JP3827140B2 - 高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼ならびにそれを用いた帯鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用無段変速機等に使用される動力伝達用ベルトに使用される高硬度、高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼及び該高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼からなる動力伝達用ベルト用鋼帯に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、高強度が要求される部材、例えば、ロケット用部品、遠心分離機部品、航空機部品、自動車エンジンの無段変速機用部品、金型等種々の用途に主として2000Mpa前後の非常に高い引張強さを持つマルエージング鋼が使用され、その代表的な組成としては、18%Ni-8%Co-5%Mo-0.4%Ti-0.1%Al-bal.Feが挙げられる。このマルエージング鋼は強化元素として高価な元素であるCoやMoを多量に含み、素材価格が非常に高価であるため、上記のような特殊な限定された用途に使われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、高強度を必要とされる用途に使用される高強度鋼には、高い硬さや引張強さだけでなく、高い疲労強度や靭性もあわせて要求される。引張強さが約1200MPa以下の場合、疲労強度は硬さ、引張強さに比例して上昇する傾向があるが、硬さが約400Hv以上、引張強さが約1200MPa以上の高強度鋼では、硬さ、引張強さが上昇しても疲労強度は上昇しなくなる。このことは、上記のマルエージング鋼も例外ではなく、高い引張強度をもつ割には疲労強度は高くない。そこで、
高い疲労強度を有し、かつ従来のマルエージング鋼に代わる安価で新規な高強度鋼が望まれていた。
【0004】
そこで、本発明者等は、上述のマルエージング鋼に代わる新規な高強度鋼として種々の高強度鋼について鋭意検討を行った。
先ず、比較的安価な高硬度材として、主にCを0.5%前後含む13%Cr系の焼入れマルテンサイト系ステンレス鋼がある。このタイプのステンレス鋼は、焼鈍で軟化させた状態で冷間加工を加えて所定の寸法にした後、焼入れ焼戻しという熱処理を行うことで製造される。この熱処理によってCを含む硬いマルテンサイト相が得られるため、非常に高い硬さを得ることができる。
しかし、高硬度を得るために焼入れ焼戻しという熱処理を必要とするため、所望の物品を得るには素材の工程が多く、製造工程が複雑であり、また、高温からの焼入れによる熱処理変形が大きいという問題があった。また、Cを比較的多く含むため、溶接性が必ずしも容易ではなかった。
【0005】
次に、冷間加工によってマルテンサイト変態させるタイプのステンレス鋼として、JIS SUS631がよく知られている。
SUS631は、固溶化処理後、冷間加工し、さらに時効処理を行うと、約490HVの硬さを得ることができる。
しかし、SUS631は、硬さ等の特性が組成や熱処理条件に非常に敏感であり、特性がばらつきやすいという問題があった。
そして、JIS SUS304やSUS201のようなオーステナイト系ステンレス鋼を冷間加工することによっても高硬度が得られる。
しかし、これらオーステナイト系ステンレス鋼は、オーステナイト相が安定であるため、強加工してもオーステナイト相の一部が加工誘起マルテンサイト変態する程度であり、多くは加工硬化したオーステナイト相であることから、十分な高硬度が得られないという問題があった。
本発明の目的は、高硬度、高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼及び該動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼でなる動力伝達用ベルト用鋼帯を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
一般に、高強度鋼では、例えば日本機械学会論文集A64巻2536〜2541頁に開示されるように、低サイクル域で疲労破壊する場合には、疲労破壊は表面を起点とした亀裂発生、伝播によって起こることが知られている。また、従来、疲労限と考えられていた10の7乗回を越える超高サイクル域においては、疲労破壊は表面を起点とせず、内部の介在物を起点としていることが知られている。
従来のマルエージング鋼においては、内部起点の疲労破壊起点に存在する介在物はTiN(またはTi(C、N))であることが知られている。そこで、TiN(またはTi(C、N))の介在物をなくすことが疲労強度向上に有効であり、Tiを含まない高強度鋼が高い疲労強度を有するものと考えられる。
【0007】
そこで本発明者等は、析出強化元素であるTiを用いずに、高硬度を得ることができる加工誘起マルテンサイト系ステンレス鋼に着目した。しかしながら、この加工誘起マルテンサイト系ステンレス鋼は、上述のJIS SUS631のように特性がばらつき易く、特にこのSUS631ではAlを1mass%含有していることに起因した溶接性の悪さという欠点を有する一方で、加工誘起マルテンサイト系ステンレス鋼は、マルエージング鋼のように高価なCoを添加することなく高硬度を得ることができるため、更に価格を大きく改善できるという利点がある。さらに、高硬度と仕上げ形状を得るための手段が冷間塑性加工であるため、焼入れマルテンサイト鋼のような仕上げ形状での高温からの焼入れが必要なく、熱処理変形がないという利点を併せ持つものである。
【0008】
そこで、本発明者等は、上述の利点を最大限引き出しながら、欠点を解消できるように種々の合金元素とその最適な添加量を鋭意検討した結果、Crが10%未満の加工誘起型マルテンサイト系鋼の領域と、10%以上の加工誘起型マルテンサイト系ステンレス鋼の領域を包含する成分範囲の鋼(以下、加工誘起型マルテンサイト系ステンレス鋼の領域と加工誘起型マルテンサイト系鋼の領域との総称として、加工誘起型マルテンサイト系鋼と記す)において、特定の合金元素を適正添加し、特に、この加工誘起型マルテンサイト系鋼にMo、Cu等の時効硬化元素を添加することにより、冷間塑性加工後に時効処理を行うと、さらに高い強度が得られることを見出した。
そして本発明者等は、加工誘起型マルテンサイト系鋼を、例えば自動車用無段変速機に使用される動力伝達用ベルトにも対応可能な強度、高硬度、高疲労強度の付与を目的として、鋭意検討を行い本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の第1発明は質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:3.0%以下、Mn:5.0%を越え10.0%以下、Ni:1.0〜12.0%、Cr:4〜18%、MoまたはWの1種または2種が、Mo+1/2Wで0.1〜4.0%、Cu:5.0%以下(0%を含む)、N:0.15%以下(0%を含む)、Al:0.10%以下、O:0.005%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ(1)式で示されるA値が13〜27%であって、冷間加工後にオーステナイトから生成したマルテンサイト相を体積%で30%以上を含み、ビッカース硬さが455以上である高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼である。
A=Ni+0.65Cr+0.98Mo+0.49W+1.05Mn+0.35Si+Cu+12.6(C+N)・・・(1)
(ただし、選択元素のうち無添加の元素はゼロとして計算)
【0010】
また第2発明は、質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:3.0%以下、Mn:5.0%を越え7.0%以下、Ni:3.0〜11.0%、Cr:4〜16%、MoまたはWの1種または2種が、Mo+1/2Wで0.5〜3.0%、Cu:4.0%以下(0%を含む)、N:0.15%以下(0%を含む)、Al:0.05%以下、O:0.003以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ(1)式で示されるA値が19〜25%であって、冷間加工後にオーステナイトから生成したマルテンサイト相を体積%で30%以上を含み、ビッカース硬さが455以上である高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼である。
【0011】
また第3発明は、質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:1.0未満、Mn:5.0%を越え7.0%以下、Ni:3.0〜11.0%、Cr:4〜16%、MoまたはWの1種または2種が、Mo+1/2Wで0.5〜3.0%、Cu:4.0%以下(0%を含む)、N:0.15%以下(0%を含む)、Al:0.05%以下、O:0.005%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ(1)式で示されるA値が19〜24%であって、冷間加工後にオーステナイトから生成したマルテンサイト相を体積%で30%以上を含み、ビッカース硬さが455以上である高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼である。
本発明の第4発明は、第1発明乃至第3発明の何れかに記載の鋼組成に、V、Ti、Nbのうち1種または2種以上を合計で0.2%以下を含む高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼である。
本発明の第5発明は、第1発明乃至第4発明の何れかに記載の鋼組成に、B、Mg、Ca、のうち1種または2種以上を合計で0.10%以下含む高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼である。
【0012】
本発明の第6発明は、第1発明乃至第5発明の何れかに記載の高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起マ型マルテンサイト系鋼の表面に窒化層が形成され、表面に圧縮残留応力を付与した動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼帯である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、加工誘起マルテンサイト変態のしやすさと、高硬度を得るための元素であるNi、Cr、Mo、W、Mn、Si、Cu、C、Nの添加量の最適化を図る必要がある。
そして、Ni、Cr、Mo、W、Mn、Si、Cu、C、Nの元素は、個々の成分範囲を満足するだけでなく、高硬度を得るためには、本発明鋼において規定した(1)式を満足する必要がある。
(1)式に示すA値は、本発明のNi当量を示しており、この式のA値の大小が加工誘起マルテンサイト相の生成し易さを左右する重要な指標である。A値は、加工誘起マルテンサイトへの変態のし易さに影響する各元素の質量%に各元素の効果に応じてそれぞれ係数を付した値を足したものである。
本発明鋼では、このA値が13より小さいと固溶化処理後の冷却によりマルテンサイト組織が多く生成し、加工誘起変態により生成するマルテンサイトが減少するため、十分な高硬度が得られにくくなる。一方、27を越えるとオーステナイト相が安定化しすぎるため、冷間塑性加工により加工誘起マルテンサイトが生成しにくくなり、十分な高硬度を得られなくなりことから、(1)式で示すA値を13〜27%とした。望ましくは、19〜25%がよく、さらに望ましくは、19〜24%がよい。
【0014】
以下に本発明鋼の各元素の作用について述べる。
Cは、オーステナイト生成元素であり、固溶化処理後にオーステナイト組織を得るために有効である。また冷間加工によって加工誘起変態したマルテンサイト組織を強化し、硬度を高めるために有効であるが、0.10%を越えて添加すると基地に固溶してオーステナイト相が安定になりすぎ、加工誘起変態が起こりにくくなる上、加工硬化が大きくなるため、冷間加工し難くなる。一方、0.01%より少ないと、冷間加工後に十分な硬さが得られなくなるだけでなく、デルタフェライトが生成して硬さや熱間加工性を低下させることから、Cの含有量を0.01%〜0.10%とした。
【0015】
Siは、脱酸のために少量添加するが、3.0%を越えて添加しても、より一層の向上効果が見られず、3.0%以下とした。望ましくは1.0%未満がよい。
Mnは、オーステナイト生成元素であり、固溶処理後にオーステナイト組織を得るために有効であり、また、A値で規定したNi当量の制御においてはNiの一部をMnに置換してMnを多くできることから、Niと比べると原料が安価なMnを多く添加することで、コストを安くできるという利点もある。
また、オーステナイト相中へのN固溶度を増加させ、Nの添加を容易にする。換言すれば、N添加を安定して行なう(つまりNによる鋳造欠陥をつくらない)ために非常に有効である。N含有鋼においてはMnを高くする必要があるが10.0%を越えて添加すると冷間加工性が劣化する一方、5.0%以下では十分な効果が得られないことから、5.0%を越え10.0%以下とした。望ましくは5.0%を越え7.0%以下がよい。
【0016】
Niは、Mnと同じくオーステナイト生成元素であり、固溶化処理後にオーステナイト組織を得るために有効である。1.0%より少ないと十分な効果が得られず、一方、12.0%を越えて添加するとオーステナイト相が安定になりすぎ、加工誘起マルテンサイト変態が起こりにくくなるため、十分な高硬度が得にくくなることから、1.0〜12.0%とした。望ましくは、3.0〜11.0%がよい。
Crは、加工誘起マルテンサイトを得る重要な元素で、4.0%より少ないとオーステナイト相が安定になりすぎ、一方、18.0%を越えて添加するとデルタフェライトを生成し易くなり、熱間加工性を劣化させるので、4.0〜18.0%とした。望ましくは、4.0〜16.0%がよい。
【0017】
Moは、加工誘起マルテンサイトの強度を増加させるのに有効な元素であり、また、冷間加工後の時効硬化にも効果があり、Moは必須添加とするのが望ましい。
WもMoと同様、強度を高めるのに有効であるが、W単独ではその効果は小さく、Wを添加する場合は、Moの一部を当量のW(1/2Wが当量のMoに相当)で置換する形で添加する。Mo+1/2Wが0.1%未満であれば、強度を高める効果が望めず、Mo+1/2Wを4.0%を越えて添加するとデルタフェライトが生成しやすくなり、熱間加工性や冷間加工性を劣化させるので、0.1〜4.0%とした。望ましくは、0.5〜3.0%がよい。
【0018】
Cuは、オーステナイト相の加工効果指数を小さくして冷間加工性を向上させる効果がある。また、冷間加工後の時効処理により時効析出することで強度を上昇させる効果がある。5.0%を越えて添加してもより一層の向上効果はみられず、熱間加工性が劣化してくることから、Cuは5.0%以下とした。望ましくは4.0%以下がよい。但し、冷間加工のみで硬化させる場合には、Cuはむしろ無い方が高い硬さが得られるので、Cuは無添加(0%)でもよい。
Nは、オーステナイト相およびマルテンサイト相中に固溶して硬さを高めるとともに、加工硬化指数を大きくして冷間加工による硬化を大きし、また、時効処理時に歪時効による硬化を大きくするのに有効な元素である。しかし、0.15%を越えて添加すると、鋼塊の健全性を害して製造性を劣化させることから、0.15%以下とした。また、溶接して使用される場合にはNの多量添加は溶接性を阻害するので、Nは低めの方が望ましく、無添加(0%)でもよい。
【0019】
Alは、脱酸のために少量添加されるが、0.10%より多いとAl2O3介在物を多く形成して疲労強度を低下させるので、Alは0.10%以下とした。望ましくは0.05%以下がよい。
Oは、酸化物系介在物を形成して靭性、疲労強度を低下させる不純物元素であるので、0.005%以下とした。望ましくは0.003%以下がよい。
【0020】
V、Ti、Nbは必ずしも添加する必要はないが、一次炭化物を形成することで結晶粒を微細化して硬さおよび延性を向上させるのに有効な元素であり、1種または2種以上を必要に応じて添加する。これらのうち、1種または2種以上が合計で、0.2%を越えて添加すると窒化物系介在物を形成し、疲労強度を低下させたり、粗大な一次炭化物を形成し、冷間加工性を害することから1種または2種以上を合計で0.2%以下とした。
【0021】
B、Mg、Caも、必ずしも添加する必要はないが、酸化物、硫化物を形成することで、結晶粒界に偏析するS、Oを低減し、熱間加工性を向上させるのに有効であるり、1種または2種以上を必要に応じて添加する。B、Mg、Caのうちの1種または2種以上が合計で0.10%を越えて添加してもより一層の向上効果は得られず、逆に清浄度を低下させて熱間加工性、冷間加工性を害するので、B、Mg、Caのうち1種または2種以上を合計で、0.10%以下とするのがよい。
また、不純物元素であるP、Sについては、通常の溶解レベルで混入するれべるなら問題無いので特に規定しないが、耐食性や熱間加工性の点からは低い方が望ましく、Pは0.04%以下、Sは0.02%以下であればよい。
【0022】
本発明鋼は上記の成分範囲を満足しただけでは、所望の高硬度と高疲労強度が得られず、冷間圧延、冷間引抜、冷間鍛造等の冷間加工を加えることによって、加工誘起マルテンサイト相を生成させる必要がある。この冷間加工後のマルテンサイト相が体積率で30%より少ないと、十分な高硬度、高疲労強度が得られないことから、冷間加工後のマルテンサイト相の体積率は30%以上とした。
【0023】
次に上述の本発明鋼を用いて鋼帯にする場合は、冷間加工を加えることによって高硬度、高疲労強度を得ることができる、適正な冷間加工後にマルテンサイト量を所望の量に調整することで、ビッカース硬さを455以上とすることができる。
また、上述の本発明鋼を用いた鋼帯は、硬さを低下させずに延性、バネ特性等の向上のために、必要に応じて、冷間加工後に400〜600℃で時効処理を行なうことができる。
【0024】
更に、本発明鋼は、硬さを低下させずに窒化を行なうことができる。上述の本発明鋼を、例えば自動車エンジンの無段変速機用部品として使用される動力伝達用ベルトに適用できるように、帯状に形成し、適当な条件で窒化処理を行なうと、窒化物をほとんど形成することなく表面に20〜40μm程度の窒化層を形成でき、表面に大きな圧縮残留応力を付与でき、更に高い疲労強度を得ることができる。
なお、表面の圧縮残留応力は高い方が好ましいが、そのコントロールは窒化層の厚みおよび窒化層の硬さを適宜調整することで可能である。
【0025】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。先ず、真空溶解によって溶解し、10kgの鋼塊を得た。化学組成を表1に示す。
ここで鋼No.1〜15は組成、A値および冷間加工後のマルテンサイト相量が何れも本発明の限定範囲にある本発明鋼であり、No.31〜36は組成、A値および冷間加工後のマルテンサイト相量の何れか、また幾つかが本発明の限定範囲から外れた比較鋼、No.37は従来の焼入れ焼戻し鋼のJIS SUS420J2である。
No.1〜37の鋼を熱間鍛造、熱間圧延によって厚さ2mmの板材にし、1050℃に加熱後、空冷の固溶化処理を行なった。その後50〜70%の圧下率で冷間圧延して鋼帯とし、さらに450℃で時効処理を行った。
No.36の鋼は950℃から焼入れた後、300℃で焼戻しを行なった。
【0026】
上記のマルテンサイト相量はエックス線回折法によって測定した。硬さについては、冷間圧延した板の縦断面でビッカース硬さを測定することによって求めた。
また、疲労強度は、厚さ0.2mm、幅10mmの板状試験片を用い、曲げ角度±25°でスパン長さを種々変えて、1000cpmの繰り返し曲げ速度で繰り返し曲げ疲労試験を行い、1×10の7乗回における疲労強度を求めた。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
表2からわかるように、本発明鋼No.1〜15は何れも冷間加工後のビッカース硬さが455以上の高硬度を示している。また、本発明鋼は繰り返し曲げ疲労試験の結果より、800MPa以上の高い疲労強度を示している。
これに対して、組成、A値、冷間加工後のマルテンサイト相量の何れか一つ以上が本発明に規定した範囲から外れる比較鋼No.31〜36および従来鋼No.37は硬さ、繰り返し曲げ疲労試験での疲労強度の何れかの特性が本発明鋼に比べて悪いことが判る。
特にA値およびマルテンサイト相量が規定した範囲から外れる比較鋼No.32〜35は硬さが低く、高硬度が得られない。
【0030】
また、本発明鋼は固溶化処理状態のビッカース硬さを測定した所、硬さが350以下と低く、冷間加工性が良好であり、冷間成形も容易であった。
さらに、本発明鋼に時効処理後に時効処理温度より低温で窒化処理を行なうか、あるいは、時効処理と兼ねて窒化処理を行うと、約20〜40μmの深さの窒化層を形成させることができ、窒化による表面圧縮残留応力の効果により、さらに疲労強度を300MPa程度上昇させることができる。
【0031】
以上説明したように、本発明の動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼は、高硬度でかつ疲労強度に優れることから、高い硬さと疲労強度がともに要求される自動車エンジンの無段変速機用部品として使用される動力伝達用ベルトとすれば、特に好適な特性を有しており、工業上顕著な効果を有する。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.01〜0.08%、Si:3.0%以下、Mn:5.0%を越え10.0%以下、Ni:1.0〜12.0%、Cr:4〜18%、MoまたはWの1種または2種が、Mo+1/2Wで0.1〜4.0%、Cu:5.0%以下(0%を含む)、N:0.15%以下(0%を含む)、Al:0.10%以下、O:0.005%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ(1)式で示されるA値が13〜27%であって、冷間加工後にオーステナイトから生成したマルテンサイト相を体積%で30%以上を含み、ビッカース硬さが455以上であることを特徴とする高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼。
A=Ni+0.65Cr+0.98Mo+0.49W+1.05Mn+0.35Si+Cu+12.6(C+N)・・・(1)
(ただし、選択元素のうち無添加の元素はゼロとして計算) - 質量%で、Mn:5.0%を越え7.0%以下、Ni:3.0〜11.0%、Cr:4〜16%、MoまたはWの1種または2種が、Mo+1/2Wで0.5〜3.0%、Cu:4.0%以下(0%を含む)、Al:0.05%以下を含み、かつ(1)式で示されるA値が19〜25%であることを特徴とする請求項1に記載の高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼。
- 質量%で、Si:1.0未満、Mn:5.0%を越え7.0%以下、Ni:3.0〜11.0%、Cr:4〜16%、MoまたはWの1種または2種が、Mo+1/2Wで0.5〜3.0%、Cu:4.0%以下(0%を含む)、Al:0.05%以下を含み、かつ(1)式で示されるA値が19〜24%であることを特徴とする請求項1に記載の高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼。
- 質量%で、V、Ti、Nbのうち1種または2種以上を合計で0.2%以下を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼。
- 質量%で、B、Mg、Ca、のうち1種または2種以上を合計で0.10%以下含むことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼。
- 請求項1乃至5の何れかに記載の高硬度高疲労強度を有する動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼からなる鋼帯であって、該鋼帯の表面に窒化層が形成され、該鋼帯表面に圧縮残留応力を付与したことを特徴とする動力伝達用ベルト用加工誘起型マルテンサイト系鋼帯。
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