図1は、本発明の一実施形態による液体吐出ヘッドを含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端にヘッド本体13を有している。ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の液体吐出孔8が設けられている(図4参照)。
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた液体吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2の液体吐出孔8は一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成するヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成するヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示されたヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、ヘッド本体13の一部である。図4は、図3と同じ位置の拡大透視図で、液体吐出孔8の位置が分かりやすいように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき液体加圧室10(液体加圧室群9)、しぼり12および液体吐出孔8を実線で描いている。図5は図3のV−V線に沿った縦断面図である。
ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、圧電アクチュエータユニット21とを有している。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
流路部材4内に形成されたマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド(共通流路)5aということがあり、開口5bから副マニホールド5aまでのマニホールド5を液体供給路5cということがある)。開口5bに繋がる液体供給路5cは、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接してヘッド本体13の長手方向に延在している。
すなわち、副マニホールド(共通流路)5aの両端は、液体供給路5cに繋がっている。また、詳細は後述するが、副マニホールド(共通流路)5aは中央部分の断面積が、両端部分の断面積よりも大きくなっている。断面積は、副マニホールド(共通流路)5aの深さを変えることにより変えられている。また、液体供給路5cの断面積は、副マニホールド(共通流路)5aの端の断面積より大きくなっている。なお、図3においては、副マニホールド(共通流路)5aの端が2つの液体供給路5cに繋がっているものがあるが、このような場合は、それらの液体供給路5cの合計の断面積が副マニホールド(共通流路)5aの端の断面積よりも大きくなっているということである。これは、副マニホールド(共通流路)5aの端に3つ以上の液体供給路5cが繋がっている場合も同様である。
流路部材4は、複数の液体加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの液体加圧室群9を有している。液体加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。液体加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの液体加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの液体加圧室10によって形成された各液体加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各液体加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった液体加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
全体では、マニホールド5から繋がる液体加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ液体加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている。各液体加圧室列に含まれる液体加圧室10の数は、圧電アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。液体吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。
つまり、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように液体吐出孔8を投影すると、図3に示した仮想直線のRの範囲に、各副マニホールド5a繋がっている4つの液体吐出孔8、つまり全部で16個の液体吐出孔8が600dpiの等間隔になっている。また、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路32が接続されている。これは、600dpi分の液体吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路32が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路32が形成されている。
圧電アクチュエータユニット21の上面における各液体加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は液体加圧室10より一回り小さく、液体加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
流路部材4の下面の液体吐出面には多数の液体吐出孔8が形成されている。これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの液体吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されている。これらの液体吐出孔は、1つの群として圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより液体吐出孔8から液滴が吐出できる。液体吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の液体吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30およびノズルプレート31である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路32および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体13は、図5に示されているように、液体加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、液体吐出孔8は下面にと、個別流路32を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、液体加圧室10を介して副マニホールド5aと液体吐出孔8とが繋がる構成を有している。
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された液体加圧室10である。第2に、液体加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
第3に、液体加圧室10の他端から液体吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には液体加圧室10の出口)からノズルプレート31(詳細には液体吐出孔8)までの各プレートに形成されている。また、液体加圧室10とディセンダを合わせて、ノズル流路と呼ぶ。
第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜29に形成されている。なお、副マニホールド5aの位置によっては、マニホールドプレート29には孔が形成されていない部分があり、これにより、副マニホールド5aの断面積が変えられている。
このような連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から液体吐出孔8に至る個別流路32を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で液体吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、液体加圧室10の一端部に至る。さらに、液体加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、液体加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した液体吐出孔8へと進む。
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータユニット21全体の厚さは40μm程度である。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の液体加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
圧電アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34およびとAu系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータユニット21の上面における液体加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、液体加圧室10と対向する領域外に引き出されて接続電極36が形成されている。この接続電極36は例えばガラスフリットを含む銀−パラジウムからなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極36は、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100からFPCを通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての液体加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に、FPC上の別の電極と接続されている。
図5に示されるように、共通電極34と個別電極35とは、最上層の圧電セラミック層21bのみを挟むように配置されている。圧電セラミック層21bにおける個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域は活性部と呼称され、その部分の圧電セラミックスには分極が施されている。本実施形態の圧電アクチュエータユニット21においては、最上層の圧電セラミック層21bのみが活性部を含んでおり、圧電セラミック21aは活性部を含んでおらず、振動板として働く。この圧電アクチュエータユニット21はいわゆるユニモルフタイプの構成を有している。
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより、この個別電極35に対応する液体加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路32を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータユニット21における各液体加圧室10に対向する部分は、各液体加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする圧電アクチュエータである変位素子50が液体加圧室10毎に、液体加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には加圧部である変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pl(ピコリットル)程度である。
多数の個別電極35は、個別に電位を制御することができるように、それぞれがFPCおよび配線を介して、個別に制御部100に電気的に接続されている。
本実施形態における圧電アクチュエータユニット21においては、個別電極35を共通電極34と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この時圧電セラミック層21bは、その厚み方向すなわち積層方向に伸長または収縮し、圧電横効果により積層方向と垂直な方向すなわち面方向には収縮または伸長しようとする。一方、残りの圧電セラミック層21aは、個別電極35と共通電極34とに挟まれた領域を持たない非活性層であるので、自発的に変形しない。つまり、圧電アクチュエータユニット21は、上側(つまり、液体加圧室10とは離れた側)の圧電セラミック層21bを、活性部を含む層とし、かつ下側(つまり、液体加圧室10に近い側)の圧電セラミック層21aを非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプの構成となっている。
この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部100により個別電極35を共通電極34に対して正または負の所定電位とすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21bは液体加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
本実施の形態における実際の駆動手順は、予め個別電極35を共通電極34より高い電位とする第1の電圧V1V(ボルト、以下で省略することがある)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極35を共通電極34とを一旦、第1の電圧V1よりも低い第2の電圧を加えて低電位、例えば同じ電位にし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極35が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21a、bが元の形状に戻り、液体加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。このとき、液体加圧室10内に負圧が与えられ、液体がマニホールド5側から液体加圧室10内に吸い込まれる。その後再び個別電極35を高電位にしたタイミングで、圧電セラミック層21a、bが液体加圧室10側へ凸となるように変形し、液体加圧室10の容積減少により液体加圧室10内の圧力が正圧となり液体への圧力が上昇し、液滴が吐出される。つまり、液滴を吐出させるため、高電位を基準とするパルスを含む駆動信号を個別電極35に供給することになる。このパルス幅は、液体加圧室10内において圧力波がマニホールド5から液体吐出孔8まで伝播する時間長さであるAL(Acoustic Length)が理想的である。これによると、液体加圧室10内部が負圧状態から正圧状態に反転するときに両者の圧力が合わさり、より強い圧力で液滴を吐出させることができる。
また、階調印刷においては、液体吐出孔8から連続して吐出される液滴の数、つまり液滴吐出回数で調整される液滴量(体積)で階調表現が行われる。このため、指定された階調表現に対応する回数の液滴吐出を、指定されたドット領域に対応する液体吐出孔8から連続して行なう。一般に、液体吐出を連続して行なう場合は、液滴を吐出させるために供給するパルスとパルスとの間隔をALとすることが好ましい。これにより、先に吐出された液滴を吐出させるときに発生した圧力の残余圧力波と、後に吐出させる液滴を吐出させるときに発生する圧力の圧力波との周期が一致し、これらが重畳して液滴を吐出するための圧力を増幅させることができる。なお、この場合後から吐出される液滴の速度が速くなると考えられるが、その方が複数の液滴の着弾点が近くなり好ましい。
そして、制御部100は、このような駆動信号を液体吐出ヘッド2の各変位素子50に繰り返し送ることにより、画像を印刷することができる。1つの画素を形成するために、液滴を吐出する駆動信号、および液滴を吐出しない際の不吐出の駆動信号(単に信号が送られない場合も含む)は、各変位素子50は一定の周期で送られ、その周期を駆動周期、その周波数を駆動周波数と呼ぶ。1つの画素を形成するための駆動信号と次の画素を形成するための駆動信号との時間間隔は、駆動周期になる。
そして、最初の1つの画素を形成するための駆動信号が加わった後には、液体加圧室10と液体吐出孔8とを繋ぐディセンダとを合わせたノズル流路内の液体は、ノズル流路内の液体の体積固有振動周期で振動し、圧電アクチュエータである変位素子50は、変位素子50の固有振動周期で振動している。続いて、次の画素を形成するための駆動信号が加わると、前述と同様の液体の振動が起きて、液滴が吐出されることになる。この際、変位素子50においては、変位素子50に残っている振動があるため、駆動開始の初期状態が異なるため、変位の仕方が変化し、ノズル流路においては、ノズル流路内の液体に残っている振動があるため、この振動の影響で吐出特性に変動が生じることがある。
このことについて、図6を用いて詳述する。図6(a)は、本発明の液体吐出ヘッドの駆動波形であり、(b)は、(a)の駆動波形を加えた際の圧電アクチュエータである変位素子50の変位であり、(c)は、(a)の駆動波形を加えた際のノズル流路内の液体の体積速度である。なお、図6(b)の変位は、液体加圧室10の体積が増える変位を正としている。図6(c)の体積速度は、液体吐出孔8から外部に向かう方向を正としている。また、図6(b)においては、分かりやすくするため、変位素子50の残留振動の振幅を、実際のものよりも大きくして示している。
図6(a)の駆動波形では、変位素子50に第1の電圧V1を加えて変位素子50をd1μm(ミクロン、以下で省略することがある)に変位させ、液体加圧室10を体積の小さい第1の状態にして待機した後、変位素子50に第2の電圧V2を加えて、変位素子50をd2に変位させ、液体加圧室を前記第1の状態よりも体積が大きい第2の状態にした後、変位素子50に第1の電圧V1を加えて液体加圧室を第1の状態にしている。
このとき、電圧V1から電圧V2に変化し始めたときから、電圧V2から電圧V1に変化し始めるときまでの時間をT1μ秒(マイクロ秒、以下で省略することがある)とし、電圧V2から電圧V1に変化し始めてから、電圧V1になるまでの時間をTrとする。また、この駆動波形の後、次の画素を形成するために次の駆動波形を加える際の、最初の駆動波形の電圧V1から電圧V2に変化し始めたときから、次の駆動波形の電圧V1から電圧V2に変化し始めたときまでの時間をT2とする。
図6(b)の変位素子50の変位では、最初、第1の電圧V1が加わっていることで、変位d1μm(マイクロメートル、以下で省略することがある)で保持されている。その後、第2の電圧V2が加わることで、変位d2まで変位した後、圧電アクチュエータの固執振動周期Taで振動する。なお、このままの電圧で放置した場合、変位はd2に収束する。以下でこのような状態で振動することを、変位d2を中心に振動すると言う。その後、電圧V1が加わると、変位d1を中心に振動し、さらに、次の駆動信号の第2の電圧V2が加わると、変位d2を中心に振動する。
この際の第2の電圧V2に変わり始めてから第1の電圧V1にまで変わるまでの時間が、立ち上がり時間Trである。Trは、正確には、V2からV1への電圧変化の95%が終了するまでの時間である。
図6(c)のノズル流路内の液体の体積速度では、第2の電圧V2が加わることで、振動周期Tnの振動が生じる。この振動が半周期(Tn/2)したところで、第1の電圧V1を加えることで、引き打ちの動作が行なわれるが、実際には、完全に半周期である必要はない。図6(c)では、第2の電圧V2から第1の電圧V1に戻る電圧をくわえなかった場合の体積速度を点線で示してある。図6(c)では、第2の電圧V2から第1の電圧V1にもどる電圧を、Tn/2となるよりも早く加えている。これにより駆動電圧を加え始めてからT1後の時点を起点とする振動周期Tnの振動が生じる。
以上の状況において、最初の駆動信号が加わってから、T2後に次の駆動信号が加わる状態について説明する。
ノズル流路内の液体は、最初の駆動信号の第2の電圧V2から第1の電圧に変わり始める時点を起点に振動する。したがって、次の駆動信号が加わった際に、振動の(T2−T1)/Tnの状態となっており、次の吐出動作時と位相が逆になって吐出速度が高くなる。つまり、ノズル流路内の液体の体積速度が負に向かっている場合、すなわち(T2−T1)/Tnの小数部分の0.250以上0.750未満である場合、液滴の吐出速度が増速することになる。また、液滴の速度が速くなると、1つの液滴内の前部と後部とで速度差があると、速度差の割合は同じであっても、速度差の値は大きくなるため、1つの液滴内の前部と後部とで速度差により分滴する可能性が高くなる。
圧電アクチュエータの変位の振動は、最初の駆動信号の第2の電圧V2から第1の電圧に変わった時点を起点に振動する。したがって、次の駆動信号が加わった際に、振動の(T2−T1−Tr)の状態となっている。この状態では液滴が分滴する可能性が高くなる。これは、次の駆動信号が同位相であるため、逆位相である場合よりも、変位素子50の変位速度が速くなることに原因があると考えられる。すなわち、前述の変位素子50の変位速度が速くなったことにより、吐出される液滴の前部の速度が速くなり、液滴の後部より速い為に分滴しやすくなると考えられる。
以上の点から、(T2−T1)/Tnの小数部分を0.250以上0.750未満とし、(T2−T1−Tr)/Taの小数部分を0.000以上0.250未満または0.750以上1.000未満となるように駆動信号を制御することにより、ノズル流路内の液体および圧電アクチュエータに残留振動が残っていても、次の吐出に与える影響を少なくすることができる。このような駆動方法は、残留振動の影響が大きくなる駆動周期が40kHz以上である場合に特に有用である。また、残留振動の影響が大きくなる、(T2−T1)/Tnの値が2.750未満である場合に特に有用である。さらに、残留振動の影響が大きくなる、(T2−T1)/Tnの値が15.000未満である場合に特に有用である。
なお、以上の説明では、1つの画素を形成するための駆動波形が、電圧をV1→V2→V1と変化させる例を示した。しかし、これ以外にも、電圧をV1→V2→V1→V2→V1と変化させて、2つの液滴を吐出させて、近傍に着弾させることで1つの画素を形成する駆動波形や、電圧をV1→V2→V1と変化させることで、液滴を吐出させた後、ノズル流路の残留振動を少なくするために、電圧をV1→V2→V1と変化させるキャンセル波形を加える駆動波形も考えられる。さらに、3滴以上の液滴を吐出したり、複数の液滴を吐出する波形とキャンセル波形を組み合わせた駆動波形も考えられる。そのような駆動波形であっても上述の場合と同様に残留振動の影響を少なくさせることができる。
すなわち、圧電アクチュエータに第1の電圧V1を加えて、液体加圧室10を第1の状態にして待機した後、圧電アクチュエータに第2の電圧V2を加えて、前記液体加圧室を第1の状態よりも体積が大きい第2の状態にした後、圧電アクチュエータに第2の電圧V2と第1の電圧V1とを交互に加えて、最後に圧電アクチュエータに第1の電圧を加えて前記液体加圧室を第1の状態にすることより前記液体加圧室内および前記部分流路内の液体を吐出して1つの画素を形成する際に、ノズル流路の中の液体の体積固有振動周期をTn(μ秒)とし、圧電アクチュエータの固有振動周期をTa(μ秒)とし、最初に第1の電圧V1から第2の電圧V2へ変わり始めてから、最後に第2の電圧V2から第1の電圧V1に変わり始めるまでの第1の時間をT1(μ秒)とし、最後に第2の電圧V2から第1の電圧V1に変わり始めてから、第1の電圧V1になるまでの時間をTr(μ秒)とし、最初に第1の電圧V1から第2の電圧V2へ変わり始めてから、1つの画素を形成した後、後、次の画素を形成するために、次の駆動信号として、第1の電圧V1から第2の電圧V2へ変わり始めるまでの時間をT2(μ秒)としたとき、(T2−T1)/Tnの小数部分を0.250以上0.750未満とし、(T2−T1−Tr)/Taの小数部分を0.000以上0.250未満または0.750以上1.000未満とすればよい。
また、TaおよびTnは、例えば、次のように算出すればよい。
Ta=2π(MaCa)1/2
Tn=2π〔(Ca+Cc)/{1/Ms+1/(Md+Mn)}〕1/2
Ma:圧電アクチュエータのイナータンス
Ms:しぼりのイナータンス
Md:ディセンダのイナータンス
Mn:液体吐出孔(ノズル)のイナータンス
Ca:圧電アクチュエータのコンプライアンス
Cc:液体加圧室のコンプライアンス
各イナータンスMおよびコンプライアンスCは、次のように算出すればよい。
M=ρL/S
C=W/ρc2
ρ:密度(kg/m3)
L:長さ(m)
S:断面積(m2)
W:体積(m3)
c:音速(m/s)
以上のような液体吐出ヘッド2は、例えば、以下のようにして作製する。
ロールコータ法、スリットコーター法などの一般的なテープ成形法により、圧電性セラミック粉末と有機組成物からなるテープの成形を行ない、焼成後に圧電セラミック層21a、21bとなる複数のグリーンシートを作製する。グリーンシートの一部には、その表面に共通電極34となる電極ペーストを印刷法等により形成する。また、必要に応じてグリーンシートの一部にビアホールを形成し、その内部にビア導体を挿入する。
ついで、各グリーンシートを積層して積層体を作製し、加圧密着を行なう。加圧密着後の積層体を高濃度酸素雰囲気下で焼成し、その後有機金ペーストを用いて焼成体表面に個別電極35を印刷して、焼成した後、Agペーストを用いて接続電極36を印刷し、焼成することにより、圧電アクチュエータユニット21を作製する。
次に、流路部材4を、圧延法等により得られプレート22〜31を積層して作製する。プレート22〜31に、マニホールド5、個別供給流路6、液体加圧室10およびディセンダなどとなる孔を、エッチングにより所定の形状に加工する。
これらプレート22〜31は、Fe―Cr系、Fe−Ni系、WC−TiC系の群から選ばれる少なくとも1種の金属によって形成されていることが望ましく、特に液体としてインクを使用する場合にはインクに対する耐食性の優れた材質からなることが望ましいため、Fe−Cr系がより好ましい。
圧電アクチュエータ21と流路部材4とは、例えば接着層を介して積層接着することができる。接着層としては、周知のものを使用することができるが、圧電アクチュエータ21や流路部材4への影響を及ぼさないために、熱硬化温度が100〜150℃のエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂の群から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂系の接着剤を用いるのがよい。このような接着層を用いて熱硬化温度にまで加熱することによって、圧電アクチュエータ21と流路部材4とを加熱接合することができる。液体吐出ヘッド2を得る。
この後、圧電アクチュエータ上21の接続電極36にFPCなどの一端の電極を接合し、そのFPCの他端を制御部100に接続し、液体吐出装置を得る。
図2〜5に示した構造の液体吐出ヘッドを、流路の寸法や圧電アクチュエータの厚みを変えて表2に示した液体吐出ヘッドA〜Eを作製し、図6(a)に示した駆動信号を40〜60kHzの駆動周期および表2示したT1で与えて、吐出特性を評価した。吐出特性は、吐出速度および飛翔中の液滴を撮影することにより液滴が1つにならない分滴が生じるかどうかを評価した。吐出速度については、1滴の吐出を行なった場合の吐出速度に対する、連続して吐出を行なって吐出速度が一定になってからの吐出速度の比率を示した。
なお、Trは全て1μ秒であり、T2μ秒は、駆動周波数がXkHzの場合、T2=1000/Xとなる。また、(T2−T1)/Tnの小数部分と(T2−T1−Tr)/Taの小数部分との組合せがどのモードにあたるかを表3に示した。
表1から分かるように、駆動波形が同じであっても、駆動周波数が違う、すなわちT2が違うことにより、吐出特性は大きく異なり、残留振動の影響が大きいことがわかる。
本発明の駆動方法であるモード2である駆動方法、すなわち(T2−T1)/Tnの小数部分を0.250以上0.750未満とし、(T2−T1−Tr)/Taの小数部分を0.000以上0.250未満または0.750以上1.000未満である駆動波形を与えたものは、吐出速度比が92〜108%と、単独で吐出する際と連続で吐出する際の変化が少なく、分滴せずに吐出することができた。
図7(a)は、(T2−T1)/Tnの小数部分の値と吐出速度比と関係を示したもので、0以上0.250未満または0.750以上1.000未満である本発明以外の駆動方法であるモード3および4では、吐出速度が高くなる傾向があった。また、図7(b)は、モード1および2である駆動波形について、(T2−T1−Tr)/Taの小数部分と分滴したかどうかを示したもので、0.250以上0.750未満である本発明以外の駆動方法であるモード1では分滴する傾向があった。
また、40kHz以上ではT2は25μ秒以下となり、液体吐出ヘッドA〜Eでは、(T2−T1)/Tnは2.750未満、(T2−T1−Tr)/Taは15.000未満となっている。