本発明は、燃料電池システムに係り、特に、燃料電池への反応物質供給の過渡応答性を向上させた燃料電池システムに関する。
燃料ガスとして水素ガス、酸化剤ガスとして空気を用いる固体高分子型燃料電池において、燃料電池の負荷が急増する場合に、燃料電池のカソード内部の残留ガスの排出を促進するように、カソード調圧弁を制御する燃料電池システムが知られている(例えば、特許文献1)。特にカソード酸素濃度を推定し、酸素濃度が低いと推定される場合には、調圧弁が閉じる速度を低下させてカソードの昇圧を遅らせ、酸素濃度の低いガスを早くカソード内から排出することにより、燃料電池出力の負荷過渡応答性を向上させようとしている。
特開2005−339845号公報(第17頁、図6)
しかしながら、上記従来技術にあっては、圧力制御系に外乱が印加されたり、システムの特性変動等が生じた場合には、カソード圧力が目標値から乖離してしまい、アノードとカソードとの差圧が大きくなり、固体高分子燃料電池の膜電極接合体(MEA)に過大な応力がかかり、膜電極接合体を劣化させる虞があるという問題点があった。
上記問題点を解決するために、本発明は、燃料電池システム制御手段に、システム要求目標値生成手段と、目標値生成手段と、操作量生成手段とを有する。
システム要求目標値生成手段は、燃料電池に対する負荷要求に応じて、燃料電池の反応物質の第1の状態量の目標値である第1目標値と、第1の状態量とは異なる第2の状態量の目標値である第2目標値とを生成する。
目標値生成手段は、第1目標値と第2目標値とに基づいて、第1目標値の修正値である修正第1目標値および第2目標値の修正値である修正第2目標値を生成する。操作量生成手段は、修正第1目標値と修正第2目標値とに基づいて、第1操作量と第2操作量とを演算する。
目標値生成手段は、修正第1目標値が第1目標値に一致あるいは近似するように修正第1目標値を生成し、且つ修正第2目標値が第2目標値に一致あるいは近似するように修正第2目標値を生成するとともに、修正第2目標値と第2目標値の乖離度合いに応じて、第1目標補正値を生成する第1目標補正値生成手段を備え、第1目標補正値生成手段が生成した第1目標補正値と第1目標値とに基づいて修正第1目標値を生成することを要旨とする。
上記構成の本発明によれば、燃料電池負荷が急増するような場合、例えば空気の圧力と流量の2つの状態量を小さい値から大きい値に変化させる場合に、圧力制御系に外乱が印加されたり、システムの特性変動等が生じた場合には、カソード圧力が目標値から乖離して、アノードとカソードとの差圧の増大を防止することができる。この結果、固体高分子燃料電池の膜電極接合体(MEA)に過大な応力がかかり、膜電極接合体を劣化させることを防止することができるという効果がある。
本発明は、燃料電池へ供給する反応物質の状態量を目標値に近づけつつ、外乱や特性変動がない場合は、過渡状態などにおける操作量もしくは操作量に関連した値が所望の値になるような状態量の修正目標値を生成し、外乱や特性変動が生じた場合には、操作量もしくは操作量に関連した値を所望の値にすることよりも外乱や特性変動が反応物質の状態量に与える影響を小さくし、反応物質状態量を目標値に近づけるための操作量を生成できる燃料電池システムを開示する。
本発明によれば、測定された状態量を目標値に近づける操作量生成部をなんら変更することなく、目標値を生成することができるため、該操作量生成部の特徴を活かすことができる。該操作量生成部がフィードバック制御系である場合は、フィードバック制御系のロバスト性や目標値追従性能を活かすことができるようになる。そのため、目標値の変化時間を外乱や特性変動の影響を考慮せずに行えるため、従来技術よりも迅速に反応物質の状態量を変化させることができる。
参考例
次に、図面を参照して、本発明の参考例を詳細に説明する。参考例において、システム要求目標値生成部は、燃料電池の反応物質の第1の状態量の目標値である第1目標値と、第1の状態量とは異なる第2の状態量の目標値である第2目標値と、反応物質供給手段の操作量である第1操作量と反応物質状態量調整手段の操作量である第2操作量との少なくとも一方に関連した操作関連量の希望量である希望操作関連量とを生成する。目標値生成部は、第1目標値と第2目標値と希望操作関連量とに基づいて、第1目標値の修正値である修正第1目標値および第2目標値の修正値である修正第2目標値を生成して、操作量生成部へ出力する。
図1は、本発明が適用される燃料電池システムの構成例を示すシステム構成図である。同図において、燃料電池(燃料電池本体)1は、例えば固体高分子型燃料電池であり、アノードに燃料ガスとして水素ガス、カソードに酸化剤ガスとして空気がそれぞれ供給され、以下に示す電極反応が進行され発電される。
アノード(水素極):H2 → 2H+ +2e- …(化1)
カソード(酸素極):2H+ +2e- +(1/2)O2 → H2O …(化2)
アノードへの水素供給は、水素タンク2から水素タンク元弁3、減圧弁4、水素供給弁5を通じてなされる。水素タンク2から供給される高圧水素は、減圧弁4で機械的に所定の圧力まで減圧され、水素供給弁5で燃料電池での水素圧力が所望の水素圧に制御される。ポンプ等を用いた水素循環装置7は、アノードで消費されなかった水素を水素循環路24を介して再循環させるために設置する。アノードの水素圧は、圧力センサ6aで検出した水素圧力をフィードバックして水素供給弁5を駆動することによって制御される。水素圧を所望の目標圧力に制御することによって、燃料電池が消費した分だけの水素が自動的に補われる。
パージ弁8は、アノード出口から排出された燃料ガスを排水素処理装置9へ排出する弁である。パージ弁8は、つぎのような場合に一時的に開かれる。(1)アノード及び水素循環装置7及び水素循環路24(これらを水素系と呼ぶ)の内部に蓄積した窒素などの不純物ガスの濃度を減じて水素分圧を高めるために、水素系内に蓄積した不純物ガスを排出する。(2)アノード内のガス流路に詰まった水詰まりを吹き飛ばして、セル電圧を回復させる。(3)燃料電池システムの起動時に、水素系を水素で置換するために水素系内の空気などのガスを排出する。
排水素処理装置9は、パージ弁8から排出されたガスの水素濃度が水素の可燃濃度未満となるように、空気で希釈するか、あるいは水素と空気を反応させて燃焼させることで排出水素濃度を下げる。
カソードへの空気は、内蔵するモータで駆動されるコンプレッサ10aにより供給される。インバータ10bは、制御用のマイクロコンピュータ(以下、マイコンと略す)を内蔵し、コンプレッサ10aの内蔵モータの回転数を制御するものである。
加湿装置11は、コンプレッサ10aから供給される空気を加湿して、燃料電池1のカソードへ供給する。カソードに供給される空気圧力、空気流量は、圧力センサ6b、流量センサ6cでそれぞれ検出される。コントローラ(燃料電池システム制御部)30は、圧力センサ6bで検出した空気圧力と流量センサ6cで検出した空気流量をフィードバックして空気調圧弁12及びインバータ10bを制御することにより、カソードに供給される空気を目標空気流量及び目標空気圧力となるように制御する。
空気調圧弁12は、弁を駆動するモータと弁開度を制御するマイコンとを合わせて以下空気調圧弁と称する。インバータ10bのマイコンおよび空気調圧弁12のマイコン等は必要がなければ取り外してもかまわない。
図示しない燃料電池1の冷却水流路への冷却水は、冷却水ポンプ13により供給される。三方弁16は、冷却水の流路をラジエタ17の方向と、ラジエタ17をバイパスするバイパス流路19の方向に切り替えや分流する。ラジエタファン18は、ラジエタ17へ風を通過させて冷却水を冷やす。冷却水の温度は、温度センサ14によって燃料電池入口における温度を、温度センサ15によって燃料電池出口における温度をそれぞれ検出し、これらに基づいてコントローラ30が三方弁16とラジエタファン18を駆動することによって調整する。
パワーマネージャー20は燃料電池1から出力を取出す装置であり、燃料電池から取り出した出力(電流あるいは電力)を図示しない車両駆動モータや蓄電池等へ供給する。パワーマネージャー20は、DC/DCコンバータ、或いは、DC/DCコンバータとDC/ACインバータとの組み合わせである。電圧センサ21aは、燃料電池1のスタック電圧値を検出し、電流センサ21bは、燃料電池1から取り出される電流値を検出する。
コントローラ30は、燃料電池システム全体を制御するとともに、本参考例における燃料電池システム制御部であり、CPUとプログラムROMと作業用RAMと周辺インターフェースを有するマイクロコンピュータで構成されている。また、コントローラ30には、燃料電池システムのオン/オフを指示するキースイッチ22と、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ23が接続されている。
図2は、本参考例におけるコントローラ(燃料電池システム制御部)30の要部構成図であり、反応物質として空気の供給制御に用いた例である。図2において、燃料電池システム制御部30は、システム要求目標値生成部31と、目標値生成部32と、操作量生成部33とを有している。
システム要求目標値生成部31は、燃料電池1に対する負荷要求に応じて、反応物質の第1の状態量の目標値である第1目標値(質量流量)と、第1の状態量とは異なる第2の状態量の目標値である第2目標値(圧力)と、コンプレッサ(反応物質供給部)10aの操作量である第1操作量と空気調圧弁(反応物質状態量調整部)12の操作量である第2操作量との少なくとも一方に関連した操作関連量の希望量である希望操作関連量とを生成する。
この希望操作関連量は、更に詳しくは、空気調圧弁12の希望操作量である希望開度であってもよいし、空気調圧弁12を通過する空気流量であってもよいし、空気調圧弁12の流路断面積であってもよい。
目標値生成部32は、第1目標値と第2目標値と希望操作関連量とに基づいて、第1目標値の修正値である修正第1目標値、および第2目標値の修正値である修正第2目標値を生成する。
目標値生成部32は、さらに詳しくは、修正第1目標値が第1目標値に一致あるいは近似するように修正第1目標値を生成し、且つ修正第2目標値が第2目標値に一致あるいは近似するように修正第2目標値を生成する一方、修正第1目標値と修正第2目標値が第1目標値と第2目標値にそれぞれ近づいている過渡状態で、修正第1目標値が第1目標値に一致あるいは近似し、且つ修正第2目標値が第2目標値に一致あるいは近似しつつ、且つ前記操作関連量が前記希望操作関連量に一致あるいは近似させることが可能な場合は、前記操作関連量が前記希望操作関連量に一致あるいは近似するような修正第1目標値または修正第2目標値を生成する。
操作量生成部33は、図示しないセンサによりそれぞれ検出される第1状態量(質量流量)、第2状態量(圧力)が、それぞれ修正第1目標値、修正第2目標値となるように、第1操作量と第2操作量とを演算する。
図3は、図2における目標値生成部32の構成を説明する要部構成図である。目標値生成部32は、第1目標修正部41と、希望操作関連量制限値生成部42と、推定操作関連量生成部43と、推定操作関連量制限部44と、修正第2目標生成部45と、を有する。
第1目標修正部41は、第1目標値に基づいて修正第1目標値(流量目標値)を演算する。希望操作関連量制限値生成部42は、第1目標値と希望操作関連量とに基づいて制限値を演算する。推定操作関連量生成部43は、第2目標値と修正第2目標値に基づいて推定操作関連量を演算する。推定操作関連量制限部44は、推定操作関連量と制限値とに基づいて制限操作関連量を演算する。修正第2目標生成部45は、制限操作関連量に基づいて修正第2修正値(圧力目標値)を生成する。
希望操作関連量制限値生成部42は、第1目標値に基づいて必要操作関連量を生成する必要操作関連量生成部46と、希望操作関連量と必要操作関連量とに基づいて第1制限値を生成する第1制限値生成部47と、第1制限値から必要操作関連量を減じて制限値を生成する第1比較演算部48とを備えている。
推定操作関連量生成部44は、修正第2目標値が第2目標値に一致あるいは近似するように推定操作関連量を生成し、希望操作関連量制限値生成部42は、推定操作関連量制限部44において制限値が制限操作関連量として選択される制限状態となる場合に、修正第2目標値を変化させないかもしくは大きくなる方向の制限値を生成し、推定操作関連量制限部44は、制限操作関連量が小さいほど、修正第2目標値が大きくなりやすい場合は、推定操作関連量が制限値より小さい場合は制限操作関連量を制限値とし、推定操作関連量が制限値より大きい場合は制限操作関連量を推定操作関連量とし、制限操作関連量が大きいほど、修正第2目標値が大きくなりやすい場合は、推定操作関連量が制限値より大きい場合は制限操作関連量を制限値とし、推定操作関連量が制限値より小さい場合は制限操作関連量を推定操作関連量とする。
第1制限値生成部47において希望操作関連量が第1制限値として生成された場合には、制限状態においては操作関連量が希望操作関連量に近づき、修正第2目標値が第2目標値に近づいてくると、推定操作関連量が大きくなり制限状態ではなくなり修正第2目標値が第2目標値へと近づく。
また、操作関連量を希望操作関連量に近づくような修正第2目標値を生成しても、修正第2目標値が第2目標値から乖離してしまうような場合には、必要操作関連量もしくは修正必要操作関連量を制限値として選択する。
図3の目標値生成部32において、修正第2目標生成部45の出力である修正第2目標値は、推定操作関連量生成部43へフィードバックして、第2目標値と修正第2目標値との偏差から推定操作関連量量の演算を行うことにより、修正第2目標値が第2目標値に近づくように推定操作関連量が演算されるようになる。また、推定操作関連量を制限値で制限することで、この制限がなされた場合には、後段の操作量生成部33により生成される第2操作量もしくは第2操作関連量が制限値に近づくようになる。
次に、図4、図10,図11、図13のフローチャートを参照して、本参考例におけるコントローラ(燃料電池システム制御部)30の動作を説明する。図4は、コントローラ30のメインフローチャートであり、本発明に関する部分のみを示している。この手続きは、所定時間毎(例えば1ms毎)に繰り返し実行されるものである。また、ここでは図1に記載の燃料電池システムを車両に搭載した燃料電池自動車を例に説明する。さらに、図15、図16、図17に本参考例のブロック線図を示す。
以下の説明では、本発明をカソードに供給する反応物質の供給制御に適用し、反応物質としてカソードに供給する空気、反応物質の第1状態量として空気流量(質量流量)値、反応物質の第2状態量として空気の圧力値とする。しかし本発明は、空気供給に限定されず、反応物質としてアノードへ供給する水素制御においても同様に適用できることはいうまでもない。この場合、反応物質の第1状態量として水素流量(質量流量)値、反応物質の第2状態量として水素圧力値、第1操作量として水素循環装置7の回転数、第2操作量として水素供給弁5の開度が考えられる。
図4において、まずステップ(以下、ステップをSと略す)001では、燃料電池1への負荷要求を検知する。これには、コントローラ30に接続されたアクセル開度センサ23の検出値をコントローラ30へ読み込み、予めコントローラ30に記憶した制御テーブルを検索して、アクセル開度から負荷要求を求めればよい。この制御テーブル例を図5に示す。図5の制御テーブルは、例えば、燃料電池車両として実現しようとする、車両の性格、車両の操縦性、乗り心地等を鑑みて決めればよい。様々なパターンを実際に走行してみて試行錯誤の結果、最も適したものを選べばよい。負荷要求は例えば燃料電池が発電する電力として考えればよい。
次いでS002では、負荷要求に基づいて燃料電池1が発電するのに必要な空気流量の目標値であるシステム要求目標空気流量を決定する。この負荷要求からシステム要求目標流量への変換は、例えば、図6に示すような制御テーブルを用いればよい。図6の制御テーブルの値は、実験を行い、実際に燃料電池が十分な発電が行えるように設定すればよい。同様に空気圧力も例えば負荷要求に基づいて変化させる場合は空気圧力の目標値であるシステム要求目標圧力も設定する。このときも図6の制御テーブルを求めたのと同様な方法で求めた図7のような制御テーブルを用いれば容易に実現できる。
また、S002では希望操作関連量を生成する。これは例えば空気調圧弁12の開度や空気調圧弁12を通過する空気流量あるいは燃料電池1を通過する空気流量の希望値と考えればよい。以下希望操作関連量が空気調圧弁開度である場合を説明する。
空気調圧弁12の実現したい開度に近づけることが可能な場合は、希望する開度である希望操作関連量を生成する。希望操作関連量を決める一例を図8、図9に示す。図8、9では、直前に終了したアイドルストップの継続時間であるアイドルストップ時間が長いほど、希望空気調圧弁開度、または希望空気調圧弁通過流量が大きくなるように設定している。このように、空気調圧弁を開きたい状況に応じて空気調圧弁が開くように希望操作関連量を設定すればよい。例えば、カソードの酸素濃度が低下しているような場合には、酸素濃度が低下している度合い、あるいは低下すると推測される度合いに応じて、大きく空気調圧弁12を開くような修正目標圧力と修正目標流量を生成するように、希望操作関連量を設定すればよい。
カソードの酸素濃度が低下していると推測される燃料電池の運転状態の具体例の一つは、燃料電池の発電を一時的に停止するアイドルストップ後の発電再開時である。コントローラ30は、いわゆるアイドルストップ機能を備えている。このアイドルストップ中は、コンプレッサ10a、水素循環装置7を停止させて、空気調圧弁12及び水素供給弁5を閉止し、パワーマネージャー20による燃料電池1からの電力取り出しを停止させ、システムに必要な電力は図示しない蓄電装置から供給されるように制御している。
しかしアイドルストップ中にも燃料電池1の内部でアノードから電解質膜を通じて水素もしくは水素イオンがカソードに通過してくるクロスリークが生じる。このクロスリークにより、水素と酸素の反応が起こり、カソードの酸素が反応により消費されて、酸素濃度が低下する。アイドルストップ時間が長くなればなるほど、カソードの酸素濃度が低くなると推測できる。
また、ある負荷状態(低負荷状態)からより多くの発電を行う高負荷状態に切り替わる際、例えばステップ状にアクセルを踏まれ燃料電池自動車を加速させたい場合もカソードの酸素濃度が低下すると推測される運転状態の一つである。この場合は発電電力の目標値と目標空気圧力、目標空気流量もステップ状に大きくなるため、フィードバック制御系の演算により空気調圧弁12を閉じる方向に空気調圧弁操作量が印加される。このような場合空気調圧弁12が閉じる方向となるため、定常状態に比べて過渡状態では排空気の排出が阻害されやすい。このとき発電電流によりカソードの酸素が消費されているために燃料電池内部に一時的に酸素濃度が低い状況になると推測できる。
本発明は、このような場合に、負荷要求と、目標空気圧力及び目標空気流量と、の関係を修正し、修正目標空気圧力及び修正目標空気流量を生成することで、修正目標空気圧力及び修正目標空気流量となるように、空気圧力及び空気流量を制御するフィードバック制御系の演算により生成される空気調圧弁操作量により空気調圧弁開度が希望操作関連量に近づくように制御することができる。
他にも燃料電池1の内部で氷が生成されていると推測されるような場合、例えば外気温が0度以下のところに燃料電池自動車を放置した後の起動時の場合に、同様に空気調圧弁12を氷の排出が促進されるような開度になるように希望操作関連量を生成すればよい。
他にも燃料電池の発電効率が低下するような水あるいは水蒸気が多いと推定される場合には、水あるいは水蒸気の排出が促進されるような開度になるように希望操作関連量を生成すればよい。具体的には、空気調圧弁12を開く方向の開度にするか、あるいは断続的に空気調圧弁12を閉じたり開いたりして、燃料電池1から水や氷の排出を促進すればよい。このときの開度や周期は実験により安定して発電が行えるように決めればよい。また、逆に水あるいは水蒸気が少ないと推測される場合には、水あるいは水蒸気の排出が阻害されるような開度になるように希望操作関連量を生成すればよい。具体的には、希望操作関連量を空気調圧弁12を閉じる方向の開度にすればよい。特に排出する必要がない場合には、希望操作量を空気調圧弁の物理的な限界値である全閉とすることで、空気圧力を最も短時間で上昇させることができる。
次いで、S003では、S002で生成されたシステム要求目標圧力とシステム要求目標流量を希望操作関連量に基づいて、修正目標圧力と修正目標流量を生成する。修正目標圧力および修正目標流量の生成方法の詳細は後述するが、修正目標圧力をシステム要求目標圧力に近づけ、かつ修正目標流量をシステム要求目標流量に近づけながら、空気調圧弁開度が希望操作関連量に近づけることができる場合に、空気調圧弁開度が希望操作関連量に近づくような修正目標流量および修正目標圧力を生成し、空気調圧弁開度が希望操作関連量に近づけられないと判断した場合には、修正目標圧力がシステム要求目標圧力に修正目標流量がシステム要求目標流量に近づくような修正目標圧力と修正目標流量を生成する。
S004では、圧力センサ6b、流量センサ6cによりそれぞれ検出した空気圧力値と空気流量値と、S003で演算した修正目標圧力値と修正目標流量値とを用いて、コンプレッサ10aの操作量と空気調圧弁12の操作量を演算する。
図13は、図5のS004における操作量生成の詳細を示すフローチャートである。図13において、S401で空気圧力値と修正目標圧力値との偏差である圧力偏差を演算する。S402において、空気流量値と修正目標流量値との偏差である流量偏差を演算する。S401とS402とは何れを先に演算してもよい。S403では、圧力偏差及び流量偏差に基づいて、コンプレッサ10aの操作量及び空気調圧弁12の操作量を演算する。
例えば、空気調圧弁12の操作量は、空気調圧弁12を駆動するモータおよびマイコンに伝達する目標値とすればよい。空気調圧弁12を最終的に駆動するマイコンは、空気調圧弁12の開度を測定する開度センサ(例えばポテンショメータ)の検出値と、本発明の燃料電池システム制御部から伝達された目標値とをPID制御理論のような公知の制御手法を用いて実現すればよい。
コンプレッサ10aの操作量として、例えばコンプレッサ指令回転数を用いる場合には、コンプレッサ10aの回転数を制御しているインバータ10bへ指令回転数が伝達される。インバータ10bでは伝達されたコンプレッサ指令回転数を目標値として、コンプレッサ10aの回転数がコンプレッサ指令回転数となるようにコンプレッサ10aを駆動するモータへトルクを印加する。このとき、トルクの演算方法は、例えばPID制御理論やベクトル制御のような公知の制御手法を用いて容易に実現できる。もちろんコンプレッサ指令回転数のかわりにコンプレッサ10aに印加するトルクを演算してもよい。この場合もPID制御理論のような公知の制御理論を用いて容易に実現できる。
このとき圧力センサ6b、流量センサ6cの検出信号を特にフィードバックする必要がなければ、公知の手法であるフィードフォワード制御も使うことができる。本発明では目標値から操作量を演算する手法は公知の制御手法で構わない。以下ではフィードバック制御を適用した場合について説明する。
以下、図10、図11を用いて、図4のS003における修正目標圧力および修正目標流量を生成する手続きを更に詳細に説明する。
図10のS301では、制限値を生成する。制限値の生成手順の詳細を図11に示す。図11のS3011では、システム要求目標流量に基づいて必要操作関連量を生成する。この演算にはフィードバック制御系に伝達される目標流量から空気調圧弁への操作量である目標開度までの伝達関数もしくは空気調圧弁12のコントローラが空気調圧弁モータに印加する操作量までの伝達関数G1を用いて行う。空気調圧弁12へ指令する目標開度から実際の開度までの応答性が、空気圧力、空気流量の応答性と比べて十分速い場合は、目標開度までの伝達関数を使えばよい。より正確あるいは、前述した応答性が同等の場合は空気調圧弁モータに印加する操作量までの伝達関数を使えばよい。応答性が十分速いかどうかは、目標開度に対する実際の開度のステップ応答と、目標圧力に対する実際の圧力のステップ応答時間を比較し、目標値までに到達する時間を比較し、空気調圧弁の応答時間が圧力の応答時間に比べて1/3以下であれば、十分に速い応答といえる。以下では空気調圧弁への操作量である目標開度までの伝達関数を用いた場合について説明する。
ここで希望操作関連量が空気調圧弁12の開度ではなく、空気調圧弁12の通過流量である場合は、目標流量から空気調圧弁通過流量までの伝達関数を用いて行う。以下では希望操作関連量が空気調圧弁12の開度である場合を説明する。
この伝達関数は、実際に図1に示す燃料電池システムを構成し、公知の伝達関数導出手法、例えばシステム同定手法を用いて、目標流量から空気調圧弁への操作量までの伝達関数G1 を求めればよい。また、伝達関数G1 は公知の技術を使って低次元化することもできる。低次元化する場合はたとえばモード打ち切り法などが使える。
また、必要に応じてG1 とG1 とは異なる伝達関数Mとを組み合わせて、システム要求目標流量から制限値を演算することもできる。このMの決め方については後述する。
以上で得られた伝達関数G1 を状態空間表現に書き直し、必要操作関連量を生成する。伝達関数から状態空間表現への変換は、公知の制御技術で古くから示されている手法を用いればよい。例えば、最小実現などを行い(式1)、(式2)として表現できる。
x(k+1) = A×x(k) + B×u(k) …(式1)
y(k) = C×x(k) + D×u(k) …(式2)
ただし、xは状態ベクトル、uはシステム要求目標流量、yは必要操作関連量、k は制御周期毎の時刻を表現するパラメータ、Aはシステム行列、Bは入力行列、Cは出力行列、Dは直達行列で伝達関数G1 から得られるマトリックスあるいはスカラである。xの初期値は特に必要がなければ全てのベクトル要素を初期値0にすればよい。
(式1)、(式2)のu(k) にシステム要求目標流量を代入して計算を行い、y(k) を必要操作関連量として生成すればよい。
以下では、推定操作関連量が小さいほど修正第2目標値が大きくなりやすい場合の参考例について説明する。
S3012では、希望操作関連量と必要操作関連量を比較する。希望操作関連量が必要操作関連量より小さくない場合(希望操作関連量が必要操作関連量以上の場合)にはS3013に進み、希望操作関連量が必要操作関連量より小さい場合はS3014に進む。
S3013では希望操作関連量を修正する。S3013に到達する場合は希望操作関連量が必要操作関連量以上の場合であって、この場合空気調圧弁開度が希望操作関連量になるような修正目標圧力を生成すると、修正目標圧力がシステム要求目標圧力から離れてしまう。この場合は空気調圧弁開度が希望操作関連量に近づくことを修正する手順を踏む。
S3013では制限値を境界値とする。ここで境界値は、修正目標圧力を大きくする方向となる値か変化させない値とする。たとえば、空気調圧弁を全閉にしたいときに操作量を0、全開にしたいときに操作量を1とする場合、境界値を0とすることや必要操作関連量とすることや必要操作関連量から時間とともに0に近づけていくことなどである。
境界値を0とする場合、修正目標圧力と修正目標流量を図2の操作量生成部33等のフィードバック制御系に印加した場合に、操作量生成部の制御結果として、空気調圧弁12が全閉になる可能性がある修正目標圧力を生成することを意味する。この場合は必要操作関連量を制限値とした場合よりも修正目標圧力がシステム要求目標圧力に短時間で近づけたい場合に使えばよい。
境界値を必要操作関連量とした場合、修正目標圧力をシステム要求目標圧力に近づけることを中断し、修正目標圧力を変化させないことでカソードの空気圧力を昇圧しないため、昇圧する場合に比べてフィードバック制御により制御された結果として空気調圧弁12が大きく開くようになる。この場合は修正目標圧力をシステム要求目標圧力に近づけることよりも空気調圧弁12を希望操作関連量に近づけることを優先させる場合につかえばよい。他にも必要操作関連量をUn とした場合に(式3)のような式を用いて、制限値を時間変化させてもよい。
Un(1-1/(1+Ts)) …(式3)
ここでT は時定数、s はラプラス演算子である。これは必要操作関連量を1次のローパスフィルタに印加した演算結果を必要操作関連量から減じていることと等価である。時定数T は、どのくらいの速さで制限値を必要操作関連量から0にしたいかを決める値で、値が0に近いほど短い時間で0に近づく。(式3)が適用された場合、計算結果は必要操作関連量から0に徐々に近づく。このため、(式3)を用いて生成した修正目標圧力と修正目標流量をフィードバック制御系に伝達した場合、過渡状態で前半では希望操作関連量に近づくような空気調圧弁の操作量が演算されて、時間が経つにつれて空気調圧弁が全閉に近づくような空気調圧弁の操作量が演算される、修正目標圧力が生成される。この場合、修正目標圧力の時間的変化は時間が経つにつれて大きく変化するようになる。
さらに、最も短い時間で修正目標圧力をシステム目標圧力に近づけたい場合は、境界値をマイナスの可能な限り小さい値にすればよい。これはコントローラ30を構成するマイコンの演算上取り扱える最も小さい値とすればよい。たとえばマイコンが16ビットであれば、−65535(−(216−1))などである。
このほか、修正目標圧力をシステム要求目標圧力から乖離させてでも、空気調圧弁開度を希望操作関連量としたい場合は制限値を希望操作関連量とすることや、上記の様々な値を組み合わせることもできる。上述の設定を行うことで修正目標圧力を変化させないか大きくする方向の制限値が生成できる。
S3014では制限値に〔希望操作関連量−必要操作関連量〕を代入する。以上のS3011からS3014でS301の制限値を生成する。
S302ではシステム要求目標圧力と修正目標圧力との偏差を(式4)のように計算する。
e = Rp0 − Rp2 …(式4)
ここで、Rp0はシステム要求目標圧力、Rp2は修正目標圧力、eは偏差である。
S303ではS302で演算した偏差eに基づいて、この偏差eを0にするような仮想操作量を生成する。これはPID制御理論のような公知の制御手法を用いればよい。本手順によって偏差の絶対値の大きさが小さくなるように仮想操作量が生成されるので、偏差の絶対値を小さくすることができて、修正目標圧力をシステム要求目標圧力に近づけることができる。もし、システム要求目標圧力に一致させたい場合は積分演算を行えばよい。これはPID制御理論によるものであるので詳細は割愛する。また、最適制御理論などを使う場合はS307で詳述する仮想制御対象の状態量を用いてもよい。
S304ではシステム要求目標流量Rf0から修正目標流量Rf1を生成する。この手順は必要がなければ省略することができる。例えば生成方法として(式5)に示すような伝達関数Mf を用いて演算すればよい。
Rf1 = Mf × Rf0 …(式5)
ただしMf は上述したような一次のローパスフィルタであり、その時定数T は実験、シミュレーション等により決めればよい。T が0に近いほど、コンプレッサ回転数が大きくなる時間が短くなるので、回転数の音が大きさを評価しながら、設定すればよい。音が気になる場合はT を大きくすればよい。音が気にならない場合はT を0に近づけコンプレッサ回転数を大きくする時間を短くすればよい。
本手順を省略する場合はシステム要求目標流量を修正目標流量に代入すればよい。S301の処理と、S302及びS303の直列処理と、S304の処理とは順不同で演算実行できるとはいうまでもない。
S305では、S301で生成した制限値とS303で生成した仮想操作量の大きさを比較する。仮想操作量が制限値以下の場合はS306に進み、制限値より仮想操作量が大きい場合はS307に進む。
S306は、S305で仮想操作量が制限値以下と判断された場合であって、この場合は、制限値を仮想操作量に代入することにより、仮想操作量を制限値に制限する。本手順により、修正目標流量と修正目標圧力とを図2のフィードバック制御を行う操作量生成部33へ印加した場合に操作量が制限値に近づくような修正目標圧力が生成される。
また、制限値はS3011からS3014で修正目標圧力が変化しないか大きくなるように生成されているため、本手順で生成される仮想操作量をS307で修正目標圧力生成で使用しても修正目標圧力は変化しないか大きくなる方向の変化をする。ここで大きくなる方向というのは、制限値を印加し続けた場合に一時的に修正目標圧力が小さくなる可能性があるが、修正目標圧力は極小値をとり、その後時間とともに修正目標圧力が大きくなることを意味する。この概念を図12に示す。図12は、制限値印加継続時間に対する修正目標圧力値を示す図である。図12で破線Aのように制限値を印加して単調増加を行う場合もあるし、実線Bのように極小値をとるものもある。
また、S306では、S303で生成される仮想操作量演算の積分演算を停止してもよい。これは積分演算を停止することで仮想操作量が制限値となったことに起因する修正目標圧力の振動を低減できる。積分を停止する以外にも様々なアンチワインドアップ手法が提案されており、各種アンチワインドアップ手法を本発明で適用可能であることはいうまでもない。例えば制御器の左既約分解表現に基づくアンチワインドアップ制御系などがある。この場合は仮想操作量もフィードバック信号として用いることにより実現できる。この場合のS306の処理に相当するブロック線図を図14に示す。
S307では修正目標圧力を生成する。仮想操作量U2 を(式6)に示す伝達関数を実現した(式7)(式8)のU2 として計算しRp2(k) を修正目標圧力とすればよい。
Rp2 = G2 × U2 …(式6)
x(k+1) = A×x(k) + B×U2(k) …(式7)
Rp2(k) = C×x(k) + D×U2(k) …(式8)
ただし、A、B、C、Dは、G2 から得られるマトリックスもしくはスカラ、k は制御周期毎の時刻を表現するパラメータ、x(k+1) は状態ベクトルで初期値は特に必要がなければ全ての要素の値を0にすればよい。
またG2 は伝達関数であり、空気調圧弁12への操作量から修正目標圧力までの伝達関数もしくは空気調圧弁12への操作量から修正目標圧力までの伝達関数を近似した伝達関数とすればよい。このとき、必要があれば他の伝達関数Mp を付加した伝達関数をG2 としてもよい。
Mp は例えば空気調圧弁12への操作量から修正目標圧力までの伝達関数がインプロパとなっている場合にプロパにするために付加すればよい。
Mp を付加した場合は(式1)、(式2)の伝達関数G1 に付加するMにMp^-1を付加してもよい。また(式5)のMf を用いる場合はG1 に付加するMにMf も付加してもよい。
また、希望操作関連量を空気調圧弁通過流量とする場合は、G2 を空気調圧弁通過流量から修正目標圧力までの伝達関数とすればよい。
以上の手続きを繰り替えし行うことで燃料電池システムを稼動させる。
本参考例はカソード側の目標値生成方法について説明したが、アノード側にも同様のことがいえる。
また、上記参考例の制御フローチャートによる修正目標流量及び修正目標圧力の生成に対応する目標値生成器(目標値生成部32)のブロック線図を図15に記載する。
図15において、目標値生成器は、システム要求目標流量Rf0、システム要求目標圧力Rp0、及び希望空気調圧弁開度を入力し、修正目標流量Rf1、修正目標圧力Rp2を出力するものである。また図15の目標値生成器は、伝達関数G1 による関数発生器61,伝達関数Mf による関数発生器62,第1制限値発生器63,減算器64,減算器65,伝達関数Kによる関数発生器66,制限操作量(空気調圧弁の制限開度)U2 を演算する制限器(リミッタ)67、伝達関数G2 による関数発生器68とを備えている。
図15において、関数発生器61は、システム要求目標流量Rf0から、空気調圧弁12の必要操作量である必要開度U1 を演算する。関数発生器62は、システム要求目標流量Rf0から、修正目標流量Rf1を演算する。第1制限値発生器63は、関数発生器61が演算した空気調圧弁12の必要開度U1 と、希望空気調圧弁開度と、から第1制限値Umin0を演算するものである。
この第1制限値発生器63の演算内容は、例えば以下のプログラムにより演算されるものとする。
[数1]
if希望空気調圧弁開度<必要開度
Umin0=希望空気調圧弁開度
else if 必要開度<希望空気調圧弁開度
Umin0=必要開度
end
減算器64は、第1制限値Umin0から必要開度U1 を減じて制限値〔Umin0−U1 〕を演算するものである。減算器65は、システム要求目標圧力Rp0から修正目標圧力Rp2を減じて偏差ep を演算するものである。関数発生器66は、偏差ep から空気調圧弁の仮想操作量である仮想開度U0 を演算するものである。制限器67は、仮想開度U0 を制限値〔Umin0−U1 〕に制限した制限開度(制限操作量)U2 を演算するものである。関数発生器68は、制限開度U2 から修正目標圧力Rp0を演算するものである。
図15の目標値生成器では、関数発生器68の出力である修正目標圧力を減算器65へフィードバックして、システム要求目標圧力値と修正目標圧力値との偏差から仮想操作量の演算を行うことにより、修正目標圧力値がシステム要求目標圧力値に近づくように仮想操作量が演算されるようになる。また、仮想操作量を制限値で制限することで、この制限がなされた場合には、後段の操作量生成部による第2操作量もしくは第2操作関連量が制限値に近づくようになる。
図3と図15との対応は、以下の通りである。第1目標値はシステム要求目標流量Rf0、第2目標値はシステム要求目標圧力Rp0、希望操作関連量は希望空気調圧弁開度、修正第1目標値は修正目標流量Rf1、修正第2目標値は修正目標圧力Rp2である。また、第1目標修正部41は関数発生器62、必要操作関連量生成部46は関数発生器61、第1制限値生成部47は第1制限値発生器63、第1比較演算部48は減算器64、推定操作関連量生成部43は減算器65及び関数発生器66、推定操作関連量制限部44は制限器67、修正第2目標生成部45は関数発生器68である。
また、図15のブロック線図を等価変換した構成は、本参考例に含まれることはいうまでもなく、例えば図16や図17がある。図16は、図15の減算器64に代えて、制限器67と関数発生器68との間に減算器72を配置した例である。図17は、図15の減算器64に代えて、希望空気調圧弁開度から必要開度を減算する減算器74を設けた例である。
次に、本参考例と比較例とを示すタイムチャートを図18,図19に示す。図18及び図19は、時刻t0でシステム要求目標値が急激に立ち上がった場合を示し、(a)は流量、(b)は圧力、(c)は空気調圧弁開度(操作量)、(d)は操作関連量をそれぞれ示す。
また図18及び図19の(a)及び(b)における太実線は、参考例及び比較例におけるシステム要求目標値(目標流量または目標圧力)である。太破線は参考例における修正目標値(修正目標流量または修正目標圧力)である。この修正目標値をフィードバック制御系に印加した結果の参考例における状態量検出値(流量検出値または圧力検出値)が太一点鎖線である。細実線は、比較例の状態量検出値(流量検出値または圧力検出値)である。
また図18及び図19の(c)における太一点鎖線は、参考例における空気調圧弁開度の操作量であり、太二点鎖線は参考例の希望操作関連量であり、細実線は比較例操作量である。
図18(c)の空気調圧弁開度において、時刻t0から時刻t1までの間で参考例の操作量が希望空気調圧弁開度になっているのが確認できる。それ以外の点ではシステム要求目標圧力の近傍にとどまるような操作量となっているのがわかる。
また、図18(d)が参考例の目標値生成内部での演算結果である。細一点鎖線が必要操作関連量、細二点鎖線が制限操作関連量、細破線が制限値である。時刻t0から時刻t1までの間では推定操作関連量が制限値となる制限状態となっていて、操作量が希望操作関連量に近づいていることが確認できる。時刻t0から時刻t1までの間以外の領域では修正目標圧力とシステム要求目標圧力に近づけるような推定操作関連量が生成されている。
図19は、参考例における外乱が印加され圧力が低下した場合を示し、図19(c)の空気調圧弁開度(操作量)は、この外乱を打ち消すように一時的に開度が低下され、図19(b)の圧力は、操作量を希望操作関連量に近づけるよりも外乱により低下した圧力を上げることを優先することが実現されている。
以上説明した本参考例によれば、燃料電池負荷が急増するような場合、例えば燃料電池へ供給する反応物質の第1状態量と第2状態量の2つの状態量を小さい値から大きい値に変化させる場合に、状態量制御系に外乱が印加されたり、システムの特性変動等が生じた場合には、反応物質の状態量を目標値に制御することを優先して、状態量が目標値から逸脱して燃料電池の劣化を防止することができるとともに、外乱や特性変動がない場合には、負荷要求に応じた反応物質の状態量の目標値を実現しながら可能な限り希望操作関連量を実現するように制御して、燃料電池出力の過渡応答性能を向上させることができるという効果がある。
また本参考例によれば、第1状態量を反応物質の流量とし、第2状態量を反応物質の圧力としたので、反応物質の流量及び圧力に対して、例えば燃料電池へ供給する反応物質の流量と圧力の2つの状態量を小さい値から大きい値に変化させる場合に、圧力制御系や流量制御系に外乱が印加されたり、システムの特性変動等が生じた場合には、反応物質の圧力を目標値に制御することを優先して、反応物質の圧力が目標値から逸脱してアノードとカソードとの差圧の増大による燃料電池の劣化を防止することができるとともに、外乱や特性変動がない場合には、負荷要求に応じた反応物質の流量及び圧力の目標値を実現しながら可能な限り希望操作関連量を実現するように制御して、燃料電池出力の過渡応答性能を向上させることができるという効果がある。
また本参考例によれば、燃料電池の運転状態に応じて希望操作関連量を生成しているので、例えば燃料電池の負荷要求が低負荷から高負荷に移行する場合や、アイドルストップ後の発電再開時などには、空気調圧弁の開度を大きくするような希望操作関連量を生成することにより、酸素分圧の低くなった空気を迅速に排出して、カソードの酸素分圧を急速に高めることができ、負荷応答性の良い発電が行えるという効果がある。
また本参考例によれば、運転状態に応じて、反応物質もしくは燃料電池システム内部のある水蒸気もしくは水もしくは氷が反応物質状態量調整部を通じて排出されやすいような希望操作関連量を生成しているので、燃料電池システム内に水蒸気もしくは水もしくは氷が生じた場合に、これらを反応物質状態量調整部を通じて排出することができ、燃料電池の運転状態を迅速に正常な状態に復帰させることができるという効果がある。
また本参考例によれば、目標値生成部は、推定操作関連量生成部と推定操作関連量制限部と修正第2目標生成部と希望操作関連量制限値生成部とを有する。そして、推定操作関連量生成部は、第2目標値と少なくとも修正第2目標値に基づいて推定操作関連量を演算し、希望操作関連量制限値生成部は第1目標値と希望操作関連量とに基づいて制限値を演算し、推定操作関連量制限部は、推定操作関連量と制限値とに基づいて制限操作関連量を演算し、修正第2目標生成部は、制限操作関連量に基づいて第2目標修正値を生成する。さらに、推定操作関連量生成部は、修正第2目標値が第2目標値に一致あるいは近似するように推定操作関連量を生成し、希望操作関連量制限値生成部は、推定操作関連量制限部において制限値が制限操作関連量として選択される制限状態となる場合に、修正第2目標値を変化させないかもしくは大きくなる方向の制限値を生成するので、修正目標値を確実に第2目標値へと一致あるいは近似させることができるとともに、制限状態となると制限値により修正第2目標値の変化率が小さくなるか変化しなくなり、操作関連量が希望操作関連量に近づくことができるとともに、制限状態とならない場合には推定操作関連量により修正第2目標値が第2目標値へと一致あるいは近似させることができるようになり、燃料電池を適切な状態で運転できるようになるという効果がある。
また本参考例によれば、希望操作関連量制限値生成部は、必要操作関連量生成部と第1制限値生成部と第1比較演算部とを有し、必要操作関連量生成部は第1目標値に基づいて必要操作関連量を生成し、第1制限値生成部は必要操作関連量と希望操作関連量に基づいて第1制限値を生成し、第1比較演算部は、第1制限値と必要操作関連量との加減算により制限値を生成する部としたので、第1、第2操作量には特別な制約を加えないため、外乱等により第1状態量もしくは第2状態量が修正第1目標値もしくは修正第2目標値から乖離した場合は、操作関連量を希望操作関連量に近づけることよりも、第1状態量もしくは第2状態量を修正第1目標値もしくは修正第2目標値に近づけることを優先させることができる。このため、修正第2目標値が第2目標値から乖離していくような状況を回避し、修正第2目標値を第2目標値へと近づけることができるという効果がある。
さらに本参考例によれば、反応物質状態量調整部を該部から反応物質を排出することにより反応物質の状態量を変化させる空気調圧弁とし、希望操作関連量を反応物質状態量調整手段が反応物質(空気)を排出する際の流量、もしくは流路断面積、もしくは断面積と関連する断面積関連量とすることにより、希望排出流量、希望流路断面積、空気圧調整弁の希望開度のいずれも希望操作量とすることができるという効果がある。
次に、図面を参照して、本発明の実施例1を詳細に説明する。実施例1において、システム要求目標値生成部は、燃料電池の反応物質の第1の状態量の目標値である第1目標値と、第1の状態量とは異なる第2の状態量の目標値である第2目標値とを生成し、参考例のような希望操作関連量は必須ではない。目標値生成部は、第1目標値と第2目標値とに基づいて、第1目標値の修正値である修正第1目標値および第2目標値の修正値である修正第2目標値を生成して、操作量生成部へ出力する。
本実施例が適用される燃料電池システムの全体構成は、図1に示した参考例と同様であるので、説明を省略する。
図20は、実施例1におけるコントローラ(燃料電池システム制御部)30の要部構成図であり、反応物質として空気の供給制御に用いた例である。図20において、燃料電池システム制御部30は、システム要求目標値生成部31aと、目標値生成部32aと、操作量生成部33aとを有している。
システム要求目標値生成部31aは、希望操作関連量の生成が省略されている以外は、参考例のシステム要求目標値生成部31に相当する。操作量生成部33aは、参考例の操作量生成部33に相当する。
システム要求目標値生成部31aは、燃料電池1に対する負荷要求に応じて、反応物質の第1の状態量の目標値である第1目標値(質量流量)と、第1の状態量とは異なる第2の状態量の目標値である第2目標値(圧力)とを生成する。負荷要求は、参考例と同様に、例えば図5のようなアクセル開度に対する負荷要求(発電電力)を求める制御マップを検索して求められる。第1目標値と第2目標値は、それぞれ参考例と同様に、図6,図7のような制御マップに基づいて、負荷要求から生成される。
目標値生成部32aは、第1目標値と第2目標値と希望操作関連量とに基づいて、第1目標値の修正値である修正第1目標値と、第2目標値の修正値である修正第2目標値と、パワーマネージャー20が燃料電池1から取り出すべき電流値である修正目標電流値を生成する。
操作量生成部33aは、空気流量センサ6c、空気圧力センサ6bによりそれぞれ検出される第1状態量(質量流量)、第2状態量(圧力)が、それぞれ修正第1目標値、修正第2目標値となるように、第1操作量と第2操作量とを演算する。第1操作量は、コンプレッサ(反応物質供給部)10aの操作量(例えば回転速度)となり、コンプレッサ10aから燃料電池1の空気極へ供給する空気の質量流量を制御する。第2操作量は、空気調圧弁(反応物質状態量調整部)12の操作量(例えば弁開度)となり、燃料電池1の空気極の圧力を制御する。
図21は、図20における目標値生成部32aの機能構成をブロック図として説明する図である。実際には、コントローラ30のソフトウェアで実現されている。目標値生成部32aは、修正第1目標値生成部81と、修正第2目標値生成部82と、第1目標補正値生成部83と、加算器84と、減算器85と、目標電流値生成部86とを有する。
修正第2目標値生成部82は、第2目標値(圧力)に基づいて修正第2目標値(圧力目標値)を生成する。減算器85は、修正第2目標値から第2目標値を減算した値を第1目標補正値生成部83へ供給する。
第1目標補正値生成部83は、修正第2目標値から第2目標値を引いた値に基づいて第1目標補正値を演算する。加算器84は、第1目標値(流量)と第1目標補正値とを加算して、加算結果である補正後の第1目標値を修正第1目標値生成部81へ供給する。修正第1目標値生成部81は、補正後の第1目標値に基づいて修正第1目標値(流量目標値)を演算する。
また、目標電流値生成部86は、修正第2目標値と第1目標補正値とに基づいて、パワーマネージャー20が燃料電池1から取り出すべき修正目標電流値を生成する。目標電流値生成部86は、アクセル操作に応じて、燃料電池1への負荷要求である基準目標発電電力、基準目標電力の時間変化率を制限して生成される発電電力の目標値である目標発電電力、目標発電電力を実現するための燃料電池電流の目標値である基準目標電流、及び基準目標電流を修正した修正目標電流を生成する。目標電流値生成部86は、修正目標電流を生成する際に、修正第2目標値が大きいほど、或いは第1目標補正値が小さいほど、基準目標電流に対して修正目標電流が大きくなるように生成する。このため、燃料電池の空気圧力に見合った発電を行うことができるようになり、酸素分圧不足状態での発電を回避することができるという効果がある。
図22は、目標値生成部32aにおける修正目標空気流量(図21の修正第1目標値に相当)及び修正目標空気圧力(図21の修正第2目標値に相当)を演算する目標値生成部32aの実際的なブロック図である。図22では、第1状態量及び第1目標値及び修正第1目標値は、空気流量値とし、第2状態量及び第2目標値及び修正第2目標値は、空気圧力値としている。このため、オンラインで時々刻々求めることが不可能な、修正第2目標値(目標空気圧力)が第2目標値(システム要求目標空気圧力)に追随するために必要な微分を含む第1目標補正値の演算を行うことなく、修正目標空気圧力の演算結果を用いて、目標流量の補正値を演算することができ、修正第1目標値の第1目標値への追従性能、及び修正第2目標値の第2目標値への追従性能が向上するという効果がある。
図22において、目標値生成部32aは、システム要求目標値生成部31aが生成した第1目標値であるシステム要求目標空気流量と第1目標補正値生成部83が生成した第1目標補正値とを加算する加算器84と、加算器84の出力の時間変化率を制限して、修正目標空気流量を出力する変化率リミッタ81aと、システム要求目標値生成部31aが生成した第2目標値であるシステム要求目標空気圧力の時間変化率を修正目標空気流量に応じて制限して、修正目標空気圧力を出力する変化率リミッタ82aと、修正目標空気圧力とシステム要求目標空気圧力との圧力差を演算する減算器85と、減算器85の出力から第1目標補正値を生成する第1目標補正値生成部83と、を備える。
第1目標補正値生成部83は、減算器85が演算した圧力差を流量に変換するために常数Pを乗じる乗算器83aと、乗算器83aの出力最小値を0に制限するリミッタ83bと、を備える。
ここで、乗算器83aとリミッタ83bとは図21の第1目標補正値生成部83に相当する。すなわち、第1目標補正値生成部は、修正目標空気圧力とシステム要求目標空気圧力との圧力差を流量補正値に変換し、さらに流量補正値の最小値を0に制限するので、流量を増加方向にしか補正しないため、第2目標値である圧力を下げるために不用意に流量を減らすことを回避することができるという効果がある。
また、変化率リミッタ81aは、システム要求目標空気流量と第1目標補正値との和の時間変化率を制限して修正目標空気流量を生成する変化率リミッタである。
また、変化率リミッタ82aは、修正目標空気流量が大きいほど、修正目標空気圧力の時間変化率の上限が大きなるリミッタである。このため、第1目標値あるいは第1目標補正値が大きいほど、修正第2目標値である修正目標空気圧力の時間変化率の上限が大きくなるように修正目標空気圧力を生成することができ、第1目標値への修正第1目標値の追従性能、及び第2目標値への修正第2目標値の追従性能を向上させることができるという効果がある。
図23は、本実施例1の図21及び図22で説明した第1目標補正値生成部83(83a、83b)と参考例の目標値生成部32とを組み合わせた参考例の変形例の構成を示すブロック図である。参考例においても、システム要求目標空気圧力と修正目標空気圧力との差に基づいて、目標空気流量を増量することができる。
次に、図24、図25,図26のフローチャートを参照して、本実施例1におけるコントローラ(燃料電池システム制御部)30の動作を説明する。図24は、コントローラ30のメインフローチャートであり、本発明に関する部分のみを示している。この手続きは、所定時間毎(例えば1ms毎)に繰り返し実行されるものである。また、ここでは図1に記載の燃料電池システムを車両に搭載した燃料電池自動車を例に実施例を記載する。
図24において、まずS101では、燃料電池1への負荷要求を検知する。これには、コントローラ30に接続されたアクセル開度センサ23の検出値をコントローラ30へ読み込み、予めコントローラ30に記憶した制御テーブルを検索して、アクセル開度から負荷要求を求めればよい。この制御テーブル例を図5に示す。図5の制御テーブルは、例えば、燃料電池車両として実現しようとする、車両の性格、車両の操縦性、乗り心地等を鑑みて決めればよい。様々なパターンを実際に走行してみて試行錯誤の結果、最も適したものを選べばよい。負荷要求は例えば燃料電池が発電する電力として考えればよい。
図5の制御テーブルで得られた負荷要求を基準目標発電電力とする。また、実際の車両の挙動を考慮して、実際に必要な電力を目標発電電力として求める。これは例えば、路面がすべり易いことを検知した場合などは目標発電電力を急激に大きくするのは車両がスリップをしてしまうため避けたほうがよい。そのため、例えば、各車輪の回転速度から車両の速度を求める。次いで車両の速度と、各車輪の回転速度に車輪の有効直径と円周率とを乗じた値との比較から、各車輪が接している路面の摩擦係数を検知し、検知した値に応じて、基準目標発電電力の時間変化率を制限することで生成される。また、急加速をさせたくない場合なども同様に基準目標発電電力の時間変化率を制限して、目標発電電力を生成すればよい。
具体的には目標発電電力を求めるには、例えば、負荷が大きくなるときは(式9)と(式10)との小さい方を目標発電電力とすればよい。(式9)において、ΔPは、1制御サイクル(目標発電電力を演算する周期)毎に増加が許される発電電力の最大増分であり、言い換えれば、時間変化率の制限値である。
目標発電電力=目標発電電力(前回値)+ΔP …(式9)
目標発電電力=基準目標発電電力 …(式10)
また、目標発電電力が得られる発電電流の目標値である基準目標電流を計算する。これは例えば図28ような、発電電力と発電電流との変換テーブルを用いればよい。図28は、種々の発電電流で燃料電池1の発電をして発電電圧と発電電流とを測定する実験を行い、これらの実験結果から、目標発電電力(=発電電流×発電電圧)が得られる電流値を変換テーブルとしてコントローラ30に予め記憶させておけばよい。
次いでS102では、燃料電池1が基準目標電流を発電するのに必要な空気流量の目標値であるシステム要求目標空気流量を決定する。このとき基準目標電流は、S101で基準目標発電電力に基づいて図28を用いて変換した電流値を用いてもよい。これは目標発電電力よりも時間的変化の大きい基準目標発電電力に基づいた電流信号を使うことで空気流量を十分に供給できるためである。以下では目標発電電力に基づいた基準目標電流によりシステム要求目標空気流量を生成した場合について説明する。
この基準目標電流からシステム要求目標流量への変換は、例えば、図29に示すような制御テーブルを用いればよい。図29の制御テーブルの値の設定には、まず、基準目標電流を発電するための反応物質の必要流量(質量流量)を燃料電池化学反応式と燃料電池のセル数から求める。次いで、この必要流量に、段階的な過剰率(例えば、1.4〜1.8倍、0.1刻み)を乗じた流量で発電させる実験を行い、燃料電池の各セルに反応物質不足による電圧低下が生じることなく、十分な発電が行える流量を求めて、制御テーブルとして設定すればよい。同様に空気圧力も例えば基準目標電流に基づいて変化させる場合は空気圧力の目標値であるシステム要求目標圧力も設定する。このときも図29の制御テーブルを求めたのと同様な方法で求めた図30のような制御テーブルを用いれば容易に実現できる。
次いで、S103では、S102で生成されたシステム要求目標圧力とシステム要求目標流量に基づいて、修正目標圧力と修正目標流量を生成する。本ステップは必要がなければ修正目標圧力をシステム要求目標圧力とし、修正目標流量をシステム要求目標流量とすることで省略することもできる。なお、修正目標圧力および修正目標流量の生成方法の詳細は後述するが、修正目標圧力をシステム要求目標圧力に近づけ、かつ修正目標流量をシステム要求目標流量に近づける。また、修正目標圧力とシステム要求目標力との乖離度合が大きいほど、修正目標空気流量をシステム要求目標空気流量よりも大きくなるように生成しているので、修正目標圧力のシステム要求目標空気圧力への追従性能を向上させることができる。
次いで、S104では、S103までに生成された修正目標圧力、システム要求目標圧力、または、基準目標電力、目標発電電力の値に基づいて、修正目標電流値を生成する。本手順に関する詳細は後述する。
S105では、圧力センサ6b、流量センサ6cによりそれぞれ検出した空気圧力値と空気流量値と、S103で演算した修正目標圧力値と修正目標流量値とを用いて、コンプレッサ10aの操作量と空気調圧弁12の操作量とを演算する。
図24のS105における操作量生成の詳細は、参考例で説明した図13と同様である。図13において、S401で空気圧力値と修正目標圧力値との偏差である圧力偏差を演算する。S402において、空気流量値と修正目標流量値との偏差である流量偏差を演算する。S401とS402とは何れを先に演算してもよい。S403では、圧力偏差及び流量偏差に基づいて、コンプレッサ10aの操作量及び空気調圧弁12の操作量を演算する。
例えば、空気調圧弁12の操作量は、空気調圧弁12を駆動するモータおよびマイコンに伝達する目標値とすればよい。空気調圧弁12を最終的に駆動するマイコンは、空気調圧弁12の開度を測定する開度センサ(例えばポテンショメータ)の検出値と、本発明の燃料電池システム制御手段から伝達された目標値とをPID制御理論のような公知の制御手法を用いて実現すればよい。
コンプレッサ10aの操作量として、例えばコンプレッサ指令回転数を用いる場合には、コンプレッサ10aの回転数を制御しているインバータ10bへ指令回転数が伝達される。インバータ10bでは伝達されたコンプレッサ指令回転数を目標値として、コンプレッサ10aの回転数がコンプレッサ指令回転数となるようにコンプレッサ10aを駆動するモータへトルクを印加する。このとき、トルクの演算方法は、例えばPID制御理論やベクトル制御のような公知の制御手法を用いて容易に実現できる。もちろんコンプレッサ指令回転数のかわりにコンプレッサ10aに印加するトルクを演算してもよい。この場合もPID制御理論のような公知の制御理論を用いて容易に実現できる。
このとき圧力センサ6b、流量センサ6cの検出信号を特にフィードバックする必要がなければ、公知の手法であるフィードフォワード制御も使うことができる。本発明では目標値から操作量を演算する手段は公知の制御手法で構わない。以下ではフィードバック制御を適用した場合について説明する。本手順は図20の操作量生成部33aに該当する。
次に図25を参照して、図24のS103における修正目標圧力および修正目標流量を生成する手続きを更に詳細に説明する。なお、前述したように本ステップは必要がなければ修正目標圧力をシステム要求目標圧力とし、修正目標流量をシステム要求目標流量とすることで省略することもできる。
図25において、まずS501では、コントローラ30は、システム要求目標圧力と修正目標圧力の差である目標圧力偏差を計算する。S502、S503、S504では、コントローラ30は、S501で求めた目標圧力偏差から流量補正値を生成する。これらのステップは、図21の第1目標補正値生成部83に相当し、例えば、次の[数2]に示すプログラムにより計算を行えばよい。
[数2]
if システム要求目標圧力−修正目標圧力>0
流量補正値=Kp×(システム要求目標圧力−修正目標圧力)
else
流量補正値=0
end
ここでKpは定数であり、シミュレーションや実車による実験を行いながら、その値を決めればよい。Kpの値を大きくすれば、修正目標流量は大きくなり、修正目標圧力とシステム要求目標圧力の乖離も小さくできる。一方、値を大きくしすぎるとコンプレッサ10aの負担が大きくなったり、車両の加速時にコンプレッサ10aからの音に違和感が生じる。これらを鑑みて、Kpの値を決めればよい。
S505では、コントローラ30は、システム要求目標流量と目標流量補正値から修正目標流量を生成する。修正目標流量は、(式11)と(式12)を比較して、小さい方を最終的な修正目標流量とする。
修正目標流量=システム要求目標流量+目標流量補正値 …(式11)
修正目標流量=システム要求目標流量+Δs …(式12)
ここで、Δsは単位演算時間あたりの流量の最大増加分である。このとき、Δsはコンプレッサが追従可能な空気流量の増加分を予め実験で求めておき値を決めればよい。また、外気温が高くなるに応じて、あるいは大気圧が低くなるに応じて、(つまりは大気の空気密度が低くなるに応じて)Δsが小さくなるように設定してもよい。これは空気密度が低くなると、コンプレッサが供給できる流量が小さくなることに起因している。
S506では、コントローラ30は、修正目標圧力を生成する。修正目標圧力の生成には、(式13)、(式14)を用いて計算を行い、小さい方を修正目標圧力とすればよい。このときΔpは例えば、図27のような制御マップを用いて求めればよい。
修正目標圧力=システム要求目標圧力 …(式13)
修正目標圧力=システム要求目標圧力(前回値)+Δp …(式14)
ここでΔpは、1制御サイクル(目標発電電力を演算する周期)毎の圧力の最大増加分であり、言い換えれば、時間変化率制限値である。
また、修正目標圧力の生成に関しては、参考例で説明した手法を用いても求めることができる。図3において、第1目標値を修正目標流量とし、第1目標修正部41は第1目標値を修正第1目標値とし、希望操作関連量は、参考例に従い、第2目標値はシステム要求目標圧力とすればよい。
より詳細には、参考例の図15において、Mf=Iとし、epから目標流量補正値を求め、システム要求目標流量の前段で加算すればよい。また、加算した後段に第1目標修正部41を設ければよい。
次に、図24のS104の修正目標電流を求める手続きについて、図26のフローチャートを用いて詳述する。図26のフローチャートは、修正目標電流演算Aの入口と、修正目標電流演算Bの入口とがあるが、それぞれどちらを用いても修正目標電流を求めることが可能である。なお図26において、何れの入口でもS603以降は、同じ手順で実行される。
まず、修正目標電流演算Aを説明する。S601では基準目標発電電力と目標発電電力との差を補正値とする。このような信号を補正値とすることで、アクセル開度が大きい急加速時は補正値が大きくなり、アクセル開度が小さい緩加速時には補正値は小さくなる。これは(式9)、(式10)での選択により、加速度合いあるいはアクセルの踏み込み具合が大きくなるにつれて補正量が大きくなる。
次に、修正目標電流演算Bを説明する。S602では、基準値−(システム要求目標圧力−修正目標圧力)を補正値とする。ここで基準値はある一定値でもよいし、時間に応じて変化してもよい。S602での補正値はシステム要求目標圧力と修正目標圧力の差が小さいときほど大きな値になる。基準値は、前回の制御サイクルにおけるS610又はS611で求めた修正目標電流の取り出しをパワーマネージャー20に指令した結果を見ながら、過渡状態で燃料電池1の総電圧が低下しない程度に大きな値とすればよい。
S603以降は、修正目標電流演算Aと修正目標電流演算Bとは同じ手順になる。S603では、補正値が0以上の値であるか否かを判断する。補正値が0以上であれば、S605へ進む。補正値が負の値である場合は、S604の手順に進み補正値を0として、S605へ進む。
S605では、補正値に対して遅れ演算を施し、遅れ演算した結果を電流補正値ΔIへ変換する。この遅れ演算は、例えば一次遅れ演算等により行えばよい。必要がなければS605は省略することができる。また、遅れ演算の結果に定数をかけることもできる。この定数は補正値を電流の次元に変換するための変換定数であり、S602の基準値と同様に、前回の制御サイクルにおけるS610又はS611で求めた修正目標電流の取り出しをパワーマネージャ20に指令した結果を見ながら、過渡状態で燃料電池1の総電圧が低下しない程度の大きな値とすればよい。
S606では、燃料電池1の空気極の空気圧力を検知する。例えば圧力センサ6bの値を使って検知を行ってもよいし、空気圧力の挙動を予想した値を用いてもよい。または両者の小さい方の信号を用いても同様の効果がえられる。
S607では、S606で求めた空気圧力の値を電流の次元に変換して発電電流Iaを求める。これには例えば図7のテーブルを逆に引くことで、空気圧力から発電電力の次元に変換し、さらに図28のテーブルにより発電電力から発電電流Iaの次元に変換することができる。なお、S606及びS607と、S601〜S605とは、何れを先に演算してもよい。
S608〜S611では、パワーマネージャー20に指令する目標値である、修正目標電流を生成する。S608では、S607で求めた発電電流値Iaと、S605で求めた電流補正値ΔIとを加算した値を最大取出可能電流値Imax とする。S609では、最大取出可能電流Imax が基準目標電流Is以下であるか否かを判定する。最大取出可能電流Imax が基準目標電流Is以下であれば、S610へ進み、修正目標電流を最大取出可能電流値Imax とする。最大取出可能電流Imax が基準目標電流Isより大きければ、S611へ進み、修正目標電流を基準目標電流Isとする。
このような構成をとることで、急加速時あるいは空気圧力が十分にあるときほど、最大取出可能電流が大きくなり、修正目標電流を大きくすることができる。また、補正値を必要以上に大きくすると、最大取出可能電流が大きくなり、基準目標電流によっては修正目標電流も空気圧力・空気流量・水素圧力・水素流量に対して過大に大きくなってしまう。その結果、燃料電池1の総電圧が著しく低下する懸念がある。補正値を小さくしすぎると、逆に基準目標電流が最大取出可能電流により制限を受けるため、目標発電電力に対する発電電力の応答性が低下してしまう。ひいては車両の加速性能が低下してしまう。そのため、実験等を繰り返し、どの程度補正値を大きくしたら良いか決めればよい。
本発明により、緩加速状態では空気圧力に応じた発電電流の取り出しを行うことで燃料電池1の過渡状態での総電圧の低下を防止するとともに、急加速状態では車両要求に応えるために十分に電流を取り出すことが可能になる。また急加速状態では、アクセルが急激に踏み込まれているため、空気圧力が短時間で大きくなることが期待できるため、燃料電池1の総電圧の低下は生じない。
最後に、図31に本実施例による負荷急増時のタイムチャート、図32に本発明を適用しない場合の比較例による負荷急増時のタイムチャートを示す。図31、図32ともに、(a)は空気流量[NL/min]のタイムチャート、(b)は空気圧力[kPa−a]のタイムチャートである。実施例では、システム要求目標圧力と修正目標圧力との差が大きいほど、修正目標流量が大きくなるように補正しているので、比較例に比べて圧力センサによる空気圧力の検出値の立ち上がりが早くなり、それだけ車両の加速応答性が高まり、結果として車両の運転性能が向上することが確認された。
以上説明した本実施例によれば、目標値生成部が、修正第2目標値から第2目標値を引いた値に基づいて第1目標補正値を生成し、この第1目標補正値を第1目標値に加算した結果から修正第1目標値を生成しているので、修正第2目標値が第2目標値から乖離している場合には、修正第1目標値が大きくなるように補正することができるために、修正第1目標値が第1目標値へ一致するまでの時間、或いは修正第2目標値が第2目標値へ一致するまでの時間を短縮し、燃料電池システムの負荷応答性を向上させることができるという効果がある。
また本実施例によれば、第1目標値あるいは第1目標補正値が大きいほど、修正第2目標値の時間変化率が大きくなるように修正第2目標値を生成しているので、修正第1目標値に見合った修正第2目標値を生成することができるとともに、第1目標補正値が大きくなるにつれて、修正第1目標値及び修正第2目標値が大きくなるため、第1目標値への第1状態量の追従性能、及び第2目標値への第2状態量の追従性能が向上するという効果がある。
また本実施例によれば、目標値生成部は、第1状態量及び第1目標値及び修正第1目標値は、空気流量値とし、第2状態量及び第2目標値及び修正第2目標値は、空気圧力値としている。このため、オンラインで時々刻々求めることが不可能な、修正第2目標値(目標空気圧力)が第2目標値(システム要求目標空気圧力)に追随するために必要な微分を含む第1目標補正値の演算を行うことなく、修正目標空気圧力の演算結果を用いて、目標流量の補正値を演算することができ、修正第1目標値の第1目標値への追従性能、及び修正第2目標値の第2目標値への追従性能が向上するという効果がある。
また本実施例によれば、目標値生成部は、第1目標値と第1目標補正値との和を修正第1目標値とし、この修正第1目標値が大きいほど、修正第2目標値を大きくしているので、修正第2目標値と第2目標値との乖離が小さくなるに従って、第1目標補正値が小さくなり、修正第2目標値と第2目標値との乖離が大きくなるに従って、第1目標補正値が大きくなるので、修正第2目標値の第2目標値への追従を早めることができるという効果がある。
また本実施例によれば、目標値生成部は、第1目標値と第1目標補正値との和の時間変化率を制限した結果を修正第1目標値とし、この修正第1目標値が大きいほど、修正第2目標値を大きくしているので、反応物質供給手段の操作量、例えばコンプレッサモータを制御するインバータの飽和を回避しつつ、適切な量の反応物質を供給することができるという効果がある。
また本実施例によれば、第1目標補正値生成部が修正第2目標値と第2目標値との乖離度合いに応じて第1目標補正値を生成すると共に、第1目標補正値の値が負の値とならないように制限しているので、第1目標値(流量)を増加させる方向にしか補正しないため、第2目標値(圧力)を下げるために不用意に流量を減らすことを回避することができるという効果がある。
さらに本実施例によれば、目標値生成部が目標電流値生成部を備え、目標電流値生成部は、修正目標電流を生成する際に、修正第2目標値が大きいほど、或いは第1目標補正値が小さいほど、基準目標電流に対して修正目標電流が大きくなるように生成する。このため、燃料電池の空気圧力に見合った発電を行うことができるようになり、酸素分圧不足状態での発電を回避することができるという効果がある。
本発明に係る燃料電池システムの参考例の全体構成を説明するシステム構成図である。
参考例のコントローラ(燃料電池システム制御部)30の要部構成図である。
参考例における目標値生成部32の構成を説明する要部構成図である。
参考例におけるコントローラ30の制御内容を説明する概略フローチャートである。
アクセル開度から負荷要求を求める制御テーブル例である。
負荷要求からシステム要求目標流量を求める制御テーブル例である。
負荷要求からシステム要求目標圧力を求める制御テーブル例である。
アイドルストップ時間から希望空気調圧弁開度を求める制御テーブル例である。
アイドルストップ時間から希望空気調圧弁通過流量を求める制御テーブル例である。
参考例における修正目標値生成手続きの詳細を説明するフローチャートである。
参考例における制限値生成手続きの詳細を説明するフローチャートである。
制限値印加継続時間に対する修正目標圧力値を示す図である。
操作量の詳細を説明するフローチャートである。
図10のS306に相当するブロック線図である。
参考例における目標値生成器のブロック線図である。
参考例における目標値生成器のブロック線図の変形例である。
参考例における目標値生成器のブロック線図の変形例である。
参考例の動作を説明するタイムチャートである。
参考例の動作を説明するタイムチャートである。
実施例1のコントローラ(燃料電池システム制御部)30の要部構成図である。
実施例1における目標値生成部32aの構成を説明する要部構成図である。
実施例1における目標値生成部32aの更に詳しい要部構成図である。
本実施例1の第1目標補正値生成部83と参考例の目標値生成部32とを組み合わせた参考例の変形例の構成を示すブロック図である。
実施例1におけるコントローラ30の制御内容を説明する概略フローチャートである。
実施例1における修正目標値(流量、圧力)の生成手続きの詳細を説明するフローチャートである。
実施例1における修正目標電流生成手続きの詳細を説明するフローチャートである。
修正目標流量から変化率制限値Δpを求める制御マップの例である。
発電電力から発電電流を求める制御マップの例である。
基準目標電流からシステム要求目標空気流量を求める制御マップの例である。
基準目標電流からシステム要求目標空気圧力を求める制御マップの例である。
(a)実施例1による負荷急増時の空気流量[NL/min]のタイムチャート、(b)実施例1による負荷急増時の空気圧力[kPa−a]のタイムチャートである。
(a)比較例による負荷急増時の空気流量[NL/min]のタイムチャート、(b)比較例による負荷急増時の空気圧力[kPa−a]のタイムチャートである。
1…燃料電池、2…水素タンク、3…水素タンク元弁、4…減圧弁、5…水素供給弁、6a、6b…圧力センサ、6c…流量センサ、6d…温度センサ、6e…圧力センサ、7…水素循環装置、8…パージ弁、9…排水素処理装置、10a…コンプレッサ、10b…インバータ、11…加湿装置、12…空気調圧弁、13…冷却水ポンプ、14、15…温度センサ、16…三方弁、17…ラジエタ、18…ラジエタファン、19…バイパス流路、20…パワーマネージャ、21a…電圧センサ、21b…電流センサ、22…キースイッチ、23…アクセル開度センサ、24…水素循環路、30…コントローラ(燃料電池システム制御部)、31…システム要求目標値生成部、32…目標値生成部、33…操作量生成部。