以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
図1は、実施形態に係る車両制御システムの概略構成図、図2は、実施形態に係る車両制御システムにおけるレンジ判定マップの一例を表す線図、図3は、実施形態に係る車両制御システムにおけるFC惰行制御時及びN惰行制御時の車速、燃料消費量について説明するタイムチャート、図4は、実施形態に係る車両制御システムにおける切替待機制御について説明する線図、図5は、実施形態に係る車両制御システムにおける切替待機制御時の動作について説明するタイムチャート、図6は、実施形態に係る車両制御システムにおける先読み制御について説明する模式図、図7は、実施形態に係る車両制御システムにおける先読み制御について説明する線図、図8は、実施形態に係る車両制御システムにおける先読み制御における許容距離マップの一例を表す線図、図9は、車両制御システムにおける制御の一例を説明するフローチャートである。
本実施形態は、典型的には、下記の構成要素を有している。
(1)燃料の噴射による動力を発生させる内燃機関(エンジン)。
(2)内燃機関の燃料噴射量を自動で制御できる制御装置。
(3)T/M(変速機)内のクラッチ/ブレーキを自動で開放/係合できる制御装置。
(4)車両の状態(車速、回転数、加速度等)を検出する検出装置。
(5)走行環境を推定できる制御装置(例えば、推定加速度−実加速度、横G、NAVI、GPS、携帯通信端末等)。
そして、本実施形態は、これらの構成要素によって、例えば、運転者によるアクセル操作OFF時の緩勾配走行シーンにおいて、勾配と車速に基づいて、運転者に対する加減速の違和感が生じない領域で、ニュートラル惰行を実施することで、適正に燃費性能の向上を実現することができるものである。また、本実施形態は、例えば、減速制御としての燃料カット惰行制御とニュートラル惰行制御との頻繁な切り替えを防ぐため、現在の制御と異なる制御に移行する場合に所定の待機時間を設けることで、切り替えビジーを抑制することができるものである。さらに本実施形態は、例えば、燃料カット惰行制御でも車速が落ちない急下り勾配であっても前方の走行路が緩上り勾配であれば、ニュートラル惰行制御を実行することで、車両の運動エネルギーの蓄積により、将来のアクセル操作ON時の操作量を相対的に低減し、燃費向上を図ることができるものである。
具体的には、本実施形態の車両制御システム1は、図1に示すように、車両2に適用される。車両制御システム1は、この車両2の各部を制御するためのシステムであり、例えば、車両2の走行中に、エンジン4の作動停止や動力伝達装置5における係合の解除等を実行し、これに伴う車両2の惰性走行状態を利用することで、燃料の消費を抑制して燃費の向上を図るシステムである。
車両制御システム1は、駆動輪3を駆動するための動力を発生させる内燃機関としてのエンジン4と、エンジン4が発生した動力を駆動輪3に伝達する動力伝達系をなす動力伝達装置5と、車両2の制動装置としてのブレーキ装置6と、車両2の状態を検出する状態検出装置7と、車両2の周辺環境の情報等を取得する周辺環境情報取得装置8と、車両制御システム1を含む車両2の各部を制御する制御装置としてのECU9とを備える。本実施形態のECU9は、後述するように車両2を惰性走行させる制御を実行するものである。
エンジン4は、車両2を走行させる走行用駆動源(原動機)である。エンジン4は、燃焼室4aにおける燃料の燃焼に伴って車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生させる。エンジン4は、車両2の走行中に、作動状態と燃料カット状態とを切り替え可能である。
ここで、エンジン4の作動状態(エンジン4を作動させた状態)とは、駆動輪3に作用させる動力を発生する状態であり、燃焼室4aで燃料を燃焼して生じる熱エネルギーをトルクなどの機械的エネルギーの形で出力する状態である。つまり、エンジン4は、作動状態では燃焼室4aで燃料を燃焼させて車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生する。
一方、エンジン4の燃料カット状態とは、燃焼室4aへの燃料の供給をカット(フューエルカット)した状態であり、典型的には、燃焼室4aへの燃料の供給を停止して動力の発生を停止しエンジン4の作動を停止させた状態、つまり、トルクなどの機械的エネルギーを出力しない状態である。なお、エンジン4の燃料カット状態は、燃料の供給を完全に停止した状態に限らず、燃焼室4aへの燃料の供給量を減少させ、駆動輪3に作用させる走行用の動力を実質的に出力しない状態であってもよい。
動力伝達装置5は、ロックアップクラッチ付きの流体伝達装置であるトルクコンバータ10、エンジン4からの動力を変速して出力する変速機11、変速機11に連結されるデファレンシャルギヤ12、デファレンシャルギヤ12と駆動輪3とを連結するドライブシャフト13等を含んで構成される。動力伝達装置5は、エンジン4と駆動輪3とを動力伝達可能に係合した係合状態とこの係合を解除した開放状態とに切り替え可能である。
変速機11は、車両2の走行状態に応じて自動で変速比(変速段)を変更するいわゆる自動変速機であり、例えば、有段自動変速機(AT)、無段自動変速機(CVT)、マルチモードマニュアルトランスミッション(MMT)、シーケンシャルマニュアルトランスミッション(SMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)等、種々の自動変速機が適用される。変速機11は、ECU9によって動作が制御される。
動力伝達装置5は、係合状態ではこの動力伝達装置5に含まれる種々の係合装置、変速機11にて各変速段を実現するための種々のクラッチ等において駆動輪3側の回転部材とエンジン4側の回転部材とが連結され、エンジン4と駆動輪3との間での動力伝達が可能な状態(例えば、ドライブレンジ相当の状態)となる。一方、動力伝達装置5は、開放状態ではこの動力伝達装置5に含まれる種々の係合装置、変速機11にて各変速段を実現するための種々のクラッチ等において駆動輪3側の回転部材とエンジン4側の回転部材との連結が解除され、エンジン4と駆動輪3との間での動力伝達が遮断された状態(例えば、ニュートラルレンジ相当の状態)となる。
エンジン4が発生した動力は、トルクコンバータ10を介して変速機11に入力され、この変速機11にて所定の変速比で変速されて、デファレンシャルギヤ12及びドライブシャフト13を介して駆動輪3に伝達される。この結果、車両2は、駆動輪3の路面との接地面に駆動力[N]が生じ、これにより走行することができる。
ブレーキ装置6は、駆動輪3を含む車輪に制動力を作用させる。この結果、車両2は、駆動輪3の路面との接地面に制動力[N]が生じ、これにより制動することができる。
状態検出装置7は、ECU9と電気的に接続されており、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行うことができる。状態検出装置7は、例えば、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ71、運転者によるアクセルペダル72aの操作量(アクセル操作量)であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ72、運転者によるブレーキペダル73aの操作量、例えば、マスタシリンダ圧等を検出しブレーキ力を検出するブレーキセンサ73、車両2の走行速度である車速を検出する車速センサ74、運転者がシフトレンジ操作を行うシフトレバー75aの位置(例えば、パーキングレンジ、リバースレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ等)を検出するシフトポジションセンサ75、車両2の車体に作用する加速度を検出する加速度センサ76等の車両2の各部に設けられた種々のセンサ、検出装置等を含む。
周辺環境情報取得装置8は、ECU9と電気的に接続されており、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行うことができる。周辺環境情報取得装置8は、例えば、自車両である車両2の周辺環境の情報やいわゆる先読み情報等を取得する装置であり、例えば、路側に設置された光ビーコン等の送受信機器から車両2の路車間通信機に各種情報を送受信する装置、車載カメラ、レーダ、GPS装置、ナビゲーション装置、車車間通信機器、VICS(登録商標)(Vehicle Information and Communication System:道路交通情報通信システム)センタなどからの情報を受信する装置など、種々の装置のいずれか1つあるいは複数によって構成される。周辺環境情報取得装置8は、車両2の周辺環境情報として、例えば、車両2の現在位置情報や地図情報(道路勾配情報、路面状態情報、道路形状情報、制限車速情報、道路曲率情報等)、インフラ情報(信号情報、工事・交通規制情報、渋滞情報、緊急車両情報)、車両2の前方を走行する前方車両に関する情報(速度情報、現在位置情報等)等を取得する。
ECU9は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。ECU9は、状態検出装置7からの検出結果、周辺環境情報取得装置8からの取得情報等に対応した電気信号が入力され、入力された検出結果等に応じて、エンジン4、変速機11等を含む動力伝達装置5、ブレーキ装置6等を制御する。ここでは、変速機11等を含む動力伝達装置5、ブレーキ装置6は、作動油の圧力(油圧)によって作動する油圧式の装置であり、ECU9は、それぞれTM油圧制御装置14、ブレーキ油圧制御装置15等を介してこれら変速機11、ブレーキ装置6の動作を制御する。
また、ECU9は、例えば、アクセル開度センサ72による検出結果に基づいて、運転者による車両2に対する加速要求操作であるアクセル操作(Acc)のON/OFFを検出することができる。なお、運転者によるアクセル操作がOFF(Acc−OFF)である状態とは、運転者が車両2に対する加速要求操作を解除した状態であり、運転者によりアクセルペダル72aが解放されアクセル開度センサ72によって検出されるアクセル開度(アクセル操作量)が所定開度より小さくなった状態である。一方、運転者によるアクセル操作がON(Acc−ON)である状態とは、運転者が車両2に対する加速要求操作を行っている状態であり、運転者によりアクセルペダル72aが踏み込まれアクセル開度センサ72によって検出されるアクセル開度が所定開度以上になった状態である。
ECU9は、例えば、通常の運転時においては、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン4のスロットル装置16を制御し、吸気通路17のスロットル開度を調節し、吸入空気量を調節して、その変化に対応して燃料噴射量を制御し、燃焼室4aに充填される混合気の量を調節してエンジン4の出力を制御する。また、ECU9は、アクセル開度、車速等に基づいてTM油圧制御装置14を制御し、変速機11の変速比を制御する。
そして、ECU9は、車両2の走行中において、エンジン4が発生させる動力を作用させずにこの車両2を惰性走行させることで、車両2の走行中に、エンジン4での不要な燃料の消費を抑制し燃費を向上することができる。ECU9は、典型的には、車両2に対する加速要求操作がない場合、すなわち、アクセル操作がOFFである場合に車両2の惰性走行を行う。
本実施形態の車両制御システム1は、ECU9が車両2に対する加速要求操作がない場合に、エンジン4及び動力伝達装置5を制御し、第1惰性走行制御としての燃料カット惰行制御(以下、「FC惰行制御」という場合がある。)又は第2惰性走行制御としてのニュートラル惰行制御(以下、「N惰行制御」という場合がある。)を実行する。
FC惰行制御は、エンジン4、動力伝達装置5を制御し、動力伝達装置5を係合状態で維持しエンジン4を燃料カット状態として車両2を惰行走行させる制御である。つまり、ECU9は、FC惰行制御では、動力伝達装置5にてエンジン4と駆動輪3との間での動力伝達が可能な状態を維持しかつエンジン4にて燃焼室4aへの燃料の供給をカットして車両2を走行させる惰性走行制御を実行する。これにより、車両制御システム1は、車両2の走行中に、ECU9がFC惰行制御を実行することで、エンジン4における不要な燃料消費を抑制することができ、燃費の向上を図ることができる。
ECU9は、典型的には、車両2の走行中に、所定の条件下で、動力伝達装置5を係合状態で維持した状態で、燃料噴射弁を制御してエンジン4の燃焼室4aへの燃料の供給をカットするFC惰行制御を実行する。ECU9は、例えば、アクセル開度センサ72によって検出されるアクセル開度が所定の値以下である場合、すなわち、アクセル操作がOFFである場合に、FC惰行制御を実行する。ECU9は、これに加えて、周辺環境情報(道路勾配情報)や車両2の車速等に基づいてFC惰行制御の実行の有無を判定してもよい。また、ECU9は、車両2のFC惰行中に、所定の条件下で、エンジン4の燃焼室4aへの燃料の供給を再開しエンジン4を再始動することで、再び車両2をエンジン4が発生する動力によって走行する走行状態に復帰させることができる。ECU9は、例えば、アクセル開度センサ72によって検出されるアクセル開度が所定の値より大きくなった場合、すなわち、アクセル操作がONとなった場合に、FC惰行制御から復帰する。
N惰行制御は、動力伝達装置5を制御し、動力伝達装置5を開放状態として車両2を惰行走行させる制御である。つまり、ECU9は、N惰行制御では、動力伝達装置5にてエンジン4と駆動輪3との間での動力伝達が遮断された状態としたままで車両2を走行させる惰性走行制御を実行する。これにより、車両制御システム1は、車両2の走行中にECU9がN惰行制御を実行することで、駆動輪3にエンジンブレーキ等が作用しなくなることから、エンジンブレーキによる車両2の運動エネルギーの損失を極力を抑えて車両2の走行負荷を低減することができ、燃費の向上を図ることができる。ECU9は、車両2の走行中に、FC惰行制御を行う条件下、すなわち、アクセル操作がOFFであり惰行制御を実行しうる条件下でさらに所定の条件を満たした場合に動力伝達装置5を開放状態とするN惰行制御を実行する。
この場合、車両2は、FC惰行制御においては、エンジン4と駆動輪3との間の動力伝達が可能であるので、駆動輪3にエンジンブレーキが作用した状態での惰性走行となる。一方、車両2は、N惰行制御においては、エンジン4と駆動輪3との間の動力伝達が遮断されるので、駆動輪3にエンジンブレーキが作用していない状態での惰性走行となる。したがって、惰性走行中の車両2に作用する減速度は、FC惰行制御において車両2に作用する減速度の方が相対的に大きくなり、N惰行制御において車両2に作用する減速度の方が相対的に小さくなる傾向にある。
なお、ECU9は、上記N惰行制御では、動力伝達装置5を開放状態とし動力伝達装置5にてエンジン4と駆動輪3との間での動力伝達が遮断された状態としたままで車両2を走行させる走行制御を実行すればよく、エンジン4を作動状態で維持してもよいし、燃料カット状態としてもよい。車両制御システム1は、N惰行制御においてエンジン4を作動状態で維持することで、N惰行制御からの復帰時における加速応答性の低下を抑制することができる。一方、車両制御システム1は、N惰行制御においてエンジン4を燃料カット状態とすることで、エンジン4における燃料消費をさらに抑制することができ、さらなる燃費の向上を図ることができる。ここでは、ECU9は、N惰行制御においてエンジン4を作動状態で維持するものとして説明する。
そして、本実施形態のECU9は、この車両2の走行速度(以下、「車速」という場合がある。)と、車両2が走行する走行路の勾配とに基づいて、エンジン4及び動力伝達装置5を制御し、FC惰行制御とN惰行制御とを切り替えることで、適正に燃費性能の向上を実現することができる。
より具体的には、本実施形態のECU9は、車両2の車速が予め設定された所定速度以下であり、上り勾配を正、下り勾配を負とした場合の走行路の勾配が、FC惰行制御を実行した場合に車両2が減速し、かつ、N惰行制御を実行した場合に車両2が予め設定された所定加速度より大きな加速度で加速する大きさの勾配である場合にN惰行制御を禁止し、FC惰行制御を許可する。
典型的には、ECU9は、例えば、図2に例示するレンジ判定マップを用いて、車両2の車速と走行路の勾配との関係に基づいてFC惰行制御とN惰行制御とを切り替える。
図2は、横軸を車速[km/h]、縦軸を勾配[%]としている。勾配は、上り勾配を正、下り勾配を負としている。以下、特に断りのない限り、勾配は、上り勾配を正、下り勾配を負として説明する。つまり、勾配は、0である場合には平坦路を表し、正でありその絶対値が大きいほどより急な上り勾配であることを表し、負でありその絶対値が大きいほどより急な下り勾配であることを表す。図2中、制御線L11、L12、L13、L14は、FC惰行制御とN惰行制御との切り替えを判定するための制御線であり、燃費により有利な惰性走行を選択するために、車速、勾配に対する判定閾値に応じて予め設定される。
制御線L11は、各車速において、N惰行制御を実行し車両2がニュートラル惰行を行った場合に車両2の車速が一定となる大きさの勾配を表すN惰行一定速走行(加速度G=0)線である。制御線L11は、例えば、下記の数式(1)によって表すことができる。数式(1)において、「M」は自車両2の車重(kg)、「g」は重力加速度(m/s2)、「θ」は勾配(rad)、「ρ」は空気密度、「Cd」は空気抵抗係数、「V」は自車両2の車速、「A」は自車両2の前面投影面積(m2)を表している(以下で説明する数式でも、特に断りのない限り、同様である。)。この制御線L11が表す勾配は、負であり、車速が大きいほど小さくなる傾向にある。
勾配抵抗(M・g・sinθ)+空気抵抗([1/2]・ρ・Cd・A・V2)+転がり抵抗=0 ・・・ (1)
制御線L12は、各車速において、N惰行制御を実行し車両2がニュートラル惰行を行った場合に車両2が予め設定された所定減速度で減速する大きさの勾配を表すN惰行緩減速走行線である。ここで、所定減速度は、典型的には、運転者が減速したことに気づかない程度の減速度、運転者に対して違和感を与えない程度の減速度であり、一例として、−0.03G程度に設定される。制御線L12は、例えば、下記の数式(2)によって表すことができる。この制御線L12が表す勾配は、制御線L11の車両2の車速が一定となる大きさの勾配より大きく、車速が大きいほど小さくなる傾向にある。
勾配抵抗(M・g・sinθ)+空気抵抗([1/2]・ρ・Cd・A・V2)+転がり抵抗−0.03・M=0 ・・・ (2)
制御線L13は、各車速において、N惰行制御を実行し車両2がニュートラル惰行を行った場合に車両2が予め設定された所定加速度で加速する大きさの勾配を表すN惰行緩加速走行線である。ここで、所定加速度は、典型的には、運転者が加速したことに気づかない程度の加速度、運転者に対して違和感を与えない程度の加速度であり、一例として、+0.03G程度に設定される。制御線L13は、例えば、下記の数式(3)によって表すことができる。この制御線L13が表す勾配は、制御線L11の車両2の車速が一定となる大きさの勾配より小さく、車速が大きいほど小さくなる傾向にある。
勾配抵抗(M・g・sinθ)+空気抵抗([1/2]・ρ・Cd・A・V2)+転がり抵抗+0.03・M=0 ・・・ (3)
制御線L14は、各車速において、FC惰行制御を実行し車両2が燃料カット惰行を行った場合に車両2の車速が一定となる大きさの勾配を表すFC惰行一定速走行(加速度G=0)線である。制御線L14は、例えば、下記の数式(4)によって表すことができる。数式(4)において、「Tefrct」はエンジンフリクショントルク(Nm)、「γ」は変速機11の変速比、「if」は動力伝達装置5の最終減速比、「Rtire」はタイヤ半径(m)を表している(以下で説明する数式でも、特に断りのない限り、同様である。)。ECU9は、エンジンフリクショントルクTefrctを算出する場合、例えば、車速と変速比からエンジン回転数を演算した後、エンジン回転数とマップからトルクを算出し、これに補機(オルタ、A/C等)の負荷トルク等を加算することで、エンジンフリクショントルクTefrctを算出してもよい。この制御線L14が表す勾配は、所定車速、ここでは、40[km/h]程度より大きい領域で、制御線L13の車両2が所定加速度で加速する大きさの勾配より大きく、所定車速で制御線L13と交差し、所定車速より小さい領域で制御線L13の車両2が所定加速度で加速する大きさの勾配より小さくなる傾向にある。
勾配抵抗(M・g・sinθ)+空気抵抗([1/2]・ρ・Cd・A・V2)+転がり抵抗+エンジンフリクション([Tefrct・γ・if]/Rtire)=0 ・・・ (4)
そして、図2のレンジ判定マップは、勾配が制御線L12より大きくなる側の領域が通常Dレンジ領域A、勾配が制御線L13より小さい、あるいは、制御線L14より小さい領域が通常Dレンジ(F/C)領域B、勾配が制御線L13と制御線L14とのうちの大きい方以上でかつ制御線L12以下である領域がニュートラル惰行領域Cとなっている。基本的には、ニュートラル惰行領域Cは、典型的には、運転者が加減速したことに気づかない程度の加減速度、運転者に対して違和感を与えない程度の加減速度の緩加減速領域に相当するのに対して、通常Dレンジ領域A、通常Dレンジ(F/C)領域Bは、急加減速領域に相当する。
ECU9は、状態検出装置7からの検出結果、周辺環境情報取得装置8からの取得情報等に基づいて、現在の車両2の車速(情報)、走行路の勾配(情報)を取得し、取得した現在の車両2の車速、走行路の勾配に基づいて、図2のレンジ判定マップから現在の運転領域を判定する。すなわち、ECU9は、取得した現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が、通常Dレンジ領域A、通常Dレンジ(F/C)領域B、ニュートラル惰行領域Cのうちのどの領域に位置しているかを判定することで、FC惰行制御とN惰行制御とを切り替える。
ECU9は、現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が、通常Dレンジ領域A内にあると判定した場合、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン4の出力、変速機11の変速比等を制御すると共にFC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用する。つまり、ECU9は、上り勾配を正、下り勾配を負とした場合の走行路の勾配が、N惰行制御を実行した場合に車両2が予め設定された所定減速度で減速する大きさの勾配(制御線L12が表す勾配)より大きな勾配である場合にN惰行制御を禁止する。
これにより、車両制御システム1は、ニュートラル惰行では車両2が減速しすぎる勾配であるため運転者がアクセル操作をONとし車両2に対する加速要求操作を行う可能性が高い傾向にある場合に、運転者によるアクセル操作のON、車両2の加速にそなえておくことができ、ドライバビリティの向上を図ることができる。
また、ECU9は、現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が、通常Dレンジ(F/C)領域B内にあると判定した場合、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン4の出力、変速機11の変速比等を制御すると共にFC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用する。つまり、ECU9は、上り勾配を正、下り勾配を負とした場合の走行路の勾配が、FC惰行制御を実行した場合に車両2の走行速度が一定となる大きさの勾配(制御線L14が表す勾配)より小さい場合、あるいは、N惰行制御を実行した場合に車両2が予め設定された所定加速度で加速する大きさの勾配(制御線L13が表す勾配)より小さい場合に、N惰行制御を禁止し、FC惰行制御を許可し、アクセル操作がOFFである場合にFC惰行制御を実際に実行する。
これにより、車両制御システム1は、減速度が相対的に大きくなる惰行走行である燃料カット惰行を行った場合であっても車両2が加速する大きさの勾配を走行する場合に、ニュートラル惰行ではなく、燃費的により優位な燃料カット惰行を行うことで、エンジン4における不要な燃料消費を抑制することができ、燃費の向上を図ることができる。また、車両制御システム1は、減速度が相対的に小さくなる惰行走行であるニュートラル惰行を行った場合に車両2が加速しすぎる勾配を走行する場合に、ニュートラル惰行ではなく燃料カット惰行を行うことで、車両2に相対的に大きな減速度を作用させることができ、この結果、運転者に対して過度の加速感やエンジンブレーキの不足による違和感、不安感等を与えることを抑制することができ、運転者に対して適切な減速感を与えることができる。また、車両制御システム1は、この間もエンジン4における不要な燃料消費を抑制することができ、燃費の向上を図ることができ、よって、燃費の向上とドライバビリティの向上とを両立することができる。
ここで、上述したように、制御線L13と制御線L14との関係は、所定車速、ここでは、40[km/h]程度で交差し、この所定車速より高車速側の領域で制御線L14が表す勾配が相対的に大きくなる一方、所定車速より低車速側の領域で制御線L13が表す勾配が相対的に大きくなる。この結果、車両制御システム1は、上述したように、現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が、通常Dレンジ(F/C)領域B内にあると判定した場合にFC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用することで、車両2の車速が予め設定された所定速度以下であり、上り勾配を正、下り勾配を負とした場合の走行路の勾配が、FC惰行制御を実行した場合に車両2が減速し、かつ、N惰行制御を実行した場合に車両2が予め設定された所定加速度より大きな加速度で加速する大きさの勾配である場合にN惰行制御を禁止し、FC惰行制御を許可することができる。
これにより、車両制御システム1は、例えば、制御線L14だけでFC惰行制御とN惰行制御との切り替えを判定するような場合と比較して、ニュートラル惰行より燃料カット惰行を選択した方が燃費的により優位な運転領域にFC惰行制御を実行する領域を拡大することができ、適正に燃料カット惰行を行うことができる。すなわち、この車両2は、例えば、所定車速以下の低車速領域では、変速機11の変速比がロー側の変速比となっているため燃料カット惰行でエンジンブレーキによる減速度が相対的に大きくなる傾向にあり、また、ニュートラル惰行で空気抵抗が相対的に小さくなる傾向にあることから、図2に示すように、ニュートラル惰行と燃料カット惰行との加減速度差が相対的に大きくなる傾向にある。そして、車両2の総抵抗と下り勾配により車両2に作用する力とがつりあうような場面ではこの加減速度の差が大きくなり、上記のように低車速領域で所定の勾配を走行する場合にはニュートラル惰行を禁止し、燃料カット惰行を選択した方が燃費的により優位になる。また、車両制御システム1は、このような場面で、例えば、変速機11のクラッチ等を半係合状態(スリップ状態)として車両2を惰性走行させるいわゆるセミニュートラル惰行を行うような場合と比較して、クラッチにおける発熱を防止することができることから、さらなる運動エネルギーの有効活用を図ることができる。
そして、ECU9は、現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が、ニュートラル惰行領域C内にあると判定した場合、惰行制御を実行しうる条件下で、車両2のニュートラル惰行(Nレンジ)を適用する。つまり、ECU9は、上り勾配を正、下り勾配を負とした場合の走行路の勾配が、FC惰行制御を実行した場合に車両2の走行速度が一定となる大きさの勾配(制御線L14が表す勾配)とN惰行制御を実行した場合に車両2が予め設定された所定加速度で加速する大きさの勾配(制御線L13が表す勾配)とのうちの大きい方の勾配以上であり、かつ、N惰行制御を実行した場合に車両2が予め設定された所定減速度で減速する大きさの勾配(制御線L12が表す勾配)以下である場合に、FC惰行制御を禁止し、N惰行制御を許可し、アクセル操作がOFFである場合にN惰行制御を実際に実行する。
これにより、車両制御システム1は、燃料カット惰行だと減速するがニュートラル惰行では加速し過ぎない勾配でかつニュートラル惰行であっても車両2が減速しすぎない勾配を走行する場合に、燃料カット惰行ではなくニュートラル惰行を行うことで、運転者に加減速したことを気づかせず運転者に対して違和感を与えないようにニュートラル惰行を行うことができる。そしてこの間、車両制御システム1は、エンジンブレーキによる車両2の運動エネルギーの損失を極力を抑えて燃費の向上を図ることができ、よって、燃費の向上とドライバビリティの向上とを両立することができる。
この場合、例えば、図3のタイムチャートにおいて、FC惰行制御を実行し車両2を燃料カット惰行させた場合の車速を表す実線L21、N惰行制御を実行し車両2をニュートラル惰行させた場合の車速を表す実線L22、FC惰行制御を実行し車両2を燃料カット惰行させた場合の燃料消費量(累積)を表す実線L23、N惰行制御を実行し車両2をニュートラル惰行させた場合の燃料消費量(累積)を表す実線L24で例示するように、車両制御システム1は、ニュートラル惰行を行うことで、燃料カット惰行を行った場合と比較して、より燃料消費量を抑制して燃費を向上することができる。なお、この図3のタイムチャートは、アクセル操作OFF、ブレーキ操作OFF、スタート速度=70km/h、走行路の勾配=0(すなわち、平坦路)、要求減速度=緩減速である条件下での走行の一例を表している。
上記のように構成される車両制御システム1は、ECU9がレンジ判定マップを用いて車両2の車速と走行路の勾配との関係に基づいてFC惰行制御とN惰行制御とを切り替える。この結果、車両制御システム1は、車速や勾配に応じてFC惰行制御とN惰行制御とを切り替えることで、例えば、運転者に対する加減速の違和感が生じない領域で、ニュートラル惰行等を実施することができ、適正に燃費性能の向上を実現することができる。また、車両制御システム1は、車速や勾配に応じてFC惰行制御とN惰行制御とを切り替えることで、例えば、セミニュートラル惰行を行うような場合と比較して、適正に燃費性能の向上しつつ、クラッチにおける発熱を防止することができ、例えば、長い下り勾配でクラッチ等の過熱が生じることを防止することができる。また、車両制御システム1は、車速や勾配に応じてFC惰行制御とN惰行制御とを切り替えることで、例えば、下り勾配で運転者に対する加減速の違和感が生じない程度にニュートラル惰行を行うことで、違和感なく位置エネルギーを運動エネルギーに変換して蓄積することができ、この点でも燃費向上を図ることができる。
なお、本実施形態のECU9は、さらに、FC惰行制御とN惰行制御との切り替えが可能になった後、切り替え後の制御が予め設定された所定の待機時間(例えば3秒間程度)以上継続される場合に実際に切り替えを許可する切替待機制御を実行するとよい。
ECU9は、例えば、図4の囲み線D内に例示するように、ニュートラル惰行領域C内に入ってから所定の待機時間経過した後、勾配が緩下り勾配から急下り勾配に変化し、車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が、通常Dレンジ(F/C)領域Bに移動した際に、この動作点がこのまま通常Dレンジ(F/C)領域Bで所定の待機時間とどまると推定できる場合に、N惰行制御からFC惰行制御への切り替えを許可する(切替OK)。一方、ECU9は、例えば、動作点が通常Dレンジ(F/C)領域Bに移動した後、待機時間経過前に再びニュートラル惰行領域Cに移動すると推定できる場合にはN惰行制御からFC惰行制御への切り替えを許可しない(切替NG)。同様に、ECU9は、例えば、図4の囲み線E内に例示するように、通常Dレンジ(F/C)領域B内に入ってから所定の待機時間経過した後、勾配が急下り勾配から緩下り勾配に変化し車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が、ニュートラル惰行領域Cに移動した際に、この動作点がこのままニュートラル惰行領域Cで所定の待機時間とどまると推定できる場合に、FC惰行制御からN惰行制御への切り替えを許可する(切替OK)。一方、ECU9は、例えば、動作点がニュートラル惰行領域Cに移動した後、待機時間経過前に再び通常Dレンジ(F/C)領域Bに移動すると推定できる場合にはFC惰行制御からN惰行制御への切り替えを許可しない(切替NG)。
ECU9は、例えば、図5のタイムチャートに示すように、動作点がニュートラル惰行領域C内にある状態が時刻t1から所定の待機時間継続する場合にN惰行制御を許可しニュートラル惰行を行う。この間、ECU9は、動作点が通常Dレンジ(F/C)領域B内に移っても所定の待機時間継続しない場合にはFC惰行制御への切り替えは行わずN惰行制御を継続する。
ECU9は、時刻t2から車両2が下り勾配に入り動作点が通常Dレンジ(F/C)領域B内に移動し、所定の待機時間後の時刻t3まで継続する場合にN惰行制御からFC惰行制御へ切り替えてFC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用する。ECU9は、下り勾配が続き、再び平坦路となる時刻t4まで動作点がニュートラル惰行領域C内に移っても所定の待機時間継続しない場合にはN惰行制御への切り替えは行わずFC惰行制御を継続する。そして、ECU9は、平坦路となった後、動作点がニュートラル惰行領域C内に移動し、その状態が所定の待機時間継続する場合に車両2のニュートラル惰行(Nレンジ)を適用する。
具体的には、ECU9は、例えば、FC惰行制御とN惰行制御とのうちの現在選択中の制御と、車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点と図2に例示するレンジ判定マップとから選択される領域に応じた制御とを比較する。そして、ECU9は、異なる制御が選択された場合に、選択された制御が所定の待機時間継続するか否か、言い換えれば、所定の待機時間経過後の推定の車速と勾配との組み合わせによって定まる動作点が、上記で選択された領域内で留まっているか否かを判定する。
この場合、ECU9は、例えば、下記の数式(5)、(6)を用いて所定の待機時間、ここでは、3秒間経過後の車速を算出することができる。ここでは、ECU9は、車両2がニュートラル惰行で走行している際の所定の待機時間経過後の車速Vnを算出する場合には数式(5)を、車両2が燃料カット惰行で走行している際の所定の待機時間経過後の車速Vfcを算出する場合には数式(6)を用いる。数式(5)、(6)において、「V0」は現時点(判定時点)での初期速度、「t」は所定の待機時間、ここでは3秒間、「θ1」はここでは所定の待機時間後の距離(=現在車速×3秒間)までの平均勾配、「V1」はここでは(現時点での車速+現時点での加減速度×3秒間)/2、「γ1」はここでは現時点での変速機11の変速比を表している(以下で説明する数式でも同様である。)。
Vn=V0−(g・sinθ1+[1/2]・ρ・Cd・A・V12/M+転がり抵抗/M)・t ・・・ (5)
Vfc=V0−(g・sinθ1+[1/2]・ρ・Cd・A・V12/M+転がり抵抗/M+[Tefrct・γ1・if]/Rtire)・t ・・・ (6)
また、ECU9は、例えば、下記の数式(7)、(8)を用いて所定の待機時間、ここでは、3秒間ですすむ距離を算出することができる。ここでは、ECU9は、車両2がニュートラル惰行で走行している際の所定の待機時間ですすむ距離Lnを算出する場合には数式(7)を、車両2が燃料カット惰行で走行している際の所定の待機時間ですすむ距離Lfcを算出する場合には数式(8)を用いる。そして、ECU9は、周辺環境情報取得装置8からの取得情報等に基づいて、現在地点から距離Ln、あるいは、距離Lfc前方の走行路の勾配情報を取得する。
Ln=V0・t−0.5・(g・sinθ+[1/2]・ρ・Cd・A・V12/M+転がり抵抗/M)・t2 ・・・ (7)
Lfc=V0・t−(g・sinθ+[1/2]・ρ・Cd・A・V12/M+転がり抵抗/M+[Tefrct・γ・if]/Rtire)・t2 ・・・ (8)
そして、ECU9は、車速Vnと距離Ln前方の走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点、あるいは、車速Vfcと距離Lfc前方の走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が、レンジ判定マップ内の対応する領域内で留まっているか否かを判定する。ECU9は、この推定の動作点が対応する領域内で留まっていると判定した場合には、上記のように、FC惰行制御とN惰行制御との切り替えを許可する。
したがってこの場合、車両制御システム1は、切替待機制御を実行し、FC惰行制御とN惰行制御との切り替えが可能になった後、切り替え後の制御が予め設定された所定の待機時間以上継続される場合に切り替えを許可することから、FC惰行制御とN惰行制御との頻繁な切り替えを抑制し、切り替えビジー、ハンチングを抑制することができる。この結果、車両制御システム1は、ドライバビリティの向上を図ることができると共に、ニュートラル惰行から燃料カット惰行への復帰回数を低減し余分な燃料消費量を低減することができ、燃費向上を図ることができる。
また、本実施形態のECU9は、さらに、上り勾配を正、下り勾配を負とした場合の、車両2の走行方向前方の走行路の勾配が、N惰行制御を実行した場合に車両2が減速する大きさの勾配であり、かつ、現在下り勾配でありN惰行制御を実行しても、走行方向前方の走行路の勾配によって減速が開始する地点までに車両2の走行速度が予め設定された上限速度を超えない場合に下り勾配の大きさにかかわらずN惰行制御を実行する先読み制御を行うようにしてもよい。
ECU9は、典型的には、FC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用している状態で、先読み制御を行う。ECU9は、例えば、図6の囲み線H内に例示するように、車両2が急下り勾配を走行するような場合、通常、図2のレンジ判定マップを用いてFC惰行制御とN惰行制御との切り替えを行うと、FC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用することとなる。
このような場合に、ECU9は、そのさらに前方にN惰行制御を実行した場合に車両2が減速する大きさの上り勾配があるような場合には、N惰行制御を実行しても、減速が開始する地点(図6中に黒丸で図示)までに車両2の走行速度が上限速度を超えないことを条件として、N惰行制御を実行しニュートラル惰行を早だしする。ここで、上限速度は、典型的には、ニュートラル惰行を行っても運転者に対して違和感を与えない程度の速度に設定され、例えばニュートラル惰行開始時の速度+10km/h程度に設定される。
ここでは、ECU9は、図7に例示するように、下り勾配にてN惰行制御を実行し車両2がニュートラル惰行を開始しても、ニュートラル惰行による加速によって減速開始地点までに上限車速(例えば、ニュートラル惰行開始時の速度V0+10km/h)を超えないような減速開始地点からの許容距離Lを算出する。
この場合、ECU9は、下記の数式(9)〜(12)を用いて許容距離L、すなわち、ニュートラル惰行を開始した地点から、車速がニュートラル惰行開始時の速度V0+10km/hとなる地点までの距離を算出することができる。数式(9)〜(11)において、「Vn1」はここではニュートラル惰行速度、「V0」はニュートラル惰行開始時の初期車速、「t1」は上減速度になるまでの時間、「θ2」はここでは現在の勾配又は前方100m先までの平均勾配、「V2」はここでは(現時点での車速+現時点での車速+10)/2を表している。
a=−(g・sinθ2+[1/2]・ρ・Cd・A・V22/M+転がり抵抗/M)・・・ (9)
Vn1=V0+a・t1 ・・・ (10)
V0+10/3.6=V0+a・t1
→t1=10/3.6/a ・・・ (11)
L=V0・t+0.5・a・t12
→L=V0・(10/3.6/a)+0.5・a・(10/3.6/a)2
→L=(V0+0.5・10/3.6)・10/3.6/a ・・・ (12)
図8は、上記のようにして算出される許容距離Lをマップ化したものである。ECU9は、この許容距離マップを予め記憶しておき、この許容距離マップを用いて車両2の車速と、走行路の勾配とに基づいて許容距離Lを算出してもよい。この許容距離マップは、実線L32〜L39に示すように、走行路の各勾配における車両2の初期車速と許容距離Lとの関係を記述したものである。許容距離マップでは、許容距離Lは、初期車速が大きくなるほど長くなり、勾配が小さくなるほど、つまり急下り勾配になるほど短くなる。なお、この許容距離マップでは、先読み距離の上限距離を実線L31に示すように200m程度に設定しており、これにより、ECU9のメモリを節約している。
そして、ECU9は、減速開始地点から手前側に許容距離Lの地点を惰行開始位置とし、車両2がこの惰行開始位置に到達したときにN惰行制御を実行しニュートラル惰行を早だしする。言い換えれば、ECU9は、現在地点から許容距離Lの範囲に減速開始地点が存在する場合にN惰行制御を実行しニュートラル惰行を早だしする。この場合、ECU9は、周辺環境情報取得装置8からの車両2の周辺環境の情報や先読み情報等に基づいて、N惰行制御を実行した場合に車両2が減速する大きさの勾配における減速開始地点の情報を取得する。
例えば、ECU9は、図8の許容距離マップにおいて、現在車速、すなわち、初期車速が60Km/hで、かつ、実線L35で表される下り勾配を走行している場合には、減速開始地点から手前側に100m以内の惰行開始位置でN惰行制御を実行しニュートラル惰行を開始すれば、N惰行制御を実行しても、減速開始地点までに車両2の走行速度が上限速度を超えることはない。
したがって、車両制御システム1は、車両2の周辺環境の情報や先読み情報等に基づいて先読み制御を行い、車両2の走行方向前方の走行路の勾配が、N惰行制御を実行した場合に車両2が減速する大きさの勾配であり、かつ、現在下り勾配でありN惰行制御を実行しても、減速開始地点までに車両2の走行速度が上限速度を超えない場合にN惰行制御を実行することで、運転者に対して違和感を与えない範囲でニュートラル惰行を行い、位置エネルギーを車両2の運動エネルギーとして蓄積することができる。これにより、車両制御システム1は、下り勾配で運転者に対してニュートラル惰行による滑走フィーリングを与えつつ蓄積した運動エネルギーを前方の上り勾配にて消費することで、アクセル操作ON時の操作量を相対的に低減し、燃費向上を図ることができる。
次に、図9のフローチャートを参照して車両制御システム1におけるECU9による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
まず、ECU9は、状態検出装置7からの検出結果、周辺環境情報取得装置8からの取得情報等に基づいて、制御に必要な情報を取得、収集する(ST1)。ECU9は、典型的には、車両状態情報(車速、加速度等)、運転者操作量情報(アクセル操作量、ブレーキ操作量等)、走行環境情報(車両2の現在位置情報、地図情報、インフラ情報、車両2の前方を走行する前方車両に関する情報)等を取得する。
次に、ECU9は、ST1で収集した情報に基づいて、アクセル操作がOFFであるか否か、典型的にはアクセル開度センサ72によって検出されるアクセル開度が所定の値以下であるか否かを判定する(ST2)。
ECU9は、アクセル操作がOFFである、すなわち、アクセル開度センサ72によって検出されるアクセル開度が所定の値以下であると判定した場合(ST2:Yes)、ST1で収集した情報に基づいて、図2のレンジ判定マップから、現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が位置するレンジ(領域)を算出する(ST3)。
ECU9は、ST3で算出したレンジ判定マップの算出値がNレンジ相当であるか否か、すなわち、現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点がニュートラル惰行領域C内にあるか否かを判定する(ST4)。
ECU9は、ST3で算出したレンジ判定マップの算出値がNレンジ相当であると判定した場合(ST4:Yes)、すなわち、現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点がニュートラル惰行領域C内にあると判定した場合、現在、ニュートラル惰行を実施中であるか否かを判定する(ST5)。
ECU9は、現在、ニュートラル惰行を実施中であると判定した場合(ST5:Yes)、N惰行制御の許可を継続し、惰行制御を実行しうる条件下で、車両2のニュートラル惰行(Nレンジ)を継続して適用し(ST6)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
ECU9は、ST5にて、現在、ニュートラル惰行を実施中でないと判定した場合(ST5:No)、通常Dレンジ(F/C)移行後、予め設定される所定の待機時間に応じた所定時間(例えば3秒間)経過したか否かを判定する(ST7)。
ECU9は、通常Dレンジ(F/C)移行後、所定時間(例えば3秒間)経過したと判定した場合(ST7:Yes)、N惰行制御を許可し車両2のニュートラル惰行(Nレンジ)を適用した場合に、数式(5)〜(8)等を用いて推定した車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点がニュートラル惰行領域C上に所定の待機時間に応じた所定時間(例えば3秒間)以上留まるか否かを判定する(ST8)。
ECU9は、推定した車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点がニュートラル惰行領域C上に所定時間以上留まると判定した場合(ST8:Yes)、N惰行制御を許可し、惰行制御を実行しうる条件下で、車両2のニュートラル惰行(Nレンジ)を適用し(ST6)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
ECU9は、ST2にて、アクセル操作がONである、すなわち、アクセル開度センサ72によって検出されるアクセル開度が所定の値より大きいと判定した場合(ST2:No)、ST7にて、通常Dレンジ(F/C)移行後、所定時間(例えば3秒間)経過していないと判定した場合(ST7:No)、ST8にて、推定した車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点がニュートラル惰行領域C上に所定時間以上留まらないと判定した場合(ST8:No)、先読み制御フラグflgをOFFとし(ST9)、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン4の出力、変速機11の変速比等を制御すると共にFC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用し(ST10)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
ECU9は、ST4にて、ST3で算出したレンジ判定マップの算出値がNレンジ相当でないと判定した場合(ST4:No)、すなわち、現在の車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点がニュートラル惰行領域C内にないと判定した場合、現在、ニュートラル惰行を実施中であり、かつ、先読み制御フラグflgがOFFであるか否かを判定する(ST11)。
ECU9は、現在、ニュートラル惰行を実施中であり、かつ、先読み制御フラグflgがOFFであると判定した場合(ST11:Yes)、ニュートラルレンジ(ニュートラル惰行)移行後、予め設定される所定の待機時間に応じた所定時間(例えば3秒間)経過したか否かを判定する(ST12)。
ECU9は、ニュートラルレンジ(ニュートラル惰行)移行後、所定時間(例えば3秒間)経過したと判定した場合(ST12:Yes)、FC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用し場合に、数式(5)〜(8)等を用いて推定した車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が通常Dレンジ領域A、あるいは、通常Dレンジ(F/C)領域B上に所定の待機時間に応じた所定時間(例えば3秒間)以上留まるか否かを判定する(ST13)。
ECU9は、推定した車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が通常Dレンジ領域A、あるいは、通常Dレンジ(F/C)領域B上に所定時間以上留まると判定した場合(ST13:Yes)、先読み制御フラグflgをOFFとし(ST9)、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン4の出力、変速機11の変速比等を制御すると共にFC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用し(ST10)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
ECU9は、ST12にて、ニュートラルレンジ(ニュートラル惰行)移行後、所定時間(例えば3秒間)経過していないと判定した場合(ST12:No)、ST13にて、推定した車両2の車速と走行路の勾配との組み合わせによって定まる動作点が通常Dレンジ領域A、あるいは、通常Dレンジ(F/C)領域B上に所定時間以上留まらないと判定した場合(ST13:No)、N惰行制御の許可を継続し、惰行制御を実行しうる条件下で、車両2のニュートラル惰行(Nレンジ)を継続して適用し(ST6)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
ECU9は、ST11にて、現在、ニュートラル惰行を実施中でない、あるいは、先読み制御フラグflgがONであると判定した場合(ST11:No)、ST1で収集した情報に基づいて、現在の走行路が下り勾配であるか否かを判定する(ST14)。
ECU9は、現在の走行路が下り勾配であると判定した場合(ST14:Yes)、ST1で収集した情報に基づいて、前方の走行路の勾配がニュートラル惰行で減速する大きさの勾配であるか否かを判定する(ST15)。
ECU9は、前方の走行路の勾配がニュートラル惰行で減速する大きさの勾配であると判定した場合(ST15:Yes)、ニュートラル惰行で走行した場合に減速開始地点までに上限速度に応じた所定車速(例えば、ニュートラル惰行開始時の速度V0+10km/h)を超えない許容距離Lに達したか否かを判定する(ST16)。
ECU9は、許容距離Lに達したと判定した場合(ST16:Yes)、先読み制御フラグflgがONとし(ST17)、N惰行制御を許可し、惰行制御を実行しうる条件下で、車両2のニュートラル惰行(Nレンジ)を適用し(ST6)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
ECU9は、ST14にて、現在の走行路が下り勾配でないと判定した場合(ST14:No)、ST15にて、前方の走行路の勾配がニュートラル惰行で減速する大きさの勾配でないと判定した場合(ST15:No)、ST16にて、許容距離Lに達していないと判定した場合(ST16:No)、先読み制御フラグflgをOFFとし(ST9)、アクセル開度、車速等に基づいてエンジン4の出力、変速機11の変速比等を制御すると共にFC惰行制御を含む通常制御を実行し車両2のDレンジ走行を適用し(ST10)、今回の制御周期を終了し、次回の制御周期に移行する。
以上で説明した実施形態に係る車両制御システム1によれば、車両2の走行中に、燃焼室4aで燃料を燃焼させて車両2の駆動輪3に作用させる動力を発生する作動状態と、燃焼室4aへの燃料の供給をカットする燃料カット状態とに切り替え可能であるエンジン4と、エンジン4と駆動輪3とを動力伝達可能に係合した係合状態と係合を解除した開放状態とに切り替え可能である動力伝達装置5と、車両2の走行速度と、車両2が走行する走行路の勾配とに基づいて、エンジン4及び動力伝達装置5を制御し、動力伝達装置5を係合状態で維持してエンジン4を燃料カット状態として車両2を惰行走行させるFC惰行制御(第1惰性走行制御)と、動力伝達装置5を開放状態として車両2を惰行走行させるN惰行制御(第2惰性走行制御)とを切り替えるECU9とを備え、ECU9は、車両2の走行速度が予め設定された所定速度以下であり、上り勾配を正、下り勾配を負とした場合の走行路の勾配が、FC惰行制御を実行した場合にこの車両2が減速し、かつ、N惰行制御を実行した場合にこの車両2が予め設定された所定加速度より大きな加速度で加速する大きさの勾配である場合に、N惰行制御を禁止し、FC惰行制御を許可する。したがって、車両制御システム1は、燃費に有効であるFC惰行制御とN惰行制御とを状況に応じて適正に切り替えることができることから、適正に燃費性能を向上することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る車両制御システムは、上述した実施形態に限定されず、請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
以上で説明した車両は、走行用動力源として、エンジン4に加えてさらに、発電可能な電動機としてのモータジェネレータなどを備えたいわゆる「ハイブリッド車両」であってもよい。