本発明の実施の一形態について、本発明に関連する参考の実施の形態を含めて図1ないし図8に基づいて説明すれば、以下の通りである。
図1(a)は、電圧無印加状態(OFF状態)における本実施の形態にかかる表示素子の要部の概略構成を模式的に示す断面図であり、図1(b)は電圧印加状態(ON状態)における本実施の形態にかかる表示素子の要部の概略構成を模式的に示す断面図である。
図1(a)・(b)に示すように、本実施の形態にかかる表示素子は、互いに対向して配置された、少なくとも一方が透明な一対の基板(以下、画素基板11および対向基板12と記す)を備え、これら一対の基板間に、光学変調層として、電界の印加により光学変調する媒質(以下、媒質Aと記す)からなる媒質層3が挟持されているセル構造を有している。
また、上記画素基板11および対向基板12は、図1(a)・(b)に示すように、媒質保持手段(光学変調層保持手段)としての基板1・2をそれぞれ有し、これら一対の基板1・2の外側(画素基板11および対向基板12の外側)、つまり、これら両基板1・2の対向面とは反対側の面に、偏光板6・7がそれぞれ設けられている構成を有している。
上記一対の基板1・2のうち、少なくとも一方の基板は透光性を有する、例えばガラス基板等の透明な基板からなり、これら一対の基板1・2のうち、一方の基板1における他方の基板2との対向面上には、図1(a)・(b)に示すように上記基板1に略平行な電界(横向きの電界)を上記媒質層3に印加するための電界印加手段である電極4・5が互いに対向配置されている。
上記電極4・5は、例えばITO(インジウム錫酸化物)等の透明電極材料等の電極材料からなり、本実施の形態では、例えば線幅5μm、電極間距離(電極間隔)5μm、厚み0.6μmに設定されている。但し、上記電極材料並びに線幅、電極間距離、および厚みは単なる一例であり、これに限定されるものではない。上記電極4・5の一例としては、上記媒質層3を印加するとともに、媒質層3の媒質Aを光学変調させることが可能であれば、特に限定されるものではないが、例えば、上記基板1に略平行な電界(横向きの電界)を上記媒質層3に印加する電極が挙げられる。
以下、電極4・5の電極構造の一例を図2を参照にして説明する。図2は、本発明の実施の表示素子における電極4・5の構造と偏光板吸収軸との関係を説明する図である。
電極4・5は、櫛歯部分4a・5aが楔型形状を有し、かつ、互いに噛み合う方向に対向配置された櫛形電極である。「楔形形状」とは、櫛歯部分4a・5aが、所定の角度αで折れ曲がった形状のことをいう。また、櫛歯部分4a・5aは、図2に示すように、楔型形状を複数有した形状でもよい。このように、楔型形状を複数有する形状の一例としては、鋸歯形状が挙げられる。
ここでいう「櫛形電極」とは、複数の電極(櫛歯部分)4aが、1つの電極(櫛根部分)4bから、その長手方向に対して所定の方向に伸長した電極のことをいう。また、「鋸歯形状」とは、図2に示すように、櫛歯部分が、櫛根部分4bの長手方向に対して遠ざかる方向に、角度αで交互に折れ曲がりながら伸長した形状のことをいう。
図2に示すように、電極4は、櫛歯部分4aと櫛根部分4bとからなる。櫛歯部分4aは、櫛根部分4bの長手方向に対して遠ざかる方向に、交互に折れ曲がりながら伸長している。また、櫛歯部分4aは、鋸歯成分4c及び鋸歯成分4dが構成する鋸歯単位4eが連続して伸長した構成になっている。この鋸歯単位4eは、鋸歯成分4cと鋸歯成分4dとが角度αの角度をなすように折れ曲がった構成である。そして、電極4の櫛歯部分4aにおいては、櫛根部分4bの長手方向に対して遠ざかる方向に、等間隔で交互に折れ曲がりながら伸長した構成になっている。
また、電極5における櫛歯部分5aも、電極4における櫛歯部分4aと同様に、鋸歯成分5c及び鋸歯成分5dが構成する鋸歯単位5eが連続して伸長した構成になっており、鋸歯単位5eにおける鋸歯成分5cと鋸歯成分5dとが、角度αの角度をなすように折れ曲がった構成である。
上記電極4及び5における角度αは、90度±10度未満であることが好ましく、90度±5度未満であることがより好ましく、90度であることが最も好ましい。
また、図2に示すように、電極4と電極5とは、それぞれの櫛歯部分4aと櫛歯部分5aとが噛み合うように対向配置されている。すなわち、電極4と電極5とは、櫛歯部分4aにおける鋸歯成分4c及び鋸歯成分4dが、各々櫛歯部分5aにおける鋸歯成分5c及び鋸歯成分5dと平行になるように、対向配置されている。それゆえ、電極4・5に電圧を印加すると、電界印加方向が互いに異なる2つの電界が形成される。すなわち、鋸歯成分4cと鋸歯成分5cとの間の電界(図2の電界印加方向45c)、及び、鋸歯成分4dと鋸歯成分5dとの間の電界(図2の電界印加方向45d)が形成される。
また、上記の鋸歯単位4e、及び、鋸歯単位5eは、その形状から、「く」の字型形状を有しているとも言える。それゆえ、上記「鋸歯形状」は、鋸歯単位に相当する「く」の字成分が、櫛根部分の長手方向に対して遠ざかる方向に伸長した形状であるともいえる。また、「櫛歯部分が鋸歯形状」とは、櫛歯部分が「く」の字型形状を有するジグザグ線の形状であるともいえる。
また、上記の鋸歯単位4e、及び、鋸歯単位5eは、その形状から、「v」の字の形状を有しているとも言える。それゆえ、上記「鋸歯形状」は、鋸歯単位に相当する「v」の字成分が、櫛根部分の長手方向に対して遠ざかる方向に伸長した形状であるともいえる。また、「櫛歯部分が鋸歯形状」とは、櫛歯部分が「v」の字型形状を有するジグザグ線の形状であるともいえる。
また、図2に示すように、電界印加方向45cと電界印加方向45dとは互いに垂直である。このため、媒質Aの光学異方性の方向が互いに直交する(90度の角度をなす)媒質ドメインが存在し、表示素子において、各媒質ドメインにおける斜め視角の色つき現象を互いに補償しあうことが可能になる。
また、本実施の形態では、両基板1・2にそれぞれ設けられた偏光板6・7は、図2に示すように、互いに偏光板吸収軸方向が直交するように配置されているとともに、各偏光板6・7における偏光板吸収軸6a・7aは、電極4・5により形成される、上述の2方向の電界印加方向45c・45dに対して45度の角度をなしている。
このように、基板1に設けられた電極4・5は、その電界印加方向が、少なくとも2方向になるように設けられている。電界印加方向が少なくとも2方向存在することで、媒質層3で、媒質Aの光学的異方性の方向が異なる媒質ドメインが存在する。このため、上記表示素子において視野角特性が向上するという効果を奏する。また、上記少なくとも2方向の電界印加方向が互いに垂直になるように、電極4・5が設けられている場合、媒質Aの光学異方性の方向が互いに直交する(90度の角度をなす)媒質ドメインが存在する。このため、表示素子において、各媒質ドメインにおける斜め視角の色つき現象を互いに補償しあうことが可能になる。したがって、透過率を損なうことなく、視野角特性をより向上させることができる表示素子を実現できる。また、媒質Aの光学異方性の方向が互いに直交し、かつ、上記偏光板6・7の偏光板吸収軸6a・7aとの角度が45度の角度をなすように配置されている場合、斜め視角の色付き現象の補償度が増し、視野角特性をさらに向上させる表示素子を実現できる。
さらに、上記基板1における基板2との対向面上、つまり、上記画素基板11における対向基板12との対向面表面には、ラビング処理が施された配向膜8(誘電体薄膜)が、上記電極4・5を覆うように、上記基板1における基板2との対向面全面に渡って形成されている。
また、上記基板2における基板1との対向面上、つまり、上記対向基板12における画素基板11との対向面表面にも、ラビング処理が施された配向膜9(誘電体薄膜)が、上記基板2における基板1との対向面全面に渡って形成されている。
上記配向膜8・9は、そのラビング方向が、上記偏光板6・7の吸収軸6a・7aのうち何れか一方の偏光板吸収軸と一致するように、上記ラビング処理として、配向処理方向が基板面内方向の水平ラビング処理(水平配向処理)が施されている。
本実施の形態にかかる表示素子において、媒質層3は、図1(b)に示すように電界印加方向に配向秩序度が上昇することにより光学的異方性が発現し、透過率が変化するシャッタ型の表示素子として機能し得る。したがって、互いに直交する偏光板吸収軸方向に対して、その異方性方向は、45度の角度をなす時に最大透過率を与える。なお、媒質Aの光学的異方性が発現する方位が、偏光板吸収軸にそれぞれ±θ(度)の角度に存在するとしたときの透過率(P)は、P(%)=Sin2(2θ)より見積もられ、上記θが45度の時の透過率を100%とすれば、ほぼ90%以上であれば人間の目には最大輝度を有していると感じられることから、上記θは、35度<θ<55度であれば、人間の目には最大輝度を有していると感じられる。つまり、本実施の形態に示すように、電界が例えば基板1に略平行に印加される表示素子では、偏光板吸収軸方向、言い換えれば、水平配向処理における配向処理方向(ラビング方向)が、上記電極4・5による電界印加方向に対し、45度±10度未満、より好適には45度±5度未満、最も好適には45度の角度をなすことで、透過率を最大化することができる。
本実施の形態では、図2に示すように、両基板1・2にそれぞれ設けられた偏光板6・7は、互いの偏光板吸収軸方向が直交すると共に、各偏光板6・7における偏光板吸収軸と電極4・5(櫛歯部分4a・5a)の電極伸長方向とが45度の角度をなすように形成されている。
よって、上記表示素子において、上記電極4・5による電界印加方向は、上記偏光板6・7の偏光板吸収軸方向並びに配向膜8・9のラビング方向と45度の角度をなしている。
本実施の形態において、上記配向膜8・9におけるラビング方向は、図2に示すように、上記偏光板6・7の何れか一方の偏光板吸収軸と一致してさえいれば、互いに平行(互いの配向(処理)方向が、平行でかつ向きが同じ)であってもよく、反平行(逆平行)、つまり、互いの配向(処理)方向が、平行でかつ向きが反対(逆)であってもよく、直交していてもよい。
本実施の形態において用いられる上記配向膜8・9は、それぞれ、有機膜であってもよいし、無機膜であってもよく、上記媒質Aを構成する分子10の配向の秩序の度合いを向上させ、該分子10を、所望の方向に配向させることができさえすれば、特に限定されるものではないが、上記配向膜8・9を有機薄膜により形成した場合、良好な配向効果を示すことから、上記配向膜8・9としては有機薄膜を用いることがより望ましい。このような有機薄膜の中でもポリイミドは安定性、信頼性が高く、極めて優れた配向効果を示すことから、配向膜材料にポリイミドを使用することで、より良好な表示性能を示す表示素子を提供することができる。
なお、上記配向膜8・9としては、市販の水平配向膜を用いることができる。また、上記配向膜8・9としては、その配向制御が容易であることから光感応性を有する官能基(以下、光官能基と記す)を有していてもよい。上記光官能基としては、例えば二量化反応をするシンナメート系、カルコン系等や、異性化反応をするアゾ系等が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記配向膜8・9が光官能基を有する場合、上記画素基板11および対向基板12表面、すなわち、上記配向膜8・9表面に、偏光された紫外線の照射(以下、偏光紫外光照射と記す)を行って配向規制力を発現させることにより、容易に所望の配向処理を行うことができる。
上記表示素子は、例えば、上記画素基板11と対向基板12とを、図示しないシール剤により、必要に応じて、例えば図示しないプラスチックビーズやガラスファイバースペーサ等のスペーサを介して貼り合わせ、その空隙に、前記媒質Aを封入することにより形成される。
本実施の形態に用いられる上記媒質Aは、電界を印加することにより、光学的異方性が変化する媒質である。物質中に外部から電界Ejを加えると、電気変位Dij=εij・Ejを生じるが、そのとき、誘電率(εij)にもわずかな変化が見られる。光の周波数では屈折率(n)の自乗は誘電率と等価であるから、上記媒質Aは、電界の印加により、屈折率が変化する物質と言うこともできる。
このように、本実施の形態にかかる表示素子は、物質の屈折率が外部電界によって変化する現象(電気光学効果)を利用して表示を行うものであり、電界印加により分子(分子の配向方向)が揃って回転することを利用した液晶表示素子とは異なり、光学的異方性の方向は殆ど変化せず、その光学的異方性の程度の変化(主に、電子分極や配向分極)により表示を行うようになっている。
上記媒質Aとしては、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質等、電界無印加時には光学的に等方(巨視的に見て等方であればよい)であり、電界印加により光学変調(特に電界印加により複屈折が上昇することが望ましい)を発現する媒質である。
ポッケルス効果、カー効果(それ自身は、等方相状態で観察される)は、それぞれ、電界の一次または二次に比例する電気光学効果であり、電圧無印加状態では、等方相であるため光学的に等方的であるが、電圧印加状態では、電界が印加されている領域において、電界方向に化合物の分子の長軸方向が配向し、複屈折が発現することにより透過率を変調することができる。例えば、カー効果を示す物質を用いた表示方式の場合、電界を印加して1つの分子内での電子の偏りを制御することにより、ランダムに配列した個々の分子が各々別個に回転して向きを変えることから、応答速度が非常に速く、また、分子が無秩序に配列していることから、視角制限がないという利点がある。なお、上記媒質Aのうち、大まかに見て電界の一次または二次に比例しているものは、ポッケルス効果またはカー効果を示す物質として扱うことができる。
ポッケルス効果を示す物質としては、例えば、ヘキサミン等の有機固体材料等が挙げられるが、特に限定されるものではない。上記媒質Aとしては、ポッケルス効果を示す各種有機材料、無機材料を用いることができる。
また、カー効果を示す物質としては、下記構造式(1)〜(7)
で示される液晶性物質等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
カー効果は、入射光に対して透明な媒質中で観測される。このため、カー効果を示す物質は、透明媒質として用いられる。通常、液晶性物質は、温度上昇に伴って、短距離秩序を持った液晶相から、分子レベルでランダムな配向を有する等方相に移行する。つまり、液晶性物質のカー効果は、ネマチック相ではなく、液晶相−等方相温度以上の等方相状態の液体に見られる現象であり、上記液晶性物質は、透明な誘電性液体として使用される。
液晶性物質等の誘電性液体は、加熱による使用環境温度(加熱温度)が高いほど、等方相状態となる。よって、上記媒質として液晶性物質等の誘電性液体を使用する場合には、該誘電性液体を透明、すなわち可視光に対して透明な液体状態で使用するために、例えば、(1)媒質層3の周辺に、図示しないヒータ等の加熱手段を設け、該加熱手段により上記誘電性液体をその透明点以上に加熱して用いてもよいし、(2)バックライトからの熱輻射や、バックライトおよび/または周辺駆動回路からの熱伝導(この場合、上記バックライトや周辺駆動回路が加熱手段として機能する)等により、上記誘電性液体をその透明点以上に加熱して用いてもよい。また、(3)上記基板1・2の少なくとも一方に、ヒータとしてシート状ヒータ(加熱手段)を貼合し、所定の温度に加熱して用いてもよい。さらに、上記誘電性液体を透明状態で用いるために、透明点が、上記表示素子の使用温度範囲下限よりも低い材料を用いてもよい。
上記媒質Aは、液晶性物質を含んでいることが望ましく、上記媒質Aとして液晶性物質を使用する場合には、該液晶性物質は、巨視的には等方相を示す透明な液体であるが、微視的には一定の方向に配列した短距離秩序を有する分子集団であるクラスタを含んでいることが望ましい。なお、上記液晶性物質は可視光に対して透明な状態で使用されることから、上記クラスタも、可視光に対して透明(光学的に等方)な状態で用いられる。また、液晶性物質は、単体で液晶性を示すものであってもよく、複数の物質が混合されることによって液晶性を示すものであってもよく、これらの物質に他の非液晶性物質が混入されたものであってもよい。
このために、上記表示素子は、上述したように、ヒータ等の加熱手段を用いて温度制御を行ってもよいし、媒質層3を、高分子材料等を用いて小区域に分割して用いてもよく、上記液晶性物質の直径を例えば0.1μm以下とする等、上記液晶性物質を、光の波長よりも小さな径を有する微小ドロップレットとし、光の散乱を抑制することにより透明状態とするか、あるいは、使用環境温度(室温)にて透明な等方相を示す液晶性化合物を使用する等してもよい。上記液晶性物質の直径、さらにはクラスタの径(長径)が0.1μm以下、つまり、光の波長(入射光波長)よりも小さい場合の光の散乱は無視することができる。このため、例えば上記クラスタの径が0.1μm以下であれば、上記クラスタもまた可視光に対して透明である。
なお、上記媒質Aは、上述したようにポッケルス効果またはカー効果を示す物質に限定されない。このため、上記媒質Aは、分子の配列が、光の波長以下(例えばナノスケール)のスケールのキュービック対称性を有する秩序構造を有し、光学的には等方的に見えるキュービック相(非特許文献1・3・6参照)を有していてもよい。キュービック相は上記媒質Aとして使用することができる液晶性物質の液晶相の一つであり、キュービック相を示す液晶性物質としては、例えば、下記構造式(8)
で示されるBABH8等が挙げられる。このような液晶性物質に電界を印加すれば、微細構造に歪みが与えられ、光学変調を誘起させることが可能となる。
BABH8は、136.7℃以上、161℃以下の温度範囲では、光の波長以下のスケールのキュービック対称性を有する秩序構造からなるキュービック相を示す。該BABH8は、光の波長以下の秩序構造を有し、上記温度範囲において、電圧無印加時に光学的等方性を示すことで、直交ニコル下において良好な黒表示を行うことができる。
一方、上記BABH8の温度を、例えば前記した加熱手段等を用いて136.7℃以上、161℃以下に制御しながら、電極4・5(櫛形電極)間に電圧を印加すると、キュービック対称性を有する構造(秩序構造)に歪みが生じる。すなわち、上記BABH8は、上記の温度範囲において、電圧無印加状態では等方的であり、電圧印加により異方性が発現する。
これにより、上記媒質層3において複屈折が発生するので、上記表示素子は、良好な白表示を行うことができる。なお、複屈折が発生する方向は一定であり、その大きさが電圧印加によって変化する。また、電極4・5(櫛形電極)間に印加する電圧と透過率との関係を示す電圧透過率曲線は、136.7℃以上、161℃以下の温度範囲、すなわち、約20Kという広い温度範囲において安定した曲線となる。このため、上記BABH8を上記媒質Aとして使用した場合、温度制御を極めて容易に行うことができる。すなわち、上記BABH8からなる媒質層3は、熱的に安定な相であるため、急激な温度依存性が発現せず、温度制御が極めて容易である。
また、上記媒質Aとしては、液晶分子が光の波長以下のサイズで放射状に配向した集合体で充填された、光学的に等方的に見えるような系を実現することも可能であり、その手法としては非特許文献2に記載の液晶マイクロエマルションや、液晶・微粒子分散系(溶媒(液晶)中に微粒子を混在させた混合系、以下、単に液晶微粒子分散系と記す)の手法を応用することも可能である。これらに電界を印加すれば、放射状配向の集合体に歪みが与えられ、光学変調を誘起させることが可能である。
なお、これら液晶性物質は、何れも、単体で液晶性を示すものであってもよいし、複数の物質が混合されることにより液晶性を示すものであってもよいし、これらの物質に他の非液晶性物質が混入されていてもよい。さらには、高分子・液晶分散系の物質を適用することもできる。また、ゲル化剤を添加してもよい。
また、上記媒質Aとしては、有極性分子を含有することが望ましく、例えばニトロベンゼン等が媒質Aとして好適である。なお、ニトロベンゼンもカー効果を示す媒質の一種である。
以下に、上記媒質Aとして用いることができる物質もしくは該物質の形態の一例を示すが、本発明は以下の例示にのみ限定されるものではない。
〔スメクチックD相(SmD)〕
スメクチックD相(SmD)は、上記媒質Aとして使用することができる液晶性物質の液晶相の一つであり、三次元格子構造を有し、その格子定数が光の波長以下である。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
スメクチックD相を示す液晶性物質としては、例えば、非特許文献1もしくは非特許文献3に記載の下記一般式(9)・(10)
で表されるANBC16等が挙げられる。なお、上記一般式(6)・(7)において、mは任意の整数、具体的には、一般式(6)においてはm=16、一般式(7)においてはm=15を示し、Xは−NO2基を示す。
上記ANBC16は、171.0℃〜197.2℃の温度範囲において、スメクチックD相が発現する。スメクチックD相は、複数の分子がジャングルジム(登録商標)のような三次元的格子を形成しており、その格子定数が光学波長以下である。このため、スメクチックD相は、光学的には等方性を示す。
また、ANBC16がスメクチックD相を示す上記の温度領域において、ANBC16に電界を印加すれば、ANBC16の分子自身に誘電異方性が存在するため、分子が電界方向に向こうとして格子構造に歪が生じる。すなわち、ANBC16に光学的異方性が発現する。なお、ANBC16に限らず、スメクチックD相を示す物質であれば、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして適用することができる。
〔液晶マイクロエマルション〕
液晶マイクロエマルションとは、非特許文献2において提案された、O/W型マイクロエマルション(油の中に水を界面活性剤で水滴の形で溶解させた系で、油が連続相となる)の油分子をサーモトロピック液晶分子で置換したシステム(混合系)の総称である。
液晶マイクロエマルションの具体例としては、例えば、非特許文献2に記載されている、ネマチック液晶相を示すサーモトロピック液晶であるペンチルシアノビフェニル(5CB)と、逆ミセル相を示すリオトロピック(ライオトロピック)液晶であるジドデシルアンモニウムブロマイド(DDAB)の水溶液との混合系がある。この混合系は、図3および図4に示すような模式図で表される構造を有している。
また、この混合系は、典型的には逆ミセルの直径が5nm(50Å)程度、逆ミセル間の距離が20nm(200Å)程度である。これらのスケールは光の波長より一桁程度小さい。また、逆ミセルが三次元空間的にランダムに存在しており、各逆ミセルを中心に5CBが放射状に配向している。したがって、この混合系は、光学的には等方性を示す。
そして、この混合系からなる媒質に電界を印加すれば、5CBに誘電異方性が存在するため、分子自身が電界方向に向こうとする。すなわち、逆ミセルを中心に放射状に配向していたため光学的に等方であった系に、配向異方性が発現し、光学的異方性が発現する。なお、上記の混合系に限らず、電圧無印加時には光学的に等方性を示し、電圧印加によって光学的異方性が発現する液晶マイクロエマルションであれば、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして適用することができる。
〔リオトロピック液晶〕
媒質Aとして、特定の相を有するリオトロピック(ライオトロピック)液晶を適用できる。リオトロピック液晶とは、液晶を形成する主たる分子が、他の性質を持つ溶媒(水や有機溶剤など)に溶けているような他成分系の液晶を意味する。また、上記の特定の相とは、電界無印加時に光学的に等方性を示す相である。このような特定の相としては、例えば、非特許文献4に記載されているミセル相、スポンジ相、キュービック相、逆ミセル相がある。図5に、リオトロピック液晶相の分類図を示す。
両親媒性物質である界面活性剤には、ミセル相を発現する物質がある。例えば、イオン性界面活性剤である硫酸ドデシルナトリウムの水溶液やパルチミン酸カリウムの水溶液等は球状ミセルを形成する。また、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと水との混合液では、ノニルフェニル基が疎水基として働き、オキシエチレン鎖が親水基として働くことにより、ミセルを形成する。他にも、スチレン−エチレンオキシドブロック共重合体の水溶液でもミセルを形成する。
例えば、球状ミセルは、分子が空間的全方位にパッキング(分子集合体を形成)して球状を示す。また、球状ミセルのサイズは、光学波長以下であるため、光学波長領域では異方性を示さず等方的に見える。しかしながら、このような球状ミセルに電界を印加すれば、球状ミセルが歪むため異方性を発現する。よって、球状ミセル相を有するリオトロピック液晶を、本表示素子の媒質Aとして適用することができる。なお、球状ミセル相に限らず、他の形状のミセル相、すなわち、紐状ミセル相、楕円状ミセル相、棒状ミセル相等を媒質Aとして使用しても、略同様の効果を得ることができる。
また、濃度、温度、界面活性剤の条件によっては、親水基と疎水基とが入れ替わった逆ミセルが形成されることが一般に知られている。このような逆ミセルは、光学的にはミセルと同様の効果を示す。したがって、逆ミセル相を媒質Aとして適用することにより、ミセル相を用いた場合と同等の効果を奏する。なお、前述した液晶マイクロエマルションは、逆ミセル相(逆ミセル構造)を有するリオトロピック液晶の一例である。
また、非イオン性界面活性剤であるペンタエチレングリコール−ドデシルエーテルの水溶液には、図5に示したような、スポンジ相やキュービック相を示す濃度および温度領域が存在する。このようなスポンジ相やキュービック相は、光学波長以下の秩序を有しているので、光学波長領域では透明な物質である。すなわち、これらの相からなる媒質は、光学的には等方性を示す。そして、これらの相からなる媒質に電圧を印加すると、配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。したがって、スポンジ相やキュービック相を有するリオトロピック液晶を、本表示素子の媒質Aとして適用することができる。
〔液晶微粒子分散系〕
また、媒質Aは、例えば、非イオン性界面活性剤ペンタエチレングリコール−ドデシルエーテルの水溶液に、表面を硫酸基で修飾した直径10nm(100Å)程度のラテックス粒子を混在させた、液晶微粒子分散系であってもよい。上記液晶微粒子分散系ではスポンジ相が発現するが、本実施の形態において用いられる媒質Aとしては、前述したミセル相、キュービック相、逆ミセル相等を発現する液晶微粒子分散系であってもよい。なお、上記ラテックス粒子に代えて前記DDABを使用することによって、前述した液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることもできる。
〔デンドリマー〕
デンドリマーとは、モノマー単位毎に枝分かれのある三次元状の高分岐ポリマーである。デンドリマーは、枝分かれが多いために、ある程度以上の分子量になると球状構造となる。この球状構造は、光学波長以下の秩序を有しているので、光学波長領域では透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。したがって、デンドリマーもまた、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして適用することができる。また、前述した液晶マイクロエマルションにおいてDDABに代えて上記デンドリマーを使用することにより、前述した液晶マイクロエマルションと同様な配向構造を得ることができる。このようにして得られた媒質もまた、上記媒質Aとして適用することができる。
〔コレステリックブルー相〕
また、液晶性物質として、コレステリックブルー相を適用することができる。なお、図6にはコレステリックブルー相の概略構成が示されている。
図6に示すように、コレステリックブルー相は、螺旋軸が3次元的に周期構造を形成しており、その構造は、高い対称性を有していることが知られている(例えば、非特許文献6参照)。コレステリックブルー相は、光学波長以下の秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。すなわち、コレステリックブルー相は、光学的に概ね等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、媒質Aとして、コレステリックブルー相を適用できる。
なお、コレステリックブルー相を示す物質としては、例えば、「JC1041」(商品名、チッソ社製混合液晶)を48.2重量%、「5CB」(4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル、ネマチック液晶)を47.4重量%、カイラル剤「ZLI−4572」(商品名、メルク社製)を4.4重量%の割合で混合してなる組成物が知られている。該組成物は、330.7Kから331.8Kの温度範囲で、コレステリックブルー相を示す。
〔スメクチックブルー相〕
また、液晶性物質として、スメクチックブルー相を適用することができる。なお、図6にはスメクチックブルー相の概略構成が示されている。
図6に示すように、スメクチックブルー(BPSm)相は、コステリックブルー相と同様、高い対称性の構造を有している(例えば、非特許文献5・6等参照)。また、光学波長以下の秩序を有しているので、光学波長領域では概ね透明な物質であり、電圧印加によって配向秩序が変化して光学的異方性が発現する。すなわち、スメクチックブルー相は、光学的に概ね等方性を示し、電界印加によって液晶分子が電界方向に向こうとするために格子が歪み、異方性を発現する。よって、媒質Aとして、スメクチックブルー相を適用できる。
なお、スメクチックブルー相を示す物質としては、例えば、非特許文献5に記載されているFH/FH/HH−14BTMHC等が挙げられる。該物質は、74.4℃〜73.2℃でBPSm3相、73.2℃〜72.3℃でBPSm2相、72.3℃〜72.1℃でBPSm1相を示す。BPSm相は、非特許文献6に示すように、高い対称性の構造を有するため、概ね光学的等方性が示される。また、物質FH/FH/HH−14BTMHCに電界を印加すると、液晶分子が電界方向に向こうとすることにより格子が歪み、同物質は異方性を発現する。よって、同物質は、本実施の形態にかかる表示素子の媒質Aとして使用することができる。
以上のように、本実施の形態にかかる表示素子において媒質Aとして使用することができる物質は、電界の印加により光学的異方性(屈折率、配向秩序度)が変化するものであればよく、キュービック相、スメクチックD相、コレステリックブルー相、スメクチックブルー相の何れかを示す分子からなるものであってもよく、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、キュービック相の何れかを示すリオトロピック液晶もしくは液晶微粒子分散系であってもよい。また、上記媒質Aは、液晶マイクロエマルションやデンドリマー(デンドリマー分子)、両親媒性分子、コポリマー、もしくは、上記以外の有極性分子等であってもよい。
また、上記媒質は、液晶性物質に限らず、電圧無印加時に光の波長以下の秩序構造(配向秩序)を有することが好ましい。秩序構造が光の波長以下であれば、光学的に等方性を示す。従って、電圧無印加時に秩序構造が光の波長以下となる媒質を用いることにより、電圧無印加時と電圧印加時とにおける表示状態を確実に異ならせることができる。
本発明に関連する媒質Aは、さらにカイラル剤を含んでいる。カイラル剤は、液晶性物質において隣接する分子と互いにねじれ構造をとる。そして、液晶性物質中の分子間の相互作用のエネルギーが低くなり、液晶性物質は、自発的にねじれ構造をとり、構造が安定化する。それゆえ、カイラル剤を含む媒質Aは、等方相−液晶相相転移温度近傍では、急激な構造変化が起こらず、光学的等方性を有する液晶相が発現し、相転移温度を低下させるという効果を奏する。このようなカイラル剤としては、例えば、ZLI‐4572(メルク社製)、C15(メルク社製)、CN(メルク社製)、または、CB15(メルク社製)などが挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
上記媒質Aにおけるカイラル剤の濃度は、媒質Aにおいて液晶性物質の構造を安定化させることが可能な濃度であれば、特に限定されるものではないが、例えば、1〜15重量%が好ましく、3〜10重量%が特に好ましい。ただし、媒質Aにおけるカイラル剤の濃度は、カイラル剤の種類、表示素子の構成、または設計等に応じて適宜設定することができる。
なお、本発明では、媒質Aにカイラル剤を添加したものではなく、媒質A自体がカイラル性を有する(光学的に活性な)カイラル物質からなっていてもよい。この場合には、媒質Aは光学的に活性なため、媒質A自身が自発的に捩れ構造をとり、安定な状態になる。カイラル性を有するカイラル物質としては、分子中に光学活性炭素を有する化合物であればよい。具体的には、下記構造式(11)
で表される4−(2−メチルブチル)フェニル−4’−オクチルビフェニル−4−カルボキシレート(略名:8SI*)を挙げることができる。すなわち、本発明の媒質Aは、カイラル性を有するものであればよく、光学的に活性なものであればよい。
ここで、図7(a)に示すように、電圧が印加されていない場合には、この捩れ構造が等方的に空間を埋めているため、表示素子は光学的に等方性である。一方、図7(b)に示すように、電圧を印加すると徐々に分子の長軸方向が電場の方向に向くようになる。これに従って、捩れ構造もほどけていく。つまり、電圧の印加によってその構造が変化し、これにより光学的異方性を生じる。
このように、媒質Aにカイラル剤を添加する、または、媒質Aとしてカイラル物質を用いることにより、媒質Aは捩れ構造をとる。その結果、カー定数はあまり変化せず、カー効果の安定性が増大する。なお、カイラル剤を添加することにより、媒質Aは左捩れまたは右捩れのいずれかの捩れ構造を誘起させることもできる。この場合、透過率をより向上させることが可能となる。
次に、本実施の形態にかかる表示素子における表示原理について、図1(a)・(b)、図7(a)〜(c)、及び図8(a)〜(g)を参照して以下に説明する。なお、以下の説明では、主に、上記表示素子として透過型の表示素子を使用し、電界無印加時に光学的にはほぼ等方、好適には等方であり、電界印加により光学的異方性が発現する物質を用いる場合を例に挙げて説明するものとするが、本発明はこれに限定されるものではない。
図7(a)は、電界無印加状態(OFF状態)における本実施の形態にかかる表示素子の構成を模式的に示す要部平面図であり、図7(b)は、電圧印加状態(ON状態)における上記表示素子の構成を模式的に示す要部平面図である。なお、図7(a)・(b)は、上記表示素子における1画素中の構成を示すものとし、説明の便宜上、対向基板12の構成については図示を省略する。なお、上記電極4・5としては、図2に示したように、櫛形電極であってもよく、上記基板1・2に略平行な電界を印加することができるものでさえあれば、特に限定されるものではない。
さらに、図7(c)は、図7(a)・(b)に示す表示素子における印加電圧と透過率との関係を示すグラフであり、図8(a)〜(g)は、電界の印加による光学的異方性の変化を利用して表示を行う表示素子と従来の液晶表示素子との表示原理の違いを、電圧無印加時(OFF状態)および電圧印加時(ON状態)における媒質の平均的な屈折率楕円体の形状(屈折率楕円体の切り口の形状にて示す)およびその主軸方向にて模式的に示す断面図であり、図8(a)〜(g)は、順に、電界の印加による光学的異方性の変化を利用して表示を行う表示素子の電圧無印加時(OFF状態)の断面図、該表示素子の電圧印加時(ON状態)の断面図、TN(Twisted Nematic)方式の液晶表示素子の電圧無印加時の断面図、該TN方式の液晶表示素子の電圧印加時の断面図、VA(Vertical Alignment)方式の液晶表示素子の電圧無印加時の断面図、該VA方式の液晶表示素子の電圧印加時の断面図、IPS(In Plane Switching)方式の液晶表示素子の電圧無印加時の断面図、該IPS方式の液晶表示素子の電圧印加時の断面図を示す。
物質中の屈折率は、一般には等方的でなく方向によって異なっている。この屈折率の異方性は、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ両電極4・5の対向方向、基板面に垂直な方向(基板法線方向)、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ両電極4・5の対向方向に垂直な方向を、それぞれx,y,z方向とすると、任意の直交座標系(X1,X2,X3)を用いて下記関係式(1)
(nji=nij、i,j=1,2,3)
で表される楕円体(屈折率楕円体)で示される。ここで、上記関係式(1)を楕円体の主軸方向の座標系(Y1,Y2,Y3)を使用して書き直すと、下記関係式(2)
で示される。n1,n2,n3(以下、nx,ny,nzと記す)は主屈折率と称され、楕円体における三本の主軸の長さの半分に相当する。原点からY3=0の面と垂直な方向に進行する光波を考えると、この光波はY1とY2との方向に偏光成分を有し、各成分の屈折率はそれぞれnx,nyである。一般に、任意の方向に進行する光に対しては原点を通り、光波の進行方向に垂直な面が、屈折率楕円体の切り口と考えられ、この楕円の主軸方向が光波の偏光の成分方向であり、主軸の長さの半分がその方向の屈折率に相当する。
まず、電界の印加による光学的異方性の変化を利用して表示を行う表示素子と従来の液晶表示素子との表示原理の相違について、従来の液晶表示素子として、TN方式、VA方式、IPS方式を例に挙げて説明する。
図8(c)・(d)に示すように、TN方式の液晶表示素子は、対向配置された一対の基板101・102間に液晶層105が挟持され、上記両基板101・102上にそれぞれ透明電極103・104(電極)が設けられている構成を有し、電圧無印加時には、液晶層105における液晶分子の長軸方向がらせん状に捻られて配向しているが、電圧印加時には、上記液晶分子の長軸方向が電界方向に沿って配向するようになっている。この場合における平均的な屈折率楕円体105aは、電圧無印加時には、図8(c)に示すように、その主軸方向(長軸方向)が基板面に平行な方向(基板面内方向)を向き、電圧印加時には、図8(d)に示すように、その主軸方向が基板面法線方向を向く。すなわち、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体105aの形状は変わらずに、その主軸方向が変化する(屈折率楕円体105aが回転する)。
VA方式の液晶表示素子は、図8(e)・(f)に示すように、対向配置された一対の基板201・202間に液晶層205が挟持され、上記両基板201・202上にそれぞれ透明電極(電極)203・204が備えられている構成を有し、電圧無印加時には、液晶層205における液晶分子の長軸方向が、基板面に対して略垂直な方向に配向しているが、電圧印加時には、上記液晶分子の長軸方向が電界に垂直な方向に配向する。この場合における平均的な屈折率楕円体205aは、図8(e)に示すように、電圧無印加時には、その主軸方向(長軸方向)が基板面法線方向を向き、図8(f)に示すように、電圧印加時にはその主軸方向が基板面に平行な方向(基板面内方向)を向く。すなわち、VA方式の液晶表示素子の場合にも、TN方式の液晶表示素子と同様、電圧無印加時と電圧印加時とで、屈折率楕円体205aの形状は変わらずに、その主軸方向が変化する(屈折率楕円体205aが回転する)。
また、IPS方式の液晶表示素子は、図8(f)・(g)に示すように、同一の基板301上に、1対の電極302・303が対向配置された構成を有し、図示しない対向基板との間に挟持された液晶層に、上記電極302・303により電圧が印加されることで、上記液晶層における液晶分子の配向方向(屈折率楕円体305aの主軸方向(長軸方向))を変化させ、電圧無印加時と電圧印加時とで、異なる表示状態を実現することができるようになっている。すなわち、IPS方式の液晶表示素子の場合にも、TN方式およびVA方式の液晶表示素子と同様、図8(f)に示す電圧無印加時と図8(g)に示す電圧印加時とで、屈折率楕円体305aの形状は変わらずに、その主軸方向が変化する(屈折率楕円体305aが回転する)。
このように、従来の液晶表示素子では、電圧無印加時でも液晶分子が何らかの方向に配向しており、電圧を印加することによってその配向方向を変化させて表示(透過率の変調)を行っている。すなわち、屈折率楕円体の形状は変化しないが、屈折率楕円体の主軸方向が電圧印加によって回転(変化)することを利用して表示を行っている。つまり、従来の液晶表示素子では、液晶分子の配向秩序度は一定であり、配向方向を変化させることによって表示(透過率の変調)を行っている。
これに対し、本実施の形態にかかる表示素子も含め、電界の印加による光学的異方性の変化を利用して表示を行う表示素子は、図8(a)・(b)に示すように、電圧無印加時における屈折率楕円体3aの形状は球状、すなわち、光学的に等方(nx=ny=nz、配向秩序度=0)であり、電圧を印加することによって異方性(nx>ny、配向秩序度>0)が発現するようになっている。なお、上記nx,ny,nzは、それぞれ、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ両電極4・5の対向方向の主屈折率、基板面に垂直な方向(基板法線方向)の主屈折率、基板面に平行な方向(基板面内方向)でかつ両電極4・5の対向方向に垂直な方向の主屈折率を表している。
このように、本実施の形態にかかる表示素子は、光学的異方性の方向は一定(電圧印加方向は変化しない)で例えば配向秩序度を変調させることによって表示を行うものであり、従来の液晶表示素子とは表示原理が大きく異なっている。
本実施の形態にかかる表示素子は、図1(a)に示すように、電極4・5に電圧を印加していない状態では、基板1・2間に封入される媒質A(媒質層3)が等方相を示す。また、媒質Aは捩れ構造をとっており、この捩れ構造が等方的に空間を埋めているため光学的にも等方となるため、黒表示になる。
一方、図1(b)に示すように、電極4・5に電圧を印加すると、上記媒質Aの各分子10が、その長軸方向が上記電極4・5間に形成される電界に沿うように配向され、捩れ構造もほどけていくため、複屈折現象が発現する。この複屈折現象により、電極4・5間の電圧に応じて表示素子の透過率を変調することができる。
なお、相転移温度(転移点)から十分遠い温度においては表示素子の透過率を変調させるために必要な電圧は大きくなるが、転移点のすぐ直上の温度では0〜100V前後の電圧で、十分に透過率を変調させることが可能になる。
例えば、電界方向の屈折率と、電界方向に垂直な方向の屈折率とを、それぞれn//、n⊥とすると、複屈折変化(Δn=n//−n⊥)と、外部電界、すなわち電界E(V/m)との関係は、下記関係式(3)
Δn=λ・Bk・E2 …(3)
で表される。なお、λは真空中での入射光の波長(m)、Bkはカー定数(m/V2)、Eは印加電界強度(V/m)である。
カー定数Bは、温度(T)の上昇とともに1/(T−Tni)に比例する関数で減少することが知られており、転移点(Tni)近傍では弱い電界強度で駆動できていたとしても、温度(T)が上昇するとともに急激に必要な電界強度が増大する。このため、転移点から十分遠い温度(転移点よりも十分に高い温度)では透過率を変調させるために必要な電圧が大きくなるが、相転移直上の温度では、約100V以下の電圧で、透過率を十分に変調させることができる。
しかしながら、本願発明者等が検討した結果、配向秩序度を変調させることによって表示を行う場合、場合によっては、コントラストが低下することがあることが判った。
本願発明者等の検討によれば、コントラストが低下する要因としては、以下の2つの要因が挙げられる。
まず一つには、電界の印加により光学的異方性が発現する媒質Aを表示媒質に用いた従来の表示素子または該表示素を備えた表示装置において電源の投入を行ったとき、周囲温度が低い場合には、上記媒質Aが本来駆動されるべき温度に達しておらず、媒質Aの物理的な状態が、素子駆動時に本来有しているべき状態とは異なっていることがあることが挙げられる。例えば、上記媒質Aがネマチック−等方相の相転移温度直上の等方相状態で、本来駆動しなければならない場合、電源投入時に、上記相転移温度よりも低温のネマチック状態になっていることがある。この場合、電界無印加状態では本来等方状態により黒表示を達成しなければならないときに、無電界印加でも光学的異方性を有するネマチックでは、その光学的異方性により光を透過させてしまうことになる。したがって、このような場合には、良好な黒表示ができなくなり、コントラストが低下してしまう。もちろん、ヒータや光源(バックライト)により表示素子を過熱し、良好な表示を得ることができるが、瞬時に温度を上昇させ、また安定化させることは容易なことではない。
もう一つは、基板界面から離れた領域では上記媒質A(表示媒質)が光学的等方状態を実現していても、基板界面、特に基板1界面では、基板1により媒質Aを構成する分子10が強固に吸着されてしまうために、光学的等方状態を実現できなくなる場合があることが挙げられる。例えば、ネマチック−等方相の相転移温度直上0.1Kの温度で駆動させる場合、基板界面付近はネマチック状態になっている。
いずれにせよ、基板界面付近では、吸着現象により、上記媒質Aの物理状態が、素子駆動時に本来有しているべき状態とは異なり、セル内部における、基板界面から離れたバルク領域とは異なる、基板界面近傍の媒質Aにより、黒表示時においても光が透過してしまう現象が発生し、この結果、コントラストが低下してしまうという問題がある。
本実施の形態にかかる表示素子でも、転移点未満の温度ではネマチック液晶相が析出する点は、上記従来の表示素子と同様である。しかしながら、本実施の形態にかかる表示素子によれば、例えば、電源投入時に周囲温度が上記転移点よりも低く、媒質Aが、本来駆動されるべき温度に達していない場合、析出したネマチック液晶相は、上記配向膜8・9における配向(処理)方向、この場合は、偏光板吸収軸方向に配向するために、上記ネマチック液晶相、つまり、物理的状態が本来の駆動時の状態と異なる媒質による光学的な寄与は無い。この結果、ヒータおよびバックライトにより表示素子の温度が上昇するまでの間においても良好な黒表示を実現することができた。
すなわち、本実施の形態によれば、たとえ電圧無印加時に光学異方性が発現したとしても、上記画素基板11および対向基板2における互いの対向表面に、一方の偏光板吸収軸と平行または直交する方向の水平配向処理を施し、その光学異方性の方向、つまり、配向方向を、上記偏光板吸収軸と平行または直交する方向にしておくことで、その光学的寄与を消失させることができる。つまり、本実施の形態において、上記画素基板11および対向基板12における互いの対向面表面に水平配向処理が施されていることで、基板界面の媒質A、厳密には該媒質Aを構成する分子10は、素子駆動温度未満の温度で、上記配向処理における配向(処理)方向に沿って配向する。
また、本実施の形態にかかる表示素子によれば、所望の駆動温度領域に達したとしても、基板界面に吸着した分子による黒表示時の光の漏れは観測されず、高いコントラストを実現することができた。この結果、コントラストが低下することがなく、高速応答性、視野角特性に優れた表示素子を得ることができた。
なお、上記基板1・2における互いのラビング方向は、前記したように、直交、平行または反平行であることが望ましいが、より望ましくは、平行または反平行のときである。上記両基板1・2に水平配向処理を行うと共に、互いの水平配向方向を平行または反平行とすることで、コントラストを最大化することができ、この結果、黒輝度をより小さくすることができた。
なお、本実施の形態では、両基板1・2(画素基板11および対向基板12)に対し、配向膜8・9の形成並びにラビング処理を行ったが、上記した効果は、一方の基板のみにラビング処理を行った場合であっても得ることはできる。この場合、両基板1・2に上記配向膜8・9を形成した場合、つまり、両基板1・2に配向処理を施した場合ほどの効果は得られないが、電極4・5を形成した基板1とは反対側の基板2だけに配向膜(配向膜9)を形成しておけば、基板1側の配向膜8に由来する電圧降下が発生せず、素子の駆動電圧が上昇することもなく、実用上のメリットが大きい。また、所望の駆動温度になったとしても、基板界面に吸着した分子による光漏れは発生せず、高いコントラストを得ることができた。また、所望の駆動温度になったとしても、基板界面に吸着した分子による光漏れは発生せず、高いコントラストを得ることができた。
なお、本実施の形態では、主に、透過型の表示素子を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、反射型の表示素子としてもよい。
以下に、本発明に関連するを実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕
以下の説明は、本実施の形態に係る、媒質にカイラル剤を含む表示素子について記載する。また〔比較例〕として、媒質にカイラル剤を含まない表示素子について記載する。
図1に示す構成の表示素子として、電極4および5としてITOを使用した。具体的には、線幅5μm、電極間距離5μm、電極の厚み0.6μmとし、上述したように基板表面上に、90度±10度未満をなす楔型構造を有する電極が櫛歯状に形成した。基板にはガラス基板を用いた。また媒質として、構造式(1)〜(3)
で示される化合物を等量ずつ混合した混合物を使用し、さらにこの混合物にカイラル剤「ZLI−4572」(商品名、メルク社製)を7重量%添加したものを用いた。
媒質層3の層厚(すなわち基板1と2との間の距離)は10μmとした。さらに、両方の上記ガラス基板の外側には偏光板を配置し、両方の上記ガラス基板の内側にはポリイミドからなる配向膜を形成した。配向膜にはあらかじめ水平ラビング処理を施した。
外部加温装置(加熱手段)により上記混合物(媒質)をネマティック−等方相の相転移直上近傍の温度に保ち、電圧印加を行った。等方相−液晶相相転移温度は63℃であった。また、最大透過率は49Vで得られ、表示素子作成1ヶ月後の電圧保持率は98%であった。
〔比較例〕
媒質として、ネマチック液晶である5CB(90wt%)と、重合性モノマーである1,4−ジ(4−(6−アクリロイルオキシ)ヘキシルオキシ)ベンゾイルオキシ)−2−メチルベンゼン(10wt%)とを混合し、重合開始剤としてイルガキュア(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を重合性モノマーに対して0.5wt%添加して混合物を調製した。この混合物を2枚のガラス基板間に注入した後、等方相の状態で高圧水銀ランプを用いて365nm近傍の紫外線を照射し表示素子を作成した。
外部加温装置により上記混合物をネマチック−等方相相転移直上近傍の温度に保ち、電圧印加を行った。等方相−液晶相相転移温度は28℃であった。また、最大透過率は66Vで得られ、表示素子作成1ヶ月後の電圧保持率は89%であった。
上記の結果から、本発明に係る表示素子に用いられる媒質は、比較例より最大透過率が得られる印加電圧が小さいことが分かる。すなわち、媒質にカイラル剤を添加することによって、カー効果の安定性が向上した媒質を実現できる。
すなわち、比較例では、モノマーの重合過程において、未反応の重合性モノマーや重合開始剤が残ってしまう。このため、重合性モノマーを光照射し、網目状高分子とすることでカー効果の安定性を向上させている反面、残余物が液晶の電圧保持率を悪化させてしまっている。
これに対して、本実施例1では、カイラル剤を添加している。このため、媒質が自発的に捩れ構造をとり、その結果カー効果も安定化される。また、高分子などで安定化する必要がないため、残余物等の液晶の電圧保持率を悪化させる原因を排除することができる。すなわち、信頼性の問題を解決できる。さらに、比較例では光重合のための紫外光照射過程が必須であるのに対して、本実施例1ではその必要がなく、製造上の問題も同時に解決できる。
〔実施例2〕
本実施例では、媒質として、構造式(5)〜(7)
で示される化合物を混合した混合物を使用した以外は、カイラル剤も含めて実施例1と同様のものを用いた。なお、上記構造式(5)〜(7)に示す化合物の混合割合は、構造式(5)に示す化合物を30wt%、構造式(6)に示す化合物を40wt%、構造式(7)に示す化合物を30wt%とした。
実施例1では、正の誘電異方性を有する化合物からなる媒質を用いていたが、本実施例では負の誘電異方性を有する化合物からなる媒質を用いている。この場合であっても、上記実施例1と同様の効果を得ることができた。すなわち、本発明では、正の誘電異方性を有する媒質のみならず、負の誘電異方性を有する媒質をも用いることができる。
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
なお、本発明に関連する表示装置では、上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板における上記媒質との対向面とは反対側に偏光板を配置することができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記一対の基板のうち、少なくとも一方の基板における上記媒質との対向面に配向膜を配置することができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記配向膜を、有機薄膜とすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記配向膜を、ポリイミドとすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記配向膜に、基板に対して平行または反平行な水平配向処理を施すことができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、電圧印加時に光の波長以下の配向秩序を有するようにすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質に、液晶性物質を含ませることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、キュービック対称性を示す秩序構造を有するようにすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、キュービック相またはスメクチックD相を示す分子からなるようにすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、液晶マイクロエマルションからなるようにすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、またはキュービック相を示すリオトロピック液晶からなるようにすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、ミセル相、逆ミセル相、スポンジ相、またはキュービック相を示す液晶微粒子分散系からなるようにすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、デンドリマーからなるようにすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、コレステリックブルー相を示す分子からなるようにすることができる。
また、本発明に関連する表示装置では、上記媒質が、スメクチックブルー相を示す分子からなるようにすることができる。