車両のウインドガラスを自動開閉する装置は、一般にパワーウインドと呼ばれ、モーターによりウインドガラスを開閉させる装置である。パワーウインドにはウインドガラスによる異物の挟まれを防止する対策としてジャミング・プロテクション(即ち、Jamming protection)を備えるためにパワーウインド挟み込み防止装置が採用されているが、一般的なパワーウインド挟み込み防止装置では、ウインドガラスの上昇中に異物の挟まれが発生した際、挟まれた異物に掛かる荷重がモーター電流の増加により著しく増大してしまうため、このモーター電流の増加を抑制するようにモーター電流を制限する必要があった。
そこで、上記事情に鑑みて改良されたパワーウインド挟み込み防止装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2002−295129号公報
以下の図面の記載において、同一または機能的に類似する部分には同一または類似の符号を付している。
特許文献1で提案されているパワーウインド挟み込み防止装置について添付図面を参照して詳細に説明する。
(パワーウインド挟み込み防止装置の概要)
図6は、特許文献1で提案されているパワーウインド挟み込み防止装置の一例のブロック図である。このパワーウインド挟み込み防止装置は、挟まれ等による異常電流検出回路2と、正転・反転回路を備えたパワーウインドモーター5と、挟み込み判定回路6と、モーター電流制限回路7と、を有している。尚、正転・反転回路を備えたパワーウインドモーター5は、パワーウインドモーターを含んだ正転・反転回路5と考えてもよい。電流検出回路2と、正転・反転回路5と、電流制限回路7の三つの回路は、モーター電流IDの流れる電線1に直列に接続されて電源供給装置VBに接続される。
(挟まれ等による異常電流検出回路2の概要)
電流検出回路2は、モーター電流IDの挟まれ等による異常電流を検出して、信号線9を介して異常電流検出信号(電流制限制御信号)を電流制限回路7に出力する。電流検出回路2は、マルチソース電界効果トランジスタ(FET)またはマルチ抵抗と、電流追随回路3と、スタート回路4と、を有している。
マルチソースFETは、メインFETとリファレンス(Reference)FETで構成される。また、マルチ抵抗は、シャント抵抗とリファレンス(Reference)抵抗で構成される。マルチソースFETまたはマルチ抵抗のカレントセンシングレシオ(n:Current Sensing Ratio)すなわち、例えばメイン抵抗に対するリファレンス抵抗の抵抗成分の比を1を超えて好ましくは100以上に設定する。モーター電流IDをメインFETまたはシャント抵抗に流す。そして、ID=n*Irefの条件を満たすリファレンス電流IrefがリファレンスFETまたはリファレンス抵抗に流れるように、リファレンス電流Irefを制御する。
メインFETまたはシャント抵抗がモーターのハイサイド(High side:モーターに対して電源側)に有る場合には、メインFET のソース電位またはシャント抵抗のモーター側電位VSAと、リファレンスFET のソース電位またはリファレンス抵抗の接地側電位VSBとは、上記ID=n*Irefの条件を満足するために、VSA=VSBの条件を満足する必要がある。モーターが正常回転しているとき、ウインドガラスの駆動力の変動によりモーター電流IDが変化するとメインFET のソース電位等VSAも変化するが、リファレンス電流Irefを制御してVSA=VSBの条件を維持する。
次に、挟まれ(Jamming)等によって発生する異常電流を検出する方法について説明する。リファレンス電流Irefを追随速度の異なる2つの電流成分に分ける。リファレンス電流Irefは、追随速度の遅い電流成分Iref-sと、追随速度の速い成分Iref-fとに分けられて流れる。追随速度の遅い電流成分Iref-sはモーターが正常に回転しているときのモーター電流IDの変化には追随するが、挟まれが発生したときのモーター電流IDの急激な変化には追随できないように設定する。一方、追随速度の速い電流成分Iref-fは挟まれが発生したときの電流変化のみならず、モーター電流IDの中に含まれる脈動成分にも追随できるように設定する。追随速度の速い電流成分Iref-fの追随性を良くすればするほど、追随速度の遅い電流成分Iref-sは変化する必要がなくなり安定してくる。このような条件を満足させるため、追随速度の速い電流成分Iref-fの追随速度は、追随速度の遅い電流成分Irsf-sの800〜1000倍の速さに設定する。
このように設定すると、半導体スイッチング素子のOn/Off動作時を除けば追随速度の速い電流成分Iref-fはモーター電流IDの変化を正確に反映する。追随速度の速い電流成分Iref-f を、リファレンス抵抗より抵抗値の大きい抵抗に流すことによりモーター電流IDの変化を電圧に変換する。この電圧の変換により、モーター電流IDの変化をシャント抵抗またはメインFETのオン抵抗で電圧に変換して得られる微小変動を増幅した変動が検出できる。
挟まれが発生すると追随速度の速い電流成分Iref-fはモーター電流IDに追随して増加するが、追随速度の遅い電流成分Iref-sはほとんど変化しない。そのため追随速度の速い電流成分Iref-fの平均値と追随速度の遅い電流成分Iref-sの間には差が生じ、(Iref-fの平均値)>(Iref-s)の大小関係となる。この大小の差があらかじめ設定した値を超えたら、異常電流検出信号を発生させ、モーターのハイサイド(High side)にあるマルチソースFETまたはモーターのロウサイド(Low side:接地側)にある電流制限回路7の半導体スイッチング素子(FETまたはバイポーラ(Bipolar)トランジスタ)をオフする。
その後、挟み込みが発生している間、マルチソースFETまたはモーターのロウサイドにある半導体スイッチング素子がOn/Off動作と連続On動作を繰り返す動作を行なう。このOn/Off動作と連続On動作を繰り返す動作により、以下に説明するがモーター電流IDの増加を制限することができる。
(モーター電流制限回路7の概要)
電流制限回路7は、異常電流検出信号を入力されて、モーター電流IDが増加していかないように制限する。この制限は、マルチソースFETまたはモーターのロウサイドにある半導体スイッチング素子がOn/Off動作と連続On動作を交互に繰り返すことにより行なわれ、このOn/Off動作と連続On動作を繰り返す動作の信号が信号線10を介して挟み込み判定回路6に出力される。電流制限回路7は、モーター電流IDをOnOffすることが可能なFET等の半導体スイッチング素子と、この半導体スイッチング素子のOnの基準電圧とOffの基準電圧を生成する基準電圧回路8と、を有している。
モーター電流IDが、On/Off動作と連続Onを繰り返す動作に入ると、モーター電流IDは電流制限されて、その平均値は挟まれ発生直前より若干大きい値に維持される。モータートルクはモーター電流に比例するので、これによりモータートルクはウインドガラスの駆動に要するトルクより若干大きいトルクに保持される。このような必要最小限のトルクを確保することで、悪路等によるガラス駆動力の瞬間的変動があっても誤反転しないという条件下での、最小の挟まれ荷重を実現することが可能となる。
(挟み込み判定回路6の概要)
挟み込み判定回路6は、入力したOn/Off動作と連続On動作を繰り返す動作の信号に基づいて挟み込みか否かを判定する。挟み込みと判定した場合は、信号線11を介してウインドガラスを開ける旨のウインドダウン信号を正転・反転回路5に出力する。
挟み込みの判定には、挟まれによりモーター回転数が低下するに連れて、半導体スイッチング素子のOn/Off動作の期間が長くなり、半導体スイッチング素子の連続On動作の期間が短くなることを利用する。例えば、On/Off動作の期間が一定の長さに達したときに、挟み込みと判定する。挟み込みと判定すると、マルチソースFETまたは半導体スイッチング素子を遮断して、モーターを停止させ、一定時間経過後、モーター5を反転駆動させる。このことにより、ウインドガラスが開き、挟まれた異物の挟み込みを防止することができる。
(正転・反転回路を備えたパワーウインドモーター5の概要)
正転・反転回路5は、ウインドアップの信号を入力することにより、ウインドガラスを閉める方向にモーターを回転させ、ウインドダウンの信号を入力することにより、ウインドガラスを開ける方向にモーターを回転させる。さらに、信号線11を介してウインドダウン信号を入力した場合は、ウインドガラスを閉める方向から開ける方向にモーターの回転を反転させる。正転・反転回路5は、Hブリッジ回路またはリレー回路を有している。Hブリッジ回路を用いる場合、Hブリッジ回路を構成、あるいは接続する4個のFETを用いる。4個のFET のうちハイサイドのトランジスタを用いて電流検出回路2および電流制限回路7を構成してもよいし、ハイサイドのトランジスタを用いて電流検出回路2を構成し、ロウサイドのトランジスタを用いて電流制限回路7を構成してもよい。
図7(a)〜図7(c)は、パワーウインド挟み込み防止装置のブロック図の変形例を示している。すなわち、電流検出回路2は、電源供給装置VBのプラス端子またはマイナス端子と等価なグランドに接続し、正転・反転回路5および電流制限回路7についてはモーター電流IDを流す順番は構わない。具体的には、図7(a)に示されるように電流検出回路2→電流制限回路7→正転・反転回路5といった順番、図7(b)に示されるように電流検出回路2→正転・反転回路5→電流制限回路7といった順番(即ち、図6に示される順番と同じ順番)、図7(c)に示されるように正転・反転回路5→電流制限回路7→電流検出回路2といった順番、等でもよく、これらのような順番の違いによりパワーウインド挟み込み防止装置の作用や効果に大きな違いは生じないものと考えて良い。
図8は、パワーウインド挟み込み防止装置の回路図の一例を示している。パワーウインド挟み込み防止装置における電流検出回路2、電流制限回路7および挟み込み判定回路6の回路構成と回路の動作について、ここで詳細に説明する。
1.電流検出回路2の説明
1−1.電流検出回路2の回路構成
シャント抵抗とリファレンス抵抗を用い、リファレンス電流Irefを2つの追随速度の異なる電流成分Iref-sとIref-fに分けて異常電流を検出する回路について説明する。
図8の電流検出回路2は、電源供給装置VBのプラス端子に接続するシャント抵抗R1とリファレンス抵抗R20と、その抵抗R1とR20に接続する電流追随回路3と、電流追随回路3にプラス入力端子とマイナス入力端子が接続し出力端子が電流制限回路7に接続するコンパレータCMP2と、5V電源とCMP2の出力端子間に接続する抵抗R25と、を有している。
電流追随回路3は、プラス入力端子がリファレンス抵抗R20に接続し、マイナス入力端子がシャント抵抗R1に接続するコンパレータCMP1と、CMP1の出力端子に接続し、抵抗R21と接地するコンデンサC1を直列接続して構成される第1の充放電回路と、CMP1の出力端子に接続し、抵抗R22と接地するコンデンサC2を直列接続して構成される第2の充放電回路と、コンデンサC1とC2の間に接続される抵抗R28と、ドレイン端子がCMP1のプラス入力端子に接続されゲート端子がコンデンサC1に接続されるnMOSFET(T21)と、一端がFET(T21)のソース端子とCMP2のプラス入力端子に接続し他端が接地する抵抗R23とで構成される第1のソースフォロア回路と、ドレイン端子がCMP1のプラス入力端子に接続されゲート端子がコンデンサC2に接続されるnMOSFET(T22)と、アノード端子がFET(T22)のソース端子と接続するダイオードD21と、一端がダイオードD21のカソード端子とCMP2のマイナス入力端子に接続し他端が接地する抵抗R24とで構成される第2のソースフォロア回路と、を有している。
尚、図8中の抵抗R21等に添えられた910Kは、抵抗R21の抵抗値が910KΩであることを表している。同様に、コンデンサC2等に添えられた0.1ufは、コンデンサC2の容量が0.1μFであることを表している。
1−2.電流検出回路2の動作説明
図8ではシャント抵抗R1、正転・反転リレー回路5とOn/Off動作を行なう半導体スイッチング素子(FET)T1が、モーター電流IDの流れる電線1に対して直列に接続され、電源供給装置(例えば、バッテリ)VBのプラス端子およびマイナス端子に接続されている。正転・反転リレー回路5の正転・反転リレーはトランジスタT2およびT3により駆動され、正転(アップ(Up)動作)ではT2がオンし、反転(ダウン(Down)動作)ではT3がオンする。マルチ抵抗はシャント抵抗R1とリファレンス抵抗R20で構成される。図8の回路例ではR1の抵抗値は34mΩ、R20の抵抗値は55Ωに設定されている。モーター電流IDはシャント抵抗R1を流れ、リファレンス電流Irefはリファレンス抵抗R20を流れる。抵抗R1及びコンデンサC2等の抵抗値及び容量を便宜上抵抗R1等の符号R1と同じR1等と表記する。そこで、R1*ID=R20*Irefの条件を満足するときの電流比nは式1のようになる。
n=ID/Iref=R20/R1=55/0.034=1618 …式1
コンパレータCMP1はオペアンプからなり、CMP1のマイナス入力端子にはシャント抵抗R1のモーター側電位が入力され、CMP1のプラス入力端子にはリファレンス抵抗R20の接地側電位が入力される。CMP1の出力と接地電位レベル(GND)間には抵抗R21とコンデンサC1を直列接続した第1の充放電回路が接続され、コンデンサC1はCMP1の出力により、抵抗R21を介して充放電される。コンデンサC1の非接地側はFET T21のゲート端子に接続され、FET T21のドレイン端子はリファレンス抵抗R20に接続され、T21のソース端子は抵抗R23を通して接地されている。FET T21と抵抗R23は第1のソースフォロア回路を構成するので、FET T21および抵抗R23にはコンデンサC1の電位に比例した電流が流れる。この電流がリファレンス電流Irefの追随速度の遅い電流成分Iref-sになる。一方、コンパレータCMP1の出力と接地電位レベル(GND)間には抵抗R22とコンデンサC2を直列接続した第2の充放電回路が接続され、コンデンサC2はCMP1の出力により、抵抗R22を介して充放電される。コンデンサC2の非接地側はFET T22のゲート端子に抵抗R28を介して接続され、FET T22のドレイン端子はリファレンス抵抗R20に接続され、T22のソース端子はダイオードD21と抵抗R24を通して接地されている。FET T22とダイオードD21および抵抗R24は第2のソースフォロア回路を構成するので、FET T22、ダイオードD21、および抵抗R24にはコンデンサC2の電位に比例した電流が流れる。これがリファレンス電流Irefにおける追随速度の速い電流成分Iref-fになる。コンデンサC1とC2の非接地側は抵抗R28で接続され、モーター電流IDが変化しないときはC1およびC2の電位が等しくなるようなっている。すなわち、コンパレータCMP1の出力にはコンデンサC1、C2と抵抗R21、R22からなる2つの充放電回路が並列に接続され、それぞれのコンデンサC1、C2の電位に比例した電流を流す2つのソースフォロア回路がリファレンス抵抗R20と接地間に並列接続されることになる。第1の充放電回路の時定数は第2の充放電回路の時定数より大きく設定される。この回路例では第1の充放電回路の時定数は式2のようになり、第2の充放電回路の時定数は式3のようになり、その比は1:894となる。
(第1の充放電回路の時定数)=R21*(R22+R28)/(R21+R22+R28)*C1
=910K*(5.1K+910K)/(910K+5.1K+910K)*1μf=456ms …式2
(第2の充放電回路の時定数)=R22*C2=5.1K*0.1μf=0.51ms …式3
挟み込みの検出はコンパレータCMP2で行なう。CMP2のプラス入力端子にはT21のソース電位が入力され、マイナス入力端子にはT22のソース電位よりダイオードD21の順方向電圧降下約0.7Vだけ低下した電位が入力される。T21とT22のゲート〜ソース間電位はほぼ等しいので、D21の電圧降下分が挟み込みにより増加する異常電流の検出値となる。挟み込みが発生してIref-fが増加するとCMP2の出力(電流制限制御信号CPOUT_B)がHレベルからLレベルに変化する。そして、電流制限回路7のNOR1の出力がHレベルになり、トランジスタT31がオンし、半導体スイッチング素子であるトランジスタT1がオフする。このときの挟み込みによる異常電流の検出は次のようにしてなされる。
(a)まず、リファレンス電流Irefを図8のように追随速度の遅い成分Iref-sと速い成分Iref-fに分けて構成する。モーター電流IDの変化は脈動成分まで含めてIref-fに現れ、T22のソース電位、すなわちCMP2のマイナス入力端子電圧(Vins)に正確に反映される。その結果、Iref-s側のT21のソース電位、すなわちCMP2のプラス入力端子電圧(Vc)はモーター電流IDの速い変動の影響を受けなくなり、長い期間の平均値のみが反映される。このため挟み込みが発生して電流制限を行なう間はほぼ一定の電位を保ち、理想的な基準電圧を実現することができる。
(b)追随速度の速い成分Iref-fにはモーター電流の脈動成分による変動分が含まれている。脈動電流の振幅をΔID-rip、Iref-fの脈動成分をΔIref-f-ripとするとΔIref-f-rip=ΔID-rip/nとなる。ΔIref-f-ripにより抵抗R24に発生する電圧変動分ΔVripは、式4のようにR24=1.5KΩ、ΔID-rip=0.5Aの場合は、0.46Vとなる。
ΔVrip=ΔIref-f-rip*R24
=ΔID-rip/n*R24=0.5A/1618*1.5K=0.46V …式4
すなわち、CMP2のマイナス入力端子電圧は脈動成分により、振幅±0.23V(±ΔVrip/2)で振動している。 従ってIref-fの平均値が0.47V(=0.7V−0.23V)増加するとCMP2の出力はHレベルからLレベルに反転することになる。
この0.47Vをモーター電流IDに換算すると0.51A(=0.47V/R24*n=0.47V/1.5K*1618)となる。すなわち、図8の回路例では挟み込みによりモーター電流IDの平均値が0.51A増加するとCMP2出力はLレベルとなり、T31がオンしT1はオフ状態に向かう。
(c)図9に示すように、CMP2の出力がLレベルに反転する前(時間t1の前)はモーター電流IDが増加しているので、CMP1の出力はHレベルになっている。T31がオンするとT1のゲートに過充電された電荷が放電する時間だけ遅れてモーター電流IDは減少し始める。この時点でCMP1の出力はH→Lレベルに遷移し始めるが、CMP1はオペアンプで構成されているので、オペアンプの応答遅れのため、出力がHからLに変化するのに遅れ時間が発生する。
CMP2の出力がLレベルに反転してからCMP1出力がHレベルから低下してコンデンサC2の電位に等しくなるまでの時間t1の間はC2が充電されるので、Iref-fは増加し、CMP2のマイナス入力端子電圧は増大する。その後、CMP1の出力がC2電位より低くなるとC2は放電され始め、時間t1の間に充電された電荷量が放電し終わるまでの時間t2の後にCMP2のマイナス入力端子電圧は元の電圧、すなわちCMP2出力がH → Lに遷移し始めたときの電圧に戻る。この間プラス入力端子電圧は変化しない。
時間t2を過ぎるとCMP2出力はHレベルに反転し、FET T1はオンする。すなわち、モーター電流IDが増加してCMP2の出力がLレベルに反転してから時間t1+t2の間はCMP2出力はLレベルを維持する。C2の電位がCMP1の出力のHレベルとLレベルの中間にあるとt1≒t2の関係となる。時間t1+t2はT1のターンオフ遅れ時間、オペアンプの応答速度およびモーター電流IDの減少速度により決まるが、T1のターンオフ遅れ時間とオペアンプの応答速度は一定であるので、時間t1+t2はモーター電流IDの減少速度に依存し、減少速度が遅くなるに連れて長くなる。
CMP2出力が再度L→Hになり、T1がオンするとモーター電流IDが増加し始める。このため、CMP1の出力はLからHに向かうが、CMP1の出力がC2の電位より低い間、C2は放電され続ける。CMP2の出力がHレベルに反転してからCMP1出力がコンデンサC2の電位に等しくなるまでの時間を時間t3とする。CMP1の出力がC2電位を超えるとC2は充電され始める。時間t3に放電した電荷量と同量の電荷が充電されるまでの時間t4を経過するとCMP2の出力は反転してLになり、T1はオフする。すなわち、時間t3+t4の間はCMP2の出力がHレベルを維持する。時間t3+t4はオペアンプの応答速度およびモーター電流IDの増加速度により決まるが、オペアンプの応答速度は一定であるので、時間t1+t2はモーター電流IDの増加速度に依存し、増加速度が速くなるに連れて短くなる。
(d)挟み込み検出値の設定にダイオードD21の順方向電圧降下を用いたのはモーター電流IDが変化して、Iref-fの平均値が変化しても挟み込み検出値を一定にするためである。しかし、この方法では挟み込み検出値を変更する必要がある場合はダイオードD21の順方向電圧降下を変更できないので、抵抗R24の値を調整して行なうことになる。上述の(b)項の説明から判るようにR24の値を大きくすると挟み込み検出値は小さくなり、逆にR24の値を小さくすると挟み込み検出値が大きくなる。
(e)挟み込み検出値の設定をダイオードD21に代えて抵抗を用いて行なうことも可能である。この場合、モーター電流IDが増加するとそれに比例して挟み込み検出値が大きくなる。
2.電流制限回路7の説明
2−1.電流制限回路7の回路構成
図8の電流制限回路7は、入力端子がCMP2の出力端子に接続するNORゲートNOR1と、出力端子がNOR1の入力端子に接続するコンパレータCMP3と、CMP3のマイナス入力端子に接続する基準電圧回路8と、ドレイン端子がCMP3のプラス入力端子に接続し、ソース端子が接地された半導体スイッチング素子T1と、スイッチング素子T1のゲート端子に接続された可変抵抗R32と、ゲート端子がNOR1の出力端子に接続し、ドレイン端子が抵抗R32に接続し、ソースが接地されたFET(T31)と、電源供給装置VBのプラス端子とT31のドレイン端子間に接続された抵抗R31と、CMP3のプラス入力端子と接地間に接続された抵抗R33と、CMP3の出力端子と5V電源間に接続された抵抗R37と、を有している。
基準電圧回路8は、CMP3のマイナス入力端子と電源供給装置VB間に接続された抵抗R35と、CMP3のマイナス入力端子と接地間に接続された抵抗R36と、CMP3のマイナス入力端子に接続された抵抗R34と、アノード端子が抵抗R34に接続されたダイオードD31と、ドレイン端子がダイオードD31のカソード端子に接続し、ソース端子が接地され、ゲート端子がCMP3の出力端子に接続されたFET(T32)と、を有している。
2−2.電流制限回路7の動作説明
モーター電流IDの制限は図8の電流検出回路2と電流制限回路7を組み合わせて行なう。
始めに電流制限回路7の動作について説明する。電流検出回路2のコンパレータCMP2の出力がHレベルのときはNORゲートNOR1の出力がLレベルとなり、トランジスタT31はオフとなり、スイッチング素子(トランジスタ)T1がオンする。T1がFETの場合について説明すると、このときコンパレータCMP3のプラス入力端子電圧はT1のドレイン端子に接続しているので、ほぼ接地電位レベルが入力される。一方、CMP3のマイナス入力端子電圧は、R34、R35、R36、ダイオードD31とトランジスタT32で構成される基準電圧回路8で決まり、R34=3.3KΩ、R35=10KΩ、R36=24KΩに設定すると電源電圧VBが12.5Vのとき、T32がオフであれば8.82Vとなり、T32がオンであれば3.03Vになる。いずれにせよ3.03V以下には低下しないので、CMP3出力はLレベルとなる。従って、T32はオフになっている。挟まれが発生してコンパレータCMP2の出力がLレベルになるとNOR1の出力がHレベルになり、T31がオンし、T1がオフする。T1のドレイン電圧VDSは接地電位レベルから上昇を始める。T32がオフになっているので、CMP3のマイナス入力端子電圧は8.82Vであり、T1のドレイン電圧VDSが8.82V以上になるとCMP3の出力はHレベルに反転し、NOR1の出力がLレベルになり、T31がオフし、T1がオンする。このとき同時にT32もオンするので、CMP3のマイナス入力電圧は3.03Vに低下する。従ってT1は一旦オンするとドレイン電圧VDSが3.03V以下に低下するまでオン状態を維持する。T1のドレイン電圧VDSが3.03V以下になるとCMP3の出力は再度Lレベルになり、T1がオフし、同時にT32がオフして、CMP3のマイナス端子入力は8.82Vに上昇する。T1のドレイン電圧VDSが8.82Vを超えるまでT1はオフを続ける。これがOn/Off動作の1周期で、この状態はCMP2の出力がLレベルである限り継続する。
●On/Off動作におけるモーター電流IDの不変性について
次に上記On/Off動作を行なうとき、On/Off動作の1周期ではモーター電流IDがほとんど変化しないことを説明する。図10にFET T1の負荷線を付加した静特性曲線を示す。挟まれが発生する以前のモーターが正常に回転しているとき、T1はA点で動作している。モーター負荷電流IDが変化すると動作点はオーミック領域の例えばA点とB点の間で上下する。挟まれが発生するとモーター負荷電流IDは増加し、T1の動作点は上方に移動して、B点に達するとT1はオフする。B点とA点の電流差が挟み込み検出値である。T1がオフするとドレイン〜ソース間電圧VDSは拡大するが、そのときのT1の動作点はB点を通る水平線上を右側に向かって移動する。言い換えれば、ドレイン電流ID(=モーター負荷電流)はT1がオフしたときの値を維持したままT1のドレイン〜ソース間電圧VDSは拡大する。これはT1のドレイン〜ソース間電圧VDSが接地電位レベルと電源電圧の間を移動しているときはT1のゲート〜ドレイン間容量がミラー(Miller)効果により、見かけ上大きくなり、ゲート〜ソース間電圧VGSがほとんど変化しなくなるからである。
●ミラー効果について
図11は、スイッチング素子T1の等価回路図である。ゲートドライバーによる充電で、ゲート〜ソース間電圧VGSが微小電圧ΔVGS上昇したとする。これによりモーター電流IDがΔID増加し、モーターのインダクタンスLにより逆起電力Ec(=L*dID/dt)が発生する。ゲート〜ドレイン間容量CGDに充電される電荷ΔQは、式5で表される。
ΔQ=CGD*(ΔVGS+ΔID*Ra+Ec) …式5
ここでRaは電機子抵抗である。また、ゲート端子から見たCGDの容量Cmは式6で表される。
Cm=ΔQ/ΔVGS=CGD*(1+ΔID*Ra/ΔVGS +Ec/ΔVGS) …式6
容量Cmが“Miller容量”で、容量CGDの両端の電圧変化がΔVGSよりはるかに大きいことから生じる見かけ上の容量である。 ゲートドライバーがゲート抵抗RGを介してFETのゲート電荷を充放電するときドライバー側から見える容量はCGDではなくてCmとなる。モーターのインダクタンスLが大きいと容量CmはCGDに比べて大きな値になり、On/Off動作時、ゲートドライバーがT1のゲートを充放電してもゲート〜ソース間電圧VGSはほとんど変化しなくなる。但しMiller効果が有効なのはメインFET(T1)のドレイン電位VDSが接地電位レベル(GND)と電源電圧(VB)の間にあって自由に変化できるときだけある。このときT1はピンチオフ領域にあるので、T1の伝達コンダクタンスをGmとするとID=Gm*VGS が成立する。この式からVGSがほぼ一定となればIDも変化せず、ほぼ一定になることが判る。
図8においてトランジスタT32がオンおよびオフしているときのコンパレータCMP3のマイナス入力端子電圧を図10においてそれぞれVLおよびVHとする。この回路例ではVL=3.03V、VH=8.82Vとなる。T1の動作点が図10のB点を通る水平線上を右側に移動して電圧VHよりドレイン電圧VDSが大きくなるとCMP3出力がHレベルになり、T1はオンする。実際の回路では回路の遅れによりVHを超えてしばらくしてから、オンする。図10ではVDSが10Vを超えたC点でオンし、VDSは接地電位レベルに向かって低下していく。VDSが電圧VLより小さくなるとCMP3の出力はLレベルになり、T1は再びオフする。このようにしてT1はCMP2の出力がLレベルである限り、On/Off動作を継続する。
●On/Off動作によるIDの減少について
次にOn/Off動作を継続している間にドレイン電流IDが徐々に減少することを説明する。On/Off動作を開始したとき、T1のドレイン電圧VDSは基準電圧VLおよびVHで規制されるので、T1の動作点は、図10のC点〜D点間で振動する。このときのVDSの平均値はG点であり、ほぼC点〜D点間の中央になる。G点はT1のDC的動作点である。これに対して線分CDはAC動作曲線となる。図10において直線aは、電源供給装置VBが12.5Vの場合のモーターが停止しているときのT1の負荷直線であり、その勾配は電機子抵抗Raで決まる。直線b〜gは直線aに平行で、それらの横軸上への投影はドレイン電流ID(=モーター電流)がモーターに流れたときの電圧降下量を表わすことができる。
まず、挟まれが発生する直前について考察する。このときのT1の動作点はA点である。モーター逆起電力をEmotor-A、ドレイン〜ソース間電圧をVDSonとすると、式7が成立する。
VB=VDSon+Ra*ID+Emotor-A …式7
次に、挟まれが発生し、On/Off動作を開始した直後について考察する。IDはOn/Off動作に同期して変動するAC成分IDAとそれ以外のDC的成分IDDからなる。すなわちIDは、ID=IDA+IDDの関係を有する。IDDが変化するとモーターインダクタンスLにより逆起電力Eonoffが発生する。その大きさは式8から求まる。
Eonoff=L*d(IDD)/dt …式8
On/Off動作時におけるT1のドレイン〜ソース間電圧VDSの平均値をVDSonoffとするとこれは図10おけるG点に相当する。On/Off動作1周期の間はモーターの回転数が変化しないと仮定する。一方IDも変化しないから式9が成立する。
VB=VDSonoff+Ra*ID+Emotor-A+Eonoff …式9
式7の両辺から式9の両辺を引くことにより、式10を得ることができる。
0=VDSon−VDSonoff−Eonoff
Eonoff=VDSon−VDSonoff …式10
ここで、VDSonは連続On時のドレイン〜ソース間電圧で約0.3Vである。VDSonoffはG点の電圧で、おおよそ6.5Vである。これによりEonoffは式10より−6.2Vのマイナスの値となる。そして、Eonoffがマイナスの値になるので、式8よりIDDが減少することがわかる。
●最小の反転荷重の実現(悪路等による誤作動防止)について
IDのDC的成分IDDがOn/Off動作を行ないながら動作点Gから動作点Hに向かって減少すると、Iref-fがIDDに追随して減少し、IDDが図10のH点に達するとCMP2がLレベルからHレベルに反転し、FET T1の動作点はH点からF点に移動して、T1は連続Onの状態になる。連続On状態になるとIDは増加し、A点を経由してB点に至り、T1は再びOn/Off動作に入る。この間Iref-sは変化しないから、CMP2のプラス入力端子電圧は変化しないので、A点が固定され、それに伴いB〜F点も変化しない。従ってOn/Off動作と連続Onの状態を繰り返す間は電流IDの電流値が一定範囲に制限される。
この一定範囲に制限された電流IDの平均値は、電流制限動作に入る直前のIDの電流値よりわずかに大きい値に維持される。このことは2つの重要な意味を持つ。
1つ目は、モータートルクは電流に比例するから、モータートルクを一定範囲に制限できることである。これにより、挟み込み荷重を制限することができる。
2つ目は、悪路等を走行して挟み込みが発生しないにも関わらず反転するという誤作動を防止できることである。悪路等を走行中にパワーウインドを動作させたとき、車体の上下動により、ウインドガラスの駆動力が変化し、瞬間的に駆動力が増加して、それに伴いモーター回転数が低下して、IDが増加し、T1がオフし、電流制限モードに入る可能性がある。しかし、電流制限モードに入ってもその直前のガラス駆動力を維持しているので、上下動による荷重増加が無くなったときモーター回転数を元に回復させ、誤反転を回避することができる。但し、ガラス駆動力はこの間変化しないということが前提となる。そして、この前提は大部分のケースで成立する。以上の特徴により、悪路等による瞬間的駆動力の増加では誤反転を起さないという条件下で最小の反転荷重を実現することができる。
●モーター回転数の低下に伴うOn/Off動作期間と連続On期間の変化について
次に式7と式9を一般化した場合を考える。挟まれが発生してしばらく経過すると、モーター回転数は低下する。モーター逆起電力はモーター回転数に比例するから、そのときのモーター逆起電力を図10に示すEmotor-Bとすると、Emotor-B<Emotor-Aの関係となる。この低下した回転数すなわちEmotor-Bの大きさの逆起電力で、T1が連続Onの状態になるとIDの増加スピードは以前と違って速くなり、モーターのインダクタンスLにより、逆起電力Eonが発生する。Eon=L*dID/dtとなる。Eonは式7にはなかったもので、これを用いて式7を書きなおすと式11のようになる。
VB=VDSon+Ra*ID+Emotor-B+Eon …式11
式11に対応するOn/Off動作の式は連続OnとOn/Off動作でモーター回転数が変わらないと仮定すると式9のEmotor-AをEmotor-Bに置き換えることにより、式12となる。
VB=VDSonoff+Ra*ID+Emotor-B+Eonoff …式12
式11と式12から式13が得られる。
Eon−Eonoff=VDSonoff−VDSon=6.5V−0.3V=6.2V …式13
Eonの符号はプラス、Eonoffの符号はマイナスであるから、式13の意味することは連続On時の逆起電力EonとOn/Off動作時の逆起電力Eonoffは符号が反対でその絶対値の和は一定となり、それぞれのVDSの差VDSonoff−VDSonに等しいということである。VDSの差はモーター回転数には関係なく一定である。モーター回転数が低下するに連れて、Emotor-Bが小さくなるので、Eonoffの絶対値は小さくなり、Eonの絶対値は大きくなる。すなわち、モーター回転数が低下するとOn/Off動作時のIDの減少速度は低下し、連続On時のIDの増加速度は速くなることが判る。
更に、図10から判るように、On/Off動作に入った直後(G点)のEonoff(図10のEonoff-D)より、On/Off動作を抜け出すとき(H点)のEonoff(図10のEonoff-C)の方が小さくなる。これはOn/Off動作期間中に電流の減少率が段々小さくなることを表わしている。また図10でEon-Fより、Eon-Eの方が小さいことは連続On期間中に電流の増加率が段々小さくなることを表わしている。
●On/Off動作の周期について
T31がオンするとT1のゲート電荷はR32を通して放電され、T1のゲート〜ソース間電圧VGSが低下し始める。ID=Gm*VGSであるから、IDが減少し始める。IDの減少によりモーターのインダクタンスLによる逆起電力Ecが発生し、且つ電機子抵抗Raによる電圧降下もわずかではあるが縮小する。すなわち、モーターの電圧降下が降下分ΔVM(=Ec+Ra*ΔID)だけ縮小する。ここでΔIDはIDの減少分を表わす。また、逆起電力EcはEc=L*ΔID/Δtで求まる。尚、On/Off動作1周期の間にモーター回転数は変化しないと仮定している。
モーターの電圧降下の縮小分ΔVMによりT1のドレイン電圧VDS(ソースが接地されているので、ドレイン〜ソース間電圧に等しい)は上昇し始める。T1のゲート〜ドレイン間電圧がΔVMだけ拡大し、ゲート〜ドレイン間容量CGDがΔVMだけ充電される。この充電によりゲートに電荷が供給されるので、R32を通して電荷が放電されてもゲート電荷は減少しない。従って、ゲート〜ソース間電圧VGSは実質的にほとんど減少しない。これがMiller効果である。
R32を通しての放電が続くとVDSは増加し、基準電圧VHを超えるとT31がオフし、T1のゲートには電源電圧VBから抵抗R31とR32を経由して電流が流れ、ゲートは充電され始める。ゲートの充電によりゲート〜ソース間電圧VGSが増加し始めるとIDが増加し、ゲート電荷放電の場合と同じようにMiller効果により、ゲート電荷が吸収される。このためゲート〜ソース間電圧VGSは実質的にほとんど変化しない。すなわち、R31とR32を経由して充電される電荷はMiller効果によりキャンセルされる。ゲートの充電が進むとVDSが低下し、基準電圧VLを下回るとCMP3出力がLになり、T1はオフ状態に入る。
Miller効果によりT1のゲートに電荷を供給するまたはキャンセルする電荷量は基準電圧VLとVHで決まり、一定量である。この電荷量をゲート回路が充電し、その後放電するに要する時間がOn/off動作の1周期になる。ゲートの充電時間は電源電圧とゲート抵抗R31+R32で決まり、放電時間はゲート抵抗R32で決まる。すなわちOn/Off動作の周期は基準電圧VLとVH、電源電圧VB、およびゲート抵抗R31とR32により決まる。従って、On/Off動作の周期はゲート抵抗、より具体的には抵抗R32を変えることにより変更できる。
3.挟み込み判定回路6の説明
3−1.挟み込み判定回路6の回路構成
図8の挟み込み判定回路6は、入力端子が電流制限回路7のCMP3の出力端子に接続され、80μ秒間カウントしないとリセットする16パルスカウンタで構成できる。
3−2、挟み込み判定回路6の動作説明
パワーウインド挟み込み防止装置は、電流検出回路2で挟み込みを検知し、電流制限回路7で電流制限してモーター電流IDを一定範囲に保った後、挟み込み判定回路6で挟み込みか否かを判定する。その判定方法について説明する。挟み込みによりモーター回転数が低下してくるとT1のOn/Off動作期間が長くなり、T1の連続On期間が短くなる。この特性を利用して、挟み込みか否かを判定する。具体的な判定方法は下記の3通りがある。
(a)連続On期間とOn/Off動作期間の比を検出して一定値に達したら挟み込みと判定する。連続On期間、およびOn/Off期間はCMP2出力で判る。CMP2の出力がHレベルであれば連続Onで、LレベルであればOn/Off動作である。従ってCMP2の出力をアナログ信号として平均化すれば目的とする比を検出できる。
(b)連続On期間またはOn/Off動作期間を計時して、一定値に達したら挟み込みと判定する。CMP2の出力のH期間またはL期間を計時して判定する。
(c)On/Off動作期間内のOn/Off回数をカウントして、一定値に達したら挟み込みと判定する。図8に示すように、CMP3の出力レベルの立ち上がり回数をカウントし、図8の例では16パルスに達すると挟み込みと判定する。このとき連続Onの期間を含んでカウントしないように、パルスが一定期間途切れたら、カウンタをリセットするようにしている。図8の例では80μs間、CMP3出力が変化しないとカウンタをリセットする。挟み込みと判定するときの回転数は、挟み込み発生以前の回転数より約60%低下した状態に設定している。この設定値は悪路等で発生する衝撃的負荷変動による回転数の落ち込みでは発生しないレベルの値である。
●挟み込み判定値の設定方法について
挟み込み判定値の設定方法についてまとめると次のようになる。
(i)悪路等で生じる衝撃的負荷変動によるモーター回転数の落ち込みでは発生しないレベルに判定値を設定する。
(ii)On/Off動作の継続期間はT1のオフ遅れ時間とCMP1に用いるオペアンプの応答性に依存するので、これらの特性の標準値を前提にして上記判定値に相当するOn/Off回数を決め、カウンタ値を設定する。
(iii)T1のオフ遅れ時間とオペアンプ応答性がばらついて判定値を調整する必要があるときはT1のゲート直列抵抗を変更してOn/Off動作の周期を変化させることにより、これらのばらつきに対処する。T1のオフ遅れ時間とオペアンプの応答性がばらついても、これによりカウンタ値を固定することが可能になる。カウンタ値の固定はIC化する場合に好都合である。
●On/Off動作時におけるモーター回転数の変化について
モーター回転数の低下によりOn/Off動作期間が長くなり、連続On期間が短くなると説明してきたが、これには仮定があった。すなわち、On/Off動作1周期でモーター回転数がほとんど変化しないという仮定である。これはOn/Off動作時でもモーターは一定の力でガラスを押しつづけているという方法で実現させている。On/Off動作時のモーター端子間電圧はVB−VDSonoffあるので、モーター出力をPmとすると式14のようになる。
Pm=(VB−VDSonoff)*ID−Ra*ID2
=(VB−VDSonoff−Ra*ID)*ID
=(Emotor−Eonoff)*ID …式14
式14より次のことが判る。
(i)On/Off動作中、モーターは回転数に関わらずほぼ一定の出力を出している。
(ii)On/Off動作では連続On時よりVDSonoff*IDだけ出力が低下する。
すなわち、On/Off動作中もモーターは一定の出力を出し、ウインドガラスを駆動している。これはウインドガラスを押し続けていることを意味し、モーター回転数は常にウインドガラスの速度とリンクしている。ウインドガラスの動きはゆっくりしているので、On/Off1周期ではほとんど変化しない。従ってOn/Off1周期ではモーター回転数もほとんど変化しないことになり、仮定は成立する。
図12は、図8のパワーウインド挟み込み防止装置の変形例を示す回路図である。図12に示されるパワーウインド挟み込み防止装置は、図8のパワーウインド挟み込み防止装置と比較して、電流追随回路3と13とが異なっている。電流追随回路13は、電流追随回路3から、第2の充放電回路R22、C2を除去し、C1とC2の非接地側を結合する抵抗R28を除去し、この変更に伴い第1の充電回路の時定数を維持するため、抵抗R21の抵抗値を変更したものである。
この変更は、図8の第2の充放電回路の時定数をゼロにして、リファレンス電流Irefの追随速度の速い成分Iref−fの追随速度を無限大にしたケースとなる。従って、図12のパワーウインド挟み込み防止装置の動作は図8の回路と基本的には同じであるが、特に、この回路13の動作は次のようにも解釈できる。
第2の充放電回路が無くなって、第2のソースフォロア回路を流れる電流Iref-fはOn/Off動作時も含めて、常にモーター電流IDのn分の1になり、抵抗R24の両端に発生する電圧は、シャント抵抗R1の両端に発生する電圧に比べると式15のようになる。
Iref*R24/(ID*R1)=R24/(n*R1)
=1.5KΩ/(1618*0.034Ω)=27.3 …式15
すなわち、モーター電流IDに比例したシャント抵抗R1の電圧降下が27.3倍増幅された電圧が抵抗R24の両端に発生し、この電圧をR21とC1からなる積分回路で平均化した電圧が抵抗R23の両端に発生する。発生させたそれぞれの電圧をCMP2で比較するという動作になる。
図13は、図12のパワーウインド挟み込み防止装置の変形例を示す回路図である。図13に示されるパワーウインド挟み込み防止装置は、図12のパワーウインド挟み込み防止装置と比較して、電流追随回路13と14とが異なっている。これらの回路の相違点は次の2点である。
(a)トランジスタT21のドレイン端子がリファレンス抵抗R20ではなくて、電源VBに直接接続されている点。
(b)CMP1のプラス入力端子に接続される抵抗R26と、ドレイン端子が抵抗R26に接続されソース端子が接地されゲート端子がCMP2の出力端子に接続されたトランジスタT23とが追加されている点。
●動作説明
モーター電流IDはシャント抵抗R1により電圧に変換される。CMP1はそのプラス入力端子電圧とマイナス入力端子電圧が常に等しくなるように制御するから、リファレンス抵抗R20を流れる電流IrefはIDに比例し、Iref*n=IDとなる。従って、モーター電流IDがΔIDだけ変化したときのIrefの変化量をΔIrefとすると、ΔIref*n=ΔID となる。
挟まれが発生していないとき、トランジスタT23はオンしているので、R26とT23を経由してIrefの電流成分Iref-2が流れる。すなわち、Iref=Iref-f+Iref-2となる。Iref-2は変化できないので、Irefの変化ΔIrefはすべてIref-fに反映され、Iref-fが流れる抵抗R24には式16で表される電圧変化ΔVR24が発生する。
ΔVR24=ΔIref*R24=(ΔID/n)*R24 …式16
シャント抵抗R1に発生する電圧変化ΔVR1(=ΔID*R1)との比をとると、式17に示すように、シャント抵抗R1両端の電圧変化が27.3倍に増幅されて、抵抗R24の両端に発生することがわかる。
ΔVR24/ΔVR1=(R24/R1)/n=(1.5KΩ/34mΩ)/1618=27.3 …式17
一方、CMP1の出力電圧とR24の非接地側電位の間にはダイオードD21の順方向電圧降下および、T22のゲート〜ソース間電圧を足し合わせた電圧差があるが、この電圧差は一定値と見なせるから、CMP1の出力変化はR24の非接地側電位の変化と等しい。従って、コンデンサC1の非接地側電位の変化分はR24の非接地側電位の変化分ΔVR24を時定数R21*C1で平均化したものとなる。コンデンサC1の非接地側電位は直流電圧の差を除けばトランジスタT21のソース端子、すなわちCMP2のプラス入力端子に反映される。一方、R24の非接地側電位はCMP2のマイナス入力端子に入力される。但し、プラス入力端子とマイナス入力端子間にはダイオードD21の順方向電圧降下分0.7Vの直流電位差が加えられている。
以上を整理するとIDの変化分ΔIDはシャント抵抗R1により、電圧変換されΔVR1となる。ΔVR1は27.3倍増幅されてΔVR24となり、CMP2マイナス入力端子に加えられる。そのときの電流→電圧変換率(ΔVR24/ΔID)は式18で表される。
ΔVR24/ΔID=27.3*R1*ΔID/ΔID
=27.3*34mΩ=928mV/A …式18
一方、CMP2のプラス入力端子にはΔVR24の平均値が加えられ、プラス入力端子とマイナス入力端子間には0.7Vの直流電圧差が加えられている。
モーター電流IDには脈動電流成分が含まれている。脈動電流の全振幅を0.5AとするとΔVR24には928mV*0.5A=464mVの電圧変動分が含まれる。すなわち、片振幅±232mVの変動があるので、0.7V−0.232V=0.468Vの電圧増加が発生するとCMP2出力はHレベルからLレベルに反転する。すなわち0.468Vが挟み込み検出値となる。0.468VをIDに変換すると0.5A(=0.468V/R24*n)となる。IDが0.5A増加するとCMP2出力は反転する。
CMP2出力がLレベルになるとトランジスタT23がオフし、R26およびT23を流れていた電流Iref-2が消滅する。このときIDは変化しないので、リファレンス電流Irefは変化しない。そのため、Iref-fが消滅したIref-2分だけ増加する。これにより、R24の電圧降下が増加し、CMP2のマイナス入力端子電圧が上昇する。その上昇量はIref-2*R24となる。CMP2出力ががLレベルになるとOn/Off動作が始まり、IDは減少する。IDの減少によるIrefの減少量がIref-2を超えるとCMP2は再びHレベルに反転し、IDは連続オンの状態になり増加を始める。CMP2出力がHレベルになるとT23がオンしIref-2が流れ、その分だけIref-fが減少し、CMP2マイナス端子電圧がIref-2*R24だけ低下する。IDの増加によるIrefの増加量がIref-2を超えるとCMP2はLレベルに反転する。CMP2出力がLレベルになったときFET T1にオフ遅れがあるので、この遅れの間にIDは増加する。従って、CMP2出力がL期間中にIDはIref-2だけではなく、遅れによるID増加分も含めて減少しなければならない。
On/Off動作と連続Onを繰り返す電流制限期間中のモーター電流IDの最大値は挟み込み前のID平均値に挟み込み検出値0.5A(0.468V)加えたものとなり、最小電流値はIref-2の大きさで決まる。従って、電流制限動作時のID平均値はIref-2の値を調整することにより、任意に設定できる。
以上が図13の回路の動作であるが、図8の回路との違いを下記にまとめる。
(i)図8のIref-fはIDの変化そのものではない。ΔIref-f*n≠ΔIDである。抵抗R22の両端に発生する電位差はIDとIref間にずれのあることを表わしている。従ってΔIref-fによって抵抗R24に発生する電圧降下ΔVR24はΔIDを正確に現していない。ΔIDより大きいときもあり、小さいときもあることになる。すなわち、ΔVR24の振幅はΔIDに対応した分より大きくなる。このため、挟み込み判定値は実質的に小さくなり、On/Off動作を開始し易くなる。これは悪路等による衝撃的負荷変動により誤作動する機会が増えることを意味する。
一方、図13ではΔVR24は正確にΔIDを表わしており、ΔIDからのずれによる影響は発生しない。
(ii)図8の回路ではOn/Off動作時、CMP1出力の変動は大きくなりHレベルおよびLレベルで飽和する。CMP2マイナス入力端子電圧はΔIDからのずれが大きくなり、IDの変化と異なってくる。CMP2プラス入力端子電圧は変化せず、マイナス入力端子電圧はプラス入力端子電圧と比較して制御してもΔIDはCMP2マイナス入力端子電圧の変化と一致しないため、モーター回転数が低下してくるとIDは増加する。
これに対して、図13ではモーター電流の変化がCMP2マイナス端子電圧に反映されているので、電流制御時のピーク値は一定に保たれる。
(iii)図8ではOn/Off動作の継続期間はT1のオフ遅れ、CMP1の応答遅れ、およびモーター回転数で決まる。このうちCMP1の応答遅れ時間の影響が大きい。図13のようにIref-2を用いる制御も可能だが、Iref-2=0Aでも十分なOn/Off動作期間があり、Iref-2を用いるとOn/Off動作期間が長くなり過ぎて、制御上では好ましくない。すなわち、On/Off動作時間を外部から制御することは出来ない。(但し、Iref-fの追随速度を無限大にした図12の方式ではIref-2を用いる制御が可能である。)一方、図13では、T1の遅れとモーターの回転数がOn/Off動作期間を決める要因となるのは図8と同じであるが、CMP1の応答遅れは影響しない。更にIref-2を用いることにより、On/Off動作期間を実質的に任意の値に制御できる。Iref-2を大きくするとOn/Off動作期間が長くなり、従ってIDの最小値を下げられる。電流制限時のIDの最大値は一定に維持され、最小値は制御できるので、電流制限時のIDの平均電流値を希望する値に設定可能である。
(iv)図8および図12ではC1に連動してIrefの一部であるIref-sが流れている。挟み込みが発生して、IDが増加したとき、C1の電位はほとんど増加しないが、それでもゼロではない。C1電位の増加量に対応してIref-sが増加し、その分だけ、Iref-fの増加量が減る。すなわち、検出感度がその分だけ鈍くなる。一方、図13では挟み込みが発生したときのC1電位の増加は同じであるが、C1の増加はIrefには関係しないから、C1の増加によりIref-fの増加が抑制されることはない。従って、C1電位の増加による検出感度の低下は無くなり、より正確な制御を実現できる。
以上の事実から判るように、図8の方式より、図13の回路のほうが挟み込み防止の制御としては優れている。
図14は、図8のパワーウインド挟み込み防止装置の変形例を示す回路図である。図14に示されるパワーウインド挟み込み防止装置は、図8のパワーウインド挟み込み防止装置と比較して、電流検出回路2が異なっている。電流制限回路7、正転・反転回路5と挟み込み判定回路6は簡略化、あるいは省略されているが同一である。電流検出回路2の相違点は次の2点である。
(a)電流追随回路3と16で異なっている点。電流追随回路16は、電流追随回路3に対して、CMP1のプラス入力端子に接続される抵抗R29と、ドレイン端子が抵抗R29に接続されソース端子が接地されゲート端子が起動タイマー(スタート処理制御回路)15の出力端子に接続されたトランジスタT24と、アノード端子がコンデンサC1に接続されカソード端子がコンデンサC2に接続されたダイオードD22とが追加されている。
(b)入力端子がウインドアップ(Up)の入力端子に接続された起動タイマー15と、起動タイマー15の出力端子と電流追随回路16に接続されたスタート回路4とが追加されている点。
スタート回路4は、
ゲート端子が起動タイマー15に接続しソース端子が接地されたnMOSFET(T42)と、
T42のドレイン端子に接続された抵抗R43と、
ゲート端子が抵抗R43に接続しドレイン端子が電源VBのプラス端子に接続されたpMOSFET(T41)と、
T41のゲート端子とドレイン端子間に接続される抵抗R41と、
T41のソース端子に接続される抵抗R42と、
アノード端子が抵抗R42に接続されカソード端子がT21のゲート端子に接続されるダイオードD41とを有している。
●動作説明
ウインドアップ(Up)またはウインドダウン(Down)信号でモーターを起動したとき、モーター起動電流IDの立ち上がり(突入電流)でOn/Off動作を行なわないように突入電流マスク期間を設けている。安全装置としての観点から、モーター起動直後から挟み込み防止機能を働かせるのが好ましい。パルスセンサーを用いる方式ではパルスの分解能が悪いこととパルスが安定するまでの時間が必要のため、モーター起動直後から挟み込み防止機能を働かせることは難しい。一方、本回路に用いられている電流検出方式では応答性が速いので、立ち上がり直後からの挟み込み防止機能の稼働が可能となり、安全装置としてパルスセンサー方式より優れた機能を実現できる。図14に起動直後の挟み込み防止(Jamming protection)を実現するための回路を示す。
●起動マスク時間中にモーターが回転する場合
アップまたはダウン信号が入ると起動タイマーが動作し、電流検出回路の中のトランジスタT24がオンし、リファレンス電流Iref-1が起動タイマー動作期間だけ流れる。Iref-1の大きさは電源電圧と抵抗R29により決まる。また、一方ではスタート回路のトランジスタT42がオンし、T41がオンする。これによりコンデンサC1およびC2はR42とR22で決まる電圧近くまで充電される。このときの全リファレンス電流をn倍した値がモーター突入電流より大きくなるようにIref-1を設定する。すなわち、式19の関係式が成立するようにIref-1を設定する。
ID突入電流最大値<n*(Iref-s+Iref-f+Iref-1) …式19
これにより、起動タイマー期間中はCMP1出力がLレベルになるので、電源電圧VB→トランジスタT41→抵抗R42→ダイオードD41→ダイオードD22→抵抗R22→CMP1出力の経路で電流が流れ、コンデンサC1およびC2の電位は式20と式21のようになる。
C1電位=(VB−2*0.7V−CMP1出力)*R22/(R42+R22)+O.7V+CMP1出力 …式20
C2電位=(VB−2*0.7V−CMP1出力)*R22/(R42+R22)+CMP1出力 …式21
ダイオードの順方向の電圧降下を0.7Vとしている。この回路例では電源電圧VB=12.5V、CMP出力Lレベル=2V、R42=3KΩ、R22=5.1KΩとしているので、C1の電位=8.3V、C2の電位=7.7Vとなる。起動タイマーが終了するとT43、T41はオフする。このときモーター電流が低下してCMP1出力がLレベルのままであれば、C1およびC2の電荷はダイオードD22→抵抗R22→CMP1出力の経路で放電し、直ちに追随動作に入る。従って、この状態で挟み込みが発生すると直ちに挟み込みを検出してモーターを止めることが出来る。
●起動(ウインドアップ信号を入れた)後、モーターが回転しない場合
この場合は起動タイマーが終了した時点で、モーターロック電流が流れているので、CMP1出力がHレベルになり、C2電位は抵抗R22=5.1Kを通してCMP1のHレベル出力まで直ちに充電される。一方C1は長い時定数で充電されるためほとんど電位は上昇しない。そのため、CMP2のプラス入力端子電圧よりマイナス入力端子電圧が高くなり、CMP2出力はLレベルになる。T1がOn/Off動作を行なっても連続Onにはならないので、ただちに挟み込み判定がなされて反転動作が行なわれる。
起動後モーターが回転しても、起動タイマーが終了した時点でCMP1出力がHレベルになっている場合は、即On/Off動作を始める。On/Off動作と連続Onを継続している間にモーター電流IDが低下してくれば、正常動作に入って、モーターは回転を続けるし、挟み込みでモーター電流が上昇すれば、挟み込み判定をして、モーターを反転動作させる。挟み込みが発生していないにもかかわらず、反転することがないような抵抗値にR41、R22を設定することが必要である。
以下、本発明に係る好適な実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。図1は本発明に係る一実施形態であるパワーウインド挟み込み防止装置を模式的に示す回路図、図2はパワーウインドの動作中における挟まれ発生から図1のパワーウインド挟み込み防止装置により挟まれが検出されるまでに至るモーター電流ID、第2基準電圧Vins、第3基準電圧Vc、およびコンパレータCMP2の出力(CPOUT_B)それぞれの推移を示す特性図(タイミングチャート)、図3は図1のパワーウインド挟み込み防止装置においてスタート回路4aを制御する起動タイマー15aによるスタート処理を示す動作フローチャート、図4(A)は図1のパワーウインド挟み込み防止装置においてスタート回路4aの上限クランプ回路4cを動作させない場合且つレギュレータの遊びが無い場合におけるパワーウインドモーター5の起動時のモーター電流ID、第2基準電圧Vins、第3基準電圧Vc、および起動タイマー15aの出力(OCREFおよびFS)それぞれの推移を示す特性図(タイミングチャート)、図4(B)は図1のパワーウインド挟み込み防止装置においてスタート回路4aの上限クランプ回路4cを動作させない場合且つレギュレータの遊びが有る場合におけるパワーウインドモーター5の起動時のモーター電流ID、第2基準電圧Vins、第3基準電圧Vc、および起動タイマー15aの出力(OCREFおよびFS)それぞれの推移を示す特性図(タイミングチャート)、そして図5は図1のパワーウインド挟み込み防止装置においてスタート回路4aの上限クランプ回路4cを動作させる場合且つレギュレータの遊びが有る場合におけるパワーウインドモーター5の起動時のモーター電流ID、第2基準電圧Vins、第3基準電圧Vc、および起動タイマー15aの出力(OCREF、FS、およびCTIMER)それぞれの推移を示す特性図(タイミングチャート)である。
図1に示される本発明のパワーウインド挟み込み防止装置は、図8のパワーウインド挟み込み防止装置を既に説明したように図7(c)および図14の如く変形し且つ電流検出回路2のダイオードD21に代えて抵抗を用いて変形した回路の一例を備える。具体的に、本発明のパワーウインド挟み込み防止装置では、電流検出回路2のシャント抵抗R1とリファレンス抵抗R20がパワーウインドモーター5のロウサイド(即ち、接地側)に配置され、これに応じて電流検出回路2の電流追随回路16の回路構成が変更されており、この回路構成に更にスタート回路4aが追加されている。
図1に示されるように、本発明のパワーウインド挟み込み防止装置は、正転・反転回路を備えたパワーウインドモーター5に流れるモーター電流IDの増加を検出する電流検出回路2aと、モーター電流IDの増加量が所定値を超えた際に電流検出回路2aから出力される電流制限制御信号CPOUT_Bに従ってモーター電流IDを所定の範囲で減少および増加させる電流制限回路7と、当該電流制限回路7とパワーウインドモーター5とに接続され、モーター電流IDの増加から挟まれを判定してパワーウインドモーター5を反転させる挟み込み判定回路6と、を備えている。尚、パワーウインドモーター5、挟み込み判定回路6ならびに電流制限回路7の構成は図8のパワーウインド挟み込み防止装置の回路構成と実質的に同じである。
電流検出回路2aは、パワーウインドモーター5および電流制限回路7に直列に接続され且つ一端が電源供給装置VBのマイナス端子(即ち、接地端子;グランド)に接続されてモーター電流IDが電源供給装置VBから流されるシャント抵抗R1と、該シャント抵抗R1のn倍の抵抗値を有し、一端が電源供給装置VBのマイナス端子に接続されたリファレンス抵抗R20と、該リファレンス抵抗R20およびシャント抵抗R1それぞれの他端に接続され、該シャント抵抗R1に掛かる電圧に基づいて、リファレンス抵抗R20に流すリファレンス電流Irefを増減させる電流追随回路16aと、電流追随回路16aにプラス入力端子とマイナス入力端子が接続し且つ出力端子が電流制限回路7のNOR1(図8参照)に接続するコンパレータ(第2のコンパレータ)CMP2と、5V電源とCMP2の出力端子間に接続されて電流制限制御信号CPOUT_Bをプルアップする抵抗R25と、電流追随回路16aに接続され、パワーウインドモーター5の起動時のモーター電流IDの立ち上がり電流(即ち、突入電流)でOn/Off動作が行なわれないように突入電流マスク期間を設けるスタート回路4aと、当該スタート回路4aに接続され且つ、ウインドガラスの開閉を指示するウインドダウン信号(Down)とウインドアップ信号(Up)とのH/Lレベルの論理和演算を行なうOR回路OR1の出力端子に接続された起動タイマー(スタート処理制御回路)15aと、を有している。尚、起動タイマー15aは電流検出回路2aの一構成要素として設けなくてもよい。
電流追随回路16aは、モーター電流IDのn分の1となるリファレンス電流の増減を制御するリファレンス電流制御回路を有する。当該リファレンス電流制御回路は、電線1に一端が接続された抵抗R24と、当該抵抗R24の他端に一端が接続され且つその抵抗R24との接続線にCMP2のプラス入力端子が接続された抵抗R27と、当該抵抗R27の他端にドレイン端子が接続され且つソース端子がリファレンス抵抗R20の他端に接続されるように抵抗R27とリファレンス抵抗R20との間に設けられたnMOSFETT22と、当該T22のソース端子にプラス入力端子が接続され且つ出力端子がT22のゲート端子に接続されたオペアンプAMP1と、当該オペアンプAMP1のマイナス入力端子に一端が接続され且つ他端がシャント抵抗R1の他端に接続された抵抗R30と、電線1に一端が接続された抵抗R23と、当該抵抗R23の他端にエミッタ端子が接続され且つコレクタ端子がT22のソース端子に接続されたPNP型のバイポーラトランジスタT23と、当該T23のエミッタ端子にマイナス入力端子が接続され、出力端子がT23のベース端子に接続され、そしてプラス入力端子がCMP2のマイナス入力端子に接続されたオペアンプAMP2と、を含む。
オペアンプAMP1は、シャント抵抗R1に流れるモーター電流IDの増減に応じてT22からリファレンス抵抗R20に電流Iref-fが流されるように、出力端子からT22のゲート端子に適宜な電圧を印可して制御する。この制御では、モーター電流IDが増加すると瞬時にAMP1の入力端子電圧が高くなるのでAMP1からT22のゲート端子に印加される電圧が高くなって電流Iref-fが多く流され、そして逆にモーター電流IDが減少するとAMP1の入力端子電圧が瞬時に低くなるのでAMP1からT22のゲート端子に印加される電圧が低くなって電流Iref-fが少なくなる。尚、AMP1のマイナス入力端子とシャント抵抗R1との間には抵抗R30が設けられているが、この抵抗R30はAMP1の入力インピーダンス調整用抵抗であり、設けなくてもよい。抵抗R30を設けない場合、シャント抵抗R1とリファレンス抵抗R20それぞれに掛かる電圧が常に等しくなるようにリファレンス電流Irefがリファレンス抵抗R20に流されることとなる。
電流追随回路16aは、更に、オペアンプAMP2のプラス入力端子にマイナス入力端子が接続され且つプラス入力端子がT22のドレイン端子(即ち、抵抗R27の他端)に接続された第1のコンパレータCMP1、および充放電回路を有する。当該充放電回路は、一端が電線1に接続され且つ他端がCMP1のマイナス入力端子に接続されたコンデンサC1と、当該コンデンサC1と並列接続され、入力側端子が電線1に接続された第1の電流源AS1と、当該電流源AS1の出力側端子に接続され且つCMP1の出力端子に接続されて当該CMP1の出力に従いOn/Off動作する半導体スイッチSSW1と、当該半導体スイッチSSW1に入力側端子が接続され且つ出力側端子が電源供給装置VBのマイナス端子に接続された第2の電流源AS2と、を含む。
電流追随回路16aでは、T22のドレイン端子(即ち、抵抗R27の他端)の電位である第1基準電圧Vc2がコンパレータCMP1のプラス入力端子に印加される。また、CMP2のプラス入力端子に印加される第2基準電圧Vinsは抵抗R27の分だけVc2よりも高い電圧値を示す。また、Vc2の平均値となるように制御されて第3基準電圧VcがコンデンサC1の充放電により生成され、CMP1のマイナス入力端子ならびにCMP2のマイナス入力端子に印加される。Vc2、VinsならびにVcは、リファレンス電流Irefがリファレンス電流制御回路を通ることによって生成され、VcとVc2との差はVcとVinsとの差に比例するようになっている。
オペアンプAMP2は、電流Iref-sの電流値が、抵抗R23の両端に掛かる電圧(即ち、電線1の電位とVcとの差分電圧)をR23の抵抗値で割ったものであるので、その出力端子からT23のベース端子に適宜な電圧を印可して抵抗R23に電流Iref-sが流れるようにT23を制御する。この制御では、モーター電流IDが増加するとAMP2の入力端子電圧(Vc)が主にコンデンサC1の充放電によって遅れて低くなるのでAMP2からT23のベース端子に印加される電圧がゆっくりと低くなって電流Iref-sが多く流され、そして逆にモーター電流IDが減少するとAMP2の入力端子電圧(Vc)が主にコンデンサC1の充放電によって遅れて高くなるのでAMP2からT23のベース端子に印加される電圧がゆっくりと高くなって電流Iref-sが少なくなる。
尚、リファレンス抵抗R20に流れるリファレンス電流Irefは、抵抗R24および抵抗R27に流れる電流Iref-fと抵抗R23に流れる電流Iref-sの合計であり、図14の回路構成の場合と同様にモーター電流IDの数千〜数万分の1に相当する電流であって、モーター電流IDと同様に脈動している。Vinsは抵抗R24と抵抗R27との間の電位を示すものであり、このVinsから抵抗R27により或る値だけ電圧降下した電位がVc2であるので、このVc2もVinsと同様に脈動する。但し、VinsとVc2の脈動波形が、モーター電流IDの脈動波形に対して反転されることは言うまでもない。
CMP1は、Vc2の脈動電圧がVc以上になるとHレベルの信号を出力し、そしてVc2がVc以下になるとLレベルの信号を出力する。このようにCMP1はHレベルとLレベルといった2つの電圧レベルを交互に推移させる信号を出力する。CMP1からHレベルの出力信号を半導体スイッチSSW1が受けると、回路がオープンされて第1の電流源AS1からの電流IによりコンデンサC1が充電される。一方、CMP1からLレベルの出力信号を半導体スイッチSSW1が受けると、回路がショートされて第2の電流源AS2からグランドへ前記電流Iの2倍の電流2Iが流れることにより、第1の電流源AS1から第2の電流源AS2へ電流Iが流れ、そしてコンデンサC1からは電流Iが第2の電流源AS2へ流れて当該コンデンサC1が放電させられる。このようにして充放電回路において安定した基準電圧VcがコンデンサC1の充放電により生成されVinsに追随するように制御される。
図1のパワーウインド挟み込み防止装置では、図2に示されるように、ウインドガラスのアップ動作中に挟まれが発生してモーター電流IDが急増すると、モーター電流IDの瞬時値を示すCMP2のプラス入力端子電圧(Vins)が下がり、コンデンサC1の充放電のためVinsの低下に遅れながらも追随してCMP2のマイナス入力端子電圧(Vc)もゆっくりと下がっていく。そしてVinsとVcとがクロスし(即ち、Vinsの電位がVcの電位以下となり)、このクロスしている間CMP2の出力(CPOUT_B)がHレベルからLレベルへと推移する。そしてCPOUT_BがLレベルとなったとき、電流制限回路7において半導体スイッチング素子T1(図8参照)がOn/Off制御され、このOn/Off動作期間内のOn/Off回数を挟み込み判定回路6が電流制限回路7のCMP3(図8参照)の出力レベルの立ち上がり回数を基にカウントして、一定値(例えば、16パルス)に達したら挟まれと判定する。
スタート回路4aは第3基準電圧用マスキング回路を備え、当該マスキング回路は、ドレイン端子が電線1に接続されたnMOSFETT620と、当該T620のソース端子にドレイン端子が接続され且つゲート端子がR24とR27との接続線に接続されたpMOSFETT62と、当該T62のソース端子にアノード端子が接続されたダイオードD621と、当該D621のカソード端子にアノード端子が接続されたダイオードD622と、当該D622のカソード端子に一端が接続された抵抗R39と、当該抵抗R39の他端に一端が接続され且つ該R39との接続線にコンデンサC1の他端等が接続された抵抗R42と、当該抵抗R42の他端と電源供給装置VBのマイナス端子との間に接続され且つ起動タイマー15aの第1の出力端子に接続されて当該起動タイマー15aから出力される第1制御信号OCREFに従いOn/Off動作する第1のマスク動作制御用半導体スイッチSSW2と、一端が電線1に接続され且つ他端がT620のゲート端子に接続された抵抗R281と、当該R281の他端と電源供給装置VBのマイナス端子との間に接続され且つ起動タイマー15aの第2の出力端子に接続されて当該起動タイマー15aから出力される第2制御信号FSに従いOn/Off動作する第2のマスク動作制御用半導体スイッチSSW3と、を含む。
スタート回路4aは更に、R39とR42との接続線に接続され且つ起動タイマー15aの第3の出力端子に接続された第3基準電圧用上限クランプ回路4cを含む。当該上限クランプ回路4cは、一端が電線1に接続された抵抗R121と、当該抵抗R121の他端にカソード端子が接続され且つアノード端子がR39とR42との接続線に接続されたダイオードD12と、抵抗R121の他端(ダイオードD12のカソード端子)に一端が接続された抵抗R122と、当該R122の他端と電源供給装置VBのマイナス端子との間に接続され且つ起動タイマー15aの第3の出力端子に接続されて当該起動タイマー15aから出力される第3制御信号CTIMERに従いOn/Off動作するクランプ動作制御用半導体スイッチSSW4と、を含む。
起動タイマー15aは図3に示されるように動作する。即ち、起動タイマー15aは、HレベルおよびLレベルといった2つの電圧レベルで推移するOR1の出力信号を監視し、当該出力信号の例えば立ち上がりエッジを検出した際にウインドアップ信号またはウインドダウン信号によってパワーウインドモーター5の起動が指示されたと判定する(即ち、ステップS1がYes)。尚、このようなステップS1の代わりに、電線1の電位変動を検出してパワーウインドモーター5の起動を判定するようにしてもよい。そしてステップS1後、次の4つの制御状態(1)〜(4)が番号順に起動タイマー15aにより作り出される。
(1)ステップS1がYesになると同時に起動タイマー15aは時間カウントを開始すると共に、HレベルおよびLレベルといった2つの電圧レベルでそれぞれ推移する第1制御信号OCREF、第2制御信号FS、および第3制御信号CTIMERを全てHレベルにして出力する(即ち、ステップS2)。そしてOCREF、FS、およびCTIMERの電圧レベルの状態(即ち、H,H,H)は、カウント開始時点を始点とした一定時間(予め定められた第1期間)Tm維持される(即ち、ステップS3)。このとき、各半導体スイッチSSW2,SSW3,SSW4はOn状態(即ち、回路をショートさせた状態)となる。
(2)当該一定時間Tm経過したとき、起動タイマー15aはOCREFのみをHレベルからLレベルに変化させる(即ち、ステップS4)。即ち、OCREFは、カウント開始時点から一定時間TmだけHレベルで起動タイマー15aから出力され、そして当該一定時間Tm経過したときからLレベルで起動タイマー15aから出力される制御信号である。そしてOCREF、FS、およびCTIMERの電圧レベルの状態(即ち、L,H,H)は、カウント開始時点を始点とした一定時間(予め定められた第2期間)Tsの終了時まで維持される(即ち、ステップS5)。よって、この(2)の制御状態は、一定時間Tsから一定時間Tmを差し引いた期間続く。このとき、半導体スイッチSSW2だけはOff状態(即ち、回路をオープンにした状態)となり、そして半導体スイッチSSW3,SSW4はOn状態(即ち、回路をショートさせた状態)を継続する。
(3)当該一定時間Ts経過したとき、起動タイマー15aはFSをHレベルからLレベルに変化させる(即ち、ステップS6)。即ち、FSは、カウント開始時点から一定時間TsだけHレベルで起動タイマー15aから出力され、そして当該一定時間Ts経過したときからLレベルで起動タイマー15aから出力される制御信号である。そしてOCREF、FS、およびCTIMERの電圧レベルの状態(即ち、L,L,H)は、カウント開始時点を始点とした一定時間(予め定められた第3期間)tmsの終了時まで維持される(即ち、ステップS7)。よって、この(3)の制御状態は、一定時間tmsから一定時間Tsを差し引いた期間続く。このとき、半導体スイッチSSW2はOff状態(即ち、回路をオープンにした状態)を継続し、半導体スイッチSSW3はOff状態(即ち、回路をオープンにした状態)となり、そして半導体スイッチSSW4だけがOn状態(即ち、回路をショートさせた状態)を継続する。
(4)そして当該一定時間tms経過したとき、起動タイマー15aはCTIMERをHレベルからLレベルに変化させる(即ち、ステップS8)。即ち、CTIMERは、カウント開始時点から一定時間tmsだけHレベルで起動タイマー15aから出力され、そして当該一定時間tms経過したときからLレベルで起動タイマー15aから出力される制御信号である。そしてOCREF、FS、およびCTIMERの電圧レベルの状態(即ち、L,L,L)は、起動タイマー15aが次にパワーウインドモーター5の起動が指示されたと判定するまで維持される。この(4)の制御状態になると、半導体スイッチSSW2,SSW3,SSW4全てがOff状態(即ち、回路をオープンにした状態)となり、スタート処理が終了する。
上述のようなOCREF、FS、およびCTIMERといった制御信号を起動タイマー15aから受けてスタート回路4aは第3基準電圧Vcの電位を変化させる。具体的に、上記(1)の制御状態のとき、マスキング回路において、T620のゲート端子の電位はグランドレベル(即ち、電源供給装置VBのマイナス端子の電位)となるのでT620はOff状態となり、VcはR42によりグランドにプルダウンされて電圧降下し、R42の抵抗値により決定される所定の下限電圧(勿論0Vではない。)となる。このとき上限クランプ回路4cのSSW4はOn状態であり、D12のカソード端子には、電線1に掛けられている電圧をR121およびR122により分圧した値の電圧(例えばR121とR122が同じ抵抗値である場合は、それらの分圧値=電線1に掛けられている電圧の2分の1)が掛かるが、D12のアノード端子に掛かる電圧は下限電圧にさせられているVcであるため、D12には電流が流れず、よって上限クランプ回路4cからマスキング回路に対する電気的な働きかけ(作用)はない。それ故、R121およびR122それぞれの抵抗値は、上記(1)の制御状態のときに、それらによる分圧値が、D12のアノード端子電圧の値よりも(D12の順方向電圧降下が例えば0.7Vであれば)0.7V以下にならないことは勿論のこと十分高くなるように、設定されねばならない。一方、R42の抵抗値は、上記(1)の制御状態のときにVcの値がD12のカソード端子電圧の値よりも(D12の順方向電圧降下が例えば0.7Vであれば)0.7V高くならないことは勿論のことVinsよりも十分低く且つ限りなく0Vに近くなるように、設定されねばならない。尚、第3基準電圧マスク期間である一定時間Tmは、パワーウインドモーター(サンプル)を用いて起動時の突入電流が生じる期間を予め測定して当該期間よりも僅かに長くなるような値で起動タイマー15aの記憶領域にプリセットされていなければならない。
そして上記(2)の制御状態のとき、T620のゲート端子の電位は上記(1)の制御状態のときと変わらずグランドレベルであるのでT620はOff状態であるが、SSW2がOff状態となるので、VcがコンデンサC1の充電により急速に上昇する。このとき上限クランプ回路4cのSSW4は上記(1)の制御状態のときと同様にOn状態であるが、Vcの値がD12のカソード端子電圧の値よりも(D12の順方向電圧降下が例えば0.7Vであれば)0.7V高くならないように設定されているので、D12には電流が流れず、よって上記(2)の制御状態においても上限クランプ回路4cからマスキング回路に対する電気的な働きかけ(作用)はない。それ故、R121およびR122それぞれの抵抗値は、上記(2)の制御状態のときに、それらによる分圧値が、D12のアノード端子電圧の値よりも(D12の順方向電圧降下が例えば0.7Vであれば)0.7V以下にならないように設定されねばならなく、また、一定時間Tsから一定時間Tmを差し引いた第3基準電圧復帰許容期間は、コンデンサC1の容量(より詳細には、コンデンサC1の充電特性)を考慮して、Vcの値がD12のカソード端子電圧の値よりも(D12の順方向電圧降下が例えば0.7Vであれば)0.7V高くならない期間に設定されねばならない。
そして上記(3)の制御状態のとき、SSW3がOff状態となるのでT620のゲート端子電圧がR281により電線1にプルアップされてT620がOn状態となり、またT62のゲート端子にもVinsが印加されているのでT62がOn状態となって電流がD621、D622およびR39を通りVcが更に上昇しようとするが、VcがD12のカソード端子電圧よりも低くとも(D12の順方向電圧降下が例えば0.7Vであれば)0.7V高くなるように設定されているので、D12に電流が流れ、Vcが上限クランプ電圧となるようにクランプされて一定となる。このVcの上限クランプ電圧はR121およびR122それぞれの抵抗値を選定することにより設定できる。次に、上記(4)の制御状態になると、SSW4がOff状態となりD12のカソード端子の電位が電線1の電位と等しくなるので、Vcの上限クランプが解除されて、Vcが上昇していく。
ここで、上限クランプ回路4cの重要性を説明するため、上限クランプ回路4cを動作させない状態(換言すれば、マスキング回路に対して上限クランプ回路4cを全く作用させない状態(即ち、上限クランプ回路4cを除去した状態に同じ。))でスタート処理が実行された場合における図1のパワーウインド挟み込み防止装置の動作を説明する。図4(A)に示されるように、パワーウインドモーター5の起動時には突入電流(モーター電流ID)が生じるが、上記(1)の制御状態にあるのでVcがマスクされて(即ち、下限電圧レベルに維持されて)Vinsとクロスし得ないようにされているため、パワーウインドモーター5の誤反転が回避される。尚、上記(1)の制御状態となったときVcが瞬時に下限電圧とならないのはコンデンサC1の充放電による遅延のためである。一定時間Tm終了後の上記(2)の制御状態では、Vcが急速に上昇してVinsに近づき始め、そして一定時間Ts終了後VcはVinsに追随する。ところが、このような制御では例えばレギュレータの遊びが原因でパワーウインドモーター5の誤反転が生じる可能性がある。当該レギュレータとはパワーウインドモーター5の回転により生じた動力をウインドガラスに伝達するためのギヤ等から構成された動力伝達機構のことであり、このレギュレータの遊びによりパワーウインドモーター5は回転初期一時的に無負荷状態となり空回りしてウインドガラスに動力を伝えることができない。このようなレギュレータの遊びを原因にパワーウインドモーター5の誤反転が生じた例を図4(B)を参照して説明する。
図4(B)に示されるように、パワーウインドモーター5の起動時にはレギュレータの遊びによるパワーウインドモーター5の一時的な空転により突入電流(モーター電流ID)が生じるが、上記(1)の制御状態にあるのでVcはマスクされて(即ち、下限電圧レベルに維持されて)Vinsとクロスし得ないようにされているため、パワーウインドモーター5の誤反転が回避される。そして一定時間Tm終了後の上記(2)の制御状態では、Vcが急速に上昇してVinsに近づき始める。しかしながら、一定時間Ts終了後、レギュレータの遊びが無くなり、ウインドガラスに動力を伝えるために必要となる負荷がパワーウインドモーター5に掛かるので、再びモーター電流IDが増加する。そして、Vcが急速に上昇してVinsに追随するように制御される一方、モーター電流IDの増加に伴いVinsが急速に低下するので、VinsとVcとがクロスしてしまっている。VinsとVcとがクロスしたことにより、挟まれが生じていないにも拘わらず、CMP2の出力(CPOUT_B)がHレベルからLレベルへと推移し、挟み込み判定回路6により異物の挟み込みと判定されて電流制限回路7によりモーター電流IDが0Aにされている。そして、この後パワーウインドモーター5の反転が行なわれるに至る。
それ故、本発明のパワーウインド挟み込み防止装置のスタート回路4aには上限クランプ回路4cが設けられている。図5には、この上限クランプ回路4cによる作用・効果が示されている。図5に示されるように、上記(1)の制御状態では、図4(B)と同様にレギュレータの遊びによるパワーウインドモーター5の一時的な空転により突入電流(モーター電流ID)が生じるが、Vcはマスクされて(即ち、下限電圧レベルに維持されて)Vinsとクロスし得ないようにされているため、パワーウインドモーター5の誤反転が回避される。そして一定時間Tm終了後の上記(2)の制御状態では、Vcが急速に上昇してVinsに近づき始める。そして一定時間Ts終了後の上記(3)の制御状態では、レギュレータの遊びが無くなり、ウインドガラスに動力を伝えるために必要となる負荷がパワーウインドモーター5に掛かるので再びモーター電流IDが増加するが、Vcが上限クランプ回路4cによりクランプされて比較的低い上限クランプ電圧となっており且つ、上記(3)の制御状態においてゆっくりと増加しているモーター電流IDの値ではAMP1からT22のゲート端子に印加される電圧が上記(1)および(2)の制御状態の期間に引き続き低い状態のままであり(つまり、そのようにAMP1の閾値が設定されていてT22がOffし続け)、Vc2ならびにVinsはそれぞれ一定の値に維持されるので、同じく一定の値にクランプされているVcとVinsとがクロスすることはない。よって、パワーウインドモーター5の誤反転が回避される。尚、一定時間Ts終了時、換言すれば、上記(3)の制御状態の開始時、Vcが降下して上限クランプ電圧になっているが、このVcの電圧降下はSSW3がOff状態となることでVcがR121,R122で分圧されている値まで降下することにより生じる。前述したように、この上限クランプ電圧はR121およびR122それぞれの抵抗値を選定することにより設定できるので、選定された抵抗値に従い電圧降下の大きさも変わる。そして一定時間tms終了後の上記(4)の制御状態おいて、Vcは一定量で上昇していき最終的にはVinsに追随する通常状態に戻る。尚、一定時間tmsから一定時間Tsを差し引いた第3基準電圧クランプ期間は、レギュレータ(サンプル)を用いて当該レギュレータの遊びが無くなった際にモーター電流IDに増加が発生する期間を予め測定して当該期間よりも僅かに長くなるような値で起動タイマー15aの記憶領域にプリセットされていなければならない。
このように本発明のパワーウインド挟み込み防止装置によれば、パワーウインドモーター5の起動後のレギュレータの遊びによるモーター電流IDの増加で異物の挟み込みと判定しないので、パワーウインドモーター5の誤反転が無い。
ところで、上記(2)および(3)の制御状態を作り出さず上記(1)の制御状態を一定時間tms継続しても、VinsとVcとがクロスし得ないため、パワーウインドモーター5の誤反転を回避することはできる。しかしながら、パワーウインドモーター5の起動直後、一定時間tms内で挟まれが生じたとしても、Vcがマスクされている(即ち、Vcが下限電圧レベルに維持されている)ため、迅速な挟まれ検出ができず、異物に掛かる挟まれ荷重を高めてしまうこととなる。それ故、本発明は、レギュレータの遊びによるパワーウインドモーター5の誤反転を回避しながら、より迅速な挟まれ検出を可能にして異物に掛かる挟まれ荷重を低減するには、上記(3)の制御状態のようにVcを或る一定電圧(即ち、上限クランプ電圧)まで上げるべきという考えからなされた。よって、本発明のパワーウインド挟み込み防止装置によれば、パワーウインドモーター5の起動直後に挟まれが発生したとしても前述の第3基準電圧クランプ期間であればモーター電流IDの急速な増加に伴いVinsが降下してVcとクロス可能なので、より迅速な挟まれ検出が可能となり、異物に掛かる挟まれ荷重を低減することができる。
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形,改良,等が可能である。その他、前述した実施形態における各構成要素の形態,数,配置個所,等および数値,波形,等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。