図1は、本発明の無線通信装置が好適に用いられる無線タグ通信システム10について説明する図である。この無線タグ通信システム10は、本発明の無線通信装置の一実施例である無線タグ通信装置12と、その無線タグ通信装置12の通信対象である単数乃至は複数(図1では単数)の無線タグ14とから構成される所謂RFID(Radio Frequency Identification)システムであり、上記無線タグ通信装置12はそのRFIDシステムの質問器として、上記無線タグ14は応答器としてそれぞれ機能する。すなわち、上記無線タグ通信装置12から質問波Fc(送信信号)が上記無線タグ14に向けて送信されると、その質問波Fcを受信した上記無線タグ14において所定のコマンド(送信データ)によりその質問波Fcが変調され、応答波Fr(返信信号)として上記無線タグ通信装置12に向けて返信されることで、その無線タグ通信装置12と無線タグ14との間で情報の通信が行われる。この無線タグ通信システム10は、例えば、所定の通信領域内における物品の管理等に用いられるものであり、上記無線タグ14は、好適には、管理対象である物品に貼られる等してその物品と一体的に設けられている。
図2は、上記無線タグ通信装置12の構成を説明する図である。この図2に示すように、本実施例の無線タグ通信装置12は、上記送信信号の主搬送波を発生させるための主搬送波発生部18と、その主搬送波発生部18により発生させられた主搬送波を後述する送信データ生成部42により生成される送信情報信号(送信データ)により変調して上記送信信号を生成する送信信号変調部20と、その送信信号変調部20により変調された送信信号を上記無線タグ14に向けて送信すると共に、その送信信号に応じてその無線タグ14から返信される返信信号を受信するための送受信共用の複数(図2では4本)のアンテナ素子30a、30b、30c、30d(以下、特に区別しない場合には単にアンテナ素子30と称する)と、それら複数のアンテナ素子30から送信される送信信号の送信指向性を制御すると共に、それら複数のアンテナ素子30により受信される受信信号の受信指向性を制御するための指向性制御部22と、その指向性制御部22から供給される送信信号をアンテナ素子30に供給すると共に、それらアンテナ素子30により受信された受信信号をその指向性制御部22に供給する複数(図2では4つ)の送受信分離部24a、24b、24c、24d(以下、特に区別しない場合には単に送受信分離部24と称する)と、所定の周波数の局所信号を発生させる局部発振器26と、上記指向性制御部22から供給される受信信号それぞれにその局部発振器26により発生させられる局所信号を掛け合わせることでダウンコンバートする複数(図2では4つ)のダウンコンバータ28a、28b、28c、28d(以下、特に区別しない場合には単にダウンコンバータ28と称する)と、それらダウンコンバータ28によりダウンコンバートされた受信信号の復調処理をはじめとする上記無線タグ通信装置12の動作を制御する制御部40とを、備えて構成されている。ここで、上記複数のアンテナ素子30からアレイアンテナ16が構成される。また、上記送受信分離部24としては、サーキュレータ若しくは方向性結合器等が好適に用いられる。
上記指向性制御部22は、上記送信信号変調部20から供給される送信信号それぞれの位相を制御する複数(図2では4つ)の送信移相部32a、32b、32c、32d(以下、特に区別しない場合には単に送信移相部32と称する)と、それぞれの振幅を制御する複数(図2では4つ)の送信増幅部34a、34b、34c、34d(以下、特に区別しない場合には単に送信増幅部34と称する)とを、備えており、それら送信移相部32及び送信増幅部34を介して上記複数のアンテナ素子30から送信される送信信号それぞれの位相及び/又は振幅を制御することでその送信信号の送信指向性を制御する。また、上記複数の送受信分離部24から供給される受信信号それぞれの位相を制御する複数(図2では4つ)の受信移相部36a、36b、36c、36d(以下、特に区別しない場合には単に受信移相部36と称する)と、それぞれの振幅を制御する複数(図2では4つ)の受信増幅部38a、38b、38c、38d(以下、特に区別しない場合には単に受信増幅部38と称する)とを、備えており、それら受信移相部36及び受信増幅部38を介して上記複数のアンテナ素子30により受信された受信信号それぞれの位相及び/又は振幅を制御することでその受信信号の受信指向性を制御する。
前記制御部40は、CPU、ROM、及びRAM等を含んで構成され、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う所謂マイクロコンピュータであり、前記送信データの生成、上記送信移相部32及び送信増幅部34の制御量の決定、上記受信移相部36及び受信増幅部38の制御量の決定、前記無線タグ14に向けて前記送信信号を送信する送信制御、その送信信号に応じて前記無線タグ14から返信される返信信号を受信する受信制御、及び受信された受信信号を復調する復調制御等を実行する。斯かる制御を実行するため、送信データ生成部42、PAAウェイト制御部44、受信信号合成部50、受信信号復調部52、信号強度検出部54、及びタグ位置推定部56を機能的に備えている。
上記送信データ生成部42は、前記主搬送波発生部18により発生させられる搬送波に乗せて前記無線タグ14へ送信するための送信データを生成して前記送信信号変調部20へ供給する。その送信信号変調部20では、上記送信データ生成部42から供給される送信データに基づいて変調が行われて送信信号とされ、前記指向性制御部22等を介して前記アンテナ素子30から送信される。
前記PAAウェイト制御部44は、送信制御部46及び受信制御部48を含んでおり、前記複数のアンテナ素子30から送信される送信信号それぞれの位相(及び必要に応じて振幅)を制御することで送信指向性を制御する。また、前記複数のアンテナ素子30により受信される受信信号それぞれの位相(及び必要に応じて振幅)を制御することで受信指向性を制御する。すなわち、各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御する位相制御部として機能する。
上記送信制御部46は、前記指向性制御部22を介して各送信信号の位相を制御することにより前記複数のアンテナ素子30から成る送信アンテナを送信用フェイズドアレイアンテナ(Phased Array Antenna)として制御する。
前記受信制御部48は、前記複数のアンテナ素子30により受信される受信信号それぞれの位相(及び必要に応じて振幅)を制御することによりその受信信号の受信指向性を制御する。すなわち、前記指向性制御部22を介して各受信信号の位相を制御することにより前記複数のアンテナ素子30から成る受信アンテナを受信用フェイズドアレイアンテナとして制御する。
前記受信信号合成部50は、前記複数のアンテナ素子30によりそれぞれ受信される受信信号を合成(加算)する。また、前記複数のアンテナ素子30のうち選択される少なくとも2つのアンテナ素子30によりそれぞれ受信される受信信号を合成する。すなわち、本実施例の無線タグ通信装置12では、前記複数のアンテナ素子30のうち選択される少なくとも2つのアンテナ素子30によりそれぞれ受信される受信信号の位相が前記指向性制御部22において制御されると共に、それら受信信号が前記受信信号合成部50により合成され、その合成信号の信号強度が前記信号強度検出部54により検出され得るようになっている。
前記受信信号復調部52は、上記受信信号合成部50により合成された前記複数のアンテナ素子30からの受信信号を復調する。好適には、AM方式により受信信号をAM復調した後、その復調信号をFM復号することで前記無線タグ14による変調に関する情報信号を読み出す。
前記信号強度検出部54は、前記複数のアンテナ素子30のうち少なくとも1つのアンテナ素子30により受信された受信信号の信号強度を検出する。また、前記受信信号合成部50により合成された合成信号の信号強度を検出する。すなわち、前記複数のアンテナ素子30のうち選択される少なくとも2つのアンテナ素子30によりそれぞれ受信される受信信号の合成信号の信号強度を検出する。
前記タグ位置推定部56は、通信対象である前記無線タグ14の前記無線タグ通信装置12乃至はアレイアンテナ16に対する相対位置を推定する。この推定は、好適には、前記信号強度検出部54による検出結果に基づいて行われる。このタグ位置推定部56による前記無線タグ14の相対位置の推定及びその推定結果に応じての前記PAAウェイト制御部44による各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相の制御については以下に詳述する。
図3は、前記無線タグ14に備えられた無線タグ回路素子60の構成を説明する図である。この図3に示すように、上記無線タグ回路素子60は、前記無線タグ通信装置12との間で信号の送受信を行うためのアンテナ部62と、そのアンテナ部62により受信された信号を処理するためのIC回路部64とを、備えて構成されている。そのIC回路部64は、上記アンテナ部62により受信された前記無線タグ通信装置12からの質問波Fcを整流する整流部66と、その整流部66により整流された質問波Fcのエネルギを蓄積するための電源部68と、上記アンテナ部62により受信された搬送波からクロック信号を抽出して制御部76に供給するクロック抽出部70と、所定の情報信号を記憶し得る情報記憶部として機能するメモリ部72と、上記アンテナ部62に接続されて信号の変調及び復調を行う変復調部74と、上記整流部66、クロック抽出部70、及び変復調部74等を介して上記無線タグ回路素子60の作動を制御するための制御部76とを、機能的に含んでいる。この制御部76は、前記無線タグ通信装置12と通信を行うことにより上記メモリ部72に上記所定の情報を記憶する制御や、上記アンテナ部62により受信された質問波Fcを上記変復調部74において上記メモリ部72に記憶された情報信号に基づいて変調したうえで応答波Frとして上記アンテナ部62から反射返信する制御等の基本的な制御を実行する。
図4は、本実施例の無線タグ通信装置12に備えられたアレイアンテナ16とその通信対象である無線タグ14との相対位置関係について説明する図である。前記アレイアンテナ16は、好適には、前記無線タグ通信装置12に対して位置固定に設けられたものであり、その無線タグ通信装置12に対する無線タグ14の相対位置関係は、前記アレイアンテナ16とその無線タグ14との相対位置関係として考えることができる。斯かる相対位置関係は、(1)第1の直線座標及びその第1の直線座標と直交する第2の直線座標により定められる平面座標、(2)相対距離及び相対方向により定められる極座標等で表される。例えば、前記複数のアンテナ素子30が同一平面上に等間隔で配設されている場合、それら複数のアンテナ素子30の配設幅方向の中心(アンテナ素子30b及び30c相互間の中点)に原点をとると共に、その平面に含まれるように第1の直線座標であるx軸を、その平面に垂直を成すように第2の直線座標であるy軸をとることで図4に示すようなx‐y座標(平面座標)が張られ、そのx‐y座標に関して前記アレイアンテナ16に対する無線タグ14の相対位置関係が表される。また、前記複数のアンテナ素子30の配設幅方向の中心(図4にx‐y座標の原点で示す位置)からの相対距離をr、その中心を通り且つ上記平面に垂直を成す直線(図4にy軸で示す直線)に対する相対角度(相対方向)をθとし、その相対距離r及び相対方向θによって定められるr‐θ座標(極座標)に関して前記アレイアンテナ16に対する無線タグ14の相対位置関係を表すこともできる。前記アレイアンテナ16(延いては無線タグ通信装置12)に対する無線タグ14の相対位置関係の表し方としては様々なものが考えられるが、本実施例ではこの図4に示すx‐y座標及びr‐θ座標に関する相対位置関係について考えるものとする。
図5は、第1の直線座標であるx座標及びその第1の直線座標と直交する第2の直線座標であるy座標に関する前記無線タグ14の相対位置と各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示す第1のテーブルとしてのx‐y座標テーブル78であり、図6は、前記無線タグ14との相対距離r及びその無線タグ14の相対方向θと各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示す第2のテーブルとしてのr‐θ座標テーブル80である。本実施例の無線タグ通信装置12は、図5及び図6に示すような、前記無線タグ14の相対位置と各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示すテーブルを、例えば前記制御部40のRAM等に備えており、前記PAAウェイト制御部44は、斯かるテーブル78、80に示される対応関係から前記タグ位置推定部56による推定結果に基づいて各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御する。なお、図5及び図6に示すように、本実施例の無線タグ通信装置12に備えられたx‐y座標テーブル78及びr‐θ座標テーブル80は、何れも前記無線タグ14との相対距離が短いほど細かく対応関係が定められている。すなわち、好適には、前記無線タグ14との通信に用いられる搬送波の波長をλとして、その無線タグ14との相対距離rがλ未満である場合にはλ/10間隔で、相対距離rがλ以上5λ未満である場合にはλ/4間隔で、相対距離rが5λ以上である場合には通常の平面波と同様の間隔で、前記無線タグ14の相対位置と各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係が定められており、前記無線タグ14との相対距離rが接近しているほどその無線タグ14の相対位置が詳細に推定乃至検出できるようになっている。
図5及び図6に示すような、前記無線タグ14の相対位置と各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示すテーブルを用いた位相制御には複数の態様が考えられる。先ず、第1の態様として、前記タグ位置推定部56により前記無線タグ14の相対位置を前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80を用いて推定し、その結果に基づいて各アンテナ素子30における位相を決定する態様が考えられる。この態様において、前記タグ位置推定部56は、前記PAAウェイト制御部44による各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相制御に際して前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80に示される全ての対応関係を一通り適用し、前記信号強度検出部54による検出結果が最大値をとる対応関係から前記無線タグ14の相対位置を推定する。そして、前記PAAウェイト制御部44は、前記タグ位置推定部56により推定された相対位置に基づいて各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御する。すなわち、前記タグ位置推定部56により推定された前記無線タグ14の相対位置を表すx‐y座標に対応して前記x‐y座標テーブル78に定められた位相、或いは前記タグ位置推定部56により推定された前記無線タグ14の相対位置を表すr‐θ座標に対応して前記r‐θ座標テーブル80に定められた位相を各アンテナ素子30に適用する。
また、第2の態様として、前記タグ位置推定部56により前記無線タグ14の相対距離rを推定し、その結果に基づき前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80を用いて各アンテナ素子30における位相を決定する態様が考えられる。この態様において、前記タグ位置推定部56は、前記アレイアンテナ16に備えられた複数のアンテナ素子30のうち何れか1つのアンテナ素子30(好適には、配設幅方向中央に位置するアンテナ素子30b又は30c)により受信された受信信号に関する前記信号強度検出部54による検出結果から前記無線タグ14の相対距離rを推定する。そして、前記PAAウェイト制御部44は、前記タグ位置推定部56により推定された相対距離rに対応して前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80に定められた全ての対応関係を一通り適用し、前記信号強度検出部54による検出結果が最大値をとる対応関係を各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相制御に適用する。前記無線タグ14の相対距離rは、その無線タグ14のx‐y座標を用いてr=(x2+y2)1/2で表すことができ、前記x‐y座標テーブル78を用いた制御では、推定結果であるrを代入した際に斯かる数式を満たすx‐yに対応して定められた関係が走査される。この第2の態様では、前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80に定められた対応関係の適用範囲が限定されるため、上記第1の態様よりも速やかに位相制御を行うことができる。
また、第3の態様として、前記タグ位置推定部56により前記無線タグ14の相対方向θを推定し、その結果に基づき前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80を用いて各アンテナ素子30における位相を決定する態様が考えられる。この態様において、前記タグ位置推定部56は、前記アレイアンテナ16に備えられた複数のアンテナ素子30のうち少なくとも2つのアンテナ素子30により順次受信された受信信号に関する前記信号強度検出部54による検出結果から前記無線タグ14の相対方向θを推定する。そして、前記PAAウェイト制御部44は、前記タグ位置推定部56により推定された相対方向θに対応して前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80に定められた全ての対応関係を一通り適用し、前記信号強度検出部54による検出結果が最大値をとる対応関係を各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相制御に適用する。前記無線タグ14の相対方向θは、その無線タグ14のx‐y座標を用いてθ=tan-1y/xで表すことができ、前記x‐y座標テーブル78を用いた制御では、推定結果であるθを代入した際に斯かる数式を満たすx‐yに対応して定められた関係が走査される。この第3の態様では、前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80に定められた対応関係の適用範囲が限定されるため、上記第1の態様よりも速やかに位相制御を行うことができる。また、上記第2の態様と第3の態様とを複合させ、少なくとも2つのアンテナ素子30により順次受信された受信信号に関する前記信号強度検出部54による検出結果から前記タグ位置推定部56により前記無線タグ14の相対距離r及び相対方向θを推定し、前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80から前記タグ位置推定部56により推定された相対距離r及び相対方向θに基づいて各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御してもよい。
また、第4の態様として、前記タグ位置推定部56により前記無線タグ14の相対距離rを推定し、その結果に応じて前記x‐y座標テーブル78及びr‐θ座標テーブル80を選択的に用いて各アンテナ素子30における位相を決定する態様が考えられる。この態様において、前記タグ位置推定部56は、前記信号強度検出部54による検出結果に基づいて前記無線タグ14の相対距離rを推定する。そして、前記PAAウェイト制御部44は、前記タグ位置推定部56による推定結果すなわち推定された相対距離rが所定値未満である場合には、第1のテーブルである前記x‐y座標テーブル78に示される対応関係から各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御すると共に、前記タグ位置推定部56により推定された相対距離rが所定値以上である場合には、第2のテーブルである前記r‐θ座標テーブル80に示される対応関係から各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御する。この第4の態様では、前記無線タグ14が比較的近距離に配置されている場合には精度の高い位相制御を行い、それ以外の場合には必要十分な精度で簡単な位相制御を行うことで、通信特性の改善と通信時間の短縮を共に実現することができる。
図7は、前記無線タグ通信装置12の制御部40による受信位相制御の一例を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前記アレイアンテナ16に備えられた複数のアンテナ素子30のうち配設幅方向中央に位置する1つのアンテナ素子30b又は30cにより前記無線タグ14からの信号が受信される。次に、前記タグ位置推定部56の動作に対応するS2において、S1にて受信された受信信号に関してその信号強度が検出されると共に、その検出結果から前記無線タグ14の相対距離rが推定される。次に、S3において、S2にて推定された推定結果に応じて前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80における走査範囲が決定される。次に、S4において、前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80における走査位置を示すnが終端値であるNmaxに達したか否かが判断される。このS4の判断が否定される場合には、S4aにおいて、前記PAAウェイト制御部44によって前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80に定められた対応関係のうち走査位置nが示すテーブル位置の位相値となるよう、各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相制御に適用された後、前記受信信号合成部50の動作に対応するS5において、前記複数のアンテナ素子30により受信された受信信号が合成されると共に、その合成信号の信号強度Rが検出され、S5aにおいて、信号強度Rが最大信号強度Rmax より大きいか否かが判定される。このS5aの判定が肯定される場合には、S5bにおいて、nがこれまで受信された信号の条件の中で最も良い条件となるため、このnを変数Mとして記憶すると共に、最大受信強度変数Rmax にRが代入された後、S6以下の処理が行われる。S5aが否定される場合は、直ぐにS6以下が実行される。S6では、nに1が加算された後、S4以下の処理が再び実行される。S4の判断が肯定される場合には、前記PAAウェイト制御部44によって送信及び/又は受信移相器の値をS7において、前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80に定められた対応関係のうち前記合成信号の信号強度が最大値をとるテーブル位置Mにおける位相値が各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相制御に適用された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S2及びS5が前記信号強度検出部54の動作に対応する。
図8は、前記無線タグ通信装置12の制御部40による受信位相制御の他の一例を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。なお、以下に説明するフローチャートにおいて、相互に共通するステップについては同一の符号を付してその説明を省略する。
図8の制御では、前述したS2の処理に続くS8において、前記無線タグ14の相対距離rに対応する(x2+y2)1/2が、S2にて推定された距離rに対応する範囲内であるか否かが判断される。このS8の判断が否定される場合には、S5a以下の処理が実行されるが、S8の判断が肯定される場合には、前述したS4aからS5bまでの処理が実行された後、S9において、前記x‐y座標テーブル78及び/又はr‐θ座標テーブル80の走査が終了したか否かが判断される。このS9の判断が否定される場合には、S10において、前記x‐y座標テーブル78又はr‐θ座標テーブル80における次の列の走査が行われた後、S8以下の処理が再び実行されるが、S9の判断が肯定される場合には、前述したS7の処理が実行された後、本ルーチンが終了させられる。
図9は、前記無線タグ通信装置12の制御部40による受信位相制御の更に別の一例を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、S11において、前記アレイアンテナ16の受信指向性に対応する角度θが−60°とされる。次に、前記信号強度検出部54の動作に対応するS12において、前記アレイアンテナ16に備えられた複数のアンテナ素子30のうち2つのアンテナ素子30により前記無線タグ14からの信号が受信されると共に、その受信信号の合成信号強度が検出される。次に、S13において、角度θに10°が加算される。次に、S14において、角度θが60°より大きいか否かが判断される。このS14の判断が否定される場合には、S12以下の処理が再び実行されるが、S14の判断が肯定される場合には、前記タグ位置推定部56の動作に対応するS15において、前記合成信号強度が最大値をとる角度θから前記無線タグ14の相対距離r、相対方向θが推定される。次に、S16において、前記x‐y座標テーブル78又はr‐θ座標テーブル80に定められた対応関係からS15にて推定された相対距離r、相対方向θに対応する位相が決定される。次に、前記PAAウェイト制御部44の動作に対応するS17において、S16にて決定された位相が前記複数のアンテナ素子30に適用された後、本ルーチンが終了させられる。
図10は、前記無線タグ通信装置12の制御部40による受信位相制御の更に別の一例を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、S18において、Aアンテナ素子すなわち前記アンテナ素子30aにより前記無線タグ14からの信号が受信されると共に、その受信信号の信号強度が検出される。次に、S19において、S18にて検出された信号強度に基づいて前記アンテナ素子30aに対する前記無線タグ14の相対距離raが推定される。次に、S20において、Bアンテナ素子すなわち前記アンテナ素子30dにより前記無線タグ14からの信号が受信されると共に、その受信信号の信号強度が検出される。次に、S21において、S20にて検出された信号強度に基づいて前記アンテナ素子30dに対する前記無線タグ14の相対距離rbが推定される。次に、S22において、S19にて検出された距離ra及びS21にて検出された距離rbに基づき、それらの距離ra及びrbを示す直線の交点が算出される。次に、S23において、前記x‐y座標テーブル78又はr‐θ座標テーブル80に定められた対応関係からS22にて算出された交点となる関係が決定され、その関係に対応する位相が決定される。次に、前記PAAウェイト制御部44の動作に対応するS24において、S16にて決定された位相が前記複数のアンテナ素子30に適用された後、本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S19及びS21が前記信号強度検出部54の動作に、S19、S21、S22、及びS23が前記タグ位置推定部56の動作にそれぞれ対応する。
このように、本実施例によれば、通信対象である前記無線タグ14の相対位置を推定する通信対象位置推定部としてのタグ位置推定部56(S2、S15、S19、S21、S22、及びS23)と、そのタグ位置推定部56による推定結果に応じて各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御する位相制御部としてのPAAウェイト制御部44(S7、S17、及びS24)とを、備えたものであることから、前記無線タグ14の相対距離r及び/又は相対方向θに応じて各アンテナ素子30に対応する位相を制御することで、その無線タグ14との相対距離rが比較的近い場合においても位相合成を好適に行うことができ、通信精度を高めることができる。すなわち、無線タグ14との相対距離が比較的近い場合における通信特性を改善する無線タグ通信装置12を提供することができる。
また、本発明によるアレイアンテナ16の位相制御によれば、よく知られたAAA(Adapted Array Antenna)処理等に比べて簡単な制御により各アンテナ素子30に対応する位相を好適な値とすることができ、通信に要する時間を短縮することができるという利点がある。
また、少なくとも1つの前記アンテナ素子30により受信された受信信号の信号強度を検出する信号強度検出部54(S1、S5、S12、S19、及びS21)を備え、前記タグ位置推定部56は、その信号強度検出部54による検出結果に基づいて前記無線タグ14の相対位置を推定するものであるため、実用的な態様で前記無線タグ14の相対位置を推定することができる。
また、前記無線タグ14の相対位置と各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示すテーブル78、80を備え、前記PAAウェイト制御部44は、そのテーブル78、80に示される対応関係から前記タグ位置推定部56による推定結果に基づいて各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御するものであるため、実用的な態様で各アンテナ素子30に対応する位相を好適な値とすることができる。
また、前記x‐y座標テーブル78は、第1の直線座標であるx座標及びその第1の直線座標と直交する第2の直線座標であるy座標に関する前記無線タグ14の相対位置と各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示すものであるため、比較的高精度且つ実用的な態様で各アンテナ素子30に対応する位相を好適な値とすることができる。
また、前記r‐θ座標テーブル80は、前記無線タグ14との相対距離r及びその無線タグ14の相対方向θと各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示すものであるため、簡単且つ実用的な態様で各アンテナ素子30に対応する位相を好適な値とすることができる。
また、前記タグ位置推定部56は、各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相制御に際して前記テーブル78、80に示される対応関係を一通り適用し、前記信号強度検出部54による検出結果が最大値をとる対応関係から前記無線タグ14の相対距離r及び相対方向θを推定するものであり、前記PAAウェイト制御部44は、前記タグ位置推定部56により推定された相対距離r及び相対方向θに基づいて各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御するものであるため、比較的高精度且つ実用的な態様で各アンテナ素子30に対応する位相を好適な値とすることができる。
また、前記タグ位置推定部56は、1つのアンテナ素子30により受信された受信信号に関する前記信号強度検出部54による検出結果から前記無線タグ14の相対距離rを推定するものであり、前記PAAウェイト制御部44は、前記タグ位置推定部56により推定された相対距離rに対応するテーブル78、80に示される対応関係を一通り適用し、前記信号強度検出部54による検出結果が最大値をとる対応関係を各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相制御に適用するものであるため、簡単且つ実用的な態様で各アンテナ素子30に対応する位相を好適な値とすることができる。
また、前記タグ位置推定部56は、2つのアンテナ素子30により順次受信された受信信号に関する前記信号強度検出部54による検出結果から前記無線タグ14の相対距離r及び相対方向θを推定するものであり、前記PAAウェイト制御部44は、前記テーブル78、80から前記タグ位置推定部56により推定された相対距離r及び相対方向θに基づいて各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御するものであるため、簡単且つ実用的な態様で各アンテナ素子30に対応する位相を好適な値とすることができる。
また、第1の直線座標としてのx座標及びその第1の直線座標と直交する第2の直線座標としてのy座標に関する前記無線タグ14の相対位置と各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示す第1のテーブルとしてのx‐y座標テーブル78と、前記無線タグ14との相対距離r及びその無線タグ14の相対方向θと各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相との対応関係を示す第2のテーブルとしてのr‐θ座標テーブル80とを、備え、前記タグ位置推定部56は、前記信号強度検出部54による検出結果に基づいて前記無線タグ14の相対距離rを推定するものであり、前記PAAウェイト制御部44は、前記タグ位置推定部56による推定結果が所定値未満である場合には、前記x‐y座標テーブル78に示される対応関係から各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御すると共に、前記タグ位置推定部56による推定結果が所定値以上である場合には、前記r‐θ座標テーブル80に示される対応関係から各アンテナ素子30における送信及び/又は受信に関する位相を制御するものであるため、前記無線タグ14がごく近距離に配置されている場合には精度の高い位相制御を行い、それ以外の場合には必要十分な精度で簡単な位相制御を行うことで、通信特性の改善と通信時間の短縮を共に実現することができる。
また、本実施例の無線通信装置は、通信対象である無線タグ14に向けて所定の送信信号を送信すると共に、その送信信号に応答して前記無線タグ14から返信される返信信号を受信することで前記無線タグ14との間で情報の通信を行う無線タグ通信装置12であるため、前記無線タグ14との距離が比較的近い場合における通信特性を改善する無線タグ通信装置14を提供することができる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
例えば、前述の実施例において、前記PAAウェイト制御部44、信号強度検出部54、及びタグ位置推定部56等は、何れも前記制御部40に機能的に備えられたものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、前記PAAウェイト制御部44、信号強度検出部54、及びタグ位置推定部56それぞれに対応する機能を有する制御装置が個別に設けられたものであっても構わない。また、それら制御装置による制御は、ディジタル信号処理であるとアナログ信号処理であるとを問わない。
また、前述の実施例では、前記指向性制御部22を高周波信号で行うよう前記複数のアンテナ素子30に近い位置に配したが、指向性制御は高周波信号ではなくベースバンド又は中間周波数(IF)で行なっても良い。また指向性制御はアナログ信号に対して行う必要はなく、CPU40内部におけるデジタル処理にて実現しても構わない。
また、前述の実施例では、前記無線タグ14との間の通信における送信制御及び受信制御のうち、主に受信制御に関して本発明が適用された例を説明したが、本発明は、前記無線タグ14との間の通信において前記複数のアンテナ素子30から送信される送信信号それぞれの位相制御にも好適に用いられる。斯かる態様では、例えば、前記無線タグ通信装置12からの送信信号の信号強度を検出し得る無線タグを用い、その無線タグ側で検出される送信信号の信号強度を示すデータが応答波として前記無線タグ通信装置12に返信され、その無線タグ通信装置12においてその応答波に含まれる送信信号強度を示すデータに基づいて通信対象である無線タグの相対位置の推定が行われる。また、可及的に簡単には、送信アンテナとしての前記アレイアンテナ16の送信指向性方向を振っていき、前記無線タグ14からの応答が得られた方向からその無線タグ14の存在する相対方向を推定し、その推定結果に応じて各アンテナ素子30における送信に関する位相を制御する態様も考えられる。
また、前述の実施例では、通信対象である無線タグ14に向けて所定の送信信号を送信すると共に、その送信信号に応答して前記無線タグ14から返信される返信信号を受信することで前記無線タグ14との間で情報の通信を行う無線タグ通信装置12に本発明が適用された例について説明したが、例えば携帯電話機や移動体通信装置をはじめとする他の無線通信装置にも本発明は好適に適用され得る。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。