以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1について説明する。本実施形態においては、本発明を燃料電池車両(移動体)の車載発電システムに適用した例について説明することとする。
まず、図1〜図3を用いて、本発明の実施形態に係る燃料電池システム1の構成について説明する。
本実施形態に係る燃料電池システム1は、図1に示すように、反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池10を備えるとともに、燃料電池10に酸化ガスとしての空気を供給する酸化ガス配管系2、燃料電池10に燃料ガスとしての水素ガスを供給する水素ガス配管系3、システム全体を統合制御する制御装置4等を備えている。
燃料電池10は、反応ガスの供給を受けて発電する単電池を所要数積層して構成したスタック構造を有している。燃料電池10により発生した電力は、PCU(Power Control Unit)11に供給される。PCU11は、燃料電池10とトラクションモータ12との間に配置されるインバータやDC‐DCコンバータ等を備えている。また、燃料電池10には、発電中の電流を検出する電流センサ13が取り付けられている。
酸化ガス配管系2は、加湿器20により加湿された酸化ガス(空気)を燃料電池10に供給する空気供給流路21と、燃料電池10から排出された酸化オフガスを加湿器20に導く空気排出流路22と、加湿器21から外部に酸化オフガスを導くための排気流路23と、を備えている。空気供給流路21には、大気中の酸化ガスを取り込んで加湿器20に圧送するコンプレッサ24が設けられている。
水素ガス配管系3は、高圧の水素ガスを貯留した燃料供給源としての水素タンク30と、水素タンク30の水素ガスを燃料電池10に供給するための水素供給流路31と、燃料電池10から排出された水素オフガスを水素供給流路31に戻すための循環流路32と、を備えている。なお、水素タンク30に代えて、炭化水素系の燃料から水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、この改質器で生成した改質ガスを高圧状態にして蓄圧する高圧ガスタンクと、を燃料供給源として採用することもできる。また、水素吸蔵合金を有するタンクを燃料供給源として採用してもよい。
水素供給流路31には、水素タンク30からの水素ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁33と、水素ガスの圧力を調整するレギュレータ34と、インジェクタ35と、が設けられている。また、インジェクタ35の上流側には、水素供給流路31内の水素ガスの圧力及び温度を検出する一次側圧力センサ41及び温度センサ42が設けられている。また、インジェクタ35の下流側であって水素供給流路31と循環流路32との合流部A1の上流側には、水素供給流路31内の水素ガスの圧力を検出する二次側圧力センサ43が設けられている。
レギュレータ34は、その上流側圧力(一次圧)を、予め設定した二次圧に調圧する装置である。本実施形態においては、一次圧を減圧する機械式の減圧弁をレギュレータ34として採用している。機械式の減圧弁の構成としては、背圧室と調圧室とがダイアフラムを隔てて形成された筺体を有し、背圧室内の背圧により調圧室内で一次圧を所定の圧力に減圧して二次圧とする公知の構成を採用することができる。本実施形態においては、図1に示すように、インジェクタ35の上流側にレギュレータ34を2個配置することにより、インジェクタ35の上流側圧力を効果的に低減させることができる。このため、インジェクタ35の機械的構造(弁体、筺体、流路、駆動装置等)の設計自由度を高めることができる。また、インジェクタ35の上流側圧力を低減させることができるので、インジェクタ35の上流側圧力と下流側圧力との差圧の増大に起因してインジェクタ35の弁体が移動し難くなることを抑制することができる。従って、インジェクタ35の下流側圧力の可変調圧幅を広げることができるとともに、インジェクタ35の応答性の低下を抑制することができる。
インジェクタ35は、弁体を電磁駆動力で直接的に所定の駆動周期で駆動して弁座から離隔させることによりガス流量やガス圧を調整することが可能な電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ35は、水素ガス等の気体燃料を噴射する噴射孔を有する弁座を備えるとともに、その気体燃料を噴射孔まで供給案内するノズルボディと、このノズルボディに対して軸線方向(気体流れ方向)に移動可能に収容保持され噴射孔を開閉する弁体と、を備えている。本実施形態においては、インジェクタ35の弁体は電磁駆動装置であるソレノイドにより駆動され、このソレノイドに給電されるパルス状励磁電流のオン・オフにより、噴射孔の開口面積を2段階又は多段階に切り替えることができるようになっている。制御装置4から出力される制御信号によってインジェクタ35のガス噴射時間及びガス噴射時期が制御されることにより、水素ガスの流量及び圧力が高精度に制御される。インジェクタ35は、弁(弁体及び弁座)を電磁駆動力で直接開閉駆動するものであり、その駆動周期が高応答の領域まで制御可能であるため、高い応答性を有する。
インジェクタ35は、その下流に要求されるガス流量を供給するために、インジェクタ35のガス流路に設けられた弁体の開口面積(開度)及び開放時間の少なくとも一方を変更することにより、下流側(燃料電池10側)に供給されるガス流量(又は水素モル濃度)を調整する。なお、インジェクタ35の弁体の開閉によりガス流量が調整されるとともに、インジェクタ35下流に供給されるガス圧力がインジェクタ35上流のガス圧力より減圧されるため、インジェクタ35を調圧弁(減圧弁、レギュレータ)と解釈することもできる。また、本実施形態では、ガス要求に応じて所定の圧力範囲の中で要求圧力に一致するようにインジェクタ35の上流ガス圧の調圧量(減圧量)を変化させることが可能な可変調圧弁と解釈することもできる。
なお、本実施形態においては、図1に示すように、水素供給流路31と循環流路32との合流部A1より上流側にインジェクタ35を配置している。また、図1に破線で示すように、燃料供給源として複数の水素タンク30を採用する場合には、各水素タンク30から供給される水素ガスが合流する部分(水素ガス合流部A2)よりも下流側にインジェクタ35を配置するようにする。
循環流路32には、気液分離器36及び排気排水弁37を介して、排出流路38が接続されている。気液分離器36は、水素オフガスから水分を回収するものである。排気排水弁37は、制御装置4からの指令によって作動することにより、気液分離器36で回収した水分と、循環流路32内の不純物を含む水素オフガスと、を外部に排出(パージ)するものである。また、循環流路32には、循環流路32内の水素オフガスを加圧して水素供給流路31側へ送り出す水素ポンプ39が設けられている。なお、排気排水弁37及び排出流路38を介して排出される水素オフガスは、希釈器40によって希釈されて排気流路23内の酸化オフガスと合流するようになっている。
制御装置4は、車両に設けられた加速用の操作部材(アクセル等)の操作量を検出し、加速要求値(例えばトラクションモータ12等の負荷装置からの要求発電量)等の制御情報を受けて、システム内の各種機器の動作を制御する。なお、負荷装置とは、トラクションモータ12のほかに、燃料電池10を作動させるために必要な補機装置(例えばコンプレッサ24、水素ポンプ39、冷却ポンプのモータ等)、車両の走行に関与する各種装置(変速機、車輪制御装置、操舵装置、懸架装置等)で使用されるアクチュエータ、乗員空間の空調装置(エアコン)、照明、オーディオ等を含む電力消費装置を総称したものである。
制御装置4は、図示していないコンピュータシステムによって構成されている。かかるコンピュータシステムは、CPU、ROM、RAM、HDD、入出力インタフェース及びディスプレイ等を備えるものであり、ROMに記録された各種制御プログラムをCPUが読み込んで実行することにより、各種制御動作が実現されるようになっている。
具体的には、制御装置4は、図2に示すように、燃料電池10の運転状態(電流センサ13で検出した燃料電池10の発電時の電流値)に基づいて、燃料電池10で消費される水素ガスの流量(以下「水素消費量」という)を算出する(燃料消費量算出機能:B1)。また、制御装置4は、燃料電池10の運転状態に基づいて、燃料電池10に供給される水素ガスのインジェクタ35下流位置における目標圧力値を算出する(目標圧力値算出機能:B2)。本実施形態においては、燃料電池10の電流値と目標圧力値との関係を表す特定のマップを用いて目標圧力値を算出している。
また、制御装置4は、算出した目標圧力値と、二次側圧力センサ43で検出し後述する特定の処理を施したインジェクタ35下流位置の圧力値(処理圧力値)と、の偏差を算出し、この偏差の絶対値が所定の閾値以下であるか否かを判定する(偏差判定機能:B3)。そして、制御装置4は、偏差の絶対値が所定の閾値以下である場合に、この偏差を低減させるためのフィードバック補正流量を算出する(フィードバック補正流量算出機能:B4)。フィードバック補正流量は、目標圧力値と処理圧力値との偏差の絶対値を低減させるために水素消費量に加算される水素ガス流量である。本実施形態においては、PI制御等の目標追従型制御則を用いてフィードバック補正流量を算出している。
また、制御装置4は、インジェクタ35の上流のガス状態(一次側圧力センサ41で検出し後述する特定の処理を施した水素ガスの圧力及び温度センサ42で検出した水素ガスの温度)に基づいてインジェクタ35の上流の静的流量を算出する(静的流量算出機能:B5)。本実施形態においては、インジェクタ35の上流側の水素ガスの圧力及び温度と静的流量との関係を表す特定の演算式を用いて静的流量を算出している。また、制御装置4は、インジェクタ35の上流のガス状態及び印加電圧に基づいてインジェクタ35の無効噴射時間を算出する(無効噴射時間算出機能:B6)。ここで無効噴射時間とは、インジェクタ35が制御装置4から制御信号を受けてから実際に噴射を開始するまでに要する時間を意味する。本実施形態においては、インジェクタ35の上流側の水素ガスの圧力及び温度と印加電圧と無効噴射時間との関係を表す特定のマップを用いて無効噴射時間を算出している。
また、制御装置4は、水素消費量とフィードバック補正流量とを加算することにより、インジェクタ35の噴射流量を算出する(噴射流量算出機能:B7)。そして、制御装置4は、インジェクタ35の噴射流量を静的流量で除した値にインジェクタ35の駆動周期を乗じることにより、インジェクタ35の基本噴射時間を算出するとともに、この基本噴射時間と無効噴射時間とを加算してインジェクタ35の総噴射時間を算出する(総噴射時間算出機能:B8)。ここで、駆動周期とは、インジェクタ35の噴射孔の開閉状態を表す段状(オン・オフ)波形の周期を意味する。本実施形態においては、制御装置4により駆動周期を一定の値に設定している。
そして、制御装置4は、以上の手順を経て算出したインジェクタ35の総噴射時間を実現させるための制御信号を出力することにより、インジェクタ35のガス噴射時間及びガス噴射時期を制御して、燃料電池10に供給される水素ガスの流量及び圧力を調整する。すなわち、制御装置4は、偏差の絶対値が所定の閾値以下である場合に、この偏差を低減させるためのフィードバック制御を実現させる。かかるフィードバック制御は、本発明における通常制御に相当するものである。
また、制御装置4は、目標圧力値と処理圧力値との偏差の絶対値が所定の閾値を超える場合に、インジェクタ35の全開制御又は全閉制御を実現させる。全開・全閉制御とは、いわゆるオープンループ制御であり、目標圧力値と処理圧力値との偏差の絶対値が所定の閾値以下となるまでインジェクタ35の開度を全開・全閉に維持するものである。 具体的には、制御装置4は、偏差の絶対値が所定の閾値を超えた場合であって、目標圧力値よりも処理圧力値が小さい場合に、インジェクタ35を全開させる(すなわち連続噴射させる)ための制御信号を出力して、燃料電池10に供給される水素ガスの流量及び圧力が最大になるように調整する(全開制御機能:B9)。一方、制御装置4は、偏差の絶対値が所定の閾値を超えた場合であって、目標圧力値よりも処理圧力値が大きい場合に、インジェクタ35を全閉させる(すなわち噴射停止させる)ための制御信号を出力して、燃料電池10に供給される水素ガスの流量及び圧力が最小になるように調整する(全閉制御機能:B10)。
また、制御装置4は、一次側圧力センサ41で検出されたインジェクタ35上流側における水素ガスの圧力値(検出一次圧)に、特定の処理を施す(一次圧フィルタリング機能:B11)。具体的には、制御装置4は、検出一次圧に平滑化処理を施すとともに、平滑化処理を施した値からオフセット量を減じることにより、検出一次圧を実際の一次圧(インジェクタ35の噴射中における一次圧)に近付けるように処理する。この際、制御装置4は、燃料電池10の運転状態(電流センサ13で検出した燃料電池10の発電時の電流値)に応じて、オフセット量を変更する。すなわち、制御装置4は、図3に示すように、燃料電池10の発電電流値が小さくなるほどオフセット量を大きく設定する。燃料電池10の発電電流値が小さい(インジェクタ35の駆動周期が長い)場合には一次圧の低下分が大きく、燃料電池10の発電電流値が大きい(インジェクタ35の駆動周期が短い)場合には一次圧の低下分が小さい、というシステムの特性を勘案したものである。
また、制御装置4は、二次側圧力センサ43で検出されたインジェクタ35上流側における水素ガスの圧力値(検出二次圧)に平滑化処理を施す(二次圧フィルタリング機能:B12)。この際、制御装置4は、インジェクタ35の全開制御時又は全閉制御時における平滑化処理の平滑度を、インジェクタ35の通常制御時における平滑化処理の平滑度よりも低くする(すなわち、全開・全閉制御時の平滑化処理後の二次圧を、通常制御時の平滑化処理後の二次圧よりも、実圧に近い値とする)。また、制御装置4は、インジェクタ35の制御態様が全開制御又は全閉制御から通常制御へと移行する際に、移行直後における初期圧力値を、移行直前の全開制御時又は全閉制御時に平滑化処理が施された圧力値に設定する。
なお、制御装置4は、移動平均を採用して検出値(検出一次圧及び検出二次圧)の平滑化処理を行っている。具体的には、制御装置4は、ある検出値とその前後2L点の検出値とを加算し、この加算して得た値を平均化点数M(=2L+1)で除することにより、平滑化された値を算出する。制御装置4は、検出二次圧に平滑化処理を施す際に、インジェクタ35の全開・全閉制御時における平均化点数Mの値を、通常制御時における平均化点数Mの値よりも小さい値に設定することにより、全開・全閉制御時における平滑化処理の平滑度を、通常制御時における平滑化処理の平滑度よりも低くしている。検出値をpiとし、移動平均化処理によって平滑化される値をxiとすると、xiは以下の式により算出されることとなる。
本実施形態における制御装置4は、一次側圧力センサ41及び二次側圧力センサ43で検出された圧力値(検出圧力値)に平滑化処理等を施すものであり、本発明における処理手段として機能する。また、制御装置4は、一次側圧力センサ41及び二次側圧力センサ43で検出され処理が施された圧力値(処理圧力値)に基づいてインジェクタ35を制御するものであり、本発明における制御手段としても機能する。また、制御装置4は、インジェクタ35の開閉動作に応じて平滑化処理の態様を変更するものであり、本発明における処理態様変更手段としても機能する。
続いて、図4のフローチャートと、図5及び図6のタイムチャート、を用いて、本実施形態に係る燃料電池システム1の運転方法について説明する。
燃料電池システム1の運転時においては、水素タンク30から水素ガスが水素供給流路31を介して燃料電池10の燃料極に供給されるとともに、加湿調整された空気が空気供給流路21を介して燃料電池10の酸化極に供給されることにより、発電が行われる。この際、燃料電池10から引き出すべき電力(要求電力)が制御装置4で演算され、その発電量に応じた量の水素ガス及び空気が燃料電池10内に供給されるようになっている。
かかる運転時において、燃料電池システム1の制御装置4は、電流センサ13を用いて燃料電池10の発電時における電流値を検出する(電流検出工程:S1)。また、制御装置4は、電流センサ13で検出した電流値に基づいて、燃料電池10に供給される水素ガスの目標圧力値を算出する(目標圧力値算出工程:S2)。さらに、制御装置4は、電流センサ13で検出した電流値及び図3のマップに基づいて、インジェクタ35の上流側における検出圧力値(検出一次圧)の処理に用いるオフセット量を算出する(オフセット量算出工程:S3)。
次いで、制御装置4は、二次側圧力センサ43を用いてインジェクタ35の下流側の圧力値を検出する(圧力値検出工程:S4)とともに、この検出した圧力値(検出二次圧)に通常制御時における平滑化処理を施す(通常時処理工程:S5)。通常時処理工程S5における平滑化処理の平滑度は、後述する全開制御工程S10及び全閉制御工程S11における平滑化処理の平滑度よりも高く(すなわち平均化点数Mの値が大きく)なるように設定されている。
次いで、制御装置4は、目標圧力値算出工程S2で算出した目標圧力値と、通常時処理工程S5で平滑化処理を施した圧力値(処理後二次圧)と、の偏差ΔPを算出する(偏差算出工程:S6)。そして、制御装置4は、偏差算出工程S6で算出した偏差ΔPの絶対値が、第1の閾値ΔP1以下であるか否かを判定する(第1偏差判定工程:S7)。閾値ΔP1は、図5に示すように、目標圧力値より処理後二次圧が小さい場合においてフィードバック制御と全開制御との切換えを行うための閾値である。制御装置4は、目標圧力値と処理圧力値との偏差ΔPの絶対値が第1の閾値ΔP1以下であると判定した場合に、後述する第2偏差判定工程S8に移行する。
一方、制御装置4は、目標圧力値と処理後二次圧との偏差ΔPの絶対値が第1の閾値ΔP1を超えるものと判定した場合に、インジェクタ35を全開させる(連続噴射させる)ための制御信号を出力して、燃料電池10に供給される水素ガスの流量及び圧力が最大になるように調整する(全開制御工程:S10)。全開制御工程S10において、制御装置4は、検出二次圧に全開制御時用の平滑化処理を施す。具体的には、制御装置4は、全開制御工程S10における平滑化処理の平滑度を、通常時処理工程S5における平滑化処理の平滑度よりも低く(すなわち平均化点数Mの値を小さく)設定する。これにより、全開制御時における処理後二次圧を、通常制御時における処理後二次圧よりも実圧に近付けることが可能となる。
制御装置4は、第1偏差判定工程S7で目標圧力値と処理後二次圧との偏差ΔPの絶対値が第1の閾値ΔP1以下であると判定した場合に、偏差算出工程S6で算出した偏差ΔPの絶対値が、第2の閾値ΔP2以下であるか否かを判定する(第2偏差判定工程:S8)。第2の閾値ΔP2は、図5に示すように、目標圧力値より処理後二次圧が大きい場合においてフィードバック制御と全閉制御との切換えを行うための閾値である。制御装置4は、目標圧力値と処理後二次圧との偏差ΔPの絶対値が第2の閾値ΔP2以下であると判定した場合に、後述するフィードバック制御工程S9に移行する。
一方、制御装置4は、目標圧力値と処理後二次圧との偏差ΔPの絶対値が第2の閾値ΔP2を超えるものと判定した場合に、インジェクタ35を全閉させる(噴射停止させる)ための制御信号を出力して、燃料電池10に供給される水素ガスの流量及び圧力が最小になるように調整する(全閉制御工程:S11)。全閉制御工程S11において、制御装置4は、検出二次圧に全閉制御時用の平滑化処理を施す。具体的には、制御装置4は、全閉制御工程S11における平滑化処理の平滑度を、通常時処理工程S5における平滑化処理の平滑度よりも低く(すなわち平均化点数Mの値を小さく)設定する。これにより、全閉制御時における処理後二次圧を、通常制御時における処理後二次圧よりも実圧に近付けることが可能となる。
制御装置4は、第2偏差判定工程S8で目標圧力値と処理後二次圧との偏差ΔPの絶対値が第2の閾値ΔP2以下であると判定した場合に、フィードバック制御(通常制御)を実現させる(通常制御工程:S9)。かかる通常制御工程S9について具体的に説明する。
まず、制御装置4は、電流センサ13で検出した電流値に基づいて、燃料電池10で消費される水素ガスの流量(水素消費量)を算出する。また、制御装置4は、目標圧力値算出工程S2で算出した目標圧力値と、通常時処理工程S5で平滑化処理が施された圧力値(処理後二次圧)と、の偏差ΔPに基づいてフィードバック補正流量を算出する。フィードバック補正流量は、目標圧力値と処理後二次圧との偏差ΔPの絶対値を低減させるために水素消費量に加算される水素ガス流量である。そして、制御装置4は、算出した水素消費量とフィードバック補正流量とを加算することにより、インジェクタ35の噴射流量を算出する。
また、制御装置4は、一次側圧力センサ41で検出したインジェクタ35の上流側の水素ガスの圧力値(検出一次圧)に平滑化処理を施し、オフセット量算出工程S3で算出したオフセット量を平滑化処理後の値から減じることにより、検出一次圧を実際の一次圧(インジェクタ35の噴射中における一次圧)に近付けるように処理する。そして、このような処理後一次圧と、温度センサ42で検出したインジェクタ35の上流の水素ガスの温度と、に基づいてインジェクタ35の上流の静的流量を算出する。そして、制御装置4は、インジェクタ35の噴射流量を静的流量で除した値に駆動周期を乗じることにより、インジェクタ35の基本噴射時間を算出する。
また、制御装置4は、処理後一次圧と、温度センサ42で検出したインジェクタ35の上流の水素ガスの温度と、印加電圧と、に基づいてインジェクタ35の無効噴射時間を算出し、この無効噴射時間と、インジェクタ35の基本噴射時間と、を加算することにより、インジェクタ35の総噴射時間を算出する。その後、制御装置4は、算出したインジェクタ35の総噴射時間に係る制御信号を出力することにより、インジェクタ35のガス噴射時間及びガス噴射時期を制御して、燃料電池10に供給される水素ガスの流量及び圧力を調整する。以上の工程群を繰り返して調圧を行うことにより、検出二次圧(及び処理後二次圧)を目標圧力値に近付けることができる。
図5のタイムチャートは、本実施形態に係る燃料電池システム1の処理後二次圧の時間履歴を示すものである。燃料電池10の起動時においては、図5に示すように、目標圧力値より処理後二次圧が小さく、かつ、目標圧力値と処理後二次圧との偏差ΔPの絶対値が閾値ΔP1より大きいため、制御装置4はインジェクタ35の全開制御を実現させる。これにより処理後二次圧は急速に目標圧力値に近付き、偏差ΔPの絶対値は急減する。そして、制御装置4は、偏差ΔPの絶対値が閾値ΔP1以下となった場合に、全開制御から通常制御に切り換える。これにより、処理後二次圧の変化速度が低減する。
その後、目標圧力値より処理後二次圧が大きくなり、かつ、目標圧力値と処理後二次圧との偏差ΔPの絶対値が閾値ΔP2より大きくなった場合に、制御装置4は通常制御から全閉制御に切り換える。これにより、処理後二次圧は急速に目標圧力値に近付き、偏差ΔPの絶対値は急減する。そして、制御装置4は、偏差ΔPの絶対値が閾値ΔP2以下となった場合に、全閉制御から通常制御に切り換える。このように通常制御と全開・全閉制御とを偏差ΔPに応じて切り換えることにより、検出圧力値を目標圧力値に迅速に収束させることができる。
なお、インジェクタ35の全開制御において、通常制御と同レベルの平滑化処理(平滑度が比較的高い平滑化処理)を検出二次圧に施すと、図6(A)に示すように、実圧に対して処理後二次圧が遅れるため、全開制御から通常制御への移行後に実圧が目標圧力値を大きく上回る現象(オーバーシュート現象)が生じる。同様に、インジェクタ35の全閉制御において、通常制御と同レベルの平滑化処理を検出二次圧に施すと、実圧に対して処理後二次圧が遅れるため、全閉制御から通常制御への移行後に実圧が目標圧力値を大きく下回る現象(アンダーシュート現象)が生じる。これに対し、本実施形態においては、図6(B)に示すように、インジェクタ35の全開(全閉)制御時に、通常制御時と異なる平滑化処理(平滑度が比較的低い平滑化処理)を検出二次圧に施すため、前記したオーバーシュート現象(アンダーシュート現象)の発生を抑制することが可能となる。
また、インジェクタ35の制御態様を全開(全閉)制御から通常制御に移行させる際に、移行直後における初期圧力値を、移行直前において通常制御時の平滑化処理が施された圧力値P0(図6(B)参照)に設定すると、この圧力値P0と実圧との差が大きいため、移行後における処理後二次圧の算出に誤差が生じてしまう。このため、制御装置4は、図6(B)に示すように、インジェクタ35の制御態様を全開(全閉)制御から通常制御に移行させる際に、移行直後における初期圧力値を、移行直前において全開(全閉)制御時の平滑化処理が施された圧力値P1に設定する。このようにすることにより、制御態様切替後における処理後二次圧の算出誤差を抑制することが可能となる。
以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、インジェクタ35の開閉動作に応じて、圧力センサ(一次側圧力センサ41及び二次側圧力センサ43)で検出された圧力値(検出一次圧及び検出二次圧)の処理態様を変更することができる。従って、インジェクタ35の開閉動作に起因した圧力誤差(水素ガスの検出圧力値と実際の圧力値との誤差)を適切な処理によって補正することができ、処理後の圧力値(インジェクタ35の制御に用いられる値)を実際の圧力値に近付けることができる。この結果、インジェクタ35の制御精度を向上させることができ、インジェクタ35からの水素ガスの供給誤差を低減することが可能となる。
また、以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、インジェクタ35の上流側における水素ガスの検出圧力値(検出一次圧)に平滑化処理を施し、平滑化処理後の値から所定のオフセット量を減じることにより、実際の圧力値(インジェクタ35の噴射中における一次圧)を比較的精度良く推定することができ、この推定した圧力値に基づいてインジェクタ35を制御することができる。この際、燃料電池10の発電電流値が大きい(インジェクタ35の駆動周期が短い)場合には一次圧の低下分が小さく、燃料電池10の発電電流値が小さい(駆動周期が長い)場合には一次圧の低下分が大きい、というインジェクタ35の特性を勘案して、インジェクタ35の駆動周期が長くなるほどオフセット量を大きくすることができる。従って、燃料電池10の運転状態やインジェクタ35の開閉動作に応じた適切な処理(一次圧推定)が可能となり、インジェクタ35の制御精度の向上に寄与することができる。
また、以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、インジェクタ35の下流側における水素ガスの検出圧力値(検出二次圧)に平滑化処理を施し、この処理後二次圧が所定の目標圧力値に追従するようにインジェクタ35を制御することができる。この際、インジェクタ35の全開・全閉制御時における平滑化処理の平滑度を、通常制御時における平滑化処理の平滑度よりも低くする(すなわち、全開・全閉制御時の平滑化処理後の二次圧を、通常制御時の平滑化処理後の二次圧よりも、実圧に近い値とする)ことができる。従って、インジェクタ35の開閉動作に応じた適切な処理が可能となり、インジェクタ35の応答性の向上(オーバーシュート現象・アンダーシュート現象の抑制)が可能となる。
また、以上説明した実施形態に係る燃料電池システム1においては、インジェクタ35の制御態様を全開・全閉制御から通常制御へと移行させる際に、移行直後における初期圧力値を、移行直前の全開・閉制御時に平滑化処理が施された圧力値に設定することができる。従って、インジェクタ35の制御態様の切替に起因して平滑化処理の態様が切り替わる場合における初期圧力値のズレを是正することが可能となり、制御態様切替後における処理後二次圧の算出誤差を抑制することが可能となる。
なお、以上の実施形態においては、燃料電池システム1の水素ガス配管系3に循環流路32を設けた例を示したが、例えば、図7に示すように、燃料電池10に排出流路38を直接接続して循環流路32を廃止することもできる。かかる構成(デッドエンド方式)を採用した場合においても、制御装置4で前記実施形態と同様にインジェクタ35の作動状態を制御することにより、前記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
また、以上の実施形態においては、本発明における開閉弁としてインジェクタ35を採用した例を示したが、開閉弁は供給流路(水素供給流路31)の上流側のガス状態を調整して下流側に供給するものであればよく、インジェクタ35に限られるものではない。
また、以上の実施形態においては、循環流路32に水素ポンプ39を設けた例を示したが、水素ポンプ39に代えてエジェクタを採用してもよい。また、以上の実施形態においては、排気と排水との双方を実現させる排気排水弁37を循環流路32に設けた例を示したが、気液分離器36で回収した水分を外部に排出する排水弁と、循環流路32内のガスを外部に排出するための排気弁と、を別々に設け、制御装置4で排気弁を制御することもできる。
また、以上の実施形態においては、水素ガス配管系3の水素供給流路31のインジェクタ35の下流位置に二次側圧力センサ43を配置し、この位置における圧力を調整する(所定の目標圧力値に近付ける)ようにインジェクタ35の作動状態を設定した例を示したが、二次側圧力センサの位置はこれに限られるものではない。例えば、燃料電池10の水素ガス入口近傍位置(水素供給流路31上)や、燃料電池10の水素ガス出口近傍位置(循環流路32上)や、水素ポンプ39の出口近傍位置(循環流路32上)に二次側圧力センサを配置することもできる。かかる場合には、二次側圧力センサの各位置における目標圧力値を記録したマップを予め作成しておき、このマップに基づいてフィードバック補正流量を算出するようにする。
また、以上の実施形態においては、水素供給流路31に遮断弁33及びレギュレータ34を設けた例を示したが、インジェクタ35は、可変調圧弁としての機能を果たすとともに、水素ガスの供給を遮断する遮断弁としての機能をも果たすため、必ずしも遮断弁33やレギュレータ34を設けなくてもよい。従って、インジェクタ35を採用すると遮断弁33やレギュレータ34を省くことができるため、システムの小型化及び低廉化が可能となる。
また、以上の実施形態においては、燃料電池10の発電時の電流値を検出し、この電流値に基づいて目標圧力値や水素ガスの消費流量を算出してフィードバック制御を行った例を示したが、燃料電池10の運転状態を示す他の物理量(燃料電池10の発電時の電圧値や電力値、燃料電池10の温度等)を検出し、この検出した物理量に応じてフィードバック制御を行うこともできる。
また、以上の実施形態においては、圧力センサ(一次側圧力センサ41及び二次側圧力センサ43)で検出した圧力値(検出一次圧及び検出二次圧)に平滑化処理を施す際に「移動平均」を採用した例を示したが、平滑化処理の手法はこれに限られるものではない。
また、以上の実施形態においては、燃料電池10の発電電流値に基づいて水素消費量、目標圧力値及びオフセット量を設定した例を示したが、燃料電池10の運転状態を示す他の物理量(燃料電池10の発電電圧値や発電電力値、燃料電池10の温度等)を検出し、この検出した物理量に応じて水素消費量、目標圧力値及びオフセット量を設定してもよい。また、燃料電池10が停止状態にあるか、起動時の運転状態にあるか、間欠運転に入る直前の運転状態にあるか、間欠運転から回復した直後の運転状態あるか、通常運転状態にあるか等の運転状態を制御装置4が判定し、これら運転状態に応じて水素消費量等を設定することもできる。
また、以上の各実施形態においては、本発明に係る燃料電池システムを燃料電池車両に搭載した例を示したが、燃料電池車両以外の各種移動体(ロボット、船舶、航空機等)に本発明に係る燃料電池システムを搭載することもできる。また、本発明に係る燃料電池システムを、建物(住宅、ビル等)用の発電設備として用いられる定置用発電システムに適用してもよい。
1…燃料電池システム、3…水素ガス配管系(燃料供給系)、4…制御装置(処理手段、制御手段、処理態様変更手段)、10…燃料電池、30…水素タンク(燃料供給源)、31…水素供給流路、35…インジェクタ(開閉弁)、41…一次側圧力センサ、43…二次側圧力センサ。