JP4302852B2 - 金属材表面酸化物の測定方法およびx線回折装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば鋼板製造工程において鋼板表面に生成する酸化物などの金属材表面酸化物の測定方法および該測定方法に用いるX線回折装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼板製造工程で鋼板表面に生成するFe3O4 、FeO などから成る酸化物(スケール)は、鋼板表面に高圧水を噴射するか、あるいは、鋼板を酸性液中に通板し洗浄することにより除去する。
鋼板表面の酸化物の組成と量は最終製品の性状に大きな影響を及ぼすことから、製造工程で酸化物の組成と量を正確に測定し、制御することが重要となる。
【0003】
酸化物の組成と量を測定する方法としては、下記の方法が用いられている。
すなわち、1つの方法は、ブロムメタノールを用いて鋼板表面の酸化物を表面から剥離し、乳鉢で粉砕し、X線回折を行う方法である。
この場合、マグネタイトとウスタイトの混合比を変えた数種類の粉末サンプル(標準サンプル)を基準として定量する。
【0004】
しかしながら、上記した方法は、試料調製などに長時間を要する問題があり、さらに、鋼板表面における酸化物の分布状態を知ることができない。
他の方法として、酸化物が形成された鋼板自体をX線回折し、標準サンプルと比較し定量する方法が用いられている。
しかしながら、上記した方法の場合、スケールが多層構造であると、表層において下層からの回折X線の吸収が生じ、下層の測定ができない。
【0005】
さらに、スケール中には金属鉄が存在するため、下地鋼板からの回折X線の減衰率からは正しいスケール厚さを求めることはできない。
すなわち、上記した方法の場合、多層構造から成る表面酸化物の組成と量を正確に測定することができないという問題があった。
X線を励起源として用いた表面組成の測定手法は工業的に広く用いられており、例えば蛍光X線を用いてめっき層の組成および厚さを測定する方法があり、この方法によればめっきなどにおける亜鉛と鉄の組成比を求めることは可能であるが、鉄の酸化物の量を種類ごとに求めるためには構造解析を行う必要があり、上記の方法では不可能である。
【0006】
すなわち、従来、上記した問題を解決し、鋼板などの金属材表面の酸化物の組成と量を測定することが可能で、スケール制御の指標となる金属材表面酸化物の測定方法および該測定方法に用いるX線回折装置が求められていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、鋼板などの金属材の表面に存在する酸化物の組成と量を迅速かつ正確に非破壊で測定することが可能な金属材表面酸化物の測定方法および該測定方法に好適に用いられるX線回折装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、表面酸化物層上層として酸化物Aを有し、表面酸化物層下層として酸化物Bを有する金属材に特性X線または単色化したX線を照射し、前記金属材から放射される酸化物Aの回折X線強度IA および酸化物Bの回折X線強度IB を測定し、酸化物Aの回折X線強度IA と予め求めた検量線とから、表面酸化物層上層の酸化物Aの存在量WA を求め、さらに、酸化物Bの回折X線強度IB を上層の酸化物Aによる酸化物Bの回折X線吸収率と前記酸化物Aの存在量W A とで補正し酸化物Bの回折X線強度:IB.com を求め、該IB.com と予め求めた検量線とから、表面酸化物層下層の酸化物Bの存在量WB を求めることを特徴とする金属材表面酸化物の測定方法である。
【0009】
第2の発明は、表面酸化物層上層として酸化物Aを有し、表面酸化物層下層として酸化物Bを有する金属材の表面酸化物を金属材搬送中に測定する金属材表面酸化物の測定方法であって、回折角度2θを固定したX線回折装置と、金属材の基準位置に対して取り出し角βを固定した蛍光X線検出器を用い、前記金属材に特性X線または単色化したX線を照射し、金属材から放射される酸化物Aの回折X線強度IA および酸化物Bの回折X線強度IB を測定すると共に、金属材から放射されるマトリックス金属の蛍光X線強度IFXの経時的変化を測定することにより金属材の基準位置からの変位を求め、該変化に基づき前記した回折X線強度IA およびIB を補正し、得られた酸化物Aの回折X線強度IA の補正値IA.0 と予め求めた検量線とから、上層の酸化物Aの存在量WA を求め、さらに、前記で得られた酸化物Bの回折X線強度IB の補正値IB.0 を上層の酸化物Aによる酸化物Bの回折X線吸収率と前記酸化物Aの存在量W A とで補正し酸化物Bの回折X線強度:IB.0.com を求め、該IB.0.com と予め求めた検量線とから、下層の酸化物Bの存在量WB を求めることを特徴とする金属材表面酸化物の測定方法である。
【0010】
第3の発明は、試料表面にX線を照射するX線管球2と、いずれもが取り出し角が固定された2個以上の回折X線検出器3A、3Bと、該回折X線検出器3A、3Bのそれぞれで検出された試料表面層から放射される試料表面層のA成分、B成分それぞれの回折X線強度を計数する計数回路部8Aと、該計数回路部8Aで計数された試料表面層のA成分の回折X線強度IA および予め求めた検量線の両者に基づき試料表面層のA成分の存在量WA を求める演算手段9Aと、前記計数回路部8Aで計数された試料表面層のB成分の回折X線強度IB および予め求めた検量線の両者に基づき試料表面層のB成分の存在量WB を求める演算手段9Bを有し、さらに、前記演算手段(9B)が、前記試料表面層のB成分の回折X線強度I B を試料表面層のA成分による回折X線吸収率と前記酸化物Aの存在量W A とで補正し試料表面層のB成分の回折X線強度:I B.com を求め、該I B.com と予め求めた検量線とから、試料表面層のB成分の存在量W B を求める演算手段であることを特徴とするX線回折装置である。
【0012】
第4の発明は、搬送中の試料表面にX線を照射するX線管球2と、いずれもが取り出し角が固定された2個以上の回折X線検出器3A、3Bと、該回折X線検出器3A、3Bのそれぞれで検出された試料表面層から放射される試料表面層のA成分、B成分それぞれの回折X線強度を計数する計数回路部8Aと、取り出し角が固定された蛍光X線検出器3Cと、該蛍光X線検出器3Cで検出された蛍光X線強度を計数する計数回路部8Bと、該計数回路部8Bで計数された蛍光X線強度に基づき前記回折X線検出器3A、3Bと試料との距離の変化による前記A成分、B成分それぞれの回折X線強度の計数値の変化を補正する演算手段9Cと、該演算手段9Cで補正された試料表面層のA成分の回折X線強度IA.0 および予め求めた検量線の両者に基づき試料表面層のA成分の存在量W A を求める演算手段9Dと、前記演算手段9Cで補正された試料表面層のB成分の回折X線強度IB.0 および予め求めた検量線の両者に基づき試料表面層のB成分の存在量を求める演算手段9Eを有し、さらに、前記演算手段(9E)が、前記演算手段(9C)で補正された試料表面層のB成分の回折X線強度I B.0 から試料表面層のA成分による回折X線吸収率と前記酸化物Aの存在量W A とで補正したB成分の回折X線強度:I B.com を求め、得られたI B.com の値と予め求めた検量線とから、試料表面層のB成分の存在量W B を求める演算手段であることを特徴とするX線回折装置である。
【0014】
なお、前記した第1の発明〜第4の発明における各検量線は、成分組成、成分濃度が既知の複数個の試料を用いて予め求めることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
図1(a) に、本発明のX線回折装置の一例を示し、図1(b) に、図1(a) のX線管球−X線検出器収納部の一例を示す。
図1において、1はX線管球−X線検出器収納部、2はX線管球、3、3A、3Bは回折X線検出器、3Cは蛍光X線検出器、4は高電圧発生部、5は波高分析器、6はX線検出器高電圧印加装置、7は測定角度コントローラ、8A、8Bは計数回路部、9A、9B、9C、9D、9Eは演算手段、10はレコーダ、11はプリンタ、12はデイスプレー、13は送水装置、15A 、15B 、15C はソーラースリット、Sは鋼板など金属材の試料、2θA 、2θB は測定する試料表面のA成分、B成分に対応する回折X線の回折角度、αは試料S表面へのX線入射角、βは蛍光X線検出器3Cに対する蛍光X線の取り出し角を示す。
【0016】
図1に示すX線回折装置においては、X線管球2からX線を入射角αで試料S表面に照射し、試料S表面から放射される試料表面のA成分、B成分に対応する回折X線をそれぞれX線検出器3A、3Bで検出し、蛍光X線を蛍光X線検出器3Cで検出する。
本発明のX線回折装置の回折X線検出器3A、3Bは、測定する試料表面の成分数に応じた基数を設置することが好ましい。
【0017】
図1に示すX線回折装置において、回折X線検出器3Aおよび回折X線検出器3Bは、測定する試料表面のA成分、B成分に対応する回折X線の回折角度2θA 、2θB に固定してあるため、通常のカウンタースキャン方式(θ−2θ方式)と異なり、迅速に数秒で測定が可能である。
これは、上記した構成のX線回折装置を鋼板など金属板などの連続製造ラインに設置することによって、連続的に流れる金属板など測定対象試料の表面の組成と各成分の量を同時にオンラインで迅速かつ正確に測定し、迅速な操業管理が可能となるためである。
【0018】
また、本発明のX線回折装置においては、図1に示すように、取り出し角βに固定された蛍光X線検出器3Cが設置されていることが好ましい。
これは、上記した蛍光X線検出器3Cによって、金属板などの試料表面から回折X線と同時に放射されるマトリックスの特性X線(蛍光X線)強度の経時変化を測定することによって、回折X線検出器(3A、3B)と金属板などの試料表面との距離の経時的変化を補正することができ、より正確な測定が可能となるためである。
【0019】
以下、本発明の金属材表面酸化物の測定方法およびX線回折装置を、連続的に通板される鋼板の鋼板表面酸化物層における上層のFe3O4 および下層のFeO の測定を例として説明する。
すなわち、試料が連続的に通板される鋼板の場合、図1に示すX線回折装置において、X線管球2からX線を入射角αで鋼板試料Sの表面に照射し、試料Sの表面から放射されるFeO 、Fe3O4 に対応する回折X線をそれぞれX線検出器3A、3Bで検出する。
【0020】
また、好ましくは、さらに、試料Sの表面から放射される蛍光X線を蛍光X線検出器3Cで検出する。
回折X線検出器3Aおよび回折X線検出器3Bは、測定するFeO 、Fe3O4 に対応する回折X線の回折角度2θA 、2θB に固定する。
また、蛍光X線検出器3Cを配設する場合は、取出角βに固定することが好ましい。
【0021】
なお、X線の入射角αはできるだけ高角度とし、鋼板のバタツキによる回折X線強度の変動を小さくすることが好ましい。
本発明においては、回折X線検出器を設置する際に、予め、回折角2θを決定する。
図2に、図1に示したX線回折装置の回折X線検出器3Bの取付け角度、すなわちFe3O4 に対応する回折X線の回折角度2θB を決定するために、カウンタースキャン方式(θ−2θ方式)で行った鋼板試料のX線回折結果の1例を示す。
【0022】
用いた鋼板試料は、スケールがマグネタイト(Fe3O4 )単一組成の試料である。
すなわち、図2に示すように、鋼板試料のスケール中のFe3O4 を検出する回折X線検出器の取付け角度は、例えば回折角2θ(:2θB )が90°となるように設定する。
【0023】
次に、本発明者らは、スケールがFe3O4 単一組成でスケール量が10〜74g/m2の範囲の複数の鋼板試料について、Fe3O4 の(511) 面(回折角2θ=90°)の回折X線強度を測定した。
各試料の回折X線強度の測定時間は1sであった。
次に、スケール(Fe3O4) 量と回折X線強度との関係を求めた。
【0024】
なお、鋼板のスケール量は、ブロム・メタノールを用いて鋼板表面から剥離したスケールを秤量して求めた。
図3に、スケール(Fe3O4) 量と回折X線強度との関係を示す。
図3に示すように、多少のバラツキはあるものの、スケール(Fe3O4) 量:W(Fe3O4)とFe3O4[(511) 面] の回折X線強度:I(Fe3O4)との間に良好な相関関係を有する下記式(1) で近似される検量線が得られた。
【0025】
W(Fe3O4)=f(I(Fe3O4))=1.38×10-8〔I(Fe3O4)〕2 −8.21×10-5〔I(Fe3O4)〕−1.55………(1)
得られた検量線の精度を検討するために、下記式(2) で求められるσd を計算した。
【0026】
【数1】
【0027】
この結果、10〜80g/m2のFe3O4 付着量に対してσd として2.0g/m2 が得られ、十分な精度でFe3O4 量(g/m2)を定量できることが分かった。
次に、スケール組成がマグネタイト(Fe3O4) およびウスタイト(FeO) の2成分である鋼板試料を用いて、FeO の(220) 面の回折X線強度を測定し、下記(1) 、(2) の手順でスケール中 FeO濃度とFeO の回折X線強度との関係を求めた。
【0028】
(1) スケール中 FeO濃度の測定:
スケール組成比の決定は、用いた鋼板の断面について走査電子顕微鏡(SEM) の反射電子像を数箇所測定し、画像解析を行うことによりスケール中の析出物や孔を除去しFe3O4 と FeOの面積比を求め、それぞれの密度を乗することにより行った。
【0029】
すなわち、例えば、 SEM像でFe3O4 の厚さが5μmで、 FeOの厚さが1μmで、観察した範囲が20μmの場合、Fe3O4 の面積は1×10-6(cm2) で、FeO の面積は 0.2×10-6(cm2) となる。
断面と直交する方向にhcmの幅をとれば、体積はそれぞれ1×10-6h(cm3) および 0.2×10-6h(cm3) である。
【0030】
また、Fe3O4 および FeOの密度は、それぞれ5.0g/cm3および5.7g/cm3であるので、それぞれの質量は 5.0×10-6h(g) および1.14×10-6h(g) である。
したがって、上記した試料の場合、スケール全体に対する FeOの濃度は、18.6mass%となる。
上記の測定を複数の試料について行った結果、これら試料のスケール中の FeO濃度は0〜70mass%であった。
【0031】
(2) スケール中 FeO濃度とFeO の回折X線強度との関係の調査:
上記で用いた鋼板試料において、高次酸化物であるFe3O4 はスケールの表層側(表面酸化物層における上層)に存在し、低次酸化物である FeOは下地鋼板側(表面酸化物層における下層)に存在する。
この結果、下層に存在する FeOからの回折X線の一部は表層のFe3O4 に吸収される。
【0032】
このため、上記した鋼板試料のFe3O4[(511) 面] の回折X線強度:I(Fe3O4) と前記式(1) の検量線を用いて鋼板試料のFe3O4 の量:W(Fe3O4)(g/m2)を求め、下記式(3) に基づき、FeO の(220) 面の回折X線強度:I(FeO) を、Fe3O4 による質量吸収係数:μ(m2/g)で補正した回折X線強度補正値:I(FeO).com を求めた。
【0033】
I(FeO).com =I(FeO) /exp[−μ・W(Fe3O4) ] ………(3)
上記式(3) 中、μ=67.5(m2/g)を示す。
次に、上記した複数の試料についてスケール中の FeOの量:W(FeO)(g/m2)と吸収補正したFeO の(220) 面の回折X線強度補正値:I(FeO).com との関係を求め、図4および下記式(4) で近似される検量線を得た。
【0034】
W(FeO)=g(I(FeO).com )=1.57×10-4〔I(FeO).com 〕2 −1.73×10-2〔I(FeO).com 〕………(4)
次に、前記した式(2) と同様の計算式で、検量線の精度を求めた結果、σd は3.4(g/m2) であり、十分な精度で下層のFeO を分析できることが分かった。
さらに、得られたFeO 量 (g/m2) 、Fe3O4 量(g/m2)からスケール中のFeO 濃度を求めた結果を、化学分析値と対比して図5に示す。
【0035】
FeO 濃度もσd =3.1 mass%で分析できることが分かった。
以下、本発明における金属材表面酸化物の測定方法を、上記した鋼板試料の表面酸化物層における上層のFe3O4 および下層のFeO の測定を例として説明する。すなわち、X線管球からのX線を鋼板表面に照射し、鋼板表面から放射されるFe3O4 およびFeO それぞれの回折X線強度I(Fe3O4) 、I(FeO) を測定する。
【0036】
次に、鋼板試料表面の酸化物層の内、上層に存在するFe3O4 の存在量W(Fe3O4) を、上記で得られたFe3O4 の回折X線強度I(Fe3O4) と、予め求めたFe3O4 の存在量W(Fe3O4)とFe3O4 の回折X線強度I(Fe3O4)との関係を示す検量線である前記した式(1) とから求める。
次に、上記で得られたFeO の(220) 面の回折X線強度I(FeO) をFe3O4 の存在量W(Fe3O4) および前記式(3) の両者に基づき補正した回折X線強度補正値:I(FeO).com を求める。
【0037】
上記で得られた回折X線強度補正値:I(FeO).com および前記式(4) の検量線からスケール中のFeO の存在量W(FeO) さらにはFeO 濃度を求めることができる。
以上、本発明の金属板表面酸化物の測定方法を、鋼板試料におけるFe3O4 およびFeO の測定を例として説明したが、本発明によれば、図1に例示したX線回折装置を金属板の通板(搬送)ラインに設置することによって、金属板表面の各種酸化物の組成と量を同時にオンラインで迅速かつ正確に測定することができる。
【0038】
すなわち、本発明のX線回折装置を、例えば鋼板試料におけるFe3O4 およびFeO の測定装置として用いる場合、X線回折装置は、下記(1) 〜(4) の各機器から構成される。
(1) 鋼板試料表面にX線を照射するX線管球2
(2) 取り出し角が固定された回折X線検出器3A、3B
(3) 計数回路部8A
計数回路部8Aにおいては、鋼板試料表面層から放射されるFe3O3 、FeO それぞれの回折X線強度を計数する。
【0039】
(4) 演算手段9A、9B
演算手段9Aにおいては、計数回路部8Aで計数された鋼板試料表面層のFe3O4 の回折X線強度I(Fe3O4) および予め求めた前記した式(1) で例示される検量線に基づき、鋼板試料表面層上層のFe3O4 の存在量W(Fe3O4) を求める。
すなわち、演算手段9Aとしては、前記した式(1) で例示される検量線を予め記憶し、計数回路部8Aで計数された鋼板試料表面層のFe3O4 の回折X線強度I(Fe3O4) に基づいて鋼板試料表面層上層のFe3O4 の存在量W(Fe3O4) を求める記憶・演算装置を用いることができる。
【0040】
演算手段9Bにおいては、<1> 上記で得られたW(Fe3O4) 、<2> 計数回路部8Aで計数された鋼板試料表面層のFeO の回折X線強度I(FeO) および<3> 前記した式(3) で例示される補正式から、上層の酸化物Fe3O4 の回折X線吸収率で補正した酸化物FeO の回折X線強度:I(FeO).com を求める。
次に、演算手段9Bにおいては、上記で得られた回折X線強度:I(FeO).com と、予め求めた前記した式(4) で例示される検量線に基づき、鋼板試料表面層下層のFeO の存在量W(FeO) を求める。
【0041】
すなわち、演算手段9Bとしては、前記した式(3) で例示される補正式および式(4) で例示される検量線の両者を予め記憶し、計数回路部8Aで計数された鋼板試料表面層のFeO の回折X線強度I(FeO) および演算手段9Aで求められた鋼板試料表面層上層のFe3O4 の存在量W(Fe3O4) に基づいて鋼板試料表面層下層のFeO の存在量W(FeO) を求める記憶・演算装置を用いることができる。
【0042】
本発明においては、さらに下記(5) 〜(7) の機器を配設することによって、前記した回折X線検出器(3A、3B)と金属材の試料Sとの距離の経時的変化による回折X線強度の変化を補正し、さらに正確な酸化物の測定が可能となる。
(5) 蛍光X線検出器3C
取り出し角βが固定された蛍光X線検出器3C
(6) 計数回路部8B
蛍光X線検出器3Cで検出された蛍光X線強度を計数する計数回路部8B
(7) 演算手段9C
演算手段9Cにおいては、計数回路部8Bで計数された蛍光X線強度に基づき回折X線検出器(3A、3B)と金属材との距離の経時的変化によるA成分、B成分それぞれの回折X線強度の計数値の経時的変化を補正する。
【0043】
以下、鋼板表面の酸化物の測定を例として、上記した蛍光X線強度による補正方法について述べる。
蛍光X線の取り出し角度をβとすると、測定中に鋼板が基準位置に対してdだけ垂直方向に動いた時、蛍光X線検出器と鋼板との距離はd/sinβ変化する。
蛍光X線検出器と測定円の中心との距離をLとすると、蛍光X線強度比は下記式(5) で示される。
【0044】
I1/I0 =L2/(L+d/sinβ)2 ………(5)
上記式(5) 中、
I0 :鋼板が基準位置にある時の蛍光X線強度
I1 :鋼板が垂直方向にdだけ基準位置よりずれている時の蛍光X線強度
を示す。
【0045】
すなわち、例えば鋼板のマトリックスであるFeの蛍光X線強度を得ることによって、前記式(5) によってdを求めることができる。
回折X線の検出角度をδとすると、L、d、δは全て既知のパラメータであるので、下記式(6) から回折X線の真の強度T1 を求めることができる。
T1 =T0 ・L2/(L+d/sinδ)2 ………(6)
なお、上記式(6) 中、
T0 :測定された回折X線の見掛け上の強度
T1 :測定された回折X線の真の強度
を示す。
【0046】
上記した回折X線の真の強度T1 の演算方法を、前記した回折X線強度:I(Fe3O4) および回折X線強度:I(FeO) に適用し、鋼板が基準位置にある場合のI(Fe3O4) およびI(FeO) を求め、得られたそれぞれの値と、前記した式(1) 、(3) 、(4) とから、さらに正確なFe3O4 、FeO の存在量を求めることができる。なお、前記した5種類の記憶・演算装置は、単一(一台)の記憶・演算装置とすることができる。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
熱間圧延設備→酸洗設備→冷間圧延設備の工程順序からなる冷延鋼板の製造ラインにおいて、酸洗設備の入口側に前記した図1に示すX線回折装置を設置し、前記した方法で、鋼板表面に存在するスケール中のFe3O3 、FeO の存在量を測定した。
【0048】
なお、上記した測定においては、図1に示す蛍光X線検出器3Cによって鋼板のマトリックスであるFeの蛍光X線強度を測定し、回折X線検出器(3A、3B)と鋼板試料Sとの距離の経時的変化による回折X線強度の変化を補正し、距離補正後の回折X線強度:I(Fe3O4) および回折X線強度:I(FeO) に基づきスケール中のFe3O3 、FeO の存在量を測定した。
【0049】
また、本実施例においては、得られた測定結果に基づき酸洗設備への通板速度を制御した。
なお、X線回折装置の測定条件は、下記の通りとした。
照射X線:Cr-Kα線(波長:0.229nm )
Fe3O3 の回折角度2θ:90°
FeO の回折角度2θ :64°
この結果、上記した制御を行うことによって鋼板の酸洗不良の発生量を、従来の1/2に低減することが可能となった。
【0050】
【発明の効果】
本発明によれば、金属板などの金属材の表面に存在する酸化物の組成と存在量を迅速かつ正確に非破壊で測定し、金属材表面酸化物の量を制御することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のX線回折装置の一例を示す説明図(a) およびX線管球−X線検出器収納部の一例を示す説明図(b) である。
【図2】鋼板試料のX線回折結果(θ−2θ方式)を示すグラフである。
【図3】スケール(Fe3O4) 量とFe3O4[(511) 面] の回折X線強度との関係を示すグラフである。
【図4】スケール中の FeO量と吸収補正したFeO[(220) 面] の回折X線強度補正値との関係を示すグラフである。
【図5】スケール中の FeO濃度の化学分析値とX線回折法による分析値との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 X線管球−X線検出器収納部
2 X線管球
3、3A、3B 回折X線検出器(:X線検出器)
3C 蛍光X線検出器
4 高電圧発生部
5 波高分析器
6 X線検出器高電圧印加装置
7 測定角度コントローラ
8A、8B 計数回路部
9A、9B、9C、9D、9E 演算手段
10 プリンタ
11 レコーダ
12 デイスプレー
13 送水装置
15A 、15B 、15C ソーラースリット
S 試料
Claims (4)
- 表面酸化物層上層として酸化物Aを有し、表面酸化物層下層として酸化物Bを有する金属材に特性X線または単色化したX線を照射し、前記金属材から放射される酸化物Aの回折X線強度IA および酸化物Bの回折X線強度IB を測定し、酸化物Aの回折X線強度IA と予め求めた検量線とから、表面酸化物層上層の酸化物Aの存在量WA を求め、さらに、酸化物Bの回折X線強度IB を上層の酸化物Aによる回折X線吸収率と前記酸化物Aの存在量W A とで補正し酸化物Bの回折X線強度IB.com を求め、該IB.com と予め求めた検量線とから、表面酸化物層下層の酸化物Bの存在量WB を求めることを特徴とする金属材表面酸化物の測定方法。
- 表面酸化物層上層として酸化物Aを有し、表面酸化物層下層として酸化物Bを有する金属材の表面酸化物を金属材搬送中に測定する金属材表面酸化物の測定方法であって、回折角度2θを固定したX線回折装置と、金属材の基準位置に対して取り出し角βを固定した蛍光X線検出器を用い、金属材に特性X線または単色化したX線を照射し、金属材から放射される酸化物Aの回折X線強度IA および酸化物Bの回折X線強度IB を測定すると共に、金属材から放射されるマトリックス金属の蛍光X線強度IFXの経時的変化を測定することにより金属材の基準位置からの変位を求め、該変位に基づき前記した回折X線強度IA およびIB を補正し、得られた酸化物Aの回折X線強度IA の補正値IA.0 と予め求めた検量線とから、上層の酸化物Aの存在量WA を求め、さらに、前記で得られた酸化物Bの回折X線強度IB の補正値IB.0 を上層の酸化物Aによる回折X線吸収率と前記酸化物Aの存在量W A とで補正し酸化物Bの回折X線強度:IB.0.com を求め、該IB.0.com と予め求めた検量線とから、下層の酸化物Bの存在量WB を求めることを特徴とする金属材表面酸化物の測定方法。
- 試料表面にX線を照射するX線管球(2) と、いずれもが取り出し角が固定された2個以上の回折X線検出器(3A、3B)と、該回折X線検出器(3A、3B)のそれぞれで検出された試料表面層から放射される試料表面層のA成分、B成分それぞれの回折X線強度を計数する計数回路部(8A)と、該計数回路部(8A)で計数された試料表面層のA成分の回折X線強度IA および予め求めた検量線の両者に基づき試料表面層のA成分の存在量WA を求める演算手段(9A)と、前記計数回路部(8A)で計数された試料表面層のB成分の回折X線強度IB および予め求めた検量線の両者に基づき試料表面層のB成分の存在量WB を求める演算手段(9B)を有し、さらに、前記演算手段(9B)が、前記試料表面層のB成分の回折X線強度I B を試料表面層のA成分による回折X線吸収率と前記酸化物Aの存在量W A とで補正し試料表面層のB成分の回折X線強度:I B.com を求め、該I B.com と予め求めた検量線とから、試料表面層のB成分の存在量W B を求める演算手段であることを特徴とするX線回折装置。
- 搬送中の試料表面にX線を照射するX線管球(2) と、いずれもが取り出し角が固定された2個以上の回折X線検出器(3A、3B)と、該回折X線検出器(3A、3B)のそれぞれで検出された試料表面層から放射される試料表面層のA成分、B成分それぞれの回折X線強度を計数する計数回路部(8A)と、取り出し角が固定された蛍光X線検出器(3C)と、該蛍光X線検出器(3C)で検出された蛍光X線強度を計数する計数回路部(8B)と、該計数回路部(8B)で計数された蛍光X線強度に基づき前記回折X線検出器(3A、3B)と試料との距離の変化による前記A成分、B成分それぞれの回折X線強度の計数値の変化を補正する演算手段(9C)と、該演算手段(9C)で補正された試料表面層のA成分の回折X線強度I A.0 および予め求めた検量線の両者に基づき試料表面層のA成分の存在量W A を求める演算手段(9D)と、前記演算手段(9C)で補正された試料表面層のB成分の回折X線強度I B.0 および予め求めた検量線の両者に基づき試料表面層のB成分の存在量を求める演算手段(9E)を有し、さらに、前記演算手段(9E)が、前記演算手段(9C)で補正された試料表面層のB成分の回折X線強度I B.0 から試料表面層のA成分による回折X線吸収率と前記酸化物Aの存在量W A とで補正したB成分の回折X線強度:I B.com を求め、得られたI B.com の値と予め求めた検量線とから、試料表面層のB成分の存在量W B を求める演算手段であることを特徴とするX線回折装置。
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