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JP4733903B2 - 疲労寿命向上処理方法およびそれによる長寿命溶接継手 - Google Patents

疲労寿命向上処理方法およびそれによる長寿命溶接継手 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、実構造物における溶接継手の疲労特性の品質管理方法および溶接変形矯正等の溶接後処理工程が必要な溶接構造物の疲労強度向上方法に関するものであり、より詳しくは、溶接金属の変態温度が低くなるよう溶接材料の成分を調整しそれによる溶接残留応力低減を利用して疲労特性を改善した溶接継手の管理方法、および溶接後処理を行う必要がある溶接構造物に対し溶接金属の変態温度が低くなるよう溶接材料の成分を調整し、それによる溶接残留応力低減を低減させ、疲労強度を向上させる方法とその管理方法を包含した疲労向上処理法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の溶接継手疲労特性の改善方法としては、TIGなめ付け溶接や機械加工などによる溶接止端形状の改善、ピーニングなどによる溶接止端形状の改善と圧縮残留応力の導入などがあった。これら方法は、溶接終了後に行う、いわゆる後処理に分類できるものであり、溶接部形状が溶接ままの状態と異なるため後処理を実施したかどうかの判断は、外観検査のみで充分可能であった。
一方、最近になり、溶接金属の変態温度が低くなるように溶接材料の成分を設計し、変態に伴う体積膨張を利用し圧縮残留応力を導入することで疲労特性を改善する技術が提案された(以降、このような溶接材料を総称して低温変態溶接材料と呼ぶ)。この技術は、例えば特開平11−138290号公報で開示されている。この方法は、溶接材料を変更するだけで疲労強度が改善できるという点で後処理をする技術より経済的に優れている。すなわち、それだけ工程数が少なくて済み、人件費がその分節約できる方法である。しかし、この方法にも問題がないわけではない。
【0003】
問題点は3つ存在し、1つ目は、後処理を施す技術と異なり外観検査だけでは残留応力が低減されそれにより疲労強度向上が達成されているかどうかまったくわからない点である。そのために、ある溶接継手に対して、この継手が疲労強度の改善されている継手なのかそうでないのか、の判断が難しい。
【0004】
問題の2つ目は、既に疲労亀裂が存在する状態で低温変態溶接材料を用いた場合は、疲労強度改善効果が期待しがたい点である。低温変態溶接材料は、主に板厚方向の残留応力分布を変化させ、鋼材の表面近傍の溶接止端部で引張残留応力の低減または圧縮残留応力を導入するため、逆に言えば鋼材の内部では、引っ張りの方向に残留応力が増大する方向にある。そのため、もし、内部に疲労亀裂が残っている場合は、その亀裂先端での引張残留応力が増加し、進展が加速し、疲労寿命がかえって低下する結果となる。
【0005】
問題の3つ目は、たとえ残留応力が低減されたとしても、溶接施工後に溶接変形矯正工程などが行われる場合は溶接部に生じている残留応力が消失してしまうという点である。残留応力が消失されれば、低温変態溶接材料を用いようが従来溶接材料を用いようが疲労強度に差はなく、疲労特性改善は期待できない。
残留応力を低減することにより疲労特性が改善されている継手であるかどうかの判断をする方法としてまず考えられることは、溶接部の残留応力を実際測定する方法がある。測定方法としては種々知られているが、実構造物への適用を考えると、ひずみゲージを用いた応力弛緩法など、いわゆる破壊法は採用できない。適用の可能性があるのは、X線法などの非破壊計測法である。これらの方法としては、X線法以外にも、磁気歪法、バルクハウゼンノイズ法、音弾性法などがある。しかし、磁気歪法、バルクハウゼンノイズ法、音弾性法で測定できるのは残留応力そのものではなく、それの主応力の差のみである。例えば、x方向に−500MPa、y方向に−200MPaの残留応力がある場合、測定値として得られるものは、それらの差、すなわち300MPaである。この値は、x方向に200MPa、y方向に500MPaの残留応力がある場合でも同じである。しかし、疲労という観点からはx方向の残留応力が−500MPaなのか200MPaなのかでは大変な違いである。したがって、非破壊測定法で適用できるとすればX線法の可能性が一番高い。しかし、X線は、一般に鋼板表面の数ミクロン程度のごく浅い領域しか入ることができず、したがって、残留応力の測定値もその表面近傍の残留応力の値になる。一方、溶接継手の疲労特性を決定しているのは、たとえ疲労亀裂が表面から入っていくとしても、表面下ごく数ミクロンの範囲内の残留応力ではなく、もっと深い、具体的には表面下数ミリメートルの範囲における平均的な値である。そのためX線法での測定をもってして、低温変態溶接材料を用いたときの溶接継手の疲労特性を管理することにも問題がある。
【0006】
溶接施工後の後処理は、残留応力を除去する目的で行うSR処理以外にも、溶接変形を矯正するためのガスバーナー加熱やプレス加工などが実際、頻繁に行われている。溶接変形は溶接構造物の工作精度にかかわる問題であり、さらには、最終構造物の美観にもかかわる問題でもあるため、ある程度の溶接変形が発生したときには、それを矯正する作業を実施するのが通常である。しかし、このような作業は、低温変態溶接材料を用いて溶接部の残留応力を低減、場合によっては圧縮状態にさせて疲労強度を改善する技術の効果を無くしてしまうことをも意味する。なぜならば、残留応力は、外力あるいは熱が加わると、それにより再分配を起こしてしまうからである。一般に、外力あるいは熱を加えても、変形が弾性変形の範囲内であれば残留応力分布に変化はない。しかし、溶接変形を矯正するということは、塑性変形を導入させない限り達成できないものであるため、残留応力の再分配は必ず発生してしまい、その再分配の結果、導入されていた残留応力が引張側に大きく変化すれば、それによる疲労強度改善効果が消失してしまう。そのため、疲労強度向上を残留応力制御で確実に達成させようとするならば、溶接終了後には溶接変形矯正等の溶接後処理を実施することはできない。しかし、これら後処理の実施は、疲労という観点からだけで実施するかどうかを判断することができないという問題がある。
【0007】
以上のように、残留応力を非破壊的に測定しその結果を用いて継手の疲労特性を管理する方法には多くの問題があり、また、溶接後処理を行う場合などは低温変態溶接材料の効果が期待できないという問題もあることがわかった。しかし、低温変態溶接材料を溶接継手の疲労特性改善に用いる技術は、その効果の大きさを考えると今後もっとも期待される技術であるため、その簡便な溶接継手部の疲労特性管理方法や、溶接変形矯正等の後処理を実施する場合でも効果が発揮できる疲労強度向上方法が強く望まれていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、溶接構造物に低温変態溶接材料を用いたときの実用的かつ簡便な溶接継手の疲労特性管理方法、および溶接変形矯正等の溶接後処理が不可欠な溶接構造物でも低温変態溶接材料を用いて疲労強度を向上できる技術、およびこれら技術を用いた溶接構造物を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、以上のような背景に鑑み、低温変態溶接材料を用いた溶接継手の疲労特性管理方法、および溶接変形矯正等の溶接後処理が不可欠な溶接構造物でも低温変態溶接材料を用いて疲労強度を向上できる技術について鋭意研究を重ねてきた。本発明は、このような研究の成果の結果なされたものでその要旨は次のとおりである。
(1) 本溶接施工後に溶接継手の疲労が問題となる箇所について、前処理を行った後、低温変態溶接材料を用いた付加ビード形成を行い、さらにその後、品質保証検査を行い、各検査又は測定による結果に基づいて付加ビード施工をやり直すことによって、当該溶接継手の疲労寿命を向上させることを特徴とした疲労寿命向上処理方法であって、前記前処理として、溶接継手の低温変態溶接材料を用いた付加ビード形成を行う部分とその近傍部分について、塑性加工や、変形矯正、熱処理、溶接、現場接合など金属内部応力、表面応力を変化させるプロセス、疲労寿命の問題となる箇所について、目視検査、浸透探傷検査、磁粉探傷検査、渦流探傷検査などを実施した上で、亀裂が検出されればその亀裂をグライダーやガウジングなどで除去すること、疲労寿命の問題となる箇所を形成している母材部およびその溶接止端部を形成する溶接金属、について鋼種調査を行い、その結果に基づいて、付加ビードを形成する低温変態溶接材料を選定すること、を行い、前記品質保証検査として、疲労が問題となる溶接継手の止端部に、付加ビードが形成されていることを目視で確認し、付加ビードがなしの場合には前記付加ビード施工をやり直し、付加ビードありの場合には、更に付加ビードが低温変態溶接材料を用いて形成されたものか疑念が生じた場合に硬さ検査に移行し、前記硬さ検査では、付加ビードの硬さを測定し、ビッカース硬さが、付加ビード表面全域にわたって350以上を示すことを確認することにより、その付加ビードが低温変態溶接材料により形成されたことを判別し、低温変態溶接材料でないことを判別した場合には、前記付加ビード施工をやり直し、低温変態溶接材料であることを判別した場合には、付加ビードが適切な低温変態溶接材料を用いて形成されたものか疑念が生じた場合に成分測定に移行し、前記成分測定では、付加ビードの成分を分析することにより、その付加ビードが適切な低温変態溶接材料により形成されたことを判別し、成分違いである旨を判別した場合には、前記付加ビード施工をやり直し、鋼材強度にマッチした成分と確認した場合には、付加ビードの形成によって、引っ張り残留応力の緩和がなされたかという疑念が生じた場合にひずみ測定に移行し、前記ひずみ測定では、付加溶接施工完了後、付加ビードの止端部の直近でひずみを計測しながら、設計的に疲労損傷を与えるレベルにあると予想される活荷重を与える重量を荷重車等を用いて与え、その載荷除荷プロセスによる荷重ひずみ関係における塑性ひずみの残存が0.02%以下である場合、付加ビード近傍の残留応力分布の変化が十分に小さく、残留応力が十分に低減されたことを実際に確認し、その載荷除荷プロセスによる荷重ひずみ関係において降伏挙動が見られた場合、載荷前を0点として計測された降伏応力σytと、ミルシートや材料試験等から得られたその鋼材の降伏強度σyから、残留応力σaを、σa=σy−σytとして求め、また降伏挙動が見られない場合は十分に大きな残留応力が入っているとみなすことにより、付加ビード止端部に導入された残留応力を実際に確認すること、を行い、塑性ひずみありを確認した場合には、前記付加ビード施工をやり直すことを特徴とする。
(2) 前記前処理の鋼種調査として硬さ測定を行うことを特徴とした前記(1)に記載の疲労寿命向上処理方法。
(3) 前記疲労寿命の問題となる箇所を形成している母材部およびその溶接止端部を形成する溶接金属、の硬さが共にビッカース硬さで150以上を示すことにより490MPa級以上の強度を持つと判断される場合、付加ビードを形成する低温変態溶接材料のマルテンサイト変態開始温度が200℃〜400℃の間にある低温変態溶接材料を選定することを特徴とする前記(2)記載の疲労寿命向上処理方法。
(4) 前記(3)記載の疲労寿命向上処理方法において、質量%で、C:0.01〜0.2%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Ni:6〜15%を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする溶接部疲労強度向上方法。
(5) 質量%で、Ti:0.01〜0.4%、Nb:0.01〜0.4%、V:0.1〜1.0%の1種または2種以上をさらに含有する付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする前記(4)記載の溶接部疲労強度向上方法。
(6) 質量%で、Cu:0.05〜0.4%、Cr:0.1〜3.0%、Mo:0.1〜3.0%、Co:0.1〜2.0%の1種または2種以上をさらに含有する付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする前記(4)または(5)記載の溶接部疲労強度向上方法。
(7) 前記疲労寿命の問題となる箇所を形成している母材部およびその溶接止端部を形成する溶接金属、のどちらかの硬さがビッカース硬さで150以下を示すことにより490MPa級以下の強度を持つと判断される場合、付加ビードを形成する低温変態溶接材料のマルテンサイト変態開始温度が150℃〜300℃の間にある低温変態溶接材料を選定することを特徴とする前記(2)記載の疲労寿命向上処理方法。
(8) 前記(7)記載の疲労寿命向上処理方法において、質量%で、C:0.001〜0.1%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.4〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Ni:4〜12%、Cr:7〜15%、N:0.001〜0.05%を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなる付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする溶接部疲労強度向上方法。
(9) 質量%で、Cu:0.05〜0.4%Mo:0.1〜2.0%、Ti:0.005〜0.3%、Nb:0.005〜0.3%、V:0.05〜0.5%の1種または2種以上をさらに含有する付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする前記(8)記載の溶接部疲労強度向上方法。
(10) 前記付加ビードが適切な低温変態溶接材料を用いて形成されたものか疑念が生じた場合、付加ビードから金属粉を採取し、その成分を分析して、その成分のうち質量%でNiが6〜15%の範囲内にあることを確認することにより、490MPa級かそれ以上の強度を持つ鋼材および溶材によって形成された溶接継手に適した低温変態溶接材料により付加ビードが形成されたことを判別することを特徴とした前記(1)記載の疲労寿命向上処理方法。
(11) 前記付加ビードが適切な低温変態溶接材料を用いて形成されたものか疑念が生じた場合、付加ビードから金属粉を採取し、その成分を分析して、その成分のうち質量%でNiが4%から12%、Crが7%から15%の範囲内にあることを確認することにより、490MPa級以下の強度を持つ鋼材および溶材によって形成された溶接継手に適した低温変態溶接材料により付加ビードが形成されたことを判別することを特徴とした前記(1)記載の疲労寿命向上処理方法。
(12) 前記(1)〜(11)のいずれかの方法を用いて処理されたことを特徴とする溶接継手。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
始めに本発明における技術思想について述べる。
本発明では、低温変態溶接材料を用いて疲労が発生する溶接部、特に溶接止端部の残留応力を低減、場合によっては圧縮にすることにより疲労強度を向上させる技術、および、この技術を用いた溶接継手を対象とする。この方法は、例えば特開平11−138290号公報などによりその詳細が開示されている。一般に、溶接金属のマルテンサイト変態開始温度は溶接金属成分のみで決定されてしまうため、溶接金属成分さえ所定の範囲内にあれば、その効果を期待できる技術である。しかし、既に述べたように、残留応力そのものを非破壊的に測定することには問題が多い。
【0011】
そこで、本発明では、マルテンサイト変態開始温度は成分のみで決定されることに着目し、実際の溶接金属成分を測定し、その測定値を利用し溶接継手の管理を行うというのが本発明における第一の技術思想である。
【0012】
次に、本発明の第二の技術思想は、溶接部の強度によっては、マルテンサイト変態温度が充分低くなくとも残留応力が効率よく低減できることに着目し、必要に応じ溶接部が形成される部分の鋼材の硬さを測定し、その値を溶接継手の管理に用いるというものである。硬さと強度は強い相関があるため、強度測定の代わりに硬さを測定するという思想も含まれている。本発明では、溶接金属がマルテンサイト変態する場合を扱っているため、溶接金属の硬さより鋼材の硬さが低くなる傾向にあるため、硬さ不足による残留応力が低減されない場合があるとすれば、それは鋼材の硬さである。そのため、硬さ測定を行うとすればまず鋼材の硬さを測定しなければならない。なお、強度が高い場合、そうでない場合より変態温度が高くても効率よく残留応力を低減できるという技術は、例えば、特開2000−017380号公報にその詳細が開示されている。また、溶接金属はマルテンサイト変態を起こす結果、通常は道路橋示方書で規定している溶接部の硬さ規定を超えるほどになるが、道路橋示方書の規定は溶接割れを検知する目的で硬さを規定しているものであり、このような低温変態溶接材料を想定したものではなく、その硬さ分布も溶接割れを生じた場合と全く異なる。そのため、この特性を逆手に取って、付加ビード形成後、そのビードが低温変態溶接材料によるものであるか疑念が生じた場合、この付加ビードの硬さを計測することによって、その付加ビードを形成する溶材が通常の溶材か低温変態溶接材料かということを検知することができる。
【0013】
本発明の第三の技術思想は、低温変態溶接材料で付加ビードを施工する前に、その箇所で亀裂検査を行い、亀裂が発見されれば、その亀裂を除去するという点にある。非破壊検査で発見される程度の寸法の亀裂はグラインダー等で除去し、それから低温変態溶接材料で付加ビードを形成する。母材に、多少、溝が出来た状態で溶接を行っても、それはかえって付加ビードを構成する低温変態溶接材料のマルテンサイト変態時の拘束を増加させ、むしろ圧縮方向への効率よい残留応力の変化を可能とする。また、非破壊検査で発見し得ない程度の亀裂の場合は、低温変態溶接材料でも0.5〜1.0mm程度の溶け込みは確保できるため、十分に溶かし込んで無害化することができる。
【0014】
本発明の第四の技術思想は、せっかく残留応力を低減させた溶接継手でも、その後の工程で、ガスバーナー加熱やプレス加工などの代表されるような、熱処理や機械的処理を施すと残留応力が消失してしまい疲労強度改善が期待できないため、このような処理を済ませた後に低温変態溶接材料を用いるという点にある。低温変態溶接材料を用いて疲労強度を改善する方法は、特開平11−138290号公報や特開2000−288728号公報などに開示されているが、これら技術では、本発明が問題にしているガスバーナー加熱やプレス加工などが与える影響については何ら言及されていない。そのため、特開平11−138290号公報や特開2000−288728号公報が開示する技術は、熱処理や機械処理が行われない場合でのみ、その効果が期待できるものである。しかし、溶接変形を矯正するときに用いられるガスバーナー加熱やプレス加工は、溶接施工後に実施されるため、このような場合では、これら技術では不十分である。一般に、溶接変形矯正が行われる構造物としては、橋梁、船舶等多岐にわたり、しかも溶接施工がすべて終了してから実施される。特開平11−138290号公報や特開2000−288728号公報の技術だけでは、このような場合、所定の効果は得られない。そこで、本発明では、低温変態溶接材料を用いるのは溶接後処理を済ませた後とし、かつ、付加ビードのみとした。すなわち、本ビードは従来溶接材料で充分とし、本溶接施工後、溶接変形の矯正、すなわち、溶接後処理を実施し、その後に低温変態溶接材料で付加ビードを形成させるという手順である。溶接変形矯正後でも、付加ビードであれば溶接量そのものが非常に少なくて済むため、ほとんど溶接変形が生じず、良好な寸法精度を保つことができる。
【0015】
本発明の第五の技術思想は、活荷重時の応力の変化を計測することによって、導入された残留応力によって疲労強度が向上されうるかどうかを判定するという点にある。通常、まわし溶接は引張強度800MPa級以下の鋼材に対して実施した場合は、止端部近傍で鋼材の引張強度に相当するほどの応力が残留している。つまり、まわし溶接を実施後、引張荷重をまわし溶接部を持つ溶接継手に作用させた場合、止端部近傍で確実に降伏が生じ、その結果、塑性ひずみと応力の再分配が生じるわけである。一方、圧縮応力を残留、または引張応力を低減させて疲労強度を向上させるという場合を考えてみた場合、必要条件として考えられることの一つは繰り返し作用荷重によって、止端での残留応力が引張方向に増加せず、残留応力の低減効果が持続するということがあげられる。これより、低温変態溶接材料によって、残留応力が圧縮方向に変化し、十分に疲労寿命が向上するということを判定するためには、付加ビードを施工した後で溶接止端部の近傍にひずみゲージ等による計測器を設置し、その後、設計で疲労に寄与するとされるレベルの活荷重を荷重車走行等により初めて作用させ、その時にその荷重によって残留応力の引張方向への変化が生じないことを確認することで、引張応力が十分に低減されていること、および、残留応力の変化が生じていないことを検知することができる。このときの残留応力の変化の状態は、載荷により得られた荷重ひずみ関係によって判別される。その荷重ひずみ関係において、降伏挙動が見られた場合、載荷前を0点として計測された降伏応力σytと、ミルシートや材料試験等から得られたその鋼材の降伏強度σyから、残留応力σaが、σa=σy−σytとして求められる。一方、降伏挙動が見られない場合は十分に大きな残留応力が入っているとみなすことができる。また、もっと簡易にはその荷重ひずみ関係による残留ひずみで判別し、その基準値は実験による結果から0.02%以下とした。
【0016】
以上の技術思想を、疲労寿命向上手法としての流れをもって表現したのが、図1のフローチャートである。ここでは、前処理として、疲労向上の対象となる鋼材の強度の確認、疲労亀裂の有無の確認、および、矯正や曲げ加工などの残留応力の分布を変化させる過程、付加ビード施工時の溶接欠陥の発生を防止するための塗料の除去や未溶着部分として残りそうなビード形状の溶け込みやすい形状への整形などの下地処理の過程を規定している。また、後処理として、外観、硬さ測定およびひずみ計測による、品質管理手法を規定している。ただし、前処理において、亀裂検査と強度確認の順番は交換可能である。また、品質保証検査も外観検査以外は、疑念が生じた場合に実施するものとする。
【0017】
次に、疲労が問題となる溶接部の成分を測定する場所を、該溶接部の止端部を形成する溶接金属に限定した理由について述べる。
本発明では、低温変態溶接材料を用いて溶接部の残留応力を制御することにより疲労強度を向上させた継手を対象としており、したがって、残留応力低減は溶接金属の変態膨張を利用している。このメカニズムは鋼材の変態膨張を利用しておらず、そのため成分測定は溶接金属に対して行われなければならない。一方、疲労亀裂は応力が集中している止端部から発生するため、ここでの残留応力を決定する溶接金属に対して成分測定をしなければならない。成分測定を、溶接止端部を形成する溶接金属に限定したのはこのような理由による。
【0018】
次に、溶接止端部を形成する溶接金属の成分測定値がある範囲内になければならないとした理由について述べる。
本発明においては、溶接金属の成分として、Crを主体とした成分系と、Niを主体とした成分系に分けることができる。前者をCr系、後者をNi系と呼ぶこととする。
Cr系については、マルテンサイト変態温度を低くする成分としてまずCrが利用されており、ついで、Niが利用されている。そのため、Cr系については、CrとNiが必須となる。Crの測定値およびNiの測定値が質量%でそれぞれ7%〜15%の範囲内、および4%〜12%に範囲内に存在するかどうかで溶接継手の疲労特性を管理するとしたのは、これら成分がこの範囲内になければ変態温度が充分低減されていないことを意味し、結果的に疲労特性も不十分であることを意味するため、この範囲内に限定した。
【0019】
次に、Ni系についてNiの測定値がある範囲内になければならないとした理由について述べる。
Ni系は、Crに頼らずNiのみにて変態温度を下げることを目的とした成分系である。Cr添加を必ずしも前提としていないため、変態温度はCr系より若干高めになるが、その分は鋼材強度を限定することにより残留応力低減が可能となる。このような、残留応力低減における強度の役割については、例えば特開2000−017380号公報にてその詳細が開示されている。Ni系において、その成分測定値が質量%で6%に満たない場合は、変態温度が低くならず、疲労強度の改善が望めない継手であるため、この値を設定した。一方、Niが15%を上回るときは、変態そのものが生じなくなるためこの値を上限値とした。
【0020】
以上、溶接金属の成分を測定し、その測定値のあるべき範囲について述べた。本発明においては、溶接金属成分の測定方法については特に限定しておらず、どのような方法を用いても溶接継手部疲労特性の管理を実施することが可能である。溶接金属成分の測定方法としては、例えば、付加ビード溶接金属を疲労強度に影響を与えない程度に削り、それにより切り粉を採取して、それを分析するという方法が考えられる。この手順では、成分分析としては、一般に行われている方法となる。あるいは、最近では、非破壊的に成分分析ができる方法が報告され、一般に行われている成分分析値とよい一致が確かめられているため、これを用いることも可能である。この非破壊的に成分分析する方法は、鋼構造論文集の2000年第7巻第27号1〜8ページに詳しく説明されている。必要に応じ、両者を併用する方法も考えられる。
【0021】
次に、溶接止端部の溶接金属の成分がNi系である場合、すなわちNiが6〜15%の範囲内である場合は、鋼材の強度が490MPa級またはそれ以上である場合に限定した理由について述べる。すでに述べたように、Ni系はCr添加を必ずしも前提としておらず、また添加したとしてもCr系より低いため、鋼材の強度の効果を利用して、残留応力を効率よく低減しなければならない。そのため鋼材強度を限定する必要がある。鋼材の強度レベルを490MPa級またはそれ以上に限定したのは、Ni系溶接金属でも充分に残留応力が低減され、疲労強度向上が期待できるという範囲という意味で設定した。
【0022】
次に、鋼板およびその本溶接ビードの硬さ測定値がある値以上でなければならないとした理由について述べる。
鋼板の硬さが重要な意味を持つのは、Cr系よりもNi系である。それは、変態温度がNi系の方が高くなるため、その分鋼板強度の影響を援用しなければ効率よく残留応力を低減できないからである。鋼板の強度は、一般には、ミルシートと呼ばれる製造元が出している該鋼板の品質を保障する書類で判断することが可能なので、溶接施工が十分よく管理されていれば、鋼板の硬さ測定は不要である。しかし、何らかのトラブルが生じ鋼板の使用に手違いがあるというような疑問を抱かせる場合や、古い溶接構造物のようにミルシートが手に入らないような場合で疲労を問題にする場合は、鋼板の硬さ測定は重要である。ビッカース硬さで150というのは490MPa級鋼材に相当する値であり、Ni系成分の溶接金属は490MPa級またはそれ以上の強度を有する鋼材に対して疲労改善が期待できる成分系であるため、鋼材の硬さの判断基準としてビッカース硬さで150という値を設定した。
【0023】
次に、溶接止端部を形成する付加ビードが、低温変態溶接材料を用いて形成されたかどうか、疑念が生じた場合に、その硬さを測定し、その値がビッカース硬さで350以上であるかどうかで判断するとした理由について述べる。疲労寿命の向上は、付加ビードのマルテンサイト変態を利用し、残留応力を制御することで達成されるものである。一般に、マルテンサイト組織は他の組織より硬く、さらにその硬さはほぼ炭素含有量のみで決定される。マルテンサイト以外の組織の硬さはマルテンサイト組織ほど硬くはならない。マルテンサイト変態したとすれば、溶接金属組織はマルテンサイトという硬い組織になっていることから、逆にその硬さを測定することにより、マルテンサイト変態したかどうかを確認することが可能である。しかし、合金元素を添加していくと、ベイナイト組織等も硬くなるため、確実にマルテンサイト変態を起こしたと判断できる範囲として、付加ビード溶接金属硬さがビッカース硬さで350以上であるかどうかで判断することとした。以上、鋼板および溶接金属の硬さ測定値について述べた。本発明においては、硬さ測定方法については特に限定しておらず、どのような方法を用いても溶接継手部疲労特性の管理を行うことが可能である。最近では、インパクト法、超音波法などのような、非破壊的に硬さを測定できる方法が報告され、しかも従来測定方法と比較してその信頼性も示されている。これらは、鋼構造論文集の2000年第7巻第27号1〜8ページに詳しく説明されている。
【0024】
次に、溶接変形矯正等の溶接後処理をした後に溶接止端部に形成される付加ビード溶接金属のマルテンサイト変態温度について、その範囲を限定した理由について述べる。
本発明におけるマルテンサイト変態開始温度の限定範囲は2つ存在し、ひとつめは300℃から150℃の間であり、ふたつめは400℃から250℃の間である。設定範囲が異なるのは、鋼材強度の効果を援用するか、しないかという違いである。ひとつめの300℃から150℃の範囲にマルテンサイト変態温度を設定する場合は、変態温度がそれだけ低くなっているため残留応力低減が効率よく行われるため、鋼材の強度を特に規定する必要はない。逆に、この範囲より低い変態開始温度では、残留応力低減が可能でも、その分添加元素を多くしなければならない、靭性等他の機械的特性が確保できないなどの理由から下限を150℃とした。上限の300℃は、それを上回る変態開始温度では鋼板の強度を規定しなければならないか、どのような鋼板をもってしても残留応力低減、そして疲労特性改善にはつながらなくなってくるためこの値を設定した。なお、鋼板の強度が低い、400MPa級鋼板、いわゆる軟鋼を用いる場合は、残留応力を効率よく低減するためには、好ましくはマルテンサイト変態開始温度の上限を250℃とすることが望ましい。
ふたつめの範囲は、ひとつめよりマルテンサイト変態開始温度が高くなっており、そのため鋼材強度の効果を利用せざるを得ない。その一方で、マルテンサイト変態開始温度が高いということは合金元素の添加も少なくて済み、経済的であるばかりでなく他の特性特にシャルピー衝撃特性の確保が容易になるため、本発明者らは、鋼材の強度が限定されても、マルテンサイト変態開始温度を高く設定することは工学的に意味のあるものと判断した。マルテンサイト変態開始温度の上限、400℃は、これを上回る変態開始温度では、鋼板強度効果をもってしても疲労特性改善効果が期待できないためこの値を設定した。一方、下限の250℃は、マルテンサイト変態開始温度がこれを下回る場合は、他の特性をひとつめよりよくすることができなくなるためこの値を設定した。なお、ふたつめのマルテンサイト変態開始温度の範囲はひとつめの範囲より高い温度領域であるため、残留応力を低減させ高疲労強度の溶接継手を作製するために、鋼材の強度を490MPa級またはそれ以上に限定した。
以上、溶接金属のマルテンサイト変態開始温度の範囲について述べた。本発明における溶接金属のマルテンサイト変態開始温度とは、溶接金属より直接フォーマスター試験片を採取し、該試験片でフォーマスター試験を実施したときに得られるマルテンサイト変態開始温度で定義されるものである。
【0025】
次に、付加ビード溶接金属の成分を限定した理由について述べる。
本発明では、マルテンサイト変態開始温度の範囲が300℃から150℃の間のものと、400℃から250℃の間のものの2つを設定しているが、それを実現するための溶接金属成分系として、前者はCrとNiを主体とした成分系、後者はNiを主体とした成分系に分けることができる。CrとNiを主体とした成分系をCr系と呼び、Niを主体とした成分系をNi系と呼ぶことにする。
【0026】
まず、Cr系溶接金属について、その成分範囲限定理由について説明する。
Cは、それを鉄に添加することによりMs温度を下げる働きをする。しかし、その一方で、過度の添加は、溶接割れの問題や靱性劣化の問題を引き起こすため、その上限を0.1%とした。しかし、Cが無添加の場合は、マルテンサイトが得られにくく、また他の高価な元素のみで残留応力低減を図らなければならず経済的とはいえない。Cが0.001%以上添加する場合に限定したのは、安価な元素であるCを利用し、その経済メリットが出る最低限の値として設定した。
【0027】
Siは、脱酸元素として知られる。Siは、溶接金属の酸素レベルを下げる効果がある。特に溶接施工において、溶接中に空気が混入する危険性があるため、Si量を適切な値にコントロールすることはきわめて重要である。まず、Siの下限についてであるが、溶接金属に添加するSi量として0.1%に満たない場合、脱酸効果が薄れ溶接金属中の酸素レベルが高くなりすぎ、機械的特性、特に靱性の劣化を引き起こす危険性がある。そのため、溶接金属については、その下限を0.1%とした。一方、過度のSi添加も靱性劣化を発生せしめるため、その上限を0.7%とした。
【0028】
Mnは、強度を上げる元素として知られる。そのため、本発明における第2の技術思想である変態膨張時の降伏強度確保という観点から有効利用すべき元素である。Mnの下限、0.4%は強度確保という効果が得られる最低限の値として設定した。一方、過度の添加は、溶接金属の靱性劣化を引き起こすためその上限を2.5%とした。
PおよびSは、本発明では不純物である。しかし、これら元素は、溶接金属に多く存在すると、靱性が劣化するため、その上限をそれぞれ0.03%、0.02%とした。
【0029】
Niは、単体でオーステナイトすなわち面心構造を持つ金属である。鉄そのものは、高温域でオーステナイト構造になり、低温域でフェライトすなわち体心構造になる。Niは、それを添加することにより、鉄の高温域における面心構造をより安定な構造にするため、無添加の場合に比べ、より低温度域においても面心構造となる。このことは、体心構造に変態する温度が低くなることを意味する。また、Niはそれを添加することにより溶接金属の靱性を改善するという効果を持つ。Cr系溶接金属におけるNi添加量の下限4%は、残留応力低減効果が現れる最低限の添加量および靱性確保の観点から決定した。Ni添加量の上限12%は、Cr系溶接金属においては、次に述べるCr添加によりある程度Ms温度が低減されていること、および残留応力低減の観点からはこれ以上添加してもあまり効果が変わらない上、これ以上添加するとNiが高価であるという経済的デメリットが生じてくるためこの値を設定した。
【0030】
Crは、Niと異なり、フェライトフォーマーである。しかし、Crは、それを鉄に添加すると、高温度域ではフェライトであるものの、中温度域ではオーステナイトを形成し、さらに温度が低くなると再びフェライトを形成する。溶接部の場合、溶接入熱量により熱履歴で、低い温度側のフェライトは一般的に得られず、マルテンサイトが得られることになる。これは、Crを添加することの利点は、焼入性の増加が原因である。すなわち、Crを添加することによるマルテンサイト変態は、焼入性が増加することになるフェライト変態が生じない点と、Ms温度そのものが低くなるという2つの点が存在する。これら両方の効果を満たしながら残留応力を低減するための変態膨張を有効利用するCr添加範囲として、下限7%を設定した。上限15%は、これを上回る量を添加してもその効果が大きくならない上、経済的にもデメリットが大きくなるため、この値を設定した。
【0031】
Cuは、溶接ワイヤにメッキすることにより通電性をよくする効果があるため、溶接作業性を改善するために有効な元素である。また、Cuは焼入性元素でもあるため、溶接金属に添加することによりマルテンサイト変態を促進させるという効果も期待できる。Cuの下限0.05%は作業性改善やマルテンサイト変態促進のために必要な最低限の値として設定した。しかし、過度の添加は、作業性改善の効果がないだけでなく、ワイヤ製造コストを上げるため産業上も好ましくはない。Cuの上限、0.4%はこのような理由により設定した。
【0032】
Nbは、溶接金属中においてCと結合し、炭化物を形成する。Nb炭化物は、少量で溶接金属の強度を上げる働きがあり、従って、有効利用することの経済メリットは大きい。また、本発明における残留応力低減技術である、Ms温度における降伏強度を高める意味からもメリットは大きい。しかし、一方で過度の炭化物形成は、靱性劣化が発生するため自ずと上限が設定される。Nbの下限は、炭化物を形成せしめ、強度増加効果が期待できる最低の値として0.005%を設定した。上限は、靱性劣化による溶接部の信頼性が損なわれない値として0.3%とした。
【0033】
VもNbと同様な働きをする元素である。しかし、Nbと異なり、同じ析出効果を期待するためには、Nbより添加量を多くする必要がある。V添加の下限0.05%は、添加することにより析出硬化が期待できる最低値として設定した。Vの上限は、これより多く添加すると析出硬化が顕著になりすぎ、靱性劣化を引き起こすために0.5%とした。
【0034】
Tiも、Nb、V同様、炭化物を形成し析出硬化を生じせしめる。しかし、Vの析出硬化がNbのそれと違っていたようにTiの析出硬化もまたNb、Vと異なる。そのため、Tiの添加量の範囲もNb、Vと異なった範囲が設定される。Ti添加量の下限0.005%は、その効果が期待できる最低量として、上限の0.3%は靱性劣化を考慮して決定した。
【0035】
Moも、Nb、V、Ti同様析出硬化が期待できる元素である。しかし、Moは、Nb、V、Tiと同等な効果を得るためには、Nb、V、Ti以上に添加する必要がある。Mo添加量の下限0.1%は、析出硬化による降伏強度増加が期待できる最低値として設定した。また、上限の2.0%は、Nb、V、Ti同様、靱性劣化を考慮して決定した。
【0036】
Nは、オーステナイトフォーマーとして知られている元素である。Nも添加することによりマルテンサイトが得られやすくなるため、最低限の添加は必要である。Nの下限、0.001%は、C同様、低Ms温度が得られるための最低値として定めた。しかし、過大な添加は窒化物を形成し、靱性劣化や延性劣化の問題が発生するためその上限を0.05%とした。
【0037】
次に、Ni系溶接金属について、その成分範囲限定理由について説明する。
Cは、それを鉄に添加することによりMs温度を下げる働きをする。しかし、その一方で、過度の添加は、溶接金属の靱性劣化および溶接金属割れの問題を引き起こすため、その上限を0.2%とした。しかし、Cが無添加の場合は、マルテンサイトが得られにくく、また他の高価な元素のみで残留応力低減を図らなければならず経済的とはいえない。Cが0.01%以上添加する場合に限定したのは、安価な元素であるCを利用し、その経済メリットが出る最低限の値として設定した。なお、Cの上限は、溶接金属割れの観点から、好ましくは0.15%に設定することが望ましい。
【0038】
Siは、脱酸元素として知られる。Siは、溶接金属の酸素レベルを下げる効果がある。特に溶接施工中においては、溶接中に空気が混入する危険性があるため、Si量を適切な値にコントロールすることはきわめて重要である。まず、Siの下限についてであるが、溶接金属に添加するSi量として0.1%に満たない場合、脱酸効果が薄れ溶接金属中の酸素レベルが高くなりすぎ、機械的特性、特に靱性の劣化を引き起こす危険性がある。そのため、溶接金属については、その下限を0.1%とした。一方、過度のSi添加も靱性劣化を発生せしめるため、その上限を0.5%とした。
Mnは、強度を上げる元素として知られる。そのため、本発明における残留応力低減メカニズムである変態膨張時の降伏強度確保という観点から有効利用すべき元素である。Mnの下限、0.01%は強度確保という効果が得られる最低限の値として設定した。一方、過度の添加は、母材および溶接金属の靱性劣化を引き起こすためその上限を2.0%とした。
【0039】
PおよびSは、本発明では不純物である。しかし、これら元素は、溶接金属に多く存在すると、靱性が劣化するため、その上限をそれぞれ0.03%、0.02%とした。
Niは、単体でオーステナイトすなわち面心構造を持つ金属であり、溶接金属に添加することによりオーステナイトの状態をより安定な状態にする元素である。鉄そのものは、高温域でオーステナイト構造になり、低温域でフェライトすなわち体心構造になる。Niは、それを添加することにより、鉄の高温域における面心構造をより安定な構造にするため、無添加の場合に比べ、より低温度域においても面心構造となる。このことは、体心構造に変態する温度が低くなることを意味する。Niの下限、6%は、残留応力低減効果が現れる最低限の添加量という意味で決定した。Niの上限、15%は、残留応力低減の観点からはこれ以上添加してもあまり効果が変わらない上、これ以上添加するとNiが高価であるという経済的デメリットが生じてくるためである。
【0040】
Cuは、溶接ワイヤにメッキすることにより通電性をよくする効果があるため、溶接作業性を改善するために有効な元素である。また、Cuは焼入性元素でもあるため、溶接金属に添加することによりマルテンサイト変態を促進させるという効果も期待できる。Cuの下限0.05%は作業性改善やマルテンサイト変態促進のために必要な最低限の値として設定した。しかし、過度の添加は、作業性改善の効果がないだけでなく、ワイヤ製造コストを上げるため産業上も好ましくはない。Cuの上限、0.4%はこのような理由により設定した。
【0041】
Nbは、溶接金属中においてCと結合し、炭化物を形成する。Nb炭化物は、少量で溶接金属の強度を上げる働きがあり、従って、有効利用することの経済メリットは大きい。また、Ms温度における降伏強度を高める意味からもメリットは大きい。しかし、一方で過度の炭化物形成は、靱性劣化が発生するため自ずと上限が設定される。Nbの下限は、炭化物を形成せしめ、強度増加効果が期待できる最低の値として0.01%を設定した。上限は、靱性劣化による溶接部の信頼性が損なわれない値として0.4%とした。
【0042】
VもNbと同様な働きをする元素である。しかし、Nbと異なり、同じ析出効果を期待するためには、Nbより添加量を多くする必要がある。V添加の下限0.1%は、添加することにより析出硬化が期待できる最低値として設定した。Vの上限は、これより多く添加すると析出硬化が顕著になりすぎ、靱性劣化を引き起こすために1.0%とした。
【0043】
Tiも、Nb、V同様、炭化物を形成し析出硬化を生じせしめる。しかし、Vの析出硬化がNbのそれと違っていたようにTiの析出硬化もまたNb、Vと異なる。そのため、Tiの添加量の範囲もNb、Vと異なった範囲が設定される。Ti添加量の下限0.01%は、その効果が期待できる最低量として、上限の0.4%は靱性劣化を考慮して決定した。
【0044】
Crは、Nb、V、Ti同様析出硬化元素である。また、CrはMs温度を低減する効果も合わせ持つので有効活用すべき元素である。しかし、本発明におけるNi系溶接金属は、主としてNi添加によりMs温度低減を達成しているため、Cr添加量はNiより少なくすべきである。過度のCr添加は必ずしも残留応力低減効果を向上させず、Crが高価であるため産業上好ましくはない。Cr添加量の下限0.1%は、これを添加し、残留応力低減効果が得られる最低限の値として設定した。Cr添加量の上限3.0%は、Ni系溶接金属については、Ms温度がNi添加によりすでに低減されていること、他の析出元素により強度も確保されていることから、これ以上添加しても残留応力低減効果があまり変わらなくなる、靱性劣化が顕著になることにより設定した。
【0045】
MoもCr同様の効果を持つ元素である。しかし、Moは、Cr以上に析出硬化が期待できる元素である。そのため、添加範囲はCrより狭く設定した。下限の0.1%は、Mo添加の効果が期待できる最低限の値として設定した。上限の3.0%は、これ以上添加すると、硬化しすぎるため靱性劣化が顕著になってくるため設定した。
【0046】
Coは、Ti等と異なり、強い析出硬化を生じせしめる元素ではない。しかし、Coは、それを添加することにより強度増加をもたらし、かつ強度増加を期待しながら靱性を確保するという観点からは、Niより好ましい元素であることから有効利用すべき元素である。しかし、Niは、残留応力低減効果を期待できる程度の低Ms温度を確保するために溶接金属に添加しているため、Co添加量の下限0.1%は、Co添加の効果が期待できる最低限の値として設定した。一方、過度の添加は、強度増加が過大となり靱性劣化をもたらすためその上限を2.0%とした。
以上、溶接金属の成分についてその範囲限定理由について述べてきたが、これらの範囲に溶接金属成分を制御する方法として、溶接ワイヤの成分を制御する方法や、溶接ワイヤおよびフラックスの成分を制御する方法、あるいは溶接心線および被覆フラックスの成分を制御する方法などがあるが、本発明においては、これら方法によらず、溶接金属の成分が前述の範囲内に設定されれば高疲労強度溶接継手が実現できる。さらに、本発明における成分範囲となる溶接金属を形成するような溶接ワイヤ、溶接ワイヤとフラックスの組み合わせ、または溶接心線と被覆フラックスの組み合わせ等は、当該技術者ならば容易に成し得るものである。
【0047】
【実施例1】
以下に、本発明の実施例を示す。
初めに、溶接継手の成分及び硬さによる品質保証検査についての実施例を示す。この発明は、疲労特性管理を目的としているため、疲労強度と品質保証検査の基準とがよい相関があることを確認するだけで充分である。図2に試験片形状を示す。図2の試験片は、角回し溶接部といわれているもので、応力集中が他の溶接継手形状よりも厳しく、溶接構造物全体の疲労強度はこの継手で決定されているといっても過言ではない。図2は付加ビードがある場合の図を示しているが、試験によっては本ビード溶接のみ実施し、付加ビード溶接を実施しない試験片も用意した。
表1は、試験に用いた溶接ワイヤの成分値を示している。これらワイヤを用いて図2の試験片を作製し、疲労試験を実施した。表2は試験片の作製手順を示している。例えば、表2における試験片No.1は、鋼材は市販の強度が490MPa級の鋼材を用い、本ビード溶接部分には490MPa級鋼材用の市販溶接ワイヤを用い、付加ビード溶接には表1のWAを用いた試験片である。溶接条件は、本ビード、付加ビード共に同じでワイヤ径が1.2mm、電流220A、電圧27V、速度20cm/minである。さらに、本発明では、溶接変形矯正等の溶接後処理を実施した場合とそうでない場合を区別しているため、本ビード終了後の作業手順も表2に示している。表2のNo.1では、付加ビード溶接施工後に溶接後処理を施したことを再現するために、付加ビード溶接後に荷重を試験片に負荷している。また、一部に試験片には、バーナー加熱を実施した。そのときの最高加熱温度は溶接表面で約600℃である。それに対し、表2のNo.2試験片は、本ビード溶接材料および付加ビード溶接材料はNo.1と同じであるが、付加ビード溶接施工前に荷重を負荷している。これは、溶接変形矯正終了後に付加ビードを施工することに対応する。負荷した荷重は、鋼材強度の7割の応力に対応する荷重であり、その方向は図2が示す方向である。実構造物で溶接変形矯正時のどの程度の荷重が加わるかはその施工条件によって異なるが、変形を矯正するためには塑性歪を導入しなければならないため、部分的には降伏強度以上の荷重を加えなければならず、鋼材強度の7割またはそれ以上の荷重が加わっているものと考えることができる。また、表2のNo.3は、試験片に荷重を負荷していないので溶接変形矯正を行わない場合に相当する。鋼材は、強度レベルとして490MPa級のほか、780MPa級、400MPa級鋼材を用意して試験を実施した。止端部を形成する溶接金属の成分測定は、簡易発光分光分析装置を用いて行った。一部鋼材の硬さ測定も超音波式硬さ測定器を用いて実施し、その結果も表2に示した。なお、本ビード溶接に表1のワイヤを用い付加ビード溶接を施工しない試験片も表2にはある。
表2に、疲労試験を実施し、500万回疲労強度を決定した結果を載せた。疲労試験は、図2に矢印で示された方向に応力を負荷した。すなわち、荷重負荷方向と同じ方向である。疲労試験における応力は、0MPaから所定の応力の間を正弦波形で与え、500万回繰り返しても破断しなかった応力振幅の最大値が疲労限となる。
図3に、No.13とNo.15のビッカース硬さ分布を示す。試験片の表面から、母材部、付加ビード部、本ビード部と直線上で計測していった結果である。
本発明では、すべての溶接を施工した後に荷重が負荷された試験片は対象外になるため、表2におけるNo.1とNo.8は対象外となる。ちなみに、これら試験片の500万回疲労限はそれぞれ80MPaと70MPaであり、疲労強度としては低い。これは、たとえ、Ni、Crが付加ビード部に相当量添加されていても、荷重負荷により残留応力が消失してしまうためである。本発明は、残留応力そのものを測定する方法ではないため、このような継手を対象外にしている。表2では、荷重を負荷しない、バーナー加熱をしない、あるいは荷重負荷後またはバーナー加熱後に付加ビード溶接施工を実施した試験片について、本発明の合否判断基準を満足しているものに○、そうでないものに×をつけた。例えば、No.2、3はNi、Crの測定値が6.8%、12.5%であるため○である。No.4はNiが10.9%であるがCrが添加されていないものである。本発明では、溶接継手作製に用いられている鋼板の強度が490MPa級またはそれ以上の強度の場合は合格となるが、もし、鋼板強度が不明な場合は、鋼板の硬さを測定し、この値を参照することになっている。No.4の継手に用いられた鋼板の強度レベルが不明と仮定し硬さ測定値を実施したが、その値はビッカース硬さで161と150を上回っているため○となったものである。このようにして○および×をつけた。一方疲労試験から得られた500万回疲労限は、○のものは高い疲労強度を有していることがわかり、特に490MPa、780MPa級鋼材では疲労限が150MPa以上であることがわかる。一方、No.6、11のようにNi、Crの成分値が本発明の設定する範囲外のものは疲労限が90MPaと低くなっている。No.14は、成分測定値は本発明の範囲に入っているが、Crが添加されていないNi系の成分であるため鋼材の硬さ測定を追加した例で、硬さ測定値がビッカース硬さで150に満たないため×となっている例である。実際、疲労限は90MPaと低いことが読み取れる。一方、No.15では、付加ビードを従来材で形成しているが、これは施工時の溶接棒の間違いを想定した試験片である。これは図3より、ビッカース硬さ計測でNo.13と比較すれば、付加ビード部が全く硬さが小さく、マルテンサイト変態が生じているような溶接金属によって形成されていないことを容易に知ることができることが理解される。
以上のように、本発明によれば、溶接継手部の疲労特性を判断することが充分可能であることがわかる。
【0048】
【実施例2】
次に、本発明における疲労強度向上処理方法における、ひずみ付与の影響に関する実施例について説明する。まず図2に示す試験片を、鋼材強度が490MPa、780MPa、400MPa級の3種の鋼材を用いて作製した。その作製条件を表3に示す。溶接変形矯正に対応する処理として、試験片に荷重を加えているが、一部バーナー加熱をしている試験片もある。No.5のみ、荷重負荷やバーナー加熱を実施していない。すなわち、溶接変形矯正等の後処理を行っていない場合に対応する。荷重負荷やバーナー加熱の条件は実施例1と同じである。また、本ビード溶接、付加ビード溶接の溶接条件も実施例1と同じであり、また付加ビード溶接材料は表1に記載したワイヤである。次に、同じ試験片をいくつか作製した後、付加ビード部分よりフォーマスター試験片を採取し、マルテンサイト変態開始温度を測定した。表3にはその結果も示した。表3の条件で作製した試験片で実施例1と同じように疲労試験を実施し、500万回疲労限を決定した。その結果を表4に示した。表4には、疲労試験後、付加ビードから成分分析試料を採取し、成分分析を行った結果も示している。表4からわかることは、付加ビードの成分が同じである継手No.1〜4において、500万回疲労限が大きく異なることである。これらの結果は、特開平11−138290号公報などの従来技術ではまったく言及されていなかったものであり、従来技術に対応するものは、No.5の溶接後処理を行わない場合のみである。実際、No.5の継手は、500万回疲労限が175MPaと疲労強度が高いことが読み取れる。継手No.1〜4では、付加ビードが同じであるにもかかわらず、500万回疲労限が高かったものはNo.2、3であった。これらは、表3からわかるように、荷重負荷またはバーナー加熱後に付加ビード溶接を施工したものであり、順序が逆になっているNo.1、4の疲労限は低い。同様に、No.8、9継手のように、同じ付加ビードでも荷重負荷と付加ビード溶接の順序が異なった場合では、疲労強度が異なってくることが理解でき、本発明に従った作製された継手の方がいずれも疲労強度は高かった。継手No.11,12は、鋼材が400MPa級の場合の実施例であり、この場合は、本発明におけるCr系溶接金属の付加ビードを作製したNo.11の方がNi系のNo.12より疲労強度が高いことが理解できる。また、図4にNo.11とNo.12のそれぞれの溶接止端部にひずみゲージを貼り、最初の一回目の載荷を行ったときの荷重ひずみ履歴を計測したものを示す。これより、鋼材強度にマッチしていない溶接材料を用いて付加ビード施工を行ったNo.12では、著しい塑性化を生じて0.04%ほどの残留ひずみが残っているのに対し、適切な低温変態溶接材料を用いて付加ビード施工を行ったNo.11では十分に引張残留応力が低減されているために、載荷荷重に対して弾性挙動が保持されていることが理解できる。また、このときNo.12は、500μで降伏が生じていることから、ヤング率2.06×105MPaより計測された降伏強度σytは103MPaとなる。一方、この継手の降伏強度σyは260MPaであることから、残留応力σa=σy−σyt=157MPaと算出される。また、No.11はひずみ1000μまで降伏が生じていないため、残留応力は少なくとも260MPa−206MPa=54MPa以下であり、No.12と比較して残留応力が大幅に低減されていることがわかる。以上のように、本発明に従えば、溶接継手の疲労強度を確実に高くすることができる。溶接施工上の不測の事態を避けるために、同時に実施例1で示した管理をさらに行えば、溶接構造物の信頼性はますます確実なものになることは明らかである。
【0049】
【実施例3】
次に、本発明における疲労強度向上処理方法における、亀裂除去の必要性に関する実施例について説明する。
まず図2に示す試験片の付加ビードが無い状態のものを、鋼材強度が490MPa級の鋼材を用いて作製した。それから、その試験片に繰り返し荷重をある回数かけたその後に、亀裂検査およびあるものについては亀裂補修を行ってから、付加ビード施工を行い、その後で再び疲労試験を行う。本ビード溶接、付加ビード溶接の溶接条件は実施例1と同じであり、また付加ビード溶接材料は表1に記載した材料である。
最初にかける繰り返し荷重は試験片に200MPaの応力を発生させる荷重である。この応力で、止端部に発生する応力をひずみゲージでモニタリングしながら載荷を行い、その応力値の変化量を変えて、載荷回数を決めている。応力値の変化量が大きいほど、一般に生じた亀裂の深さが大きい。また、最後の疲労実験は150MPaの応力で実施している。ただし、500万回で打ち切っている。表5に、試験片ごとの、最初の載荷回数、亀裂発見の有無、亀裂除去の有無、およびその後の疲労試験の結果を示す。ここで亀裂の検査は磁粉探傷試験、継手No.4〜7の亀裂深さの検査は、電位ポテンシャル法によって行っている。亀裂除去は、ロータリー式グラインダーで行い、ある程度削っては磁粉探傷試験を行い、磁粉指示模様が現れなくなるまで削り込みを続けた。
表5からわかることは、亀裂が発見されたのに亀裂除去を行わなかった継手No.4とNo.6において、疲労寿命が著しく短いことである。これは、試験体に残った亀裂が、作用応力ですぐに進展し、破断に至ったためである。一方、ひずみでは感知できる程度の深さであるが、亀裂検査では発見できなかったNo.2については、500万回で疲労限が出ている。これは、付加ビード施工時に亀裂が溶けてしまったことによると考えられる。この亀裂の長さを計測するために、同じ3%応力低下を生じた試験片No.3を製作し、その止端部を切り出して亀裂長を調査したところ約0.3mmの深さであった。付加ビード施工時に0.5〜1.0mm程度溶け込むため、このような亀裂検査で発見されないレベルであれば亀裂は無害化されることが理解される。
以上のように、本発明に従えば、溶接継手の疲労強度を確実に高くすることができる。溶接施工上の不測の事態を避けるために、同時に実施例1〜2で示した管理をさらに行えば、溶接構造物の信頼性はますます確実なものになることは明らかである。
【表1】
Figure 0004733903
【表2】
Figure 0004733903
【表3】
Figure 0004733903
【表4】
Figure 0004733903
【表5】
Figure 0004733903
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、溶接継手の疲労特性管理を確実に行うことができ、また溶接変形矯正等の溶接後処理を行う場合の溶接継手の疲労強度を向上することが可能となる。したがって、本発明は工業的価値の極めて高い発明であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、本発明による疲労寿命向上手法の全体をフローチャートで表した図である。
【図2】 図2は、疲労試験片のサイズおよび本ビード、付加ビード、荷重負荷方向を説明する図である。
【図3】 従来材で形成された付加ビードを持つ継手、低温変態溶接材料で形成された付加ビードを持つ継手、それぞれの硬さ分布を比較した図である。
【図4】 鋼材強度に適した溶材で形成された付加ビードを持つ継手、適していない溶材で形成された付加ビードを持つ継手、それぞれに初めて引張荷重が作用した場合の溶接止端部近傍での荷重ひずみ関係を表した図である。

Claims (12)

  1. 本溶接施工後に溶接継手の疲労が問題となる箇所について、前処理を行った後、低温変態溶接材料を用いた付加ビード形成を行い、さらにその後、品質保証検査を行い、各検査又は測定による結果に基づいて付加ビード施工をやり直すことによって、当該溶接継手の疲労寿命を向上させることを特徴とした疲労寿命向上処理方法であって、
    前記前処理として、
    溶接継手の低温変態溶接材料を用いた付加ビード形成を行う部分とその近傍部分について、塑性加工や、変形矯正、熱処理、溶接、現場接合など金属内部応力、表面応力を変化させるプロセス、
    疲労寿命の問題となる箇所について、目視検査、浸透探傷検査、磁粉探傷検査、渦流探傷検査などを実施した上で、亀裂が検出されればその亀裂をグライダーやガウジングなどで除去すること、
    疲労寿命の問題となる箇所を形成している母材部およびその溶接止端部を形成する溶接金属、について鋼種調査を行い、その結果に基づいて、付加ビードを形成する低温変態溶接材料を選定すること、
    を行い、
    前記品質保証検査として、
    疲労が問題となる溶接継手の止端部に、付加ビードが形成されていることを目視で確認し、付加ビードがなしの場合には前記付加ビード施工をやり直し、付加ビードありの場合には、更に付加ビードが低温変態溶接材料を用いて形成されたものか疑念が生じた場合に硬さ検査に移行し、
    前記硬さ検査では、付加ビードの硬さを測定し、ビッカース硬さが、付加ビード表面全域にわたって350以上を示すことを確認することにより、その付加ビードが低温変態溶接材料により形成されたことを判別し、低温変態溶接材料でないことを判別した場合には、前記付加ビード施工をやり直し、低温変態溶接材料であることを判別した場合には、付加ビードが適切な低温変態溶接材料を用いて形成されたものか疑念が生じた場合に成分測定に移行し、
    前記成分測定では、付加ビードの成分を分析することにより、その付加ビードが適切な低温変態溶接材料により形成されたことを判別し、成分違いである旨を判別した場合には、前記付加ビード施工をやり直し、鋼材強度にマッチした成分と確認した場合には、付加ビードの形成によって、引っ張り残留応力の緩和がなされたかという疑念が生じた場合にひずみ測定に移行し、
    前記ひずみ測定では、付加溶接施工完了後、付加ビードの止端部の直近でひずみを計測しながら、設計的に疲労損傷を与えるレベルにあると予想される活荷重を与える重量を荷重車等を用いて与え、その載荷除荷プロセスによる荷重ひずみ関係における塑性ひずみの残存が0.02%以下である場合、付加ビード近傍の残留応力分布の変化が十分に小さく、残留応力が十分に低減されたことを実際に確認し、その載荷除荷プロセスによる荷重ひずみ関係において降伏挙動が見られた場合、載荷前を0点として計測された降伏応力σytと、ミルシートや材料試験等から得られたその鋼材の降伏強度σyから、残留応力σaを、σa=σy−σytとして求め、また降伏挙動が見られない場合は十分に大きな残留応力が入っているとみなすことにより、付加ビード止端部に導入された残留応力を実際に確認すること、を行い、塑性ひずみありを確認した場合には、前記付加ビード施工をやり直すこと
    を特徴とする疲労寿命向上処理方法。
  2. 前記前処理の鋼種調査として硬さ測定を行うことを特徴とした請求項1に記載の疲労寿命向上処理方法。
  3. 前記疲労寿命の問題となる箇所を形成している母材部およびその溶接止端部を形成する溶接金属、の硬さが共にビッカース硬さで150以上を示すことにより490MPa級以上の強度を持つと判断される場合、付加ビードを形成する低温変態溶接材料のマルテンサイト変態開始温度が200℃〜400℃の間にある低温変態溶接材料を選定することを特徴とする請求項2記載の疲労寿命向上処理方法。
  4. 請求項3記載の疲労寿命向上処理法において、質量%で、C:0.01〜0.2%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.01〜2.0%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Ni:6〜15%を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする溶接部疲労強度向上方法。
  5. 質量%で、Ti:0.01〜0.4%、Nb:0.01〜0.4%、V:0.1〜1.0%の1種または2種以上をさらに含有する付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする請求項4記載の溶接部疲労強度向上方法。
  6. 質量%で、Cu:0.05〜0.4%、Cr:0.1〜3.0%、Mo:0.1〜3.0%、Co:0.1〜2.0%の1種または2種以上をさらに含有する付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする請求項4または5記載の溶接部疲労強度向上方法
  7. 前記疲労寿命の問題となる箇所を形成している母材部およびその溶接止端部を形成する溶接金属、のどちらかの硬さがビッカース硬さで150以下を示すことにより490MPa級以下の強度を持つと判断される場合、付加ビードを形成する低温変態溶接材料のマルテンサイト変態開始温度が150℃〜300℃の間にある低温変態溶接材料を選定することを特徴とする請求項2記載の疲労寿命向上処理方法。
  8. 請求項7記載の疲労寿命向上処理方法において、質量%で、C:0.001〜0.1%、Si:0.1〜0.7%、Mn:0.4〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下、Ni:4〜12%、Cr:7〜15%、N:0.001〜0.05%を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなる付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする溶接部疲労強度向上方法。
  9. 質量%で、Cu:0.05〜0.4%Mo:0.1〜2.0%、Ti:0.005〜0.3%、Nb:0.005〜0.3%、V:0.05〜0.5%の1種または2種以上をさらに含有する付加ビード溶接金属を形成することを特徴とする請求項8記載の溶接部疲労強度向上方法。
  10. 前記付加ビードが適切な低温変態溶接材料を用いて形成されたものか疑念が生じた場合、付加ビードから金属粉を採取し、その成分を分析して、その成分のうち質量%でNiが6〜15%の範囲内にあることを確認することにより、490MPa級かそれ以上の強度を持つ鋼材および溶材によって形成された溶接継手に適した低温変態溶接材料により付加ビードが形成されたことを判別することを特徴とした請求項1記載の疲労寿命向上処理方法。
  11. 前記付加ビードが適切な低温変態溶接材料を用いて形成されたものか疑念が生じた場合、付加ビードから金属粉を採取し、その成分を分析して、その成分のうち質量%でNiが4%から12%、Crが7%から15%の範囲内にあることを確認することにより、490MPa級以下の強度を持つ鋼材および溶材によって形成された溶接継手に適した低温変態溶接材料により付加ビードが形成されたことを判別することを特徴とした請求項1記載の疲労寿命向上処理方法。
  12. 請求項1〜11のいずれかの方法を用いて処理されたことを特徴とする溶接継手。
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