発明の背景
発明の分野
本願は改変プラスミドおよびその使用に関する。
発明の背景
発芽酵母のある近縁種は天然の環状二本鎖DNAプラスミドを含むことが示されている。これらのプラスミドは2μm系プラスミドと総称され、チゴサッカロミセス・ルクシー(Zygosaccharomyces rouxii)(以前はチゴサッカロミセス・ビスポルス(Zygosaccharomyces bisporus) として分類されていた)由来のpSR1、pSB3およびpSB4、チゴサッカロミセス・バイリー(Zygosaccharomyces bailii)由来のプラスミドpSB1およびpSB2、チゴサッカロミセス・フェルメンタチ(Zygosaccharomyces fermentati)由来のプラスミドpSM1、クルイベロミセス・ドロソフィラルム(Kluyveromyces drosphilarum)由来のプラスミドpKD1、ピキア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)由来の命名されていないプラスミド(以下、「pPM1」と呼ぶ)、ならびにサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae) (Volkert, et al., 1989, Microbiological Reviews, 53, 299; Painting, et al., 1984, J. Applied Bacteriology, 56, 331)およびその他のサッカロミセス種、例えば、S.カルスベルゲネシス(S. carlsbergensis)由来の2μmプラスミドおよび変異体(例えば、Scp1、Scp2およびScp3)が挙げられる。1つのプラスミドファミリーとして、これらの分子はプラスミドの反対側に2つの逆方向反復を有し、6kbp前後(4757〜6615bpの範囲)の類似の大きさ、少なくとも3つのオープンリーディングフレーム(そのうちの1つは部位特異的レコンビナーゼ(例えば、2μmのFLP)をコードする)、および逆方向反復の1つの末端付近に位置する、複製起点(ori)としても知られる自立複製配列(ARS)を有するという一連の共通の特徴を持っている(Futcher, 1988, Yeast, 4, 27; Murray et al., 1988, J. Mol. Biol. 200, 601およびToh-e et al., 1986, Basic Life Sci. 40, 425)。それらの認識できるDNA配列の相同性の欠如はあるものの、それらの共有の分子構造およびオープンリーディングフレームの機能の保存は、これらのファミリーメンバー間の一般的な連関を証明している。
2μmプラスミド(図1)は、ほとんどのサッカロミセス・セレビシエ株に半数性ゲノム当たり60〜100コピーで内在する6,318bpの二本鎖DNAプラスミドである。この2μmプラスミドは、2つの599bp逆方向反復配列によって隔てられたスモールユニーク(US)領域とラージユニーク(UL)領域を含む。この逆方向反復配列の部位特異的組換えの結果、in vivoにおいてこのプラスミドのA型およびB型の間で相互変換が生じる(Volkert & Broach, 1986, Cell, 46, 541)。2μmのこの2つの形態は、それらのユニーク領域の相対的方向だけが異なる。
サッカロミセス・セレビシエからクローニングした2μmプラスミド(Scp1としても知られる)のDNA配列決定から6,318bpの大きさが得られたが(Hartley and Donelson, 1980, Nature, 286, 860)、STBとして知られる領域における、それぞれ125bpおよび220bpの小さな欠失の結果として、他の若干小さい2μmの変異体Scp2およびScp3が存在することが知られている(Cameron et al., 1977, Nucl. Acids Res., 4, 1429; Kikuchi, 1983, Cell, 35, 487およびLivingston & Hahne, 1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76, 3727)。世界中の天然サッカロミセス株の80%についてのある研究では、2μmと相同なDNAを含んでいた(サザンブロット解析による)(Hollenberg, 1982, Current Topics in Microbiology and Immunobiology, 96, 119)。さらにまた、S.セレビシエおよびS.カルルスベルゲネシスに見られる天然の2μmプラスミド集団内にはバリエーション(遺伝多型)が存在し、NCBI配列(受託番号NC_001398)がその一例である。
2μmプラスミドは核局在性を有し、高レベルの有糸分裂安定性を示す(Mead et al, 1986, Molecular & General Genetics, 205, 417)。2μmプラスミドの遺伝安定性はプラスミドによりコードされているコピー数の増幅および分割機構に起因するものであり、これはキメラベクターの開発の際に簡単に損なわれる(Futcher & Cox, 1984, J. Bacteriol., 157, 283; Bachmair & Ruis, 1984, Monatshefte fur Chemie, 115, 1229)。2μmプラスミドを含む酵母株は[cir+]として知られ、一方、2μmプラスミドを含まない酵母株は[cir0]として知られる。
US領域はREP2およびFLP遺伝子を含み、UL領域はREP1およびD(RAFとしても知られる)遺伝子、STB遺伝子座および複製起点を含む(Broach & Hicks, 1980, Cell, 21, 501; Sutton & Broach, 1985, Mol. Cell. Biol., 5, 2770)。Flpレコンビナーゼは、逆方向反復内のFRT部位(Flp認識標的)と結合し、部位特異的組換えを媒介するが、これはin vivoにおける天然プラスミド増幅とプラスミドコピー数の制御に不可欠なものである(Senecoff et al, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 82, 7270; Jayaram, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S. A., 82, 5875)。2μm系プラスミドのコピー数は、Flpレコンビナーゼ活性の変化によって有意に影響を受け得る(Sleep et al, 2001, Yeast, 18, 403; Rose & Broach, 1990, Methods Enzymol., 185, 234)。Rep1およびRep2タンパク質はプラスミドの分離を媒介するが、それらの作用様式は明らかでない(Sengupta et al, 2001, J. Bacteriol., 183, 2306)。それらはまた、FLP遺伝子の転写を抑制する(Reynolds et al, 1987, Mol. Cell. Biol., 7, 3566)。
FLPおよびREP2遺伝子は互いに異なるプロモーターから転写され、それらの間で介在配列は明らかに定義されていない。FLPおよびREP2転写物は両者とも、それらの翻訳終結コドンの後のそれぞれ24bpおよび178bpにおいて、逆方向反復配列内の同じ配列モチーフで終わる(Sutton & Broach, 1985, Mol. Cell. Biol., 5, 2770)。
FLPの場合、C末端コード配列もまた逆方向反復配列内にある。さらに、この2つの逆方向反復配列は599bpにわたって高度に保存されており、この特徴はin vivoにおいて効率的なプラスミド複製および増幅に有利であると考えられるが、in vitro部位特異的組換えに不可欠なのはFRT部位(65bp未満)のみである(Senecoff et al, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82, 7270; Jayaram, 1985, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 82, 5875; Meyer-Leon et al, 1984, Cold Spring Harbor Symposia On Quantitative Biology, 49, 797)。Flpの重要な触媒残基はアルギニン−308とチロシン−343(必須)であり、鎖の切断はヒスチジン−309およびヒスチジン−345により容易となる(Prasad et al, 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 84, 2189; Chen et al, 1992, Cell, 69, 647; Grainge et al, 2001, J MoL BioL, 314, 717)。
Rep2については2つの機能的ドメインが報告されている。残基15〜58はRep1結合ドメインを形成し、残基59〜296は自己会合およびSTB結合領域を含む(Sengupta et al, 2001, J. Bacteriol., 183, 2306)。
2μmプラスミドの必須の機能的領域の多くを欠損しているが、機能的なシスエレメントARSおよびSTBを保持している2μmのキメラまたは欠失の大きな変異誘導体は、細胞分裂時に母細胞と娘細胞との間で有効な分割ができない。このようなプラスミドは、これらの機能が、例えば宿主内に機能的2μmプラスミドを提供することによりトランスで提供されれば有効に分割しうる(いわゆる、[cir+]宿主)。
目的の遺伝子はこれまで、2μmプラスミドのUL領域に挿入されてきた。例えば、EP0286424のプラスミドpSAC3U1参照。しかしながら、US領域とUL領域が過度に非対称にならずに2μmプラスミドのUL領域に注意深く挿入できるDNAの量には限界があると思われる。従って、2μmプラスミドのUS領域は、逆方向反復の両側のDNA断片の長さを均等にする傾向があるので、さらなるDNA配列の挿入にとって特に魅力的である。
これは、図2に示されているものなどの発現ベクターには特に当てはまり、このプラスミドは酵母選択マーカーおよび隣接するDNA配列の導入によってすでに過密になっている。例えば、図2に示すプラスミドは、β−ラクタマーゼ遺伝子(アンピシリン耐性のため)、LEU2選択マーカーおよびオリゴヌクレオチドリンカー(最後の2つのものは2μm系非組込みベクターpSAC3(EP0286424参照)のUL領域内のユニークなSnaBI部位に挿入される)を含む。酵母に形質転換した後、図2に示されるプラスミドから、XbaI部位間の、アンピシリン耐性遺伝子を含む大腸菌DNAが欠失される。このことはChinery & Hinchliffe, 1989, Curr. Genet, 16, 21およびEP0286424に記載されており、これらのタイプのベクターは「非組込みベクター」と呼ばれる。図2に示されている過密状態では、どこにさらなるポリヌクレオチド挿入ができるか、容易には明らかにならない。リンカー内のNotI部位がさらなるDNA断片の挿入に用いられているが、これはUL領域とUS領域の間のさらなる非対称性をもたらす(Sleep et al, 1991, Biotechnology (NY), 9,183)。
発明者らはこれまでに、2μmプラスミドのUS領域にさらなるDNAを挿入し、そのプラスミドの高い固有安定性を維持しようと試みてきた。2μm系非組込みプラスミドpSAC300では、URA3遺伝子を含む1.1kbのDNA断片が、US領域のREP2とFLPの間のEagI部位に、URA3遺伝子からの転写がREP2転写と同じ方向になるように挿入されている(EP0286424参照)。S150−2B[cir0]は、pSAC300によりウラシル原栄養性へと形質転換された場合、2μmのUL領域にUR4Sが挿入された比較ベクター(30世代で0〜10%のプラスミド欠損)よりもかなり安定性が低い(30世代で50%のプラスミド欠損)ことが示された(Chinery & Hinchliffe, 1989, Curr. Genet., 16, 21; EP0286424)。このように、EagI部位における挿入はFLPと干渉している可能性があり、Bijvoet et al., 1991, Yeast, 7, 347によって確認されたように、挿入の位置が得られるプラスミドの安定性に多大な影響を及ぼし得ると結論づけられた。
2μm系プラスミドにさらなるポリヌクレオチド配列を挿入することが望ましい。例えば、宿主由来タンパク質、組換えタンパク質、または非コードアンチセンスもしくはRNA干渉(RNAi)転写物をコードするポリヌクレオチド配列の挿入が望ましい場合がある。さらに、複数のさらなるポリヌクレオチド配列を2μm系プラスミドに導入することで、例えば、複数個別にコードされているマルチサブユニットタンパク質、同じ代謝経路の異なるメンバー、付加的選択マーカーまたは組換えタンパク質(シングルサブユニットまたはマルチサブユニット)、および組換えタンパク質の発現を目的としたシャペロンをコードするプラスミドを提供することが望ましい。
しかしながら、6,318bpの2μmプラスミドおよび他の2μm系プラスミドは機能的遺伝エレメントで過密になっており(Sutton & Broach, 1985, Mol. Cell. Biol., 5, 2770; Broach et al, 1979, Cell, 16, 827)、プラスミドの安定性の低下を伴わずに、さらなるDNA配列の挿入のために存在している明瞭な位置がない。実際、複製起点とD遺伝子の遺伝子座との間の領域を除いて、2μmプラスミドゲノム全体が少なくとも一つのポリ(A)+種に転写され、多くの場合にはさらに多くのポリ(A)+種に転写される(Sutton & Broach, 1985, Mol. Cell. Biol., 5, 2770)。結局のところ、ほとんどの挿入がin vivoにおいてプラスミド機能に悪影響を有するものと考えられる。
実際、当業者は2μm系プラスミドへの異種ポリヌクレオチド配列挿入に見切りをつけている。
Robinson et al, 1994, Bio/Technology, 12, 381-384には、サッカロミセス・セレビシエにおける付加的組換えPDI遺伝子コピーを用いて、ヒト血小板由来増殖因子(PDGF)Bホモ二量体の組換え発現を10倍増強でき、また、シゾサッカロミセス・ポムベ(Schizosacharomyces pombe)の酸性ホスファターゼの組換え発現を4倍増強できたことが報告されている。Robinsonは、付加的な染色体組込み型のPDI遺伝子コピーを用いて、PDGFおよびS.ポムベ酸性ホスファターゼの発現に増強を認めた。Robinsonは、マルチコピー2μm発現ベクターを用いてPDIタンパク質レベルを増強させる試みが異種タンパク質分泌に悪影響を及ぼしたことを報告している。
Shusta et al, 1998, Nature Biotechnology, 16, 773-777には、サッカロミセス・セレビシエにおける単鎖抗体断片(scFv)の組換え発現が記載されている。Shustaは、酵母系において、宿主染色体への導入遺伝子の組込みとエピソーム発現ベクターの使用との間の選択が分泌に大きな影響を及ぼし得ることを報告しており、Parekh & Wittrup, 1997, Biotechnol. Prog., 13, 117-122によれば、δ組込みベクターを用いた宿主染色体へのscFv遺伝子の安定組込みは、2μm系発現プラスミドを使用するよりも優れていた。Parelkh & Wittrup(前掲)は、これまでに、ウシ膵臓トリプシンインヒビター(BPTI)の発現が、2μm系発現プラスミドよりも、δ組込みベクターを用いることにより大幅に増強されたことを教示している。この2μm系発現プラスミドは、異種分泌タンパク質の産生に関しては逆効果であるとされていた。
Bao et al, 2000, Yeast, 16, 329-341には、KlPDI1遺伝子をK.ラクチス(K. luctis)のマルチコピープラスミドpKan707に導入したこと、そして、このプラスミドの存在がこの株に低い増殖をもたらしたことが報告されている。これらのBao et al, 2000における初期の知見に鑑みて、Bao & Fukuhara, 2001, Gene, 272, 103-110では、宿主染色体上にKlPDI1の1回の重複を導入することが選択された。
よって、この技術は、マルチコピーベクターではなく、酵母染色体に導入遺伝子を組み込むことを当業者に教示している。従って、酵母を形質転換する別の方法が必要とされている。
本発明は、組換え改変型の2μm系プラスミドに関する。
2μm系プラスミドは環状二本鎖DNAプラスミドである。これは一般に、組換え挿入された配列を除いて、3,000〜10,000bp、好ましくは4,500〜7,000bpといった小さなものである。本発明での使用に好ましい2μm系プラスミドは、チゴサッカロミセス・ルクシーから得られるようなプラスミドpSR1、pSB3またはpSB4、双方ともチゴサッカロミセス・バイリーから得られるようなpSB1またはpSB2、チゴサッカロミセス・フェルメンタチから得られるようなpSM1、クルイベロミセス・ドロソフィラルムから得られるようなpKD1、ピキア・メンブラネファシエンスから得られるようなpPM1、ならびに、例えば、Volkert et al, 1989, Microbiological Reviews, 53(3), 299-317, Murray et al, 1988, Mol. Biol., 200, 601-607およびPainting, et al., 1984, J. Applied Bacteriology, 56, 331に記載されている、サッカロミセス・セレビシエから得られるような2μmプラスミドおよび変異体(例えば、Scp1、Scp2およびScp3)の1以上に由来する配列を含む。
2μm系プラスミドは酵母集団内で安定なマルチコピー維持が可能であるが、必ずしも総ての2μm系プラスミドが総ての種類の酵母集団内で安定なマルチコピー維持が可能である必要はない。例えば、2μmプラスミドは、とりわけ、サッカロミセス・セレビシエおよびサッカロミセス・カルスベルゲネシス内で安定なマルチコピー維持が可能である。
「マルチコピー維持」とは、プラスミドが各酵母細胞内において複数コピーで存在することを意味する。2μm系プラスミドを含む酵母細胞は[cir+]と呼ばれ、2μm系プラスミドを含まない酵母細胞は[cir0]と呼ばれる。[cir+]酵母細胞は一般に、半数性ゲノム当たり10〜100コピー、例えば20〜90、より一般には30〜80、好ましくは40〜70、より好ましくは半数性ゲノム当たり50〜60コピーの2μm系プラスミドを含む。さらに、このプラスミドコピー数は、2μm様プラスミドのプラスミドコピー数を、半数性ゲノム当たり100を超えるまでに高め得る宿主の遺伝的背景によって影響を受け得る(Gerbaud and Guerineau, 1980, Curr. Genetics, 1, 219, Holm, 1982, Cell, 29, 585, Sleep et al., 2001, Yeast, 18, 403およびW099/00504)。マルチコピー安定性は下記に定義される。
2μm系プラスミドは一般に、少なくとも3つのオープンリーディングフレーム(「ORF」)を含み、その各々はマルチコピープラスミドとしての2μm系プラスミドの安定な維持において機能を持つタンパク質をコードしている。この3つのORFによりコードされているタンパク質は、FLP、REP1およびREP2と呼ばれている。2μm系プラスミドは、FLP、REP1およびREP2をコードする3つ総てのORFを含んでない場合には、不足しているタンパク質をコードするORFが、別のプラスミド上か、または染色体組込みによりトランスで提供されなければならない。
「FLP」タンパク質は、FLPにより認識される逆方向反復配列の間での部位特異的組換えを触媒することができるタンパク質である。これらの逆方向反復配列はFLP組換え標的(FRT)部位と呼ばれ、各々、一般に、さらに大きな逆方向反復の一部として存在する(下記参照)。好ましいFLPタンパク質は、プラスミドpSR1、pSB1、pSB2、pSB3、pSB4、pSM1、pKD1、pPM1、および、例えば、Volkert et al(前掲)、Murray et al(前掲)およびPainting et al(前掲)に記載の2μmプラスミドの1つによりコードされているFLPタンパク質の配列を含んでいる。これらのFLPタンパク質の変異体および断片もまた本発明に含まれる。「断片」および「変異体」は、同じFRT配列の間の部位特異的組換えを触媒する天然タンパク質の能力を保持するものである。このような変異体および断片は通常、プラスミドpSR1、pSB1、pSB2、pSB3、pSM1、pKD1および2μmプラスミドの1つによりコードされているFLPタンパク質と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の相同性を有する。異なるFLPタンパク質は異なるFRT配列特異性を有する可能性がある。典型的なFRT部位は逆方向反復配列によりフランキングされたコアヌクレオチド配列を含み得る。2μmプラスミドでは、FRTコア配列は8ヌクレオチド長であり、フランキングしている逆方向反復配列は13ヌクレオチド長である(Volkert et al, 前掲)。しかしながら、所定のFLPタンパク質により認識されるFRT部位は、2μmプラスミドFRT部位とは異なるものであり得る。
REP1およびREP2は、細胞分裂の際のプラスミドコピーの分割に関与するタンパク質であり、また、FLP発現の調節にも役割を果たし得る。異なる2μm系プラスミドに由来するREP1タンパク質間で著しい配列の多様性が見られたが、異なる2μm系プラスミドに由来するREP2タンパク質間では、これまでのところアライメントが可能な配列はない。好ましいREP1およびREP2タンパク質は、プラスミドpSR1、pSB1、pSB2、pSB3、pSB4、pSM1、pKD1、pPM1、および、例えば、Volkert et al(前掲)、Murray et al(前掲)およびPinting et al(前掲)に記載の2μmプラスミドの1つによりコードされているREP1およびREP2タンパク質の配列を含む。また、これらのREP1およびREP2タンパク質の変異体および断片も本発明に含まれる。REP1およびREP2の「断片」および「変異体」は、天然ORFの代わりにプラスミドによってコードされている場合、好適な酵母集団内でプラスミドの安定なマルチコピー維持を妨げないものである。このようなREP1およびREP2の変異体および断片は通常、プラスミドpSR1、pSB1、pSB2、pSB3、pSB4、pSM1、pKD1、pPM1および2μmプラスミドの1つによりコードされているREP1およびREP2タンパク質と、それぞれ、少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の相同性を有する。
プラスミド上のORFによりコードされているREP1およびREP2タンパク質は適合するものでなければならない。REP1およびREP2は、それらをコードするプラスミドの安定なマルチコピー維持に、プラスミドの他の機能的エレメントとの組合せにおいて寄与するものであれば適合している。REP1およびREP2のORFが、それらをコードするプラスミドの安定なマルチコピー維持に寄与しているかどうかは、REP1およびREP2のORFの各々が特異的に分断されている、このプラスミドの変異体を作製することにより判定することができる。ORFの分断によりプラスミドの安定なマルチコピー維持が損なわれれば、そのORFは非変異型においてプラスミドの安定なマルチコピー維持に寄与しているものと結論づけることができる。REP1およびREP2タンパク質は、pSR1、pSB1、pSB2、pSB3、pSB4、pSM1、pKD1、pPM1および2μmプラスミドなど、同じ天然の2μm系プラスミドによりコードされているREP1およびREP2タンパク質の配列、またはその変異体もしくは断片を有するのが好ましい。
2μm系プラスミドは2つの逆方向反復配列を含む。これらの逆方向反復は、それらが各々FRT部位(上記参照)を含んでいる限り、どんな大きさであってもよい。これらの逆方向反復は 一般に相同性が高い。それらは50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%またはそれ以上の配列同一性を持ち得る。好ましい実施態様では、それらは同一である。一般に、これらの逆方向反復は各々200〜1000bpの長さである。好ましい逆方向反復配列は、各々、200〜300bp、300〜400bp、400〜500bp、500〜600bp、600〜700bp、700〜800bp、800〜900bp、または900〜1000bpの長さを持ち得る。特に好ましい逆方向反復は、プラスミドpSR1(959bp)、pSB1(675bp)、pSB2(477bp)、pSB3(391bp)、pSM1(352bp)、pKD1(346bp)、2μmプラスミド(599bp)、pSB4およびpPM1のものである。
逆方向反復の配列は可変である。しかしながら、各逆方向反復のFRT部位の配列は、プラスミドによりコードされているFLPタンパク質の特異性と適合し、それにより、コードされているFLPタンパク質がプラスミドの逆方向反復配列間の部位特異的組換えを触媒する働きをすることができるものでなければならない。逆方向反復配列の組換え(つまり、FLPタンパク質が、そのプラスミドでFRT部位を認識する能力)は、当技術分野で公知の方法によって判定することができる。例えば、FLPの発現に有利な条件下の酵母細胞内のプラスミドを、プラスミドのある領域の別の領域に対する方向の変化によってもたらされる該プラスミドの制限プロフィールの変化に関してアッセイすることができる。制限プロフィールの変化の検出は、そのFLPタンパク質がプラスミドのFRT部位を認識できること、従って、各逆方向反復のFRT部位がプラスミドによりコードされているFLPタンパク質の特異性と適合することを示す。
特に好ましい実施態様では、FRT部位をはじめとする、逆方向反復配列は、pSR1、pSB1、pSB2、pSB3、pSB4、pSM1、pKD1、pPM1または2μmプラスミドなどの、FLPタンパク質をコードするORFと同じ2μm系プラスミドに由来するものである。
これらの逆方向反復は一般に、逆方向反復間に定義された2領域(例えば、2μmプラスミドのULおよびUSとして定義されるもの)が、導入遺伝子などの外から導入される配列を除いてほぼ同じ大きさとなるように2μm系プラスミド内に配置する。例えば、この2領域の一方は、他方の領域の長さの少なくとも40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%またはそれ以上、100%までに相当する長さであり得る。
2μm系プラスミドは、FLPをコードするORFと一方の逆方向反復(次の段落で述べる他の逆方向反復と区別するために、本明細書では「IR1」と呼ぶ)とを、例えば2μmプラスミドに見られるような介在コード配列なしで、FLP ORFの遠位末端にIR1が来るように並列して含む。ここで「遠位末端」とは、プロモーターが転写を開始する末端とは反対側のFLP ORF末端を意味する。好ましい実施態様では、FLP ORFの遠位末端はIR1と重複する。
2μm系プラスミドは、REP2をコードするORFと他方の逆方向反復(前の段落で述べたIR1と区別するために、本明細書では「IR2」と呼ぶ)とを、例えば2μmプラスミドに見られるような介在コード配列なしで、REP2 ORFの遠位末端にIR2が来るように並列して含む。ここで「遠位末端」とは、プロモーターがその転写を開始する末端とは反対側のREP2 ORF末端を意味する。
一つの実施態様では、このREP2およびFLPをコードするORFは、2μm系プラスミドの逆方向反復間で定義された2領域のうち同じ領域に存在してもよく、この領域は大きい方の領域であっても小さい方の領域であってもよい(2領域の大きさが不等である場合)。
一つの実施態様では、このREP2およびFLPをコードするORFは互いに異なるプロモーターから転写され得る。
一般に、2μm系プラスミドの逆方向反復間に定義された領域(例えば、2μmプラスミドのULおよびUSとして定義されるもの)は、マルチコピープラスミドとして2μm系プラスミドの安定な維持において機能を果たすタンパク質をコードする多くとも2つの内因性遺伝子を含み得る。よって、好ましい実施態様では、逆方向反復に定義されたプラスミドの一方の領域は、内因性コード配列として、多くともFLPとREP2;FLPとREP1;またはREP1とREP2をコードするORFを含み得る。
2μm系プラスミドは複製起点(自立複製配列「ARS」としても知られる)を含み、これは一般に双方向性である。適当なARS配列のいずれが存在してもよい。酵母染色体複製起点に典型的なコンセンサス配列が適当であり得る(Broach et al, 1982, Cold Spning Harbor Symp. Quant. Biol., 47, 1165-1174; Williamson, Yeast, 1985, 1, 1-14)。好ましいARSとしては、pSR1、pSB1、pSB2,pSB3、pSB4、pSM1、pKD1、pPM1および2μmプラスミドから単離されたものが挙げられる。
よって、2μm系プラスミドは一般に、少なくとも、FLPおよびREP2をコードするORF、2つの逆方向反復配列(各々、FLPタンパク質に適合するFRT部位を含む逆方向反復)、およびARS配列を含む。好ましくは、このプラスミドはまた、REP1をコードするORFも含むが、上述のように、それはトランスで提供されてもよい。好ましくは、FRT部位は、コードされているFLPタンパク質の配列と同じ2μm系プラスミドに由来するものとされる。好ましくは、コードされているREP1およびREP2タンパク質の配列は、互いに同じ2μm系プラスミドに由来するものとされる。より好ましくは、FRT部位は、コードされているFLP、REP1およびREP2タンパク質の配列と同じ2μm系プラスミドに由来するものとされる。さらに好ましくは、FLP、REP1およびREP2をコードするORFの配列ならびに逆方向反復の配列(FRT部位を含む)は同じ2μm系プラスミドに由来するものとされる。さらに好ましくは、ARS部位は、FLP、REP1およびREP2のORFの1以上のもの、ならびに逆方向反復の配列(FRT部位を含む)と同じ2μm系プラスミドに由来するものとされる。好ましいプラスミドとしては、チゴサッカロミセス・ルクシーから得られるようなプラスミドpSR1、pSB3またはpSB4、双方ともチゴサッカロミセス・バイリーから得られるようなpSB1またはpSB2、チゴサッカロミセス・フェルメンタチから得られるようなpSM1、クルイベロミセス・ドロソフィラルムから得られるようなpKD1、ピキア・メンブラネファシエンスから得られるようなpPM1、および、例えば、Volkert et al, 1989(前掲), Murray et al(前掲)およびPainting et al(前掲)に記載のサッカロミセス・セレビシエから得られるような2μmプラスミドが挙げられる。
場合によっては、2μm系プラスミドは、Volkert et al(前掲)に記載のような2μmプラスミドのSTB領域(REPSとしても知られる)に相当する領域を含み得る。本発明による2μm系プラスミドにおけるこのSTB領域は、2以上の、例えば、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のタンデム反復配列を含み得る。あるいは、タンデム反復配列は存在しなくてもよい。これらのタンデム反復はどんな大きさでもよく、例えば、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100bpまたはそれ以上の長さである。2μmプラスミドのSTB領域におけるタンデム反復は62bpの長さである。タンデム反復の配列は必ずしも同じでなくてもよい。若干の配列バリエーションは許容される。REP1およびREP2 ORFのいずれかまたは双方と同じプラスミド由来のSTB領域を選択するのが好ましい場合がある。STB領域はシス作用エレメントであると考えられ、好ましくは転写されない。
場合によっては、2μm系プラスミドは、マルチコピープラスミドとしての2μm系プラスミドの安定な維持において機能を果たすタンパク質をコードする付加的ORFを含んでもよい。この付加的タンパク質はRAFまたはDと呼ばれる。RAFまたはD遺伝子をコードするORFは、例えば、2μmプラスミドおよびpSM1に見られる。よって、RAFまたはD ORFは、2μmプラスミドまたはpSM1によりコードされているRAFまたはD遺伝子ORFのタンパク質産物、またはその変異体および断片をコードするのに好適な配列を含み得る。よって、2μmプラスミドまたはpSM1のRAFまたはD遺伝子のタンパク質産物の変異体および断片もまた本発明に含まれる。2μmプラスミドまたはpSM1のRAFまたはD遺伝子のタンパク質産物の「断片」および「変異体」は、天然ORFの代わりに2μmプラスミドまたはpSM1によりコードされていても、好適な酵母集団内でのプラスミドの安定なマルチコピー維持を妨げないものである。このような変異体および断片は、通常、2μmプラスミドまたはpSM1によりコードされているRAFまたはD遺伝子ORFのタンパク質産物と少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%またはそれ以上の相同性を有する。
本発明によれば、REP2遺伝子またはFLP遺伝子の少なくともいずれか一方の最後の機能的コドンの1つ後の塩基と、該遺伝子に隣接する逆方向反復内のFRT部位の1つ前の塩基との間に、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を含んでなる2μm系プラスミドが提供される。
ポリヌクレオチド配列挿入は、プラスミドに挿入される任意の付加的ポリヌクレオチド配列である。好ましいポリヌクレオチド配列挿入は以下に説明する。欠失とは、1以上の塩基対の除去、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000まで、またはそれ以上の塩基対の除去であり、これはDNA配列内の1つの連続配列としてのものでも、離れた領域からのものでもよい。置換とは、1以上の塩基対の置き換え、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000まで、またはそれ以上の塩基対の置き換えであり、これはDNA配列内の1つの連続配列としてのものでも、離れた領域からのものでもよい。挿入、欠失または置換のいずれか2つ、あるいは3つ総てで領域を改変することもできる。
REP2遺伝子またはFLP遺伝子のいずれかの最後の機能的コドンとは、Chinery & Hinchliffe (1989, Cuir. Genet., 16, 21-25)で定義されるような試験によって判定した場合に、そのコドンを停止コドンで置換するとプラスミドのマルチコピー安定性に許容されない低下が起こるという、遺伝子のプロモーターから最下流にある該遺伝子のオープンリーディングフレームのコドンである。例えば、接種または継代培養計画に修正を加えることで、目的の世代数まで指数関数的対数増殖を維持するためには、Chinery & Hinchcliffeによって定義された試験を改変するのが適当であろう。これは、分析下の宿主株とChinery & Hinchcliffeが用いたS.セレビシエS150−2Bの間の違いを説明する助けとなり、かつ/あるいは2μm様プラスミドの小US領域内の挿入部位、ならびに/または2μm様プラスミド内の挿入配列および/もしくは2μm様プラスミドの他所の挿入の大きさおよび性質など、2μm様プラスミドの他の違いの同定によって判定できるアッセイ下のプラスミドの個々の特徴に対して試験を最適化する助けとなり得る。Chinery & Hinchliffe (1989, Curr. Geneet., 16, 21-25)で定義されている非選択培地(YPD、YEPDとも呼ばれる)で増殖しない酵母には、他の非選択培地を用いてもよい。好適な別の非選択培地は、一般に、目的の世代数まで指数関数的対数増殖を可能とするものである。例えば、スクロースまたはグルコースを択一的炭素源として用いてもよい。プラスミドの安定性は、所定の世代数の後の、選択マーカーに対して原栄養性を残している細胞のパーセンテージとして定義することができる。世代数は、好ましくは、pSAC35またはpSAC310などの対照プラスミドとの違いを示すのに十分なものであるか、またはこのような対照プラスミドに匹敵する安定性を示すのに十分なものである。世代数は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれ以上であってよい。世代数は多いほうが好ましい。許容されるプラスミド安定性は、1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%または実質的に100%であり得る。パーセンテージは高いほうが好ましい。当業者ならば、プラスミドが非選択培地で増殖させた際には100%に満たない安定性であったとしても、選択培地で培養する場合にも使用できることが分かるであろう。例えば、実施例に記載されているプラスミドpDB2711は、実施例1に従って安定性を判定した場合には10%に過ぎなかったが、選択増殖条件下での振盪フラスコ培養では組換えトランスフェリン生産性に1.5倍の増強をもたらす。
よって、REP2またはFLP遺伝子を、どちらかの遺伝子における最後の機能的コドンの下流のいずれの点でポリヌクレオチド配列挿入、欠失または置換により分断しても、プラスミドのマルチコピー安定性の許容されない低下には至らない。本発明者らは、驚くべきことに、2μmプラスミドのFLP遺伝子をコドン59の後で分断できること、および2μmプラスミドのREP2遺伝子をコドン344の後で分断できること、そして、いずれもそのプラスミドのマルチコピー安定性に許容されない低下をもたらさないことを見出した。他の2μm系プラスミドにおける等価の遺伝子の最後の機能的コドンは、通常、上記のように関連遺伝子を改変し、安定性を判定することによって決定することができる。よって、一般に、本発明による改変プラスミドは、それらに対して行われた改変がプラスミドのマルチコピー安定性に許容されない低下をもたらさないという点で安定である。
本発明による2μmプラスミドにおけるREP2およびFLP遺伝子は、それぞれ隣接する逆方向反復を有する。逆方向反復は、(逆転させれば)同じプラスミド内の別の逆方向反復と一致するので、確認することができる。「隣接する」とは、FLPまたはREP2遺伝子およびその逆方向反復が、例えば2μmプラスミドに見られるようにコード配列に介在することなく、逆方向反復が遺伝子の遠位末端に来るように隣接していることを意味する。ここで「遠位末端」とは、プロモーターが転写を開始する末端とは反対側の遺伝子の末端を意味する。好ましい実施態様では、この遺伝子の遠位末端は逆方向反復と重複する。
本発明の第一の好ましい態様によれば、ポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換は、REP2遺伝子の最後の機能的コドンの1つ後の塩基と、該遺伝子に隣接する逆方向反復内のFRT部位の1つ前の塩基との間、好ましくは、逆方向反復の最初の塩基とFRT部位の1つ前の塩基との間、より好ましくは、REP2遺伝子の翻訳終結コドンの後の位置とFRT部位の1つ前の塩基との間に存在する。
ここで「〜の間」とは、定義された外側の限界点を含み、従って、例えば、「REP2遺伝子の最後の機能的コドンの1つ後の塩基とFRT部位の1つ前の塩基との間」の挿入、欠失および/または置換は、REP2遺伝子の最後の機能的コドンの1つ後の塩基における挿入、欠失および/または置換と、FRT部位の1つ前の塩基における挿入、欠失および/または置換を含む。
本発明の第二の好ましい態様によれば、ポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換は、FLP遺伝子の最後の機能的コドンの1つ後の塩基と、該遺伝子に隣接する逆方向反復内のFRT部位の1つ前の塩基との間、好ましくは、逆方向反復の最初の塩基とFRT部位の1つ前の塩基との間、より好ましくは、FLPコード配列の終末端の1つ後の塩基とFRT部位の1つ前の塩基との間、例えば、FLPコード配列の終末端の1つ後の塩基に存在する。このポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換は、FLPの終末端の1つ後の塩基と逆方向反復内のFspI部位との間に存在してもよいが、場合によっては、FspI部位内にはない。
一つの実施態様では、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、FLP遺伝子および/またはREP2遺伝子は、天然2μm系プラスミドに由来する、それぞれFLP遺伝子および/またはREP2遺伝子の配列を有する。
「〜に由来する」とは、それらが由来する配列と同一の配列を有する配列を含む。しかしながら、上記で定義したように、その変異体および断片も含まれる。例えば、2μmプラスミドのFLP遺伝子に由来する配列を有するFLP遺伝子は、改変型プロモーターまたは天然遺伝子のものに匹敵する他の調節配列を有してもよい。あるいは、2μmプラスミドのFLP遺伝子に由来する配列を有するFLP遺伝子は、天然遺伝子と同じタンパク質をコードし得るか、または改変FLPタンパク質をコードし得るオープンリーディングフレーム内に、改変されたヌクレオチド配列を有していてもよい。同じ考え方が、特定の供給源に由来する配列を有するREP2遺伝子にも当てはまる。
天然2μm系プラスミドは、2μm系プラスミドに不可欠な特徴として上記で定義した特徴を有するいずれのプラスミドであってもよく、このプラスミドは酵母に天然に存在することが分かっており、すなわち、異種配列を含むように組換え改変されていない。好ましくは、天然2μm系プラスミドは、チゴサッカロミセス・ルクシーから得られるようなpSR1(受託番号X02398)、pSB3(受託番号X02608)またはpSB4、双方ともチゴサッカロミセス・バイリーから得られるようなpSB1またはpSB2(受託番号NC_002055またはM18274)、チゴサッカロミセス・フェルメンタチから得られるようなpSM1(受託番号NC_002054)、クルイベロミセス・ドロソフィラルムから得られるようなpKD1(受託番号X03961)、ピキア・メンブラネファシエンスから得られるようなpPM1、または最も好ましくは、サッカロミセス・セレビシエから得られるような2μmプラスミド(受託番号NC_001398またはJ01347)から選択される。受託番号はNCBIにおける寄託物を参照したものである。
好ましくは、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、該FLPおよび/またはREP2遺伝子に隣接する逆方向反復の配列は、その遺伝子が由来する配列と同じ天然2μm系プラスミドの対応逆方向反復の配列に由来している。よって、例えば、FLP遺伝子がS.セレビシエから得られるような2μmプラスミドに由来しているならば、FLP遺伝子に隣接する逆方向反復は、S.セレビシエから得られるような2μmプラスミドにおけるFLP遺伝子に隣接する逆方向反復に由来する配列を有することが好ましい。REP2遺伝子がS.セレビシエから得られるような2μmプラスミドに由来しているならば、REP2遺伝子に隣接する逆方向反復は、S.セレビシエから得られるような2μmプラスミドにおけるREP2遺伝子に隣接している逆方向反復に由来する配列を有することが好ましい。
ここで、本発明の第一の好ましい態様によれば、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、REP2遺伝子および逆方向反復配列がS.セレビシエから得られるような2μmプラスミドの対応領域に由来する配列を有している場合には、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換は、REP遺伝子のコドン59の最初の塩基と、隣接する逆方向反復内のFRT部位の1つ前の塩基の間の位置に存在するのが好ましく、逆方向反復の最初の塩基とFRT部位の1つ前の塩基との間の位置に存在するのがより好ましく、REP2遺伝子の翻訳終結コドンの後の位置とFRT部位の1つ前の塩基との間に存在するのがさらに好ましく、例えば、REP2コード配列の終末端の1つ後の塩基に存在する。
ここで、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、REP2遺伝子および逆方向反復配列はS.セレビシエから得られるような2μmプラスミドの対応領域に由来する配列を有し、一つの態様では、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、REP2遺伝子および隣接する逆方向反復の配列は配列番号1で定義されるようなもの、またはその変異体である。配列番号1では、REP2遺伝子のコドン59の第一の塩基は塩基番号175で表され、FRT部位の1つ前の塩基は塩基番号1216で表される。ここで示したFRT配列は、Sadowski et al, 1986, pp7-10, Mechanisms of Yeast Recombination (Current Communications in Molecular Biology) CSHL. Ed. Klar, A. Strathern, J. N.からの55塩基対の配列である。配列番号1では、逆方向反復の最初の塩基は塩基番号887で表され、REP2遺伝子の翻訳終結コドンの1つ後の塩基は塩基番号892で表される。
本発明の第一の態様のさらに好ましい実施態様によれば、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、REP2遺伝子および逆方向反復配列は、S.セレビシエから得られるような2μmのプラスミドの対応領域に由来する配列を有し、ポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換による介在がない場合には逆方向反復内にXcmI部位またはFspI部位を含み、このポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換はXcmI部位またはFspI部位に存在する。配列番号1では、XcmI部位は塩基番号935〜949で表され、FspI部位は塩基番号1172〜1177で表される。
ここで、本発明の第二の好ましい態様によれば、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、FLP遺伝子および隣接する逆方向反復配列は、S.セレビシエから得られるような2μmプラスミドの対応領域に由来する配列を有し、このポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換は、FLP遺伝子のコドン344の最初の塩基とFRT部位の1つ前の塩基との間に存在するのが好ましく、逆方向反復の最初の塩基とFRT部位の1つ前の塩基との間に存在するのがより好ましく、FLPコード配列の終末端の1つ後の塩基とFRT部位の1つ前の塩基との間に存在するのがさらに好ましく、例えば、FLPコード配列の終末端の1つ後の塩基に存在する。FLP遺伝子とFRT部位の間のFspI部位は挿入部位として避けることができる。
ここで、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、FLP遺伝子および隣接する逆方向反復配列は、S.セレビシエから得られるような2μmプラスミドの対応領域に由来する配列を有し、一つの実施態様では、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、FLP遺伝子とFLP遺伝子の後に続く逆方向反復の配列は、配列番号2で定義されるようなもの、またはその変異体である。配列番号2では、FLP遺伝子のコドン344の最初の塩基は塩基番号1030で表され、FRT部位の1つ前の塩基は塩基番号1419で表され、逆方向反復の最初の塩基は塩基番号1090で表され、FLPコード配列の終末端の1つ後の塩基は塩基番号1273で表される。
本発明の第二の好ましい態様のさらに好ましい実施態様によれば、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、FLP遺伝子および隣接する逆方向反復配列は、S.セレビシエから得られるような2μmプラスミドの対応領域に由来する配列を有し、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換が存在しない場合には、逆方向反復内にHgaI部位またはFspI部位を含み、ポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換は、HgaI部位上のHgaIの作用により生じる切断部(HgaIはそれが認識する5bpの配列の外側を切断する)か、またはFspI部に存在する。配列番号2では、HgaI部位は塩基番号1262〜1266で表され、FspI部位は塩基番号1375〜1380で表される。
当業者ならば、本発明の第一および第二の好ましい態様によって定義されたプラスミドの特徴が相容れないものではないことが分かるであろう。よって、本発明の第三の好ましい態様によるプラスミドは、REP2遺伝子およびFLP遺伝子の双方の最後の機能的コドンの1つ後の塩基と、該遺伝子の各々に隣接する逆方向反復内のFRT部位の1つ前の塩基との間にポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換を含むことができ、これらのポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換は同じであっても異なっていてもよい。例えば、本発明の第三の態様によるプラスミドは、ポリヌクレオチド配列の挿入、欠失および/または置換を除き、配列番号1の配列またはその変異体と配列番号2の配列またはその変異体を含み、その各々は、それぞれ本発明の第一および第二の好ましい態様に関して上記で定義したような位置にポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換を含む。
当業者ならば、本発明の第一、第二および第三の好ましい態様によって定義されたプラスミドの特徴が他の配列改変も有するプラスミドの可能性を排除するものではないことが分かるであろう。よって、本発明の第一、第二および第三の好ましい態様による2μm系プラスミドは、上記で定義した位置にはないポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換もさらに含み得る。従って、このプラスミドは、本発明による挿入部位以外の部位にも導入遺伝子をさらに含み得る。
2μmプラスミドにおける別の挿入部位も当技術分野では公知であるが、本発明によって定義される挿入部位を用いる利点が得られない。しかしながら、やはり、当技術分野で公知の部位におけるポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換をすでに含んでいるプラスミドを、本発明の第一、第二および第三の好ましい態様によって定義される1以上の部位において1以上のさらなる改変を作出することによりさらに改変することができる。当業者ならば、本明細書の導入部で述べたように、本発明の第一および第二の態様によって定義されたもの以外の2μm系プラスミドの部位における導入遺伝子の挿入の際に存在する大きな技術的限界があることが分かるであろう。
当技術分野で公知の典型的な改変型2μmプラスミドとしては、Rose & Broach (1990, Methods Enzymol., 185, 234-279)に記載されているもの、例えば、FLPのEcoRIにおける挿入を用いるプラスミドpCV19、pCV20、CVneo;DのEcoRIを挿入部位として用いるプラスミドpCV21、pGT41およびpYE;DのPstIを挿入部位として用いるプラスミドpHKB52;DのPstIおよびDのEcoRIにおける挿入を用いるプラスミドpJDB248;DのPstIおよびFLPのEcoRIを挿入部位として用いるプラスミドpJDB219;プラスミドG18;FLPのClaIにおける挿入を用いる、プラスミドpAB18;プラスミドpGT39およびpA3;DのPstIを挿入部位として用いるプラスミドpYT11、pYT14およびpYT11−LEU;ならびにFLPのEcoRIを挿入部位として用いるプラスミドPTY39が挙げられる。他の2μmプラスミドとしては、pSAC3、pSAC3U1、pSAC3U2、pSAC300、pSAC310、pSAC3C1、pSAC3PL1、pSAC3SL4、およびpSAC3SC1が挙げられ、EP0286424およびChinery & Hinchliffe (1989, Curr, Genet., 16, 21-25)に記載されており、これにはまた適当な2μm挿入部位としてPstI、EagIまたはSnaBIが記載されている。2μmプラスミドとしては、さらに、pAYE255、pAYE316、pAYE443、pAYE522(Kerry-Williams et al, 1998, Yeast, 14, 161-169)、pDB2244(WO00/44772)およびpAYE329(Sleep et al, 2001, Yeast, 18, 403-421)が挙げられる。
一つの好ましい実施態様では、本発明の第一、第二および第三の態様によって定義される2μm系プラスミドはさらに、ARS配列の前後の非転写領域内に存在するポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換を含む。例えば、S.セレビシエから得られる2μmプラスミドでは、このARS配列前後の非転写領域はD遺伝子の終末端からARS配列の開始部にまで及ぶ。SnaBIへの挿入(配列ARSの複製起点付近)はChinery & Hinchliffe, 1989, Curr. Genet., 16, 21-25に記載されている。当業者ならば、付加的なポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換は、Chinery & Hinchliffeにより記載されている非転写領域内のSnaBI部位付近の位置に存在し得ることが分かるであろう。
本発明の第一、第二および第三態様のいずれかによるプラスミドは、酵母、例えば、サッカロミセス属、クルイベロミセス属、チゴサッカロミセス属またはピキア属のメンバー、例えば、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・カルルスベルゲネシス、クルイベロミセス・ラクチス、ピキア・パストリスおよびピキア・メンブラネファシエンス、チゴサッカロミセス・ルクシー、チゴサッカロミセス・バイリー、チゴサッカロミセス・フェルメンタチ、またはクルイベロミセス・ドロソフィラルムにおいて自己複製可能なプラスミドであり得る。S.セレビシエおよびS.カルルスベルゲネシスが既知の総ての2μmプラスミドの自己複製に好適な宿主細胞となると考えられる。
好ましい実施態様では、本発明による2μm系プラスミドに含まれている前記ポリヌクレオチド配列挿入、欠失および/または置換、またはその少なくとも一つは、ポリヌクレオチド配列挿入とされる。プラスミドの安定性に対して許容されないほどの害がない限り、どんなポリヌクレオチド配列挿入でも使用可能であり、これは、このプラスミドが非改変プラスミドに比べて、YEPDなどの非選択培地上で少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%または実質的に100%安定であることを意味し、この最後のものは100%の安定性と呼ばれる。好ましくは、上述の安定性のレベルは、培養培地中で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれ以上の世代の間、改変型プラスミドおよび非改変型プラスミドを含む酵母細胞を個別に培養した後に見られる。
プラスミドが選択マーカーを含む場合、形質転換体を選択条件下(例えば、最小培地中)で増殖させると、この培地はプラスミドを保持するように宿主に選択圧をかけることができるので、高いレベルの安定性が得られる。
非選択培地および選択(例えば、最小)培地における安定性は、上記した方法を用いて判定することができる。選択培地における安定性は、そのプラスミドを用いて酵母を原栄養性へと形質転換できるかどうかを調べることによって証明することができる。
一般に、ポリヌクレオチド配列挿入は、少なくとも4、6、8、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500塩基対またはそれ以上の長さである。通常、このポリヌクレオチド配列挿入は、1kb、2kb、3kb、4kb、5kb、6kb、7kb、8kb、9kb、10kbまで、またはそれ以上の長さである。当業者ならば、本発明による2μmプラスミドはプラスミド内の異なる部位に複数のポリヌクレオチド配列挿入を含み得ることが分かるであろう。一般に、ポリヌクレオチド配列挿入の全長は、多くとも5kb、10kb、15kb、20kb、25kbまたは30kであるが、それより大きい全長の挿入も可能である。
このポリヌクレオチド配列は、新たな制限部位を導入するために用いるリンカー配列であってもなくてもよい。例えば、さらなる制限部位(例えば、BamHI)を導入するために、合成リンカーをFLP遺伝子の後のFspI部位に導入してもしなくてもよい。
このポリヌクレオチド配列挿入は転写領域を含んでもよいし、転写領域を含まなくてもよい。転写領域はオープンリーディングフレームをコードしてもよいし、非コードでもよい。このポリヌクレオチド配列挿入は転写領域と非転写領域の双方を含んでもよい。
転写領域とは、RNAポリメラーゼ、一般には酵母RNAポリメラーゼによって転写可能なDNAの領域である。転写領域は機能的RNA分子、例えば、リボゾームRNAもしくはトランスファーRNA、またはアンチセンスもしくはRNA干渉(「RNAi」)分子として働き得るRNA分子をコードすることができる。あるいは、転写領域はメッセンジャーRNA分子(mRNA)をコードすることができ、このmRNAは、in vivoで翻訳されてタンパク質を産生できるオープンリーディングフレーム(ORF)を含むことができる。本明細書において「タンパク質」とは、天然および非天然のタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドのあらゆるものを含む。好ましくは、ORFは異種タンパク質をコードしている。「異種タンパク質」とは、2μm系プラスミドにより、天然ではコードされていないタンパク質(すなわち、「非2μm系プラスミドタンパク質」)を意味する。便宜上、「異種タンパク質」および「非2μm系プラスミドタンパク質」は、本明細書を通じて同義で用いる。よって、好ましくは、異種タンパク質は、Z.ルクシーから得られるようなpSR1、pSB3またはpSB4;双方ともZ.バイリーから得られるようなpSB1またはpSB2;Z.フェルメンタチから得られるようなpSM1;K.ドロソフィラルムから得られるようなpKD1;P.メンブラネファシエンスから得られるようなpPM1;およびS.セレビシエから得られるような2μmプラスミドのいずれか一つによりコードされているFLP、REP1、REP2、またはRAF/Dタンパク質ではない。
ポリヌクレオチド配列挿入がオープンリーディングフレームをコードしている場合、それは、オープンリーディングフレームをコードしてないポリヌクレオチド配列(「非コード領域」と呼ばれる)もいくらかさらに含んでもよい。
ポリヌクレオチド配列挿入中の非コード領域は、オープンリーディングフレームに作動可能なように連結された1以上の調節配列を含んでよく、これにより、オープンリーディングフレームの転写および/またはその結果生じた転写物の翻訳が可能となる。
「調節配列」とは、それが作動可能なように連結されたオープンリーディングフレームの発現(すなわち、転写および/または翻訳)を調節する(すなわち、促進する、または低下させる)配列を意味する。調節領域は一般に、プロモーター、ターミネーター、リボソーム結合部位などを含む。当業者ならば、調節領域の選択が意図する発現系によって異なることが分かるであろう。例えば、プロモーターは構成型であっても誘導型であってもよく、細胞種または組織種に特異的であっても非特異的であってもよい。
発現系がサッカロミセス・セレビシエなどの酵母である場合、S.セレビシエの好適なプロモーターとしては、PGK1遺伝子、GAL1またはGAL10遺伝子、TEF1、TEF2、PYK1、PMA1、CYC1、PHO5、TRP1、4DH1、ADH2、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、グルコキナーゼ、α−接合因子フェロモン、a−接合因子フェロモン、PRB1プロモーター、PRA1プロモーター、GPD1プロモーター、および5’調節領域の部分と他のプロモーターの5’調節領域の部分との、または上流活性化部位とのハイブリッドを含むハイブリッドプロモーター(例えば、EP−A−258067のプロモーター)と会合するものが挙げられる。
好適な転写終結シグナルは当技術分野で周知のものである。宿主細胞が真核生物である場合、転写終結シグナルは、好ましくは転写終結およびポリアデニル化に適切なシグナルを含む真核生物遺伝子の3’フランキング配列に由来するものである。好適な3’フランキング配列は、例えば、用いる発現制御配列に本来会合している遺伝子のものであってよく、すなわち、そのプロモーターに対応し得る。あるいは、それらは異なってもよい。その場合、宿主が酵母、好ましくはS.セレビシエ、であれば、S.セレビシエADH1、ADH2、CYC1、またはPGK1遺伝子の終結シグナルが好ましい。
2μm遺伝子などの隣接する遺伝子への転写の読み過ごしを防ぐためには、シャペロンPDI1のものなど、異種遺伝子のプロモーターおよびオープンリーディングフレームに転写終結配列がフランキングしていて、転写終結配列がプロモーターおよびオープンリーディングフレームの上流および下流の双方に配置されていることが有利であり得る(また、その逆の場合もある)。
一つの実施態様では、サッカロミセス・セレビシエなどの酵母において有利な調節配列としては、EP431880で教示されているような酵母プロモーター(例えば、サッカロミセス・セレビシエPRB1プロモーター);および転写ターミネーター、好ましくはEP60057で教示されているようなサッカロミセスADH1由来のターミネーターが挙げられる。
翻訳の読み過ごしを最小限とし、ひいては、延長された非天然融合タンパク質の生産を避けるためには、非コード領域には、UAA、UAGまたはUGAなどの翻訳停止コドンをコードする1を超えるDNA配列を組み込むことが有利であり得る。翻訳停止コドンUAAが好ましい。好ましくは、少なくとも2つの翻訳停止コドンを組み込む。
「作動可能なように連結される」とは、その意味の範囲内に、調節配列が、その調節領域が意図した様式でオープンリーディングフレームに作用を発揮できるオープンリーディングフレームとの関係を形成するように非コード領域内に配置されることを含む。このように、オープンリーディングフレームに「作動可能なように連結される」調節領域は、その調節領域が、調節配列に適合した条件下、意図した様式でオープンリーディングフレームの転写および/または翻訳に影響を及ぼし得るように配置される。
本発明の第一、第二または第三の態様によって定義されるポリヌクレオチド配列挿入が、タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む場合、コードされているタンパク質が分泌されるのが有利であり得る。この場合、分泌リーダー配列をコードする配列がオープンリーディングフレームに含まれていてよい。
酵母サッカロミセス・セレビシエ、チゴサッカロミセス種、クルイベロミセス・ラクチスおよびピキア・パストリスなどの真核生物種におけるタンパク質の生産では、既知のリーダー配列としては、S.セレビシエ酸性ホスファターゼタンパク質(Pho5p)(EP366400参照)、インベルターゼタンパク質(Suc2p)(Smith et al. (1985) Science, 229, 1219-1224参照)および熱ショックタンパク質−150(Hsp150p)(WO95/33833参照)由来のものが挙げられる。さらに、S.セレビシエ接合因子α−1タンパク質(MFα−1)由来、ならびにヒトリゾチームおよびヒト血清アルブミン(HSA)タンパク質由来のリーダー配列が使用されており、ヒトアルブミン分泌のためには後者のものが特に使用されているが、他を排除するものではない。WO90/01063は、MFα−1とHSAリーダー配列の融合を記載しており、これはMFα−1リーダー配列を使用するよりも、混入するヒトアルブミン断片の生産を有利に減じる。さらに、天然トランスフェリンリーダー配列を用いて、トランスフェリンおよび他の異種タンパク質の分泌を指示してもよい。
あるいは、コードされているタンパク質は細胞内のものであってもよい。
1つの好ましい実施態様では、本発明の第一、第二または第三の態様によって定義される少なくとも一つのポリヌクレオチド配列挿入には、酵母タンパク質をコードする配列を含むオープンリーディングフレームが含まれる。もう1つの好ましい実施態様では、本発明の第一、第二または第三の態様によって定義される少なくとも一つのポリヌクレオチド配列挿入には、2μm様プラスミドが由来している同じ宿主からの酵母タンパク質をコードする配列を含むオープンリーディングフレームが含まれる。
もう1つの好ましい実施態様では、、本発明の第一、第二または第三の態様によって定義される少なくとも一つのポリヌクレオチド配列挿入には、タンパク質フォールディングに関与するか、またはシャペロン活性を有するか、または折り畳み異常タンパク質応答に関与するタンパク質をコードする配列を含むオープンリーディングフレームが含まれる(スタンフォードゲノムデータベース(SGD)、http:://db.yeastgenome.org)。好ましいタンパク質は、AHA1、CCT2、CCT3、CCT4、CCT5、CCT6、CCT7、CCT8、CNS1、CPR3、CPR6、ERO1、EUG1、FMO1、HCH1、HSP10、HSP12、HSP104、HSP26、HSP30、HSP42、HSP60、HSP78、HSP82、JEM1、MDJ1、MDJ2、MPD1、MPD2、PDI1、PFD1、ABC1、APJ1、ATP11、ATP12、BTT1、CDC37、CNS1、CPR6、CPR7、HSC82、KAR2、LHS1、MGE1、MRS11、NOB1、ECM10、SSA1、SSA2、SSA3、SSA4、SSC1、SSE2、SIL1、SLS1、ORM1、UBI4、ORM2、PER1、PTC2、PSE1およびHAC1または末端切断型イントロンレスHAC1(Valkonen et al. 2003, Applied Environ. Micro. 69, 2065)によりコードされているタンパク質から選択することができる。
タンパク質フォールディングに関与する好ましいタンパク質、またはシャペロン活性を有するタンパク質、または折り畳み異常タンパク質応答に関与するタンパク質としては次のものが挙げられる。
・熱ショックタンパク質、例えば、hsp70ファミリータンパク質のメンバーであるタンパク質(Kar2p、SSAおよびSSBタンパク質、例えば、SSA1、SSA2、SSA3、SSA4、SSB1およびSSB2タンパク質によりコードされているタンパク質を含む)、HSP90ファミリーのメンバーであるタンパク質、またはHSP40ファミリーのメンバーであるタンパク質もしくはそれらの調節に関与するタンパク質(例えば、Sillp)(DNA−JおよびDNA−J様タンパク質(例えば、Jem1p、Mdj2pを含む)。
・カリオフェリン/インポーチンファミリータンパク質のメンバーであるタンパク質、例えば、カリオフェリン/インポーチンタンパク質のαまたはBファミリー、例えば、PSE1によりコードされているカリオフェリンβタンパク質。
・Hjelmqvist et al, 2002, Genome Biology, 3(6), research0027.1-0027.16が記載しているORMDLファミリーのメンバーであるタンパク質、例えばOrm2p。
・小胞体または分泌経路の他所、例えばゴルジ体に本来存在するタンパク質。例えば、小胞体(ER)の管腔、特にPDIなどの分泌細胞で本来働くタンパク質。
・ERに固定されているトランスメンブランタンパク質であるタンパク質、例えば、Hjelmqvist et al, 2002, 前掲が記載しているORMDLファミリーのメンバー(例えば、Orm2p)。
・サイトゾルで働くタンパク質、例えば、hsp70タンパク質(SSAおよびSSBタンパク質、例えば、SSA1、SSA2、SSA3、SSA4、SSB1およびSSB2によりコードされているタンパク質を含む)。
・核、核エンベロープおよび/または細胞質で働くタンパク質、例えば、Pse1p。
・細胞の生存力に必須のタンパク質、例えば、PDIまたは必須カリオフェリンタンパク質、例えば、Pse1p。
・スルヒドリル酸化またはジスルフィド結合の形成、切断または異性化に関与するタンパク質、または特に分離タンパク質および細胞表面タンパク質の生合成中にタンパク質のチオール:ジスルフィド交換反応を触媒するタンパク質、例えば、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(例えば、Pdi1p、Mpd1p)、ホモログ(例えば、Eug1p)および/または関連タンパク質(例えば、Mpd2p、Fmo1p、Ero1p)。
・タンパク質合成、アセンブリまたはフォールディングに関与するタンパク質、例えば、PDIおよびSsa1p。
・成熟タンパク質よりも折り畳まれていないタンパク質に優先的または排他的に結合するタンパク質、例えば、hsp70タンパク質(SSAおよびSSBタンパク質、例えば、SSA1、SSA2、SSA3、SSA4、SSB1およびSSB2によりコードされているタンパク質)。
・サイトゾルにおいて前駆体タンパク質の凝集を防ぐタンパク質、例えば、hsp70タンパク質(SSAおよびSSBタンパク質、例えば、SSA1、SSA2、SSA3、SSA4、SSB1およびSSB2によりコードされているタンパク質)。
・損傷したタンパク質に結合して安定化させるタンパク質、例えば、Ssa1p。
・折り畳み異常タンパク質応答に関与するか、または折り畳み異常タンパク質応答を誘導する薬剤(例えば、ツニカマイシンおよびジチオトレイトール)に対する耐性の増強をもたらすタンパク質、例えば、Hjelmqvist et al, 2002, 前掲が記載しているORMDLファミリーの(例えば、Orm2p)またはストレス応答に関与する(例えば、Ubi4p)。
・コシャペロンであるタンパク質、ならびに/または タンパク質フォールディングおよび/もしくは折り畳み異常タンパク質応答に間接的に関与するタンパク質(例えば、hsp104p、Mdj1p)。
・高分子の核−細胞質間輸送に関与するタンパク質、例えば、Pse1p。
・核局在配列と核輸出配列を認識し、核膜孔複合体と相互作用することにより、核膜を通過する高分子の輸送を媒介するタンパク質、例えば、Pse1p。
・EP0746611およびHillson et al, 1984, Methods Enzymol., 107, 281-292に記載されているようなスクランブルリボヌクレアーゼのDNAに対してリボヌクレアーゼ活性を復活させ得るタンパク質、例えば、PDI。
・酸性pI(例えば、4.0〜4.5)を有するタンパク質、例えば、PDI。
・Hsp70ファミリーのメンバーであり、好ましくは、N末端ATP結合ドメインとC末端ペプチド結合ドメインを有するタンパク質、例えば、Ssa1p。
・ペプチジル−プロリルシス−トランスイソメラーゼであるタンパク質(例えば、Cpr3p、Cpr6p)。
・既知シャペロンのホモログであるタンパク質(例えば、Hsp10p)。
・ミトコンドリアシャペロンであるタンパク質(例えば、Cpr3p)。
・細胞質または核シャペロンであるタンパク質(例えば、Cns1p)。
・膜結合シャペロンであるタンパク質(例えば、Orm2p、Fmo1p)。
・シャペロンアクチベーター活性またはシャペロンレギュレーター活性を有するタンパク質(例えば、Aha1p、Hac1p、Hch1p)。
・未熟型のタンパク質と一時的に結合して適切なフォールディング輸送、および/または分泌誘導するタンパク質、例えば、小胞体への効率的な輸送に必要なタンパク質(例えば、Lhs1p)またはそれらの細胞内の作用部位に必要なタンパク質(例えば、PseIp)。
・タンパク質複合体アセンブリおよび/またはリボソームアセンブリに関与するタンパク質(例えば、Atp11p、PseIp、Nob1p)。
・シャペロニンT複合体のンパク質(例えば、Cct2p)。または
・プレフォルディン複合体のタンパク質(例えば、Pfd1p)。
1つの好ましいシャペロンは、小胞体(ER)の管腔内でジスルフィド結合の形成を触媒することのできる等価物を有するタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI)またはその断片もしくは変異体である。「PDI」とは、EP0746611およびHillson et al, 1984, Methods Enzymol., 107, 281-292に記載されているようなスクランブルリボヌクレアーゼのRNAに対するリボヌクレアーゼ活性を復活させる能力を有するいずれのタンパク質も含む。
タンパク質ジスルフィドイソメラーゼは、一般にチオール:ジスルフィド交換反応を触媒する酵素であり、分泌細胞のE.R.管腔の主要な常在タンパク質成分である。一連の証拠は、それが分泌タンパク質の生合成において役割を果たすことを示唆し(Freedman, 1984, Trends Biochem. Sci., 9, 438-41)、これはin situにおける直接的架橋研究によっても裏付けられている(Roth and Pierce, 1987, Biochemistry, 26,4179-82)。PDIが欠損しているミクロソーム膜が同時翻訳タンパク質のジスルフィド形成に特異的な欠陥を示すという知見(Bulleid and Freedman, 1988, Nature, 335, 649-51)は、この酵素が、分泌タンパク質および細胞表面タンパク質の生合成の際に本来のジスルフィド結合形成の触媒として働くことを意味する。この役割はin vitroにおいてこの酵素の触媒特性に関して知られているものと一致し、チオール:ジスルフィド交換反応を触媒し、正味のタンパク質ジスルフィド、切断または異性化をもたらし、また、一般に、多様な還元型の折り畳まれていないタンパク質基質におけるタンパク質フォールディングおよび本来のジスルフィド結合の形成を触媒することができる(Freedman et al., 1989, Biochem. Soc. Symp., 55, 167-192)。また、PDIは、イソメラーゼ活性を欠いた変異型PDIがタンパク質フォールディングを加速させるので、シャペロンとしても働く(Hayano et al, 1995, FEBS Letters, 377, 505-511)。最近、ジスルフィドの異性化ではなく、スルヒドリルの酸化がS.セレビシエにおいてタンパク質ジスルフィドイソメラーゼの主要な機能であることが報告された(Solovyov et al., 2004, J. Biol. Chem., 279 (33) 34095-34100)。酵素のDNAおよびアミノ酸配列はいくつかの種では既知であり(Scherens et al, 1991, Yeast, 7, 185-193; Farquhar et al, 1991, Gene, 108, 81-89;EP074661;EP0293793;EP0509841)、哺乳類肝臓から均一となるまで精製された酵素の作用機序に関する情報が増えつつある(Creighton et al, 1980, J Mol. Biol., 142, 43-62; Freedman et al, 1988, Biochem. Soc. Trans., 16, 96-9; Gilbert, 1989, Biochemistry, 28, 7298-7305; Lundstrom and Holmgren, 1990, J. Biol. Chem., 265, 9114-9120; Hawkins and Freedman, 1990, Biochem. J., 275, 335-339)。これまでに細胞においてタンパク質フォールディング、アセンブリおよび輸送のメディエーターとして含められている多くのタンパク質因子(Rothman, 1989, Cell, 59, 591-601)のうち、PDIは十分適宜された触媒活性を有する。
宿主における内在性PDI遺伝子の欠失または不活性化の結果、生存力のない宿主が生じる。言い換えれば、この内在性PDI遺伝子は「必須」遺伝子である。
PDIは哺乳類組織から容易に単離され、この均一な酵素は、特徴的な酸性PI(4.0〜4.5)を伴うホモ二量体(2×57kD)である(Hillson et al, 1984, Meyhods Enzymol., 107, 281-292)。また、この酵素はコムギおよび藻類クラミドモナス・レインハルジー(Chlamydomonas reinhardii)(Kaska et al, 1990, Biochem. J., 268, 63-68)、ラット(Edman et al, 1985, Nature, 317, 267-270)、ウシ(Yamauchi et al, 1987, Biochem. Biophys. Res. Comm., 146, 1485-1492)、ヒト(Pihlajaniemi et al, 1987, EMBO J., 6, 643-9)、酵母(Scherens et al, 前掲; Farquhar et al, 前掲)および雛鳥(Parkkonen et al, 1988, Biochem. J., 256, 1005-1011)からも精製されている。これらの脊椎動物種由来のタンパク質は高度の配列保存性を示し、総てラットPDI配列で最初に示された全体的な特徴を示す(Edman et al., 1985, 前掲)。
酵母タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ前駆体PDI1は、Genbank受託番号CAA42373またはBAA00723として見出すことができる。それは次の522アミノ酸の配列を有する。
別のPDI配列はGenbank受託番号CAA38402として見出すことができる。それは次の530アミノ酸の配列を有する。
上記のPDI配列の変異体および断片、ならびに他の天然PDI配列の変異体も本発明に含まれる。PDIに関して「変異体」とは、1以上の位置においてアミノ酸挿入、欠失または置換(保存的または非保存的)を持ったタンパク質を意味し、ただし、このような変化は、基本的特性、例えば、酵素活性(典型的活性および比活性)、あるpH範囲における熱安定性(pH安定性)が有意に変化していないタンパク質を生じる。ここで「有意に」とは、当業者が、その変異体の特性が異なり得るが、元のタンパク質と比べて不明瞭なものではないとする場合を意味する。
「保存的置換」とは、Val、Ile、Leu、Ala、Met;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr、Gly、Ala;Lys、Arg、His;およびPhe、Tyr、Tipなどの組合せを意図する。好ましい保存的置換としては、Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyrが挙げられる。
「変異体」は、一般に、それが由来するポリペプチドと少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、いっそうより好ましくは少なくとも95%、なおより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
2つのポリペプチド間の配列同一性%は、後述のように、好適なコンピュータープログラムを用いて判定することができる。このような変異体は天然のものであっても、当業者に周知のようなタンパク質工学および部位特異的突然変異誘発の方法を用いて作出されたものであってもよい。
PDIに関して「断片」とは、1以上の位置に欠失が存在しているタンパク質を意味する。よって、断片は完全成熟PDIタンパク質の全配列の多くて5、10、20、30、40または50%、一般に60%まで、より一般には70%まで、好ましくは80%まで、より好ましくは90%まで、いっそうより好ましくは95%まで、なおより好ましくは99%までを含み得る。PDIタンパク質の特に好ましい断片は目的のタンパク質の1以上のドメイン全体を含む。
PDIの断片または変異体は、S.セレビシエなどの宿主細胞において組換え発現させた場合に宿主細胞において内因的にコードされているPDI遺伝子の欠失を補うことができるタンパク質であってもよく、例えば、別の生物、例えば、別の酵母もしくは他の真菌、または別の真核生物、例えば、ヒトもしくは他の脊椎動物、または動物により、あるいは植物によりコードされているホモログのようなPDIの天然ホモログであってもよい。
別の好ましいシャペロンとしては、SSA1、または同等のシャペロン様活性を有するその断片または変異体がある。SSA1は、YG100としても知られ、S.セレビシエゲノムの第I染色体上にあり、1.93kbpの大きさである。
公開されているSSA1のタンパク質配列の1つは次の通りである。
公開されているSSA1のコード配列は次の通りであるが、この配列は、同一のタンパク質産物をコードする別のヌクレオチド配列を得るための縮重置換により改変することができると考えられる。
タンパク質Ssa1pはHsp70ファミリーのタンパク質に属し、サイトゾルに常在している。Hsp70はいくつかのシャペロン活性を遂行する能力を持ち;タンパク質の合成、アセンブリおよびフォールディングを助け;種々の細胞内の場所へにポリペプチドの輸送およびタンパク質凝集塊の溶解を媒介する(Becker & Craig, 1994, Eur. J: Biochem. 219, 11-23)。Hsp70遺伝子は高度に保存され、N末端ATP結合ドメインとC末端ペプチド結合ドメインを有する。Hsp70タンパク質は、主として折り畳まれていないタンパク質のペプチド主鎖と相互作用する。hsp70タンパク質による結合およびペプチドの放出はATP依存的なプロセスであり、hsp70のコンホメーション変化を伴う(Becker & Craig, 1994, 前掲)。
サイトゾルhsp70タンパク質は、特に、タンパク質の合成、フォールディングおよび分泌に関与する(Becker & Craig, 1994, 前掲)。S.セレビシエでは、サイトゾルhsp70タンパク質は、機能的に互いに異なるSSA(SSA1〜4)とSSB(SSB1および2)の2つの群に分けられている。SSAファミリーは、その群のタンパク質の少なくとも一つが細胞の生存力を維持するために活性でなければならないという意味で必須である(Becker & Craig, 1994, 前掲)。サイトゾルhsp70タンパク質は、好ましくは、フォールディングされていない、非成熟タンパク質と結合する。このことは、それらが、サイトゾルにおいて高分子複合体へと組み立てられるまで、それらを非フォールディング状態に維持し、かつ/または種々のオルガネラへのそれらの輸送を促進することにより、前駆体タンパク質の凝集を防ぐということを示唆している(Becker & Craig, 1994, 前掲)。SSAタンパク質は特に、小胞体およびミトコンドリアへ輸送するための前駆体の翻訳後生合成および維持に関与する(Kim et al., 1998, Proe. Natl. Acad. Sci. USA. 95, 12860-12865; Ngosuwan et al., 2003, J. Biol. Chem. 278(9), 7034-7042)。Ssa1pは損傷を受けたタンパク質に結合し、それらを部分的非フォールディング型で安定化させ、再フォールディングまたは分解を生じさせることが示されている(Becker & Craig, 1994, 前掲; Glover & Lindquist, 1998, Cell. 94, 73-82)。
SSA1の変異体および断片も本発明に含まれる。SSA1に関して「変異体」とは、アミノ酸挿入、欠失または置換(保存的または非保存的)を有している1以上の位置以外に関しては天然SSA1の配列を有するタンパク質を意味する(ただし、このような変化は、塩基の特性、例えば、酵素活性(典型的活性および比活性)、熱安定性、あるpH範囲における活性(pH安定性)が有意に変化していないタンパク質をもたらす)。ここで「有意に」とは、当業者が、その変異体の特性が異なり得るが、元のタンパク質と比べて不明瞭なものではないとする場合を意味する。
「保存的置換」とは、Val、Ile、Leu、Ala、Met;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr、Gly、Ala;Lys、Arg、His;およびPhe、Tyr、Trpなどの組合せを意図する。好ましい保存的置換としては、Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyrが挙げられる。
SSA1の「変異体」は、一般に、天然SSA1の配列と少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、いっそうより好ましくはなくとも95%、なおより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
2つのポリペプチド間の配列同一性%は、後述のように、好適なコンピュータープログラムを用いて判定することができる。このような変異体は天然のものであっても、当業者に周知のようなタンパク質工学および部位特異的突然変異誘発の方法を用いて作出されたものであってもよい。
SSA1に関して「断片」とは、欠失が存在している1以上の位置以外は天然SSA1の配列を有するタンパク質を意味する。よって、断片は完全成熟SSA1タンパク質の全配列の多くて5、10、20、30、40または50%、一般に60%まで、より一般には70%まで、好ましくは80%まで、より好ましくは90%まで、いっそうより好ましくは95%まで、なおより好ましくは99%までを含み得る。SSA1タンパク質の特に好ましい断片は目的のタンパク質の1以上のドメイン全体を含む。
SSA1の断片または変異体は、S.セレビシエなどの宿主細胞において組換え発現させた場合に宿主細胞において内因的にコードされているSSA1遺伝子(またはそのホモログ)の欠失を補うことができるタンパク質であってもよく、例えば、別の生物、例えば、別の酵母もしくは他の真菌、または別の真核生物、例えば、ヒトもしくは他の脊椎動物、または動物により、あるいは植物によりコードされているホモログのようなSSA1の天然ホモログであってもよい。
別の好ましいシャペロンとしては、PSE1または同等のシャペロン様活性を有するその断片もしくは変異体がある。
PSEIはKAP121としても知られ、第XIII染色体上にある必須遺伝子である。
公開されているタンパク質pse1pのタンパク質配列は次の通りである。
公開されているPSE1のコード配列は次の通りであるが、この配列は、同一のタンパク質産物をコードする別のヌクレオチド配列を得るための縮重置換により改変することができると考えられる。
PSE1遺伝子は3.25kbpの大きさである。Pse1pは高分子の核−細胞質間輸送に関与する(Seedorf & Silver, 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94, 8590-8595)。このプロセスは、核エンベロープに埋め込まれた核膜孔複合体(NPC)を介して起こり、ヌクレオポリンからなる(Ryan & Wente, 2000, Curr. Opin. Cell Biol. 12, 361-371)。タンパク質は、核輸入、核局在配列(NLS)および輸出、核輸出配列(NES)に必要な情報を含む特異的配列を有する(Pemberton et al., 1998, Cunr. Opin. Cell Biol. 10, 392-399)。Pse1pは一タンパク質群のカリオフェリン/インポルチンであり、αおよびβファミリーに分類されている。カリオフェリンは 、NLSおよびNESを認識し、NPCと相互作用することで、核膜を通過する高分子の輸送を媒介する可溶性輸送因子である。(Seedorf & Silver, 1997, 前掲; Pemberton et al., 1998, 前掲; Ryan & Wente, 2000, 前掲)。核孔を経た輸送は、小GTP結合タンパク質Ranによって触媒されるGTP加水分解により駆動される(Seedorf & Silver, 1997, 前掲)。Pse1Pはカリオフェリンβと同定されている。S.セレビシエでは14のカリオフェリンβタンパク質が同定されているが、そのうち4つのみが必須である。これはおそらく、複数のカリオフェリンが単一の高分子の輸送を媒介する可能性があるためである(Isoyama et al., 2001, J. Biol. Chem. 276(24), 21863-21869)。Pse1pは核の核エンベロープおよび細胞質のある範囲に局在する。このことは、このタンパク質がその輸送機能の一部として核内外を移動することを示唆している(Seedorf & Silver, 1997, 前掲)。Pse1pは転写因子(Isoyama et al., 2001, 前掲; Ueta et al., 2003, J. Biol. Chem. 278(50), 50120-50127)、ヒストン(Mosammaparast et al., 2002, J. Biol. Chem. 277(1), 862-868)、およびリボソームへのアセンブリ前のリボゾームタンパク質(Pemberton et al., 1998, 前掲)の核輸入に関与している。また、それは核からmRNAの輸出を媒介する。カリオフェリンはRNA結合タンパク質に見られる異なるNESを認識し、それと結合し、それが核から輸出される前にRNAをコーティングする(Seedorf & Silver, 1997, Pemberton et al., 1998, 前掲)。
高分子の核−細胞質間輸送は、細胞周期の適切な進行に必須なので、pse1pなどの核輸送因子は細胞増殖の新規な候補標的である(Seedorf & Silver, 1997, 前掲)。
S.セレビシエのマルチコピープラスミドにおけるPse1p(タンパク質分泌エンハンサー)の過剰発現もまた、生物活性タンパク質のレパートリーのタンパク質分泌レベルを増強することが示されている(Chow et al., 1992; J. Cell. Sci. 101(3), 709-719)。
PSE1の変異体および断片も本発明に含まれる。PSE1に関して「変異体」とは、アミノ酸挿入、欠失または置換(保存的または非保存的)を有している1以上の位置以外に関しては天然PSE1の配列を有するタンパク質を意味する(ただし、このような変化は、塩基の特性、例えば、酵素活性(典型的活性および比活性)、熱安定性、あるpH範囲における活性(pH安定性)が有意に変化していないタンパク質をもたらす)。ここで「有意に」とは、当業者が、その変異体の特性が異なり得るが、元のタンパク質と比べて不明瞭なものではないとする場合を意味する。
「保存的置換」とは、Val、Ile、Leu、Ala、Met;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr、Gly、Ala;Lys、Arg、His;およびPhe、Tyr、Trpなどの組合せを意図する。好ましい保存的置換としては、Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyrが挙げられる。
PSE1の「変異体」は、一般に、天然PSE1の配列と少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、いっそうより好ましくはなくとも95%、なおより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
2つのポリペプチド間の配列同一性%は、後述のように、好適なコンピュータープログラムを用いて判定することができる。このような変異体は天然のものであっても、当業者に周知のようなタンパク質工学および部位特異的突然変異誘発の方法を用いて作出されたものであってもよい。
PSE1に関して「断片」とは、欠失が存在している1以上の位置以外は天然PSE1の配列を有するタンパク質を意味する。よって、断片は完全成熟PSE1タンパク質の全配列の多くて5、10、20、30、40または50%、一般に60%まで、より一般には70%まで、好ましくは80%まで、より好ましくは90%まで、いっそうより好ましくは95%まで、なおより好ましくは99%までを含み得る。PSE1タンパク質の特に好ましい断片は目的のタンパク質の1以上のドメイン全体を含む。
PSE1の断片または変異体は、S.セレビシエなどの宿主細胞において組換え発現させた場合に宿主細胞において内因的なPSE1遺伝子の欠失を補うことができるタンパク質であってもよく、例えば、別の生物、例えば、別の酵母もしくは他の真菌、または別の真核生物、例えば、ヒトもしくは他の脊椎動物、または動物により、あるいは植物によりコードされているホモログのようなPSE1の天然ホモログであってもよい。
別の好ましいシャペロンとしては、ORM2または同等のシャペロン様活性を有するその断片もしくは変異体がある。
ORM2はYLR350Wとしても知られ、S.セレビシエゲノムの第XII染色体上にあり(828729〜829379番)、酵母タンパク質Orm1pと類似性を有する進化的に保存されているタンパク質をコードしている。Hjelmqvist et al, 2002, Genome Biology, 3(6), research 0027.1-0027.16は、ORM2が3つのヒト遺伝子(ORMDL1、ORMDL2およびORMDL3)ならびに微胞子虫、植物、ショウジョウバエ(Drosophila)、尾索類および脊椎動物におけるホモログを含む遺伝子ファミリーに属することを報告している。ORMDL遺伝子は、タンパク質小胞体(ER)において固定されているトランスメンブランタンパク質をコードすることが報告されている。
タンパク質Orm2pは折り畳み異常タンパク質応答を誘導する薬剤に対する耐性に必要とされる。Hjelmqvist et al, 2002(前掲)は、2つのS.セレビシエORMDLホモログ(ORM1およびORM2)の二重ノックアウトが増殖速度の低下ならびにツニカマイシンおよびジチオトレイトールに対するより大きな感受性をもたらすことを報告している。
公開されているOrm2p配列の1つは次の通りである。
上記のタンパク質はS.セレビシエにおいて以下のコードヌクレオチドによりコードされているが、この配列は、同一のタンパク質産物をコードする別のヌクレオチド配列を得るための縮重置換により改変することができると考えられる。
ORM2の変異体および断片も本発明に含まれる。ORM2に関して「変異体」とは、アミノ酸挿入、欠失または置換(保存的または非保存的)を有している1以上の位置以外に関しては天然ORM2の配列を有するタンパク質を意味する(ただし、このような変化は、塩基の特性、例えば、酵素活性(典型的活性および比活性)、熱安定性、あるpH範囲における活性(pH安定性)が有意に変化していないタンパク質をもたらす)。ここで「有意に」とは、当業者が、その変異体の特性が異なり得るが、元のタンパク質と比べて不明瞭なものではないとする場合を意味する。
「保存的置換」とは、Val、Ile、Leu、Ala、Met;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr、Gly、Ala;Lys、Arg、His;およびPhe、Tyr、Trpなどの組合せを意図する。好ましい保存的置換としては、Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyrが挙げられる。
ORM2の「変異体」は、一般に、天然ORM2の配列と少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、いっそうより好ましくはなくとも95%、なおより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
2つのポリペプチド間の配列同一性%は、後述のように、好適なコンピュータープログラムを用いて判定することができる。このような変異体は天然のものであっても、当業者に周知のようなタンパク質工学および部位特異的突然変異誘発の方法を用いて作出されたものであってもよい。
ORM2に関して「断片」とは、欠失が存在している1以上の位置以外は天然ORM2の配列を有するタンパク質を意味する。よって、断片は完全成熟ORM2タンパク質の全配列の多くて5、10、20、30、40または50%、一般に60%まで、より一般には70%まで、好ましくは80%まで、より好ましくは90%まで、いっそうより好ましくは95%まで、なおより好ましくは99%までを含み得る。ORM2タンパク質の特に好ましい断片は目的のタンパク質の1以上のドメイン全体を含む。
ORM2の断片または変異体は、S.セレビシエなどの宿主細胞において組換え発現させた場合に宿主細胞において内因的なORM2遺伝子の欠失を補うことができるタンパク質であってもよく、例えば、別の生物、例えば、別の酵母もしくは他の真菌、または別の真核生物、例えば、ヒトもしくは他の脊椎動物、または動物により、あるいは植物によりコードされているホモログのようなORM2の天然ホモログであってもよい。
本発明の第一、第二または第三の態様に従うプラスミドは、ポリヌクレオチド配列挿入内か、またはプラスミド上の他の場所に、アルブミンの配列またはその断片もしくは変異体を含むタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含むことが特に好ましい。あるいは、プラスミドを形質転換させる宿主細胞はそのゲノム内に、アルブミンの配列またはその断片もしくは変異体を内在配列または異種配列のいずれかとして含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含み得る。
「アルブミン」とは、いずれの供給源から得られるアルブミンタンパク質配列を有するタンパク質も含む。一般に、この供給源は哺乳類である。1つの好ましい実施態様では、血清アルブミンはヒト血清アルブミン(「HSA」)である。「ヒト血清アルブミン」とは、ヒトに天然に存在するアミノ酸配列を有する血清アルブミンおよびその変異体という意味を含む。好ましくは、このアルブミンはWO90/13653またはその変異体に開示されているアミノ酸配列を有する。このHSAコード配列は、ヒト遺伝子に対応するcDNAを単離するための既知の方法によって得ることができる、例えば、EP73646およびEP286424にも開示されている。
もう1つの好ましい実施態様では、「アルブミン」は、ウシ血清アルブミンの配列を有する。「ウシ血清アルブミン」としては、例えば、Swissprot受託番号P02769から取得されるような、ウシに天然に存在するアミノ酸配列および下記に定義するようなその変異体を有する血清アルブミンという意味を含む。「ウシ血清アルブミン」とは、また、以下に定義するような全長ウシ血清アルブミンの断片またはその変異体という意味も含む。
もう1つの好ましい実施態様では、アルブミンは、イヌ(例えば、Swissprot受託番号P49822参照)、ブタ(例えば、Swissprot受託番号P08835参照)、ヤギ(例えば、Sigmaから製品番号A2514またはA4164として入手できる)、シチメンチョウ(例えば、Swissprot受託番号073860参照)、ヒヒ(例えば、Sigmaから製品番号A1516として入手できる)、ネコ(例えば、Swissprot受託番号P49064参照)、ニワトリ(例えば、Swissprot受託番号P19121参照)、オボアルブミン(例えば、ニワトリアルブミン)(例えば、Swissprot受託番号P01012参照)、ロバ(例えば、Swissprot受託番号P39090参照)、モルモット(例えば、Sigmaから製品番号A3060、A2639、O5483またはA6539として入手できる)、ハムスター(例えば、Sigmaから製品番号A5409として入手できる)、ウマ(例えば、Swissprot受託番号P35747参照)、アカゲザル(例えば、Swissprot受託番号Q28522参照)、マウス(例えば、Swissprot受託番号O89020参照)、ハト(例えば、Khan et al, 2002, Int. J. Biol. Macromol., 30(3-4), 171-8により定義されている)、ウサギ(例えば、Swissprot受託番号P49065参照)、ラット(例えば、Swissprot受託番号P36953参照)およびヒツジ(例えば、Swissprot受託番号P14639参照)由来の血清アルブミンの1つに由来する(すなわち、その配列を有する)アルブミンであり、下記に定義するようなその変異体および断片を含む。
アルブミンの天然変異型としては多くのものが知られている。その多くはPeters (1996, All About Albumin: Biochemistry, Genetics and Medical Applications, Academic Press, Inc., SanDiego, California, p. 170-181)に記載されている。上記で定義したような変異体はこれらの天然変異体の1つであり得る。
「変異体アルブミン」とは、1以上の位置においてアミノ酸挿入、欠失または置換(保存的または非保存的)を持ったアルブミンタンパク質を意味し、ただしここで、このような変化は、基本的特性、例えば、酵素活性(典型的活性および比活性、例えば、ビリルビンとの結合)、浸透圧(膠質浸透圧、コロイド浸透圧)、あるpH範囲における挙動(pH安定性)が有意に変化していないアルブミンタンパク質を生じる。ここで「有意に」とは、当業者が、その変異体の特性が異なり得るが、元のタンパク質と比べて不明瞭なものではないとする場合を意味する。
「保存的置換」とは、Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn,Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyrなどの組合せを意図する。このような変異体は、引用することにより本明細書の一部とされるStevensに対して1981年11月24日に発行された米国特許第4,302,386号に開示されているような部位特異的突然変異誘発によるなど、当技術分野で周知の技術によって作出することができる。
一般に、アルブミン変異体は、天然アルブミンと、40%を超える、通常は少なくとも50%、より典型的には少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%またはそれ以上の配列同一性を有する。2つのポリペプチド間の配列同一性%は好適なコンピュータープログラム、例えば、ウィスコンシン州立大学Genetic Computing GroupのGAPプログラムを用いて判定することができ、同一性%は、その配列が最適にアラインされたポリペプチドに関して算出されると考えられる。あるいは、このアライメントはClustal Wプログラム(Thompson et al., 1994)を用いて行うこともできる。用いるパラメーターは次の通りである。
FASTペアワイズ・アライメント・パラメーター:K−タップル(ワード)サイズ;1、ウィンドウサイズ;5、ギャップ・ペナルティー;3、トップダイアゴナル数;5。スコアリング法;x%。マルチプル・アライメント・パラメーター:ギャップ・オープン・ペナルティー;10、ギャップ・エクステンション・ペナルティー;0.05。スコアリング・マトリックス:BLOSUM。
上記で用いる「断片」とは、少なくとも一つの基本特性、例えば、結合活性(典型的活性および比活性、例えば、ビリルビンに対する結合)、浸透圧(膠質浸透圧、コロイド浸透圧)、あるpH範囲における挙動(pH安定性)が有意に変化していない限り、全長アルブミンのいずれの断片またはその変異体も含む。ここで「有意に」とは、当業者が、その変異体の特性が異なり得るが、元のタンパク質と比べて不明瞭なものではないとする場合を意味する。断片は一般に少なくとも50アミノ酸の長さである。断片はアルブミンの少なくとも一つのサブドメイン全体を含み得る。HSAのドメインは組換えタンパク質として発現されている(Dockal, M. et al., 1999, J. Biol. Chem., 274, 29303-29310)、ここでは、ドメインIはアミノ酸1〜197からなると定義され、ドメインIIはアミノ酸189〜385からなると定義され、組成物IIIはアミノ酸381〜585からなると定義されている。ドメインIとIIの間、およびドメインIIの間に存在するα−ヘリックス構造の延長部(h10−h1)のためにドメインの部分的重複が存在する(Peters, 1996, 前掲, 表2〜4)。HSAはまた、6つのサブドメイン(サブドメインIA、IB、IIA、IIB、IIIAおよびIIIB)を含む。サブドメインIAはアミノ酸6〜105を含み、サブドメインIBはアミノ酸120〜177を含み、サブドメインIIAはアミノ酸200〜291を含み、サブドメインIIBはアミノ酸316〜369を含み、サブドメインIIIAはアミノ酸392〜491を含み、サブドメインIIIBはアミノ酸512−583を含む。断片は上記で定義したような1以上のドメインもしくはサブドメインの全体もしくは一部、またはそれらのドメインおよび/もしくはサブドメインの任意の組合せを含み得る。
よって、このポリヌクレオチド挿入は、アルブミンまたはその変異体もしくは断片をコードするオープンリーディングフレームを含み得る。
あるいは、本発明の第一、第二または第三の態様に従うプラスミドは、ポリヌクレオチド配列挿入内か、またはプラスミド上の他の場所に、トランスフェリンの配列またはその変異体もしくは断片を含むタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含むことが好ましい。あるいは、プラスミドを形質転換させる宿主細胞はそのゲノム内に、トランスフェリンの配列またはその変異体もしくは断片を内在配列または異種配列のいずれかとして含むタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含み得る。
本明細書において「トランスフェリン」とは、トランスフェリンファミリーの総てのメンバー(Testa, Proteins of iron metabolism, CRC Press, 2002; Harris & Aisen, Iron carriers and iron proteins, Vol. 5, Physical Bioinorganic Chemistry, VCH, 1991)およびそれらの誘導体、例えば、トランスフェリン、変異株トランスフェリン(Mason et al, 1993, Biochemistry, 32, 5472; Mason et al, 1998, Biochem. J., 330(1), 35)、末端切断型トランスフェリン、トランスフェリンローブ(Mason et al, 1996, Protein Expr. Purif, 8, 119; Mason et al, 1991, Protein Expr. Purif., 2, 214)、ラクトフェリン、変異型ラクトフェリン、末端切断型ラクトフェリン、ラクトフェリンローブまたは上記のいずれかのものと他のペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質との融合物を含む(Shin et al, 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 2820; Ali et al, 1999, J Biol. Chem., 274, 24066; Mason et al, 2002, Biochemistry, 41, 9448)。
トランスフェリンはヒトトランスフェリンであってもよい。本発明では、「ヒトトランスフェリン」は、ヒト由来のトランスフェリンと識別できない材料、またはその変異体もしくは断片である材料を表すのに用いる。「変異体」には、挿入、欠失および置換(保存的または非保存的)を含み、ここで、このような変化はトランスフェリンの有用なリガンド結合または免疫原性を実質的に変化させない。
トランスフェリンの突然変異体も本発明に含まれる。このような突然変異体は免疫原性を変化させ得る。例えば、トランスフェリン突然変異体はグリコシル化の改変(例えば、低下)を示し得る。トランスフェリン分子のN結合グリコシル化パターンは、N、XまたはS/Tの位置のいずれか、または総てで、N−X−S/Tなどのアミノ酸グリコシル化コンセンサス配列を付加/除去することによって改変することができる。トランスフェリン突然変異体は、金属イオンおよび/またはトランスフェリン受容体などの他のタンパク質とのそれらの自然結合を変化させ得る。この様式で改変されたトランスフェリン突然変異体の例を下記に挙げる。
本発明者らは、また、ヒトトランスフェリンまたはヒトトランスフェリン類似体の天然多型変異体も含める。一般に、ヒトトランスフェリンの変異体または断片は少なくとも50重量%(好ましくは少なくとも80重量%、90重量%または95重量%)のヒトトランスフェリンのリガンド結合活性(例えば、鉄結合活性)を有する。トランスフェリンまたは試験サンプルの鉄結合活性は、それらの鉄不含状態および完全に鉄が付加した状態のタンパク質の470nm:280nm吸光度比によって分光光度的に測定することができる。特に断りのない限り、試薬は鉄不含でなければならない。鉄は、0.1Mクエン酸塩、0.1M酢酸塩、10mM EDTA pH4.5に対する透析によってトランスフェリンまたは試験サンプルから除去することができる。タンパク質は、100mM HEPES、10mM NaHCO3 pH8.0中、約20mg/mLでなければならない。280nmでの吸光度が分光光度的に正確に測定できるように水に希釈したアポトランスフェリン(Calbiochem, CN Biosciences, Nottingham, UK)の470nm:280nm吸光度比を測定する(0%鉄結合)。2mLの1M NaOHに191mgのニトロ三酢酸を溶解した後、2mLの0.5M塩化鉄(III)を加えることで、20mM鉄−ニトリロトリアセテート(FeNTA)溶液を作製する。脱イオン水で50mLに希釈する。新しく作製した20mM FeNTAの十分な過剰量を加えた後、100mM HEPES、10mM NaHCO3 pH8.0に対してホロトランスフェリン調製物を完全に透析して残留するFeNTAを除去することで、アポトランスフェリンに完全に鉄を付加し(100%鉄結合)、その後、470nm:280nmの吸光度比を測定する。この手順を、試験サンプルを用いて繰り返し、まず、鉄フリーとしなければならず、最終比を対照と比べる。
さらに、上記のいずれかのものを含む単一もしくは複数の異種融合物;またはアルブミン、トランスフェリンもしくは免疫グロビンまたはこれらのいずれかの変異体もしくは断片との単一もしくは複数の異種融合物が使用できる。このような融合物としては、WO01/79271で例示されるような、アルブミンN末端融合物、アルブミンC末端融合物およびコ−N末端およびC末端アルブミン融合物、ならびにトランスフェリンN末端融合物、トランスフェリンC末端融合物、およびコ−N末端およびC末端トランスフェリン融合物が挙げられる。
当業者ならば、また、本発明とともに用いるポリヌクレオチド配列挿入を形成する上で、オープンリーディングフレームの全部または一部を形成するために、他のいずれかの遺伝子もしくは変異体、または一部もしくはいずれかのオープンリーディングフレームが利用可能であることも分かるであろう。例えば、このオープンリーディングフレームは、天然タンパク質(チモーゲンを含む)、または天然タンパク質の変異体もしくは断片(例えば、一つのドメインであってもよい);または完全に合成されたタンパク質;または種々のタンパク質(天然または合成)単一もしくは複数の融合物であるいずれかの配列を含むタンパク質をコードし得る。このようなタンパク質は、限定されるものではないが、WO01/79258、WO01/79271、WO01/79442、WO01/79443、WO01/79444およびWO01/79480に示されているリスト、またはその変異体もしくは断片から入手することができ、これらの開示内容は引用することにより本明細書の一部とされる。これらの特許出願はアルブミンの融合相手に関してタンパク質のリストを示しているが、本発明はそれに限定されるものでなく、本発明の目的では、そこに挙げられているタンパク質のいずれのものを単独で供してもよいし、あるいはまた、アルブミン、免疫グロブリンのFc領域、トランスフェリン、ラクトフェリンもしくは他のいずれかのタンパク質、または上記のうちいずれかの断片もしくは変異体の融合相手として供してもよい(目的ポリペプチドとして上記のうちいずれかを含む融合タンパク質を含む)。トランスフェリン融合物のさらなる例としては、米国特許出願US2003/0221201およびUS2003/0226155に示されている。
本発明による発現のために望ましいタンパク質の他の好ましい例としては、モノクローナル抗体、エトポシド、血清タンパク質(例えば、血液凝固因子)、アンチスタシン、tick抗凝固ペプチド、トランスフェリン、ラクトフェリン、エンドスタチン、アンギオスタチン、コラーゲン、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンに基づく分子またはいずれかの断片(例えば、Small Modular ImmunoPharmaceutical(商標)(「SMIP」)またはdAb、Fab’断片、F(ab’)2、scAb、scFvまたはscFv断片)、Kunitzドメインタンパク質(例えば、WO03/066824に記載のもの、アルブミン融合物を含む、または含まないもの)、インターフェロン、インターロイキン、IL10、IL11、IL2、インターフェロンα種および亜種、インターフェロンβ種および亜種、インターフェロンγ種および亜種、レプチン、CNTF、CNTFAX15、IL1−受容体アンタゴニスト、エリスロポエチン(EPO)およびEPO模倣体、トロンボポエチン(TPO)およびTPO模倣体、プロサプチド、シアノビリン−N,5−ヘリックス、T20ペプチド、T1249ペプチド、HIVgp41、HIVgp120、ウロキナーゼ、プロウロキナーゼ、tPA(組織プラスミノーゲン活性化因子)、ヒルディン、血小板由来増殖因子、副甲状腺ホルモン、プロインスリン、インスリン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド、インスリン様増殖因子、カルシトニン、成長ホルモン、トランスフォーミング増殖因子β、腫瘍壊死因子、G−CSF、GM−CSF、M−CSF、FGF、プレ型および活性型双方の凝固因子(限定されるものではないが、プラスミノーゲン、フィブリノーゲン、トロンビン、プレトロンビン、プロトロンビン、フォン・ウィルブランド因子、α1アンチトリプシン、プラスミノーゲンアクチベーター、因子VII、因子VIII、因子IX、因子Xおよび因子XIIIを含む)、神経増殖因子、LACI(リポタンパク質会合血液凝固阻害剤、組織因子経路阻害剤または外因経路阻害剤としても知られる)、血小板由来内皮細胞増殖因子(PD−ECGF)、グルコースオキシダーゼ、血清コリンエステラーゼ、アプロチニン、アミロイド前駆体、インターαトリプシン阻害剤、抗トロンビンIII、アポリポタンパク質種、Cタンパク質、Sタンパク質の配列、または前記のいずれかの変異体もしくは断片もしくは融合タンパク質を含む配列が挙げられる。このタンパク質はヒルディンであってもなくてもよい。
上記のタンパク質に関して「変異体」とは、1以上の位置においてアミノ酸挿入、欠失または置換(保存的または非保存的)を持ったタンパク質を意味し、ただし、このような変化は、基本的特性、例えば、酵素活性または受容体結合(典型的活性および比活性)、熱安定性、あるpH範囲における活性(pH安定性)が有意に変化していないタンパク質を生じる。ここで「有意に」とは、当業者が、その変異体の特性が異なり得るが、元のタンパク質と比べて不明瞭なものではないとする場合を意味する。
「保存的置換」とは、Val、Ile、Leu、Ala、Met;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr、Gly、Ala;Lys、Arg、His;およびPhe、Tyr、Trpなどの組合せを意図する。好ましい保存的置換としては、Gly、Ala;Val、Ile、Leu;Asp、Glu;Asn、Gln;Ser、Thr;Lys、Arg;およびPhe、Tyrが挙げられる。
「変異体」は、一般に、それが由来するポリペプチドと少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%または少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、いっそうより好ましくは少なくとも95%、なおより好ましくは少なくとも99%、最も好ましくは少なくとも99.5%の配列同一性を有する。
2つのポリペプチド間の配列同一性%は、例えば、ウィスコンシン州立大学Genetic Computing GroupのGAPプログラムなどの好適なコンピュータープログラムを用いて判定することができ、同一性%は、配列が最適にアラインされたポリペプチドに関して算出されると考えられる。
あるいは、アライメントは、Clustal Wプログラム(Thompson et al., (1994) Nucleic Acids Res., 22(22), 4673-80)を用いて行ってもよい。これらのパラメーターは次のようなものであり得る。
・FASTペアワイズ・アライメント・パラメーター:K−タップル(ワード)サイズ;1、ウィンドウサイズ;5、ギャップ・ペナルティー;3、トップダイアゴナル数;5。スコアリング法;x%。
・マルチプル・アライメント・パラメーター:ギャップ・オープン・ペナルティー;10、ギャップ・エクステンション・ペナルティー;0.05。
・スコアリング・マトリックス:BLOSUM。
このような変異体は天然のものであっても、当技術分野で周知のようなタンパク質工学および部位特異的突然変異誘発の方法を用いて作出されたものであってもよい。
上記のタンパク質に関して「断片」とは、1以上の位置に欠失を有するタンパク質を意味する。よって、断片は完全成熟ポリペプチドの全配列の多くて5、10、20、30、40または50%を含み得る。一般に、断片は、目的の完全タンパク質の全配列の60%まで、より一般には70%まで、好ましくは80%まで、より好ましくは90%まで、いっそうより好ましくは95%まで、なおより好ましくは99%までを含む。目的のタンパク質の特定の好ましい断片は、目的のタンパク質の1以上のドメイン全体を含む。
本発明の第一、第二または第三の態様に従うプラスミドは、ポリヌクレオチド配列挿入内、またはプラスミド上のいずれかの位置に、アルブミンの配列、またはその断片もしくは変異体、または上記の例から得られる他のいずれかのタンパク質(融合相手と融合したものまたは融合していないもの)および少なくとも一つの他の異種配列を含むタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含み、ここで、この少なくとも一つの他の異種配列は、オープンリーディングフレームなどの転写領域を含み得る。一つの実施態様では、このオープンリーディングフレームは酵母タンパク質の配列を含むタンパク質をコードしていてもよい。もう1つの実施態様では、このオープンリーディングフレームはタンパク質フォールディングに関与するか、またはシャペロン活性を有するか、または折り畳み異常タンパク質応答に関与するタンパク質、好ましくは、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼの配列を含むタンパク質をコードしていてもよい。
得られるプラスミドは、US領域とUL領域の間で対称であってもなくてもよい。例えば、US領域とUL領域の間、またはUL領域とUS領域の間でサイズ比1:1、5:4、5:3、5:2、5:1または5:<1を達成可能である。本発明の利点は対象性の維持に頼るものではない。
本発明によれば、本発明によるプラスミドを作製する方法も提供され、該方法は、
(a)REP2遺伝子またはFLP遺伝子および該遺伝子に隣接する逆方向反復を含む2μm系プラスミドを準備すること;
(b)ポリヌクレオチド配列を準備し、そのポリヌクレオチド配列を、プラスミドの、本発明の第一、第二または第三の好ましい態様に従う位置に挿入すること;
(c)工程(b)に加えて、またはその代わりに、本発明の第一、第二または第三の好ましい態様に従う位置のヌクレオチド塩基の一部または総てを欠失させること;および/または
(d)工程(b)および(c)のいずれかに加えて、またはその代わりに、本発明の第一、第二または第三の好ましい態様に従う位置のヌクレオチド塩基の一部または総てを別のヌクレオチド塩基で置換すること
を含む。
工程(b)、(c)および(d)は、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2001, 3rd edition(それらの内容は引用することにより本明細書の一部とされる)に記載されているものなど、クローニング技術、部位特異的突然変異誘発などをはじめとする当技術分野で周知の技術を用いて達成することができる。例えば、このような方法の1つは、付着末端による連結を含む。適合する付着末端は、好適な制限酵素により、挿入用のDNA断片およびプラスミド上に作製することができる。これらの末端は相補的塩基対の形成によってすぐにアニーリングし、残ったニックはDNAリガーゼの作用によって閉じることができる。
さらなる方法では、合成二本鎖オリゴヌクレオチドリンカーおよびアダプターを用いる。平滑末端を有するDNA断片は、凸部3’末端を除去し、凹部3’末端を埋めるバクテリオファージT4 DNAポリメラーゼまたは大腸菌DNAポリメラーゼIによって作製される。所定の制限酵素に対する認識配列を含む合成リンカーおよび平滑末端化二本鎖DNAは、T4 DNAリガーゼにより平滑末端化DNA断片に連結することができる。次に、それらを適当な制限酵素で消化して付着末端を作出し、適合する末端を有する発現ベクターに連結する。アダプターはまた、連結に用いられる平滑末端を1つ含むが、予め作製された付着末端も有する、化学的に合成されたDNA断片でもある。あるいは、DNA断片は、1以上の合成二本鎖オリゴヌクレオチド(場合によって、付着末端を含んでもよい)の存在下または不在下でDNAリガーゼの作用によりともに連結することができる。
多様な制限エンドヌクレアーゼ部位を含む合成リンカーが、Sigma-Genosys Ltd, London Road, Pampisford, Cambridge, United Kingdomをはじめとする多くの供給者から市販されている。
よって、本発明によれば、上記の方法によって得られるプラスミドも提供される。
本発明によれば、上記のようなプラスミドを含む宿主細胞も提供される。宿主細胞はいずれの細胞種でもよい。細菌および酵母宿主細胞が好ましい。細菌宿主細胞は、クローニング目的で有用であり得る。酵母宿主細胞は、プラスミドに存在する遺伝子の発現に有用であり得る。
一つの実施態様では、宿主細胞は、プラスミドがマルチコピープラスミドとして安定な細胞である。1つの酵母種から得られたプラスミドは、他の酵母種で維持可能である(Irie et al, 1991, Gene, 108(1), 139-144; Irie et al, 1991, Mol. Gen. Genet., 225(2), 257-265)。例えば、チゴサッカロミセス・ルクシー由来のpSR1は、サッカロミセス・セレビシエで維持可能である。プラスミドがpSR1、pSB3またはpSB4に基づく場合、宿主細胞はチゴサッカロミセス・ルクシーであってよく、プラスミドがpSB1またはpSB2に基づく場合、宿主細胞はチゴサッカロミセス・バイリーであってよく、プラスミドがpPM1に基づく場合、宿主細胞はピキア・メンブラネファシエンスであってよく、プラスミドがpSM1に基づく場合、宿主細胞はチゴサッカロミセス・フェルメンタチであってよく、プラスミドがpKD1に基づく場合、宿主細胞はクルイベロミセス・ドロソフィラルムであってよく、プラスミドが2μmプラスミドに基づく場合、宿主細胞はサッカロミセス・セレビシエまたはサッカロミセス・カルルスベルゲネシスであり得る。本発明による2μm系プラスミドは、それが天然プラスミドに由来する配列を有する遺伝子FLP、REP1およびREP2の1つ、2つまたは好ましくは3つを含んでいるならば、天然プラスミドに基づくと言える。
上記で定義したプラスミドは標準的な技術によって宿主に導入することができる。原核宿主細胞の形質転換に関しては、例えば、Cohen et al (1972) Proc. Natl. Acad Sci. USA 69, 2110およびSambrook et al (2001) Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY参照。酵母細胞の形質転換は、Sherman et al (1986) Methods In Yeast Genetics, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, NYに記載されている。Beggs (1978) Nature 275, 104-109の方法も有用である。S.セレビシエの形質転換方法は一般に、EP251744、EP258067およびWO90/01063で教示されている(これらは総て、引用することにより本明細書の一部とされる)。脊椎動物細胞に関しては、このような細胞の形質転換に有用な試薬、例えば、リン酸カルシウムおよびDEAE−デキストランまたはリポソーム製剤がStratagene Cloning SystemsまたはLife Technologies Inc., Gaithersburg, MD 20877, USAから入手できる。
細胞の形質転換にはまた、エレクトロポレーションも有用であり、エレクトロポレーションは酵母細胞、細菌細胞および脊椎動物細胞を形質転換するためのものとして当技術分野で周知のものである。エレクトロポレーションによる酵母の形質転換法は、Becker & Guarente (1990) Methods Eszymol. 194, 182に開示されている。
一般に、プラスミドは、全ての宿主を形質転換するわけではないので、形質転換された宿主細胞を選択する必要がある。よって、本発明の第一、第二または第三の態様のいずれか一つに従うプラスミドは、ポリヌクレオチド配列挿入内またはプラスミド上のいずれかの位置に、限定されるものではないが、細菌選択マーカーおよび/または酵母選択マーカーをはじめとする選択マーカーを含み得る。典型的な細菌選択マーカーはβ−ラクタマーゼ遺伝子であるが、その他多くのものが当技術分野で公知である。好適な酵母選択マーカーとしては、LEU2(またはβ−ラクタマーゼマレイン酸デヒドロゲナーゼの活性を有するタンパク質をコードする等価の遺伝子)、TRP1、HIS3、HIS4、URA3、URA5、SFA1、ADE2、MET15、LYS5、LYS2、ILV2、FBA1、PSE1、PDI1およびPGK1が挙げられる。利用可能な種々の選択肢に照らして、最も好適な選択マーカーが選択できる。所望であれば、URA3および/またはLEU2を避けることもできる。当業者ならば、pgk1酵母株のPGK1で実証されているように(Piper and Curran, 1990, Curr. Genet. 17, 119)、プラスミド上に機能的遺伝子が提供されている場合には、その染色体欠失または不活性化が生存力のない宿主を作り出すいずれかの遺伝子、いわゆる必須遺伝子を選択マーカーとして使用できることが分かるであろう。好適な必須遺伝子はStanfordゲノムデータベース(SGD)、http:://db.yeastgenome.orgに見出せる。
さらに、本発明の第一、第二または第三の態様のいずれか一つに従うプラスミドは、ポリヌクレオチド配列挿入内またはプラスミド上のいずれかの位置に1を超える選択マーカーを含み得る。
1つの選択技術としては、形質転換細胞において選択形質をコードするDNA配列マーカーを必要な制御エレメントとともに発現ベクターに組み込むことを含む。これらのマーカーとしては、真核細胞培養に関してはジヒドロ葉酸レダクターゼ、G418またはネオマイシン耐性、および大腸菌およびその他の細菌の培養に関してはテトラサイクリン、カナマイシンまたはアンピシリン(すなわち、β−ラクタマーゼ)耐性遺伝子が挙げられる。あるいは、このような選択形質の遺伝子は、目的の宿主細胞と同時形質転換するのに用いる別のベクター上にあってもよい。
首尾よく形質転換した細胞を同定する別法としては、本発明によるプラスミドの導入から得られた細胞を増殖させ、場合によって、組換えポリペプチド(すなわち、プラスミド上のポリヌクレオチド配列によりコードされており、かつ、そのポリペプチドがその宿主により自然には産生されないという意味で、宿主細胞にとっては異種であるポリペプチド)を発現させる。細胞を採集し、溶解し、Southern (1975) J Mol. Biol. 98, 503またはBerent et al (1985) Biotech. 3, 208が記載しているものなどの方法、または当技術分野で一般的なDNAおよびRNA分析の他の方法を用い、DNAまたはRNA内容物を組換え配列が存在しているかどうか調べることができる。あるいは、形質転換細胞の培養物の上清中のポリペプチドの存在を、抗体を用いて検出することもできる。
組換えDNAの存在に関して直接アッセイすることに加え、形質転換の成功は、組換えDNAがタンパク質の発現を命令し得る場合は、周知の免疫学的方法により確認することができる。例えば、発現ベクターで首尾よく形質転換した細胞は、適当な抗原性を示すタンパク質を産生する。形質転換されたと考えられる細胞のサンプルを採集し、好適な抗体を用いてそのタンパク質に関してアッセイする。
このように、形質転換宿主細胞それら自体に加え、本発明はまた、栄養培地中でのこれらの細胞の培養、好ましくは、モノクローナル(クローン的均一)培養、またはモノクローナル培養由来の培養物も包含する。あるいは、形質転換細胞はそれら自体、工業上/商業上または医薬上有用な産物であり得、培養培地から精製し、所望により、それらの意図する工業上/商業上または医薬上の使用に適当な様式で、担体または希釈剤とともに製剤化し、また、所望により、その使用に適した様式でパッケージングおよび提供することができる。例えば、全細胞を埋植するか、または細胞培養物を工程、作物またはその他の目的の標的上/中へ直接噴霧するのに使用できる。同様に、酵母細胞などの全細胞を、フラグランス、フレーバーおよび医薬など、極めて多様な適用でカプセルとして使用することもできる。
次に、形質転換宿主細胞を十分な時間、当業者に公知であり、また、本明細書に開示されている技術の点から適当な条件下で培養し、そのプラスミド内の1以上のポリヌクレオチド配列挿入中のORFを発現させることができる。
よって、本発明によれば、(a)上記で定義したような本発明の第一、第二または第三の態様に従うプラスミドを準備する工程;(b)好適な宿主細胞を準備する工程;(c)宿主細胞をそのプラスミドで形質転換する工程;および(d)その形質転換宿主細胞を培養培地中で培養し、これによりタンパク質を生産する工程を含む、タンパク質の製造方法も提供される。
細菌(例えば、大腸菌および枯草菌(Bacillus subtilis)、酵母、繊維状真菌(例えば、アスペルギルス属(Aspergillus))、植物細胞、完全植物体、動物細胞および昆虫細胞をはじめ、多くの発現系が知られている。
一つの実施態様では、好ましい宿主細胞は、プラスミドが安定なマルチコピープラスミドとして維持できる酵母である。このような酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ、クルイベロミセス・ラクチス、ピキア・パストリス、チゴサッカロミセス・ルクシー、チゴサッカロミセス・バイリー、チゴサッカロミセス・フェルメンタチ、およびクルイベロミセス・ドロソフィラルムが挙げられる。
プラスミドが好適な(例えば、LEU2)マーカーを含むか、または含むように改変されており、かつ、そのマーカーの欠損によって測定した際の安定性が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100世代またはそれ以上の後に、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、10%、15%、20%,25%、30%、40%、50%、60%,70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%または実質的に100%である場合、宿主内で安定なマルチコピープラスミドとして維持可能である。マーカーの欠損は、Chinery & Hinchliffe (1989, Curr. Genet., 16, 21-25)を参照し、上記のようにして評価することができる。
例えば、遺伝子コード配列の分断により、タンパク質のO−グリコシル化に関与する1以上のタンパク質マンノシルトランスフェラーゼに欠損のある酵母を用いることが特に有利である。
組換え発現したタンパク質は、生産宿主細胞により望ましくない翻訳後修飾を受けることがある。例えば、アルブミンタンパク質配列はN結合型グリコシル化の部位を含まず、自然状態でO結合型グリコシル化により修飾されるとの報告はない。しかしながら、多くの酵母種で産生される組換えヒトアルブミン(「rHA」)は、一般にマンノースを巻き込むO結合型グリコシル化により修飾可能であることが判明した。マンノシル化されたアルブミンはレクチンコンカナバリンAと結合し得る。酵母により産生されたマンノシル化アルブミンの量は、1以上のPMT遺伝子を欠いた酵母株を用いて減少させることができる(WO94/04687)。これを達成する最も便宜な方法は、そのゲノムに、Pmtタンパク質のうちの1つを低レベルでしか産生しないような欠陥を有する酵母を作出することである。例えば、Pmtタンパク質をわずかしか、または全く産生しないような、コード配列または調節領域における(またはPMT遺伝子の1つの発現を調節する別の遺伝子における)欠失、挿入または転位があり得る。あるいは、この酵母は、抗Pmt抗体などの抗Pmt剤を産生するように形質転換させることもできる。
S.セレビシエ以外の酵母を用いる場合、例えば、ピキア・パストリスまたはクルイベロミセス・ラクチスにおいて、S.セレビシエのPMT遺伝子に相当する1以上の遺伝子を分断することも有益である。S.セレビシエから単離されたPMT1(または他のいずれかのPMT遺伝子)の配列を、他の真菌種における同等の酵素活性をコードする遺伝子の同定または分断に用いてもよい。クルイベロミセス・ラクチスのPMT1ホモログのクローニングはWO94/04687に記載されている。
酵母は、それぞれWO95/33833およびWO95/23857に教示されているように、HSP150および/またはYAP3遺伝子の欠失を有していることが有利である。
本発明によれば、本発明によるプラスミドを含む、上記で定義したような宿主細胞を準備する工程、およびその宿主細胞を培養培地中で培養し、それにより、タンパク質を生産する工程を含んでなる、タンパク質の製造方法も提供する。培養培地は非選択性であっても、またはプラスミドの安定なマルチコピー維持に対して選択圧をかけてもよい。
本発明によるプラスミドから発現するタンパク質の製造方法は、好ましくは、このようにして生産されたタンパク質を培養宿主細胞または培養培地から単離する工程をさらに含む。
このようにして生産されたタンパク質は細胞内に存在するか、または分泌される場合には、培養培地中および/または宿主細胞の原形質周辺の空間に存在し得る。このタンパク質は、当技術分野で公知の多くの方法により、細胞および/または培養培地から単離することができる。例えば、組換え発現したアルブミンの回収のための精製技術はWO92/04367(マトリックス由来色素の除去)、EP464590(酵母由来着色物質の除去)、EP319067(アルカリ沈殿とそれに続く、親油相に対するアルブミンの適用)、ならびにWO96/37515、米国特許第5728553号およびWO00/44772(完全精製工程を記載)に開示されており、これらは総て、引用することにより本明細書の一部とされる。アルブミン以外のタンパク質は、培養培地から、そのようなタンパク質を精製するのに有用であることが分かっているいずれかの技術によって精製することができる。
このような周知の方法としては、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿法、酸または溶媒 抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、濃縮、希釈、pH調整、ダイアフィルトレーション、限外濾過、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)、逆相HPLC、伝導性調整などが挙げられる。
一つの実施態様では、上述の技術のうちいずれか1以上を用い、上記のようにして単離されたタンパク質を商業上許容されるレベルの純度にまでさらに精製してもよい。商業上許容されるレベルの純度とは、少なくとも0.01g.L−1、0.02g.L−1、0.03g.L−1、0.04g.L−1、0.05g.L−1、0.06g.L−1、0.07g.L−1、0.08g.L−1、0.09g.L−1、0.1g.L−1、0.2g.L−1、0.3g.L−1、0.4g.L−1、0.5g.L−1、0.6g.L−1、0.7g.L−1、0.8g.L−1、0.9g.L−1、1g.L−1、2g.L−1、3g.L−1、4g.L−1、5g.L−1、6g.L−1、7g.L−1、8g.L−1、9g.L−1、10g.L−1、15g.L−1、20g.L−1、25g.L−1、30g.L−1、40g.L−1、50g.L−1、60g.L−1、70g.L−1、70g.L−1、90g.L−1、100g.L−1、150g.L−1、200g.L−1、250g.L−1、300g.L−1、350g.L−1、400g.L−1、500g.L−1、600g.L−1、700g.L−1、800g.L−1、900g.L−1、1000g.L−1、またはそれ以上の濃度でのタンパク質の提供を含む。
このようにして精製されたタンパク質を凍結乾燥させてもよい。あるいは、担体または希釈剤とともに製剤化し、場合によっては、単位形で提供してもよい。
このタンパク質は医薬上許容されるレベルの純度を達成するために単離されるのが好ましい。タンパク質は、パイロジェンフリーであり、そのタンパク質の活性に関連のない医学的作用を引き起こさずに医薬上有効な量で投与可能であるならば、医薬上許容されるレベルの純度を有する。
得られたタンパク質は、その既知の有用性のいずれを目的に使用してもよく、アルブミンの場合には、火傷、ショックおよび血液損失を処置するための患者へのi.v.投与、培養培地への補給、および他のタンパク質製剤における賦形剤としての使用が挙げられる。
本発明によるプロセスによって得られた治療上有用な目的のタンパク質は単独で投与することもできるが、1以上の許容される担体または希釈剤とともに医薬製剤として提供することが好ましい。担体または希釈剤は、目的のタンパク質と適合し、かつ、そのレシピエントに害がないという意味において「許容」されるものでなければならない。一般に、担体または希釈剤は、無菌かつパイロジェンフリーの水または生理食塩水である。
場合によっては、このようにして製剤化されたタンパク質を錠剤、カプセル剤、注射溶液などのような形態で単位投与形として提供する。
本発明者らはまた、「必須」タンパク質の配列を含むタンパク質をコードするプラスミド保持遺伝子が、プラスミドの不在下では必須タンパク質を産生しない宿主細胞内でプラスミドを安定維持するのに使用できることを実証した。好ましい必須タンパク質は必須シャペロンであり、これは、プラスミドの安定性を高めるために選択マーカーとして働くだけでなく、その発現は同時に宿主細胞内の組換え遺伝子によりコードされている異種タンパク質の発現を高めるというさらなる利点をもたらすことができる。この系は、使用者が、プラスミドが保持する必要のある組換え遺伝子の数を最小限とできることから有利である。例えば、典型的な先行技術のプラスミドは、宿主細胞培養工程中にプラスミドの安定維持を可能とするマーカー遺伝子(上記のものなど)を有する。このようなマーカー遺伝子は、目的の作用を達成するのに必要ないずれかのさらなる遺伝子に加えて、プラスミド上に保持される必要がある。しかしながら、外因的DNA配列を組み込むプラスミドの能力には限りがあるので、目的の効果を達成するために必要な配列挿入の数を最小限とすることが有利である。さらに、いくつかのマーカー遺伝子(栄養要求性マーカー遺伝子など)は、そのマーカー遺伝子の効果を得るために、培養工程を特定の条件下で行う必要がある。このような特定条件は細胞増殖またはタンパク質産生にとっては最適なものでない場合もあり、あるいは非効率もしくは過度に費用のかかる増殖系が必要な場合もある。
よって、プラスミドの安定性を高めるため、プラスミド保持遺伝子として「必須タンパク質」の配列を含むタンパク質を組換え的にコードする遺伝子を使用することができ、この場合、このプラスミドは、プラスミドの不在下では「必須タンパク質」を産生できない細胞内に存在する。
この「必須タンパク質」は、宿主細胞内のそのコード遺伝子が欠失または不活性化されている場合に、栄養(生合成)要求性を発現する宿主細胞を生じないものであることが好ましい。「栄養(生合成)要求性」とは、増殖培地に対する添加または改変によって補償できる欠陥を含む。従って、本発明において、「必須タンパク質」をコードする「必須マーカー遺伝子」は、宿主細胞において欠失または不活性化されている場合に、増殖培地に対する添加または改変によって補償できない欠陥を生じるものである。この系の利点は、「必須マーカー遺伝子」が、細胞を特定の選択(例えば、選択栄養)条件下で培養する必要があるという不都合な点なく、プラスミドの安定性の増強を達成すべく、プラスミドの不在下では、その遺伝子産物を産生できない宿主細胞のプラスミド上で選択マーカーとして使用できることである。従って、この宿主細胞は、プラスミド安定性が失われることなく、いずれの特定のマーカー遺伝子に適合させる必要もない条件下で培養することができる。例えば、この系を用いて作製した宿主細胞は、複合培地または富栄養培地などの非選択培地で培養することができ、これは栄養要求性マーカー遺伝子にそれらの効果を与えるべく一般的に用いられる最小培地よりも経済的であると考えられる。
この細胞は、例えば、その内因性遺伝子が欠失しているか、またはそうでなければ不活性化されていてもよい。
「必須タンパク質」が「必須」シャペロンであれば、選択増殖条件を必要とせずにプラスミドの安定性を高められ、かつ、宿主細胞内で内因的にコードされているタンパク質または異種タンパク質などのタンパク質の産生を高めるという二重の利点を提供することができるので、特に好ましい。この系にはまた、宿主細胞によるタンパク質の産生を高めるために必須シャペロンの過剰発現を用いる選択をする場合に、プラスミドの保持する必要のある組換え遺伝子の数を最小限とするという利点がある。
本発明のこの態様で用いる好ましい「必須タンパク質」としては、「必須」シャペロンPDI1およびPSE1、ならびに宿主細胞においてこれらのタンパク質をコードする内因性遺伝子が欠失または不活性化されている場合に栄養(生合成)要求性を発現する宿主細胞を生じない、PGK1またはFBA1などの他の「必須」遺伝子産物が挙げられる。
よって、本発明の第四の態様によれば、あるプラスミド(本発明の第一、第二または第三の態様のいずれかに従うプラスミドなど)を含む宿主細胞が提供され、このプラスミドは、このプラスミドの不在下では宿主細胞がシャペロンを産生できない必須シャペロンをコードする遺伝子を含む。好ましくは、プラスミドの不在下で、宿主細胞は生存力がない。この宿主細胞は、本発明の最初の態様に関して上記したものなどの異種(またはその組換え遺伝子が、宿主細胞によりコードされているタンパク質と配列が同一のタンパク質をコードしているという意味において相同な)タンパク質をコードする組換え遺伝子をさらに含んでもよい。
本発明の第五の態様によれば、単独の選択マーカーとして、必須シャペロンをコードする遺伝子を含むプラスミドも提供する。このプラスミドは、異種タンパク質をコードする遺伝子をさらに含んでいてもよい。このプラスミドは2μm系プラスミドであってもよく、好ましくは、本発明の第一、第二または第三の態様のいずれかに従うプラスミドである。
本発明の第六の態様によれば、あるプラスミドを含む宿主細胞を準備する工程(このプラスミドは、そのプラスミドの不在下では宿主細胞がシャペロンを産生できない、必須シャペロンをコードする遺伝子を含み、この宿主細胞は異種タンパク質をコードする組換え遺伝子さらに含んでもよい);該宿主細胞を、培養培地中、必須シャペロンおよび異種タンパク質の発現を可能とする条件下で培養する工程;ならびに、所望により、このようにして発現した異種タンパク質を培養宿主細胞または培養培地から精製する工程;ならびに、所望により、このようにして精製されたタンパク質をさらに凍結乾燥する工程を含む、異種タンパク質の製造方法も提供される。
この方法は、精製された異種タンパク質を担体または希釈剤とともに製剤化する工程、および、所望により、このようにして製剤化されたタンパク質を上述の様式で単位投与形として提供する工程をさらに含んでもよい。好ましい一つの実施態様では、この方法は、宿主細胞を富栄養培地などの非選択培地で培養することを含む。
以下の実施例は、図2に示され、一般にpSAC35と呼ばれるタイプの2μm系プラスミド(β−ラクタマーゼ遺伝子(アンピシリン耐性の関するものであり、酵母に形質転換された後、プラスミドから消失する)、LEU2選択マーカーおよびオリゴヌクレオチドリンカーを含み、最後の2つは2μm系非組込みベクターpSAC3(EP0286424参照)のUL領域内のユニークなSnaBI部位に挿入されている)のUS領域内の制限エンドヌクレアーゼ部位として定義されるいくつかの位置への付加的なDNA配列の挿入について記載する。選択されたこれらの部位はREP2およびFLPコード領域の3’末端に向かっているか、または下流逆方向反復配列内にあるものであった。各部位に短い合成DNAリンカーを挿入し、改変されたプラスミドの相対的安定性を非選択培地での増殖中に比較した。DNA挿入に好ましい部位を同定した。「目的の遺伝子」を含むより大きなDNA断片の挿入は、PDI1遺伝子を含むDNA断片うぇをREP2の後のXcmI部位に挿入することにより証明した。
実施例1
pSAC35のスモールユニーク領域内のXcmI部位への合成DNAリンカーの挿入
pSAC35のUS領域への付加的DNAの挿入に関してまず評価した部位は、599bpの逆方向反復内のXcmI部位であった。逆方向反復と重複するため、あるXcmI部位はREP2翻訳終結コドンの後の51bpを切断し、また他のXcmI部位はFLPコード配列の終末端の前の127bpを切断する(図3参照)。 挿入された配列は、オリゴヌクレオチドCF86とCF87の0.5mM溶液をアニーリングすることにより作製された52bpのリンカーであった。このDNAリンカーは、pSAC35には存在しない制限部位をコードするコア領域「SnaBI−PacI−FseI/SfiI−SmaI−SnaBI」を含んでいた。
プラスミドpSAC35をXcmIで部分的に消化し、線状11kb断片を0.7%(w/v)アガロースゲルから単離し、CF86/CF87 XcMIリンカー(無希釈、10−1および10−2希釈)と連結し、大腸菌DH5αに形質転換した。アンピシリン耐性形質転換体を選択し、SmaI消化により線状化可能なプラスミドの存在に関してスクリーニングした。制限酵素分析により、REP2の後のXcmI部位にリンカーがクローニングされているpDB2688(図4)が確認された。オリゴヌクレオチドプライマーCF88、CF98およびCF99(表1)を用いたDNAシーケンシングにより、正確なリンカー配列を含んでいる挿入が確認された。
また、制限酵素分析によっても、FLP遺伝子のXcmI部位にリンカーがクローニングされているpDB2689(図5)が確認された。しかしながら、このpDB2689のリンカーは、プライマーCF90およびCF91を用いたDNAシーケンシングにより、FseI/SfiI部位内にG:C塩基対の欠失を有することが示された(上記でCF86+CF87リンカーにおいて太字で表示)。これにより、翻訳終結コドンの前の39のC末端アミノ酸残基が56の異なるアミノ酸で置換された突然変異Flp−タンパク質のコード配列が作製された。
pDB2689リンカー配列の欠失した塩基対を修正してpDB2786を作出した(図6)。これを達成するため、オリゴヌクレオチドCF104およびCF105から31bpの5’リン酸化SnaBI−リンカーを作製した。これを、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで予め処理したpDB2689のSnaBI部位に連結した。プライマーCF90、CF91、CF100およびCF101を用いたDNAシーケンシングにより、pDB2786の正確なDNAリンカー配列を確認した。これにより、翻訳終結部の前の39のC末端残基が14の異なる残基で置換された突然変異Flp−タンパク質のコード配列が作製された。
また、SnaBIリンカーをpDB2786に反対方向に連結することでさらなるプラスミドpDB2798(図7)を作出した。このpDB2798のリンカー配列をDNAシーケンシングにより確認した。プラスミドpDB2798は、翻訳終結部の前の39のC末端残基が8個の異なる残基で置換された突然変異Flp−タンパク質のコード配列を含んでいた。
また、FLP遺伝子のXcmI部位にリンカーをクローニングして、その挿入部位においてFlpタンパク質を末端切断した。用いたリンカーは、オリゴヌクレオチドCF120およびCF121からなる45bpの5’リン酸化XcmI−リンカーであった。
このCF120/CF121 XcmIリンカーを、XcmIで部分的に消化した後に、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理することで作製した11kbのpSAC35断片と連結した。アンピシリン耐性大腸菌DH5α形質転換体の分析により、pDB2823を含むクローンが確認された(図8)。プライマーCF90、CF91、CF100およびCF101を用いたDNAシーケンシングにより、pDB2823におけるリンカー配列を確認した。挿入されたリンカー内の翻訳終結部は、41個のC末端残基を欠いたFlp(1〜382)を産生した。
プラスミドの安定性に対する、pSAC35のUS領域内のXcmI部位へのリンカー配列の挿入の影響を、pDB2688およびpDB2689に関して評価した。プラスミドの安定性はS.セレビシエ株において、YEPS上での非選択的増殖中のLEU2マーカーの消失により判定した。構造的にはpSAC3と類似しているが、LEU2選択マーカーを含んだ、SnaBI部位に挿入された付加的DNAを含むpSAC35で形質転換した同じ酵母株を対照として用いた(Chinery & Hinchliffe, 1989, Curr. Genet., 16, 21)。
この酵母株を、改良型酢酸リチウム法(Sigma酵母形質転換キット、YEAST−1、プロトコール2; (Ito et al, 1983, J. Bacteriol., 153, 163; Elble, 1992, Biotechniques, 13, 18))を用いて形質転換し、ロイシン原栄養性とした。BMMD寒天プレート上で形質転換体を選択し、その後、BMMD寒天プレート上に貼付した。10mL BMMD振盪フラスコ培養(24時間、30℃、200rpm)から低温保存トレハロース原液を調製した。
YEPDおよびBMMDの組成は、Sleep et al., 2002, Yeast 18, 403により記載されている。YEPSおよびBMMSの組成は、単独の初期炭素源として2%(w/v)グルコースの代わりに2%(w/v)スクロースを用いること以外はYEPDおよびBMMDと同じであった。
プラスミド安定性の判定に関しては、1mLの低温保存原液を解凍し、250mL三角フラスコ中、100mL YEPS(初期OD600≒0.04〜0.09)に接種し、回転振盪機(200rpm、Innova 4300インキュベーターシェーカー, New Brunswick Scientific)にて30℃で約72時間(70〜74時間)増殖させた。
各フラスコからサンプルを取り出し、YEPS培養液で希釈し(10−2〜10−5希釈)、100μlアリコートをYEPS寒天プレート上に二反復でプレーティングした。細胞を30℃で3〜4日間増殖させ、単一のコロニーを発達させた。分析する各酵母原株につき、無作為な100個のコロニーのレプリカをBMMS寒天プレートに、次いで、YEPS寒天プレートに取った。30℃で3〜4日間増殖させた後、プラスミド安定性の指標として、BMMS寒天プレートとYEPS寒天プレートの双方で増殖するコロニーのパーセンテージを求めた。
形質転換体からのLEU2マーカーの欠損を調べるための上記分析では、pSAC35およびpDB2688は100%安定であることが分かり、一方、pDB2689は72%安定であった。ゆえに、REP2の後のXcmI部位へのリンカーの挿入は、転写配列を変更し、599bp逆方向反復間の相同性を妨げるにもかかわらず、プラスミドの安定性に明らかな影響を示さなった。FLP内のXcmI部位におけるリンカーの挿入も、逆方向反復の妨害およびFlpタンパク質の突然変異の双方があるにもかかわらず、驚くほど安定なプラスミドをもたらした。
実施例2
pDB2688のXcmIリンカーへのPDI1遺伝子の挿入
2μm様ベクターのUS領域への大きなDNA断片の挿入は、S.セレビシエ PDI1遺伝子をpDB2688のXcmIリンカーにクローニングすることにより証明した。このPDI1遺伝子(図9)を、PDI1遺伝子を含む大きなS.セレビシエSKQ2nゲノムDNA断片(米国特許第6,291,205号に記載され、また、Crouzet & Tuite, 1987, Mol. Gen. Genet., 210, 581-583およびFarquhar et al, 1991, 前掲にもクローンC7として記載されているプラスミドpMA3a:C7において提供されているもの)(これは、YIplac211(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)にクローニングされたものであり、PDI1遺伝子の3’非翻訳領域内のユニークなBsu36I部位に挿入されたSacI制限部位を含む合成DNAリンカーを有していた)に由来の1.9kb SacI−SpeI断片にクローニングした。この1.9kb SacI−SpeI断片をT4 DNAポリメラーゼで処理してSpeI 5’−オーバーハングを埋め、SacI 3’−オーバーハングを除去した。このPDI1断片は、翻訳開始コドンの上流に212bpのPDI1プロモーターと、翻訳終結コドンの下流に148bpを含んでいた。これを、SmaI線状化/ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理したpDB2688に連結し、REP2と同じ方向で転写されるPDI1遺伝子を有するプラスミドpDB2690(図10)を作出した。S.セレビシエ株をpDB2690で形質転換してロイシン原栄養性とした。
次に、ヒトトランスフェリン突然変異体(N413Q,N611Q)の発現カセットをpDB2690のNotI部位にクローニングし、pDB2711(図11)を作出した。このpDB2711中の発現カセットはS.セレビシエPRB1プロモーター、HSA/MFα融合リーダー配列(EP387319; Sleep et al, 1990, Biotechnology (N.Y.), 8, 42)、その後にヒトトランスフェリン突然変異体(N413Q,N611Q)のコード配列とS.セレビシエ ADH1ターミネーターを含んでいる。プラスミドpDB2536(図36)は、同じ発現カセットをpSAC35のNotI部位に挿入することにより構築した。
2μmベクターのUS領域に「目的の遺伝子」を挿入することの利点は、pDB2711で形質転換した酵母の発酵中の、組換えトランスフェリンN413Q,N611Qの分泌が、pDB2536で形質転換した同じ酵母に比べておよそ7倍高いことで証明された。振盪フラスコ培養では、組換えトランスフェリンN413Q,N611Q分泌におよそ15倍の増加が見られた(データは示されていない)。
プラスミドpDB2688、pDB2690、pDB2711、pDB2536およびpSAC35の相対的安定性を、上記の方法を用い、YEPS培地で増殖させた同じ酵母株判定した(表2)。
この分析では、PDI1挿入のないpDB2688が100%の安定性であるのに対し、pDB2690は32%安定であった。このプラスミド安定性における低下は、pSAC35のラージユニーク領域内のNotI部位にrTF(N413Q,N611Q)発現カセットが挿入されたために、pDB2536で見られたプラスミド安定性の低下よりも小さかった(表2)。
さらに、pDB2711で形質転換した同じ酵母から得られたrTF(N413Q,N611Q)は、pDB2536で形質転換した同じ酵母から達成されたものに比べて低下していなかったことから、高細胞密度発酵中の最小培地での選択的増殖は、YEPS培地で見られたPDI1挿入によるプラスミド不安定性の上昇を克服できた。
実施例3
REP2遺伝子およびpSAC35の逆方向反復内の下流配列へのDNAリンカーの挿入
REP2遺伝子およびその下流の逆方向反復内の配列への付加的DNAの挿入に関して有用な制限を定義するため、さらなるリンカーをpSAC35に挿入した。図12はこれらの挿入に用いた制限部位およびこれらの部位における翻訳終結のRep2タンパク質に対する影響を示している。
REP2内のXmnI部位に挿入したリンカーはオリゴヌクレオチドCF108およびCF109からなる44bpの配列であった。
pSAC35内の他のXmnI部位への挿入を避けるため、REP2およびFLP遺伝子を含んだpSAC35に由来する3,076bpのXbaI断片をまず、大腸菌クローニングベクターpDB2685(図13)にサブクローニングし、pDB2783(図14)を作出した。
プラスミドpDB2685は、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)由来のアプラマイシン耐性遺伝子aac(3)IV(Rao et al, 1983, Antimicrob. Agents Chemother., 24, 689)とpMCS5由来の多重クローニング部位(Hoheisel, 1994, Biotechniques, 17, 456)を含むpCF17に由来するpUC18様クローニングベクターである。pCF17はpIJ8600(Sun et al., 1999, Micnobiology, 145(9), 2221-7)から、EcoRI、NheIおよびDNAポリメラーゼIのクレノウ断片で消化し、自己連結した後、コンピテント大腸菌DH5α細胞の形質転換による反応生成物から単離し、硫酸アプラマイシンで選択することにより作出したものである。プラスミドpDB2685は、pMCS5由来の439bp SspI−SwaI断片を、MscIで切断の上、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理したpCF17にクローニングすることにより構築した。青色/白色の選択はIPTG誘導には依存しない。
プラスミドpDB2783をXmnIで線状化し、CF108/CF109 XmnI−リンカーと連結し、pDB2799(図15)およびpDB2780(示されていない)を作出した。プラスミドpDB2799は、Rep2(1〜244)を産生するため挿入部位に翻訳終結にとって適正な方向でCF108/CF109 XmnIリンカーを含んでいたが、pDB2780のほうは逆向きにクローニングされたリンカーを含んでいた。プライマーCF98およびCF99を用いたDNAシーケンシングにより、正確なリンカー配列を確認した。
次に、pDB2799由来の3,120bpのXbaI断片を、部分的XbaI消化とウシ腸管アルカリ性ホスファターゼ処理によって作製した7,961bpのpSAC35断片と連結し、プラスミドpDB2817(B型)およびpDB2818(A型)非組込みベクター(それぞれ図16および17)を作出した。
pSAC35内のApaI部位におけるリンカーの挿入は、T4 DNAポリメラーゼによる3’−5’エキソヌクレアーゼを用いて、また、用いずに行った。これにより、翻訳終結の前にRep2(1〜271)かRep2(1〜269)かのいずれかのコード配列が作出された。次の図面において、斜線で示された配列GGCCは、ApaI消化後に生じた3’−オーバーハングから削除され、その結果、グリシン−170(GGC)およびプロリン−171のコドン由来のヌクレオチドが除去されている。
エキソヌクレアーゼ消化せずにApaI部位に挿入されたリンカーは、オリゴヌクレオチドCF116およびCF117からなる50bpの5’−リン酸化リンカーであった。
これを、ApaIで線状化し、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理したpSAC35と連結し、pDB2788(図18)およびpDB2789(示されていない)を作出した。pDB2788内では、リンカーはプロリン−271の後に翻訳終結に適正な方向で存在したが、pDB2789では、リンカーは逆向きであった。
T4 DNAポリメラーゼによるエンドヌクレアーゼ消化を用いてApaI部位に挿入したリンカーは、オリゴヌクレオチドCF106およびCF107からなる43bpの5’リン酸化リンカーであり、これをコア終結リンカーと呼んだ。
このコア終結リンカーを、ApaIで線状化し、T4 DNAポリメラーゼで消化し、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理したpSAC35と連結した。この連結により、グルタミン酸−269の後に翻訳終結に適正な方向でクローニングされたリンカーを有するpDB2787(図19)が作出された。
適正なDNA配列を、オリゴヌクレオチドプライマーCF98およびCF99を用い、ApaIリンカーを含む総てのクローンにおいて確認した。
また、コア終結リンカー(CF106+CF107)をpDB2783のFspI部位への挿入にも用いた(図14)。このコア終結リンカー(CF106+CF107)を、部分的FspI消化により線状化し、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理したpDB2783に連結した。アプラマイシン耐性大腸菌DH5α形質転換体から単離されたプラスミドをFspI消化によりスクリーニングし、選択されたクローンをM13フォワードおよびリバースプライマーを用いて配列決定した。
プラスミドpDB2801(示されていない)は、適正な方向でクローニングされた2コピーのリンカーを含んでいる(REP2遺伝子に近接したPacI部位を有する)ことが確認された。次に、このリンカーの余分なコピーを、まず、多重クローニング部位領域から、FseI部位を含む116bpのNruI−HpaI断片を削除することで除去し、次に、FseIで消化し、再連結してpDB2802(図20)を作出した。オリゴヌクレオチドCF126を用いたDNAシーケンシングにより、正確なリンカー配列を確認した。
次に、この3,119bpのpDB2802 XbaI断片を、部分的XbaI消化およびウシ腸管アルカリ性ホスファターゼ処理によって作出した7,961bpのpSAC35断片と連結し、pDB2805(B型)およびpDB2806(A型)非組込みベクター(それぞれ図21および22)を作出した。
実施例4
FLP遺伝子およびpSAC35の逆方向反復内の下流配列へのDNAリンカーの挿入
FLP遺伝子および逆方向反復内の下流配列への付加的DNAの挿入に関して有効な制限を定義するため、DNAリンカーをpSAC35へ挿入した。図3は、これらの挿入に用いた制限部位およびこれらの部位における翻訳終結のFlpタンパク質に対する影響を示している。
BclI部位に挿入されたリンカーは、オリゴヌクレオチドCF118およびCF119からなる49bpの5’−リン酸化リンカーであった。
pSAC35内のBelI部位のDamメチル化により、BclIリンカーを、大腸菌株ET12567 pUZ8002(MacNeil et al, 1992, Gene, 111, 61; Kieser et al, 2000, Practical Streptomyces Genetics, The John Innes Foundation, Norwich)から単離した非メチル化pSAC35 DNAにクローニングした。プラスミドpSAC35をBclIで線状化し、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理し、BclIリンカーと連結してpDB2816(図23)を作出した。オリゴヌクレオチドプライマーCF91およびCF100を用いたDNAシーケンシングにより、pDB2816には3コピーのBclIリンカーが存在し、それらは総て、ヒスチジン−353の後に、Flpの翻訳終結の適正な方向にあることが示された。
pDB2816のPacI消化の後に自己連結を行い、それぞれ1コピーおよび2コピーのBclIリンカーを含むpDB2814およびpDB2815(図24および25)を作出した。これらのリンカーのDNA配列を、プライマーCF91およびCF100を用いて確認した。S.セレビシエでは、pDB2814、pDB2815またはpDB2816で形質転換された酵母により末端切断型Flp(1〜353)タンパク質が産生される。
1コピーのBclIリンカーを逆向きにpDB2814に連結することで、さらなるプラスミドpDB2846(データは示されていない)も作出された。これは、Flp由来の最初の352残基のコード配列とそれに続いて翻訳終結の前に14の異なる残基を有する。
HgaI部位に挿入されたリンカーは、オリゴヌクレオチドCF114およびCF115からなる47bpの5’−リン酸化リンカーであった。
HgaIリンカーを、部分的HgaI消化により線状化し、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理したpDB2783と連結し、pDB2811(図26)を作出した。オリゴヌクレオチドCF90、CF91およびCF100を用いてDNAシーケンシングにより、正確なリンカー挿入を確認した。
次に、pDB2811由来の3,123bp XbaI断片を、部分的XbaI消化およびウシ腸管アルカリ性ホスファターゼ処理により作出した7,961bpのpSAC35断片と連結し、HgaI部位に挿入されたDNAを含むpDB2812(B型)およびpDB2813(A型)非組込みベクター(それぞれ図27および28)を作出した。
FLPの後のFspIに挿入されたコア終結リンカー(CF106+CF107)を有するプラスミドpDB2803およびpDB2804(それぞれ図29および30)を、pDB2801を構築するために用いたものと同じ方法により単離した。適正なリンカー挿入をDNAシーケンシングにより確認した。プラスミドpDB2804は適正な方向で挿入されたリンカーを含んでいたが(FLP遺伝子に近接したPacI部位を有する)、pDB2803は逆向きのリンカーを含んでいた。
このpDB2804 3,119bp XbaI断片を、部分的XbaI消化およびウシ腸管アルカリ性ホスファターゼ処置により作出した7,961bpのpSAC35断片と連結し、FLPの後のFspI部位に挿入されたDNAを含むpDB2807(B型)およびpDB2808(A型)非組込みベクター(それぞれ図31および32)を作出した。
実施例5
スモールユニーク領域および逆方向反復中に挿入されたDNAリンカーを含むpSAC35様プラスミドで形質転換した酵母におけるLEU2マーカーの相対的安定性
S.セレビシエ株を、US領域および逆方向反復中に挿入されたDNAリンカーを含むpSAC35様プラスミドで形質転換した。プラスミドの安定性を試験するため、低温保存トレハロース原液を調製した(表3)。プラスミド安定性は、pSAC35内のXcmI部位に挿入されたリンカーに関して上記したように分析した。分析する挿入部位につき二反復のフラスコを設定した。振盪フラスコ培養にて3日後の細胞から得られたコロニーの分析に加え、コロニーを増殖させ、さらに4日、振盪フラスコ培養した細胞からも分析した。このため、3日目の各フラスコから100μLのサンプルを取り出し、100mL YEPS培養液中、回転振盪機にて、30.0℃でおよそ96時間(94〜98時間)、さらに継代培養し、その後、単一コロニーを得、LEU2マーカーの欠損に関して分析した。この場合、分析は選択した株からの1本のフラスコに限定し、それにつき50コロニーを採種した。全結果を表4にまとめる。
これらの改変pSAC35プラスミドは総て、酵母を形質転換してロイシン原栄養性とすることができたが、このことは、2μmDNAの機能的に過密な領域内にさらなるDNAが挿入されているにもかかわらず、総てがS.セレビシエ内で複製および分離可能であることを示唆している。これを、2μm US領域内の総ての部位に挿入された43〜52塩基対のリンカー、ならびにPDIl遺伝子を含むより大きなDNA挿入を有するプラスミドに適用した。
リンカー挿入部位に関して、データは両実験および反復間で再現性があった。REP2またはFLPオープンリーディングフレームの外側であるが逆方向反復の内部にある総ての部位が、用いた試験条件下で100%安定であることが分かった。プラスミド不安定性(すなわち、プラスミド欠損)は、REP2またはFLPオープンリーディングフレーム内の部位に挿入されたリンカーで見られた。認められたREP2挿入のプラスミド不安定性はFLP挿入の場合よりも大きかった。REP2挿入では、LEU2マーカーの欠損は非選択培地での増殖期間が長くなるほど持続したが、FLP挿入の場合にはあまり違いはなかった。
REP2遺伝子への挿入では、自己会合および2μmのSTB遺伝子座との結合に働きを持つことが知られている領域内で末端切断されたRep2ポリペプチドが生じた(Sengupta et al, 2001, J. Bacteriol., 183, 2306)。
FLP遺伝子への挿入では、末端切断型Flpタンパク質が生じた。挿入部位は総て、Flpタンパク質の適正な機能に必須の(Prasad et al, 1987, Proc. Natl. Acad-Sci. U S.A., 84, 2189; Chen et al, 1992, Cell, 69, 647; Grainge et al., 2001, J. Mol. Biol., 314, 717)、C末端ドメイン内のチロシン−343の後であった。
FLP XcmI部位への挿入(これもまた、Flpタンパク質産物を末端切断した)以外に、プラスミド不安定性が検出された逆方向反復領域への挿入はなかった。逆方向反復領域内のFspI部位における挿入は、プラスミドの複製に重要なFRT(Flp認識標的)領域に近接していた。
REP2オープンリーディングフレーム、またはFLPオープンリーディングフレームまたは逆方向反復配列に43〜52塩基対のDNAリンカーが挿入されたpSAC35様プラスミドが構築されている。さらに、PDI1遺伝子を含む1.9kbのDNA断片をDNAリンカーのREP2の後のXcmI部位に挿入した。
付加的DNAが挿入されたpSAC35様ベクターは総て、酵母を形質転換してロイシン原栄養性とすることができた。よって、2μmプラスミドDNAの機能的に過密な領域にDNAを挿入するにもかかわらず、プラスミドの複製および分離機構は損なわれていなかった。
非選択培地での増殖中のLEU2選択マーカーの欠損を測定することによるプラスミド安定性の判定は、逆方向反復中へのDNAリンカーの挿入がプラスミドを不安定にすることはなかったが、プラスミドの安定性はREP2およびFLPオープンリーディングフレーム中への挿入によって低下することを示した。しかし、REP2およびFLPオープンリーディングフレーム中の本発明の第一および第二の態様で定義されたいくつかの位置に挿入が行われた場合、非選択培地増殖条件下でプラスミドの安定性が低下するにもかかわらず、生じるプラスミドはやはり、選択培地で増殖させる場合の酵母に用いるのに十分高い安定性を有している。
実施例6
pSAC35のスモールユニーク領域内のREP2遺伝子のすぐ後におけるDNA配列の挿入
REP2遺伝子およびその下流の逆方向反復内の配列への付加的DNAの挿入に関して有効な制限をさらに定義するため、合成DNAリンカーを、pSAC35のREP2翻訳終結コドン(TGA)のすぐ後に挿入した。2μm(またはpSAC35)内のREP2コード配列のすぐ後に都合よく存在する天然の制限エンドヌクレアーゼ部位がないので、オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発によりFLP遺伝子および逆方向反復内の下流配列への付加的DNAの挿入に関して有効な制限を定義するために、この位置にSnaBI部位を導入した。rREP2のすぐ下流にユニークなSnaBI部位を有するpSAC35誘導体をpDB2938(図37)と呼称した。pDB2938では、SnaBI部位の挿入により、逆方向反復の末端が逆方向反復の残りの部分からはすれている。次に、pDB2938のユニークなSnaBI部位に、オリゴヌクレオチドCF104およびCF105(前掲)からなるSnaBIリンカーの同一の31bpの配列が挿入され、その結果、REP2のTGA翻訳終結コドンのすぐ後にある制限エンドヌクレアーゼ部位の順序がSnaBI−PacI−FseI/SfiI−SmaI−SnaBIとなったpDB2954(図38)を構築した。
pDB2938を構築するため、pDB2783(図14)由来の1,085bpのNcoI−BamHI断片をまず、NcoI、BamHIおよびウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで消化したpMCS5(Hoheisel, 1994, Biotechniques, 17, 456)にサブクローニングした。これによってpDB2809(図39)を得、次にこれを、オリゴヌクレオチドCF127およびCF128を用いて突然変異誘発し、pDB2920(図40)を作出した。
オリゴヌクレオチド特異的突然変異誘発は、Statageneのクイックチェンジ(商標)部位特異的突然変異誘発キットに従って行った。プラスミドDNAのSnaBIおよびHindIII制限消化を用いて、pDB2920を含んだアンピシリン耐性大腸菌形質転換体を同定した。pDB2920において、挿入されたSnaBI制限部位の6bp配列および1,091bpのNcoI−BamHI断片全体の適正なDNA配列を、オリゴヌクレオチドプライマーCF98、CF99、CF129、CF130、CF131およびM13フォワードおよびリバースプライマー(表1)を用いたDNAシーケンシングにより確認した。
pDB2920由来の1,091bpのNcoI−BamHI断片をアガロースゲル精製により単離し、pDB2783由来のおよそ4.7kbのNcoI−BamHI断片と連結してpDB2936(図41)を作出した。このpDB2783の4.7lkb NcoI−BamHI断片を、まず、NcoIによる部分的消化により線状化してアガロースゲル電気泳動により精製したpDB2783 DNAの完全BamHI消化により単離した。この連結産物により、大腸菌DH5α細胞を形質転換してアプラマイシン耐性とした。アプラマイシン耐性クローンから単離したプラスミドDNAのSnaBI消化によりpDB2936を同定した。
次に、pDB2936由来の3,082bp XbaI断片を、部分的XbaI消化およびウシ腸管アルカリ性ホスファターゼ処理により作製した7,961bpのpSAC35断片と連結し、非組込みベクターpDB2938(2μm B型、図37)を作出した。
pDB2938をSnaBIおよびウシ腸管ホスファターゼで消化し、pDB2939由来のおよそ2kbのSnaBI断片と連結した(図42)。オリゴヌクレオチドプライマーDS248およびDS250(図43)を用いてS.セレビシエS288cゲノムDNA由来のPDI1遺伝子をPCR増幅した後、そのPCR産物をEcoRIおよびBamHIで消化し、およそ1.98kbの断片を、EcoRIおよびBamHIで切断したYIplac211(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)にクローニングすることにより、pDB2939を作出した。pDB2939のDNAシーケンシングにより、図43において太字で示されているDS248配列内からの「G」の欠失を確認した。次に、pDB2939由来のおよそ2kbのSnaBI断片をpDB2938のユニークなSnaBI部位にクローニングし、プラスミドpDB2950(図44)を作出した。このpDB2950内のPDI1遺伝子はREP2遺伝子と同じ方向に転写される。
次に、pDB2950をSmaIで消化し、このおよそ11.1kbのDNA断片を環化してS288c PDI1配列を削除する。これにより、REP2のTGA翻訳終結コドンのすぐ後にSnaBI−PacI−FseI/SfiI−SmaI−SnaBIリンカーが存在しているプラスミドpDB2954(図38)を作出した。
S.セレビシエS288c PDI1遺伝子をpDB2938のユニークなSnaBI部位にクローニングすることに加え、S.セレビシエSKQ2n PDI1遺伝子を同様にこの部位に挿入した。このS.セレビシエSKQ2n PDI1遺伝子配列を、クローンC7(Crouzet & Tuite, 1987, 前掲; Farquhar et al, 1991, 前掲)としても知られるpMA3a:C7(米国特許第6,291,205号)由来のPDI1遺伝子を含むプラスミドDNAからPCR増幅した。SKQ2n PDI1遺伝子を、オリゴヌクレオチドプライマーDS248およびDS250(図43)を用いて増幅した。このおよそ2kbのPCR産物をEcoRIおよびBamHIで消化し、EcoRIおよびBamHIで切断したYIplac211(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)に連結し、プラスミドpDB2943(図45)を作出した。このSKQ2n PDI1配列の5’末端は、EcoRI、SacI、SnaBI、PacI、FseI、SfiIおよびSmaI部位を含めるべく延長した平滑末端SpeI部位と類似しており、3’末端はSmaI、SnaBIおよびBamHI部位を含めるべく延長した平滑末端Bsu36I部位と類似する部位までにわたる。このPDI1プロモーターの長さはおよそ210bpである。このPDI1断片に関して全DNA配列を決定したところ、114番にセリンを有する(アルギニン残基ではない)こと以外は、S.セレビシエ株SKQ2n配列(NCBI受託番号CAA38402)のPDIタンパク質をコードすることが示された。pDB2939内のS.セレビシエS288c配列と同様に、pDB2943は、図43において太字で示されているDS248配列内から「G」が欠失している。次に、pDB2943由来のおよそ1,989bpのSnaBI断片をpDB2938内のユニークなSnaBI部位にクローニングした。これによりプラスミドpDB2952(図46)が作出され、そこでは、SKQ2n PDI1遺伝子がREP2と同じ方向で転写される。
実施例7
REP2遺伝子のすぐ後に挿入されたDNAを含むpSAC35様プラスミドで形質転換した酵母におけるLEU2マーカーの相対的安定性
pSAC35においてREP2遺伝子の後に導入されたSnaBI部位におけるリンカー配列の挿入からのプラスミド安定性に対する影響をpDB2954に関して評価した。これは最初の実施例で用いたものと同じS.セレビシエ株で、YEPS上での非選択的増殖中のLEU2マーカーの欠損により判定した。実施例1に記載した方法により、このpDB2954の安定性を、pSAC35(対照プラスミド)、pDB2688(XcmI−リンカー)およびpDB2817(XmnI−リンカー)の安定性と比較した。
この酵母株を、改良型の酢酸リチウム法(Sigma酵母形質転換キット、YEAST−1、プロトコール2; (Ito et al, 1983, J. Bacteriol., 153, 163; Elble, 1992, Biotechniques, 13, 18))を用いて形質転換し、ロイシン原栄養性とした。形質転換体をBMMD寒天プレート上で選択した後、BMMD寒天プレートに貼付した。10mL BMMD振盪フラスコ培養(24時間、30℃、200rpm)から、同量の無菌40%(w/v)トレハロースと混合し、アリコートを−80℃で冷凍することにより、低温保存トレハロース原液を調製した。
プラスミド安定性の判定に関しては、1mLの低温保存原液を解凍し、250mL三角フラスコ中、100mL YEPS(初期OD600≒0.04〜0.09)に接種し、回転振盪機(200rpm、Innova 4300インキュベーターシェーカー, New Brunswick Scientific)にて30℃で約72時間(一般に70から74時間)増殖させた。各株を2回分析した。
各フラスコからサンプルを取り出し、YEPS培養液で希釈し(10−2〜10−5希釈)、100μlアリコートをYEPS寒天プレート上に二反復でプレーティングした。細胞を30℃で3〜4日間増殖させ、単一のコロニーを発達させた。分析した各酵母原株につき、無作為な100個のコロニーのレプリカをBMMS寒天プレートに、次いで、YEPS寒天プレートに取った。30℃で3〜4日間増殖させた後、プラスミド安定性の指標として、BMMS寒天プレートとYEPS寒天プレートの双方で増殖するコロニーのパーセンテージを求めた。
上記の分析の結果を下記の表5Aに示す。これらの結果は、pDB2954がpSAC35対照およびpDB2688と実質的に同等の安定性を示すことを示唆している。この種のアッセイでは、pSAC35対照の場合であっても時々低レベルの安定性が検出されることがある(表4参照)。ゆえに、逆方向反復配列の、REP2の翻訳終結コドンのすぐ後に人工的に導入されたSnaBI部位は、合成リンカー配列の挿入に関して、逆方向反復内のXcmI部位と等価であるものと思われる。しかしながら、このXcmI部位は、PDI1遺伝子を含むおよそ2kbのDNA断片の挿入に関してはSnaBI部位よりも好ましいと思われる。
プラスミドpDB2952およびpDB2950に関するこのアッセイの「安定性0%」の結果は非選択培地で得られたものであり、相対的プラスミド安定性の指標となる。このアッセイを種々のリンカー挿入の相対的安定性を比較するために最適化した。選択培地では、SnaBI部位にPDI1を有するプラスミド(プラスミドをさらに不安定にすることが知られている、Notl部位に付加的トランスフェリン遺伝子を含む場合(下記のpDB2959およびpDB2960など)であっても)は、非選択性YEPD寒天プレートおよび抗トランスフェリン抗体を含む選択性BMMD寒天プレートの双方で、分泌されたトランスフェリンの「沈降素円(precipitin halos)」を形成した。分泌されたトランスフェリンの沈降素円は、SnaBI部位において挿入されたPDI1遺伝子なしでは、pDB2961から得られなかった。これらの結果は、SnaBI部位は、異種タンパク質の分泌を増強することができるPDI1などの大きな遺伝子の挿入に有用であることを示す。これらの結果は総て、対照株において得られたものである。また、pDB2959およびpDB2960を含むA株でも増強が見られたが、この場合には、pDB2961で見られた低レベルの分泌も存在していた(A株のゲノム中の余分なPDI1遺伝子のため)。対照株から得られた結果を下記の表5Bにまとめる。抗体プレートとしては、25mL BMMD寒天またはYEPD寒天当たりに100μLのヤギポリクローナル抗トランスフェリン抗血清(Calbiochem)を含んだものを用いた。株を抗体プレート上に貼付し、30℃で48〜72時間増殖させたところ、その後、高レベルの組換えトランスフェリンを分泌するコロニーの周囲の寒天内に沈降素「円」が見られた。このアッセイでは極めて低レベルのトランスフェリン分泌は見られない。
プラスミドpDB2959、pDB2960およびpDB2961をそれぞれpDB2950(図44)、pDB2952(図46)およびpDB2954(図38)から、pDB2711(図11)で見られるものと同じrTf(N413Q,N611Q)に対する3.27kbのNotIカセットを、ユニークなNotI部位に、pDB2711と同じ方向に挿入することにより構築した。
実施例8
非選択条件下30世代の増殖で判定した場合のpSAC35様プラスミドで形質転換した酵母におけるLEU2マーカーの安定性
US領域にDNAが挿入されたpSAC35様プラスミドの安定性を、Chinery & Hinchcliffe (1989, Curr. Genet., 16, 21-25)により定義されたものと類似の方法を用いて判定した。これを、これまでの実施例で用いたものと同じS.セレビシエ株で、所定の世代数にわたって非選択YEPS上での対数増殖中のLEU2マーカーの欠損により判定した。対照プラスミドpSAC35との間の違いを示す、または対照プラスミドとの比較安定性を示すには30世代が好適である。このアッセイよる分析のために選択したプラスミドは、pSAC35(対照)、pDB2688(XcmI−リンカー)、pDB2812(HgaI−リンカー)、pDB2817(XmnI−リンカー)、pDB2960(PDI1遺伝子がREP2の後のXcmI部位に挿入されている)およびpDB2711(PDI1遺伝子がREP2の後のXcmI部位に挿入され、トランスフェリン発現カセットがUL領域内のNotI部位に挿入されている)。
株を、選択(BMMS)培地で対数増殖期まで増殖させ、これを用いて、250mLの三角フラスコ中、30℃に予熱した100mLの非選択(YEPS)培地に、1.25×105〜5×105細胞/mlの間となるように接種した。各フラスコ中に接種した細胞の数を、血球計算盤を用いて培養サンプル中の細胞数を数えることで正確に求めた。また、アリコートを非選択(YEPS)寒天にプレーティングし、30℃で3〜4日間インキュベートし、その後、分析する各フラスコにつき、無作為な100個のコロニーのレプリカを選択(BMMS)寒天および非選択(YEPS)寒天に取り、プラスミドを保持した細胞集団を評価した。30℃で3〜4日間増殖させた後、プラスミド安定性の指標として、BMMS寒天プレートとYEPS寒天プレートの双方で増殖するコロニーのパーセンテージを求めた。
非選択液体培養物を、200rpmで振盪しながら30℃で24時間インキュベートし、血球計算盤のカウント数により判定しておよそ1×107細胞/mlとした。次に、この培養物を予熱した非選択培地に、1.25×105〜5×105細胞/mlの間となるように再接種した。再びアリコートを非選択寒天にプレーティングし、その後、選択寒天および非選択寒天にレプリカを取り、プラスミドの保持を評価した。従って、非選択液体培地での細胞世代数を算出することができた。液体培養では指数関数的対数増殖が30世代維持され、これはpSAC35などの対照プラスミドとの比較安定性を示すのに十分なものであった。プラスミドの安定性は、LEU2選択マーカーを維持している細胞のパーセンテージとして定義した。
非選択培地での増殖によるプラスミドにコードされている表現型の保持を評価するための上記分析の結果を表6および図47に示す。
図47は、分析した各株について、非選択液体培養で世代数を高めるに伴うLEU2マーカーの欠損を示す。
対照プラスミドpSAC35は、このアッセイの全30世代にわたって100%の安定性を保持していた。プラスミドpBD2688およびpDB2812は両者とも、pSAC35と同等の安定性であると思われた。よって、REP2の後のXmnI部位への、またはFLPの後のHgaI部位へのリンカーの挿入はそれぞれ、プラスミド安定性に対して明らかな影響を示さなかった。これに対し、REP2遺伝子内へのXcmI−リンカーの挿入はプラスミド安定性を低下させると思われた。
REP2の後のXcmI−リンカー内にPDI1遺伝子を含むプラスミドpDB2690は、30世代の増殖後、およそ33%の安定性であったが、このことは、2μm系ベクターのUS領域へのこの大きなDNA断片の挿入がプラスミド安定性の低下を招いたことを示唆している。しかしながら、この安定性の低下はpDB2711(ここでの、pSAC35のラージユニーク領域内のNotI部位への組換えトランスフェリン(N413Q,N611Q)発現カセットの挿入はプラスミドをさらに不安定にする働きをした)の場合に見られたものよりも小さかった。これらの所見は実施例2の結果と一致している(表2参照)。
プラスミドpDB2711の安定性を、上記の方法により、別のS.セレビシエ株で評価したところ、同じ結果が得られた(データは示されていない)。このことは、プラスミドの安定性が株に依存していないことを示す。
実施例9
PDI1遺伝子分断を2μm系プラスミド上のPDI1遺伝子と組み合わせるとプラスミドの安定性を高めた
表7に挙げられている一本鎖オリゴヌクレオチドDNAプライマーは、酵母PDI1コード領域の上流の領域と酵母PDI1コード領域の下流の別の領域を増幅するように設計されたものである。
プライマーDS299およびDS300はPDI1の5’領域をPCR増幅し、プライマーDS301およびDS302は、ゲノムDNA由来のS288cを鋳型として用いてPDI1の3’領域を増幅した。PCR条件は次の通りとした:1μL S288c鋳型DNA(0.01ng/μL、0.1ng/μL、1ng/μL、10ng/μLおよび100ng/μL)、5μL 10×バッファー(Fast Start Taq+Mg, (Roche))、1μL 10mM dNTP、5μL 各プライマー(2μM)、0.4μL Fast Start TaqをH2Oで50μLとした。PCRはPerkin−Elmer Thermal Cycler 9700を用いて行った。条件は、変性95℃で4分[HOLD]、その後、[CYCLE]変性95℃で30秒、アニーリング45℃で30秒、伸張72℃で45秒の20サイクルの後、[HOLD]72℃10分、その後、[HOLD]4℃とした。0.22kbpのPDI1 5’PCR産物はNotIおよびHindIIIで切断し、0.341kbpのPDI1 3’PCR産物はHindIIIおよびPstIで切断した。
プラスミドpMCS5(Hoheisel, 1994, Biotechniques 17, 456-460)(図48)をHindIIIで完全に消化し、T4 DNAポリメラーゼおよびdNTPで平滑末端化し、再連結してpDB2964(図49)を作出した。
プラスミドpDB2964をHindIII消化し、ウシ腸管ホスファターゼで処理し、NotIおよびHindIIIで消化した0.2kbpのPDI1 5’PCR産物ならびにHindIIIおよびPstIで消化した0.34kbpのPDI1 3’PCR産物と連結してpDB3069(図50)を作出し、これを、フォワードおよびリバース万能プライマーならびにDNAシーケンシングプライマーDS303、DS304、DS305およびDS306(表7)を用いて配列決定した。
プライマーDS234およびDS235(表8)を用いて、YIplac204(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)から、PCR産物の各末端にHindIII制限部位を組み込んだ改変TRP1マーカー遺伝子を増幅した。PCR条件は次の通りとした:1μL 鋳型YIplac204(0.01ng/μL、0.1ng/μL、1ng/μL、10ng/μLおよび100ng/μL)、5μL 10×バッファー(Fast Start Taq+Mg, (Roche))、1μL 10mM dNTP、5μL 各プライマー(2μM)、0.4μL Fast Start TaqをH2Oで50μLとした。PCRはPerkin−Elmer Thermal Cycler 9600を用いて行った。条件は、変性95℃で4分[HOLD]、その後、[CYCLE]変性95℃で30秒、アニーリング45℃で45秒、伸張72℃で90秒の20サイクルの後、[HOLD]72℃10分、その後、[HOLD]4℃とした。0.86kbpのPCR産物をHindIIIで切断し、pMCS5のHindIII部位にクローニングし、createpDB2778(図51)を作出した。制限酵素消化と、万能フォワードおよびリバースプライマーならびにDS236、DS237、DS238およびDS239(表8)を用いたシーケンシグにより、改変されたTRP1遺伝子の配列を確認した。
0.86kbpのTRP1遺伝子をpDB2778から、HindIIIでの消化により単離し、pDB3069のHindIII部位へクローニングしてpDB3078(図52)およびpDB3079(図53)を作出した。1.41kbのpdi1::TRP1分断DNA断片をpDB3078またはpDB3079から、NotI/PstIでの消化により単離した。
TRP1欠失(trp1Δ)を組み込んだ酵母株は、ひと度trp1Δが作出されたならばゲノム内にTRP1マーカー遺伝子(pDB2778)との相同性が残らないように、すなわち、将来のTRP1を含む構築物とTRP1遺伝子座との間の相同組換えが起こらないように構築されたはずであった。選択された宿主株のゲノムから天然TRP1配列の全体的な除去を達成するため、組込みベクターYIplac204(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)上に存在するTRPIマーカー遺伝子の外側のTRP1遺伝子の5’UTRおよび3’UTRの領域を増幅するようにオリゴヌクレオチドを設計した。このYIplac204 TRP1マーカー遺伝子は、内部HindIII、PstIおよびXaI部位が部位特異的突然変異誘発により除去されているという点で天然/染色体TRP1遺伝子とは異なる(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)。YIplac204改変型TRP1マーカー遺伝子を1.453kbpの平滑末端化ゲノム断片EcoRI断片から構築し、これはTRP1遺伝子と102bpのみのTRP1プロモーターを含んでいた(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)。これは比較的短いプロモーター配列であったが、trp1栄養要求性突然変異を補償するには明らかに十分なものであった(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)。5’〜TRP1 ORFの開始部までの102bpに存在する、EcoRI部位の上流のDNA配列のみを用いて5’TEP1 UTRを作出した。機能的に改変されたTRP1マーカーの3’末端の外側にある限り3’UTRの選択はあまり重要でなく、翻訳停止コドンの下流の85bpとなるように選択した。
PCR増幅の際に制限酵素部位が、その後のクローニング工程で用いられるPCR産物の末端に付加されるように、TRP1遺伝子の5’UTRおよび3’UTR領域を増幅するために一本鎖オリゴヌクレオチドDNAプライマーを設計および構築した。S288cゲノムDNAを鋳型として用い、プライマーDS230およびDS231(表8)はPCRによりTRP1の5’領域を増幅し、一方、プライマーDS232およびDS233(表8)はTRP1の3’を増幅した。PCR条件は次の通りとした:1μL鋳型S288cゲノムDNA(0.01ng/μL、0.1ng/μL、1ng/μL、10ng/μLおよび100ng/μL)、5μL 10×バッファー(Fast Start Taq+Mg, (Roche))、1μL 10mM dNTP、5μL 各プライマー(2μM)、0.4μL Fast Start TaqをH2Oで50μLとした。PCRはPerkin−Elmer Thermal Cycler 9600を用いて行った。条件は、変性95℃で4分[HOLD]、その後、[CYCLE]変性95℃で30秒、アニーリング45℃で45秒、伸張72℃で90秒の20サイクルの後、[HOLD]72℃10分、その後、[HOLD]4℃とした。
この0.19kbpのTRP1 5’UTR PCR産物をEcoRIおよびHindIIIで切断し、0.2kbpのTRP1 3’UTR PCR産物のほうはBamHIおよびHindIIIで切断し、BamHI/EcoRIで線状化したpAYE505に連結し、プラスミドpDB2777(図54)を作出した。pAYE505の構築についてはWO95/33833に記載されている。プラスミド主鎖およびクローニングされた挿入部の配列からプライミングするように設計されたフォワードおよびリバースプライマーを用いたDNAシーケンシングにより、両方の場合において、クローニングされたTRP1遺伝子の5’および3’UTR配列が予測されるDNA配列を有することを確認した。プラスミドpDB2777は、TRP1の5’および3’UTRに由来する配列の融合物を含んでなるTRP1分断断片を含んでいた。この0.383kbpのTRP1分断断片を、EcoRIでの完全消化により、pDB2777から切り出した。
酵母株DXY1(Kerry-Williams et al., 1998, 酵母, 14, 161-169)を、改良型の酢酸リチウム法(Sigma酵母形質転換キット、YEAST−1、プロトコール2; (Ito et al, 1983, J. Bacteriol., 153, 163; Elble, 1992, Biotechniques, 13, 18))を用い、アルブミン発現プラスミドpDB2244で形質転換してロイシン原栄養性とし、酵母株DXY1[pDB2244]を作出した。このアルブミン発現プラスミドpDB2244の構築についてはWO00/44772に記載されている。形質転換体をBMMD寒天プレート上で選択した後、BMMD寒天プレート上に貼付した。10mL BMMD振盪フラスコ培養(24時間、30℃、200rpm)から低温保存トレハロース原液を調製した。
DXY1[pDB2244]を、Toyn et al., (2000 Yeast 16, 553-560)が記載しているように、対選択トリプトファン類似体、5−フルオロアントラニル酸(5−FAA)を配合した栄養寒天を用い、pDB2777由来の0.383kbpのEcoRI TRP1分断DNA断片で形質転換し、トリプトファン独立栄養性とした。5−FAAの有毒作用に耐性のあるコロニーを採取し、もう一度5−FAAプレートに線条接種し、それらが本当に5−FAA耐性であることを確認し、バックグラウンド増殖から選択した。次に、増殖させたコロニーをBMMDおよびBMMD+トリプトファンに再貼付し、どれがトリプトファン栄養要求株であるか確認した。
次に、トリプトファン栄養要求株であることが示されたコロニーを、単離物がtrp1であることを確認すべく、YCplac22(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)での形質転換によるさらなる分析のために選択した。
TRP1遺伝子座にわたるPCR増幅を用い、trp−表現型はこの領域の欠損によるものであったことを確認した。5−FAA耐性であって、トリプトファンの添加のない最小培地では増殖できないことが確認された単離物からゲノムDNAを調製した。ゲノムTRP1遺伝子座の、プライマーCED005およびCED006(表8)を用いたPCR増幅を次のようにして行った:1μL鋳型ゲノムDNA、5μL 10×バッファー(Fast Start Taq+Mg, (Roche))、1μL 10mM dNTP、5μL 各プライマー(2μM)、0.4μL Fast Start TaqをH2Oで50μLとした。PCRはPerkin−Elmer Thermal Cycler 9600を用いて行った。条件は、変性94℃で10分[HOLD]、その後、[CYCLE]変性94℃で30秒、アニーリング55℃で30秒、伸張72℃で120秒の40サイクルの後、[HOLD]72℃10分、その後、[HOLD]4℃とした。野生型TRP1遺伝子座のPCR増幅では、1.34kbpの大きさのPCR産物が生じたが、欠失TRP1領域にわたる増幅では、0.50kbp小さい0.84kbpのPCR産物が生じた。PCR分析により、DXY1由来trp−株(DXY1 trp1Δ[pDB2244])が予測された欠失を有することを確認した。
Sleep et al., 1991, Bio/Technology, 9, 183-187が記載しているように、この酵母株DXY1 trp1Δ[pDB2244]の発現プラスミドpDB2244は回復した。DXY1 trp1Δcir0を、改良型の酢酸リチウム法(Sigma酵母形質転換キット、YEAST−1、プロトコール2; (Ito et al, 1983, J. Bacteriol., 153, 163; Elble, 1992, Biotechniques, 13, 18))を用い、pDB2244、pDB2976、pDB2977、pDB2978、pDB2979、pDB2980またはpDB2981(pDB2976、pDB2977およびpDB2980またはpDB2981の作製については実施例10でさらに述べる)のいずれかで形質転換し、ロイシン原栄養性とした。トリプトファンを添加したBMMD寒天プレート上で形質転換体を選択した後、トリプトファンを添加したBMMD寒天プレート上に貼付した。トリプトファンを添加した10mL BMMD振盪フラスコ培養(24時間、30℃、200rpm)から低温保存トレハロース原液を調製した。
酵母株DXY1 trp1Δ [pDB2976]、DXY1 trp1Δ [pDB2977]、DXY1 trp1Δ [pDB3078]、DXY1 trp1Δ [pDB3079]、DXY1 trp1Δ [pDB2980]またはDXY1 trp1Δ [pDB2981]を、改良型の酢酸リチウム法(Sigma酵母形質転換キット、YEAST−1、プロトコール2; (Ito et al, 1983, J. Bacteriol., 153, 163; Elble, 1992, Biotechniques, 13, 18))を用い、pDB3078からNotI/PstI消化により単離した1.41kb pdi1::TRP1分断DNA断片で形質転換し、トリプトファン原栄養性とした。BMMD寒天プレート上で形質転換体を選択した後、BMMD寒天プレートに貼付した。
各株6個の形質転換体を、50mL振盪フラスコ中、10mLのYEPDに接種し、回転振盪機にて30℃、200rpmで4日間インキュベートした。培養上清および細胞バイオマスを採集した。これらのトリプトファン原栄養株およびDXY1 [pDB2244]からゲノムDNAを調製した(Lee, 1992, Biotechniques, 12, 677)。プライマーDS236およびDS303(表7および8)を用いたゲノムPDI1遺伝子座のPCR増幅は次のようにして行った:1μL鋳型ゲノムDNA、5μL 10×バッファー(Fast Start Taq+Mg, (Roche))、1μL 10mM dNTP、5μL 各プライマー(2μM)、0.4μL Fast Start TaqをH2Oで50μLとした。PCRはPerkin−Elmer Thermal Cycler 9700を用いて行った。条件は、変性94℃で4分[HOLD]、その後、[CYCLE]変性94℃で30秒、アニーリング50℃で30秒、伸張72℃で60秒の30サイクルの後、[HOLD]72℃10分、その後、[HOLD]4℃とした。野生型PDI1遺伝子座のPCR増幅ではPCR産物は生じなかったが、欠失PDI1領域にわたる増幅では、0.65kbpのPCR産物が生じた。PCR分析により、試験した36の可能性のあるpdi1::TRP1株の総てが予測されたdpdi1::TRP1欠失を有することを確認した。
これらの組換えアルブミンの力価をロケット免疫電気泳動により比較した(図55)。各群の中で、DXY1 trp1Δ [pDB2976]、DXY1 trp1Δ [pDB2978]、DXY1 trp1Δ [pDB2980]、DXY1 trp1Δ [pDB2977]およびDXY1 trp1Δ [pDB2979]の6つのpdi1::TRP1分断物は総て、極めて類似したrHA生産性を有していた。DXY1 trp1Δ [pDB2981]の6つのpdi1::TRP1分断物だけがrHA発現力価に変動を示した。図55に示したこれら6つのpdi1::TRP1分断物をYEPD寒天上に拡げ、単一コロニーを単離し、その後、BMMD寒天上に再貼付した。
3つの、単一細胞由来単離物DXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2976]、DXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2978]、DXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2980]、DXY1 trp1Δ pdi1::TUP1 [pDB2977]、DXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2979]およびDXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2981]を、DXY1 [pDB2244]、DXY1 [pDB2976]、DXY1 [pDB2978]、DXY1 [pDB2980]、DXY1 [pDB2977]、DXY1 [pDB2979]およびDXY1 [pDB2981]とともに、50mL振盪フラスコ中、10mLのYEPDに接種し、回転振盪機にて30℃、200rpmで4日間インキュベートした。培養上清を採集し、組換えアルブミン力価をロケット免疫電気泳動により比較した(図56)。図56で示されている13の野生型PDI1およびpdi1::TRP1分断物をYEPD寒天上に拡げ、単一コロニーを単離した。次に、各株から100の単一細胞由来コロニーをBMMD寒天または組換えアルブミンの発現を検出するためのヤギ抗HSA抗体(Sleep et al., 1991, Bio/Technology, 9, 183-187)を含むYEPD寒天上に再貼付し、各コロニーのLeu+/rHA+、Leu+/rHA−、Leu−/rHA+またはLeu−/rHA−の表現型をスコアリングした(表9)。
これらのデータは、染色体にコードされているPDIを持たない宿主株においてプラスミドに対する選択マーカーとしてPDI1遺伝子を用いる場合には、この富栄養培地などの非選択培地であってもプラスミドの保持が高まることを示す。これらは、「必須」シャペロン(例えば、PDI1またはPSE1)、または、欠失または不活性化された場合に栄養(生合成)要求性が生じない他のいずれかの「必須」遺伝子産物(例えば、PGK1またはFBA1)が、プラスミドの不在下ではその遺伝子産物を産生できない宿主細胞においてプラスミドの選択マーカーとして使用でき、特定の選択条件下で細胞を培養する必要があるという不都合なく、プラスミドの安定性の上昇が達成できることを示している。「栄養(生合成)要求性」とは、増殖培地に対する添加または改変によって補償できる欠陥を含む。従って、本発明において、「必須マーカー遺伝子」は、宿主細胞において欠失または不活性化されている場合に、増殖培地に対する添加または改変によって補償できない欠陥を生じるものである。
実施例10
種々のPDI1遺伝子と、同じ2μm様プラスミド上の種々の異種タンパク質の発現カセットを含む発現ベクターの構築
PDI1遺伝子のPCR増幅およびYIplac211へのクローニング
S.セレビシエS288cおよびS.セレビシエSKQ2n由来のPDI1遺伝子をPCR増幅し、プロモーター配列を含む5’非翻訳領域の長さが様々に異なるDNA断片を作製した。YIplac211(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)のEcoRIおよびBamHI部位へのPCR産物のクローニングが可能となるようにPCRプライマーを設計した。後のクローニングを容易にするため、付加的な制限エンドヌクレアーゼ部位もPCRプライマーに組み込んだ。表10に構築されたプラスミドを記載し、表11にPDI1遺伝子を増幅するために用いたPCRプライマー配列を示す。これらのYIplac211系プラスミド内のPDI1プロモーターの長さの違いは表10に記載されている。
オリゴヌクレオチドプライマーDS248およびDS250(表11)を用いて、S.セレビシエS288cゲノムDNA由来のPDIl遺伝子をPCR増幅した後、そのPCR産物をEcoRIおよびBamHIで消化し、そのおよそ1.98kbの断片を、EcoRIおよびBamHIで切断したYIplac211(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)にクローニングすることによりpDB2939(図57)を作出した。pDB2939のDNAシーケンシングにより、表5において太字で示されているDS248内からの「G」の欠失を確認した。PDI1遺伝子のシーケンシングに用いたオリゴヌクレオチドプライマーは表6に示すが、これらは公開されているS288c PDI1遺伝子配列(PDI1/YCL043C、第III染色体上の座標50221〜48653+1000塩基対の上流配列および1000塩基対の下流配列(http://www.yeastgenome.org/Genebank Accession number NC001135))から設計したものである。
同様に、プラスミドpDB2941(図58)およびpDB2942(図59)も表10および11に記載されているPCRプライマーを用い、それぞれおよそ1.90kbおよび1.85kbのEcoRI−BamHI断片をYIplac211にクローニングすることにより構築した。pDB2941およびpDB2942内のPDI1遺伝子に関して適正なDNA配列を確認した。
このS.セレビシエSKQ2n PDI1遺伝子配列を、クローンC7(Crouzet & Tuite, 1987, 前掲; Farquhar et al., 1991, 前掲)としても知られるpMA3a:C7(米国特許第6,291,205号)由来のPDI1遺伝子を含むプラスミドDNAから増幅した。SKQ2n PDI1遺伝子を、オリゴヌクレオチドプライマーDS248およびDS250(表10および11)を用いて増幅した。およそ2.01kbのPCR産物をEcoRIおよびBamHIで消化し、EcoRIおよびBamHIで切断したYIplac211(Gietz & Sugino, 1988, Gene, 74, 527-534)に連結し、プラスミドpDB2943(図60)を作出した。このSKQ2n PDI1配列の5’末端は、EcoRI、SacI、SnaBI、PacI、FseI、SfiIおよびSmaI部位を含めるべく延長した平滑末端SpeI部位と類似しており、3’末端はSmaI、SnaBIおよびBamHI部位を含めるべく延長した平滑末端Bsu36I部位と類似する部位までにわたる。このPDI1プロモーターの長さはおよそ210bpである。このPDI1断片に関して、表12に示されているオリゴヌクレオチドプライマーを用いて全DNA配列を決定した。これにより、S.セレビシエ株SKQ2n配列(NCBI受託番号CAA38402)のPDIタンパク質のコード配列が存在するが、114番にセリン残基を有する(これまでに公開されているようなアルギニン残基ではない)ことが確認された。pDB2939内のS.セレビシエS288c配列と同様に、pDB2943も、表5において太字で示されているDS248配列内から「G」が欠失していた。
同様に、プラスミドpDB2963(図61)およびpDB2945(図62)も表10および11に記載されているPCRプライマーを用い、それぞれおよそ1.94kbおよび1.87kbのEcoRI−BamHI断片をYIplac211にクローニングすることにより構築した。114番のアミノ酸にセリンコドンを有するpDB2963およびpDB2945内のPDI1遺伝子に関して、予測されたDNA配列を確認した。
REP2の後のXcmI部位に種々のPDI1遺伝子が挿入されたpSAC35系rHA発現プラスミドの構築
rHAを種々のPDI1遺伝子と同時発現させるためのpSAC35系プラスミドを構築した(表13)。
まず、pDB2243(図63、WO00/44772に記載)由来のrHA発現カセットを2,992bpのNotI断片上で単離し、次にこれをpDB2688(図4)のNotI部位にクローニングしてpDB2693(図64)を作出した。pDB2693をSnaBIで消化し、ウシ腸管アルカリ性ホスファターゼで処理し、pDB2943、pDB2963、pDB2945、pDB2939、pDB2941およびpDB2942由来のPDI1遺伝子を含むSnaBI断片と連結した。これによりプラスミドpDB2976〜pDB2987(図65〜76)を作出した。REP2と同じ方向に転写されるPDI1を「方向A」で示し、REP2と逆向きに転写されるPDI1を「方向B」で示した(表13)。
2μmプラスミドのプラスミドマップを示す。
pSAC35のプラスミドマップを示す。
FLP挿入部位を例としていくつか示す。
種々のプラスミドのマップを示す。
種々のプラスミドのマップを示す。
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PDI1遺伝子を含むpDB2429由来のDNA断片を示す。
種々のプラスミドのマップを示す。
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REP2挿入部位を例としていくつか示す。
種々のプラスミドのマップを示す。
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実施例で言及される表3を示す。
実施例で言及される表3を示す。
実施例で言及される表3を示す。
実施例で言及される表3を示す。
配列番号1の配列を示す。
配列番号2の配列を示す。
種々のプラスミドのマップを示す。
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PCRプライマーDS248およびDS250の配列を示す。
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種々のpSAC35由来プラスミドを含むS.セレビシエの非選択液体培養における増殖世代数の増加に伴うプラスミドの安定性を示す。
種々のプラスミドのマップを示す。
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RIEの結果を示す。10mL YEPD振盪フラスコに、pDB3078から単離した1.41kb NotI/PstI pdi1::TRP1分断DNA断片でトリプトファン原栄養型へと形質転換させたDXY1 trp1Δ [pDB2976]、DXY1 trp1Δ [pDB2977]、DXY1 trp1Δ [pDB2978]、DXY1 trp1Δ [pDB2979]、DXY1 trp1Δ [pDB2980]またはDXY1 trp1Δ [pDB2981]を接種した。形質転換体を30℃、200rpmで4日間増殖させた。ロケット免疫電気泳動ゲル(Weeke, B. 1976. Rocket immunoelectrophoresis. In N. H. Azelsen, J. Kroll、およびB. Weeke [eds.], A manual of quantitative immunoelectrophoresis. Methods and applications. Universitetsforlaget, Oslo, Norway)のウェル当たり4μlの培養上清を添加した。rHA標準濃度はμg/mLである。700μLヤギ抗HA(5mLの水に再懸濁させたSigma製品A−1151)/50mLアガロース。プレシピンをクーマシーブルーで染色した。さらなる分析のために選択した単離物を(*)で示している。
RIEの結果を示す。10mL YEPD振盪フラスコに、DXY1[pDB2244]、DXY1 [pDB2976]、DXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2976]、DXY1 [pDB2978]、DXY1 trp1Δ pdi1::TUP1 [pDB2978]、DXY1 [pDB2980]、DXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2980]、DXY1 [pDB2977]、DXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2977]、DXY1 [pDB2979] DXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2979]、DXY1[pDB2981]およびDXY1 trp1Δ pdi1::TRP1 [pDB2981]を接種し、30℃、200rpmで4日間増殖させた。ロケット免疫電気泳動ゲルのウェル当たり4μlの培養上清を添加した。rHA標準濃度はμg/mLである。800μLヤギ抗HA(5mLの水に再懸濁させたSigma製品A−1151)/50mLアガロース。プレシピンをクーマシーブルーで染色した。さらなる分析のために選択した単離物を(*)で示している。
種々のプラスミドのマップを示す。
種々のプラスミドのマップを示す。
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