以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(1) 基本構成
初めに、図1を参照しながら、本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態の基本的な構成について説明する。ここに、図1は、本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態の基本的な構成を概念的に示す概略構成図である。
図1に示すように、車両1は、前輪5及び6、並びに後輪7及び8を備えている。前輪5及び6並びに後輪7及び8の少なくとも一方がエンジン21の駆動力を得ることによって駆動すると共に、前輪5及び6が操舵されることで、車両1は所望の方向に進行することができる。
操舵輪である前輪5及び6は、ドライバーによるステアリングホイール11の操作に応じて駆動される電動式パワーステアリング装置10により操舵される。具体的には、電動式パワーステアリング装置10は、例えばラック同軸式の電動式パワーステアリング装置であり、ステアリングホイール11に一方の端部が接続されるステアリングシャフト12と、該ステアリングシャフト12の他方の端部(ないしは、ステアリングシャフト12の他方の端部に接続されるピニオンシャフト)に接続されるラックピニオン機構17と、ステアリングホイール12の回転角度である操舵角θを検出する舵角センサ13と、ステアリングホイール11の操作によってステアリングシャフト12に加えられる操舵トルクMTを検出するトルクセンサ14と、ドライバーの操舵負担を軽減する補助操舵力を発生させると共に減速ギア16を介してラックバー18に補助操舵力を与える電動モータ15とを備えている。
このような電動式パワーステアリング装置10においては、ECU30により、舵角センサ13から出力される操舵角θ及びトルクセンサ14から出力される操舵トルクMTに基づいて、電動モータ15が発生するトルクである操舵アシストトルクATが算出される。
操舵アシストトルクATはECU30から電動モータ15に出力され、操舵アシストトルクATに応じた電流Iが電動モータ15に供給されることで、電動モータ15が駆動される。これにより、電動モータ15からステアリングシャフト12に操舵アシスト力が加えられ、その結果、ドライバーの操舵負担が軽減される。また、ラックピニオン機構17により、電動モータ15の回転方向の力が、ラックバー18の往復動方向(言い換えれば、直動方向)の力に変換される。より具体的には、ラックピニオン機構17に含まれるボールネジ等により、電動モータ15の回転方向の力が、ラックバーの往復動方向の力に変換される。ラックバー18の両端は、タイロッド19を介して前輪5及び6に連結されており、ラックバー18の往復運動に応じて、前輪5及び6の向きが変わる。
また、車両1は、エンジン21の回転数Rを検出する回転数センサ41と、エンジン21を冷却するための冷却水の水温T_waterを検出する水温センサ42と、車速Vを検出する車速センサ43と、外気温T_atmを検出する外気温センサ44と、電動モータ15を駆動するための電流Iを検出する電流センサ45と、ECU30の温度であるECU温度T_ecuを検出するECU温度センサ46とを備えている。
ここで、低温時には、減速ギア16やラックピニオン機構17等を含むギア部に塗布されているグリースの粘性が大きくなってしまう。これにより、ギア部のプレロードが増加し、その結果、ステアリングホイール11が重くなってしまう。これは、ドライバーの操舵フィーリングの悪化につながる。
このため、本実施形態では、減速ギア16やラックピニオン機構17等を含むギア部の温度であるギア温度T_gearを推定し、該推定されたギア温度T_gearが所定値T_thr1以下の場合には、操舵アシストトルクATに対して、操舵フィーリングの悪化を防ぐための補正処理が施される。このギア温度T_gearの推定処理は、回転数センサ41により検出される回転数Rや、水温センサ42により検出される水温T_waterや、車速センサ43により検出される車速Vや、外気温センサ44により検出される外気温T_atmや、電流センサ45により検出される電流Iや、ECU温度センサ46により検出されるECU温度T_ecuに基づいて行われる。このギア温度T_gearの推定処理及び操舵アシストトルクATの補正処理については、以下により詳細に説明を進める。
(2) 動作原理
続いて、図2から図14を参照して、本実施形態に係る電動式パワーステアリング装置10の動作についてより詳細に説明する。ここでは、図2を参照しながら、本実施形態に係る電動式パワーステアリング装置10の動作の全体の流れを説明しつつ、適宜図4から図14を参照しながらより詳細な説明を加えていく。ここに、図2は、本実施形態に係る電動式パワーステアリング装置10の動作の全体の流れを概念的に示すフローチャートである。
図2に示すように、まず、ECU30内で論理的に実現されるブロックである温度推定部31の動作により、ギア温度T_gearが推定される(ステップS100)。このギア温度T_gearの推定処理については、後に詳述する(図4から図11参照)。
続いて、ステップS100において推定されたギア温度T_gearが所定の閾値T_thr1以下であるか否かが判定される(ステップS200)。
ステップS200における判定の結果、ギア温度T_gearが所定の閾値T_thr1以下でないと判定された場合には(ステップS200:No)、操舵角θ及び操舵トルクMTに基づいて算出される通常アシストトルクAT_usualが操舵アシストトルクATとして設定される(ステップS300)。つまり、操舵アシストトルクAT=通常操舵アシストトルクAT_usualとなる。
ここで、図3を参照して、通常アシストトルクAT_usualの算出処理について説明する。ここに、図3は、通常アシストトルクAT_usualの算出処理を概念的に示すグラフである。
図3に示すように、通常アシストトルクAT_usualは、操舵トルクMTと通常アシストトルクAT_usualとの関係を示すグラフに基づいて算出される。より具体的には、操舵トルクMTが大きければ大きいほど、より大きな値の通常アシストトルクAT_usualが算出される。
尚、図3に示す操舵トルクMTと通常アシストトルクAT_usualとの関係を示すグラフは一具体例であって、操舵トルクMTと通常アシストトルクAT_usualとの関係を示す他のグラフを用いて、通常アシストトルクAT_usualを算出するように構成してもよい。或いは、操舵トルクMTに加えて又は代えて、操舵角θ(或いは、操舵角速度dθ)と通常アシストトルクAT_usualとの関係を示すグラフを用いて、通常アシストトルクAT_usualを算出するように構成してもよい。
再び図2において、その後、通常アシストトルクAT_usualである操舵アシストトルクATに応じた電流Iが電動モータ15に供給されることで、電動モータ15が駆動される。その結果、ステアリングシャフト12に通常アシストトルクAT_usualである操舵アシストトルクATが付与される(ステップS600)。
他方、ステップS200における判定の結果、ギア温度T_gearが所定の閾値T_thr1以下であると判定された場合には(ステップS200:Yes)、ECU30内に論理的に実現されるブロックであるアシストトルク補正部32の動作により、低温補正アシストトルクAT_lowが算出される(ステップS400)。この低温補正アシストトルクAT_lowの算出処理については、後に詳述する(図12及び図13参照)。
その後、ステップS400において算出された低温補正アシストトルクAT_lowを通常アシストトルクAT_usualに加算することで得られるトルク値が、操舵アシストトルクATとして設定される(ステップS500)。つまり、操舵アシストトルクAT=通常アシストトルクAT_usual+低温補正アシストトルクAT_lowとなる。その後、通常アシストトルクAT_usualと低温補正アシストトルクAT_lowとの和である操舵アシストトルクATに応じた電流Iが電動モータ15に供給されることで、電動モータ15が駆動される。その結果、ステアリングシャフト12に通常アシストトルクAT_usualと低温補正アシストトルクAT_lowとの和である操舵アシストトルクATが付与される(ステップS600)。
続いて、図4を参照して、図2のステップS100におけるギア温度T_gearの推定処理について説明を進める。ここに、図4は、図2のステップS100におけるギア温度T_gearの推定処理の流れを概念的に示すフローチャートである。
図4に示すように、まず、エンジン21を起動させたとき(つまり、イグニションスイッチをONにしたとき)のギア部の温度である初期ギア温度T_gear0が推定される(ステップS110)。
ここで、図5を参照して、図4のステップS110における初期ギア温度T_gear0の推定処理について説明する。ここに、図5は、図4のステップS110における初期ギア温度T_gear0の推定処理の流れを概念的に示すフローチャートである。
図5に示すように、まず、ECU30内で論理的に実現されるブロックである初期温度推定部33の動作により、前回エンジン21を起動していたときに最後に検出された(言い換えれば、前回イグニションスイッチをOFFにした時点で最後に検出されていた)外気温T_atmである前回外気温T_atm.memと、前回エンジン21を起動していたときに最後に検出されたECU30の温度であるECU温度T_ecuである前回ECU温度T_ecu.memと、前回エンジン21を起動していたときに最後に推定されたギア温度T_gearである前回ギア温度T_gear.memとが、メモリ34から読み込まれる(ステップS111)。この動作を行うために、少なくとも外気温T_atmと、ECU温度T_ecuと、ギア温度T_gearとは、検出される都度又は推定される都度メモリ34に記録されることが好ましい。
続いて、エンジン21を起動させたときの外気温T_atmである初期外気温T_atm0と、エンジン21を起動させたときのECU温度T_ecuである初期ECU温度T_ecu0とが検出される(ステップS112)。
その後、ステップS111における前回外気温T_atm.mem、前回ECU温度T_ecu.mem及び前回ギア温度T_gear.memの読込処理、並びにステップS112における初期外気温T_atm0及び初期ECU温度T_ecu0の検出処理が成功したか否かが判定される(ステップS113)。
ステップS113における判定の結果、ステップS111における読込処理又はステップS112における検出処理が成功しなかったと判定された場合には(ステップS113:No)、以下に説明するステップS114からステップS118における動作によって初期ギア温度T_gear0を推定することができない。従って、初期ギア温度T_gear0として、デフォールトで設定されているギア温度T_gear.defが設定される(ステップS119)。つまり、初期ギア温度T_gear0は、デフォールトのギア温度T_gear.defであるとみなされる。尚、デフォールトのギア温度T_gear.defは、例えばメモリ34等に予め記録されていることが好ましい。
尚、ステップS111における読込処理又はステップS112における検出処理が成功しなかった場合には、デフォールトで設定されているギア温度T_gear.defを初期ギア温度T_gear0として設定することに代えて、再度ステップS111における読込処理又はステップS112における検出処理を行うように構成してもよい。
また、デフォールトのギア温度T_gear.defは、ギア温度T_gearが低温であるときの操舵アシストトルクATの補正処理が行われないように、閾値T_thr1よりも大きくすることが好ましい。言い換えれば、デフォールトのギア温度T_gear.defは、ギア温度T_gearをデフォールトのギア温度T_gear.defに設定した場合には必ず操舵アシストトルクATの補正処理が行われてしまうという状態を避けるために、閾値T_thr1よりも大きくすることが好ましい。
他方、ステップS113における判定の結果、ステップS111における読込処理又はステップS112における検出処理が成功したと判定された場合には(ステップS113:Yes)、続いて、初期外気温T_atm0が前回外気温T_atm.memと等しく且つ初期ECU温度T_ecu0が前回ECU温度T_ecu.memよりも大きいか否かが判定される(ステップS114)。
ステップS114における判定の結果、初期外気温T_atm0が前回外気温T_atm.memと等しく且つ初期ECU温度T_ecu0が前回ECU温度T_ecu.memよりも大きいと判定された場合には(ステップS114:Yes)、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまでが短時間(例えば、数秒、数十秒ないしは数分程度)であると判定することができる。この判定は、以下の理由から説明できる。ECU30がエンジンルーム内のうちのエンジン21の上部方向に設置されていることから、ECU温度T_ecuは、イグニションスイッチをOFFにした後の一定時間は、エンジン21の熱気により上昇する。その後、エンジン21の熱気が収まるにつれて、ECU温度T_ecuも下降する。従って、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまでが短時間であれば、ECU温度T_ecuは上昇している。加えて、外気温T_atmに変化が見られなければ、車両1がおかれた状況が、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまで殆ど変化していないと考えられる。このため、初期外気温T_atm0が前回外気温T_atm.memと等しく且つ初期ECU温度T_ecu0が前回ECU温度T_ecu.memよりも大きい場合には、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまでが短時間であると判定することができる。
この場合、ギア温度T_gearについても、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまでの間に殆ど或いはあまり変化していないと考えられる。つまり、ギア温度T_gearは、前回ギア温度T_gear.memと比較して殆ど或いはあまり変化していないと考えられる。従って、この場合、初期ギア温度T_gear0として、前回ギア温度T_gear.memが設定される(ステップS115)。つまり、初期ギア温度T_gear0は、前回ギア温度T_gear.memであると推定される。
他方、ステップS114における判定の結果、初期外気温T_atm0が前回外気温T_atm.memと等しくない、又は初期ECU温度T_ecu0が前回ECU温度T_ecu.memよりも大きくないと判定された場合には(ステップS114:No)、続いて、初期ECU温度T_ecu0と初期外気温T_atm0との差の絶対値が、所定の第2閾値T_thr2(例えば、数℃)よりも小さいか否かが判定される(ステップS116)。言い換えれば、初期ECU温度T_ecu0と初期外気温T_atm0とが殆ど又は概ね同一であるとみなすことができるか否かが判定される。この場合、初期ECU温度T_ecu0と初期外気温T_atm0との差が数℃(例えば、0℃ないしは5℃)程度であれば、初期ECU温度T_ecu0と初期外気温T_atm0とが殆ど又は概ね同一であるとみなしてもよい。
ステップS116における判定の結果、初期ECU温度T_ecu0と初期外気温T_atm0との差の絶対値が、所定の第2閾値T_thr2よりも小さいと判定された場合には(ステップS116:Yes)、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまでが長時間(例えば、数十時間、数日、数十日)であると判定することができる。つまり、初期外気温T_atm0と初期ECU温度T_ecu0とが殆ど又は概ね同一になるのは、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまでが長時間であるためにECU30が十分に冷却されたからであると考えられる。
この場合、減速ギア16やラックピニオン機構17についても同様に、十分に冷却されていると考えられる。従って、初期ギア温度T_gear0として、初期外気温T_atm0及び初期ECU温度T_ecu0のうち高い方の温度が設定される(ステップS117)。つまり、初期ギア温度T_gear0は、初期外気温T_atm0及び初期ECU温度T_ecu0のうち高い方の温度であると推定される。
尚、第2閾値T_thr2は、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまでが長時間であると判定するために用いられることを考慮すれば、以下の説明のように設定されることが好ましい。一般的に、車速Vが増加するほど、エンジンルーム内に多量の空気が流入し、その結果、エンジンルーム内が空気により冷やされる。この場合、ECU温度T_ecuと、外気温T_atmとの差が小さくなる。このため、第2閾値T_thr2が過度に大きすぎると、比較的高速で走行してからイグニションスイッチをOFFにし且つその後短時間で(例えば、数秒ないしは数分で)イグニションスイッチをONにした場合には、初期ECU温度T_ecu0と初期外気温T_atm0との差の絶対値が、閾値T_thr2よりも小さくなってしまうおそれがある。このような事態は、前回イグニションスイッチをOFFにしてから今回イグニションスイッチをONにするまでが長時間であるという判定の精度の悪化につながり好ましくない。従って、第2閾値T_thr2は、相対的に高速で車両1が走行する場合におけるECU温度T_ecuと外気温T_atmとの差分の絶対値よりも大きな値に設定することが好ましい。
他方、ステップS116における判定の結果、初期ECU温度T_ecu0と初期外気温T_atm0との差の絶対値が、所定の第2閾値T_thr2よりも小さくないと判定された場合には(ステップS116:No)、前回ギア温度T_gear.memと、前回外気温T_atm.memと、前回ECU温度T_ecu.memとの比率が、初期ギア温度T_gear0と、初期外気温T_atm0と、初期ECU温度T_ecu0との比率と等しいとみなして、初期ギア温度T_gear0が推定される(ステップS118)。より具体的には、(T_ecu0−T_atm0)/(T_ecu.mem−T_atm.mem)=(T_gear0−T_atm0)/(T_gear.mem−T_atm.mem)という数式に基づいて、初期ギア温度T_gear0が推定される。この式により、初期ギア温度T_gear0は、T_atm0+((T_ecu0−T_atm0)/(T_ecu.mem−T_atm.mem))×(T_gear.mem−T_atm.mem)であると推定される。
再び図4において、続いて、車両1に搭載される各種センサがフェール状態にあるか否かが判定される(ステップS120)。具体的には、少なくとも回転数センサ41、水温センサ42、車速センサ43及び外気温センサ44の少なくとも1つがフェール状態にあるか否かが判定される。
ステップS120における判定の結果、車両1に搭載される各種センサがフェール状態にある(つまり、回転数センサ41、水温センサ42、車速センサ43及び外気温センサ44の少なくとも1つがフェール状態にある)と判定された場合には(ステップS120:Yes)、ギア温度T_gearが上述したデフォールトのギア温度T_gear.defまで徐々に変化するように、ギア温度T_gearが設定される(ステップS170)。これは、各種センサに異常が発生している場合には、安全のために操舵アシストトルクATの補正処理を違和感なく停止させるためである。
他方、ステップS120における判定の結果、車両1に搭載される各種センサの動作状態がフェール状態でない(つまり、回転数センサ41、水温センサ42、車速センサ43及び外気温センサ44の全てがフェール状態でない)と判定された場合には(ステップS120:No)、続いて、電動モータ15の自己発熱によるギア温度T_gearの増減量Te1が算出される(ステップS130)。
ここで、図6を参照して、電動モータ15の自己発熱によるギア温度T_gearの増減量Te1の算出処理について説明する。ここに、図6は、電動モータ15の自己発熱によるギア温度T_gearの増減量Te1を概念的に示すグラフである。
図6に示すように、電動モータ15の自己発熱によるギア温度T_gearの増減量Te1は、電動モータ15を駆動するための電流Iの大きさに応じて定まる。具体的には、電流Iが増加すれば、電動モータ15の自己発熱が増加し、その結果、ギア温度T_gearの増減量Te1は増加する。他方、電流Iが減少すれば、電動モータ15の自己発熱が減少し、その結果、ギア温度T_gearの増減量Te1は減少する。電流Iがゼロであれば、電動モータ15の自己発熱もゼロとなる。
従って、電動モータ15の自己発熱によるギア温度T_gearの増減量Te1は、図6に示すグラフに基づいて、エンジン21を起動してからの経過時間tに応じて算出される。
尚、電流Iと増減量Te1との関係(例えば、電流Iの変動に対する増減量Te1の変動量)は、電動モータ15の特性に応じて様々である。従って、電流Iと増減量Te1との関係は、電動式パワーステアリング装置10に搭載される電動モータ15の各種特性等を考慮しつつ、実験的、経験的、数学的若しくは理論的に、又はシミュレーション等を用いて、電動パワーステアリング装置10が備え付けられる車両1毎に設定されることが好ましい。
また、図6に示すグラフは、後述するエンジン21からの輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2及びラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3の算出処理に合わせて、増減量Te1を、エンジン21を起動してからの経過時間tによる関数として表現している。
再び図4において、エンジン21からの輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2が算出される(ステップS140)。
ここで、図7を参照して、エンジン21からの輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2の算出処理について説明する。ここに、図7は、エンジン21からの輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2を概念的に示すグラフである。
図7に示すように、エンジン21からの輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2は、エンジン21を起動してからの経過時間tに依存して定まる。具体的には、エンジン21を起動してから時間t1が経過するまでの一定時間は、ギア温度T_gearの増減量Te2は、エンジン21を起動してからの経過時間の増加に伴って増加する。ここで、エンジン21からの輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2は、他の増減量Te1及びTe3と比較して小さい。このため、エンジン21を起動してから時間t1が経過するまでの一定時間は、ギア温度T_gearの増減量Te2は、エンジン21を起動してからの経過時間に比例するとみなしても、ギア温度T_gearの推定精度を不当に下げることはない。従って、エンジン21からの輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2の算出処理の簡略化のために、ギア温度T_gearの増減量Te2は、エンジン21を起動してから時間t1が経過するまでの間は、エンジン21を起動してからの経過時間の線形関数として定義することが好ましい。また、エンジン21を起動してから時間t1が経過した後は、ギア温度T_gearの増減量Te2は、一定値Te2_1をとる。
従って、エンジン21の輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2は、図7に示すグラフに基づいて、エンジン21を起動してからの経過時間tに応じて算出される。
尚、エンジン21を起動してからの経過時間tと増減量Te2との関係(例えば、図7に示すグラフの形状(例えば、グラフの傾き等)であって、経過時間tに対して増減量Te2がとり得る値)は、エンジン21とギア部との位置関係や、エンジン21の特性や、ギア部の特性等に応じて様々である。従って、エンジン21を起動してからの経過時間tと増減量Te2との関係は、エンジン21とギア部との位置関係や、エンジン21の特性や、ギア部の特性等を考慮しつつ、実験的、経験的、数学的若しくは理論的に、又はシミュレーション等を用いて、電動パワーステアリング装置10が備え付けられる車両1毎に設定されることが好ましい。
また、本実施形態においては、エンジン21からの輻射熱によるギア温度T_gearの増減量Te2の算出処理の簡略化のために、エンジン21を起動してからの経過時間tと増減量Te2との関係を線形関数で近似している。しかしながら、エンジン21を起動してからの経過時間tと増減量Te2との関係を線形関数で近似することに代えて、他の関数(例えば、非線形関数)で近似してもよい。或いは、エンジン21を起動してからの経過時間tと増減量Te2との関係を線形関数で近似することに代えて、エンジン21を起動してからの経過時間tと増減量Te2との実際の関係を用いるように構成してもよい。エンジン21を起動してからの経過時間tと増減量Te2との実際の関係を用いる場合には、増減量Te2の算出精度を高めることができるため、ギア温度T_gearの推定精度を高めることができる。
再び図4において、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3が算出される(ステップS150)。
ここで、図8から図10を参照して、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3の算出処理について説明する。ここに、図8は、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3を概念的に示すグラフであり、図9は、ラジエータ22からの対流熱を推定するために用いられる温度効率Φを概念的に示すグラフであり、図10は、ラジエータ22からの対流熱を推定するために用いられる冷却水温度T_waterの補正処理に用いられる補正値を概念的に示すグラフである。
図8(a)から図8(c)に示すように、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3は、車速V、エンジン21の回転数R及び冷却水温度T_waterに影響を受けながら、エンジン21を起動してからの経過時間tに依存して定まる。具体的には、エンジン21を起動してから時間t2が経過するまでの一定時間は、ギア温度T_gearの増減量Te3は、0のままである。その後、エンジン21を起動してから時間t2が経過した後は、ギア温度T_gearの増減量Te3は、エンジン21を起動してからの経過時間の増加に伴って増加する。そして、エンジン21を起動してから時間t3(又は、t2_a若しくはt2_b)が経過した後は、ギア温度T_gearの増減量Te3は、一定値Te3_1をとる。尚、図8(a)は、車速Vに対する、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3を示し、図8(b)は、エンジン21の回転数Rに依存する、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3を示し、図8(c)は、冷却水温度T_waterに依存する、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3を示している。
ここで、車速V、エンジン21の回転数R及び冷却水温度T_waterに応じて定まる温度効率Φ及び車速Vに応じて定まる時定数τによって、図8(a)から図8(c)に示すグラフは変動する。より具体的には、図8に示すグラフは、例えば、Te3=(Φ×(T_water−T_atm))/(τ×S+1)にて示される。つまり、本実施形態においては、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3は、上記式を用いて推定される。
温度効率Φは、図9(a)に示すように、車速V、エンジン21の回転数R及び冷却水温度T_waterに依存する。車速Vが増加すれば、温度効率Φは減少する。車速Vが減少すれば、温度効率Φは増加する。また、エンジン21の回転数Rが増加すれば、温度効率Φは増加する。エンジン21の回転数Rが減少すれば、温度効率Φは減少する。また、冷却水温度T_waterが増加すれば、温度効率Φは増加する。冷却水温度T_waterが減少すれば、温度効率Φは減少する。
時定数τは、図9(b)に示すように、車速Vに依存する。車速Vが増加すれば、時定数τは減少する。車速Vが減少すれば、時定数τは増加する。
具体的には、温度効率Φが減少すると、エンジン21を起動してから時間t2が経過した後の増減量Te3がとる一定値Te3_1が、温度効率Φが減少する前における一定値Te3_1よりも大きくなる、時定数τが増加すると、増減量Te3の増加速度が、時定数τが増加する前における増減量Te3の増加速度よりも小さくなる(つまり、増減量Te3が相対的に緩やかに増加する)。
他方で、温度効率Φが増加すると、エンジン21を起動してから時間t2が経過した後の増減量Te3がとる一定値Te3_1が、温度効率Φが増加する前における一定値Te3_1よりも小さくなる、時定数τが減少すると、増減量Te3の増加速度が、時定数τが減少する前における増減量Te3の増加速度よりも大きくなる(つまり、増減量Te3が相対的に急激に増加する)。
図9(a)に示す温度効率及び図9(b)に示す時定数τに基づいて、図8に示すラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3の、車速V、エンジン21の回転数R及び冷却水温度T_waterによる影響を個別的に示すと、以下のように説明される。
まず、図8(a)に示すように、車速Vが減少すれば、ラジエータ22を通過する空気の流速が遅くなるため、単位量あたりの空気がラジエータ22を通過する時間が長くなる。このため、ラジエータ22を通過する空気の温度の増加が促進される。そして、車速Vが減少することによって、ギア部に対流する空気量が少なくなるため、ギア温度T_gearの増減量Te3の増加速度は小さくなる。つまり、車速Vの減少によって温度効率Φ及び時定数τが増加すれば、ギア温度T_gearの増減量Te3の増減量Te3の一定値は大きくなるが、その増加速度は小さくなる。
他方で、車速Vが増加すれば、ラジエータ22を通過する空気の流速が早くなるため、単位量あたりの空気がラジエータ22を通過する時間が短くなる。このため、ラジエータ22を通過する空気の温度の増加が抑制される。そして、車速Vが増加することによって、ギア部に対流する空気量が多くなるため、ギア温度T_gearの増減量Te3の増加速度は大きくなる。つまり、車速Vの増加によって温度効率Φ及び時定数τが減少すれば、ギア温度T_gearの増減量Te3の増減量Te3の一定値は小さくなるが、その増加速度は大きくなる。
図8(b)に示すように、エンジン21の回転数Rが増加すれば、ラジエータ22内に流入する冷却水の量が増加する。このため、ラジエータ22を通過する単位量あたりの空気に対して相対的に多量の熱量が供給されるため、空気の温度の増加が促進される。
他方で、エンジン21の回転数Rが減少すれば、ラジエータ22内に流入する冷却水の量が減少する。このため、ラジエータ22を通過する単位量あたりの空気に対して相対的に少量の熱量が供給されるため、空気の温度の増加が抑制される。
図8(c)に示すように、冷却水温度T_waterが増加すれば、ラジエータ22を通過する単位量あたりの空気に対して相対的に多量の熱量が供給されるため、空気の温度の増加が促進される。
他方で、冷却水温度T_waterが減少すれば、ラジエータ22を通過する単位量あたりの空気に対して相対的に少量の熱量が供給されるため、空気の温度の増加が抑制される。
ここで、温度効率Φの算出の際に考慮される冷却水温度T_waterは、水温センサ42により検出される、エンジン21からラジエータ22に向かう冷却水パイプ23中の冷却水(つまり、ラジエータ22における放熱が行われる前の冷却水)の温度を用いている。しかしながら、該水温に代えて、ラジエータ22からエンジン21に向かう冷却水パイプ23中に設置されるサーモスタット24を通過する冷却水(つまり、ラジエータ22における放熱が行われた後の冷却水)の温度(つまり、サーモスタット24の温度)を用いることがより好ましい。
ここで、サーモスタット24が、水温センサ42による検出地点に隣接する又は近接する箇所に設けられていれば、水温センサ42により検出される冷却水温度T_waterと、サーモスタット24を通過する冷却水の温度とが概ね同一であるとみなしてもよい。他方で、サーモスタット24が、水温センサ42により検出される冷却水が流れる箇所から離れた箇所に設けられていれば、水温センサ42により検出される冷却水温度T_waterと、サーモスタット24を通過する冷却水の温度とが概ね同一であるとみなすことは、冷却水の温度の信頼性(つまり、ラジエータ22からの対流熱によるギア温度T_gearの増減量Te3の信頼性)の面で好ましくない。従って、サーモスタット24が、水温センサ42により検出される冷却水が流れる箇所から離れた箇所に設けられている場合には、水温センサ42により検出される冷却水温度T_waterに対して補正処理を施すことで、該補正後の冷却水温度を、増減量Te3の算出の際に考慮される冷却水温度T_waterとして設定することが好ましい。
具体的には、アイドリング時間が長ければ長いほど、水温センサ42により検出される冷却水温度T_waterと、サーモスタット24を通過する冷却水の温度とが一致するようになる。他方で、アイドリング時間が短ければ、水温センサ42により検出される冷却水温度T_waterと、サーモスタット24を通過する冷却水の温度との差が広がる。具体的には、冷却水温度T_waterは、サーモスタット24を通過する冷却水の温度よりも高くなる。従って、アイドリング時間が短ければ短いほど、より多くの補正量を冷却水温度T_waterから差し引けば、該補正量を差し引いた後の冷却水温度T_waterは、サーモスタット24を通過する冷却水温度に近づく。他方で、アイドリング時間が長ければ長いほど、それほど多くの補正量を冷却水温度T_waterから差し引かなくとも、該補正量を差し引いた後の冷却水温度T_waterは、サーモスタット24を通過する冷却水温度に近づく。
このため、図10に示すグラフに基づいて、アイドリング時間に応じて定まる補正水温T_water_amendを、水温センサ42により検出される冷却水温度T_waterから差し引くことが好ましい。つまり、T_water−T_water_amendを、温度効率Φの算出の際に考慮される冷却水温度T_waterとして設定することが好ましい。
尚、図10に示すグラフは、アイドリング時間が短ければ短いほど、より大きな補正水温T_water_amendが設定され、他方で、アイドリング時間が長ければ長いほど、相対的に小さな補正水温T_water_amendが設定されるグラフを示している。
再び図4において、ステップS130において算出される増減量Te1と、ステップS140において算出される増減量Te2と、ステップS150において算出される増減量Te3とを、現在の外気温T_atmに加算した温度値が、現在のギア温度T_gearであると推定される(ステップS160)。
ここで、ステップS160において現在のギア温度T_gearを推定する際には、ステップS130において算出される増減量Te1と、ステップS140において算出される増減量Te2と、ステップS150において算出される増減量Te3とを、現在の外気温T_atmに加算するのみならず、ステップS110において推定された初期ギア温度T_gear0を更に考慮することが好ましい。この初期ギア温度T_gear0を考慮してギア温度T_gearを推定する際の動作について、図11を参照しながら説明する。ここに、図11は、初期ギア温度T_gear0を考慮してギア温度T_gearを推定する際の動作を概念的に示すグラフである。
図11(a)のグラフは、現在の外気温T_atmに加算される増減量Te1と増減量Te2と増減量Te3との和(つまり、Te1+Te2+Te3であって、図6、図7及び図8に示すグラフの和)を示す。現在の外気温T_atmと初期ギア温度T_gear0とが同一である場合には、図11(a)に示すグラフにより算出されるギア温度T_gearの増減値の和を現在の外気温T_atmに加算すれば、現在のギア温度T_gearを算出することができる。
他方で、現在の外気温T_atmと初期ギア温度T_gear0とが同一でない場合には、増減量Te1と増減量Te2と増減量Te3との和には、既に現在の外気温T_atmと初期ギア温度T_gear0との差分に相当する増減量が加味されている。従って、この場合には、図11(b)に示すように、増減量Te1と増減量Te2と増減量Te3との和の初期値(つまり、エンジン21を起動した直後の増減量)が、現在の外気温T_atmと初期ギア温度T_gear0との差分となるように、増減量Te1と増減量Te2と増減量Te3との和のグラフを補正する必要がある。但し、係る補正が行われた後であっても、エンジン21を起動してから一定時間が経過した後の増減量Te1と増減量Te2と増減量Te3との和の一定値は、T_maxのまま変わらない。つまり、増減量Te1と増減量Te2と増減量Te3との和の初期値が、現在の外気温T_atmと初期ギア温度T_gear0との差分としながら、増減量の和のエンジン21を起動してからの経過時間tに対する増加率を変える補正が行われる。
尚、増減量Te1と増減量Te2と増減量Te3との和のグラフを補正することに代えて、図6、図7及び図8が示すグラフのいずれか1つの初期値が現在の外気温T_atmと初期ギア温度T_gear0との差分となるように、該いずれか1つのグラフを予め補正しておいてもよい。或いは、図6、図7及び図8が示すグラフの少なくとも2つの初期値の和が現在の外気温T_atmと初期ギア温度T_gear0との差分となるように、該少なくとも2つのグラフを予め補正しておいてもよい。
続いて、図12及び図13を参照して、図2のステップS400における低温補正アシストトルクAT_lowの算出処理について説明する。ここに、図12は、低温補正アシストトルクAT_lowを算出する際のアシストトルクAT_low0を算出するために用いられるグラフであり、図13は、低温補正アシストトルクAT_lowを算出する際に、アシストトルクAT_low0に掛け合わせられるゲインAT_low_gainを算出するために用いられるグラフである。
まず、図12(a)に示すグラフに基づいて、補正用の基本アシストトルクAT_low_baseが算出される。具体的には、ステアリングホイール11のあそびを確保するために、操舵トルクMTが相対的に小さい場合には基本アシストトルクAT_low_baseが0として算出される。操舵トルクMTが所定の値MT1よりも大きくなった場合には、操舵トルクMTが大きくなるにつれてより大きい基本アシストトルクAT_low_baseが算出される。操舵トルクMTが所定の値MT2よりも大きくなった場合には、操舵トルクMTの大きさによっても変動しない一定値の基本アシストトルクAT_low_baseが算出される。
更に、図12(b)に示すグラフに基づいて、逆ダンピングに関する操舵フィーリングの悪化を防止するためのアシストトルクAT_low_dumpが算出される。具体的には、操舵速度(つまり、操舵角速度)dθが相対的に小さい場合にはアシストトルクAT_low_dumpが0として算出される。操舵速度dθが所定の値dθ1よりも大きくになった場合には、操舵速度dθが大きくなるにつれてより大きいアシストトルクAT_low_dumpが算出される。操舵速度dθが所定の値dθ2よりも大きくなった場合には、操舵速度dθの大きさによっても変動しない一定値のアシストトルクAT_low_dumpが算出される。
更に、図12(c)に示すグラフに基づいて、ハンドル戻りに関する操舵フィーリングの悪化を防止するためのアシストトルクAT_low_handlereturnが算出される。具体的には、操舵速度(つまり、操舵角速度)dθが相対的に小さい場合にはアシストトルクAT_low_handlereturnが0として算出される。操舵速度dθが所定の値dθ1よりも大きくなった場合には、操舵速度dθが大きくなるにつれてより大きいアシストトルクAT_low_handlereturnが算出される。操舵速度dθが所定の値dθ2よりも大きくなった場合には、操舵速度dθの大きさによっても変動しない一定値のアシストトルクAT_low_handlereturnが算出される。更に、操舵速度dθが所定の値dθ3よりも大きくなった場合には、操舵速度dθが大きくなるにつれてより小さいアシストトルクAT_low_handlereturnが算出される。更に、操舵速度dθが所定の値dθ4よりも大きくなった場合には、アシストトルクAT_low_handlereturnが0として算出される。
更に、図12(d)に示すグラフに基づいて、N戻しに関する操舵フィーリングの悪化を防止するためのアシストトルクAT_low_Nreturnが算出される。具体的には、操舵角θが相対的に小さい場合にはアシストトルクAT_low_Nreturnが0として算出される。操舵角θが所定の値θ1よりも大きくなった場合には、操舵角θが大きくなるにつれてより大きいアシストトルクAT_low_Nreturnが算出される。操舵角θが所定の値θ2よりも大きくなった場合には、操舵角θの大きさによっても変動しない一定値のアシストトルクAT_low_Nreturnが算出される。更に、操舵角θが所定の値θ3よりも大きくなった場合には、操舵角θが大きくなるにつれてより小さいアシストトルクAT_low_Nreturnが算出される。更に、操舵角θが所定の値θ4よりも大きくなった場合には、アシストトルクAT_low_Nreturnが0として算出される。
このように算出される基本アシストトルクAT_low_base、アシストトルクAT_low_dump、アシストトルクAT_low_handlereturn及びアシストトルクAT_low_Nreturnの和が、低温補正アシストトルクAT_lowを算出する際のアシストトルクAT_low0となる。つまり、AT_low0=AT_low_base+AT_low_dump+AT_low_handlereturn+AT_low_Nreturnとなる。
更に、図13に示すグラフに基づいて、図12(a)から図12(d)に基づいて算出されたアシストトルクAT_low0に掛け合わせられるゲインAT_low_gainが算出される。具体的には、図2のステップS100において推定されたギア温度T_gearが小さければ、算出されるゲインAT_low_gainの値は大きくなる。他方、図2のステップS100において推定されたギア温度T_gearが大きければ、算出されるゲインAT_low_gainの値は小さくなる。
尚、ゲインAT_low_gainの値がゼロになるときのギア温度T_gearの値は、図2におけるステップS200において用いた閾値T_thr1に相当する。
その後、図12(a)から図12(d)に基づいて算出されたアシストトルクAT_low0に、図13に示すグラフに基づいて算出されたゲインAT_low_gainを掛け合わせることで、低温補正アシストトルクAT_lowが算出される。つまり、AT_low=AT_low0×AT_low_gainとなる。
以上説明したように、本実施形態によれば、ギア温度T_gearが相対的に低い場合には、通常アシストトルクAT_usualに低温補正アシストトルクAT_lowが加算された操舵アシストトルクATが付与される。つまり、通常付与される通常アシストトルクAT_usualよりも大きな操舵アシストトルクATが付与される。従って、ギア部に塗布されるグリースの粘性が低下することに起因してギア部のプレロードが増加した場合であっても、該プレロードの増加を打ち消すような操舵アシストトルクATが付与される。従って、ドライバーに与える操舵フィーリングの悪化を防ぐことができる。
特に、低温補正アシストトルクAT_lowを算出する際に、ギア部のプレロードの増加によるダンピングの悪化や、ハンドル戻りの悪化や、N戻りの悪化を防止するためのアシストトルクも加味されている。従って、ドライバーに与える操舵フィーリングの悪化を、より好適に防止することができる。
ここで、ドライバーに与える操舵フィーリングの悪化の防止について、図14を参照して、より詳細に説明する。ここに、図14は、本実施形態に係る低温補正アシストトルクAT_lowを加算する場合におけるステアリングホイール11のトルクと、本実施形態に係る低温補正アシストトルクAT_lowが加算されない場合におけるステアリングホイール11のトルクとを、ギア温度T_gearと関連付けて示すグラフである。
図14に示すように、本実施形態に係る低温補正アシストトルクAT_lowを加算した場合(つまり、低温制御を行った場合)には、本実施形態に係る低温補正アシストトルクAT_lowを加算していない場合(つまり、低温制御を行っていない場合)と比較して、低温時におけるステアリングホイール11を操舵するためにドライバーに求められるトルクが減少している。このように、低温時のプレロードの増加を打ち消すように操舵アシストトルクATを付与することができるため、ドライバーに与える操舵フィーリングの悪化を防ぐことができる。
加えて、ギア温度T_gearを直接的に検出するセンサ等を設けることに代えて、既存のハードウェア構成により検出される各種パラメータ(つまり、回転数センサ41により検出される回転数Rや、水温センサ42により検出される水温T_waterや、車速センサ43により検出される車速Vや、外気温センサ44により検出される外気温T_atmや、電流センサ45により検出される電流Iや、ECU温度センサ46により検出されるECU温度T_ecu)を用いてギア温度T_gearを推定している。このため、本実施形態の構成を採用するための費用的なコストやスペース的なコストを低減することができる。
更に、ギア温度T_gearを推定する際に、ギア温度T_gearを増減させる各種要因(つまり、上述した外気温T_atm、電動モータ15の自己発熱、エンジン21からの輻射熱及びラジエータ22からの対流熱)を考慮しているため、ギア温度T_gearの推定精度を高めることができる。これにより、低温時に増加するプレロードを高精度に推定することができ、該増加するプレロードを好適に打ち消す操舵アシストトルクATを付与することができる。これにより、操舵フィーリングの悪化をより好適に防ぐことができる。
尚、低温時の操舵フィーリングの悪化を防止するという本実施形態に係る電動式パワーステアリング装置10の効果を十分に発揮するために、上述した閾値T_thr1は、ギア部に塗布されるグリース等の粘性が大きくなることに起因してギア部のプレロードが増加し始める温度に応じて適宜定められることが好ましい。例えば、ギア部に塗布されるグリースの粘性が大きくなることに起因してギア部のプレロードが増加し始めるときの温度を、閾値T_thr1として定めてもよい。或いは、ギア部に塗布されるグリースの粘性が大きくなることに起因してギア部のプレロードが一定量増加したときの温度を、閾値T_thr1として定めてもよい。
また、上述した冷却水温度T_waterは、必ずしも検出する必要はない。この場合、エンジン1の回転数Rから冷却水温度T_waterを推定し、該推定した冷却水温度T_waterを用いて、上述したギア温度T_gearの推定処理を行うように構成してもよい。
また、上述の実施形態では、ECU温度センサ46を用いてECU温度T_ecuを検出している。しかしながら、例えば、電動モータ15の温度を検出する温度センサが車両1に備え付けられている場合には、ECU温度T_ecuに代えて、該電動モータモータ15の温度をECU温度T_ecuとして用いるように構成してもよい。
また、上述の実施形態では、ラック同軸式の電動式パワーステアリング装置に対して本発明を適用した例について説明したが、ラック同軸式以外の方式(例えば、コラムアシスト式やラックアシスト式)の電動式パワーステアリング装置に対して本発明を適用しても、上述した各種効果を相応に享受することができる。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両転舵制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。