以下、本発明について、図を参照し、具体的に説明する。
図1は、本発明の強化繊維基材積層体の一例を、図2は、本発明の強化繊維基材積層体における高接合領域の一例を示す斜視図である。図3は、本発明の強化繊維基材積層体の一例を示す断面図である。
本発明の強化繊維基材積層体2は、シート状の強化繊維基材1を複数枚積層してなるものである。
強化繊維基材1の形態としては、織物(一方向、多軸)、編物が挙げられる。中でも高い力学特性の成形品が得られることから一方向または2〜4軸の織物が好ましい。また多軸の織物としては、2軸の平織りを使用すると意匠面の要望が強い自動車用途を始め、各種産業用途に使用することできることから好ましい。
かかる強化繊維基材1の目付は、取り扱い性が良く、製造するコストが安くできることから、100〜1000g/m2未満であることが好ましい。また該強化繊維基材積層体2で作成した成形品の所望の力学特性が得られる範囲ならば、適宜目付の異なる強化繊維基材1を組み合わせた構成にしても良い。
強化繊維基材1の強化繊維としては、マルチフィラメントであり、特にその種類に制限はないが、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、有機(ポリアラミド、PBO、液晶ポリマー繊維、PVA、PEポリフェニレンサルファイド繊維など)繊維または炭素繊維などが好ましく使用できる。これらの中でも、とくに炭素繊維は比強度および比弾性率に優れ、耐吸水性に優れるので、航空機や自動車などの構造材の強化繊維として好ましく用いられる。中でも、高靱性炭素繊維であると、成形される強化繊維プラスチックの衝撃吸収エネルギーが大きくなるので、各種産業用途はもとより航空機1次構造材としても適用が可能となる。
また、本発明の強化繊維基材積層体2は、平面状とするのが好ましい。ここでいう平面状とは、紙管などに巻いたとしても、解反したときに平面状に戻れば平面状と規定する。このように、紙管などに強化繊維基材積層体を巻き、解反した場合においては、多少の巻き癖が残り、厳密な平面とはならないこともあるが、かかる場合においては、強化繊維基材積層体が一次曲面形状であり、かつ、その50%以上の部分において曲率半径が、50cm以上であれば、平面と見なすものとする。
また、本発明の強化繊維基材積層体2は、その積層層間3の、全面にわたって接合部が分布しているものである。接合部とは、各層間3を構成している強化繊維基材1と強化繊維基材1とを固定することをいい、手段としては、樹脂による接着、起毛した繊維の絡み合い、ステッチ糸による固定等が挙げられる。中でも樹脂による接着が機械的に接合を外したり、加熱加圧することにより、再度接合できることから好ましい。また、接合部が全面にわたって分布しているとは、全面が隙間なく接合しているのではなく、接合部と非接合部が全面に混在していることをいう。かかる分布形態としては、接合部が連続した中に、非接合部が点在していても良いし、非接合部が連続した中に接合部が点在していても良いが、後者であれば、接続部の層間に占める割合をコントロールし易いため、後述する高接合領域と低接合領域を容易に設定できることから好ましい。
本発明の強化繊維基材積層体2は、上記層間の接合形態として、接合力が500〜1000N/m2である高接合領域と前記高接合領域より接合部の分布する密度が低い低接合領域から形成される。かかる2領域からなることで、プリフォーム化する際の形状への追随性と持ち運び等のハンドリング時に層間の接合が外れ難いという取扱い性を両立することが可能となったものである。すなわち、高接合領域5を、強化繊維基材積層体2を手、道具、機械などで搬送するときや型にセットするときに基材が剥離しやすい箇所(強化繊維基材1の端部や図2に示す基材と基材との継ぎ合わせ部7など)に設定することで、特に上記取扱い性を向上させることができるので好ましい。また、後のプリフォーム工程において、該強化繊維基材積層体2を所望の形状にカットする箇所に高接合領域5を設定すれば、形状カット後も基材の剥離を予防することができる。かかる高接合領域の接合力は500〜1000N/m2であることが必要である。高接合領域5の接合力が500N/m2未満であると、強化繊維基材積層体2の搬送中や取り扱い時に強化繊維基材1の端部が起点となり剥離してしまい、1000N/m2を超えると賦形時に曲げ部分に沿うようなすべりが発生しにくくなり皺が発生してしまうためである。
ここでいう接合力とは、積層層間3を剥がすのに要する応力をいう。以下に接合力を測定する方法を、図6を参照しながら説明する。
まず強化繊維基材積層体2から試験片(N数5、標準的には、100mm角だが、適宜変更可)を切り出し、該試験片の上下両面に十分な剛性を有するSUS板27(試験片とほぼ同形状)を全面にわたり両面テープ28などの粘着剤で接着させ試験体29を作製する。該両面テープ28の粘着力は、試験中に強化繊維基材積層体2の層間より先に試験片と上下両面の板が剥がれないように接着できれば、特に限定されるものではないが、JIS Z 0237(2000)に準拠した(90度粘着力、対SUS板)測定方法で30N/25mm以上あるのが好ましい。
次に該試験体29の下面を引っ張り試験機の台座30に前記両面テープ28で固定し、上面の中心位置に引っ張り試験機用取り付け治具31を前記両面テープ28で接着する。ここでは試験体29と取り付け治具31の中心軸が一直線上になるように注意する。
最後に取り付け治具31を引っ張り試験機にセットし、中心軸に平行に25mm/minの速度で荷重をかけ、層間3が剥がれたときの最大荷重(N)を読みとる。
試験結果は以下の算出式から計算し接合力を求める。
高接合領域5と低接合領域6の見分け方は、図8を用いて以下の通りに説明される。
まず、強化繊維基材積層体2の長手方向32(すなわち、強化繊維基材積層体2の中で最も長い方向を意味し、例えば長方形の場合は長辺の方向を意味するが、正方形の場合はいずれか任意の辺の方向、多角形の場合は最も長い辺の方向、楕円の場合は長径の方向、円の場合は任意の方向など、長手方向と評価される得る方向を含む)を特定し、その方向に直角の方向を幅方向33とする。長さ方向に端部から少なくとも10mm以上の距離を有し、幅方向33にもっとも多くの試験片を切り出せる箇所において、強化繊維基材積層体2から幅方向33にわたり、幅50mm、長さ150mmの試験片34を等間隔に切り出し、上記測定方法に基づき、幅方向33の接合力の分布を求める。試験片34の数を10個以上作成できない幅であった場合は、試験片の数が10個となる大きさの試験片34(長さは幅の3倍とする)を作成する。
その後、強化繊維基材積層体2の面積を、これらの試験片34を用いて上記測定方法に基づき測定した接合力が500〜1000N/m2の試験片34(高接合領域5)の数、およびその試験片34に含まれる接合部4の分布する密度(すなわち、単位面積あたりに対する接合部の面積または数)を求める。
本発明では、上記の測定の結果、500〜1000N/m2の試験片34に含まれる接合部4の分布する密度より、その他の試験片34に含まれる接合部4の分布する密度(すなわち、単位面積あたりに対する接合部の面積または数)が低くなっていれば良く、この場合、接合力が500〜1000N/m2の高接合領域5と、高接合領域5より接合部の分布する密度が低い低接合領域4が形成されていると評価できる。
高接合領域5は積層層間3で1〜10%有していることが好ましい。高接合領域5の範囲が1%未満であると、基材の剥離を予防する効果が小さく、10%より上であると、賦形時に曲げ部分に沿うような積層層間のすべりが発生しにくくなり、条件を厳密に設定しないと皺が発生する場合がある。なお、ここで言う、高接合領域5の積層層間における割合は、接合力が500〜1000N/m2の試験片(高接合領域5)の数を、試験片の総数で除した割合とする。
前記強化繊維基材積層体2の積層層間3の接合部4の分布は上述の効果が得られ、かつ高接合領域5の接合力が500〜1000N/m2であれば、特に限定されるものではないが、層間の全面にわたりある間隔をもって分布していると好ましい。ある間隔をもって接合部が分布していることにより、層間3の接合も部分的になり自由度が生まれ、結果として賦形時に曲げ部分に皺なく沿うような積層層間のすべりが発生しやすくなる。
接合部4の間隔は、接合する際の作業性が良いこと、所望の接合力が得やすいことから、高接合領域5においては、1〜30mmが好ましく、より好ましくは3〜10mmである。また低接合領域6においては接合部4の間隔は、15〜100mmが好ましい。接合部4の間隔が100mmより大きいと、接合間隔が広すぎるため、部分的に接合する効果が得られず、搬送中に基材の層間がすべり積層角度がずれてしまうため好ましくない。
接合部4の個々の形状は、所望の接合力が得られるならば特に限定されず、球状もしくは角を面取りした矩形状のものが好ましい。接合部の面積は、あまり大きくし過ぎると層間の自由度が小さくなり皺を防止するような層間のすべりが生じにくくなり、また接合部の面積を小さくし過ぎると所望の接合力を得るために加圧部を増やす必要があることから、1〜100mm2が好ましく、1〜50mm2であればより好ましい。
図3は図1における接合部が前述の樹脂による場合を表した断面図である。かかる態様においては、前述の積層層間を接着する樹脂は、ガラス転移温度Tgが0〜95℃である熱可塑性樹脂を含有する樹脂(以下接着樹脂と記すこともある)であることが好ましい。該強化繊維基材の積層層間3の全面にわたってガラス転移温度Tgが0〜95℃である熱可塑性樹脂を含有する樹脂8が2g/m2〜40g/m2の範囲内で付着しており、かつ、接合部は、層間3にある樹脂8に熱を加えて軟化あるいは融解した状態にしてから、圧力を加えて強化繊維基材1と強化繊維基材1の両方に圧着または融着することにより形成されている。
また、本発明の強化繊維基材1は、少なくとも片面の表面に、ガラス転移温度Tgが0℃〜95℃である熱可塑性樹脂を含有する樹脂8が、2g/m2〜40g/m2で付着されていることを特徴とする。かかる熱可塑性樹脂を含有する樹脂を配することにより、後述する力学特性の向上はもとより、強化繊維基材間の積層層間を、該熱可塑性樹脂を含有する樹脂で接着接合することができる。該熱可塑性樹脂を含有する樹脂8のTgが0℃未満であると、常温でべたつくため、取り扱いにくい強化繊維基材1となってしまう。一方、該樹脂のTgが95℃を越えると、常温でべたつきはないものの、強化繊維基材1同士を接合させるための加熱温度を高くする必要があり、接合させにくいものとなる。なお、ここで言うTgとは、示差走査熱量分析計DSC(Differential scanning calorimetry)により測定した値をいう。具体的には、JIS−K7121(1987)に従って、測定装置にPyris1 DSC(Perkin Elmer社製)を用いて、窒素雰囲気下にて昇温速度40℃/分で測定する。
また、とりわけ、航空機の一次構造材用の材料においては、飛翔物の衝突や修理中における工具の落下による損傷の影響を受けにくいように、好ましくは衝撃後の残存圧縮強さ(Compression After Impact、以下CAIと記す)が高いことが要求される。
前記熱可塑性樹脂を含有する樹脂8は、強化繊維基材1の表面に付着しているため、FRPの成形後においても、FRPを構成する強化繊維基材1の層間に含まれ、前記樹脂8を用いない場合に比べて、層間3を形成しやすい。この層間3は、マトリックス樹脂の他に前記樹脂8を含むため、熱可塑性樹脂に高靭性なものを用いた場合には、層間を選択的に高靱性化することが可能である。かかる層間の高靱性化により、FRPに衝撃を加えた時に、層間が変形もしくは破壊することにより、エネルギーを吸収することができるため、CAIを向上することができる。そのため、強化繊維基材1の表面に付着させる樹脂8を最適化することにより、接合性のみならず、耐衝撃吸収特性も向上させることができる。
熱可塑性樹脂を含有する樹脂8の付着量が2g/m2未満であると、付着量が少なすぎて、十分な接着接合が発現されない。一方、付着量が40g/m2よりも多いと、付着量が多すぎて、FRPの重量が増加し、軽量化を損なう。この強化繊維基材1の表面に付着している熱可塑性樹脂を含有する樹脂8は、熱硬化性樹脂との混合物を使用することができる。強化繊維基材間の接着接合のみが要求されている場合においては、かかる樹脂8として、熱可塑性樹脂を単独で用いてもよいが、CAIなどの耐衝撃性が要求される場合においては、靱性の優れた熱可塑性樹脂と低粘度化しやすく強化繊維基材への接着が容易な熱硬化性樹脂との混合物を用いると、適度の靱性を有しながら強化繊維基材1への接着性を有することができる。
かかる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネイト、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロースなどを使用することができる。
熱可塑性樹脂を含有する樹脂8の形態としては、例えば粒子状、繊維状、フィルム状のものが挙げられる。中でも、プリフォームにおける強化繊維体積率を高くすることができる点から粒子の形態が好ましい。該粒子は、平均直径(楕円形の場合は平均短径)が小さければ、小さいほど均一に強化繊維基材積層体2の表面に分散させることが可能となるため、1mm以下が好ましく、250μm以下であればより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。強化繊維基材積層体2の表面に配置した粒子の径が大きいほど表面の凹凸が大きくなり、強化繊維が屈曲する可能性があるので、強化繊維が配列した強化繊維基材積層体2表面における粒子の平均厚さは、5〜250μmの範囲であることが好ましい。
高接合領域5は強化繊維基材積層体の端部からの幅1〜5cmであることが好ましい。端部からの幅を5cmより上にすると、賦形時に曲げ部分に沿うようなすべりが発生しにくいことがあり、1cm未満であると、基材端部の剥離を防止する効果が得にくいことがある。
ここでいう端部とは、長手方向または幅方向の端部のことであり、所望の効果が得られる範囲で適宜選択することができる。またプリフォーム作製時に端部領域の幅が1〜5cmであると、端部領域の中央付近をカットしていくときに作業性がよい。
また強化繊維基材積層体2の幅1〜5cmの端部領域の接合力は、低接合領域に対して1.5〜5倍であると、基材端部の剥離がなく取り扱い性が良いこと、賦形時に曲げ部分に皺なく沿うような積層層間のすべりが発生しやすいことから好ましい。
前記強化繊維基材積層体2の積層層間の全面にわたる接合として、所望の接合力が得られるならば特に限定されるものではなく、ステッチ糸による縫合一体化も可能である。ステッチ糸で縫合一体化すると各層間は滑りが発生する自由度があるので、曲面に沿わせても強化繊維糸条が局部的に屈曲するようなことはないので好ましい。
縫合一体化にあたってのステッチ糸が形成する縫い組織としては、単環縫い、トリコット編みが挙げられる。また高接合領域5においてステッチ糸の打ち込み密度を他の領域よりも大きくすれば所望の接合力が得られやすく都合が良い。ここでいうステッチ糸の打ち込み密度とは、単位面積当たりのステッチ糸の打ち込み数の程度をいい、ここでは長さ方向の打ち込みピッチと幅方向の打ち込みピッチで定義する。
高接合領域5においては、取り扱い時に基材が剥離しないこと、賦形性が損なわれないことから長さ方向の打ち込みピッチは1〜6mmが好ましく、幅方向の打ち込みピッチは2〜10mmが好ましい。またそれ以外の領域においては、ステッチ糸に強化繊維基材積層体2の層間の拘束が甘く形態が不安定となり、運搬の際に層がずれることから、長さ方向の打ち込みピッチは3〜10mmが好ましく、幅方向の打ち込みピッチは3〜40mmが好ましい。
また、ステッチ糸による縫合一体化による積層層間の接合の場合においても、該強化繊維基材の積層層間3の全面にわたってガラス転移温度Tgが0〜95℃である熱可塑性樹脂を含有する樹脂8が2g/m2〜40g/m2の範囲内で付着していることが、後述するプリフォーム化後の形態固定を可能とする。
本発明の強化繊維基材積層体2は、FRPを構成する積層構成となっていることが好ましいが、FRPを構成する積層構成の積層枚数が非常に多い場合には、強化繊維基材積層体2は、FRPを構成する積層構成の一部を構成する積層構成であっても構わない。例えば、FRPを構成する積層構成が[(45/0/−45/90)x]sの場合(Xは任意の整数)、繰り返しの積層単位である(45/0/−45/90)の積層構成を有する強化繊維基材積層体2を必要分だけ積層しても構わない。
このように本発明の強化繊維基材積層体2は賦形性及び取り扱い性に優れるため、高品質なプリフォームを得ることができる。本発明においてプリフォームとは、平面状の強化繊維基材積層体ではなく、賦形型もしくはそれに類似の型などを用いて最終製品の成形品の形状もしくはそれに近い形状のように整えた中間体のことを意味する。
本発明のように、プリフォームにマトリックス樹脂を注入してFRPを成形する方法においては、FRPの品質の善し悪しはプリフォームで決まると言っても過言ではないため、高品質なプリフォームを得ることができる強化繊維基材積層体2は、非常に重要である。
本発明のプリフォームは、上記本発明の強化繊維基材積層体2を賦形して得られ、且つ強化繊維体積率Vpfが40%〜62%の範囲内であることが好ましい。
該強化繊維体積率Vpfが40%未満であると、プリフォームが嵩高となるので、成形品であるFRPの強化繊維体積率が低下することがある。一方、該強化繊維体積率Vpfが62%よりも大きいと、マトリックス樹脂が含浸しにくくなり、未含浸やボイドなどの欠陥が発生しやすくなることがある。プリフォームの強化繊維体積率は、強化繊維基材積層体2を賦形型などを用いて賦形した後、熱可塑性樹脂を含有する樹脂のガラス転移温度以上に加熱した状態において、真空圧やプレス圧などの圧力を一定時間かけることにより、向上させることができる。この場合、加熱温度、圧力が高く、加熱・加圧時間が長い程、強化繊維体積率を向上させることができる。これらの加熱温度、圧力、加熱加圧時間を適切に制御することにより、プリフォームの強化繊維体積率を制御することが可能である。
さらに本発明のプリフォームは、強化繊維基材層間が実質的に全面にわたり接着していることが好ましいかかるプリフォームの具体的な製造方法の一例について以下に述べる。
まず、該強化繊維基材積層体2を所望の形状にカットする。このとき予め形状カット箇所を含む領域を高接合領域5に設定しておけば、形状カット後も基材剥離がなく取り扱い性の低下を予防することができる。次に該形状カット後の強化繊維基材積層体2を賦形型などに配置した後、強化繊維基材積層体全体をバギングフィルム(もしくはラバーシート)で覆い、バギングフィルムと強化繊維基材積層体との間を真空吸引して、強化繊維基材積層体全体に大気圧をかけることにより賦形型に密着させて作製する。もしくは、賦形型とプレス機を用いて、強化繊維基材積層体に圧力をかけて、プリフォームを作製することも可能である。このように、プリフォームは最終製品もしくはそれに近い形状に整えられるため、一度形状を整えた後は、マトリックス樹脂を注入してFRPに成形するまで、形状を保持している必要がある。そのため、該強化繊維基材1もしくは該強化繊維基材積層体2を賦形型などに賦形して、プリフォーム形状に整えた後、該強化繊維基材層間を実質的に全面にわたり接着させることは、プリフォームの形状を保持しやすくなるため好ましい。
次に、本発明のFRPの製造方法は、本発明で好ましく用いられる強化繊維体積率40%〜62%のプリフォームにマトリックス樹脂を注入し、真空吸引口からマトリックス樹脂が排出された後に、注入口からマトリックス樹脂の注入を中止し、真空吸引口からのマトリックス樹脂の排出量を調整すれば、FRPの強化繊維体積率Vfを35%〜72%に成形することができる。
得られるFRPの強化繊維体積率Vfに特に制限はないが、35%よりも低いと、FRPとして強度、弾性率が低くなりやすく、所定の力学特性を発現するためには、厚みが必要となり、結果として軽量化の効果が小さくなる懸念がある。
一方、強化繊維体積率Vfが72%よりも高いと、マトリックス樹脂の量が少なすぎることにより、ボイドなどの欠陥が発生しやすくなる場合がある。
また、FRPを構成する強化繊維基材の積層枚数が20枚以上のように、積層枚数が多いFRPを成形する場合においては、マトリックス樹脂の硬化特性を考慮し、プリフォームへの注入時間を確保した上で、マトリックス樹脂を加熱、粘度を低下させて注入することも好ましい。また、同時にマトリックス樹脂を注入するプリフォームを加熱しておくことも好ましい。比較的高い強化繊維体積率VfのFRPを成形するために、高強化繊維体積率Vfのプリフォームを使用する場合、プリフォームの強化繊維密度が高くなるため、マトリックス樹脂の含浸性が低下する傾向にある。この場合においても、マトリックス樹脂を加熱することにより粘度を低下させて、注入、含浸させることが好ましい。
より好ましくは、注入口からマトリックス樹脂の注入を中止した後、該注入口を真空吸引し、該注入口および従来の真空吸引口の両方からマトリックス樹脂を吸引、排出し、且つマトリックス樹脂の排出量を調整して、FRPの強化繊維体積率Vfが35%〜72%に成形することである。
マトリックス樹脂を注入口および/もしくは真空吸引口から排出させる時に、プリフォームに外部より加圧して、より短時間でマトリックス樹脂を排出することも好ましい。
また、FRPの強化繊維体積率Vfは、プリフォームの強化繊維体積率Vpf―5%〜Vpf+20%に調節することが好ましい。FRPの強化繊維体積率は、プリフォームにマトリックス樹脂を注入した後、吸引口および/もしくは真空吸引口からマトリックス樹脂を吸引する時間や温度、さらにはプリフォームへの外部からの加圧などにより、マトリックス樹脂の排出量を制御することが可能である。
本発明に用いる強化繊維基材1には、表面に熱可塑性樹脂を含有する樹脂8が付着しており、該樹脂は強化繊維基材同士を接着して、強化繊維基材積層体2およびプリフォームの形状保持性などの取り扱い性を向上させる機能の他に、CAIなどの耐衝撃性能を向上させる機能を発現する。かかる接着樹脂に耐衝撃性能の向上を期待する場合には、FRPを成形後に、強化繊維層間に、接着樹脂を含む層が形成されていることが好ましい。
一方、FRPの製造時に、マトリックス樹脂の排出量を増加することにより、FRPの強化繊維体積率Vfを向上させることができるが、マトリックス樹脂を注入するときには、前述のようにマトリックス樹脂および/もしくはプリフォームを加熱して注入する場合がある。加熱温度が強化繊維基材1の表面に付着している熱可塑性樹脂を含有する樹脂のガラス転移温度を超える場合は、該樹脂が軟化して、強化繊維基材1の表面から脱落し、強化繊維基材1の層間3を形成するマトリックス樹脂の中に配置する場合がある。
かかる場合には、FRPの強化繊維体積率Vfをプリフォームの強化繊維体積率Vpf+20%を越えるような高強化繊維体積率Vf化するために、マトリックス樹脂の排出量を増やすと、強化繊維基材の表面に付着していた接着樹脂が脱落してマトリックス樹脂内に配置、もしくはマトリックス樹脂に相溶するなどして、マトリックス樹脂内に含まれている場合に、マトリックス樹脂の排出に伴い、多量の熱可塑性樹脂を含有する樹脂も排出してしまう懸念がある。マトリックス樹脂の排出に伴う熱可塑性樹脂を含有する樹脂8の排出は、該樹脂8の機能が、FRPを成形するまでの強化繊維基材積層体2および/もしくはプリフォームの取り扱い性他を向上させることのみで、FRPを構成する要素としての機能が無い場合には問題ないが、熱可塑性樹脂を含有する樹脂はFRPの耐衝撃特性を向上させるなどの機能を発現することを期待する場合には、好ましくない。
一方、熱可塑性樹脂を含有する樹脂8の機能が、FRPを成形するまでの強化繊維基材および/もしくはプリフォームの取り扱い性他を向上させるのみで、FRPを構成する要素としての機能を期待しない場合には、マトリックス樹脂、プリフォームを加熱して、該樹脂8を強化繊維基材の表面から脱落もしくはマトリックス樹脂に相溶させるなどして、マトリックス樹脂を排出すると共に、該樹脂8を積極的に排出することも好ましい様態の一つである。上述のように、該樹脂8はFRPを構成する強化繊維基材1の層間3を形成しやすいため、FRPの耐衝撃特性を向上させる反面、FRPの強化繊維体積率Vf向上を阻害する懸念があり、FRPの高強化繊維体積率Vf化による圧縮および/もしくは引張特性の向上を阻害する懸念がある。そのため、接着樹脂を積極的に排出して、層間の厚みの増加を抑制し、高強化繊維体積率Vf化することによって、圧縮および/もしくは引張特性を向上することが可能となる。
また、プリフォームにマトリックス樹脂を注入し、真空吸引口からマトリックス樹脂が排出された後に、注入口からマトリックス樹脂の注入を中止し、注入口も真空吸引することにより、注入口および真空吸引口からのマトリックス樹脂の排出量を調整して、FRPの強化繊維体積率Vfが35%〜72%にすることも好ましい。
なお、本発明における「プリフォームの強化繊維体積率Vpf」とは、以下により定義されて測定される値であり、プリフォームとはマトリックス樹脂を注入する以前の状態のものをいう。
すなわち、プリフォームの強化繊維体積率Vpfは、プリフォームに大気圧相当の圧力0.1MPaをかけた状態におけるプリフォームの厚み(t)から、次の式を用いて表すことができる。
プリフォームの強化繊維体積率Vpf=F×p/ρ/t/10 (%)
ここで、
F:基材目付(g/m2)
p:基材の積層枚数(枚)
ρ:強化繊維の密度(g/cm3)
t:プリフォームの厚み(mm)。
具体的なプリフォームの厚みの測定方法としては、JIS R 7602(1995)に記載の炭素繊維織物試験方法に記載の厚さの測定方法にて圧力を0.1MPaに変更して、測定することにより得ることができる。真空圧を利用したVaRTM成形方法においては、プリフォームに大気圧をかけた状態において、マトリックス樹脂を注入、含浸させるため、大気圧相当の0.1MPaの圧力をかけたときのプリフォームの強化繊維体積率を制御しておくことが好ましいのである。プリフォームが複雑な形状をしていて、JIS R 7602(1995)に基づいて測定ができない場合には、プリフォームからサンプルを切り出して、測定してもよい。この場合、切り出すことにより、プリフォームの厚みが変化しないように注意してサンプルを切り出すことが必要である。また、サンプルの切り出しも不可能な場合は、プリフォームを賦形した金型ごとバギングフィルムを用いて、真空バッグすることにより、プリフォームに大気圧をかけた状態にて、プリフォーム、金型、バギングフィルムの合計の総厚みを測定し、総厚みから金型、バギングフィルムの厚みを差し引くことにより、プリフォームの厚みを測定することも可能である。
また、本発明における「FRPの強化繊維体積率Vf」とは、以下により定義されて測定される値であり、プリフォームに対してマトリックス樹脂を注入、硬化した後の状態でのものをいう。すなわち、FRPの強化繊維体積率Vfの測定は、FRPの厚み(t)から、上記と同様に下記する式を用いて表すことができる。
FRPの強化繊維体積率Vf=F×p/ρ/t/10(%)
ここで、tはFRPの厚み(mm)であるが、他のパラメータは、上記のプリフォームの強化繊維体積率Vpfを求めるときのパラメータ値と同様である。
F:基材目付(g/m2)
p:基材の積層枚数(枚)
ρ:強化繊維の密度(g/cm3)
t:FRPの厚み(mm)。
なお、基材目付Fや基材の積層枚数、強化繊維の密度が明らかでない場合は、JIS K 7075(1991)に基づく燃焼法もしくは硝酸分解法、硫酸分解法のいずれかにより、FRPの強化繊維体積率を測定する。この場合に用いる強化繊維の密度は、JIS R 7603(1999)に基づき測定した値を用いる。
具体的なFRPの厚みの測定方法としては、FRPの厚みを正しく測定できる方法であれば、特に限定されるものではないが、JIS K 7072(1991)に記載されているようにJIS B 7502(1994)に規定のマイクロメーターまたはこれと同等以上の精度をもつもので測定することが好ましい。FRPが複雑な形状をしていて、測定ができない場合には、FRPからサンプル(測定用としてのある程度の形と大きさを有しているサンプル)を切り出して、測定してもよい。
従来の真空吸引口に加え、注入口からマトリックス樹脂を吸引、排出することにより、マトリックス樹脂の排出時間を短縮することができるため好ましい。
また、真空吸引口からのみマトリックス樹脂を吸引、排出する場合、真空吸引口に近い箇所のプリフォーム内に含浸しているマトリックス樹脂を吸引しやすいが、注入口に近いプリフォーム内に含浸しているマトリックス樹脂は、吸引しにくいため、排出することが困難である。そのため、結果として、注入口に近い箇所のFRPの強化繊維体積率は、真空吸引口に近い箇所のFRPの強化繊維体積率に比べて、低くなる懸念がある。そのため、マトリックス樹脂をプリフォームに注入後、注入口からもマトリックス樹脂を吸引、排出することにより、FRPの各箇所における強化繊維体積率のばらつきを向上することができ、好ましい。
本発明の強化繊維基材の製造方法は、強化繊維基材の少なくとも片側の表面にガラス転移温度Tgが0℃〜95℃である熱可塑性樹脂を含有する樹脂が、2g/m2〜40g/m2の範囲内で付着されている強化繊維基材積層体を製造することを特徴とするものである。
強化繊維基材積層体の製造方法は、少なくとも次の工程(A)から(F)を経て製造することを特徴とするものである。
(A)強化繊維基材を所定の形状に裁断する裁断工程。
(B)前記所定の形状に裁断された強化繊維基材を、所定の積層構成に基づいて、順次、平面上に搬送・配置する積層工程。
(C)(B)で得られた積層体を加熱工程へ間欠的に搬送する搬送工程。
(D)搬送された積層体を加熱する加熱工程。
(E)該積層体を、加圧治具の一定面積当たりに有する加圧部の面積割合が、高い領域を1〜10%有する加圧治具を用いて加圧し、強化繊維基材の表面に付着している前記熱可塑性樹脂を含有する樹脂により、加圧部の強化繊維基材同士を厚み方向に接着する加圧接着工程。
(F)該積層体を冷却する冷却工程。
(A)で言うところの強化繊維基材の所定の形状とは、各層の積層角度に強化繊維基材1が繊維配向を有し、一定幅で連続長さを有する形状である。一定幅で連続長さを有する強化繊維基材積層体2を得ることにより、得られた強化繊維基材積層体2を紙管などに巻いて、効率よく保管することができ、後に適用する部材の幅が該強化繊維基材積層体の幅以内である場合、部材の形状に合わせて裁断することにより、あらゆる部材に適用することができるためである。
また(B)で言うところの所定の積層構成とは、該強化繊維基材積層体2を適用する各部材に共通の積層構成であることをいう。共通の積層構成の積層体を製造することにより、より多くの部材に強化繊維基材積層体2を使用することができる。
次に、図4により、本発明の製造装置の一形態を示し、製造方法を説明する。
すなわち、図4では、例として、積層構成[45/0/−45/90]s(ここでSは鏡面対称を意味する)の強化繊維基材積層体2を作製する装置の一例を示す。
(A)の裁断工程における強化繊維基材の裁断は、市販されている自動裁断機を用いることが可能である。
(B)の積層工程においては、裁断した強化繊維基材1を、ロボットアーム9を用いて、コンベア10の所定の位置に搬送、配置することが好ましい。ロボットアーム9の先端には、前記強化繊維基材1を保持できるハンド装置11が取り付けられている。ハンド装置11は、前記強化繊維基材1の品質を損なうことなく、搬送・配置することのできる機能を有していれば、特に限定されない。例えば、真空吸引装置やブロア装置をハンド装置につないで、吸引により前記強化繊維基材1を保持する方式や、ピンにより前記強化繊維基材1を引っかけて保持する方法、及びこれら二つの方法を組み合わせた方法などが適用可能である。
特に真空吸引装置やブロア装置を用いたハンド装置11は、強化繊維基材をピンなどにより引っかけることもなく、強化繊維基材の品質を低下させる懸念がないため、好ましい。
自動裁断機13で裁断された積層角度45°の前記強化繊維基材14をコンベア10の所定の位置に配置した後、コンベア10を稼働させて進行方向に移動させ、先に配置した積層角度45°の前記強化繊維基材14の隣のスペースに同様に積層角度45°の強化繊維基材14を配置していく。その積層角度45°の強化繊維基材14の上に、積層構成に基づき、積層角度0°の強化繊維基材を配置する。0°の強化繊維基材は、裁断することなく、原料のロール12から直接配置、積層するのが好ましい。0°の強化繊維基材を積層した後、同様にコンベア10を稼働させて、45°/0°の強化繊維基材が積層された上に、自動裁断機17によって裁断された−45°の強化繊維基材18を搬送、積層する。以下、同様に自動裁断機15によって裁断された90°の強化繊維基材16、自動裁断機17によって裁断された−45°の強化繊維基材18、0°の強化繊維基材を積層構成に基づいて積層していく。
このように各層を構成する強化繊維基材を配置しては、コンベアで移動するという、間欠的な強化繊維基材の移動を行う。また、移動した先でさらにその上に積層される強化繊維基材を配置するため、ロボットアーム9はコンベア10の進行に伴い、同一の方向に移動することのできるスライダー19の上に設置され、それぞれの強化繊維基材をコンベア上の所定位置に搬送できることが好ましい。
すべての強化繊維基材を1台の自動裁断機により裁断しても構わないが、図5のように複数の自動裁断機を用いてそれぞれの積層角度の強化繊維基材を裁断することにより、裁断工程にかかる時間を短縮することができるため好ましい。
このように所定の積層構成に基づく強化繊維基材を、自動裁断機にて裁断、ロボットアームにて搬送・配置、コンベア10にて移動を繰り返すことにより、自動で且つ精度良く、連続的に強化繊維基材を積層することができるため、好ましい。かかる精度としては、強化繊維基材の配向角度は、±1°以内であることが好ましく、先に配置した強化繊維基材の隣に次の強化繊維基材を配置する場合の隙間は0〜1mmであることが好ましい。
(C)搬送工程においては、(B)の積層工程にて得られた積層体を(D)の加熱工程へ搬送する。図5においては、コンベア10上に配置されている所定の積層構成を有する強化繊維基材積層体2は、コンベア10を間欠的に進行方向に稼働させることにより、オーブン20の中に搬送される。所定の積層構成に積層された積層体は、まだ一体化されていないため、連続長さを有する積層体を、積層角度をずらすことなく持ち運ぶことは困難であり、したがって、コンベア上で強化繊維基材を積層した後、連続的にオーブンに搬送するのが好ましい。かかる手段を採用することにより、積層角度をずらすことなく、加熱工程及び加圧接着工程に移送することができる。
また、(E)の加圧接着工程での接着一体化の前に、コンベア上での移動により、積層角度がずれる懸念のある場合は、端部などをミシンなどにより仮縫いするなどして、仮止めすることも好ましい様態の一つである。仮縫いした場合には、後の加圧接着工程にて、積層体の全面にわたり所定の箇所を接着した後、仮縫いした端部を切り落として除去することにより、本発明の強化繊維基材積層体を得ることができる。
(D)の加熱工程においては、(B)の積層工程にて得られた積層体を、後述する所定の温度において、加熱する。加熱装置としては、強化繊維基材に非接触で加熱することができるため熱風オーブンが好ましい。
図4に記載されているようなオーブン20を用いて、後の加圧接着工程(E)において、接着する範囲を選択的に加熱してもよい。このようなオーブン20を用いて、接着する範囲を選択的に加熱することにより、加熱効率が向上するだけでなく、加熱条件をコントロールしやすく、さらに加熱設備の小型化、コンベア10に併設することが容易などのメリットがあるため、好ましい。また、後述する加圧接着治具21に発熱機能を設ければ、オーブン20を用いなくてもよい。発熱機能のある加圧接着治具21で積層体を直接加熱することにより効率よく加熱することができる。加熱は積層体の加圧接着箇所全体において、均一に加熱されることが好ましい。特に、加圧接着する箇所の厚み方向に均一な温度に加熱する事が好ましい。厚み方向に均一な温度でないと、強化繊維基材1の表面に付着している樹脂8の加熱が均一にならず、厚み方向の接合力にばらつきが生じるため好ましくないのである。ここで均一とは、±5℃以内を意味する。より好ましくは±3℃以内である。測定方法は特に限定するものではないが、積層体の代表的な加熱箇所において、積層体の表層及び積層層間に熱電対を配置し、加熱処理を行い、積層体の過熱状況をモニターすることによって測定することができる。
また加熱する際の所定の温度は、強化繊維基材1の表面に付着している樹脂のガラス転移温度Tgよりも高い温度であることが好ましい。加熱温度を該樹脂のガラス転移温度よりも高くすることにより、樹脂8が軟化するため、(F)の加圧接着工程において、より低圧でより確実に接着することができるため好ましい。より好ましくは、ガラス転移温度Tg+5〜20℃である。
加圧接着工程(E)においては、加圧治具の一定面積当たりに有する加圧部の面積割合が高い領域を1〜10%有する加圧治具を用いて加圧し、強化繊維基材の表面に付着している前記熱可塑性樹脂を含有する樹脂8により、加圧部の強化繊維基材同士を厚み方向に接着させる必要がある。加圧部の面積割合が高い領域として、基材の剥離しやすい箇所に相当するところが好ましく、例えば強化繊維基材の端部領域や基材と基材との継ぎ合わせ部7や後のプリフォーム工程における形状カット箇所に相当する箇所などを挙げることができる。
ここでは、図5を用いて、基材の端部領域を加圧する加圧治具部の面積割合が高い加圧治具の圧着工程の一例を示す。すなわち、図5は、図4で示したオーブン20内に設置されている加圧接着治具21および強化繊維基材積層体2、コンベア10の一断面を示す。
コンベア10上の強化繊維基材積層体2は、コンベア10を稼働させることにより、オーブン内に設置されている加圧接着治具21に搬送される。加圧接着治具21は、接着治具上22と接着治具下23から構成され、加圧接着治具上22は、例えば凸形状の独立した加圧部を有している。加圧部の面積は、強化繊維基材積層体の端部からの幅W(1〜5cm)である端部領域を加圧する加圧治具の一定面積当たりの加圧部の面積割合が、前記端部領域以外を加圧する加圧治具の一定面積あたりの加圧部の面積割合に対して、1.5〜5倍以上であることが好ましい。加圧部24の断面形状は強化繊維基材を傷つけないものが好ましく、球状もしくは角を面取りした矩形状のものが好ましい。加圧部の面積は、あまり大きくし過ぎると層間の自由度が小さくなり皺を防止するような層間のすべりが生じにくくなり、また圧着部の面積を小さくし過ぎると所望の接合力を得るために加圧部を増やす必要があることから、1〜100mm2が好ましく、1〜50mm2であればより好ましい。 また、加圧接着治具21は金属製で発熱機能を有することが好ましい。発熱方法は特に限定するものではないが、加圧接着治具21内に電熱ヒーターもしくは温水もしくは温油ラインを併設するなどの方法が挙げられる。加圧接着治具21を金属製にすることにより、上記発熱方法もしくはオーブン20による昇温効率を向上することができるため好ましい。
また加圧部24は、メンテナンス、加圧条件の変更などの調整をするなどの観点から取り外し可能とすることが好ましい。
(F)冷却工程においては、(D)加熱工程、(E)加圧接着工程にて加熱された各強化繊維基材を接着している接着樹脂を冷却することにより、接着を完了させる。図5においては、オーブン20と巻き取り用のロール25の間に、強化繊維基材積層体を室温にて冷却する冷却用スペース26を設けることにより、室温にて冷却して、接着を完了させた後、巻き取り用のロール25にて巻き取る工程となっている。巻き取り用のロール25は強化繊維基材積層体を巻き取れるものであれば特に限定されるものではなく、適切な径を有する紙管などを用いることができるが、直径が50〜150cmであれば好ましい。また、必要に応じて強化繊維基材積層体を巻き取る前に、積層体の端部を、ミシンなどを用いて縫うことにより、巻き取り時の変形により、強化繊維基材積層体がばらけることを抑制することができる。この場合、必要に応じて縫った端部を取り除くことにより、強化繊維基材積層体は所定の賦形性能を発現させることができる。
また、接着が完了した積層体を巻き取らずに、一定幅のスリット状やプリフォームで使用するカット形状などに裁断し、ストック棚などに保管してもよい。これら(A)〜(F)の各工程を、コンベア10を用いて、連続で行うことにより、連続長さを有する強化繊維基材積層体を製造することができるため好ましい。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明が実施例に記載の発明に限定されるものではない。また、各パラメータの値は、下記する方法により求めたものである。
(1)積層層間の接合力
本文中に記載した方法により求めた。
(2)高接合領域の積層層間における割合
長さ方向に端部から少なくとも10mm以上の距離を有し、幅方向にもっとも多くの試験片を切り出せる箇所において、強化繊維基材積層体2から幅方向にわたり、幅50mm、長さ150mmの試験片を等間隔に切り出し、本文中に記載した測定方法に基づき、幅方向の接合力の分布を求めた。試験片の数を10個以上作成できない幅であった場合は、試験片の数が10個となる大きさの試験片(長さは幅の3倍とする)を作成した。その後、強化繊維基材積層体2の面積を、これらの試験片を用いて上記測定方法に基づき測定した接合力が500〜1000N/m2の試験片(高接合領域5)の数、およびその試験片に含まれる接合部4の分布する密度(すなわち、単位面積あたりに対する接合部の面積または数)を求めた。最後に、高接合領域の積層層間における割合を接合力が500〜1000N/m2の試験片(高接合領域5)の数を、試験片の総数で除して求めた。
(3)樹脂のガラス転移温度
本文中に記載した方法により求めた。
(4)樹脂の付着量
樹脂の付着量を以下のように測定した。まず、強化繊維基材積層体2から強化繊維基材を少なくとも1ply取り出し、該基材を125×125mmに裁断する。切り出したサンプル基材の重量を電子天秤で0.1g単位まで測定し、基材総目付W(g/m2)=W0(g)/(0.125×0.125(m2))を求めた。
次に該サンプル基材を、塩化メチレンを入れた容器に入れ、塩化メチレンに浸漬し、基材に付着している接着樹脂を溶解、除去した。接着樹脂を溶解・除去した後、基材を乾燥機の中で110℃±5℃にて1時間乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却した。冷却した基材を電子天秤にて、重量W1(g)を0.1g単位まで測定し、基材目付F(g/m2)=W1(g)/(0.125×0.125(m2))として求めた。最後に樹脂の付着量を、樹脂の付着量(g/m2)=基材総目付W(g/m2)−基材目付F(g/m2)として求めた。
(5)プリフォームの強化繊維体積率Vpf
試料サイズは300×300mmとし、各実施例に記載のようにプリフォームを作製して、下記のようにプリフォームの強化繊維体積率Vpfを求めた。
強化繊維の密度ρ(g/cm3)は、基材に使用している強化繊維糸条の密度であり、JIS R 7603(1999)のA法に準拠して測定したものである。
プリフォームの厚みt(mm)は、プリフォームを賦形型に配置し、バッグフィルムで密閉して、密閉空間を真空吸引し、プリフォームに大気圧をかけた状態にて、ハイトゲージおよびマイクロメーターを用いて、プリフォームの中心および4隅の厚み計5カ所を0.01mm単位まで測定した。プリフォームの中心の厚みは、上記のプリフォームに大気圧をかけた状態にて、バッグフィルムの上から、プリフォームの中心位置の高さを測定し、予め測定しておいた賦形型の高さおよびバッグフィルムの厚みを差し引くことにより測定した。プリフォームの4隅の厚みは、上記のプリフォームに大気圧をかけた状態にて、マイクロメーターにて、賦形型、プリフォーム、バッグフィルムを合わせた厚みを測定し、予め測定しておいた賦形型の厚みおよびバッグフィルムの厚みを差し引くことにより、測定した。
プリフォームの強化繊維体積率Vpfは、上記方法により測定した基材目付F(g/m2)、基材の積層枚数p(枚)、強化繊維の密度ρ(g/cm3)、プリフォームの厚みt(mm)を用いて、プリフォームの厚みを測定した5個所のVpfをVpf=F×p/ρ/t/10(%)として求め、5カ所の平均値をプリフォームの強化繊維体積率Vpfとして求めた。
(6)FRPの強化繊維体積率Vf
実施例に記載のようにFRPを作製して、下記のようにFRPの強化繊維体積率Vfを求めた。基材目付Fおよび強化繊維の密度ρは上記と同様である。
FRPの厚みt(mm)は、FRPを成形型から脱型した後、マイクロメーターを用いて、エポキシ樹脂の注入口および真空吸引工の周辺および注入口と真空吸引口間の中央の3カ所の厚みを0.01mm単位まで測定した。
FRPの強化繊維体積率Vfは、上記方法により測定した基材目付F(g/m2)、基材の積層枚数p(枚)、強化繊維の密度ρ(g/cm3)、FRPの厚みt(mm)を用いて、Vf=F×p/ρ/t/10 (%)として求めた。
(実施例1)
以下に、強化繊維基材積層体2を使ってプリフォームを作成する場合の実施例を説明する。
まず、引張り強さが5800MPa、引張弾性率が290GPaのフィラメント数が24000本の炭素繊維を用いて、炭素繊維目付200g/m2の基材を製織した。次にこの基材の上面に平均径が120μmでガラス転移温度が70℃の熱可塑性樹脂を含む粒子を接着樹脂として、27g/m2を均一に散布し、200℃に加熱することによって基材の表面に付着させ強化繊維基材1を作製した。
この強化繊維基材1を45°方向、0°方向、−45°方向、90°方向の繊維方向の角度を有する、幅1m、長さ1mの強化繊維基材1に裁断して、45°方向、0°方向、−45°方向、90°方向、90°方向、−45°方向、0°方向、45°方向に順次積層し、積層体を準備した。この積層体をアルミ合金製の平板の上に配置して、雰囲気温度が85℃のオーブンの中に入れて加熱した。また高接合領域5として基材の端部から5cmの領域を端部領域に設定した。
積層体を十分に加熱した後、図5に示すように1つの加圧部24の断面積が1mm2でありかつ、高接合領域5を加圧する加圧部24のピッチは幅方向・長さ方向とも5mmで、低接合領域6を加圧する加圧部24のピッチは幅方向・長さ方向とも20mmである加圧接着治具21を積層体の上に配置して、さらに加圧接着治具21の上に1本の加圧部24にかかる圧力が0.1MPaになるように10分間積層体を加圧し、強化繊維基材1の表面の接着樹脂により強化繊維基材1同士を、厚み方向にわたり部分的に接合した。その後積層体をオーブンから取り出し室温にて放置・冷却して、強化繊維基材の積層体を得た。ここで該積層体の高接合領域5(端部領域)から幅5cm、長さ15cmの試験片を切り出し、接合力を測定したところ、550N/m2であった。
次に、該積層体から幅方向に150mm、長さ方向に1000mmとなるような積層体を切り出し、該積層体をC型の賦形型(幅100mm×長さ800mm×高さ60mm、コーナーR5mm、長手方向の断面:C型)の上に配置し、バギングフィルムにて賦形型とバギングフィルムによって形成されている空間を真空ポンプにて真空吸引して、積層体を賦形型に加圧して賦形した。
積層体を賦形型に加圧した状態でオーブン内に入れ、温度80℃にて2時間の加熱をすることにより、積層体の強化繊維基材間を接合させた後、オーブンから取り出し、室温にて冷却しC型プリフォームを作製したところ、皺のないプリフォームが得られた。プリフォームの強化繊維体積率Vpfを測定したところ、Vpfは53%であった。
(実施例2)
実施例1で作製したプリフォームを成形型に配置して、エポキシ樹脂を注入し、真空バッグ成形を行った。
エポキシ樹脂の注入は、エポキシ樹脂がプリフォーム全体に含浸するまで行い、真空吸引口からエポキシ樹脂が排出された後、注入口を閉じて、エポキシ樹脂の注入を中止した。注入口に真空吸引ラインを繋いで、元の真空吸引口と共に、真空吸引を行い、余分に注入しているエポキシ樹脂の排出を行った。
元の真空吸引口と注入口を新たに真空吸引ラインに繋いで準備した真空吸引口からのエポキシ樹脂の排出は、エポキシ樹脂が含浸されたプリフォームの厚みを測定し、成形後の強化繊維体積率Vfが55%に相当する厚みになるまで行った。エポキシ樹脂が含浸されたプリフォームの厚みの測定は、注入口と真空吸引口の周辺および注入口と真空吸引口間の中央の3カ所を測定した。
エポキシ樹脂を排出した後、プリフォームに含浸したエポキシ樹脂を、温度130℃、2時間にて一次硬化させ、引き続き温度180℃、2時間にて二次硬化させて、真空バッグ成形を行った。
得られたFRPの強化繊維体積率Vfを測定したところ、Vfは56%であった。また該FRPの表面外観を観察した結果、顕著な皺や繊維の蛇行などは認められず、良好な表面品位を有していた。
(比較例1)
端部領域を加圧する加圧部のピッチが20mmである接合治具で加圧する以外は実施例1と同様にして、強化繊維基材の積層体を得た。ここで該積層体の端部領域から幅5cm、長さ15cmの試験片を切り出し、接合力を測定したところ、300N/m2であった
該積層体から幅方向に150mm、長さ方向に1000mmとなるように切り出し、C型の賦形型の上に配置したところ、基材の端部が剥がれてしまい、作業性が悪かった。
(比較例2)
端部領域を加圧する条件を、加熱温度を95℃、加圧時間を15分とした以外は実施例1と同様にして、強化繊維基材の積層体を得た。ここで該積層体の端部領域から幅5cm、長さ15cmの試験片を切り出し、接合力を測定したところ、1200N/m2であった
該積層体から幅方向に150mm、長さ方向に1000mmとなるように切り出し、C型のプリフォームを作製したところ、皺のあるC型のプリフォームとなった。
(実施例3)
実施例1の強化繊維基材1を用いて、強化繊維基材積層体(8ply[45/0/−45/90]s、幅500mm×長さ5000mm)を作成する。
(A)裁断工程において、45°方向、90°方向、−45°方向の基材を自動裁断機で裁断し、(B)の積層工程において、裁断した基材1を、ロボットアームを用いてコンベア10の所定の位置に搬送、配置した。0°基材は原料のロール9から直接配置、積層し、上記積層体(8ply[45/0/−45/90]s、幅500mm×長さ5000mm)を作成した。
(C)搬送工程において、該積層体をコンベアで加熱工程へ搬送した。(D)の加熱工程では、オーブンを使用せずに温水による発熱機能を有する加圧接着治具21を70±5℃に加熱し、該積層体を直接加熱した。積層体を上下の接着治具で直接加熱することにより効率よく積層体を加熱することができた。
(E)加圧接着工程において、図7に示すように幅方向の中心部50mmを高接合領域とし、該領域に相当する加圧部24の断面積を400mm2、断面形状を20mm角の矩形状にし、ピッチを幅方向・長さ方向ともに30mmとした。また低接合領域に相当する加圧部24は断面積を4mm2、形状を2mm角の矩形状にし、ピッチを幅方向10mm、長さ方向40mmとした。
一本の加圧部24の圧力が0.05MPaになるように積層体を5分間加圧し、強化繊維基材1の表面の接着樹脂により強化繊維基材1同士を、厚み方向にわたり部分的に接合した。
その後該積層体を室温にて放置・冷却し、強化繊維基材の積層体2を得た。ここで該積層体の高接合領域5の割合を求めるために、該積層体から幅50mm、長さ150mmの試験片を10個切り出し、接合力を測定したところ、中心部に相当する高接合領域の接合力は900N/m2で、その他9個の接合力は500N/m2未満であった(高接合領域の積層層間における割合は10%)。
次に該積層体2から幅500mm、長さ600mmとなる積層体を8枚切り出し、該積層体8枚をC型の賦形型(幅300mm×長さ700mm×高さ150mm、コーナーR10mm、長手方向の断面:C型、長手方向の曲率半径2000mm)の上に積層し、ラバーシートで賦形型とラバーシートで形成される空間を真空ポンプにて真空吸引して、積層体を賦形型に加圧して賦形した。
次に、該積層体を賦形型に加圧した状態でオーブン内に入れ、温度90℃にて積層体を3時間加熱することにより積層体間を接合させた後、オーブンから取り出し、室温にて冷却しC型プリフォームを作製したところ、皺や繊維の配向のずれのない高品質なプリフォームが得られた。