以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
本発明は、電極と流体(特には電解液)界面との界面張力は、電極電位により制御することができるという現象(この制御する方式を、エレクトロウエッティングという)に基づいている。
まず、上記エレクトロウェッティングに基づく送液の原理について説明する。図1は、送液の原理を示す模式的な図である。図1には、ガラス基板10上に形成された金から形成される電極11上に、液滴12がのせられている状態の側断面図が示されている。液滴12は、例えば電解液である。
図1の場合、液滴12がのせられて接触している電極11には、電源13が接続されている。また、液滴12には、電源13からスイッチ14を介して参照電極9が接触している。電極11上に液滴12がのせられ、かつ、参照電極9に液滴12が接触した状態において、スイッチ14をオンにして電極11に電圧を印加することにより、電極11と参照電極9との間に電位差を生じさせる。図1(a)は、電圧を印加する前の状態であり、図1(b)は、電圧を印加している状態である。
図1(a)、(b)に示されるように、電圧を印加する前における液滴12の電極11に対する接触角θ(図1(a)参照)よりも、電圧を印加した状態における液滴12の電極11に対する接触角θ’(図1(b)参照)の方が小さくなる。つまり、電圧を印加すると、電極11上は濡れやすくなる。
これは、次のような原理によると考えられる。図1(b)に示されるように、矢印15aは気体と固体との間に生じる界面張力であり、矢印15bは気体と液体との間に生じる界面張力、矢印15cは固体と液体との間に生じる界面張力である。電極11と参照電極9との間に電位差を生じさせると、固体である電極11と、液体である液滴12との間の(電極11―液滴12界面の)界面張力(矢印15c)が低下する。言い換えれば、液滴12により電極11が濡れやすい状態となる。そして、気体と固体との間の界面張力(矢印15a)により、液滴12は電極11上を進み、送液されることになる。電圧の印加をやめて電極11と参照電極9との間の電位差をゼロに戻すと送液は止まる。
なお、電極11と液滴12との間の(電極11−液滴12界面の)界面張力(矢印15c)に影響を及ぼしているのは、液滴12中のイオンの電極11表面への吸着である。より負の電位に変化させると陽イオンの吸着が、より正の電位に変化させると陰イオンの吸着が支配的になる。
図2は、本発明の第1実施形態に係る送液装置の平面図(a)とA−A’断面図(b)である。送液装置20は、例えば、第1の基板21と第2の基板22によって形成される2つの流路23,24を有している。2つの流路23,24のうち、一方の流路23の端部には、第1の液溜め部25を備えている。第1の液溜め部25の流路23への出口26側にはバルブ部27が配置されている。他方の流路24の端部には、第2の液溜め部28を備えている。第2の液溜め部28の流路24への出口29側から所定の距離に操作部30が配置されている。
第1の基板21は、例えば、ガラス基板で形成され、第2の基板22は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で形成されている。
バルブ部27は、図1で示したエレクトロウェッティング作用を有する電極(バルブ電極)31を備えている。バルブ電極31は、例えば、金などを用いる。なお、バルブ電極31は、金の他、カーボン又はビスマスで形成しても良い。バルブ電極31の電位が変化したとき、水素等が発生せず、送液に影響しにくいからである。
操作部30は、電解液と接触することにより電池作用により電位が変化する操作電極32を備えている。操作電極32は、例えば、親水性を有する亜鉛から形成され、第2の液溜め部28に、例えば、銀/塩化銀からなる参照電極33を設けている。すなわち、銀から成る電極基板と、この電極基板上に形成された塩化銀から成る膜層と、(以下、銀/塩化銀、又は、Ag/AgClという)から形成される。第2の液溜め部28に電解液を入れ、銀/塩化銀参照電極33と操作電極32が電解液で浸されることによって電池を形成する。なお、参照電極33を銀/塩化銀で形成することにより、電解液を導入して電池を形成したときに参照電極33の電位があまり変化しないという利点がある。また、第1の液溜め部25には、参照電極33と同様な参照電極34が設けられている。そして、参照電極33と参照電極34は、金などの配線33aによって電気的接続がなされている。
バルブ部27のバルブ電極31と操作部30の操作電極32は、金などの配線35によって、電気的接続がなされている。
バルブ電極31と操作電極32と参照電極33,34と配線35は、ガラス基板からなる第1の基板21上に形成されている。流路部23,24は、第2の基板22に形成されている。
第2の基板22において、流路部23,24は凹状に形成されており、流路面36を有する。具体的には、凹状に形成された細長い流路部23,24の底面が流路面36,37となっている。ここで、流路面とは、流路を形成している基板の表面をいう。
流路面36,37は、疎水性である。第1の基板21の流路面36,37と対向するガラス面は、親水性である。
また、第2の基板22において、凹状の第1の液溜め部(リザーバー)25と第2の液溜め部28が形成されている。第1の液溜め部25は、流路面23に沿って送液すべき流体(溶液、液滴、サンプル)を、溜めておくためのものである。第2の液溜め部28は、流路面24に沿って送液すべき流体(電解液)を、溜めておくためのものである。なお、第1の液溜め部25には、流体を導入するための導入口38が形成され、第2の液溜め部28には、流体を導入するための導入口39が形成されている。
第2の基板22は、例えば樹脂材料から成り、シリコーンゴム、アクリル、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の材料が考えられる。本実施形態では、基板22は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で形成されている(基板22をPDMS基板ともいう)。このような樹脂材料で基板22を形成することにより、加工が簡単である利点を有する。
なお、基板22をガラス等の他の材料により形成することもできる。この場合、ジメチルジクロロシラン等の疎水性部位を有するシランカップリング剤で処理すればよい。こうして、同様に、疎水性の流路面36,37を有する基板22を形成することができる。
図3(a)(b)は、本発明の第1実施形態に係る送液装置20を分解した平面図である。図3(a)に示される、流路部23,24や液溜め部25,28が形成された基板22の面が、ひっくり返され、図3(b)に示される、バルブ電極31と操作電極32と参照電極33,34と配線33aと配線35が形成されたガラス基板21の面と、対向される。この際、基板22の流路面36,37とガラス基板21との間は距離を有して配置される。本実施形態では、流路面36,37とガラス基板21との間は所定の距離hを保って配置される。こうして送液装置20が組み立てられ完成される(図2(a)(b)参照)。流路面36,37とガラス基板21との間が距離を有して配置されることにより、送液装置20には、流路面36,37と、ガラス基板21との間に、つまり具体的には、流路面36,37と、この流路面36,37に対向する位置にあるガラス基板21上の親水性の領域及びこの親水性の領域と並んで設けられているバルブ電極31との間に、流路23が形成されることとなる。
本発明の本実施形態に係る送液装置20では、上述のような構成の疎水性の流路面36,37を有する基板22と、バルブ電極31等が形成されたガラス基板21とが、夫々別々に作製される。そして、既に述べたように、バルブ電極31等が形成されたガラス基板21の面と、流路部23,24等が形成された基板22の面とを対向させて、組み立てられ完成される。このとき、送液装置20では、基板22の流路部23が凹上に形成されていることにより、図2(b)に示されるように、流路面36,37とガラス基板21との間、より正確には流路面36,37とガラス基板21の面との間は距離を有して、具体的には、所定の間隔(距離)hを保って配置されることになる。
なお、図2(b)では、バルブ電極31の厚みを誇張して図示しているが、実際には、バルブ電極31の厚みは考慮しなくてもよいほど薄いので、流路面36とガラス基板21の面21aとの間の所定の間隔(距離)hは、流路面36とガラス基板21上に形成されたバルブ電極31の上面との間の間隔(距離)と、同じと考えられる。また、たとえバルブ電極31等のガラス基板21上に形成された電極の厚みを考慮する必要がある場合でも、ガラス基板21の面21a(上面)と流路面36との間の距離が決まれば、ガラス基板21上で所定の厚みを有する電極の上面と流路面36との間の距離は自ずと決まるため、本実施形態では、ガラス基板21の上面と流路面36との間の距離を基準にしている。
本実施形態では、流路面36とガラス基板21との間に間隔(距離)を有して配置するために、基板22の流路部23,24が凹状に形成された。一方、流路部を平坦又は凸状に形成してもよい。つまり、平坦な流路部の平面、又は凸状に形成された流路部の上面が流路面となるように、基板を形成してもよい。この場合、この流路部が形成された基板とガラス基板21との間に例えばスペーサーを挿入することにより、流路面とガラス基板21との間に間隔(距離)を有して、送液装置20が組み立てられる。スペーサーを用いる構成では、上記間隔(距離)を容易に調節することができる利点がある。
このようにして、流路面36,37とガラス基板21との間に距離を有することにより、流路23,24が形成される。なお、本実施形態では、流路面36,37とガラス基板21との間は、所定の距離hが保たれているが、流路面36,37とガラス基板21との間は、流路空間が形成されるように距離を有すればよく、所定の距離hを保っている場合に限られない。例えば徐々に流路面36とガラス基板21との間の距離が小さくなって流路空間が狭まっていくような場合、又は、徐々に流路面36とガラス基板21との間の距離が大きくなって流路空間が広がっていくような場合等でもよい。このように、流路面とガラス基板等の第2の基板との間に流路空間が形成されるように距離を有すれば足りることは、後述する他の実施形態においても同様である。
次に、本発明の第1実施形態に係る送液装置20の作用について図4および図5を参照して説明する。図4および図5は、図2で示される送液装置20内に、送液される流体40が配置されている状態が示されている。流体40は、図4および図5において斜線で示されている。図4(b)および図5(b)は、送液装置20の側断面図である。図4(b)および図5(b)においても、送液装置20内に、送液される流体40が配置されている状態が示されている。
送液装置20において、基板22に設けられた導入口38から送液させるべき流体40を導入する。本実施形態では、流体40として例えばKCl溶液が使用される。導入された流体40は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部25とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部25に溜められている流体40は、ガラス基板21上の参照電極34、及びバルブ電極31、具体的にはバルブ電極31の末端部31aに接触された状態である。このとき、基板22上の疎水性の流路面36にも流体40が接触するが、流体40は、この疎水性の流路面36とバルブ電極31とで挟まれた流路空間23aを超えられずに、留まっている。(図4(a),(b)参照)。
バルブ電極31の電位は、流体40中のイオンの吸着、より望ましくは、陽イオンの吸着により界面張力の変化が引き起こされる電位の範囲内に設定される。界面張力の変化が引き起こされる電位の範囲は、送液装置20の流路面36とガラス基板21との間の距離(本実施形態では所定の間隔h)、ガラス基板21や基板22の材料及び疎水性の度合い、流路面36及びバルブ電極31の表面状態等により異なる。
この状態で、基板22に設けられた導入口39から電解液41を導入する。本実施形態では、電解液41として例えばKCl溶液が使用される。導入された電解液41は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部28とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部28に溜められている電解液41は、ガラス基板21上の参照電極33に接触された状態で流路24を流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極32に電解液41が到達したならば、銀/塩化銀電極(参照電極)33と電解液41と亜鉛からなる操作電極32とで電池を形成し、亜鉛の電位が配線35による電気的接続によってバルブ電極31の電位が界面張力の変化が引き起こされる電位の範囲内の例えば負の適切な値に変化させる。すると、バルブ電極31は、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極31を超えて広がり、疎水性の流路面36とバルブ電極31とで挟まれた流路空間23a中およびその先の流路内、つまり、流路面36とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路23を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図5(a),(b)参照)。
上記のように疎水性の流路面36とバルブ電極31とで挟まれた流路23を流体40が送液されるのは、既に述べたように、参照電極33と操作電極32と電解液41による電池作用により亜鉛電極32の電位が配線35による電気的接続によりバルブ電極31の電位が変化することにより、バルブ電極31と流体40との間(バルブ電極31−流体40界面)の界面張力が低下し、流体40はバルブ電極31上で濡れやすくなることによる。そして、上記のように毛管現象を合わせて利用することにより、さらに、流路面36とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路23を、送液できるのである。
流体40とバルブ電極31を始めとする電極との間(流体40−電極界面)の界面張力に影響を及ぼしているのは、イオンの電極表面への吸着である。バルブ電極31をより負の電位に変化させる場合は、電極表面への陽イオンの吸着が、バルブ電極31をより正の電位に変化させる場合は、電極表面への陰イオンの吸着が支配的になる。
前者の場合、即ち、バルブ電極31をより負の電位に変化させて電極表面に陽イオンが吸着する場合には、イオンの種類によりバルブ電極31と流体40界面での界面張力に大きな影響はでない。参照電極34等を含む電極に影響はでない(イオンの種類により依存しない)。
一方、後者の場合、即ち、バルブ電極31をより正の電位に変化させて電極表面に陰イオンが吸着する場合には、イオンの種類によりバルブ電極31と流体40界面での界面張力に大きな影響が出る。したがって、再現性良く送液を行うためには、バルブ電極31に負の電圧(電位)を印加するのが好ましい。従って、操作電極32は、電池を形成したときに負の電極となる金属を用いることが好ましい。
なお、操作電極32の第2の液溜め部28の出口29からの距離を適当な距離にすることにより、流路24を流れる流体の進行速度に応じて操作電極32に流体が到達する時間を調節することができ、それにより、流路23でのバルブ部27を開く時間を調節することができる。
次に、第1実施形態に係る送液装置20の作製方法を図6を参照して説明する。
送液装置20の作製方法は、流路および液溜め部形成工程(ステップS11)と、電極および配線形成工程(ステップS12)と、基板貼り合わせ工程(ステップS13)からなる。
ステップS11の流路および液溜め部形成工程は、シリコーンゴム、アクリル、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の材料やPDMS(ポリジメチルシロキサン)で形成されている(基板22をPDMS基板ともいう)樹脂材料からなる第2の基板22において、凹状の流路23,24と凹状の第1の液溜め部(リザーバー)25と第2の液溜め部28と導入口38,39を形成する。
ステップS12の電極および配線形成工程は、次の通りである。
(1)基板21に例えば40nmのクロム層を介して、膜厚200nmの金層をスパッタリングにて形成する。
(2)金層を形成した基板21上にポジ型フォトレジストをスピンコーティングし、80℃でベーキングを30分行う。
(3)フォトマスクを通し、マスクアライナーで露光後、現像、リンスを行う。
(4)基板21を金のエッチング液に浸漬して、露出した部分の金層を除去する。純水で洗浄、乾燥後、基板21をアセトン中に浸漬し、フォトレジストを溶解、除去し、アセトンで洗浄する。次に、基板21をクロムのエッチング液に浸漬して、露出した部分のクロム層を除去し、純水で洗浄後、乾燥する。
(5)その後、純水で洗浄・乾燥する。こうして、バルブ電極31が形成される。
(6)上記と同様にして、基板21の上面にも参照電極33,34の下地を構成する金層を形成する。
(7)基板21の上面に、上記と同様にして、ポジ型フォトレジストをスピンコーティングし、80℃でベーキングを30分行った後、フォトマスクを通し、マスクアライナーで露光を行う。
(8)基板21をトルエン中に浸漬し、ポストベークを行った後、露光したフォトレジストを現像液中で現像後、純水でリンスし、乾燥させる。
(9)(8)の基板21上に例えば膜厚400nmの銀層をスパッタリングにて形成する。
(10)基板21をアセトン中に浸漬し、フォトレジストを溶解、除去し、アセトンで洗浄する。これにより、基板21の上面に、参照電極33,34が形成される。
(11)また、亜鉛をめっきすることにより操作電極32を形成する。
ステップS13の基板張り合わせ工程は、ステップS11とステップS12で形成した2つの基板を貼り合わせる。これは接着剤を用いることもできるし、別の2枚の基板に挟み込み、軽く圧力を加えて固定することもできる。このようにして、送液装置20を作製することができる。
以上のように、本実施形態に係る送液装置20は、2つの流路23,24を有し、一方の流路23の端部には、第1の液溜め部25を備え、第1の液溜め部25の流路23への出口側にバルブ部27が配置され、他方の流路24の端部には、第2の液溜め部28を備え、第2の液溜め部28の流路24への出口側から所定の距離に操作部30が配置されている送液装置20であって、バルブ部27は、エレクトロウェッティング作用を有するバルブ電極31を備え、操作部30は、電解液と接触することにより電池作用により電位が変化する操作電極32を備え、バルブ部27のバルブ電極31と操作部30の操作電極32が電気的接続がなされているため、外部からの制御なしに、自律的に送液制御を行える送液装置を実現することができる。
なお、本実施形態において、液溜め部25,28には、同一の電解液を用いるようにしたが、異なる電解液を用いて送液を行うようにしてもよい。
なお、本実施形態では、銀/塩化銀電極等の参照電極を使用したが、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金電極が分極しているのであれば、これだけでもバルブ操作を行えることが予想される。そこで、図7で示すように、参照電極がなく、第1の液溜め部25と第2の液溜め部28を流路28aで連結した第1の変形例や、図8で示すように、参照電極がなく流路28aもない第2の変形例のように、銀/塩化銀電極を形成せず、金電極と亜鉛電極のみのデバイスで同様の実験を試みたところ、この場合も同様の液の動きが観察された。これは、ポテンショスタット等の外部の駆動用装置を用いなくても、亜鉛と金からなる単純な電極のみで自動的なバルブ操作が行えることを示している。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態では、流路にバルブ電極と操作電極を交互に複数設けたものである。基板や電極の材料は、第1実施形態の送液装置20で用いたものと同様のものを用いる。それゆえ、構成する材料等の説明は省略する。
図9は、本発明の第2実施形態に係る送液装置の平面図とB−B’断面図である。送液装置50は、例えば、第1の基板21と第2の基板22によって形成される2つの流路51,52を有している。2つの流路51,52のうち、一方の流路51の端部には、第1の液溜め部25を備えている。第1の液溜め部25の流路51への出口26側には順番にバルブ部27−1,27−2,27−3と操作部30−1,30−2,30−3が交互に配置されている。他方の流路52の端部には、第2の液溜め部28を備えている。第2の液溜め部28の流路52への出口29側から順番に操作部30−4,30−5,30−6とバルブ部27−4,27−5,27−6が交互に配置されている。
また、バルブ部27−1,27−2,27−3,27−4,27−5,27−6には、それぞれ、バルブ電極31−1,31−2,31−3,31−4,31−5,31−6が設けられている。操作部30−1,30−2,30−3,30−4,30−5,30−6には、操作電極32−1,32−2,32−3,32−4,32−5,32−6が設けられている。そして、バルブ電極31−1と操作電極32−4は配線35−1により、電気的接続がなされ、バルブ電極31−4と操作電極32−1は配線35−2により、電気的接続がなされ、バルブ電極31−2と操作電極32−5は配線35−3により、電気的接続がなされ、バルブ電極31−5と操作電極32−2は配線35−4により、電気的接続がなされ、バルブ電極31−3と操作電極32−6は配線35−5により、電気的接続がなされ、バルブ電極31−6と操作電極32−3は配線35−6により、電気的接続がなされている。
次に、本発明の第2実施形態に係る送液装置50の作用について図9〜図13を参照して説明する。図10〜図13は、図9で示される送液装置50内に、送液される流体40が配置されている状態が示されている。流体40は、図10〜図13において斜線で示されている。図9(b)〜図13(b)は、送液装置50の側断面図である。図10(b)〜図13(b)においても、送液装置50内に、送液される流体40が配置されている状態が示されている。
送液装置50において、基板22に設けられた導入口38から送液させるべき流体40を導入する。本実施形態では、流体40として例えばKCl溶液が使用される。導入された流体40は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部25とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部25に溜められている流体40は、バルブ電極31−1の末端部に接触された状態である。このとき、基板22上の疎水性の流路面36にも流体40が接触するが、流体40は、この疎水性の流路面36とバルブ電極31とで挟まれた流路空間51aを超えられずに、留まっている。(図10(a)(b)参照)。
この状態で、基板22に設けられた導入口39から送液させるべき電解液40を導入する。本実施形態では、電解液40として例えばKCl溶液が使用される。導入された電解液40は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部28とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部28に留められている電解液40は、流路52を流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極32−4に電解液が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなるバルブ電極31−1が分極する。それにより、バルブ電極31−1は、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極31−1を超えて広がり、疎水性の流路面36とバルブ電極31−1とで挟まれた流路空間51a中およびその先の親水性流路内、つまり、流路面36とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路空間51を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図11(a)(b)参照)。
次に、流路52の操作電極32−4を超えた流体40は、ガラス基板21上のバルブ電極31−4、具体的にはバルブ電極31−4の末端部に接触された状態である。このとき、基板22上の疎水性の流路面37にも流体40が接触するが、流体40は、この疎水性の流路面37とバルブ電極31−4とで挟まれた流路空間52bを超えられずに、留まっている。
この状態で、流体40は、流路51を流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極32−1に電解液が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなるバルブ電極31−4が分極する。それにより、バルブ電極31−4は、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極31−4を超えて広がり、疎水性の流路面37とバルブ電極31−4とで挟まれた流路空間52b中およびその先の親水性流路内、つまり、流路面37とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路空間52を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図12(a)(b)参照)。
さらに、流路51の操作電極32−1を超えた流体40は、ガラス基板21上のバルブ電極31−2、具体的にはバルブ電極31−2の末端部に接触された状態である。このとき、基板22上の疎水性の流路面36にも流体40が接触するが、流体40は、この疎水性の流路面36とバルブ電極31−2とで挟まれた流路空間51bを超えられずに、留まっている(図12(a)(b)参照)。
この状態で、流体40は、流路52を流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極32−5に電解液が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなるバルブ電極31−2が分極する。それにより、バルブ電極31−2は、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極31−2を超えて広がり、疎水性の流路面36とバルブ電極31−2とで挟まれた流路空間51b中およびその先の親水性流路内、つまり、流路面36とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路空間51を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図13(a)(b)参照)。
上記のように疎水性の流路面とバルブ電極とで挟まれた流路空間を流体40が送液されるのは、既に述べたように、操作電極の電解液による電池作用による電位の変化によりバルブ電極が分極し、電位が変化することにより、バルブ電極と流体40との間(バルブ電極−流体界面)の界面張力が低下し、流体40はバルブ電極上で濡れやすくなることによる。そして、上記のように毛管現象を合わせて利用することにより、さらに、流路面とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路空間を、送液できるのである。
以上のように、流路51,52に設けられたバルブ電極31−1,31−2,31−3,31−4,31−5,31−6は、操作部30−1,30−2,30−3,30−4,30−5,30−6の亜鉛電極の電解液による電池作用による電位の変化により、金電極が分極し、電位が変化することにより、流体40を通すことができるようになり、外部からの制御なしに、自律的に送液制御を行える送液装置を実現することができる。
なお、操作電極32−1,32−2,32−3,32−4,32−5,32−6の第2の液溜め部25,28の出口26,29からの距離を適当な距離にすることにより、流路51,52を流れる流体の進行速度に応じて操作電極32−1,32−2,32−3,32−4,32−5,32−6に流体が到達する時間を調節することができ、それにより、流路51,52でのバルブ部27−1,27−2,27−3,27−4,27−5,27−6を開く時間を調節することができる。
なお、本実施形態では、液溜め部に参照電極を設けず、また、2つの液溜め部を流路で連結しない例を示したが、第1実施形態と同様に液溜め部に参照電極を設けるようにしても同様の効果を得ることができる。また、第1実施形態の第1の変形例で示したような参照電極を設けずに、2つの液溜め部を流路で連結するようにしても同様の効果が得られる。
次に、第3実施形態を説明する。第3実施形態では、少なくとも1つの液溜め部と液溜め部の出口側にバルブ部を配置した流路と、液溜め部から延ばした少なくとも1つの操作部を配置した流路を有するものである。基板や電極の材料は、第1実施形態で用いたものと同様のものを用いる。それゆえ、装置を構成する基板と電極の材料等の説明は省略する。
図14は、本発明の第3実施形態に係る送液装置の平面図である。送液装置60は、例えば、第1の基板21と第2の基板22によって形成される少なくとも1つの液溜め部(図14では5つの液溜め部61〜65)と液溜め部62〜65の出口側にそれぞれバルブ部66〜69を配置した流路70〜73と、液溜め部61から延ばした少なくとも1つの操作部(図14では4つの操作部74〜77)を配置した流路78を、備えている。
バルブ部66〜69には、それぞれバルブ電極80〜83を設けてあり、操作部74〜77には、それぞれ操作電極84〜87を設けている。バルブ電極80と操作電極84は、配線90によって電気的接続がなされている。バルブ電極81と操作電極85は、配線91によって電気的接続がなされている。バルブ電極82と操作電極86は、配線92によって電気的接続がなされている。バルブ83と操作電極87は、配線93によって電気的接続がなされている。
次に、本発明の第3実施形態に係る送液装置60の作用について図14〜図17を参照して説明する。図15〜図17は、図14で示される送液装置60内に、送液される流体40が配置されている状態が示されている。流体40は、図15〜図17において斜線で示されている。
送液装置60において、基板22に設けられた液溜め部61〜65に送液させるべき流体40を導入する。本実施形態では、流体40として例えばKCl溶液が使用される。導入された流体40は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部61〜65とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部62〜65に留められている流体40は、バルブ電極80〜83、具体的にはバルブ電極80〜83の末端部に接触された状態である。このとき、基板22上の疎水性の流路面にも流体40が接触するが、流体40は、この疎水性の流路面とバルブ電極80〜83とで挟まれたバルブ部66〜69の流路空間を超えられずに、留まっている。
この状態で、液溜め部61に留められている電解液40は、流路78を流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極84に電解液40が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなるバルブ電極80が分極する。それにより、バルブ電極80は、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極80を超えて広がり、疎水性の流路面とバルブ電極80とで挟まれたバルブ部66の流路空間中およびその先の親水性流路内、つまり、流路面とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路70を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図15参照)。
次に、送液装置60において、液溜め部61に留められている電解液40は、流路78を流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極85に電解液40が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなるバルブ電極81が分極する。それにより、バルブ電極81は、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極81を超えて広がり、疎水性の流路面とバルブ電極81とで挟まれたバルブ部67の流路空間中およびその先の親水性流路内、つまり、流路面とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路71を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図16参照)。
さらに、送液装置60において、液溜め部61に留められている電解液40は、流路78を流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極86に電解液40が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなるバルブ電極82が分極する。それにより、バルブ電極82は、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極82を超えて広がり、疎水性の流路面とバルブ電極82とで挟まれたバルブ部68の流路空間中およびその先の親水性流路内、つまり、流路面とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路72を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図17参照)。
上記のように疎水性の流路面とバルブ電極とで挟まれた流路空間を流体40が送液されるのは、既に述べたように、操作電極の電解液による電池作用による電位の変化によりバルブ電極が分極し、電位が変化することにより、バルブ電極と流体40との間(バルブ電極−流体界面)の界面張力が低下し、流体40はバルブ電極上で濡れやすくなることによる。そして、上記のように毛管現象を合わせて利用することにより、さらに、流路面とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路空間を、送液できるのである。
以上のように、流路70〜73に設けられたバルブ電極80〜83は、操作電極84〜87上を電解液が通過したことにより、電位が変化することにより、流体40を通すことができるようになり、外部からの制御なしに、自律的に送液制御を行える送液装置を実現することができる。
なお、操作電極84,85,86,87の液溜め部61の出口からの距離を適当な距離にすることにより、流路78を流れる流体の進行速度に応じて操作電極84,85,86,87に流体が到達する時間を調節することができ、それにより、流路70でのバルブ部66を開く時間と、流路71でのバルブ部67を開く時間と、流路72でのバルブ部68を開く時間と、流路73でのバルブ部69を開く時間を調節することができる。
次に、第4実施形態を説明する。第4実施形態では、流路の一部にバルブ部と操作部を接して設けている。基板と電極は、第1実施形態で用いたものと同様のものを用いる。それゆえ、装置の基板と電極の材料の説明は省略する。
図18は、本発明の第4実施形態に係る送液装置の平面図である。送液装置100は、液溜め部101,102,103を備え、それぞれの液溜め部101,102,103から流路101a,102a,103aが設けられている。流路101aと流路102aは、一部にバルブ部104と操作部105を接して設けた流路106によって連結されている。また、流路102aには、バルブ部107が設けられている。さらに、流路102aと流路103aは、一部にバルブ部108と操作部109を接して設けた流路110によって連結されている。また、流路103aには、バルブ部111が設けられている。
バルブ部104のバルブ電極104aと操作部105の操作電極105aは、接触しており、また、バルブ部107のバルブ電極107aは、操作電極105aと配線112により電気的接続をしている。さらに、バルブ部108のバルブ電極108aと操作部109の操作電極109aは、接触しており、また、バルブ部111のバルブ電極111aは、操作電極109aと配線113により電気的接続をしている。なお、図18の右下には、バルブ部104と操作部105を拡大して示している。
次に、本発明の第4実施形態に係る送液装置100の作用について図18〜図21を参照して説明する。図19〜図21は、図18で示される送液装置100内に、送液される流体40が配置されている状態が示されている。流体40は、図19〜図21において斜線で示されている。
送液装置100において、基板22に設けられた液溜め部101,102,103の導入口から送液させるべき流体40を導入する。本実施形態では、流体40として例えばKCl溶液が使用される。導入された流体40は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部101,102,103とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部102,103に留められている流体40は、ガラス基板21上のバルブ電極104a,107a,108a,111aの末端部に接触された状態である。流体40は、バルブ電極104a,107a,108a,111aが設けられたバルブ部104,107,108,111の流路空間を超えられずに、留まっている。(図19参照)。
この状態で、基板22に設けられた液溜め部101の導入口から送液させるべき電解液40を導入する。本実施形態では、電解液40として例えばKCl溶液が使用される。導入された電解液40は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部101とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部101に留められている電解液40は、流路101aを流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極105aに電解液が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなるバルブ電極104aが分極する。それにより、バルブ電極104aとバルブ電極107aは、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極104aと107aを超えて広がり、バルブ部104,107の流路空間中およびその先の親水性流路内、つまり、流路面とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路空間を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図20参照)。
さらに、電解液40が流路110を流れ、亜鉛から形成された操作電極109aに電解液が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなるバルブ電極108aが分極する。それにより、バルブ電極108aとバルブ電極111aは、濡れやすくなる結果、流体40は、バルブ電極108aと111aを超えて広がり、バルブ部108,111の流路空間中およびその先の親水性流路内、つまり、流路面とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路空間を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体40が送液される(図21参照)。
上記のように疎水性の流路面とバルブ電極とで挟まれた流路空間を流体40が送液されるのは、既に述べたように、操作電極の電解液による電池作用による電位の変化によりバルブ電極が分極し、電位が変化することにより、バルブ電極と流体40との間(バルブ電極−流体界面)の界面張力が低下し、流体40はバルブ電極上で濡れやすくなることによる。そして、上記のように毛管現象を合わせて利用することにより、さらに、流路面とガラス基板21の親水性の領域とで挟まれた流路空間を、送液できるのである。
以上のように、流路102a,103a,106,110に設けられたバルブ電極104a,107a,108a,111aは、操作電極105a,109aの電解液による電池作用による電位の変化により、金電極が分極し、電位が変化することにより、流体40を通すことができるようになり、外部からの制御なしに、自律的に送液制御を行える送液装置を実現することができる。
なお、操作電極105aの液溜め部101の出口からの距離を適当な距離にすることにより、流路101aを流れる流体の進行速度に応じて操作電極105aに流体が到達する時間を調節することができ、それにより、バルブ部104,107を開く時間を調節することができる。また、操作電極109aのバルブ部107からの距離を適当な距離にすることにより、流路110を流れる流体の進行速度に応じて操作電極109aに流体が到達する時間を調節することができ、それにより、バルブ部108,111を開く時間を調節することができる。
次に、第5実施形態を説明する。第5実施形態では、2つの液溜め部から伸びた2つの流路と2つの流路の境界に混合部を有し、2つの液溜め部とは別の液溜め部から所定の距離に操作部を有する流路からなる。そして、混合部は、エレクトロウェッティング作用を有する混合電極を備え、操作部は、電解液と接触することにより電池作用により電位が変化する操作電極を備え、混合部の混合電極と操作部の操作電極が電気的接続がなされている。基板と操作電極は、第1実施形態で用いたものと同様の材料を用いる。それゆえ、基板、操作電極を構成する材料等の説明は省略する。
第5実施形態に係る送液装置200が第1実施形態の送液装置20と異なる特徴の一つは、流路空間を移動する流体を、混合させるための混合電極が設けられていることである。混合電極は、第1実施形態で説明したバルブ電極と同じ機能を有する電極であるが、複数の異なる流体を混合させる目的で用いられる電極である。
図22は、本発明の第5実施形態に係る送液装置の平面図である。送液装置200は、例えば、2つの液溜め部201,202から伸びた2つの流路203,204と2つの流路の境界に混合部205を有している。また、2つの液溜め部201,202とは別の液溜め部206から所定の距離に操作部207を有する流路208からなる。
また、混合部205には、混合電極210が設けられている。操作部207には、操作電極211が設けられている。そして、混合電極210と操作電極211は配線212により、電気的接続がなされている。
次に、本発明の第5実施形態に係る送液装置200の作用について図22〜図24を参照して説明する。図23と図24は、図22で示される送液装置200内に、送液される流体250,251が配置されている状態が示されている。流体250,251は、図23と図24において斜線で示されている。
送液装置200において、基板22に設けられた導入口201,202から送液させ混合させるべき流体250,251を導入する。導入された流体250,251は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部201,202とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部201に溜められている流体250は、ガラス基板21上の混合電極210の端部210aに接触された状態である。流体250は、混合部205の流路空間を超えられずに、留まっている。また、液溜め部202に溜められている流体251は、ガラス基板21上の混合電極210のもう一方の端部210bに接触された状態である。流体251は、混合部205の流路空間を超えられずに、留まっている。(図23参照)。
この状態で、基板22に設けられた液溜め部206の導入口から電解液40を導入する。本実施形態では、電解液40として例えばKCl溶液が使用される。導入された電解液40は、基板22とガラス基板21との間、具体的には、基板22に形成された液溜め部206とガラス基板21との間に配置される。このとき、液溜め部206に留められている電解液40は、流路208を流れていく。そして、亜鉛から形成された操作電極211に電解液が到達したならば、亜鉛電極上での電池作用による電位の変化により金からなる混合電極210が分極する。それにより、混合電極210は、濡れやすくなる結果、流体250と流体251は、混合電極210を超えて広がり、疎水性の流路面と混合電極210とで挟まれた流路空間中を、毛管現象により移動する(進む)。このようにして流体250と流体251が混合される(図24参照)。
第5実施形態の送液装置200において、流路203,204と流路面とで挟まれる流路空間に流体を送液するしくみや駆動方法は、第1実施形態の送液装置20と同様である。
つまり、混合電極210は、バルブ電極と同様に、電位を変化させ流体を送液させる駆動電極としての役割を有し、例えばバルブ電極と同様の材料から成る。このような混合電極210は、ガラス基板21に用いるフォトマスクのパターンを変更するだけで、第1実施形態と同様に、容易に形成することができる。
以上のように、第5実施形態に係る送液装置によれば、混合電極210が配線212によって電気的接続された操作電極211により電位の変化がなされると自動的に流体の混合がなされ、外部からの制御なしに、自律的に送液制御を行える送液装置を実現することができる。
なお、操作電極211の液溜め部206の出口からの距離を適当な距離にすることにより、流路208を流れる流体の進行速度に応じて操作電極211に流体が到達する時間を調節することができ、それにより、混合部205を開く時間を調節することができる。
なお、上述した第1〜第5の実施形態を適宜組み合わせた送液装置を作製することも、もちろん可能である。
本発明によれば、バルブ電極に電位を変化させることにより、流体の界面張力を利用して、容易に流体の移動を制御し、スムーズに送液、排出させることができる。このため、従来の複雑であった送液装置の構造を簡単化することができる。
なお、本発明の上記各実施形態では、第2の基板であるガラス基板21又は基板22と、第1の基板である基板22に形成された凹状の流路部が有する流路面とで挟まれる流路空間を、流体が送液され又は排出される流路として用いた。一方、既に述べたように、第1の基板において流路部が必ずしも凹状に形成される場合に限られない。例えば第1の基板上の平面を流路面とする構成にすることも可能である。この場合、平面状の流路面を有する第1の基板と、バルブ電極等が形成された第2の基板とで、送液装置が構成される。また、流路部を凸状に形成しその上面を流路面とする第1の基板と、バルブ電極等が形成された第2の基板とで、送液装置を構成することも考えられる。
次に、上述の第2〜第5の実施形態で説明した送液装置に対して行った実験について述べる。図9で示した構造を、原理確認用の送液装置として用いた。2つの流路51,52をガラス基板21とポリジメチルシロキサン(PDMS)基板22で形成した。ガラス基板21上には電池を構成する亜鉛電極と銀/塩化銀電極およびバルブとなる金電極を形成した。銀/塩化銀電極は2つの流路の溶液導入口に形成し、亜鉛電極と金電極はそれぞれの流路中および流路間で交互に形成した。一方の流路中の亜鉛電極ともう一方の流路中の金電極を接続した組み合わせを6組形成した。
片方の流路中の亜鉛電極と銀/塩化銀電極で電池が形成され、金電極に電位が印加される。これにより、溶液はバルブ部分を通過し、その後、電池の形成と、溶液のバルブ部分の通過が交互に起こる。
次に、より複雑な送液制御を行うため、それぞれの素子を単純化し、金電極と亜鉛電極のみからなるデバイス(送液装置)も作製した。さらに、化学分析への応用の可能性を示すため、2つの区画に満たされた溶液を別の制御用流路中を流れる溶液の進行に合わせて混合する機構を作製した。また、グルコース溶液とグルコースオキシダーゼ(GOD,400 U/ml)、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP,100 U/ml)およびAmplex Red(1mM)を含む溶液を混合し、生成物resorufinの蛍光強度の変化より、グルコース濃度を求めた。
次に、実験結果について述べる。まず、図9の送液装置の機能を調べた。流路51に溶液を導入し、これがPDMS流路と金電極で構成されたバルブ部に到達すると、溶液はここで停止した(図10)。次に、流路52に溶液を導入し、これが亜鉛電極を通過すると、流路51に静止していた溶液はバルブ部分を通過し、次のバルブまで移動した(図11〜図13)。以後、同様にして、2つの溶液中の溶液が交互に進行することが確認された。
図14〜図17で示した第3実施形態についての実験も行い、異なる流路ネットワーク中での逐次送液を行い、制御用流路における送液に連動し、流路中のバルブが順次開いていることが確認できた。また、図18〜図21で示した第4実施形態についての実験も行い、バルブ部の動作を確認できた。
さらに、図22〜図24で示した第5実施形態についても実験を行った。混合領域の中心部にはPDMS製のマイクロピラーと金電極(バルブ)を配置した。バルブの両側の区画に溶液を満たしても、これらはバルブ部を通過しなかった。しかし、制御用流路中の亜鉛電極に溶液が到達し、電池が活性化されると、バルブ部が親水性になり、2つの溶液が混合した。
以上説明したように、本発明によれば、外部からの制御なしに、自律的に送液制御を行える送液装置を実現することができる。そして、複数の溶液を決められた順番で決められたタイミングで混合したり、次の区画に送ったりできる送液装置を実現することができる。これにより、複数の溶液の処理を伴うバイオセンシングを行えるデバイス(送液装置)を実現することができる。
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。