本発明のフィルムは、ガラス転移温度が120℃以上、180℃以下である(メタ)アクリル系重合体であって、アルキル鎖の炭素数が1〜18個の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)を2質量%〜40質量%含有する単量体混合物を重合してなり、メルトフローレートが8g/10min以上であるものを含有することを特徴とする。
まず、本発明において使用する(メタ)アクリル系重合体について説明する。前記(メタ)アクリル系重合体は、そのガラス転移温度が120℃以上であり、125℃以上が好ましく、130℃以上がさらに好ましく、180℃以下であり、160℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度を120℃以上とすることによって、(メタ)アクリル系重合体の耐熱性を向上させることができ、ガラス転移温度が180℃を超えると、流動性が極端に低下し、フィルムへの成形が困難になる。例えば、ポリマーフィルタで濾過する際に、フィルタ部で昇圧が起こり濾過できない場合がある。また、濾過するために高温にすると樹脂が劣化して物性が低下する。さらに、樹脂が劣化することにより発生する炭化物などの異物がフィルム中に増えるために好ましくない。なお、(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度(Tg)は、ASTM−D−3418に準拠して、中点法で求めることができる。
本発明において(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度を上記範囲とするためには、例えば、(メタ)アクリル系重合体の骨格に環構造を導入することによって達成できる。(メタ)アクリル系重合体の骨格に導入し得る環構造としては、ラクトン環構造、グルタル酸無水物からなる環構造、グルタルイミド環構造、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、メチルマレイミドなどのN−置換マレイミド単量体構造単位からなる環構造、および、無水マレイン酸単量体構造単位からなる環構造などを挙げることができる。これらの中でも、フィルムの耐熱分解性を高める場合には、ラクトン環構造、グルタル酸無水物からなる環構造、および、グルタルイミド環構造を(メタ)アクリル系重合体の骨格に導入することが好ましい。また、得られるフィルムの光学特性を向上するためには、(メタ)アクリル系重合体の骨格に導入し得る環構造として、ラクトン環構造が好ましい。(メタ)アクリル系重合体の骨格に環構造を導入する方法は、後述する。
前記(メタ)アクリル系重合体は、メルトフローレートが8g/10min以上、10g/10min以上が好ましく、12g/10min以上がより好ましい。メルトフローレートを8g/10min以上としておくことによって、流動性が向上し、フィルムへの成形が容易になるからである。メルトフローレートの上限は、特に限定されるものではないが、90g/10minが好ましく、30g/10minがより好ましく、20g/10minがさらに好ましい。メルトフローレートが高くなりすぎると、可撓性が低下する場合がある。
メルトフローレートが上記範囲にある(メタ)アクリル系重合体は、アルキル鎖の炭素数が1〜18個の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)を2質量%〜40質量%含有する単量体混合物を重合することにより得られる。
前記アルキル鎖の炭素数が1〜18個の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)としては、アクリル酸メチル、および、アルキル鎖の炭素数が2〜18個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アルキル鎖の炭素数が3〜8個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アルキル鎖の炭素数が4〜6個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルがさらに好ましい。アルキル基の炭素数を多くすることによって、得られる重合体の溶媒への不溶化を好適に抑制することができ、アルキル基の炭素数を少なくすることによって、(メタ)アクリル系重合体中への共重合性が高くなる。
前記アルキル鎖の炭素数が2〜18個のアルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル;または、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、メタクリル酸n−ブチルが好ましい。これらのエステル基を有する単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを単量体成分として使用することにより、得られる重合体の溶媒へ溶解性を高めることができる。
単量体混合物に含有される前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)の含有率は、2質量%以上、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、40質量%以下、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)の含有率が低すぎると、得られる重合体が重合溶媒に不溶化する傾向が強まり、含有率が高すぎると、所望の耐熱性が得られなくなる場合がある。
環構造を導入した(メタ)アクリル系重合体の(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く)単量体構造単位の割合は、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましく、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
(メタ)アクリル系重合体に環構造を導入する方法としては、例えば、(メタ)アクリル系重合体の分子鎖に環形成性官能基を導入して、環化反応を行う方法を挙げることができる。前記環形成性官能基として、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、酸無水物基などを挙げることができ、環形成性官能基を有する単量体成分としては、例えば、カルボキシル基を有する重合性単量体、エステル基を有する重合性単量体、ヒドロキシル基を有する重合性単量体、アミノ基もしくはアミド基を有する重合性単量体などを挙げることができる。
カルボキシル基を有する重合性単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、α−置換アクリル酸、α−置換メタクリル酸、マレイン酸、コハク酸などが挙げられる。これらのカルボキシル基を有する重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのカルボキシル基を有する重合性単量体のうち、本発明の効果が充分に発揮されることから、アクリル酸、メタクリル酸が特に好ましい。
エステル基を有する重合性単量体としては、上述したアルキル鎖の炭素数が1〜18個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのほか、メタクリル酸メチルなどを挙げることができる。これらのエステル基を有する重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステルのうち、得られる重合体の耐熱性や透明性が優れることから、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
ヒドロキシル基を有する重合性単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタリルアルコール、アリルアルコール、2―ヒドロキシメチル−1−ブテンなどのアリルアルコール;α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレンなどのα−ヒドロキシアルキルスチレン;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;2―(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキルエステル;2―(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸などの2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸;などが挙げられる。これらのヒドロキシル基を有する重合性単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
特に、本発明では、下記式(1)で表されるヒドロキシル基とエステル基とを有する重合性単量体を使用することが好ましい態様である。
[式中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
前記式(1)で示される単量体としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチルなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体のうち、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させる効果が高いことから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。また、エステル基を有する重合性単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどが好ましい。
本発明で使用する単量体混合物が、上述した単量体のほかに、必要に応じて、下記一般式(2)で表される単量体、または、紫外線吸収性重合性単量体などを含有してもよい。
[式中、R3は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、または、−CO−R4基を表し、Acはアセチル基を表し、R4は水素原子または炭素数1〜20の有機残基を表す]
前記一般式(2)で示される単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル、メチルビニルケトン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。特に、前記一般式(2)中、Xがアリール基である単量体としては、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2,3,4,5,6−ペンタフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、オクタクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシスチレンなどが挙げられる。これらの単量体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの単量体の中でも、共重合が容易なことから、スチレン、α−メチルスチレンを用いることが特に好ましい。
前記紫外線吸収性重合性単量体としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマー、トリアジン系紫外線吸収性モノマーなどが挙げられる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収性モノマーとしては、2−[2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシ]エチルフェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−5´−メタクリロイルオキシ]フェニル−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メタクリロイルオキシ]フェニル−2H−ベンゾトリアゾールなどを挙げることができる。
本発明における好ましい態様では、(メタ)アクリル系重合体として、上記一般式(1)で表される単量体:25〜40質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチルを除く):2〜40質量%、および、メタクリル酸メチル20質量%〜73質量%からなる単量体混合物を重合させる得られるものを使用することが好ましい。
≪重合方法≫
本発明で使用する(メタ)アクリル系重合体は、上述した重合性単量体成分を重合することにより得られるものである。重合温度や重合時間は、使用する重合性単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、好ましくは、重合温度が0℃〜150℃、重合時間が0.5時間〜20時間であり、より好ましくは、重合温度が80℃〜140℃、重合時間が1時間〜10時間である。
溶剤を使用する重合形態の場合、重合溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られる(メタ)アクリル系重合体の揮発成分が多くなりすぎることから、沸点が50℃〜200℃である溶剤が好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシイソノナノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ化合物;などが挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、重合性単量体の組合せや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではない。
重合を行う際には、重合反応混合物中に生成する重合体の濃度を70質量%以下とすることが好ましく、60質量%以下とすることがより好ましく、55質量%以下とすることがさらに好ましい。重合体の濃度を70質量%以下に制御することによって、重合反応混合物の粘度が低くなるので、取り扱いが容易になる。一方、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度が低すぎると生産性が低下するので、重合反応混合物中に生成した重合体の濃度は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上である。
重合溶媒を重合反応混合物に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶媒を添加してもよいし、間欠的に重合溶媒を添加してもよい。
添加する重合溶媒としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶媒と同じ種類の溶媒であってもよいし、異なる種類の溶媒であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶媒を用いることが好ましい。また、添加する重合溶媒は、1種のみの単一溶媒であっても2種以上の混合溶媒であってもよい。
以上の重合工程を終了した時点で得られる重合反応混合物中には、通常、得られた重合体以外に溶媒が含まれているが、溶媒を完全に除去して重合体を固体状態で取り出す必要はなく、溶媒を含んだ状態で、続くラクトン環化縮合工程に導入することが好ましい。また、必要な場合は、続くラクトン環化縮合工程に好適な溶媒を再添加してもよい。溶媒添加による重合反応混合物の温度低下を引き起こさない点や、重合体の濃度低下による生産性を下げない点で、重合終了後には溶媒を添加しない方がより好ましい。
≪環化反応≫
次に、環形成性官能基を有する(メタ)アクリル系重合体の環化反応工程について説明する。前記環化反応工程の態様としては、例えば、環形成性官能基として、分子主鎖にヒドロキシ基とエステル基とを有する(メタ)アクリル系重合体を加熱処理することにより、ラクトン環構造を形成させる態様(例えば、下記式(3));環形成性官能基として、分子主鎖にカルボキシル基とエステル基を有する(メタ)アクリル系重合体を加熱処理して、グルタル酸無水物の環状無水物を形成させる態様(例えば、下記式(4));環形成性官能基として、主鎖にエステル基を有する(メタ)アクリル系重合体にメチルアミンなどのイミド化剤を加えて加熱処理することにより、グルタルイミド環構造を形成させる態様(例えば、下記式(5))などを挙げることができる。これらの中でも、環形成性官能基として主鎖にヒドロキシ基とエステル基とを有する(メタ)アクリル系重合体を加熱して、分子内でラクトン環構造を形成させる態様が好適である。
ラクトン環化反応によって得られるラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、エステル交換により形成された環構造として、好ましくは、下記式(6):
[式中、R5、R6およびR7は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20(好ましくは、炭素数1〜4)の有機残基を表す;なお、有機残基は酸素原子を含有していてもよい]で示されるラクトン環構造を有する。
重合体を加熱処理する方法については、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を利用すればよい。例えば、重合工程によって得られた、溶剤を含む重合反応混合物を、そのまま加熱処理してもよい。あるいは、溶剤の存在下で、必要に応じて閉環触媒を用いて加熱処理してもよい。あるいは、揮発成分を除去するための真空装置あるいは脱揮装置を備えた加熱炉や反応装置、脱揮装置を備えた押出機などを用いて加熱処理を行うこともできる。
環化反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。また、環化反応を行う際には、必要に応じて、環化反応の触媒として一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒を用いてもよいし、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸などの有機カルボン酸類を触媒として用いてもよい。さらに、例えば、特開昭61−254608号公報や特開昭61−261303号公報に開示されているように、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などを用いてもよい。
あるいは、環化反応の触媒として有機リン化合物を用いてもよい。有機リン化合物を触媒として用いることにより、環化反応率を向上させることができると共に、得られるラクトン環含有重合体の着色を大幅に低減することができる。さらに、有機リン化合物を触媒として用いることにより、後述の脱揮工程を併用する場合において起こり得る分子量低下を抑制することができ、優れた機械的強度を付与することができる。
使用可能な有機リン化合物としては、例えば、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。これらの有機リン化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの有機リン化合物のうち、触媒活性が高くて着色性が低いことから、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステル、アルキル(アリール)ホスホン酸が好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、亜リン酸モノエステルまたはジエステル、リン酸モノエステルまたはジエステルがより好ましく、アルキル(アリール)亜ホスホン酸、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
環化反応の際に用いる触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体100質量部に対して、好ましくは0.001質量部〜5質量部、より好ましくは0.01質量部〜2.5質量部、さらに好ましくは0.01質量部〜1質量部、特に好ましくは0.05質量部〜0.5質量部である。触媒の使用量が0.001質量部未満であると、環化反応の反応率が充分に向上しないことがある。逆に、触媒の使用量が5質量部を超えると、得られた重合体が着色することや、重合体が架橋して、溶融成形が困難になることがある。
触媒の添加時期は、特に限定されるものではなく、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。
環化反応を溶媒の存在下で行い、かつ、環化反応の際に、脱揮工程を併用することが好ましい。この場合、環化反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態、および、脱揮工程を環化反応の過程全体にわたっては併用せずに過程の一部においてのみ併用する形態が挙げられる。脱揮工程を併用する方法では、環化反応で副生するアルコールを強制的に脱揮させて除去するので、反応の平衡が生成側に有利となる。
脱揮工程とは、溶媒、残存単量体などの揮発分と、環構造を導く環化反応により副生する副生成物(例えば、アルコール)を、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られた重合体中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。
環化反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、用いる装置については、特に限定されるものではないが、例えば、本発明をより効果的に行うために、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置やベント付き押出機、また、脱揮装置と押出機を直列に配置したものを用いることが好ましく、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置またはベント付き押出機を用いることがより好ましい。
熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150℃〜350℃、より好ましくは200℃〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931hPa〜1.33hPa(700mmHg〜1mmHg)、より好ましくは798hPa〜66.5hPa(600mmHg〜50mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理温度は、好ましくは150℃〜350℃、より好ましくは200℃〜300℃である。反応処理温度が150℃未満であると、環化反応が不充分となって残存揮発分が多くなることがある。逆に、反応処理温度が350℃を超えると、得られた重合体の着色や分解が起こることがある。
ベント付き押出機を用いる場合の反応処理圧力は、好ましくは931hPa〜1.33hPa(700mmHg〜1mmHg)、より好ましくは798hPa〜13.3hPa(600mmHg〜10mmHg)である。反応処理圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、アルコールを含めた揮発分が残存しやすいことがある。逆に、反応処理圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
なお、環化反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、後述するように、厳しい熱処理条件では得られる(メタ)アクリル系重合体の物性が劣化することがあるので、前述した環化反応触媒を用い、できるだけ温和な条件で、ベント付き押出機などを用いて行うことが好ましい。
また、環化反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態の場合、好ましくは、重合工程で得られた重合体を溶剤と共に環化反応装置に導入するが、この場合、必要に応じて、もう一度ベント付き押出機などの環化反応装置に通してもよい。
脱揮工程を環化反応の過程全体にわたっては併用せずに、過程の一部においてのみ併用する形態を行ってもよい。例えば、重合体を製造した装置を、さらに加熱し、必要に応じて脱揮工程を一部併用して、環化反応を予めある程度進行させておき、その後に引き続いて脱揮工程を同時に併用した環化反応を行い、反応を完結させる形態である。
先に述べた環化反応の全体を通じて脱揮工程を併用する形態では、例えば、重合体を、二軸押出機を用いて、250℃付近、あるいはそれ以上の高温で熱処理する時に、熱履歴の違いにより環化反応が起こる前に一部分解などが生じ、得られる(メタ)アクリル系重合体の物性が劣化することがある。そこで、脱揮工程を同時に併用した環化反応を行う前に、予め環化反応をある程度進行させておくと、後半の反応条件を緩和でき、得られる(メタ)アクリル系重合体の物性の劣化を抑制できるので好ましい。特に好ましい形態としては、例えば、脱揮工程を環化反応の開始から時間をおいて開始する形態、すなわち、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化反応させて環化反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化反応を行う形態が挙げられる。具体的には、例えば、予め釜型反応器を用いて溶剤の存在下で環化反応をある程度の反応率まで進行させておき、その後、脱揮装置を備えた反応器、例えば、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置や、ベント付き押出機などで、環化反応を完結させる形態が好ましく挙げられる。特に、この形態の場合、環化反応用の触媒が存在していることがより好ましい。
前述したように、重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化反応させて環化反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化反応を行う方法は、本発明においてラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体を得る上で好ましい形態である。この形態により、ガラス転移温度がより高く、環化反応率もより高まり、耐熱性に優れたラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体が得られる。この場合、環化反応率の目安としては、例えば、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。
脱揮工程を同時に併用した環化反応の前に予め行う環化反応の際に採用できる反応器は、特に限定されるものではないが、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる脱揮装置などが挙げられ、さらに、脱揮工程を同時に併用した環化反応に好適なベント付き押出機も使用可能である。これらの反応器のうち、オートクレーブ、釜型反応器が特に好ましい。しかし、ベント付き押出機などの反応器を用いる場合でも、ベント条件を温和にしたり、ベントをさせなかったり、温度条件やバレル条件、スクリュー形状、スクリュー運転条件などを調整することにより、オートクレーブや釜型反応器での反応状態と同じ様な状態で環化反応を行うことが可能である。
脱揮工程を同時に併用した環化反応の前に予め行う環化反応の際には、例えば、重合工程で得られた重合体と溶剤とを含む混合物を、(i)触媒を添加して、加熱反応させる方法、(ii)無触媒で加熱反応させる方法、および、前記(i)または(ii)を加圧下で行う方法などが挙げられる。
なお、環化工程において環化反応に導入する「重合体と溶媒とを含む混合物」とは、重合工程で得られた重合反応混合物それ自体、あるいは、いったん溶媒を除去した後に環化反応に適した溶媒を再添加して得られた混合物を意味する。
脱揮工程を同時に併用した環化反応の前に予め行う環化反応の際に再添加できる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。重合工程に使用した溶媒と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。
方法(i)で添加する触媒としては、例えば、一般に使用されるp−トルエンスルホン酸などのエステル化触媒またはエステル交換触媒、塩基性化合物、有機カルボン酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、本発明においては、前述の有機リン化合物を用いることが好ましい。触媒の添加時期は、特に限定されるものではないが、例えば、反応初期に添加してもよいし、反応途中に添加してもよいし、それらの両方で添加してもよい。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、重合体の質量に対して、好ましくは0.001質量%〜5質量%、より好ましくは0.01質量%〜2.5質量%、さらに好ましくは0.01質量%〜1質量%、特に好ましくは0.05質量%〜0.5質量%である。方法(i)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは室温〜300℃、より好ましくは50℃〜250℃であり、加熱時間は、好ましくは1時間〜20時間、より好ましくは2時間〜10時間である。加熱温度が室温未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が300℃を超えるか、あるいは、加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
方法(ii)は、例えば、耐圧性の釜型反応器などを用いて、重合工程で得られた重合反応混合物をそのまま加熱すればよい。方法(ii)の加熱温度や加熱時間は、特に限定されるものではないが、例えば、加熱温度は、好ましくは100℃〜350℃、より好ましくは150℃〜300℃であり、加熱時間は、好ましくは1時間〜20時間、より好ましくは2時間〜10時間である。加熱温度が100℃未満であるか、あるいは、加熱時間が1時間未満であると、環化反応率が低下することがある。逆に、加熱温度が350℃を超えるか、あるいは加熱時間が20時間を超えると、樹脂の着色や分解が起こることがある。
いずれの方法においても、条件によっては、加圧下となっても何ら問題はない。
脱揮工程を同時に併用した環化反応の前に予め行う環化反応の際には、溶剤の一部が反応中に自然に揮発しても何ら問題ではない。
脱揮工程を同時に併用した環化反応の前に予め行う環化反応の終了時、すなわち、脱揮工程開始直前における、ダイナミックTG測定における150℃〜300℃の範囲内における質量減少率は、好ましくは2%以下、より好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1%以下である。質量減少率が2%を超えると、続けて脱揮工程を同時に併用した環化反応を行っても、環化反応率が充分高いレベルまで上がらず、得られる環含有(メタ)アクリル系重合体の物性が劣化することがある。なお、上記の環化反応を行う際に、重合体に加えて、他の熱可塑性樹脂を共存させてもよい。
重合工程で得られた重合体の分子鎖中に存在する水酸基とエステル基とを予め環化反応させて環化反応率をある程度上げておき、引き続き、脱揮工程を同時に併用した環化反応を行う形態の場合、予め行う環化反応で得られた重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基との少なくとも一部が環化反応した重合体)と溶媒を、そのまま脱揮工程を同時に併用した環化反応に導入してもよいし、必要に応じて、前記重合体(分子鎖中に存在する水酸基とエステル基との少なくとも一部が環化反応した重合体)を単離してから溶媒を再添加するなどのその他の処理を経てから脱揮工程を同時に併用した環化反応に導入しても構わない。
脱揮工程は、環化反応と同時に終了することには限らず、環化反応の終了から時間をおいて終了しても構わない。
本発明において、環構造を形成した後、環化触媒を失活させることも好ましい態様である。環化触媒が残存していると、得られた環含有重合体を成形している際に、わずかに残存している未環化部分の環化反応が起こる。その結果、アルコールなどの副生成物が発生して成形品中に気泡やシルバーストリークが発生して外観が低下するおそれがあるからである。
一般に、環化触媒が酸性物質である場合、反応後に残存する触媒を失活させるには、塩基性物質を用いて中和すればよい。それゆえ、この場合に用いられる失活剤としては、塩基性物質であって、熱加工時に樹脂組成物を阻害する物質などを発生しない限り、特に限定されるものではないが、例えば、金属塩、金属錯体、金属酸化物などの金属化合物が挙げられる。ここで、金属化合物を構成する金属としては、樹脂組成物の物性などを阻害せず、廃棄時に環境汚染を招くことがない限り、特に限定されるものではないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;亜鉛、アルミニウム、スズ、鉛などの両性金属;ジルコニウム;などが挙げられる。これらの金属のうち、樹脂の着色が少ないことから、典型金属元素が好ましく、アルカリ土類金属や両性金属が特に好ましく、カルシウム、マグネシウムおよび亜鉛が最も好ましい。金属塩としては、樹脂への分散性や溶剤への溶解性より、好ましくは有機酸の金属塩であり、特に好ましくは有機カルボン酸、有機リン化合物、酸性有機イオウ化合物の金属塩である。有機カルボン酸の金属塩を構成する有機カルボン酸としては、特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、トリデカン酸、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、アジピン酸などが挙げられる。
有機リン化合物の金属塩を構成する有機リン化合物としては、メチル亜ホスホン酸、エチル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸などのアルキル(アリール)亜ホスホン酸(ただし、これらは、互変異性体であるアルキル(アリール)ホスフィン酸になっていてもよい)およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニルエチルホスフィン酸などのジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、トリフルオルメチルホスホン酸、フェニルホスホン酸などのアルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;メチル亜ホスフィン酸、エチル亜ホスフィン酸、フェニル亜ホスフィン酸などのアルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸メチル、亜リン酸エチル、亜リン酸フェニル、亜リン酸ジメチル、亜リン酸ジエチル、亜リン酸ジフェニル、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニルなどの亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニルなどのリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;メチルホスフィン、エチルホスフィン、フェニルホスフィン、ジメチルホスフィン、ジエチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのモノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;メチルジクロロホスフィン、エチルジクロロホスフィン、フェニルジクロロホスフィン、ジメチルクロロホスフィン、ジエチルクロロホスフィン、ジフェニルクロロホスフィンなどのアルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化メチルホスフィン、酸化エチルホスフィン、酸化フェニルホスフィン、酸化ジメチルホスフィン、酸化ジエチルホスフィン、酸化ジフェニルホスフィン、酸化トリメチルホスフィン、酸化トリエチルホスフィン、酸化トリフェニルホスフィンなどの酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;塩化テトラメチルホスホニウム、塩化テトラエチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウムなどのハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;などが挙げられる。酸性有機イオウ化合物の金属塩を構成する酸性有機イオウ化合物としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。金属錯体における有機成分としては、特に限定されるものではないが、アセチルアセトンなどが挙げられる。
他方、環化触媒が塩基性物質である場合には、例えば、有機リン化合物などの酸性物質を用いて、反応後に残存する触媒を失活させればよい。いずれの場合にも、これらの失活剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、失活剤は、固形物、粉末、粒状体、分散体、懸濁液、水溶液など、いずれの形態で添加してもよく、特に限定されるものではない。
失活剤の添加量は、使用した環化触媒の使用量に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル系重合体の質量を基準にして、好ましくは10ppm〜10,000ppm、より好ましくは50ppm〜5,000ppm、さらに好ましくは100ppm〜3,000ppmである。失活剤の添加量が10ppm未満であると、失活剤の作用が不充分となり、成形品中に泡やシルバーストリークが入ることがある。逆に、失活剤の添加量が10,000ppmを超えると、失活剤の作用が飽和すると共に、必要以上に失活剤を使用することになり、製造コストが上昇することがある。
失活剤を添加するタイミングは、(メタ)アクリル系重合体を製造するにあたり、環化反応により環構造が形成された後であり、かつ得られた(メタ)アクリル系重合体が熱加工される前である限り、特に限定されるものではない。例えば、(メタ)アクリル系重合体の製造中に所定の段階で失活剤を添加するか、あるいは、(メタ)アクリル系重合体を製造した後、(メタ)アクリル系重合体、失活剤、その他の成分などを同時に加熱溶融させて混練する方法;(メタ)アクリル系重合体、その他の添加剤などを加熱溶融させておき、そこに失活剤を添加して混練する方法;(メタ)アクリル系重合体を加熱溶融させておき、そこに失活剤、その他の添加剤などを添加して混練する方法;などが挙げられる。
本発明で使用する(メタ)アクリル系重合体は、種々の添加剤を含有してもよい。前記添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤などの安定剤;ガラス繊維、炭素繊維などの補強材;紫外線吸収剤;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモンなどの難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤などの帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料などの着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;可塑剤;滑剤;帯電防止剤;難燃剤;などが挙げられる。
前記紫外線吸剤としては、例えば、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートとポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−デシル−4−メチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)―4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2,2´−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系紫外線吸収剤などを挙げることができる。
添加剤の含有量は、所望の特性に応じて適宜決定すればよいが、例えば、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。
≪ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の物性≫
本発明の好ましい態様で使用するラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、重量平均分子量が好ましくは1,000〜2,000,000、より好ましくは5,000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000、特に好ましくは50,000〜500,000である。
本発明の好ましい態様で使用するラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下である。ダイナミックTG測定における150〜300℃の範囲内における質量減少率が1%以下のラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、環化反応率が高いので、成形品中に泡やシルバーストリークが入るという欠点が回避できる。さらに、高い環化反応率によってラクトン環構造が重合体に充分に導入されるので、得られたラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体が充分に高い耐熱性を有している。
本発明の好ましい態様で使用するラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、濃度15質量%のクロロホルム溶液にした場合、その着色度(YI)が、好ましくは6以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。着色度(YI)が6を超えると、着色により透明性が損なわれ、本来目的とする用途に使用できない場合がある。
本発明の好ましい態様で使用するラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、熱質量分析(TG)における5%質量減少温度が、好ましくは330℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは360℃以上である。熱質量分析(TG)における5%質量減少温度は、熱安定性の指標であり、これが330℃未満であると、充分な熱安定性を発揮できないことがある。
本発明の好ましい態様で使用するラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、それに含まれる残存揮発分の総量が、好ましくは2,000ppm以下、より好ましくは1,500ppm以下、さらに好ましくは1,000ppm以下である。残存揮発分の総量が2,000ppmを超えると、成形時の変質などによって着色したり、発泡したり、シルバーストリークなどの成形不良の原因となることがある。
本発明の好ましい態様で使用するラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体は、透明性を要求される用途では、射出成形により得られる成形品に対するASTM−D−1003に準拠した方法で測定された全光線透過率が好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、透明性を要求される用途に使用できないことがある。
≪本発明のフィルム≫
本発明のフィルムは、上述した(メタ)アクリル系重合体を含有するフィルムであり、フィルムを構成する樹脂成分が実質的に上述した(メタ)アクリル系重合体のみからなるもの、フィルムを構成する樹脂成分が上述した(メタ)アクリル系重合体と他の熱可塑性樹脂とからなるものなどを挙げることができ、好ましくは、フィルムを構成する樹脂成分が実質的に上述した(メタ)アクリル系重合体のみからなるフィルムである。
その他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)などのオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂などの含ハロゲン系ポリマー;ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などのスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などのポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴム、アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂などのゴム質重合体;などが挙げられる。ゴム質重合体は、その表面に、ラクトン環含有重合体と相溶し得る組成のグラフト部分を有するのが好ましく、また、ゴム質重合体の平均粒子径は、フィルム状とした際の透明性を向上させる観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。
本発明で使用する(メタ)アクリル系重合体がラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の場合、ラクトン環含有(メタ)アクリル重合体と熱力学的に相溶する熱可塑性樹脂としては、シアン化ビニル系単量体単位と芳香族ビニル系単量体単位とを有する共重合体、具体的には、アクリロニトリル−スチレン系共重合体や、ポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル酸エステル類を50質量%以上含有する重合体が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂のうち、アクリロニトリル−スチレン系共重合体を用いると、ガラス転移温度が120℃以上、厚さ100μmあたりの面内位相差値が20nm以下、全光線透過率が85%以上であるフィルムが容易に得られる。なお、ラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体とその他の熱可塑性樹脂とが熱力学的に相溶することは、これらを混合して得られた熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度を測定することによって確認することができる。具体的には、示差走査熱量測定器により測定されるガラス転移温度がラクトン環含有重合体とその他の熱可塑性樹脂との混合物について1点のみ観測されることによって、熱力学的に相溶していると言える。その他の熱可塑性樹脂としてアクリロニトリル−スチレン系共重合体を用いる場合、その製造方法は、乳化重合法や懸濁重合法、溶液重合法、バルク重合法などを用いることができるが、溶液重合法またはバルク重合法を用いることが好ましい。
≪フィルムの製造方法≫
以下、(メタ)アクリル系重合体からフィルムを製造する方法について詳しく説明する。
フィルム成形の方法としては、例えば、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法など、従来公知のフィルム成形法が挙げられる。これらのフィルム成形法のうち、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法が特に好適である。
溶液キャスト法(溶液流延法)に使用する溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチエルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド;などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。
溶液キャスト法(溶液流延法)を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーターなどが挙げられる。
溶融押出法としては、例えば、Tダイ法、インフレーション法などが挙げられ、例えば、オムニミキサーなど、従来公知の混合機でフィルム原料をプレブレンドした後、得られた混合物を押出混練する。この場合、押出混練に用いる混合機は、特に限定されるものではなく、例えば、単軸押出機、二軸押出機などの押出機や加圧ニーダーなど、従来公知の混合機を用いることができる。その際の成形温度は、フィルム原料のガラス転移温度に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、例えば、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは260℃から300℃である。
Tダイ法でフィルム成形する場合は、公知の単軸押出機や二軸押出機の先端部にTダイを取り付け、フィルム状に押出されたフィルムを巻取って、ロール状のフィルムを得ることができる。この際、巻取りロールの温度を適宜調整して、押出方向に延伸を加えることで、1軸延伸することも可能である。また、押出方向と垂直な方向にフィルムを延伸することにより、同時2軸延伸、逐次2軸延伸などを行うこともできる。
前記押出機は、単軸押出機、多軸押出機のいずれも用いることが可能であるが、重合体が十分に可塑化し混練した状態を得るために、L/D(Lは押出機のシリンダー長さ、Dはシリンダー内径を表す)が10〜100の範囲内であることが好ましく、20〜50の範囲内であることがさらに好ましく、25〜40の範囲内であることが最も好ましい。L/Dが10未満であれば、重合体が十分に可塑化し混練した状態が得られ難く、100を超えると、重合体に過度なせん断発熱が加わり、重合体が分解する可能性がある。
また、シリンダーの設定温度は、200℃〜300℃の範囲内が好ましく、250℃〜300℃の範囲内がより好ましく、260℃〜300℃の範囲内がさらに好ましい。200℃未満では重合体の溶融粘度が高くなるため、必要以上の高い動力や可塑化に必要なL/Dが必要となり生産性に支障をきたす。300℃を超えると重合体が分解する可能性がある。
前記押出機の形状は、特に限定されないが、押出機が1個以上の開放ベント部を有し、減圧状態で発生する分解ガスを吸引する構成であれば、残存揮発分の増加を抑制することができるためより好ましい。
開放ベント部を減圧状態にする場合、その減圧度は、931hPa〜1.3hPa(700mmHg〜1mmHg)の範囲内が好ましく、798hPa〜13.3hPa(600mmHg〜10mmHg)の範囲内がより好ましい。前記圧力が931hPaより高いと、溶融樹脂中の残存揮発分や樹脂分解により発生する単量体成分が残存し易い。また、1.3hPaより低いと、工業的な実施が困難になっていくという問題がある。
本発明のフィルムは、成形後の外観に異物が影響を与えることを防ぐため、重合体中の異物をポリマーフィルタで除去した後に成形することが好ましい。ポリマーフィルタで濾過すると、高温で溶融状態の重合体がポリマーフィルタ内を通る際に重合体が劣化し、連続成形した場合に、炭化物等の異物が多く観察されることがある。従って、重合体の溶融温度を低下させてポリマーフィルタにおける滞留時間をできるだけ短くする観点から、成形温度は250℃〜300℃の範囲内が好ましく、260℃〜300℃の範囲内が特に好ましい。
ポリマーフィルタとしてはハウジング内に複数のリーフディスク型フィルタを配したポリマーフィルタが用いられる。リーフディスク型フィルタの濾材としては、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、あるいはこれらを組み合わせたハイブリッドタイプ等の何れであっても良く、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
また、濾過精度としては15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。また、濾過精度が1μm以下であると濾過滞留時間が長くなるため、樹脂の熱劣化並びに生産性の観点から濾過精度は1μmよりも大きいことが好ましい。一方、濾過精度が15μmを超えると、異物が混入し易くなる。
前記ポリマーフィルタの時間あたりの樹脂処理量に対する濾過面積は、特に限定されず、処理量に応じて適宜設定され、例えば、0.001m2/(kg/h)〜0.15m2/(kg/h)の範囲内に設定することができる。
前記ポリマーフィルタにおけるセンターポールはその形状に特に制限はなく、例えば、樹脂流通口が複数ありセンターポール内に樹脂流路を有する内流型、断面が複数の頂点もしくは面でリーフディスクフィルタ内周面に接し、センターポールの外面に樹脂流路がある外流型等が挙げられる。これらの中では、樹脂流路において滞留箇所の少ない外流型がより好ましい。
前記ポリマーフィルタでの濾過時における滞留時間に特に制限はないが、20分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、5分以下がさらに好ましい。また、濾過時におけるフィルタ入口圧は、3MPa〜15MPaの範囲内が好ましく、フィルタ出口圧は、0.3MPa〜10MPaの範囲内がより好ましい。圧力損失(フィルタの入口圧と出口圧との圧力差)は1MPa〜15MPaの範囲内であることが好ましい。圧力損失が1MPa未満では重合体がフィルタを通過する流路に偏りが生じ易く、得られるフィルムの品質低下が起こる傾向がある。逆に15MPaを超えるとフィルタの破損が起こり易くなる。
ポリマーフィルタへ導入される前記(メタ)アクリル系重合体の温度は、粘度に合わせて適宜設定され、200℃〜350℃の範囲内が好ましく、250℃〜300℃の範囲内がより好ましく、260℃〜300℃の範囲内がさらに好ましい。
また、ポリマーフィルタによる濾過処理により異物および着色物の少ないフィルムを得る方法としては、(1)重合体製造時にクリーンな環境下で濾過処理を行い、引続きクリーンな環境下で成形を行う方法、(2)異物および着色物を有する重合体をクリーンな環境下で濾過処理を行い、引続きクリーンな環境下で成形を行う方法、(3)異物および着色物を有する重合体をクリーンな環境下で濾過処理を行うと同時に成形を行う方法、が挙げられる。なお、ポリマーフィルタによる濾過処理は複数回行っても良い。
また、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等の用いる押出機の種類に拘らず、押出機とフィルタとの間にギアポンプを設置し、フィルタ内の樹脂圧力を安定させることがより好ましい。
本発明のフィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよい。延伸フィルムである場合は、1軸延伸フィルムまたは2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸フィルムである場合は、同時2軸延伸フィルムまたは逐次2軸延伸フィルムのいずれでもよい。2軸延伸した場合は、機械的強度が向上し、フィルム性能が向上する。
前記延伸を行う装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられ、これらいずれの装置を用いても良い。
延伸温度は、フィルム原料である(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(ガラス転移温度−30℃)〜(ガラス転移温度+100℃)、より好ましくは(ガラス転移温度−20℃)〜(ガラス転移温度+80℃)の範囲内である。延伸温度が(ガラス転移温度−30℃)未満であると、充分な延伸倍率が得られないことがある。逆に、延伸温度が(ガラス転移温度+100℃)超えると、(メタ)アクリル系重合体の流動(フロー)が起こり、安定な延伸が行えなくなることがある。
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜25倍、より好ましくは1.2〜10倍、さらに好ましくは1.3〜5倍の範囲内である。延伸倍率が1.1倍未満であると、延伸に伴う靭性の向上につながらないことがある。逆に、延伸倍率が25倍を超えると、延伸倍率を上げるだけの効果が認められないことがある。
ある方向に延伸する場合、その一方向に対する延伸倍率は、1.05〜10倍の範囲内が好ましく、1.1〜5倍の範囲内がより好ましく、1.2〜3倍の範囲内がさらに好ましい。延伸倍率が1.05倍よりも小さいと、所望の位相差値が得られない場合があり好ましくない。一方、延伸倍率が10倍よりも大きいと、延伸倍率の増加に対する効果が小さくなり、また延伸中にフィルムの破断が起こる場合があり好ましくない。
延伸速度は、一方向で、好ましくは10〜20,000%/min、より好ましく100〜10,000%/minの範囲内である。延伸速度が10%/min未満であると、充分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなることがある。逆に、延伸速度が20,000%/minを超えると、延伸フィルムの破断などが起こることがある。
なお、前記(メタ)アクリル系重合体からなるフィルムは、その光学的等方性や機械的特性を安定化させるために、延伸処理後に熱処理(アニーリング)などを行うことができる。熱処理の条件は、従来公知の延伸フィルムに対して行われる熱処理の条件と同様に適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。
≪本発明のフィルムの物性≫
本発明のフィルムは、そのガラス転移温度が120℃以上であり、125℃以上が好ましく、130℃以上がさらに好ましく、180℃以下であり、160℃以下が好ましく、150℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度が120℃未満であると、厳しくなる使用環境に対して耐熱性が不足し、フィルムが変形して位相差の斑が発生しやすくなることがあるため好ましくない。また、ガラス転移温度が180℃を超えると、該フィルムを得るための成形加工性が悪かったり、フィルムの可撓性が大きく低下する場合があるため好ましくない。
本発明のフィルムは、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値が、好ましくは0nm〜500nmが好ましく、20nm〜500nmがより好ましく、50nm〜500nmがさらに好ましく、130nm〜450nmがさらに好ましい。位相差フィルムとして用いる場合、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値が、20nm〜500nmが好ましく、50nm〜500nmがより好ましく、130nm〜450nmがさらに好ましい。前記面内位相差値が20nmより小さいと、所望の位相差値(レターデション値)を得るためにフィルムの厚さが厚くなるため好ましくない。また、前記面内位相差値が500nmを超えると延伸条件の少しの変化で位相差値(レターデーション値)が変化してしまい、安定的に生産することが難しくなる場合があるため好ましくない。さらには、大きな位相差値を得るためには、延伸倍率を大きくし、延伸温度を低くする必要があり、延伸工程中にフィルムの破断などが起こり、安定的に生産することが難しくなる場合がある。
また、本発明のフィルムは、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値の絶対値が0〜500nmであることが好ましく、50nm〜500nmであることが好ましく、70nm〜450nmがより好ましく、130nm〜400nmがさらに好ましい。位相差フィルムとして用いる場合、厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値の絶対値が、50nm〜500nmであることが好ましく、70nm〜450nmがより好ましく、130nm〜400nmがさらに好ましい。
ここで、面内位相差値(Re)と、厚さ方向位相差値(Rth)は、それぞれ
Re=(nx−ny)×d、
Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d、で定義される。なお、nxは、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内のnxと垂直方向の屈折率、nzはフィルム厚み方向の屈折率、dはフィルム厚さ(nm)を表す。遅相軸方向は、フィルム面内の屈折率が最大となる方向とする。また、延伸方向の屈折率が大きくなるものを正の複屈折性があると言い(または、固有複屈折が正であるといい)、フィルム面内で延伸方向と垂直方向の屈折率が大きくなるものを負の複屈折性があると言う(または、固有複屈折が負であると言う)。なお、上記「厚さ100μmあたりの波長589nmにおける面内位相差値」とは、面内位相差値(Re)を求める式において、d=100×103nmでの値のことである。また、上記「厚さ100μmあたりの波長589nmにおける厚さ方向位相差値」とは、厚さ方向位相差値(Rth)を求める式において、d=100×103nmでの値のことである。
本発明のフィルムの波長589nmにおける面内位相差値(Re)は、0nm〜1000nmが好ましく、20nm〜1000nmがより好ましく、50nm〜500nmがさらに好ましく、100nm〜350nmがさらに好ましい。位相差フィルムとして用いる場合、波長589nmにおける面内位相差値(Re)は、20nm〜1000nmが好ましく、50nm〜500nmがより好ましく、100nm〜350nmがさらに好ましい。
本発明のフィルムをλ/2板として用いる場合、波長589nmにおける面内位相差値(Re)が、200nm〜350nmが好ましく、240nm〜300nmがより好ましく、260nm〜280nmがさらに好ましく、265nm〜275nmがさらに好ましい。
本発明のフィルムをλ/4板として用いる場合、波長589nmにおける面内位相差値(Re)が、100nm〜200nmが好ましく、120nm〜160nmがより好ましく、130nm〜150nmがさらに好ましく、135nm〜145nmがさらに好ましい。
本発明のフィルムの波長589nmにおける厚さ方向位相差値(Rth)の絶対値は、0nm〜500nmが好ましく、10nm〜500nmがより好ましく、50nm〜400nmがさらに好ましく、100nm〜300nmがさらに好ましい。位相差フィルムとして用いる場合、波長589nmにおける厚さ方向位相差値(Rth)の絶対値は、10nm〜500nmが好ましく、50nm〜400nmがより好ましく、100nm〜300nmがさらに好ましい。
本発明のフィルムは、正の複屈折性を示すものであってもよいし、負の複屈折性を示すものであってもよい。位相差フィルムとして用いる場合、特に液晶テレビの光学補償のために位相差フィルムを使用する場合、正の複屈折性を示すフィルムが求められる場合が多いため、正の複屈折性を示すものであることがより好ましい。また、液晶表示装置の組み立て工程において、容易に偏光板と貼り合わせることができるため、正の複屈折性を示すものであることがより好ましい。具体的には、偏光板と位相差フィルムとを貼り合わせる液晶表示装置の組み立て工程において、偏光板の吸収軸と位相差フィルムの面内遅相軸とを直交させた状態で重ね合わせる必要がある場合がある。二軸性位相差フィルムと貼り合わされる偏光板は、通常、その長さ方向に吸収軸が形成された上でロール状に巻回されているため、この場合、位相差フィルムが正の複屈折性を示すものであれば、幅広二軸延伸した際の横延伸方向に遅相軸が発生し、位相差フィルムを裁断して偏光板に貼り合わせる必要がなくなり、所謂、ロールtoロール方式で積層させることができる。なお、本発明で使用する(メタ)アクリル系重合体がラクトン環含有(メタ)アクリル系重合体の場合、正の複屈折性を示す(メタ)アクリル系位相差フィルムが実現でき、ラクトン環含有割合が増えると位相差の発現性が増す傾向にある。
なお、複屈折性の正負の判断は、「高分子素材の偏光顕微鏡入門」(栗屋裕著、アグネ技術センター版、第5章、pp78〜82(2001))に記載の偏光顕微鏡を用いたλ/4板による加色判定法により判定を行うことができる。また、位相差フィルムそのものを、または位相差フィルムを加熱収縮させた後、単軸延伸し、延伸方向の屈折率が大きくなるかどうかで判断することもできる。
本発明のフィルムは、表面硬度が高く、鉛筆硬度が好ましくはH以上、より好ましくは2H以上である。本発明のフィルムは、必要により、表面をコロナ処理してもよい。特に、フィルム表面にコーティング加工等の表面処理が施される場合や、粘着剤により別のフィルムがラミネートされる場合には、相互の密着性を向上させるため、フィルム表面のコロナ処理を行うことが好ましい。
本発明のフィルムは、その厚さは特に制限されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm、より好ましくは5μm〜350μm、さらに好ましくは20μm〜200μm、さらに好ましくは、30μm〜150μmである。厚さが5μmより薄いと強度に乏しく、また、位相差フィルムの場合には、所望の位相差値(レターデーション値)を得ることが困難になる。厚さが500μmより厚いと、例えば、液晶表示装置の軽量化や薄膜化に不利となる。
本発明のフィルムは、その表面の濡れ張力が、好ましくは40mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上、さらに好ましくは55mN/m以上である。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以上であると、(メタ)アクリル系重合体を含有するフィルムと他の部品との接着強度がさらに向上する。表面の濡れ張力を調整するために、例えば、コロナ放電処理、オゾン吹き付け、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理、その他の従来公知の表面処理を施すことができる。
本発明のフィルムは、全光線透過率が、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、透明性の指標であり、これが85%未満であると、透明性が低下し、本来目的とする用途に使用できないことがある。
本発明のフィルムは、ヘイズが5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。ヘイズが5%を超えると透明性が低下し、光学フィルムとして使用できない場合がある。
本発明のフィルムは、可撓性を有する。フィルム面内の任意の直交する2方向に対して可撓性を有することが好ましく、具体的には、25℃、65%RH(relative humidity:相対湿度)の雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて、フィルム面内の遅相軸と平行方向およびフィルム面内の遅相軸と垂直方向に180℃折り曲げた際、どちらの方向でもクラックを生じないことが好ましい。ここで、折り曲げ半径とは、フィルムの折り曲げの中心から屈曲部の最端部までの距離を意味する。折り曲げ半径1mmにおいて180℃折り曲げた際、クラックを生じないフィルムは、取り扱いが非常に容易であり、工業的に有用である。25℃で65%RHの雰囲気下、折り曲げ半径1mmにおいて180℃折り曲げた際、クラックを生じるフィルムは、可撓性が不十分であり、取り扱いが困難である。なお、折り曲げ試験は、JISに準拠して行えばよい。例えば、K5600−5−1(1999年)に準拠して行うことが好ましい。上記クラックの形状は、特には限定されず、例えば、長さが1mm以上の割れのことを意味する。
本発明のフィルムは、用途によるが、粒子径20μm以上の異物の含有量が500個/m2以下が好ましく、100個/m2以下がより好ましく、30個/m2以下がさらに好ましく、10個/m2以下がさらに好ましい。理想的には0個/m2である。異物としては、例えば、フィルムの製造工程において、原料の溶融混練中に(メタ)アクリル系重合体が部分的に加熱され、劣化することにより発生する炭化物(いわゆる「焼け異物」)、重合体製造工程中に発生するゲル、各工程において混入する汚染物質(環境異物)等が挙げられる。フィルムの異物の含有量を500個/m2以下と非常に少なくすることで、外観も優れたフィルムとすることができる。
本発明のフィルムは、耐折回数が5回以上であることが好ましく、10回以上であることがより好ましく、30回以上であることがさらに好ましい。耐折回数は、可撓性を示し指標のひとつであり、5回以上であれば、取扱性が良くなる。具体的には、フィルムを搬送する際に、割れや破断が起こり難くなる。耐折回数の上限は、特に限定されないが、5000回が好ましく、2000回がより好ましい。
本発明のフィルムは、目的に応じて、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層等の防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮断層、熱線遮断層、電磁波遮断層、ガスバリア層、液晶化合物を含む層などの種々の機能性コーティング層を積層塗工したフィルムであってもよい。また、前記種々の機能性コーティング層が塗工された部材を、粘着剤や接着剤を介して積層したフィルムであってもよい。なお、各層の積層順序は特に限定されるものではなく、積層方法も特に限定されない。
≪本発明の光学フィルム≫
本発明のフィルムは、光学フィルムとして好適である。
本発明の光学フィルムは、各種光ディスク(VD(Video Disk),CD(Compact Disc),DVD(Digital Versatile Disc),MD(Magnetic Disc),LD(Laser Disc)など)基板の保護フィルム、液晶表示装置用の偏光板に用いる偏光子保護フィルム等の光学用保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、反眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどとして使用することができる。また、本発明の光学フィルムは、液晶表示装置用の光学補償部材として好適に用いられる。具体的には、例えば、STN型LCD、TFT−TN型LCD、OCB型LCD、VA型LCD、IPS型LCDなどのLCD用位相差フィルム;1/2波長板;1/4波長板、逆波長分散特性フィルム、偏光板光学補償フィルムなどの光学補償フィルムなどが挙げられる。
本発明の光学フィルムは、単独での使用以外に、同種光学材料および/または異種光学材料と積層させて用いることにより、さらに光学特性を制御することができる。この際に積層される光学材料としては、特に限定されないが、例えば、偏光板、ポリカーボネート製延伸配向フィルム、環状ポリオレフィン製延伸配向フィルムなどが挙げられる。なお、本発明の光学フィルムを応用した用途は、これらに制限されるものではない。