(実施形態1)
以下、本実施形態の赤外線センサについて図1を参照しながら説明する。
本実施形態の赤外線センサは、矩形板状のベース基板1と、ベース基板1の一表面側(図1(a)の上面側)に配置され赤外線を吸収するとともに該吸収による温度変化を検知する温度検知部3と、温度検知部3がベース基板1の上記一表面から離間して配置されるように温度検知部3を支持して温度検知部3とベース基板1とを熱絶縁する断熱部4と、ベース基板1の上記一表面上に形成され温度検知部3および断熱部4を透過した赤外線を温度検知部3側へ反射する赤外線反射部6とを有するセンサ本体10を備え、さらに、ベース基板1の上記一表面側において温度検知部3および断熱部4および赤外線反射部6が収納された気密空間15をベース基板1との間に形成した封止部材20を備えている。ここで、本実施形態の赤外線センサは、ベース基板1と封止部材20とでパッケージを構成しており、封止部材20が、ベース基板1との間に気密空間15を形成している。封止部材20の材料としては、赤外線の透過率の高い材料が望ましく、Siを採用しているが、Siに限らず、例えば、Ge,InP,ZnSe,ZnS,Al2O3,CdSeなどを採用してもよい。なお、本実施形態の赤外線センサは、検出対象の赤外線として人体から放射される8μm〜13μmの波長帯の赤外線を想定しており、赤外線反射部6の材料としては、Al−Siを採用している。
ベース基板1は、シリコン基板1aと当該シリコン基板1aの一表面側に形成されたシリコン酸化膜からなる絶縁膜1bとで構成してある。
断熱部4は、ベース基板1の上記一表面から離間して配置されベース基板1側とは反対側に温度検知部3が形成される支持部41と、支持部41とベース基板1とを連結した2つの脚部42,42とを有している。
これに対して、上述の温度検知部3は、断熱部4の脚部42,42に沿って形成された配線8a,8cを介してベース基板1の上記一表面上の金属膜(例えば、Al−Si膜など)からなる導体パターン10a,10cと電気的に接続されている。したがって、導体パターン10a,10cと電気的に接続された配線(例えば、貫通孔配線など)をベース基板1に形成しておくことにより、温度検知部3の出力を外部へ取り出すことができる。
温度検知部3は、温度に応じて電気抵抗値が変化するセンシングエレメントであるサーミスタからなり、支持部41上に形成されたクロム膜からなる下部電極3aと、下部電極3a上に形成されたアモルファスシリコン膜からなる抵抗体層3bと、抵抗体層3b上に形成されたクロム膜からなる上部電極3cとで構成されている。なお、本実施形態では、抵抗体層3bの材料としてアモルファスシリコンを採用しているが、抵抗体層3bの材料はアモルファスシリコンに限らず、例えば、酸化バナジウムなどを採用してもよい。
ここにおいて、温度検知部3は、下部電極3aが一方の脚部42に沿って形成された配線8aを介して一方の導体パターン10aと電気的に接続され、上部電極3cが他方の脚部42に沿って形成された配線8cを介して他方の導体パターン10cと電気的に接続されている。また、本実施形態では、上記一方の配線8aの材料として、下部電極3aと同じクロムを採用し、上記他方の配線8cの材料として、上部電極3cと同じクロムを採用している。
なお、温度検知部3は、温度に応じて電気抵抗値が変化するセンシングエレメントに限らず、温度に応じて誘電率が変化するセンシングエレメント、サーモパイル型のセンシングエレメント、焦電型のセンシングエレメントなどを採用してもよく、いずれのセンシングエレメントを採用した場合でも、材料を適宜選択することで一般的な薄膜形成技術を利用して形成することができる。ここで、温度に応じて誘電率の変化するセンシングエレメントの材料としては、例えば、PZT、BSTなどを採用すればよい。
ところで、センサ本体10は、上述の断熱部4の脚部42,42が、ベース基板1の上記一表面側において導体パターン10a,10c上に立設された円筒状の支持ポスト部42a,42aと、支持ポスト部42a,42aの上端部と支持部41とを連結した梁部42b,42bとで構成されており、支持部41とベース基板1との間に間隙7が形成されている。ここで、各梁部42b,42bは、L字状の平面形状に形成されており、支持部41の厚み方向に沿った中心軸に対して回転対称性を有するように配置されている。なお、上述の配線8a,8cのうち脚部42,42の梁部42b,42bに沿って形成された部位の線幅は、当該配線8a,8cを通した熱伝達を抑制するために梁部42b,42bの幅寸法よりも十分に小さく設定してある。また、配線8a,8cのうち支持ポスト部42a,42aに沿って形成された部位は、支持ポスト部42a,42aの内周面の全体と導体パターン10a,10cの表面とに跨って形成されており、支持ポスト部42a,42aが配線8a,8cにより補強されている。
また、センサ本体10は、断熱部4の脚部42,42および支持部41が多孔質材料により形成されている。ここで、断熱部4の脚部42,42および支持部41の多孔質材料として、多孔質の酸化シリコンの一種であるポーラスシリカを採用しているが、多孔質の酸化シリコン系有機ポリマーの一種であるメチル含有ポリシロキサン、多孔質の酸化シリコン系無機ポリマーの一種であるSi−H含有ポリシロキサン、シリカエアロゲルなどを採用してもよく、多孔質材料として、多孔質の酸化シリコン、多孔質の酸化シリコン系有機ポリマー、多孔質の酸化シリコン系無機ポリマーの群から選択される材料を採用すれば、断熱部4として非多孔質の酸化シリコンを採用する場合に比べて断熱性を向上できる。
ここにおいて、本実施形態における断熱部4は、多孔度が60%のポーラスシリカ膜(多孔質シリコン酸化膜)により構成してあるが、多孔度が小さ過ぎると十分な断熱効果が得られず多孔度が大き過ぎると機械的強度が弱くなって構造形成が困難となるので、ポーラスシリカ膜の多孔度は例えば40%〜80%程度の範囲内で適宜設定することが望ましい。
ここで、2つの脚部42,42合計の熱コンダクタンスGは、脚部42の材料の熱伝導率をα〔W/(m・K)〕、脚部42の長さをL〔μm〕、脚部42の延長方向に直交する断面の断面積をSとすれば、G=2×α×(S/L)で求められるが、仮に、脚部42の材料がSiO2の場合には、α=1.4〔W/(m・K)〕、L=50〔μm〕、S=10〔μm2〕とすれば、熱コンダクタンスGは、
G=2×α×(S/L)=560×10−9〔W/K〕となる。
これに対して、本実施形態のように、脚部42を多孔度が60%のポーラスシリカ膜により構成している場合には、α=0.05〔W/(m・K)〕、L=50〔μm〕、S=10〔μm2〕とすれば、熱コンダクタンスGは、
G=2×α×(S/L)=2.0×10−8〔W/K〕
となり、熱コンダクタンスGを脚部42がシリコン酸化膜により構成される比較例の熱コンダクタンスGの10分の1よりも小さな値とすることができ、脚部42,42を通した熱伝達をより抑制することができ、高感度化を図れる。
また、支持部41の熱容量Cは、支持部41の体積比熱をcv、支持部41の厚み方向に直交する断面の面積をA〔μm2〕、支持部41の厚さをd〔μm〕とすれば、C=cv×A×dで求められる。ここで、仮に、支持部41の材料がSiO2の場合には、cv=1.8×106〔J/(m3・K)〕、A=2500〔μm2〕、d=0.5〔μm〕とすれば、支持部41の熱容量Cは、
C=cv×A×d=22.6×10−10〔J/K〕となる。
これに対して、本実施形態のように、支持部41を多孔度が60%のポーラスシリカ膜により構成している場合には、cv=0.88×106〔J/(m3・K)〕、A=2500〔μm2〕、d=0.5〔μm〕とすれば、支持部41の熱容量Cは、
C=cv×A×d=11.0×10−10〔J/K〕
となり、支持部41の熱容量Cを支持部41がシリコン酸化膜により構成される比較例の場合に比べて半分よりも小さな値とすることができ、時定数が小さくなって応答速度の高速化を図れる。
封止部材20は、シリコン基板を用いて形成されており、センサ本体10側の表面(図1(a)の下面)に上記気密空間15を形成するための凹所20aが形成されており、凹所20aの周部がセンサ本体10のベース基板1と接合されている。ここで、本実施形態では、センサ本体10と封止部材20とを常温接合法により接合してあり、上記気密空間15内を減圧雰囲気としてある。なお、センサ本体10と封止部材20との接合方法は常温接合法に限らず、例えば、Au−Sn共晶を利用した接合法や半田を利用した接合法などを採用してもよい。
以下、センサ本体10の製造方法について図2〜図4を参照しながら説明する。なお、図2〜図4では、図1(a)に示した断面図(図1(b)のA−A’断面)に対応する部位の断面を示してある。
まず、ベース基板1の基礎となる単結晶のシリコン基板(後述のダイシングを行うまではウェハ)1aの一表面側にシリコン酸化膜からなる絶縁膜1bを例えば熱酸化法により形成することによって、図2(a)に示す構造を得る。
その後、シリコン基板1aと絶縁膜1bとからなるベース基板1の一表面側(図2(a)における上面側)の全面に導体パターン10a,10cおよび赤外線反射部6の材料からなる金属膜(例えば、Al−Si膜など)をスパッタ法などにより成膜した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して上記金属膜をパターニングすることでそれぞれ上記金属膜の一部からなる導体パターン10a,10cおよび赤外線反射部6を形成することによって、図2(b)に示す構造を得る。
次に、ベース基板1の上記一表面側の全面にレジストを回転塗布してレジスト層からなる犠牲層51を成膜することによって、図2(c)に示す構造を得る。
その後、犠牲層51のうち各支持ポスト部42a,42aそれぞれの形成予定領域に対応する部位をエッチングして導体パターン10a,10cの一部の表面を露出させる円形状の開孔部53,53を形成することによって、図3(a)に示す構造を得る。
続いて、ベース基板1の上記一表面側の全面に断熱部4の材料である多孔質材料(例えば、ポーラスシリカ、シリカエアロゲルなど)よりなる多孔質膜40を成膜してから、上記一方の導体パターン10aと後で形成する上記一方の配線8aとを電気的に接続するためのコンタクトホール44aを多孔質膜40に形成することによって、図3(b)に示す構造を得る。ここにおいて、多孔質膜40の形成にあたっては、上記多孔質材料がポーラスシリカの場合には、ゾルゲル溶液をベース基板1の上記一表面側に回転塗布してから、熱処理で乾燥させるプロセスを採用することで容易に形成することができ、上記多孔質材料がシリカエアロゲルの場合には、ゾルゲル溶液をベース基板1の上記一表面側に回転塗布してから、超臨界乾燥処理で乾燥させるプロセスを採用することで容易に形成することができる。
その後、ベース基板1の上記一表面側の全面に上記一方の配線8aおよび下部電極3aの基礎となるクロム膜をスパッタ法などにより成膜した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して当該クロム膜をパターニングすることでそれぞれ当該クロム膜の一部からなる上記一方の配線8aおよび下部電極3aを同時に形成することによって、図3(c)に示す構造を得る。
次に、ベース基板1の上記一表面側の全面に抵抗体層3bの基礎となるアモルファスシリコン層をCVD法などにより成膜してから、当該アモルファスシリコン層をパターニングすることで当該アモルファスシリコン層の一部からなる抵抗体層3bを形成することによって、図3(d)に示す構造を得る。
続いて、上記他方の導体パターン10cと後で形成する上記他方の配線8cとを電気的に接続するためのコンタクトホール44cを多孔質膜40に形成することによって、図4(a)に示す構造を得る。
その後、ベース基板1の上記一表面側の全面に上記他方の配線8cおよび上部電極3cの基礎となるクロム膜をスパッタ法などにより成膜した後、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して当該クロム膜をパターニングすることでそれぞれ当該クロム膜の一部からなる上記他方の配線8cおよび上部電極3cを同時に形成することによって、図4(b)に示す構造を得る。
次に、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して多孔質膜40をパターニングすることで多孔質膜40の一部からなる断熱部4を形成し、その後、ベース基板1の上記一表面側の犠牲層51を選択的にエッチング除去することによって、図4(c)に示す構造のセンサ本体10を得る。なお、センサ本体10と封止部材20とは、センサ本体10を複数形成したウェハと封止部材20を複数形成したウェハとを減圧雰囲気中(例えば、真空中)においてウェハレベルで接合してから、個々の赤外線センサに分割すればよい。
以上説明した本実施形態の赤外線センサでは、温度検知部3とベース基板1とを熱絶縁する断熱部4が多孔質材料により形成されているので、断熱部4がSiO2やSi3N4などの非多孔質材料により形成されている場合に比べて、断熱性が向上して感度が高くなるとともに、断熱部4の熱容量を小さくできて応答速度の高速化を図れる。
しかも、本実施形態の赤外線センサは、温度検知部3、断熱部4などが収納された気密空間15を形成した封止部材20を有しているので、ベース基板1と封止部材20とで構成されるパッケージにより気密空間15と外部とを隔離することができ、その結果、温度検知部3および断熱部4に外部からの水分や他の物質が付着するのを防止することができ、多孔質材料からなる断熱部4の熱物性が湿度の影響を受けて変動するのを防止することができるから、耐環境性を高めることができる。また、本実施形態の赤外線センサでは、気密空間15内を減圧雰囲気としてあるので、気密空間15内を大気圧の雰囲気とした場合に比べて、断熱性が向上し、感度がより一層高くなる。
また、本実施形態の赤外線センサでは、ベース基板1の上記一表面側に、温度検知部3および支持部41を透過した赤外線を温度検知部3側へ反射する赤外線反射部6が設けられているので、温度検知部3での赤外線の吸収効率を高めることができ、高感度化を図れる。
(実施形態2)
本実施形態の赤外線センサの基本構成は実施形態1と略同じであり、図5に示すように、センサ本体10の温度検知部3に赤外線を収束させるレンズ30を備えている点が相違する。ここにおいて、レンズ30は、センサ本体10のベース基板1と封止部材20とで構成されるパッケージの外側において封止部材20におけるベース基板1側とは反対側に封止部材20から離間して配置されている。なお、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態におけるレンズ30は、両凸レンズであり、温度検知部3の厚み方向に沿った中心線と光軸が一致するように配置してある。なお、レンズ30は、両凸レンズに限らず、温度検知部3へ赤外線が集光されるレンズ形状であればよく、例えば、平凸レンズでもよい。
レンズ30の材料としては、Siを採用しているが、遠赤外線の透過率が高い材料であればよく、例えば、Ge,InP,ZnSe,ZnS,Al2O3,CdSeなどを採用してもよい。なお、本実施形態では、レンズ30および封止部材20の材料としてSiを採用しており、レンズ30の材料と封止部材20の材料とが同じであるが、互いに異なる材料としてもよい。
以上説明した本実施形態の赤外線センサでは、温度検知部3に赤外線を収束させるレンズ30を備えていることにより、温度検知部3にはレンズ30を通して赤外線が入射することとなる(図5中の一点鎖線はレンズ30を透過して温度検知部3へ入射する赤外線を示している)ので、温度検知部3への赤外線の到達効率を高めることができ(つまり、温度検知部3での受光効率を高めることができ)、感度が向上する。
(実施形態3)
本実施形態の赤外線センサの基本構成は実施形態2と略同じであり、図6に示すように、レンズ30が封止部材20の一部を構成している点が相違する。なお、実施形態2と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態における封止部材20は、シリコン基板を用いて形成されてセンサ本体10におけるベース基板1の上記一表面側に接合されたカバー21と、カバー21の前壁に形成された透光窓22を閉塞する形でカバー21の前面に封着されたレンズ30とで構成されている。なお、カバー21は、ベース基板1側の一表面に凹所21aが形成され、上述の透光窓22が、ベース基板1側とは反対側の他表面と凹所21aの内底面との間の薄肉部の厚み方向に貫設されている。また、レンズ30は、カバー21に取り付けるための環状(本実施形態では、円環状)のフランジ部31が連続一体に形成されており、フランジ部31がカバー21における透光窓22の周部に接合されている。
しかして、本実施形態の赤外線センサでは、実施形態2のようにレンズ30が封止部材20とは別体として封止部材20から離間して配置され、レンズ30の光軸上に封止部材20がある場合に比べて、外部から(パッケージの外側から)の赤外線が温度検知部3に到達するまでに存在する屈折率の異なる媒質どうしの界面の数が減り、当該媒質どうしの屈折率差に起因した赤外線の反射損失を低減でき、温度検知部3への赤外線の到達効率が高くなって感度が向上するという利点がある。すなわち、実施形態2の赤外線センサでは、レンズ30の入射面と当該入射面に接する媒質との界面、レンズ30の出射面と当該出射面に接する媒質との界面、封止部材20の外面と当該外面に接する媒質との界面、封止部材20の内面と当該内面に接する媒質との界面があり、温度検知部3に赤外線が到達するまでに4つの界面が存在するのに対して、本実施形態では、温度検知部3に赤外線が到達するまでにレンズ30の入射面と当該入射面に接する媒質との界面、レンズ30の出射面と当該出射面に接する媒質との界面しか存在しないので、温度検知部3への赤外線の到達効率が高くなり、感度が向上する。
(実施形態4)
本実施形態の赤外線センサの基本構成は実施形態2と略同じであり、図7に示すように、レンズ30が封止部材20に一体に形成されている点が相違する。なお、実施形態2と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態におけるレンズ30は、封止部材20の凹所20aの内底面から温度検知部3に向かって突出する形で封止部材20と連続一体に形成されている。すなわち、レンズ30は、封止部材20と同じ材料(例えば、Si)により形成され温度検知部3側が凸曲面となった平凸レンズにより構成されている。
以下、レンズ30の基本的な形成方法について図8〜図13を参照しながら説明する。
まず、封止部材20およびレンズ30の基礎となるシリコン基板100の一表面側に有機材料からなるレジストをスピンコート法により回転途布してレジスト層101を形成するレジスト層形成工程を行うことによって、図8(a)に示す構造を得る。
レジスト層形成工程の後、レンズ形成用の金型110の凹凸パターンをレジスト層101に転写する転写工程を行うことによって、図8(c)に示す構造を得る。ここにおいて、転写工程では、図8(b)に示すようにレンズ形成用の金型110をレジスト層101にプレスしてからレジスト層101を硬化させ、レジスト層101から金型110を離型する。
転写工程の後、反応性イオンエッチング装置を用いてシリコン基板100の上記一表面側からレジスト層101およびシリコン基板100を異方性エッチングするドライエッチング工程を行う(図8(d)は当該ドライエッチング工程の途中での断面形状を示し、同図中の矢印はイオンの入射方向を示している)ことによって、図8(e)に示す構造のレンズ30を得る。なお、ドライエッチング工程では、エッチングガスとして、例えば、SF6ガスとO2ガスとの混合ガスを採用すればよい。
ところで、上述の金型110としては、シリコン基板200(図10(a)参照)を用いて形成したマスタ(母型)120を基に複製した複製型を利用している。すなわち、図9(a)に示すようにマスタ120を型として用いて電鋳法によってニッケル製の電鋳型130を形成し、その後、図9(b)に示すように電鋳型130を型として用いて電鋳法によってニッケル製の金型110を形成している。
ここで、マスタ120の作製方法の一例について説明する。
まず、マスタ120の基礎となるシリコン基板200の一表面側に有機材料からなるレジストをスピンコート法により回転途布してレジスト層201を形成するレジスト形成工程を行うことによって、図10(a)に示す構造を得る。
その後、レンズ30の所望のレンズ形状に応じて設計した凹凸パターンを形成した金属製(本実施形態では、Ni−P)の構造体からなる型材220の凹凸パターンをレジスト層201に転写する転写工程を行うことによって、図10(d)に示す構造を得る。ここにおいて、転写工程では、図10(b)に示すように型材220とレジスト層201の表面に対向させた後、図10(c)に示すように型材220をレジスト層201にプレスしてからレジスト層201を硬化させ、続いて、図10(d)に示すようにレジスト層201から型材220を離型する。なお、型材220は、型材220の基礎となる金属板230(図11(a)参照)の一表面を図11(b)に示すようにダイヤモンドバイト240により切削加工することによって作製してあり、図12(a),(b)に示すように、四角錘状の山部220aが形成されており、レジスト層201は、図13(a),(b)に示すような凹凸パターンとなる。
上述の転写工程が終了した後、シリコン基板200の上記一表面側からレジスト層201およびシリコン基板200を等方性エッチングあるいは異方性をある程度もったエッチングを行うことで凹凸パターンの曲面形状を制御しながらシリコン基板200の上記一表面に凹凸パターン(本実施形態では、レンズ30の凸曲面に対応する凹曲面120bを有するパターン)を形成するパターン形成工程を行うことによって、図10(f)に示す構造のマスタ120を得る。なお、図10(e)はパターン形成工程の途中での断面形状を示してある。ここにおいて、パターン形成工程では、例えば、エッチング装置として反応性イオンエッチング装置を用い、エッチングガスとして、例えば、SF6ガスやSF6ガスとO2ガスとの混合ガスを採用すればよい。
以上説明した本実施形態の赤外線センサでは、実施形態3のようにレンズ30と封止部材20とが別体であってレンズ30を封止部材20に組み付けている構成に比べて、温度検知部3とレンズ30との相対的な位置ずれの発生が起こりにくくなり、製造歩留まりの向上を図れる。なお、図7に示した例では、レンズ30を封止部材20におけるセンサ本体10側にのみ形成してあるが、封止部材20におけるセンサ本体10側とは反対側にも所望のレンズ形状のレンズを形成してもよい。
(実施形態5)
本実施形態の赤外線センサの基本構成は実施形態4と略同じであり、図14に示すように、レンズ30を当該レンズ30が封止部材20とは反対側で接する媒質の屈折率と封止部材20の屈折率との中間の屈折率を有する材料により形成してある点が相違する。ここで、本実施形態では、封止部材20の材料としてSiを採用し、レンズ30の材料としてSiO2を採用しているが、封止部材20の材料は、実施形態1でも説明したようにSiに限らず、Ge,InP,ZnSe,ZnS,Al2O3,CdSeなどを採用可能なので、レンズ30の材料は封止部材20の材料に応じて適宜選定すればよい。なお、実施形態4と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
ところで、実施形態4のようにレンズ30の材料と封止部材20の材料とが同じでレンズ30が封止部材20に一体に形成されている場合、外部からの赤外線は図15(a)中に実線で示した矢印のように封止部材20およびレンズ30の両方を透過することとなるが、封止部材20の外面(図15(a)における上面)に入射した赤外線の全部が透過するのではなく、図15(a)中に破線の矢印で示したように、封止部材20と当該封止部材20が接する媒質との界面およびレンズ30と当該レンズ30が温度検知部3側で接する媒質との界面それぞれで一部が反射される。ここで、2種類の媒質が接する界面に赤外線が垂直に入射した場合の当該界面での赤外線の反射率は、一方の媒質の屈折率をn1、他方の媒質の屈折率をn2、反射率をRとすると、下記数1で表される。なお、図15(a)中において封止部材20の外面に入射する赤外線を示す矢印に付した「I0」は封止部材20の外面に入射する赤外線の量を示し、他の各矢印に付した「I0(1−R)」、「R・I0」、「I0(1−R)2」、「R・I0(1−R)」はそれぞれ赤外線の量を示している。
ここにおいて、封止部材20の材料およびレンズ30の材料が両方ともSiであり、封止部材20の外面側の媒質およびレンズ30が温度検知部3側で接する媒質の両方とも空気である場合には、Siの屈折率が3.4、空気の屈折率が1なので、各界面での反射率Rはいずれも30%となり(言い換えれば、各界面での赤外線の透過率は70%となり)、封止部材20およびレンズ30それぞれでの赤外線の吸収を無視すれば、温度検知部3に到達する赤外線は封止部材20の外面に入射した赤外線量の約50%となる。
これに対して、本実施形態のようにレンズ30の材料としてSiO2を採用している場合、封止部材20の外面に入射した赤外線は、図15(b)中に破線で示したように、封止部材20と当該封止部材20が接する媒質との界面、封止部材20とレンズ30との界面、レンズ30と当該レンズ30が温度検知部3側で接する媒質との界面それぞれで一部が反射される。しかしながら、SiO2の屈折率が1.5なので、各界面での反射率Rがそれぞれ30%、15%、4%となるので、温度検知部3に到達する赤外線は封止部材20の外面に入射した赤外線量の約57%となる。また、図15(c)に示すように、封止部材20におけるレンズ30側とは反対側に封止部材20の屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率を有する材料(例えば、SiO2など)からなる赤外線透過膜25を形成すれば、温度検知部3への赤外線の到達効率をさらに高めることができる。
以下、レンズ30の形成方法について図16を参照しながら説明するが、実施形態4におけるレンズ30の形成方法と同様の工程については簡単に説明する。
まず、封止部材20の基礎となるシリコン基板100の一表面側に当該シリコン基板100よりも低屈折率の材料(例えば、SiO2)からなりレンズ30の基礎となる中間屈折率層23を形成するとともにシリコン基板100の他表面側に上記赤外線透過膜25となる中間屈折率層24を形成する中間屈折率層形成工程を行うことによって、図16(a)に示す構造を得る。なお、中間屈折率層形成工程では、熱酸化法によってシリコン基板100の各表面それぞれにSiO2膜からなる中間屈折率層23,24を形成している。
その後、シリコン基板100の上記一表面側の中間屈折率層23上に有機材料からなるレジストをスピンコート法により回転途布してレジスト層101を形成するレジスト層形成工程を行うことによって、図16(b)に示す構造を得る。
レジスト層形成工程の後、レンズ形成用の金型110の凹凸パターンをレジスト層101に転写する転写工程を行うことによって、図16(d)に示す構造を得る。ここにおいて、転写工程では、図16(c)に示すようにレンズ形成用の金型110をレジスト層101にプレスしてからレジスト層101を硬化させ、レジスト層101から金型110を離型する。
転写工程の後、反応性イオンエッチング装置を用いてシリコン基板100の上記一表面側からレジスト層101および中間屈折率層23を異方性エッチングするドライエッチング工程を行う(図16(e)は当該ドライエッチング工程の途中での断面形状を示し、同図中の矢印はイオンの入射方向を示している)ことで中間屈折率層23の一部からなるレンズ30を形成することによって、図16(f)に示す構造を得る。なお、ドライエッチング工程では、エッチングガスとして、例えば、SF6ガスとO2ガスとの混合ガスを採用すればよい。
以上説明した本実施形態の赤外線センサでは、レンズ30を、当該レンズ30が封止部材20側とは反対側で接する媒質の屈折率と封止部材20の屈折率との中間の屈折率を有する材料により形成してあるので、レンズ30が封止部材20と同じ屈折率の材料により形成されている場合に比べて、レンズ30と当該レンズ30が接する媒質との屈折率差に起因した赤外線の反射損失を低減でき、温度検知部3への赤外線の到達効率が高くなり、感度が向上する。
(実施形態6)
以下、本実施形態の赤外線センサについて図17を参照しながら説明するが、実施形態1と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
センサ本体10は、温度検知部3に電気的に接続された2つの導体パターン10a,10c(図1参照)がベース基板1の上記一表面側に形成されたパッド10p,10pと電気的に接続されており、温度検知部3の出力を外部へ取り出すことができるようになっている。
実施形態1では、赤外線を透過する材料により形成された封止部材20をセンサ本体10のベース基板1に接合することで気密空間15を形成しているが、本実施形態における封止部材20は、センサ本体10が実装される金属ベース(ステム)26と、センサ本体10を覆うように金属ベース26に封着される金属製のキャップ27と、キャップ27においてセンサ本体10の前方(図17(a)の上方)に位置する前壁に形成された透光窓27bを閉塞する形でキャップ27に封着された平板状の赤外線透過部材28とで構成されている。
ここにおいて、キャップ27および金属ベース26は、鋼板により形成されており、金属ベース26の周部に形成されたフランジ部26cに対して、キャップ27の後端縁から外方に延設された外鍔部27cを溶接により封着してある。
また、赤外線透過部材28の材料としては、例えば、Si,Ge,InP,ZnSe,ZnSなどを採用すればよい。ここにおいて、赤外線透過部材28は、当該赤外線透過部材28の周部をキャップ27における透光窓27bの周部に対して、例えば半田やエポキシ樹脂などにより封着すればよい。
金属ベース26には、センサ本体10のパッド10p,10pとボンディングワイヤ61,61を介して電気的に接続する2本の端子ピン29,29が挿通される2つの端子用孔26a,26aが厚み方向に貫設されており、端子ピン29,29が端子用孔26a,26aに挿通された形で絶縁性を有する封着用のガラスからなる封止部26b,26bにより封着されている。端子ピン29の材料としては、封着合金の一種であるコバールを採用しているが、他の封着合金や封着金属などを採用してもよい。
(実施形態7)
以下、本実施形態の赤外線センサについて図18を参照しながら説明するが、実施形態6と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
実施形態6で説明したセンサ本体10は、ベース基板1の上記一表面側に温度検知部3を1つだけ備えているが、本実施形態におけるセンサ本体10は、ベース基板1の上記一表面側において複数の温度検知部3が2次元アレイ状に配列されており、各温度検知部3とベース基板1とを熱絶縁する複数の断熱部4が設けられている。なお、センサ本体10は、各温度検知部3それぞれに電気的に接続された2つの導体パターン10a,10c(図1参照)がベース基板1の上記一表面側においてそれぞれ異なるバス配線(図示せず)と電気的に接続され、各バス配線がベース基板1の上記一表面側に形成された複数のパッド10pのうちのいずれか1つのパッド10pと電気的に接続されており、各温度検知部3の出力を各別に外部へ取り出すことができるようになっている。ここで、センサ本体10は、複数の温度検知部3が2次元アレイ状に配列されているので、各温度検知部3それぞれを画素とする赤外線画像を得ることができる。
ところで、赤外線透光部材28に、各温度検知部3それぞれに赤外線を収束させる複数のレンズ30(図19(e)参照)を一体に形成してもよい。また、上述の実施形態1〜5の赤外線センサにおいても、センサ本体10として、温度検知部3を2次元アレイ状に配列した構成を採用してもよい。
赤外線透光部材28に複数のレンズ30を一体に形成する形成方法について図19〜図25を参照しながら説明するが、実施形態4におけるレンズ30の形成方法と同様なので適宜説明を省略する。
まず、赤外線透光部材28および各レンズ30の基礎となるシリコン基板100の一表面側にレジスト層101を形成するレジスト層形成工程を行うことによって、図19(a)に示す構造を得る。
レジスト層形成工程の後、レンズ形成用の金型110の凹凸パターンをレジスト層101に転写する転写工程を行うことによって、図19(c)に示す構造を得る。ここにおいて、転写工程では、図19(b)に示すようにレンズ形成用の金型110をレジスト層101にプレスしてからレジスト層101を硬化させ、レジスト層101から金型110を離型する。
転写工程の後、反応性イオンエッチング装置を用いてシリコン基板100の上記一表面側からレジスト層101およびシリコン基板100を異方性エッチングするドライエッチング工程を行う(図19(d)は当該ドライエッチング工程の途中での断面形状を示し、同図中の矢印はイオンの入射方向を示している)ことによって、図19(e)に示す構造のレンズ30を得る。
ところで、上述の金型110としては、シリコン基板200(図21(a)参照)を用いて形成したマスタ(母型)120を基に複製した複製型を利用している。すなわち、図20(a)に示すようにマスタ120を型として用いて電鋳法によってニッケル製の電鋳型130を形成し、その後、図20(b)に示すように電鋳型130を型として用いて電鋳法によってニッケル製の金型110を形成している。
ここで、マスタ120の作製方法の一例について説明する。
まず、マスタ120の基礎となるシリコン基板200の一表面側に有機材料からなるレジストをスピンコート法により回転途布してレジスト層201を形成するレジスト形成工程を行うことによって、図21(a)に示す構造を得る。
その後、各レンズ30の所望のレンズ形状に応じて設計した凹凸パターンを形成した金属製(本実施形態では、Ni−P)の構造体からなる型材220の凹凸パターンをレジスト層201に転写する転写工程を行うことによって、図21(d)に示す構造を得る。ここにおいて、転写工程では、図21(b)に示すように型材220とレジスト層201の表面に対向させた後、図21(c)に示すように型材220をレジスト層201にプレスしてからレジスト層201を硬化させ、続いて、図21(d)に示すようにレジスト層201から型材220を離型する。なお、型材220は、型材220の基礎となる金属板230(図22(a)参照)の一表面を図22(b)に示すようにダイヤモンドバイト240により切削加工することによって作製してあり、図23(a),(b)に示すように、複数の四角錘状の山部220aが2次元アレイ状に配列されており、レジスト層201は、図24(a),(b)に示すような凹凸パターンとなる。
上述の転写工程が終了した後、シリコン基板200の上記一表面側からレジスト層201およびシリコン基板200を等方性エッチングあるいは異方性をある程度もったエッチングを行うことで凹凸パターンの曲面形状を制御しながらシリコン基板200の上記一表面に凹凸パターン(本実施形態では、各レンズ30それぞれの凸曲面に対応する複数の凹曲面120bを有するパターン)を形成するパターン形成工程を行うことによって、図21(f)に示す構造のマスタ120を得る。なお、図21(e)はパターン形成工程の途中での断面形状を示してある。
また、実施形態5と同様、図25(e)に示すように、レンズ30を当該レンズ30が赤外線透過部材28とは反対側で接する媒質の屈折率と赤外線透過部材28の屈折率との中間の屈折率を有する材料により形成することにより、温度検知部3への赤外線の到達効率を高めることができ、さらに赤外線透過部材28におけるレンズ30側とは反対側に赤外線透過部材28の屈折率と空気の屈折率との中間の屈折率を有する材料(例えば、SiO2など)からなる赤外線透過膜25を形成すれば、温度検知部3への赤外線の到達効率をさらに高めることができる。
以下、図25(f)のレンズ30の形成方法について説明するが、実施形態5におけるレンズ30の形成方法と同様の工程については簡単に説明する。
まず、赤外線透光部材28の基礎となるシリコン基板100の一表面側に当該シリコン基板100よりも低屈折率の材料(例えば、SiO2)からなりレンズ30の基礎となる中間屈折率層23を形成するとともにシリコン基板100の他表面側に上記赤外線透過膜25となる中間屈折率層24を形成する中間屈折率層形成工程を行うことによって、図25(a)に示す構造を得る。
その後、シリコン基板100の上記一表面側の中間屈折率層23上にレジスト層101を形成するレジスト層形成工程を行うことによって、図25(b)に示す構造を得る。
レジスト層形成工程の後、レンズ形成用の金型110の凹凸パターンをレジスト層101に転写する転写工程を行うことによって、図25(d)に示す構造を得る。ここにおいて、転写工程では、図25(c)に示すようにレンズ形成用の金型110をレジスト層101にプレスしてからレジスト層101を硬化させ、レジスト層101から金型110を離型する。
転写工程の後、反応性イオンエッチング装置を用いてシリコン基板100の上記一表面側からレジスト層101および中間屈折率層23を異方性エッチングするドライエッチング工程を行う(図25(e)は当該ドライエッチング工程の途中での断面形状を示し、同図中の矢印はイオンの入射方向を示している)ことで中間屈折率層23の一部からなるレンズ30を形成することによって、図25(f)に示す構造を得る。
ところで、上記各実施形態1〜7にて説明した赤外線センサは、支持部41におけるベース基板1側とは反対側に温度検知部3を設けてあるが、温度検知部3は支持部41におけるベース基板1側に設けてもよい。また、上記各実施形態1〜7にて説明した赤外線センサでは、封止部材20の両面に赤外線の反射を防止するARコート(反射防止膜)を設けることにより、赤外線透過効率を向上させることが望ましい。