本件発明は、電解銅箔の製造方法、その製造方法で得られた電解銅箔、その電解銅箔を用いて得られた表面処理電解銅箔、その表面処理電解銅箔を用いた銅張積層板及びプリント配線板に関する。特に、その電解銅箔の絶縁層構成材料との張合わせ面が低プロファイルで高光沢を有している電解銅箔に関する。
金属銅は電気の良導体であり比較的安価で取り扱いも容易であることから、電解銅箔はプリント配線板の基礎材料として広く使用されている。そして、プリント配線板が多用される電子及び電気機器には、小型化、軽量化等の所謂軽薄短小化が求められている。従来、このような電子及び電気機器の軽薄短小化を実現するためには、信号回路を可能な限りファインピッチ化した配線にする必要があり、製造者等はより薄い銅箔を採用してエッチングによって配線を形成する際のオーバーエッチングの設定時間を短縮し、形成する配線のエッチングファクターを向上させることで対応してきた。
そして、小型化、軽量化される電子及び電気機器には、高機能化の要求も同時に行われている。従って、表面実装方式の普及によって限られた基板面積の中に可能な限り大きな部品実装面積を確保するためには、プリント配線板の配線のエッチングファクターを良好にする対応が必要とされてきた。その目的で、特にICチップ等の直接搭載を行う所謂インターポーザー基板であるテープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板、チップ オン フィルム(COF)基板には、通常のプリント配線板用途以上の低プロファイル電解銅箔が求められてきた。なお、プロファイルとはプリント配線板用銅箔に関する規格において絶縁層形成材料との張合わせ界面である接着面(本件出願では以降「張合わせ界面」を用いず「接着面」に呼称を統一する)の表面粗さRzjisをJIS B 0601−2001に準拠してTD方向に測定した値で規定されるものであり、低プロファイルとは接着面の表面粗さRzjisが小さなことを意味している。
このような問題を解決すべく、特許文献1には未処理電解銅箔の析出面の表面粗度Rzが該未処理電解銅箔の光沢面の表面粗度Rzと同じか、それより小さい箔の析出面上に粗化処理を施して接着面とすることを特徴とする表面処理電解銅箔が開示されている。そして、前記未処理電解銅箔の製造には、メルカプト基を持つ化合物、塩化物イオン、分子量10000以下の低分子量膠及び高分子多糖類を添加した電解液を用いている。具体的にはメルカプト基を持つ化合物は3−メルカプト1−プロパンスルホン酸塩、低分子量膠の分子量は3000以下、そして高分子多糖類はヒドロキシエチルセルロースである。
また、特許文献2には、硫酸酸性銅めっき液の電気分解による電解銅箔の製造方法において、ジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体を含有する硫酸酸性銅めっき液を用いることを特徴とする電解銅箔の製造方法が開示されている。当該硫酸酸性銅めっき液には、ポリエチレングリコールと塩素と3−メルカプト−1−スルホン酸とを含有することが好ましいとされている。そして、絶縁基材との接着面とする析出面粗さが小さく、厚さ10μmの電解銅箔では十点平均粗さRzが1.0μm±0.5μm程度の低プロファイルが得られるとしている。
そして、これらの製造方法を用いて電解銅箔を製造すると確かに低プロファイルの析出面が形成され、従来の低プロファイル電解銅箔としては良好な特性は有している。
特開平9−143785号公報
特開2004−35918号公報
一方、電子又は電気機器の代表であるパーソナルコンピュータのクロック周波数は上昇し、演算速度が飛躍的に速くなっている。そして、従来はコンピュータとしての本来の役割である単なるデータ処理に止まらず、コンピュータ自体をAV機器と同様に使用する機能も付加されている。すなわち、音楽再生機能だけではなく、DVDの録画再生機能、TV受像録画機能、テレビ電話機能等が次々に付加されている。
すなわち、パーソナルコンピュータのモニタは単なるデータモニタ機能を満足するだけでは不十分となっており、映画等の画像を表示しても長時間の視聴に耐えるだけの画質が要求されている。そして、このような品質のモニタを安価に且つ大量に供給することが求められている。現在の当該モニタには液晶モニタが多用されており、この液晶パネルのドライバ素子を搭載するには、前記テープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板やチップ オン フィルム(COF)基板を用いるのが一般的である。そして、モニタのハイビジョン化を図るためには、走査線数の増加に見合うよう前記ドライバ基板にもよりファインな回路の形成が求められるようになる。そして、パネルサイズの大型化に伴って外縁部の幅を可能な限り狭くして製品寸法を抑える取り組みが為されている。ドライバを背面に配置するためにはTAB基板又はCOF基板を折り曲げて設置する必要があり、当初から屈曲性が良好であることも求められていた。そして、COFではTABと違ってファイン化されたボンディング用リード部分がフィルムで裏打ちされている。そのためにフィルムが無いTABに比べて屈曲性の点で不利となっており、従来以上に屈曲性の良好な材料を用いることが断線の防止に有効なのである。
一方、車載用の電子回路ではハイブリッド化の普及と燃料電池車の開発に伴って大電流に対応せざるを得なくなってきている。車載用では必要とされる導体厚さが将来的にも200μmを超えると推測されているにもかかわらず、省スペースの観点からフレキシブル配線板として用いられる。このような厚い銅箔をフレキシブル基板に適用するためには当該銅箔の接着面粗さが小さいことが必須になり、従来の電解銅箔では対応できないとして圧延銅箔も検討されているのである。すなわち、従来の電解銅箔の場合には、厚さが厚くなるほど基材との接着面粗さが大きくなっていたからである。
また、リチウムイオン電池用の負極集電体として使用する際にも表面が平滑な銅箔を用いることが好ましい。すなわち、銅箔上に活物質を塗工する際に、活物質含有スラリーを均一な塗膜厚で銅箔上に塗工するためには表面が平滑な銅箔を集電体として使用することが有利なのである。そして、当該負極活物質は、充放電時に膨張収縮を繰り返すため集電材としての銅箔の寸法変化も大きく、その膨張収縮に銅箔膨張収縮挙動が追随できず破断する現象が発生する。従って、集電材である銅箔の機械的な特性は、繰り返しの膨張収縮挙動に耐えるため、引張り強さと伸び率との良好なバランスが求められる。更に、銅箔上にキャパシタ用誘電体層をゾル−ゲル法で形成させる際にも、表面が平滑な銅箔を用いることは同様に有利である。
以上のように電解銅箔に対してはプリント配線板用途から市場の拡大が図られてきている。その結果、従来市場に供給されてきたプリント配線板用途の低プロファイル電解銅箔と比べて、450μm以下の厚さにおいて更に低プロファイルであり、屈曲性も良好な電解銅箔に対する要求の存在が明らかとなったのである。
上記背景から、本件発明者らは鋭意研究の結果、従来の電解銅箔生産技術と遜色のない生産性を持つ低プロファイル電解銅箔の製造方法に想到したのである。
本件発明に係る電解銅箔の製造方法: 本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、硫酸系銅電解液を用いた電解法により陰極表面に析出させた銅を剥取って電解銅箔を製造する方法であって、当該硫酸系銅電解液は3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸(本件出願では以降「MPS」と称する)又はビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド(本件出願では以降「SPS」と称する)から選択された少なくとも一種と環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体であるジアリルジメチルアンモニウムクロライド(本件出願では以降「DDAC」と称する)重合体と塩素とを含むものであることを特徴とするものである。
本件発明に係る電解銅箔の製造方法において、前記硫酸系銅電解液中のMPS及び/又はSPSの合算濃度が0.5ppm〜100ppmである事が好ましい。
本件発明に係る電解銅箔の製造方法において、前記硫酸系銅電解液中の環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体濃度が1ppm〜150ppmである事が望ましい。
更に、本件発明に係る電解銅箔の製造方法において、前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度が5ppm〜120ppmであることが好ましい。
本件発明に係る電解銅箔: 本件発明に係る電解銅箔は、上記電解銅箔の製造方法により製造されたことを特徴とする電解銅箔である。
本件発明に係る表面処理電解銅箔: 本件発明に係る表面処理電解銅箔は、上述した電解銅箔の表面に防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか一種以上を行ったものである。
そして、本件発明に係る表面処理電解銅箔の絶縁層構成材料との接着面の表面粗さ(Rzjis)は1.5μm以下であることが好ましい。
また、本件発明に係る表面処理電解銅箔の絶縁層構成材料との接着面として、光沢度[Gs(60°)]が250以上のものを用いることが好ましい。
更に、本件発明に係る表面処理電解銅箔において、前記表面処理電解銅箔の絶縁層構成材料との接着面側に粗化処理を施すことも好ましい。
そして、本件発明に係る表面処理電解銅箔の絶縁層構成材料との接着面には、上記電解銅箔の析出面を用いるのが好ましい。
本件発明に係る銅張積層板: 本件発明に係る銅張積層板は、前記表面処理電解銅箔と絶縁層構成材料とを張合わせて得られるものである。そして、本件発明に係る銅張積層板を構成する前記絶縁層構成材料が、骨格材を含有する場合にはリジッド銅張積層板となる。一方、本件発明に係る銅張積層板を構成する前記絶縁層構成材料が、可撓性を有するフレキシブル素材である場合にはフレキシブル銅張積層板となる。
本件発明に係るプリント配線板: 本件発明に係る表面処理電解銅箔を用いて、銅張積層板を得ることができ、この銅張積層板にエッチング加工を施すことにより、本件発明に係るプリント配線板が得られる。即ち、上述のリジッド銅張積層板を用いることでリジッドプリント配線板が得られる。そして、上述のフレキシブル銅張積層板を用いることでフレキシブルプリント配線板が得られる。
本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、電解液として当該硫酸系銅電解液にMPS又はSPSから選択された少なくとも一種と環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体であるDDAC重合体と塩素とを含むものである。そして、この製造方法で得られる電解銅箔は、従来市場に供給されてきた低プロファイル電解銅箔に比べ、更に良好な低プロファイル特性を備える。この結果、本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、製造する電解銅箔としての厚さが増加するほど、低プロファイル化が顕著となる。この傾向は、厚さが増加するほど高プロファイル化してしまう従来の電解銅箔とは正反対の性質である。
また、この電解銅箔が、現実に市場に供給される場合には、大気雰囲気による酸化防止、基材との密着性向上のために種々の表面処理が施され、一般的には表面処理電解銅箔として供給される。本件発明に係る電解銅箔を用いることで、このような表面処理が適正に施される限り、表面処理が施されてもなお、市場に流通する表面処理の施された低プロファイル電解銅箔を超える低プロファイル化が可能となる。
従って、本件発明に係る表面処理電解銅箔を銅張積層板に用いると、本件発明に係る表面処理電解銅箔で構成した導体層間に位置する絶縁層の厚さ均一性に優れ、薄い絶縁層を用いても短絡を起こすことなく層間の絶縁信頼性が飛躍的に向上する。特に、均一な粗化処理が行われれば、高周波対応の銅張積層板に好適となる。
更に、本件発明に係る銅張積層板を用いて、これをエッチング加工して得られるプリント配線板は、銅張積層板に用いた本件発明に係る表面処理電解銅箔の低プロファイル化が可能であるため、ファインピッチ回路の形成に好適である。
[本件発明に係る電解銅箔の製造方法の形態]
本件発明に係る電解銅箔の製造方法の説明を行う前に、説明の理解が容易となるように、一般的な電解銅箔の製造方法に関して述べる。本件発明に係る「電解銅箔」とは、何ら表面処理を行っていない状態のものであり「未処理銅箔」、「析離箔」等と称されることがある。本件明細書では、これを単に「電解銅箔」と称する。この電解銅箔の製造には一般的に連続生産法が採用されており、ドラム形状をした回転陰極と、その回転陰極の形状に沿って対向配置された鉛系陽極又は寸法安定性陽極(DSA)との間に硫酸系銅電解液を流し、電解反応を利用して銅を回転陰極の表面に析出させ、この析出した銅を箔状態として回転陰極から連続して引き剥がして巻き取っている。このようにして得られた電解銅箔は、一定幅で巻き取られたロール状となるため、特性の測定などに際して方向を示すには回転陰極の回転方向(ウェブの長さ方向)をMD(Machine Direction)、MDに対して直角方向である幅方向をTD(Transverse Direction)と称する。
この電解銅箔の回転陰極と接触した状態から引き剥がされた側の表面形状は研磨処理された回転陰極表面の形状が転写したものとなり、光沢を有することからこの面を「光沢面」と称してきた。これに対し、析出サイドであった側の表面形状は、通常は析出する銅の結晶成長速度が結晶面ごとに異なるために山形の凹凸形状を示しており、こちら側を「析出面」と称する。そして、一般的には、析出面の粗度が光沢面の粗度より大きく、電解銅箔に表面処理を施す際には析出面側に粗化処理を施すことが多く、この析出面側が銅張積層板を製造する際の絶縁層構成材料との張合わせ面となる。従って、この接着面の表面粗さが小さいほど優れた低プロファイルの表面処理電解銅箔となる。
このように電解銅箔には絶縁層構成材料との接着力を機械的なアンカー効果で補強するための粗化処理や酸化防止などの表面処理が施されて、市場を流通する電解銅箔が完成するのであるが、用途によっては粗化処理を施さずに使用する場合もある。次いで、以下に本件発明に係る電解銅箔の製造方法について説明する。
本件発明に係る電解銅箔の製造方法は、硫酸系銅電解液を用いた電解法により陰極表面に析出させた銅を剥取って電解銅箔を製造する方法であって、当該硫酸系銅電解液はMPS又はSPSから選択された少なくとも一種と環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体であるDDAC重合体と塩素とを含むものであることを特徴とするものである。この組成の硫酸系銅電解液を用いることで、本件発明に係る低プロファイルの電解銅箔を安定して製造することが可能となる。さらに、電解条件を最適化することにより、光沢度[Gs(60°)]が700を超える電解銅箔を得ることができる。そして、この硫酸系銅電解液中の銅濃度は40g/l〜120g/l、より好ましい範囲は50g/l〜80g/lである。また、当該硫酸系銅電解液中のフリー硫酸濃度は60g/l〜220g/l、より好ましい範囲は80g/l〜150g/lである。
本件発明に係る硫酸系銅電解液中のMPS及び/又はSPSの合算濃度は0.5ppm〜100ppmである事が好ましく、より好ましくは0.5ppm〜50ppm、更に好ましくは1ppm〜30ppmである。このMPS及び/又はSPSの濃度が0.5ppm未満の場合には、電解銅箔の析出面が粗くなり、低プロファイル電解銅箔を得ることが困難となる。一方、MPS及び/又はSPSの濃度が100ppmを越えても、得られる電解銅箔の析出面が平滑化する効果は向上せず、廃液処理のコスト増加を招くだけである。なお、本件発明で言うMPS及び/又はSPSとは、それぞれの塩をも含む意味で使用しており、濃度の記載値は、ナトリウム塩としての3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(本件出願では以降「MPS−Na」と称する)としての換算値である。そして、MPSは本件発明に係る硫酸系銅電解液中では2量体化することでSPS構造をとるものである。従って、MPS又はSPSの濃度とは、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸単体やMPS−Na等塩類の他、SPSとして添加されたもの及びMPSとして電解液中に添加された後にSPS等に重合化した変性物をも含む濃度である。MPSの構造式を化1として、SPSの構造式を化2として以下に示す。これら構造式の比較から、SPS構造体はMPSの2量体であることがわかる。
そして、本件発明に係る硫酸系銅電解液中の環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体は、濃度が1ppm〜150ppmである事が好ましく、より好ましくは10ppm〜120ppm、更に好ましくは15ppm〜40ppmである。ここで、環状構造を持つ4級アンモニウム塩重合体として、種々のものを用いることが可能である。しかし、低プロファイルの析出面を形成する効果を考えると、DDAC重合体を用いることが最も好ましい。DDACは、重合体構造を取る際に環状構造を成すものであり、環状構造の一部が4級アンモニウムの窒素原子で構成されることになる。そして、DDAC重合体は、前記環状構造が4員環〜7員環のいずれか又はそれらの混合物であると考えられ、これら重合体の内、5員環構造を取っている化合物を、代表的に化3として以下に示した。このDDAC重合体は、化3から明らかに理解できるように、DDACが2量体以上の重合体構造を取っているものである。
そして、このDDAC重合体の硫酸系銅電解液中の濃度は、1ppm〜150ppmである事が好ましく、より好ましくは10ppm〜120ppm、更に好ましくは15ppm〜40ppmである。DDAC重合体の硫酸系銅電解液中の濃度が1ppm未満の場合には、MPS又はSPSの濃度を如何に高めても電析銅の析出面が粗くなり、低プロファイル電解銅箔を得ることが困難となる。一方、DDAC重合体の硫酸系銅電解液中の濃度が150ppmを超えると、銅の析出状態が不安定になり、低プロファイル電解銅箔を得ることが困難となる。
更に、前記硫酸系銅電解液中の塩素濃度は、5ppm〜120ppmである事が好ましく、更に好ましくは10ppm〜60ppmである。この塩素濃度が5ppm未満の場合には、電解銅箔の析出面が粗くなり、低プロファイルを維持できなくなる。一方、塩素濃度が120ppmを超えても、電解銅箔の析出面が粗くなり、電析状態が安定せず、低プロファイルの析出面を形成出来なくなる。
以上のように、前記硫酸系銅電解液中のMPS及び/又はSPSとDDAC重合体と塩素との成分バランスが最も重要であり、これらの量的バランスが上記範囲を逸脱すると、結果として電解銅箔の析出面が粗くなり、低プロファイルを維持できなくなる。
そして、前記硫酸系銅電解液を用いて電解銅箔を製造する場合には、表面粗さが所定の範囲に調整された陰極と不溶性陽極とを用いて電解する。このとき液温は20℃〜60℃、より好ましくは40℃〜55℃とし、電流密度は15A/dm2〜90A/dm2、より好ましくは50A/dm2〜70A/dm2 とすることが好ましい。
そして、本件発明に係る電解銅箔の製造方法の場合、上記電解銅箔に求められる特性を安定的に得るため、その製造を行う場合の陰極表面状態も管理すべきである。プリント配線板用電解銅箔の規格であるJIS C 6515を参照すると、電解銅箔に求める光沢面の表面粗さ(Rzjis)は、最大2.4μmであると規定している。この電解銅箔の製造用の陰極として、チタン(Ti)材質の回転陰極ドラムを用いる場合には、連続使用している間に表面酸化による外観変化及び金属相の変化が起こる。従って、定期的な表面ポリッシュ、状態に応じての研磨又は切削という機械的な加工作業が必要となる。そして、このような陰極表面の機械的加工は、陰極を回転しつつ実施するため円周方向に筋状の加工模様が不可避的に発生する。このため、光沢面の表面粗さ(Rzjis)を小さいままに定常状態で維持することが困難であり、コストの観点とプリント配線板製造上の支障を生じないことを前提とした前記規格値が許容されている。
従来の電解銅箔の場合には、厚さが厚くなるほど、析出面粗さが大きくなる傾向を示す。そして、その他の要因として、前記規格値の上限レベル又はそれ以上の表面粗さを備える陰極ドラムを使用すると、陰極の表面形状の影響を受けて、得られる電解銅箔の析出面の粗さが大きくなる傾向がある。これに対し、上記硫酸銅系電解液を用いると、陰極表面の凹凸を埋めつつ膜厚が成長していく過程で、陰極面形状の影響を受けにくくなり、平坦な析出表面の形成が可能となる。即ち、従来の電解銅箔の製造に用いた銅電解液に比べ、上記硫酸銅系電解液を用いて電解銅箔を製造すると、陰極表面の形状の影響を受けにくく、表面が粗い陰極の使用も可能となる。
例えば、20μm未満の厚さの電解銅箔を製造する場合において、得られる電解銅箔の析出面粗さ(Rzjis)を1.0μm未満とする場合には、その電解銅箔の光沢面の表面粗さ(Rzjis)は、2.0μm未満で光沢度[Gs(60°)]が70以上となるような、表面状態の陰極を用いることが、TD方向とMD方向での機械的特性及び表面特性の差を小さくする観点から好ましい。そして、より好ましくは、電解銅箔の光沢面の表面粗さ(Rzjis)は、1.7μm未満で光沢度[Gs(60°)]が100以上となるような、表面状態の陰極を用いることが、同様の観点から好ましい。
[本件発明に係る電解銅箔の形態]
本件発明に係る電解銅箔は、上記電解銅箔の製造方法により製造されたことを特徴とするものである。この製造方法で得られる電解銅箔の諸特性に関して、以下に述べておく。
本件発明に係る電解銅箔は、その析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm未満、且つ、光沢度[Gs(60°)]が400以上の特性を備える。そして、より好ましくは、表面粗さ(Rzjis)は0.6μm未満、光沢度[Gs(60°)]は600以上である。最初に、光沢度に関して説明する。ここで、[Gs(60°)]の光沢度とは、電解銅箔の表面に入射角60°で測定光を照射し、反射角60°で跳ね返った光の強度を測定したものである。ここで言う入射角は、光の照射面に対する垂直方向を0°としている。そして、JIS Z 8741−1997によれば、入射角の異なる5つの鏡面光沢度測定方法が記載されており、試料の光沢度に応じて最適な入射角を選択すべきとされている。中でも、入射角を60°とすることで低光沢度の試料から高光沢度の試料まで幅広く測定可能であるとされている。従って、本件発明に係る電解銅箔などの光沢度測定には主として60°を採用したのである。
一般的に、電解銅箔の析出面の平滑性の評価には表面粗さRzjisがパラメーターとして用いられてきた。しかしながら、Rzjisだけでは高さ方向の凹凸情報しか得られず、凹凸の周期やうねりと言った情報を得ることができない。光沢度は両者の情報を反映したパラメータであるため、Rzjisと併用することで表面の粗さ周期、うねり、それらの面内での均一性等の種々のパラメータを総合して判断することができる。
本件発明に係る電解銅箔の場合、析出面側の表面粗さ(Rzjis)が1.0μm未満であり、且つ、当該析出面の光沢度[Gs(60°)]が400以上であるという条件を満たす。即ち、このような範囲で品質が保証でき、市場に供給可能な電解銅箔は、従来存在しなかった。そして、後述する製造方法を適正に用いることで、表面粗さ(Rzjis)は0.6μm未満、光沢度[Gs(60°)]は700以上の析出面を備える電解銅箔の提供も可能となる。また、ここでは、光沢度の上限値を定めていないが、経験的に判断して[Gs(60°)]で780程度が上限となる。なお、本件発明における光沢度は、日本電色工業株式会社製光沢計VG−2000型を用い、光沢度の測定方法であるJIS Z 8741−1997に準拠して測定した。
そして、ここで言う電解銅箔に関して、厚さの限定は行っていない。何故なら、厚くなるほど、当該析出面の粗度が小さく、光沢度も上昇すると言う好ましい傾向にあるためである。敢えて、上限を定めるとするならば、電解銅箔を工業的に製造しても採算を取れる限度である450μm厚さ以下の電解銅箔を対象としている。
また、ここでは析出面側の表面粗さ(Rzjis)の下限値を限定していない。測定器の感度にもよるが、経験的に表面粗さの下限値は0.1μm程度である。しかし、実際の測定においては、バラツキが見られ、保証できる測定値としての下限は0.2μm程度であると考える。
また、本件発明に係る電解銅箔は、前記析出面側の光沢度[Gs(60°)]を、幅方向で測定したTD光沢度と、流れ方向で測定したMD光沢度とに分けて捉え、この比([TD光沢度]/[MD光沢度])を採ると0.9〜1.1の範囲となる。即ち、幅方向と流れ方向との差が非常に小さいことを意味している。
即ち、電解銅箔は、陰極である回転ドラムの表面にある研磨スジ等の影響により、幅方向(TD)と流れ方向(MD)との機械的特性が異なるというのが一般通念であった。しかし、本件発明に係る電解銅箔は、厚みによらずより均一で滑らかな析出面側表面をもち、その外観としての光沢度[Gs(60°)]は、[TD光沢度]/[MD光沢度]の値が0.9〜1.1であり、変化幅が10%以内と小さく、本件発明に係る電解銅箔のTD方向とMD方向との表面形状のバラツキが極めて小さな事を意味している。
そして、更に言えば、外観上の差異がTD方向及びMD方向に無いと言うことは、均一な電解が出来ており、結晶組織的に見ても均一であることを意味している。即ち、TD方向及びMD方向による引張り強さ及び伸び率等の機械的特性差も小さくなることを意味している。このようにTD方向とMD方向とでの機械特性差が小さいと、プリント配線板を製造する際の銅箔の方向性による基板の寸法変化率や回路の直線性等に与える影響が小さくなり好ましい。ちなみに、表面が平滑である銅箔の代表ともいえる圧延銅箔の場合には、その加工方法に起因してTD方向とMD方向との機械的特性が異なることが広く知られている。その結果、本件発明が想定している用途であるフィルムキャリアテープ市場、薄物リジッドプリント配線板等において寸法変化率が大きく、ファインパターン用途には不適であるとの評価がほぼ定着している。
また、光沢度として[Gs(20°)]と[Gs(60°)]とを用いることにより、従来の低プロファイル電解銅箔との差異を、より明瞭に捉えることが出来る。具体的には、本件発明に係る電解銅箔は、前記析出面側が光沢度[Gs(20°)]>光沢度[Gs(60°)]の関係を備えることができる。同じ物質であれば一つの入射角度を選択して光沢度を評価すれば十分と予想されるが、同じ物質であっても入射角に応じて、反射率が異なるため、入射角が変化すれば、被測定表面の表面の凹凸に応じて、反射光の空間分布が変化して、光沢度に差を生じるのである。このような事実に基づき、本件発明者等が検討した結果、経験的に次の傾向があることを見いだしたのである。即ち、高光沢且つ低表面粗さの電解銅箔の場合には、光沢度[Gs(20°)]>光沢度[Gs(60°)]>光沢度[Gs(85°)]の関係が成立し、低光沢且つ低表面粗さの電解銅箔の場合には、光沢度[Gs(60°)]>光沢度[Gs(20°)]>光沢度[Gs(85°)]の関係が成立する。更に、無光沢且つ低表面粗さの電解銅箔の場合には、光沢度[Gs(85°)]>光沢度[Gs(60°)]>光沢度[Gs(20°)]の関係が成立する。以上のことから分かるように、一定の入射角による光沢度の絶対値の他に、異なる入射角での光沢度測定値との関係により平滑性を評価することが有意義なのである。
そして、本件発明に係る電解銅箔の場合、その光沢面の表面状態も重要となる。この光沢面には、本件発明に係る電解銅箔の析出面に近いレベルの表面粗さ(Rzjis)及び光沢度[Gs(60°)]が求められる。即ち、本件発明に係る電解銅箔において、光沢面側は、その表面粗さ(Rzjis)が2.0μm未満であり、且つ、光沢度[Gs(60°)]が70以上であることが好ましい。より好ましくは、表面粗さ(Rzjis)が1.7μm未満、光沢度[Gs(60°)]が100以上であることが望ましい。当該光沢面の光沢度[Gs(60°)]の上限値は規定していないが、経験的に言えば500位である。即ち、ここまで述べてきた析出面の表面状態を得るためには、光沢面にここで述べるような表面状態を形成する事が好ましい。この条件を外れると、TD方向及びMD方向での表面状態に差が生じやすく、TD方向及びMD方向での引張り強さ及び伸び率等の機械的特性差も生じやすくなる。この光沢面の表面状態は、その電析面である陰極の表面状態の転写であり、陰極の表面状態により定まる。従って、特に薄い電解銅箔を製造するときは、陰極表面に表面粗さ(Rzjis)が2.0μm未満という特性が求められる。
本件発明に係る電解銅箔の機械的特性としては、常態における引張り強さが33kgf/mm2以上、伸び率が5%以上となる。そして、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)では引張り強さが30kgf/mm2以上、伸び率が8%以上であることが好ましい。
そして、本件発明においては、製造条件を最適化することにより、常態の引張り強さが38kgf/mm2以上、加熱後(180℃×60分、大気雰囲気)の引張り強さが33kgf/mm2以上という、より優れた機械的特性を備えるものとできる。従って、この良好な機械的特性は、フレキシブルプリント配線板の折り曲げ使用にも十分に耐えうるものであるのみならず、膨張収縮挙動を受けるリチウムイオン二次電池等の負極を構成する集電材用途にも好適である。
[本件発明に係る表面処理電解銅箔の形態]
本件発明に係る表面処理電解銅箔は、上述した電解銅箔の表面に防錆処理、シランカップリング剤処理のいずれか一種以上を行った表面処理電解銅箔を提供する。この防錆処理層は、銅張積層板及びプリント配線板の製造過程で支障をきたすことの無いよう、電解銅箔の表面が酸化腐食することを防止するためのものである。そして絶縁層構成材料との密着性を阻害せず、可能であれば向上させる構成であることが推奨される。防錆処理に用いられる方法は、ベンゾトリアゾール、イミダゾール等を用いる有機防錆、若しくは亜鉛、クロメート、亜鉛合金等を用いる無機防錆のいずれか又は両者を組み合わせて使用しても目的用途に適合していれば問題はない。
そして、シランカップリング剤処理とは、防錆処理が終了した後に、絶縁層構成材料との密着性を化学的に向上させるための処理である。
次に、防錆処理層を形成する方法に関して説明する。有機防錆の場合は、有機防錆剤の溶液を浸漬塗布、シャワーリング塗布、電着法等の手法を採用して形成することが可能となる。無機防錆の場合は、防錆元素を電解銅箔の表面上に電解析出させる方法、その他いわゆる置換析出法等を用いることが可能である。例えば、亜鉛防錆処理を行うときには、ピロ燐酸亜鉛めっき浴、シアン化亜鉛めっき浴、硫酸亜鉛めっき浴等を用いることが可能である。例えば、ピロ燐酸亜鉛めっき浴であれば、濃度は亜鉛5g/l〜30g/l、ピロ燐酸カリウム50g/l〜500g/l、液温20℃〜50℃、pH9〜12、電流密度0.3A/dm2〜10A/dm2の条件とする等である。
そして、上記シランカップリング剤処理に用いるシランカップリング剤は特に限定を要するものではなく、使用する絶縁層構成材料、プリント配線板製造工程で使用するめっき液等の性状を考慮して、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤、メルカプト系シランカップリング剤等から任意に選択使用することが可能となる。そして、シランカップリング剤処理は、シランカップリング剤の溶液を浸漬塗布、シャワーリング塗布、電着法等の手法を採用して実施することができる。
より具体的には、プリント配線板用にプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
そして、前記表面処理電解銅箔の絶縁層構成材料との接着面の表面粗さ(Rzjis)は1.5μm以下の低プロファイルであることが好ましい。この範囲に表面粗さが調整されていることによりファインピッチ回路形成に適した表面処理銅箔となる。
また、前記表面処理電解銅箔の絶縁層構成材料との接着面の光沢度[Gs(60°)]は250以上であることも好ましい。表面処理により、防錆被膜やシランカップリング剤被膜が形成されるため、表面粗さの変化が検出されないレベルであっても、表面処理前後の比較においては光の反射率等が変動することが考えられる。したがって、表面処理後に光沢度の絶対値が変動することはあるが、表面処理電解銅箔の接着面で得られる光沢度[Gs(60°)]が250以上を維持していれば表面処理被膜が適正な厚さで形成されていると判断できるのである。
前記表面処理電解銅箔の絶縁層構成材料との接着面に粗化処理を施してあることも好ましい。粗化処理は公知技術を適用できるものであって、防錆技術との組み合わせから必要最低限の粗化処理を実施すれば足りるのである。しかし、本件発明に係る表面処理電解銅箔が好ましく用いられる25μmピッチを下回るようなファインピッチ配線の形成においては、粗化処理を施していないことが、必要とされるオーバーエッチング時間の設定精度を上げるためには好ましいのである。
そして、粗化処理を施す方法としては、電解銅箔の表面に微細金属粒を付着形成させるか、エッチング法で粗化表面を形成するか、いずれかの方法が採用される。ここで、前者の微細金属粒を付着形成する方法として、銅微細粒を表面に付着形成する方法に関して例示しておく。この粗化処理工程は、電解銅箔の表面上に微細銅粒を析出付着させる工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程とで構成される。
電解銅箔の表面上に微細銅粒を析出付着させる工程では、電解条件としてヤケめっきの条件が採用される。従って、一般的に微細銅粒を析出付着させる工程で用いる溶液濃度は、ヤケめっき条件を作り出しやすいよう、低い濃度となっている。このヤケめっき条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅5〜20g/l、フリー硫酸50〜200g/l、その他必要に応じた添加剤(α−ナフトキノリン、デキストリン、膠、チオ尿素等)、液温15〜40℃、電流密度10〜50A/dm2の条件とする等である。
そして、微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程は、平滑めっき条件により微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させるための工程である。従って、ここでは前述の電解銅箔の製造工程で用いたものと同様の銅電解液を銅イオンの供給源として用いることができる。この平滑めっき条件は、特に限定されるものではなく、生産ラインの特質を考慮して定められるものである。例えば、硫酸銅系溶液を用いるのであれば、濃度が銅50〜80g/l、フリー硫酸50〜150g/l、液温40〜50℃、電流密度10〜50A/dm2の条件とする等である。
そして、前記表面処理電解銅箔の絶縁層構成材料との接着面が析出面側であることが好ましいとしている。前述のように、光沢面側は陰極ドラムの表面形状が転写した形状であるためにTD方向/MD方向の違いを皆無にすることは困難である。そのため、接着面の形状がTD/MDで方向性を持っている場合に起こる配線端面の直線性のバラツキを僅少にするためには析出面側を接着面とすることが好ましいのである。
[本件発明に係る銅張積層板の形態]
本件発明は、前記表面処理電解銅箔を絶縁層構成材料と張合わせてなる銅張積層板を提供する。これら銅張積層板の製造方法に関してはフレキシブル銅張積層板であれば従来技術であるロールラミネート方式やキャスティング方式を用いることが可能であり、リジッド銅張積層板であればホットプレス方式や連続ラミネート方式を用いて製造することが可能である。なお、本件発明に言うフレキシブル銅張積層板及びリジッド銅張積層板は、片面銅張積層板、両面銅張積層板、多層銅張積層板の全てを含む概念である。ここで、多層銅張積層板の場合には、外層に本件発明に係る表面処理銅箔を用い、その内層には内層回路を備える内層コア材が含まれた構成のものである。以下の銅張積層板の説明上は、これらを区別しての説明は行わない。重複したものとなるからである。
本件発明は、前記絶縁層構成材料は骨格材を含有するものであるリジッド銅張積層板を提供する。従来のリジッド銅張積層板で用いられていた骨格材はガラス織布又はガラス不織布が大半を占めており、銅箔接着面の粗さが影響するのは10μm超レベルでは層間絶縁性に、10μm以下でも骨格材であるガラス繊維と回路が直接接触することによる耐マイグレーション性が問題になりうるとの報告がなされている。そして、5μmレベルであれば問題にする必要がないと言われてきた。しかしながら、近年では電子部品が直接搭載されるパッケージ基板である例えばBGAやCSPにも従来無かったレベルのファインパターンが要求され、骨格材としてガラス繊維よりも細いアラミド繊維を不織布で用いるなど表面の平坦化を図ってきている。そして、クロック周波数が高くなっている部品などを搭載した場合、回路の直線性、断面形状が理想状態からかけ離れていると特に高周波域における信号の伝送特性が満足できないのである。従って、本件発明に係る銅張積層板はファインパターンはもとより特に高周波信号の伝送回路を有するプリント配線板の製造用途に好適なのである。
また、本件発明は前記絶縁層構成材料は可撓性を有するフレキシブル素材で構成したものであるフレキシブル銅張積層板を提供する。フレキシブル銅張積層板は前述のリジッド銅張積層板とはその屈曲性と軽量性でその用途の棲み分けが為されてきたものであり、絶縁層構成材料は軽量化と高屈曲性達成のために薄肉化が図られている。そして同時に導体層にも薄肉化が要求され、電解銅箔が主要な材料となっている。そして、肉薄フィルムにおける絶縁信頼性確保、特に多層フレキシブル基板用途においては、接着面に対しては絶縁層厚みの1/10以下の低プロファイルが要求されるため、従来品であれば上記表面粗さRzjis=5μm程度が使用上限であった。しかしながら、本件発明の電解銅箔を用いたフレキシブル銅張積層板は更にフィルム厚さを減じても絶縁信頼性が確保できるものなのである。そして、従来の低プロファイル電解銅箔を用いたフレキシブル銅張積層板に比べ屈曲性にも優れており、この点においても信頼性が向上した銅張積層板なのである。
ここでリジッド銅張積層板及びフレキシブル銅張積層板の製造方法を具体的に例示しておく。リジッド銅張積層板又はフレキシブル銅張積層板を製造する場合には、本件発明に係る表面処理電解銅箔、FR−4クラスのプリプレグ等のリジッド絶縁層形成材又はポリイミド樹脂フィルム等のフレキシブル絶縁層形成材、鏡板を用いて、所望のレイアップ状態を形成し、170℃〜200℃の熱間でプレス成形する。
一方、フレキシブル銅張積層板の場合には、上述のようなロールラミネート方式やキャスティング方式の採用が可能である。このロールラミネート方式とは、本件発明に係る表面処理銅箔のロールと、ポリイミド樹脂フィルムやPETフィルム等の樹脂フィルムロールとを用いて、Roll to Roll方式で加熱ロールの圧力で熱圧着させる方法である。そして、キャスティング方式とは、本件発明に係る表面処理銅箔の表面に、ポリアミック酸等の加熱によりポリイミド樹脂化する樹脂組成膜を形成し、加熱し縮合反応を起こさせることで、表面処理銅箔の表面にポリイミド樹脂皮膜を直接形成するものである。
[本件発明に係るプリント配線板の形態]
そして、本件発明は、前記リジッド銅張積層板を用いて得られたことを特徴とするリジッドプリント配線板を提供する。前述のように本件発明に係る接着面が平滑な電解銅箔を用いた銅張積層板を使用したプリント配線板の製造には、サブトラクティブ法はもちろんパターンめっき/フラッシュエッチング法も用いることができ、どちらの場合でもオーバーエッチング時間の設定を短くできるために、得られた回路の端面はより直線的に、断面はより矩形に近くなるのである。したがって、ファインパターンでの回路間絶縁信頼性に優れていると同時に、特に表皮効果により回路表面近くを流れる高周波領域の信号伝達特性に優れ、またクロストークなどのノイズも発生しにくい、総合的な信頼性に優れたプリント配線板なのである。
また、本件発明は前記フレキシブル銅張積層板を用いて得られたことを特徴とするフレキシブルプリント配線板を提供する。当該プリント配線板の製造には、前述のリジッドプリント配線板と同様サブトラクティブ法はもちろんパターンめっき/フラッシュエッチング法も用いることができ、どちらの場合でもオーバーエッチング時間の設定を短くできるために、得られた回路の端面はより直線的に、断面はより矩形に近くなるのである。従って高周波領域の信号伝達特性に優れ、またクロストークなどのノイズも発生しにくい、信頼性の優れたプリント配線板であると同時に、絶縁信頼性、屈曲性に優れたものであり、特に部品を直接実装するフィルムキャリアとした時に最もその優位性を発揮できるものなのである。
ここで、上記リジッド銅張積層板又はフレキシブル銅張積層板(以下、単に「銅張積層板」と称する。)のいずれかを用いてプリント配線板に加工する場合の一般的加工方法の一例を、念のために述べておく。最初に、銅張積層板表面へエッチングレジスト層を形成し、エッチング回路パターンを露光し、現像し、エッチングレジストパターンを形成する。このときのエッチングレジスト層は、ドライフィルム、液体レジスト等の感光性樹脂が用いられる。その他、露光はUV露光が一般的であり、定法に基づいたエッチングレジストパターンの形成方法が採用できる。
そして、銅エッチング液を用いて電解銅箔を回路形状にエッチング加工し、エッチングレジスト剥離を行うことで、リジッド基材又はフレキシブル基材の表面に所望の回路形状を形成する。このときのエッチング液に関しても、酸性銅エッチング液、アルカリ性銅エッチング液等の全ての銅エッチング液の使用が可能である。
上述のように本件発明に言う銅張積層板は、片面銅張積層板、両面銅張積層板、内部に内層回路を備える多層銅張積層板の全てを含む概念として記載している。従って、両面銅張積層板及び多層銅張積層板の場合には、その層間での導通を確保することが必要な場合があり、係る場合には、定法によるスルーホール、ビアホール等の形状形成を行い、その後層間導通を得るための導通メッキ処理が施される。一般的に、この導通メッキ処理には、パラジウム触媒による活性化処理を行い銅無電解メッキが施され、その後電解銅メッキで膜厚成長を行うものである。
銅エッチングが終了すると、十分に水洗を行い、乾燥、その他必要に応じて防錆処理等が施されて、リジッドプリント配線板又はフレキシブルプリント配線板となる。
実施例と比較例では陰極の表面形状の影響が出ないことに配慮し、表面を2000番の研磨紙で研磨を行って表面粗さをRzjisで0.85μmに調整したチタン板電極を用いた。
[第一実施群]
この第1実施群では、実施例1〜実施例8を行った。この実施例1〜実施例8では、硫酸系銅電解液として、硫酸銅溶液であって銅濃度80g/l、フリー硫酸濃度140g/l、そして表1に記載のMPSの濃度、DDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)濃度、塩素濃度に調整した溶液を用いた。そして、実施例9ではMPSの代替品としてMPSの2量体であるSPSを用いた。
電解銅箔の作成は陽極にDSAを用いて、液温50℃、電流密度60A/dm2で電解し、12μm及び210μm厚さの9種の電解銅箔を得た。この中から12μm電解銅箔に限定して銅箔の機械的特性を評価した。結果を表2に示す。
次に当該電解銅箔の両面に防錆処理を施した、ここでは以下に述べる条件の無機防錆を採用した。硫酸亜鉛浴を用い、フリー硫酸濃度70g/l、亜鉛濃度20g/lとし、液温40℃、電流密度15A/dm2とし、亜鉛防錆処理を施した。
更に、本実施例の場合、前記亜鉛防錆層の上に、電解でクロメート層を形成した。このときの電解条件は、クロム酸濃度5.0g/l、pH 11.5、液温35℃、電流密度8A/dm2、電解時間5秒とした。
以上のように防錆処理が完了すると水洗後、直ちにシランカップリング剤処理槽で、析出面側の防錆処理層の上にシランカップリング剤の吸着を行った。このときの溶液組成は、純水を溶媒として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン濃度を5g/lとした。そして、この溶液をシャワーリングにて吹き付けることにより吸着処理した。
シランカップリング剤処理が終了すると、最終的に電熱器により水分を気散させ、9種類の表面処理電解銅箔を得た。なお、得られた電解銅箔の結晶構造解析によると、平均結晶粒子径は従来のフィルムキャリアテープに用いられている微細結晶化により低プロファイルとしている電解銅箔が有している平均結晶粒子径よりも大きく、また双晶の存在も確認された。 上記から得られた電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)と光沢度[Gs(20°)]、[Gs(60°)]及び[Gs(85°)]、そして表面処理電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)と光沢度[Gs(60°)]を表3に示す。
[第二実施群]
ここでは実施例10〜実施例14とし、硫酸系銅電解液として銅濃度80g/l、フリー硫酸濃度140g/l、そして表4に記載のSPSの濃度、DDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)濃度、塩素濃度に調整した溶液を用いた。
電解銅箔の作成は陽極にDSAを用いて、液温50℃、電流密度60A/dm2で電解し、実施例10では12μm及び70μm厚さの2種の電解銅箔を、実施例11〜実施例14では4種の12μm厚さの電解銅箔を得た。
そして、実施例10で得られた12μm及び70μm電解銅箔の常態及び180℃×60min.加熱後の引張り強さ、伸び率を表5に示す。そして、当該12μm電解銅箔の常態の引張り強さは35.5kgf/mm2、伸び率が11.5%、180℃×60min.加熱後の引張り強さは33.2kgf/mm2、伸び率が11.2%という良好な機械的特性は、フレキシブルプリント配線板の折り曲げ使用にも十分に耐えうるレベルである。
上記12μm電解銅箔単体でのMIT法による耐折性の評価をしてみると常態で1200回〜1350回、加熱後でも800回〜900回の折り曲げ試験に耐えることができている。上記MIT法による耐折試験は、MIT耐折装置として東洋精機製作所製の槽付フィルム耐折疲労試験機(品番:549)を用い、屈曲半径0.8mm、荷重0.5kgfとし、サンプルサイズ15mm×150mmで実施している。この数値は従来フレキシブルプリント配線板用途に使用されてきた汎用電解銅箔を同一条件で評価した場合には常態で600回程度、加熱後では500回程度であることから、従来の汎用品に対して約2倍の耐折性を示すものとなるのである。この違いは、表面が平滑であることによって破断に至るきっかけとなるクラックが生じにくいという効果によっていると推測できる。
そして、上記で得られた電解銅箔を濃度150g/l、液温30℃の希硫酸溶液に30秒間浸漬して、付着物や表面酸化被膜の除去を行い、水洗した。実施例10で得られた12μm電解銅箔及び70μm電解銅箔では、それぞれ粗化処理を施した表面処理電解銅箔と粗化処理を施していない2種の表面処理電解銅箔合計4種を作成した。
上記のうち粗化処理を施す対象となる12μm電解銅箔及び70μm電解銅箔は酸洗処理が終了すると、電解銅箔の析出面に微細銅粒を形成する工程として、析出面上に微細銅粒を析出付着させる工程と、この微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程とを施した。前者の微細銅粒を析出付着させる工程では、硫酸銅系溶液であって、銅濃度15g/l、フリー硫酸濃度100g/l、液温25℃、電流密度30A/dm2の条件で、5秒間電解した。
析出面に微細銅粒を付着形成すると、微細銅粒の脱落を防止するための被せめっき工程として平滑めっき条件で微細銅粒を被覆するように銅を均一析出させた。ここでは平滑めっき条件として、硫酸銅溶液であって、銅濃度60g/l、フリー硫酸濃度100g/l、液温45℃、電流密度45A/dm2の条件とし、5秒間電解した。
そして本実施例では得られた全ての電解銅箔の両面に防錆処理を施した、ここでは以下に述べる条件の無機防錆を採用した。硫酸亜鉛浴を用い、フリー硫酸濃度70g/l、亜鉛濃度20g/lとし、液温40℃、電流密度15A/dm2とし、亜鉛防錆処理を施した。
そして前記亜鉛防錆層の上に更に電解でクロメート層を形成した。このときの電解条件は、クロム酸濃度5.0g/l、pH 11.5、液温35℃、電流密度8A/dm2、電解時間5秒とした。
以上のように防錆処理が完了すると水洗後、直ちにシランカップリング剤処理槽で、析出面側の防錆処理層の上にシランカップリング剤の吸着を行った。このときの溶液組成は、純水を溶媒として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン濃度を5g/lとした。そして、この溶液をシャワーリングにて吹き付けることにより吸着処理した。シランカップリング剤処理が終了すると、最終的に電熱器により水分を気散させ、粗化処理箔1種類を含む6種類の表面処理電解銅箔を得た。
上記実施例10〜実施例14から得られた電解銅箔の光沢面側の表面粗さ(Rzjis)と光沢度[Gs(60°)]、析出面側の表面粗さ(Rzjis)と光沢度[Gs(20°)]、[Gs(60°)]及び[Gs(85°)]、そして実施例10から得られた表面処理箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)と光沢度[Gs(60°)]、粗化処理箔の粗化処理面の表面粗さ(Rzjis)を表6に示す。
比較例
[比較例1]
この比較例は、特許文献2に記載された実施例1のトレース実験である。硫酸系銅電解液として、基本溶液は硫酸銅(試薬)と硫酸(試薬)とを純水に溶解し、硫酸銅(5水和物換算)濃度280g/l、フリー硫酸濃度90g/lとした。そして、ジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体(日東紡績株式会社製、商品名PAS−A−5、重量平均分子量4000)濃度4ppm、ポリエチレングリコール(平均分子量1000)濃度10ppm、MPS−Na濃度1ppmに調整し、更に塩化ナトリウムを用いて塩素濃度を20ppmに調製した硫酸酸性銅めっき液とした。
そして、陽極には鉛板を用いて上記の電解液を液温40℃、電流密度50A/dm2で電解を行い、12μm及び210μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の機械的特性を表2に、析出面の表面粗さ(Rzjis)及び光沢度[Gs(60°)]を表3に実施例と共に示す。
[比較例2]
この比較例では、硫酸系銅電解液として、銅濃度90g/l、フリー硫酸濃度110g/lの溶液を活性炭フィルターに通して清浄処理した。ついで、この溶液にMPS−Na濃度1ppmと、高分子多糖類としてヒドロキシエチルセルロース濃度5ppm及び低分子量膠(数平均分子量1560)濃度4ppmと、塩素濃度30ppmとなるように、それぞれ添加して銅電解液を調製した。このようにして調製した銅電解液を用い、陽極にはDSA電極を用いて、液温58℃、電流密度50A/dm2で電解を行い、12μm及び210μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の機械的特性を表2に、析出面の表面粗さ(Rzjis)及び光沢度等を表3に実施例と共に示す。
[比較例3]
この比較例では、硫酸系銅電解液として、銅濃度80g/l、フリー硫酸濃度140g/l、DDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)濃度4ppm、塩素濃度15ppmの溶液を用いた。陽極にはDSA電極を用いて液温50℃、電流密度60A/dm2で電解し、12μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の機械的特性を表2に、析出面の表面粗さ(Rzjis)及び光沢度等を表3に実施例と共に示す。
[比較例4]
この比較例では、硫酸系銅電解液として、銅濃度80g/l、フリー硫酸濃度140g/l、DDAC重合体(センカ(株)製ユニセンスFPA100L)濃度4ppm、低分子量膠(数平均分子量1560)濃度6ppm、塩素濃度15ppmの溶液を用いた。陽極にはDSA電極を用いて液温50℃、電流密度60A/dm2で電解し、12μm厚さの電解銅箔を得た。この電解銅箔の機械的特性を表2に、析出面の表面粗さ(Rzjis)及び光沢度[Gs(60°)]を表3に実施例と共に示す。
[比較例5]
この比較例は、特許文献2に記載された実施例4のトレース実験である。硫酸系銅電解液の基本溶液は硫酸銅(試薬)と硫酸(試薬)とを純水に溶解し、硫酸銅(5水和物換算)濃度280g/l、フリー硫酸濃度90g/lとした。これをジアリルジアルキルアンモニウム塩と二酸化硫黄との共重合体(日東紡績株式会社製、商品名PAS−A−5、重量平均分子量4000)濃度4ppm、ポリエチレングリコール(平均分子量1000)濃度10ppm、MPS−Na濃度1ppmに調整し、更に塩化ナトリウムを用いて塩素濃度を20ppmに調整した。
そして、陽極には鉛板を用いて上記の電解液を液温40℃、電流密度50A/dm2で電解を行い、12μm及び70μm厚さの電解銅箔を得、その後実施例10と同様にして表面処理電解銅箔2種を得た。この電解銅箔の常態及び180℃×60min.加熱後の機械的特性を表5に、そして、電解銅箔析出面の表面粗さ(Rzjis)、光沢度[Gs(20°)]、[Gs(60°)]及び[Gs(85°)]と表面処理後析出面の表面粗さ(Rzjis)と光沢度〔Gs(60°)〕、粗化処理箔の粗化面の表面粗さ(Rzjis)を表6に示す。
[実施例と比較例との対比]
以降各比較例と実施例とを対比し、その結果を説明する。なお、実施例で得られた電解銅箔の析出面側は表面粗さ(Rzjis)<1.0μm、光沢度[Gs(60°)]≧400とそのTD/MD比は0.9〜1.1、そして[Gs(20°)]>[Gs(60°)]>[Gs(85°)]という本件発明の各条件を満足しているものである。そして機械的特性も常態の機械的特性は引張り強さが33kgf/mm2以上で伸び率が5%以上、加熱後の機械的特性は引張り強さが30kgf/mm2以上で伸び率が8%以上という本件発明の条件を満足している。
実施例と比較例1との対比: 電解銅箔の析出面側の表面粗さ(Rzjis)を対比すると、比較例1の電解銅箔も良好な低プロファイル化が出来ている。しかし、本件発明に係る12μm電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.30μm〜0.41μmに対し比較例1の12μm電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.85μm、本件発明に係る210μm電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.27μm〜0.34μmに対し比較例1の210μm電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.70μmである。よって、銅箔厚みが増すに従ってより平滑な析出面が得られる傾向は共通しているが、平滑性の絶対値では本件発明に係る電解銅箔が優れている。また、光沢度[Gs(60°)]を比較すると、比較例1の光沢度[Gs(60°)]が221〜283の範囲にあるのに対し、各実施例の光沢度[Gs(60°)]は、603〜759という全く異なる範囲を示している。このことから、比較例1の電解銅箔と比べ、実施例の各電解銅箔はより平坦で鏡面に近い析出面を備えているといえる。そして、機械的特性については、比較例1の12μm電解銅箔は常態で引張り強さ36.2kgf/mm2、伸び率4.0%、加熱後は引張り強さ32.4kgf/mm2、伸び率5.6%であり、実施例の電解銅箔と同等と言えるのは常態における引張り強さだけである。
実施例と比較例2との対比: 電解銅箔の析出面側の表面粗さ(Rzjis)を対比すると、比較例2の電解銅箔も良好な低プロファイル化は出来ている。しかし、本件発明に係る12μm電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.30μm〜0.41μmに対し比較例2の12μm電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.83μm、本件発明に係る210μm電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.27μm〜0.34μmに対し比較例2の210μm電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は1.22μmである。よって、比較例2では銅箔厚みが増すことにより析出面の平滑性が損なわれていることから安定して平滑な電解銅箔を得ることは困難であると考えられる。そして、機械的特性については、比較例2の12μm電解銅箔は常態で引張り強さ31.4kgf/mm2、伸び率3.5%、加熱後は引張り強さ26.8kgf/mm2、伸び率5.8%であり、実施例の各電解銅箔の方が優れている。
実施例と比較例3との対比: 比較例3は、銅電解液にMPSやSPSが無い場合の効果を見るためのものである。表3から明らかなように、銅電解液中にMPS等を含ませない比較例3で得られた電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は3.60μmを示しており、低プロファイル化が達成出来ていない。そして、光沢度[Gs(60°)]に到ってはほぼ艶消し状態となるため0.7と極めて低い値を示している。そして、12μm電解銅箔の機械的特性では引張り強さが40.5kgf/mm2と大きな値を示すものの伸び率が3.6%と低く、加熱による変化が小さいものである。よって、表面粗さ及び伸び率において本件発明に係る電解銅箔の方が優れていると言える。
実施例と比較例4との対比: 比較例4は、銅電解液にMPSの代わりに低分子膠を添加した場合の効果を見ている。この結果、表3から明らかに分かるように、銅電解液中にMPSの代わりに低分子膠を含ませても、電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rzjis)は3.59μmを示しており、低プロファイル化が達成出来ていない。そして、光沢度[Gs(60°)]に到ってはほぼ艶消し状態となるため1.0と極めて低い値を示している。そして、機械的特性においては、常態の引張り強さが38.6kgf/mm2と実施例と同等の値を示すものの伸び率が4.0%と低く、比較例3同様加熱による変化が小さいものである。よって、表面粗さ及び伸び率において本件発明に係る電解銅箔の方が優れていると言える。
実施例と比較例5との対比:以降表5及び表6に記載のデータを参照しつつ実施例と比較例5とを12μm電解銅箔同士で対比する。
析出面側の表面粗さ(Rzjis)を対比すると、実施例で得られた電解銅箔では0.30μm〜0.41μmであり、比較例5で得られた電解銅箔では析出面の表面粗さ(Rzjis)が1.00μmとその差は明らかである。そして、析出面側の光沢度は[Gs(60°)]だけでみても、比較例5で得られた電解銅箔では324〜383の範囲にあるのに対し、実施例で得られた電解銅箔では、603〜759という全く異なる範囲にある。即ち、比較例5の電解銅箔と比べ、実施例の電解銅箔は、より平坦で鏡面に近い析出面を備えている。そして常態の機械的特性は、比較例5の電解銅箔の引張り強さ37.9kgf/mm2、伸び率8.0%と比べ、実施例10の電解銅箔は引張り強さ35.5kgf/mm2、そして伸び率は11.5%を示しておりやや柔軟性に富むものである。そして180℃×60min.加熱後の機械的特性は、比較例5の電解銅箔の引張り強さ31.6kgf/mm2、伸び率7.5%と比べ、実施例10の電解銅箔は引張り強さ33.2kgf/mm2、そして伸び率は11.2%を示しており本件発明に係る電解銅箔の方が優れている。この結果から、銅張積層板に加工される際の熱履歴を考えると、例えば本件発明に係る電解銅箔を用いたフレキシブルプリント配線板とした場合には優れた耐屈曲性などが期待できる。
次に、表面の均一性を測る指標として3種類の光沢度を用いることの優位性を確認した。実施例で得られた12μm電解箔の析出面でMDを共通方向として光沢度の違いを見ると、[Gs(20°)]では824〜1206、[Gs(60°)]では649〜759そして[Gs(85°)]では112〜142であり、測定光の入射角度が垂直に近づくほど大きな数値となっている。これに対し、比較例5で得られた12μm電解銅箔の析出面側のMD方向で測定したときの評価結果を見てみると、[Gs(20°)]では126、[Gs(60°)]では383そして[Gs(85°)]では117となっており、[Gs(20°)]と[Gs(85°)]でほぼ同等の値を示している。従って、比較例5で得られた12μm電解銅箔の析出面には何らかの特徴的な形状が備わっているのである。
そこで、実施例11で得られた12μm電解銅箔析出面のSEM写真を図1に、比較例5で得られた12μm電解銅箔析出面のSEM写真を図2に示す。図2から明らかなように比較例5で得られた電解銅箔表面には小さいながら凹凸が観察されているほかに高倍率で観察しなければ発見できない異常析出部も散見される。すなわち、この凹凸部分での光の乱反射が光沢度[Gs(20°)]の値を小さくし、表面粗さ(Rzjis)を大きくしているのである。そして、本件発明に係る電解銅箔のSEM写真である図1には明らかな凹凸は観察されておらずまた異常析出部も観察されていない。よって本件発明に係る電解銅箔は表面粗さ、光沢度が均一で優れているのである。
そして、粗化処理を施した表面処理電解銅箔を比較してみると、実施例10と比較例5との対比において、同一条件で実施した粗化処理による表面粗さ(Rzjis)の値の増加幅は約0.7μmと、ほぼ同程度となっている。これは図2から判るように比較例5で得られた電解銅箔の析出面形状に見られる凹凸は3μm前後のピッチをもっているが扁平であるため、粗化処理で得られた微細粒子がそれぞれの凹凸の形状に沿って付着しているためであると推測できる。しかし、比較例5の電解銅箔ではベースとなる析出面の表面粗さ(Rzjis)が大きいために本件発明の要件としている絶縁層構成材料との接着面の表面粗さ(Rzjis)を1.5μm以下とすることができず、本件発明に係る電解銅箔の優位性は明確である。
MPSとSPSとの対比: 実施例9〜実施例14ではMPSの代替としてSPSを用いているが、得られた12μm電解銅箔は析出面の表面粗さ(Rzjis)は0.30μm〜0.41μm、光沢度[Gs(60°)]は603〜759であり、SPSを用いてもMPSと同じ効果が得られることが確認できている。
なお、上記実施例では本件発明に係る電解銅箔の製造に際しては硫酸系銅電解液の銅濃度を40g/l〜120g/l、フリー硫酸濃度を60g/l〜220g/l程度とした溶液構成にて良好な結果を得ているが、目的とする用途に応じて濃度範囲を変更しても構わないのである。そして、上記実施例に記載の添加剤以外の添加剤類の存在を否定しているものでもなく、上記添加剤類の効果を更に際だたせたり、連続生産時の品質安定化に寄与できること等が確認されているものであれば任意に添加して構わないのである。
本件発明に係る電解銅箔の製造方法を用いて得られる電解銅箔の析出面は、従来市場に供給されてきた低プロファイル電解銅箔に比べ更に低プロファイルであり、その析出面の粗さが光沢面の粗さ以下となり、両面共に光沢のある平滑面となる。そして電解箔の製造に供される銅電解液は製造条件の変動及び厚みのバリエーションに対する適応力が大きく、生産性に優れたものなのである。よって、テープ オートメーティド ボンディング(TAB)基板やチップ オン フィルム(COF)基板のファインピッチ回路、さらにはプラズマディスプレイパネルの電磁波遮蔽用回路の形成に好適である。そして、この電解銅箔は優れた機械的特性を有することからリチウムイオン二次電池等の負極を構成する集電材としての使用にも適している。
実施例11で得られた12μm電解銅箔析出面のSEM写真である。
比較例5で得られた12μm電解銅箔析出面のSEM写真である。