図1は、実施例に係る遊星歯車機構の潤滑構造を備える車両の概略図である。なお、以下の説明では、径方向とは、基準となる軸等を特に記載していない場合には、後述する駆動装置15の入力軸16が回転をする際に中心となる軸である回転中心軸65と直交する方向をいい、周方向とは、同様に回転中心軸65が中心となる円周方向をいう。同図に示す車両1は、内燃機関であるエンジン3と、電気で駆動するモータジェネレータ5とを備えている。この車両1は、走行時における動力源としてエンジン3とモータジェネレータ5とを併用、または選択して使用する、いわゆるハイブリッド車となっている。このうち、モータジェネレータ5は、動力分割統合機構20、減速機構50、及び差動装置55と共に、駆動装置15を構成しており、車両1は、エンジン3とモータジェネレータ5とを、車両1の各部を制御するECU(Electronic Control Unit)10によって協調制御することにより走行する。
また、モータジェネレータ5は、供給された電力を機械的動力に変換する電動機としての機能と、入力された機械的動力を電力に変換する発電機としての機能とを兼ね備えており、第1モータジェネレータ6と第2モータジェネレータ8との2つのモータジェネレータ5が設けられている。このうち、第1モータジェネレータ6は、主に発電機として用いられ、第2モータジェネレータ8は、主に電動機として用いられる。
また、駆動装置15には、エンジン3及びモータジェネレータ5が出力した機械的動力を、車両1の駆動輪62に伝達する際における動力伝達機構として、エンジン3が出力した機械的動力を分割する動力分割統合機構20と、動力分割統合機構20から伝達された回転を減速しトルクを増大させる減速機構50と、減速機構50から伝達された機械的動力を左右の駆動輪62に分配して出力する差動装置55が設けられている。
このうち、動力分割統合機構20は、2つのシングルピニオン式の遊星歯車機構により構成されている。詳細には、動力分割統合機構20は、エンジン3が出力した機械的動力を、第1モータジェネレータ6を駆動する機械的動力と減速機構50を駆動する機械的動力に分割可能な動力分割遊星歯車21と、第2モータジェネレータ8が出力した機械的動力を、回転速度を減速しトルクを増大させて減速機構50に伝達可能な減速遊星歯車41との2つの遊星歯車機構により構成されている。
これらの動力分割遊星歯車21と減速遊星歯車41とのうち、動力分割遊星歯車21は、互いに同軸的に配置されたサンギア22及びリングギア23と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア24と、プラネタリギア24を自転可能に、且つ、回転中心軸65を中心として公転可能に支持するプラネタリキャリア25とを有している。同様に、減速遊星歯車41は、互いに同軸的に配置されたサンギア42及びリングギア43と、これらのギアの間に介在する複数のプラネタリギア44と、プラネタリギア44を自転可能に支持するプラネタリキャリア45とを有している。
このように設けられる動力分割遊星歯車21と減速遊星歯車41とは、同心配置されており、動力分割遊星歯車21のリングギア23と減速遊星歯車41のリングギア43は、一体に結合されている。また、この一体に結合されたリングギア23、43の外周側には、減速機構50が有するカウンタシャフト53を駆動するカウンタドライブギア48が設けられている。
また、エンジン3の出力が駆動装置15に入力される際における回転軸として設けられる駆動装置15の入力軸16は、動力分割遊星歯車21のプラネタリキャリア25と一体回転可能に接続されている。これにより、動力分割遊星歯車21は、エンジン3の出力を、プラネタリキャリア25が支持するプラネタリギア24から、サンギア22に伝達する機械的動力と、リングギア23に伝達する機械的動力に分割可能になっている。
また、第1モータジェネレータ6は、この動力分割統合機構20に接続されており、第1モータジェネレータ6の駆動軸7は駆動装置15の入力軸16と同軸の中空状に形成され、且つ、動力分割遊星歯車21のサンギア22と一体回転可能に接続されている。これらにより、エンジン3から動力分割遊星歯車21に入力された機械的動力は、プラネタリキャリア25、プラネタリギア24及びサンギア22を介して第1モータジェネレータ6に伝達可能になっており、第1モータジェネレータ6は、エンジン3から伝達された機械的動力によって発電可能になっている。
一方、減速遊星歯車41のプラネタリキャリア45は、駆動装置15のハウジングに固定されており、減速遊星歯車41のサンギア42は、第2モータジェネレータ8の駆動軸9に結合されている。また、サンギア42は、プラネタリキャリア45が支持するプラネタリギア44を介してリングギア43に回転を伝達可能に設けられているため、減速遊星歯車41は、第2モータジェネレータ8が出力した機械的動力を、サンギア42及びプラネタリギア44を介して、リングギア43に伝達可能になっている。その際に、減速遊星歯車41は、第2モータジェネレータ8が出力した機械的動力の回転速度を減速し、トルクを増大させてリングギア43に伝達することができる。
このリングギア43は、動力分割遊星歯車21のリングギア23と一体に結合されているため、動力分割統合機構20は、第2モータジェネレータ8から減速遊星歯車41のリングギア43に伝達された機械的動力と、エンジン3から動力分割遊星歯車21のリングギア23に伝達された機械的動力とを統合して、カウンタドライブギア48から減速機構50に伝達可能になっている。
また、減速機構50は、動力分割統合機構20のカウンタドライブギア48に噛み合うカウンタドリブンギア51と、カウンタドリブンギア51と結合されているカウンタシャフト53と、カウンタシャフト53に結合され、差動装置55が有するリングギア56に噛み合うファイナルドライブギア54とを有している。このため、減速機構50は、動力分割統合機構20のリングギア23、43から伝達された機械的動力を、回転速度を減速しトルクを増大させて差動装置55のリングギア56に伝達可能になっている。
また、差動装置55は、リングギア56と、当該リングギア56に固定され、一体に回転する差動ケース57とを有している。また、差動ケース57内には、車両1の左右の駆動軸61とそれぞれ結合されている左右一対のサイドギア58と、これら2つのサイドギア58と直交して噛み合う2つの差動ピニオン59とが設けられている。また、左右の駆動軸61は、それぞれサイドギア58に結合されており、さらにこの駆動軸61は、車両1の左右の駆動輪62にそれぞれ結合されている。
図2は、図1に示す動力分割遊星歯車の詳細図である。動力分割遊星歯車21が有するプラネタリキャリア25が接続される入力軸16には、動力分割遊星歯車21等、駆動装置15の各部を潤滑する潤滑油が流れる油路である入力軸油路17が形成されている。この入力軸油路17は、入力軸16の軸方向に沿って形成されている。さらに、入力軸16には、入力軸油路17に連通する径方向油路18が複数形成されている。この径方向油路18は、入力軸16の径方向に形成されており、一端は入力軸油路17に連通しており、他端は入力軸16の外周面に開口している。即ち、径方向油路18は、入力軸油路17と、入力軸16の外部とを連通している。また、入力軸油路17には、オイルポンプ(図示省略)で圧送することによって直接、または間接的に、潤滑油を供給可能に設けられている。
また、動力分割遊星歯車21が有するプラネタリキャリア25は、プラネタリギア24を自転及び公転可能に支持しているが、詳しく説明すると、プラネタリキャリア25は、入力軸16に接続されており、入力軸16の回転時には、入力軸16が回転をする際に中心となる軸である回転中心軸65を中心として入力軸16と共に回転可能になっている。即ち、プラネタリキャリア25は、回転中心軸65を中心として回転可能に設けられた回転部として設けられている。また、このように設けられるプラネタリキャリア25は、プラネタリギア24が自転や公転をする際の軸方向におけるプラネタリギア24の両側に設けられており、プラネタリギア24の両側に位置するプラネタリキャリア25同士は、プラネタリキャリア25が有する接続部26により接続されている。この接続部26は、回転中心軸65を中心とする周方向における複数個所に設けられている。
このように設けられるプラネタリキャリア25は、プラネタリギア24を自転可能に支持するプラネタリシャフト30を支持している。このプラネタリシャフト30は丸棒状に形成されており、丸棒状軸の軸方向における両端が、プラネタリギア24の両側に設けられたプラネタリキャリア25にカシメられることにより接続されている。これにより、プラネタリシャフト30は、プラネタリキャリア25の回転時にプラネタリキャリア25と一体となって回転可能に設けられている。即ち、プラネタリシャフト30は、プラネタリキャリア25の回転時にプラネタリキャリア25と一体となって回転することにより、回転中心軸65を中心として公転可能になっている。
また、プラネタリギア24には、プラネタリシャフト30の径よりも大きい穴が形成されており、プラネタリシャフト30は、このプラネタリギア24の穴に通った状態でプラネタリギア24を支持している。その際に、プラネタリシャフト30とプラネタリギア24との間には、ニードルベアリング35が設けられている。このニードルベアリング35は、長さがプラネタリギア24の幅の半分よりも短いニードル36が、プラネタリシャフト30と同じ方向に向いた状態で、2列になって多数配設されている。このように2列になったニードル36の列の間には、リング状の形状で形成されるスペーサ37が設けられている。ニードルベアリング35は、このスペーサ37と2列のニードル36とを合わせた長さが、プラネタリギア24の幅と同程度の長さになっている。また、ニードルベアリング35の両端側、或いはプラネタリギア24の両面側には、ワッシャ38が配設されている。
プラネタリギア24とプラネタリシャフト30との間には、このようにニードルベアリング35が設けられているが、プラネタリギア24が自転をする際には、プラネタリギア24はプラネタリシャフト30に対して相対的に回転をする。このため、ニードルベアリング35が設けられたプラネタリギア24とプラネタリシャフト30との間の部分は、プラネタリギア24を自転させる際に潤滑油を供給して潤滑を行う潤滑部となっている。
また、プラネタリシャフト30には、プラネタリシャフト30とプラネタリギア24との間の潤滑部に潤滑油を供給可能な潤滑油路31が形成されており、具体的には、潤滑油路31はプラネタリシャフト30とプラネタリギア24との間に設けられるニードルベアリング35に対して潤滑油を供給可能に形成されている。このように、プラネタリシャフト30は、潤滑油を潤滑部に供給する潤滑油路31が形成された潤滑部材として設けられている。
プラネタリシャフト30に形成される潤滑油路31は、潤滑油が導入される導入油路32と、潤滑油をニードルベアリング35に供給する供給油路33とにより構成されている。このうち、導入油路32は、プラネタリシャフト30の軸方向に沿って形成されており、一端がプラネタリシャフト30の両端部のうちの一方の端部に開口し、他端はプラネタリシャフト30の他方の端部に開口せず、プラネタリシャフト30の中に位置している。即ち、導入油路32は所定の深さの穴としてプラネタリシャフト30に形成されており、その深さは、プラネタリシャフト30の長さの1/2よりも深くなっている。また、導入油路32が開口しているプラネタリシャフト30の端部は、プラネタリシャフト30の両端部のうち、入力軸16に形成された径方向油路18に、より近い側の端部になっており、入力軸16の径方向における、導入油路32が開口している側のプラネタリシャフト30の端部の内方付近に、径方向油路18が位置している。
また供給油路33は、プラネタリシャフト30の軸方向に直交する穴として形成されている。この供給油路33は、プラネタリシャフト30を貫通してプラネタリシャフト30の外周面に開口しており、また、プラネタリシャフト30に形成されている導入油路32も貫通している。即ち、供給油路33は、導入油路32と連通しており、導入油路32とプラネタリシャフト30の外部とを連通する役割を果たしている。このように形成される供給油路33は、プラネタリシャフト30の長さ方向における中央付近に形成されており、プラネタリシャフト30とプラネタリギア24との間に位置するニードルベアリング35のスペーサ37付近に開口している。なお、プラネタリシャフト30を貫通する供給油路33の形成方向は、入力軸16の径方向に沿った方向で形成され、この方向に貫通しているのが好ましい。
図3は、図2のA−A矢視図である。また、動力分割遊星歯車21のプラネタリキャリア25には、プラネタリギア24の両側に形成されるプラネタリキャリア25のうち、供給油路33が開口している側のプラネタリシャフト30の端部が接続されている側のプラネタリキャリア25に、潤滑油を溜めることが可能なキャッチタンク70が接続されている。このキャッチタンク70は、プラネタリキャリア25における、プラネタリシャフト30が設けられている位置付近に配設されており、プラネタリギア24の数と同数設けられている。即ち、実施例に係る遊星歯車機構の潤滑構造を備える遊星歯車機構である動力分割遊星歯車21は、プラネタリギア24が3つ設けられているため、キャッチタンク70も3つ設けられている。このように設けられるキャッチタンク70は、プラネタリキャリア25と一体となって回転可能に設けられている。
図4は、図2のB−B断面図である。図5は、図4のC−C矢視図である。図6は、図4に示すキャッチタンクの斜視図である。キャッチタンク70は、二等辺三角形の頂角の部分が略半円状になった形状を底面とする柱状の形状で形成されている。即ち、底面の形状が二等辺三角形となる三角柱における頂角付近の部分が半円柱に入れ替わった形状で形成されている。このような形状で形成されるキャッチタンク70は、柱状の両端部の一方の端部は遮蔽され、他方の端部は開口しており、内部は空洞になっている。キャッチタンク70は、この内部に潤滑油を貯留可能になっている。
詳しくは、このキャッチタンク70の遮蔽されている側の端部は、外側壁部71により遮蔽されている。また、キャッチタンク70には、外側壁部71の外周に沿って壁部が形成されており、この壁部のうち、二等辺三角形の底辺の部分に該当する壁部は径方向壁部73となっている。また、外側壁部71の外周に沿って形成されている壁部のうち、径方向壁部73の両端に位置して径方向壁部73に接続される壁部は、斜面壁部74となっている。さらに、半円の部分に該当し、2つの斜面壁部74を接続する壁部は円筒壁部75となっている。この円筒壁部75は、径方向壁部73に対向する位置に形成されており、径方向壁部73から離れる方向に突出して湾曲した形状で形成されている。
また、キャッチタンク70の内部には、径方向壁部73から円筒壁部75の方向に向けて突出した突起部76が形成されている。即ち、突起部76は、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に突出して形成されている。この突起部76は、径方向壁部73の長さ方向における中央付近、即ち、径方向壁部73における斜面壁部74に接続された両端部間の中央付近に位置しており、この位置から、径方向壁部73の幅と同じ幅で円筒壁部75の方向に向けて突出している。このように突起部76は、径方向壁部73が、長さ方向における中央付近で円筒壁部75の方向に向けて、或いはキャッチタンク70の内部に向けて角部を有して屈曲することにより形成されている。これにより、突起部76は2つの平面状の壁部を有しており、この突起部76を構成する2つの壁部は、周方向壁部77となっている。
また、このように形成される突起部76により、径方向壁部73は、突起部76が形成されている部分で分断されている。換言すると、分断された2つの径方向壁部73における、斜面壁部74が接続されている側の端部の反対側に位置する端部は、共に突起部76に接続されている。
また、両端が径方向壁部73と円筒壁部75とに接続された2つの斜面壁部74には、共に矩形状の形状で開口した第1開口部である外側開口部78が形成されている。また、径方向壁部73は、外側壁部71に接続されている側の端部の反対側の端部が切り欠かれており、この部分は第2開口部である切欠き部79となっている。この切欠き部79は、径方向壁部73における2つの斜面壁部74に接続される両端部間の方向、即ち、径方向壁部73の長さ方向に沿って所定の幅で形成されており、突起部76で分断された径方向壁部73の双方の径方向壁部73に形成されている。
なお、これらの外側開口部78と切欠き部79とは、これらを径方向壁部73の鉛直方向に見た場合、または、回転中心軸65を中心とする径方向に見た場合に、双方が重なっておらず、外側開口部78と切欠き部79とは、これらの方向から見た場合における位置が完全にずれているのが好ましい。また、径方向壁部73に形成される切欠き部79は、径方向壁部73と斜面壁部74との接続部分の方向に突起部76から所定の距離をおいて離れて形成されているのが好ましい。
また、キャッチタンク70における開口している側の端部の、突起部76の外側部分、つまり、2つの周方向壁部77の間の部分には、突起部76の形状と近似した板状の形状で形成され、2つの周方向壁部77の間を埋めるように形成された遮蔽板72が設けられている。
このように形成されるキャッチタンク70は、動力分割遊星歯車21が有するプラネタリキャリア25におけるプラネタリシャフト30が接続されている部分の近傍に設けられており、プラネタリギア24の幅方向における両側に位置するプラネタリキャリア25のうち、プラネタリシャフト30の潤滑油路31が開口している側の端部が接続されている側のプラネタリキャリア25に接続されている。即ち、キャッチタンク70は、入力軸16に形成された径方向油路18に、より近い側のプラネタリキャリア25に接続されている。その向きは、開口している側の端部側、つまり、外側壁部71が設けられている側の反対側の端部側がプラネタリキャリア25側に位置する向きとなって接続されている。
この向きで接続されたキャッチタンク70は、プラネタリシャフト30に形成される潤滑油路31の開口部34の大部分が、キャッチタンク70内に開口した状態でプラネタリキャリア25に接続されている。その際に、潤滑油路31の開口部34は、回転中心軸65を中心とする周方向におけるキャッチタンク70の幅の中央付近に位置した状態で、キャッチタンク70内に開口している。また、このようにキャッチタンク70は、プラネタリキャリア25に接続されているため、キャッチタンク70の開口されている側の端部は、プラネタリキャリア25により閉塞されていると共に、キャッチタンク70は、内部が潤滑油路31に対して連通している。また、潤滑油路31の開口部34のうち、キャッチタンク70の突起部76が形成されている部分に位置する部分は、遮蔽板72により閉塞されている。
また、キャッチタンク70は、円筒壁部75が入力軸16の回転中心軸65を中心とする径方向における外方側、即ち、回転中心軸65を中心とする径方向における外方側に位置し、径方向壁部73が径方向における内方側に位置する向きで設けられている。このため、径方向壁部73は、内側の面が概ね径方向における外方に面している。また、突起部76は、径方向における外方に突出した形態になっており、この突起部76を構成する周方向壁部77は、概ね入力軸16の回転中心軸65を中心とする周方向に面している。
また、斜面壁部74は、径方向壁部73と円筒壁部75との間に設けられているため、斜面壁部74は、径方向壁部73よりも、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に位置している。このため、この斜面壁部74に形成された外側開口部78は、径方向における外方に向かって開口している。さらに、径方向壁部73は、キャッチタンク70における外側の面が、回転中心軸65を中心とする径方向における内方側に面している。このため、径方向壁部73に形成された切欠き部79は、径方向における内方に向かって開口している。
また、斜面壁部74は、径方向壁部73の両端に接続されており、プラネタリシャフト30に形成される潤滑油路31の開口部34は、回転中心軸65を中心とする周方向におけるキャッチタンク70の幅の中央付近に開口している。このため、斜面壁部74は、回転中心軸65を中心とする周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に設けられており、斜面壁部74に形成される外側開口部78も、周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に設けられている。同様に、突起部76が形成されている部分で分断された径方向壁部73も、回転中心軸65を中心とする周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に設けられているため、径方向壁部73に形成される切欠き部79も、周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に設けられている。
キャッチタンク70は、これらのようにプラネタリキャリア25に接続され、潤滑油を溜めることが可能に設けられているが、このように設けられるキャッチタンク70は、潤滑油を溜めることができる貯油部として、第1貯油部81と第2貯油部82とを有している。このうち、第1貯油部81は、径方向壁部73と、突起部76により形成される周方向壁部77と、外側壁部71と、さらに、キャッチタンク70の開口している側の端部を閉塞しているプラネタリキャリア25とにより構成されている。これにより第1貯油部81は、潤滑油を、回転中心軸65を中心とする径方向における内方及び回転中心軸65を中心とする周方向に溜めることが可能になっている。また、第1貯油部81は、このように周方向壁部77を含んで構成されており、周方向壁部77は、突起部76の径方向壁部73の長さ方向における径方向壁部73の両側に設けられているため、第1貯油部81も突起部76の両側に設けられている。このため、第1貯油部81は、回転中心軸65を中心とする周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に設けられている。即ち、キャッチタンク70は、第1貯油部81を2つ有している。
また、第2貯油部82は、円筒壁部75と外側壁部71、さらに、第1貯油部81と同様にプラネタリキャリア25により構成されており、回転中心軸65を中心とする径方向における、プラネタリシャフト30に形成される潤滑油路31の開口部34の外方側に突出して形成されている。これにより、第2貯油部82は、潤滑油を、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に溜めることが可能になっている。これらのように、第1貯油部81や第2貯油部82で潤滑油を溜めることができるキャッチタンク70は、内部がプラネタリシャフト30の潤滑油路31に対して連通しているため、第1貯油部81や第2貯油部82で潤滑油を溜めた潤滑油を、潤滑油路31に流すことが可能になっている。
この実施例に係る遊星歯車機構の潤滑構造は、以上のごとき構成からなり、以下、その作用について説明する。車両1の走行時には、動力源であるエンジン3やモータジェネレータ5を駆動させて動力を発生させることにより走行する。このうち、エンジン3で発生した動力は入力軸16に入力されて入力軸16が回転する。この入力軸16は、動力分割遊星歯車21のプラネタリキャリア25に接続されているため、入力軸16が回転した場合、入力軸16と共にプラネタリキャリア25も回転する。このようにプラネタリキャリア25が回転した場合、その回転はプラネタリキャリア25が支持するプラネタリギア24を介してリングギア23に伝達され、リングギア23の外周側に設けられるカウンタドライブギア48から減速機構50に伝達される。減速機構50に伝達された回転は、減速機構50で回転速度を減速してトルクを増大させた後、差動装置55に伝達される。差動装置55に伝達された回転は、左右の駆動軸61に分配して駆動軸61に伝達され、駆動軸61から駆動輪62に伝達される。これにより、車両1は走行する。
また、エンジン3で発生した動力は、動力分割遊星歯車21のプラネタリギア24が自転、または回転中心軸65を中心として公転した際に、プラネタリギア24からサンギア22に伝達され、サンギア22から第1モータジェネレータ6の駆動軸7に伝達されることにより、第1モータジェネレータ6に伝達可能になっている。このようにエンジン3で発生した動力が伝達された第1モータジェネレータ6は、この動力によって、第2モータジェネレータ8を駆動させる電気を発電する、或いは、車両1に搭載されるバッテリ(図示省略)に充電する電気を発電する。
さらに、車両1の減速時には、車両1の慣性に伴う駆動輪62の動力が差動装置55から減速機構50に伝達され、減速機構50から動力分割遊星歯車21のリングギア23に伝達される。リングギア23に伝達された動力は、動力分割遊星歯車21のプラネタリギア24を介してサンギア22に伝達され、サンギア22から第1モータジェネレータ6に伝達可能になっている。これにより、第1モータジェネレータ6で発電することができ、車両1の減速時の慣性力によって発電しながら行う制動である回生制動を行うことができる。
また、第2モータジェネレータ8で発生した動力は、第2モータジェネレータ8の駆動軸9から減速遊星歯車41のサンギア42に伝達されて、サンギア42が回転する。このサンギア42の回転は、減速遊星歯車41のプラネタリギア44を介してリングギア43に伝達され、リングギア43の外周側に設けられるカウンタドライブギア48から減速機構50に伝達される。これにより、エンジン3の動力が動力分割遊星歯車21を介して減速機構50に伝達された場合と同様に、動力が減速機構50から差動装置55を経て駆動軸61に伝達され、さらに駆動輪62に伝達されることにより、車両1は走行する。
これらのように、エンジン3で発生した動力、及び第2モータジェネレータ8で発生した動力は、共に駆動輪62に伝達可能になっており、また、エンジン3で発生した動力や車両1の走行時の慣性力が第1モータジェネレータ6に伝達されることにより、第1モータジェネレータ6で発電をすることができる。
これらのように車両1の走行時はエンジン3や第2モータジェネレータ8で動力を発生させたり、第1モータジェネレータ6で発電させたりすることにより車両1は走行可能になっているが、車両1の走行時には、これらのエンジン3、モータジェネレータ5は、ECU10により協調制御を行う。このため、車両1の走行時には常にエンジン3を運転させているのではなく、必要に応じて運転させたり停止させたりする。これにより、駆動装置15の入力軸16は、車両1の走行中に回転したり停止したりする。
図7は、第2貯油部に潤滑油が溜まった状態を示す説明図である。ここで、遊星歯車機構で構成される動力分割遊星歯車21の潤滑について説明する。動力分割遊星歯車21の潤滑、詳しくは、動力分割遊星歯車21が有するプラネタリギア24の回転部分の潤滑は、入力軸16が回転している場合と停止している場合とで異なっている。まず、エンジン3が運転することにより入力軸16が回転している場合について説明すると、エンジン3の運転中は入力軸16の入力軸油路17に潤滑油を供給するオイルポンプも作動するため、入力軸油路17内に潤滑油が供給される。入力軸油路17内に供給された潤滑油は、入力軸油路17に連通する径方向油路18にも流れる。この径方向油路18は、入力軸16の径方向に形成されているため、径方向油路18に流れた潤滑油は、入力軸16の回転による遠心力により、入力軸16の外部に放出され、そのまま径方向における外方に向かう(図2及び図3の矢印F)。
径方向油路18から放出された潤滑油は、このように入力軸16の径方向における外方に向かうが、この方向には、動力分割遊星歯車21のプラネタリキャリア25に接続されたキャッチタンク70が位置している。このキャッチタンク70には、回転中心軸65を中心とする径方向における内方に向けて開口した切欠き部79が形成されている。このため、入力軸16の径方向油路18から放出された潤滑油が径方向における外方に向かい、プラネタリキャリア25が設けられている部分に到達した場合、到達した潤滑油は、切欠き部79の内部に入る。
また、入力軸16が回転をしている場合、入力軸16に接続され、入力軸16の回転に伴って回転するプラネタリキャリア25も回転するため、このプラネタリキャリア25に接続されているキャッチタンク70も回転する。このため、切欠き部79からキャッチタンク70内に入った潤滑油には、キャッチタンク70の回転による遠心力が作用し、キャッチタンク70内における、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に向かう。
このキャッチタンク70における、前記径方向の最も外方に位置する部分は、径方向の外方に突出した円筒壁部75となっている。このため、遠心力によって径方向における外方に向かう潤滑油は、この円筒壁部75の部分に向かい、円筒壁部75の部分に溜まる。即ち、潤滑油90は、円筒壁部75と外側壁部71とプラネタリキャリア25とにより構成される第2貯油部82に溜まる。また、プラネタリシャフト30に形成された潤滑油路31の開口部34は、大部分がキャッチタンク70内に開口している。このため、このように潤滑油90が第2貯油部82に溜まった場合、この溜まった潤滑油90は、キャッチタンク70内から潤滑油路31に流れる。詳しくは、潤滑油90は、キャッチタンク70が有する第2貯油部82からプラネタリシャフト30の導入油路32に流れる。
第2貯油部82から導入油路32に流れた潤滑油は導入油路32を伝わって、導入油路32に連通している供給油路33に流れる。この供給油路33は、プラネタリシャフト30及び導入油路32を貫通しているため、導入油路32を貫通して導入油路32からプラネタリシャフト30の外周面に向かって形成される2方向の供給油路33のうち、一方の供給油路33は、導入油路32よりも、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に位置している。入力軸16が回転をしている場合には、プラネタリキャリア25も回転しており、プラネタリキャリア25に接続しているプラネタリシャフト30は、回転中心軸65を中心として公転している。このため、プラネタリシャフト30にも遠心力が作用しており、プラネタリシャフト30の潤滑油路31を流れる潤滑油にも遠心力が作用しているため、供給油路33に流れた潤滑油は、導入油路32から2方向に形成される供給油路33のうち、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に位置している供給油路33に主に流れる。
この供給油路33は、プラネタリシャフト30の外周面に開口しているため、供給油路33に流れた潤滑油は、プラネタリシャフト30から流出する。供給油路33からは、このように潤滑油が流出するが、プラネタリシャフト30の周囲にはニードルベアリング35が設けられている。このため、潤滑油は、ニードルベアリング35の各部に流れて各部を潤滑する。具体的には、潤滑油は、ニードル36とプラネタリシャフト30との間やニードル36とプラネタリギア24との間、さらに、ニードル36の端部とスペーサ37との間やニードル36の端部とワッシャ38との間に供給され、これらの部分を潤滑する。このように、エンジン3が運転をすることにより、入力軸16が回転をしている場合には、遠心力によってキャッチタンク70の第2貯油部82で溜めた潤滑油により、プラネタリギア24とプラネタリシャフト30との間の潤滑部分を潤滑する。
これに対し、エンジン3が停止し、入力軸16の回転が停止した場合には、入力軸16に接続されている動力分割遊星歯車21のプラネタリキャリア25も回転が停止する。さらに、エンジン3の停止に伴い、入力軸16に形成される入力軸油路17に潤滑油を供給するオイルポンプも停止する。これにより、入力軸油路17に潤滑油は供給されなくなり、また、入力軸油路17内や径方向油路18内にある潤滑油は、入力軸16の回転が停止することにより遠心力が作用しなくなるので、入力軸16の外部に流出しなくなる。
エンジン3が停止して入力軸16やプラネタリキャリア25の回転が停止した場合には、このように入力軸16から潤滑油が流出しなくなるため、動力分割遊星歯車21のプラネタリキャリア25に接続されるキャッチタンク70には、入力軸16から潤滑油が流入しなくなるが、エンジン3が停止しても第2モータジェネレータ8の動力により車両1が走行をしている場合には、駆動装置15の減速遊星歯車41や減速機構50や差動装置55が作動する。このため、入力軸16の回転が停止することに伴いプラネタリキャリア25の回転が停止する場合でも、第2モータジェネレータ8が動力を発生したり、車両1が慣性走行をしたりする場合には、動力分割遊星歯車21のリングギア23は回転をするため、動力分割遊星歯車21のプラネタリギア24は、リングギア23の回転が伝達されることにより自転したり公転したりする。
ここで、駆動装置15が有する各機器は、駆動装置15のハウジング内に設けられているが、これらの各機器が作動をする際における潤滑は、上記のオイルポンプで潤滑油を各部に供給することに加え、駆動装置15が有する機器が、ハウジング内に溜められている潤滑油を作動時に跳ね上げることによっても行われる。つまり、駆動装置15が有する機器が作動することにより跳ね上げられた潤滑油が、駆動装置15のハウジング内を飛び散り、この飛び散った潤滑油が各機器に供給されることにより、潤滑が行われる。
具体的には、駆動装置15のハウジング内に溜められている潤滑油には、駆動装置15が有する機器のうち差動装置55の一部が浸っている。この差動装置55は駆動輪62が接続される駆動軸61が接続されているため、車両1が走行をしていれば、エンジン3やモータジェネレータ5の運転状態に関わらず作動する。このため、車両1の走行時には、駆動装置15内の潤滑油は動力源の運転状態に関わらず差動装置55により跳ね上げられる。これにより、駆動装置15が有する各機器には潤滑油が供給され、各機器は、動力源の運転状態に関わらず、供給された潤滑油により潤滑される。
このように、車両1が走行状態の場合には、動力源の運転状態に関わらず潤滑油は差動装置55で跳ね上げられることにより駆動装置15の各機器に供給されるため、動力分割遊星歯車21に対しても供給されるが、その際に潤滑油は、動力分割遊星歯車21の外側から動力分割遊星歯車21に対して供給される。動力分割遊星歯車21に対して外側から潤滑油が供給された場合、即ち、回転中心軸65を中心とする径方向における外方から動力分割遊星歯車21に対して潤滑油が供給された場合、この潤滑油は、キャッチタンク70の外側開口部78からキャッチタンク70内に入るが(図2及び図3の矢印S)、入力軸16の回転が停止している場合、プラネタリキャリア25の回転も停止するため、キャッチタンク70も停止した状態になる。この場合、複数設けられているキャッチタンク70は、停止している位置によってそれぞれ向きが異なった状態で停止する。このため、キャッチタンク70に入った潤滑油は、キャッチタンク70の停止位置により、或いはキャッチタンク70の向きによって、キャッチタンク70内における溜まり方が異なった状態で溜まる。
図8は、第1貯油部に潤滑油が溜まった状態を示す説明図である。まず、動力分割遊星歯車21の上半側、即ち、回転中心軸65よりも上方に位置して停止しているキャッチタンク70内での潤滑油の溜まり方について説明する。キャッチタンク70が、動力分割遊星歯車21の上半側に位置して停止している場合には、潤滑油は、キャッチタンク70が有する2つの外側開口部78のうち、上側に位置する外側開口部78からキャッチタンク70内に入る。外側開口部78からキャッチタンク70内に入った潤滑油は、重力により下方に流れるため、この潤滑油は、流入した外側開口部78の下方に流れる。
また、キャッチタンク70が動力分割遊星歯車21の上半側に位置して停止している場合、上側に位置する外側開口部78は、突起部76、または、突起部76よりも当該外側開口部78側に位置する径方向壁部73よりも上方に位置した状態になる。このため、外側開口部78から流入し、下方に流れる潤滑油は、この径方向壁部73や周方向壁部77が設けられている部分に流れる。
このうち、径方向壁部73は、キャッチタンク70における内側の面が、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に面しており、周方向壁部77は、入力軸16の回転中心軸65を中心とする周方向に面しているため、上側に位置する外側開口部78側に設けられる径方向壁部73と周方向壁部77とのこれらの面は、上方に面した向きになる。このため、外側開口部78から下方に流れ、径方向壁部73や周方向壁部77が設けられている部分に流れる潤滑油90は、径方向壁部73や周方向壁部77の部分が設けられる部分で止まり、この部分に溜まる。即ち、上側に位置する外側開口部78から流入した潤滑油90は、径方向壁部73と、周方向壁部77と、外側壁部71と、プラネタリキャリア25とにより構成される第1貯油部81に溜まる。
また、プラネタリシャフト30に形成された潤滑油路31の開口部34は、大部分がキャッチタンク70内に開口しているため、このように潤滑油90が第1貯油部81に溜まった場合には、潤滑油90が第2貯油部82に溜まった場合と同様に、溜まった潤滑油90はキャッチタンク70内から潤滑油路31に流れる。詳しくは、潤滑油90は、キャッチタンク70が有する第1貯油部81からからプラネタリシャフト30の導入油路32に流れる。
導入油路32に流れた潤滑油が導入油路32から供給油路33に流れた場合、潤滑油は主に重力によって下方に流れるため、導入油路32からプラネタリシャフト30の外周面に向かって形成される2方向の供給油路33のうち、導入油路32よりも下方に位置する供給油路33に流れる。供給油路33に流れた潤滑油は、プラネタリシャフト30から流出し、入力軸16が回転をしている場合と同様に、ニードルベアリング35を潤滑する。
次に、入力軸16の回転が停止し、プラネタリキャリア25の回転が停止した際に、動力分割遊星歯車21の下半側に位置して停止しているキャッチタンク70内での潤滑油の溜まり方について説明する。プラネタリキャリア25の回転の停止時に、動力分割遊星歯車21の下半側に位置して停止しているキャッチタンク70の場合、潤滑油は、2つの外側開口部78のうち上側に位置する外側開口部78、または、切欠き部79から、キャッチタンク70内に入る。外側開口部78や切欠き部79からキャッチタンク70内に入った潤滑油は、重力により下方に流れるため、この潤滑油は、流入した外側開口部78や切欠き部79の下方に流れる。
また、キャッチタンク70が動力分割遊星歯車21の下半側に位置して停止している場合、上側に位置する外側開口部78は、円筒壁部75よりも上方に位置した状態になり、また、2つの切欠き部79のうち、上側に位置する切欠き部79も同様に、円筒壁部75よりも上方に位置した状態になる。このため、外側開口部78や切欠き部79から流入し、下方に流れる潤滑油は、この円筒壁部75が設けられている部分に流れる。
このように、潤滑油が流れる円筒壁部75は、湾曲して形成されているため、円筒壁部75の内側の面のうち、一部の面は、上方に面した向きになる。このため、外側開口部78や切欠き部79から下方に流れ、円筒壁部75が設けられている部分に流れる潤滑油は、この円筒壁部75で止まり、この部分に溜まる。即ち、上側に位置する外側開口部78や切欠き部79から流入した潤滑油90は、円筒壁部75と外側壁部71とプラネタリキャリア25とにより構成される第2貯油部82に溜まる(図7参照)。第2貯油部82に潤滑油90が溜まった場合には、入力軸16が回転をしている場合と同様に、溜まった潤滑油90は、第2貯油部82からプラネタリシャフト30の導入油路32に流れる。
第2貯油部82から導入油路32に流れた潤滑油が導入油路32から供給油路33に流れた場合には、潤滑油は、導入油路32からプラネタリシャフト30の外周面に向かって形成される2方向の供給油路33のうち、導入油路32よりも下方に位置する供給油路33に流れてプラネタリシャフト30から流出し、ニードルベアリング35を潤滑する。これらのように、エンジン3の運転が停止することにより、入力軸16やプラネタリキャリア25の回転が停止している場合には、差動装置55で跳ね上げられた潤滑油がキャッチタンク70内に入り、キャッチタンク70の第1貯油部81や第2貯油部82で溜めた潤滑油により、プラネタリギア24とプラネタリシャフト30との間の潤滑部分を潤滑する。
以上の遊星歯車機構の潤滑構造は、遊星歯車機構により構成される動力分割遊星歯車21が有するプラネタリキャリア25に接続されていると共に、プラネタリキャリア25と一体となって回転するキャッチタンク70に、潤滑油を、回転中心軸65を中心とする径方向における内方及び周方向に溜めることができる第1貯油部81と、潤滑油を、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に溜めることができる第2貯油部82とを設けている。これにより、プラネタリキャリア25が回転している場合は潤滑油を遠心力によって第2貯油部82に溜めることができ、プラネタリキャリア25の停止時は、潤滑油を重力によって第1貯油部81または第2貯油部82に溜めることができる。つまり、キャッチタンク70はプラネタリキャリア25に接続され、プラネタリキャリア25と一体となって回転をするため、プラネタリキャリア25が停止をした場合にはキャッチタンク70も回転が停止するが、キャッチタンク70が停止した場合、停止した位置により、キャッチタンク70は潤滑油を溜める位置を異ならせて潤滑油を溜める。
即ち、プラネタリキャリア25の上半側では、重力はプラネタリキャリア25から見た場合に回転中心軸65を中心とする径方向における内方または周方向に作用するため、プラネタリキャリア25の停止時にキャッチタンク70がプラネタリキャリア25の上半側に位置した場合には、このキャッチタンク70は、潤滑油を、回転中心軸65を中心とする径方向における内方及び周方向に溜めることができるように設けられている第1貯油部81で潤滑油を溜めることができる。また、プラネタリキャリア25の下半側では、重力はプラネタリキャリア25から見た場合に径方向における外方または周方向に作用するため、プラネタリキャリア25の停止時にキャッチタンク70がプラネタリキャリア25の下半側に位置した場合には、このキャッチタンク70は、潤滑油を径方向における外方に溜めることができる第2貯油部82で潤滑油を溜めることができる。キャッチタンク70は、これらのように設けられているため、プラネタリキャリア25が回転をしている場合でも、回転が停止をしている場合でも、潤滑油を溜めることができる。
このキャッチタンク70は、これらのように第1貯油部81または第2貯油部82に溜められた潤滑油を、プラネタリシャフト30に形成された潤滑油路31に流すことができる。これにより、プラネタリキャリア25が回転をしている場合でも、回転が停止をしている場合でも、キャッチタンク70で潤滑油を溜め、この溜めた潤滑油をプラネタリシャフト30の潤滑油路31に流して潤滑油路31から所望の潤滑部に対して潤滑油を供給することができる。この結果、回転状態に関わらず安定して潤滑を行うことができる。
また、このようにプラネタリキャリア25に第1貯油部81と第2貯油部82とを有するキャッチタンク70を接続することによって、回転状態に関わらず所望の潤滑部に対して潤滑油を供給することにより、入力軸16やプラネタリキャリア25の回転状態に応じて作動するオイルポンプ等の別の装置を新たに設けることなく、潤滑を行うことができる。この結果、回転状態に関わらず安定して潤滑を行う際におけるコストの上昇を抑制することができ、また、新たな装置の制御を行う必要が無いので、制御が複雑化することを抑制することができる。
また、キャッチタンク70に突起部76を設けて、この突起部76により第1貯油部81の周方向壁部77を形成することにより、第1貯油部81は、この周方向壁部77と径方向壁部73とで、潤滑油を径方向における内方及び周方向に溜めることができる。従って、プラネタリキャリア25の停止時にキャッチタンク70がプラネタリキャリア25の上半側に位置した場合に、潤滑油をより確実に第1貯油部81で溜めることができる。これにより、より確実に第1貯油部81で溜めた潤滑油をプラネタリシャフト30の潤滑油路31に流して潤滑油路31から、プラネタリシャフト30とプラネタリギア24との間の潤滑部に対して潤滑油を供給することができる。この結果、より確実に回転状態に関わらず安定して潤滑を行うことができる。
また、キャッチタンク70に外側開口部78と切欠き部79とを形成しているので、潤滑油をプラネタリキャリア25の回転状態に関わらず、キャッチタンク70で潤滑油を溜めることができる。つまり、外側開口部78は、回転中心軸65を中心とする径方向における外方に向けて開口しているため、プラネタリキャリア25の回転が停止している場合でも、駆動装置15の他の機器の作動によってキャッチタンク70の周囲に飛散し、重力で落下する潤滑油を外側開口部78で受けることができる。また、切欠き部79は、回転中心軸65を中心とする径方向における内方に向けて開口しているので、プラネタリキャリア25の回転時に径方向におけるキャッチタンク70の内方から遠心力によって径方向における外方に向かう潤滑油を切欠き部79で受けることができる。従って、より確実に回転状態に関わらずキャッチタンク70で潤滑油を受け、第1貯油部81や第2貯油部82で潤滑油を溜めることができる。この結果、より確実に回転状態に関わらず安定して潤滑を行うことができる。
また、外側開口部78と切欠き部79とを、回転中心軸65を中心とする周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に設けているので、より広い範囲の潤滑油をキャッチタンク70で受けることができる。また、第1貯油部81も周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に設けているので、プラネタリキャリア25の回転が停止した際に、周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に第1貯油部81が位置することになる。第1貯油部81で溜めた潤滑油をプラネタリシャフト30の潤滑油路31に流す場合、潤滑油路31よりも上方に位置する側の第1貯油部81で溜めた潤滑油を潤滑油路31に流すことになるが、第1貯油部81を周方向における潤滑油路31の開口部34の両側に設けることにより、プラネタリキャリア25の回転が停止した際に2つの第1貯油部81の高さが異なった場合、第1貯油部81は上下方向において潤滑油路31の開口部34の両側に位置することになる。このため、プラネタリキャリア25の回転の停止時に、第1貯油部81で溜めた潤滑油をプラネタリシャフト30の潤滑油路31に流すことができるキャッチタンク70の停止位置の範囲を広くすることができる。これらの結果、プラネタリキャリア25の回転の停止時に、より確実にプラネタリシャフト30とプラネタリギア24との間の潤滑部に潤滑油を供給することができ、より確実に回転状態に関わらず安定して潤滑を行うことができる。
また、第2貯油部82を、回転中心軸65を中心とする径方向における潤滑油路31の開口部34の外方側に突出して形成しているので、プラネタリキャリア25の回転時にプラネタリキャリア25と共にキャッチタンク70が回転した場合に、遠心力によって径方向における外方に向かおうとする潤滑油を、第2貯油部82で溜めることができる。この結果、プラネタリキャリア25の回転時に、より確実にプラネタリシャフト30とプラネタリギア24との間の潤滑部に潤滑油を供給することができ、より確実に回転状態に関わらず安定して潤滑を行うことができる。
また、外側開口部78と切欠き部79とを、径方向壁部73の鉛直方向、または、回転中心軸65を中心とする径方向に見た場合に重ならないように形成することにより、外側開口部78からキャッチタンク70内に入った潤滑油が切欠き部79から抜け出たり、切欠き部79からキャッチタンク70内に入った潤滑油が外側開口部78から抜け出たりすることを抑制できる。これにより、キャッチタンク70内に入った潤滑油を、より確実に第1貯油部81や第2貯油部82で溜めることができ、より確実に潤滑油をプラネタリシャフト30とプラネタリギア24との間の潤滑部に供給することができる。この結果、より確実に回転状態に関わらず安定して潤滑を行うことができる。
また、切欠き部79を、突起部76から所定の距離をおいて離して形成することにより、キャッチタンク70内に入った潤滑油を第1貯油部81で溜める際に、潤滑油が切欠き部79から抜け出ることを抑制でき、より確実に第1貯油部81で潤滑油を溜めることができる。この結果、より確実に回転状態に関わらず安定して潤滑を行うことができる。
なお、キャッチタンク70は、二等辺三角形の頂角の部分が略半円状になった形状を底面とする柱状の形状で形成されているが、キャッチタンク70は、これ以外の形状で形成されていてもよい。キャッチタンク70は、潤滑油を、回転中心軸を中心とする径方向における内方及び回転中心軸を中心とする周方向に溜めることができる第1貯油部81と、潤滑油を径方向における外方に溜めることができる第2貯油部82とを有し、第1貯油部81や第2貯油部82に溜められた潤滑油を、プラネタリシャフト30の潤滑油路31に流すことができる形状であれば、その形状は問わない。
また、実施例に係る遊星歯車機構の潤滑構造では、動力分割遊星歯車21が有するプラネタリギア24は3つ設けられており、キャッチタンク70は、プラネタリギア24に合わせて3つ設けられているが、プラネタリギア24及びキャッチタンク70の数は、3つ以外でもよい。キャッチタンク70は、プラネタリギア24の数に関わらず、プラネタリギア24を自転可能に支持するプラネタリシャフト30に形成される潤滑油路31に、第1貯油部81や第2貯油部82で溜めた潤滑油を供給可能に設けることにより、プラネタリギア24がいくつ設けられている場合でも、プラネタリギア24とプラネタリシャフト30との間の潤滑部に潤滑油を安定して供給することができる。
また、実施例に係る遊星歯車機構の潤滑構造では、駆動装置15のハウジング内に溜められている潤滑油に差動装置55の一部が浸っており、駆動装置15が有する各機器の潤滑は、差動装置55の作動時に差動装置55が潤滑油を跳ね上げて潤滑油が各部に供給されることにより行っているが、各機器の潤滑は、これ以外により行ってもよい。例えば、差動装置55以外の機器で潤滑油を跳ね上げることにより潤滑を行ってもよく、また、機器が作動することによる跳ね上げ以外の手法によって潤滑油を各機器に供給し、潤滑を行ってもよい。
また、実施例に係る遊星歯車機構の潤滑構造では、ハイブリッド車の駆動装置15が有する動力分割遊星歯車21の潤滑構造について説明しているが、本発明に係る遊星歯車機構の潤滑構造は、動力分割遊星歯車21以外の遊星歯車機構に適用してもよい。本発明に係る遊星歯車機構の潤滑構造は、遊星歯車機構の作動時に、プラネタリキャリア25が回転したり停止したりする遊星歯車機構の潤滑構造であれば、その遊星歯車機構の用途は問わない。