以下、本発明の投影スクリーンについて説明する。
本発明の投影スクリーンは、基材と、前記基材上に形成され、特定の偏光成分の光を選択的に反射するコレステリック液晶構造を有する偏光選択反射層とを有し、投影機から照射された光を投影する投影スクリーンであって、前記偏光選択反射層は、投影された光が偏光を分離されて拡散するように、前記コレステリック液晶構造が構造的に不均一に形成されており、前記投影スクリーンの前記投影機側の最表面には、前記投影スクリーンの表面の傷つきを防止するハードコート層が設けられていることを特徴とするものである。
本発明の投影スクリーンは、例えば図1に示すように、基材1と、その基材1上に形成された偏光選択反射層2とを有し、さらに、投影スクリーン5表面を傷付き等から保護するため、投影スクリーン5の投影機10側上の最表面には、ハードコート層3が形成されている。また、本発明においては、偏光選択反射層2のコレステリック液晶構造を、投影された光が偏光を分離されて拡散するように、構造的に不均一に形成しているため、投影機10から投影された光を、拡散して反射することができる。
本発明においては、上記偏光選択反射層は、コレステリック規則性を示す液晶性組成物からなり、液晶分子の物理的な分子配列として、液晶分子のダイレクターが層の厚さ方向に連続的に回転してなる螺旋構造をとっており、このような液晶分子の物理的な分子配列に基づいて、一方向の円偏光成分と、これと逆回りの円偏光成分とを分離する偏光分離特性を有している。すなわち、偏光選択反射層において、螺旋軸に沿って入射した無偏光状態の光は、2つの偏光状態の光(右円偏光及び左円偏光)に分離され、一方は透過され、残りは反射される。この現象は、円偏光二色性として知られ、液晶分子の螺旋構造における螺旋巻き方向を適宜選択すると、この螺旋巻き方向と同一の旋光方向を有する円偏光成分が選択的に反射される。
またこの場合の最大旋光光散乱は、次式(1)の波長λ0で生じる。
λ0=nav・p … (1)
ここで、pは液晶分子の螺旋構造における螺旋ピッチ長(液晶分子の分子螺旋の1ピッチ当たりの長さ)、navは螺旋軸に直交する平面内での平均屈折率である。
また、このときの反射光の波長バンド幅△λは次式(2)で表される。ここで、△nは複屈折値である。
△λ=△n・p … (2)
すなわち、例えば図2に示すように、投影スクリーンの観察者側から入射する無偏光状態の光(選択反射波長域内の右円偏光11R及び左円偏光11L、選択反射波長域外の右円偏光12R及び左円偏光12L)は、上述したような偏光分離特性に従って、選択反射中心波長λ0を中心とした波長バンド幅△λの範囲(選択反射波長域)に属する一方の円偏光成分(例えば選択反射波長域内の右円偏光11R)が反射光13として反射され、その他の光(例えば選択反射波長域内の左円偏光11L、選択反射波長域外の右円偏光12R及び左円偏光12L)が透過される。
したがって、本発明によれば、偏光選択反射層を投影機等から射出される光と同じ側の偏光の特定波長を反射させる層とすることにより、投影された光を効率よく反射することができ、明度の高い投影スクリーンとすることができるのである。また、外光や照明光等は、上記偏光選択反射層によって特定の波長の光のみが反射され、それ以外の波長の光は反射されない。これにより、外光等に含まれる波長のうち、半分以上を透過させることが可能となり、照明光や外光等が存在する環境においても、明度の高い投影スクリーンとすることができるのである。
以下、このような本発明の投影スクリーンの各構成について説明する。
1.ハードコート層
まず、本発明の投影スクリーンに用いられるハードコート層について説明する。本発明の投影スクリーンに用いられるハードコート層は、投影スクリーンの投影機側の最表面に形成され、投影スクリーン表面の傷付きを防止する部材である。
このような本発明におけるハードコート層の硬度は、摩擦傷等の損傷を生じにくくすることができる程度であれば特に限定はされないが、具体的には、JIS K 5400に準拠する鉛筆硬度が2H以上であることが好ましく、中でも、4H以上であることが好ましい。上記範囲の硬度を有するハードコート層であれば、例えば、投影スクリーンを巻取り収納した場合であっても、表面に摩擦傷がつきにくく、投影スクリーンの耐擦傷性を向上させることができるからである。
さらに、このようなハードコート層は、投影スクリーンの表面を傷付きから保護するハードコート機能を有していれば特に限定はされないが、ハードコート機能に加え、他の機能を有するハードコート層であってもよい。例えば、他の機能としては、外光の反射を抑制する反射防止機能、投影スクリーンの表面におけるぎらつきを防止する防眩機能、偏光選択反射層の紫外線による黄変等を防止するため紫外線を吸収する紫外線吸収機能等を挙げることができる。本発明においては、上記反射防止機能、防眩機能および紫外線吸収機能のうち少なくとも一つの機能を有するハードコート層であることが好ましい。簡便な構造で、品質に優れた投影スクリーンを効率良く製造することができるからである。
例えば、図4(a)に示すように、基材1上に偏光選択反射層2が形成されており、さらに、投影スクリーン5の投影機側の最表面に、ハードコート層40aが形成されている場合、このハードコート層40aを、紫外線を吸収する機能を有する紫外線吸収剤が含有されたものとすることにより、紫外線吸収機能を有するハードコート層40aとすることができる。さらに、図4(b)に示すように、投影スクリーン5の投影機側の最表面に形成したハードコート層40bの表面を凹凸状とすることにより、投影スクリーン5のぎらつきを防止する防眩機能を有するハードコート層40bとすることができる。また、図示していないが、外光の反射を抑制できるように、ハードコート層を形成することにより反射防止機能を有するハードコート層とすることができる。さらに、紫外線吸収機能と、反射防止機能または防眩機能のいずれか一方の機能とを有する場合であってもよい。すなわち、紫外線吸収機能および反射防止機能を有するハードコート層であっても良く、または、紫外線吸収機能および防眩機能を有するハードコート層であってもよい。
また、本発明におけるハードコート層は、投影スクリーンの投影機側の最表面に位置するが、例えば、図4(c)に示すように、偏光選択反射層2上に反射防止層41が形成され、さらに、反射防止層41上に防眩層42が積層され、さらに防眩層42上に紫外線吸収層43が積層されているような場合に、このような投影スクリーンの投影機側の最表面に位置する部材は、紫外線吸収層43であることから、この紫外線吸収層43をハードコート機能を有するように形成することにより、紫外線吸収機能を有するハードコート層を得ることができる。また、上述した各部材とは別個に、ハードコート機能のみを有するハードコート層を、上記紫外線吸収層上に形成することにより、紫外線吸収層等の各部材を有し、さらに投影機側の最表面にハードコート層が形成された投影スクリーンを得ることができる。
このようなハードコート層を形成する樹脂としては、熱硬化型樹脂、熱可塑型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、二液混合型樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、紫外線照射による硬化処理にて、簡便な処理にて効率よくハードコート層を形成することができる紫外線硬化型樹脂が好適である。
紫外線硬化型樹脂としては、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アミド系、シリコーン系、エポキシ系等の各種のものが挙げられ、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。これらのなかでもウレタン系のものが好ましい。好ましく用いられる紫外線硬化型樹脂は、例えば紫外線重合性の官能基を有するもの、なかでも当該官能基を2個以上、特に3〜6個有するアクリル系のモノマーやオリゴマー成分を含むものがあげられる。
また、ハードコート層の硬度を調整するため、微粒子を含有させて形成してもよい。具体的には、各種金属酸化物、ガラス、プラスティックなどの透明性を有するものを特に制限なく使用することができる。例えばシリカやアルミナ、チタニアやジルコニア、酸化カルシウムや酸化錫、酸化インジウムや酸化カドミウム、酸化アンチモン等の導電性のこともある無機系微粒子、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル−スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリカーボネート等の各種ポリマーからなる架橋又は未架橋の有機系微粒子やシリコーン系微粒子等を挙げることができる。
なお、微粒子の形状は特に制限されずビーズ状の球形であってもよく、粉末等の不定型のものであってもよい。これら微粒子は1種または2種以上を適宜に選択して用いることができる。微粒子の平均粒子径は1〜10μm、好ましくは2〜5μmである。また、微粒子には、屈折率制御や、導電性付与の目的で、金属酸化物の超微粒子などを分散、含浸しても良い。
上記微粒子の含有量は、微粒子の平均粒子径、ハードコート層の膜厚等を考慮して適宜決定されるが、一般的に、樹脂100重量部に対して、1〜20重量部の範囲内であり、中でも、5〜15重量部の範囲内であることが好ましい。
その他、添加剤として光重合開始剤、レベリング剤、チクソトロピー剤、帯電防止剤等を用いてもよい。
また、ハードコート層の形成方法としては、一般的には、上述した各材料を適当な溶媒に溶解または分散させたハードコート層形成用塗工液を、塗布し、乾燥、硬化させることにより形成されるが、この際、ハードコート層形成用塗工液に用いる溶媒としては、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、エチルアルコール等を挙げることができる。
本発明におけるハードコート層の膜厚としては0.1〜100μmの範囲内、中でも、1〜10μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲よりも膜厚が薄いと、投影スクリーンの表面を保護するハードコート機能や、さらに反射防止機能等の他の機能を有する場合、これらの機能を十分に得ることができないおそれがあり、一方、上記範囲よりも膜厚を厚くするとこれらの機能は十分達成されるが、投影機から投影された光の透過を妨げ、明度が低下するおそれがあるため好ましくない。
2.偏光選択反射層
次に、本発明の投影スクリーンに用いられる偏光選択反射層について説明する。本発明の投影スクリーンに用いられる偏光選択反射層は、後述する基材上に形成され、特定の偏光成分の光を選択的に反射するコレステリック液晶構造を有するものであり、投影された光が偏光を分離されて拡散するように、前記コレステリック液晶構造が構造的に不均一に形成されているものである。
ここで、コレステリック液晶構造を構造的に不均一にするとは、偏光選択反射層を配向させた際、各液晶相における配向の向きが一様な方向に揃わず、乱れた状態であることを意味する。具体的には、図3に示すように、偏光選択反射層2のコレステリック液晶構造に含まれる螺旋構造領域30の螺旋軸Lの方向がばらついた状態、図示していないが、ネマチックレイヤー面(液晶分子のダイレクターがXY方向で同一である面)の少なくとも一部が偏光選択反射層の面に対して平行でないような状態(染色処理したコレステリック液晶構造膜の断面TEM写真を撮ったときに濃淡パターンで現われる層の1つながりの曲線が基板面と平行でない状態)、コレステリック液晶からなる微粒子を顔料として分散させた状態等を挙げることができる。いずれにおいても、投影された光が偏光を分離されて拡散するように、コレステリック液晶構造が構造的に不均一に形成されていることから、投影機から投影された映像光が鏡面反射でなく拡散反射され、映像が視認しやすくなる。なお、このとき偏光選択反射層は、その構造的な不均一性により、選択的に反射される光を拡散させるので、特定の偏光成分の光を拡散させながら反射する一方で、その他の光については拡散させずに透過させることができる。このため、偏光選択反射層を透過する環境光や映像光について、消偏といった問題は生じず、偏光選択反射層の偏光分離機能を維持しつつ、映像の視認性を向上させることができる。
例えば、このようにコレステリック液晶構造を構造的に不均一に形成する方法としては、特に限定はされないが、例えば後述する基材を、一定方向の配向性を有しないものとする方法や、偏光選択反射層の形成に一般的に用いられる光重合開始剤またはレベリング剤の量を調整する方法や、偏光選択反射層中に非液晶性の重合性化合物を添加する方法、液晶性の微粒子を含有させる方法等が挙げられる。これらの方法を任意に選択するものとし、また、これらの方法を組み合わせて用いてもよい。
また、このようなコレステリック液晶構造の構造的な不均一性により生じる「拡散」とは、図1に示すように、投影スクリーン5で反射された反射光(映像光)を観察者が映像として認識することができる程度に拡げたり散乱させたりすることをいう。
ここで、本発明に用いられる偏光選択反射層は、上記偏光選択反射層の最大反射強度に対して半分以上の反射強度を有する波長域が、可視光域(例えば400nm〜700nmの波長域)の一部のみであることが好ましい。これにより、可視光域の特定の波長の光を選択反射することが可能となる。上述したように、コレステリック液晶は、特定の波長のみの光を、強く反射することから、この特定の波長以外の波長の光は基材等にほぼ吸収されることとなる。したがって、外光や照明光等が投影スクリーンに入射した場合に、コレステリック液晶構造により強く反射される光の波長の領域を可視光のうち一部とすることにより、外光や照明光の反射を低減させることができ、より明るい環境下でも明度の高い投影スクリーンとすることが可能となるからである。上記偏光選択反射層を構成するコレステリック液晶の反射する波長域は、コレステリック液晶の螺旋ピッチの長さにより決定される。
また、本発明の偏光選択反射層は、投影機等の光源から照射される波長の光を反射することが可能であれば、1種類の螺旋ピッチ長からなるものであってもよいが、例えば赤色(R)及び緑色(G)の波長域が一つの螺旋ピッチ長での選択反射波長域の波長バンド幅に含まれる場合には、これらの波長の螺旋ピッチ長と、青色(B)の螺旋ピッチ長とを有するものであることが好ましく、特に赤色(R)、青色(B)、緑色(G)のそれぞれの波長の螺旋ピッチ長を有するものであることが好ましい。これは、通常投影機から射出される光は、赤色(R)、青色(B)、緑色(G)からなるものであり、この三原色によりカラー表示を実現しているからである。
本発明においては、上記の波長として具体的には、投影機の種類にもよるが、青色(B)の430nm〜460nm、緑色(G)の540nm〜570nm、赤色(R)の580nm〜620nmの波長を選択的に反射するものであることが好ましい。これにより、装置の設計や光源の種類などによって波長に差があってもカラー表示をすることが可能であり、良好な白色も表現可能な投影スクリーンとすることができるからである。
このような複数の螺旋ピッチ長を有する偏光選択反射層は、各螺旋ピッチ長を有するコレステリック液晶構造を有する層を積層することにより構成することができる。
また、上記偏光選択反射層(偏光選択反射層が複数の層からなる場合には各層)は、特定の偏光を100%反射するような膜厚とすることが好ましい。上記偏光選択反射層の偏光に対する反射率は、偏光選択反射層の膜厚に依存するものであり、選択的に反射される特定の偏光成分の光(例えば右円偏光)に対して100%未満の反射率であれば、映像光を効率的に反射することができないからである。上記反射率を100%とするためには、通常4ピッチ〜8ピッチとすることが好ましく、具体的には、上記偏光選択反射層の材料の種類や特定の偏光の波長にもよるが、通常1μm〜10μmとされる。上記膜厚より薄い場合には、反射率が低くなり、投影スクリーンに投影された画像等を明度良く再現することが困難となり、また上記膜厚より厚い場合には、コレステリック液晶構造制御が困難となる場合や、ムラが生じること等があるからである。
ここで、上述した偏光選択反射層の材料としては、カイラルネマチック液晶や、コレステリック液晶を用いることができ、コレステリック規則性を有する材料であれば、特に限定されるものではないが、中でも分子の両末端に重合性官能基を有する重合性液晶材料であることが好ましい。これにより、硬化後、光学的に安定した投影スクリーンを得ることができるからである。また、上記重合性液晶材料が、ネマチック規則性もしくはスメクチック規則性を呈する場合には、重合性カイラル剤を用いてもよい。以下、本発明の偏光選択反射層に用いられる材料および偏光選択反射層の形成方法についてそれぞれ説明する。
(1)重合性液晶材料
このような重合性官能基を有する重合性液晶材料の一例としては、例えば下記の一般式(1)で表される化合物(I)を挙げることができる。化合物(I)としては、一般式(1)に包含される化合物の2種を混合して使用することも可能である。またさらに、上記化合物(I)と下記の一般式(2)〜(12)で表わされる化合物(II)とで構成されるものであってもよい。
化合物(I)としては、一般式(1)に包含される化合物の2種を混合して使用することができる。
化合物(I)を表わす一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ水素又はメチル基を示すが、液晶相を示す温度範囲の広さからR1及びR2は共に水素であることが好ましい。Xは水素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、シアノ基、ニトロ基のいずれであっても差し支えないが、塩素又はメチル基であることが好ましい。また、化合物(I)の分子鎖両端の(メタ)アクリロイロキシ基と、芳香環とのスペーサであるアルキレン基の鎖長を示すa及びbは、それぞれ個別に2〜12の範囲で任意の整数を取り得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。a=b=0である一般式(1)の化合物は、安定性に乏しく、加水分解を受けやすい上に、化合物自体の結晶性が高い。また、a及びbがそれぞれ13以上である一般式(1)の化合物は、アイソトロピック転移温度(TI)が低い。この理由から、これらの化合物はどちらも液晶性を示す温度範囲が狭く好ましくない。
上述した例では、重合性液晶モノマーの例を挙げたが、本発明においては、重合性液晶オリゴマーや重合性液晶高分子等を用いることも可能である。このような重合性液晶オリゴマーや重合性液晶高分子としては、従来提案されているものを適宜選択して用いることが可能である。
(2)カイラル剤
本発明においては、ネマチック液晶にカイラル剤を加えた、コレステリック規則性を有するカイラルネマチック液晶を、好適に使用することもできる。
本発明に用いられるカイラル剤とは、光学活性な部位を有する低分子化合物であり、分子量1500以下の化合物を意味する。カイラル剤は主として、例えば化合物(I)や、必要に応じて用いられる化合物(II)に示されるような重合性液晶材料が発現する正の一軸ネマチック規則性に螺旋ピッチを誘起させる目的で用いられる。この目的が達成される限り、重合性液晶材料、例えば化合物(I)と、もしくは化合物(I)および化合物(II)の混合物と、溶液状態あるいは溶融状態において相溶し、上記ネマチック規則性をとりうる重合性液晶材料の液晶性を損なうことなく、これに所望の螺旋ピッチを誘起できるものであれば、下記に示すカイラル剤としての低分子化合物の種類は特に限定されないが、分子の両末端に重合性官能基があることが耐熱性のよい光学素子を得る上で好ましい。液晶に螺旋ピッチを誘起させるために使用するカイラル剤は、少なくとも分子中に何らかのキラリティーを有していることが必須である。従って、本発明で使用可能なカイラル剤としては、例えば1つあるいは2つ以上の不斉炭素を有する化合物、キラルなアミン、キラルなスルフォキシド等のようにヘテロ原子上に不斉点がある化合物、あるいはクムレン、ビナフトール等の軸不斉を持つ化合物が例示できる。さらに具体的には、市販のカイラルネマチック液晶、例えば、Merck社製S−811等が挙げられる。
しかし、選択したカイラル剤の性質によっては、化合物(I)と、もしくは化合物(I)および化合物(II)の混合物として例示されるような重合性液晶材料が形成するネマチック規則性の破壊、配向性の低下、あるいは該化合物が非重合性の場合には、液晶性組成物の硬化性の低下、硬化フィルムの信頼性の低下を招くおそれがある。さらに、光学活性な部位を有するカイラル剤の多量使用は、組成物のコストアップを招く。従って、短ピッチのコレステリック規則性を有する円偏光制御光学素子を製造する場合には、本発明に用いられる重合性液晶材料に含有させる光学活性な部位を有するカイラル剤には、螺旋ピッチを誘発する効果の大きなカイラル剤を選択することが好ましく、具体的には一般式(13)、(14)又は(15)で表されるような分子内に軸不斉を有する低分子化合物(III)の使用が好ましい。
カイラル剤(III)を表わす一般式(13)又は(14)において、R4は水素又はメチル基を示す。Yは上記に示す式(i)〜(xxiv)の任意の一つであるが、なかでも、式(i),(ii),(iii),(v)及び(vii)の何れか一つであることが好ましい。また、アルキレン基の鎖長を示すd及びeは、それぞれ個別に2〜12の範囲で任意の整数をとり得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。d又はeの値が0又は1である一般式(13)又は(14)の化合物は、安定性に欠け、加水分解を受けやすく、結晶性も高い。一方、d又はeの値が13以上である化合物は融点(Tm)が低い。これらの化合物は液晶性を示す化合物(I)と、もしくは化合物(I)および化合物(II)の混合物との相溶性が低下し、濃度によっては相分離等が起きるおそれがある。
本発明の重合性液晶材料に配合されるカイラル剤の量は、螺旋ピッチ誘起能力や最終的に得られる円偏光制御光学素子のコレステリック性を考慮して最適値が決められる。具体的には、用いる重合性液晶材料により大きく異なるものではあるが、重合性液晶材料の合計量100重量部当り、0.01〜60重量部、好ましくは0.1〜40重量部、さらに好ましくは0.5〜30重量部、最も好ましくは1〜20重量部の範囲で選ばれる。この配合量が上記範囲よりも少ない場合は、重合性液晶材料に充分なコレステリック性を付与できない場合があり、上記範囲を越える場合は、分子の配向が阻害され、活性放射線によって硬化させる際に悪影響を及ぼす危惧がある。
本発明においては、このようなカイラル剤としては、特に重合性を有することが必須ではない。しかしながら、得られる偏光選択反射層の熱安定性等を考慮すると、上述した重合性液晶材料と重合し、コレステリック規則性を固定化することが可能な重合性のカイラル剤を用いることが好ましい。
(3)その他
また、本発明に用いられる偏光選択反射層には、上記重合性液晶材料、カイラル剤の他に、必要に応じて、光重合開始剤、増感剤、レベリング剤等、一般的な偏光選択反射層に用いられる材料を適宜用いてもよい。
本発明に用いられる光重合開始剤としては、例えばベンジル(ビベンゾイルともいう)や、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4′−メチルジフェニルサルファイド、ベンジルメチルケタール、ジメチルアミノメチルベンゾエート、2−n−ブトキシエチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、3,3′−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、メチロベンゾイルフォーメート、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントンなどを挙げることができる。なお、光重合開始剤の他に増感剤を、本発明の目的が損なわれない範囲で添加することも可能である。
ここで、本発明に用いられる光重合開始剤の添加量は、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%の範囲であることが好ましい。
なお、本発明においては、上述したように、これらの材料の添加量を調整することによって偏光選択反射層を、投影された光が偏光を分離されて拡散するように、コレステリック液晶構造を構造的に不均一に形成する場合もある。例えば、光重合開始剤の添加量を多量に添加することにより、コレステリック液晶の分子鎖を短いものとし、コレステリック液晶表面の配向を乱すことができる。この際、反応終了後の光重合開始剤は、コレステリック液晶中でコレステリック液晶の配向を乱す不純物としての役割も果たす。
また、液晶配向性を有しない非液晶性の重合性化合物を添加することによっても、コレステリック液晶の配向が乱され、構造的に不均一に形成することができる。また、液晶性の微粒子を添加することにより、コレステリック液晶の配向を乱す場合であってもよい。なお、本発明においては上記の方法を組み合わせて用いてもよく、これらの添加剤の種類や添加量等はその目的等によって適宜選択されるものとする。
(4)偏光選択反射層の形成
本発明においては、上記各材料を混合した組成物を、後述する基材上に塗布し、配向させて固化することにより、上記偏光選択反射層を得ることができる。
基材上に組成物を塗布する方法としては、上記各材料を混合した組成物をそのまま塗布してもよいが、粘性や配向性を調整する等の面から、有機溶媒に溶解させて用いることが好ましい。この際、用いられる溶媒は、後述する基材を侵食しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アセトン、酢酸−3−メトキシブチル、ジグライム、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、塩化メチレン、メチルエチルケトン等を用いることができる。この場合、上記組成物は通常、5重量%〜50重量%、中でも10重量%〜30重量%に希釈して用いられる。
また、上記組成物を塗布する方法としては、一般的に用いられている方法を用いることが可能であり、例えばロールコート法、グラビアコート法、バーコート法、スライドコート法、ダイコート法、スリットコート法、浸漬法等により行うことができる。また、上記基材がプラスチックフィルムである場合には、ロールツーロールのフィルムコーティングであってもよい。
続いて、上記組成物をコレステリック液晶構造が発現する所定の温度に保持し、上記組成物を配向させる。なお、本発明において最終的に得られる偏光選択反射層のコレステリック液晶構造は、プラーナー配向状態ではなく、構造的に不均一性を有し、配向が乱れた状態であるが、この場合でも、配向処理は必要となる。すなわち、コレステリック液晶構造の液晶分子のダイレクターを基材上で一定方向に揃えるような配向処理は必要とされないが、コレステリック液晶構造中に複数の螺旋構造領域を形成させるような配向処理は必要となるからである。
配向処理の方法としては、上記組成物をコレステリック液晶構造が発現する所定の温度に保持することによって行うことができ、これによりコレステリック液晶は液晶相を呈し、液晶分子自体の自己集積作用により、液晶分子のダイレクターが層の厚さ方向に連続的に回転してなる螺旋構造が形成される。そして、このような液晶相の状態で発現したコレステリック液晶構造は、後述するような手法でコレステリック液晶を固定化することができるのである。
なお、このような配向処理工程は、基材上に塗布された液晶性組成物に溶媒が含有されている場合には、通常、溶媒を除去するための乾燥処理とともに行われる。なお、溶媒を除去するためには、40〜120℃、好ましくは60〜100℃の乾燥温度が適しており、乾燥時間(加熱時間)はコレステリック液晶構造が発現し、実質上溶媒が除去されればよく、例えば、15〜600秒が好ましく、さらに好ましくは30〜180秒である。なお、乾燥後に配向状態が不十分であることが分かった場合には、適宜加熱時間を延長するようにするとよい。なお、このような乾燥処理において減圧乾燥の手法を用いる場合には、配向処理のために別途加熱処理を行うことが好ましい。
次に、上述した配向処理工程において配向させた、偏光選択反射層中の液晶分子を、固化処理工程によりコレステリック液晶構造を固化させ、液晶相の状態で発現したコレステリック液晶構造を固定化する。
ここで、固化処理工程で用いられる方法としては、(1)液晶性組成物中の溶媒を乾燥させる方法、(2)加熱により液晶性組成物中の液晶分子を重合させる方法、(3)放射線の照射により液晶性組成物中の液晶分子を重合させる方法、及び(4)それらの方法を組み合わせた方法を用いることができる。
このうち、上記(1)の方法は、偏光選択反射層の材料である液晶性組成物に含有されるネマチック規則性を示す液晶材料として液晶ポリマーを用いた場合に適した方法である。この方法では、液晶ポリマーを有機溶媒などの溶媒に溶解させた状態で基材に塗布することとなるが、この場合には、乾燥処理により溶媒を除去するだけで、コレステリック規則性を有する固体化した偏光選択反射層が形成される。なお、溶媒の種類や乾燥条件などについては、上述した塗布工程及び配向処理工程で述べたものを用いることができる。
上記(2)の方法は、加熱により液晶性組成物中の液晶分子を熱重合させて偏光選択反射層を硬化させる方法である。この方法では、加熱(焼成)温度によって液晶分子の結合状態が変化するので、加熱時に偏光選択反射層の面内で温度ムラがあると、膜硬度などの物性や光学的な特性にムラが生じる。ここで、膜硬度の分布を±10%以内にするためには、加熱温度の分布も±5%以内に抑えることが好ましく、より好ましくは±2%以内に抑えることが好ましい。
なお、基材上に形成された偏光選択反射層を加熱する方法としては、加熱温度の均一性が得られれば特に限定はなく、ホットプレート上に密着して保持したり、ホットプレートとの間にわずかな気層を設けてホットプレートと平行になるように保持する方法を用いることができる。また、オーブンのような特定の空間全体を加熱する装置内に静置したり当該装置内を通過させる方法でもよい。なお、フィルムコーターなどを用いる場合には、乾燥ゾーンを長くして加熱時間を十分にとることができるようにすることが好ましい。
加熱温度としては一般に、100℃以上の高温が必要となるが、基材の耐熱性から150℃程度までとすることが好ましい。ただし、耐熱性に特化したフィルムなどを基材の材料として用いれば、150℃以上の高温での加熱も可能である。
上記(3)の方法は、放射線の照射により液晶性組成物中の液晶分子を光重合させて偏光選択反射層を硬化させる方法である。この方法では、放射線として、電子線や紫外線などを条件に応じて適宜用いることができる。通常は、装置の容易性などの観点から紫外線が好ましく用いられ、その波長は250〜400nmである。ここで、紫外線を用いる場合には、液晶性組成物に上述したように光重合開始剤が添加されていることが好ましい。なお、液晶性組成物に添加される光重合開始剤の添加量は、0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%の範囲であることが好ましい。
以上のような一連の工程(塗布工程、配向処理工程及び固化処理工程)を行うことにより、単層の偏光選択反射層を備えた投影スクリーンを製造することができるが、上述した一連の工程を繰り返すことにより、複数層の偏光選択反射層を備えた投影スクリーンを製造することが可能である。ここで、光の拡散性を有する偏光選択反射層上に、さらに偏光選択反射層を塗布した場合、下層の配向状態が継続されることから、配向制御をする層を間に設ける必要は特にないが、例えば易接着層等の他の層を形成してもよい。
3.基材
次に、本発明の投影スクリーンに用いられる基材について説明する。本発明の投影スクリーンに用いられる基材としては、上記偏光選択反射層が形成可能であれば、特に限定されるものではないが、本発明においては、中でも可視光領域の波長の光を吸収するものであることが好ましく、具体的には400nm〜700nmの範囲内の光を吸収するものであることが好ましい。これにより、上記コレステリック液晶の円偏光と逆の円偏光や、上記偏光選択反射層が反射する特定の波長以外の波長の光が入射した場合に、反射を防止することができ、明度の高い投影スクリーンとすることができるからである。
このような可視光領域の波長を吸収する基材としては、例えば、図5(a)に示すように、黒い顔料を練りこんだプラスチックフィルム50等とすることができる。また、図5(b)に示すように、透明なプラスチックフィルム51等の上に、光吸収層52が形成されたものであってもよく、この光吸収層52は上記偏光選択反射層が形成される側に形成される場合であってもよく、また図5(c)に示すように、反対側に形成される場合であってもよい。
また、本発明においては、上述したように、上記偏光選択反射層におけるコレステリック液晶構造を構造的に不均一に形成するため、基材が表面の配向の少ない材料としてもよい。表面の配向の少ない材料としては、例えば延伸等されていないプラスチックフィルムや、ラビング処理等されていないものを用いることができる。通常、偏光選択反射層は規則性が良好となるように、延伸やラビング処理等が施されたプラスチックフィルム等に形成されるものであるが、本発明においては、延伸やラビング処理等が施されていない基材上に上記偏光選択反射層を形成することにより、基材表面の液晶が規則的に配向せず、投影機から投影された光が偏光を分離されて拡散するように、コレステリック液晶構造の配向を乱すことが可能となるからである。
上記基材に用いられる材料としては、特に限定されるものではなく例えばプラスチックフィルムや、金属、紙、ガラス等が挙げられる。プラスチックフィルムとしては、例えばポリカーボネート系高分子、ポリアリレートやポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系高分子、ポリイミド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリスチレン系高分子、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、酢酸セルロース系高分子、ポリ塩化ビニル系高分子、ポリメチルメタクリレート系高分子等の熱可塑性ポリマー等からなるフィルムを用いることができる。
また、本発明に用いられる基材の膜厚としては、その投影スクリーンの用途や種類等により適宜選択されるものであり、例えば投影スクリーンが巻き取り式で用いられる場合には、通常15μm〜300μm、中でも25μm〜100μmとすることができる。また、巻き取り式で用いられず、例えばパネル型等のようにフレキシブル性を要求されない場合には、基材の膜厚は特に限定されるものではない。
また、本発明に用いられる基材は、上記偏光選択反射層との密着性を向上させるために、例えばコロナ処理やUV洗浄等により、表面を処理したものであってもよい。
またさらに、易接着層が形成されているプラスチックフィルム等を用いてもよく、例えば易接着層付PETフィルムA4100(商品名 東洋紡社製)や易接着材料AC−X、AC−L、AC−W(商品名 パナック社製)等を用いてもよい。
4.投影スクリーン
本発明の投影スクリーンは、上記基材上に、上記偏光選択反射層を有し、このような投影スクリーンの投影機側の最表面に、ハードコート層が形成されているものであれば、特に限定されるものではない。例えば図6に示すように、基材1上に、密着性向上層4が形成され、その密着性向上層4上に上記偏光選択反射層2が形成されており、さらに偏光選択反射層2上に、ハードコート層3が形成されているものであってもよい。また、上述したように、上記偏光選択反射層は、1層に限定されるものではなく、例えば図6に示すように、赤色偏光選択反射層(2R)、緑色偏光選択反射層(2G)、青色偏光選択反射層(2B)等としてもよく、またさらに、他の色の層等を設けたものであってもよい。さらに、上述したように、ハードコート層3は、投影スクリーンの表面を保護するハードコート機能のみを有する場合であっても良く、または、ハードコート機能に加え反射防止機能、防眩機能若しくは紫外線吸収機能等の他の機能を有している場合であってもよい。また、投影スクリーンの態様に応じて、例えば、反射防止層や、防眩層、紫外線吸収層等を別個に設けたものであってもよい。
本発明によれば、ハードコート層を設けていることにより、例えば、表面が擦り合わされ摩擦傷等が付きやすい状態であっても、そのような傷がつきにくく、投影スクリーンの表面を保護することができるので、耐擦傷性に優れた投影スクリーンを提供することができる。さらに、偏光選択反射層がコレステリック液晶構造の有する偏光分離特性により特定の偏光成分の光(例えば右円偏光)のみを選択的に反射するので、偏光特性のない外光や照明光などの環境光を偏光選択反射層で約50%しか反射しないようにすることができる。このため、白表示などの明表示の部分の明るさが同じ場合でも、黒表示などの暗表示の部分の明るさを略半分にして、映像のコントラストを略2倍にすることができる。なおこのとき、投射された映像光が、偏光選択反射層で選択的に反射される光の偏光成分と同一の偏光成分の光(例えば右円偏光)を主として含むようにすれば、投射された映像光を偏光選択反射層で略100%反射することができ、映像光を効率的に反射することができる。
また、偏光選択反射層においては、投影機から投影された光が偏光を分離されて拡散するように、液晶構造が構造的な不均一性を有し、コレステリック液晶構造に含まれる螺旋構造領域の螺旋軸Lの方向がばらついたりしているので、映像光が鏡面反射でなく拡散反射され、映像が視認しやすくなる。なおこのとき、偏光選択反射層は、コレステリック液晶構造の構造的な不均一性により、選択的に反射される光を拡散させるので、特定の偏光成分の光(例えば選択反射波長域内の右円偏光)を拡散させながら反射する一方で、その他の光(例えば選択反射波長域内の左円偏光、選択反射波長域外の右円偏光及び左円偏光)については拡散させずに透過させることができる。このため、偏光選択反射層を透過する環境光や映像光について、上述したような「消偏」の問題は起こらず、偏光選択反射層の本来の偏光分離機能を維持しつつ、映像の視認性を向上させることができる。
以上のように、本発明によれば、外光や照明光などの環境光の影響をコレステリック液晶構造の有する偏光分離特性により抑えて映像のコントラストを高める一方で、コレステリック液晶構造内に含まれる構造的な不均一性の作用によって映像の視認性を低下させることなく映像光の反射光に散乱効果を与えることができ、明るい環境光の下でも映像を鮮明に表示することができる。
なお、本発明においては、上記密着性向上層を形成することが好ましく、この密着性向上層は、上記基材と上記偏光選択反射層との密着性を向上させるために設けられるものである。このような密着性向上層としては、特にその種類や材料等は特に限定されるものではなく、例えばアクリル系やエポキシ系の材料等を用いることができる。
なお、本発明においては、上記投影スクリーンに像を射出する機器は、上記投影スクリーンに光の濃淡により画像を映し出すことが可能なものであれば、特に限定されるものではなく、例えば光源の前にフィルム等を配置することによって画像を形成する映写機のようなものであってもよい。本発明においては中でも、CRT方式等の自発光タイプ、液晶方式、DLP方式等のライトバルブタイプの投影機を用いることが好ましく、特に射出される光を円偏光に偏光させることが好ましい。例えば液晶方式の投影機であれば、射出させる直線偏光を円偏光に変換する位相差板を通過させることによって、ほとんど光量の損失がなく、円偏光に変換することが可能となる。この際、用いられる位相差板としては、1/4波長を有するものであることが好ましく、具体的には視感度が最も高い550nmに合せて、137.5nmであるものを用いることが好ましい。さらに、射出されるRGB全ての波長に適用させることから、広帯域1/4波長位相差板であることが特に好ましい。また、また材料の複屈折の制御による単体の位相差板、または1/4波長位相差板と1/2波長位相差板を組み合わせたものを用いてもよい。ここで、上記位相差板は、投影機内部に組み込まれているものであってもよく、また外付けで射出口に装着させるものであってもよい。
また、CRT方式およびDLP方式の投影機は、射出光が偏光制御されていないことから、光学素子を介して直線偏光にし、位相差板を配置することが好ましい。この場合、投影機自体の光量は半減するが、コントラスト向上効果を得ることが可能となる。
また、本発明においては上記投影スクリーンが使用される室内の照明や外光は、上記投影スクリーンが反射する円偏光と反対の円偏光とされることが好ましい。これにより、外光や照明等が投影スクリーンに入射した場合であっても、投影スクリーンがその光を反射することなく、吸収されることから、明るい環境でも明度が高いものとすることができるからである。この際、上記照明や外光を制御する方法としては、吸収型の円偏光板や、円偏光分離層、直線偏光分離層を用いる反射型の円偏光板等を用いることができる。
5.投影スクリーンの製造方法
最後に、本発明の投影スクリーンの製造方法について説明する。本発明の投影スクリーンの製造方法は、上述した基材を調整した後、上記基材上に、上述したように偏光選択反射層を形成する材料を混合した組成物を塗布し、配向、固化させることにより偏光選択反射層を形成する偏光選択反射層形成工程と、ハードコート層を形成するハードコート層形成用塗工液を投影スクリーンの投影機側の最表面に塗布し、ハードコート層を形成するハードコート層形成工程とを有する。これにより、基材上に偏光選択反射層が形成され、さらに、投影スクリーンの投影機側の最表面にハードコート層が形成された投影スクリーンを製造することができる。
このような投影スクリーンの製造方法において、上記偏光選択反射層工程で形成される偏光選択反射層の形成方法については、上述した「2.偏光選択反射層」に記載したものと同様なのでここでの説明は省略する。以下、ハードコート層形成工程について説明する。
(ハードコート層形成工程)
本発明におけるハードコート層形成工程は、基材と、前記基材上に形成された偏光選択反射層とを有する投影スクリーンにおいて、この投影スクリーンの投影機側の最表面に、ハードコート層を形成するハードコート層形成用塗工液を塗布し、ハードコート層を形成する工程である。
本工程において用いるハードコート層形成用塗工液としては、上述したハードコート層の形成に用いる材料が適切な溶媒に溶解または分散しているものであれば特に限定はされない。また、本発明におけるハードコート層は、上述したように、反射防止機能、防眩機能および紫外線吸収機能のうち少なくとも一つの機能を有するものであることが好ましいことから、このような場合には、ハードコート層の形成に用いる材料の他に、各々の機能を発現させるために必要な材料が混合された塗工液を、本発明におけるハードコート層形成用塗工液として用いることができる。
このようなハードコート層形成用塗工液を塗布することにより、ハードコート層を形成することが可能であるが、この際の塗布法としては、一般的に用いられている方法を用いることが可能である。例えばロールコート法、グラビアコート法、バーコート法、スライドコート法、ダイコート法、スリットコート法、浸漬法等により行うことができる。また、基材がプラスチックフィルムである場合には、ロールツーロールのフィルムコーティングであってもよい。
なお、その他、ハードコート層に関することは、上述した「1.ハードコート層」の項目に記載したものと同様なのでここでの説明は省略する。また、必要に応じて、密着性向上層、反射防止層、防眩層および紫外線吸収層等を形成することにより、これらを有する投影スクリーンを製造することができる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。