自動車用変速装置としてトロイダル型無段変速機を使用する事が、例えば特許文献1、2、非特許文献1、2等の多くの刊行物に記載され、且つ、一部で実施されて周知である。又、変速比の変動幅を大きくすべく、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とを組み合わせた無段変速装置も、例えば特許文献3〜6に記載される等により従来から広く知られている。このうちの特許文献3には、トロイダル型無段変速機のみで動力を伝達するモード(低速モード)と、差動機構である遊星歯車式変速機により主動力を伝達し、上記トロイダル型無段変速機により変速比の調節を行なう、所謂パワースプリット状態を実現するモード(高速モード)とを備えた無段変速装置が記載されている。又、上記特許文献4〜6には、入力軸を一方向に回転させたまま、出力軸の回転状態を、停止状態を挟んで正転、逆転に切り換えられる、所謂ギヤードニュートラル状態を実現できるモード(低速モード)を備えた無段変速装置が記載されている。
図12〜13は、特許文献5〜6に記載された、ギヤードニュートラル状態を実現できるモードを備えた無段変速装置を示している。このうちの図12は無段変速装置のブロック図を、図13は、この無段変速装置を制御する油圧回路を、それぞれ示している。エンジン1の出力は、ダンパ2を介して、入力軸3に入力される。この入力軸3に伝達された動力は、直接又はトロイダル型無段変速機4を介して、歯車式の差動機構である遊星歯車式変速機5に伝達される。そして、この遊星歯車式変速機5の構成部材の差動成分が、クラッチ装置6、即ち、図13の低速用、高速用各クラッチ7、8を介して、出力軸9に取り出される。又、上記トロイダル型無段変速機4は、入力側、出力側各ディスク10、11と、複数個のパワーローラ12と、それぞれが支持部材である複数個のトラニオン(図示省略)と、アクチュエータ13(図13)と、押圧装置14と、変速比制御ユニット15とを備える。このうちの入力側、出力側各ディスク10、11は、互いに同心に、且つ相対回転自在に配置されている。
又、上記各パワーローラ12は、互いに対向する上記入力側、出力側各ディスク10、11の内側面同士の間に挟持されて、これら入力側、出力側各ディスク10、11同士の間で動力(トルク)を伝達する。又、上記各トラニオンは、上記各パワーローラ12を回転自在に支持している。又、上記アクチュエータ13は、油圧式のもので、上記各パワーローラ12を支持した上記各トラニオンを、それぞれの両端部に設けた枢軸の軸方向に変位させて、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を変える。又、上記押圧装置14は、油圧式のもので、上記入力側ディスク10と上記出力側ディスク11とを互いに近付く方向に押圧する。又、上記変速比制御ユニット15は、上記入力側ディスク10と出力側ディスク11との間の変速比を所望値にする為に、上記アクチュエータ13の変位方向及び変位量を制御する。
図示の例の場合、上記変速比制御ユニット15は、制御器16と、この制御器16からの制御信号に基づいて切り換えられる、ステッピングモータ17と、ライン圧制御用電磁開閉弁18と、電磁弁19と、シフト用電磁弁20と、これら各部材17〜20により作動状態を切り換えられる制御弁装置21とにより構成している。尚、この制御弁装置21は、変速比制御弁22と、補正シリンダ23と、補正用制御弁24a、24bと、高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26(図13)とを合わせたものである。このうちの変速比制御弁22は、上記アクチュエータ13への油圧の給排を制御するものである。又、上記補正シリンダ23は、前記トロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク)に応じて、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を補正すべく、上記変速比制御弁22の切換状態を調節するものである。又、上記補正用制御弁24a、24bは、上記補正シリンダ23への圧油の給排を制御するものであり、上記電磁弁19の切り換えに応じて切り換えられる。更に、上記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26は、前記低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の導入状態を切り換えるものである。
又、前記ダンパ2部分から取り出した動力により駆動されるオイルポンプ27(図13の27a、27b)から吐出した圧油は、上記制御弁装置21並びに上記押圧装置14に送り込まれる。即ち、油溜28(図13)から吸引されて上記オイルポンプ27a、27bにより吐出された圧油は、押圧力調整弁29及び低圧側調整弁30(図13)により所定圧に調整される。このうちの押圧力調整弁29は、前記アクチュエータ13にピストンを挟んで設けた1対の油圧室同士の間に存在する油圧の差(差圧)に応じた油圧、並びに、前記制御器16からの指令により制御される前記ライン圧制御用電磁開閉弁18の開閉に基づく油圧の導入に基づき、開弁圧を調節される。そして、この様な開弁圧の調節に基づき、上記押圧装置14が発生する押圧力を、運転状況に応じた最適な値に規制する。
又、この様に押圧力調圧弁29により調整された圧油は、前記変速比制御弁22を介して上記アクチュエータ13に送り込まれる他、手動油圧切換弁31並びに減圧弁32、前記高速クラッチ用、低速クラッチ用各切換弁25、26を介して、前記低速用クラッチ7又は高速用クラッチ8の油圧室内に送り込まれる。これら低速用、高速用各クラッチ7、8のうちの低速用クラッチ7は、減速比を大きくする{変速比無限大(ギヤードニュートラル状態=GN状態)を含む}低速モードを実現する際に接続されると共に、減速比を小さくする高速モードを実現する際に接続を断たれる。これに対して、上記高速用クラッチ8は、上記低速モードを実現する際に接続を断たれると共に高速モードを実現する際に接続される。又、これら低速用、高速用各クラッチ7、8への圧油の給排状態は、前記シフト用電磁弁20の切り換えに応じて切り換えられる。
図14は、トロイダル型無段変速機4の変速比(増速比)と無段変速装置全体としての速度比(増速比)との関係の1例を示している。例えば、上記低速用クラッチ7が接続され、上記高速用クラッチ8の接続が断たれた低速モードでは、実線αに示す様に、トロイダル型無段変速機4の変速比を、GN状態を実現できる値(GN値)から減速する程、無段変速装置全体としての速度比を停止状態(速度比0の状態)から前進方向(+:正転方向)に増速させられる。又、同じくGN値から増速する程、同じく停止状態から後退方向(−:逆転方向)に増速させられる。一方、上記高速用クラッチ8が接続され、上記低速用クラッチ7の接続が断たれた高速モードでは、実線βに示す様に、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を増速する程、上記無段変速装置全体としての速度比を(前進方向に)増速させられる。
上述の様な無段変速装置を組み込んだ車両では、アクセルペダルの操作(アクセル開度)や車両の走行速度(車速)から得られる、その時点での車両の走行状態(運転状況)に基づいて、制御器16により、上記無段変速装置の最適な速度比(目標速度比)を求める。そして、この目標速度比を実現すべく、上記制御器16の制御信号に基づきステッピングモータ17を駆動し、変速比制御弁22を切り換える事により、トロイダル型無段変速機4の変速比を、上記目標速度比に対応する目標変速比に調節する。又、これと共に、必要に応じて(無段変速装置の目標速度比に応じて)シフト用電磁弁20を切り換える事により、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換えて、必要な走行モード(低速モード或いは高速モード)を選択する。これらにより、上記無段変速装置の速度比を、その時点での車両の走行状態に応じた最適な値(目標速度比)に調節する。
ところで、トロイダル型無段変速機と遊星歯車式変速機とをクラッチ装置を介して組み合わせて成り、低速モードと高速モードとを有する無段変速装置の場合、上述した様なギヤードニュートラル状態を実現できるものにしても、前記特許文献3に記載されたパワースプリット状態を実現できるものにしても、低速モードと高速モードとの間のモード切換は、次の様に行なわれる。即ち、このモード切換は、その時点での走行状態(に対応する目標速度比)に応じて調節される無段変速装置の速度比が、これら低速モードと高速モードとの両方のモードで実現できる値{図14で低速モードを表す実線αと高速モードを表す実線βとの交点イに対応する値(増速比で0.3程度)}に調節された状態で行なわれる。この場合に、トロイダル型無段変速機4から見れば、上記モード切換は、その時点での走行状態(に対応する目標変速比)に応じて調節されるこのトロイダル型無段変速機4の変速比が、上記交点イに対応する値である、モード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(回転同期点)、増速比で0.4程度(最大減速状態)}に調節された状態で行われる。
例えば、低速モードで走行中であれば、その時点での走行状態(に対応する目標変速比)に応じて上記トロイダル型無段変速機4の変速比が減速し(無段変速装置の速度比が増速し)、モード切換ポイント(例えば増速比で0.4)に達すると、前記制御器16の制御信号に基づいて前記シフト用電磁弁20が切り換えられる。そして、それまで接続を断たれていた高速用クラッチ8が接続されると共に、それまで接続されていた低速用クラッチ7の接続が断たれ、低速モードから高速モードに切り換わる。一方、高速モードで走行中であれば、その時点での走行状態(に対応する目標変速比)に応じて上記トロイダル型無段変速機4の変速比が減速し(無段変速装置の速度比が減速し)、上記モード切換ポイントに達すると、上記制御器16の制御信号に基づいて前記シフト用電磁弁20が切り換えられる。そして、それまで接続を断たれていた上記低速用クラッチ7が接続されると共に、それまで接続されていた上記高速用クラッチ8の接続が断たれ、高速モードから低速モードに切り換わる。
この様にモード切換は、その時点での走行状態に応じて調節される上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、モード切換ポイント(モード切換を行なうべき値)に調節された状態で行なう必要がある。但し、低速モードから高速モードへのモード切換と高速モードから低速モードへのモード切換との両方の切換を、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が上記モード切換ポイント(例えば増速比で0.4)に達した事のみを条件に行なうと、走行状態によっては、上記モード切換が不必要に繰り返される(制御干渉が生じる)可能性がある。例えば、アクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)を或る一定の値に保持したまま低速モードで前進方向に(図14のGN点とイ点との間で)走行している場合に、車両の走行速度(車速)が上昇すると、無段変速装置の速度比を増速させるべく、トロイダル型無段変速機4の目標変速比が減速側(図14の点イ側)に変化する。そして、この目標変速比の変化に基づいて、上記トロイダル型無段変速機4の(実際の)変速比が減速し、上記モード切換ポイント(図14のイ点側)に達すると、低速モードから高速モードに切り換わる。
この様な場合に、例えば平坦路、下り勾配路であれば、上記アクセル開度が一定のまま維持されている為、この様に高速モードに切り換わった後も、上記車両の走行速度が更に上昇し、これと共に無段変速装置の速度比を更に増速させるべく、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が上記モード切換ポイントから増速する(離れていく)。これに対して、例えば上り勾配路であれば、この勾配路の傾斜(勾配量)によっては、高速モードに切り換わった直後に、エンジン(駆動源)から出力される駆動力と車両に加わる走行抵抗{転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗、加速抵抗、制動抵抗等の、車両に加わる走行の妨げとなる力(負荷)の和}とが略同じになり、この車両の走行速度(車速)が略一定の値に維持される可能性がある。この様な場合、上記アクセル開度は一定である為、このアクセル開度と上記車速とから求められる上記目標変速比が、この車速の僅かな変動(増減動)に伴って変動する可能性がある。そして、この様な目標変速比の変動に伴い、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が上記モード切換ポイント近傍で変動し、「低速モード→高速モード」と「高速モード→低速モード」とのモード切換が、不必要に繰り返される(ハンチングが発生する)可能性がある。
又、上り勾配をアクセル開度一定(例えば5%程度)のまま走行中(穏やかに加速中)に、例えば運転者がその時点の車速での定速走行を意図し、アクセルペダルの踏み込みを解除若しくは緩和する場合がある。この様な場合に、このアクセルペダルの踏み込み解除若しくは緩和が、例えば低速モードから高速モードへのモード切換が行なわれた直後であると、車速の上昇の程度によっては、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が上記モード切換ポイント近傍で維持される可能性がある。この様な場合にも、上記高速モードへのモード切換が行なわれた直後にも拘らず、この高速モードから低速モードに再び切り換わる等、不必要にモード切換が繰り返される可能性がある。又、例えば下り勾配路を、低速モードで、且つ、アクセル開度が0%(全閉)乃至は必要に応じて例えば1%(補正値)以下又は未満の状態(アクセルペダルの踏み込みを解除した状態)で、略一定の速度で走行している場合にも、上記トロイダル型無段変速機4の変速比がモード切換ポイント近傍であると、上述した場合と同様に、モード切換が不必要に繰り返される可能性がある。この様な不都合は、モード切り換えを行なうのに最適なトロイダル型無段変速機4の変速比が1点である、即ち、このトロイダル型無段変速機4が実現できる変速比(例えば増速比で0.4〜2.1)のうちで、無段変速装置の速度比を高速モードと低速モードとの両方のモードで同じにできる値(回転同期点、例えば増速比で0.4)が1点のみである事が、原因の1つとなっている。
上述の様なモード切換が不必要に繰り返される事を防止する技術として、例えば特許文献7、8に記載されたものが知られている。このうちの特許文献7には、モード切換を、トロイダル型無段変速機の変速比がモード切り換えを行なうのに最適な値(回転同期点)を超えた状態で行なう技術が記載されている。但し、この様な技術を採用した場合には、例えモード切換が不必要に繰り返される事を防止できたとしても、モード切換時の変速ショックが大きくなる事が避けられない。又、特許文献8には、モード切換時に、低速用、高速用各クラッチを半クラッチ状態にする技術が記載されている。但し、この様な技術を採用した場合には、半クラッチ状態での変速ショックの吸収が温度等によりばらつく為、条件によっては制御が複雑化する可能性がある。
一方、特許文献9には、有段の変速機構を有する(走行中の変速比を無段階に調整できない)有段変速装置で、変速(シフトアップ、シフトダウン)が不必要に繰り返される事を防止する技術が記載されている。即ち、有段変速装置を組み込んだ車両の場合、その時点でのアクセル開度と車速とから最適な変速段(目標変速段)を求め、この変速段に変速(シフトアップ、シフトダウン)する制御が行なわれている。この様な有段変速装置の場合にも、例えば上述した様なモード切換が不必要に繰り返される場合と似た様な走行状態で(アクセル開度が一定で車速が変動する場合等に)、例えば2速と3速との間、或いは3速と4速との間等で、変速(シフトアップ、シフトダウン)が不必要に繰り返される可能性がある。この様な不都合を防止する為に、上記特許文献9には、図15に示す様な、「シフトアップ変速線(実線)」と「シフトダウン変速線(破線)」とを有する変速マップ(シフトアップとシフトダウンとで最適変速段と車速との関係が異なる変速マップ)に基づいて、変速制御を行なう技術が記載されている。この様な技術を採用すれば、例えばシフトアップ後に車速が少し低下した場合でも、直ちにシフトダウンが行なわれず、この車速が或る程度低下するまでその時点の変速段を保持できる。この為、上述した様な車速が変動(増減動)する様な場合でも、変速(シフトアップ、シフトダウン)が不必要に繰り返される事を防止できると考えられる。
但し、上述の図15に示した様な変速マップを使用した場合でも、例えばアクセル開度が小さい状態で、且つ、低速で走行している場合には、上記シフトアップ変速線とシフトダウン変速線との(車速に関する)間隔が小さくなる(例えば図15のh)。この為、この様な状態で走行している場合には、車速の変動に伴って不必要に変速が繰り返される事を、十分に防止する事はできない。又、前述した様な無段変速装置の場合には、アクセル開度と車速とに応じて変速比が無段階に連続的に変速する為、モード切換はこの変速比が基本条件(変速比がモード切換ポイントである事が基本条件)になるのに対して、このモード切換が行なわれる際の車速は無段階に存在する。この為、上述の様な車速との関係で変速を制限する有段変速装置の技術を、無段変速装置のモード切換の条件としてそのまま採用する事はできないと考える。又、採用したとしても、前述した様な不都合を十分に防止する事は難しいと考える。例えば、低速モードから高速モードへモード切換が行なわれた場合に、この切り換えが行なわれた時点の車速を記憶すると共に、この車速に対するオフセット値(例えば「−5km/h」を減じた値)を設定する。そして、この車速がオフセット値にならない限り、上記トロイダル型無段変速機の変速比がモード切換ポイントに達しても、高速モードから低速モードへのモード切換を行なわない様にする事が考えられる。しかしながら、この様な場合には、上記オフセット値を何時リセットするかの条件が必要になる等、制御が複雑化する可能性がある。
特許第2734583号公報
特開平5−39850号公報
特開平10−196759号公報
特開2003−307266号公報
特開2004−225888号公報
特開2004−211836号公報
特開平11−210872号公報
特開2001−235022号公報
特開平6−346953号公報
青山元男著、「別冊ベストカー 赤バッジシリーズ245/クルマの最新メカがわかる本」、株式会社三雄社/株式会社講談社、平成13年12月20日、p.92−93
田中裕久著、「トロイダルCVT」、株式会社コロナ社、2000年7月13日
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1〜4、17に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、トロイダル型無段変速機4(図12参照)の変速比がモード切換ポイント近傍で運転されても、モード切換が頻繁に繰り返される事を防止すべく、このモード切換を許可するか否かの判定を工夫した点にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図12〜13に示した従来構造と同様であるから、重複する説明を省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。尚、本例の場合は、無段変速装置全体としての速度比(増速比)とトロイダル型無段変速機の変速比(増速比)との関係を、図16に示す様に設定している。この様な設定は、例えば遊星歯車式変速機5等の減速比や伝達歯車の歯数比を規制する事により行なう。
本例の場合も、図12〜13に示した従来構造と同様に、制御器16の制御信号に基づいて低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を切り換える事により、減速比を大きくする(ギヤードニュートラル状態を含む)低速モードと、減速比を小さくする高速モードとを実現する。この為に、上記低速用、高速用各クラッチ7、8の断接状態を、上記制御器16の制御信号に基づいて通電状態を制御されるシフト用電磁弁20により、切り換えを自在としている。又、上記制御器16に、入力側、出力側各回転センサ33、34並びに出力軸回転センサ35の検出信号と、アクセルセンサ36の検出信号と、ブレーキスイッチ37の検出信号と、ポジションスイッチ38の検出信号とを入力している。このうちの入力側回転センサ33は、入力側ディスク10の回転速度を、出力側回転センサ34は出力側ディスク11の回転速度を、出力軸回転センサ35は出力軸9の回転速度を、それぞれ測定するものである。そして、これら各センサ33、34、35から測定される各回転速度に基づいて、トロイダル型無段変速機4の変速比、並びに、車両の走行速度(車速)を算出する。又、上記アクセルセンサ36は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するものである。又、上記ブレーキスイッチ37は、サービスブレーキ(常用ブレーキ、例えばフットブレーキ)が操作された事(ブレーキペダルが踏まれた事)を検出して、その事を表す信号を発するものである。又、上記ポジションスイッチ38は、運転席に設けられたシフトレバー(操作レバー、セレクトレバー)の選択位置を表す信号を発するものである。
又、上記各センサ33、34、35、36並びに上記スイッチ37、38からの検出信号が入力される上記制御器16は、少なくとも上記出力軸回転センサ35の出力信号から検出される車両の走行速度(車速)と、上記アクセルセンサ36の出力信号から検出されるアクセル開度とから得られる、その時点での車両の走行状態に基づいて、無段変速装置の目標速度比(その時点での走行状態に応じた最適な速度比)に対応する、トロイダル型無段変速機4の目標変速比を求め、このトロイダル型無段変速機4の変速比(延いては無段変速装置の速度比)を、この目標速度比(目標速度比)に調節する機能(特許請求の範囲に記載した第二の機能)を有する。尚、上記車速並びにアクセル開度(走行状態を表す状態量)と目標速度比(目標変速比)との相関関係は、上記制御器16のメモリに予めマップ(例えば後述する図5に示す様なマップ)や式として記憶させておく。そして、この様なマップ(MAP)や式を用いて、その時点での状態量(車速、アクセル開度等)に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する。又、この様なトロイダル型無段変速機4の変速比(延いては無段変速装置全体としての速度比)の調節は、上記制御器16からの制御信号により、前記ステッピングモータ17を駆動し、前記アクチュエータ13への油圧の給排を切り換えると共に、必要に応じて前記シフト用電磁弁20の切り換えに基づき前記低速用、高速用両クラッチ7、8の断接状態(高速、低速各モード)を切り換える事により行なう。
又、本例の場合は、上記制御器16に、低速モードと高速モードとの間のモード切換を許可するか否かを判定する機能(特許請求の範囲に記載した第一の機能)を持たせている。そして、このモード切換を許可するか否かの判定を、その時点での上記トロイダル型無段変速機4の変速比と、その時点での車両に加わる走行抵抗(転がり抵抗、空気抵抗、勾配抵抗、加速抵抗、制動抵抗等の、車両に加わる走行の妨げとなる力の和)とに基づいて行なう様に構成している。より具体的には、上記第二の機能に基づき上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{例えば最大減速状態(増速比で0.46以下)}に調節されても、その時点での走行抵抗が所定の条件を満たさなければ(モード切換の方向に対応して予め設定した、閾値よりも大きく又は小さくならない限り)、上記モード切換を許可しない様にしている。
尚、この走行抵抗は、その時点でエンジン1から出力される純駆動力(T_ENGINE)と、その時点での車両の走行状態を表す状態量(例えば加速度)から得られる、この走行状態を実現する為に必要と推定される実駆動力(T_VEHICLE )との差から求める事ができる(走行抵抗=T_ENGINE−T_VEHICLE )。このうちの純駆動力(T_ENGINE)は、下記の(1)式から求められる。
T_ENGINE=(Eng ×A×Pme ×F×iCVT ×9.8)/(4π×R)[kgf ] ‐‐- (1)
Eng :エンジン排気量[L:リットル]
A:伝達効率
Pme :正味平均有効圧力[kgf/cm2 ]
F:最終減速比=ファイナルギヤ比
iCVT :無段変速装置全体としての速度比(減速比)=トランスミッションギヤ比
R:タイヤ動荷重半径[m ]
π:円周率
尚、上記伝達効率Aは予め決められた定数である。又、円周率πは3.14を使用できる。又、エンジン排気量Eng 、ファイナルギヤ比F、タイヤ動荷重半径Rは、無段変速装置を組み込む車両に応じて設定する。又、正味平均有効圧力Pme は、例えば搭載エンジン1のカタログ値等に基づいて、当該エンジン1の回転速度(回転数)に対応するマップとして作成し、それを用いて求める事ができる。又、上記正味平均有効圧力Pme を、エンジン1の出力を制御するエンジンコントローラ39(エンジン制御器、エンジンECU)で算出する場合には、その値を使用する(例えば通信により取得する)事もできる。又、上記エンジンコントローラ39から燃料噴射量データを受信し、このデータと、その時点でのエンジン1の回転速度(回転数)とに基づいて算出する事もできる。
又、上記実駆動力(T_VEHICLE )は、その時点での車両の走行状態を実現する為に必要と推定される(走行抵抗込みの)駆動力であり、下記の(2)式から求められる。
T_VEHICLE =W×a/g[kgf ] ‐‐- (2)
W:車両重量[kg]
a:車両加速度[m/s2]
g:重力加速度[m/s2]
尚、上記車両重量Wは、無段変速装置を組み込む車両に応じて設定する他、この車両に設けた荷重センサにより検出する事もできる。又、上記車両加速度aは、車両に設けた加速度センサにより検出する他、その時点での車速の変化速度から推定する事もできる。又、上記重力加速度gは、9.8を使用できる。
上記走行抵抗は、上述の様な純駆動力(T_ENGINE)と実駆動力(T_VEHICLE )との差(T_ENGINE−T_VEHICLE )として求められるが、この様に求められる走行抵抗に基づいて、その時点での車両の走行状態を推定できる。例えば、図2に示す様な、エンジン1の純駆動力(T_ENGINE)と走行抵抗と車速との関係の1例を用いて説明すると、エンジン1の純駆動力(T_ENGINE)が走行抵抗に比べて大きい状態{図2の斜格子部分に相当、実駆動力(T_VEHICLE )が正の値}では、車両が加速(増速)していると推定できる。又、この値が大きい程、加速の程度も大きいと判定できる。一方、上記エンジン1の純駆動力(T_ENGINE)が走行抵抗に比べて小さい状態{図2の梨子地部分に相当、実駆動力(T_VEHICLE )が負の値}では、車両が減速していると推定できる。又、この値が大きい程、減速の程度も大きいと判定できる。又、上記エンジン1の純駆動力(T_ENGINE)と走行抵抗とが釣り合っている状態{交点ロ、実駆動力(T_VEHICLE )が0}では、車両が定速走行していると推定できる。
何れにしても、この様にその時点での車両の走行状態を推定できるので、上記走行抵抗に基づいて、モード切り換えを許可するか否かの判定を行なう。例えば、シフトレバーの選択位置が走行状態(D、Lレンジ)で、且つ、車両が高速モードで走行している状態を考える。この場合に、目標変速比に応じて調節されるトロイダル型無段変速機4の変速比が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{例えば最大減速状態(増速比で0.46以下)}に調節(減速)されると、高速モードから低速モードへのモード切換を許可するか否かの判定を、上記走行抵抗に基づいて行なう。具体的には、予め求めた、図3に示す様な、走行抵抗と、エンジン1の回転速度と、モード切換を許可するか否かの閾値との相関関係を表すマップを用いて、上記走行抵抗がこの閾値(エンジン1の回転速度に応じてその値が変化するチューニング値)よりも大きいか否かにより、上記モード切換を許可するか否かを判定する。即ち、上記走行抵抗が、その時点でのエンジン回転速度に対応する上記閾値よりも大きければ、車両が大きく減速しており、低速モードに切り換えても、その切り換え直後に元の高速モードに切り換えられる可能性は低いと考えられる。この様な場合には、低速モードへのモード切換を許可する。一方、上記走行抵抗が、その時点でのエンジン回転速度に対応する上記閾値以下であれば、車両が大きく減速しておらず、低速モードに切り換えた場合に、その切り換え直後に元の高速モードに切り換えられる可能性が大きいと考えられる。この様な場合には、低速モードへのモード切換を許可しない。
尚、この様に低速モードへのモード切換が許可されない状態では、その時点での走行状態に基づいて求められる、無段変速装置の目標速度比が、現在の高速モードで実現できない値になる可能性がある。この様な場合には、上記目標速度比に拘らず、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を、上記予め設定されたモード切換を行なうべき値{最大減速状態(増速比で0.46以下)}のまま維持する。又、上記目標速度比が現在の高速モードで実現できる値であれば、上記トロイダル型無段変速機4の変速比を、その目標速度比に対応する目標変速比に調節する(現在の高速モードのままその時点の走行状態に応じた変速制御を行なう)。一方、上記低速モードへのモード切換が許可されれば、前記低速用クラッチ7を接続すると共に、前記高速用クラッチ8の接続を断ち、上記低速モードに切り換える。そして、この低速モードに切り換えた状態で、その時点での走行状態に応じた目標速度比(目標変速比)に調節する(低速モードでのその時点の走行状態に応じた変速制御を行なう)。
上述した様な、制御器16が備える、モード切換を許可するか否かの判定を行なう機能(第一の機能)に就いて、図1のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業は、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。
先ず、上記制御器16は、ステップ1で、シフトレバーの選択位置が前進状態(D、Lレンジ)か否かを判定する。この判定は、前記ポジションスイッチ38の検出信号に基づいて行なう。このステップ1で、上記シフトレバーの選択位置が前進状態でない{非走行状態(P、Nレンジ)又は後退状態(Rレンジ)である}と判定された場合には、(後退状態であっても、低速モードのままでモード切換は行なわれないので)そのまま終了すると共に、開始に戻る。一方、このステップ1で、上記シフトレバーの選択位置が前進状態であると判定された場合には、続くステップ2で、車両が走行しているか否か、例えばこの車両の走行速度が1km/hを越えている(現在の車速>1km/h)か否かを判定する。この判定は、例えば車輪の回転速度に比例する前記出力軸9の回転速度を検出する為の、前記出力軸回転センサ35の検出信号に基づいて行なう。このステップ2で、上記車両が走行していない(現在の車速≦1km/h)と判定された場合には、(低速モードのまま、高速モードへの切換は行なわれないので)そのまま終了すると共に、開始に戻る。
一方、このステップ2で、上記車両が走行していると判定された場合には、続くステップ3に進み、現在の走行モードを判定する。具体的には、現在の走行モードが低速モードか否かを判定する。この判定は、前記シフト用電磁弁20の切換状態(を制御する制御器16の制御信号)に基づいて行なう。このステップ3で、現在の走行モードが低速モードであると判定された場合には、ステップ4に進む。このステップ4では、目標変速比に応じて調節されるトロイダル型無段変速機4の現在の変速比(実変速比、eCVU )が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)}に調節されたか否かを判定する。この判定は、例えば、前記入力側、出力側各回転センサ33、34の検出信号に基づいて求められる実変速比(eCVU )が、最大減速状態(例えば増速比で0.46以下、eCVU ≦0.46)になったか否かにより行なう事ができる。尚、上記モード切換ポイント(MP)は、上記トロイダル型無段変速機4の各部の寸法から設計的に求められる最大減速比(例えば0.46)とする事ができる他、この値を、例えばその時点でのトロイダル型無段変速機4を通過するトルク(通過トルク、伝達トルク)の大きさに応じて補正(調整)する(0.46から増速側にずらす、0.46+補正値とする)事もできる。
何れにしても、この様なステップ4で、上記トロイダル型無段変速機4の実変速比(eCVU )が予め設定されたモード切換を行なうべき値(MP)に調節されていない(eCVU >MP)と判定された場合には、終了すると共に、開始に戻る。一方、このステップ4で、モード切換を行なうべき値(MP)に調節されている(eCVU ≦MP)と判定された場合には、低速モードから高速モードへのモード切換を許可する。即ち、ステップ5に進み、前記シフト用電磁弁20を切り換える事により、前記高速用クラッチ8を接続させると共に低速用クラッチ7の接続を断つ。尚、本例の場合は、低速モードから高速モードへのモード切換は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が予め設定されたモード切換を行なうべき値に調節された事のみを条件に許可する。即ち、前述した走行抵抗を用いてモード切換を許可するか否かの判定は行なわない。但し、この走行抵抗と上記トロイダル型無段変速機の変速比とを用いて、低速モードから高速モードへのモード切換を許可するか否かの判定を行なう事もできる。又、他の条件を用いて判定を行なう事もできる。
一方、前記ステップ3で、現在の走行モードが高速モードであると判定された場合には、ステップ6に進む。このステップ6では、目標変速比に応じて調節されるトロイダル型無段変速機4の現在の変速比(実変速比、eCVU )が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)}に調節されたか否かを判定する。この判定は、前述したステップ4と同様にして行なう。この様なステップ6で、上記トロイダル型無段変速機4の実変速比(eCVU )が予め設定されたモード切換を行なうべき値(MP)に調節されていない(eCVU >MP)と判定された場合には、終了すると共に、開始に戻る。一方、このステップ6で、モード切換を行なうべき値(MP)に調節されている(eCVU ≦MP)と判定された場合には、続くステップ7に進み、その時点での走行抵抗が所定の条件を満たしているか否かの判定を行なう。具体的には、前述した走行抵抗が、図3に示す様な、その時点でのエンジン回転速度に対応する閾値(P_PWR 、実線ハ)よりも大きい(走行抵抗>P_PWR )か否かにより、上記判定を行なう。この様なステップ7で、上記走行抵抗が閾値以下(走行抵抗≦P_PWR )であると判定された場合には、高速モードから低速モードへのモード切換を許可せず、終了すると共に、開始に戻る。これに対して、上記走行抵抗が閾値よりも大きい(走行抵抗>P_PWR )と判定された場合には、高速モードから低速モードへのモード切換を許可する。即ち、ステップ8に進み、前記シフト用電磁弁20を切り換える事により、前記低速用クラッチ7を接続させると共に高速用クラッチ8の接続を断つ。
上述の様な本例の場合は、モード切換を許可するか否かの判定を、その時点でのトロイダル型無段変速機4の変速比(実変速比)だけでなく、この変速比と、その時点での走行状態を表す状態量から得られる、走行抵抗とに基づいて行なう。この走行抵抗からは、その時点での走行状態、即ち、車両がどの程度減速、或いは、加速(増速)しているか、又は、定速走行中かを推定できる。そして、この走行抵抗が、予め設定した閾値を超えているか否かにより、現在の走行状態が、モード切換が行なわれた直後に再び元の運転モードに戻る等の、不必要なモード切換が繰り返される可能性が大きいか否かを判定できる。この為、上記トロイダル型無段変速機4の変速比がモード切換ポイントに達した状態でも、上述の様に走行抵抗に基づいてモード切換を許可するか否かの判定をする事により、不必要なモード切換が繰り返される事を防止できる。又、この様な不都合を防止できる構造を、複雑な構成や制御を必要とする事なく、信頼性を確保しつつ廉価に実現できる。
[実施の形態の第2例]
図4〜5は、請求項5〜10、17に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合は、制御器16が行なう、モード切換を許可するか否かの判定を、その時点でのトロイダル型無段変速機4(図12参照)の変速比と、その時点での走行状態に応じて求められる目標変速比とに基づいて行なう様に構成している。より具体的には、この目標変速比に応じて調節される上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)、例えば最大減速状態(増速比で0.46以下)}に調節されても、このモード切換が行なわれたと仮定した場合に於けるその時点の走行状態に対応する目標変速比が、所定の値にならなければ(例えば予め設定した閾値よりも大きく又は小さくならない限り)、モード切換を許可しない様にしている。
本例の場合は、上記トロイダル型無段変速機4の目標変速比を、上記制御器16に予め記憶させた、図5に示す様な変速マップに基づいて求める。この変速マップは、{無段変速装置の出力軸9(図12参照)の回転速度に対応する}車両の走行速度(横軸)と、最適な減速力又は駆動力を得る為に必要な無段変速装置の速度比に対応する上記目標変速比(縦軸)との相関関係を、アクセル開度毎に表したものである。又、このアクセル開度毎にそれぞれ表された、上記車両の走行速度と上記目標変速比との相関関係に対応する各線は、それぞれモード切換ポイントを挟んで低速側(図5の左側)が「低速モード用変速マップ」に、同じく高速側(図5の右側)が「高速モード用変速マップ」に、それぞれ相当する。
この様な本例の場合は、低速用クラッチ7が接続されると共に、高速用クラッチ8(図13参照)の接続を断たれた低速モード状態では、上記低速モード用変速マップを用いて、その時点でのアクセル開度と車両の走行速度とに対応する上記目標変速比を求め、上記トロイダル型無段変速機4の変速比をその目標変速比に調節する。一方、上記高速用クラッチ8が接続されると共に、上記低速用クラッチ7の接続を断たれた高速モード状態では、上記高速モード用変速マップを用いて、その時点でのアクセル開度と車両の走行速度とに対応する上記目標変速比を求め、上記トロイダル型無段変速機4の変速比をその目標変速比に調節する。
上述の様な変速マップを用いてトロイダル型無段変速機の変速比延いては無段変速装置の速度比の変速制御を行なう本例の場合には、モード切換を許可するか否かの判定を、このトロイダル型無段変速機の実変速比と、上記変速マップから求められる目標変速比とに基づいて行なう。即ち、低速モード用、高速モード用各変速マップのうちの、その時点でのモードに対応する変速マップを用いて上記トロイダル型無段変速機4の変速比を調節している状態で、この変速比が予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)、例えば最大減速状態(増速比で0.46以下)}に調節されても、このモード切換が行なわれたと仮定した場合に、モード切換後に採用すべきモード用変速マップを用いて求めたその時点での走行状態に対応する目標変速比が、所定の値にならなければ{例えばモード切換ポイント(MP)よりも増速側の値、例えば増速比で0.58よりも大きくならない限り}、モード切換を許可しない様にしている。
この様に構成する本例の場合も、図4のステップ3〜5に示す様に、低速モードから高速モードへのモード切換は、前述した第1例と同様に、トロイダル型無段変速機4の変速比が予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)、例えば最大減速状態(増速比で0.46以下)}に調節された事のみを条件に許可する。これに対して、上記高速モードから上記低速モードへのモード切換は、ステップ6で、高速モード用変速マップを用いて調節される、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、予め設定されたモード切換を行なうべき値(例えば増速比で0.46以下)に調節されたと判定されても、目標変速比が所定の値にならければ許可しない。即ち、ステップ7に示す様に、低速モード用変速マップから求められるその時点での走行状態に対応する目標変速比が、所定の値に(例えば増速比で0.58よりも大きく)ならない限り(言い換えれば、現在の駆動力が目標駆動力よりも低下しない限り)、上記高速モードから低速モードへのモード切換を許可しない(ステップ8に進まない)。尚、上記所定値は、予め実験、シミュレーション等により求めた最適な値に設定しておく他、その時点の走行状態に応じてその値を調節するチューニング値とする事もできる。
その他の構成及び作用は、前述した第1例と同様である(ステップ7以外、第1例の図1に示したフローチャートと同じ作業を行なう)から、重複する説明は省略する。
[実施の形態の第3例]
図6は、請求項16、17に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。上述した第2例の場合は、目標変速比が所定の条件を満たさない限り{目標変速比がモード切換ポイント(例えば増速比で0.46)から或る程度増速側の値(例えば増速比で0.58)にならない限り}、モード切換を許可しない様に構成している。この様な第2例の場合、モード切換が不必要に繰り返される事を十分に防止する事ができるが、運転者の操作状況と路面状況とによっては、この運転者の意図しないモード切換(高速モードから低速モードへのモード切換)が行なわれ、この運転者に違和感を与える可能性がある。即ち、例えば、高速モードで{アクセル開度小さめ(例えば5〜10%程度)で}走行中に、運転者が定速走行を意図すべく、アクセルペダルの踏み込みを解除若しくは緩めた状態を考える。この様な場合に、例えば平坦路や下り坂等、車両の走行速度が低下しない様な路面状態であれば、トロイダル型無段変速機4の変速比がモード切換を行なうべき値(モード切換ポイント、MP)近傍の状態でも、上記目標変速比がそれ程変化しない(0.58以上にならない)為、高速モードから低速モードへのモード切換は行なわれない(モード切換が不必要に繰り返される事を防止できる)。
但し、例えば上り勾配路等、路面状態によって車両の走行速度が低下してしまう様な場合には、この速度低下に伴い上記目標変速比が所定の条件を満たしてしまい(0.58以上になり)、高速モードから低速モードへのモード切換が行なわる可能性がある。この様な場合には、上記運転者は定速走行を意図している為、このモード切換が違和感を与える可能性がある。この様なモード切換が行なわれる場合に、例えば上記運転者がアクセルペダルを少しでも(例えば1%以上)踏み続けていれば、運転者に加速の意思があると考えられる為、例え上述の様な高速モードから低速モードへのモード切換が行なわれても、違和感とはなりにくい(加速に必要なシフトダウンと感じられる)。一方、例えば低速モードから高速モードへモード切換が行なわれた直後にアクセルペダルの踏み込みを(完全に)解除(開放)した場合には、上述の様な車両の速度(車速)の低下に伴うモード切換(高速モード→低速モード)が行なわれると、上記運転者に違和感を与えると共に、定速走行の妨げとなる可能性がある。この様な不都合が生じる状態を、図7を用いて、より詳しく説明する。
この図7は、モード切換ポイント近傍(例えば図5のA部に相当)に於ける、アクセル開度が0%の低速モード用、高速モード用各変速マップ(実線αL 、αH )、並びに、アクセル開度が5%の低速モード用、高速モード用各変速マップ(鎖線βL 、βH )の1例を示している。例えば、低速モードで、且つ、アクセル開度を5%としたまま走行中(緩やかに加速中)に、例えば車速が20Km/hに達すると、上記低速モード用変速マップ(実線βL )に応じて調節される上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、モード切換ポイント(図7のa点)に達し、低速モードから高速モードへのモード切換が行なわれる。そして、このモード切換直後にアクセルペダルの踏み込みが完全に解除された場合を考える。この場合には、アクセル開度が0%の低速モード用変速マップ(実線αL )から得られる目標変速比が、例えば増速比で0.58(図7のb点)よりも大きくならなければ、高速モードから低速モードへのモード切換は行なわれない。但し、上述した様にアクセルペダルの解除後に車速が低下する場合には、この車速が、上記増速比で0.58(図7のb点)に対応する車速(例えば19Km/h)に直ぐに達し、高速モードから低速モードにモード切換が行なわれてしまう可能性がある。
この様な不都合を防止すべく、アクセル開度が0%乃至は少ない場合の、車速変化による目標変速比の変化量を小さくする、即ち、図7のa点とb点との、車速に関する間隔kを大きくする(ヒステリシスを大きくする)事が考えられる。より具体的には、アクセル開度が0%の低速モード用変速マップを、例えば図7の破線γに変更する事が考えられる。但し、この様な場合には、上述の様な高速モードから低速モードへのモード切換が行なわれる事を防止できても、低速モードで加速中のモード切換のタイミングが遅れる等、好ましくない影響を及ぼす可能性がある。又、アクセル開度が0%の場合に、加速時と減速時とでそれぞれ別の低速モード用変速マップを用いる事も考えられるが、制御が複雑化する可能性がある。
これに対して、本例の場合には、上述の様な不都合を防止すべく、高速モードから低速モードへのモード切換を許可するか否かの判定を、その時点でのトロイダル型無段変速機4の変速比と、アクセル開度(アクセルペダルの踏み込み)と、制動装置(ブレーキ装置)の作動状況(サービスブレーキの作動状況、ブレーキペダルの踏み込み状況)と、車両の走行速度とに基づいて行なう様に構成している。より具体的には、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、予め設定されたモード切換を行なうべき値(モード切換ポイント、MP、例えば増速比で0.46以下)に調節されても、上記アクセル開度が0%{乃至は例えば1%(補正値)以下又は未満}であり(アクセルペダルの踏み込みが解除されており)、上記制動装置が作動していない(サービスブレーキが作動していない、ブレーキペダルの踏み込みが解除されている)場合には、上記車両の走行速度が所定の値(P_SPD )にならなければ(例えば17Km/hよりも小さくならない限り)、上記高速モードから低速モードへのモード切換を許可しない様にしている。言い換えれば、上記アクセルペダルの踏み込みが解除されているが、運転者がブレーキペダルを踏み込んでまで減速を意図してないと考えられる場合には、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が予め設定されたモード切換を行なうべき値(例えば増速比で0.46以下)に調節されても、上記車速が所定の値(例えば17Km/h)にならなければ、上記高速モードから上記低速モードへのモード切換を許可しない様にしている。
尚、上記アクセル開度が0%{乃至は例えば1%(補正値)以下又は未満}でない(アクセルペダルが踏み込まれている)、或いは、上記制動装置が作動していない(ブレーキペダルが踏み込まれている)場合には、例えば前述の第1例或いは第2例と同様に、その時点での走行抵抗又は目標変速比に基づいて、モード切換を許可するか否かの判定を行なう。又、上記モード切換の判定を行なう為の走行速度の所定値(P_SPD )は、例えばアクセル開度0%時の高速モードから低速モードへのモード切り換えを行なう値乃至はその閾値(例えば増速比で0.46〜0.58)に対応する車速(例えば19〜20Km/h)よりも小さい値で、且つ、上記トロイダル型無段変速機4の変速比がモード切換ポイント(MP)でも、エンジン回転がノッキング現象(回転不安定状態)を生じる事のない車速の範囲内で設定する。又、上記所定値(P_SPD )は、その時点での車両状況(急/緩減速中、減速加速度の大小、油温高低、変速モード等)によって調節する事もできる。
この様な本例の特徴となる、高速モードから低速モードへのモード切換を許可するか否かの判定作業に就いて、図6のフローチャートを用いて説明する。尚、この図6のフローチャートでは、前述の第1例及び第2例の図1、4に示したフローチャートと同じ作業を行なうステップには、この図1、4と同じステップ数を付している。この為、同じステップ数を付している部分に就いての説明を省略すると共に、以下、本例の特徴となる作業(図6の破線で囲まれた部分、主にステップ9〜11)に就いて説明する。
ステップ3で、現在の走行モードが高速モードと判定され、ステップ6で、目標変速比に応じて調節されるトロイダル型無段変速機4の現在の変速比(実変速比、eCVU )が、予め設定されたモード切換ポイント(例えば増速比で0.46)以下に調節されたと判定されると、ステップ9に進む。このステップ9では、アクセル開度が0%(ACCEL =0%){乃至は例えば1%(補正値)未満(ACCEL <1%)}である(アクセルペダルの踏み込みが解除されている)か否かを判定する。この判定は、例えばアクセルセンサ36(図12参照)の検出信号に基づいて行なう。このステップ9で、アクセル開度が0%でない(アクセルペダルが踏み込まれている、例えばACCEL ≧1%)と判定された場合には、ステップ7に進む。このステップ7は、前述の第1例又は第2例のステップ7(図1、4)に相当するもので、その時点での走行抵抗又は目標変速比に応じて、モード切換を許可するか否かの判定を行なう。
一方、上記ステップ9で、アクセル開度が0%である(ACCEL =0%){乃至は例えば1%(補正値)未満(ACCEL <1%)である}と判定された場合には、ステップ10に進み、制動装置が作動していない(サービスブレーキが作動していない、ブレーキペダルの踏み込みが解除されている、BRAKE=OFF )か否かを判定する。この判定は、例えばブレーキスイッチ37(図12参照)の検出信号に基づいて行なう。このステップ10で、制動装置が作動している(BRAKE=ON)と判定された場合には、ステップ7に進む。このステップ7に就いては上述した通りである。一方、上記ステップ10で、制動装置が作動していない(BRAKE=OFF )と判定された場合には、ステップ11に進む。このステップ11では、現在の車両の走行速度が低下しているか{例えば17Km/hよりも小さい(遅い)、車速<P_SPD (=17Km/h)}か否かを判定する。
この判定は、例えば車輪の回転速度に比例する出力軸9の回転速度を検出する為の出力軸回転センサ35(図12参照)の検出信号に基づいて行なう。このステップ11で、上記走行速度が低下していない{例えば17Km/h以上である(速い)}と判定された場合には、終了すると共に、開始に戻る。これに対して、このステップ11で上記走行速度が低下している{例えば17Km/hよりも小さい(遅い)}と判定された場合には、高速モードから低速モードへのモード切換を許可する。即ち、ステップ8に進み、シフト用電磁弁20を切り換える事により、低速用クラッチ7を接続させると共に高速用クラッチ8(図13参照)の接続を断つ。
その他の構成及び作用は、前述した第1、2例と同様であるから、重複する説明は省略する。
尚、図示等は省略するが、必要に応じて、低速モードから高速モードへのモード切換を行なうか否かの判定を、その時点でのトロイダル型無段変速機の変速比と、アクセル開度と、制動装置の作動と、車両の速度とに基づいて行なう事もできる。例えば、上記低速モードから上記高速モードへのモード切換を、上記トロイダル型無段変速機の変速比が予め設定されたモード切換を行なうべき値に調節されても、上記アクセル開度が0%(又は1%未満)であり、上記制動装置が作動していない場合には、上記車両の走行速度が所定の値にならない限り、許可しない様にする事もできる。
[実施の形態の第4例]
図8、9は、請求項5、11〜15、17に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。これら図8、9に示した本例の説明の前に、本発明者がこの本例に先立って考えたモード切換制御(先行例)に就いて、図10を用いて説明する。この図10に示す先行例を考えるに至った経緯は、次の通りである。即ち、モード切換は、前述した様に、トロイダル型無段変速機の変速比がモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(回転同期点)、増速比で例えば0.46以下(最大減速状態)}に調節されている状態で行う必要がある。この場合に、現在のモード(例えば低速モード)から次のモード(例えば高速モード)へモード切換を、単に上記モード切換ポイント(回転同期点)に調節された事を条件に行なうと、次の様な不都合を生じる可能性がある。即ち、この切り換えが完了した瞬間は、上記トロイダル型無段変速機の変速比が未だ上記モード切換ポイント(回転同期点)に調節されている為、運転状態によっては、再び元のモード(例えば低速モード)に切り換えられてしまう可能性がある。言い換えれば、上記モード切換ポイントにはヒステリシスがない(回転同期点のみである)為、モード切換に関するその他の車両条件の設定が不適切だと、このモード切換でハンチング「低速(Low)モード→高速(High)モード→低速(Low)モード→高速(High)モード・・・・・の繰り返し」が発生し、安定した走行の妨げになる可能性がある。
そこで、この様な不都合を防止すべく、現在のモード(例えば低速モード)で走行中に、「アクセル開度(例えばアクセルペダルの操作状況)」や「車両速度(車速)」、「制動装置の操作(例えばブレーキペダルの操作状況)」等に基づいて、運転者(ドライバー)の運転操作状況を判定し、次のモード(例えば高速モード)への切換の許可/禁止を行なう事を考えた。具体的には、例えば低速モードで走行中であれば、アクセル開度と制動装置の操作に応じて、以下の通り判定する。
(1)アクセルペダルを踏み込むと共にブレーキペダルを踏み込まずに開放中:運転者に加速の意思有り→「低速モードから高速モード」へのモード切換を許可する。
(2)アクセルペダルを踏み込まずに開放中:運転者に加速の意思無し→「低速モードから高速モード」へのモード切換を禁止する。
一方、例えば高速モードで走行中であれば、同じくアクセル開度と制動装置の操作に応じて、以下の通り判定する。
(3)アクセルペダルを踏み込まずに開放すると共にブレーキペダルを踏み込み中:運転者に減速の意思有り→「高速モードから低速モード」へのモード切換を許可する。
(4)アクセルペダルを踏み込み中:運転者に減速の意思無し→「高速モードから低速モード」へのモード切換を禁止する。但し、キックダウン加速時等、アクセルペダルを踏み込んでいる状態で、且つ、大きな加速が必要な状況では「高速モードから低速モード」へのモード切換を許可する。
前記図10は、上述の様な判定を行ないつつ、モード切換の許可/禁止を行なう為のフローチャートを示している。このフローチャートに示す作業も、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。又、ステップ1〜ステップ3までは、前述した実施の形態の第1例〜第3例と同様である。そして、このステップ3以降、次の様にモード切換を行なうか否かの判定を行なう。
上記ステップ3で、現在の走行モードが低速モードであると判定された場合には、ステップ4に進み、アクセル開度が1%を超えている(ACCEL >1%)か否か、即ち、アクセルペダルが踏み込まれているか否かを判定する。このステップ4でアクセルペダルが踏み込まれていない(NO)、即ち、アクセルペダルが開放されていると判定された場合には、「運転者に加速の意思は無い」と判断できる為、ステップ5に進み、低速モードを維持したまま(高速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。
一方、上記ステップ4で、アクセルペダルが踏み込まれている(YES、アクセル開度が1%を超えている)と判定された場合には、続くステップ6で、制動装置が操作されていない(BRAKE =OFF )か、即ち、ブレーキペダルが開放されているか否かを判定する。このステップ5で、ブレーキペダルが開放されていない(NO、踏み込まれている)と判定された場合には、上記ステップ5に進み、低速モードを維持したまま(高速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。尚、この場合には、アクセルペダルとブレーキペダルとの両方が踏み込まれている状態であり、運転者の誤操作や故障の発生が考えられる為、それに応じた処置を行なう事も考えられる。
一方、上記ステップ6で、ブレーキペダルが開放されている(YES)と判定された場合には、続くステップ7で、目標変速比に応じて調節されるトロイダル型無段変速機4(図12参照)の現在の変速比(実変速比、eCVU )が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)、例えば最大減速状態(例えば増速比で0.46以下、eCVU ≦0.46)}に調節されているか否かを判定する。このステップ7で、上記トロイダル型無段変速機4の実変速比(eCVU )が予め設定されたモード切換を行なうべき値(MP)に調節されていない(eCVU >MP)と判定された場合には、上記ステップ5に進み、低速モードを維持したまま(高速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。一方、上記ステップ7で、モード切換を行なうべき値(MP)に調節されている(eCVU ≦MP)と判定された場合には、ステップ8に進み、低速モードから高速モードへのモード切換を許可する(と共に、終了を介して開始に戻る)。
又、前記ステップ3で、現在の走行モードが高速モードであると判定された場合には、ステップ9に進む。このステップ9では、アクセル開度が1%以下である(ACCEL ≦1%)か否か、即ち、アクセルペダルが開放されているか否かを判定する。このステップ9でアクセルペダルが開放されている(YES)と判定された場合には、ステップ10に進み、制動装置が操作されている(BRAKE =ON)か、即ち、ブレーキペダルが踏み込まれているか否かを判定する。このステップ10で、ブレーキペダルが踏み込まれている(YES)と判定された場合には、ステップ11に進む。このステップ11では、トロイダル型無段変速機4の現在の変速比(実変速比、eCVU )が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)、例えば増速比で0.46以下、eCVU ≦0.46}に調節されているか否かを判定する。そして、このステップ11で、上記モード切換を行なうべき値(MP)に調節されている(eCVU ≦MP)と判定された場合には、ステップ12に進み、高速モードから低速モードへのモード切換を許可する(と共に、終了を介して開始に戻る)。一方、上記ステップ11で、上記モード切換を行なうべき値(MP)に調節されていない(eCVU >MP)と判定された場合には、ステップ13に進み、高速モードを維持したまま(低速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。
一方、上記ステップ9で、アクセルペダルが踏み込まれている(NO)と判定された場合には、ステップ14に進み、アクセル開度が80%を超えている(ACCEL >80%)か否か、即ち、運転者がキックダウン加速を要求しているか否かを判定する。このステップ14で、アクセル開度が80%以下である(NO)と判定された場合には、上記ステップ13に進み、高速モードを維持したまま(低速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。これに対して、上記ステップ14で、アクセル開度が80%を超えている(YES、キックダウン加速を要求している)と判定された場合には、上記ステップ11に進み、トロイダル型無段変速機4の現在の変速比(実変速比、eCVU )がモード切換を行なうべき値(MP)に調節されている事を条件に、高速モードから低速モードへのモード切換を許可する。
又、上記ステップ10で、上記ブレーキペダルが開放されている(制動装置が操作されていない)と判定された場合には、ステップ15に進み、前述の実施の形態の第3例(図6)のステップ11と同様に、現在の車両の走行速度が低下しているか{例えば17Km/hよりも小さい(遅い)、車速<P_SPD (=17Km/h)}か否かを判定する。このステップ15で、上記走行速度が低下していない{例えば17Km/h以上である(速い)}と判定された場合には、上記ステップ13に進み、高速モードを維持したまま(低速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。これに対して、このステップ15で上記走行速度が低下している{例えば17Km/hよりも小さい(遅い)}と判定された場合には、上記ステップ11に進み、トロイダル型無段変速機4の現在の変速比(実変速比、eCVU )がモード切換を行なうべき値(MP)に調節されている事を条件に、高速モードから低速モードへのモード切換を許可する。尚、上記走行速度が低下しているか否かの閾値(例えば17Km/h)は、前述の実施の形態の第3例と同様に設定する。
上述の様な図10に示すフローチャートに基づいて、モード切換制御を行なう場合には、このモード切換の許可/禁止の判定を、運転者の操作状況(意思)に応じて行なえる(例えば図10の破線Xで囲まれた部分等参照)。この為、前述した様なモード切換でハンチングが発生する事を防止できると考えられる。但し、制御が複雑になる他、次に述べる様に、モード切換を許可するか否かの判定が不十分になる可能性がある。即ち、例えば低速モードで発進し、アクセル開度30%程度で加速している状況を考える。この場合、トロイダル型無段変速機の変速比は、そのアクセル開度(約30%)と車速に応じて増速(シフトアップ)する(例えば前述の図5に示した変速マップ参照)。そして、この車速が所定速度まで上昇すると、上記トロイダル型無段変速機の変速比がモード切換ポイント(回転同期点、例えば増速比で0.46)以下に達する。この場合、上記図10のフローチャートでは、ステップ4、6、7の条件を満たし(YESと判定され)、上記モード切換ポイント(回転同期点)に達した時点で、高速モードへのモード切換が許可される。
但し、この様にステップ4、6、7の条件が満たされて高速モードへのモード切換が許可される場合、このモード切換が許可される瞬間の運転状況は、以下の様に異なる事が考えられる。
(a)アクセルペダルを一定に踏み込んで加速中の場合。
(b)アクセルペダルを素早く踏み込んで低速モードでの急加速を行なう場合。
(c)アクセルペダルを最大に踏み込んだ(アクセル開度全開の)状態からこのアクセルペダルを戻してエンジンブレーキ力に基づく減速を得る場合。
これらのうちの(a)、(c)の場合であれば、低速モードから高速モードへのモード切換を行なうべきであると考えられるが、上記(b)の場合は、更に加速を必要とする可能性がある為、高速モードへのモード切換を行なうべきでないと考えられる。但し、上述した図10のフローチャートに沿ってモード切換制御を行なうと、上記(b)の場合に就いても、図11に示す様に、低速モードから高速モードに切り換えられてしまう可能性がある。即ち、アクセル踏み増し加速時に、不要なモード切換が行なわれてしまう可能性がある。この様な場合には、素早い加速性が損なわれる(運転者の望む加速を得られない)可能性があり、好ましくない。
尚、この様な不要なモード切換が行なわれる事を防止すべく、「現在の車両状況」と「それ以前の車両状況」とを比較する(それ以前のアクセルペダルの状態が踏込/開放かを判定したり、踏込み速度、開放速度を検出したりする)等の方法で、上記(b)の状態を判定し、その対応(モード切換の禁止)を行なう事も考えられる。但し、この様な場合には、制御が更に複雑化する他、検出精度や信頼性を確保する事が難しくなる可能性がある。又、前述した様に、モード切換は、上記トロイダル型無段変速機4の変速比がモード切換ポイント(回転同期点、例えば最大減速状態)に達した時点で行なう事が最適である為、例えば単純にモード切換の方向(低速モードから高速モードへのモード切換、或は、高速モードから低速モードへのモード切換)に応じて、その切換のタイミングにヒステリシスを持たせる事は難しいと考える。
この様な事情に鑑みて、本発明者は、前記図8に示す様な、本例のモード切換制御を考えた。この図8に示す本例の場合は、前述の実施の形態の第2例と同様に、制御器16(図12参照)が行なう、モード切換を許可するか否かの判定を、その時点でのトロイダル型無段変速機4の変速比(実変速比)と、例えば前述の図5に示す変速マップから得られる、その時点での走行状態に応じて求められる目標変速比(に対応する無段変速装置全体としての目標速度比)とに基づいて行なう。より具体的には、本例の場合は、上記制御器16が有する機能(第二の機能)に基づいて調節される、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が、予め設定されたモード切換を行なうべき値(例えば増速比で0.46以下)に調節された場合に、その時点での走行状態に対応する上記目標変速比と、その時点での上記トロイダル型無段変速機4の変速比(実変速比)との関係が、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、所定の条件を満たしているか否かにより、モード切換を許可するか否かの判定を行なう様にしている。言い換えれば、その時点での走行状態に対応する無段変速装置全体としての目標速度比と、その時点での無段変速装置全体としての速度比(実速度比)とを比較し、所定の条件を満たしているか否かにより、モード切換を許可するか否かの判定を行なう様にしている。
例えば、低速モードで走行中、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が予め設定された高速モードへのモード切換を行なうべき値{例えば最大減速状態(増速比で0.46以下)}に調節された場合に、その時点での走行状態に対応する上記トロイダル型無段変速機の目標変速比が、その時点でのこのトロイダル型無段変速機4の変速比(実変速比)に対し、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に減速側(シフトダウン側)である場合に、上記高速モードへのモード切換を許可しない(低速モードを維持する)様にしている。又、同じく無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、同じか増速側(シフトアップ側)である場合に、上記高速モードへのモード切換を許可する(高速モードに切り換える)。即ち、低速モードで走行中は、その時点での(現在の)走行状態に対応する無段変速装置全体としての目標速度比が、その時点での(現在の)無段変速装置全体としての速度比(実速度比)よりも減速側(増速比で、実速度比>目標速度比)である場合に、上記高速モードへのモード切換を許可せず、同じかそれよりも増速側(増速比で、実速度比≦目標速度比)である場合に、上記高速モードへのモード切換を許可する。
又、例えば高速モードで走行中、上記トロイダル型無段変速機4の変速比が予め設定された低速モードへのモード切換を行なうべき値{例えば最大減速状態(増速比で0.46以下)}に調節された場合に、その時点での走行状態に対応する上記トロイダル型無段変速機の目標変速比が、その時点での上記トロイダル型無段変速機4の変速比(実変速比)に対し、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に増速側(シフトップ側)である場合に、上記低速モードへのモード切換を許可しない(高速モードを維持する)様にしている。又、同じく無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、同じか減速側(シフトダウン側)である場合に、上記低速モードへのモード切換を許可する(低速モードへ切り換える)。即ち、高速モードで走行中は、その時点での(現在の)走行状態に対応する無段変速装置全体としての目標速度比が、その時点での(現在の)無段変速装置全体としての速度比(実速度比)よりも増速側(増速比で、実速度比<目標速度比)である場合に、上記低速モードへのモード切換を許可せず、同じかそれよりも減速側(増速比で、実速度比≧目標速度比)である場合に、上記低速モードへのモード切換を許可する。
上述の様なモード切換を許可するか否かの判定を行なう為の、上記制御器16が有する機能(第一の機能)に就いて、前記図8のフローチャートを参照しつつ説明する。尚、このフローチャートに示した作業も、イグニッションスイッチがONされてからOFFされるまでの間、繰り返し(自動的に)行なわれる。又、ステップ1〜ステップ3までは、前述した実施の形態の第1例〜第3例、並びに、図10に示した先行例と同様である。そして、このステップ3以降、次の様にモード切換を行なうか否かの判定を行なう。
上記ステップ3で、現在の走行モードが低速モードであると判定された場合には、ステップ4に進む。このステップ4では、その時点(低速モードであると判定された時点)での走行状態に対応するトロイダル型無段変速機4の目標変速比が、その時点でのこのトロイダル型無段変速機4の変速比(実変速比)に対し、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、同じか増速側であるか否かを判定する。即ち、その時点での(現在の)走行状態に対応する無段変速装置全体としての目標速度比が、その時点での(現在の)無段変速装置全体としての速度比(実速度比)に対し、同じか増速側(増速比で、実速度比≦目標速度比)であるか否かを判定する。尚、トロイダル型無段変速機4の変速比から見れば、図5の変速マップのうちの低速モード用マップから得られる、その時点での(現在の)目標変速比が、その時点での(現在の)実変速比と同じかそれよりも減速側(増速比で、実変速比≧目標変速比)であるか否かを判定する事と同じである。
この様なステップ4で、トロイダル型無段変速機4の目標変速比が実変速比と同じかそれよりも減速側でない(NO:増速側である)、即ち、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、目標速度比が実速度比と同じか増速側でない(NO:減速側である)と判定された場合には、ステップ5に進み、低速モードを維持したまま(高速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。これに対して、上記ステップ4で、上記トロイダル型無段変速機4の目標変速比が実変速比と同じかそれよりも減速側である(YES)、即ち、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、目標速度比が実速度比と同じか増速側である(YES)と判定された場合には、ステップ6に進む。
このステップ6では、目標変速比に応じて調節されるトロイダル型無段変速機4の現在の変速比(実変速比、eCVU )が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)、例えば最大減速状態(例えば増速比で0.46以下、eCVU ≦0.46)}に調節されているか否かを判定する。このステップ6で、上記トロイダル型無段変速機4の実変速比(eCVU )が予め設定されたモード切換を行なうべき値(MP)に調節されていない(NO:eCVU >MP)と判定された場合には、上記ステップ5に進み、低速モードを維持したまま(高速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。一方、上記ステップ6で、モード切換を行なうべき値(MP)に調節されている(YES:eCVU ≦MP)と判定された場合には、ステップ7に進み、低速モードから高速モードへのモード切換を許可する(と共に、終了を介して開始に戻る)。
一方、上記ステップ3で、現在の走行モードが高速モードであると判定された場合には、ステップ8に進む。このステップ8では、その時点(高速モードであると判定された時点)での走行状態に対応するトロイダル型無段変速機4の目標変速比が、その時点でのトロイダル型無段変速機4の変速比(実変速比)に対し、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、同じか減速側であるか否かを判定する。即ち、その時点での(現在の)走行状態に対応する無段変速装置全体としての目標速度比が、その時点での(現在の)無段変速装置全体としての速度比(実速度比)に対し、同じか減速側(増速比で、実速度比≧目標速度比)であるか否かを判定する。尚、トロイダル型無段変速機4の変速比から見れば、図5の変速マップのうちの高速モード用マップから得られる、その時点での(現在の)目標変速比が、その時点での(現在の)実変速比と同じかそれよりも減速側(増速比で、実変速比≧目標変速比)であるか否かを判定する事と同じである。
この様なステップ8で、トロイダル型無段変速機4の目標変速比が実変速比と同じかそれよりも減速側でない(NO:増速側である)、即ち、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、目標速度比が実速度比と同じか減速側でない(NO:増速側である)と判定された場合には、ステップ9に進み、高速モードを維持したまま(低速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。これに対して、上記ステップ8で、上記トロイダル型無段変速機4の目標変速比が実変速比と同じかそれよりも減速側である(YES)、即ち、無段変速装置全体としての速度比に対応させて比較した場合に、目標速度比が実速度比と同じか減速側である(YES)と判定された場合には、ステップ10に進む。
このステップ10では、前述のステップ6と同様に、目標変速比に応じて調節されるトロイダル型無段変速機4の現在の変速比(実変速比、eCVU )が、予め設定されたモード切換を行なうべき値{モード切換ポイント(MP)、例えば最大減速状態(例えば増速比で0.46以下、eCVU ≦0.46)}に調節されているか否かを判定する。このステップ6で、上記トロイダル型無段変速機4の実変速比(eCVU )が予め設定されたモード切換を行なうべき値(MP)に調節されていない(NO:eCVU >MP)と判定された場合には、上記ステップ9に進み、高速モードを維持したまま(低速モードへの切換を行なわず)終了すると共に、開始に戻る。一方、上記ステップ10で、モード切換を行なうべき値(MP)に調節されている(YES:eCVU ≦MP)と判定された場合には、ステップ11に進み、高速モードから低速モードへのモード切換を許可する(と共に、終了を介して開始に戻る)。
上述の様な制御を行なう本例の場合には、図9に示す様に、不必要なモード切換を防止できる。そして、この様な不必要なモード切換の防止を、複雑な構成や制御、システムコストアップを必要とする事なく行なえる。即ち、走行状況の把握並びにモード切換の必要性を簡素(シンプル)な判定で行なう事ができ、常に運転者の意思に合った最適なモードヘの切換を行なえる。この結果、安価で信頼性が高く、何れの車両状況においても不必要なモード切換を防止でき、安定した加速、一定車速走行を行なえる無段変速装置を実現できる。
その他の構成及び作用は、前述した第1〜3例と同様であるから、重複する説明は省略する。
尚、本明細書並びに特許請求の範囲では、「変速比」並びに「速度比」の言葉に関し、以下の様に用いている。即ち、一般的には、「変速比」は減速比であり、「速度比」は増速比であり、「変速比」の逆数が「速度比」となる(「速度比」=1/「変速比」)。これに対して、本明細書並びに特許請求の範囲では、トロイダル型無段変速機に関する入力側と出力側との比に就いて「変速比」の言葉を用い、無段変速装置全体に関する入力側と出力側との比に就いて「速度比」の言葉を用いている。これは、トロイダル型無段変速機に関する比なのか無段変速装置全体に関する比なのかを明確にし易くする為である。従って、本明細書並びに特許請求の範囲では、「変速比」並びに「速度比」は何れも入力側と出力側との比を表す言葉として用いており、「変速比」が減速比に、「速度比」が増速比に、必ずしも対応するものではない。この為、「変速比」の用語を用いていても、この「変速比」の実際の値として、増速比で表す場合がある(例えば図5、7、9、11等参照)。