以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は車両に搭載される無段変速機10を示すスケルトン図である。図1に示すように、自動変速機である無段変速機10は、エンジン11に駆動されるプライマリ軸12と、これに平行となるセカンダリ軸13とを有している。プライマリ軸12とセカンダリ軸13との間には変速機構14が設けられており、セカンダリ軸13と駆動輪15との間には減速機構16や差動機構17が設けられている。
プライマリ軸12にはプライマリプーリ20が設けられており、このプライマリプーリ20は固定シーブ20aと可動シーブ20bとを備えている。可動シーブ20bの背面側には作動油室21が区画されており、作動油室21内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。また、セカンダリ軸13にはセカンダリプーリ22が設けられており、このセカンダリプーリ22は固定シーブ22aと可動シーブ22bとを備えている。可動シーブ22bの背面側には作動油室23が区画されており、作動油室23内の圧力を調整してプーリ溝幅を変化させることが可能となる。さらに、プライマリプーリ20とセカンダリプーリ22とには駆動チェーン24が巻き掛けられている。そして、プーリ20,22の溝幅を変化させて駆動チェーン24の巻き付け径を変化させることにより、プライマリ軸12からセカンダリ軸13に対する無段変速が可能となる。
このような変速機構14にエンジン動力を伝達するため、クランク軸25とプライマリ軸12との間にはトルクコンバータ30および前後進切換機構31が設けられている。トルクコンバータ30は、クランク軸25にフロントカバー32を介して連結されるポンプインペラ33と、このポンプインペラ33に対向するとともにタービン軸34に連結されるタービンランナ35とを備えている。このトルクコンバータ30には、エンジン動力の伝達効率を向上させるため、クランク軸25とタービン軸34とを直結するロックアップクラッチ36が設けられている。また、前後進切換機構31は、ダブルピニオン式の遊星歯車列40、前進クラッチ41および後退ブレーキ42を備えている。これら前進クラッチ41や後退ブレーキ42を制御することにより、エンジン動力の伝達径路を切り換えることが可能となる。
図2は無段変速機10の油圧制御系を示す概略図である。図2に示すように、プライマリプーリ20やセカンダリプーリ22等に対して作動油を供給するため、油圧制御系にはエンジン11に駆動されるオイルポンプ50が設けられている。オイルポンプ50に接続されるセカンダリ圧路51は、セカンダリプーリ22の作動油室23に接続されるとともにセカンダリ圧制御弁52の調圧ポート52aに接続されている。このセカンダリ圧制御弁52を介して調圧されるライン圧としてのセカンダリ圧は、駆動チェーン24に滑りを生じさせることのないように、エンジントルクや目標変速比等に基づいて調圧される。また、セカンダリ圧路51はプライマリ圧制御弁53の入力ポート53aに接続されており、プライマリ圧制御弁53の出力ポート53bから延びるプライマリ圧路54はプライマリプーリ20の作動油室21に接続されている。このプライマリ圧制御弁53を介して調圧されるプライマリ圧は、目標変速比に向けてプライマリプーリ20の溝幅を制御するように、目標変速比やセカンダリ圧等に基づいて調圧される。
このような油圧制御系に対して制御信号を出力するCVT制御ユニット60は、図示しないマイクロプロセッサ(CPU)を備えており、このCPUにはバスラインを介してROM、RAMおよびI/Oポートが接続される。ROMには制御プログラムや各種マップデータなどが格納されており、RAMにはCPUで演算処理したデータが一時的に格納されている。また、I/Oポートを介してCPUには各種センサから車両状態を示す検出信号が入力される。CVT制御ユニット60に接続される各種センサとしては、プライマリプーリ20の回転数を検出するプライマリ回転数センサ61、セカンダリプーリ22の回転数を検出するセカンダリ回転数センサ62、車速Vを検出する車速センサ63、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ64、スロットルバルブのスロットル開度Toを検出するスロットル開度センサ65、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度Accを検出するアクセルペダルセンサ66、ブレーキペダルの踏み込み量であるブレーキ操作量Brkを検出するブレーキペダルセンサ67、路面勾配Sを検出するジャイロセンサ68、車両に作用する横加速度Laを検出する横加速度センサ69、セレクトレバー70の操作状況を検出するシフト操作検出手段としてのインヒビタスイッチ71等が設けられている。さらに、CVT制御ユニット60には、道路情報を処理するナビゲーションシステム72や、車両前方の画像を処理するカメラシステム73が接続されている。
続いて、無段変速機10の変速制御について説明する。CVT制御ユニット60は、運転手のシフト操作に応じて変速段を切り換えるマニュアルモードを有している。ここで、図3はマニュアルモードで使用される変速段の一例を示す線図である。図3に示すように、マニュアルモードで使用される変速段として第1速〜第7速の変速段が設定されている。また、図2に示すように、セレクトレバー70を案内するゲート74には、マニュアルモード用のマニュアルゲート75が設けられている。このマニュアルゲート75内でセレクトレバー70を前方(+方向)に操作することにより、高速段(ハイ側)に向けて変速段を切り換えるアップシフト制御が実行される。このアップシフト制御においては、セレクトレバー70が前方(+方向)にシフト操作される毎に、1段ずつ変速段が切り換えられるようになっている。
また、マニュアルゲート75内でセレクトレバー70を後方(−方向)に操作することにより、低速段(ロー側)に向けて変速段を切り換えるダウンシフト制御が実行される。このダウンシフト制御においては、セレクトレバー70が後方(−方向)にシフト操作される毎に、要求される車両加速度(要求加速度)に応じて目標変速段が設定されるようになっている。すなわち、ダウンシフト制御においては、後述する要求加速度の大きさに従い、1段飛ばして変速段を切り換えたり、2段飛ばして変速段を切り換えたりすることが可能となっている。なお、マニュアルモード用のシフトデバイスとして、セレクトレバー70を用いているが、これに限られることはなく、ステアリング近傍に設けられるパドルシフトを用いても良い。
以下、アクセルペダルが解放された状況でのダウンシフト制御、つまりエンジンブレーキの発生を目的としたマニュアルモードのダウンシフト制御について説明する。ここで、図4はCVT制御ユニット60のダウンシフト制御系を示すブロック図である。また、図5はエンジントルク出力特性の一例を示す特性線図である。さらに、図6(A)は変速段毎に得られる車両加速度の一例を示す特性線図であり、図6(B)は走行抵抗を加味して修正した車両加速度を示す特性線図である。なお、図6においては、エンジンブレーキによってマイナス側に発生する車両加速度(車両減速度)が示されている。
図4に示すように、CVT制御ユニット60は、トルク特性設定部80、加速度特性設定部81、最大加速度演算部82を備えている。トルク特性設定部80は、スロットル開度Toに基づき図5の特性線図を参照し、エンジントルクの出力特性線を設定する。ここで、アクセルペダルが踏み込まれていない場合には、スロットル開度Toが0であることから、図5に示す出力特性線L1が選択される。続いて、加速度特性設定部81は、エンジントルクの出力特性線L1と各変速段の変速比とに基づいて、図6(A)に示す車両加速度の特性線図を設定する。続いて、加速度特性設定部81は、走行抵抗を加味して図6(A)の車両加速度を修正し、図6(B)に示す車両加速度の特性線図を設定する。そして、最大加速度演算部82は、車速Vに基づき図6(B)の特性線図を参照し、車両加速度の最大値である最大加速度Gを演算する。
また、図4に示すように、CVT制御ユニット60は、基本設定率α’を演算する基本設定率設定部83を備えている。ここで、図7は基本設定率α’の一例を示す特性線図である。基本設定率設定部83は、アクセル開度Accと車速Vとに基づき図7の特性線図を参照し、基本設定率α’を設定する。また、CVT制御ユニット60は、勾配係数Ka1を設定する勾配係数設定部84、ブレーキ係数Ka2を設定するブレーキ係数設定部85、旋回係数Ka3を設定する旋回係数設定部86を備えている。ここで、図8は、勾配係数Ka1、ブレーキ係数Ka2、旋回係数Ka3の一例を示すテーブルデータである。図8に示すように、路面勾配Sが大きくなる程に勾配係数Ka1は小さく設定される一方、路面勾配Sが小さくなる程に勾配係数Ka1は大きく設定される。また、ブレーキ操作量Brkが大きくなる程にブレーキ係数Ka2は小さく設定される一方、ブレーキ操作量Brkが小さくなる程にブレーキ係数Ka2は大きく設定される。さらに、車両の横加速度Laが大きくなる程に旋回係数Ka3は小さく設定される一方、車両の横加速度Laが小さくなる程に旋回係数Ka3は大きく設定される。また、図4に示すように、CVT制御ユニット60は、第1設定率αを演算する第1設定率演算部87を備えている。第1設定率演算部87には、基本設定率α’、勾配係数Ka1、ブレーキ係数Ka2、旋回係数Ka3が入力されている。そして、第1設定率演算部87は、基本設定率α’および係数Ka1〜Ka3に基づき加速度係数としての第1設定率α(α=α’×Ka1×Ka2×Ka3)を演算し、この第1設定率αを要求加速度演算部88に対して出力する。
また、CVT制御ユニット60は、増加係数βを演算する増加係数演算部89を備えている。増加係数演算部89には、アクセル開度Accに応じた基本設定率β’、路面勾配Sに応じた勾配係数Kb1、ブレーキ操作量Brkに応じたブレーキ係数Kb2、横加速度Laに応じた旋回係数Kb3が入力されている。なお、基本設定率β’、勾配係数Kb1、ブレーキ係数Kb2および旋回係数Kb3は、前述した基本設定率α’、勾配係数Ka1、ブレーキ係数Ka2および旋回係数Ka3と同様の手順によって求められている。そして、増加係数演算部89は、基本設定率β’、勾配係数Kb1、ブレーキ係数Kb2および旋回係数Kb3に基づいて、増加係数β(β=β’×Kb1×Kb2×Kb3)を演算する。また、CVT制御ユニット60は、第2設定率(α×β)を演算する第2設定率演算部90を備えている。第2設定率演算部90には、前述した第1設定率αが入力されており、第2設定率演算部90は第1設定率αに増加係数βを乗じて加速度係数としての第2設定率(α×β)を演算する。そして、第2設定率演算部90は、第2設定率(α×β)を要求加速度演算部88に対して出力する。
さらに、CVT制御ユニット60は、第3設定率γを設定する第3設定率設定部91を備えている。第3設定率設定部91には、予め設定された基本設定率γ’と前述した第2設定率(α×β)が入力されている。そして、第3設定率設定部91は、基本設定率γ’と第2設定率(α×β)とを比較判定し、基本設定率γ’が第2設定率(α×β)を上回る場合には、基本設定率γ’を加速度係数である第3設定率γとして設定する。一方、基本設定率γ’が第2設定率(α×β)を下回る場合には、第2設定率(α×β)を上回る値を加速度係数である第3設定率γとして設定することになる。そして、第3設定率設定部91は、第3設定率γを要求加速度演算部88に対して出力する。
また、CVT制御ユニット60は、運転手のシフト操作回数を検出するシフト回数検出部92を備えている。シフト回数検出部92は、インヒビタスイッチ71の出力信号Dsに基づき、所定時間(例えば0.5秒)内におけるシフト操作回数(1回目のシフト操作,2回目のシフト操作,3回目のシフト操作)を検出し、検出されたシフト操作回数を要求加速度演算部88に出力する。そして、要求加速度演算部88は、シフト操作回数に応じた設定率(α,α×β,γ)を最大加速度Gに対して乗算し、車両に対する要求加速度Grを演算する。すなわち、要求加速度演算部88は、1回目のダウンシフト操作時に、最大加速度Gに第1設定率αを乗じて要求加速度Grを演算する。また、要求加速度演算部88は、2回目のダウンシフト操作時に、最大加速度Gに第2設定率(α×β)を乗じて要求加速度Grを演算する。さらに、要求加速度演算部88は、3回目のダウンシフト操作時に、最大加速度Gに第3設定率γを乗じて要求加速度Grを演算する。
また、CVT制御ユニット60は、要求変速段設定部93、現変速段検出部94、目標変速段設定部95を備えている。要求変速段設定部93は、要求加速度Grに最も近い車両加速度が得られる変速段(要求変速段)を設定し、この要求変速段を目標変速段設定部95に出力する。また、現変速段検出部94は、現在の変速段(現変速段)を検出し、この現変速段を目標変速段設定部95に出力する。そして、目標変速段設定部95は、要求変速段と現変速段とを比較判定した上で、変速可能な目標変速段を設定する。すなわち、要求変速段が現変速段よりもロー側の変速段である場合には、要求変速段をそのまま目標変速段として設定する。また、要求変速段と現変速段とが一致している場合、或いは要求変速段が現変速段よりもハイ側の変速段である場合には、現変速段よりも1段分ロー側の変速段を目標変速段として設定する。
そして、目標変速段設定部95によって設定された目標変速段は、変速制御部96の駆動回路を介して制御電流に変換される。この制御電流はプライマリ圧制御弁53やセカンダリ圧制御弁52に供給され、目標変速段に向けてダウンシフト制御が実行されることになる。このように、CVT制御ユニット60は、変速段設定手段、変速制御手段、最大加速度設定手段および係数設定手段として機能することになる。また、CVT制御ユニット60は、インヒビタスイッチ71と共に、運転手のシフト操作回数を検出するシフト操作検出手段としても機能することになる。なお、図3に示すように、車速領域によっては変速可能な変速段が制限されるため、現変速段が既にその車速領域における最もロー側の変速段に達している場合には、ダウンシフト操作が為されたとしてもダウンシフトが実行されることはない。
続いて、目標変速段を設定する際の手順について図を用いて説明する。ここで、図9は要求加速度Grに応じて目標変速段を設定する際の手順の一例を示す説明図である。なお、ダウンシフト操作時の車両状態としては、変速段が第7速であり、アクセルペダルが解放状態であり、車速がV1である。また、ダウンシフト操作時の車両状態(アクセル開度Acc,路面勾配S,ブレーキ操作量Brk,横加速度La)に基づき、第1設定率αは30%、第2設定率(α×β)は45%、第3設定率γは90%となっている。
図9に示すように、1回目のダウンシフト操作が行われた場合には、車速V1における最大加速度G1に第1設定率αが乗算され、要求加速度GrとしてGra1が設定される。そして、要求加速度Gra1に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第4速の変速段が設定される(符号Sa1)。ここで、現在の変速段が第7速であることから(符号Sa0)、要求変速段の第4速がそのまま目標変速段として設定され、第7速から第4速に2段飛ばしてダウンシフトが実行される。
また、所定時間内に続けて2回目のダウンシフト操作が行われた場合には、最大加速度G1に第2設定率(α×β)が乗算され、要求加速度GrとしてGra2が設定される。そして、要求加速度Gra2に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第3速の変速段が設定される(符号Sa2)。ここで、現在の変速段が第4速であることから、要求変速段の第3速がそのまま目標変速段として設定され、第4速から第3速にダウンシフトが実行される。
さらに、所定時間内に続けて3回目のダウンシフト操作が行われた場合には、最大加速度G1に第3設定率γが乗算され、要求加速度GrとしてGra3が設定される。そして、要求加速度Gra3に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第2速の変速段が設定される(符号Sa3)。ここで、現在の変速段が第3速であることから、要求変速段の第2速がそのまま目標変速段として設定され、第3速から第2速にダウンシフトが実行される。
続いて、他の例として車速がV2である場合のダウンシフト制御について説明する。ダウンシフト操作時の車両状態としては、変速段が第7速であり、アクセルペダルが解放状態であり、車速がV2である。また、ダウンシフト操作時の車両状態(アクセル開度Acc,路面勾配S,ブレーキ操作量Brk,横加速度La)に基づき、第1設定率αは40%、第2設定率(α×β)は64%、第3設定率γは90%となっている。
図9に示すように、1回目のダウンシフト操作が行われた場合には、車速V2における最大加速度G2に第1設定率αが乗算され、要求加速度GrとしてGrb1が設定される。そして、要求加速度Grb1に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第6速の変速段が設定される(符号Sb1)。ここで、現在の変速段が第7速であることから(符号Sb0)、要求変速段の第6速がそのまま目標変速段として設定され、第7速から第6速にダウンシフトが実行される。
また、所定時間内に続けて2回目のダウンシフト操作が行われた場合には、最大加速度G2に第2設定率(α×β)が乗算され、要求加速度GrとしてGrb2が設定される。そして、要求加速度Grb2に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第4速の変速段が設定される(符号Sb2)。ここで、現在の変速段が第6速であることから、要求変速段の第4速がそのまま目標変速段として設定され、第6速から第4速に1段飛ばしてダウンシフトが実行される。
さらに、所定時間内に続けて3回目のダウンシフト操作が行われた場合には、最大加速度G2に第3設定率γが乗算され、要求加速度GrとしてGrb3が設定される。そして、要求加速度Grb3に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第4速の変速段が設定される(符号Sb3)。ここで、現在の変速段と要求変速段とが共に第4速であることから、目標変速段として第3速が設定されることになるが、車速V2においては変速可能な最低変速段が第4速であるため、ダウンシフトを実行せずに第4速を維持することになる。
このように、マニュアルモードのダウンシフト制御においては、車速Vとアクセル開度Accとに基づき車両に対する要求加速度を設定し、この要求加速度に基づいて目標変速段を設定するようにしたので、ダウンシフト後に適切な車両加速度を得ることが可能となる。すなわち、車両加速度の観点から目標変速段を設定するようにしたので、ダウンシフトによって運転手の意図したエンジンブレーキを発生させることができ、車両品質を向上させることが可能となる。しかも、要求加速度に基づいて目標変速段を設定するため、ダウンシフト操作毎に1段ずつダウンシフトを実行するのではなく、必要に応じて変速段を飛ばしながらダウンシフトを実行することが可能となる。これにより、運転手に複数回のダウンシフト操作を強いることがなく、利便性を向上させることが可能となる。
また、アクセル開度Accに基づき要求加速度を設定する際に、路面勾配S、車両制動状態を示すブレーキ操作量Brk、車両旋回状態を示す横加速度Laを加味するようにしたので、車両に対する要求加速度をより適切に設定することが可能となる。図8に示すように、エンジンブレーキの発生を目的としたダウンシフト制御においては、路面勾配Sが大きくなる程に勾配係数Ka1を小さく設定している。これにより、大きなエンジンブレーキが必要とならない上り勾配においては、要求加速度Grを小さく設定してダウンシフト量を抑制することができ、エンジンブレーキの発生を抑制することが可能となる。
また、ブレーキ操作量Brkが大きくなる程にブレーキ係数Ka2が小さく設定されている。すなわち、ブレーキペダルが踏み込まれた場合には、要求加速度Grを小さく設定してダウンシフト量を抑制することができ、エンジンブレーキの発生を抑制することが可能となる。これにより、車両制動に対するエンジンブレーキの影響度を引き下げることができ、車両の制動状態を容易にコントロールすることが可能となる。さらに、横加速度Laが大きくなる程に旋回係数Ka3が小さく設定されている。すなわち、車両が旋回状態である場合には、要求加速度Grを小さく設定してダウンシフト量を抑制することが可能となる。これにより、車両旋回時においては駆動トルクの変動を抑制することができるため、車両の安定性を向上させることが可能となる。
また、前述の説明では、アクセルペダルを解放した状態のもとでのダウンシフト制御、つまりエンジンブレーキの発生を目的としたダウンシフト制御について説明したが、これに限られることはなく、アクセルペダルを踏み込んだ状態のもとでのダウンシフト制御、つまり車両加速度の増大を目的としたダウンシフト制御についても本発明を有効に適用することが可能となる。ここで、図10(A)は変速段毎に得られる車両加速度の一例を示す特性線図であり、図10(B)は走行抵抗を加味して修正した車両加速度を示す特性線図である。なお、図10においては、アクセルペダルの踏み込みによってプラス側に発生する車両加速度が示されている。
まず、CVT制御ユニット60のトルク特性設定部80は、スロットル開度Toに基づき図5の特性線図を参照することにより、エンジントルクの出力特性線を設定する。ここで、アクセルペダルが踏み込まれている場合には、スロットル開度Toに基づき図5を参照することにより、エンジントルクの出力特性線(例えばL2)が選択される。続いて、加速度特性設定部81は、エンジントルクの出力特性線L2と各変速段の変速比とに基づいて、図10(A)に示す車両加速度の特性線図を設定する。続いて、加速度特性設定部81は、走行抵抗を加味して図10(A)の車両加速度を修正し、図10(B)に示す車両加速度の特性線図を設定する。そして、最大加速度演算部82は、車速Vに基づき図10(B)の特性線図を参照し、車両加速度の最大値である最大加速度Gを演算する。
また、CVT制御ユニット60は、前述したダウンシフト制御と同様の手順に従って、第1設定率α、第2設定率(α×β)、第3設定率γを演算し、これらを最大加速度Gに乗じて要求加速度Grを演算する。そして、CVT制御ユニット60は、要求加速度Grに基づき要求変速段を設定するとともに、この要求変速段と現変速段とを比較判定した上で、変速可能な目標変速段を設定することになる。なお、図11は、アクセルペダルが踏み込まれた状況において参照される勾配係数Ka1の一例を示すテーブルデータである。図11に示すように、路面勾配Sが大きくなる程に勾配係数Ka1は大きく設定される一方、路面勾配Sが小さくなる程に勾配係数Ka1は小さく設定されている。また、ブレーキ係数Ka2や旋回係数Ka3は、図8に示すテーブルデータを用いて設定されている。
続いて、目標変速段を設定する際の手順について図を用いて説明する。ここで、図12は要求加速度Grに応じて目標変速段を設定する際の手順の一例を示す説明図である。なお、ダウンシフト操作時の車両状態としては、変速段が第7速であり、アクセルペダルが踏み込まれた状態であり、車速VがV3である。また、ダウンシフト操作時の車両状態(アクセル開度Acc,路面勾配S,ブレーキ操作量Brk,横加速度La)に基づき、第1設定率αは50%、第2設定率(α×β)は75%、第3設定率γは90%となっている。
図12に示すように、1回目のダウンシフト操作が行われた場合には、車速V3における最大加速度G3に第1設定率αが乗算され、要求加速度GrとしてGrc1が設定される。そして、要求加速度Grc1に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第3速の変速段が設定される(符号Sc1)。ここで、現在の変速段が第7速であることから(符号Sc0)、要求変速段の第3速がそのまま目標変速段として設定され、第7速から第3速に3段飛ばしてダウンシフトが実行される。
また、所定時間内に続けて2回目のダウンシフト操作が行われた場合には、最大加速度G3に第2設定率(α×β)が乗算され、要求加速度GrとしてGrc2が設定される。そして、要求加速度Grc2に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第2速の変速段が設定される(符号Sc2)。ここで、現在の変速段が第3速であることから、要求変速段の第2速がそのまま目標変速段として設定され、第3速から第2速にダウンシフトが実行される。
さらに、所定時間内に続けて3回目のダウンシフト操作が行われた場合には、最大加速度G3に第3設定率γが乗算され、要求加速度GrとしてGrc3が設定される。そして、要求加速度Grc3に最も近い車両加速度が得られる要求変速段として第2速の変速段が設定される(符号Sc3)。ここで、現在の変速段と要求変速段とが共に第2速であることから、目標変速段として第1速が設定されることになるが、車速V3においては変速可能な最低変速段が第2速であるため、ダウンシフトを実行せずに第2速を維持することになる。
このように、マニュアルモードのダウンシフト制御においては、車速Vとアクセル開度Accとに基づき車両に対する要求加速度を設定し、この要求加速度に基づいて目標変速段を設定するようにしたので、ダウンシフト後に適切な車両加速度を得ることが可能となる。すなわち、車両加速度の観点から目標変速段を設定するようにしたので、ダウンシフトによって運転手の意図した車両加速状況を得ることができ、車両品質を向上させることが可能となる。しかも、要求加速度に基づいて目標変速段を設定するため、ダウンシフト操作毎に1段ずつダウンシフトを実行するのではなく、必要に応じて変速段を飛ばしながらダウンシフトを実行することが可能となる。これにより、運転手に複数回のダウンシフト操作を強いることがなく、利便性を向上させることが可能となる。
また、アクセル開度Accに基づき要求加速度を設定する際に、路面勾配S、車両制動状態を示すブレーキ操作量Brk、車両旋回状態を示す横加速度Laを加味するようにしたので、車両に対する要求加速度をより適切に設定することが可能となる。図11に示すように、車両加速度の増大を目的としたダウンシフト制御においては、路面勾配Sが大きくなる程に勾配係数Ka1を大きく設定している。すなわち、大きな車両加速度が必要となる上り勾配においては、要求加速度Grを大きく設定してダウンシフト量を増大させることができ、車両加速度を増大させることが可能となる。
また、ブレーキ操作量Brkが大きくなる程にブレーキ係数Ka2が小さく設定されている。すなわち、ブレーキペダルが踏み込まれた場合には、要求加速度Grを小さく設定してダウンシフト量を抑制することができ、車両の加速力を低く抑えることが可能となる。これにより、車両制動に相反する加速力を抑制することができ、車両の制動状態を容易にコントロールすることが可能となる。さらに、横加速度Laが大きくなる程に旋回係数Ka3が小さく設定されている。すなわち、車両が旋回状態である場合には、要求加速度Grを小さく設定してダウンシフト量を抑制することが可能となる。これにより、車両旋回時においては駆動トルクの変動を抑制することができるため、車両の安定性を向上させることが可能となる。
続いて、前述したマニュアルモードにおける変速制御の手順をフローチャートに沿って説明する。ここで、図13はマニュアルモードにおける変速制御の手順の一例を示すフローチャートである。図13に示すように、ステップS1ではアップシフト操作されているか否かが判定される。ステップS1において、アップシフト操作されていると判定された場合には、ステップS2に進み、変速可能であるか否かが判定される。ステップS2において、現変速段が第1速〜第6速の変速段であり、変速可能であると判定された場合には、ステップS3に進み、ハイ側に変速段を1段切り換えるアップシフトが実行される。一方、ステップS2において、現変速段が第7速であり、変速不可能であると判定された場合には、アップシフトを実行することなくルーチンを抜ける。
また、ステップS1において、アップシフト操作されていないと判定された場合には、ステップS4に進み、ダウンシフト操作されているか否かが判定される。ステップS4において、ダウンシフト操作されていないと判定された場合には、そのままルーチンを抜ける。一方、ステップS4において、ダウンシフト操作されていると判定された場合には、ステップS5に進み、アップシフト操作の操作回数が判定される。そして、ステップS5において、1回目のアップシフト操作であると判定された場合には、ステップS6に進み、最大加速度Gに第1設定率αを乗じて要求加速度Grが演算される。
次いで、ステップS7において要求加速度Grに基づき要求変速段が設定され、ステップS8において要求変速段と現変速段とが比較判定される。要求変速段と現変速段とが一致している場合、或いは要求変速段が現変速段よりもハイ側の変速段である場合には、ステップS9に進み、要求変速段よりも1段ロー側に変速可能であるか否かが判定される。ステップS9において、変速可能であると判定された場合には、ステップS10に進み、現変速段よりも1段ロー側に目標変速段が設定され、この目標変速段に基づいてダウンシフトが実行される。一方、ステップS9において、変速不可能であると判定された場合には、ダウンシフトを実行することなくルーチンを抜ける。
一方、ステップS8において、要求変速段が現変速段よりもロー側の変速段である場合には、ステップS11に進み、要求変速段に対して変速可能であるか否かが判定される。ステップS11において、要求変速段に対して変速可能であると判定された場合には、ステップS12に進み、要求変速段がそのまま目標変速段として設定され、この目標変速段に基づいてダウンシフトが実行される。一方、ステップS11において、要求変速段に対する変速が不可能であると判定された場合には、ステップS13に進み、変速可能な変速段が目標変速段として設定され、この目標変速段に基づいてダウンシフトが実行される。
また、ステップS5において、2回目のアップシフト操作であると判定された場合には、ステップS14に進み、最大加速度Gに第2設定率(α×β)を乗じて要求加速度Grが演算される。そして、ステップS7において、要求加速度Grに基づき要求変速段が設定され、ステップS8以降の手順に従って、前述したダウンシフト制御が実行されることになる。さらに、ステップS5において、3回目のアップシフト操作であると判定された場合には、ステップS15に進み、最大加速度Gに第3設定率γを乗じて要求加速度Grが演算される。そして、ステップS7において、要求加速度Grに基づき要求変速段が設定され、ステップS8以降の手順に従って、前述したダウンシフト制御が実行されることになる。
また、前述の説明では、1回目のダウンシフト操作が為されたときに、最大加速度Gに第1設定率αを乗じて要求加速度Grを設定しているが、走行状況によっては、1回目のダウンシフト操作が為されたときに、最大加速度Gに第2設定率(α×β)や第3設定率γを乗じて要求加速度Grを設定しても良い。例えば、ナビゲーションシステム72から入力されるカーブ情報や、カメラシステム73から入力される車間距離情報に基づいて、減速が推奨される走行状況が検出された場合には、最大加速度Gに第2設定率(α×β)や第3設定率γを乗じて要求加速度Grを大きく演算し、ダウンシフト量を増大させてエンジンブレーキを大きく発生させるようにしても良い。
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、マニュアルモードを備えた無段変速機10について説明しているが、これに限られることはなく、マニュアルモードを備えた遊星歯車式や平行軸式の自動変速機に対して本発明を適用しても良い。また、前述の説明では、ダウンシフト制御に対して本発明を適用しているが、これに限られることはなく、アップシフト制御に対して本発明を適用しても良い。
また、前述の説明では、第1設定率αおよび第2設定率(α×β)を演算によって求め、第3設定率γを予め設定しているが、第1設定率αおよび第2設定率(α×β)を予め設定しても良く、第3設定率γを演算しても良い。さらに、前述の説明では、ブレーキ操作量Brkを用いてブレーキ係数Ka2を設定しているが、ブレーキ配管の圧力に基づいてブレーキ係数Ka2を設定しても良い。さらに、横加速度Laを用いて旋回係数Ka3を設定しているが、ステアリングの舵角や各車輪の回転数差に基づいて旋回係数Ka3を設定しても良い。なお、アクセル開度Accやスロットル開度Toを用いて各種制御を実施しているが、アクセル開度Accに代えてスロットル開度Toを用いても良く、スロットル開度Toに代えてアクセル開度Accを用いても良い。