JP4629834B2 - 神経細胞賦活剤およびその利用 - Google Patents
神経細胞賦活剤およびその利用 Download PDFInfo
- Publication number
- JP4629834B2 JP4629834B2 JP2000180568A JP2000180568A JP4629834B2 JP 4629834 B2 JP4629834 B2 JP 4629834B2 JP 2000180568 A JP2000180568 A JP 2000180568A JP 2000180568 A JP2000180568 A JP 2000180568A JP 4629834 B2 JP4629834 B2 JP 4629834B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- acid
- activator
- sqdg
- nerve cell
- algae
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Lifetime
Links
Landscapes
- Coloring Foods And Improving Nutritive Qualities (AREA)
- Saccharide Compounds (AREA)
- Pharmaceuticals Containing Other Organic And Inorganic Compounds (AREA)
- Medicines Containing Plant Substances (AREA)
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、脳神経細胞の賦活剤およびその利用に関する。より詳しくは、神経細胞の分化を促進し、神経細胞の障害に対して保護作用を有する神経細胞賦活剤、該賦活剤を配合してなる医薬用組成物および食用組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、脳神経細胞の細胞死をともなう疾病に対し、直接その細胞を賦活することにより前記疾病を予防あるいは治療する薬剤は広く探索されているが、実用上有効な薬剤は未だ見い出されていない。このため、外傷、代謝性の要因、脳虚血、パーキンソン病またはダウン症等によって生じる脳神経細胞障害の治療薬及び予防効果のある機能性食品の開発が切望されている。
【0003】
わが国では人口の高齢化スピードが速くなるにつれて痴呆高齢者が増えており、とりわけアルツハイマー型痴呆が急増している。アルツハイマー型老年痴呆においては、大脳基底核神経細胞であるアセチルコリン作動性神経細胞の変性および脱落が、学習・記憶力や知的活動能力の低下の要因として深く関わっていることが示唆されている(Science,Vol.215,12,p37,1982)。神経成長因子(NGF)は、繊維切断によるアセチルコリン作動性神経細胞の変性および脱落を抑制すること(Neuroscience Lett.Vol.66,p175,1986)、また、老齢ラットの迷路学習障害を改善すると共にアセチルコリン作動性神経細胞の萎縮を抑制することが報告されている。さらに、NGFは脳虚血スナネズミの海馬神経細胞の脱落を防ぐことも確かめられており、脳卒中による後遺症の治療薬としても有用であると考えられる。
【0004】
これに関連して、神経突起の伸展作用やβ−アミロイド蛋白により惹起される神経細胞のアポトーシスを阻害する作用を有するものとしてイリドイド化合物、トリテルペノイドサポニン類、ガングリオシド等が知られている。
【0005】
一方、高等植物や藻類の組織に存在する糖脂質については、その生理活性面では解明されていない部分が多く、報告類も少ないのが実情である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、脳神経細胞の細胞死をともなうことなく該細胞の増殖能を抑制し、かつ分化誘導を促進させ得る神経細胞賦活剤、およびこれを利用した医薬用組成物ならびに食用組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために、種々の海苔、藻類や陸生植物に存在する糖脂質についてラット副腎髄質褐色細胞腫由来の神経系樹立細胞であるPC12細胞の増殖抑制能および分化誘導促進作用に対する影響を検討したところ、スルホキノボシルジアシルグリセロール(以下、SQDGと略す)がNGF機能の増強効果さらにはβ−アミロイドに起因する神経細胞死の抑制効果を奏することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、次に示す式(I)
【0009】
【化2】
(ただし、式(I)においてR1およびR2は炭素数が14〜22であり、二重結合の数が0〜6の脂肪酸のアルキル残基またはアルケニル残基である。)
で表されるSQDGを有効成分としてなる脳神経細胞賦活剤によって前記課題を解決できる。
【0010】
本発明に係るSQDGにおいて、これを構成する脂肪酸残基としては上記の式(I)のなかのR1がアラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸からなる群から選ばれる1種または2種以上の多価不飽和脂肪酸を含む脂肪酸のアルキル残基またはアルケニル残基であり、R2がミリスチン酸および/またはパルミチン酸を含む脂肪酸のアルキル残基またはアルケニル残基であることが望ましい。
【0011】
また、本発明に係るSQDGは天然物由来のものでも化学合成したものでもさしつかえないが、例えば、藍藻類、紅藻類、褐藻類または緑藻類に属する藻類を原料として、これから有機溶剤を用いて抽出して得られるものを適宜に精製処理を施して用いることが好ましい。
【0012】
なお、本発明の脳神経細胞賦活剤においては、脳神経細胞に関する賦活作用が脳神経細胞の外傷性要因による障害、代謝性要因による障害、β−アミロイド蛋白質による障害または脳虚血性要因による障害を予防する作用あるいは治癒する作用であるものを対象にするのがよい。
【0013】
さらに、本発明によれば、前記の脳神経細胞賦活剤を有効成分として配合してなる医薬用組成物または食用組成物によって前記課題を解決できる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるSQDGはグリセロール骨格の1位もしくは2位に炭素数14〜22の飽和脂肪酸ならびに不飽和脂肪酸を構成脂肪酸として有する。飽和脂肪酸の主なものはミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等であり、不飽和脂肪酸の主たるものはパルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸(ω3)、オクタデカテトラエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等を例示できる。なお、本発明において、SQDGはそのナトリウム塩やカリウム塩等の薬学的に許容され得る塩を対象に含むものとする。
【0015】
グリセロール骨格の1位および2位の構成脂肪酸の種類はとくに限定されるものではないが、前記の式(I)において、R1はアラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸からなる群から選ばれる1種または2種以上の多価不飽和脂肪酸を主体に含む脂肪酸のアルキル残基またはアルケニル残基であり、かつR2はミリスチン酸および/またはパルミチン酸を主体として含む脂肪酸のアルキル残基またはアルケニル残基であるものが望ましい。
【0016】
なお、本発明に用いるSQDGを天然物から採取するには、原料として藍藻類(Anabaena variabilis、Anacystis nidulans、Spirulina platensis:スピルリナ等)、紅藻類(Porphyra yezoensis:スサビノリ、Gelidium amansii:マクサ、Gigartina tenella:スギノリ、Gracilaria verrucosa:オゴノリ等)、褐藻類(Undariapinnatifida:ワカメ、Hizikia fusiformis:ヒジキ、Laminaria japonica:マコンブ、Sargassum horneri:アカモク等)または緑藻類(Chlamidomonassp.:クラミドモナスの一種、Enteromorpha sp.:アオサの一種、Chlorella sp.:クロレラ等)に属する藻の藻体を用いるのが好適である。また、ホウレンソウや大麦の葉等の陸生植物を原料としてもさしつかえない。
【0017】
これらの藻類から得られるSQDGの構成脂肪酸は、1位が多価不飽和脂肪酸を主成分とし、2位が飽和脂肪酸を主成分とするものが多い。本発明ではこのようなタイプのものが好ましい。例えば、紅藻類のアマノリ属スサビノリの場合、その構成脂肪酸は1位にエイコサペンタエン酸、2位にパルミチン酸がそれぞれ多く存在する(Jap.J.Phycol.,Vol.34,p94,1986)。紅藻類のオゴノリ属オゴノリの場合は、1位にアラキドン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸が主として存在し、2位にパルミチン酸が多く存在する(Hydrobiol.,Vol 204/205,p513,1990)。
紅藻類のツノマタ属ツノマタでは、1位にミリスチン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸を、2位にパルミチン酸を主成分として含む。ヒジキ、ワカメなどの褐藻類では、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が多く、また、エイコサペンタエン酸やアラキドン酸も存在する(Plant Cell Physiol,Vol.32,p623,1991)。
【0018】
本発明に用いられるSQDGは、以下のようにして調製することができる。すなわち、前記原料を適宜に細断ないしは粉砕し、ヘキサン、クロロホルム、アセトン、メタノール、エタノール等の脂質成分抽出用有機溶媒を用いて抽出処理し、該抽出液から溶媒を除去して全脂質を得る。ついで、シリカゲル、アルミナ、セファデックス、逆相吸着剤(オクタデシルシリル化シリカゲル等)、イオン交換樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーで分画処理して濃縮画分を採取し、さらに必要に応じて濃縮精製し、最終的には薄層クロマトグラフィーにより精製処理して目的物であるSQDGを調製することができる。本発明では、かくして得られる適当な純度のSQDG含有物をそのまま神経細胞賦活剤として使用できる。あるいは、デンプン、デキストリン、セルロース等の公知の賦形剤を混合、成形して本発明の賦活剤となすことも可能である。
【0019】
前述のSQDGを有効成分としてなる本発明の神経細胞賦活剤は、脳神経細胞を賦活し、細胞死を誘発することなくその増殖を抑制して分化を促進する。すなわち、神経細胞賦活因子として代表的なNGFは、PC12細胞を刺激して神経細胞様に分化せしめ、神経突起を伸展させる作用を有するが、本発明のSQDG含有賦活剤はNGFの共存下においてPC12細胞を神経細胞様に分化せしめ、神経突起を伸展させる作用が顕著である。
【0020】
また、SQDGを有効成分としてなる本発明の賦活剤は脳神経細胞の外傷性要因、代謝性要因、β−アミロイド蛋白質、脳虚血性要因等の種々の要因による障害に対して予防作用あるいは治癒作用を有する。この一例として、β−アミロイド蛋白質の活性部位を抜き出したモデルペプチドであるβ25−35が惹起する神経細胞への細胞毒性を濃度依存的に軽減する。なお、β−アミロイド蛋白質は、アルツハイマー病患者の脳に沈着するアミロイドを構成する蛋白質であり、アルツハイマー病の原因の一つであると考えられている(「医学のあゆみ」、Vol.174,p614−618,1995)。このことから、本発明のSQDG含有賦形剤は、β−アミロイド蛋白質の毒性に起因する脳神経細胞の障害に対しても保護作用を有することが明らかとなった。
【0021】
次に、本発明の神経細胞賦活剤を配合してなる医薬用組成物および食用組成物について説明する。SQDGを有効成分としてなる本発明の前記賦活剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜に選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤があげられる。投与量は、通常、成人でSQDGの重量として1日あたり20〜600mgを数回に分けて服用するのが適当である。
【0022】
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中のSQDGの配合量は特に限定されるものではなく適宜設計できる。この種の製剤には本発明の賦活剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
【0023】
ここに、結合剤としてデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等を例示できる。崩壊剤としてはデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等を例としてあげることができる。界面活性剤の例としてラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等をあげることができる。滑沢剤では、タルク、ロウ類、水素添加植物油、蔗糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等を例示できる。流動性促進剤では、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を例としてあげることができる。また、SQDGは懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
【0024】
非経口剤として本発明の所望の効果を発現せしめるには、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、通常、成人でSQDGの重量として1日あたり1〜60mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。この非経口投与剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール等を用いることができる。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。さらに必要に応じて、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤を加えてもよい。これら製剤中のSQDGの配合量は特に限定されるものではなく任意に設定できる。その他の非経口剤の例として、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等があげられ、これらも常法に従って製造される。
【0025】
本発明の他の組成物の好適な態様は食用組成物である。すなわち、前述のようにして得られるSQDGを有効成分としてなる脳神経細胞賦活剤は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
【0026】
これらの食品類あるいは食用組成物における本発明の神経細胞賦活剤の配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により一律に規定しがたいが、約0.01〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%である。配合量が0.01重量%未満では経口摂取による所望の効果が小さく、50重量%を超えると食品の種類によっては風味を損なったり当該食品を調製できなくなる場合がある。なお、本発明の神経細胞賦活剤は、これをそのまま食用に供してもさしつかえない。
【0027】
本発明の医薬用組成物および食用組成物は、脳神経細胞の障害を予防あるいは治癒をねらいとして利用するものであれば、それを使用する上で何ら制限を受けることなく適用されるが、とりわけ外傷性脳神経細胞障害、代謝性の要因による脳神経細胞障害、脳虚血性脳神経細胞障害、パーキンソン病またはダウン症による脳神経細胞障害等の治癒に対して有効である。また、これらの疾患の予防措置の手段としても使用することが可能である。
【0028】
実施例1
スサビノリの乾燥物(約3g)を細断し、クロロホルム/メタノール(1:1,v/v、以下とくに断らないかぎり同様。)100mlを加え、ホモジナイザー中で室温下15分間抽出処理を行った。同様の操作をさらに2回繰り返し、抽出液を集め、細かい抽出残渣を濾過して除去した後、分液漏斗に移し、Bligh−Dyer法に従ってクロロホルム層と水−メタノール層とに分離した。クロロホルム層を採り、減圧下で濃縮、乾固して乾固物を得た(抽出量54mg、収率1.8%)。この乾固物を少量のクロロホルム/メタノール(1:4)に溶解させ、これを脂質の粗抽出液とした。
【0029】
実施例2
実施例1において、クロロホルム/メタノール(1:1)100mlに代えてヘキサン/エタノール(1:1)60mlを用い、50℃にて2時間抽出処理することを除いて同様に処理し、抽出乾固物(抽出量35mg、収率1.2%)を得た。この乾固物を少量のクロロホルム/メタノール(1:4)に溶解させ、脂質の粗抽出液とした。
【0030】
実施例1−1
1M酢酸ナトリウム水溶液で酢酸型としてメタノールに懸濁させたDEAE−Toyopeal(東ソー社製)を内径10mmのガラスカラムに約50mmの高さに充填し、クロロホルム/メタノール(1:4)100mlで前記カラムを洗浄した。これに実施例1に記載の方法で2バッチ処理して得た粗抽出液を添加し、クロロホルム/メタノール(1.4)100mlで溶出させフラクション1を得た。次に、5M酢酸アンモニウム水溶液0.5mlを添加したクロロホルム/メタノール(1:4)100mlで溶出させフラクション2を得た。
【0031】
実施例1−2
イアトロビーズ(Iatron Lab.社製)をメタノール懸濁させ内径10mmのガラスカラムに約50mmの高さに充填し、50mlのメタノールと50mlのクロロホルムで順次カラムを洗浄した。濃縮・乾固した実施例1−1で得たフラクション1の濃縮乾固物をクロロホルムに溶解させ、前記イアトロビーズカラムに添加した。まず、クロロホルム/アセトン(20:5)50mlで溶出させフラクション3を得た。ついで、アセトン100mlさらにメタノール50mlを流し、順次カラム内に残留する脂質を溶出させ、アセトン溶出画分(フラクション4)およびメタノール溶出画分(フラクション5)を得た。
【0032】
実施例1−3
実施例1−1および1−2で得たフラクション2〜5の各画分を減圧下で濃縮し、少量のクロロホルム/メタノール(1:1)に溶解させ、これを脂質類の分析用試料とした。各分析用試料を薄層クロマトグラフィー(TLC)に供して同定を行った。なお、TLCの展開溶媒の組成は、
フラクション2:クロロホルム/アセトン/メタノール/酢酸/水=50:20:10:15:5、フラクション3:ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸=80:20:0.5、フラクション4および5:クロロホルム/メタノール/水=70:21:3であった。
各フラクションに含まれる脂質の組成は次のとおりであった。
フラクション2:ホスファチジルグリセロール(PG)、SQDG、微量のホスファチジン酸(PA)およびホスファチジルイノシトール(PI)。
フラクション3:トリアシルグリセロール(TG)、微量の未同定物質。
フラクション4:モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)、ジガラクトシルジアシルグリセロール(DGDG)。
フラクション5:ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、微量の未同定物質。
【0033】
以上の実験を定量化して行い、その結果から、原料(スサビノリ乾燥物)中の脂質成分の組成を求めたところ、MGDG:10.5%、DGDG:25.4%、PG:21.5%、SQDG:17.0%、PC:15.7%、PE:微量、TG:3.0%、その他:6.8%であった。
【0034】
実施例3
実施例1−3で得たフラクション2のTLCプレートからSQDGに相当するスポットをかきとり、クロロホルム/メタノール(1:1)に溶解させ、濾過および溶媒除去してほぼ純品のSQDGを得た。ついで、これを常法により塩酸加水分解処理、またはリゾプス デレマー(Rhizopus delemar)由来のリパーゼ(シグマ社製試薬)を用いて酵素加水分解処理して、前者からSQDGの1位および2位の構成脂肪酸、後者から1位の構成脂肪酸を遊離せしめた。各々のメチルエステル化処理を経てガスクロマトグラフィー(GLC)分析に供した。この結果、SQDGの1位を構成する主な脂肪酸はエイコサペンタエン酸.91.0%、アラキドン酸:1.8%、パルミチン酸:4.6%であり、2位の主な構成脂肪酸はパルミチン酸:92.5%、オレイン酸:2.8%であった。
【0035】
実施例4
神経細胞のモデル細胞であるPC12細胞は、ラット副腎髄質由来褐色細胞腫より樹立された細胞株(親クロム細胞腫細胞)であり、神経成長因子(NGF)に応答して神経突起を伸展し、神経細胞様に分化する。そこで、このPC12細胞(ドイツ・マックスプランク研究所から分譲)をT−25培養フラスコ中で静置培養し、SQDGの神経突起伸展作用、すなわち分化誘導能を検討した。培養液はRPMI1640培地に10%(v/v)馬血清と5%(v/v)牛胎児血清を含み、37℃、5%二酸化炭素混有空気中でpH7.2〜7.4に保った。SQDG(実施例3記載の方法により調製)は、ジメチルスルホキシドに溶解し、ミリポアフィルター(0.2μm)にて濾過滅菌後、PC12細胞培養液に終濃度10μMを添加した。 分化誘導の陽性対照には、NGF(シグマ社製試薬)をリン酸緩衝液に溶解させ終濃度100ng/mlを添加し、SQDG単独及びNGFとSQDG共存下での分化誘導への影響を4日間光学顕微鏡により形態観察を行った。なお、分化誘導は細胞体の長径より長い突起を形成したものを陽性と判断した。この結果を表1に示す。同表中の記号は、培養4日後の神経突起形成状態について−:なし、+:あり、++および+++:顕著にありを意味する。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示したデータから、NGFで神経突起の伸展が見られたが、SQDG単独では細胞形態の桿状化が観察されたものの神経突起の明確な伸展作用は観察されなかった。しかし、NGFとSQDGの共存により、NGFの神経突起形成は顕著に促進されることが明らかになった。
【0038】
実施例5
アルツハイマー病における神経細胞死の原因物質の1つにβ−アミロイド蛋白質(42アミノ酸残基)の関与が明らかになっている。本実施例では、β−アミロイドペプチドの強毒性フラグメント(β−アミロイドの25残基から35残基の11残基ペプチド、以下β25−35と略す)を用いて、神経細胞のモデル細胞に対する細胞死誘導とそれに対するSQDGの防衛効果を検討した。ポリオルニチンで細胞接着面に処理を施した96ウェルプレートでPC12細胞(実施例4と同じ)を培養し、β25−35(大阪ペプチド研究会より入手)およびSQDG(実施例4と同じ)を各単独あるいは同時添加した。2日間培養後培養上清中に細胞内から漏出する乳酸脱水素酵素(LDH)活性を測定し、細胞死の指標とした。この結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2に示したデータから、SQDG単独の添加は対照群(無添加群)と比較して有意な差は認められなかったが、β25−35添加群は対照群と比較して著しい細胞死が誘導された。また、β25−35とSQDGの同時添加群では細胞死が防御され、SQDGはβ−アミロイドペプチドの強毒性フラグメントであるβ25−35のPC12細胞に対する毒性を軽減させることが判明した。
【0041】
実施例6
実施例3に記載の方法により調製したほぼ純品のSQDG150mg、精製大豆油125mg、ミツロウ15mgおよびビタミンE10mgを窒素ガス雰囲気下で約40℃に加温し、十分に混合して均質な液状物とした。これをカプセル充填機に供給して1粒内容量300mgのゼラチン被覆カプセル製剤を試作した。
この製剤は医薬用組成物または食用組成物として利用できるものである。
【0042】
実施例7
海苔を原料として食用味付け焼き海苔を製造する方法において、採取したアサクサノリおよびスサビノリを篩付き木製型枠に流し込んですき、乾燥機中で約50℃にて2時間乾燥し、さらにトンネル型ヒーターで150〜180℃にて6〜7秒間加熱処理して焼き海苔をつくった。別に、味付け用タレとして塩5.0kg、調味料2.0kg、砂糖8.6kg、唐辛子0.3kg、醤油2.0リットル、みりん1.8リットル、水6.0リットルの混合液に加えて実施例2に記載の方法により調製した抽出乾固物250gを配合して均質化したものを作成し、このタレを前記焼き海苔に塗布し乾燥して本発明の味付け焼き海苔を試作した。このものは、市販の味付け焼き海苔と比較して外観、風味および食感のいずれにおいても孫色なく、健康の維持増進を訴求する食品として利用できるものであった。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、脳神経細胞に対して賦活作用および保護作用を示し、外傷、代謝性の要因、脳虚血、β−アミロイド蛋白質、パーキンソン病およびダウン症等による脳神経細胞障害に対する予防および治癒に極めて有用なSQDGを有効成分としてなる神経細胞賦活剤が提供される。該賦活剤は神経成長因子(NGF)と併用することにより、神経細胞の分化誘導を顕著に促進し、相乗的な神経突起形成能を発現させる機能を有する。また、本発明によれば、前記機能を有する神経細胞賦活剤を配合してなる医薬用組成物および食用組成物が提供され、これらの組成物は脳神経細胞の障害に対する予防あるいは治療のための手段として活用され得る。
Claims (5)
- 次に示す式(I)
- 上記の式(I)において、R1がアラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸からなる群から選ばれる1種または2種以上の多価不飽和脂肪酸を含む脂肪酸のアルキル残基またはアルケニル残基であり、R2がミリスチン酸および/またはパルミチン酸を含む脂肪酸のアルキル残基またはアルケニル残基である請求項1に記載の賦活剤。
- 上記の式(I)で表されるスルホキノボシルジアシルグリセロールが藍藻類、紅藻類、褐藻類または緑藻類に属する藻類の藻体を原料とし、これから溶剤抽出されるものである請求項1または2に記載の賦活剤。
- 脳神経細胞に対する賦活作用が脳神経細胞の外傷性障害、代謝性要因による障害、β−アミロイド蛋白質による障害または脳虚血性障害を予防あるいは治癒する作用である請求項1〜3のいずれか1項に記載の賦活剤。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の脳神経細胞賦活剤を有効成分として配合してなる医薬用組成物。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2000180568A JP4629834B2 (ja) | 2000-05-12 | 2000-05-12 | 神経細胞賦活剤およびその利用 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2000180568A JP4629834B2 (ja) | 2000-05-12 | 2000-05-12 | 神経細胞賦活剤およびその利用 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2001322935A JP2001322935A (ja) | 2001-11-20 |
JP4629834B2 true JP4629834B2 (ja) | 2011-02-09 |
Family
ID=18681627
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2000180568A Expired - Lifetime JP4629834B2 (ja) | 2000-05-12 | 2000-05-12 | 神経細胞賦活剤およびその利用 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP4629834B2 (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2002338474A (ja) * | 2001-05-23 | 2002-11-27 | Bizen Chemical Co Ltd | カスパーゼ阻害剤 |
Families Citing this family (8)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2006083019A1 (ja) * | 2005-02-03 | 2006-08-10 | National University Corporation Nagoya University | アミロイドβ蛋白凝集制御剤、アミロイドβ蛋白異常診断薬及びアミロイドβ蛋白異常診断薬キット |
JP2009502745A (ja) * | 2005-07-08 | 2009-01-29 | マーテック バイオサイエンシーズ コーポレーション | 認知症および前認知症に関連した状態を治療するための多価不飽和脂肪酸 |
JP2007230945A (ja) * | 2006-03-02 | 2007-09-13 | Nagase & Co Ltd | 神経突起伸長剤 |
KR101851402B1 (ko) * | 2012-04-03 | 2018-04-23 | 부경대학교 산학협력단 | 신경세포구축의 발달 및 복잡성을 촉진하는 해양 조류 우뭇가사리의 에탄올 추출물, 및 이의 제조방법 |
CN105131055B (zh) * | 2015-08-18 | 2018-02-13 | 四川大学 | 一种制备硫代异鼠李糖甘油二酯的方法 |
JP6961236B2 (ja) * | 2018-10-12 | 2021-11-05 | マイクロアルジェコーポレーション株式会社 | 神経成長因子発現促進用組成物 |
JP6961237B2 (ja) * | 2018-10-12 | 2021-11-05 | マイクロアルジェコーポレーション株式会社 | 脳由来神経栄養因子発現促進用組成物 |
JP2020158476A (ja) * | 2019-03-28 | 2020-10-01 | 御木本製薬株式会社 | アミロイド線維形成阻害剤 |
Family Cites Families (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP4454051B2 (ja) * | 1997-01-24 | 2010-04-21 | 東洋水産株式会社 | 新規な糖脂質、その製造方法及びその用途 |
-
2000
- 2000-05-12 JP JP2000180568A patent/JP4629834B2/ja not_active Expired - Lifetime
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2002338474A (ja) * | 2001-05-23 | 2002-11-27 | Bizen Chemical Co Ltd | カスパーゼ阻害剤 |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JP2001322935A (ja) | 2001-11-20 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
CN102762573B (zh) | 用于在神经退行性障碍中保护脑部健康的化合物、组合物和方法 | |
KR101840508B1 (ko) | 피부 미용 촉진제 및 그의 이용 | |
KR20030095228A (ko) | 혈관 관련 질환의 예방 또는 치료를 위한 조성물 | |
JP2008531584A (ja) | マタタビ属を含む組成物およびそれを用いる方法 | |
KR20180003073A (ko) | 새싹보리 추출물을 포함하는 비만 치료 또는 예방용 조성물 | |
EP3064200A1 (en) | Composition comprising natural substances and/or extracts | |
JP4629834B2 (ja) | 神経細胞賦活剤およびその利用 | |
KR20150055876A (ko) | 체지방 감소 또는 체중 감소를 위한 조성물 | |
CN1280498A (zh) | 葡萄提取物的膦脂复合物作为抗动脉粥样硬化剂的应用 | |
JP5071618B2 (ja) | 外分泌腺の機能障害改善剤及び機能障害改善用飲食物 | |
TWI790238B (zh) | 含有葉黃素類或其鹽及菱屬植物加工物之腦之錐體細胞的減少抑制劑 | |
JP3911427B2 (ja) | 新規セスキテルペン系化合物、その製造方法及び組成物 | |
JP4506079B2 (ja) | 血管新生阻害剤 | |
JP4913289B2 (ja) | カスパーゼ阻害剤 | |
CN107106621B (zh) | 包含大花马齿苋提取物或其馏分作为活性成分用于预防或治疗神经炎症或者神经退行性疾病的药物组合物 | |
JP4681801B2 (ja) | 血管新生阻害剤およびその製造方法 | |
JP4744297B2 (ja) | 糖脂質含有組成物、その用途およびその製造方法 | |
JP2005272355A (ja) | 脳機能改善剤 | |
CN109364202A (zh) | 一种组合物及其制备方法和应用 | |
JP3988833B2 (ja) | 新規セスキテルペン系化合物、その製造方法及び組成物 | |
KR20180128781A (ko) | 콜라비론의 제조방법 | |
KR101918526B1 (ko) | 초석잠 및 멸치 혼합물을 유효성분으로 함유하는 인지기능 또는 기억능력 개선용 조성물 | |
JP2007269800A (ja) | 新規セスキテルペン系化合物を含有する食品組成物 | |
JP2000086425A (ja) | 美白剤およびこれを配合してなる美白用組成物 | |
CN107281244A (zh) | 紫锥菊提取物在制备防治老年性痴呆药物中的应用 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821 Effective date: 20070220 |
|
A621 | Written request for application examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621 Effective date: 20070220 |
|
RD02 | Notification of acceptance of power of attorney |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7422 Effective date: 20070220 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20070313 |
|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20100804 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20101001 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20101029 |
|
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20101112 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20131119 Year of fee payment: 3 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Ref document number: 4629834 Country of ref document: JP Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
S111 | Request for change of ownership or part of ownership |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313117 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R350 | Written notification of registration of transfer |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
R250 | Receipt of annual fees |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250 |
|
EXPY | Cancellation because of completion of term |