JP4164321B2 - インクジェット記録ヘッドの製造方法、インクジェット記録ヘッド、およびインクジェット記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、微小インク滴を吐出可能なインクジェット記録ヘッドの製造方法、その方法によって製造されてインクジェット記録ヘッド、およびその方法によって製造されたインクジェット記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、インクジェット記録技術に用いられるインクジェット記録ヘッドの製造方法に関しては、様々な方法が提案されている。本出願人は、先に、特許文献1において、高品位な画像を得るために最適なインクジェット記録ヘッドの製造方法を提案した。この特許文献1には、次のようなインク吐出方法に最適なインクジェット記録ヘッドの製造方法が記載されている。すなわち、そのインク吐出方法は、特許文献2、特許文献3、および特許文献4に記載のインク吐出圧力発生素子(吐出エネルギー発生素子)としての電気熱変換素子に、記録情報に対応して駆動信号を印加し、その電気熱変換素子に、インクに核沸騰を越える急激な温度上昇を与える熱エネルギーを発生させることによって、インク内に気泡を形成させ、その気泡を外気と連通させてインク液滴を吐出させる方法である。具体的に、特許文献1には、溶解可能なインク流路パターン上に、エポキシ樹脂を含む被覆樹脂層を形成する方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2、特許文献3、および特許文献4に記載のインク吐出方法においては、電気熱変換素子とオリフィス(インク吐出口の形成面)との間の距離(以下、「OH」距離という)がインクの吐出体積を決定する主要因となるため、そのOH距離を設計値に対して正確に、また再現性よく設定することが重要となる。本出願人が先に提案した特許文献1は、具体例として、溶解可能な樹脂によって形成されたインク流路パターン上に、エポキシ樹脂を含む被覆樹脂層を形成する際に、その被覆樹脂を塗布溶媒に濃度30〜70wt%で溶解して、それをソルベントコートする方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−286149号公報
【0005】
【特許文献2】
特開平4−10940号公報
【0006】
【特許文献3】
特開平4−10941号公報
【0007】
【特許文献4】
特開平4−10942号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者による詳細な検討によれば、溶解可能な樹脂によって形成されたインク流路パターン上に、エポキシ樹脂を含む被覆樹脂層を形成する際に、まれに、インク流路パターンと被覆樹脂層との間に極薄い相溶層が発生し、それが最終工程にてゴミとなって、結果的に不良品発生の事態をおこすことが確認された。
【0009】
また、レジストを積層する場合において、レジスト間の相溶を防止するための方法としては、例えば、特開平5−17285公報に、上層レジストを蒸着重合法によって形成することが開示されている。しかしながら、インクジェット記録ヘッドにおいては、被覆樹脂層としておおよそ5μm以上の膜厚が必要なこと、またインク流路パターン上にカバレジよく平坦に成膜することが要求されることから、蒸着法の適応は困難である。
【0010】
一方、近年では、インクジェット記録においても銀塩写真に匹敵するような高画質化が求められており、そのためには、およそ10ピコリットル以下のインク滴を再現性よく吐出させることが必要となり、前述したOH距離の設定精度を含むノズル構造の一層の高精度化が必要となりつつある。
【0011】
本発明の目的は、インクジェット記録ヘッドの製造上の歩留まりを改善し、さらに被覆樹脂層の表面の平坦度を向上させて、インク吐出量のバラツキをきわめて小さい範囲に抑えることができるインクジェット記録ヘッドの製造方法、インクジェット記録ヘッド、およびインクジェット記録装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明のインクジェット記録ヘッドの製造方法は、インクの吐出に用いられるエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子が設けられた基体上に、溶解可能な樹脂によってインク流路パターンを形成する工程と、常温にて固形状のエポキシ樹脂を含む被覆樹脂を溶媒に溶解し、これを前記インク流路パターンの上にソルベントコートすることによって、前記インク流路パターンの上にインク流路壁となる被覆樹脂層を形成する工程と、前記被覆樹脂層に、インク吐出口を形成する工程と、前記インク流路パターンを除去する工程と、を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、前記被覆樹脂層を形成するためのソルベントコート後に、前記被覆樹脂層を減圧下に保持する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のインクジェット記録ヘッドは、上記の方法によって製造されたことを特徴とする。
【0014】
本発明のインクジェット記録装置は、インクジェット記録ヘッドを用いて、被記録媒体に画像を記録可能なインクジェット記録装置において、前記インクジェット記録ヘッドとして、上記の方法によって製造されたインクジェット記録ヘッドを用いることを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、インク吐出圧力発生素子(吐出エネルギー発生素子)としての電気熱変換素子2が複数配置されたシリコン基板1の斜視図である。電気熱変換素子2には、その素子2を動作させるために、図示しない電極およびIC回路が接続される。
【0017】
図2から図6は、図1のシリコン基板1を用いてのインクジェット記録ヘッドの製造手順の説明図である。これらの図において、(a)は図1のA―A線に沿う断面図であり、(b)は図1のB−B線に沿う断面図である。
【0018】
まず、図2(a)および(b)のように、基板1上に、溶解可能な樹脂層によってインク流路パターン3を形成する。そのインク流路パターンを形成する材料としては、ポジ型レジストを好適に用いることができる。そのポジ型レジストとしては、後述する被覆樹脂層をソルベントコートする際に溶解しない特性が要求されるため、分子量10000以上の電離放射線分解型の高分子化合物によって構成されるレジストが最適である。具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルイソプロペニルケトン等が挙げられる。
【0019】
次に、エポキシ樹脂を含む被覆樹脂を溶媒に溶解し、スピンコート等のソルベントコート法によって、それを溶解可能なインク流路パターン3上に塗布して、図3(a)および(b)のような被覆樹脂層4を形成する。
【0020】
通常、スピンコート等のソルベントコート法では、塗布後の加熱処理(およそ70℃〜120℃程度)により、塗布溶媒を乾燥させて成膜する。すなわち、塗布終了時点の塗布溶媒がかなり残存している状態において、溶媒乾燥のための加熱処理をする。そのため、インク流路パターンと被覆樹脂層4との層間に、極薄い相溶層が形成される場合がある。本発明者の検討によれば、この相溶層が後処理工程にてゴミとして残り、結果的には、インクジェット記録ヘッドの製造歩留まりを低下させる一因となっていることが判明した。
【0021】
本発明者は、溶解可能なインク流路パターン3上に被覆樹脂層4を形成する際に、溶解された被覆樹脂の塗布終了後、その加熱処理前に、基板1を減圧状態に保持して塗布溶媒の大部分を除去し、その後に加熱処理して成膜することによって、上記相溶層の発生が完全に抑えられることを見出した。そこで、図3(a)および(b)における被覆樹脂層4の形成時に、このような減圧による塗布溶媒の除去を実施した。その減圧状態は、用いられる塗布溶媒の蒸気圧によって適宜設定することができる。その減圧状態は、おおよそ50cmHg以下に設定することが必要であり、30cmHg以下に設定することが好ましい。また、そのような減圧状態下における基板1の温度は、50℃以下に設定することが好ましい。すなわち、溶媒の乾燥の観点からは、減圧状態時でも温度が高い方が好ましいが、相溶層の形成防止の観点からは、50℃以下の温度が最適である。
【0022】
塗布溶媒としては、エポキシ樹脂等を完全に溶解し、かつインク流路パターン3を溶解しない特性が必要であると同時に、成膜する被覆樹脂層4の膜厚等によって適宜選定される。具体的には、メチルイソブチルケトン、2エトキシエタノール、エチルセルソルブアセテート、ジグライム、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0023】
被覆樹脂層4を形成した後は、図4(a)および(b)のように、その被覆樹脂層4に吐出口5を形成する。その吐出口5の形成方法としては、例えば、被覆樹脂層4に感光性をもたせて、通常のフォトリソグラフィー技術により露光(光硬化)して現像することによって形成する方法、あるいは、被覆樹脂層4を加熱硬化させて、エキシマレーザもしくは酸素プラズマによってエッチングして形成する方法などを採ることができる。
【0024】
次に、図5(a)、(b)のように、基板1に対して、その裏面から異方性エッチングを施して、インク供給口6を形成する。インク供給口6は、予め、機械的な加工によって基板1に形成しておいてもよい。
【0025】
最後に、図6(a)、(b)のように、インク流路パターン3を溶解させて、ノズルを完成させる。それから、図示しない電気的な接続およびインク供給部材との接続によって、インクジェット記録ヘッドが完成される。
【0026】
以下、本発明の第1の実施形態における具体的な実施例について説明する。
【0027】
(第1の実施形態の実施例1)
本実施例では、前述した図1から図6に示される手順にしたがって、インクジェット記録ヘッドを製作した。まず、シリコン基板1上に、図1に示すような形態で、30μm角の電気熱変換素子(窒化タンタル TaN)2を2列配した。電気熱変換素子2は256ノズル分配置され、その配備形態は、300DPIのピッチで2列、かつ千鳥状に配されており、記録ヘッドとして600DPIの256ノズルが形成できるようになっている。なお、基板1は、シリコン基板用素材に200チップ分配列される。
【0028】
次に、図2(a)および(b)のような溶解可能な樹脂によってインク流路パターン3を形成するために、ポジ型レジストODUR1010(東京応化工業社製 ポリメチルイソプロペニルケトン)をスピンコートにより塗布し、成膜した。その後、キャノン製マスクアライナーPLA620(deep UV対応)により、マスクを介してパターン露光(露光時間3分)を行い、それから現像処理を行ってインク流路パターン3を形成した。
【0029】
次に、図3(a)、(b)のような被覆樹脂層4を形成するために、下表1の被覆樹脂組成物を、塗布溶媒としての2−エトキシエタノールに50wt%の濃度で溶解し、それをスピンコートによりインク流路パターン3上に塗布した。その塗布は、被覆樹脂層4が12μmとなるように、スピン回転数を調整しながら行う。その回転塗布の終了後、5cmHgの減圧下において、40℃の温度で3分間保持してから、最後に常圧下にて90℃の温度で3分間ベークして、塗布溶媒の乾燥を行った。
【0030】
【表1】
【0031】
次に、図4(a)および(b)のように吐出口5を形成する。本例の場合、被覆樹脂層4は、光カチオン重合開始剤を含み、ネガ型の感光特性が付与されているため、フォトリソグラフィーによって吐出口5を形成する。すなわち、キャノン製マスクアライナーMPA600を用い、マスクを介してパターン露光(露光時間50秒)を行い、次いで90℃の温度で4分間加熱処理を行った後に、現像処置を施して吐出口5を形成した。吐出口5の径は、φ20μmに形成した。
【0032】
次に、シリコン基板1の裏面から、マスクを介してシリコンの異方性エッチングを行い、図5(a)および(b)のようなインク供給口6を形成した。
【0033】
次に、現工程において残存しているインク流路パターン3を全面露光により分解した後、図6(a)および(b)のように、それを乳酸メチルによって除去した。
【0034】
その後、被覆樹脂層4を完全に硬化させるために、200℃の温度で1時間の加熱処理をしてから、電気的接続およびインク供給部材を配置して、インクジェット記録ヘッドを完成させた。
【0035】
このように製作された本実施例の記録ヘッドの比較対象として、被覆樹脂層4の回転塗布の終了後に、それを減圧下に保持せずに、常圧下において90℃の温度で3分間ベークして、塗布溶媒の乾燥を行ったサンプルを作成した。そのサンプルに対する処理において、被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下での保持がない以外は、上述した実施例の記録ヘッドに対する処理と同様である。
【0036】
本実施例の記録ヘッド、つまり被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下において保持された記録ヘッドの場合、所定パターンの画像を記録する記録検査の結果、歩留まりは95%であった。不良の5%について解析を行ったところ、顕微鏡観察では、ゴミ等は検出されず原因は特定できなかった。
【0037】
一方、比較対象としてのサンプル、つまり被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下に保持しなかった記録ヘッドの場合、本実施例の記録ヘッドと同様の記録検査の結果、歩留まりは81%であった。不良の19%について解析を行ったところ、顕微鏡観察においては、薄膜状のゴミによる不良が13%、ゴミ等は検出されずに原因が特定できなかったものが6%であった。その薄膜状のゴミは、インク流路パターン3と被覆樹脂層4の相溶物と考えられる。
【0038】
(第1の実施形態の実施例2)
本実施例では、24μm角の電気熱変換素子2を2列配した。その電気熱変換素子2は300ノズル分配置され、その配備形態は、600DPIのピッチで2列、かつ千鳥状に配されており、記録ヘッドとして1200DPIの300ノズルが形成できるようになっている。なお、基板1は、シリコン基板用素材に250チップ分配列される。
【0039】
このような基板1を用いて、前述した実施例1と同様の方法によって記録ヘッドを作成した。ただし、塗布溶媒としてキシレンを用い、前述した表1の被覆樹脂組成物を45wt%の濃度で溶解して、スピンコートにより、インク流路パターン3上に塗布した。その塗布は、被覆樹脂層4が12μmとなるように、スピン回転数を調整しながら行う。その回転塗布の終了後、10cmHgの減圧下において、40℃の温度で3分間保持してから、最後に常圧下にて90℃の温度で3分間ベークして、塗布溶媒の乾燥を行った。なお、吐出口5の径は、φ15μmとした。
【0040】
このように製作された本実施例の記録ヘッドの比較対象として、被覆樹脂層4の回転塗布の終了後に、減圧下に保持せずに、常圧下において90℃の温度で3分間ベークして、塗布溶媒の乾燥を行ったサンプルを作成した。
【0041】
本実施例の記録ヘッド、つまり被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下において保持された記録ヘッドの場合、所定パターンの画像を記録する記録検査の結果、歩留まりは93%であった。不良の7%について解析を行ったところ、顕微鏡観察では、2%の記録ヘッドに糸状のゴミ等が検出され、残りの記録ヘッドに関してはゴミ等が検出されず原因は特定できなかった。その糸状のゴミは、組立て工程中に混入したと思われるゴミであり、前述した実施例1の比較例としてのサンプルにおいて検出された薄膜状のゴミとは明らかに形態が異なっていた。
【0042】
一方、比較対象としてのサンプル、つまり被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下に保持しなかった記録ヘッドの場合、本実施例の記録ヘッドと同様の記録検査の結果、歩留まりは85%であった。不良の15%について解析を行ったところ、顕微鏡観察においては、薄膜状のゴミによる不良が10%、ゴミ等は検出されずに原因が特定できなかったものが5%であった。その薄膜状のゴミは、インク流路パターン3と被覆樹脂層4の相溶物と考えられる。
【0043】
(第1の実施形態の実施例3)
本実施例では、前述した実施例1と同様に記録ヘッドを作成した。ただし、塗布溶媒として、メチルイソブチルケトン/ジグライム=1/1(wt)を用い、下表2の被覆樹脂組成物を50wt%の濃度で溶解して、スピンコートにより、インク流路パターン3上に塗布した。その塗布は、被覆樹脂層4が12μmとなるように、スピン回転数を調整しながら行う。その回転塗布の終了後、5cmHgの減圧下において、40℃の温度で3分間保持してから、最後に常圧下にて90℃の温度で3分間ベークして、塗布溶媒の乾燥を行った。なお、吐出口5の径は、φ20μmとした。また、その吐出口5の形成に際しては、露光時間を60秒とした。
【0044】
【表2】
【0045】
このように製作された本実施例の記録ヘッドの比較対象として、被覆樹脂層4の回転塗布の終了後に、減圧下に保持せずに、常圧下において90℃の温度で3分間ベークして、塗布溶媒の乾燥を行ったサンプルを作成した。
【0046】
本実施例の記録ヘッド、つまり被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下において保持された記録ヘッドの場合、所定パターンの画像を記録する記録検査の結果、歩留まりは82%であった。不良の18%について解析を行ったところ、顕微鏡観察では、薄膜状のゴミ等は検出されなかった。
【0047】
一方、比較対象としてのサンプル、つまり被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下に保持しなかった記録ヘッドの場合、本実施例の記録ヘッドと同様の記録検査の結果、歩留まりは75%であった。不良の25%について解析を行ったところ、顕微鏡観察において、薄膜状のゴミによる不良が18%検出された。その薄膜状のゴミは、インク流路パターン3と被覆樹脂層4の相溶物と考えられる。
【0048】
以上の実施例1,2,3から明らかなように、塗布溶媒の種類に拘わらず、被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下に保持した記録ヘッドと、被覆樹脂層4の回転塗布終了後に減圧下に保持しなかった記録ヘッドの記録検査の結果、インク流路パターン3と被覆樹脂層4の相溶物と考えられる薄膜状のゴミの出現率に大きな差が生じて、歩留まりに差が生じた。
【0049】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0050】
本実施形態は、前述した第1の実施形態と同様に、図1から図6と同様の手順によって記録ヘッドを製造する。本実施形態は、図3(a)および(b)の製造段階、つまり、エポキシ樹脂を含む被覆樹脂を溶媒に溶解し、スピンコート等のソルベントコート法によって、それをインク流路パターン3上に塗布して被覆樹脂層4を形成する製造段階において、その被覆樹脂層4の膜厚精度の観点から、その塗布溶媒を選定した。
【0051】
すなわち、まず、インク流路パターン3は、多くの場合10μm以上の膜厚を有するため、被覆樹脂層4は、少なくとも10μm以上の凹凸を吸収して、その表面がフラットになるように形成しなければならない。図3(a)および(b)において、電気熱変換素子2上のインク流路パターン3の膜厚と被覆樹脂層4の膜厚との合計分の距離Lは、前述したOH距離、つまり電気熱変換素子2とオリフィス(インク吐出口の形成面)との間の距離となり、前述したように、ノズル毎の特性のばらつきを抑える上において、そのOH距離を正確に設定することが重要となる。前者のインク流路パターン3の膜厚管理に関しては、基本的にほぼフラットな基板1上にインク流路パターン3を形成するため、通常のスピンコート法等によって充分な膜厚精度を出すことができる。問題は、後者の被覆樹脂層4の膜厚管理である。
【0052】
前述した特開平6−286149号公報には、溶解可能な樹脂によって形成されたインク流路パターン3上に、エポキシ樹脂を含む被覆樹脂層4を形成する際に、被覆樹脂を濃度30〜70wt%で塗布溶媒に溶解し、それをソルベントコートによって形成する方法が記載されている。本発明者による詳細な検討の結果、より高精度に被覆樹脂層4の膜厚を管理するためには、被覆樹脂の固形分濃度と併せて、塗布溶媒の選定の必要性が判明した。塗布溶媒の選定に当たっては、考慮しべき事項として、溶解可能な流路パターン3を溶解、変形させないこと、およびエポキシ樹脂を含む被覆樹脂を必要な固形分濃度まで溶解させること等、厚膜の精度以外にも考慮するべき事項がある。本発明者の検討によれば、塗布溶媒として、2−エトキシエタノール(商品名:エチルセルソルブ)が最適であることが判明した。
【0053】
以下、本発明の第2の実施形態における具体的な実施例について説明する。
【0054】
(第2の実施形態の実施例1)
本実施例では、前述した図1から図6に示される手順にしたがって、インクジェット記録ヘッドを製作した。まず、シリコン基板1上に、図1に示すような形態で、30μm角の電気熱変換素子(窒化タンタル TaN)2を2列配した。電気熱変換素子2は256ノズル分配置され、その配備形態は、300DPIのピッチで2列、かつ千鳥状に配されており、記録ヘッドとして600DPIの256ノズルが形成できるようになっている。なお、基板1は、シリコン基板用素材に200チップ分配列される。
【0055】
次に、図2(a)および(b)のような溶解可能なインク流路パターン3を形成するために、ポジ型レジストODUR1010(東京応化工業社製)をスピンコートを用いて塗布し、成膜した。その後、キャノン製マスクアライナーPLA620(deep UV対応)により、マスクを介してパターン露光(露光時間3分)を行い、それから現像処理を行ってインク流路パターン3を形成した。そのインク流路パターン3の設計形状は、図7(図1のB―B′線に沿う断面図に相当)のとおりであり、幅が33μm、、膜厚が13μmである。また、電気熱変換素子2の幅は30μm、隣接する電気熱変換素子2の間隔は84.5μmである。
【0056】
1つの基板(1チップ)1内の10ノズルのインク流路パターン3の膜厚を10個の基板分(10チップ分)、つまり計100ノズル分のインク流路パターン3の膜厚を膜厚計(λエース)によって測定した結果、その膜厚平均が13.1μm(バラツキは、σ=0.1μm)となり、ほぼ均一な膜厚に形成されていることが確認できた。
【0057】
次に、図3(a)、(b)のような被覆樹脂層4を形成するために、下表3の被覆樹脂組成物を、塗布溶媒としての2−エトキシエタノールに50wt%の濃度で溶解し、それをスピンコートによりインク流路パターン3上に塗布した。その塗布は、被覆樹脂層4が12μmとなるように、スピン回転数を調整しながら行う。その後、90℃の温度で3分間ベークして、塗布溶媒の乾燥を行った。
【0058】
【表3】
【0059】
次に、図4(a)および(b)のように吐出口5を形成する。本例の場合、被覆樹脂層4は、光カチオン重合開始剤を含み、ネガ型の感光特性が付与されているため、フォトリソグラフィーによって吐出口5を形成する。すなわち、キャノン製マスクアライナーPLA620を用い、マスクを介してパターン露光(露光時間4秒)を行い、次いで90℃の温度で3分間加熱処理を行った後に、現像処置を施して吐出口5を形成した。吐出口5の径は、φ20μmに形成した。
【0060】
次に、シリコン基板1の裏面から、マスクを介して、シリコンの異方性エッチングを行い、図5(a)および(b)のようなインク供給口6を形成した。次に、現工程において残存しているインク流路パターンを全面露光により分解した後、図6(a)および(b)のように、それを乳酸メチルによって除去した。その後、被覆樹脂層4を完全に硬化させるために、200℃の温度で1時間の加熱処理をした。
【0061】
このようにしてノズル構造を成した後、干渉膜厚計(Zygo new view 200)を用いて、電気熱変換素子2と吐出口5の形成面との間のOH距離を測定した。そのOH距離の測定個所は、1つの基板(1チップ)1内の10ノズルを10個の基板分(10チップ分)、つまり計100ノズル分とした。その100ノズル分のOH距離の平均は、25.0μm(バラツキは。σ=0.04μm)であった。
【0062】
このような本実施例のノズル構造の比較対象として、被覆樹脂の塗布溶媒として、2−エトキシエタノールに代えて、前述した特開平6−286149号公報の実施例1に記載されているメチルイソブチルケトン/キシレン=1/1(重量部)を用いて、被覆樹脂層4を形成した。その比較対象のサンプルのOH距離を前述した測定方法により測定した結果、その平均が24.9μm(バラツキは、σ=0.9μm)であった。上述した本発明の実施例におけるOH距離の平均値と、その比較対象のサンプルにおけるOH距離の平均値は、両者共に、ほぼ設計値の25μmに形成されてはいるものの、OH距離のバラツキσの値は、後者の比較対象のサンプルに比して、前者の本発明の実施例の場合の方が半分以下に低減していることが確認できた。
【0063】
さらに、前者の本発明の実施例におけるノズル構造と、後者の比較対象のサンプルにおけるノズル構造のぞれぞれに対して、電気的接続およびインクタンク供給部材を配置して記録ヘッドを構成して、それらの両者の記録ヘッドからインク滴を吐出した。そして、両者の記録ヘッドのそれぞれに対して、1つの記録ヘッド当たり1ノズルからのインク滴の吐出量を10個の記録ヘッド分測定した結果、前者の本発明の実施例の記録ヘッドにおけるインク滴の吐出量の平均値は8.5ピコリットル、バラツキは±0.3ピコリットルであった。一方、後者の比較対象のサンプルにおけるインク滴の吐出量の平均値は8.5ピコリットル、バラツキは±0.6ピコリットルであった。これら両者の比較から明らかなように、本発明の実施例のように塗布溶媒として2−エトキシエタノール(エチルセルソルブ)を用いた記録ヘッドは、OH精度のバラツキの低減を反映して、インク滴の吐出量のバラツキを小さく抑えることができる。
【0064】
(第2の実施形態の実施例2)
本実施例では、前述した図1から図6に示される手順にしたがって、インクジェット記録ヘッドを製作した。まず、シリコン基板1上に、図1に示すような形態で、24μm角の電気熱変換素子(窒化タンタル TaN)2を2列配した。電気熱変換素子2は300ノズル分配置され、その配備形態は、600DPIのピッチで2列、かつ千鳥状に配されており、記録ヘッドとして1200DPIの300ノズルが形成できるようになっている。なお、基板1は、シリコン基板用素材に250チップ分配列される。
【0065】
次に、上述した実施例1と同様にして、図2(a)および(b)のような溶解可能な樹脂によってインク流路パターン3を形成した。そのインク流路パターン3の設計形状は、図8(図1のB―B′線に沿う断面図に相当)のとおりであり、幅が30μm、膜厚が13μmである。また、電気熱変換素子2の幅は24μm、隣接する電気熱変換素子2の間隔は42.5μmである。
【0066】
1つの基板(1チップ)1内の10ノズルのインク流路パターン3の膜厚を10個の基板分(10チップ分)、つまり計100ノズル分のインク流路パターン3の膜厚を膜厚計(λエース)によって測定した結果、その膜厚平均が13.0μm(バラツキは、σ=0.1μm)となり、ほぼ均一な膜厚に形成されていることが確認できた。
【0067】
次に、図3(a)、(b)のような被覆樹脂層4を形成するために、下表4の被覆樹脂組成物を、塗布溶媒としての2−エトキシエタノールに50wt%の濃度で溶解し、それをスピンコートによりインク流路パターン3上に塗布した。その塗布は、被覆樹脂層4が12μmとなるように、スピン回転数を調整しながら行う。その後、90℃の温度で3分間ベークして、塗布溶媒の乾燥を行った。
【0068】
【表4】
【0069】
次に、図4(a)および(b)のように吐出口5を形成する。本例の場合、被覆樹脂層4は、光カチオン重合開始剤を含み、ネガ型の感光特性が付与されているため、フォトリソグラフィーによって吐出口5を形成する。すなわち、キャノン製マスクアライナーMPA600を用い、マスクを介してパターン露光(露光時間60秒)を行い、次いで90℃の温度で3分間加熱処理を行った後に、現像処置を施して吐出口5を形成した。吐出口5の径は、φ15μmに形成した。
【0070】
次に、シリコン基板1の裏面から、マスクを介して、シリコンの異方性エッチングを行い、図5(a)および(b)のようなインク供給口6を形成した。次に、現工程において残存しているインク流路パターンを全面露光により分解した後、図6(a)および(b)のように、それを乳酸メチルによって除去した。その後、被覆樹脂層4を完全に硬化させるために、200℃の温度で1時間の加熱処理をした。
【0071】
このようにしてノズル構造を成した後、干渉膜厚計(Zygo new view 200)を用いて、電気熱変換素子2と吐出口5の形成面との間のOH距離を測定した。そのOH距離の測定個所は、1つの基板(1チップ)1内の10ノズルを10個の基板分(10チップ分)、つまり計100ノズル分とした。その100ノズル分のOH距離の平均は、25.0μm(バラツキは、σ=0.3μm)であった。
【0072】
さらに、このようなノズル構造に対して、電気的接続およびインクタンク供給部材を配置して記録ヘッドを構成して、その記録ヘッドからインク滴を吐出した。そして、1つの記録ヘッド当たり1ノズルからのインク滴の吐出量を10個の記録ヘッド分測定した結果、インク滴の吐出量の平均値は5.0ピコリットル、バラツキは±0.2ピコリットルであった。このように1ノズル当たりのインク吐出量が5ピコリットルの微小量であるにも拘わらず、そのバラツキをきわめて小さい範囲に抑えることができた。
【0073】
以上の実施例1,2において、前述した本発明の第1の実施形態と同様に、被覆樹脂層4の塗布終了後に減圧下に保持することにより、薄膜状のゴミの出現率を抑えて、記録ヘッドの製造上の歩留まりを向上させることもできる。これらの組合せの相乗効果により、記録ヘッドの信頼性を大幅に向上させることができる。
【0074】
(インクジェット記録ヘッド全体の構成例)
図9は、本発明のインクジェット記録ヘッドの全体的な構成例を説明するための斜視図である。
【0075】
図9において、2は、前述した第1、第2の実施形態におけるノズル構造を成す素子基板であり、2列に配列された複数の吐出口4が千鳥状に設けられている。素子基板2は、L字状に加工された支持部材102の一部に接着固定されている。この支持部材102上に固定された配線基板104の配線部分と、素子基板2における配線部分は、ボンディングにより電気的に接続されている。支持部材102は、コストおよび加工性等の観点から、アルミニウム材によって形成される。モールド部材103は、その内部に支持部材102の一部を挿入して、その支持部材102を支持すると共に、その内部に形成されたインク供給路を介して、インク貯留部から、前述したインク供給口6にインクを供給するための部材である。また、モールド部材103は、本例の記録ヘッド全体をインクジェット記録装置に着脱自在に固定するための装着、位置決め部材としての役割を果たす。
【0076】
(インクジェット記録装置の構成例)
図10は、本発明のインクジェット記録ヘッドを使用可能なシリアルタイプのインクジェット記録装置の概略斜視図である。
【0077】
図10において、200は、上述した本発明のインクジェット記録ヘッドが着脱自在に装着されるキャリッジである。本例の場合、記録ヘッドは、インク色の種類に応じて4種類装着され、イエローインクのタンク201Y、マゼンタインクのタンク201M、シアンインクのタンク201C、ブラックインクのタンク201Bと共に、キャリッジ200上に搭載される。
【0078】
キャリッジ200は、ガイドシャフト202に支持され、モータ203により順方向または逆方向に駆動される無端ベルト204により、ガイドシャフト202に沿って矢印A方向(主走査方向)に往復移動される。無端ベルト204は、プーリ205,206間に架け渡されている。
【0079】
被記録媒体としての記録紙Pは、矢印A方向と直交する矢印B方向(副走査方向)に間欠的に搬送される。記録紙Pは、上流側の一対のローラユニット207,208と、下流側の一対のローラユニット209,210とによって挟持され、かつ一定の張力が印加されて、記録ヘッドに対する平面性を確保しながら搬送される。各ローラユニットに対する駆動力は、駆動部211から付与される。また、各ローラユニットは、モータ203によって駆動する構成としてもよい。
【0080】
キャリッジ200は、記録開始または記録動作中に、必要に応じてホームポジッションに停止する。このポジッションには、各記録ヘッドの吐出口面をキャップするキャップ部材212が設けられている。キャップ部材212には、吐出口面に開口する吐出口から画像の記録に寄与しないインクを強制的に吸引して、吐出口内の目詰まりを防止するための吸引回復手段が接続されている。
【0081】
(その他)
なお、本発明は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出を行わせるために利用されるエネルギとして熱エネルギを発生する手段(例えば電気熱変換体やレーザ光等)を備え、前記熱エネルギによりインクの状態変化を生起させる方式の記録ヘッド、記録装置において優れた効果をもたらすものである。かかる方式によれば記録の高密度化,高精細化が達成できるからである。
【0082】
その代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号明細書,同第4740796号明細書に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式は所謂オンデマンド型,コンティニュアス型のいずれにも適用可能であるが、特に、オンデマンド型の場合には、液体(インク)が保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号を印加することによって、電気熱変換体に熱エネルギを発生せしめ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に一対一で対応した液体(インク)内の気泡を形成できるので有効である。この気泡の成長,収縮により吐出用開口を介して液体(インク)を吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるので、特に応答性に優れた液体(インク)の吐出が達成でき、より好ましい。このパルス形状の駆動信号としては、米国特許第4463359号明細書,同第4345262号明細書に記載されているようなものが適している。なお、上記熱作用面の温度上昇率に関する発明の米国特許第4313124号明細書に記載されている条件を採用すると、さらに優れた記録を行うことができる。
【0083】
記録ヘッドの構成としては、上述の各明細書に開示されているような吐出口,液路,電気熱変換体の組合せ構成(直線状液流路または直角液流路)の他に熱作用部が屈曲する領域に配置されている構成を開示する米国特許第4558333号明細書,米国特許第4459600号明細書を用いた構成も本発明に含まれるものである。加えて、複数の電気熱変換体に対して、共通するスリットを電気熱変換体の吐出部とする構成を開示する特開昭59−123670号公報や熱エネルギの圧力波を吸収する開孔を吐出部に対応させる構成を開示する特開昭59−138461号公報に基いた構成としても本発明の効果は有効である。すなわち、記録ヘッドの形態がどのようなものであっても、本発明によれば記録を確実に効率よく行うことができるようになるからである。
【0084】
さらに、記録装置が記録できる記録媒体の最大幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録ヘッドに対しても本発明は有効に適用できる。そのような記録ヘッドとしては、複数記録ヘッドの組合せによってその長さを満たす構成や、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成のいずれでもよい。
【0085】
加えて、上例のようなシリアルタイプのものでも、装置本体に固定された記録ヘッド、あるいは装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッド、あるいは記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0086】
また、本発明の記録装置の構成として、記録ヘッドの吐出回復手段、予備的な補助手段等を付加することは本発明の効果を一層安定できるので、好ましいものである。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧或は吸引手段、電気熱変換体或はこれとは別の加熱素子或はこれらの組み合わせを用いて加熱を行う予備加熱手段、記録とは別の吐出を行なう予備吐出手段を挙げることができる。
【0087】
また、搭載される記録ヘッドの種類ないし個数についても、例えば単色のインクに対応して1個のみが設けられたものの他、記録色や濃度を異にする複数のインクに対応して複数個数設けられるものであってもよい。すなわち、例えば記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによるかいずれでもよいが、異なる色の複色カラー、または混色によるフルカラーの各記録モードの少なくとも一つを備えた装置にも本発明は極めて有効である。
【0088】
さらに加えて、以上説明した本発明実施例においては、インクを液体として説明しているが、室温やそれ以下で固化するインクであって、室温で軟化もしくは液化するものを用いてもよく、あるいはインクジェット方式ではインク自体を30℃以上70℃以下の範囲内で温度調整を行ってインクの粘性を安定吐出範囲にあるように温度制御するものが一般的であるから、使用記録信号付与時にインクが液状をなすものを用いてもよい。加えて、熱エネルギによる昇温を、インクの固形状態から液体状態への状態変化のエネルギとして使用せしめることで積極的に防止するため、またはインクの蒸発を防止するため、放置状態で固化し加熱によって液化するインクを用いてもよい。いずれにしても熱エネルギの記録信号に応じた付与によってインクが液化し、液状インクが吐出されるものや、記録媒体に到達する時点ではすでに固化し始めるもの等のような、熱エネルギの付与によって初めて液化する性質のインクを使用する場合も本発明は適用可能である。このような場合のインクは、特開昭54−56847号公報あるいは特開昭60−71260号公報に記載されるような、多孔質シート凹部または貫通孔に液状又は固形物として保持された状態で、電気熱変換体に対して対向するような形態としてもよい。本発明においては、上述した各インクに対して最も有効なものは、上述した膜沸騰方式を実行するものである。
【0089】
さらに加えて、本発明インクジェット記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として用いられるものの他、リーダ等と組合せた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るもの等であってもよい。
【0090】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、溶解可能な樹脂によって形成された基体上のインク流路パターンの上に、インク流路壁となる被覆樹脂層を形成するソルベントコート後に、その被覆樹脂層を減圧状態に保持することによって、その被覆樹脂層を形成する被覆樹脂の溶媒の除去を促進し、インク流路パターンと被覆樹脂層との間に、記録ヘッドの最終製造工程においてゴミとなる相溶層が発生することを回避して、インクジェット記録ヘッドの製造上の歩留まりを向上させることができる。
【0091】
さらに、被覆樹脂層を形成する被覆樹脂の溶媒として、2−エトキシエタノールを含む溶媒を用いることにより、被覆樹脂層の表面の平坦度を向上させて、インク吐出量のバラツキをきわめて小さい範囲に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の記録ヘッドを構成する基板の斜視図である。
【図2】(a)は、本発明の記録ヘッドのインク流路パターン形成段階における図1のA―A′線に沿う断面図、(b)は、そのインク流路パターンの形成段階における図1のB−B′線に沿う断面図である。
【図3】(a)は、本発明の記録ヘッドの被覆樹脂層形成段階における図1のA―A′線に沿う断面図、(b)は、その被覆樹脂層形成段階における図1のB−B′線に沿う断面図である。
【図4】(a)は、本発明の記録ヘッドの吐出口形成段階における図1のA―A′線に沿う断面図、(b)は、その吐出口形成段階における図1のB−B′線に沿う断面図である。
【図5】(a)は、本発明の記録ヘッドのインク供給口形成段階における図1のA―A′線に沿う断面図、(b)は、そのインク供給口形成段階における図1のB−B′線に沿う断面図である。
【図6】(a)は、本発明の記録ヘッドの被覆樹脂層溶解段階における図1のA―A′線に沿う断面図、(b)は、その被覆樹脂層溶解段階における図1のB−B′線に沿う断面図である。
【図7】本発明の記録ヘッドの第2の実施形態における実施例1の要部の拡大断面図である。
【図8】本発明の記録ヘッドの第2の実施形態における実施例2の要部の拡大断面図である。
【図9】本発明の記録ヘッド全体の構成例を説明するための斜視図である。
【図10】本発明の記録ヘッドを使用可能な記録装置の要部の斜視図である。
【符号の説明】
1 基板(基体)
2 電気熱変換素子
3 インク流路パターン
4 被覆樹脂層
5 吐出口
6 インク供給口
Claims (9)
- インクの吐出に用いられるエネルギーを発生する吐出エネルギー発生素子が設けられた基体上に、溶解可能な樹脂によってインク流路パターンを形成する工程と、
常温にて固形状のエポキシ樹脂を含む被覆樹脂を溶媒に溶解し、これを前記インク流路パターンの上にソルベントコートすることによって、前記インク流路パターンの上にインク流路壁となる被覆樹脂層を形成する工程と、
前記被覆樹脂層に、インク吐出口を形成する工程と、
前記インク流路パターンを除去する工程と、
を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法において、
前記被覆樹脂層を形成するためのソルベントコート後に、前記被覆樹脂層を減圧下に保持する工程を含むことを特徴とするインクジェット記録ヘッドの製造方法。 - 前記減圧は30cmHg以下であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
- 前記減圧は50℃以下の温度であることを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
- 前記インク流路パターンを形成する前記溶解可能な樹脂は、電離放射線分解型であり、ポリメチルイソプロペニルケトンを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
- 前記被覆樹脂を溶解させる溶媒がキシレンを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
- 前記被覆樹脂を溶解させる溶媒が2−エトキシエタノールを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
- 前記吐出エネルギー発生素子は、熱エネルギーを発生する電気熱変換素子であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
- 請求項1から7のいずれかに記載の方法によって製造されたことを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
- インクジェット記録ヘッドを用いて、被記録媒体に画像を記録可能なインクジェット記録装置において、
前記インクジェット記録ヘッドとして、請求項1から7のいずれかに記載の方法によって製造されたインクジェット記録ヘッドを用いることを特徴とするインクジェット記録装置。
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