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JP4312325B2 - 排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法 - Google Patents

排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法 Download PDF

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JP4312325B2 JP37240099A JP37240099A JP4312325B2 JP 4312325 B2 JP4312325 B2 JP 4312325B2 JP 37240099 A JP37240099 A JP 37240099A JP 37240099 A JP37240099 A JP 37240099A JP 4312325 B2 JP4312325 B2 JP 4312325B2
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  • Electrical Control Of Air Or Fuel Supplied To Internal-Combustion Engine (AREA)
  • Combined Controls Of Internal Combustion Engines (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車やハイブリッド車に搭載される触媒装置等、排ガス浄化用の触媒装置の劣化状態を判別する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関の排気通路に備えた触媒装置等、燃料と空気との混合気の燃焼により生成される排ガスを浄化する触媒装置の劣化状態を判別する手法としては、例えば特許公報第2526640号や特開平7−19033号公報に見られる技術が従来より知られている。
【0003】
これらの技術は、内燃機関の空燃比(より詳しくは内燃機関で燃焼した混合気の空燃比)が燃料のリーン側からリッチ側、あるいはリッチ側からリーン側に変化したとき、触媒装置の上流側及び下流側にそれぞれ設けた酸素濃度センサ(O2センサ)の出力が反転することを利用したものである。より詳しくは、これらの技術では、内燃機関の特定の運転条件下で、空燃比を積極的にリーン側からリッチ側、あるいはリッチ側からリーン側に変化させる。さらに、このとき、上流側の酸素濃度センサの出力が反転してから下流側の酸素濃度センサの出力が反転するまでの時間や、下流側の酸素濃度センサの反転周期等を計測する。そして、それらの計測値に基づき触媒装置の劣化状態を判別するようにしている。
【0004】
尚、これらの技術では、内燃機関の通常的な運転状態(触媒装置の劣化状態の判別を行わない運転状態)では、内燃機関の空燃比が理論空燃比近傍に保たれるように前記酸素濃度センサの出力の反転に応じて空燃比をフィードバック制御し、
これにより、触媒装置の適正な浄化性能を確保するようにしている。
【0005】
しかしながら、上記のような触媒装置の劣化状態の判別手法では、次のような不都合を生じるものとなっていた。
【0006】
すなわち、前記の技術では、触媒装置の劣化状態を判別するためには、内燃機関の空燃比を積極的にリーン側、あるいはリッチ側に変化させる必要がある。このため、触媒装置の適正な浄化性能を確保するように内燃機関の空燃比をフィードバック制御している状態では、触媒装置の劣化状態を判別することができない。
また、その判別の際には、触媒装置の適正な浄化性能を確保することが困難である。
【0007】
また、前記の技術では、触媒装置の劣化状態の判別を行い得る内燃機関の運転状態、あるいはそれに伴う排ガスの生成状態が特別な状態に限定される。具体的には、前記特許公報第2526640号のものでは、内燃機関の出力増量を行う際で、且つその出力増量の開始時点における下流側O2センサの出力が空燃比のリーン側の出力となっている場合、並びに、内燃機関の燃料カットを行う際で、且つその燃料カットの開始時点における下流側O2センサの出力が空燃比のリッチ側の出力となっている場合にしか触媒装置の劣化状態の判別を行うことができない。また、前記特開平7−19033号公報のものでは、内燃機関の負荷(吸入空気量、絞り弁開度、燃料噴射量、吸気圧力等)及び回転数が所定範囲内にあること、吸入空気温度が設定値以上であること、内燃機関の負荷の変化量が設定値以下であること等の条件が満たされた場合にしか、触媒装置の劣化状態の判別を行うことができない。このため、自動車の内燃機関の排気通路に備えた触媒装置等、触媒装置に供給する排ガスを生成する内燃機関の運転状態、あるいは該排ガスの生成状態が種々様々なものとなるような場合には、触媒装置の劣化状態の判別を行い得る機会が少ないものとなることが多く、その判別結果の信頼性に欠けるものとなりやすい。
【0008】
尚、本願出願人は、触媒装置の上流側に内燃機関で燃焼した混合気の空燃比を表す出力を発生する第1排ガスセンサを設けると共に、触媒装置の下流側に排ガス中の特定成分の濃度、例えば酸素濃度を表す出力を発生する第2排ガスセンサを設け、それらのセンサの出力に基づき、触媒装置の最適な浄化性能が得られるように内燃機関の空燃比をフィードバック制御するシステムを先に提案している(例えば特開平9−324681号公報、特開平11−93740号等)。
【0009】
このシステムは、前記第2排ガスセンサの出力(酸素濃度の検出値)が所定の一定値となるように内燃機関の目標空燃比を決定し、その目標空燃比に第1排ガスセンサの出力(空燃比の検出値)が収束するように内燃機関の空燃比をフィードバック制御することで、触媒装置の最適な浄化性能を確保するものである。
【0010】
かかるシステムでは、上記のような空燃比制御によって、触媒装置の最適な浄化性能を安定して確保することができるため、その空燃比制御を行いつつ、触媒装置の劣化状態を評価できることが望まれる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、触媒装置により浄化する排ガスの生成状態、あるいは該排ガスを生成する内燃機関の運転状態等の種々様々の状況下で触媒装置の劣化状態を適正に判別することができる排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法を提供することを目的とする。
【0012】
そして特に、内燃機関の排気通路に備えた触媒装置の所要の浄化性能を確保しつつ、該触媒装置の劣化状態を適正に判別することができる排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法はかかる目的を達成するために、燃料と空気との混合気の燃焼により生成された排ガスを浄化する触媒装置の劣化状態を評価する方法であって、前記触媒装置の上流側と下流側とにそれぞれ排ガスの成分状態に応じた出力を発生する第1排ガスセンサ及び第2排ガスセンサを配置してなる排気通路に、その上流側から前記混合気の燃焼により生成した排ガスを供給する排ガス供給工程と、前記排気通路への排ガスの供給時に前記第1及び第2排ガスセンサのそれぞれの出力のデータを取得する検出工程と、前記排気通路における前記第1排ガスセンサから第2排ガスセンサまでの前記触媒装置を含む排気系を対象とし、該対象排気系の挙動を表現するものとしてあらかじめ構築した該対象排気系のモデルに対し、該モデルの設定すべき少なくとも一つのパラメータの値を前記検出工程で取得した前記第1及び第2排ガスセンサの出力のデータに基づき逐次同定する同定工程と、該同定工程で求めた前記モデルのパラメータの同定値の時系列データのばらつき度合いを表すデータを劣化評価パラメータとして、該劣化評価パラメータを前記同定値の時系列データから求め、その求めた劣化評価パラメータの値に基づき前記触媒装置の劣化状態を評価する劣化評価工程とから成ることを特徴とする。
【0014】
すなわち、本願発明者等の各種検討によれば、前記第1排ガスセンサから第2排ガスセンサまでの前記触媒装置を含む前記対象排気系の挙動を表現するモデルを構築しておき、そのモデルの設定すべき前記パラメータ(モデルの挙動を規定する上で、ある値に設定すべきパラメータ)の値を、前記排気通路に排ガスを供給しつつ取得した両排ガスセンサの出力のデータに基づいて逐次同定したとき、該パラメータの同定値の時系列データは、触媒装置の劣化状態に対して、ある特徴的な傾向を生じる。すなわち、該パラメータの同定値の時系列データは、触媒装置の劣化度合いが小さい状態では、その値の変動幅が小さいが、触媒装置の劣化度合いが大きくなると、その値の変動幅が比較的大きくなる。つまり、触媒装置の劣化の進行に伴い、前記同定工程で求める前記モデルのパラメータの同定値のばらつきが大きくなる傾向がある。これは前記対象排気系のモデルと該対象排気系の実際の挙動特性との整合性が触媒装置の劣化の進行に伴い低下するためと考えられる。
【0015】
そこで、本発明では、前記劣化評価工程では、前記モデルのパラメータの同定値の時系列データのばらつき度合いを表すデータを劣化評価パラメータとして、該劣化評価パラメータを前記同定値の時系列データから求め、その求めた劣化評価パラメータの値に基づき前記触媒装置の劣化状態を評価する。これにより、触媒装置の劣化状態の評価を、触媒装置に供給する排ガスの生成状態、あるいは該排ガスを生成する内燃機関の運転状態等の種々様々の状況下で行うことが可能となる。
【0016】
かかる本発明では、好ましくは、前記第1排ガスセンサは、前記触媒装置に進入する排ガスを生成した前記混合気の空燃比を表す出力を発生するセンサであり、前記第2排ガスセンサは、前記触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の含有量を表す出力を発生するセンサである。
【0017】
これらのセンサを第1及び第2排ガスセンサとして採用した前記対象排気系のモデルのパラメータの値を、前記排気通路への排ガス供給時における該第1及び第2排ガスセンサの出力のデータに基づいて同定したとき、その同定値の、触媒装置の劣化状態に対する前述のような傾向が比較的顕著に現れ易い。このため、該パラメータの同定値の時系列データのばらつき度合いを表す前記劣化評価パラメータに基づく劣化状態の評価が容易になる。
【0018】
また、本発明では、前述の如く、触媒装置に供給する排ガスの生成状態、あるいは該排ガスを生成する内燃機関の運転状態等の種々様々の状況下で触媒装置の劣化状態の評価を行うことが可能となるので、前記触媒装置は、前記混合気を内部で燃焼させる内燃機関の排気通路に設けられた触媒装置である場合に好適である。
【0019】
この場合、特に、前述のように前記第1排ガスセンサが、前記混合気の空燃比を表す出力を発生するセンサであり、前記第2排ガスセンサが、前記触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の含有量を表す出力を発生するセンサである場合には、前記内燃機関の運転による前記排気通路への排ガスの供給時に前記第2排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように該内燃機関の空燃比を制御する空燃比制御工程を備え、前記同定工程及び劣化評価工程は、該空燃比制御工程と並行して行うことが好ましい。
【0020】
すなわち、触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の含有量を表す前記第2排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように内燃機関の空燃比(より詳しくは、内燃機関で燃焼させる混合気の空燃比)を制御することで、触媒装置による内燃機関の排ガスの所要の浄化性能を確保することが可能となる。そして、かかる空燃比の制御と並行して前記同定工程及び劣化評価工程を行うことで、内燃機関の運転時に、触媒装置による排ガスの所要の浄化性能を確保しつつ、触媒装置の劣化状態を評価することができる。
【0021】
尚、この場合に、前記第2排ガスセンサとして例えば酸素濃度センサ(O2センサ)を採用したときには、該センサの出力を所定の一定値に維持するように内燃機関の空燃比を制御することで触媒装置の最適な浄化性能が得られる。
【0022】
上記の空燃比制御工程は、前記第2排ガスセンサの出力を前記目標値に収束させるように前記内燃機関の目標空燃比を算出する工程と、前記第1排ガスセンサの出力により表される空燃比を前記目標空燃比に収束させるように該内燃機関の空燃比をフィードバック制御する工程とから成ることが好適である。
【0023】
このような空燃比制御を行うことで、前記第1排ガスセンサが検出する空燃比を、触媒装置の所要の浄化性能を確保する上で適正な空燃比、すなわち前記目標空燃比に安定して制御することができる。また、空燃比の制御が安定することで、前記同定工程で前記パラメータの値を同定するために用いる第1及び第2排ガスセンサの出力のデータの挙動も滑らかなものとなる。この結果、前記同定工程で求める前記パラメータの同定値に、触媒装置の劣化状態以外の外乱等の影響が作用するのを低減することができる。このため、同定値の時系列データのばらつき度合いを表す前記劣化評価パラメータに基づく触媒装置の劣化状態の評価もより適正に行うことができる。
【0024】
前記目標空燃比は、PID制御器等を用いて算出することも可能であるが、スライディングモード制御器により算出することが好ましい。
【0025】
すなわち、スライディングモード制御器は一般に、PID制御器等に較べて外乱等の影響を受けにくいという優れた性質を有している。このようなスライディングモード制御器により前記目標空燃比を算出することで、空燃比の制御の安定性がより向上する。この結果、触媒装置の所要の浄化性能の確保がより確実なものなる。同時に、前記同定工程で求める前記パラメータの同定値に触媒装置の劣化状態以外の外乱等の要因の影響が作用するのを極力抑制することができるため、該同定値の時系列データのばらつき度合いを表す劣化評価パラメータが触媒装置の劣化状態との間に顕著な相関性を有するものとしての信頼性が高まる。このため、該劣化評価パラメータに基づく触媒装置の劣化状態の評価もより適正に行うことができる。
【0026】
また、上記のように触媒装置の劣化状態の評価と並行して、内燃機関の空燃比制御を行う本発明にあっては、前記目標空燃比は、前記同定工程で求める前記パラメータの同定値のデータを用いてあらかじめ定められたアルゴリズムにより算出することが好ましい。
【0027】
すなわち、前記パラメータの同定値は、前記対象排気系の実際の挙動特性を反映するため、この同定値を用いて、前記第2排ガスセンサの出力を前記目標値に収束させるための前記目標空燃比を算出することで、該目標空燃比の精度を高めることができる。この結果、触媒装置の所要の浄化性能の確保がより確実なものになる。
【0028】
さらに前記内燃機関の空燃比のフィードバック制御は、PID制御器等により行うことも可能であるが、本発明では該フィードバック制御は、漸化式形式の制御器により行うことが好ましい。
【0029】
このように内燃機関の空燃比のフィードバック制御を漸化式形式の制御器(具体的には、例えば適応制御器)により行うことで、PID制御器等を用いる場合に比して、内燃機関の特性変化等の影響を抑えつつ、前記第1排ガスセンサが検出する空燃比をより精度よく前記目標空燃比にフィードバック制御することができる。ひいては、触媒装置の所要の浄化性能の確保がより確実なものなると同時に、前記同定工程で求める前記パラメータの同定値のばらつき度合いを表す劣化評価パラメータの信頼性も高まり、該劣化評価パラメータに基づく触媒装置の劣化状態の評価もより適正に行うことができる。
【0030】
尚、前記漸化式形式の制御器は、前記第1排ガスセンサの出力により表される空燃比を目標空燃比に収束させるための内燃機関の空燃比の操作量(より具体的には、例えば内燃機関の燃料供給量の操作量)の現在以前の過去の時系列データを含む所定の漸化式により新たな操作量を決定し、その操作量により内燃機関の空燃比を制御するものである。
【0031】
かかる本発明では、前記モデルは、より具体的には、前記対象排気系を、前記第1排ガスセンサの出力から応答遅れ要素及び/又は無駄時間要素を介して前記第2排ガスセンサの出力を生成する系として離散時間系で表現したモデルであり、前記第1排ガスセンサの出力に係わる係数と、前記第2排ガスセンサの出力に係わる係数とのうちの少なくとも一つを前記同定工程で同定する前記パラメータとして含む。
【0032】
尚、前記モデルは、数式的には、例えば所定の制御サイクル毎の第2排ガスセンサの出力をその制御サイクルよりも過去の制御サイクルにおける第2排ガスセンサの出力と第1排ガスセンサの出力とそれらのセンサの各出力に係る係数とにより表現するモデルである。この場合、上記過去の制御サイクルにおける第2排ガスセンサの出力が応答遅れ要素に対応するものとなる。また、上記モデルにおける第1排ガスセンサの出力として例えば対象排気系が有する無駄時間以前の制御サイクルにおける第1排ガスセンサの出力を用いたとき、それが無駄時間要素に対応するものとなる。
【0033】
このように前記対象排気系のモデルを構築し、そのモデルで用いる前記係数をパラメータとして、前記第1及び第2排ガスセンサの出力のデータに基づき該係数の値を同定することで、該モデルのパラメータ(係数)の同定値には、前記排気系に含まれる触媒装置の実際の挙動特性が的確に反映される。その結果、該同定値の時系列データのばらつき度合いを表す劣化評価パラメータが触媒装置の劣化状態との間に相関性を有するものとしての信頼性を確保することが可能となる。このため、該劣化評価パラメータに基づく触媒装置の劣化状態の評価を適正に行うことが可能となる。また、前記対象排気系を離散時間系でモデル化することで、前記パラメータ(係数)の値をリアルタイムで同定することが可能となる。
【0034】
このように対象排気系のモデルを構築した本発明では、前記同定工程で同定する前記モデルのパラメータは、前記第1排ガスセンサの出力に係わる係数を含み、前記劣化評価工程は、該第1排ガスセンサの出力に係わる係数の同定値の時系列データから求めた前記劣化評価パラメータの値に基づき前記触媒装置の劣化状態を評価することが好適である。
【0035】
すなわち、前記対象排気系もモデルにおいて、第1排ガスセンサの出力に係わる係数の同定値と、第2排ガスセンサの出力に係わる係数の同定値とを比較したとき、前者の同定値の時系列データの方が、触媒装置の劣化状態に対して前述のような傾向をより顕著に生じやすい。従って、第1排ガスセンサの出力に係わる係数の同定値の時系列データから求められる前記劣化評価パラメータの値に基づき触媒装置の劣化状態を評価することで、該評価をより適正に行うことができる。
【0036】
また、上記のように対象排気系のモデルを構築した本発明では、前記同定工程は、前記モデル上での前記第2排ガスセンサの出力と該第2排ガスセンサの実際の出力との間の誤差を最小化するように前記パラメータの値を逐次更新しつつ同定するアルゴリズムにより構成され、前記誤差の算出に際して前記モデル上での第2排ガスセンサの出力と該第2排ガスセンサの実際の出力とに同一の周波数通過特性のフィルタリングを施す。
【0037】
これによれば、前記触媒装置を含む実際の対象排気系と、前記モデルとでそれらの周波数特性(より詳しくは、前記第1排ガスセンサの出力(これはモデルの入力量に相当する)の変化に対する第2排ガスセンサの出力(これはモデルの出力量に相当する)の変化の周波数特性)とを整合させるようにして前記パラメータ(係数)の値を同定することが可能となる。このため、該パラメータの同定値は触媒装置を含む対象排気系の挙動特性が反映されるものとしての信頼性が高まる。従って、該同定値の時系列データのばらつき度合いを表す劣化評価パラメータに基づく触媒装置の劣化状態の評価をより適正に行うことができる。
【0038】
さらに、上記のように対象排気系のモデルを構築した本発明では、前記同定工程は、前記パラメータの値を同定する処理を前記対象排気系の特定の挙動に応じて行うことが好ましい。
【0039】
すなわち、前記排気系の挙動状態によっては、前記パラメータの同定値が信頼性に欠けるものとなる場合がある。従って、前記同定工程は、前記パラメータの値を同定する処理を前記対象排気系の特定の挙動(例えば排ガスの酸素濃度により把握される混合気の空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動)に応じて行うことで、前記パラメータの同定値が対象排気系の挙動特性を反映するものとしての信頼性を高めることができる。ひいては、該同定値の時系列データのばらつき度合いを表す劣化評価パラメータに基づく触媒状態の劣化状態の評価の信頼性を高めることができる。
【0040】
尚、この場合、前記第2排ガスセンサの出力の現在以前の所定数の時系列データによって定まる所定の関数の値に基づき、前記排気系の特定の挙動を認識することが可能である。
【0041】
また、本発明では、前記同定工程は、前記パラメータの同定値にリミット処理を施す工程を有することが好ましい。
【0042】
これによれば、触媒装置の劣化状態以外の外乱等の影響による不自然な同定値が前記同定工程で求められる事態を回避することが可能となる。その結果、前記劣化評価パラメータに基づく触媒装置の劣化状態の評価結果の信頼性が高まる。また、特に、ノイズ的な同定値が求められるのが排除されることによって、該同定値を用いた内燃機関の空燃比の制御を行う場合には、その空燃比の制御の安定性をより高めることができる。
【0043】
また、本発明では、前記同定工程は、前記第1排ガスセンサの実際の出力と所定の基準値との偏差、及び前記第2排ガスセンサの実際の出力と所定の基準値との偏差をそれぞれ前記第1及び第2排ガスセンサの出力のデータとして用いて該データに基づき前記パラメータの同定値を算出することが好ましい。
【0044】
このように前記パラメータの同定値の算出に際して、前記第1排ガスセンサの実際の出力と所定の基準値との偏差、及び前記第2排ガスセンサの実際の出力と所定の基準値との偏差をそれぞれ前記第1及び第2排ガスセンサの出力のデータとして用いることで、該同定値の算出のためのアルゴリズの構築が比較的容易なものとなると共に、該同定値の精度も高めることが可能となる。
【0045】
尚、前述したように、第1排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように前記内燃機関の空燃比を制御する場合には、該第1の排ガスセンサに関する前記所定の基準値は、上記目標値に設定することが特に好適である。
【0046】
以上説明した本発明にあっては、前記劣化評価工程は、より具体的には、前記劣化評価工程は、前記パラメータの同定値の時系列データにローパス特性のフィルタリング処理を施すことにより前記同定値の中心値を求め、該中心値と前記同定値の時系列データの各データ値との偏差から前記劣化評価パラメータを求める。
【0047】
すなわち、前記モデルのパラメータの同定値の時系列データにローパス特性のフィルタリング処理を施すことにより、該同定値の中心値を求めることができる。そして、前記同定値の時系列データのばらつき度合いは、上記中心値に対する同定値の時系列データの各データ値の偏差の大きさが密接に関連しているので、該偏差から前記劣化評価パラメータを求めることにより、上記ばらつき度合いを表す劣化評価パラメータを得ることができる。
【0048】
この場合、前記中心値を求めるフィルタリング処理は、逐次型の統計処理アルゴリズムによるフィルタリング処理であることが好ましい。
【0049】
このように逐次型の統計処理アルゴリズムによるフィルタリング処理よって、前記中心値を求めることによって、前記同定値の時系列データを多数記憶するメモリを必要とせずに、該同定値の中心値を少ないメモリ容量で求めることができる。
【0050】
尚、前記逐次型の統計処理アルゴリズムとしては、例えば最小二乗法、重み付き最小二乗法、漸減ゲイン法、固定ゲイン法等のアルゴリズムが好適である。
【0051】
前記劣化評価工程では、例えば個々の同定値のデータ値と前記中心値との偏差の絶対値や、該偏差の二乗値等を前記劣化評価パラメータとして得ることも可能であるが、好ましくは、前記同定値の時系列データの各データ値と前記中心値との偏差の二乗値又は絶対値にローパス特性のフィルタリング処理を施すことにより前記劣化評価パラメータを求める。
【0052】
このように、劣化評価パラメータを求めたとき、該劣化評価パラメータの値は、触媒装置の劣化状態と高い相関性を有するものとなり、触媒装置の劣化の進行に伴い単調的に増加するものとなる。また、触媒装置の各劣化状態における劣化評価パラメータの値のばらつきが小さなものとなる(触媒装置の劣化度合いと劣化評価パラメータの値との1対1に対応関係が明確になる)。このため、上記劣化評価パラメータに基づく触媒装置の劣化状態の評価を高い信頼性で精度よく行うことができる。
【0053】
この場合、前記劣化評価パラメータを求める前記フィルタリング処理は、前記同定値の中心値を求める場合と同様に、逐次型の統計処理アルゴリズムによるフィルタリング処理であることが好ましい。
【0054】
このように逐次型の統計処理アルゴリズム(好ましくは最小二乗法、重み付き最小二乗法、漸減ゲイン法、固定ゲイン法等のアルゴリズム)によるフィルタリング処理よって、前記劣化評価パラメータを求めることによって、前記偏差やその二乗値もしくは絶対値の時系列データを多数記憶するメモリを必要とせずに、前記偏差の二乗値又は絶対値の中心値としての前記劣化評価パラメータを少ないメモリ容量で求めることができる。
【0055】
また、本発明では、前記排ガス供給工程で前記排気通路に供給される排ガスの流量が略一定であるか否かを判断する工程を備え、前記劣化評価工程は、該排ガスの流量が略一定であると判断された状態で前記同定工程において求められた同定値のデータを用いて前記劣化評価用パラメータを求めることを禁止する。
【0056】
すなわち、触媒装置を備えた排気通路に供給される排ガスの流量がほぼ一定である状態では、前記第1あるいは第2排ガスセンサの出力の変動が小さいため、触媒装置の劣化が比較的大きく進行した状態であっても、前記同定工程において求められる前記パラメータの同定値のばらつきが比較的小さなものとなることがある。そして、このような状態では、該同定値の時系列データに触媒装置の劣化状態が適正に反映されないため、該時系列データから前記劣化評価パラメータを求めても触媒装置の劣化状態を評価する上で好適な劣化評価パラメータを得ることができない。このため、本発明では、排ガスの流量がほぼ一定であると判断されるような状況で求められた前記パラメータの同定値のデータを用いて前記劣化評価パラメータを求めることを禁止する。これにより、前記劣化評価パラメータの信頼性を確実に確保することができる。
【0057】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施形態を図1〜図23を参照して説明する。
【0058】
図1は本発明の一実施形態を適用する装置の全体的なシステム構成を示すブロック図である。図中、1は、例えば自動車やハイブリッド車にその車両の推進源として搭載された4気筒のエンジン(内燃機関)である。このエンジン1の各気筒毎に燃料及び空気の混合気の燃焼により生成される排ガスは、エンジン1の近傍で共通の排気管2(排気通路)に集合され、該排気管2を介して大気中に放出される。排気管2には、排ガスを浄化するために、例えば三元触媒により構成された二つの触媒装置3,4が上流側から順に介装されている。
【0059】
尚、本実施形態で劣化状態を評価する触媒装置は、上流側の触媒装置3であり、下流側の触媒装置4は省略してもよい。
【0060】
本実施形態の装置では、基本的には、触媒装置3の最適な浄化性能を確保するようにエンジン1の空燃比(エンジン1で燃焼させる燃料及び空気の混合気の空燃比)を制御する。また、この空燃比制御を行いながら、触媒装置3の劣化状態を評価する。
【0061】
そして、このような処理を行うために、触媒装置3の上流側(より詳しくはエンジン1の各気筒毎の排ガスの集合箇所)で排気管2に設けられた第1排ガスセンサとしての空燃比センサ5と、触媒装置3の下流側(触媒装置4の上流側)で排気管2に設けられた第2排ガスセンサとしてのO2センサ(酸素濃度センサ)6と、これらのセンサ5,6の出力等に基づき後述の制御処理や触媒装置3の劣化状態の評価を行う制御ユニット7とを具備している。
【0062】
尚、制御ユニット7には、前記空燃比センサ5やO2センサ6の出力の他に、エンジン1の運転状態を検出するための図示しない回転数センサや吸気圧センサ、冷却水温センサ等、各種のセンサの出力が与えられる。
【0063】
O2センサ6は、触媒装置3を通過した排ガス中の酸素濃度に応じたレベルの出力VO2/OUT(酸素濃度の検出値を示す出力)を生成する通常的なO2センサである。ここで、排ガス中の酸素濃度は、その排ガスを燃焼により生成した混合気の空燃比に応じたものとなる。そして、このO2センサ6の出力VO2/OUTは、図2に実線aで示す如く、排ガス中の酸素濃度に対応する空燃比が理論空燃比近傍の範囲Δに存するような状態で、該排ガス中の酸素濃度にほぼ比例した高感度な変化を生じるものとなる。また、その範囲Δを逸脱した空燃比に対応する酸素濃度では、O2センサ6の出力VO2/OUTは飽和して、ほぼ一定のレベルとなる。
【0064】
空燃比センサ5は、触媒装置3に進入する排ガスの酸素濃度により把握される空燃比の検出値を表す出力KACTを生成するものである。この空燃比センサ5は、例えば本願出願人が特開平4−369471号公報にて詳細に説明した広域空燃比センサにより構成されたものであり、図2に実線bで示す如く、O2センサ6よりも排ガス中の酸素濃度の広範囲にわたってそれに比例したレベルの出力を生成するものである。換言すれば、該空燃比センサ5(以下、LAFセンサ5という)は、排ガス中の酸素濃度に対応した空燃比の広範囲にわたってそれに比例したレベルの出力KACTを生成するものである。
【0065】
制御ユニット7はマイクロコンピュータを用いて構成されたものであり、エンジン1の目標空燃比KCMD(詳しくはLAFセンサ5が検出する空燃比の目標値)を算出するための演算処理、並びに触媒装置3の劣化状態を評価するための処理を担う制御ユニット7a(以下、排気側制御ユニット7aという)と、上記目標空燃比KCMDに応じてエンジン1の空燃比を制御する処理を担う制御ユニット7b(以下、機関側制御ユニット7bという)とに大別される。詳細は後述するがこれらの制御ユニット7a,7bはそれぞれの処理を各別の所定の制御サイクルで実行する。
【0066】
上記機関側制御ユニット7bを図1を参照してさらに説明する。機関側制御ユニット7bは、その機能的構成として、エンジン1への基本燃料噴射量Timを求める基本燃料噴射量算出部8と、基本燃料噴射量Timを補正するための第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDMをそれぞれ求める第1補正係数算出部9及び第2補正係数算出部10とを具備する。
【0067】
前記基本燃料噴射量算出部8は、エンジン1の回転数NEと吸気圧PBとから、それらにより規定されるエンジン1の基準の燃料噴射量(燃料供給量)をあらかじめ設定されたマップを用いて求め、その基準の燃料噴射量をエンジン1の図示しないスロットル弁の有効開口面積に応じて補正することで基本燃料噴射量Timを算出するものである。
【0068】
また、第1補正係数算出部9が求める第1補正係数KTOTALは、エンジン1の排気還流率(エンジン1の吸入空気中に含まれる排ガスの割合)や、エンジン1の図示しないキャニスタのパージ時にエンジン1に供給される燃料のパージ量、エンジン1の冷却水温、吸気温等を考慮して前記基本燃料噴射量Timを補正するためのものである。
【0069】
また、第2補正係数算出部10が求める第2補正係数KCMDMは、排気側制御ユニット7aが後述の如く算出する目標空燃比KCMDに対応してエンジン1へ流入する燃料の冷却効果による吸入空気の充填効率を考慮して基本燃料噴射量Timを補正するためのものである。
【0070】
これらの第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDMによる基本燃料噴射量Timの補正は、第1補正係数KTOTAL及び第2補正係数KCMDMを基本燃料噴射量Timに乗算することで行われ、この補正によりエンジン1の要求燃料噴射量Tcylが得られる。
【0071】
尚、前記基本燃料噴射量Timや、第1補正係数KTOTAL、第2補正係数KCMDMのより具体的な算出手法は、特開平5−79374号公報等に本願出願人が開示しているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0072】
機関側制御ユニット7bは、上記の機能的構成の他、さらに、排気側制御ユニット7aが算出する目標空燃比KCMDにLAFセンサ5の出力KACT(空燃比の検出値)を収束させるようにエンジン1の燃料噴射量を調整することでエンジン1の空燃比をフィードバック制御するフィードバック制御部14を備えている。
【0073】
このフィードバック制御部14は、本実施形態では、エンジン1の各気筒の全体的な空燃比をフィードバック制御する大局的フィードバック制御部15と、エンジン1の各気筒毎の空燃比をフィードバック制御する局所的フィードバック制御部16とに分別される。
【0074】
前記大局的フィードバック制御部15は、LAFセンサ5の出力KACTが前記目標空燃比KCMDに収束するように、前記要求燃料噴射量Tcylを補正する(要求燃料噴射量Tcylに乗算する)フィードバック補正係数KFBを逐次求めるものである。
【0075】
この大局的フィードバック制御部15は、LAFセンサ5の出力KACTと目標空燃比KCMDとの偏差に応じて周知のPID制御を用いて前記フィードバック補正係数KFBとしてのフィードバック操作量KLAFを生成するPID制御器17と、LAFセンサ5の出力KACTと目標空燃比KCMDとからエンジン1の運転状態の変化や特性変化等を考慮して前記フィードバック補正係数KFBを規定するフィードバック操作量KSTRを適応的に求める適応制御器18(図ではSTRと称している)とをそれぞれ独立的に具備している。
【0076】
ここで、本実施形態では、前記PID制御器17が生成するフィードバック操作量KLAFは、LAFセンサ5の出力KACT(空燃比の検出値)が目標空燃比KCMDに一致している状態で「1」となり、該操作量KLAFをそのまま前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるようになっている。一方、適応制御器18が生成するフィードバック操作量KSTRはLAFセンサ5の出力KACTが目標空燃比KCMDに一致する状態で「目標空燃比KCMD」となるものである。このため、該フィードバック操作量KSTRを除算処理部19で目標空燃比KCMDにより除算してなるフィードバック操作量kstr(=KSTR/KCMD)が前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるようになっている。
【0077】
大局的フィードバック制御部15は、PID制御器17により生成されるフィードバック操作量KLAFと、適応制御器18が生成するフィードバック操作量KSTRを目標空燃比KCMDにより除算してなるフィードバック操作量kstrとを切換部20で適宜、択一的に選択する。そして、選択したフィードバック操作量KLAF又はkstrを前記フィードバック補正係数KFBとして使用し、該補正係数KFBを前記要求燃料噴射量Tcylに乗算することにより該要求燃料噴射量Tcylを補正する。尚、かかる大局的フィードバック制御部15(特に適応制御器18)については後にさらに詳細に説明する。
【0078】
前記局所的フィードバック制御部16は、LAFセンサ5の出力KACTから各気筒毎の実空燃比#nA/F(n=1,2,3,4)を推定するオブザーバ21と、このオブザーバ21により推定された各気筒毎の実空燃比#nA/Fから各気筒毎の空燃比のばらつきを解消するよう、PID制御を用いて各気筒毎の燃料噴射量のフィードバック補正係数#nKLAFをそれぞれ求める複数(気筒数個)のPID制御器22とを具備する。
【0079】
ここで、オブザーバ21は、それを簡単に説明すると、各気筒毎の実空燃比#nA/ Fの推定を次のように行うものである。すなわち、エンジン1からLAFセンサ5の箇所(各気筒毎の排ガスの集合部)にかけての系を、エンジン1の各気筒毎の実空燃比#nA/FからLAFセンサ5で検出される空燃比を生成する系と考える。そして、この系を、LAFセンサ5の検出応答遅れ(例えば一次遅れ)や、LAFセンサ5で検出される空燃比に対するエンジン1の各気筒毎の空燃比の時間的寄与度を考慮してモデル化する。そして、そのモデルの基で、LAFセンサ5の出力KACTから、逆算的に各気筒毎の実空燃比#nA/Fを推定する。
【0080】
尚、このようなオブザーバ21は、本願出願人が例えば特開平7−83094号公報に詳細に開示しているので、ここでは、さらなる説明を省略する。
【0081】
また、局所的フィードバック制御部16の各PID制御器22は、LAFセンサ5の出力KACTを、前回の制御サイクルで各PID制御器22により求められたフィードバック補正係数#nKLAFの全気筒についての平均値により除算してなる値を各気筒の空燃比の目標値とする。さらに、その目標値とオブザーバ21により求められた各気筒毎の実空燃比#nA/Fの推定値との偏差が解消するように、今回の制御サイクルにおける、各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを求める。そして、局所的フィードバック制御部16は、前記要求燃料噴射量Tcylに大局的フィードバック制御部15のフィードバック補正係数KFBを乗算してなる値に、各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを乗算することで、各気筒の出力燃料噴射量#nTout(n=1,2,3,4)を求める。
【0082】
このようにして求められる各気筒の出力燃料噴射量#nToutは、機関側制御ユニット7bに備えた各気筒毎の付着補正部23により吸気管の壁面への燃料付着を考慮した補正が各気筒毎になされた後、エンジン1の図示しない燃料噴射装置に与えられる。そして、その付着補正がなされた出力燃料噴射量#nToutに従って、エンジン1の各気筒への燃料噴射が行われるようになっている。
【0083】
尚、上記付着補正については、本願出願人が例えば特開平8−21273号公報に詳細に開示しているので、ここではさらなる説明を省略する。また、図1において、参照符号24を付したセンサ出力選択処理部は、前記オブザーバ21による各気筒毎の実空燃比#nA/Fの推定に適したLAFセンサ5の出力KACTをエンジン1の運転状態に応じて選択するものである。これについては、本願出願人が特開平7−259588号公報にて詳細に開示しているので、ここではさらなる説明を省略する。
【0084】
一方、前記排気側制御ユニット7aは、LAFセンサ5の出力KACTと所定の基準値FLAF/BASEとの偏差kact(=KACT−FLAF/BASE)を求める減算処理部11と、O2センサ6の出力VO2/OUTとその目標値VO2/TARGET(O2センサ6の出力VO2/OUTに関する基準値)との偏差VO2(=VO2/OUT−VO2/TARGET)を求める減算処理部12とを備えている。
【0085】
この場合、O2センサ6の出力VO2/OUTがある所定の一定値VO2/TARGET(図2参照)に整定するような空燃比状態において、触媒装置3がその劣化状態等によらずに最適な浄化性能を発揮する。このため、本実施形態では、上記一定値VO2/TARGETをO2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETとしている。また、LAFセンサ5の出力KACTに対する前記基準値FLAF/BASEは、本実施形態では、「理論空燃比」に設定されている。
【0086】
尚、以下の説明において、前記減算処理部11,12がそれぞれ求める偏差kact,VO2をそれぞれLAFセンサ5の偏差出力kact及びO2センサ6の偏差出力VO2と称する。
【0087】
排気側制御ユニット7aはさらに、上記の偏差出力kact,VO2のデータがそれぞれLAFセンサ5の出力及びO2センサ6の出力を表すデータとして与える排気側主演算処理部13を備えている。
【0088】
この排気側主演算処理部13は、前記偏差出力kact,VO2のデータに基づいてエンジン1の目標空燃比KCMD(より詳しくはLAFセンサ5により検出する空燃比の目標値)を逐次算出する機能(以下、目標空燃比算出機能という)と、触媒装置3の劣化状態を評価する機能(以下、劣化評価機能という)とを有する。
【0089】
さらに詳しくいえば、排気側主演算処理部13の目標空燃比算出機能は、排気管2のLAFセンサ5の箇所からO2センサ6の箇所にかけての触媒装置3を含む排気系(図1で参照符号Eを付した部分)を制御対象とする。そして、この対象排気系Eが有する無駄時間や、前記エンジン1及び機関側制御ユニット7bが有する無駄時間、対象排気系Eの挙動変化等を考慮しつつ、適応スライディングモード制御を用いてO2センサ6の出力VO2/OUTをその目標値VO2/TARGETに収束させるように(O2センサ6の偏差出力VO2を「0」に収束させるように)、目標空燃比KCMDを逐次算出するものである。
【0090】
また、排気側主演算処理部13の劣化評価機能は、目標空燃比KCMDを算出する過程で逐次得られる後述のモデルのパラメータの同定値のデータを用いて触媒装置3の劣化状態を評価すると共に、その評価結果に応じて本実施形態の装置に備えた劣化報知器29の動作を制御するものである。尚、劣化報知器29は、ランプの点灯もしくは点滅、あるいはブザーの鳴動、あるいは文字もしくは図形の表示等により触媒装置3の劣化状態を外部に報知するものである。
【0091】
これらの目標空燃比算出機能及び劣化評価機能の処理を行うために、本実施形態では、前記対象排気系Eを、前記LAFセンサ5の出力KACT(空燃比の検出値)から無駄時間要素及び応答遅れ要素を介してO2センサ6の出力VO2/OUT(触媒装置3を通過した排ガス中の酸素濃度)を生成する系と見なし、その挙動をあらかじめ離散時間系でモデル化している。また、特に、目標空燃比算出機能のために、前記エンジン1及び機関側制御ユニット7bから成る系(以下、この系を空燃比操作系と称する)を、目標空燃比KCMDから無駄時間要素を介してLAFセンサ5の出力KACTを生成する系と見なし、その挙動をあらかじめ離散時間系でモデル化している。
【0092】
この場合、本実施形態では、対象排気系Eの挙動を離散時間系で表現するモデル(以下、排気系モデルという)は、LAFセンサ5の出力KACT及びO2センサ6の出力VO2/OUTの代わりに、LAFセンサ5の前記偏差出力kact(=KACT−FLAF/BASE)とO2センサ6の前記偏差出力VO2(=VO2/OUT−VO2/TARGET)とを用いて、次式(1)により表現している。
【0093】
【数1】
Figure 0004312325
【0094】
この式(1)は、対象排気系EがLAFセンサ5の偏差出力kactから、無駄時間要素及び応答遅れ要素を介してO2センサ6の偏差出力VO2を生成する系であるとして、該対象排気系Eの挙動を離散時間系のモデル(より詳しくは対象排気系Eの入力量としての偏差出力kactに無駄時間を有する自己回帰モデル)で表現したものである。
【0095】
ここで、上式(1)において、「k」は排気側制御ユニット7aの離散時間的な制御サイクルの番数を示し(以下、同様)、「d1」は対象排気系Eに存する無駄時間を制御サイクル数で表したものである。この場合、対象排気系Eの無駄時間(LAFセンサ5が検出する各時点の空燃比がO2センサ6の出力VO2/OUTに反映されるようになるまでに要する時間)は、排気側制御ユニット7aが処理を実行する制御サイクルの周期(これは本実施形態では一定である)を30〜100msとしたとき、一般的には、3〜10制御サイクル分の時間(d1=3〜10)である。そして、本実施形態では、式(1)により表した排気系モデルにおける無駄時間d1の値として、対象排気系Eの実際の無駄時間と等しいか、もしくはそれよりも若干長いものにあらかじめ設定した所定の一定値(本実施形態では例えばd1=7)を用いる。
【0096】
また、式(1)の右辺第1項及び第2項はそれぞれ対象排気系Eの応答遅れ要素に対応するもので、第1項は1次目の自己回帰項、第2項は2次目の自己回帰項である。そして、「a1」、「a2」はそれぞれ1次目の自己回帰項のゲイン係数、2次目の自己回帰項のゲイン係数である。これらのゲイン係数a1,a2は別の言い方をすれば、排気系モデルにおけるO2センサ6の出力VO2/OUTに係る係数である。
【0097】
さらに、式(1)の右辺第3項は排気系モデルの入力量としてのLAFセンサ5の偏差出力kactを対象排気系Eの無駄時間d1を含めて表現するものであり、「b1」はその入力量(偏差出力kact)に係るゲイン係数である。
【0098】
上記ゲイン係数a1,a2,b1は排気系モデルの挙動を規定するパラメータであり、本実施形態では後述の同定器によって逐次同定するものである。
【0099】
一方、前記空燃比操作系(エンジン1及び機関側制御ユニット7bからなる系)の離散時間系のモデル(以下、空燃比操作系モデルという)は、本実施形態では、排気系モデルの場合と同様にLAFセンサ5の出力KACTの代わりにLAFセンサ5の偏差出力kact(=KACT−FLAF/BASE)を用いると共に、これに対応させて目標空燃比KCMDの代わりに該目標空燃比KCMDの前記基準値FLAF/BASEに対する偏差kcmd(=KCMD−FLAF/BASE。これはLAFセンサ5の偏差出力kactの目標値に相当する。以下、これを目標偏差空燃比kcmdという)とを用い、次式(2)により表す。
【0100】
【数2】
Figure 0004312325
【0101】
この式(2)は空燃比操作系が前記目標偏差空燃比kcmdから無駄時間要素を介してLAFセンサ5の偏差出力kactを生成する系(各制御サイクルにおける偏差出力kactが無駄時間前の目標偏差空燃比kcmdに一致するような系)であると見なして、該空燃比操作系を離散時間系のモデルで表現したものである。
【0102】
ここで、式(2)において、「d2」が空燃比操作系の無駄時間を排気側制御ユニット7aの制御サイクル数で表したものである。この場合、空燃比操作系の無駄時間(各時点の目標空燃比KCMDがLAFセンサ5の出力KACTに反映されるようになるまでに要する時間)は、エンジン1の回転数NEによって変化し、エンジン1の回転数が低くなる程、長くなる。そして、本実施形態では、式(2)により表した空燃比操作系モデルにおける無駄時間d2の値としては、上記のような空燃比操作系の無駄時間の特性を考慮し、例えばエンジン1の低速回転域の回転数であるアイドリング回転数において実際の空燃比操作系が有する無駄時間(これは、エンジン1の任意の回転数において空燃比操作系が採り得る最大側の無駄時間である)と等しいか、もしくはそれよりも若干長いものにあらかじめ設定した所定の一定値(本実施形態では例えばd2=3)を用いる。
【0103】
尚、空燃比操作系には、実際には、無駄時間要素の他、エンジン1に起因した応答遅れ要素も含まれる。しかるに、目標空燃比KCMDに対するLAFセンサ5の出力KACTの応答遅れは、基本的には前記フィードバック制御部14(特に適応制御器18)によって補償されるため、排気側制御ユニット7aから見た空燃比操作系では、エンジン1の応答遅れ要素を考慮せずとも支障はない。
【0104】
本実施形態における前記排気側主演算処理部13は、式(1)及び式(2)によりそれぞれ表現した排気系モデル及び空燃比操作系モデルに基づく前記目標空燃比算出機能の処理と、式(1)により表現した排気系モデルに基づく前記劣化評価機能の処理とを所定(一定)の制御サイクル(排気側制御ユニット7aの制御サイクル)で行うものである。そして、これらの機能を実現するために、図3に示すような機能的構成を具備している。
【0105】
すなわち、排気側主演算処理部13は、LAFセンサ5の偏差出力kact及びO2センサ6の偏差出力VO2のデータから、前記排気系モデル(式(1))の設定すべきパラメータである前記ゲイン係数a1,a2,b1の値を制御サイクル毎に逐次同定する同定器25を具備する。
【0106】
さらに、排気側主演算処理部13は、LAFセンサ5の偏差出力kact、O2センサ6の偏差出力VO2、及び以下に述べるスライディングモード制御器27が過去に求めた目標空燃比KCMD(より正確には目標偏差空燃比kcmd)のデータから、前記同定器25により算出された前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定値a1ハット,a2ハット,b1ハット(以下、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットという)を用いて、対象排気系Eの無駄時間d1及び空燃比操作系の無駄時間d2を合わせた合計無駄時間d(=d1+d2)後のO2センサ6の偏差出力VO2の推定値VO2バー(以下、推定偏差出力VO2バーという)を制御サイクル毎に逐次求める推定器26を具備する。
【0107】
さらに排気側主演算処理部13は、推定器26により求められたO2センサ6の推定偏差出力VO2バーのデータから、前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを用いて適応スライディングモード制御により前記目標空燃比KCMDを制御サイクル毎に逐次算出するスライディングモード制御器27を具備する。
【0108】
さらに排気側主演算処理部13は、前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットのデータのうち、例えば同定ゲイン係数b1ハットのデータを用いて触媒装置3の劣化状態を評価する触媒劣化評価処理器28を具備する。
【0109】
これらの構成のうち、同定器25、推定器26及びスライディングモード制御器27による処理のアルゴリズムは以下のように構築されている。
【0110】
まず、前記同定器25は、前記式(1)により表現した排気系モデルの実際の対象排気系Eに対するモデル化誤差を極力小さくするように前記ゲイン係数a1,a2,b1の値をリアルタイムで逐次同定するものであり、その同定処理を次のように行う。
【0111】
すなわち、同定器25は、排気側制御ユニット7aの制御サイクル毎に、まず、排気系モデルの同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの現在値、すなわち前回の制御サイクルで決定した同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットの値と、LAFセンサ5の偏差出力kact及びO2センサ6の偏差出力VO2の過去値のデータとを用いて、次式(3)により排気系モデル上でのO2センサ6の偏差出力VO2(排気系モデルの出力量)の値VO2(k)ハット(以下、同定偏差出力VO2(k)ハットという)を求める。
【0112】
【数3】
Figure 0004312325
【0113】
この式(3)は、排気系モデルを表す前記式(1)を1制御サイクル分、過去側にシフトし、ゲイン係数a1,a2,b1の値として同定ゲイン係数a1ハット(k-1),a2ハット(k-1),b1ハット(k-1)を用いたものである。また、式(3)の第3項で用いる対象排気系Eの無駄時間d1の値は、前述の如く設定した一定値(本実施形態ではd1=7)を用いる。
【0114】
ここで、次式(4),(5)で定義されるベクトルΘ及びξを導入すると(式(4),(5)中の添え字「T」は転置を意味する。以下同様。)、
【0115】
【数4】
Figure 0004312325
【0116】
【数5】
Figure 0004312325
【0117】
前記式(3)は、次式(6)により表される。
【0118】
【数6】
Figure 0004312325
【0119】
さらに同定器25は、前記式(3)あるいは式(6)により求められるO2センサ6の同定偏差出力VO2(k)ハットとO2センサ6の実際の偏差出力VO2の現在値VO2(k)との偏差id/eを排気系モデルの実際の対象排気系Eに対するモデル化誤差を表すものとして次式(7)により求める(以下、偏差id/eを同定誤差id/eという)。
【0120】
【数7】
Figure 0004312325
【0121】
そして、同定器25は、上記同定誤差id/eを最小にするように新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハット、換言すれば、これらの同定ゲイン係数を要素とする新たな前記ベクトルΘ(k)(以下、このベクトルを同定ゲイン係数ベクトルΘという)を求めるもので、その算出を、次式(8)により行う。すなわち、同定器25は、前回の制御サイクルで決定した同定ゲイン係数a1ハット(k-1),a2ハット(k-1),b1ハット(k-1)を、同定誤差id/eに比例させた量だけ変化させることで新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを求める。
【0122】
【数8】
Figure 0004312325
【0123】
ここで、式(8)中の「Kθ」は次式(9)により決定される三次のベクトルであり、各同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの同定誤差id/eに応じた変化度合いを規定するゲイン係数ベクトルである。
【0124】
【数9】
Figure 0004312325
【0125】
また、上式(9)中の「P」は次式(10)の漸化式により決定される三次の正方行列である。
【0126】
【数10】
Figure 0004312325
【0127】
尚、式(10)中の「λ1」、「λ2」は0<λ1≦1及び0≦λ2<2の条件を満たすように設定され、また、「P」の初期値P(0)は、その各対角成分を正の数とする対角行列である。
【0128】
この場合、式(10)中の「λ1」、「λ2」の設定の仕方によって、固定ゲイン法、漸減ゲイン法、重み付き最小二乗法、最小二乗法、固定トレース法等、各種の具体的なアルゴリズムが構成され、本実施形態では、例えば最小二乗法(この場合、λ1=λ2=1)を採用している。
【0129】
本実施形態における同定器25は基本的には前述のようなアルゴリズム(演算処理)によって、前記同定誤差id/eを最小化するように前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを制御サイクル毎に逐次求めるものである。このような処理によって、実際の対象排気系Eに適合した同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットが逐次得られる。
【0130】
以上説明したアルゴリズムが同定器25による基本的な処理のアルゴリズムである。尚、本実施形態では、同定器25は、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを求めるに際して、それらの値の制限処理等、付加的な処理も行うのであるが、これらについては後述する。
【0131】
次に、前記推定器26は、後に詳細を説明するスライディングモード制御器27による目標空燃比KCMDの算出処理に際しての対象排気系Eの無駄時間d1及び前記空燃比操作系の無駄時間d2の影響を補償するために、前記合計無駄時間d(=d1+d2)後のO2センサ6の偏差出力VO2の推定値である前記推定偏差出力VO2バーを制御サイクル毎に逐次求めるものであり、その推定処理のアルゴリズムは次のように構築されている。尚、この推定器26は本発明の本質をなすものではなく、また、その詳細は特開平11−324767号公報にて本願出願人が説明しているので、ここでは、概略を説明する。
【0132】
まず、排気系モデルを表す前記式(1)に、空燃比操作系モデルを表す式(2)を適用すると、式(1)は次式(11)に書き換えることができる。
【0133】
【数11】
Figure 0004312325
【0134】
この式(11)は、対象排気系E及び空燃比操作系を合わせた系を、目標偏差空燃比kcmdから対象排気系E及び空燃比操作系の両者の無駄時間要素と対象排気系Eの応答遅れ要素とを介してO2センサ6の偏差出力VO2を生成する系として離散時間系のモデルで表現したものである。
【0135】
そして、この式(11)を用いることで、各制御サイクルにおける前記合計無駄時間d後のO2センサ6の偏差出力VO2(k+d)の推定値である前記推定偏差出力VO2(k+d)バーは、O2センサ6の偏差出力VO2の現在値及び過去値の時系列データVO2(k)及びVO2(k-1)と、スライディングモード制御器27が求める目標空燃比KCMD(具体的な求め方は後述する)に相当する目標偏差空燃比kcmd(=KCMD−FLAF/BASE)の過去値の時系列データkcmd(k-j)(j=1,2,…,d)とを用いて次式(12)により表される。
【0136】
【数12】
Figure 0004312325
【0137】
ここで、式(12)において、α1,α2は、それぞれ同式(12)中のただし書きで定義した行列Aの巾乗Ad(d:合計無駄時間)の第1行第1列成分、第1行第2列成分である。また、βj(j=1,2,…,d)は、それぞれ行列Aの巾乗Aj-1(j=1,2,…,d)と同式(12)中のただし書きで定義したベクトルBとの積Aj-1・Bの第1行成分である。
【0138】
さらに、式(12)中の目標偏差空燃比kcmdの過去値の時系列データkcmd(k-j)(j=1,2,…,d)のうち、空燃比操作系の無駄時間d2以前の目標偏差空燃比kcmdの過去値の時系列データkcmd(k-d2),kcmd(k-d2-1),…,kcmd(k-d)は前記式(2)によって、それぞれ、LAFセンサ5の偏差出力kactの現在値及び過去値のデータkact(k),kact(k-1),…,kact(k-d+d2)に置き換えることができる。そして、この置き換えを行うことで、次式(13)が得られる。
【0139】
【数13】
Figure 0004312325
【0140】
この式(13)が本実施形態において、推定器26が前記推定偏差出力VO2(k+d)バーを算出するための基本式である。つまり、本実施形態では、推定器26は、排気側制御ユニット7aの制御サイクル毎に、O2センサ6の偏差出力VO2の現在値及び過去値の時系列データVO2(k)及びVO2(k-1)と、スライディングモード制御器27が過去に求めた目標空燃比KCMDを表す目標偏差空燃比kcmdの過去値の時系列データkcmd(k-j)(j=1,…,d2-1)と、LAFセンサ5の偏差出力kactの現在値及び過去値の時系列データkact(k-i)(i=0,…,d1)とを用いて式(13)の演算を行うことによって、O2センサ6の推定偏差出力VO2(k+d)バーを求める。
【0141】
この場合、本実施形態では、式(13)により推定偏差出力VO2(k+d)バーを算出するために必要となる係数α1,α2及びβj(j=1,2,…,d)の値は、基本的には、前記ゲイン係数a1,a2,b1(これらは式(12)のただし書きで定義した行列A及びベクトルBの成分である)の同定値である前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの最新値a1(k )ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを用いて算出する。また、式(13)の演算で必要となる無駄時間d1,d2の値は、前述の如く設定した値を用いる。
【0142】
尚、推定偏差出力VO2(k+d)バーは、LAFセンサ5の偏差出力kactのデータを使用せずに、式(12)の演算により求めるようにしてもよいが、推定偏差出力VO2(k+d)バーの信頼性を高める上では、エンジン1等の実際の挙動が反映されるLAFセンサ5の偏差出力kactのデータを用いた式(13)の演算により推定偏差出力VO2(k+d)バーを求めることが好ましい。また、空燃比操作系の無駄時間d2を「1」に設定できるような場合には、式(12)中の目標偏差空燃比kcmdの過去値の時系列データkcmd(k-j)(j=1,2,…,d)の全てをそれぞれ、LAFセンサ5の偏差出力kactの現在値及び過去値の時系列データkact(k),kact(k-1),…,kact(k-d+1)に置き換えることができる。このため、この場合には、推定偏差出力VO2(k+d)バーは、目標偏差空燃比kcmdのデータを含まない次式(14)により求めることができる。
【0143】
【数14】
Figure 0004312325
【0144】
次に、前記スライディングモード制御器27を説明する。尚、このスライディングモード制御器27の詳細は、特開平11−324767号公報にて本願出願人が説明しているので、ここでは、概略を説明する。
【0145】
本実施形態のスライディングモード制御器27は、通常的なスライディングモード制御に、外乱等の影響を極力排除するための適応則を加味した適応スライディングモード制御によりO2センサ6の出力VO2/OUTをその目標値VO2/TARGETに整定させるように(O2センサ6の偏差出力VO2を「0」に収束させるように)、制御対象である前記対象排気系Eに与えるべき入力量(詳しくは、LAFセンサ5の出力KACT(空燃比の検出値)と前記基準値FLAF/BASEとの偏差の目標値で、これは前記目標偏差空燃比kcmdに等しい。以下、この入力量をSLD操作入力uslと称する)を決定し、その決定したSLD操作入力uslから前記目標空燃比KCMDを決定するものである。そして、その処理のためのアルゴリズムは次のように構築されている。
【0146】
まず、スライディングモード制御器27の適応スライディングモード制御に必要な切換関数と、この切換関数により定義される超平面(これはすべり面とも言われる)とについて説明する。
【0147】
本実施形態におけるスライディングモード制御の基本的な考え方としては、制御すべき状態量として、例えば各制御サイクルで得られたO2センサ6の偏差出力VO2(k)と、その1制御サイクル前に得られた偏差出力VO2(k-1)とを用い、スライディングモード制御用の切換関数σを次式(15)の線形関数により定義する。尚、前記偏差出力VO2(k),VO2(k-1)を成分とするベクトルとして式(15)中で定義したベクトルXを以下、状態量Xという。
【0148】
【数15】
Figure 0004312325
【0149】
この場合、切換関数σの係数s1,s2は、次式(16)の条件を満たすように設定する。
【0150】
【数16】
Figure 0004312325
【0151】
尚、本実施形態では、簡略化のために係数s1=1とし(この場合、s2/s1=s2である)、−1<s2<1の条件を満たすように係数s2の値を設定している。
【0152】
このように切換関数σを定義したとき、スライディングモード制御用の超平面はσ=0なる式によって定義されるものである。この場合、状態量Xは二次系であるので超平面σ=0は図4に示すように直線となる。該超平面は位相空間の次数によって、切換線や切換面と言われることもある。
【0153】
尚、本実施形態では、スライディングモード制御用の切換関数の変数成分として、実際には前記推定器26により求められる前記推定偏差出力VO2バーの時系列データを用いるのであるが、これについては後述する。
【0154】
本実施形態で用いる適応スライディングモード制御は、状態量X=(VO2(k),VO2(k-1))を上記超平面σ=0に収束させるための制御則である到達則と、その超平面σ=0への収束に際して外乱等の影響を補償するための制御則である適応則とにより該状態量Xを超平面σ=0に収束させる(図4のモード1)。そして、該状態量Xを所謂、等価制御入力によって超平面σ=0に拘束しつつ、該状態量Xを超平面σ=0上の平衡点であるVO2(k)=VO2(k-1)=0となる点、すなわち、O2センサ6の出力VO2/OUTの時系列データVO2/OUT(k),VO2/OUT(k-1)が目標値VO2/TARGETに一致するような点に収束させる(図4のモード2)。
【0155】
上記のように状態量Xを超平面σ=0の平衡点に収束させるために本実施形態のスライディングモード制御器27が生成する前記SLD操作入力usl(=目標偏差空燃比kcmd)は、状態量Xを超平面σ=0上に拘束するための制御則に従って対象排気系Eに与えるべき等価制御入力ueqと、前記到達則に従って対象排気系Eに与えるべき入力成分urch(以下、到達則入力urchという)と、前記適応則に従って対象排気系Eに与えるべき入力成分uadp(以下、適応則入力uadpという)との総和により表される(次式(17))。
【0156】
【数17】
Figure 0004312325
【0157】
そして、これらの等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpは、本実施形態では、前記式(11)により表される離散時間系のモデル(式(1)中のLAFセンサ5の偏差出力kact(k-d1)を合計無駄時間dを用いた目標偏差空燃比kcmd(k-d)で置き換えたモデル)に基づいて、次のように決定する。
【0158】
まず、状態量Xを超平面σ=0に拘束するために対象排気系Eに与えるべき入力量である前記等価制御入力ueqは、σ(k+1)=σ(k)=0なる条件を満たす目標偏差空燃比kcmdである。そして、このような条件を満たす等価制御入力ueqは、式(11)と式(15)とを用いて次式(18)により与えられる。
【0159】
【数18】
Figure 0004312325
【0160】
この式(18)が本実施形態において、制御サイクル毎に等価制御入力ueq(k)を求めるための基本式である。
【0161】
次に、前記到達則入力urchは、本実施形態では、基本的には次式(19)により決定するものとする。
【0162】
【数19】
Figure 0004312325
【0163】
すなわち、到達則入力urchは、前記合計無駄時間dを考慮し、合計無駄時間d後の切換関数σの値σ(k+d)に比例させるように決定する。
【0164】
この場合、式(19)中の係数F(これは到達則のゲインを規定する)は、次式(20)の条件を満たすように設定する。
【0165】
【数20】
Figure 0004312325
【0166】
尚、切換関数σの値の挙動に関しては、該切換関数σの値が超平面σ=0に対して振動的な変化(所謂チャタリング)を生じる虞れがある。そして、このチャタリングを抑制するためには、到達則入力urchに係わる係数Fは、さらに次式(21)の条件を満たすように設定することが好ましい。
【0167】
【数21】
Figure 0004312325
【0168】
次に、前記適応則入力uadpは、本実施形態では、基本的には次式(22)により決定するものとする(式(22)中のΔTは排気側制御ユニット7aの制御サイクルの周期である)。
【0169】
【数22】
Figure 0004312325
【0170】
すなわち、適応則入力uadpは、合計無駄時間dを考慮し、該合計無駄時間d後までの切換関数σの値と排気側制御ユニット7aの制御サイクルの周期ΔTとの積の制御サイクル毎の積算値(これは切換関数σの値の積分値に相当する)に比例させるように決定する。
【0171】
この場合、式(22)中の係数G(これは適応則のゲインを規定する)は、次式(23)の条件を満たすように設定する。
【0172】
【数23】
Figure 0004312325
【0173】
尚、前記式(16)、(20)、(21)、(23)の設定条件のより具体的な導出の仕方については、本願出願人が既に特開平11−93741号公報等にて詳細に説明しているので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0174】
本実施形態におけるスライディングモード制御器27は、基本的には前記式(18)、(19)、(22)により決定される等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpの総和(ueq+urch+uadp)を対象排気系Eに与えるべきSLD操作入力uslとして決定するのであるが、前記式(18)、(19)、(22)で使用するO2センサ6の偏差出力VO2(k+d),VO2(k+d-1)や、切換関数σの値σ(k+d)等は未来値であるので直接的には得られない。
【0175】
そこで、本実施形態では、スライディングモード制御器27は、実際には、前記式(18)により前記等価制御入力ueqを決定するためのO2センサ6の偏差出力VO2(k+d),V O2(k+d-1)の代わりに、前記推定器26で求められる推定偏差出力VO2(k+d)バー,VO2(k+d-1)バーを用い、次式(24)により制御サイクル毎の等価制御入力ueqを算出する。
【0176】
【数24】
Figure 0004312325
【0177】
また、本実施形態では、実際には、推定器26により前述の如く逐次求められた推定偏差出力VO2バーの時系列データを制御すべき状態量とし、前記式(15)により設定された切換関数σに代えて、次式(25)によりスライディングモード制御用の切換関数σバーを定義する(この切換関数σバーは、前記式(15)の偏差出力VO2の時系列データを推定偏差出力VO2バーの時系列データで置き換えたものに相当する)。
【0178】
【数25】
Figure 0004312325
【0179】
そして、スライディングモード制御器27は、前記式(19)により前記到達則入力urchを決定するための切換関数σの値の代わりに、前記式(25)により表される切換関数σバーの値を用いて次式(26)により制御サイクル毎の到達則入力urchを算出する。
【0180】
【数26】
Figure 0004312325
【0181】
同様に、スライディングモード制御器27は、前記式(22)により前記適応則入力uadpを決定するための切換関数σの値の代わりに、前記式(25)により表される切換関数σバーの値を用いて次式(27)により制御サイクル毎の適応則入力uadpを算出する。
【0182】
【数27】
Figure 0004312325
【0183】
尚、前記式(24),(26),(27)により等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpを算出する際に必要となる前記ゲイン係数a1,a2,b1の値としては、本実施形態では基本的には前記同定器25により求められた最新の同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを用いる。
【0184】
そして、スライディングモード制御器27は、前記式(24),(26),(27)によりそれぞれ求められる等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpの総和を前記SLD操作入力uslとして求める(前記式(17)を参照)。尚、この場合において、前記式(24),(26),(27)中で用いる前記係数s1,s2,F,Gの設定条件は前述の通りである。
【0185】
これが、本実施形態において、スライディングモード制御器27により、対象排気系Eに与えるべきSLD操作入力usl(=目標偏差空燃比kcmd)を制御サイクル毎に決定するための基本的なアルゴリズムである。このようにしてSLD操作入力uslを決定することで、該SLD操作入力uslは、O2センサ6の推定偏差出力VO2バーを「0」に収束させるように(結果的にはO2センサ6の出力VO2を目標値VO2/TARGETに収束させるように)決定される。
【0186】
ところで、本実施形態におけるスライディングモード制御器27は最終的には前記目標空燃比KCMDを制御サイクル毎に逐次求めるものあるが、前述のように求められるSLD操作入力uslは、LAFセンサ5が検出する空燃比と前記基準値FLAF/BASEとの偏差の目標値、すなわち前記目標偏差空燃比kcmdである。
【0187】
このため、スライディングモード制御器27は、最終的には、次式(28)に示すように、制御サイクル毎に、前述の如く求めたSLD操作入力uslに前記基準値FLAF/BASEを加算することで、目標空燃比KCMDを決定する。
【0188】
【数28】
Figure 0004312325
【0189】
以上が本実施形態でスライディングモード制御器27により目標空燃比KCMDを決定するための基本的アルゴリズムである。
【0190】
尚、本実施形態では、スライディングモード制御器27による適応スライディングモード制御の安定性を判別して、前記SLD操作入力uslの値を制限したりするのであるが、これについては後述する。
【0191】
次に、前記触媒劣化評価処理器28を説明する。
【0192】
本願発明者等の各種検討によれば、前記同定器25がエンジン1の運転中に逐次算出する前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの値の時系列データは、それぞれ触媒装置3の劣化状態に応じた特徴的な傾向を呈する。
【0193】
例えば同定器25が逐次算出する同定ゲイン係数b1ハットの値は、図5の左半部に示すように、触媒装置3の劣化度合いが比較的小さい状態(新品に近い状態)では、該同定ゲイン係数b1ハットの算出値の変動幅(ばらつき)が小さい。そして、同図5の右半部に示すように、触媒装置3の劣化度合いが比較的大きくなると、該算出値の変動幅(ばらつき)が大きくなる。つまり、触媒装置3の劣化が進行するほど、同定ゲイン係数b1ハットの算出値のばらつきが高まり、該算出値の分布範囲が広くなる。これは、触媒装置3の劣化の進行に伴い、前記排気系モデルの式(1)と触媒装置3を含む対象排気系Eの実際の挙動特性との整合性が低下するためと考えられる。
【0194】
このような傾向は、他の同定ゲイン係数a1ハット,a2ハットについても同様に見られる傾向である。但し、この傾向は、同定ゲイン係数b1について特に顕著に現れる。これは、触媒装置3の劣化状態は、対象排気系Eの応答遅れ要素よりも無駄時間要素に、より大きな影響を及ぼすためであると考えられる。
【0195】
このようなことから、本実施形態では、前記触媒劣化評価処理器28は、触媒装置3の劣化状態を評価するために、同定器25が求める同定ゲイン係数b1ハットの値を用いる。
【0196】
この場合、触媒装置3の劣化状態の評価処理のアルゴリズムは次のように構築されている。
【0197】
すなわち、触媒劣化評価処理器28は、次式(29)により表す逐次型の統計処理アルゴリズムによるローパス特性のフィルタリング処理によって、排気側制御ユニット7aの制御サイクル毎に、同定ゲイン係数b1ハットの値の中心値B1LS(以下、同定中心値B1LSという)、すなわち同定ゲイン係数b1ハットの算出値の分布範囲の中心的な値を逐次更新しつつ求める。
【0198】
【数29】
Figure 0004312325
【0199】
ここで、式(29)中の「BP」は、次式(30)によって、制御サイクル毎に逐次更新されるパラメータである。
【0200】
【数30】
Figure 0004312325
【0201】
この場合、式(30)中の「η1」、「η2」は、0<η1≦1及び0≦η2<2の条件を満たすようにあらかじめ設定される値である。この「η1」、「η2」の値の設定の仕方によって、固定ゲイン法、最小二乗法、漸減ゲイン法、重み付き最小二乗法等の具体的なアルゴリズムが構成される。本実施形態では例えばη1=1とすると共に、η2を「1」よりも若干小さな値(例えば0.9999)とし、漸減ゲイン法を採用している。
【0202】
このようなアルゴリズムによって、同定ゲイン係数b1ハットの時系列データにローパス特性のフィルタリング処理が施され、図5に破線で示すような同定中心値B1LSが逐次求められることとなる。
【0203】
このようにして同定中心値B1LSを求めるのと並行して、触媒劣化評価処理器28は、次式(31)によって、同定ゲイン係数b1ハットと同定中心値B1LSとの偏差の二乗値B1MTを該同定ゲイン係数b1のばらつきの度合いを表す基本値(以下、ばらつき基本パラメータB1MTという)として求める。
【0204】
【数31】
Figure 0004312325
【0205】
このとき、触媒装置3の劣化状態に対する同定ゲイン係数b1の前述のような傾向によって、触媒装置3の劣化度合いが比較的小さい状態では、図6の左半部に示すように、前記ばらつき基本パラメータB1MTは、比較的小さな値を採るものとなる。一方、図6の右半部に示すように触媒装置3の劣化度合いが大きくなると、該ばらつき基本パラメータB1MTの値が大きなものとなる。つまり、触媒装置3の劣化の進行に伴い、該ばらつき基本パラメータB1MTの値が大きくなっていく。
【0206】
尚、本実施形態では、同定ゲイン係数b1ハットと同定中心値B1LSとの偏差の二乗値B1MTを同定ゲイン係数b1のばらつきの度合いを表すばらつき基本パラメータとしているが、該偏差の絶対値をばらつき基本パラメータとしてもよい。このようにしても、該ばらつき基本パラメータは、触媒装置3の劣化度合いに対して、前記ばらつき基本パラメータB1MTと同様の傾向を呈する。
【0207】
上述のようにばらつき基本パラメータB1MTの値は、触媒装置3の劣化度合いに対して特徴的な傾向を呈するが、一般に触媒装置3の劣化状態が略同一であってもある程度のばらつきを生じる。
【0208】
そこで、本実施形態では、触媒劣化評価処理器28はさらに、前記同定中心値B1LSを求める場合と同じローパス特性のフィルタリング処理である逐次型の統計処理アルゴリズム(漸減ゲイン法のアルゴリズム)に基づく次式(32)によって、上記ばらつき基本パラメータB1MTの中心値B1MTLS(図6の破線を参照)を求め、この中心値B1MTLSを触媒装置3の劣化状態を最終的に評価するための劣化評価パラメータとして得る。
【0209】
【数32】
Figure 0004312325
【0210】
ここで、式(32)中の「BP」は前記式(31)の漸化式によって逐次更新されるパラメータである。尚、本実施形態では、同定中心値B1LSを求める統計処理アルゴリズムと劣化評価パラメータB1MTLS(ばらつき基本パラメータB1MTの中心値)を求める統計処理アルゴリズムとを同一としたが、互いに異なるアルゴリズムを採用してもよいことはもちろんである。
【0211】
このようにして劣化評価パラメータB1MTLSを求めたとき、該劣化評価パラメータB1MT LSの値は、触媒装置3の劣化状態と高い相関性を有し、触媒装置3の劣化の進行に伴い、単調に増加していく。従って、劣化評価パラメータB1MTLSの値に基づいて、触媒装置3の劣化状態(劣化度合い)を把握することができる。
【0212】
この場合、本実施形態では、触媒装置3の劣化状態を、例えば触媒装置3の交換が必要であるかもしくはその交換時期が近い程度に触媒装置3が劣化した状態(以下、劣化進行状態)と、該劣化進行状態にまでは至っていない状態(以下、未劣化状態)とに分別して評価する。
【0213】
このため、前記触媒劣化評価処理器28は、前記劣化評価パラメータB1MTLSを例えば図6に示すようにあらかじめ定めた所定の閾値CATAGELMTと比較する。そして、B1MTLS≧CATAGELMTであるときには、触媒装置3の劣化状態が前記「劣化進行状態」であると判断し、B1MTLS<CATAGELMTであるときには、触媒装置3の劣化状態が前記「未劣化状態」であると判断する。そして、「劣化進行状態」であると判断したときに、前記劣化報知器29を作動させてその旨を報知せしめる。
【0214】
これが、触媒劣化判別処理器28による触媒装置3の劣化状態の評価処理の基本的アルゴリズムである。
【0215】
次に、前記機関側制御ユニット7bの大局的フィードバック制御部15、特に前記適応制御器18をさらに説明する。
【0216】
前記図1を参照して、大局的フィードバック制御部15は、前述のようにLAFセンサ5の出力KACT(空燃比の検出値)を目標空燃比KCMDに収束させるようにフィードバック制御を行うものである。このとき、このようなフィードバック制御を周知のPID制御だけで行うようにすると、エンジン1の運転状態の変化や経年的特性変化等、動的な挙動変化に対して、安定した制御性を確保することが困難である。
【0217】
前記適応制御器18は、上記のようなエンジン1の動的な挙動変化を補償したフィードバック制御を可能とする漸化式形式の制御器であり、I.D.ランダウ等により提唱されているパラメータ調整則を用いて、図7に示すように、複数の適応パラメータを設定するパラメータ調整部30と、設定された適応パラメータを用いて前記フィードバック操作量KSTRを算出する操作量算出部31とにより構成されている。
【0218】
ここで、パラメータ調整部30について説明すると、ランダウ等の調整則では、離散時間系の制御対象の伝達関数B(Z-1)/A(Z-1)の分母分子の多項式を一般的に下記の式(33),(34)のようにおいたとき、パラメータ調整部30が設定する適応パラメータθハット(j)(jは制御サイクルの番数を示す)は、式(35)のようにベクトル(転置ベクトル)で表される。また、パラメータ調整部30への入力ζ(j)は、式(36)のように表される。この場合、本実施形態では、大局的フィードバック制御部15の制御対象であるエンジン1が一次系で3制御サイクル分の無駄時間dp(エンジン1の燃焼サイクルの3サイクル分の時間)を持つプラントと考え、式(33)〜式(36)でm=n=1,dp=3とし、設定する適応パラメータはs0,r1,r2,r3,b0の5個とした(図7参照)。尚、式(36)の上段式及び中段式におけるus,ysは、それぞれ、制御対象への入力(操作量)及び制御対象の出力(制御量)を一般的に表したものである。本実施形態では、上記入力をフィードバック操作量KSTR、制御対象(エンジン1)の出力を前記LAFセンサ5の出力KACT(空燃比の検出値)とし、パラメータ調整部30への入力ζ(j)を、式(36)の下段式により表す(図7参照)。
【0219】
【数33】
Figure 0004312325
【0220】
【数34】
Figure 0004312325
【0221】
【数35】
Figure 0004312325
【0222】
【数36】
Figure 0004312325
【0223】
ここで、前記式(35)に示される適応パラメータθハットは、適応制御器18のゲインを決定するスカラ量要素b0ハット-1(Z-1,j)、操作量を用いて表現される制御要素BRハット(Z-1,j)、及び制御量を用いて表現される制御要素S(Z-1,j)からなり、それぞれ、次式(37)〜(39)により表現される(図7の操作量算出部31のブロック図を参照)。
【0224】
【数37】
Figure 0004312325
【0225】
【数38】
Figure 0004312325
【0226】
【数39】
Figure 0004312325
【0227】
パラメータ調整部30は、これらのスカラ量要素や制御要素の各係数を設定して、それを式(35)に示す適応パラメータθハットとして操作量算出部31に与えるもので、現在から過去に渡るフィードバック操作量KSTRの時系列データとLAFセンサ5の出力KACTとを用いて、該出力KACTが前記目標空燃比KCMDに一致するように、適応パラメータθハットを算出する。
【0228】
この場合、具体的には、適応パラメータθハットは、次式(40)により算出する。
【0229】
【数40】
Figure 0004312325
【0230】
同式(40)において、Γ(j)は、適応パラメータθハットの設定速度を決定するゲイン行列(この行列の次数はm+n+dp)、eアスタリスク(j)は、適応パラメータθハットの推定誤差を示すもので、それぞれ式(41),(42)のような漸化式で表される。
【0231】
【数41】
Figure 0004312325
【0232】
【数42】
Figure 0004312325
【0233】
ここで、式(42)中の「D(Z-1)」は、収束性を調整するための、漸近安定な多項式であり、本実施形態ではD(Z-1)=1としている。
【0234】
尚、式(41)のλ1(j),λ2(j)の選び方により、漸減ゲインアルゴリズム、可変ゲインアルゴリズム、固定トレースアルゴリズム、固定ゲインアルゴリズム等の種々の具体的なアルゴリズムが得られる。エンジン1の燃料噴射あるいは空燃比等の時変プラントでは、漸減ゲインアルゴリズム、可変ゲインアルゴリズム、固定ゲインアルゴリズム、および固定トレースアルゴリズムのいずれもが適している。
【0235】
前述のようにパラメータ調整部30により設定される適応パラメータθハット(s0,r1,r2,r3,b0)と、前記排気側主演算処理部13により決定される目標空燃比KCMDとを用いて、操作量算出部31は、次式(43)の漸化式により、フィードバック操作量KSTRを求める。図7の操作量算出部31は、同式(43)の演算をブロック図で表したものである。
【0236】
【数43】
Figure 0004312325
【0237】
尚、式(43)により求められるフィードバック操作量KSTRは、LAFセンサ5の出力KACTが目標空燃比KCMDに一致する状態において、「目標空燃比KCMD」となる。このために、前述の如く、フィードバック操作量KSTRを除算処理部19で目標空燃比KCMDにより除算することで、前記フィードバック補正係数KFBとして使用できるフィードバック操作量kstrを求めるようにしている。
【0238】
このように構築された適応制御器18は、前述したことから明らかなように、制御対象であるエンジン1の動的な挙動変化を考慮した漸化式形式の制御器であり、換言すれば、エンジン1の動的な挙動変化を補償するために、漸化式形式で記述された制御器である。そして、より詳しくは、漸化式形式の適応パラメータ調整機構を備えた制御器と定義することができる。
【0239】
尚、この種の漸化式形式の制御器は、所謂、最適レギュレータを用いて構築する場合もあるが、この場合には、一般にはパラメータ調整機構は備えられておらず、エンジン1の動的な挙動変化を補償する上では、前述のように構成された適応制御器18が好適である。
【0240】
以上が、本実施形態で採用した適応制御器18の詳細である。
【0241】
尚、適応制御器18と共に、大局的フィードバック制御部15に具備したPID制御器17は、一般のPID制御と同様に、LAFセンサ5の出力KACTと、その目標空燃比KCMDとの偏差から、比例項(P項)、積分項(I項)及び微分項(D項)を算出し、それらの各項の総和をフィードバック操作量KLAFとして算出する。この場合、本実施形態では、積分項(I項)の初期値を「1」とすることで、LAFセンサ5の出力KACTが目標空燃比KCMDに一致する状態において、フィードバック操作量KLAFが「1」になるようにし、該フィードバック操作量KLAFをそのまま燃料噴射量を補正するための前記フィードバック補正係数KFBとして使用することができるようにしている。また、比例項、積分項及び微分項のゲインは、エンジン1の回転数NEと吸気圧PBとから、あらかじめ定められたマップを用いて決定される。
【0242】
また、大局的フィードバック制御部15の前記切換部20は、エンジン1の冷却水温の低温時や、高速回転運転時、吸気圧の低圧時等、エンジン1の燃焼が不安定なものとなりやすい場合、あるいは、目標空燃比KCMDの変化が大きい時や、空燃比のフィードバック制御の開始直後等、これに応じたLAFセンサ6の出力KACTが、そのLAFセンサ5の応答遅れ等によって、信頼性に欠ける場合、あるいは、エンジン1のアイドル運転時のようエンジン1の運転状態が極めて安定していて、適応制御器18による高ゲイン制御を必要としない場合には、PID制御器17により求められるフィードバック操作量KLAFを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正係数KFBとして出力する。そして、上記のような場合以外の状態で、適応制御器18により求められるフィードバック操作量KSTRを目標空燃比KCMDで除算してなるフィードバック操作量kstrを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正係数KFBとして出力する。これは、適応制御器18が、高ゲイン制御で、LAFセンサ5の出力KACTを急速に目標空燃比KCMDに収束させるように機能するため、上記のようにエンジン1の燃焼が不安定となったり、LAFセンサ5の出力KACTの信頼性に欠ける等の場合に、適応制御器18のフィードバック操作量KSTRを用いると、かえって空燃比の制御が不安定なものとなる虞れがあるからである。
【0243】
このような切換部20の作動は、例えば特開平8−105345号公報に本願出願人が詳細に開示しているので、ここでは、さらなる説明を省略する。
【0244】
次に本実施形態の装置の全体の作動の詳細を説明する。
【0245】
ここで、まず、制御ユニット7が行う処理の制御サイクルについて説明しておく。前記エンジン1の空燃比の制御(燃料噴射量の調整)は、該エンジン1の回転数に同期させる必要がある。このため、本実施形態では、機関側制御ユニット7bによる処理は、エンジン1のクランク角周期(所謂TDC)に同期した制御サイクルで行うようにしている。また、この場合、LAFセンサ5やO2センサ6等の各種センサの出力データの読込もクランク角周期(所謂TDC)に同期した制御サイクルで行うようにしている。
【0246】
一方、前記排気側制御ユニット7aにおける目標空燃比KCMDの算出処理及び触媒装置3の劣化状態の評価処理は、触媒装置3に存する無駄時間や演算負荷等を考慮すると一定周期の制御サイクルで行うことが好ましい。このため、本実施形態では、排気側制御ユニット7aにおける処理は一定周期(例えば30〜100ms)の制御サイクルで行うようにしている。
【0247】
尚、この一定周期は、制御対象である触媒装置3の種類や反応速度、容積等に応じて決定すればよい。また、本実施形態では、上記一定周期の時間間隔は一般的な運転状態(エンジン1の回転数状態)において前記クランク角周期(TDC)の時間間隔よりも大きくなるように設定されている。
【0248】
以上のことを前提として、まず、図8のフローチャートを参照して、前記機関側制御ユニット7bによるエンジン1の空燃比の制御のためのエンジン1の各気筒毎の出力燃料噴射量#nTout(n=1,2,3,4)の算出処理について説明する。機関側制御ユニット7bは、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutの算出処理をエンジン1のクランク角周期(TDC)と同期した制御サイクルで次のように行う。
【0249】
機関側制御ユニット7bは、まず、前記LAFセンサ5及びO2センサ6を含む各種センサの出力を読み込む(STEPa)。この場合、LAFセンサ5の出力KACT及びO2センサ6の出力VO2/OUTはそれぞれ過去に得られたものを含めて時系列的に図示しないメモリに記憶保持される。
【0250】
次いで、基本燃料噴射量算出部8によって、前述の如くエンジン1の回転数NE及び吸気圧PBに対応する燃料噴射量をスロットル弁の有効開口面積に応じて補正してなる基本燃料噴射量Timが求められる(STEPb)。さらに、第1補正係数算出部9によって、エンジン1の冷却水温やキャニスタのパージ量等に応じた第1補正係数KTOTALが算出される(STEPc)。
【0251】
次いで、機関側制御ユニット7bは、排気側主演算処理部13で生成される目標空燃比KCMDを使用するか否か(ここでは、排気側主演算処理部13のON/OFFという)の判別処理を行って、排気側主演算処理部13のON/OFFを規定するフラグf/prism/onの値を設定する(STEPd)。尚、フラグf/prism/onの値は、それが「0」のとき、排気側主演算処理部13で生成される目標空燃比KCMDを使用しないこと(OFF)を意味し、「1」のとき、排気側主演算処理部13で生成される目標空燃比KCMDを使用すること(ON)を意味する。
【0252】
上記の判別処理では、O2センサ6及びLAFセンサ5の活性状態や、エンジン1の運転状態(運転モード)等が判断され、これらが所要の条件を満たした場合には、排気側主演算処理部13で生成される目標空燃比KCMDをエンジン1の燃料供給の制御に使用すべく、フラグf/prism/onの値が「1」にセットされる。また、上記所要の条件が満たされない場合(例えばO2センサ6もしくはLAFセンサ5が十分に活性化していない状態や、エンジン1のフュエルカット中、エンジン1のリーン運転中等)には、フラグf/prism/onの値が「0」にセットされる。この場合、基本的には、エンジン1の通常的な運転中は、フラグf/prism/onの値が「1」にセットされる。
【0253】
上記のようにフラグf/prism/onの値を設定した後、機関側制御ユニット7bは、フラグf/prism/onの値を判断する(STEPe)。このとき、f/prism/on=1である場合には、排気側主演算処理部13で生成された最新の目標空燃比KCMDを読み込む(STEPf)。また、f /prism/on=0である場合には、目標空燃比KCMDを所定値に設定する(STEPg)。この場合、目標空燃比KCMDとして設定する所定値は、例えばエンジン1の回転数NEや吸気圧PBからあらかじめ定めたマップ等を用いて決定する。
【0254】
次いで、機関側制御ユニット7bは、前記局所的フィードバック制御部16において、前述の如くオブザーバ21によりLAFセンサ5の出力KACTから推定した各気筒毎の実空燃比#nA/Fに基づき、PID制御器22により、各気筒毎のばらつきを解消するようにフィードバック補正係数#nKLAFを算出する(STEPh)。さらに、大局的フィードバック制御部15により、フィードバック補正係数KFBを算出する(STEPi)。
【0255】
この場合、大局的フィードバック制御部15は、前述の如く、PID制御器17により求められるフィードバック操作量KLAFと、適応制御器18により求められるフィードバック操作量KSTRを目標空燃比KCMDで除算してなるフィードバック操作量kstrとから、切換部20によってエンジン1の運転状態等に応じていずれか一方のフィードバック操作量KLAF又はkstrを選択する(通常的には適応制御器18側のフィードバック操作量kstrを選択する)。そして、その選択したフィードバック操作量KLAF又はkstrを燃料噴射量を補正するためのフィードバック補正係数KFBとして出力する。
【0256】
尚、フィードバック補正係数KFBを、PID制御器17側のフィードバック操作量KLAFから適応制御器18側のフィードバック操作量kstrに切り換える際には、該補正係数KFBの急変を回避するために、適応制御器18は、その切換えの際の制御サイクルに限り、補正係数KFBを前回の補正係数KFB(=KLAF)に保持するように、フィードバック操作量KSTRを求める。同様に、補正係数KFBを、適応制御器18側のフィードバック操作量kstrからPID制御器17側のフィードバック操作量KLAFに切り換える際には、PID制御器17は、自身が前回の制御サイクルで求めたフィードバック操作量KLAFが、前回の補正係数KFB(=kstr)であったものとして、今回の補正係数KLAFを算出する。
【0257】
上記のようにしてフィードバック補正係数KFBが算出された後、さらに、前記STEPfあるいはSTEPgで決定された目標空燃比KCMDに応じた第2補正係数KCMDMが第2補正係数算出部10により算出される(STEPj)。
【0258】
次いで、機関側制御ユニット7bは、前述のように求められた基本燃料噴射量Timに、第1補正係数KTOTAL、第2補正係数KCMDM、フィードバック補正係数KFB、及び各気筒毎のフィードバック補正係数#nKLAFを乗算することで、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutを求める(STEPk)。そして、この各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutが、付着補正部23によって、エンジン1の吸気管の壁面への燃料付着を考慮した補正を施された後(STEPm)、エンジン1の図示しない燃料噴射装置に出力される(STEPn)。
【0259】
そして、エンジン1にあっては、各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutに従って、
各気筒への燃料噴射が行われる。
【0260】
以上のような各気筒毎の出力燃料噴射量#nToutの算出及びそれに応じたエンジン1への燃料噴射がエンジン1のクランク角周期に同期した制御サイクルで逐次行われる。これによりLAFセンサ5の出力KACT(空燃比の検出値)が、目標空燃比KCMDに収束するように、エンジン1の空燃比が制御される。この場合、特に、フィードバック補正係数KFBとして、適応制御器18側のフィードバック操作量kstrを使用している状態では、エンジン1の運転状態の変化や特性変化等の挙動変化に対して、高い安定性を有して、LAFセンサ5の出力KACTが迅速に目標空燃比KCMDに収束制御される。また、エンジン1が有する応答遅れの影響も適正に補償される。
【0261】
一方、前述のようなエンジン1の空燃比の制御(燃料噴射量の調整)と並行して、前記排気側制御ユニット7aの排気側主演算処理部13は、一定周期の制御サイクルで図9のフローチャートに示すメインルーチン処理を行う。
【0262】
すなわち、図9のフローチャートを参照して、排気側主演算処理部13は、まず、自身の演算処理(前記同定器25、推定器26、スライディングモード制御器27及び触媒劣化評価処理器28の演算処理)を実行するか否かの判別処理を行って、その実行の可否を規定するフラグf/prism/calの値を設定する(STEP1)。尚、フラグf/prism/calの値は、それが「0」のとき、排気側主演算処理部13における演算処理を行わないことを意味し、「1」のとき、排気側主演算処理部13における演算処理を行うことを意味する。
【0263】
上記の判別処理は、図10のフローチャートに示すように行われる。
【0264】
すなわち、O2センサ6及びLAFセンサ5が活性化しているか否かの判別が行われる(STEP1−1,1−2)。このとき、いずれかが活性化していない場合には、排気側主演算処理部13の演算処理に使用するO2センサ6及びLAFセンサ5の検出データを精度よく得ることができないため、フラグf/prism/calの値を「0」にセットする(STEP1−6)。さらにこのとき、同定器25の後述する初期化を行うために、その初期化を行うか否かを規定するフラグf/id/resetの値を「1」にセットする(STEP1−7)。ここで、フラグf/id/resetの値は、それが「1」であるとき、初期化を行うことを意味し、「0」であるとき、初期化を行わないことを意味する。
【0265】
また、エンジン1のリーン運転中(希薄燃焼運転)であるか否か(STEP1−3)、及びエンジン1の始動直後の触媒装置3の早期活性化を図るためにエンジン1の点火時期が遅角側に制御されているか否か(STEP1−4)の判別が行われる。これらのいずれかの条件が成立している場合には、O2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに整定させるような目標空燃比KCMDを算出しても、それをエンジン1の燃料制御に使用することはないので、フラグf/prism/calの値を「0」にセットし(STEP1−6)、さらに同定器25の初期化を行うために、フラグf/id/resetの値を「1」にセットする(STEP1−7)。
【0266】
そして、STEP1−1,1−2の条件が成立し、且つSTEP1−3,1−4の条件が成立しない場合に、排気側主演算処理部13の演算処理を行うべくフラグf/prism/calの値を「1」にセットする(STEP1−5)。
【0267】
図9の説明に戻って、上記のような判別処理を行った後、排気側主演算処理部13は、さらに、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を実行するか否かの判別処理を行って、その実行の可否を規定するフラグf/id/calの値を設定する(STEP2)。尚、フラグf/id/calの値は、それが「0」のとき、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を行わないことを意味し、「1」のとき、同定(更新)処理を行うことを意味する。
【0268】
このSTEP2の判別処理は、図11のフローチャートに示すように行われる。
【0269】
すなわち、エンジン1のスロットル弁が全開であるか否か(STEP2−1)、及びエンジン1への燃料供給の停止中(フュエルカット中)であるか否か(STEP2−2)の判別が行われる。これらのいずれかの条件が成立している場合には、前記ゲイン係数a1,a2,b1を適正に同定することが困難であるため、フラグf/id/calの値を「0」にセットする(STEP2−4)。そして、STEP2−1、2−2のいずれの条件も成立していない場合には、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定(更新)処理を実行すべくフラグf/id/calの値を「1」にセットする(STEP2−3)。
【0270】
図9の説明に戻って、排気側主演算処理部13は、次に、前記減算処理部11,12からそれぞれ最新の前記偏差出力kact(k)(=KACT−FLAF/BASE)及びVO2(k)(=VO2/OUT−VO2/TARGET)を取得する(STEP3)。この場合、減算処理部11,12は、前記図8のSTEPaにおいて取り込まれて図示しないメモリに記憶されたLAFセンサ5の出力KACT及びO2センサ6の出力VO2/OUTの時系列データの中から、最新のものを選択して前記偏差出力kact (k)及びVO2(k)を算出し、それを排気側主演算処理部13に与える。そして、該排気側主演算処理部13に与えられた偏差出力kact(k)及びVO2(k)は、該排気側制御ユニット7a内において、過去に与えられたものを含めて時系列的に図示しないメモリに記憶保持される。
【0271】
次いで、排気側主演算処理部13は、前記STEP1で設定されたフラグf/prism/calの値を判断する(STEP4)。このとき、f/prism/cal=0である場合、すなわち、排気側主演算処理部13の演算処理を行わない場合には、スライディングモード制御器27で求めるべき前記対象排気系EへのSLD操作入力usl(目標偏差空燃比kcmd)を強制的に所定値に設定する(STEP13)。この場合、該所定値は、例えばあらかじめ定めた固定値(例えば「0」)あるいは前回の制御サイクルで決定したSLD操作入力uslの値とする。尚、このようにSLD操作入力uslを所定値とした場合において、排気側主演算処理部13は、その所定値のSLD操作入力uslに前記基準値FLAF/BASEを加算することで、今回の制御サイクルにおける目標空燃比KCMDを決定し(STEP14)、今回の制御サイクルの処理を終了する。
【0272】
一方、STEP4の判断で、f/prism/cal=1である場合、すなわち、排気側主演算処理部13の演算処理を行う場合には、排気側主演算処理部13は、まず、前記同定器25による演算処理を行う(STEP5)。
【0273】
この同定器25による演算処理は図12のフローチャートに示すように行われる。
【0274】
すなわち、同定器25は、まず、前記STEP2で設定されたフラグf/id/calの値を判断する(STEP5−1)。このときf/id/cal=0であれば、前述の通り同定器25によるゲイン係数a1 ,a2,b1の同定処理を行わないので、直ちに図9のメインルーチンに復帰する。
【0275】
一方、f/id/cal=1であれば、同定器25は、さらに該同定器25の初期化に係わる前記フラグf/id/resetの値(これは、前記STEP1でその値が設定される)を判断し(STEP5−2)、f/id/reset=1である場合には、同定器25の初期化を行う(STEP5−3)。この初期化では、前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの各値があらかじめ定めた初期値に設定される(式(4)の同定ゲイン係数ベクトルΘの初期化)。また、前記式(10)の行列P(対角行列)の各成分があらかじめ定めた初期値に設定される。さらに、フラグf/id/resetの値は「0」にリセットされる。
【0276】
次いで、同定器25は、現在の同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットを用いて表される排気系モデル(前記式(3)参照)の出力量である前記同定偏差出力VO2(k)ハットを、前記STEP3で制御サイクル毎に取得される偏差出力VO2及びkactの過去値のデータVO2(k-1),VO2(k-2),kact(k-d-1)と、上記同定ゲイン係数a1(k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットの値とを用いて前記式(3)あるいはこれと等価の前記式(6)により算出する(STEP5−4)。
【0277】
さらに同定器25は、新たな同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを決定する際に使用する前記ベクトルKθ(k)を式(9)により算出した後(STEP5−5)、以下に説明する同定器25のマネージメント処理を行う(STEP5−6)。
【0278】
すなわち、前記排気系モデルのゲイン係数a1,a2,b1を逐次同定する場合、その同定処理を対象排気系Eの特定の挙動状態で行うことが好ましい。例えば、O2センサ6の出力VO2/OUT(酸素濃度の検出値)により把握される空燃比がリッチ側からリーン側に変化するような対象排気系Eの挙動状態でゲイン係数a1,a2,b1を同定処理を行う場合よりも、上記空燃比がリーン側からリッチ側に変化するような対象排気系Eの挙動状態でゲイン係数a1,a2,b1を同定処理を行う方が、目標空燃比KCMDの算出や触媒装置3の劣化状態の評価処理を行う上で、適正な同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットが得られ易い。
【0279】
このため、本実施形態では、ゲイン係数a1,a2,b1の同定処理(より正確には、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの値の更新処理)を上記空燃比がリーン側からリッチ側に変化するような対象排気系Eの挙動状態で行うようにしている。前記マネージメント処理は、このような対象排気系Eの挙動状態を特定するための処理である。
【0280】
ここで、図13を参照して、適応スライディングモード制御を用いた本実施形態の制御によれば、O2センサ6の偏差出力VO2の前記状態量X(VO2(k),VO2(k-1))は、その状態量Xの初期状態が例えば図中の点Qであるとしたとき、前記超平面σ=0(図4参照)に対して軌跡線Wで示すように変化する。そして、この場合、同図において、基本的には状態量Xが超平面σ=0の上側で変化している状態(このとき状態量Xにより規定される切換関数σの値は正となる)が、空燃比のリーン側からリッチ側への変化状態である。また、状態量Xが超平面σ=0の下側で変化している状態(このとき状態量Xにより規定される切換関数σの値は負となる)が、空燃比のリッチ側からリーン側への変化状態である。
【0281】
従って、O2センサ6の出力VO2/OUT(酸素濃度の検出値)により把握される空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否かの区別は、基本的には、切換関数σの値が正であるか否かによって判断することができる。但し、このように切換関数σの値が正であるか否かによって空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否かを判断するようにすると、状態量Xが超平面σ=0上から僅かに変化しただけで、空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否かの判断結果が変わってしまう場合がある。このため、その判断結果に応じて前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定処理(同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの値の更新処理)を安定して行う上では好ましくない。
【0282】
そこで、本実施形態では、次式(44)により偏差出力VO2の時系列データを用いて定義されるマネージメント関数γを導入する。
【0283】
【数44】
Figure 0004312325
【0284】
そして、このマネージメント関数γの係数m1,m2,m3を、γ=0により表されるマネージメント用超平面(この場合は直線)が、前記図13に示したように、スライディングモード制御用の超平面σ=0から若干上側(σ>0の領域)に存するように設定した。尚、本実施形態では、切換関数σの係数s1を「1」に設定していることに合わせて、マネージメント関数γの係数m1は「1」に設定している。
【0285】
このようなマネージメント関数γを導入すると、γ≧0となる状態では、確実に空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態となる。従って、この挙動状態であるか否かの判断は、マネージメント関数γの値が正(「0」を含む)であるか否かによって安定して行うことができる。
【0286】
前記STEP5−6のマネージメント処理は、上記のように定義されたマネージメント関数γを用いて、O2センサ6の出力VO2/OUT(酸素濃度の検出値)により把握される空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態、すなわち、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定に好適な挙動状態であるか否かの判断を行うものであり、その処理は具体的には次のように行われる。
【0287】
すなわち、同定器25は、前記STEP3(図9参照)で取得された最新の偏差出力VO2(k)と前回の制御サイクルにおける偏差出力VO2(k-1)とを用いて、前記式(44)によりマネージメント関数γの値を算出する。そして、この求めたマネージメント関数γの値が、γ≧0である場合には、空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否かを示すフラグf/id/mngの値を「1」に設定し、γ<0である場合には、フラグf/id/mngの値を「0」に設定する。
【0288】
これにより、空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態であるか否か、すなわち、同定器25による前記ゲイン係数a1,a2,b1の同定処理(同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの値の更新処理)に好適な挙動状態であるか否かが、f/id/mngの値により示されることとなる。
【0289】
図12の説明に戻って、同定器25は、前述のようにマネージメント処理を行った後、その処理において設定したフラグf/id/mngの値を判断する(STEP5−7)。このとき、f/id/mng=1である場合、すなわち、空燃比がリーン側からリッチ側に変化する挙動状態である場合には、前記同定誤差id/e(前記同定偏差出力VO2ハットと、実際の偏差出力VO2との偏差。式(7)参照)を算出し(STEP5−8)、f/id/mng=0である場合には、前記同定誤差id/eの値を強制的に「0」とする(STEP5−9)。
【0290】
そして、同定器25は、STEP5−8あるいはSTEP5−9で得られた同定誤差id/eと、前記STEP5−5で算出されたKθとを用いて前記式(8)により新たな同定ゲイン係数ベクトルΘ(k)、すなわち、新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを算出する(STEP5−10)。
【0291】
ここで、前記STEP5−8における同定誤差id/eは、基本的には、前記式(7)に従って算出すればよいのであるが、本実施形態では、例えば図14のブロック図で示すように前記STEP3(図9参照)で制御サイクル毎に取得する偏差出力VO2と、前記STEP5−4で制御サイクル毎に算出する同定偏差出力VO2ハットとから式(7)の演算により得られた値(=VO2−VO2ハット)に、さらにローパス特性のフィルタリング処理を施すことで同定誤差id/eを求める。
【0292】
これは、触媒装置3を含む対象排気系Eの挙動は一般にローパス特性を有するため、前記排気系モデルのゲイン係数a1,a2,b1を適正に同定する上では、対象排気系Eの低周波数側の挙動を重視することが好ましいからである。
【0293】
尚、このようなフィルタリング処理は、結果的に、偏差出力VO2及び同定偏差出力VO2ハットの両者に同じローパス特性のフィルタリング処理が施されていればよい。従って、例えば偏差出力VO2及び同定偏差出力VO2ハットにそれぞれ各別にフィルタリング処理を施した後に式(7)の演算を行って同定誤差id/eを求めるようにしてもよい。
【0294】
但し、本実施形態のように式(7)の演算を行った後に、フィルタリング処理を施して同定誤差id/eを求めることで、次のような利点も生じる。すなわち、例えば排気側主演算処理部13に取り込まれるLAFセンサ5の偏差出力kactやO2センサ6の偏差出力VO2の分解能が、排気側主演算処理部13の演算処理上の分解能よりも低い場合には、式(7)による演算結果の値は比較的顕著なステップ的な変化を呈するものとなるが、それにフィルタリング処理を施すことによって、同定誤差id/eの変化を滑らかなものとすることができる。
【0295】
また、前記のフィルタリング処理は、例えばディジタルフィルタの一手法である移動平均処理によって行われる。
【0296】
前述のように新たな同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを算出した後、同定器25は、以下に説明する如く、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハット(同定ゲイン係数ベクトルΘの要素)の値を、所定の条件を満たすように制限するリミット処理を行う(STEP5−11)。
【0297】
この場合、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットの値を制限するための前記所定の条件は、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値の組み合わせを所定の組み合わせに制限するための条件(以下、第1制限条件という)と、同定ゲイン係数b1ハットの値を制限するための条件(以下、第2制限条件という)とがある。
【0298】
ここで、これらの第1及び第2制限条件、並びにSTEP5−11の具体的な処理内容を説明する前に、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットの値を制限する理由を説明しておく。
【0299】
本願発明者等の知見によれば、本実施形態の装置において、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットの値を特に制限しない場合には、O2センサ6の出力VO2/OUTがその目標値VO2/TARGETに安定して制御されている状態で、スライディングモード制御器27により求められる目標空燃比KCMDが平滑的な時間変化を呈する状況と、高周波振動的な時間変化を呈する状況との二種類の状況が生じることが判明した。この場合、いずれの状況においても、O2センサ6の出力VO2/OUTをその目標値VO2/TARGETに制御する上では支障がないものの、目標空燃比KCMDが高周波振動的な時間変化を呈する状況は、該目標空燃比KCMDに基づいて制御されるエンジン1の円滑な運転を行う上では、あまり好ましくない。また、このような状況では、同定器25が逐次算出する同定ゲイン係数b1ハットの値が触媒装置3の劣化状態を評価する上で不適正なものとなる虞れがある。
【0300】
そして、上記の現象について本願発明者等が検討したところ、スライディングモード制御器27が求める目標空燃比KCMDが平滑的なものとなるか高周波振動的なものとなるかは、同定器25により同定するゲイン係数a1,a2の値の組み合わせや、ゲイン係数b1の値の影響を受けることが判明した。
【0301】
このために、本実施形態では、前記第1制限条件と第2制限条件とを適切に設定し、これらの条件により、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値の組み合わせや、同定ゲイン係数b1ハットの値を適切に制限する。これにより、目標空燃比KCMDが高周波振動的なものとなるような状況を排除する。
【0302】
この場合、本実施形態では前記第1制限条件及び第2制限条件は次のように設定する。
【0303】
まず、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値の組み合わせを制限するための第1制限条件に関し、本願発明者等の検討によれば、平滑的で安定した目標空燃比KCMDを得るためには、ゲイン係数a1,a2の値により定まる前記式(12)〜(14)の係数値α1,α2、すなわち、前記推定器26が前記推定偏差出力VO2(k+d)バーを求めるために使用する前記係数値α1,α2(これらの係数値α1,α2は前記式(12)中で定義した行列Aの巾乗Adの第1行第1列成分及び第1行第2列成分である)の組み合わせが密接に関連している。
【0304】
具体的には、図15に示すように係数値α1,α2をそれぞれ成分とする座標平面を設定したとき、係数値α1,α2の組により定まる該座標平面上の点が図15の斜線を付した領域(三角形Q123で囲まれた領域(境界を含む)。以下、この領域を推定係数安定領域という)に存するとき、目標空燃比KCMDが平滑的で安定したものとなりやすい。
【0305】
従って、同定器25により同定するゲイン係数a1,a2の値、すなわち同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値の組み合わせは、これらの値により定まる係数値α1,α2の組に対応する図15の座標平面上の点が上記推定係数安定領域内に存するように制限することが好ましい。
【0306】
尚、図15において、上記推定係数安定領域を含んで座標平面上に表した三角形領域Q143は、次式(45)により定義される系、すなわち、前記式(12)の右辺のVO2(k)及びVO2(k-1)をそれぞれVO2(k)バー及びVO2(k-1)バー(これらのVO2(k)バー及びVO2(k-1)バーは、それぞれ、推定器26により制御サイクル毎に求められる推定偏差出力及びその1制御サイクル前に求められる推定偏差出力を意味する)により置き換えてなる式により定義される系が、理論上、安定となるような係数値α1,α2の組み合わせを規定する領域である。
【0307】
【数45】
Figure 0004312325
【0308】
すなわち、式(45)により表される系が安定となる条件は、その系の極(これは、次式(46)により与えられる)が複素平面上の単位円内に存在することである。
【0309】
【数46】
Figure 0004312325
【0310】
そして、図15の三角形領域Q143は、上記の条件を満たす係数値α1,α2の組み合わせを規定する領域である。従って、前記推定係数安定領域は、前記式(45)により表される系が安定となるような係数値α1,α2の組み合わせのうち、α1≧0となる組み合わせとなる領域である。
【0311】
一方、係数値α1,α2は、ゲイン係数a1,a2の値の組み合わせにより定まるので、逆算的に、係数値α1,α2の組み合わせからゲイン係数a1,a2の値の組み合わせも定まる。従って、係数値α1,α2の好ましい組み合わせを規定する図15の推定係数安定領域は、ゲイン係数a1,a2を座標成分とする図16の座標平面上に変換することができる。この変換を行うと、該推定係数安定領域は、図16の座標平面上では、例えば図16の仮想線で囲まれた領域(下部に凹凸を有する大略三角形状の領域。以下、同定係数安定領域という)に変換される。すなわち、ゲイン係数a1,a2の値の組により定まる図16の座標平面上の点が、同図の仮想線で囲まれた同定係数安定領域に存するとき、それらのゲイン係数a1,a2の値により定まる係数値α1,α2の組に対応する図15の座標平面上の点が前記推定係数安定領域内に存することとなる。
【0312】
従って、同定器25により求める同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値を制限するための前記第1制限条件は、基本的には、それらの値により定まる図16の座標平面上の点が前記同定係数安定領域に存することとして設定することが好ましい。
【0313】
但し、図16に仮想線で示した同定係数安定領域の境界の一部(図の下部)は凹凸を有する複雑な形状を呈している。このため、実用上、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値により定まる図16の座標平面上の点を同定係数安定領域内に制限するための処理が煩雑なものとなりやすい。
【0314】
そこで、本実施形態では、同定係数安定領域を、例えば図16の実線で囲まれた四角形Q5678の領域(境界を直線状に形成した領域。以下、同定係数制限領域という)により大略近似する。この場合、この同定係数制限領域は、図示の如く、|a1|+a2=1なる関数式により表される折れ線(線分Q56及び線分Q58を含む線)と、a1=A1L(A1L:定数)なる定値関数式により表される直線(線分Q67を含む直線)と、a2=A2L(A2L:定数)なる定値関数式により表される直線(線分Q78を含む直線)とにより囲まれた領域である。そして、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値を制限するための前記第1制限条件を、それらの値により定まる図16の座標平面上の点が上記同定係数制限領域に存することとして設定する。この場合、同定係数制限領域の下辺部の一部は、前記同定係数安定領域を逸脱しているものの、現実には同定器25が求める同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値により定まる点は上記の逸脱領域には入らないことを実験的に確認している。従って、上記の逸脱領域があっても、実用上は支障がない。
【0315】
尚、このような同定係数制限領域の設定の仕方は例示的なもので、該同定係数制限領域は、基本的には、前記同定係数安定領域に等しいか、もしくは該同定係数安定領域を大略近似し、あるいは、同定係数制限領域の大部分もしくは全部が同定係数安定領域に属するように設定すれば、どのような形状のものに設定してもよい。つまり、同定係数制限領域は、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハットの値の制限処理の容易さ、実際上の制御性等を考慮して種々の設定が可能である。例えば本実施形態では、同定係数制限領域の上半部の境界を|a1|+a2=1なる関数式により規定しているが、この関数式を満たすゲイン係数a1,a2の値の組み合わせは、前記式(45)により与えられる系の極が複素平面上の単位円周上に存するような理論上の安定限界の組み合わせである。従って、同定係数制限領域の上半部の境界を例えば|a1|+a2=r(但し、rは上記の安定限界に対応する「1」よりも若干小さい値で、例えば0.99)なる関数式により規定し、制御の安定性をより高めるようにしてもよい。
【0316】
また、前記同定係数制限領域の基礎となる図16の同定係数安定領域も例示的なものであり、図15の推定係数安定領域に対応する同定係数安定領域は、係数値α1,α2の定義から明らかなように(式(12)を参照)、前記合計無駄時間d(より正確にはその設定値)の影響も受け、該合計無駄時間dの値によって、同定係数安定領域の形状が変化する。この場合、同定係数安定領域がどのような形状のものであっても、前記同定係数制限領域は、同定係数安定領域の形状に合わせて前述の如く設定すればよい。
【0317】
次に、同定器25が同定する前記ゲイン係数b1の値、すなわち同定ゲイン係数b1ハットの値を制限するための前記第2制限条件は本実施形態では次のように設定する。
【0318】
すなわち、本願発明者等の知見によれば、前記目標空燃比KCMDの時間的変化が高周波振動的なものとなる状況は、同定ゲイン係数b1ハットの値が過大もしくは過小となるような場合にも生じ易い。そこで、本実施形態では、同定ゲイン係数b1ハットの値の上限値B1H及び下限値B1 L(B1H>B1L>0)をあらかじめ実験やシミュレーションを通じて定めておく。そして、前記第2制限条件を、同定ゲイン係数b1ハットの値が上限値B1H以下で且つ下限値B1L以上の値になること(B1L≦b1ハット≦B1Hの不等式を満たすこと)として設定する。
【0319】
以上説明した如く設定した第1制限条件及び第2制限条件により同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットの値を制限するための前記STEP5−11の処理は、具体的には次のように行われる。
【0320】
すなわち、図17のフローチャートを参照して、同定器25は、前記図12のSTEP5−10で前述の如く求めた同定ゲイン係数a1(k)ハット、a2(k)ハット、b1(k)ハットについて、まず、同定ゲイン係数a1(k)ハット、a2(k)ハットの値の組み合わせを前記第1制限条件により制限するための処理をSTEP5−11−1〜5−11−8で行う。
【0321】
具体的には、同定器25は、まず、STEP5−10で求めた同定ゲイン係数a2(k)ハットの値が、前記同定係数制限領域におけるゲイン係数a2の下限値A2L(図16参照)以上の値であるか否かを判断する(STEP5−11−1)。
【0322】
このとき、a 2(k)ハット<A2Lであれば、同定ゲイン係数a1(k)ハット、a2(k)ハットの値の組により定まる図16の座標平面上の点(以下、この点を(a1(k)ハット,a2(k)ハット)で表す)が同定係数制限領域から逸脱しているので、a2(k)ハットの値を強制的に上記下限値A2Lに変更する(STEP5−11−2)。この処理により、図16の座標平面上の点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)は、少なくともa2=A2Lにより表される直線(線分Q78を含む直線)の上側(該直線上を含む)の点に制限される。
【0323】
次いで、同定器25は、STEP5−10で求めた同定ゲイン係数a1(k)ハットの値が、前記同定係数制限領域におけるゲイン係数a1の下限値A1L(図16参照)以上の値であるか否か、並びに、同定係数制限領域におけるゲイン係数a1の上限値A1H(図16参照)以下の値であるか否かを順次判断する(STEP5−11−3、5−11−5)。尚、同定係数制限領域におけるゲイン係数a1の上限値A1Hは、図16から明らかなように折れ線|a1|+a2=1(但しa1>0)と、直線a2=A2Lとの交点Q8のa1座標成分であるので、A1H=1−A2Lである。
【0324】
このとき、a1(k)ハット<A1Lである場合、あるいは、a1(k)ハット>A1Hである場合には、図16の座標平面上の点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)が同定係数制限領域から逸脱しているので、a1(k)ハットの値をそれぞれの場合に応じて、強制的に上記下限値A1Lあるいは上限値A1Hに変更する(STEP5−11−4、5−11−6)。
【0325】
この処理により、図16の座標平面上の点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)は、a1=A1Lにより表される直線(線分Q67を含む直線)と、a1=A1Hにより表される直線(点Q8を通ってa1軸に直行する直線)との間の領域(両直線上を含む)に制限される。
【0326】
尚、STEP5−11−3及び5−11−4の処理と、STEP5−11−5及び5−11−6の処理とは順番を入れ換えてもよい。また、前記STEP5−11−1及び5−11−2の処理は、STEP5−11−3〜5−11−6の処理の後に行うようにしてもよい。
【0327】
次いで、同定器25は、前記STEP5−11−1〜5−11−6の処理を経た今現在のa1(k)ハット,a2(k)ハットの値が|a1|+a2≦1なる不等式を満たすか否か、すなわち、点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)が|a1|+a2=1なる関数式により表される折れ線(線分Q56及び線分Q58を含む線)の下側(折れ線上を含む)にあるか上側にあるかを判断する(STEP5−11−7)。
【0328】
このとき、|a1|+a2≦1なる不等式が成立しておれば、前記STEP5−11−1〜5−11−6の処理を経たa1(k)ハット,a2(k)ハットの値により定まる点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)は、同定係数制限領域(その境界を含む)に存している。
【0329】
一方、|a1|+a2>1である場合は、点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)が、同定係数制限領域からその上方側に逸脱している場合であり、この場合には、a2(k)ハットの値を強制的に、a1(k)ハットの値に応じた値(1−|a1(k)ハット|)に変更する(STEP5−11−8)。換言すれば、a1(k)ハットの値を現状に保持したまま、点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)を|a1|+a2=1なる関数式により表される折れ線上(同定係数制限領域の境界である線分Q56上、もしくは線分Q58上)に移動させる。
【0330】
以上のようなSTEP5−11−1〜5−11−8の処理によって、同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハットの値は、それらの値により定まる点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)が同定係数制限領域内に存するように制限される。尚、前記STEP5−10で求められた同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハットの値に対応する点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)が同定係数制限領域内に存する場合は、それらの値は保持される。
【0331】
この場合、前述の処理によって、前記対象排気系Eの離散系モデルの1次目の自己回帰項に係わる同定ゲイン係数a1(k)ハットに関しては、その値が、同定係数制限領域における下限値A1L及び上限値A1Hの間の値となっている限り、その値が強制的に変更されることはない。また、a1(k)ハット<A1Lである場合、あるいは、a1(k)ハット>A1Hである場合には、それぞれ、同定ゲイン係数a1(k)ハットの値は、同定係数制限領域においてゲイン係数a1が採りうる最小値である下限値A1Lと、同定係数制限領域においてゲイン係数a1が採りうる最大値である下限値A1Hとに強制的に変更されるので、これらの場合における同定ゲイン係数a1(k)ハットの値の変更量は最小なものとなる。つまり、STEP5−10で求められた同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハットの値に対応する点(a1(k)ハット,a2(k)ハット)が同定係数制限領域から逸脱している場合には、同定ゲイン係数a1(k)ハットの値の強制的な変更は最小限に留められる。
【0332】
このようにして、同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハットの値を制限したのち、同定器25は、同定ゲイン係数b1(k)ハットの値を前記第2制限条件に従って制限する処理をSTEP5−11−9〜5−11−12で行う。
【0333】
すなわち、同定器25は、前記STEP5−10で求めた同定ゲイン係数b1(k)ハットの値が、前記下限値B1L以上であるか否かを判断し(STEP5−11−9)、B1L>b1(k)ハットである場合には、b1(k)ハットの値を強制的に上記下限値B1Lに変更する(STEP5−11−10)。
【0334】
さらに、同定器25は、同定ゲイン係数b1(k)ハットの値が、前記上限値B1H以上であるか否かを判断し(STEP5−11−11)、B1H<b1(k)ハットである場合には、b1(k)ハットの値を強制的に上記上限値B1Hに変更する(STEP5−11−12)。
【0335】
このようなSTEP5−11−9〜5−11−12の処理によって、同定ゲイン係数b1(k)ハットの値は、下限値B1L及び上限値B1Hの間の範囲の値に制限される。
【0336】
このようにして、同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハットの値の組み合わせと同定ゲイン係数b1(k)ハットの値とを制限した後には、同定器25の処理は図12のフローチャートの処理に復帰する。
【0337】
尚、図12のSTEP5−10で同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットを求めるために使用する同定ゲイン係数の前回値a1 (k-1)ハット,a2(k-1)ハット,b1(k-1)ハットは、前回の制御サイクルにおけるSTEP5−11の処理で前述の如く第1及び第2制限条件により制限を行った同定ゲイン係数の値である。
【0338】
図12の説明に戻って、前述のように同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットのリミット処理を行った後、同定器25は、前記マネージメント処理(STEP5−6)で設定したフラグf/id/mngの値を判断する(STEP5−12)。このとき、f/id/mng=1である場合には、次回の制御サイクルの処理のために前記行列P(k)を前記式(10)により更新し(STEP5−13)、図9のメインルーチンの処理に復帰する。また、f/id/mng=0である場合には、同定ゲイン係数a1(k)ハット,a2(k)ハット,b1(k)ハットの値をSTEP5−10で更新していないので、行列P(k)を今現在の行列P(k-1)に維持して(STEP5−14)、図9のメインルーチンの処理に復帰する。
【0339】
以上が図9のSTEP5における同定器25の演算処理である。
【0340】
図9に戻って、上記のように同定器25の演算処理を行った後、排気側主演算処理部13は、前記触媒劣化評価処理器28による処理を行う(STEP6)。この処理は、図18のフローチャートに示すように行われる。
【0341】
すなわち、触媒劣化評価処理器28は、まず、フラグF/DONEの値を判断する(STEP6−1)。ここで、このフラグF/DONEは、エンジン1の現在の運転中に、触媒装置3の劣化状態の評価を完了したか否かをそれぞれ値「1」、「0」で表すフラグであり、後述のSTEP6−6−5の処理においてその値が「1」に設定されるものである。そして、該フラグF/DONEは、エンジン1の始動時にその値が「0」に初期化されるものである。
【0342】
このとき、F/DONE=0である場合(触媒装置3の劣化状態の評価が未完了の場合)には、触媒劣化評価処理器28は、エンジン1から排気管2に排出される排ガスの流量(以下、排ガスボリュームという)の変動状態を判断する処理を行う(STEP6−2)。この処理は、より詳しくは、排ガスボリュームがほぼ一定に維持されている状態(以下、クルーズ状態という)であるか否かを判断し、該クルーズ状態であるか否かをそれぞれ値「1」、「0」で表すフラグF/CRSの値を設定する処理である。この場合、本実施形態では、この処理は、排気側制御ユニット7aの制御サイクルの周期(30〜100ms)よりも長い周期(例えば1秒。以下、ここでは排ガスボリューム変動判断周期という)で、図19のフローチャートに示すように行われる。
【0343】
すなわち、まず、エンジン1の現在の回転数NE及び吸気圧PBの検出データから、次式(47)によって、現在の排ガスボリュームの推定値ABSV(以下、推定排ガスボリュームという)を算出する(STEP6−2−1)。
【0344】
【数47】
Figure 0004312325
【0345】
ここで、本実施形態では、エンジン1の回転数が1500rpmであるときの排ガスボリュームを基準としているため、上記式(47)では、回転数NE(検出値)を「1500」で除算している。また、式(47)において、SVPRAは、エンジン1の排気量等に応じてあらかじめ定めた定数である。
【0346】
尚、排ガスボリュームは、上記のように推定する他、例えばエンジン1の燃料供給量や吸入空気量から推定したり、あるいはフローセンサを用いて直接的に検出するようにしてもよい。
【0347】
次いで、前記排ガスボリューム変動判断周期毎にSTEP6−2−1で算出される推定排ガスボリュームABSVに所定のフィルタリング処理を施すことによって、排ガスボリュームの変動状態を表す排ガスボリューム変動パラメータSVMAを求める(STEP6−2−2)。
【0348】
この場合、上記フィルタリング処理は、次式(48)により与えられる。尚、式(48)中の「n」は、排ガスボリューム変動判断周期のサイクル番数を表すものである。
【0349】
【数48】
Figure 0004312325
【0350】
すなわち、排ガスボリューム変動判断周期毎の推定排ガスボリュームABSVの変化量の複数周期分(本実施形態では3周期分)の移動平均を求めることにより、排ガスボリューム変動パラメータSVMAを算出する。
【0351】
このようにして排ガスボリューム変動パラメータSVMAを算出したとき、該変動パラメータSVMAは、推定排ガスボリュームABSVの変化速度を表すものとなる。従って、排ガスボリューム変動パラメータSVMAは、その値が「0」に近い程、推定排ガスボリュームABSVの経時的変化が小さい状態(推定排ガスボリュームABSVがほぼ一定である状態)であることを意味する。
【0352】
触媒劣化評価処理器28は次に、上記排ガスボリューム変動パラメータSVMAの値の二乗値SVMA2をあらかじめ定めた所定値δと比較する(STEP6−2−3)。ここで、該所定値δは、「0」近傍の正の値である。
【0353】
このとき、SVMA2≧δである場合(現在の排ガスボリュームの変動が比較的大きい場合)には、タイマカウンタ(カウントダウンタイマ)TMCRSJUDの値をあらかじめ定めた初期値X/TMCRSJSTに設定する(STEP6−2−4)。さらに、排ガスボリュームの変動状態が前記クルーズ状態(略一定に維持されている状態)でないとして、前記フラグF/CRSの値を「0」に設定した後(STEP6−2−5)、図18のルーチン処理に復帰する。
【0354】
一方、STEP6−2−3の判断処理において、SVMA2<δである場合(現在の排ガスボリュームの変動が比較的小さい場合)には、この状態が継続する限り前記タイマカウンタTMCRSJUDの値を排ガスボリューム変動判断周期毎に所定値ずつカウントダウンする(STEP6−2−6)。そして、このタイマカウンタTMCRSJUDの値が「0」以下になったか否か、すなわち、該タイマカウンタTMCRSJUDがタイムアップしたか否かを判断する(STEP6−2−7)。
【0355】
このとき、TMCRSJUD≦0で、タイマカウンタTMCRSJUDがタイムアップしている場合には、排ガスボリュームの変動状態が前記クルーズ状態であると判断して、タイマカウンタTMCRSJUDの値を「0」に保持すると共に(STEP6−2−8)、前記フラグF/CRSの値を「1」に設定する(STEP6−2−9)。
【0356】
また、STEP6−2−7の判断処理で、TMCRSJUD>0で、タイマカウンタTMCRSJUDがタイムアップしていない場合には、前記STEP6−2−5でフラグF/CRSの値を「0」に設定した後、図18のルーチン処理に復帰する。
【0357】
以上説明した処理が図18のSTEP6−2の処理である。このような処理によって、前記排ガスボリューム変動パラメータSVMAの二乗値SVMA2がSVMA2<δとなる状態、すなわち、排ガスボリュームの変動が小さい状態が前記タイマカウンタTMCRSJUDの初期値X/TMCRSJSTに相当する時間(例えば10〜15秒)、継続した場合、前記クルーズ状態であるとして、フラグF/CRSの値が「1」に設定される。そして、これ以外の場合には、排ガスボリュームの変動状態はクルーズ状態ではないとしてフラグF/CRSの値が「0」に設定される。
【0358】
このようなSTEP6−2の処理により、排ガスボリュームがほぼ一定に維持されているような状態を適正に把握することができる。尚、前記排ガスボリューム変動判断周期の1周期内における前記排気側制御ユニット7aの各制御サイクルでは、フラグF/CRSの値は一定に維持される。
【0359】
図18の説明に戻って、前記触媒劣化評価処理器28は、次に、前記劣化評価パラメータB1MTLSの算出を実行する条件(以下、劣化評価条件という)が成立しているか否かを判断する処理、詳しくは該劣化評価条件が成立しているか否かをそれぞれ値「1」、「0」で表すフラグF/CALB1MTを設定する処理を実行する(STEP6−3)。この処理は、図20のフローチャートに示すように行われる。
【0360】
すなわち、触媒劣化評価処理器28は、前記図8のSTEPdで機関側制御ユニット7bが設定するフラグf/prism/onの値を判断する(STEP6−3−1)。このとき、f/prism/on=0である場合、すなわち排気側主演算処理部13が求める目標空燃比KCMDをエンジン1の燃料制御に使用しないエンジン1の運転状態(例えばエンジン1のリーン運転中等)である場合には、前記劣化評価条件が成立していないとして、前記フラグF/CALB1MTの値を「0」に設定する(STEP6−3−7)。
【0361】
これは、f/prism/on=0であるときには、触媒装置3の劣化状態が適正に反映される同定ゲイン係数b1ハットが得られない場合が多いからである。
【0362】
また、触媒劣化評価処理器28は、前記STEP6−2で設定したフラグF/CRSの値を判断する(STEP6−3−2)。このとき、F/CRS=1である場合、すなわち排ガスボリュームの変動状態が前記クルーズ状態である場合には、前記劣化評価条件が成立していないとして、前記STEP6−3−7でフラグF/CALB1MTの値を「0」に設定する。
【0363】
すなわち、前記クルーズ状態では、O2センサ6やLAFセンサ5の出力が定常的な状態(略一定値となる状態)に安定して維持されやすいため、触媒装置3の劣化が進行した状態であっても、前記同定器25が求める前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの値の変動が生じにくい。つまり、劣化評価パラメータB1MTLSの基礎となる同定ゲイン係数b1ハットの値に、触媒装置3の劣化状態の影響が反映されにくい。このために、本実施形態では、前記クルーズ状態では、前記劣化評価条件が成立していないとして、フラグF/CALB1MTの値を「0」に設定する。
【0364】
さらに触媒劣化評価処理器28は、エンジン1の現在の回転数NE、吸気圧PB、前記STEP5で同定器25が求めた最新の同定ゲイン係数b1(k)ハット、及びSTEP6−2で求めた現在の推定排ガスボリュームABSVがそれぞれ所定の範囲内(通常的に採り得る値の範囲内)にあるか否かを判断する(STEP6−3−3)。また、触媒劣化評価処理器28は、エンジン1の機関温度(冷却水温)が所定温度以上の温度(エンジン1の始動後に暖機が終了した後の通常的な温度)であるか否か、及びエンジン1の始動後、所定時間が経過したか否か(始動直後の状態を過ぎたか否か)を判断する(STEP6−3−4,6−3−5)。
【0365】
このとき、これらのSTEP6−3−3〜6−3−5の条件が成立していない場合には、劣化評価パラメータB1MTLSを算出する上で適正な同定ゲイン係数b1ハットが得られない場合があるので、前記劣化評価条件が成立していないとして、前記STEP6−3−6でフラグF/CALB1MTの値を「0」に設定する。
【0366】
そして、STEP6−3−1,6−3−2でそれぞれf/prism/on=1、F/CRS=0であり、且つ、STEP6−3−3、6−3−4及びSTEP6−3−5の条件が成立している場合に、前記劣化評価条件が成立しているとして、フラグF/CALB1MTの値を「1」に設定する(STEP6−3−6)。つまり、スライディングモード制御器27が求める目標空燃比KCMDに応じてエンジン1の燃料制御を行っている場合で、エンジン1の排ガスボリュームの状態が前記クルーズ状態でなく、また、エンジン1の回転数NE等が通常的な状態である場合に、前記劣化評価条件が成立しているとして、フラグF/CALB1MTの値を「1」に設定する。
【0367】
図18の説明に戻って、触媒劣化評価処理器28は、次に上述のように設定したフラグF/CALB1MTの値を判断する(STEP6−4)。このとき、F/CALB1MT=0であるとき、すなわち前記劣化評価条件が成立していない場合には、劣化評価パラメータB1MTLSの算出処理等を行うことなく、前記図9のメインルーチン処理に復帰する。
【0368】
一方、F/CALB1MT=1で劣化評価条件が成立している場合には、触媒劣化評価処理器28は、次に、劣化評価パラメータB1MTLSを算出する処理を実行する(STEP6−5)。この処理は図21のフローチャートに示すように行われる。
【0369】
すなわち、触媒劣化評価処理器28は、まず、同定ゲイン係数b1ハットの中心値である前記同定中心値B1LSを前記式(29)により算出(更新)する(STEP6−5−1)。さらに具体的には、排気側制御ユニット7aの現在の制御サイクルにおいて前記STEP5で求められた同定ゲイン係数b1ハットの値b1(k)と、同定中心値B1LSの現在値B1LS(k-1)(前回の制御サイクルで求められた値)と、前記式(30)の漸化式により定まるゲインパラメータBPの現在値BP(k-1)(前回の制御サイクルで求められた値)とから、前記式(29)によって、新たな同定中心値B1LS(k)を算出する。これにより、排気側制御ユニット7aの制御サイクル毎に、逐次、同定中心値B1LSが更新されつつ算出される。
【0370】
さらに、触媒劣化評価処理器28は、同定ゲイン係数b1ハットの現在値b1(k)と、上記STEP6−5−1で求めた同定中心値B1LS(k)との偏差の二乗値B1MT(k)、すなわち、前記ばらつき基本パラメータB1MT(k)を前記式(31)の通り求める(STEP6−5−2)。
【0371】
次いで、触媒劣化評価処理器28は、このばらつき基本パラメータB1M Tの中心値としての前記劣化評価パラメータB1MTLSを前記式(32)により算出(更新)する(STEP6−5−3)。さらに具体的には、上記STEP6−5−2で求めたばらつき基本パラメータB1MT(k)と、劣化評価パラメータB1MTLSの現在値B1MTLS(k-1)(前回の制御サイクルで求められた値)と、前記式(30)の漸化式により定まるゲインパラメータBPの現在値BP(k-1)(前回の制御サイクルで求められた値)とから、前記式(32)によって、新たな劣化評価パラメータB1MTLS(k)を算出する。これにより、排気側制御ユニット7aの制御サイクル毎に、逐次、劣化評価パラメータB1MTLSが更新されつつ算出される。
【0372】
次いで、触媒劣化評価処理器28は、ゲインパラメータBPの値を式(30)により更新した後(STEP6−5−4)、劣化評価パラメータB1MTLS及びゲインパラメータBPの更新回数(これは劣化評価パラメータB1MTLSを求めるために使用した同定ゲイン係数b1ハットの値の個数に相当する)をカウントするカウンタCB1Pの値を「1」だけ増加させ(STEP6−5−5)、図18のルーチン処理に復帰する。
【0373】
尚、上述のようにSTEP6−5−1,6−5−3,6−5−4でそれぞれ求める同定中心値B1LS、劣化評価パラメータB1MTLS及びゲインパラメータBPの値は、エンジン1の運転停止中も失われることがないように、エンジン1の運転終了時に図示しないEEPROM等の不揮発性メモリに記憶される。そして、次回のエンジン1の運転時には、その記憶された同定中心値B1LS、劣化評価パラメータB1MTLS及びゲインパラメータBPの値がそれらの初期値として用いられる。また、エンジン1の最初の運転時における同定中心値B1LS、劣化評価パラメータB1MTLS及びゲインパラメータBPの初期値はそれぞれあらかじめ定めた所定値(例えばそれぞれ「0.2」、「0」、「1」)である。さらに前記カウンタCB1Pは、エンジン1の始動時に「0」に初期化される。
【0374】
図18の説明に戻って、上記のように劣化評価パラメータB1MTLSの値を算出(更新)した後、触媒劣化評価処理器28は、劣化評価パラメータB1MTLSに基づく触媒装置3の劣化状態の評価を行う(STEP6−6)。この処理は図22のフローチャートに示すように行われる。
【0375】
すなわち、触媒劣化評価処理器28は、前記ゲインパラメータBPの現在値BP(k)と前回値BP(k-1)とが略等しいか否か(ゲインパラメータBPがほぼ収束したか否か)の判断と、前記カウンタCB1Pの値が所定値CB1CAT以上になったか否か(劣化評価パラメータB1MTLSを求めるために使用した同定ゲイン係数b1ハットの値の個数が所定値CB1CATに達したか否か)の判断とを行う(STEP6−6−1,6−6−2)。
【0376】
尚、本実施形態では、エンジン1の始動前に図示しない車両のバッテリが一旦取り外された場合やエンジン1の初回の運転時等のように、エンジン1の始動時に前回の運転時の同定中心値B1LS、劣化評価パラメータB1MTLS及びゲインパラメータBPのデータが保持されていない場合(それらの値が初期化されている場合)には、前記STEP6−6−2で前記カウンタCB1Pの値と比較する所定値は、上記の同定中心値B1LS、劣化評価パラメータB1MTLS及びゲインパラメータBPのデータが保持されている場合よりも、大きな値に設定される。
【0377】
上記STEP6−6−1,6−6−2の判断において、それらのいずれかの条件が満たされていない場合には、現在の制御サイクルにおいてSTEP6−5で求められた劣化評価パラメータB1MTLSは、前記ばらつき基本パラメータB1MTのの中心値に未だ十分に収束していないと考えられる。このため、この場合には、現在の劣化評価パラメータB1MTLSの値に基づく触媒装置3の劣化状態の評価を行うことなく、STEP6−6の処理を終了する。
【0378】
一方、STEP6−6−1,6−6−2のいずれの条件も満たされている場合には、現在の制御サイクルにおいてSTEP6−5で求められた劣化評価パラメータB1MTLSは、前記ばらつき基本パラメータB1MTの中心値を表すものとなっているので、該劣化評価パラメータB1MTLSを前記図6に示した所定の閾値CATAGELMTと比較する(STEP6−6−3)。
【0379】
このときB1MTLS≧CATAGELMTである場合には、触媒装置3の劣化状態が前記「劣化進行状態」(触媒装置3の交換を要するかもしくはその交換時期が近い程度に触媒装置3が劣化した状態)であると判断して、その旨を前記劣化報知器29に報知させる(STEP6−6−4)。そして、今回のエンジン1の運転中における触媒装置3の劣化状態の評価が終了したか否かをそれぞれ値「1」、「0」で表す前記フラグF/DO NEの値を「1」に設定した後(STEP6−6−5)、STEP6−6の処理を終了する。
【0380】
また、STEP6−6−3で、B1MTLS<CATAGELMTである場合には、触媒装置3の劣化状態は前記「未劣化状態」であるので、劣化報知器29による報知を行うことなく、前記STEP6−6−5でフラグF/DONEの値を「1」に設定し、STEP6−6の処理を終了する。
【0381】
以上説明した処理が、図9のSTEP6で触媒劣化評価処理器28が行う処理である。
【0382】
図9のメインルーチン処理の説明に戻って、前述の通り触媒劣化評価処理器28の演算処理が行われた後、排気側主演算処理部13はゲイン係数a1,a2,b1の値を決定する(STEP7)。この処理では、前記STEP2で設定されたフラグf/id/calの値が「1」である場合、すなわち、同定器25によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行った場合には、ゲイン係数a1,a2,b1の値として、それぞれ前記STEP5で前述の通り同定器25により求められた同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハット(STEP5−11のリミット処理を施したもの)を設定する。また、f/id/cal=0である場合、すなわち、同定器25によるゲイン係数a1,a2,b1の同定処理を行わなかった場合には、ゲイン係数a1,a2,b1の値をそれぞれあらかじめ定めた所定値とする。
【0383】
次いで、排気側主演算処理部13は、前記推定器26による演算処理(推定偏差出力VO2バーの算出処理)を行う(STEP8)。
【0384】
すなわち、推定器26は、まず、前記STEP7で決定されたゲイン係数a1,a2,b1(これらの値は基本的には、前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットである)を用いて、前記式(13)で使用する係数値α1,α2,βj(j=1〜d)を前述したように算出する。
【0385】
次いで、推定器26は、前記STEP3で制御サイクル毎に取得されるO2センサの偏差出力VO2の現在の制御サイクル以前の時系列データVO2(k),VO2(k-1)、並びにLAFセンサ5の偏差出力kactの現在の制御サイクル以前の時系列データkact(k-j)(j=0〜d1)と、スライディングモード制御器27から制御サイクル毎に与えられる前記目標偏差空燃比kcmd(=SLD操作入力usl)の前回の制御サイクル以前の時系列データkcmd(k-j)(=usl(k-j)。j=1〜d 2−1)と、上記の如く算出した係数α1,α2,βjとを用いて前記式(13)により、推定偏差出力VO2(k+d)バー(今回の制御サイクルの時点から前記合計無駄時間d後の偏差出力VO2の推定値)を算出する。
【0386】
排気側主演算処理部13は、次に、スライディングモード制御器27によって、前記SLD操作入力usl(=目標偏差空燃比kcmd)を算出する(STEP9)。
【0387】
すなわち、スライディングモード制御器27は、まず、前記STEP8で推定器2により求められた推定偏差出力VO2バーの時系列データVO2(k+d)バー,VO 2(k+d-1)バー(推定偏差出力VO2バーの今回値及び前回値)を用いて、前記式(25)により定義された切換関数σバーの今回の制御サイクルから前記合計無駄時間d後の値σ(k+d)バー(これは、式(15)で定義された切換関数σの合計無駄時間d後の推定値に相当する)を算出する。
【0388】
尚、この場合、切換関数σバーの値があらかじめ定めた所定の許容範囲内に収まるようにし、上記の如く求められるσ(k+d)バーがその許容範囲の上限値又は下限値を超えた場合には、それぞれσバーの値σ(k+d)バーを強制的に該上限値又は下限値に制限する。これは、切換関数σバーの値が過大になると、前記到達則入力urchが過大になると共に、前記適応則入力uadpの急変を生じるために、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の安定性が損なわれる虞れがあるからである。
【0389】
さらに、スライディングモード制御器27は、上記切換関数σバーの値σ(k+d)バーに、排気側制御ユニット7aの制御サイクルの周期ΔT(一定周期)を乗算したものσ(k+d)バー・ΔTを累積的に加算していく、すなわち、前回の制御サイクルで求められた加算結果に今回の制御サイクルで算出されたσ(k+d) バーと周期ΔTとの積σ(k+d)バー・ΔTを加算することで、前記式(27)のΣ(σバー・ΔT)の項の演算結果であるσバーの積算値(以下、この積算値をΣσバーにより表す)を算出する。
【0390】
尚、この場合、本実施形態では、上記積算値Σσバーがあらかじめ定めた所定の許容範囲内に収まるようにし、該積算値Σσバーがその許容範囲の上限値又は下限値を超えた場合には、それぞれ該積算値Σσバーを強制的に該上限値又は下限値に制限する。これは、積算値Σσバーの大きさが過大になると、前記式(27)により求められる適応則入力uadpが過大となって、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの収束制御の安定性が損なわれる虞れがあるからである。
【0391】
次いで、スライディングモード制御器27は、前記STEP7で推定器26により求められた推定偏差出力VO2バーの現在値及び過去値の時系列データVO2(k+d)バー,VO2(k+d-1)バーと、上記の如く求めた切換関数の値σ(k+d)バー及びその積算値Σσバーと、STEP7で決定したゲイン係数a1,a2,b1(これらの値は基本的には、最新の同定ゲイン係数a1ハット(k),a2ハット(k),b1ハット(k)である)とを用いて、前記式(24)、(26)、(27)に従って、それぞれ等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpを算出する。
【0392】
そして、スライディングモード制御器27は、この等価制御入力ueq、到達則入力urch及び適応則入力uadpを加算することで、前記SLD操作入力usl、すなわち、O2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束させるために必要な対象排気系Eへの入力量(=目標偏差空燃比kcmd)を算出する。これがSTEP9の処理内容である。
【0393】
上記のようにSLD操作入力uslを算出した後、排気側主演算処理部13は、スライディングモード制御器27による適応スライディングモード制御の安定性(より詳しくは、適応スライディングモード制御に基づくO2センサ6の出力VO2/OUTの制御状態(以下、SLD制御状態という)の安定性)を判別する処理を行って、該SLD制御状態が安定であるか否かをそれぞれ値「1」、「0」で表すフラグf/sld/stbの値を設定する(STEP10)。
【0394】
この安定性の判別処理は図23のフローチャートに示すように行われる。
【0395】
すなわち、排気側主演算処理部13は、まず、前記STEP9で算出される切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーと前回値σ(k+d-1)バーとの偏差Δσバー(これは切換関数σバーの変化速度に相当する)を算出する(STEP10−1)。
【0396】
次いで、排気側主演算処理部13は、上記偏差Δσバーと切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーとの積Δσバー・σ(k+d)バー(これはσバーに関するリアプノフ関数σバー2/2の時間微分関数に相当する)があらかじめ定めた所定値ε(≧0)以下であるか否かを判断する(STEP10−2)。
【0397】
ここで、上記積Δσバー・σ(k+d)バー(以下、これを安定判別パラメータPstbという)について説明すると、この安定判別パラメータPstbの値がPstb>0となる状態は、基本的には、切換関数σバーの値が「0」から離間しつつある状態である。また、安定判別パラメータPstbの値がPstb≦0となる状態は、基本的には、切換関数σバーの値が「0」に収束しているか、もしくは収束しつつある状態である。そして、一般に、スライディングモード制御ではその制御量を目標値に安定に収束させるためには、切換関数の値が安定に「0」に収束する必要がある。従って、基本的には、前記安定判別パラメータPstbの値が「0」以下であるか否かによって、それぞれ前記SLD制御状態が安定、不安定であると判断することができる。
【0398】
但し、安定判別パラメータPstbの値を「0」と比較することでSLD制御状態の安定性を判断すると、切換関数σバーの値に僅かなノイズが含まれただけで、安定性の判別結果に影響を及ぼしてしまう。このため、本実施形態では、前記STEP10−2で安定判別パラメータPstbと比較する所定値εは、「0」よりも若干大きな正の値としている。
【0399】
そして、STEP10−2の判断で、Pstb>εである場合には、SLD制御状態が不安定であるとし、前記STEP9で算出されるSLD操作入力uslを用いた目標空燃比KCMDの決定を所定時間、禁止するためにタイマカウンタtm(カウントダウンタイマ)の値を所定の初期値TMにセットする(タイマカウンタtmの起動。STEP10−4)。さらに、前記フラグf/sld/stbの値を「0」に設定した後(STEP10−5)、図9のメインルーチンの処理に復帰する。
【0400】
一方、前記STEP10−2の判断で、Pstb≦εである場合には、排気側主演算処理部13は、切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーがあらかじめ定めた所定範囲内にあるか否かを判断する(STEP10−3)。
【0401】
この場合、切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内に無い状態は、該今回値σ(k+d)バーが「0」から大きく離間している状態であるので、SLD制御状態が不安定であると考えられる。このため、STEP10−3の判断で、切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内に無い場合には、SLD制御状態が不安定であるとして、前述の場合と同様に、STEP10−4及び10−5の処理を行って、タイマカウンタtmを起動すると共に、フラグf/sld/stbの値を「0」に設定する。
【0402】
尚、本実施形態では、前述のSTEP9の処理において、切換関数σバーの値を所定の許容範囲内に制限するので、STEP10−3の判断処理は省略してもよい。
【0403】
また、STEP10−3の判断で、切換関数σバーの今回値σ(k+d)バーが、所定範囲内にある場合には、排気側主演算処理部13は、前記タイマカウンタtmを所定時間Δtm分、カウントダウンする(STEP10−6)。そして、このタイマカウンタtmの値が「0」以下であるか否か、すなわち、タイマカウンタtmを起動してから前記初期値TM分の所定時間が経過したか否かを判断する(STEP10−7)。
【0404】
このとき、tm>0である場合、すなわち、タイマカウンタtmが計時動作中でまだタイムアップしていない場合は、STEP10−2あるいはSTEP10−3の判断でSLD制御状態が不安定であると判断されてから、さほど時間を経過していないので、SLD制御状態が不安定なものとなりやすい。このため、STEP10−7でtm>0である場合には、前記STEP10−5の処理を行って前記フラグf/sld/stbの値を「0」に設定する。
【0405】
そして、STEP10−7の判断でtm≦0である場合、すなわち、タイマカウンタtmがタイムアップしている場合には、SLD制御状態が安定であるとして、フラグf/sld/stbの値を「1」に設定する(STEP10−8)。
【0406】
以上のような処理によって、SLD制御状態の安定性が判断され、不安定であると判断した場合には、フラグf/sld/stbの値が「0」に設定され、安定であると判断した場合には、フラグf/sld/stbの値が「1」に設定される。
【0407】
尚、以上説明したSLD制御状態の安定性の判断の手法は例示的なもので、この他の手法によって安定性の判断を行うようにすることも可能である。例えば排気側制御ユニット7aの制御サイクルよりも長い所定期間毎に、各所定期間内における前記安定判別パラメータPstbの値が前記所定値εよりも大きくなる頻度を計数する。そして、その頻度があらかじめ定めた所定値を超えるような場合にSLD制御状態が不安定であると判断し、逆の場合に、SLD制御状態が安定であると判断するようにしてもよい。
【0408】
図9の説明に戻って、上記のようにSLD制御状態の安定性を示すフラグf/sld/stbの値を設定した後、排気側主演算処理部13は、フラグf/sld/stbの値を判断する(STEP11)。このとき、f/sld/stb=1である場合、すなわち、SLD制御状態が安定であると判断された場合には、スライディングモード制御器27が前記STEP9で算出したSLD操作入力uslのリミット処理を行う(STEP12)。このリミット処理では、STEP9で算出されたSLD操作入力uslの今回値usl(k)が所定の許容範囲内にあるか否かが判断され、該今回値uslがその許容範囲の上限値又は下限値を超えている場合には、それぞれ、SLD操作入力uslの今回値usl(k)が強制的に該上限値又は下限値に制限される。
【0409】
尚、STEP12のリミット処理を経たSLD操作入力usl(=目標偏差空燃比kcmd)は、図示しないメモリに時系列的に記憶保持され、それが、推定器26の前述の演算処理のために使用される。
【0410】
次いで、排気側主演算処理部13は、スライディングモード制御器27によって、STEP12のリミット処理を経たSLD操作入力uslに前記基準値FLAF/BASEを加算することで、前記目標空燃比KCMDを算出し(STEP14)、今回の制御サイクルの処理を終了する。
【0411】
また、前記STEP11の判断でf/sld/stb=0である場合、すなわち、SLD制御状態が不安定であると判断された場合には、排気側主演算処理部13は、今回の制御サイクルにおけるSLD操作入力uslの値を強制的に所定値(固定値あるいはSLD操作入力uslの前回値)に設定した後(STEP13)、前記式(28)に従って前記目標空燃比KCMDを算出し(STEP14)、今回の制御サイクルの処理終了する。
【0412】
尚、STEP14で最終的に決定される目標空燃比KC MDは、制御サイクル毎に図示しないメモリに時系列的に記憶保持される。そして、前記大局的フィードバック制御器15等が、排気側主演算処理部13で決定された目標空燃比KCMDを用いるに際しては(図8のSTEPfを参照)、上記のように時系列的に記憶保持された目標空燃比KCMDの中から最新のものが選択される。
【0413】
以上説明した内容が本実施形態の装置の詳細な作動である。
【0414】
すなわち、その作動を要約すれば、基本的には排気側主演算処理部13によって、触媒装置3の下流側のO2センサ6の出力VO2/OUTを一定の目標値VO2/T ARGETに収束(整定)させるように、触媒装置3に進入する排ガスの目標空燃比KCMD(LAFセンサ5が検出する空燃比の目標値)が逐次決定される。さらに、この目標空燃比KCMDとLAFセンサ5の出力KACT(空燃比の検出値)に応じてエンジン1の燃料噴射量を調整してエンジン1の空燃比を操作する。これにより、LAFセンサ5が検出する空燃比(これは対象排気系Eの入力量である)が上記目標空燃比KCMDにフィードバック制御される。そして、上記のように触媒装置3の下流側のO2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/T ARGETに整定させることで、触媒装置3の経時劣化等によらずに、触媒装置3の最適な排ガス浄化性能を確保することができる。
【0415】
さらに、このようなエンジン1の空燃比の制御と並行して、排気側主演算処理部13の触媒劣化評価処理器28は、同定器25が逐次求める同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットのうち、b1ハットの時系列データから、該時系列データのばらつき度合いを表す劣化評価パラメータB1MTLSが求められる。そして、この劣化評価パラメータB1MTLSを所定の閾値CATAGELMTと比較することによって、触媒装置3の劣化状態(劣化度合い)が前記「劣化進行状態」であるか、「未劣化状態」であるかの評価がなされる。さらに、その評価結果が「劣化進行状態」である場合には、その旨が劣化報知器29を介して報知される。
【0416】
従って、本実施形態の装置では、触媒装置3による排ガスの最適な浄化性能を確保するようにエンジン1の空燃比を制御する該エンジン1の通常的な運転状態において、該空燃比の制御を中断したりすることなく、該空燃比の制御と並行して触媒装置3の劣化状態の評価を行うことができる。
【0417】
この場合、触媒装置3の劣化状態の評価処理においては、同定ゲイン係数b1ハットの時系列データの各データ値と、該時系列データの中心値である前記同定中心値B1LSとの偏差の二乗値B1MT(あるいは該偏差の絶対値でもよい)を該時系列データのばらつき度合いに関するばらつき基本パラメータB1MTとして逐次求める。そして、このばらつき基本パラメータB1MTの中心値を前記劣化評価パラメータB1MTLSとして求める。
【0418】
このため、該劣化評価パラメータB1MTLSは、触媒装置3の劣化状態との間に顕著な相関性を有し、触媒装置3の劣化の進行に伴い、単調的に値が増加するものとなる。また、触媒装置3の劣化状態が同一であれば、該劣化評価パラメータB1MTLSの値はほぼ同一の値となる。従って、このような劣化評価パラメータB1MTLSをあらかじめ定めた閾値CATAGELMTと比較することによって、触媒装置3の劣化状態を精度よく適正に評価することができる。
【0419】
また、本実施形態では、排気側主演算処理部13が求める目標空燃比KCMDは、外乱等の影響を受け難いスライディングモード制御器27と、対象排気系E及び空燃比操作系の無駄時間d1,d2の影響を補償するための推定器26と、対象排気系Eの挙動を表現する排気系モデルのパラメータであるゲイン係数a1,a2,b1をリアルタイムで逐次同定する同定器25とを用いて算出される。このため、O2センサ6の出力VO2/OUTをその目標値VO2/TARGETに制御する上で最適な目標空燃比KCMDを精度よく求めることができる。さらに、エンジン1の空燃比は、エンジン1の挙動変化等の影響を的確に補償し得る漸化式形式の制御器としての適応制御器18を主体として、上記目標空燃比KCMDにLAFセンサ5の出力KACTを収束させるように制御される。
【0420】
このため、O2センサ6の出力VO2/OUTの目標値VO2/TARGETへの制御を外乱等の影響を極力抑えて安定して行うことができる。このため、対象排気系Eの挙動が安定し、前記同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットに触媒装置3の劣化状態以外の外乱的な要因が影響するのを抑えることができる。この結果、同定ゲイン係数b1の時系列データのばらつき度合いと触媒装置3の劣化状態との相関性を高めることができる。ひいては、そのばらつき度合いを表す前記劣化評価パラメータB1MTLSに基づく触媒装置3の劣化状態の評価を精度よく行うことができる。
【0421】
特に、本実施形態では、同定器25は、対象排気系Eの特定の挙動状態、すなわち、O2センサ6の出力VO2/OUTにより把握される空燃比がリーン側からリッチ側の変化するような挙動状態において、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの算出処理(更新処理)を行う。そして、上記のような対象排気系Eの挙動状態は、O2センサ6の偏差出力VO2の時系列データを用いて表した前記マネージメント関数γを用いることで簡単且つ確実に把握することができる。このため、エンジン1の空燃比を前述の如く制御し、また、触媒装置3の劣化状態を評価する上で信頼性の高い適正な同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを求めることができる。
【0422】
さらに本実施形態では、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを逐次更新するために用いる前記同定誤差id/eを算出する際に、対象排気系Eの周波数特性(ローパス特性)を考慮し、排気系モデル上でのO2センサ6の出力VO2/OUTに相当する前記同定偏差出力VO2ハットと、O2センサ6の実際の偏差出力VO2とに同一の周波数特性(ローパス特性)のフィルタリング処理を施す。
【0423】
このため、排気系モデルの周波数特性と実際の対象排気系Eの周波数特性とが整合するようにして排気系モデルのゲイン係数a1,a2,b1を同定することができ、対象排気系Eの挙動特性に整合した同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを求めることができる。従って、該同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットの信頼性を高めることができる。特に、同定ゲイン係数b1ハットには、触媒装置3の劣化状態の影響を適正に反映させることができる。
【0424】
また、本実施形態では、同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを逐次算出するに際して、前述のようなリミット処理を行うことで、前記目標空燃比KCMDやこれに制御されるエンジン1の空燃比を平滑的で安定したものとする上で最適な同定ゲイン係数a1ハット,a2ハット,b1ハットを求めることができる。同時に、触媒装置3の劣化状態を評価する上で不適正な同定ゲイン係数b1ハットを排除しつつ、該劣化状態が顕著に反映された同定ゲイン係数b1ハットを安定して求めることができる。
【0425】
さらに本実施形態では、排気系モデルや、同定器25の演算処理において、LAFセンサ5の出力KACTやO2センサ6の出力VO2/OUTをそのまま用いるのではなく、LAFセンサ5の出力KACTと所定の基準値FLAF/BASEとの偏差kact、並びにO2センサ6の出力VO2/OUTとその目標値VO2/TARGET(基準値)との偏差VO2を用いる。このため、同定器25の演算処理のアルゴリズムの構築が容易なものとなると共に、その演算処理の精度を高めることができる。尚、このことは、推定器26やスライディングモード制御器27の演算処理においても同様である。
【0426】
さらに本実施形態では、特に、エンジン1の排ガスボリュームが略一定に維持される前記クルーズ状態では、前記同定中心値B1LSや劣化評価パラメータB1MTLSを算出する処理、該劣化評価パラメータB1MTLSに基づく触媒装置3の劣化状態の評価処理(前記STEP6−5,6−6の処理)を行わない。つまり、触媒装置3の劣化状態の評価結果を決定するための劣化評価パラメータB1MTLSの算出に際しては、前記クルーズ状態で前記同定器25が求めた同定ゲイン係数b1を使用しない。そして、該クルーズ状態以外のエンジン1の運転状態で前記同定器25が求めた同定ゲイン係数b1を使用して、前記劣化評価パラメータB1MTLSを算出する。
【0427】
このため、触媒装置3の劣化状態と確実に相関性を有する劣化評価パラメータB1MTLSを得ることができ、該劣化評価パラメータB1MTLSに基づく触媒装置3の劣化状態の評価結果の信頼性を確実に確保することができる。
【0428】
尚、本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような変形態様も可能である。
【0429】
すなわち、前記実施形態では、同定器25が求める同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットのうち、同定ゲイン係数b1の時系列データから劣化評価パラメータB1MTLSを求めて触媒装置3の劣化状態を評価するようにしたが、同定ゲイン係数a1ハットあるいはa2ハットを用いて触媒装置3の劣化状態を前記実施形態と同様に評価するようにすることも可能である。この場合には、例えば前記同定中心値B1LSを求める場合と同様にして、同定ゲイン係数a1ハットあるいはa2ハットの時系列データの中心値を漸減ゲイン法や最小二乗法等の逐次型統計処理アルゴリズム(より一般的にはローパス特性のフィルタリング処理)により逐次求める。そして、この中心値と同定ゲイン係数a1ハットあるいはa2ハットの各データ値との偏差の二乗値あるいは絶対値の中心値を、漸減ゲイン法や最小二乗法等の逐次型統計処理アルゴリズム(より一般的にはローパス特性のフィルタリング処理)により劣化評価パラメータとして求めるようにすればよい。このようにしたとき、該劣化評価パラメータは、触媒装置3の劣化状態(劣化度合い)に対して、前記実施形態における劣化評価パラメータB1MTLSと同様の相関特性を有するものとなり、該劣化評価パラメータの値に基づいて触媒装置3の劣化状態を評価することができる。
【0430】
但し、本願発明者等の知見によれば、同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハットのうち、触媒装置3の劣化の進行に伴いばらつき度合いが大きくなる傾向は、同定ゲイン係数b1ハットに関して最も顕著に現れる。従って、同定ゲイン係数b1ハットを用いて劣化評価パラメータを求めることが好適である。
【0431】
また、前記実施形態では、同定ゲイン係数b1ハットから求めた劣化評価パラメータB1MTLSのみに基づいて触媒装置3の劣化状態を評価した。但し、これ以外に、例えば各同定ゲイン係数a1ハット、a2ハット、b1ハット毎に、劣化評価パラメータを求めると共に、その各劣化評価パラメータ毎に、触媒装置3の劣化状態を暫定的に評価し、その評価結果を総合して触媒装置3の劣化状態の評価結果を最終的に確定するようにしてもよい。
【0432】
また、前記実施形態では、劣化評価パラメータB1MTLSを求めるに際して、漸減ゲイン法の逐次型統計処理アルゴリズムにより同定ゲイン係数b1ハットの中心値(=同定中心値B1LS)を求めるようにしたが、最小二乗法、重み付き最小二乗法、固定ゲイン法等、他の統計処理アルゴリズムにより同定ゲイン係数b1ハットの中心値を求めるようにしてもよい。さらには、例えば同定ゲイン係数b1ハットの時系列データの算術平均値をその中心値として求めるようにしてもよい。このことは、他の同定ゲイン係数a1ハットあるいはa2ハットを用いて劣化評価パラメータを求める場合についても同様である。
【0433】
また、前記実施形態では、同定ゲイン係数b1ハットの各データ値と、同定中心値B1LSの偏差B1MTの二乗値の中心値を、同定ゲイン係数b1ハットの時系列データのばらつき度合いを表す劣化評価パラメータB1MTLSとして求めるようにした。但し、これ以外にも、例えば上記偏差B1MTの二乗値の算術平均値(これは同定ゲイン係数b1ハットの時系列データの分散である)や、該算術平均値(分散)の平方根である標準偏差を劣化評価パラメータとして求めたり、あるいは、上記偏差B1MTの二乗値の代わりに該偏差B1MTの絶対値を用いて劣化評価パラメータを求めるようにしてもよい。さらには、エンジン1の運転条件や触媒装置3の劣化状態の評価結果の要求される精度等によっては、上記偏差B1MTの二乗値や絶対値そのものを劣化評価パラメータとして用いて触媒装置3の劣化状態を評価することも可能である。このようなことは、他の同定ゲイン係数a1ハットあるいはa2ハットを用いて劣化評価パラメータを求める場合についても同様である。
【0434】
また、前記実施形態では、触媒装置3の劣化状態を「劣化進行状態」と「未劣化状態」との二つに分けて評価するようにしたが、前記劣化評価用パラメータと比較する閾値をさらに多くすれば、触媒装置3の劣化状態をさらに多くの劣化度合いに分けて評価するようにすることも可能である。そして、それぞれの劣化度合いに応じて各別の報知をするようにすることも可能である。
【0435】
また、前記実施形態では、対象排気系Eのモデル(排気系モデル)を、式(1)により表現したが、例えば二次目の自己回帰項(VO2(k-1)の項)を省略したり、あるいは、さらに多くの自己回帰項(例えばVO2(k-2)を含む項を追加する)を含む式により排気系モデルを表現するようにしてもよい。
【0436】
また、前記実施形態では、触媒装置3の劣化状態を判別するために用いる対象排気系Eのモデルと、エンジン1の空燃比を制御する(目標空燃比KCMDを算出する)ために用いる対象排気系Eのモデルとを同一とし、そのモデルのパラメータ(ゲイン係数)a1,a2,b1を同一の同定器25により同定するようにしたが、それぞれに用いる対象排気系Eのモデルを各別に設定し、それらのモデルのパラメータを各別の同定器により同定するようにしてもよい。
【0437】
また、前記実施形態では、エンジン1の空燃比を触媒装置3の最適な浄化性能が得られる空燃比に制御しつつ、触媒装置3の劣化状態を評価するようにしたが、別の形態でエンジン1の運転を行っている状態においても、排気系モデルのパラメータ(ゲイン係数)a1,a2,b1を同定すると共に、その同定値から劣化評価パラメータを求めて触媒装置3の劣化状態を評価することも可能である。
【0438】
また、前記実施形態では、目標空燃比KCMDの算出を適応スライディングモード制御を用いて行ったが、通常のスライディングモード制御(適応則を用いないもの)を用いて目標空燃比KCMDの算出を行うようにしてもよい。
【0439】
さらに、前記実施形態ではO2センサ6の出力VO2/OUTを目標値VO2/TARGETに収束制御するための目標空燃比KCMDの算出に際しては、推定器26により前記合計無駄時間dの影響を補償するようにしたが、例えば前記空燃比操作系(エンジン1及び機関側制御ユニット7bからなる系)の無駄時間d2が対象排気系Eの無駄時間d1に比して十分に小さいような場合には、対象排気系Eの無駄時間d1の影響のみを補償するようにしてもよい。この場合には、推定器26は、前記式(12)の「kcmd」及び「d」をそれぞれ「kact」及び「d1」に置き換えた次式(49)を用いて、前記実施形態と同様にO2センサ6の偏差出力VO2の無駄時間d1後の推定値VO2(k+d1)を制御サイクル毎に逐次求める。
【0440】
【数49】
Figure 0004312325
【0441】
そして、スライディングモード制御器27は、前記式(24)〜(27)で「d」を「d1」に置き換えた式によって、等価制御入力usl、到達則入力urch及び適応則入力uadpを制御サイクル毎に求め、それらを加算することで、目標偏差空燃比kcmdを求める。このようにすることで、対象排気系Eの無駄時間d1の影響を補償した目標空燃比KCMDを求めることができる。
【0442】
さらには、空燃比操作系の無駄時間d1だけでなく対象排気系Eの無駄時間d1も無視できるほど小さいような場合には、前記推定器26を省略してもよい。この場合には、スライディングモード制御器27や同定器25の演算処理は、d=d1=0として行えばよい。
【0443】
また、前記実施形態では、第2排ガスセンサとしてO2センサ6を用いたが、第2排ガスセンサは、触媒装置3の所要の浄化性能を確保する上では、制御すべき触媒装置下流の排ガスの特定成分の濃度を検出できるセンサであれば、他のセンサを用いてもよい。すなわち、例えば触媒装置下流の排ガス中の一酸化炭素(CO)を制御する場合はCOセンサ、窒素酸化物(NOx)を制御する場合にはNOxセンサ、炭化水素(HC)を制御する場合にはHCセンサを用いる。三元触媒装置を使用した場合には、上記のいずれのガス成分の濃度を検出するようにしても、触媒装置の浄化性能を最大限に発揮させるように制御することができる。また、還元触媒装置や酸化触媒装置を用いた場合には、浄化したいガス成分を直接検出することで、浄化性能の向上を図ることができる。
【0444】
さらに、触媒装置3の劣化状態を評価する上では、第1排ガスセンサとして、LAFセンサ5以外の排ガスセンサを用いてもよく、第1排ガスセンサと同様に、COセンサ、NOxセンサ、HCセンサ等を用いることが可能である。この場合、第1及び第2排ガスセンサは、前述の実施形態と同様に対象排気系Eのモデル化を行って、そのモデルのパラメータを同定したときに、その同定値の時系列データのばらつき度合いが触媒装置の劣化状態に応じた変化を呈するものを選定すればよい。
【0445】
また、前記実施形態では、同定器25、推定器26、スライディングモード制御器27の演算処理において、LAFセンサ5の偏差出力kactやO2センサ6の偏差出力VO2、目標偏差空燃比kcmdを用いたが、LAFセンサ5の出力KACTやO2センサ6の出力VO2/OUT、目標空燃比KCMDをそのまま用いて同定器25、推定器26、スライディングモード制御器27の演算処理を行うようにすることも可能である。さらに、偏差出力kactや目標空燃比KCMDに係わる前記基準値FLAF/BASEは必ずしも一定値とする必要はなく、該基準値FLAF/B ASEをエンジン1の回転数NEや吸気圧PB等に応じて設定するようにしてもよい。
【0446】
また、前記実施形態では、触媒装置3の最適な浄化性能を確実に確保するために、同定器25、推定器26及びスライディングモード制御器27を用いて目標空燃比KCMDを算出し、また、エンジン1の空燃比を適応制御器18を用いてフィードバック制御したが、触媒装置3の浄化性能がさほど要求されないような場合には、目標空燃比KCMDの算出や、エンジン1の空燃比のフィードバック制御は一般的なPID制御等により行うようにしてもよい。
【0447】
また、前記実施形態では、エンジン1の排気管2に備えた触媒装置3の劣化状態を評価するものを示したが、触媒装置3の単体の劣化状態を判別するような場合には、エンジン1とは別の燃焼機器によって、エンジン1と同じ混合気を燃焼させることで生成した排ガスを触媒装置3に供給しながら、該触媒装置3の劣化状態を評価するようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を適用した装置の全体的システム構成を示すブロック図。
【図2】図1の装置で使用するO2センサ及び空燃比センサの出力特性図。
【図3】図1の装置の要部の基本構成を示すブロック図。
【図4】図1の装置で用いるスライディングモード制御を説明するための説明図。
【図5】図1の装置で用いる触媒装置の劣化状態の評価方法を説明するための線図。
【図6】図1の装置で用いる触媒装置の劣化状態の評価方法を説明するための線図。
【図7】図1の装置で用いる適応制御器を説明するためのブロック図。
【図8】図1の装置のエンジンの燃料制御に係わる処理を説明するためのフローチャート。
【図9】図1の装置の排気側主演算処理部のメインルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図10】図9のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図11】図9のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図12】図9のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図13】図12のフローチャートの部分的処理を説明するための説明図。
【図14】図12のフローチャートの部分的処理を説明するための説明図。
【図15】図12のフローチャートの部分的処理を説明するための説明図。
【図16】図12のフローチャートの部分的処理を説明するための説明図。
【図17】図12のフローチャートのサブルーチン処理を説明するための説明図。
【図18】図9のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図19】図18のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図20】図18のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図21】図18のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図22】図18のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【図23】図9のフローチャートのサブルーチン処理を説明するためのフローチャート。
【符号の説明】
1…エンジン(内燃機関)、2…排気管(排気通路)、3…触媒装置、5…LAFセンサ(第1排ガスセンサ)、6…O2センサ(第2排ガスセンサ)、25…同定器、27…スライディングモード制御器、28…触媒劣化評価処理器。

Claims (21)

  1. 燃料と空気との混合気の燃焼により生成された排ガスを浄化する触媒装置の劣化状態を評価する方法であって、
    前記触媒装置の上流側と下流側とにそれぞれ排ガスの成分状態に応じた出力を発生する第1排ガスセンサ及び第2排ガスセンサを配置してなる排気通路に、その上流側から前記混合気の燃焼により生成した排ガスを供給する排ガス供給工程と、
    前記排気通路への排ガスの供給時に前記第1及び第2排ガスセンサのそれぞれの出力のデータを取得する検出工程と、
    前記排気通路における前記第1排ガスセンサから第2排ガスセンサまでの前記触媒装置を含む排気系を対象とし、該対象排気系の挙動を表現するものとしてあらかじめ構築した該対象排気系のモデルに対し、該モデルの設定すべき少なくとも一つのパラメータの値を前記検出工程で取得した前記第1及び第2排ガスセンサの出力のデータに基づき逐次同定する同定工程と、
    該同定工程で求めた前記モデルのパラメータの同定値の時系列データのばらつき度合いを表すデータを劣化評価パラメータとして、該劣化評価パラメータを前記同定値の時系列データから求め、その求めた劣化評価パラメータの値に基づき前記触媒装置の劣化状態を評価する劣化評価工程とから成ることを特徴とする排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  2. 前記第1排ガスセンサは、前記触媒装置に進入する排ガスを生成した前記混合気の空燃比を表す出力を発生するセンサであり、前記第2排ガスセンサは、前記触媒装置を通過した排ガス中の特定成分の含有量を表す出力を発生するセンサであることを特徴とする請求項1記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  3. 前記触媒装置は、前記混合気を内部で燃焼させる内燃機関の排気通路に設けられた触媒装置であることを特徴とする請求項1記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  4. 前記触媒装置は、前記混合気を内部で燃焼させる内燃機関の排気通路に設けられた触媒装置であることを特徴とする請求項2記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  5. 前記内燃機関の運転による前記排気通路への排ガスの供給時に前記第2排ガスセンサの出力を所定の目標値に収束させるように該内燃機関の空燃比を制御する空燃比制御工程を備え、前記同定工程及び劣化評価工程は、該空燃比制御工程と並行して行うことを特徴とする請求項4記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  6. 前記空燃比制御工程は、前記第2排ガスセンサの出力を前記目標値に収束させるように前記内燃機関の目標空燃比を算出する工程と、前記第1排ガスセンサの出力により表される空燃比を前記目標空燃比に収束させるように該内燃機関の空燃比をフィードバック制御する工程とから成ることを特徴とする請求項5記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  7. 前記目標空燃比は、スライディングモード制御器により算出することを特徴とする請求項6記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  8. 前記目標空燃比は、前記同定工程で求める前記パラメータの同定値のデータを用いてあらかじめ定められたアルゴリズムにより算出することを特徴とする請求の範囲項6又は7記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  9. 前記内燃機関の空燃比のフィードバック制御は、漸化式形式の制御器により行うことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  10. 前記モデルは、前記対象排気系を、前記第1排ガスセンサの出力から応答遅れ要素及び/又は無駄時間要素を介して前記第2排ガスセンサの出力を生成する系として離散時間系で表現したモデルであり、前記第1排ガスセンサの出力に係わる係数と、前記第2排ガスセンサの出力に係わる係数とのうちの少なくとも一つを前記同定工程で同定する前記パラメータとして含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  11. 前記同定工程で同定する前記モデルのパラメータは、前記第1排ガスセンサの出力に係わる係数を含み、前記劣化評価工程は、該第1排ガスセンサの出力に係わる係数の同定値の時系列データから求めた前記劣化評価パラメータの値に基づき前記触媒装置の劣化状態を評価することを特徴とする請求項10記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  12. 前記同定工程は、前記モデル上での前記第2排ガスセンサの出力と該第2排ガスセンサの実際の出力との間の誤差を最小化するように前記パラメータの値を逐次更新しつつ同定するアルゴリズムにより構成され、前記誤差の算出に際して前記モデル上での第2排ガスセンサの出力と該第2排ガスセンサの実際の出力とに同一の周波数通過特性のフィルタリングを施すことを特徴とする請求項10又は11記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  13. 前記同定工程は、前記パラメータの値を同定する処理を前記対象排気系の特定の挙動に応じて行うことを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  14. 前記同定工程は、前記第2排ガスセンサの出力の現在以前の所定数の時系列データによって定まる所定の関数の値に基づき、前記排気系の特定の挙動を認識することを特徴とする請求項13記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  15. 前記同定工程は、前記パラメータの同定値にリミット処理を施す工程を有することを特徴とする請求項の範囲第1〜14のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  16. 前記同定工程は、前記第1排ガスセンサの実際の出力と所定の基準値との偏差、及び前記第2排ガスセンサの実際の出力と所定の基準値との偏差をそれぞれ前記第1及び第2排ガスセンサの出力のデータとして用いて該データに基づき前記パラメータの同定値を算出することを特徴とする請求の範囲第1〜15のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  17. 前記劣化評価工程は、前記パラメータの同定値の時系列データにローパス特性のフィルタリング処理を施すことにより前記同定値の中心値を求め、該中心値と前記同定値の時系列データの各データ値との偏差から前記劣化評価パラメータを求めることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  18. 前記劣化評価工程で前記同定値の中心値を求めるフィルタリング処理は、逐次型の統計処理アルゴリズムによるフィルタリング処理であることを特徴とする請求項17記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  19. 前記劣化評価工程は、前記同定値の時系列データの各データ値と前記中心値との偏差の二乗値又は絶対値にローパス特性のフィルタリング処理を施すことにより前記劣化評価パラメータを求めることを特徴とする請求項17又は18記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  20. 前記劣化評価工程で前記劣化評価パラメータを求める前記フィルタリング処理は、逐次型の統計処理アルゴリズムによるフィルタリング処理であることを特徴とする請求項19記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
  21. 前記排ガス供給工程で前記排気通路に供給される排ガスの流量が略一定であるか否かを判断する工程を備え、前記劣化評価工程は、該排ガスの流量が略一定であると判断された状態で前記同定工程において求められた同定値のデータを用いて前記劣化評価用パラメータを求めることを禁止することを特徴とする請求項1〜20のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒装置の劣化状態評価方法。
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