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JP4269349B2 - 転がり軸受の軌道輪 - Google Patents

転がり軸受の軌道輪 Download PDF

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JP4269349B2
JP4269349B2 JP05832798A JP5832798A JP4269349B2 JP 4269349 B2 JP4269349 B2 JP 4269349B2 JP 05832798 A JP05832798 A JP 05832798A JP 5832798 A JP5832798 A JP 5832798A JP 4269349 B2 JP4269349 B2 JP 4269349B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、二輪車、自動車、農業機械、建設機械等あらゆる所に使用される転がり軸受に係り、特に、冷間ローリング加工(CRF加工)を利用して製造される深溝玉軸受などの転がり軸受の軌道輪として有効な転がり軸受の軌道輪に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱処理後に研削加工を行うことで製造される深溝玉軸受の内外輪(軌道輪)は、製造コストを考慮して、一般には、次のようにして製造される。図1を参照しつつ説明する。
【0003】
軸受素材には、圧延したままの丸棒鋼材が使用され(S1)、まず、図2(A)に示すように、その素材である丸棒鋼材21に、多段フォーマーを使用して熱間鍛造を施し、図2(B)に示すような、内外輪となる粗形リング22,23を作る(S2)。次に、軟化焼鈍により、硬さを下げたり、ミクロ組織を改善する(S3)。
【0004】
続いて、冷間ローリング加工(以下、CRF加工と呼ぶ)を行なう(S4)。CRF加工とは、簡略図である図3に示すように、粗形リング22,23を、回転する成形ロール11とマンドレル12とで挟圧しつつ、荷重Wにより圧延することで肉薄にして、リング径を拡大するものである。
【0005】
ここで、このCRF加工を使用しない場合には、従来、図4に示すような鍛造工程が採用され、この鍛造工程で外輪・内輪となる粗形リングa1、b1を作る際に、符号c1、c2の部分がスクラップとして廃棄される。一方、上記CRF加工を行う場合は、熱間鍛造で図2(B)に示す小さな粗形リング22、23が作られ、CRF加工によって、図2(C)に示す、二つのリング31、32に拡径することができるため、図4における符号c2の部分が発生せず、しかも、c1も図2のc3に示す通り小さくすることができるので、スクラップ量が少ない。さらにCRF加工でリングを拡径する際に軌道面にみぞ31b、32a等を付けるように成形して旋削取代を少しでも減らすことが可能であり、材料歩留が非常に良くなる。このため、上述にように、製造コストを考慮してCRF加工が採用される。
【0006】
次に、サイジング(S5)を行なう。その後、鍛造や焼鈍時に発生した酸化層や脱炭層を取り除くと共に、熱処理や研削後に深溝玉軸受の軌道輪として必要な形状に成形するために、CRF加工後の粗形リング(以下、CRFリングと呼ぶ)のリング全面について旋削加工(S6)が施される。また、場合によっては旋削加工前の熱間鍛造時にできたバリ等を研削加工で除去することもある。
【0007】
次に、焼入焼戻を行ない軸受として必要な硬さを得る(S7)。引き続き、軌道面とはめ合い面を研削加工することにより完成品としての内外輪が製造される(S8)。
【0008】
また、従来にあっては、特公平6−83872号公報に記載のように、CRF加工の前工程として粗形リングの全面に旋削加工を施して形状や重量を一定にした後に、精密なCRF加工により、深溝玉軸受として必要な軌道面みぞやシールみぞ等を有する形状まで完全に仕上げることで、その後の旋削加工を省略して、コスト低減を図るものが開示されている。
【0009】
そして、いずれの製造方法が採用される場合であっても、従来にあっては、完成品としての内外輪表面全面に、脱炭層が残存しないように加工される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、上述したように、CRF加工とは粗形リングを拡径するために成形を施すものである。従って、リングの径方向の肉厚や拡径量は調整可能であるが、幅方向はフリーであるためリングの幅方向の寸法制御はできない。この結果、幅方向にはみ出しが生じる。
【0011】
従って、精密なCRF加工を行なう,上記特公平6−83872号公報に記載の製造方法で製造される軌道輪では、幅方向へのはみ出しが発生し易いし、脱炭層がない状態でCRF加工で強圧するために、複雑な形状に成形する必要のあるシール溝やレース溝の縁に、微少な割れが発生してしまうおそれがある。
【0012】
この結果、CRF加工前に寸法を整え、体積等を一定にするためCRF加工前の全面旋削が必要な上に、結局,CRF加工後にも割れ等を取り除く、仕上旋削が必要となってしまう。また、複雑な形状を精密にCRF加工することは、加工時間が長く必要となり、CRF加工のコストが上がる要因になる。すなわち、製造コスト上,不利な軌道輪となる。
【0013】
一方、CRF加工前に旋削加工を行なわない上記従来の方法で製造される軌道輪では、CRF加工で拡径する時に軌道面にみぞ形状(図2の31b、32a)等を成形することで、その後の旋削取代を少しでも減らすことができる。しかし、熱間鍛造や軟化焼鈍時に発生する脱炭が残ると、硬さむらや表面割れ等が生じ易くなって軸受機能上の問題が生じるおそれがあるという見地から、従来にあってはCRF加工後にCRFリング31,32の表面について全面旋削加工を施しており、後述するように、工程省略による製造コスト低減に関してまだ追求の余地が残されている軌道輪であった。
【0014】
本発明は、上記のような知見に従いなされたもので、熱処理後に研削加工を行う鋼製の転がり軸受の軌道輪について、完成品としての品質を損なうことなく、しかも、製造コストを抑えることができる転がり軸受の軌道輪を提供することを課題としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、熱処理後に研削加工を行うことで製造される転がり軸受の軌道輪において、完成した軌道輪における内輪内径部に、表面脱炭率(D)が10%以上50%以下で最大の脱炭深さが0を越え且つ0.4mm以内の脱炭層が残存し、且つ、内輪の軌道面には脱炭層が残存しないことを特徴とする転がり軸受の軌道輪を提供するものである。。
また、請求項2に記載の発明は、熱処理後に研削加工を行うことで製造される転がり軸受の軌道輪において、完成した軌道輪における外輪外径部に、表面脱炭率(D)が10%以上70%以下で最大の脱炭深さが0を越え且つ0.5mm以内の脱炭層が残存し、且つ、外輪の軌道面には脱炭層が残存しないことを特徴とする転がり軸受の軌道輪を提供するものである。
但し、上記表面脱炭率(D)は、軸受素材の炭素量に対する完成品表面の炭素量の変化率であって、下記式で示す値である。
軸受素材の炭素量(%)−完成品表面の表面炭素量(%)
D=─────────────────────────────×100(%)
素材の炭素量(%)
但し、上記表面炭素量は、円周方向全面における最大に脱炭を生じている部分での炭素量とする。
【0017】
本発明は、従来と発想を変えて、完成品としての外輪外径部若しくは内輪内径部に積極的に脱炭層を残存させることで、軌道輪製造の際に、CRF加工の強圧成形による溝肩部等での微細な割れが防止されると共に切削量が大幅に減少して切削加工性が向上する。ここで、後述するように、CRF加工後の粗形リングにおいては、外径外面部に一番多く脱炭層が存在し、他の部分は少ない。
【0018】
この結果、製造コストを従来よりも低減できる軌道輪となる。
さらに、完成品における内輪内径部若しくは外輪外径部の表面脱炭率及び脱炭深さを上述の範囲に規制することで、内輪内径部若しくは外輪外径部に脱炭層が残存していても、その内輪内径部若しくは外輪外径部の耐フレッチング特性を、脱炭層を完全に除去した従来の軌道輪と同等の性能に設定することができる。
【0019】
また、軌道面は、軸受寿命に大きく影響するが、本発明にあっては、軌道面については従来と同様に脱炭層を残存させないので、軸受寿命への悪影響もない。
次に、本発明の根拠などについて説明する。
【0020】
本発明者らは脱炭層がその量や深さによって軸受機能に与える影響に関して調査し、以下の結果を得た。
▲1▼軸受軌道面の脱炭量が増加すると焼入後の硬さの低下や残留オーステナイトが減少してしまい、軸受寿命が低下してしまう。特に、市場での不具合をシミュレートした表面起点の損傷による軸受寿命では、軌道面に微量な脱炭が残存していても軸受寿命が低下してしまう。
【0021】
▲2▼軸やハウジングにはめ合う内輪内径や外輪外径も、脱炭量が増加すると焼入れ後の硬さの低下により、摩耗やフレティングが発生し易くなる場合もあるが、軸受寿命ほど顕著ではなく、しかも、上記摩耗やフレティングの影響が生じる脱炭の量や深さに、限界値があることを見出した。
【0022】
▲3▼その他、シール溝やチャンファー部は、脱炭による大きな影響は見られなかった。
更に、脱炭層について、その量や深さによって加工特性に与える影響に関して調査し、以下の結果を得た。
【0023】
▲4▼CRF加工は、通常は、表面に脱炭があると、硬さが低下するため変形抵抗が下がり、良好な加工ができることを見出した。
▲5▼旋削加工においても、適量な脱炭量の存在により加工性が良好になることを見出した。
【0024】
以上のことから、転がり寿命に直接影響する軌道面以外は脱炭層が適量に残留した方が、製造時における加工性が良好となり、製造コストが下がると共に、軸受内外輪の各位置における脱炭量をそれぞれ適当な値に調整すれば、軸受機能を損なうこがないことを発見した。即ち、軸受内外輪の各位置における最適脱炭量が存在することを発見した。
【0025】
次に、本発明の軸受完成品の数値限定の理由を説明する。
▲1▼完成軸受の内輪内径部における表面脱炭率を10%以上50%以下で脱炭深さを0.4mm以内の脱炭層としたことについて
軸受内輪の内径面は、必要機能としてシャフト類とのはめ合いに対する耐フレティング特性が挙げられる。
【0026】
表面脱炭率は高くなりすぎると、硬さが低下しすぎて、また、脱炭深さは、深くなるほど最大脱炭位置の範囲が広くなって、耐フレティング特性が劣化する。そして、脱炭量について、脱炭が残存しない軌道輪と同等の耐フレティング特性を発揮する最適範囲について調査し、本発明品の脱炭の範囲では、脱炭が残留していないものと同等の耐フレティング特性を示すことを見い出した(後述の表1参照)。また、本発明品は適量な脱炭が残留することで、表面の硬さが低下して、冷間加工性が良好になり、CRFや切削工具の寿命が伸びている。
【0027】
以上の理由から、完成品における内輪内径部に残存させる脱炭層として、その表面脱炭率が10%以上50%以下で且つ最大の脱炭深さを0.4mm以内に限定した。
【0028】
但し、表1から分かるように、表面脱炭量が増えると悪くなる傾向があるので、表面脱炭率が40%以下で脱炭深さは0.3mm以内が望ましい。
なお、本発明の範囲よりも脱炭量が少なくても耐フレティング特性は良いが、冷間加工性が本発明より劣化して、本発明と比較して製造コストの高い軌道輪となる。
【0029】
▲2▼外輪外径部の表面脱炭率%が10%以上70%以下で脱炭深さが0.5mm以内の脱炭層としたことについて
軸受外輪の外径面は、必要機能としてハウジング類とのはめ合いに対する耐フレティング特性が挙げられる。
【0030】
上記と同様に、表面脱炭率は高くなりすぎると、硬さが低下しすぎて、また、脱炭深さは、深くなるほど最大脱炭位置の範囲が広くなって、耐フレティング特性が劣化する。
【0031】
そして、脱炭量について、脱炭が残存しない軌道輪と同等の耐フレティング特性を発揮する最適範囲について調査し、本発明品の脱炭の範囲では、脱炭が残留していないものと同等の耐フレティング特性を示すことを見い出した(後述の表2参照)。また、本発明品は適量な脱炭が残留することで、表面の硬さが低下して、冷間加工性が良好になり、CRFや切削工具の寿命が伸びている。
【0032】
以上のことから、外輪外径に残存させる脱炭層として、その表面脱炭率%が10%以上70%以下で且つ最大の脱炭深さを0.5mm以内と限定した。
但し、表2から分かるように、表面脱炭量が増えると悪くなる傾向があるので、表面脱炭率が50%以下で脱炭深さは0.4mm以内が望ましい。
【0033】
なお、本発明の範囲よりも脱炭量が少なくても耐フレティング特性は良いが、冷間加工性が本発明より劣化して、本発明と比較して製造コストの高い軌道輪となる。
【0034】
ここで、上記表面脱炭率は0より大きい値であるので、上記内輪内径部及び外輪外径部の脱炭深さは、0より大きい値となる。
ここで、上記転動輪は、例えば、丸棒素材を熱間鍛造して粗形リングを作る熱間鍛造工程と、その粗形リングについて炭化物を球状化する軟化焼鈍を行なう工程と、軟化焼鈍後の粗形リング拡径して内輪と外輪の形状にする冷間ローリング加工工程と、冷間ローリング加工工程後の粗形リングを、軌道輪として必要な形状に仕上げる仕上旋削加工工程と、焼入焼戻を行ない軸受として必要な硬さを得る焼入焼戻工程と、軌道面とはめ合い面を研削加工する研削加工工程によって製造し、
上記仕上旋削加工工程では内輪内径及び外輪外径を旋削せず、また、完成軸受の内輪内径に表面脱炭率が10%以上50%以下で最大の脱炭深さが0.4mm以内の脱炭層を残存させると共に、外輪外径に表面脱炭率%が10%以上70%以下で最大の脱炭深さが0.5mm以内の脱炭層を残存させるように、主に焼鈍工程までで調整することで製造することができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
本実施形態は、深溝玉軸受の内外輪を例に説明する。
【0036】
まず、その製造方法について説明する。製造は、図5に示すように、次の工程によって行われる。
軸受素材としては、圧延したままの丸棒鋼材を使用する(S1)。その素材は、例えば、従来から軸受に最も多く使用され、深溝玉軸受で殆ど使用されている軸受鋼(SUJ2)とする。
【0037】
まず、図2に示すように、上記丸棒鋼材21を、多段フォーマーを使用して熱間鍛造を行ない、内外輪になる粗形リング22,23を作る(S2)。
次に、その粗形リング22,23について炭化物を球状化する軟化焼鈍を行い、硬さを下げたり、ミクロ組織を改善する(S3)。ここまでの工程で、脱炭層が形成される。
【0038】
続いて、CRF加工を行なう(S4)。このCRF加工の際に溝31b,32a等を成形する。これによって、軌道面における旋削取代が減る。また、脱炭層がある状態で強圧加工することで、溝等の成形を行っても溝肩部等に微細な割れが生じるおそれもない。
【0039】
次に、サイジング(S5)、つまり外径の矯正を行う。
その後、CRF加工後のCRFリング31,32の少なくも軌道面において鍛造や焼鈍時に発生した酸化、脱炭層を取り除くため、旋削加工(S6)を施す。なお、場合によっては旋削加工前の熱間鍛造時にできたバリ等を研削加工で除去する。
【0040】
このとき、内輪内径部32b及び外輪外径部31aについては、旋削加工を行うことなく、最適化のために脱炭層を残存させる。これによって、旋削加工性が向上する。
【0041】
次に、焼入焼戻を行ない軸受として必要な硬さを得る(S7)。引き続き、軌道面とはめ合い面を研削加工することにより完成品としての内外輪が製造される(S8)。
【0042】
ここで、完成品としての内輪内径部には、表面脱炭率が10%以上50%以下で最大の脱炭深さが0.4mm以内の脱炭層を残存し、且つ、外輪外径部には、表面脱炭率%が10%以上70%以下で最大の脱炭深さが0.5mm以内の脱炭層を残存させる。
【0043】
上記脱炭層は、主に焼鈍工程まで、特に焼鈍工程で生じるので、上記範囲の脱炭量とすることは、主に、焼鈍工程の焼鈍条件を調整することで実現できる。
以上のようにして軌道輪である内外輪を製造した場合、仕上旋削加工工程で内輪内径部32b及び外輪外径部31aの旋削を省略することで製造コストの低減が図られる。ここで、後述するように、脱炭層が一番多いのは外輪外径部31aであり、その部分の旋削を省略するため、特に有効である。なお、外輪外径部31aの脱炭量は研削加工時にも調整できる。
【0044】
さらに、適量に脱炭を残すことでCRF加工性や軌道面形状仕上やシール溝成形及び端面調整に対して行なう仕上旋削加工性も良好にし、さらなるコストダウンが図られる。
【0045】
すなわち、CRF加工後に全面旋削を行なう軌道輪に対して、転がり寿命に直接影響する軌道面以外については脱炭層を適量に残留させることで、軸受機能を損なうことなく、逆に製造の際の加工性が良好となり、製造コストが下がる転がり軸受の軌道輪を提供できる。しかも、残存させる脱炭層の最適化を図ることで、転がり軸受として要求される外輪外径部及び内輪内径部での耐フレティング特性の劣化が防止される。また、上述のように脱炭層の最適化は、上述の加工性向上と共に切削工具の寿命向上にも繋がる。
【0046】
つまり、本実施形態の軌道輪は、軸受機能としての品質を落とすことなく、製造コストを大幅に低減可能なものとなる。
ここで、本発明者らは熱処理後に研削加工を行う鋼製の転がり軸受のうち,深溝玉軸受の内外輪を例に、その製造コストに関して、素材及び各製造工程について詳しく調査し、以下の結果を得た。
【0047】
▲1▼深溝玉軸受は一般に並径と呼ばれるおよそ外輪外径が20mm前後から200mm前後までの軸受がそのほとんどであり、大量かつ低コストで生産が行われる。そのため、同時に多くの軸受が処理できる熱処理やショット等に比べて、軸受を一つ一つ処理する研削加工や、旋削加工の工数低減はコストダウン効果が大きい。
【0048】
▲2▼大量生産を行なうためには、材料歩留によるコストダウン効果も重要であり、CRF加工を利用して、鍛造ブランク(スクラップ)を小さくすることや、軌道面にみぞ形状等を付けて旋削取代を減らすことが有効である。
【0049】
▲3▼軌道面みぞやシールみぞ形状を完全に仕上げる従来の精密CRF加工ではCRF加工前の全面旋削のコストや脱炭層が無い状態での強圧による割れの問題、CRF加工の加工時間延長によるコストアップを考慮するとCRF加工後に旋削加工を行なう方が低コストとなる。
【0050】
以上のことから、軌道輪の製造コスト低減の見地からは、CRF加工を採用し、しかも、CRF加工前に旋削加工を行なうことなく、CRF加工後の旋削工数を極力減らすことが最も有効であることを見出した。
【0051】
次に、残存させる脱炭量の最適化についての本発明者らが得た知見を示す。
深溝玉軸受の内外輪の製造工程で、熱間鍛造を施すと、冷却速度や軸受素材の合金成分にもよるが、ほとんどの場合パーライト組織が現れ、その後の旋削等の加工工程に悪影響を与える。そのため、焼鈍により硬さを下げると共にミク口組織を改善しなければならない。従来から軸受に最も多く使用されている素材の炭素量が1%の軸受鋼(SUJ2)では、一般に球状化焼鈍が採用されている。
【0052】
そして、CRF加工前の熱処理工程、つまり、1100〜1200℃に加熱され据え込み成形される熱間鍛造、及び750〜800℃程度に加熱され10〜20時間程度の処理を行なう焼鈍を行うことにより、粗形リングの表面には酸化層や脱炭層が発生する。そして、その後のCRF加工により拡径された旋削前のCRFリング表面にも酸化層や脱炭層がほぼそのまま残留する。酸化層や脱炭層が軸受完成品表面に残ると、寿命や摩耗等、軸受としての機能が低下してしまうおそれがあるため、上述のように従来にあってはCRFリングの全面を旋削し脱炭層を除去していた。
【0053】
そこでまず、一般的な深溝玉軸受のCRF加工を行う製造法(図1で示す工程で製造する場合)で素材から各製造工程における脱炭量を詳しく調査した。
ここで、素材としては、従来から軸受に最も多く使用され、深溝玉軸受ではそのほとんどに使用されている軸受鋼(SUJ2)とした。脱炭量の調査方法は、断面をX線解析による炭素の特性X線を測定することで行なった。なお、測定には、島津製作所製のX線測定器(商品名:EPMA−1600)を用いた。
【0054】
素材は、一般に、素材コストが有利な圧延したままの丸棒鋼材を使用する。そのため、製鋼から圧延工程までで、既にある程度の脱炭が発生している。
次に、熱間鍛造後の最大脱炭量の測定結果を図6に示す。
【0055】
図6において、横軸は表面からの距離(mm)を示し、縦軸は炭素濃度(重量%)を示す(後述する図7〜図8も同様)。また、熱間鍛造時に、およそ1100〜1200℃に加熱され据え込み成形される間に脱炭が増加している。
【0056】
また、熱間鍛造後の粗形リング(鍛造リング)の脱炭量を測定した結果、測定位置により脱炭量のバラツキがあり、外輪外径や内輪外径の端面部(図2(B)の22a、23a)に脱炭が多いことから、その原因の一つは、素材からの脱炭量の積み重ねと考えられる。ここで、上記図2はCRF加工を取り入れた場合の熱間鍛造工程を示すものであるが、調査したところ、図2(A)に示す丸棒素材21の外径部21aには脱炭があり、その素材21を熱間鍛造すると、図2(B)の鍛造リングの外径面22a、23aには素材からの積み重なりにより脱炭量が多くなっている。特に、外輪外径部31aに相当する22a部分の幅方向中央に対し、脱炭量が多く残る傾向を示していることを確認した。
【0057】
また、本発明者らは円周上での各位置における脱炭量の調査を行ない、最大脱炭部(22aの中央位置)の中でも、円周方向でもバラツキがあることを確認した。
【0058】
次に、一般に並径と呼ばれる軸受で行われている、窒素雰囲気での焼鈍後の脱炭量を測定したところ、図7に示す結果を得た。
焼鈍工程は加熱温度こそ750〜800℃程度と低いが、全行程ではおよそ10〜20時間程度の処理を行なうため窒素雰囲気であっても最大脱炭量が大幅に増加していた。つまり、脱炭の主原因は焼鈍工程にあることが明確となった。ただし、その量は、焼鈍条件、主に焼鈍雰囲気に大きく依存する。すなわち、焼鈍条件を適当に設定することで所望の脱炭量に設定できる。
【0059】
なお、鍛造後の焼鈍を、雰囲気を使用せず大気で行なう場合もあるが、その場合には、表面は激しく酸化及び脱炭し荒れた状態となり、ショットピーニングやショツトブラストによって表面酸化層を除去してから、さらに、脱炭層を含めて大きな取代の旋削が必要となってしまう。つまり、大気焼鈍はショツトブラスト等による表面酸化層の除去工程や旋削加工の取代が増えて、結局,コスト増となる。そのため、一般に並径と呼ばれる軸受では、切削取代が少なくするため、大気焼鈍はほとんど行なわれていない。
【0060】
また、脱炭量を極端に減らすために、真空焼鈍や浸炭雰囲気での焼鈍の採用も考えられるが、設備設定や制御技術、設備のメンテナンス等に大幅な費用がかかる。
【0061】
従って、窒素等の不活性ガスを適量,炉内に導入して焼鈍を行なう方法が、製造コスト低減上有利である。
ここで、焼鈍後の粗形リング(鍛造リング)の脱炭量を測定した結果、鍛造後と同様に測定位置により脱炭量のバラツキがあるが、特に外輪外径部31aに脱炭が多く、脱炭量が素材からの積み重なり、更にバラツキが大きくなる傾向を示した。
【0062】
次に、CRF加工後の各位置での脱炭量を測定したところ、図8に示す結果を得た。
ここで、図8(A)は外輪外径31aの最大値であり、図7の焼鈍後の最大脱炭量とほぼ同じであるが、CRF加工で圧延され、若干深さが浅くなっている。一方、図8(B)は外輪溝31bでの最大値であるが、当該外輪溝は脱炭量が少なめの上に、CRFの溝加工のための強加工を受けて脱炭層が浅く量も少なくなっている。図8(C)は内輪溝32aでの最大値であり、当該内輪溝は脱炭量が比較的多い位置であるが、強加工で脱炭層が浅く、少なくなっている。図8(C)は内輪内径32bでの最大値であり、内輪内径は脱炭量の少ない位置だが加工度は低く、多少深い。
【0063】
以上のことから、熱間鍛造により製造された鍛造リングは、焼鈍後にCRF加工されると、外輪外径部31aに大きな脱炭が残るが、その他の位置の脱炭は微量であった。このことは、本発明のように、外輪外径部31aに適量の脱炭層を積極的に残存させる軌道輪においては、切削量が、全面切削する場合に比べて大幅に減少し、もって加工手間の向上、切削工具の寿命向上に大いに貢献することを示す。但し、その他の軌道面形状仕上やシール溝成形及び端面調整に対しては必要最低限の仕上旋削加工が必要である。
【0064】
ここで、測定の脱炭量は、その位置の円周方向での最大値であり、全周ではなく部分的に存在するものである。
一方、並径玉軸受の市場での使用状況等を調査した結果、そのほとんどが表面損傷タイプの疲労状況を示していた。
【0065】
そこで、軌道面の表面脱炭率を変えて、表面起点で損傷を生じる、異物混入潤滑下試験を行なったところ、図9に示す結果を得た。図9の試験条件については後述する。
【0066】
図9から分かるように、軌道面については脱炭が少しでも残留すると寿命が急激に低下してしまうので、軌道面に脱炭を残留させることはできない。ただし、本実施形態の製造法では軌道面を形状仕上するため旋削加工を行っているので、熱処理後の研削加工と合わせて、十分脱炭層を取り除くことができる。すなわち、軸受寿命は、従来品の軸受と同等となる。
【0067】
上記説明では素材にSUJ2を用いた基礎実験を行っているが、焼入、焼戻処理により軸受として必要な品質が得られれば、その限りではない。
軸受素材の成分を以下の通りにすることで、軸受として必要な品質が得られる。
【0068】
すなわち、炭素は、軸受に必要な硬さと炭化物を得るための重要な元素であり、寿命に必要な十分な硬さと炭化物の面積率を得るためには最低でも0.8%以上は必要である。しかし、1.2%を越えると製鋼時に巨大炭化物の発生や偏析が強くなり、通常、SUJ2材で行なっている、ソーキング処理では巨大炭化物や偏析を十分に調整できなくなる場合が生じるため、その後の温間圧延での炭化物微細化が不十分になる。
【0069】
以上の理由から、素材の炭素量は0.8%量%以上1.2重量%以下とすることが望ましい。
Siは、素材の製鋼時に脱酸剤として作用し、焼入性を向上させるとともに基地マルテンサイトを強化するので、軸受の寿命を延長するのに有効な元素であり、その効果を出すためには最低0.1重量%は必要である。しかし、Si含有量が多すぎると、被削性や鍛造性を含めた加工性を劣化させるので上限を0.5重量%以下とするのが望ましい。
【0070】
以上の理由から、素材のSi量は0.1%重量%以上0.5重量%以下とするのが望ましい。
Mnは、焼入性を向上させる元素であるが、その効果を出すためには最低0.2重量%は必要である。しかし、Mnは素材のフェライトを強化する元素でもあり、特に素材の炭素量が0.8%以上の場合は、Mnの含有量1.1%を越えると冷間加工性が著しく低下するため上限を1.1%とするのが望ましい。
【0071】
Crは、焼入性向上、焼戻軟化抵抗性向上など基地を強化する元素であり、その効果を出すためには最低0.1重量%が必要である。しかし、1.8重量%を超えると、製鋼時に巨大炭化物の発生や偏析が強くなり、通常SUJ2材で行っている、ソーキング処理では巨大炭化物や偏析を十分に調整できなくなる場合がでてるため、その後の温間圧延での炭化物微細化が不十分になる。
【0072】
以上の理由から、素材のCr量は1.0重量%以上1.8重量%以下とするのが望ましい。
【0073】
【実施例】
次に、本発明の妥当性を示す実施例を説明する。
▲1▼軌道面の表面脱炭率と寿命について
本発明者らは玉軸受の市場での使用状況の詳細な調査を行なった結果、一部の純粋なクリーン環境以外は、一般にクリーンな環境と考えられていたシール付のグリース封入タイプの玉軸受であっても、そのほとんどが表面損傷タイプの疲労状況を示していた。
【0074】
従って、耐久寿命が十分な軸受であるためには、表面起点の損傷に十分な寿命でなければならない。そこで、軌道面の表面脱炭率を変えて、表面起点の損傷となる、異物混入潤滑下試験を行なってみた。
【0075】
ここで、素材材料はSUJ2で、製造し機能を評価した軸受は深溝玉軸受6304又はスラスト試験片であり、条件は、次の通りである。
・スラスト試験片の熱処理条件:
温度810℃以上〜850℃以下で0.5〜1時間保持した後に焼入を行い、次いで160〜200℃で2時間の焼戻しを行った。
【0076】
・異物混入潤滑下寿命試験条件:
「特殊鋼便覧」第一版(電気製鋼研究所編、理工学社、1969年5月25日発行)第10〜21頁記載のスラスト型軸受鋼寿命試験機を使用して、転動体にはSUJ2ボールを用いて、各サンプルにフレーキングが発生した時点までの累積応力繰り返し回数(寿命)を調査してワイブルプロットを作成し、各ワイブル分布の結果から各々のL10寿命を求めた。
【0077】
試験条件は、次の通りである。
試験面圧:最大4900 MPa
回転数:3000 C.P.M.
潤滑油:#68タービン油
混入異物:
組成 :ステンレス系粉
硬さ :HRC50
粒径 :65〜120μm
混入量:潤滑油中に300ppm
試験の結果は、図9の通りである。
【0078】
図9のように、軌道面に脱炭が少しでも残留すると寿命が急激に低下してしまうので、軌道面に脱炭を残留させることはできない。ただし、上記本発明の軌道輪を製造するための実施形態に基づく製造法では、軌道面を形状仕上するため旋削加工を行っている。この結果、熱処理後の研削加工と合わせて、十分脱炭層が取り除かれる。
【0079】
▲2▼内輪内径及び外輪外径の表面脱炭率と耐フレティング特性について
軸受内輪の内径面は必要機能としてシャフト類とのはめ合いに対する耐フレティング特性が、また、外輪外径面はハウジング類とのはめ合いに対する耐フレティング特性が挙げられる。
【0080】
そこで、内輪内径部及び外輪外径部の表面脱炭率を変えて、耐フレティング特性を評価した。なお、軸受は、深溝玉軸受6304とした。
試験は、各条件の20個の軸受を評価し、試験時間毎にフレティングの発生状況を確認し発生率を示した。各条件は、以下の通りである。
【0081】
6304の熱処理条件:
温度810℃以上〜850℃以下で0.5〜1時間保持した後焼入を行い、次いで160〜200℃で2時間の焼戻しを行った。
【0082】
耐フレティング特性の評価条件:
試験機の概要及び回転数の変動パターンを図11に示す通りとした。図10は、試験機を示すものであって、図10中、符号1は試験軸受であり、符号3は、内輪をはめ合わせたシャフトであり、符号2は、外輪をはめ合うハウジングである。そして、モーター7の回転を、プーリー5からベルト6、プーリー4、シャフト3に伝達して試験軸受1の内輪を回転させる。回転数は、図11のパターンに示す通りにモーター7の回転数を変動させ繰り返し行なう。荷重は、エアシリンダー9がモーター台10を押し下げることでモーター7からプーリー5からベルト6、プーリー4、シャフト3を介して試験軸受1に付加される構造である。
【0083】
その試験条件は、次の通りである。
試験荷重:3200 MPa
回転数:5000〜8000rpm変動
潤滑油:アルバニア グリース2(昭和シェル石油製)
はめ合い:
1)内輪内径評価試験の場合は+10〜20μmすきまでシャフト3に軽圧入した状態で行なう。
【0084】
2)外輪外径評価試験の場合は±0でアルミ製ハウジング2に軽圧入した状態で行なう。
表1に、完成品の内輪内径における、その表面脱炭率や脱炭深さに対する耐フレティング特性についての評価結果を示す。
【0085】
【表1】
Figure 0004269349
【0086】
この表1においては、本発明品は、脱炭が残留していないものと同等の耐フレティング特性を示した。
すなわち、この表1から分かるように、本発明の範囲に脱炭量を設定することで、脱炭が残留していないものと同等の耐フレティング特性を示した。
【0087】
一方、本発明範囲より脱炭率が高いものは硬さが低下しすぎて、また、脱炭深さの深いものは最大脱炭位置の範囲が広くなり、耐フレティング特性が劣化してしまう。
【0088】
すなわち、表面脱炭率が本発明の範囲であっても、NO. 6のように脱炭深さが本発明を越えていると、耐フレティング特性が劣化してしまうことが分かる。また、脱炭層が本発明の範囲であっても、NO. 5のように表面脱炭率が本発明の範囲よりも多くなると、耐フレティング特性が劣化してしまうことが分かる。
【0089】
また、完成品表面に脱炭が残留させないために従来どうり旋削する場合には、コストが高くなる。
また、旋削せずに脱炭層を減らすため、焼鈍工程で浸炭処理等を行なうと、表1に示すNO. 7及びNO. 8のように、冷間加工性が劣化してしまう。すなわち、NO. 7及びNO. 8は、本発明の範囲外であるが、脱炭量が少ないために耐フレティング特性は良好であるものの、後述のように冷間加工性が劣化して、本発明の軌道輪と比較してコスト高となる。
【0090】
以上のことから、製造コストを一番低減できる完成品での内輪内径は、その表面脱炭率が10%以上50%以下で脱炭深さが0.4mm以内の脱炭層が必要となることが分かる。
【0091】
但し、上記表1から、表面脱炭量が増えると悪くなる傾向があるので、表面脱炭率が40%以下で脱炭深さは0.3mm以内とすることが望ましい。
次に、表2に、完成品の外輪外径における、その表面脱炭率や脱炭深さに対する耐フレティング特性についての評価結果を示す。
【0092】
【表2】
Figure 0004269349
【0093】
この表2から分かるように、本発明の範囲に脱炭量を設定することで、脱炭が残留していないものと同等の耐フレティング特性を示した。。
一方、本発明範囲内を越えた脱炭率や脱炭深さのものは耐フレティング特性が劣化し、また、完成品表面に脱炭が残留していないものは冷間加工性が劣化してしまう。
【0094】
すなわち、表面脱炭率が本発明の範囲であっても、NO. 6のように脱炭深さが本発明を越えていると、耐フレティング特性が劣化してしまうことが分かる。また、脱炭層が本発明の範囲であっても、NO. 5のように表面脱炭率が本発明の範囲よりも多くなると、耐フレティング特性が劣化してしまうことが分かる。
【0095】
また、完成品表面に脱炭が残留させないために従来どうり旋削する場合には、コストが高くなる。
また、旋削せずに脱炭層を減らすため、焼鈍工程で浸炭処理等を行なうと、表2に示すNO. 7及びNO. 8のように、冷間加工性が劣化してしまう。すなわち、NO. 7及びNO. 8は、本発明の範囲外であるが、脱炭量が少ないために耐フレティング特性は良好であるものの、後述のように冷間加工性が劣化して、本発明の軌道輪と比較してコスト高となる。
【0096】
以上のことから、外輪外径は、その表面脱炭率%が10%以上70%以下で脱炭深さが0.5mm以内の脱炭層が必要となる。
但し、表2に示されるように、表面脱炭量が増えると悪くなる傾向があるので、表面脱炭率が50%以下で脱炭深さは0.4mm以内が望ましい。
【0097】
▲3▼CRF工具寿命評価について
ここで、CRF加工では、図5の12に示すマンドレルが摩耗損傷し易く、消耗部品として加工コストに大きく反映する。
【0098】
この見地から、評価は、マンドレルの摩耗が0.2mm以上となり、内輪の場合はマンドレルに段差が付き、図4(C)の32bの形状が波打つ場合を、また、外輪の場合は図4の(C)の31bに示す溝形状が摩耗で崩れてしまう場合を寿命とした。
【0099】
次に、試験の条件を示す。
CRF工具寿命評価条件:
加工機:共栄精工製CRF70
加工荷重:5〜7ton
潤滑剤:(三工化学製)プレスホーマーPZ13
拡径率:外輪=1.4〜2.0倍、
内輪=1.1〜1.4倍
加工速度:600〜800個/時間
試験の結果は、上記表1及び表2に示す通りである。
【0100】
脱炭が多く硬さが低下したものが長寿命を示した。ただし、表1及び表2のNO. 5及び6は長寿命を示しているが、耐フレティング特性は低い。本発明範囲より脱炭率が低い、表1及び表2に示すNO. 7及び8は、硬さが高すぎて冷間加工性が劣化してしまう。
【0101】
▲4▼旋削工具寿命評価について
ここで、高速旋削加工では工具の摩耗が激しく、消耗部品として加工コストに大きく反映する。
【0102】
この見地から、評価は、工具摩耗が0.2mm以上となり、旋削面の粗さが劣化し、工具がびびり、切削抵抗が上がる場合寿命とした。
試験条件は次の通りである。
【0103】
旋削工具寿命評価条件:
加工機:高速旋盤
工 具:P10(JIS B4053)
切り込み速度:200〜250m/分
送り量:0.2〜0.3mm/回転
切り込み深さ:0.6〜1.0mm
潤滑:コシロオイルNO.3(コシロ化学製)
試験結果は、上記表1及び表2に示される通りである。
【0104】
この表から分かるように、脱炭が多く硬さが低下したものは、長寿命を示したが、表1及び表2のNO. 5は硬さが低下しすぎて、粘りが出て硬さの割には長寿命ではなかった。ただし、表1及び表2のNO. 6は長寿命を示しているが、耐フレティング特性は低い。
【0105】
また、本発明範囲より脱炭率が低い表1及び表2に示すNO. 7及び8は、硬さが高すぎて冷間加工性が劣化してしまう。
【0106】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明では、熱処理後に研削加工を行って製造される転がり軸受の軌道輪に、内輪内径外輪外径に適量の脱炭層を残存させることで、CRF加工性や軌道面形状仕上やシール溝成形及び端面調整に対して行なう仕上旋削加工性などが良好になり、従来よりも製造コストが低減できる軌道輪を提供できるという効果がある。
【0107】
しかも、その脱炭層を最適化することで、従来と異なり脱炭層を残存させても、外輪外径部内輪内径部の耐フレッチングの劣化が抑えられ、また、軌道面には、脱炭を残存させないので従来と同等の軸受寿命を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来における製造工程を示す図である。
【図2】CRF加工を採用した製造を説明する図である。
【図3】CRF加工を説明するための図である。
【図4】CRF加工を採用しない場合の鍛造の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る製造工程を示す図である。
【図6】従来の熱間鍛造後の脱炭量を示す図である。
【図7】従来の軟化焼鈍後の脱炭量を示す図である。
【図8】従来のCRF加工の脱炭量を示す図であって、(A)は外輪外径部での、(B)は外輪溝での、(C)は内輪溝での、(D)は内輪内径部でのものをそれぞれ示す。
【図9】軌道面での脱炭と寿命との関係を示す図である。
【図10】試験機を示す図である。
【図11】試験パターンを示す図である。
【符号の説明】
21 素材
22,23 粗形リング
31,32 CRFリング(粗形リング)
31a 外輪外径部
31b 外輪溝
32a 内輪溝
32b 内輪内径部

Claims (2)

  1. 熱処理後に研削加工を行うことで製造される転がり軸受の軌道輪において、完成した軌道輪における内輪内径部に、表面脱炭率(D)が10%以上50%以下で最大の脱炭深さが0を越え且つ0.4mm以内の脱炭層が残存し、且つ、内輪の軌道面には脱炭層が残存しないことを特徴とする転がり軸受の軌道輪。
    但し、上記表面脱炭率(D)は、軸受素材の炭素量に対する完成品表面の炭素量の変化率であって、下記式で示す値である。
    軸受素材の炭素量(%)−完成品表面の表面炭素量(%)
    D=────────────────────────────×100(%)
    軸受素材の炭素量(%)
    但し、上記表面炭素量は、円周方向全面における最大に脱炭を生じている部分での炭素量とする。
  2. 熱処理後に研削加工を行うことで製造される転がり軸受の軌道輪において、完成した軌道輪における外輪外径部に、表面脱炭率(D)が10%以上70%以下で最大の脱炭深さが0を越え且つ0.5mm以内の脱炭層が残存し、且つ、外輪の軌道面には脱炭層が残存しないことを特徴とする転がり軸受の軌道輪。
    但し、上記表面脱炭率(D)は、軸受素材の炭素量に対する完成品表面の炭素量の変化率であって、下記式で示す値である。
    軸受素材の炭素量(%)−完成品表面の表面炭素量(%)
    D=────────────────────────────×100(%)
    軸受素材の炭素量(%)
    但し、上記表面炭素量は、円周方向全面における最大に脱炭を生じている部分での炭素量とする。
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