性の樹脂と電気絶縁性の無機充填材とを含有し、前記絶縁層に占める前記無機充填材の体積比が、前記金属基板側の領域と比較して、前記回路パターン側の領域においてより小さい絶縁層と
を具備した金属ベース回路基板。