以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、本明細書において「記録」とは、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成するまたは媒体の加工を行う場合を表す。すなわち、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問うものではない。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。すなわち、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色材の凝集または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
始めに、本発明の実施形態における記録システムの概略構成について図1〜図6、図12、図13、および図15を用いて説明する。記録システムは、記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置と、この記録装置へ画像データを供給する外部機器(ホスト装置)とを含んで構成される。
図1は、本発明に適用可能なインクジェット記録装置の概略構成を説明するための斜視図および側断面図である。また、先にも説明した図2は、当該インクジェット記録装置の記録部の仕組みを説明するための構成図である。
図において11はキャリッジである。キャリッジ11は、記録ヘッド22と各記録ヘッド22にインクを供給するインクタンク21とから構成されたヘッドカートリッジを、着脱可能に搭載することが出来る。12は、キャリッジモータである。ベルト4とこれを張架する2つのプーリ5a、5bを介することによってキャリッジモータ12の駆動力がキャリッジ11に伝達され、キャリッジ11はガイドシャフト6に案内支持されながら主走査方向(B方向)に往復移動する。この際、キャリッジ11は、エンコーダフィルム16に記録されたパターンを認識することにより、その現在位置を把握することが出来る。更に、キャリッジ11には、その動きに追従可能なフレキシブルケーブル13が接続されており、記録装置本体に設置された回路基板より記録ヘッド22に記録信号を伝達している。
141は記録ヘッド22からインクを吸引したり、非記録時の記録ヘッドの乾燥を抑制したりするためのキャップである。また、143は記録ヘッド22の吐出口面を拭掃し、余分に付着したインクを除去するためのワイパブレードである。キャリッジ11は必要に応じて記録ヘッド22をホームポジションに戻し、ここで記録ヘッドに対する吸引回復やワイピングなどの回復処理が施される。また、ここには図示していないが、ホームポジションの片側には、記録とは無関係に吐出されるインクを受容するための予備吐出受けが備えられている。記録を行なわない状態がある程度続くと、吐出口近傍ではインク中の揮発成分が蒸発してインクが変質してしまうことがある。よって、定期的にあるいは必要に応じて、記録ヘッドは予備吐出受けの位置まで移動し、ここで予備的な吐出を実行する。これにより、記録ヘッドの吐出特性を良好な状態に維持することが出来る。
図3は、記録ヘッド22に配列されているインク吐出口の様子を示した模式図である。同一の記録ヘッドに配列する複数の吐出口は、ここでは1200dpi(ドット/インチ)の間隔で1200個ずつ副走査方向に配列している。つまり、本実施形態の記録ヘッド22は、副走査方向に約1インチの記録幅を有する。本実施形態の記録ヘッドでは、高画質記録を実現するために吐出量を極力抑えるように開口面積が設計されており、各吐出口からは1回の駆動で約4ngのインクが滴として吐出されるものとする。
(インクの特性)
ここで、本実施形態で適用するインクの特性並びに成分について説明する。本実施形態では、ブラックとカラーでそのインク特性が大きく異なっている。ブラックインクは、色材として顔料を含有し、相対的に浸透速度が遅い性質(低浸透性)を有する。一方、カラーインクは、色材として染料を含有し、相対的に浸透速度が速い性質(高浸透性)を有する。
インクの浸透性は、ブリストウ法によって求められるKa値(mL/m2・ms1/2)によって表すことができる。このKa値が大きいほど浸透性が高いことを示す。従って、本実施形態の一例としては、ブラックインクのKa値<カラーインクのKa値という関係を満たすインク組合せを適用することができる。
以下にブリストウ法について簡単に説明する。ブリストウ法は、JAPANTAPPI紙パルプ試験方法No.51の『紙及び板紙の液体吸収性試験方法』に記載されている。インクの浸透性を1m2あたりのインク量Vで表わすと、インク滴を吐出してから時間tが経過した後における、インクの記録媒体への浸透量V(mL/m2=μm)は、下記に示すブリストウの式(式1)によって示される。この式の吸収曲線は図12のようになる。
V=Vr+Ka(t−tw)1/2・・・(式1)
ただし、t>tw。
記録媒体に吐出された直後のインクは、そのほとんどが記録媒体表面の凹凸部分(記録媒体表面の粗さの部分)に吸収され、記録媒体の内部(深さ方向)へは殆ど浸透していない。その間の時間がtw(ウェットタイム)、その間の凹凸部への吸収量がVrである。インク吐出後の経過時間がtwを超えると、超えた時間(t−tw)の2分の1乗に比例した分だけ浸透量Vが増加する。Ka(mL/m2・ms1/2)はこの増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を取る。
Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置(例えば、商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)を用いて測定することができる。尚、本実施形態におけるブリストウ法によるKa値は、普通紙(例えば、インクジェットプリンタ用のPB紙(キヤノン製)や、電子写真方式を用いた複写機用の紙であるPPC用紙等)を記録媒体として用いて測定する。又、測定環境は、通常のオフィス等の環境、例えば、温度20℃〜25℃、湿度40%〜60%を想定している。
ところで、インクの浸透性は、Ka値ではなく、表面張力(mN/m)によっても表すことができる。この表面張力が低いほど浸透性が高いことを示す。従って、本実施形態の一例としては、ブラックインクの表面張力>カラーインクの表面張力という関係を満たすインク組合せを適用することもできる。
なお、インクの浸透性を調整するには、界面活性剤等の浸透促進剤の含有量を調整する、あるいは高浸透性の有機溶剤の含有量を調整する等、従来から公知の手法を用いればよい。例えば、カラーインクに含有される界面活性剤の量をブラックインクよりも多くすることで、カラーインクの浸透性をブラックインクの浸透性よりも高くすることができる。
本実施形態においては、浸透特性の異なるインクを用いる。ここで、浸透特性の異なるインクとは、例えば、Ka値が異なるインク、あるいは表面張力が異なるインクを指す。
また、本実施形態で適用するカラーインクのうち少なくとも1種のインク(例えば、シアンインク)は、ブラックインクと反応する成分(反応剤)を含む。反応剤としては従来から公知のものを適用できる。例えば、反応剤は、ブラックインクの顔料自体と反応し、あるいは顔料の分散剤と反応し、ブラックインク中の顔料の分散状態を破壊し、顔料を凝集させるものである。
反応剤としては、多価金属塩、ポリアミンが好適に用いられる。多価金属塩は多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成される。多価金属イオンの具体例としては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、及びBa2+等の二価の金属イオンや、Al3+、Fe3+、Cr3+、及びY3+等の三価の金属イオンが挙げられるが、これに限定されるものではない。又、塩を形成するための陰イオンとしては、例えば、Cl−、NO3−、I−、Br−、ClO3−、SO42−、CO32−、CH3COO−、及びHCOO−等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
以下、本実施形態で適用可能なブラックインクとカラーインクの組成の一例を示す。なお、以下では、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクの組成について記載する。ライトマゼンタ(LM)、ライトシアン(LC)は、マゼンタ(M)、シアン(C)のインクを希釈したものを用いる。
ブラックインク(Bk)
アニオン性カーボンブラック 3部
ジエチレングリコール 15部
グリセリン 10部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル)0.1部
水 残部
シアンインク(C)
C.I.ダイレクトブルー199 3部
ジエチレングリコール 15部
イソプロピルアルコール 2部
ペンタンジオール 10部
2ピロリドン 10部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル) 1部
硝酸マグネシウム 2部
水 残部
マゼンタインク(M)
C.I.アシッドレッド289 3部
ジエチレングリコール 15部
イソプロピルアルコール 2部
尿素 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル) 1部
水 残部
イエローインク(Y)
C.I.ダイレクトイエロー 3部
ジエチレングリコール 15部
イソプロピルアルコール 2部
尿素 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル) 1部
水 残部
上記例では、浸透促進剤である界面活性剤としてアセチレノール(商品名)を用いている。そして、ブラックインクとカラーインクでアセチレノールの含有量を変えることで、ブラックインクとカラーインクの浸透性を調整している。詳しくは、ブラックインクよりもカラーインクの方がアセチレノール含有率を多くすることによって、カラーインクの浸透性がブラックインクよりも高くなるように調整している。
また、カラーインク(この例では、シアンインク)に含有される多価金属塩として、硝酸カルシウム塩を用いている。硝酸マグネシウムがブラックインクに含有されるアニオン性カーボンブラック(顔料)を凝集させる。これにより、ブラックインクの顔料は記録媒体の表層に多く残存し、高濃度のブラック画像領域が得られる。
本実施形態で適用可能な上記の例に限られないことは勿論である。例えば、特許文献5に記載のインクセットを用いることもできる。
各吐出口からインクを吐出するための方法としては様々なものが採用可能である。例えば、発熱素子(電気−熱エネルギ変換素子)に電気信号を印加することにより、インクに急峻な体積変化(気泡の発生)を伴う状態変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出させる方式を用いてもよい。また、圧電素子等の電気−機械変換素子を用い、機械的変動によるインクの圧力変化によって吐出口(ノズル)からインクを吐出させる方式を用いてもよい。
以下、具体的な記録動作について説明する。
図1を参照するに、記録命令が入力されると、給紙ローラ126が回転し、給紙トレイ122に積載されている記録媒体のうち、最上部に位置しているものを装置内部に給紙する。給紙された記録媒体1は搬送ローラ対3などによって挟持されながら、記録ヘッド22による記録領域が平滑に保たれている。
記録装置の給紙位置近傍には、ペーパエンドセンサ123が配備されており、記録媒体の端部位置を検出する。この検出した位置に基づいて記録媒体を搬送することにより、画像の位置合わせを行うことが出来る。
記録媒体1が所定の位置まで搬送されると、キャリッジ11が矢印Bの往方向に移動しながら、記録ヘッド22は記録データに従ってインクを吐出する。この際、エンコーダフィルム16に示されたパターンによって、記録ヘッド22からの吐出タイミングがとられている。こうした記録ヘッドの1回の記録走査により、図13に示されるようなバンド(バンド1)が形成される。本実施形態では、図3で示した記録ヘッドを用いているため、単一のバンドの幅は1inchとなる。
往方向の1回の記録走査が終了すると、搬送ローラ3が回転し、記録媒体1を記録ヘッド22の記録幅(ここでは、1inch)に応じた分だけ矢印A方向に搬送する。記録媒体の搬送が終了すると、記録ヘッド22は矢印Bの復方向に移動しながら次のバンド(バンド2)の記録データに従った記録を実行する。これにより図13に示される、1inch幅のバンド2が形成される。このように1走査分の記録動作と記録媒体の所定量の搬送動作を繰り返すことによって、記録媒体1にバンド単位で順次画像が形成されていく。なお、「バンド」とは、記録ヘッドの1回の走査で記録される画像領域を指す。
1ページ分の記録が完了した記録媒体は、搬送ローラ3および排紙ローラ33などによって排紙トレイ15に排紙される。記録済みの複数の記録媒体は排紙トレイ15に順次積載されて行く。
図15(a)〜(c)は、記録装置が記録媒体を排紙トレイへ排紙する状態を示す図である。図15(a)は、前ページ(先行記録媒体)151が排紙され、現ページ(後続記録媒体)152に対する記録中に、後続記録媒体152が3インチ程度排紙されている状態を示す。図15(b)は、記録が進行し、後続記録媒体152に対する記録が更に6インチ程度進み、後続記録媒体152の先端が排紙済みの先行記録媒体152に接している状態を示す。図15(c)は、更に記録が進行し、図1(b)のペーパエンドセンサ123が後続記録媒体152の後端を検知した頃の状態を示す。
図4は、本発明に適用可能なインクジェット記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。本実施形態のインクジェット記録装置240は、USB等のインタフェイスにより接続されたホスト装置(データ供給装置)200より画像データを受信する。イメージコントローラ210は、ホスト装置200から入力された画像データを解析・展開し、各色について最終的に2値の画像データを生成する。また、装置本体に直接入力されたコマンドに従って、プリントエンジン220に制御コマンドなどを通知する。プリントエンジン220は、イメージコントローラ210から受信した制御コマンドや画像データを基に実際の記録動作を制御する。
イメージコントローラ210とプリントエンジン220とは専用のインタフェイスで接続されている。イメージコントローラ210からプリントエンジン220へ制御コマンドを通知するコマンド送信、プリントエンジン220からイメージコントローラ210へ装置の状態変化を通知するステータス送信が、このインタフェイスを介して行われる。さらにイメージコントローラ210からプリントエンジン220へ画像データを転送する通信も、このインタフェイスを介して行われる。
プリントエンジン220は、ROM227に記録されたプログラムに従って、MPU(Micro Processor Unit)221により制御される。この際、RAM228はMPU221の作業領域や一時的なデータ保存領域として利用される。MPU221は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)222を介することによって、キャリッジ駆動系223、搬送駆動系224、回復駆動系225、およびヘッド駆動系226の制御を行う。また、MPU221はASIC222を介することによって、プリントバッファ229への読み書きを行うことが出来る。プリントバッファ229は、記録ヘッドへ転送出来る形式に変換された画像データを一時的に保管する役割を果たしている。更に、MPU221は、装置内部に設けられた各種センサ230からの検出情報を取得し、この情報を利用して各種機構を制御することが出来る。
イメージコントローラ210がホスト装置200からの画像データを受信することにより、記録動作が開始される。イメージコントローラ210は、受信した画像データを解析し、記録モード、マージン情報等の記録に必要な情報を生成する。さらに画像データを解析・展開して各色について2値の画像データとなるように画像データを多値から2値へ変換する。記録モード、マージン情報等プリントエンジン220での記録動作に必要な情報は、プリントエンジン220に通知される。
プリントエンジン220では、通知された情報をMPU221で処理し、RAM228に一時的に保存する。この情報は、その後も必要に応じて参照され、処理の切り分けに利用される。
必要な情報の通知が終了すると、イメージコントローラ210は、上述のように変換された各色2値の画像データを、プリントエンジン220へ転送する。プリントエンジン220は、受け取った2値の画像データをプリントバッファ229に保存する。イメージコントローラ210から、2値の画像データの転送が繰り返されることにより、プリントエンジン220では、プリントバッファ229に2値の画像データが蓄積されていく。
プリントバッファ229に蓄積された2値の画像データが1回分の記録走査が可能な量に達すると、MPU221はASIC222を介して、搬送駆動系224により記録媒体の給紙および搬送を行い、キャリッジ駆動系223によりキャリッジ11を移動させる。また、回復駆動系225により回復系を駆動して記録動作前に必要な回復動作を実施する。さらにASIC222に対して、画像の出力位置等の設定を行い、キャリッジ11を駆動して、記録動作を開始する。キャリッジ11が移動して、ASIC222に設定した記録開始位置に到達すると、吐出タイミングに合わせて画像データが順次プリントバッファ229から読み出される。読み出された2値の画像データが最終的な記録データとなり、記録ヘッドに転送される。記録ヘッドは、ヘッド駆動系226の制御によって、転送された記録データに従ったインクの吐出を実行する。
図5は、ホスト装置200及び記録装置本体240における画像データの処理を説明するための図である。本実施形態では、ホスト装置200にインストールされているプリンタドライバ250によって、画像データは600×600dpiのRGB(レッド,グリーン,ブルー)の各8ビットの輝度データにまで変換される。この状態で、画像データは記録装置本体に転送される。
イメージコントローラ210では、記録装置にマッチした色空間に補正するため、RGBの8ビットデータからR’G’B’の8ビットデータへの色変換処理500を行う。続いて、R’G’B’のデータを記録装置で用いるインク色に分解するために、R’G’B’の8ビットデータを600×600dpiのK、LC、LM、C、M、Yの多値データ(ここでは、各8ビット)に変換する(色分解処理510)。以上の色変換処理500及び色分解処理510では、予め用意されているルックアップテーブルを用いた変換処理が行われる。ルックアップテーブルは記録装置本体のROM227に保持されていてもよいし、ホスト装置200から入力されて得られるものであってもよい。
続く量子化処理520では、K、LC、LM、C、M、Yの8ビット(255階調)データを各色4ビット(5階調)データに変換する。量子化処理520としては、公知の誤差拡散法やディザ法を採用することが出来る。量子化されたK、LC、LM、C、M、Yの4ビット(5階調)データは、次にインデックス展開処理530が施される。
図6は、インデックス展開処理530を説明するための模式図である。本実施形態において、イメージコントローラ210が600dpiの4ビット(5階調)データを1200dpiの1ビット(2階調)データにインデックス展開する構成となっている。図において、左側に示した入力データは、量子化処理後の4ビットデータであり5段階の階調情報を有している。それぞれの階調に対応付けて示した右側の出力データは、インデックス展開処理により得られる記録・非記録を示した2値データである。各出力データは2×2の4つのエリアで構成されており、1つのエリアは1200×1200dpiの1画素に対応している。各エリアはドットを記録するか記録しないかの2値で定められる。入力データが最も低レベルの(0000)の場合、出力データではどのエリアについてもドットの記録は行われない。入力データが上昇するにつれて、出力データの記録ドット数も徐々に増大し、入力データが0100では4つある全てのエリアでドットを記録するようになっている。このようなインデックスパターンは、装置内のROM227に格納されていても良いが、ホスト装置200から入力されて得られるものであってもよい。
本実施形態において、インデックス展開は、RGBの多値データでの処理の負荷を低減し、かつ階調性を向上させることで記録速度と画質の両立を図る目的で採用されている。但し、本発明において、このような処理を採用することは必須の条件ではない。
インデックス展開処理530によって2値化されたデータは、プリントエンジン220に転送され、上述した通り、プリントバッファ229に順次蓄積されていく。プリントエンジン220では、K、LC、LM、C、M、Yの各色1ビット(2階調)のデータと各情報に従って、記録ヘッド22や各種駆動系を制御する。そして、プリントバッファ229から読み出された各色の2値データに従って記録ヘッド22がインクを吐出することにより、1200×1200dpiの解像度を有する画像が記録される。
(本実施形態の特徴的事項)
以上説明した構成のインクジェット記録装置を用い、以下に本実施形態における具体的なスミヤ対策方法を説明する。
本実施形態では、低浸透性ブラックインクが高デュ−ティーで付与されるブラック画像領域に対して高浸透性カラーインクを付加することにより、定着性が悪い高デュ−ティーブラック画像領域の定着時間を短くするようにしている。そのために、図16〜図18に示されるように高デュ−ティーのブラック画像領域を検出し、検出されたブラック画像領域に対して高浸透性カラーインク(CMY)が付加されるようにブラック画像領域に対応するカラーデータを生成する。
なお、本例では、5種類のカラーインク(C、M、Y、LC、LM)のうち、スミヤ軽減用のカラーインクとして付加するのは3種類(C、M、Y)としている。しかし、5種類(C、M、Y、LC、LM)総てをスミヤ軽減用のカラーインクとして付加する構成であってもよい。この構成の場合、LCおよびLMについても、CMYと同様の処理を実行する。
以下、高デュ−ティーブラック画像領域に対し、スミヤ軽減ためにカラーインクが付加されるよう、ブラックデータからカラーデータを生成する処理について図16〜図18を用いて詳述する。
図16は、オリジナルブラックデータから、スミヤ軽減用のカラーデータを生成する処理について説明するためのブロック図である。カラーインク付与領域検出処理501では、プリントバッファ229に格納されているオリジナルブラック(K)データ5000(ブラックの2値画像データ)に基づいて、高デュ−ティー領域を検出する。高デュ−ティー領域の検出は、次のようにして行われる。
図8は、記録率(デュ−ティー)を検出するための単位領域(チェックボックス)を説明するための図である。図において、801は記録領域全体を示している。記録領域801は、記録走査の単位で複数のバンドに分割される。802は拡大された1つのバンドを示しており、バンド802は、更に複数の単位領域803に区画されている。本実施形態では、単位領域803は、128画素×60画素から構成されている。
本実施形態のMPUが記録率をカウントする際には、単位領域夫々について、ブラックインクを記録する画素数をカウントする。次いで、そのカウント数が所定の閾値(例えば、128画素×60画素×(50/100)%=3840ドット)以上であるどうかを判定する。判定の結果、カウント数が閾値以上となる単位領域、つまり、ブラックの記録率が50%以上となる単位領域を高デュ−ティー領域として検出する。このような単位領域毎のドットのカウントは、MPU221がプリントバッファ229内に格納されたブラックの2値画像データをカウントすることによって実現できる。
このように検出された記録率に基づいて、スミヤ軽減のためにカラーインクを付与するか否かを示すカラーインク付与領域情報5010を、単位領域毎に生成する(図16参照)。 カラーインク付与領域情報5010とは、注目する単位領域についてカラーインクの付与が必要であるか否かを示す情報であり、1ビットデータである。すなわち、単位領域に対しカラーインクの付与が必要である場合は“1”を示し、カラーインクの付与が必要でない場合は“0”を示す。従って、カラーインク付与領域検出処理501では、高デュ−ティー領域として検出された単位領域については、その単位領域を構成する全画素に対してインク付与領域情報5010を“1”にセットする。一方、高デュ−ティー領域として検出されなかった単位領域については、その単位領域を構成する全画素に対してインク付与領域情報5010を“0”にセットする。
次いで、このようにして生成されたカラーインク付与領域情報5010とカラーインク付与マスクパターンデータ5030とオリジナルKデータ5000とをANDゲート502に入力する。そして、ANDゲート502にて、これら3つのデータ(5010、5030、5000)の論理積を取ることで、ブラック画像領域に実際に付与されるカラードットの配置を示すカラーインク付与データ5020を生成する。
ここで、カラーインク付与マスクパターンデータ5030とは、図17に示されるような単位領域に付与するカラーインクのドット配置を定義したパターンである。カラーインク付与マスクパターンデータ5030のサイズは、単位領域(128画素×60画素)のサイズと同じである。従って、図17に示される16画素×6画素のパターン61を最小単位とし、この最小単位を主走査方向に8個、副走査方向に10個繰り返すことで、128画素×60画素のサイズを有するカラーインク付与マスクパターンデータ5030が構成される。なお、同図において、符号61で表されるマスクパターンの白部分は、マスク部分(非記録画素)であり、インク吐出を許可しない画素である。一方、塗りつぶされた部分は、インク吐出を許可する画素(記録画素)である。
本実施形態では、カラーインク付与マスクパターンデータ5030で規定される記録画素の割合を12.5%(図17参照)としている。この記録画素の割合は、単位領域に対するカラーインクを付与する画素の割合に相当する。マスクパターンデータ5030のサイズ、並びにマスクパターンデータ5030で規定されるカラードットの記録画素数は、インクの特性や記録装置の構成に応じて適宜設定することが好ましい。また、マスクパターン内の記録画素は、規則性を持たせて配置してもよく、また疑似的にランダムに配置してもよい。
以上のように3つのデータ(5010、5030、5000)の論理積をとることによって、高デュ−ティーブラック画像領域を構成する画素のうち、ブラックドットを記録する画素だけを抽出することができる。そして、これが実際にカラーインクを付与するカラーインク付与データ5020となる。言い換えれば、高デュ−ティーブラック画像領域を構成する画素のうち、ブラックドット非記録画素にはカラーインクを付与しないようにしている。
次いで、このように生成されたカラーインク付与データ5020を基に、C、M、Y夫々の記録用データを生成する。具体的には、カラーインク付与データ5020とオリジナルCデータ5001とをORゲート503にて論理和をとり、記録用Cデータ5005を生成する。これにより、オリジナルCデータ5001によるCドットの配置と、ブラックの画像領域に付与するCドットの配置との双方を反映した記録用Cデータ5005を生成できる。同様に、カラーインク付与データ5020とオリジナルMデータ5002とをORゲート504にて論理和をとり、記録用Mデータ5006を生成する。また、カラーインク付与データ5020とオリジナルYデータ5003とをORゲート505にて論理和をとり、記録用Yデータ5007を生成する。なお、記録用Kデータ5004としては、オリジナルKデータ5000をそのまま用いる。
このようにして得られた各色の記録用データはプリントバッファ229に格納される。なお、ブラックの記録用データについては、プリントバッファに格納されているオリジナルKデータ5000をそのまま用いることができるので、プリントバッファへの再格納は不要である。記録動作の際は、プリントバッファ229に格納された各色の記録用データを読み出し、読み出した記録用データに基づいてドット記録が行われる。
図18は、カラーインク付与領域検出処理501にて検出された高デュ−ティー画像領域(本例は、ブラック100%画像領域)に対する、各色の記録用データ(5005、5006、5007)の記録位置を模式的に表した図である。符号70で示す記録用Kデータ5004は、100%デュ−ティーのオリジナルKデータ5000そのままであり、カラーインク付与領域検出処理501では高デュ−ティー画像領域として検出されている。このような高デュ−ティー画像領域70に対し、符号71で示す記録用Cデータ5005、符号72で示す記録用Mデータ5006、符号73で示す記録用Yデータ5007に基づいてCMYドットが記録され、その結果、符号74で示す黒ベタ画像が記録される。
図18では、付加するカラードットの位置をCMYで同じにしている(符号71、72、73参照)ので、CMYのドットを合成すると符号75に示すプロセスブラックになる。従って、黒画像の色味を殆ど損なわずにスミヤを軽減することができる。しかし、本実施形態で適用可能なCMYの配置はこれに限定されるものではない。CMYの配置は各色で異ならせてもよい。
以上説明したように、本実施形態では、スミヤ軽減のために、低浸透性ブラックインクと高浸透性カラーインクを同一領域に重ねて記録する構成を採用している。
ところで、上述したインクジェット記録装置を用いて本発明者らが検討を行ったところ、低浸透性ブラックインクと高浸透性カラーインクを同一領域に重ねて記録する場合、高浸透性カラーインク(CMY)よりも先に低浸透性ブラックインクを付与する形態の方が、高浸透性カラーインクを先に付与する形態よりも、記録媒体に定着するのにより多くの時間を有することが確認された。詳しくは、ブラックの高デュ−ティー領域(ブラックの記録率が50%以上)である単位領域においては、ブラックを先に付与した場合の定着時間が3秒、ブラックを後に付与した場合の定着時間が2秒程度であった。
ここで、「定着時間」とは、先行記録媒体(前ページ)の記録済み単位領域に対して記録中の後続記録媒体(現ページ)が接触してもスミヤが起こらなくなるまでに要する時間をいう。つまり、「定着時間」とは、先行記録媒体(前ページ)の記録済み単位領域に後続記録媒体(現ページ)が接触することを許容するまでの期間、と定義することもできる。
なお、「定着時間」を計測する方法としては、インク付与済みの記録媒体を特定の用紙(例えば、シルボン紙)で擦り、その用紙にインクが転写したかを目視あるいは光学センサにより確認する方法(第1方法)がある。この第1方法においては、特定の用紙にインクが転写したことを目視や光学センサにより確認できなくなる程度まで、インクが記録媒体に定着するのに要する時間を定着時間とする。また、別の方法として、インク付与済みの記録媒体にこれと同じ種類の記録媒体を重ね、重ねた記録媒体の方にインクが転写したか否かを目視あるいは光学センサにより確認する方法(第2の方法)がある。第2方法によれば、重ねた記録媒体にインクが転写したことを目視や光学センサにより確認できなくなる程度まで、インクが記録媒体に定着するのに要する時間を定着時間とする。このように種々ある計測方法のうち、本実施形態では、インク付与済みの記録媒体をシルボン紙で擦り、そのシルボン紙にインクが転写したかを目視により確認する方法を採用している。
ここで、インクの付与順序(低浸透性インク→高浸透性インクの順、あるいは低浸透性インク→高浸透性インクの順)の違いにより定着時間が異なる理由(メカニズム)について、本発明者の推測ではあるが、図14を用いて説明する。
図14(a)は、記録媒体に高浸透性のカラーインク2001を付与した後に、低浸透性のブラックインク2002を付与した場合の浸透状態を示す図である。この場合、カラーインク2001によって浸透性の高くなった記録媒体面上にブラックインク2002が付与されるため、ブラックインク2002の記録媒体内部への浸透は速くなる。従って、定着時間は比較的短い。
一方、図14(b)は、記録媒体に低浸透性のブラックインク2002を付与した後、高浸透性のカラーインク2001を付与した場合の浸透状態を示す図である。この場合、ブラックインク2002の浸透性が低いので、記録媒体の内部へあまり浸透していない状態のブラックインク2002の上に、高浸透性のカラーインク2001が付与されることになる。このとき、記録媒体表面は低浸透性ブラックインク2002で覆われているため、高浸透性のカラーインク2001を後から付与したとしても浸透性はあまり変わらない。詳しくは、先に付与したブラックインク2002に後から付与したカラーインク2001が接触すると、両者は図のように記録媒体面上で混ざり合い、この混ざり合った混合インク2003が記録媒体内部へ浸透していく。しかし、混ざり合い初期における混合インク2003の浸透性については、先に付与されたブラックインクの低浸透性が支配的となる。よって、混合インク2003の記録媒体内部への浸透はなかなか進行しない。従って、定着時間が比較的長くなってしまう。なお、混ざり合い開始からある程度の時間が経過すると、混合インク2003の浸透性は除々に高まり、媒体内部へ除々に浸透していく。しかし、浸透性が高まるまでの時間が比較的長いため、図14(a)の場合に比べて定着時間が長くなってしまう。
このように高浸透性のカラーインクの付与後に低浸透性のブラックインクを付与する形態は、低浸透性のブラックインクの付与後に高浸透性のカラーインクを付与する形態に比べて、定着時間が短いのである。すなわち、浸透特性の異なるインクを用いる形態においては、それらインクの付与順序によって定着時間が異なるのである。なお、ここで、浸透特性の異なるインクとは、例えば、Ka値が異なるインク、あるいは表面張力が異なるインクを指す。
よって、本実施形態では、図8に示されるような単位領域毎に定着時間を決定するに際し、その単位領域に対するインクの付与順序を考慮するようにしている。詳しくは、まず、プリントバッファ229に格納された2値データに基づいて、ブラックの記録率が50%以上である高デュ-ティー領域が存在するか否かを判断する。その結果、高デュ-ティー領域が存在すると判断された場合には、その高デュ-ティー領域に対するインク付与順序を判別する。
図16〜図18で説明したブラックの高デュ-ティー領域には高浸透性カラーインクが付加される。高デュ-ティー領域は、低浸透性ブラックインク→高浸透性カラーインクの順で記録されるか、あるいは高浸透性カラーインクインク→低浸透性ブラックインクの順で記録されるかのいずれかである。そこで、高デュ-ティー領域がいずれのインク付与順序で記録されたかを判定する。
本実施形態のような双方向記録の場合、インクの付与順序は記録走査方向に依存する。つまり、記録走査方向が決まればインク付与順序も自ずと決まる。そこで、本実施形態では、記録走査方向を判定することにより、インクの付与順序を間接的に判別する。具体的には、高デューティー領域が記録走査の往方向で記録されたか復走査で記録されたかを判別する。その結果、往走査で記録されたと判別された場合には、高デューティー領域の定着時間を3秒に設定する。一方、復走査で記録されたと判別された場合には、高デューティー領域の定着時間を2秒に設定する。これは、本実施形態の記録装置では、往方向ではカラーよりもブラックインクのほうが先に付与されるが、復方向ではカラーインクのほうがブラックインクよりも先に付与されるからである。
以後、便宜上、ブラックインクをカラーインクに先立って付与する状態、言い換えれば、重なり順としてブラックインクが下側になる状態を「下打ち」と称する。反対に、カラーインクよりもブラックインクを後から付与する状態、言い換えれば、重なり順としてブラックインクが上側になる状態を「上打ち」と称す。
図7は、本実施形態においてMPU221が行う処理工程を説明するためのフローチャートである。1つのジョブが開始されると、まず、Step1で1枚目の給紙が実行される。続くStep2では、記録率カウントルーチンをリセットした後、これをスタートする。記録率カウントルーチンは、図8に示されるような所定の大きさを有する単位領域(以下、「チェックボックス」ともいう)に対するブラックドットの記録率を検出するためのルーチンである。
図8は、記録率を検出するための単位領域(チェックボックス)を説明するための図である。本実施形態では、主走査方向に128画素×副走査方向に60画素を有する領域を1つのチェックボックスとし、チェックボックス毎にブラックの記録率を検出する。具体的には、チェックボックス内に記録されるブラックドットの数をカウントすることによって、当該領域内のブラックの記録率を検出する。チェックボックス内に記録可能な総ドット数は128×60=7680ドットであるので、チェックボックス内に記録されるドット数をDとした場合、D/7680×100(%)がブラックの記録率となる。チェックボックス内のドットのカウントは、MPU221がプリントバッファ内に格納された2値データをカウントすることによって実現できる。
図9は、チェックボックスと実際の画像パターンとの誤差を説明するための模式図である。図9(a)は、チェックボックスと、濃度の高いパターンが丁度重なっている状態を示している。一方、図9(b)は、チェックボックスの位置に対して、濃度の高いパターンが主走査方向に64画素分、副走査方向に30画素分ずれて存在している場合を示している。これが本実施例における、最大の誤差となる。実際の画像では、様々なパターンが様々な位置に記録されるのに対し、本実施形態で適用するチェックパターンは、記録媒体に対してその配列が決まってしまっており、このような誤差をどうしても多少は含むことになる。
但し、濃度の高いパターンがチェックボックスよりも大きくこれを含むような形で配置していれば誤差は発生しない。よって、チェックボックスは小さく設定したほうが、誤差は発生しにくく、定着に時間のかかる領域を精度良く検出することが出来る。しかしながら一方で、あまり小さく設定しすぎると、検出のために要する時間がかかりすぎたり、スミヤがあまり問題とならないようなテキスト画像までスミヤ対策のためのウエイトを設けてしまったりと、タイムコストを低減させてしまう恐れも生じる。チェックボックスの大きさは、記録する画像の用途や、適用するインクの特性、記録媒体の種類、走査速度、搬送速度、バンド幅などに応じて適切に設定されていればよい。つまり、図8に示される単位領域は128画素(主走査方向)×60画素(副走査方向)で構成されているが、本実施形態において適用可能な単位領域の大きさはこれに限定されない。さらに、各チェックボックスの検出結果を累積することによって、その後の処理を決定する構成であってもよい。
図7に戻る。Step3では、バンドマーキングルーチンがスタートする。このルーチンでは、記録が開始されてからの記録媒体の搬送量を管理し、記録媒体を搬送方向に1インチごとに分割して、バンドナンバーを順次付与していく。
図10は、Step3によってバンドナンバーが付与された画像領域を説明するための模式図である。本実施形態では、図3で示した記録ヘッドを用い、双方向記録を行う場合を想定している。よって、各バンドの幅は、1回の記録主走査で記録されるエリアを示しており、その幅は1200ノズル分(すなわち1インチ)となっている。Step3より開始される搬送量のカウントとバンドナンバーの付与は、記録が進行している間も続行され、記録媒体の後端部がペーパエンドセンサによって検出されるまで続けられる。そして、この2つのルーチンによって、バンド別に記録率を管理することが出来る。本実施形態の記録装置においては、適用可能な記録媒体の最大長を11インチとしており、装置内には11バンド分だけのメモリが確保されている。図10においては、11インチの長さを有する記録媒体種Aと、4インチの幅を有する記録媒体種Bが例示されている。記録媒体種Aではバンド1〜バンド11まで存在する。一方、記録媒体種Bではバンド1〜バンド4までしか存在しない。
再び図7に戻る。Step4では、次の記録走査(次のバンド)に対しディレイモードが指定されているか否かを判断する。ディレイモードとは次回の記録走査に遅延を加えるモードであり、次の記録走査を行うことによってスミヤが懸念される場合に設定される。Step4でディレイモードが設定されていると判断された場合はStep5に進み、ディレイモードに従った記録走査を実行する。本実施形態では、所定時間待機した後に通常の記録走査および1インチ分の搬送動作を実行する。一方Step4でディレイモードが設定されていないと判断された場合はStep6に進み、通常の記録走査および1インチ分の搬送動作を実行する。
続くStep7〜Step11では、Step5あるいはStep6にて記録したバンドにおける定着時間の設定を行う。まず、Step7では、Step5あるいはStep6にて記録したバンド(着目バンド)内の各単位領域(チェックボックス)についてブラックの記録率を確認する。具体的には、50%以上のブラック記録率を示す単位領域(高デュ−ティー領域)が着目バンド内に存在するか否かを判断する。高デュ−ティー領域が存在すると判断された場合、その高デュ−ティー領域の定着時間を管理するためにStep8へ進む。
Step8では、Step7で検出された高デュ−ティー領域を含むバンドの番号とその記録率とを把握し、当該バンド用に用意されたメモリにこれらの情報を記憶する。
図11は、各バンドに記録される画像パターンの一例を示した図である。本実施形態の場合、図11に示されるようなテキスト(Abcde)は50%以上の領域として検出されない。矩形の黒塗りで示したパターンのみ50%以上の領域として検出される。そして、このように検出された高デュ−ティー領域の情報に基づいて、次のStep9では各バンドの管理データが生成される。
Step9では、上記情報を基に、現ページが記録中である意味を示す情報(2)、バンド番号(n)、当該バンドの定着時間(2秒or3秒)を1セットにして、(2、n、2or3)のように3次元のディメンジョンとして記憶管理する。例えば、記録中の現ページにおけるバンド5は往路で記録されるため、バンド5の定着時間は2秒と設定される。この場合、バンド5については(2、3、3)のように記憶管理される。定着時間の設定は、当該バンドの記録走査が往路方向で行われたか復路方向で行われたかによって異なっている。本実施形態では、往走査はカラーインクのほうがブラックインクよりも先に付与される「上打ち」であり、定着時間を2秒にセットする。また、復走査はカラーインクのほうがブラックインクよりも後に付与される「下打ち」であり、定着時間は3秒にセットする。
続くStep10では、Step9で設定した定着時間を0.1秒ごとに減算する様、タイマーをリセット後スタートさせる。
一方、Step7において、着目しているバンドの中に50%以上の記録率を示す単位領域(高デュ−ティー領域)が存在しないと判断された場合、Step11へと進む。Step11では、3次元のディメンジョンデータを、(2、エリア番号、0)とし、定着時間を0秒に固定して記憶する。
続くStep12〜Step16では、現在記録中の記録媒体の記録動作が継続可能であるか否かを判断し、以後の記録動作に対するディレイモードの設定の有無を決定する。まず、Step12では、直前の記録動作がバンド8以降に対するものであったか否かを判断する。直前の記録動作がバンド8以前に対するものであると判断された場合、本実施例ではディレイモード設定の必要はないと判断し、次の記録走査のためにStep17へジャンプする。本実施形態の記録装置においては、図15で説明しように記録媒体の排紙口は排紙トレイの上位に位置し、記録媒体は下部から支えながら排出される。よって、記録媒体の先端からある程度の領域については、排紙済みの記録媒体に接する懸念のない状態で記録を進めることが出来る。本実施形態では、先端から9インチまで記録が進行した時点で、記録媒体の先端が垂れ下がり、先に排紙された記録媒体のバンド3に接触する懸念が生じるものとする。よって、現ページにおいてはバンド1〜バンド8までの間であれば、そのまま記録を続行できるのである。Step12で直前の記録動作がバンド8以降に対するものであると判断された場合、Step13へ進む。
Step13では、記録中の記録媒体(現ページ)の先端が接触してもスミヤ問題が発生しないほど十分に、排出済みの前ページのインクが定着しているか否かを確認する。前ページの接触箇所は、現在記録中の場所(バンド)によっても異なる。よって、ここでは記録中のバンド番号によって、前ページにおける定着状態を確認する箇所を異ならせている。例えば、現ページのバンド9を記録した時点では、現ページの先端は前ページのバンド3に接触する恐れがある。よって、前ページのバンド3での定着状態をチェックする。また、現ページのバンド10を記録した時点では、現ページの先端は前ページのバンド2に接触する恐れがある。よって、前ページのバンド2での定着状態をチェックする。更に、現ページのバンド11を記録した時点では、現ページの先端は前ページのバンド1に接触する恐れがある。よって、前ページのバンド1での定着状態をチェックする。具体的には、それぞれの場合における、前ページ用の3次元のディメンジョンデータを取得する。
本実施形態においては、排出後の記録媒体1ページ分についても3次元のディメンジョンデータとして記憶管理するためのメモリを有している。排出後のページについては、当該ページが記録済みである意味を示す情報(1)、エリア番号、各エリアの定着時間が1セットとして記憶されている。無論、定着時間は、実際に記録が行われた時点に設定された定着時間から、0.1秒単位でディクリメントされている(Step10)。
Step14では、Step13で取得した前ページ用の3次元のディメンジョンデータ内の定着時間が0になっているか否かを確認する。定着時間が0でなかった場合、このまま記録を継続するとスミヤ問題が懸念されると判断され、Step16へ進みディレイモードを設定する。ここで、ディレイモードとは、少なくとも定着時間が0になるまで、次のバンドへの記録動作を停止する制御、つまり、次バンド記録前に待機時間を入れる制御である。これによれば、Step8で決定した定着時間内に、現ページが前ページの高デュ−ティー領域に接触しないので、スミヤを軽減できる。一方、定着時間が0であった場合、既に定着済みであるのでスミヤ問題は回避されると判断され、Step15へ進みディレイモードを解除する。
本実施形態で適用可能なディレイモードは、上述した待機時間を設ける方法に限られない。例えば、記録ヘッドの走査速度を低速にしたり、記録媒体の搬送速度を低速にしたり、記録媒体の搬送タイミングを変更したりすることによっても、現ページに対する記録動作を遅延させることができる。更に、これら遅延制御の方法を組合せることもできる。本発明で言うディレイモードとは、前ページの高デュ−ティー領域に現ページが接触することを許容するまでの期間(定着時間)内に、現ページが前ページの高デュ−ティー領域に接触しないよう現ページの記録動作中に当該記録の遅延制御を行うモードである。
Step17では、Step5あるいはStep6で行われた搬送動作によって、ペーパエンドセンサ123が、記録媒体の後端部を検出したか否かを判断する。後端部は未だ検出されていないと判断された場合には、Step4に戻り、次のバンドへの記録動作に移行する。一方、後端部を検出したと判断された場合は、Step18へ進む。
Step18〜Step21は排紙のための工程となっている。まず、Step18では、記録が完了したとみなされた現在記録中の記録媒体を、排紙してよいか否かを判断する。具体的には、現ページを排出する際に接触する可能性のある前ページのバンド9〜バンド11の全ての定着残時間をチェックする。前ページのバンド8以前については、現ページの先端部が擦られる可能性もあることから、既にStep12〜Step16の間で定着残時間のチェックおよびディレイモードの処理が行われている。よって、Step18で改めて定着時間を確認する必要はない。これに対し、バンド9〜バンド11は、現ページが排紙された時点で初めてスミヤ問題が懸念される領域である。よって、Step18では、バンド9〜バンド11に限って定着残時間をチェックする。
バンド9〜バンド11の全バンドの定着残時間が0でない場合、再度定着残時間をチェックし、全バンドの定着残時間が0になるまでこの工程を繰り返す。全バンドの定着残時間が0であった場合、Step19へ進み、排紙を実行する。
続くStep20では、当該ページに対するマーキングを、現在記録中であることを示す「2」から排紙済みであることを示す「1」へと書き換える。同時に、記録媒体の長さによらず、各バンドの番号を11を基準に後ろ詰めに書き換える。例えば記録媒体が図10の記録媒体種Bのように4インチ分の長さを有するものであった場合、記録中のバンド1〜バンド4は排紙後にはバンド8〜バンド11に変更される。本実施形態で適用する記録装置の場合、排出後の記録媒体は後端部で揃えられる。よって、後続して記録される記録媒体の先端部が接触するバンドの番号を管理するためには、このように後端部を基準にそろえてあるほうが、処理も行いやすい。
Step21では、現行のジョブが終了したか否かを判断する。終了したと判断された場合には、本処理を終了する。まだ終了していないと判断された場合には、Step1にもどり、次ページの記録動作に移行する。
以上説明したように本実施形態によれば、往走査で記録した高デューティー領域と復走査で記録した高デューティー領域とで定着時間を異ならせて設定する。こうして設定した定着時間内に、後続記録媒体が先行記録媒体の高デューティー領域に接触しないよう、後続記録媒体の記録中に記録遅延制御を行っている。従って、インク付与順序の違いによる定着時間の違いを考慮せずにディレイモードを設定していた形態に比べて、後続記録媒体への記録の遅延を短くすることができる。
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、各単位領域の定着時間を記録走査方向(インク付与順序)に基づいて、2秒あるいは3秒に一律に設定している。しかし、厳密には、記録率や記録媒体の種類、また環境温度や湿度等によっても、定着時間は左右される。従って、これら条件を加味した上で、定着時間を設定することもできる。第2の実施形態では、記録走査方向(インク付与順序)に加え、記録率、記録媒体の種類、環境温度や湿度等の条件も加味して、定着時間を決定することを特徴とする。特徴部分以外の構成は第1の実施形態とほぼ同様なので、その説明は省略する。
対応可能な記録媒体の種類が複数に及ぶ場合、これらの定着時間には広い範囲のばらつきが含まれていることがある。例えば、対応可能な複数の記録媒体を、定着時間の差からAとBの2種類に分類して考えることが出来るとする。この場合、図7のStep9においては、「上打ち」および「下打ち」の他に、「記録媒体種A」および「記録媒体種B」によっても、定着時間を異ならせて設定すればよい。例えば、「記録媒体種A」の場合は、上記第1の実施形態と同様、「上打ち」で2秒、「下打ち」で3秒と設定する。一方、より定着に時間のかかる「記録媒体種B」の場合は、「上打ち」で15秒、「下打ち」で20秒というように、「記録媒体種A」とは異なる値に設定してもよい。
更に、温度計や湿度計を設け、その検出値に応じて定着時間を変更するような構成であってもよい。例えば、一般的な環境温度と湿度のときには、上記第1の実施形態と同様に「上打ち」で2秒、「下打ち」で3秒と設定する。一方、所定の閾値以上の温度と湿度が検出された場合には、「上打ち」で10秒、「下打ち」で15秒に変更してもよい。更に、別の閾値以下の温度と湿度が検出された場合には、「上打ち」で1秒、「下打ち」で2秒というように、定着時間をより短くすることも可能である。
また、第一の実施形態では、ブラックの記録率が50%を超える高デュ−ティー領域について、その定着時間を一律に設定しているが、厳密には、その記録率N(%)の違いによって定着時間が異なる。そこで、この第2の実施形態では、ブラック記録率の違いに応じて定着時間を複数段階に設定する。この場合、図7のStep9においては、「上打ち」および「下打ち」の他に、「記録率N(%)が50≦N<60」、「記録率N(%)が60≦N<75」および「記録率N(%)がN≧75」によっても、定着時間を異ならせて設定すればよい。例えば、「記録率N(%)が50≦N<60」の場合は、上記第1の実施形態と同様、「上打ち」で2秒、「下打ち」で3秒と設定する。また、「記録率N(%)が60≦N<75」の場合は、「上打ち」で6秒、「下打ち」で7秒と設定する。また、「記録率N(%)がN≧75」の場合は、「上打ち」で10秒、「下打ち」で11秒と設定する。
ところで、単一バンド内に高デューティー単位領域が複数箇所存在し、それら複数箇所で記録率が異なる場合がある。この場合、単一バンド内の複数箇所で夫々定着時間が異なることになる。そこで、本例においては、単一バンド内の複数箇所について算出される複数の定着時間のうち、最も長い定着時間をそのバンドの定着時間として定める。例えば、図11のバンド1には高デューティー領域が2箇所存在するが、この2箇所うち、一方の箇所の記録率N(%)が50%、他方の箇所の記録率N(%)が75%であったとする。すると、前者の箇所における定着時間は2秒、後者の箇所における定着時間は10秒と算出される。このような場合には、バンド1の定着時間は10秒に設定される。
以上説明したように第2の実施形態によれば、記録走査方向に加え、記録率、記録媒体の種類、環境温度や湿度等の条件も加味して、定着時間を決定している。よって、第1の実施形態に比べ、定着時間をより短く設定可能になる。
(第3の実施形態)
上記第1および第2の実施形態では、図16に示されるようにスミヤ対策用のカラーインク付与データ5020を生成する構成であった。これに対し、第3の実施形態ではカラーインク付与データ5020は生成しない。つまり、高デューティーのブラック画像領域に対してスミヤ対策用のカラーインクをあえて付与するような制御は行わない。このような制御を行わずとも、高デューティーのブラック画像領域にカラーインクが打ち込まれる場合も多々存在するからである。例えば、黒画像領域の周囲にカラー画像領域が存在する場合、誤差拡散等の画像処理の関係上、黒画像領域にカラーインクが付与される確率は高い。
本実施形態では、ブラックの記録率が50%を超える高デュ−ティー領域について、その定着時間をカラーの記録率に応じて設定する。この場合、図7のStep9において、「上打ち」および「下打ち」の他に、カラーの記録率M(%)を加味して、定着時間を複数段階に異ならせて設定する。この場合、まず、プリントバッファ229に格納されたCMYの2値データ(図16のオリジナルCMYデータ5001,5002,5003)に基づいて、単位領域のカラー記録率を検出する。次に、こうして検出したカラーの記録率M(%)が0≦M<12.5、12.5≦M<25、25≧Mの何れの範囲に属するかを判定する。最後に、カラーの記録率M(%)が属する範囲と、「上打ち」および「下打ち」を考慮して、定着時間を設定する。例えば、「カラー記録率M(%)が0≦M<12.5」の場合は、「上打ち」で4秒、「下打ち」で5秒と設定する。また、「カラー記録率M(%)が12.5≦M<25」の場合は、第1の実施形態と同様、「上打ち」で2秒、「下打ち」で3秒と設定する。また、「カラー記録率M(%)が25≧M」の場合は、「上打ち」で1秒、「下打ち」で2秒と設定する。
以上の説明したように第3の実施形態によれば、図16に示した高デューティーのブラック画像領域に対してスミヤ対策用のカラーインクをあえて付与するような制御を行わず、簡単な構成ながらも、比較的短い定着時間を設定可能になる。
(その他の実施形態)
上述した実施形態では、顔料ブラックインクと、これと反応する染料カラーインクを適用する場合例に説明してきたが、本発明の効果はこのようなインクの組み合わせに限定されるものではない。反応し合う組み合わせのインクを適用していなくても良い。色材の種類は顔料であっても染料であっても構わない。例えば、ブラックとカラーの両方で顔料インクを適用してもよいし、ブラックとカラーの両方で染料インクを適用しても構わない。記録走査方向(インク付与順序)の違いによって定着時間に差が現れる傾向を有するインクの組合せを用いる形態であれば、本発明はその効果を発揮することが出来る。このようなインクの組合せの代表例として、第1実施形態で説明したような浸透特性(Ka値、表面張力等)が異なるインクの組合せが挙げられる。なお、インクの種類が異なればその組成が異なるため、多かれ少なかれ、インク付与順序の違いによる定着時間の違いが生じる。従って、本発明は、異なる種類のインク(第1インク、第2インク)を用い、第1インク→第2インクの順で記録される単位領域と第2インク→第1インクの順で記録される単位領域を記録媒体上で混在させて記録を行う形態において適用可能である。
更に、本発明の記録装置は、インクの種類や吐出量が異なる複数種類の記録ヘッドカートリッジが、記録装置に対し交換可能な構成であっても良い。この場合には、記録ヘッドカートリッジが交換されるたびに、上記定着時間の設定値が変更されることが好ましい。このような仕様は、例えば装着された記録ヘッドカートリッジに付されたID番号などを自動的に読み取り、読み取った番号に応じた設定値が記録装置のメモリ内やホスト装置などから読み出されるような構成によって実現することが可能である。
また、上記実施形態では、記録媒体上の同一領域に対して記録すべき画像を記録ヘッドの1回の記録走査で完成させる1パス記録に適用する場合について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。記録媒体上の同一領域に対して記録すべき画像を記録ヘッドの複数回の記録走査で完成させるマルチパス記録にも適用可能である。
更にまた、上記単位領域という概念を用いず、たとえば記録画像内のオブジェクト単位で記録率を求め、当該オブジェクト単位で定着時間が設定されるような構成であっても良い。この場合、各オブジェクトの記録率の算出やマーキング処理は、画像の提供元であるホスト装置内のプリンタドライバによって実現し、定着時間情報はインタフェイスを介して記録装置に入力されるのが効率的である。但し、この場合には、1つのオブジェクトが複数の記録走査で形成される場合もありうるので、往走査記録時の定着時間と復走査記録時の定着時間とを考え合わせた上で、当該オブジェクトの定着時間が決定されることになる。
上記実施形態において、図7で説明した一連の工程は、記録装置内に備えられているMPUによって実行されるものとして説明を加えてきた。しかしながら、本発明はこのような構成に限定されるものではない。たとえば、上記工程の全てあるいは一部が記録装置の外部に接続されたホスト装置200(データ供給装置)によって実行されるような形態であったとしても、本発明のインクジェット記録システムとしての範疇に含まれるものである。
本発明によれば、排紙済みの記録媒体の(先行記録媒体)の単位領域に対するインク付与量とインク付与順序を考慮して、記録中の記録媒体(後続記録媒体)への記録を遅延させるようにしている。先行記録媒体の高デュ−ティー領域に後続記録媒体が接触する可能性がある場合に、後続記録媒体への記録の遅延を必要最小限に留めることができる。その結果、必要以上に記録速度を低下させることなく、スミヤ問題の抑制された画像を出力することが可能となる。