JP4392787B2 - 広域３次元かみ合い歯形を有する波動歯車装置 - Google Patents

Description

本発明は、波動歯車装置に用いられる剛性内歯車および可撓性外歯車における歯の形状の改良に関するものである。

波動歯車装置は、C．W．Musserによって発明され（特許文献１）、それ以来、今日まで同氏を始め、本願の発明者を含め多くの研究者によって各種の波動歯車装置についての発明がなされている。波動歯車装置の歯形に関する発明に限っても、各種のものが提案されている。例えば、本願の発明者は、基本歯形をインボリュート歯形とすることや（特許文献２）、剛性内歯車と可撓性外歯車の歯の噛み合いをラックで近似する手法で、広域接触を行う双方の歯末歯形を導く歯形設計法を提案している（特許文献３、４）。一方、ラック近似で生ずる歯形干渉を回避する発明も提案されている（特許文献５）。
米国特許第２９０６１４３号公報 特公昭４５−４１１７１号公報 特開昭６３−１１５９４３号公報 特開昭６４−７９４４８号公報 特開平７−１６７２２８号公報

現在、波動歯車装置の性能向上を望む市場の強い要求があり、特に負荷能力の向上が望まれている。波動歯車装置の負荷能力を支配する主な要素は、可撓性外歯車の歯底リムの疲労強度と波動発生器の内輪転動面、特にその長軸付近の個所の疲労強度である。

本発明の課題は、この２箇所に生ずる応力を軽減可能な歯形を備えた波動歯車装置を提案することにある。

本発明が対象としている波動歯車装置は、剛性内歯車と、可撓性外歯車と、前記可撓性外歯車を楕円状に撓めて前記剛性内歯車に部分的に噛み合わせ、両歯車のかみ合い位置を周方向に移動させる波動発生器とを有し、前記可撓性外歯車が、円筒状の胴部と、この胴部の一端から半径方向の外側あるいは内側に延びているダイヤフラムと、前記胴部の他端の開口部における外周面部分に形成された外歯とを備え、前記波動発生器によって、前記胴部は前記ダイヤフラムの側から前記開口部への距離にほぼ比例して半径方向への撓み量が増加するように楕円状に撓められる形式のものである。

本発明では、この形式の波動歯車装置において、
平歯車としての前記可撓性外歯車の歯形主要部を円弧とし、
前記可撓性外歯車の前記開口部の軸直角断面上において、両歯車の歯のかみ合いの中心を当該可撓性外歯車の楕円状リム中心線の長軸より離れた点とし、
このかみ合い中心でのリム中立線の接線の傾斜角をθ、前記可撓性外歯車と前記剛性内歯車の歯数をそれぞれｚ_F、ｚ_C、前記可撓性外歯車の歯山中心線上で、前記かみ合い中心の歯形法線が歯山中心線と交わる点とリム中立線上の点との距離をｈ、変形前のリム中立円の半径をｒ_nとして、前記開口部の撓み量ｗを次式

で与え、
前記かみ合い中心で前記可撓性外歯車の円弧歯形が前記剛性内歯車に創成する歯形またはその近似歯形を当該剛性内歯車の第一歯形とし、
前記第一歯形に接続する歯先にかけての第二歯形を、前記可撓性外歯車の外歯における前記ダイヤフラム側の端部の軸直角断面上で、前記可撓性外歯車の円弧歯形が前記剛性内歯車に創成する歯形またはその近似歯形とすることを特徴としている。

ここで、前記剛性内歯車の第一歯形を、前記可撓性外歯車の前記開口部の軸直角断面上で当該可撓性外歯車の円弧歯形に対応するオイラー・サバリ式を満たす大きさ以上の半径を持つ円弧歯形またはそれに近似のインボリュート歯形とすることも可能である。

すなわち、本発明では、可撓性外歯車の主要歯形を円弧とし、可撓性外歯車の開口部における当該可撓性外歯車のリム中立曲線の長軸より離れた位置をかみ合いの主位置に選ぶ。このかみ合いの主位置をリム中立曲線の傾斜角θで与える。また、この点でのリム中立曲面の母直線（変形前のリム中立円筒面の母直線）の可撓性外歯車の軸直角断面への投影直線の方向を可撓性外歯車の円弧歯形の方向とする。この円弧歯形が接触の条件を満たすように可撓性外歯車の開口部の撓み量を選ぶことにより、歯当たりを開口部より内端にかけて歯筋方向にも延ばして、剛性内歯車の第一歯形を規定する。さらに可撓性外歯車の内端（ダイヤフラム側の端）の軸直角断面で、当該可撓性外歯車の円弧歯形と連続接触のかみ合いを行うように、剛性内歯車の第二歯形を規定する。

このように両歯車の歯形を規定することにより、両歯形の広域かみ合いを実現し、歯底リムの応力および波動発生器の内輪転動面の長軸付近の応力を低減し、以って、波動歯車装置の負荷能力を高めるようにしている。

本発明によれば、可撓性外歯車の開口部位置での両歯車の歯のかみ合いの主領域を可撓性外歯車の長軸を離れた位置に設定し、開口部断面内の歯形の連続接触を可能とし、かつ歯筋に沿った歯当たり、および外歯の内端断面位置における連続接触を実現することができる。従って、可撓性外歯車のリムに生ずる歯のかみ合いによる応力を低減できる。また、可撓性外歯車の楕円変形による長軸近傍の曲げ応力と歯のかみ合いによる引張り応力との重畳を避けることができる。この結果、波動発生器の球荷重分布が平均化されると共に極大値も長軸近傍を避けた分布となる。よって、波動歯車装置の負荷能力を大きく高めることができる。

以下に、図面を参照して、本発明を詳細に説明する。

まず、図１は本発明を適用可能なコップ型の波動歯車装置を示す概略正面図であり、図２はそのコップ状の可撓性外歯車の撓み状態を示すための説明図である。波動歯車装置１は、円環状の剛性内歯車２と、この内側に同心状態に配置されたコップ状の可撓性外歯車３と、楕円形輪郭の波動発生器４とを備えている。コップ状の可撓性外歯車３は、円筒状胴部３１と、その一端を封鎖しているダイヤフラム３２と、このダイヤフラム３２の中心部分に一体形成されたボス３３と、胴部３１の開口部３１ａの側の外周面部分に形成された外歯３４とを備えている。

図２に示すように、波動発生器４を挿入する前においてはコップ状の可撓性外歯車３の胴部３１は円筒形状であるが、楕円形輪郭の波動発生器４がその開口部３１ａの側に嵌め込まれた状態では、開口部３１ａの側の部分が楕円形に撓み、楕円形の長軸方向においては外側に撓み、その短軸方向においては内側に撓む。胴部３１の撓み量は、ダイヤフラム３２側の端から開口部３１ａへの距離に比例して増加し、開口部３１ａにおいて最も大きくなる。

なお、図２において点線で示すように、胴部３１の端から外側に広がったダイヤフラム３２Ａと、その外周縁に一体形成された円環状のボス３３Ａを備えた形成のシルクハット状の可撓性外歯車を有する波動歯車装置も知られている。このシルクハット型の波動歯車装置についても本発明を同様に適用できる。

以下の説明では、剛性内歯車２と可撓性外歯車３の歯数差ｚ_c−ｚ_Fが２ｎ（ｎは正の整数）であるとする。また、可撓性外歯車２の開口部３１ａのリム中立線の形状が、半径がｒ_nの真円に全振幅２κｍ（κは撓み係数、ｍはモジュール）の２ｎ波長の波を重畳した接線極座標による次式で与えられる近似の楕円形状であるとする。

ｐ＝ｒ_n＋ｗcos(2θ) （0≦θ≦2π）
ここに、 ｐ：座標原点Ｏからリム中立線の接線に下ろした垂線の長さ
ｒ_n：リム中立線の変形前の真円の半径
ｗ：リム中立線の長軸及び短軸上の撓み量（ｗ＝κｍ）
θ：リム中立線の接線（法線）の短軸（長軸）に対する傾き角

図３は、可撓性外歯車３の胴部３１のリム中立曲面の開口部３１ａからダイヤフラム３２に至る、複数の軸直角断面上のリム中立曲線を、開口部断面上に軸方向に投影した図である。同図で真円は胴部３１のダイヤフラム側の端３１ｂ、曲線ｅは開口部３１ａのそれぞれの断面のリム中立曲線の投影を示す。ｗは両歯数ｚ_C、ｚ_Fに応じて定める開口部断面の撓み量を示す。図中の複数の曲線ｆは、近似的に変形前の円筒を呈したリム中立曲面（リム中立円筒面）の円筒母線の数個所の近似の投影曲線を示したものである。

先ず開口部断面で主かみ合い領域の代表点Ｐを同断面のリム中立線ｅ上に長軸を離れて定める。点Ｐで中立線の接線の傾斜角θを求める。θは０°から45°の範囲に取る。点Ｐを通る近似の投影曲線ｇを引き、点Ｐにおけるｇの接線ｔを引く。接線ｔの長軸に対する傾き角λは、リム中立線上のθの関数として次式で求められる。

本発明の主眼の一つは、この中立円筒母線の近似の投影曲線ｇに引いた接線ｔへの法線ｊが両歯形の接触点における歯形の共通法線の方向と一致するように、両歯形の圧力角を定めることにある。こうすれば開口部断面より内端にかけて、レリービング無しに歯筋方向のかみ合いがほぼ実現できる。これは歯筋に沿っての可撓性外歯車の歯形の移動を想像するとき、この条件があれば、歯筋方向のかみ合いが実現できることになるからである。

図４は、開口部断面の主かみ合い領域における両歯車の歯の接触点Ｅにおける相対運動の関係を示す説明図である。

ここで、可撓性外歯車３の一歯と剛性内歯車２の歯とがかみ合うときの相対運動の瞬間中心をＱとするとき、点Ｅにおける両歯車の歯形の共通法線ｎが点Ｑを通ることが、点Ｅでかみ合うための必要条件である。

この条件を導入すると、θを与えるとき、自ずと撓み量ｗが定まることになる。すなわち主かみ合い領域を決める開口部断面のリム中立線上で、リム中立線の接線の傾斜角θと可撓性外歯車３の撓み量ｗとは互いに関連した変数で、両者の関係は以下の考察から導かれる。

θの位置に該当する可撓性外歯車３の一歯Ｔに、リム中立線と歯山中心線（これはリム中立線への法線ｌ_Rと一致する）の交点Ｐを原点とする座標軸ｘ_F、ｙ_Fを設ける。波動発生器４を固定し、可撓性外歯車３で剛性内歯車２を駆動する場合を考える。点Ｐでのリム中立線の法線ｌ_R上にある中立線の曲率中心Ｃは、この瞬間における可撓性外歯車３の一歯Ｔの動きの瞬間中心である。このときの歯Ｔの瞬間回転速度は、可撓性外歯車３の定常回転速度から定まるリム中立線の周速から求められる。一方、剛性内歯車２の回転は定常的で、その中心は原点Ｏであり、その瞬間回転速度は、通常の歯車と同様、可撓性外歯車３の定常回転速度との比が歯数比の逆数に等しいという関係にある。

従って、可撓性外歯車３の一歯Ｔと剛性内歯車２の相対運動の瞬間中心ＱはＯＣの延長線上、ＯＣを両者の瞬間回転速度の逆比に外分する位置にある。可撓性外歯車３の歯の接触点Ｅと点Ｑを結ぶと、ＱＥは歯形の接触法線となる。

以上のことから、点Ｅにおける接触法線の横軸となす角ξは、接触法線がｙ_F軸と交わる点のｙ_F座標をｈとして次式で求められる。

ここでξ＝λ（λについては図３参照）という条件をつけると、上述のｗとθの関係が次のように求められる。

このように定めた可撓性外歯車３の円弧歯形の剛性内歯車２に対する創成運動によって創成される歯形またはその近似歯形（例えばインボリュート歯形）を剛性内歯車２の第一歯形とする。この際、円弧歯形の半径については以下の配慮を必要とする。

即ちＱで互いに接する、両者の運動を表す両者それぞれに固定したピッチ曲線（通常の歯車のピッチ円に当たる）を考え、点Ｑでの両ピッチ曲線に共通の接線ｌとＯＱとのなす角をψとし、ＱＥと角ψをなす直線ｓを引く。

このｓ上に点Ｒを取り、ＲをそれぞれＣ、Ｏと結び、その延長線とＱＥとの交点をそれぞれＡ、Ｂとする。このとき点Ａ、Ｂが可撓性外歯車３と剛性内歯車２の歯形のＥ点における曲率中心となることが、変速比歯車で成立するオイラー・サバリの定理によって示される。

この場合可撓性外歯車３の歯形は凸歯形であり、したがってその曲率中心Ａは図のように選ばれるがその半径を選ぶに当たっては、オイラー・サバリの定理から定まる剛性内歯車２の被創成歯形の曲率円が凹円弧となるような配慮が必要である。また、剛性内歯車２の被創成歯形を近似曲線たとえばインボリュート曲線で置き換える場合も、主接触点Ｅでの曲率円の半径をオイラー・サバリの定理から定まる剛性内歯車２の被創成歯形の曲率円半径以上とする。

図５は、可撓性外歯車３の開口部の軸直角断面における可撓性外歯車３の円弧歯形が剛性内歯車２の第一歯形とかみ合っている図である。即ち円弧歯形の創成運動によって剛性内歯車２の第一歯形が創成されている。図は歯数がｚ_F＝８０、ｚ_C＝８２で、開口部断面の撓み係数がκ＝0.816、主かみ合い領域を示す角がθ＝20°の場合である。

図６は歯幅の中間部断面におけるかみ合い状態を示す図であり、干渉の無いかみ合いを示している。

図７は歯幅の内端におけるかみ合いで、可撓性外歯車３の円弧歯形が剛性内歯車２の第二歯形とかみ合っている図である。

以上により、開口部断面を含む各断面のかみ合いは、長軸を離れた個所（予め与えた領域角θを有するリム中立線の接線の個所）を中心として行われる。

従って可撓性外歯車３のリムの楕円変形による曲げ応力が最大となる長軸の個所に歯のかみ合いによる応力が重畳されることはなく、開口部断面における歯のかみ合いによる応力は、楕円変形による曲げ応力が減少する個所に現れ、歯筋方向にも歯当たりが広がる効果と内端の軸直角断面における可撓性外歯車３の円弧歯形の創成運動による剛性内歯車２の第二歯形とのかみ合い効果と相俟って、それだけ可撓性外歯車３の負荷能力を高めることとなる。

本発明は、歯にかかる荷重の半径方向の成分がその歯の下部にある波動発生器４の球にかかるので、歯面荷重の広がりは波動発生器４の球荷重の分布にも好影響を与える。すなわち、楕円変形による長軸近傍の最大曲げ応力の生起は波動発生器４の内輪についても同様であり、その個所への歯面荷重による球荷重の重畳を回避できるからである。

コップ型の波動歯車装置の一例を示す概略の正面図である。 コップ状あるいはシルクハット状の可撓性外歯車の撓み状況を含軸断面で示す説明図であり、（ａ）は変形前の状態、（ｂ）は該歯車の長軸を含む断面であり、（ｃ）は短軸を含む断面である。 歯筋方向の歯当たりを実現する手法の説明図である。 歯形形成のもととなる可撓性外歯車と剛性内歯車の開口部断面における歯のかみ合いの機構学的関係を示す説明図である。 本発明による開口部断面における歯形のかみ合いの一例を示すものである。 本発明による中間部断面における歯形のかみ合いの一例を示すものである。 本発明による内端断面における歯形のかみ合いの一例を示すものである。

符号の説明

１ 波動歯車装置
２ 剛性内歯車
３ 可撓性外歯車
３１ 胴部
３１ａ 開口部
３１ｂ 内端
３２、３２Ａ ダイヤフラム
３３、３３Ａ ボス
３４ 外歯
４ 波動発生器

Claims (2)

1. 剛性内歯車と、可撓性外歯車と、前記可撓性外歯車を楕円状に撓めて前記剛性内歯車に部分的に噛み合わせ、両歯車のかみ合い位置を周方向に移動させる波動発生器とを有し、
   前記可撓性外歯車は、円筒状の胴部と、この胴部の一端から半径方向の外側あるいは内側に延びているダイヤフラムと、前記胴部の他端の開口部における外周面部分に形成された外歯とを備え、前記波動発生器によって、前記胴部は前記ダイヤフラムの側から前記開口部への距離にほぼ比例して半径方向への撓み量が増加するように楕円状に撓められる波動歯車装置において、
   平歯車としての前記可撓性外歯車の歯形主要部を円弧とし、
   前記可撓性外歯車の前記開口部の軸直角断面上において、両歯車の歯のかみ合いの中心を当該可撓性外歯車の楕円状リム中心線の長軸より離れた点とし、
   このかみ合い中心でのリム中立線の接線の傾斜角をθ、前記可撓性外歯車と前記剛性内歯車の歯数をそれぞれｚ_F、ｚ_C、前記可撓性外歯車の歯山中心線上で、前記かみ合い中心の歯形法線が歯山中心線と交わる点とリム中立線上の点との距離をｈ、変形前のリム中立円の半径をｒ_nとして、前記開口部の撓み量ｗを次式
   

   

   で与え、
   前記かみ合い中心で前記可撓性外歯車の円弧歯形が前記剛性内歯車に創成する歯形またはその近似歯形を当該剛性内歯車の第一歯形とし、
   前記第一歯形に接続する歯先にかけての第二歯形を、前記可撓性外歯車の外歯における前記ダイヤフラム側の端部の軸直角断面上で、前記可撓性外歯車の円弧歯形が前記剛性内歯車に創成する歯形またはその近似歯形とすることを特徴とする波動歯車装置。
2. 請求項１において、
   前記剛性内歯車の第一歯形が、前記可撓性外歯車の前記開口部の軸直角断面上で当該可撓性外歯車の円弧歯形に対応する、変速比歯車で成立するオイラー・サバリ式を満たす大きさ以上の半径を持つ円弧歯形またはそれに近似のインボリュート歯形である波動歯車装置。

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