JP4051427B2 - 光電子分光装置及び表面分析法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は光電子分光装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の一般的な光電子分析装置にはX線源としてX線管が用いられている。このX線管では標的材料に電子ビームを衝突させると、標的材料から特性X線が発生する。X線管用の標的材料に求められる特性としては、光電子スペクトルを得るのに十分な強度をもったX線を発生すること、化学シフトも観測できるくらいの単色性を備えたX線を発生すること、しかも電子線が照射されることによって生じる熱を効果的に逃がすために高い熱伝導率を持つこと等である。この様な条件を満たす標的材料としてアルミニウムあるいはマグネシウムが広く用いられ、これを用いたX線管からはKα特性X線が強く輻射される。例えば、標的電極にアルミニウム(Al)を用いた場合には、 1.49keV、波長0.83nmのKα線が強く輻射され、マグネシウム(Mg)を用いた場合には1.25keV、波長0.99nmのKα線が強く輻射される。
【0003】
しかし実際の測定に際しては、その測定目的に対して個別の問題が生じ、それらに対して個々に対処策が講じられている。
例えば、AlのKα線を詳しく見るとKα1線とKα2線の2つの線スペクトルからなっており、全体としてのスペクトル幅は約0.85eVである。これくらいのスペクトル幅であれば、大体の化学結合による化学シフトを観測することができるが、化学シフトが1eV以下のものやSi2pのスピン軌道分裂(分裂幅0.6eV)等のスペクトルの微細構造を観測するには不充分である。
【0004】
また、X線管からは制動輻射による連続スペクトルも含まれている。この連続スペクトルによりスペクトルにバックグランド信号がのってしまい、光電子信号のシグナル/バックグランド比を低下させてしまう。さらに、X線管からは主線のKα1,Kα2線以外にも、Kα3,Kα4線、Kα5,Kα6線などのサテライト線も含まれている。このようなサテライト線は主線の近傍に現れ、しかもその強度は主線の強度に比べて非常に小さい。(例えば1/10程度以下)この様なサテライト線が試料に照射されると、主線の励起によるに光電子スペクトルにサテライト線の励起による微少な光電子スペクトルが重なってしまう。このため、試料に含まれる微量元素からの光電子スペクトルなのか、サテライト線によるものなのか区別がつきにくくなる。そこでこのような問題に対して、従来のX線管を用いた光電子分析装置では、連続スペクトルの除去、サテライト線の排除、エネルギー分解能の向上を目指し、X線から放出されたX線を結晶分光器により単色化し、試料上に照射する手法が試みられ、これまでにX線の単色化により、エネルギー分解能0.27eVが得られている。
【0005】
一方、放射光を用いた光電子分析装置の開発も精力的に進められている。放射光(特にアンジュレーター)はX線管に比べて輝度が高いため、X線をマイクロビームにして試料上に照射しても、光電子検出に十分な光量を得ることができるので、微小領域のX線光電子分析装置の開発が多くの研究施設で行われている。しかし、SRリングやアンジュレータから放出されるX線はスペクトル幅が広いため、X線光電子分析装置に用いるには、分光器あるいは/及び多層膜ミラーを用いてX線を1波長に単色化した後に試料上に照射している。
【0006】
次にX線管を用いた従来の光電子分析装置で行われている試料の深さ方向の分析について述べる。通常、試料の深さ方向の分析を行う場合、電子エネルギー分析装置から試料を見込む角度を変える事により行っていた。この測定原理は以下の通りである。一般的に、光電子の脱出長は数〜数10程度である。光電子エネルギー分析器の光電子取り込み方向が、試料表面の法線方向と同じ場合には光電子の脱出長そのものの数〜数10の深さの領域から放出された光電子を分析できる。ところが、光電子の取り込み方向が試料の法線方向より45°の方向の場合には、試料中を斜め45°方向に横切ってきた光電子のみが観測される。このため、試料の法線方向から光電子を取り込む場合に比べて、1/√2の深さの領域から放出された光電子を分析できる。(光電子の脱出長を10とすると光電子取り込み方向が45°の場合の分析可能な深さは7となる。)このように、光電子取り込み方向を試料の法線方向から大きな角度とする事により、より浅い領域のみを分析できるようになる。従って、いろいろな角度で分析することにより最大で光電子の脱出長までの深さ方向の変化の様子の観察を行っている。従来装置では、X線の入射方向と光電子エネルギー分析装置の位置を固定しておき、試料の取り付け角度を変化させて光電子取り込み角度を変化させる方法が用いられている。
【0007】
尚、従来のX線管を用いた光電子分析装置では、試料上のX線照射領域は、集光光学素子を用いないときには数mm〜数10mm程度であり、集光光学素子を用いる場合には、最小で約10μm程度であった。
更に、従来の光電子分析装置では試料中の元素(または化学状態)の2次元分布や深さ方向の分析を行うことが出来る。この時の放出電子のエネルギ−の分析に際しては、静電半球型や同心円筒型のエネルギー分析装置が用いられているが、これらのエネルギー分析装置で光電子スペクトルを得るために一度に測定するエネルギー範囲を狭めて(エネルギー窓)、このエネルギー窓をスキャンすることにより全エネルギー範囲のスペクトルを求めている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来の光電子分析装置での照射X線の単色化には、エネルギー分解能を向上させるとともに、注目している励起X線に対してのみの光電子スペクトルが得られるため、得られた測定デ−タの解析を容易にするという効果はあるが、しかし、いつかの効率低下も招いていた。たとえば、一般に光電子スペクトルにはオージェ電子のスペクトルも混在しているが、これまでの装置では光電子とオージェ電子を区別するために、ある波長のX線(例えばアルミニウムを標的に用いてAlKα線)を使用して光電子スペクトルを得た後、標的材料を交換して(例えばマグネシウム)、X線の波長を変えて(例えばMgKα線,1.25360keV)再び光電子スペクトルを測定していた。このようにX線の波長を変えて測定すると、光電子スペクトルはX線の波長が変わることによりスペクトルの現れる位置が異なるが、オージェ電子の場合にはX線の波長に関わらず同じ位置に現れるので、これらを区別することができる。しかしこのように従来の装置では波長を変えて2度スペクトルを取らねばならず、標的交換や光学系の再アライメントに要する時間も必要となるため時間がかかり効率的ではなかった。また、測定環境の変化(たとえばX線強度など)などにより、定量的な比較が難しかった。
【0009】
次に深さ方向の測定であるが、上述のような試料の角度を変化させる方法では、空間分解能をあげることは難しい。即ち、X線の入射方向が固定されているため、試料の角度を変化させると光電子取り込み角度だけでなく試料上のX線照射面積も変化してしまう。つまり、X線の入射角(試料の法線からの角度)が大きくなると照射面積が大きくなるので空間分解能が悪くなってしまう。試料位置を固定して電子エネルギー分析装置の位置を変えることにより、脱出角の異なった光電子を捕獲すること、あるいはX線の入射角が常に同じになるように、試料の角度を変えると共にX線の入射方向も変化させることも考えられるが、大きく重いエネルギー分析装置とそれに取り付けられている高い位置精度が必要な電子レンズ系を一緒に動かしたり、高いアライメント精度が要求されるX線光学系を移動させるのは装置的に、技術的に難しく、コストもかかるため困難である。
【0010】
更に、エネルギ−分析に関しても、従来法のエネルギー窓をスキャンする方法では、X線源のX線強度の時間的変化などにより、各スペクトルの絶対的,相対的値が不確定なものになってしまい、各スペクトル領域での測定結果を基にして全スペクトル領域での正確な値を求める事が困難であった。
本発明はこの様な従来技術に鑑みてなされたもので、高いS/N比で、高エネルギー分解能で、高空間分解能で測定が可能であり、測定時間が短く、且つ装置構成が簡単でコストがかからない光電子分光装置を提供することを目的とする。具体的な一例をもって説明すれば、電子スペクトル上での光電子とオージェ電子によるピークの干渉の解決を容易にし、また、空間分解能を損なうことなく深さ方向の分析も可能となり、また、短い計測時間で2次元あるいは3次元の元素、または化学状態のマッピングが可能な、装置構成が容易な光電子分光装置を提供する事である。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記問題点の解決のために本発明では、以下に述べるような手段を用いた。第1の手段として、上記光電子分光装置に対して、単一のX線源と試料との間に特定波長のX線を透過又は反射するX線波長選択部材を配置し、これにより、それぞれがスペクトル幅1/数100〜1/1000に狭帯域化された複数の異なる波長のX線を同時に試料上に照射することとした。これにより、複数元素あるいは複数の化学状態を高いエネルギー分解能で測定することが容易となり、化学シフトや光電子スペクトルの微細構造が観測可能となる。
【0012】
第2の手段として、第1の手段に更に、X線を一つ乃至複数の全反射ミラーを用いて試料上の微小領域に集光するようにした。これにより、複数元素あるいは複数の化学状態の空間分布分析がより簡単に出来、また、空間分解能を損なうことなく深さ方向の分析が可能になる。
第3の手段として、第1の手段に更に、X線を一つ乃至複数の多層膜反射ミラーを用いて試料上の微小領域に集光する、あるいは一つ乃至複数のそれぞれの基盤上に異なる波長のX線を反射するように多層膜が製膜されている反射ミラー用いて試料上の微小領域に集光することとした。これにより、複数元素あるいは複数の化学状態の空間分布分析がより簡単に出来、また、空間分解能を損なうことなく深さ方向の分析が可能になる。
【0013】
第4の手段として、第1〜第3の手段に加えて、試料表面から放出された電子のエネルギー分析法として飛行時間法を用いることとした。これにより、測定環境の変化に影響されない光電子スペクトルが取得できるため、より信頼性の高い計測や微量元素の計測が可能になる。
第5の手段として、第1〜第4の手段によって得られた光電子スペクトルより試料上の元素あるいは化学状態の2次元分布あるいは/及び深さ方向の分布を求める表面分析法とした。これにより短時間で元素あるいは化学状態の2次元分布を得ることができ、また、空間分解能が高い状態で深さ方向の分布を知ることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
先ず、本発明のここの手段の作用を説明し、その具体的な実施の形態を記す。第1の手段により、それぞれが狭帯域化された複数の異なる波長のX線を同時に試料上に照射する。この時、波長間隔を測定の目的に応じて適切に選択することにより、従来あったサテライト光より生じるノイズの電子スペクトルへの寄与や、照射X線の波長差が化学シフト量に近いために生じる測定誤差を無くし、且つ原理的には一度の測定で測定を可能にしている。次に実施レベルの説明を記す。
【0015】
X線源としてはLPXを使用する。LPXは小型で、放射光施設に比べればはるかに安価であるため、実験室サイズの装置の光源に適している。LPXの標的材料に軽元素(たとえば炭素)を用いた場合には、輻射されるX線のスペクトルは、いくつかの離散的な線スペクトルとなる。これを波長選択部材であるフィルターを用いることにより何本かの線スペクトルを選択して試料上に照射する。あるいは波長選択部材として多層膜ミラーを用いても良い。たとえば、LPXの標的材料に炭素(あるいは炭素を含む物質)を用いると、波長3nm〜4nmにかけて水素様(C5+)やヘリウム様(C4+)の炭素イオンに起因するいくつかの線スペクトルが放出される。(図5参照。図5では標的材料にポリエステル(炭素を含む物質の一例)を使用している。)例えば、C4+イオンの1s2-1s2p遷移による波長4.0268nm(307.90eV,Heα線)、1s2-1s3p遷移による波長3.49728nm(354.52eV,Heβ線)、及びC5+イオンの1s-2p遷移による波長3.3734nm(367.53eV)、1s-3p遷移による波長2.8466nm(435.55eV)などである。この炭素イオンから輻射されたX線をチタン(Ti)の薄膜(たとえば厚さ0.5μm)をフィルターとして用いると、チタンのL殻による吸収端(波長2.738nm)により、吸収端より短波長のX線は急激に減衰される。また、吸収端より長波長側では透過率が緩やかに減少するので、吸収端よりわずかに長波長のX線はあまり減衰を受けない。その結果、チタンフィルター透過後のX線は主にC5+イオンの1s-2p遷移による波長3.3734nm(367.53eV)及び1s-3p遷移による波長2.8466nm(435.55eV)の2つの波長のX線に選択される。(図5参照)
おのおののX線ラインのスペクトル幅は、一般にδλ/λ=1/数100〜1/1000程度と十分に狭く、化学シフトや光電子スペクトルの微細構造が観測可能である。
【0016】
試料上に照射される複数の波長のX線の波長間隔は、LPXでは上で示した例のように数eV以上ある。このため、X線管の様にX線の波長が近接していないため化学シフトの情報などとの混合が起こらない。
第2の手段では、例えば、前述のようにLPXの標的材料として炭素(あるいは炭素を含んだ物質)を用い、波長選択部材としてチタンフィルターを使用し、波長3.3734nm(367.53eV,ライマンα線(Lyα))及び波長2.8466nm(435.55eV,ライマンβ線(Lyβ))の2つの波長のX線を選択し、全反射ミラーにより、炭素と窒素が2次元的に分布している試料上の微小領域にに照射する。炭素の1s軌道の結合エネルギーは284.2eVであり、窒素の1sの結合エネルギーは409.9eVである。上述の2つの波長のX線をX線光学素子を用いて上記試料上の同一微小領域に照射し、試料位置を2次元スキャンして光電子スペクトルを観測すると、炭素が存在する領域にX線を照射した場合には、Lyα線及びLyβ線とも炭素の1s電子の結合エネルギーよりも光子エネルギーが大きいため、それぞれの励起X線に対応したエネルギーの光電子が観測される。つまり、Lyα線に対しては、367.53eV-284.2eV=83.33eVのエネルギーを持った光電子が、Lyβ線に対しては、435.55eV-284.2eV=151.35eVのエネルギーを持った光電子が観測される。(ここでは、仕事関数を無視している。)ところが、窒素が存在する領域ではLyα線の光子エネルギーでは窒素の1s電子を励起することができないので、Lyα線に対する光電子が観測されず、Lyβ線に対する435.55eV-409.9eV=25.65eV(ここでは、仕事関数を無視している。)のエネルギーを持った光電子のみが観測される。このように、複数波長のX線を試料上に照射することにより、特定のエネルギーの光電子スペクトルを観測するだけで、試料表面上の元素(あるいは化学状態)の2次元分布が迅速に観測することができる。
【0017】
また、複数波長のX線を同時に照射するのでより深さ方向の分析をも迅速に行うことができる。深さ方向の分析を行うのには、前述のように試料の角度を変化させる以外にも試料から放出される光電子のエネルギーを変化させる方式もある。図6に光電子の脱出深さのエネルギー依存性を示す。図6から分かるように光電子が試料表面から脱出できる深さは、光電子の持っているエネルギーの関数となっており、光電子のエネルギーが約50eVの時に最小となり、50eVよりも大きくあるいは小さくなるにつれて脱出深さは深くなって行く。すなわち、光電子のエネルギーが50eV程度になるような波長のX線を照射すれば最も浅いところの情報が得られ、光電子のエネルギーが50eV以上(あるいは50eV以下)になるようなX線を照射すれば、より深いところの情報が得られる事になる。
【0018】
例えばLPXの標的材料として炭素(あるいは炭素を含んだ物質)を用い、炭素イオンから輻射されるLyα線(367.53eV)とHeα線(307.90eV)を、炭素を含む試料上の同一箇所に照射した場合(使用するフィルターは前記のものと異なっていてもよい)、Lyα線の照射により約83.33eVのエネルギーを持った光電子が、Heβ線の照射により約23.7eVのエネルギーを持った光電子が試料中に含まれている炭素原子から放出される。図6より約80eVの光電子の脱出深さは約0.5nmであり、約23eVの光電子の脱出深さは約1nmである。このように、異なる波長の複数のX線を照射する事により一度に複数の深さ情報を持った光電子スペクトルの検出が行えるので、短時間に深さ方向の分析が行える。また、試料の角度も変化させる必要もないので、深さ方向の分析中に空間分解能が変化してしまうこともない。
【0019】
上記では複数波長のX線を微小領域に集光するのに、全反射を利用した集光素子を用いている。全反射ミラーは臨界波長以上では高い反射率(たとえば60%程度)を有し、波長が変わっても反射率があまり変化しないという特徴がある。このため、1つの全反射ミラーで、複数波長のX線を、アライメントの変更なしに、同時に同一点に集光することができる。また、短波長のX線(数nm)も反射することができるので、結合エネルギーが比較的大きな炭素,窒素,酸素などを含む有機物を分析する場合のX線集光素子として適している。このような全反射ミラーとしては、ウォルターミラーやトロイダルミラー、カークパトリック-ベイズ・ミラーなどがある。
【0020】
第3の手段では、X線の集光素子として多層膜ミラーを用いている。前述のようにフィルターを用いた場合には、X線フィルターは吸収端よりも低い光子エネルギーのX線を透過する一種のローパス・フィルターとして作用する。これに対し、多層膜ミラーはある特定の波長のみを反射する、バンドパス・フィルターとして作用する。X線フィルターの吸収端はフィルターに使われている物質によって決まってしまうので、任意に選ぶことはできない。これに対し、多層膜ミラーの場合には、多層膜の物質や周期長を変えることにより、任意の波長のX線を反射させるようにすることができ、また、反射X線の帯域(バンド幅)を変えることができる。多層膜の帯域からはずれたX線に対する反射率は著しく低くなるため、X線フィルターのみにより波長を選択するよりは、多層膜ミラーを用いた方がX線の選択性は良くなる。
【0021】
もし、注目している複数のX線の波長が多層膜ミラーの帯域内であれば一つの多層膜ミラーにより集光できる。また、複数のX線の波長間隔が多層膜ミラーの帯域よりも広ければ、それぞれの波長に対応する複数の多層膜ミラーにより集光すればよい。あるいは、一つのミラー基板上にそれぞれの波長に対する多層膜を製膜しても良い。このようにすれば1つのミラーで、複数波長のX線を、アライメントの変更なしに、同時に同一点に集光することができる。
【0022】
第4の手段について、上述のような元素(または化学状態)の2次元分布や深さ方向の分析を行うには、光電子エネルギー分析装置として飛行時間法を用いたものが適している。従来の静電半球型や同心円筒型のエネルギー分析装置では、一度に測定するエネルギー範囲を狭めて(エネルギー窓)、このエネルギー窓をスキャンすることにより全エネルギー範囲のスペクトルを求めている。このような方式では、X線源のX線強度の時間的変化などにより、各スペクトルの絶対的,相対的値が不確定なものになってしまう。一方、飛行時間法では1ショットで全エネルギー範囲のスペクトルが得られるので上記のような不確定さがない。たとえ1ショットでスペクトルが得られず複数ショット重ねたとしても、各ショットでは同条件で得られているので不確定さはない。従って、上記のようにスペクトルの各ピークを用いて2次元分布や深さ方向の分布を解析する場合には飛行時間法を用いた方がより正確に分布元素(あるいは化学状態)の絶対量あるいは相対量を求めることができる。また、飛行時間法ではP.KruitとF.H.Readによって報告されている様な発散性の磁場(P.Kruit and F.H.Read, J. Phys. E, 16, 1983, p313)を付加させることにより、試料から放出された光電子のほとんどを取り込むことができ、計測時間を大幅に短縮することができる。
第5の手段に関しては上述のとおりである。
【0023】
【実施例】
本発明の第1の実施例を図1に示す。
パルスレーザー装置100から発せられたレーザー光103はレンズ104により、真空容器101内に置かれているテープ状標的106上に集光され、標的材料をプラズマ化しX線が輻射される。テープ状標的106の材料としてポリエチレン(炭素を含む化合物の一例)を用いている。このテープ状標的はリール116に巻き取られており、A方向に移動できるようになっている。(駆動装置は図示していない。)真空容器101は予め、発生したX線が十分透過する圧力まで排気装置(図には示していない)により排気されている。プラズマ107から放出されたX線は、波長選択部材としてのX線透過フィルター109を透過後、ウォルターミラー110(X線集光素子及び全反射ミラーの一例)により試料上に集光される。試料はステージ115上に取り付けられており任意の方向に移動できるようになっている。フィルターとしては0.5μm厚のチタン(Ti)が用いられている。テープ状基板はポリエチレン(炭素を含む化合物の一例)でできているので、そのプラズマからは炭素イオンに起因するいくつかの離散的な線スペクトルが輻射されるが、チタンフィルターにより、ほぼC5+イオンの1s-2p遷移による波長3.3734nm(367.53eV)及び1s-3p遷移による波長2.8466nm(435.55eV)の2つの波長のX線に選択される。
【0024】
以上の様にフィルターにより選択された2つのX線は、ウォルターミラー110により試料111上に照射され、試料表面からは光電子112が放出される。放出された光電子のエネルギーは飛行時間法により分析される。試料表面から放出された光電子は、内部を磁気遮蔽材113で覆われた飛行管を通過後、光電子検出器であるマイクロチャンネル・プレート(MCP)114により検出され、その出力信号は高速デジタルオシロスコープ(図に示していない)によりデジタル信号として取り込まれ、演算装置(図示せず)によりMCPへの到達時間から光電子の運動エネルギーを求め、光電子スペクトルを得る。演算装置(図示せず)により元素や化学状態の2次元分布や深さ方向分布の計算が行われる。飛行管内には光電子の速度を減少させるための阻止電界を印加するための電極116が取り付けられている。阻止電界を印加する事により光電子の検出器までの到達時間が長くなるので、エネルギーのわずかな違いによる到達時間の差が大きくなり、エネルギー分解能をあげる事ができる。
【0025】
この実施例ではX線集光素子としてX線の全反射を利用したウォルター型ミラーを用いているが全反射を用いたトロイダルミラーやカークパトリック-ベイズ型のミラーであってもよい。
また、LPXの標的材料,フィルター材料の組み合わせはこれに限るものではない。
【0026】
図2は本発明の第2の実施例である。LPXの標的材料206としてロッド状の窒化硼素(BN)を用いている。この例ではX線集光素子として2つの多層膜楕円ミラー210a,bを用いている。多層膜ミラー210a,bの反射波長は、それぞれヘリウム様B(硼素)イオンの1s2-1s2p遷移による波長6.02nm(206eV)及び水素様Bイオンの1s-2p遷移による波長4.8nm(255eV)となるように製膜されている。また、各々の多層膜の帯域は2つのX線の波長差1.22nmよりも十分狭くなっている。フィルター209a,bとしては0.1μm厚の窒化シリコン上に0.2μm厚の炭素をコートしたものを用いている。フィルター209a,b透過後、ミラー210aにより波長6.02nmのX線が、ミラー210bにより波長4.8nmのX線が試料211上に照射されている。残りの部分は実施例1と同様なので省略する。本実施例では楕円ミラーを用いているが、これは球面ミラーやシュバルツシルドミラーなどであってもよい。
【0027】
本発明の第3の実施例を図3に示す。本実施例ではLPXの標的材料及びフィルターは第2の実施例と同じである。また、第2の実施例と同様に多層膜楕円ミラー310によりX線を試料311上に集光しているが、多層膜ミラー310は図3中の挿入図に示すように、同一基板上に2つの異なる多層膜が製膜されている。多層膜317はヘリウム様B(硼素)イオンの1s2-1s2p遷移による波長6.02nm(206eV)のX線を反射するように、多層膜318は水素様Bイオンの1s-2p遷移による波長4.8nm(255eV)のX線を反射するように製膜されており、各々の多層膜の帯域は2つのX線の波長差1.22nmよりも十分狭くなっている。このように同一基板上に異なる波長を反射する多層膜を製膜すると、高精度のアライメントを必要とせずに、同一点に複数波長のX線を集光することができる。
【0028】
本発明の第4の実施例を図4に示す。本実施例ではLPXの標的材料及びフィルターは第3の実施例と同じである。本実施例ではX線の集光にシュバルツシルドミラー410を用いている。シュバルツシルドミラーは一対の凹面410bと凸面410aの球面ミラーからなっている。これらの球面ミラーはミラー間隔,ミラーの相対位置などの調整後、鏡筒内に固定されている。(鏡筒は図示していない。)各々の球面ミラーにはお互いの相対する位置に多層膜417及び418が製膜されている。多層膜417はヘリウム様B(硼素)イオンの1s2-1s2p遷移による波長6.02nm(206eV)のX線を反射するように、多層膜418は水素様Bイオンの1s-2p遷移による波長4.8nm(255eV)のX線を反射するように製膜されており、各々の多層膜の帯域は2つのX線の波長差1.22nmよりも十分狭くなっている。このように同一基板上に異なる波長を反射する多層膜を製膜すると、同一点に複数波長のX線を容易に集光することができる。シュバルツシルドミラーは収差が小さいので、楕円ミラーに比べてより微小領域に集光することができる。
【0029】
上の実施例ではフィルターは横方向に均一な材料でできていたが、これは幾つかのフィルターを横方向に並べたものであっても良い。あるいは一つの基板上に幾つかのフィルター物質を製膜したものであっても良い。例えば、0.1μm厚の窒化シリコンの基板上の半分の領域に0.3μm厚の炭素を、残りの半分の領域に0.2μm厚のモリブデン(Mo)を製膜したものであっても良い。このように、異なるフィルターを横方向に並べた場合には、照射される複数のX線の波長の差が大きいときに有効である。なぜならば、単一元素からなるフィルターではその元素の吸収端から僅かに長波長側のX線はあまり減衰を受けないが、吸収端から遠く離れた波長のX線は著しく減衰される。そこで、各々のX線の波長の近くに吸収端のある物質を横方向に並べて用いれば、あるX線に対してのみ著しい減衰を受けることがない。また、横方向に並べたフィルターの面積を変えることにより、各々の波長の透過X線量を制御することも可能である。
【0030】
以上に述べた実施例では試料上に照射されるX線の波長が2つであったが、もっと多くてもよい。
また、波長の異なる複数のX線の照射位置は実施例では同一箇所であったが、各々のX線の照射位置は異なっていてもよい。
上の例では、フィルターに固体薄膜を用いていたが、これはガスであってもよい。(例えば、窒素ガスやキセノンガスなど)
【0031】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、複数波長のX線を試料上に照射する事により、使用上の元素(あるいは化学状態)の2次元分布を迅速に求めることがでる。また、深さ方向の分析を迅速に、しかもX線マイクロビームを用いたときには空間分解能を損なわずに行うことができる。X線源にレーザープラズマX線源(LPX)を用いることにより装置を実験室サイズの小型なものにすることができる。また、光電子のエネルギー分析法として飛行時間法を用いることにより、外的要因に影響されずスペクトル形状を正確に求めることができるので、分布元素(あるいは化学状態)の絶対量、相対量を正確に求めることができる。また、計測時間を短縮することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】は本発明の第1の実施例である。
【図2】は本発明の第2の実施例である。
【図3】は本発明の第3の実施例である。
【図4】は本発明の第4の実施例である。
【図5】(a)はポリエステルテープを標的材料とした時のプラズマからのスペクトル。
(b)はチタンフィルター透過後のX線のスペクトル。
【図6】は光電子の脱出深さのエネルギー依存性を示す図である。(S. Hufner, "Photoelectron Spectroscopy", p8 (1995))
【主要部分の符号の説明】
100,200,300,400…レーザー装置、
101,102,201,202,301,302,401,402…真空容器、103,203、303,403…レーザー光、
104,204,304,404…レンズ、
105,205,305,405…窓、
106…テープ状標的、
206,306,406…ロッド状ターゲット、
107,207,307,407…プラズマ、
108,208a,208b,308,408…X線、
109,209a,209b,309,409…X線透過フィルター、
110…ウォルターミラー、
210a,210b,310…多層膜楕円ミラー、
410…シュバルツシルドミラー、
111,211,311,411…試料、
112,212,312,412…光電子、
113,213,313,413…磁気遮蔽材、
114,214,314,414…マイクロチャンネル・プレート、
115,215,315,415…ステージ、
116…リール、
117,216,316,416…阻止電界印加用電極、
317,318,417,418…多層膜
Claims (5)
- レーザー光を真空容器内の標的材料上に集光し、該標的材料をプラズマ化して該プラズマから輻射されるX線を利用する単一のX線源(以下レーザープラズマX線源(LPX)と呼ぶ)を使用し、該X線源と試料との間に特定波長のX線を透過又は反射するX線波長選択部材を一つ乃至複数有し、これにより、前記単一のX線源を用いて、それぞれがスペクトル幅1/数100〜1/1000に狭帯域化された複数の異なる波長のX線を同時に試料上に照射することを特徴とする光電子分光装置。
- 請求項1の光電子分光装置であって、X線を一つ乃至複数の全反射ミラーを用いて試料上の微小領域に集光することを特徴とする光電子分光装置。
- 請求項1の光電子分光装置であって、X線を一つ乃至複数の多層膜反射ミラーを用いて試料上の微小領域に集光する、あるいは一つ乃至複数のそれぞれの基盤上に異なる波長のX線を反射するように多層膜が製膜されている反射ミラー用いて試料上の微小領域に集光することを特徴とする光電子分光装置。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか1つの請求項の光電子分光装置であって、前記試料表面から放出された電子のエネルギー分析法として飛行時間法を用いたことを特徴とする光電子分光装置。
- 請求項1ないし請求項4のいずれか1つの請求項の光電子分光装置を用いて得られた光電子スペクトルから、試料上の元素あるいは化学状態の2次元分布あるいは/及び深さ方向の分布を求める表面分析法。
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