JP3782289B2 - 形状記憶合金の処理方法および形状記憶合金 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アクチュエータ(駆動装置)用として用いるに好適な形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、一般に、形状記憶合金素材を使用に適した特性を有するように処理する際、結晶粒を微細化したり、結晶粒の方位を調整することは行われていなかった。
【0003】
一方、形状記憶合金を利用するためには所定の形状を記憶させる必要があり、このためにはそれぞれの合金に特有の熱処理をする必要がある。従来、この熱処理は、「形状記憶処理」と呼ばれているが、非常に微妙な処理であるから、厳密に条件を管理することが必要である。例えば、従来よりよく行われている一般的なTi−Ni系合金の形状記憶処理方法としては、形状記憶合金をあらかじめ十分に加工硬化させた上で、所定の形状に加工し、そのままの形に固定して400〜500℃の温度で、数分〜数時間置く方法(中温処理と呼ばれている)や、800℃以上の温度にしばらく置いた後、急冷し、所定の形状に加工して、これを200〜300℃の比較的低い温度で保持する方法(低温処理と呼ばれている)等があった(参考文献:工業調査会発行、石川昇二、木梨貞男、三輪学編著、「図解最新特許に見る形状記憶合金応用アイデア集」)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の一般的な形状記憶合金をアクチュエータとして用いる際には、主として次のような欠点があった。
【0005】
(a)応答性(速度)が悪い、
(b)Ms、Mf点を上げにくいため、使用可能な温度域が限定される、
(c)有効に取り出せる力が小さい、
(d)破断に至るまでの寿命が短い、
(e)短期間のうちに記憶形状の消失や永久ひずみが発生しやすい、
(f)短期間のうちに運動として取り出せるひずみ(以後運動ひずみという)が減少する、
(g)Ti−Ni系、Ti−Ni−Cu系等の、金属間化合物として共有結合性が強い難加工性の形状記憶合金素材の場合、組成によっては、特に脆性が強くなり、割れやすいため、利用が困難である、
このような問題点があるため、従来は、形状記憶合金の用途の8割ないしは9割以上は超弾性ばね材としての利用であり、残り僅かがアクチュエータとしての用途であった。しかも、アクチュエータ用途の形状記憶合金の大半は、コイルばね、線材または板材の形状とされた上、曲げ変形またはねじりおよび曲げ変形からの形状回復を利用していた(コイルばね形状の場合、巨視的には、形状記憶合金は伸縮するが、真の意味では、その変形はねじりおよび曲げ変形である)。このように曲げ変形またはねじりおよび曲げ変形からの形状回復を利用して使用する理由は、従来の一般的な形状記憶合金は安定に利用できる形状記憶効果の範囲が非常に小さいため、この小さなひずみが増幅されるような形態で使用しなければならぬからであった。従来の一般的な形状記憶合金の運動ひずみは、引っ張りひずみ換算で最大数%から10%近いと言われているが、これは、1〜数回の動作の話で、実際には変形と形状回復を繰り返すと運動ひずみも減少し、記憶形状を失い、最終的には破断していた。
【0006】
また、前記従来の一般的なTi−Ni系合金の形状記憶処理方法は、いずれの方法も、加工硬化によって強化された組織の中に部分的に形状記憶効果や超弾性を発生できる組織を生じさせることにより、形状の安定性を保つと同時に超弾性や形状記憶効果を得ようとするものである。言い換えれば、形状の安定性を得るために超弾性や形状記憶効果をある程度犠牲にせざる終えない処理であった。
【0007】
他方、本発明者は、前に特開昭63−240939号において、多結晶体に変態温度区間を含む加熱過程と冷却過程とを備えた熱サイクルを与えるとともに、この熱サイクルの少なくとも一部に重ねて、前記多結晶体に方向性を有するエネルギ場を作用させることを特徴とする多結晶体の結晶方位再配列方法を提案した。この多結晶体の結晶方位再配列方法を形状記憶合金に適用すると、前記従来の一般的な形状記憶合金の欠点を飛躍的に改善することができる。
【0008】
しかしながら、この結晶方位再配列方法においては、形状記憶合金に適用する場合、結晶粒の微細化を行わず、むしろ結晶を成長させて大きくしていた。また、形状記憶合金素材の結晶の方向を揃える最終過程において引張力等を作用させることにより、最終的に得られる形状記憶合金の組織を壊してしまう面があった。このため、前記従来の一般的な形状記憶合金の問題を解決する上で、やや不十分な面があった。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたもので、本発明の1つの目的は、応答性のよい形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、使用可能な温度域が広い形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、実用的に有効に取り出せる力が大きい形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、繰り返し大きな運動ひずみが取り出せる形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、巨大な双方向性形状記憶効果を持つ形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、破断に至るまでの寿命が長い形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、記憶形状が消失しにくい形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、運動ひずみの減少が少ない形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、前記の種々の優れた特性が長期多数回にわたる繰り返しにおいても安定している形状記憶合金および該形状記憶合金を得るための形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、これまで脆性が強く、割れやすいため利用が困難とされていた材料をも素材として用い、靱性を持った線材や板材状の形状記憶合金とすることができる形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、形状記憶合金の組織を壊すことなく、結晶の方向を揃えることができる形状記憶合金の処理方法を提供することにある。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、以下の説明から明らかになろう。
【0021】
【課題を解決するための手段】
形状記憶合金の結晶粒には方位があり、ミクロ的には原子同士の移動範囲が限られた可逆的なすべりあるいは剪断変形(兄弟晶)を出現できる方向は限られているが、複数存在する。例えばTi−Ni系合金の場合、この兄弟晶といわれる変形が可能な方位が立体的に24もある。本発明においては、形状記憶合金の結晶の方向を実質的に予定運動方向に適した方向、言い換えれば形状記憶合金の予定運動方向の運動に適した方向に揃えるようにする。ここで、本明細書において予定運動方向とは、引張りやねじり曲げ運動等、処理後の形状記憶合金をアクチュエータとして使う場合に想定された方向をいう。例えば線状のものを収縮−弛緩する形で使う場合は引張り方向、コイルばね形状で使う場合はねじり方向となる(なお、コイルばね形状で使う場合は、加熱時、ねじりおよび曲げ変形からの形状回復を行うことになるので、厳密に言うと予定運動方向はねじりおよび曲げ方向と言うこともできるが、実際にはねじりの要素の比率の方がはるかに高いので、実質的に予定運動方向はねじり方向である)。
【0022】
本発明による形状記憶合金の処理方法の一つは、形状記憶合金素材を結晶の大きさが実質的に均一な微細結晶構造とする工程と、結晶の方向を実質的に予定運動方向に適した方向に揃える工程とを有してなる。
【0023】
本発明による形状記憶合金の一つは、微細結晶の多結晶体とされ、結晶の大きさを実質的に均一とされるとともに、結晶の方向を所定方向の運動に適した方向に実質的に揃えられたものである。
なお、各結晶粒の大きさは10ミクロン以下とすることが好ましく、特に数ミクロンないしは1ミクロン以下とすることが好ましい。このような大きさとすると、変形−形状回復を繰り返しても特に安定した状態になる。
【0024】
一般に、結晶質の材料において各材料がそれぞれ持つ特有の性質は、その材料の結晶内の現象に基づくことが多い。したがって当然、これらの特有の性質は、該材料が単結晶の状態であるときに最も顕著に認められる場合が多い。このため、ある材料のある優れた性質ないしは機能を利用しようとする場合、一般には該材料を単結晶体とすると最も良い結果が得られることになる。形状記憶合金の場合も、基本的にはこのことが当てはまる。単結晶の形状記憶合金は、全体が完全なマルテンサイト状態になるような低温状態では、可逆的なすべりを起こすことのできる範囲では、すべり方向に極く小さな力で変形させることができ、大きく良好な形状記憶効果を得ることができる(ここでいう可逆的すべり変形とは、形状記憶効果でいう回復可能な変形のもとになる限られた範囲内での可逆的運動が可能な剪断変形であり、塑性変形の原因である恒久的かつ連続的な原子同士のすべりではない)。
【0025】
しかしながら、実際には、単結晶体の材料を工業的に製造するのは極めて困難であるし、製造できても非常に高価なものとなる。また、形状記憶合金の場合、単結晶体とすると、組織は不安定となる。
【0026】
従来の一般的な形状記憶合金は、勿論多結晶体であり、しかも一般に各結晶の方位はランダムであり、各結晶の大きさも不均一であるので、前記したような種々の欠点が生じると考えられる(これについては、後でさらに詳しく説明する)。
【0027】
しかるに、本発明者は、前記本発明の形状記憶合金のように、微細結晶の多結晶体とし、結晶の大きさを実質的に均一とするとともに、結晶の方向を所定方向の運動に都合のよい方向に実質的に均一に揃えるようにすれば、単結晶の形状記憶合金の長所と前記従来の一般的な形状記憶合金の長所との両方を併せ持つ形状記憶合金が得られることを見い出した。形状記憶合金内部の結晶粒の大きさと運動の方向を揃えてやれば、それぞれの結晶粒に巨大な形状回復力が発生しても無理な変形が加わる部分がなく、内部組織は破壊しにくくなる。また各結晶が適当に小さければ、それぞれの変形方向の違い等によって生じる構造的矛盾も小さく、結晶自体も壊れにくい。さらにこうした材料では、結晶粒界付近の組織の体積的割合も多いため、構造的矛盾を吸収できる能力も高い。また、このような材料では、結晶粒界付近の組織がアモルファス的性質を示すせいか、素材の段階で脆い材料でも、広いひずみ範囲で靱性に富んだ線材や板材にすることができる。微細でも各結晶の方向が揃えば、比較的大きな形状記憶効果を安定して取り出せる。また各結晶の運動しやすい方向が揃っているため、変形時に必要な力が小さくてよい。結晶粒界付近の組織の体積的な割合が多いため、不純物の析出等の方法を使わなくても、この部分に大きな弾性エネルギーを蓄えることができるので、変形時に必要な力が小さくてよい性質とあいまって安定した大きな双方向性形状記憶効果を得ることができる。
【0028】
今述べた事項と一部重複することとなるが、このようにして本発明の形状記憶合金は、次に列記するような優れた特性を有している。
【0029】
(A)温度−ひずみ線上で温度のヒステリシスが小さく、変態温度域も狭いため、加熱−冷却が迅速に行われ、応答性がよく、高速な往復運動ができる。例えば、本発明をTi−Ni−Cu系形状記憶合金に適用した場合、比較的広い応力範囲で温度のヒステリシスをほぼ0にすることもできる。また、本発明の形状記憶合金は、僅か10℃の温度幅で150Mpaの作用負荷の状態でフルストロークの8割近い(ひずみε=4%)の連続した往復運動ひずみを繰り返し取り出すことに成功している。これはエンジンに例えると、従来の形状記憶合金と比較して同じ大きさで回転数が高くなるようなものである。耐荷重性の向上と合わせ、馬力が数段高くなることと同じ意味がある。サーボアクチュエータ等双方向の運動が必要な機構では応答性の大幅な向上を期待できる。
【0030】
(B)形状記憶合金から実用的に取り出せる力(以後回復力と記す)を大きくすることができる。回復力は、最大回復応力ではなく、繰り返し利用できる疲労等を考慮した応力の限界から決まる。これは、エンジンやモーターに例えると最大トルクに当たる。本処理を施した形状記憶合金は、最大回復応力が同じ材料であっても、この繰り返し動作の中で実用的に利用できる応力の限界が高い。従来の形状記憶合金は回復力が小さく、無理に大きな応力を加えたまま、運動を繰り返すと前記のように記憶形状の喪失(いわゆるダレ)や運動ひずみの減少、破断を生じていた。これは、アクチュエータ運動寿命が短くなることを意味する。前記したように従来の一般的な形状記憶合金アクチュエータが、多くの場合、コイルばねの形状とされていたのは、このへんの事情によるもので、コイルばね状の形状記憶合金が変形しても、材料自体のひずみは非常に小さい。したがって実際に利用している応力は、実際に発生できる力より、かなり小さなものであった。
【0031】
(C)繰り返し大きな運動ひずみが取り出せる。直線形状のものでは、引張りひずみで5%以上の変形−形状回復の繰り返しが可能である。運動ひずみで5%以上という値は、長さ1mの丸棒が5cmも伸び縮みすることに相当する。これは、一般的なコイルばねが、コイル形状と直線形状の間で変形−形状回復するより、はるかに大きな変形量である。この値は、超弾性合金も含めた一般的な形状記憶合金の利用可能な範囲をはるかに超える大きさである。Ti−Ni−Cu系合金等の脆性の強い素材に本発明の処理を施した場合、この巨大な運動ひずみを1億回以上安定して取り出せることもある。なお、従来の形状記憶合金がコイルばねで使用される場合、運動ひずみは、引張方向に換算すれば、0.1%以下の場合が多かった。形状記憶合金のコイルばねも、鉄等の非形状記憶合金のばねと同じ位の変位でしか利用されない場合が多かったのである。
【0032】
(D)巨大な双方向性形状記憶効果を持たせることが可能である。双方向性形状記憶効果とは、低温で形状回復と反対方向の変形を与える際に力が不要であるか、または極めて少なくてよい現象である。見た目には、低温時に変形した形状と高温時に形状回復した形状との2つの形状を覚えているような挙動を示す。例えば、直線の引張方向に記憶形状を持つものでは、加熱すると記憶している長さに収縮して硬くなる一方、冷却時には、負荷の無い状態でも、ちょうど筋肉が弛緩するように柔らかくなり、自分で伸びて低温時の元の長さと形に戻る。つまり加熱と冷却だけで、外部からバイアス力を作用させることなく、伸び縮みするわけである。文献等によると双方向性形状記憶効果は、一般的に引張りひずみ換算でε=1%以下の部分的な現象であり、不安定なため実用化が困難とされている。事実、この現象を利用した機器類は、これまでのところほとんど見当たらない。一方、本発明の処理を用いると形状記憶効果の発生するほぼ全域、すなわち形状回復可能な全ひずみ量の範囲で巨大な双方向形状記憶効果を発生できる。本発明の処理を利用した多くの場合、無負状態でも引張りひずみ5%以上の双方向性形状記憶効果を発現することができる。本発明の処理で作られた多結晶性の形状記憶合金は、各結晶の方向と大きさと配置が外部からの変形に適応した状態のため、加工中に加えられる材料内部の形状回復方向と反対の残留応力場が僅かに存在するだけで、全運動ひずみの範囲に近い大きさの安定した双方向性形状記憶効果を誘発できるものと本発明者は考えている。この巨大な双方向性形状記憶効果は、無負荷状態で1億回近い繰り返し動作でも安定して発現する。
【0033】
(E)破断に至るまでの寿命が長い。従来、形状記憶合金アクチュエータの動作寿命は、小さな運動ひずみで使っても最大でも10万回程度の場合が多かった。特に引っ張りひずみで2%を越える大きな運動を行う場合は、寿命が極端に短くなる傾向があった。しかし本発明の処理を施した形状記憶合金では、5%近い巨大な運動ひずみの範囲で1億回にも及ぶ安定した運動が得られる。
【0034】
(F)記憶形状と運動ひずみ範囲が安定している。すなわち、変形−形状回復を繰り返しても記憶形状が失われたり、徐々に運動ひずみ範囲が小さくなる現象がないか、または非常に少ない。言い換えれば、運動ひずみの大きさが動作寿命に与える影響が少ない。この材料は、各結晶粒の大きさ、方向および配置が外部からの変形に適応した状態にあるためと考えられる。一定範囲の外部からの変形は、主に形状記憶合金特有の巨大な可逆的熱弾性変形をする結晶が受け持ち、これを超える強い外力は、可逆的熱弾性変形を発生しにくい結晶粒界領域の組織が受け持つと考えられる。多数の繰り返し動作によっても、各結晶粒の移動や変形、回転等がおきにくく、結晶自体が塑性変形を受けにくい構造である。
【0035】
(G)素材が脆くても靱性を持った線材や板材を作ることができる。可逆的大変形可能な微細な結晶粒と体積的に割合の多いアモルファス的な結晶粒界付近の組織からなるためか、一般的な形状記憶処理を施した材料より、見かけ上の靱性が高くなる。
【0036】
(H)上記各項の優れた特性が長期多数回に渡る繰り返しにおいても安定している。
【0037】
本発明による形状記憶合金の処理方法の一つの態様は、形状記憶合金素材に冷間強加工を加え、該形状記憶合金素材内部の結晶構造を破壊した後、前記形状記憶合金素材を、少なくとも回復再結晶が始まる段階では予定運動方向に応力が作用されるようにした状態で、再結晶開始温度以上かつ再結晶開始温度付近の温度に短時間加熱し、発生する前記予定運動方向の内部応力を徐々に緩和する形で前記予定運動方向に異方性を持った微細で実質的に大きさが均一な結晶粒を生成する工程と、
オーステナイト相が残留しない極低温下で、前記予定運動方向の応力によって前記形状記憶合金素材に強い変形を加え、該応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と、
適当な作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、オーステナイト変態終了温度Af点と再結晶温度との間の温度に前記形状記憶合金素材を加熱し、前記予定運動方向に適した方向に各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを有してなる。
【0038】
形状記憶合金素材は、予め焼き戻し処理をしておくことが好ましい。
前記異方性を持った微細で実質的に大きさが均一な結晶粒を生成する工程において、形状記憶合金素材に冷間強加工を加えるのは、形状記憶合金素材をアモルファス状態に近い状態とするためである。形状記憶合金素材が既にアモルファス状態またはそれに近い状態となっている場合は、この冷間強加工は不要となる。
【0039】
前記異方性を持った微細で実質的に大きさが均一な結晶粒を生成する工程において、冷間強加工は温度特異点B(サブゼロ温度域において見られる比熱や電気抵抗等の変態を示す物性値の変曲点であり、後に「実施例」の項で詳しく説明する)より十分低い極低温状態で施すことが好ましい。これは、材料内部に残留する僅かな非マルテンサイト組織もマルテンサイト化するためである。一般的にいうマルテンサイト変態終了点(Mf点)は、完全焼き鈍しをした試験片で測定した温度であり、加工された材料には、この温度でも多くの非マルテンサイト組織が多く残留している。非マルテンサイト組織としては、残留オーステナイトや加工硬化により生じた組織等が考えられる。
【0040】
前記異方性を持った微細で実質的に大きさが均一な結晶粒を生成する工程において、形状記憶合金素材を再結晶開始温度以上かつ再結晶開始温度付近の温度に短時間加熱する際には、該形状記憶合金素材に予定運動方向の応力を加えた状態としてもよいし、形状記憶合金素材を緩みのない無負荷状態で形状を拘束した状態としてもよい。この時点では、形状記憶合金素材は加熱中に予定運動方向に形状を回復できるマルテンサイト的変形成分を有するため、緩みのない無負荷状態で形状を拘束した状態としても、加熱時に予定運動方向の応力が発生するため、応力を負荷した状態で加熱するのと同様な効果が得られる。基本的に必要なのは、回復再結晶が始まる段階で予定運動方向に負荷応力状態であることである。
【0041】
前記各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程により、結晶粒の方向が揃えられるが、ここでいう結晶粒の方向とは、マルテンサイト変態による可逆的すべり変形を実際に起こしやすい方向であって、例えば、兄弟晶の方向のうちの一つの方向のこと等であり、必ずしも結晶学的な同一方位を意味するものではない。
【0042】
前記結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とは、1回行っただけでは、十分な効果を得られない場合は、必要回数繰り返すとよい。通常は、1〜3回行えばよい。
【0043】
本発明の形状記憶合金処理方法においては、上述のようにして、形状記憶合金素材の結晶を予定運動方向に対して可逆的な変形に適した方向に揃えるように再配列調整した後、繰り返し運動初期に現れる不安定さを取り除くために、慣らし運転の工程(従来の形状記憶合金において行われていたトレーニングと同じ効果をねらった処理である)を行うことがことが好ましい。
【0044】
この慣らし運転の工程は、前記各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程の後、応力を管理しながら、ひずみを拘束しない状態でMf点以下の温度と、強度の塑性変形だけが緩和される温度との間で熱サイクルを加えることにより行うことが好ましい。前記熱サイクルは、通常、数回から数十回以上加えることが好ましい。これにより、寸法の安定性と双方向性形状記憶効果のための加工硬化や弾性エネルギー場を持つ構造欠陥を結晶粒界付近の組織にのみ適度に蓄積させ、それによって前記繰り返し運動初期に現れる形状記憶合金の不安定さを取り除くことができる。
【0045】
本発明の処理を行うことにより形状記憶合金に如何なる現象が生じるか、および本発明の処理をなされた形状記憶合金が何故前述したように種々の優れた特性を有するかについては、未だ学問的には完全には解明されてはいない。しかし、本発明に対する理解を容易にするため、本発明者が今のところ考えている仮説に基づいて補足的な説明を次に述べておく。
【0046】
多結晶体の形状記憶合金においては、各結晶は単結晶としてふるまい、結晶粒界付近の組織がそれぞれの結晶をつないだ状態と考えられる。したがって、結晶の方位や大きさがランダムである場合、各結晶が超弾性や形状記憶効果による大きな変形を起こすと、粒界付近の組織に各結晶の変形によってもたらされる構造的矛盾が加えられる。鋳造や熱間加工等一般的な加工によって作られた後、形状記憶処理を施された従来の一般的な形状記憶合金は、多結晶体であって、結晶の方位や大きさがランダムであったり、強加工で結晶自体が破壊されているため、これらがスムーズな変形と形状回復の障害となり、マルテンサイト変態を完了するのに充分な低温状態でも、材料の変形にかなりの力を必要とする。このため一般的な形状記憶処理後でもアクチュエータとして良好な形状記憶効果を得にくい。
【0047】
また、結晶粒内部の形状回復力は強力で、結晶粒同士の結合部である結晶粒界付近の組織や形状回復挙動をしていない結晶粒を、永久変形させたり破壊するのに十分な大きさがある。実用的な処理を施された従来の一般的な形状記憶合金において、大きな変形とその形状回復を繰り返すとすぐに記憶形状を失ったり、硬化して運動できるひずみの大きさが少なくなるのは、上記の現象が原因となって材料の内部が徐々に変化して行くためと考えられる。特に大変形を与え、その変形を拘束した状態で形状回復を行うと、各結晶の形状回復力が材料内部に一気に作用し、形状記憶合金の劣化が急激に進むことになる。一般的な形状記憶合金や超弾性ばね等は、強加工し、加工硬化でこの巨大な結晶の形状回復力を抑えるような材料の内部構造を作って、しのいでいるのが実状である。
【0048】
しかるに、本発明のように、材料内部の結晶粒の大きさと運動の方向を揃えてやれば、それぞれの結晶粒に巨大な形状回復力が発生しても、無理な変形が加わる部分がなく、内部組織は破壊しにくくなる。また各結晶が適当に微細であれば、それぞれの変形方向の違い等によって生じる構造的矛盾も小さく、結晶自体も壊れにくくなる。さらにこのような微細結晶の材料では、結晶粒界付近の組織の体積的割合も多いため、構造的矛盾を吸収できる能力も高い。そして、結晶粒界付近の組織がアモルファス的性質を示すせいか、素材の段階で脆い材料でも、広いひずみ範囲で靱性に富んだ線材や板材にすることができる。また、微細でも各結晶の方向が揃えば、比較的大きな形状記憶効果を安定して取り出せる。また各結晶の運動しやすい方向が揃っているため、変形時に必要な力が小さくてよい。さらに、結晶粒界付近の組織の体積的な割合が多いため、不純物の析出等の方法を使わなくても、この部分に大きな弾性エネルギーを蓄えることができるので、変形時に必要な力が小さくてよい性質とあいまって安定した大きな双方向性形状記憶効果を得ることができる。
【0049】
形状記憶合金の結晶の方位がランダムである場合、平均的結晶粒径が大きいほど形状記憶効果が顕著に現れる。しかし材料としての安定性は損なわれる。これは、結晶粒が大きく結晶の方位がランダムなため構造的矛盾が発生しやすく、内部の組織変化が起こりやすいためと考えられる。例えば、形状記憶合金に対する処理として従来から一般に高温処理と呼ばれている処理がある。この処理は、高温で十分焼き鈍す処理であり、結晶粒が大きくなるため、大きな形状記憶効果を発生できるが、変形−形状回復を繰り返すと記憶形状の消失や永久変形の発生、運動ひずみの減少等がすぐ起こる。したがって、前記高温処理は、大きな運動ひずみを取り出せても、材料が不安なため、現在では実用的な処理方法として利用されることがない。反対に、結晶粒が小さければ、表面に現れる形状記憶効果は小さくなるが、各結晶の動きによって生じる構造的矛盾も小さいため、各結晶も影響を受けにくく、材料的な安定性がよい。
【0050】
また、材料内部の組織が微細結晶粒の状態では、大きな結晶粒の状態に比べ、粒界付近の組織の割合が多くなる。このため結晶粒内部の性質もさることながら、結晶粒界部分の性質が顕著に現れるようになる。整った原子配列を持つ結晶粒内部に比べ、結晶粒界付近の組織は、乱れており、アモルファス的な性質が強いと考えられる。結晶粒内部と結晶粒界付近の金属組織は、成分的には大きな差がなくても構造が異なる材料である。当然結晶粒界付近の性質は、結晶粒内部とかなり異なるはずである。結晶粒内部は形状記憶効果による変形を起こし易いのに比し、結晶粒界付近の組織は結晶粒内部に挟まれ拘束されているため、可逆的変形能力が少なく、形状記憶効果による変形を起こしにくいので、結晶粒内部とは異なった材料と考えられる。当然、結晶粒内部と結晶粒界とは、変態点が異なる。本発明の処理で行われる結晶粒内部の方向を揃えるための再配列処理等は、この粒界およびその近傍の性質を利用していると考えられる。
【0051】
本発明の処理の大きな特長は、従来のほとんどの加工法や形状記憶処理が強制的にひずみを管理し、必要な形や記憶形状作り出すのに対し、主要な過程はほとんど、ひずみを管理せず、応力を管理した自由変形可能な環境で行われることである。ひずみを管理しないことで、材料自身が内部構造を自ら、その運動環境に適した構造に作りかえる性質を利用しているのである。
【0052】
また、全ての処理過程が高速な動的加熱冷却中で行われるため、処理が複雑な割に従来の加工熱処理のような長時間の熱処理を必要としない。高性能な形状記憶合金アクチュエータ材料の高速連続大量処理が可能になる。
【0053】
形状記憶合金、特にTi−Ni系、Ti−Ni−Cu系形状記憶合金は、単に数種の金属を混ぜ合わせた合金ではなく、共有結合性の強い金属間化合物である。共有結合性が強いということで、金属ではありながらセラミック等の無機化合物的な特性があると考えられる。共有結合性が強いということは、金属結合に比べ、材料内部で自由電子がかなり拘束されている材料である。自由電子の移動が少ないということは、金属でありながら熱伝導が悪く、電気抵抗が高い特性からも裏付けられる。また自由電子が移動しにくいということが、電子雲の融合や再編成を起きにくくする。これがTi−Ni系、Ti−Ni−Cu系形状記憶合金を塑性変形しにくく、脆性が強い材料にする大きな理由である。本発明の処理法は、形状記憶合金全般に有効なものであるが、特に共有結合性が強く、素材的には脆いTi−Ni系、Ti−Ni−Cu系等の合金に対して著しい効果が認められる。このような材料に適用すると運動寿命、とりわけ大きな負荷状態における繰り返し動作で運動範囲と寸法の安定性が優れ、強度的にも靱性が増す。
【0054】
そして、従来加工が困難か、加工できても脆くて使い物にならなず、あきらめていた多くの組成も利用できるため、これまでなかった性能を持つ形状記憶合金を作り出せる可能性もある。
【0055】
本発明による形状記憶合金の処理方法の他のものは、オーステナイト相が残留しない極低温下で、予定運動方向に異方性を持った結晶を有する形状記憶合金素材に、前記予定運動方向の応力によって強い変形を加え、該応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と、
適当な作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、オーステナイト変態終了温度Af点と再結晶温度との間の温度に前記形状記憶合金素材を加熱し、前記予定運動方向に適した方向に各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを有してなる。
【0056】
この場合は、必ずしも本処理の前に形状記憶合金素材の結晶構造が微細で実質的に均一な大きさとされている必要はない。この場合も、前記の場合と同様にして、形状記憶合金の組織を壊すことなく、結晶の方向を揃えることができる。
【0057】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0058】
図4〜9は、本発明による形状記憶合金の処理方法の第一実施例を示している。本実施例の場合、完成後の形状記憶合金がアクチュエータとして使用される際、加熱すると記憶している長さに収縮する一方、冷却すると弛緩して低温時の元の長さ(記憶している長さに比し伸び変形を受けた長さ)に伸張することが想定されている。したがって、本実施例における予定運動方向は引張方向である。本実施例においては、形状記憶合金素材1としてTi−Ni−Cu系(Cuの原子百分率8〜12%)形状記憶合金を用いた。
【0059】
本実施例における処理は、基本的に三段階からなる。第一段階は、異方性を持った微細結晶の生成過程(工程1,2)、第二段階は、それらの結晶を運動の方向に適した状態に再配列調整する過程(工程3〜5)、第三段階は、繰り返し運動初期に現れる不安定さを取り除く、慣らし運転の過程(工程6)である。しかし処理の本質は、第一段階と第二段階にある。第二段階を終了した状態でアクチュエータとして高性能な形状記憶合金ができる。以下に、順を追って本実施例の処理を説明する。
【0060】
(準備作業)
鋳造および熱間加工された原材料状態の形状記憶合金素材を焼き鈍し後、冷間ダイス引きや冷間圧延で所定寸法に加工する。この加工された形状記憶合金素材から、加工硬化したままの素材試験片Hと、JISで定められている900℃付近の温度で十分焼き鈍した正準化試験片Nとを作成する。両方の試験片H,Nとも連続的にゆっくりとした熱サイクルを与え、加熱−冷却中の比熱変化(DSC測定)や電気抵抗変化、寸法変化、硬さ変化、組織変化等を観測し、形状記憶合金素材の変態点および温度特異点等を測定する。図1は、変態点および温度特異点等の大まかな関係を模式的に示したものである。図中の数値は、おおよその目安であり、単に各変態点や温度特異点等の関係を示したものである。これらの温度は、素材の種類によってかなり異なる。図2,3は、実際のDSC(走査型熱量計)のデータ例である。
【0061】
本実施例では、この測定のため実施した熱サイクルの温度の範囲を、最高加熱温度が約800℃、最低冷却温度が液体窒素温度のマイナス196℃とした。加工硬化したままの試験片Hからは、主に温度特異点S、再結晶温度Rが観測される。ここで、温度特異点Sは後述する強度の塑性変形が緩和する温度域Dと再結晶温度Rとの間に見られる比熱や電気抵抗や硬さ等の変態を示す物性値の変曲点である。今のところ、本発明者は、この温度特異点は粒界の変態に関わるものであると推定している。一度、加熱再結晶をした試験片Nからは、形状記憶効果に関係したAs、Af、Ms、Mfの各変態点の他、試験片Hとの比熱の差として強度の塑性変形のみが緩和する温度域D、および温度特異点Bが観測できる。前記温度特異点Bは、サブゼロ温度域において見られる比熱や電気抵抗等の変態を示す物性値の変曲点であり、サブゼロ温度域の変態点と考えられるものである。試験片Hにおいてもこのような特異点が観測されることもあるが、試験片Nほど明確ではなく、内部応力のせいか、温度がずれる傾向があるため、温度域Dと再結晶温度R以外の変態点は、試験片Nのものを採用する。
【0062】
温度特異点Bは、材料の組成によっても異なるが、液体窒素等を使用しないと得にくい−40℃から−150℃に及ぶ極低温度域にあることが多く、普通の冶金学的測定環境では見つけにくい。また材料の状態によっては、明確に確認できないこともあり、これまで文献等でもほとんど見られない。しかしこの温度Bは、本実施例において特に重要な温度である。DSC(走査型熱量計)等で得られるMf点(マルテンサイト変態の終了温度)は、主に素材の体積の大半を占める結晶粒内部のそれを測定しているものと思われる。しかし結晶粒界は、このMf点温度でも方位の異なる結晶に挟まれて拘束された状態のため、オーステナイト相に近い状態のまま残留している成分があると考えられる(残留オーステナイト相)。さらに塑性変形による加工硬化や粒界特有の不純物析出等による弾性エネルギーの高い状態も考えられるため、拘束を受けた結晶粒界付近の組織のMf点だけが低い温度に移動しても不思議ではない。DSCによるMf点よりもかなり低い温度にある温度特異点Bは、このような粒界付近の組織のMf点的なものと本発明者は考えている。DSCのデータでは、各変態点および特異点とも比較的広い温度範囲を持ったなだらかな変曲点で明確なピークを持つことは少ない。これは測定している素材が結晶の大きさも方位も拘束状態もまちまちな多結晶体のためと考えられる。一般的に変態点といわれている温度もこの変態温度区間の中心や平均的な温度を指すものである。
【0063】
(工程1)
鋳造および熱間加工された原材料状態の形状記憶合金素材1を焼き鈍し後、該素材1に冷間加工で材料内部にまで強度の塑性変形が十分及ぶような強変形を引張方向に異方性を残しながら加え、線材状とする。具体的には、液体窒素を用いた極低温下で加工硬化度の限界に至るまで、図4のように、形状記憶合金素材1にダイス2による線引きを繰り返す( ただし、本発明においては、この作業は常温で行ってもよい )。ダイスの場合、全方向から外力が加わるため、強い変形で素材1の材料内にインゴット凝固時やそれ以後の熱間加工の際に生成された大きさも形も方位もランダムな結晶がほとんど破壊された状態になる。しかし、このような状態で加工しても引張方向には自由度があるため、収縮を起こすマルテンサイト的成分が残留する。本実施例においては、この成分は、引張方向に異方性があり、次に説明する工程2において再結晶時に結晶の成長方位を与える重要な要素となる。このような冷間加工後の形状記憶合金素材1の状態は、長手方向に異方性を残した状態で結晶がほとんど完全に砕かれたアモルファス的な状態と考えられる。
【0064】
前記冷間加工は、本発明においては、前述のように常温で行ってもよいが、本実施例のように液体窒素温度等のような温度特異点Bより十分低い、極低温下で行うことが好ましい。これは、材料内部に残留する僅かな非マルテンサイト組織もマルテンサイト化するためである。一般的にいうマルテンサイト変態終了点(Mf点)は、完全焼き鈍しをした試験片で測定した温度であり、現実の加工された材料には、この温度でも多くの非マルテンサイト組織が多く残留している。非マルテンサイト組織としては、残留オーステナイトや加工硬化により生じた組織等が考えられる。この処理は、残留オーステナイト的成分が、なるべく残らないような状態で加工することに要点がある。オーステナイト成分が残留すると、加工後の材料の状態によっては、部分的であれ、可逆的すべりを可能にしたり、異方性を持った再結晶過程を妨害し、以後の処理を不完全にする場合がある。これは最終的に形状回復率や伸び等で動作寿命に影響を与えることにもなる。ダイス2の加工熱による温度上昇にも注意する必要がある。特に共有結合性の強いTi−Ni系、Ti−Ni−Cu系形状記憶合金の場合、変形抵抗がひずみ速度に強く依存する傾向があり、発熱しやすい。強応力下で温度が上昇した状態では、マルテンサイトとオーステナイトが混在して存在するため、強度のあるオーステナイトより弱いマルテンサイトの方が優先的に破壊され、オーステナイトが残りやすくなる。完全に変態しきったオーステナイトは、方向性を持ちにくく、したがって引張方向に異方性を出しにくい。よって、高速な加工は注意が必要である。B点より十分低い、例えば液体窒素温度等で強加工すると、この処理の理想に近い状態が得られるものと考えられる。このような温度下では、形状記憶合金素材1中のオーステナイトのほとんど全てがマルテンサイト化するため引張方向に適した方位のマルテンサイトを除いて、他は全て均一に破壊される。残ったマルテンサイトが発生する応力が、次に説明する工程2の再結晶の異方性を司る因子となる。
【0065】
なお、強加工の方法としては、線引き加工の他に、冷間圧延加工やショットブラストも有効な方法である。また、スパッタリングやメッキ等で素材1を作った場合は、はじめからアモルファス的組織状態と考えられるので、この工程1のように冷間強加工により結晶構造を破壊する必要はなくなる。
【0066】
(工程2)
工程1を経た形状記憶合金素材1の両端部を、図5のように、たるまないように適当な張力を作用させたまま拘束手段3で拘束して固定することにより、引張方向の応力を加えた状態でひずみを拘束し、再結晶開始点以上でかつ該再結晶開始点付近の温度に数秒ないし数分の短時間加熱する。これにより、引張方向に異方性を持った実質的に大きさが均一で等軸の微細結晶粒が生成する。これは、引張方向の異方性のため加熱に伴って強い内部引張応力が発生するが、再結晶がこの内部応力を徐々に緩和する方向に優先的に進むためと考えられる。このような材料の状態にすると、最終的な寸法安定性や運動特性が良くなる。拘束、加熱する前に加える応力の大きさは、比較的制約が少なく広い範囲で同様の効果が期待できる。工程1のように冷間で強加工を加えた形状記憶合金素材1は、加熱中に形状を回復できる変形成分をある程度残留する。したがって本工程において応力を加えず、無負荷でたるまないように、ただ長さを拘束するだけでも、加熱中に形状記憶合金が収縮しようとして応力が発生するため、前記のように応力を負荷してひずみを拘束するのとほぼ同様な効果を持たせることができるので、そのようにしてもよい。反対に強い応力を負荷した状態で拘束を行っても、必要以上の応力は、再結晶中に緩和されるため影響が出にくいが、仕上がり寸法の精度が落ちる。例えば線材を引張りで処理する場合なら細くなってしまう。基本的には、回復再結晶が開始する段階で引張方向に適当な負荷応力状態であればよい。大切なのは、再結晶時になるべく引張方向以外の応力や拘束が加わらないようにすることである。実際には、本実施例では、10〜100Mpa程度の応力を加えて拘束した。
【0067】
なお、トンネル炉を使った量産化を考えた場合、上述のように拘束する代わりに外力によって応力を加えたままの状態で同様な加熱処理を行っても似たような処理ができるが、応力を負荷したままの状態だと、せっかくできた方向のそろった持った微細結晶が、一部壊れてしまうためか、拘束状態ほど性能のいい製品ができない。また応力の管理も難しい。
【0068】
応力をかけ拘束する効果は、以下のように考えられる。工程1を経た状態の材料では、材料内部の再結晶による結晶粒の生成が、より変形を強く受け、より格子構造が乱れた応力場が強い部分から優先的に起こると考えられる。引張方向の外力によって応力を加えた状態でこの結晶生成を行うと、その応力との釣り合いの中で結晶粒内部および結晶粒界がともに残留応力やひずみが消去された状態となる。このようにしてできた材料は、冷却後、外力を取り除くかまたは拘束を解いて、応力を取り去ると、緩和された内部応力のバランスが崩れ、構造的に引張方向に偏った残留応力場を持つような素材1となる。また一般的に結晶ができるとき、生成された結晶内部より結晶の外の部分の方が不純物濃度がはるかに高く、最終的には結晶粒界に集まるものと考えられる(組成的過冷現象)。この不純物としては、炭素、カーバイド、酸化物等の素材1の大半の部分と異なる組成の物質が考えられる。この工程2により、前記不純物も応力を加えた状態で安定な位置に落ち着き、冷却後、応力を取り去った状態では、構造的に引張方向に偏った状態になる。これらの再結晶の異方性と不純物による引張方向の偏りは、永久変形を防ぐ弾性的なエネルギー障壁および双方向性形状記憶効果を起こす応力場のもとになると考えられる。またその異方性のため次の工程3以降を行いやすくする。事実、炭素濃度の違いにより双方向性形状記憶効果の出現しやすさが異なる。
【0069】
この工程2では、共有結合性の強い材料の方が熱伝導が悪いためか微細結晶を作りやすい。現状では、Ti−Ni系よりもTi−Ni−Cu系の方が微細結晶を作りやすいようである。あくまで比較の問題であるが、加熱温度が高すぎたり、加熱時間が長すぎると、粒界付近の組織がなくなったり、結晶が大きくなりすぎるためか、できた材料のアクチュエータとしての性能が劣り、材料的にも不安定である。一般的には、材料中の結晶粒が大きな方が形状回復ひずみ、すなわち回復力が大きくなる傾向がある。しかし本処理方法では、金属材料としては小さめの数ミクロン以下のできるだけ実質的に大きさが均一で等軸の微細な結晶粒にする方が良い結果が得られる。これは、以後の結晶粒の方位を揃える過程が重要と考えられるからである。結晶粒が小さく実質的に大きさが均一の方が結晶粒を回転させやすいのである。また形状記憶効果による繰り返し運動に適した安定な結晶粒の大きさが存在するものと考えられ、この大きさは、比較的小さいようである。本処理に最適な結晶粒の大きさは、素材1や処理対象の形や大きさにも関係する。
【0070】
(工程3)
工程2を経た材料に再び、温度特異点Bを十分下回るような極低温下の完全なマルテンサイト状態において、図6のように、断面方向に無拘束の自由引張状態で、反力が急激に増加するところまで、強い引張り力F1を加え、引張方向に変形を与える。温度特異点Bは、強応力、強変形によって変化することもあるので、前記極低温状態を得るには、ドライアイスや液体窒素等を使う。この状態で結晶粒内部、結晶粒界ともに完全なマルテンサイト状態になっているものと考えられる。結晶粒内部にも粒界にもオーステナイト相を残留させないような状態で変形を与えることがポイントである。特に結晶粒内部は、先述の原子が可逆的なすべりを生ずる範囲では、非常に柔らかく外力にしたがって容易に変形して反発しない。この結晶粒内部の巨大な変形ひずみは、一般的な金属の弾性ひずみの数十〜100倍に達する。他方、方位の違う結晶粒に挾まれ拘束された結晶粒界付近の組織は、結晶粒内部の組織のように自由に移動ができないため、周りの結晶粒の変形とともに結晶粒同士が、外力にしたがってずれる方向に集中的に変形されることになる。結晶粒界付近の組織にとってこの巨大なすべり変形は、先の可逆的すべりの範囲を超えた塑性変形である。材料全体では、外力が緩和され、そのひずみが結晶粒界付近の組織に蓄積される形で変形が起こる。この過程では力をかけすぎて塑性変形が結晶粒内部まで及ばないようにしなければならない。しかしこの限界の力は、図7の例のように連続的に変形時の応力−ひずみ線を観測することで容易に知ることができる。本実施例のように形状記憶合金素材1が線材である場合、極低温下で、引張方向以外の外力を受けない自由引張り変形を行って行くと、比較的小さな力で変形が起こった後に、急激な反力の増加として前記限界が観測できる。反力を無視し無理に変形を行うと、結晶粒内部にも塑性変形が及び、内部に欠陥を生じたり、材料が突然破断する虞もある。一般には、300〜500Mpa位の応力を与えることが好ましい。
【0071】
なお、引張方向によりよい性能を得るには、この実施例のように特定の方位以外の拘束がない自由引張り等の変形が望ましい。比較的小さな断面の材料をこのような状態で変形させると断面内の拘束が緩いため、結晶粒同士の回転やすべりがおきやすい。反対にダイス線引きのような内部の結晶の動きまでも拘束するような強度の変形は、この過程の効果を損なう。
【0072】
(工程4)
工程3を終了した形状記憶合金素材1を図8のように工程3より弱い引張り力F2を断面方向に無拘束の自由引張状態で作用させた状態で、温度特異点S付近まで析出や拡散等が生じない速度(例えば、100〜200℃/min程度の速度)で加熱後冷却する。力F2は、引張方向に連続的な変形が起こらない範囲の小さな力である。この過程でも強制的にひずみを加えるのではなく、応力を管理するといった方がいい。一般的には、100〜200Mpa位の応力が好ましいと考えられる。あらかじめ引張方向の変形を与えた状態で拘束し、温度Sまで加熱しても形状回復力が発生するため同様な効果が得られるが、拘束時のひずみの管理が難しい。この状態では、結晶粒内部が完全に硬いオーステナイト相になるため、結晶粒界付近の組織は拘束された状態になる。温度Sでは、無理な変形もなく、原子配列が比較的整った結晶粒内部の組織は安定しており、変化することは少ないが、工程3で強い塑性変形による強度の結晶的な乱れを含んだ結晶粒界付近の組織は、結晶粒内部より弾性エネルギーあるいは結晶を元に戻そうとする力学的なエネルギーが高い状態にあるものと考えられる。したがってこの部分は、より少ない熱エネルギーで再結晶的な変化を起こして、より安定な状態にもどろうとする。このように工程4の過程では、結晶粒界付近の組織だけが、選択的に不可逆なすべり変形を起こし、結果として隣り合う結晶粒同士が外部からの引張方向の力を緩和するように相対的にずれることになる。これをもう少し大きな視点から見ると、結晶粒が形状記憶効果によって可逆的な変形を行う際にその方位が揃って、よりスムーズに運動ができるように回転することになる。すなわち予定運動方向(引張方向)の運動に障害が少ない方向に全ての結晶が並ぶことになる。形状記憶合金の結晶には兄弟晶といわれる簡単に可逆的なすべり変形を起こす結晶面が立体的に多数存在する(例えばTi−Ni系合金の場合、この兄弟晶といわれる変形が可能な方位が立体的に24もある)ため、比較的僅かな回転で、この引張方向の変形の都合のいい方向に落ちつくことができる。各結晶粒は、いったんこの安定な位置に落ちつくと、材料全体が引張方向の変形を受けても、最大限自身の可逆的な変形を行えるため、結晶粒をさらに回転させる力は発生しにくい。すなわち材料的に安定になる。工程2がうまく行かず、各結晶粒のサイズが異なると整合性の悪い結晶の内部には、無理な応力や変形が発生し、材料的には不安定になる。当然、この工程4での荷重や温度や加熱時間が適切でなかった場合は、結晶粒が回転しないばかりか、結晶粒内部まで変化がおよび、性能が悪くなる。
【0073】
なお、微細な多結晶材料を使った工程3および4で起こる現象は、微細結晶粒超塑性 (Super Plasticity) に近い現象と思われる。従来知られている微細結晶粒超塑性と本発明における現象との大きな違いは、本発明においては連続的な変形が持続するような状態になる前に処理を終了する点である。ただし、温度Sより加熱温度を高め、保持時間を長くしてゆっくり変形させると、大きな永久ひずみを発生することがある。
【0074】
(工程5)
工程4を経た材料に再び工程3を行う。なお、通常は、工程3−工程4の過程を1回行えば、結晶の大半が運動方向に都合の良い向きに並ぶものと思われ、それ以降の繰り返しでは、対数的に効果が少なくなって行く傾向がある。しかし素材によっては、工程3および工程4の結果に差があり、この処理の繰り返し回数は、微妙にでき上がりの性能に影響する。そのため工程3および工程4を交互に繰り返すことで徐々に性能が向上することもある。これは、不純物や材料の成分、履歴によって結晶を作る金属間化合物に、兄弟晶を作りやすい方位が少ないものができることもあるためと考えられる。実際には、処理の繰り返し回数を全ての処理過程を一応終えた材料の運動試験の結果で決めることができる。一つの判断基準は、極低温の変形時の応力が、最初の工程3のときよりも充分小さいかまたはゼロになることを確認することである。ただし、本発明においては、必要がない場合はこの工程5を行わなくてもよい。
【0075】
(工程6)
最高加熱温度を温度D付近、最低冷却温度を工程3と同様な温度とする(なお、本発明においては、前記最低冷却温度はM f 点以下とすればよいが、できれば本実施例のように工程3の温度と同様な温度とするとよい )。アクチュエータとして使用される場合に想定されるより強く、材料を劣化させない位の力をかけた状態で最高加熱温度と最低冷却温度の間を繰り返し加熱冷却する。場合によるが、一般的には100〜300Mpa位の応力が好ましいと考えられる。この場合、加熱−冷却による材料の動きを拘束してはならない。加熱時に比べ、冷却時に加わる力を大きめにする(本発明においては、必ずしもそうしなくてもよいが、このように冷却時に加わる力を大きめにするとより効果的である)。この処理は、粒界付近の組織を適度に加工硬化させ、材料の寸法安定性を確保するとともに引張方向の変形と同じ方向すなわち、形状記憶効果による形状回復と反対の方向に弾性エネルギー場を与える作用がある。一般的なトレーニングと同じ効果をねらった処理である。この工程の完了により、全ての処理工程が完了する。
【0076】
図9の曲線Iは、本実施例により得られたTi−Ni−Cu系形状記憶合金の温度−ひずみ特性の一例を示している。なお、この図には、比較のために、従来のアクチュエータ用形状記憶合金の特性(曲線II,III)も一緒に示してある。図10は、図9の特性を求めるための試験条件を示しており、温度変化率1℃/minとした恒温槽内において、それぞれ線材状の形状記憶合金1’に100Mpaの荷重負荷を作用し、温度と収縮変位(ひずみ)εとの関係を測定した。図9の曲線Iに示されるように、本実施例により得られた形状記憶合金は比較的広い応力範囲で温度のヒステリシスをほぼ0にすることができた。曲線IIで示される従来の形状記憶合金は比較的に高温で動作する高温タイプのもの、曲線IIIで示される従来の形状記憶合金は中温処理されたものであり、いずれも大きなヒステリシス特性を示している。
【0077】
図11〜16は、本発明による形状記憶合金の処理方法の第二実施例を示す。本実施例は、完成後の形状記憶合金がコイルばね状をなし、アクチュエータとして使用される際、加熱すると記憶しているコイル長さに収縮する一方、冷却すると弛緩して低温時の元のコイル長さに伸張する(すなわち、引きばね型として機能する)か、または反対に、加熱すると元の記憶しているコイル長さに伸張する一方、冷却すると弛緩して低温時の元のコイル長さに収縮する(すなわち、押しばね型として機能する)ことが想定される場合である。本実施例における予定運動方向はねじり方向である。
【0078】
(準備作業)
前記第一実施例の準備作業と同様の作業を行う。
【0079】
(工程1)
前記第一実施例の工程1と同様の作業を行い、所定の太さの線材を作る。これにより、形状記憶合金素材1に引張方向に異方性が残るが、本実施例ではこの引張方向の異方性は最終的な結果に実質的な影響を与えない。
【0080】
(工程2)
工程1を経た線材状の形状記憶合金素材1を図11のように、予定運動方向に十分ねじってねじり変形を追加し、これを図12のように拘束手段3で拘束した状態とする。このねじり変形の追加は、前記実施例の場合と同様の理由により、常温で行ってもよいが、B点より十分低い、極低温下で行うことが好ましい。続いて、前記拘束状態で、再結晶開始点以上でかつ該再結晶開始点付近の温度に短時間加熱する。すると、ねじり方向の異方性のため、加熱に伴い強い内部せん断応力が発生するが、再結晶がこれを緩和する方向に優先的に起こり、ねじり方向に異方性を持つ、実質的に均一な微細結晶粒が生成する。
【0081】
(工程3)
図13のように、工程2を経た形状記憶合金素材1に低温または極低温下の完全なマルテンサイト状態で、反力が急激に増加するところまで、強いねじり力で工程2と同じ方向にねじり変形をさらに加える。この場合、第一実施例の場合と同様に結晶粒内部に塑性変形が及ばないように、ねじりトルクが管理される必要がある。またねじり方向以外、なるべく変形が拘束されないようにする。
【0082】
(工程4)
図14のように、工程3を経た材料をねじり変形が戻らないようにして心材4に巻き付けて行く。ねじりながら心材4に巻き付けてもよい。5は形状記憶合金素材1の端部を丸棒状の心材4に固定した箇所を示している。巻き付ける向きによって押しばね型(加熱時にコイル長が長くなるばね)と引きばね型(加熱時にコイル長が短くなるばね)の違いが出る。図14は引きばね型とする場合を示しており、押しばね型とする場合は逆向きにねじりながら心材4に巻き付ける。引きばね型の場合、強度にねじりながら巻くことで、強制的に心材4に巻き付けるというより、自分自身でばね状の形態を形成させる効果もある。
【0083】
(工程5)
次に、図15のようにねじりながら巻き付けた状態で拘束したまま温度Sまで析出や拡散等が生じない速度(例えば、100〜200℃/min程度の速度)で加熱後冷却する。これにより、前記第一実施例の場合と同様にして、結晶が予定運動方向、すなわちねじり方向に都合の良い向きに並ぶ。前記工程4では、ねじり以外に曲げ変形も入るため、引張りのときよりも強い変形が加わる可能性があり、加工硬化を起こす部分も出てくることがあるので、加熱温度を少し高めに設定し、短時間に余分な加工硬化の除去を行った方がよいこともある。
【0084】
(工程6)
心材4を抜き、極低温下で、引きばね型の場合は図16のように引き延ばし、押しばね型の場合は、圧縮方向に変形させる。コイルばね状の形状記憶合金素材1内に応力が残留しているためか、心材4に巻いたまま、再び極低温にするだけでもある程度の効果がある。このようにしてできたコイルばね状の形状記憶合金素材1を適当に伸ばした後、再びさらにねじりながらコイルばね状に巻き、工程3,4,5,6を数回繰り返すと性能はさらに向上することもある。
【0085】
(工程7)
工程6により得られたコイルばね状の形状記憶合金素材1に、必要に応じて変形を拘束しない状態で運動方向の力を加えたたまま、低温あるいは極低温と温度Dの間で熱サイクルを数回以上かける。この工程は、前記第一実施例における工程6に相当する慣らし運転ないしはトレーニングの過程である。この工程の完了により、全ての処理工程が完了する。
【0086】
なお、本発明は、前記各実施例以外の形状および運動を行う形状記憶合金にも適用できるものである。変形様式が異なるだけで基本的な処理工程は同様と考えられる。
【0087】
【発明の効果】
以上のように本発明による形状記憶合金の処理方法および形状記憶合金は、
(イ)応答性のよい形状記憶合金を得ることができる、
(ロ)使用可能な温度域が広い形状記憶合金を得ることができる、
(ハ)実用的に有効に取り出せる力が大きい形状記憶合金を得ることができる、
(ニ)繰り返し大きな運動ひずみが取り出せる形状記憶合金を得ることができる、
(ホ)巨大な双方向性形状記憶効果を持つ形状記憶合金を得ることができる、
(ヘ)破断に至るまでの寿命が長い形状記憶合金を得ることができる、
(ト)記憶形状が消失しにくい形状記憶合金を得ることができる、
(チ)運動ひずみの減少が少ない形状記憶合金を得ることができる、
(リ)前記の種々の優れた特性が長期多数回にわたる繰り返しにおいても安定している形状記憶合金を得ることができる、
(ヌ)これまで脆性が強く、割れやすいため利用が困難とされていた材料をも素材として用い、靱性を持った線材や板材状の形状記憶合金とすることができる、
(ル)形状記憶合金の組織を壊すことなく、結晶の方向を揃えることができる、
等の優れた効果を得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の形状記憶合金の処理方法の第一実施例における形状記憶合金素材の変態点および温度特異点等を示す模式図である。
【図2】 加熱時に現れるTi−Ni−Cu系形状記憶合金の変態点および温度特異点等の実例を示すDSC測定図である。
【図3】 Ti−Ni−Cu系形状記憶合金の極低温の温度特異点Bの実例を示すDSC測定図である。
【図4】 前記第一実施例の工程1を示す断面図である。
【図5】 前記第一実施例の工程2を示す断面図である。
【図6】 前記第一実施例の工程3を示す断面図である。
【図7】 前記第一実施例の工程3における変形時の応力−ひずみ線図の例である。
【図8】 前記第一実施例の工程4を示す断面図である。
【図9】 前記第一実施例により得られた形状記憶合金および従来の形状記憶合金の温度−ひずみ特性の比較を示す特性図である。
【図10】 図9の特性を求めるための試験条件を示す説明図である。
【図11】 本発明の形状記憶合金の処理方法の第二実施例の工程2において形状記憶合金素材をねじり変形する状態を示す斜視図である。
【図12】 前記第二実施例の工程2においてねじり変形した形状記憶合金素材を拘束して加熱する状態を示す断面図である。
【図13】 前記第二実施例の工程3を示す斜視図である。
【図14】 前記第二実施例の工程4を示す斜視図である。
【図15】 前記第二実施例の工程5を示す斜視図である。
【図16】 前記第二実施例の工程6を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 形状記憶合金素材
2 ダイス
3 拘束手段
Claims (22)
- アモルファス状態または冷間強加工を加えられて結晶構造を破壊されたアモルファス状態に近い状態の形状記憶合金素材を、少なくとも回復再結晶が始まる段階では、処理後の形状記憶合金をアクチュエータとして使う場合に想定される該形状記憶合金の運動方向であるところの予定運動方向に応力が作用されるようにした状態で、再結晶開始温度以上の温度に加熱し、発生する前記予定運動方向の内部応力を徐々に緩和する形で前記予定運動方向に異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程と、
粒界にもオーステナイト相が残留しない極低温下で、前記予定運動方向の応力によって前記形状記憶合金素材に変形を加え、該応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と、
作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、オーステナイト変態終了温度Af点と再結晶温度との間の温度に前記形状記憶合金素材を加熱し、前記予定運動方向に運動するのに適した方向に各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを有してなる形状記憶合金の処理方法。 - 形状記憶合金素材に冷間強加工を加え、該形状記憶合金素材内部の結晶構造を破壊した後、前記形状記憶合金素材を、少なくとも回復再結晶が始まる段階では、処理後の形状記憶合金をアクチュエータとして使う場合に想定される該形状記憶合金の運動方向であるところの予定運動方向に応力が作用されるようにした状態で、再結晶開始温度以上の温度に加熱し、発生する前記予定運動方向の内部応力を徐々に緩和する形で前記予定運動方向に異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程と、
粒界にもオーステナイト相が残留しない極低温下で、前記予定運動方向の応力によって前記形状記憶合金素材に変形を加え、該応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と、
作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、オーステナイト変態終了温度Af点と再結晶温度との間の温度に前記形状記憶合金素材を加熱し、前記予定運動方向に運動するのに適した方向に各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを有してなる形状記憶合金の処理方法。 - 異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程において、冷間強加工を温度特異点Bより低い極低温状態で施す請求項2記載の形状記憶合金の処理方法。
- 異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程において、形状記憶合金素材を、予定運動方向に異方性を持った状態で、少なくとも回復再結晶が始まる段階では予定運動方向に応力が作用されるようにした状態で、再結晶開始温度以上の温度に加熱する請求項2または3記載の形状記憶合金の処理方法。
- 異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程において、形状記憶合金素材を、該形状記憶合金素材に予定運動方向の応力を加えたまま拘束した状態で、再結晶開始温度以上の温度に加熱する請求項1乃至4のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程において、形状記憶合金素材を緩みのない無負荷状態で形状を拘束したまま、再結晶開始温度以上の温度に加熱する請求項1乃至4のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程により平均的結晶粒径を10ミクロン以下とする請求項1乃至6のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 粒界にもオーステナイト相が残留しない極低温下で、処理後の形状記憶合金をアクチュエータとして使う場合に想定される該形状記憶合金の運動方向であるところの予定運動方向に異方性を持った結晶を有する形状記憶合金素材に、前記予定運動方向の応力によって変形を加え、該応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と、
作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、オーステナイト変態終了温度Af点と再結晶温度との間の温度に前記形状記憶合金素材を加熱し、前記予定運動方向に運動するのに適した方向に各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを有してなる形状記憶合金の処理方法。 - 応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程において、前記すべり変形によって生じる他の結晶粒との位置関係の矛盾を結晶粒界付近の組織に塑性的な変形として集中的に蓄える請求項1乃至8のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程において、作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、温度特異点S付近の温度に形状記憶合金素材を加熱する請求項1乃至9のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程において、完全にオーステナイト化して剛性を持った各結晶粒が、形状回復しようとして発生した力が作用し合う状態を作り、結晶粒界付近の組織を変形させる請求項1乃至10のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを少なくとも1回繰り返す請求項1乃至11のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程の後、応力を管理しながら、ひずみを拘束しない状態でMf点以下の温度と、強度の塑性変形だけが緩和される温度との間で熱サイクルを加える工程を有する請求項1乃至12のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 熱サイクルを加える工程において、加熱時に比べ、冷却時に作用する応力を大きくする請求項13記載の形状記憶合金の処理方法。
- 形状記憶合金素材は金属間化合物である請求項1乃至14のいずれかに記載の形状記憶合金の処理方法。
- 形状記憶合金素材はTi−Ni系またはTi−Ni−Cu系である請求項15記載の形状記憶合金の処理方法。
- アモルファス状態または冷間強加工を加えられて結晶構造を破壊されたアモルファス状態に近い状態の形状記憶合金素材を、少なくとも回復再結晶が始まる段階では、処理後の形状記憶合金をアクチュエータとして使う場合に想定される該形状記憶合金の運動方向であるところの予定運動方向に応力が作用されるようにした状態で、再結晶開始温度以上の温度に加熱し、発生する前記予定運動方向の内部応力を徐々に緩和する形で前記予定運動方向に異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程と、
粒界にもオーステナイト相が残留しない極低温下で、前記予定運動方向の応力によって前記形状記憶合金素材に変形を加え、該応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と、
作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、オーステナイト変態終了温度Af点と再結晶温度との間の温度に前記形状記憶合金素材を加熱し、前記予定運動方向に運動するのに適した方向に各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを経て処理されたことを特徴とする形状記憶合金。 - 形状記憶合金素材に冷間強加工を加え、該形状記憶合金素材内部の結晶構造を破壊した後、前記形状記憶合金素材を、少なくとも回復再結晶が始まる段階では、処理後の形状記憶合金をアクチュエータとして使う場合に想定される該形状記憶合金の運動方向であるところの予定運動方向に応力が作用されるようにした状態で、再結晶開始温度以上の温度に加熱し、発生する前記予定運動方向の内部応力を徐々に緩和する形で前記予定運動方向に異方性を持った微細で大きさが均一な結晶粒を生成する工程と、
粒界にもオーステナイト相が残留しない極低温下で、前記予定運動方向の応力によって前記形状記憶合金素材に変形を加え、該応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と、
作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、オーステナイト変態終了温度Af点と再結晶温度との間の温度に前記形状記憶合金素材を加熱し、前記予定運動方向に運動するのに適した方向に各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを経て処理されたことを特徴とする形状記憶合金。 - 粒界にもオーステナイト相が残留しない極低温下で、予定運動方向の応力によって形状記憶合金素材に変形を加え、該応力に沿った方向に完全にマルテンサイト化した結晶粒を可逆的範囲ですべり変形させる工程と、
作用応力を与え拘束するか、または応力が負荷されたままの状態で、オーステナイト変態終了温度Af点と再結晶温度との間の温度に前記形状記憶合金素材を加熱し、前記予定運動方向に運動するのに適した方向に各結晶粒の可逆的すべり運動方向を揃える工程とを経て処理されたことを特徴とする形状記憶合金。 - 平均的結晶粒径を10ミクロン以下とされた請求項17乃至19のいずれかに18記載の形状記憶合金。
- 金属間化合物である請求項17乃至20のいずれかに記載の形状記憶合金。
- Ti−Ni系またはTi−Ni−Cu系である請求項21記載の形状記憶合金。
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