以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1,2には、本発明に係る流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、マウント本体11を備えており、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が、本体ゴム弾性体16で相互に連結された構造を有している。そして、第一の取付金具12が振動伝達系を構成する一方の部材である図示しない自動車のパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付金具14が振動伝達系を構成する他方の部材である図示しない自動車のボデーに取り付けられることにより、それらパワーユニットと車両ボデーがエンジンマウント10を介して防振連結されるようになっている。
より詳細には、第一の取付金具12は、鉄やアルミニウム合金等で形成されたブロック状の部材であって、本実施形態では、上部が円形ブロック形状とされていると共に、下部が上方に行くに従って次第に大径となる円形ブロック状とされている。また、第一の取付金具12の上端部には、上方に向かって突出する取付ボルト18が一体的に設けられている。
一方、第二の取付金具14は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、第一の取付金具12と同様に鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材とされている。また、上端部には、内フランジ状の段差部20が設けられていると共に、段差部20の内周側端部には上方に向かって延びて次第に拡開するテーパ状部22が一体形成されている。更に、テーパ状部22の上端部には軸直角方向で広がるフランジ状部24が形成されている。
それら第一の取付金具12と第二の取付金具14は、第二の取付金具14のフランジ状部24が設けられた側の開口部側に離隔して、同一中心軸上に配置される。そして、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に本体ゴム弾性体16が介装せしめられて、第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で相互に連結されている。
本体ゴム弾性体16は、厚肉の略円錐台形状を有するゴム弾性体で形成されており、大径側の端部には、端面に開口する半球形状乃至はすり鉢形状の大径凹所26が形成されている。そして、本体ゴム弾性体16の小径側端部には、第一の取付金具12の下端部が挿し込まれて加硫接着されていると共に、本体ゴム弾性体16の大径側端部外周面には、第二の取付金具14のテーパ状部22を含む上端部分が重ね合わされて加硫接着されている。これにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で弾性連結されていると共に、第二の取付金具14の一方の開口部が本体ゴム弾性体16で流体密に閉塞されている。以上により、本実施形態における本体ゴム弾性体16は、第一の取付金具12と第二の取付金具14を一体的に備えた一体加硫成形品として形成されている。
さらに、本体ゴム弾性体16の大径側端部の外周縁部には、軸方向下方に向かって薄肉大径の筒状を有するシールゴム層28が一体形成されている。このシールゴム層28は、第二の取付金具14の内周面に被着形成されており、第二の取付金具14の段差部20よりも下側部分の内周面が、シールゴム層28によって略全面に亘って被覆されている。なお、大径凹所26の開口周縁部において、シールゴム層28よりも内周側には、略軸直角方向に広がる環状の段差面30が形成されている。
また、第二の取付金具14の他方の開口部分には、ダイヤフラム32が配設されている。ダイヤフラム32は、薄肉大径の略円板形状を呈するゴム膜であって、外周部分に軸方向で充分な弛みを有している。また、ダイヤフラム32の中央部分は、外周部分に比して厚肉の円板形状とされた中央当接部34とされている。更に、ダイヤフラム32の外周縁部には、円環形状の固着部36が一体形成されている。
また、ダイヤフラム32に設けられた固着部36には、固定金具38が加硫接着されている。固定金具38は、鉄等で形成された高剛性の部材であって、大径の略円環形状を有しており、固着部36に埋設状態で固着せしめられている。以上のように、本実施形態におけるダイヤフラム32は、固定金具38を一体的に備えた一体加硫成形品として形成されている。
そして、ダイヤフラム32の一体加硫成形品は、第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に取り付けられる。即ち、第二の取付金具14の本体ゴム弾性体16とは反対側の開口部からダイヤフラム32を挿し入れた後に、第二の取付金具14に対して縮径加工を施すことにより、固定金具38を第二の取付金具14の開口部分に嵌着固定させる。これにより、ダイヤフラム32が第二の取付金具14の他方の開口部分を流体密に覆蓋するように取り付けられる。
かかるダイヤフラム32の第二の取付金具14への組付け下では、第二の取付金具14の内周側において、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム32の軸方向対向面間には、外部から隔離されて非圧縮性流体が封入された流体封入領域40が形成されている。なお、流体封入領域40に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、アルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油やそれらの混合液が好適に採用される。また、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得るために、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
また、流体封入領域40には、仕切部材42が収容配置されており、第二の取付金具14で支持されている。仕切部材42は、仕切部材本体44と蓋板金具46を含んで構成されている。
仕切部材本体44は、厚肉の略円板形状を有しており、硬質の合成樹脂やアルミニウム合金等の金属で形成されている。また、仕切部材本体44の径方向中央部分には、下方に向かって開口する円形の中央凹所48が形成されている。更に、仕切部材本体44の径方向中央部分には、上方に向かって突出する小径の中央突起49が一体形成されている。
また、仕切部材本体44の外周縁部には、第一の周溝50が形成されている。第一の周溝50は、仕切部材本体44の外周面に開口せしめられており、仕切部材本体44の外周縁部を周方向に一周弱の所定長さで連続して延びている。更に、仕切部材本体44の径方向中間部分には、凹溝52が形成されている。凹溝52は、仕切部材本体44の上端面に開口せしめられており、中央凹所48と第一の周溝50の径方向間を周方向に一周弱の所定長さで連続して延びている。なお、この凹溝52は、一方の端部が軸直角方向に延びる連通路54を通じて中央凹所48に連通されている。
一方、蓋板金具46は、略円板形状を有する金属製の部材とされている。また、本実施形態の蓋板金具46は、外周部分が段差を介して中央部分よりも軸方向上方に位置せしめられている。更に、蓋板金具46の中央部分には、円形の貫通孔56が形成されている。貫通孔56は、仕切部材本体44に形成された中央突起49の形状に対応する小径の孔とされている。
そして、それら仕切部材本体44と蓋板金具46が相互に組み合わされることにより、本実施形態における仕切部材42が構成されている。即ち、仕切部材本体44の上端面に対して蓋板金具46が重ね合わされると共に、仕切部材本体44に突設された中央突起49を蓋板金具46に貫通形成された貫通孔56に対して嵌め入れることにより、蓋板金具46が仕切部材本体44に対して固定されて、仕切部材42が構成される。
かかる仕切部材42においては、仕切部材本体44と蓋板金具46が、径方向中央部分で相互に密着せしめられて重ね合わされていると共に、外周部分で軸方向に所定距離を隔てて位置せしめられている。そして、仕切部材本体44と蓋板金具46が相互に離隔せしめられた外周部分には、それら仕切部材本体44と蓋板金具46の対向面間を周方向に延びる第二の周溝58が形成されている。この第二の周溝58は、図中において必ずしも明らかではないが、周方向に一周弱の所定長さで連続的に延びている。なお、第二の周溝58の周方向端部間には、仕切部材本体44と一体形成された図示しない隔壁が設けられて、第二の周溝58を周方向で一周弱の長さに仕切っている。
また、仕切部材本体44と蓋板金具46の組付け下において、第一の周溝50の一方の端部と第二の周溝58の一方の端部が、第一の周溝50の一方の端部において仕切部材本体44の上端面に開口する接続窓60を通じて相互に接続されている。これにより、第一の周溝50と第二の周溝58によって周方向に二周弱の所定長さで延びる螺旋状の周溝62が形成されている。
このように仕切部材本体44と蓋板金具46で構成された仕切部材42は、流体封入領域40内に収容配置される。即ち、ダイヤフラム32の第二の取付金具14への取付け前に、仕切部材42が、第二の取付金具14に対して本体ゴム弾性体16を加硫接着された側と反対側の開口部から嵌め入れられる。その後、ダイヤフラム32が同開口部から第二の取付金具14に嵌め入れられて、第二の取付金具14に八方絞り等の縮径加工が施されることにより、仕切部材42とダイヤフラム32が第二の取付金具14に対して嵌着固定される。
かかる仕切部材42とダイヤフラム32の配設下において、仕切部材42の上端面の外周部分が本体ゴム弾性体16の段差面30に圧接されると共に、仕切部材42の下端面の外周部分が固着部36を介して固定金具38に圧接されて、それぞれ流体密にシールされている。更に、仕切部材42の外周面が、シールゴム層28を介して第二の取付金具14に対して流体密に重ね合わされている。これらにより、流体封入領域40が仕切部材42を挟んで軸方向で上下に二分されており、仕切部材42を挟んだ一方の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、本体ゴム弾性体16の弾性変形によって圧力変動が惹起せしめられる受圧室64が形成されていると共に、仕切部材42を挟んだ他方の側には、壁部の一部がダイヤフラム32で構成されて、ダイヤフラム32の弾性変形によって容積変形が許容される平衡室66が形成されている。なお、それら受圧室64と平衡室66には、流体封入領域40に封入された非圧縮性流体がそれぞれ封入されている。
また、仕切部材42の外周縁部に形成された周溝62の外周側開口部が、第二の取付金具14によって流体密に閉塞されている。また、周溝62の一方の端部が蓋板金具46に形成された図示しない連通窓を通じて受圧室64に連通されていると共に、周溝62の他方の端部が仕切部材本体44に形成された連通窓68を通じて平衡室66に連通されている。これらにより、周方向に所定の長さで延びて、受圧室64と平衡室66を相互に連通する流体流路としての第一のオリフィス通路70が、仕切部材42の周溝62を利用して形成されている。
本実施形態では、第一のオリフィス通路70を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、該流体の共振作用に基づいてエンジンシェイク等に相当する10Hz前後の低周波数域の振動に対して有効な防振効果(高減衰効果)が発揮されるようにチューニングされている。
さらに、仕切部材42に形成された凹溝52の開口部が蓋板金具46によって覆蓋されており、凹溝52の一方の端部が蓋板金具46に形成された図示しない連通窓を通じて受圧室64に連通されていると共に、凹溝52の他方の端部が中央凹所48を通じて平衡室66に連通されている。これにより、周方向に所定の長さで延びて、受圧室64と平衡室66を相互に連通する流体流路としての第二のオリフィス通路72が、仕切部材42の凹溝52と中央凹所48を利用して形成されている。
本実施形態では、第二のオリフィス通路72を通じて流動せしめられる流体の共振周波数が、該流体の共振作用に基づいてアイドリング振動等に相当する20〜40Hz前後の中乃至高周波数域の振動に対して有効な防振効果(低動ばね効果)が発揮されるようにチューニングされている。
なお、オリフィス通路70,72のチューニングは、例えば、受圧室64や平衡室66の各壁ばね剛性、即ちそれら各室64,66を単位容積だけ変化させるのに必要な圧力変化量に対応する本体ゴム弾性体16やダイヤフラム32等の各弾性変形量に基づく特性値を考慮しつつ、オリフィス通路70,72の通路長さと通路断面積を調節することによって行うことが可能であり、一般に、オリフィス通路70,72を通じて伝達される圧力変動の位相が変化して略共振状態となる周波数を、当該オリフィス通路70,72のチューニング周波数として把握することが出来る。
かくの如き構造を有する本実施形態に係るマウント本体11は、ブラケット金具74に組み付けられている。ブラケット金具74は、鉄等で形成された高剛性の部材であって、マウント本体11が嵌め入れられる嵌着部76を有している。嵌着部76は、全体として有底円筒形状を有しており、上端部にフランジ部78を有している。また、嵌着部76の外周面には、環状の脚部80が溶接等によって固定されている。この脚部80には、周上の複数箇所において図示しないボルト孔が貫通形成されており、ボルト孔に挿通される同じく図示しない固定用ボルトによって脚部80が車両ボデーに螺着固定されるようになっている。
そして、マウント本体11が、ブラケット金具74の嵌着部76に対して上側開口部から嵌め入れられて、第二の取付金具14が嵌着部76に圧入固定されることにより、マウント本体11がブラケット金具74に嵌着固定されている。なお、本実施形態では、第二の取付金具14の上端に設けられたフランジ状部24が、嵌着部76の上端に設けられたフランジ部78に対して上方から当接せしめられることにより、第二の取付金具14と嵌着部76が相対的に位置決めされるようになっている。
ここにおいて、ブラケット金具74には、アクチュエータ82が配設されている。アクチュエータ82は、マウント本体11の下方に配置されて、嵌着部76の底壁部上に載置されている。より詳細には、アクチュエータ82は電動モータ84を有している。
電動モータ84は、既存の電動機であって、駆動軸としての回転軸86を有している。そして、外部に設けられた電源装置88からの通電によって、回転軸86に回転力が作用せしめられて、回転軸86が中心軸回りで回転駆動せしめられるようになっている。特に本実施形態では、電動モータ84への通電によって回転軸86が一方向に回転駆動せしめられるようになっている。なお、電動モータ84としては、他励直流電動機等の各種公知のモータ(電動機)を採用することが出来る。
また、電動モータ84の回転軸86には、摺接部としてのピン90が貫設されている。ピン90は、小径の円形ロッド形状を有しており、回転軸86を径方向に貫通する小径の円形孔に対して挿通せしめられて、回転軸86に対して接着等の手段で固定されている。なお、ピン90は、回転軸86の径方向で延びており、その両端部分が回転軸86の外周面よりも径方向外側に突出せしめられている。
また、電動モータ84と電源装置88を電気的に接続する回路上には、制御装置92が設けられている。制御装置92は、例えば自動車の走行状態等を検出するセンサ(例えば、公知の速度センサ等)と、該センサの検出結果に応じて電動モータ84への通電と非通電を切り換えて回転軸86の回転と停止を制御する機械的な接点制御装置を含んで構成されている。この制御装置92によって、回転軸86が90°刻みで回転するように制御されている。なお、電動モータ84への通電と非通電を切り換える制御装置92は、従来から公知のものを採用することが出来るため、ここでは説明を省略する。
また、電動モータ84は、支持部材94に取り付けられている。支持部材94は、厚肉の円環形状を有しており、本実施形態では、硬質の合成樹脂で形成されている。更に、支持部材94の上端部に外周側に向かって広がる当接部96が設けられていると共に、当接部96の外周縁部が上方に向かって突出せしめられている。
さらに、支持部材94の内周縁部には、保持筒部98が形成されている。保持筒部98は、略円筒形状であって、支持部材94の内周縁部から上方に向かって延び出している。また、保持筒部98は、その径方向一方向において対向する部分に内周側および上端面に開口する一対の係合切欠部100,100が形成されている。この係合切欠部100は、軸方向に所定の長さで延びる溝状とされており、本実施形態では周方向両側面が相互に平行に広がっている。
そして、電動モータ84の回転軸86が支持部材94の中央孔の中心線上で延びるように、電動モータ84が支持部材94の中央孔に嵌め入れられて固定されている。これにより、保持筒部98の内周側に離隔して回転軸86が位置せしめられている。
また、回転軸86の先端部分には、可動弁体としての弁部材102が被せ付けられている。弁部材102は、円板形状の弁頭部と下方に向かって突出する筒形状の弁軸部とからなる逆向きの略有底円筒形状を有しており、本実施形態では、硬質の合成樹脂で形成することにより軽量化が図られている。更に、弁部材102の上端部には、外周側に向かって広がる押圧フランジ部104が一体形成されている。本実施形態における押圧フランジ部104は、外周縁部が縦断面において略半球形状を呈するように面取りされている。
更にまた、弁部材102の下端部には、径方向一方向で対向する部分から外周側に向かって突出する一対の係合突起106,106が形成されている。係合突起106は、略ブロック状の突起であって、周方向の両端面が相互に平行となっている。また、係合突起106の周方向での幅寸法が、保持筒部98に形成された係合切欠部100の周方向での幅寸法と略等しくされていると共に、係合突起106の軸方向寸法が係合切欠部100の軸方向寸法よりも充分に小さくなっている。
ここにおいて、弁部材102には、カム溝108が形成されている。カム溝108は、筒状とされた弁部材102の周壁部において後述する往復作動方向(軸方向)の中間部分に形成されている。また、カム溝108は、弁部材102における周壁部の内周側に開口する凹溝であって、周方向全周に亘って連続的に形成されている。また、カム溝108は、図3の展開図に示されているように、周方向で周期的に軸方向での形成位置が変化せしめられている。なお、本実施形態におけるカム面は、カム溝108の上下両面(幅方向両側面)によって構成されている。また、有底円筒形状とされた弁部材102において、軸方向に延びる円筒形状を呈する周壁部によって、本実施形態における筒状部が構成されている。
より具体的には、カム溝108において、径方向一方向で対向する部分には、一対の上端保持部109が形成されていると共に、それら一対の上端保持部109が位置せしめられた径方向一方向に対して直交する径方向一方向で対向する部分には、下端保持部110が形成されている。上端保持部109および下端保持部110は、軸直角平面上において周方向に所定の長さで延びる凹溝であって、上端保持部109が下端保持部110よりも軸方向で上方に位置せしめられている。
また、周方向で隣り合う上端保持部109と下端保持部110の間には、傾斜案内部111が形成されており、上端保持部109の周方向端部と下端保持部110の周方向端部が傾斜案内部111によって相互に接続されて、全周に亘って延びるカム溝108がそれら上下端保持部109,110と傾斜案内部111によって形成されている。なお、上述の説明からも明らかなように、本実施形態では、上端保持部109と下端保持部110が、それぞれカム溝108の上下端部に位置せしめられている。また、本実施形態では、上端保持部109および下端保持部110と傾斜案内部111の接続部分が、折れ線を有しないように滑らかに接続されていると共に、傾斜案内部111が上方に向かって凸となるように僅かに湾曲している。
要するに、本実施形態では、径方向で対向する位置(周方向で180°ずれた位置)において、カム溝108が軸方向で同じ高さに位置せしめられている。また、図3において0°と記載された部分において上端保持部109が形成されている場合には、周方向で180°ずれた部分においても上端保持部109が形成されていると共に、周方向で±90°(図3中の90°と270°)ずれた部分において下端保持部110が形成されている。
そして、このようなカム溝108を有する弁部材102は、電動モータ84の回転軸86に対して取り付けられる。即ち、回転軸86に対して弁部材102が上方から被せられて、弁部材102の周壁部が回転軸86の外周側に離隔して回転軸86を取り囲むように位置せしめられる。
さらに、回転軸86に取り付けられたピン90が弁部材102に形成されたカム溝108に対して摺動可能に嵌め込まれる。これにより、回転軸86と弁部材102の連結部分において、ピン90とカム溝108で構成されたカム機構が設けられている。なお、カム溝108の径方向で対向する部分が軸方向の同じ位置(高さ)に形成されていることから、径方向で両側に向かって突出するピン90がカム溝108に対して挿し入れられることにより、弁部材102が回転軸86に対して傾斜することなく同一中心軸上に配置されている。
なお、本実施形態では、例えば、弁部材102がカム溝108よりも上側部分とカム溝108を含んだ下側部分に二分割されており、それら上側部分と下側部分を軸方向に重ね合わせて上側部分と下側部分でピン90を挟み込むことでカム溝108にピン90を挿し入れると共に、上側部分と下側部分の重ね合わせ部分を超音波溶着等の手段によって接着することにより、弁部材102が回転軸86に取り付けられるようになっている。
また、電動モータ84の回転軸86が保持筒部98の内周側に位置せしめられていることにより、弁部材102の弁軸部が保持筒部98に対して挿し入れられる。そこにおいて、図4に示されているように、弁部材102の下端部に一体形成された係合突起106が、保持筒部98に形成された係合切欠部100に対して周方向で位置合わせされており、各係合突起106が各係合切欠部100に嵌め込まれている。そして、係合突起106と係合切欠部100の周方向での係合作用によって、弁部材102が保持筒部98に対して周方向で係止されて相対的に回転不能とされている。即ち、本実施形態においては、弁部材102の弁軸部に対して外挿配置された保持筒部98によりガイド部材が構成されている。また、弁部材102の係合突起106が保持筒部98の係合切欠部100に係止されていることにより、保持筒部98と弁部材102の弁軸部との間において、弁部材102の中心軸回りの回転を制御する回転制限機構が構成されている。
そこにおいて、通電によって電動モータ84で発生する回転駆動力が、ピン90とカム溝108で構成されたカム機構によって往復駆動力に変換されて弁部材102に伝達されるようになっている。そして、電動モータ84への通電を制御することにより、弁部材102を軸方向の所定位置に駆動変位せしめることが出来るようになっている。以下に、弁部材102の軸方向での往復作動について説明する。
先ず、電動モータ84の回転軸86に装着されたピン90が、カム溝108の上端保持部109上に位置せしめられている状態では、弁部材102が駆動方向の下端に位置せしめられるようになっている。この状態では、弁部材102の下端に設けられた係合突起106が、係合切欠部100の軸方向下端面に対して当接せしめられている。
次に、電動モータ84に対して電源装置88から通電されることにより、電動モータ84の回転軸86が回転駆動せしめられる。ここで、電動モータ84への通電が制御装置92によって制御されることにより、電動モータ84の回転軸86は周方向で1/4周ずつ回転せしめられるようになっている。そして、回転軸86が1/4周回転されると、回転軸86の径方向一方向で延びるように設けられたピン90は、カム溝108に沿って周方向に摺動せしめられて、カム溝108の下端保持部110上に位置せしめられる。そこにおいて、回転軸86が軸方向で変位不能とされていることから、回転軸86に固定されたピン90が弁部材102に対して相対的に軸方向下方へ変位せしめられると、弁部材102が軸方向上方に変位駆動せしめられることとなる。
特に本実施形態では、弁部材102の回転が係合突起106と係合切欠部100の係止によって阻止されていることにより、回転軸86の回転駆動によって弁部材102が回転することなく軸方向に駆動変位せしめられるようになっている。
また次に、電動モータ84に対して電源装置88から通電されて、回転軸86が更に1/4周回転せしめられると、ピン90がカム溝108に沿って周方向に変位せしめられて、カム溝108の上端保持部109上に位置せしめられる。これにより、弁部材102が軸方向下方に変位駆動せしめられる。
このように、電動モータ84で発生した回転駆動力は、カム機構によって軸方向での直線的な駆動力に変換されて弁部材102に伝達されるようになっている。そして、電動モータ84の回転軸86を周方向一方向で90°ずつ回転駆動せしめることによって、弁部材102が軸方向上下に往復作動せしめられるようになっている。
かくの如き構造とされたアクチュエータ82は、ブラケット金具74の嵌着部76に対して嵌め入れられて、嵌着部76の底壁部上に載置された状態で固定される。かかるブラケット金具74への装着状態において、マウント本体11がブラケット金具74に対して組み付けられることにより、本実施形態に係るエンジンマウント10が構成されている。
また、エンジンマウント10において、アクチュエータ82は、マウント本体11の下方に位置せしめられており、弁部材102がダイヤフラム32の中央当接部34に対して、軸方向で所定距離を隔てて、或いは、重ね合わされた当接状態で下方に位置せしめられている。
換言すれば、アクチュエータ82は、ダイヤフラム32を挟んで仕切部材42と反対側に位置せしめられており、アクチュエータ82の弁部材102がダイヤフラム32の中央当接部34を挟んで第二のオリフィス通路72の平衡室66側の開口部である中央凹所48に対して対向位置せしめられている。
そして、弁部材102は、軸方向で駆動変位せしめられることによって、ダイヤフラム32の中央当接部34に対して当接或いは離隔せしめられて、中央当接部34が弁部材102の軸方向での往復作動に応じて上下に変位せしめられる。これにより、ダイヤフラム32の中央当接部34は、弁部材102によって、仕切部材42の中央凹所48に対して相対的に接近または離隔せしめられるようになっている。
すなわち、弁部材102が往復作動方向で下端に位置せしめられると、弁部材102がダイヤフラム32の中央当接部34に対して下方に離隔せしめられて、中央当接部34が仕切部材42の下方に離隔位置することで、中央凹所48が平衡室66に開口せしめられる。
一方、弁部材102が往復作動方向で上端に位置せしめられると、中央当接部34が弁部材102によって押圧されて、仕切部材42の下面に押し付けられることにより、中央凹所48の開口部が中央当接部34を介して弁部材102で閉塞されるようになっている。
以上により、弁部材102の往復作動を制御することによって、第二のオリフィス通路72の平衡室66側の開口部である中央凹所48の開口部を、連通状態と閉塞状態に切り換えることが出来るようになっており、第二のオリフィス通路72の連通状態と遮断状態が切り換えられるようになっている。なお、図2からも明らかなように、本実施形態では、弁部材102とダイヤフラム32が非接着で相互に離隔可能とされている。
このような構造とされた自動車用エンジンマウント10は、マウント本体11を構成する第一の取付金具12が、取付ボルト18によって図示しないパワーユニットに取り付けられるようになっていると共に、第二の取付金具14がブラケット金具74を介して図示しない車両ボデーに取り付けられるようになっている。これにより、エンジンマウント10が、パワーユニットと車両ボデーの間に介装されるようになっており、パワーユニットが車両ボデーによって防振支持されるようになっている。
上述の如き構造とされた自動車用エンジンマウント10が自動車に装着されて、走行時に問題となるエンジンシェイク等の低周波数域の振動が入力されると、受圧室64に比較的に大きな圧力変動が生ぜしめられる。そして、受圧室64と平衡室66の間に生ぜしめられる相対的な圧力変動の差により第一のオリフィス通路70を通じての流体の流動量が効果的に確保されて、該流体の共振作用等の流動作用に基づいて、エンジンシェイク等の低周波数域の振動に対して有効な防振効果(高減衰効果)が発揮されるのである。
その際、弁部材102は、図1に示されているように、往復作動方向の上端に位置せしめられており、ダイヤフラム32の中央当接部34を介して第二のオリフィス通路72の平衡室66側開口部に押し付けられている。これにより、第二のオリフィス通路72の平衡室66側の開口部が、流体密に閉塞せしめられて、第二のオリフィス通路72が遮断状態となっている。従って、第二のオリフィス通路72を通じて受圧室64と平衡室66の間で流体が流動して受圧室64内の液圧が平衡室66に逃されるのを防いで、第一のオリフィス通路70を通じての流体流動を効率的に生ぜしめ、流体の流動作用に基づく防振効果を効果的に得ることが出来る。
また、停車時に問題となるアイドリング振動や走行時に問題となる低速こもり音等の中乃至高周波数域の振動の入力では、受圧室64に対して小さな振幅の圧力変動が惹起されることとなる。かかる振動の入力時には、電動モータ84への通電制御により、回転軸86が回転作動せしめられて、図2に示されているように、弁部材102が軸方向下端に駆動変位せしめられるようになっている。
これにより、第二のオリフィス通路72の平衡室66側の開口部が連通状態に切り換えられて、第二のオリフィス通路72によって受圧室64と平衡室66が相互に連通される。そして、受圧室64と平衡室66の間に生ぜしめられる相対的な圧力変動の差により第二のオリフィス通路72を通じての流体の流動量が効果的に確保されて、該流体の共振作用等の流動作用に基づいて、アイドリング時振動等の中乃至高周波数域の振動に対して有効な防振効果(低動ばね効果)が発揮されるのである。
要するに、本実施形態に係る流体封入式防振装置においては、弁部材102の往復作動によって、第二のオリフィス通路72が連通と遮断に制御されて、防振特性が切り換えられるようになっている。なお、図1,図2においては、分かり易さのために、弁部材102の往復作動のストロークが誇張されて示されている。それに伴って、カム溝108の形状、具体的には、例えば、上端保持部109と下端保持部110の軸方向での高さの違いや、それに伴う傾斜案内部111の傾斜角度等も、誇張されて図示されている。
ここにおいて、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10では、通電状態を制御する制御装置92を設けると共に、弁部材102と回転軸86の連結部分において回転軸86の回転駆動力を弁部材102の軸方向駆動力に変換するカム機構を採用することにより、弁部材102が、回転軸86を周方向の一方向で回転駆動させる一般的な電動モータ84によって軸方向両側に向かって駆動変位せしめられるようになっている。従って、比較的に簡単な構造の電動モータ84を用いて、弁部材102を軸方向で上下両側に駆動変位せしめることが出来て、防振特性の切換え制御を実現することが可能となる。
また、ピン90がカム溝108の上端および下端に位置する場合に、ピン90がカム溝108の幅方向壁面への当接によって軸方向で保持されるようになっている。これにより、弁部材102は、ピン90がカム溝108における上端および下端に位置せしめられた場合、換言すれば、弁部材102が往復作動方向で上端および下端に位置せしめられた状態において、回転軸86が静止状態に維持されることにより軸方向で駆動変位不能に保持される。このようなピン90とカム溝108の係合による保持作用によって、電動モータ84への非通電時において、弁部材102の軸方向位置を保持せしめることが出来て、防振特性を安定して維持することが出来る。
特に本実施形態では、カム溝108の上端および下端において、軸直角方向で広がる保持部109,110が形成されている。これにより、ピン90が上端保持部109上および下端保持部110上に位置せしめられることで、ピン90とカム溝108の係合による保持作用がより効果的に発揮されて、弁部材102の往復作動方向上下端での保持をより確実に実現することが出来る。従って、弁部材102の変位によって切り換えられた防振特性をより安定して維持することが出来る。
しかも、電動モータ84への通電を要することなく弁部材102に保持力を及ぼすことが出来るため、切り換えられた防振特性を維持する際に消費される電力を抑えることが出来ると共に、通電状態の連続的な維持による発熱を抑えて、熱による耐久性の低下を防ぐことが出来る。
特に弁部材102が往復作動方向の上端に位置せしめられている場合において、有効な保持力を非通電で容易に得られる構造となっていることから、第二のオリフィス通路72の実質的な遮断状態を確実に維持することが出来て、エンジンシェイク等に相当する低周波数振動の入力時に、目的とする防振性能を実現することが出来る。
しかも、ピン90とカム溝108の係合作用を利用して弁部材102に保持力を及ぼす構造とされたエンジンマウント10では、連続的な通電状態の維持によって第二のオリフィス通路72の遮断状態を維持する場合に比べて、受圧室64内の圧力が第二のオリフィス通路72を通じて弁部材102に及ぼされた場合にも、弁部材102が該圧力に抗して目的とする切換え状態に安定して維持されて、第二のオリフィス通路72の実質的な遮断状態がより確実に実現される。
また、本実施形態では、カム機構を構成するカム面が、カム溝108によって実現されている。それ故、回転軸86の回転駆動によりピン90がカム溝108に沿って周方向に移動せしめられると、弁部材102には、ピン90がカム溝108の幅方向両側壁面に対して当接せしめられることによって、軸方向上向きの力だけでなく、軸方向下向きの力も及ぼされることとなる。従って、弁部材102の上下両側への駆動変位がより効果的に実現され得る。
しかも、ピン90が溝形状のカム溝108に対して挿し入れられた構造であることから、弁部材102が回転軸86に対して相対的に傾動したり、弁部材102が回転軸86から軸方向上方に抜けたりするのを、ピン90とカム溝108の壁面の当接によって防ぐことが出来る。従って、アクチュエータ82の安定した作動を実現して、防振特性の切換えを高精度に且つ安定して行うことが出来る。
また、例えば、リニアモータ等を採用して弁部材102の駆動方向でのストロークを制御する場合に比べて、電動モータ84への供給電圧のぶれに対する弁部材102の駆動変位量の変化が小さく抑えられることから、防振特性の切換えをより高精度に実現することが出来る。
また、本実施形態では、弁部材102の上端部に外周側に広がる押圧フランジ部104が一体形成されている。これにより、弁部材102の上端面の面積が大きく確保されて、ダイヤフラム32の中央当接部34に及ぼされる単位面積当たりの圧力を抑えることが出来る。しかも、押圧フランジ部104の外周面が円弧状の湾曲面とされていることにより、ダイヤフラム32に対して弁部材102による押圧力が及ぼされる際に、押圧力が局所的に集中して作用するのを防ぐことが出来て、ダイヤフラム32の耐久性を向上せしめることが出来る。
次に、図5,6には、本発明の第二の実施形態としての自動車用エンジンマウント112が示されている。このエンジンマウント112は、アクチュエータ114を備えている。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同一の部材乃至部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
より詳細には、アクチュエータ114は、弁部材116を更に備えており、弁部材116の下端面がカム面118で構成されている。カム面118は、径方向一方向で対向する一対の上端保持部120と、それら上端保持部120の対向方向に対して直交する径方向一方向で対向して、上端保持部120よりも軸方向下方に位置せしめられる下端保持部122を有している。これら上端保持部120および下端保持部122は、何れも軸直角方向で広がる平面であって、周方向に所定の長さで延びている。
また、周方向で隣り合う上端保持部120と下端保持部122は、傾斜案内部124によって相互に接続されており、それら上端保持部120と下端保持部122と傾斜案内部124によって、全周に亘って延びるカム面118が構成されている。なお、本実施形態では、上端保持部120および下端保持部122と傾斜案内部124が、接続部分に折れ線を有しないように滑らかに接続されており、傾斜案内部124が軸直角方向に対して傾斜すると共に僅かに湾曲して広がっている。
要するに、本実施形態に係る弁部材116は、前記第一の実施形態に係る弁部材102をカム溝108の上端で切断した場合における切断部よりも上側部分と同様の形状を有している。
このような構造とされた本実施形態に係る弁部材116は、回転軸86に対して取り付けられている。即ち、回転軸86に対して軸方向上方から弁部材116が被せ付けられており、回転軸86に対して直交して延びるピン90がカム面118に対して下方から当接せしめられている。これにより、弁部材116がピン90によって支承されている。
そして、電動モータ84への通電により回転軸86が90°ずつ回転せしめられると、カム面118とピン90によって構成されたカム機構の働きによって、弁部材116が軸方向で上下に駆動変位せしめられる。なお、本実施形態に係る弁部材116は、前記第一の実施形態と同様に上下駆動せしめられることから、ここでは詳細な説明は省略する。
このような構造とされたアクチュエータ114は、前記第一の実施形態におけるアクチュエータ82と同様に、ブラケット金具74に取り付けられると共に、マウント本体11の下方に配設されて、弁部材116がダイヤフラム32の中央当接部34に下方から非接着で重ね合わされる。このようにアクチュエータ114が所定の位置に配設されることにより、本実施形態に係るエンジンマウント112が構成されている。なお、本実施形態では、前記第一の実施形態と同様に、少なくとも弁部材116が軸方向下端に位置せしめられた状態において、弁部材116と中央当接部34が離隔せしめられるようになっている。また、アクチュエータ114のかくの如き配設状態においては、弁部材116の軸方向上方への抜出しが、弁部材116の仕切部材42への間接的な当接によって防がれるようになっている。
そこにおいて、本実施形態に従う構造のエンジンマウント112では、前記第一の実施形態に係るエンジンマウント10と同様に、弁部材116の上下駆動によって、第二のオリフィス通路72の平衡室66側の開口部が開閉制御されて、防振特性が切り換えられるようになっている。これにより、エンジンシェイクに相当する低周波数の振動と、アイドリング時振動に相当する中乃至高周波数の振動の何れが入力された場合にも、有効な防振効果が発揮されるようになっている。
また、本実施形態に係るエンジンマウント112においては、弁部材116の下端面によってカム面が構成されており、弁部材116が回転軸86に固定されたピン90に対して上方から載せられて、ピン90がカム面118に対して当接せしめられることにより、弁部材116が回転軸86に対して組み付けられるようになっている。このような本実施形態に従う構造によれば、弁部材116を回転軸86に対して容易に取り付けることが出来て、生産性の向上を図ることが出来る。
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
例えば、前記第一,第二の実施形態においては、弁部材102,116の支持部材94延いては第二の取付金具14に対する相対的な回転が、係合突起106と係合切欠部100の係止によって阻止されるようになっているが、このような回転制限機構は本発明における必須の構成ではない。具体的には、例えば、可動弁体が充分な質量を有する場合等、摺動突部とカム面の摩擦等によって可動弁体が回転し得ないような場合には、回転制限機構を省略することも出来る。
さらに、前記第一,第二の実施形態においては、回転制限機構が、弁部材102,116側に設けられた係合突起106と、保持筒部98側に設けられた係合切欠部100によって構成されているが、例えば、可動弁体側に下端部および外周面に開口する係合切欠部を形成すると共に、保持筒部側に内周側に向かって突出する係合突起を形成して、それら係合切欠部と係合突起の係止によって回転制限機構が構成されるようになっていても良い。また、前記第一,第二の実施形態の回転制限機構は、何れも弁部材102,116の弁軸部の外周側において形成されていたが、中空構造とした弁部材の弁軸部の内周側に保持筒部を内挿せしめるようにして、かかる保持筒部の外周面と弁軸部の内周面との間に係合突起と係合切欠部とによる係止機構を形成して、回転制限機構を形成してもよい。なお、前記第一,第二の実施形態の如く回転制限機構を弁部材102,116の弁軸部の外周側に形成する場合には、弁部材102,116の弁軸部を中実構造としてもよい。また、弁部材102,116の弁軸部に対して保持筒部を内挿せしめて弁軸部の内周側に回転制限機構を形成する場合には、保持筒部を中実のロッド形状としてもよい。
また、前記第一,第二の実施形態においては、カム溝108およびカム面118が、径方向で対向する一対の上端保持部109と、上端保持部109の対向方向に対して直交する径方向で対向する一対の下端保持部110を有する構造とされており、電動モータ84の回転軸86を90°ずつ回転するように制御することによって、弁部材102,116が上下に変位するようになっている。しかし、これらカム溝108やカム面118は、本発明におけるカム面の一例であって、カム面の具体的な形状等は、前記実施形態に記載の構造によって限定的に解釈されるべきではない。
例えば、軸直角方向に広がってそれぞれ異なる径方向で対向する二対の上端保持部と、それら上端保持部の対向方向とは異なる径方向で対向する二対の下端保持部を周方向で等間隔に、且つ上端保持部と下端保持部が周方向で隣り合うように形成すると共に、隣り合う上端保持部と下端保持部を傾斜案内部で連結することによりカム面を構成する。そして、電動モータの駆動軸を45°ずつ回転させることによって、可動弁体が上下に駆動変位せしめられるようになっていても良い。要するに、制御装置92によって制御される回転軸86の回転量は、特に限定されるものではなく、カム面の形状は回転軸86の回転量等に応じて適当に決定される。
さらに、可動弁体の変位状態での保持を有効に実現するためには、前記第一,第二の実施形態に示されているように保持部が形成されていることが望ましいが、保持部は必須ではない。具体的には、例えば、図7に示されているように、弁部材126の周壁部の展開図において、カム溝128が正弦曲線形状とされて、カム溝128の上端および下端を含む全体が湾曲せしめられていても良い。なお、カム溝128は、一周期でなくても良く、二周期以上の正弦曲線形状とされていても良い。
また、例えば、図8に示されているように、弁部材130の周壁部の展開図において、直線的に延びる複数の傾斜面を連続的に接続して形成されたカム溝132を採用することも出来る。この場合には、カム溝132の上端および下端において傾斜面が接続されており、図8に示されているように、相互に接続される傾斜面は、軸方向に延びてカム溝132の頂点部分を通る直線(図8中の二点鎖線)を挟んで周方向(図8中、左右)の両側に位置せしめられる。なお、上述の如く、カム溝132の頂点部分(上端および下端)は、幾つ形成されていても良い。
また、前記第一,第二の実施形態で示されたカム機構は、あくまでも例示であって、その他にも各種公知のカム機構(カムと従動体によって回転運動を直線運動に変える機構)を採用することができる。以下に、カム機構の具体的な構造について例示する。なお、カム機構は、実施形態および以下の例示によって限定的に解釈されるものではない。
具体的には、例えば、電動モータの駆動軸に取り付けられて駆動軸まわりで回転する平板を設けて、駆動軸と該平板の外周面との距離を周方向で変化させることにより該平板の外周面でカム面を構成し、平板の外周面に対して可動弁体に設けられた摺接部を当接せしめて摺動させることにより、可動弁体を駆動軸と略直交する方向で往復作動せしめるようにした板カムを採用することも出来る。
さらに、例えば、電動モータの駆動軸に対して所定の傾斜角度で取り付けられて電動モータの回転駆動力が伝達されることで回転せしめられる傾斜平板を設けると共に、傾斜平板の一方の面に対して可動弁体に設けられた摺接部を当接せしめて摺動させることにより、駆動軸に対して傾斜せしめられた傾斜平板の回転に伴って、可動弁体を駆動軸の軸方向で往復作動せしめるようにした斜面カムを採用することも出来る。
また、カム面は、必ずしも可動弁体側に設けられていなくても良い。具体的には、例えば、駆動軸の先端部分に円柱形状や円筒形状のカム部を形成して、カム部の先端面に特定形状のカム面を形成したり、カム部の外周面にカム溝を形成することにより、駆動軸側にカム面を設けることも可能である。更に、カム面が駆動軸側に設けられている場合には、摺接部は可動弁体側に設けられる。具体的には、例えば、可動弁体の往復作動方向一方の端部に往復作動方向に対して直交して延びるピン等を摺接部として設けて、該摺接部をカム部に形成されたカム面やカム溝に対して当接せしめて摺動させることにより、カム機構を実現することも出来る。更にまた、駆動軸の先端面に特定形状のカム面を形成すると共に、可動弁体側の駆動軸との接触面に、駆動軸のカム面に特定の回転角度で嵌合するカム面を形成するようにしてもよい。このように駆動軸と可動弁体の接触面の全体でカム面及び摺接部を形成すれば、摩擦応力を接触面の全体に分散させることができ、カム機構の耐久性を向上させることができる。
また、前記第一,第二の実施形態では、電動モータ84として一方向で回転軸86が回転駆動せしめられる構造のものを採用すると共に、機械的な接点制御装置等で構成された制御装置92を設けて、制御装置92によって電動モータ84への通電を制御することにより、弁部材102,116の往復作動を実現しているが、例えば、電動モータとしてサーボモータやステップモータ(駆動軸が所定の回転角ずつ回転駆動せしめられるように制御された電動モータ)等を採用することも出来る。かかるサーボモータ等を用いれば、機械的な接点制御装置を採用することなく、電動モータの回転量、ひいては可動弁体の駆動位置を外部の制御装置でパルス制御することが出来ることから、制御装置の小型化等が可能となる。
また、特に前記第二の実施形態においては、弁部材116に及ぼされる重力の作用によってカム面118とピン90の当接状態が維持されるようになっているが、付勢手段を設けることによってカム面と摺接部を当接方向で積極的に付勢して、それらカム面と摺接部の当接状態を有利に実現することも出来る。
具体的には、例えば、仕切部材42と中央当接部34の対向面間に圧縮コイルスプリングを介装せしめて、圧縮コイルスプリングの反発力によって仕切部材42から離隔する方向である下方に向かって弁部材116を付勢することにより、カム面118とピン90が安定して当接状態に保持されるようにしても良い。また、例えば、電動モータ84と弁部材116の間に引張コイルスプリングを配設して、引張コイルスプリングの弾性力によって弁部材116を電動モータ84側に付勢することで、カム面118がピン90に押し付けられて、それらカム面118とピン90が安定して当接状態に保持されるようにしても良い。
また、このような付勢手段を用いた更に別の具体例として、本発明の別の実施形態を図9に示す。本実施形態の弁部材116は、円板形状の弁頭部131と円筒形状の弁軸部133を備えている。その弁軸部133の外周面上に、付勢手段としての圧縮コイルスプリング134が外挿されており、かかるコイルスプリング134が、弁頭部131と係合突起106との軸方向対向面間に配設されている。なお、コイルスプリング134は、弾性変形により拡径させることが出来るから、係合突起106を乗り越えさせて弁軸部133に外挿装着することが可能である。また、コイルスプリング134の外径寸法は、支持部材94の保持筒部98の内径寸法よりも小さくされており、弁軸部133が保持筒部98に差し入れられた組付状態下において、コイルスプリング134が、保持筒部98に収容状態で、弁軸部133と保持筒部98の径方向対向面間に配設されている。
さらに、支持部材94の保持筒部98の先端開口部には、円環形状のカラー構造とされたスプリング保持部材136が被着固定されている。このスプリング保持部材136は、その外周縁部において保持筒部98に溶着等で固着されており、その内周部分が保持筒部98の開口部分において径方向内方に向かってフランジ状に突出せしめられている。なお、スプリング保持部材136の内径寸法は、弁部材116の弁軸部133の外径寸法よりも僅かに大きくされて、弁部材116の軸方向変位が許容されている。
そして、弁部材116の組付状態下、コイルスプリング134は、その軸方向一方の端部(図9中の下端部)が、係合突起106に当接せしめられていると共に、他方の端部が、保持筒部98の突出先端部にキャップ状に外挿固定されたスプリング保持部材136に当接して保持されている。これにより、コイルスプリング134はスプリング保持部材136のフランジ状部と弁部材116の係合突起106との間で圧縮保持せしめられるようになっており、その結果、コイルスプリング134の弾性力によって弁部材116が電動モータ84側に付勢せしめられて、弁部材116のカム面118がピン90に押し付けられている。これにより、カム面118とピン90とがより安定して当接状態に保持されることとなり、電動モータ84の回転制御に対する弁部材116の開閉動作の応答性も向上され得る。
なお、本実施形態においては、保持筒部98に対してスプリング保持部材136を別途組付けることによりコイルスプリング134を圧縮保持せしめていたが、このような別部材を用いることなく、保持筒部98対してコイルスプリング134の保持部を一体的に形成してもよい。
また、前記実施形態に示されたエンジンマウント10,112等は、本発明に係る流体封入式防振装置の具体例であって、それら実施形態に示されたエンジンマウント10,112等の具体的な構造によって、本発明の適用範囲が限定的に解釈されるべきではない。例えば、本発明は、前記実施形態に例示されている所謂お椀型の流体封入式防振装置だけでなく、インナ軸部材とアウタ筒部材を本体ゴム弾性体で相互に連結すると共に、周方向で離隔する複数の流体室を設けた構造を有する、所謂筒型の流体封入式防振装置等に対しても適用され得る。
また、本発明は、必ずしもエンジンマウントにのみ適用されるものではなく、例えば、メンバマウント等の各種流体封入式防振マウントや、その他の用途に用いられる各種の流体封入式防振装置に適用可能である。
さらに、本発明は、必ずしも自動車用の流体封入式防振装置にのみ適用されるものではなく、例えば、列車用の流体封入式防振装置や、その他各種用途に用いられる切換型の流体封入式防振装置に対しても、好適に適用される。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
10:自動車用エンジンマウント,12:第一の取付金具,14:第二の取付金具,16:本体ゴム弾性体,64:受圧室,66:平衡室,70:第一のオリフィス通路,72:第二のオリフィス通路,84:電動モータ,90:ピン,102:可動弁体,108:カム溝,109:上端保持部,110:下端保持部,118:カム面