JP3769146B2 - 疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板およびその製造方法に関するものであり、特に、自動車の足廻り部品やロードホイール等の耐久性と加工性の両立が求められる素材として好適な疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上などのために軽量化を目的として、Al合金等の軽金属や高強度鋼板の自動車部材への適用が進められている。ただ、Al合金等の軽金属は比強度が高いという利点があるものの鋼に比較して著しく高価であるためその適用は特殊な用途に限られてきた。より広い範囲で自動車の軽量化を推進するためには安価な高強度鋼板の適用が強く求められている。
一般に、材料は、高強度になるほど延性が低下して加工性(成形性)が悪くなるばかりでなく、切り欠き感受性も高くなる。そのため、複雑な形状をしている自動車の足廻り部品等への高強度鋼板の適用にあたっては、その成形性だけでなく、疲労耐久性も重要な検討課題となる。
【0003】
加工性に優れた高強度熱延鋼板として、伸びフランジ性(バーリング加工性)の優れた高強度鋼板を、フェライトとベイナイトを主体とするミクロ組織で得る発明が、例えば、特開昭57−145965号公報や特開昭61−96057号公報等で開示されている。さらにまた、これらの特性に低降伏比でかつ優れた延性を兼備させた高強度鋼板を、フェライト、ベイナイトとマルテンサイトを主体とするミクロ組織で得る発明が、例えば、特開平3−264645号公報等で開示されている。
【0004】
また、疲労特性に優れた高強度熱延鋼板としては、特開平4−276016号公報、特開平5−331591号公報、特開平6−145792号公報、特開平8−60240号公報等で、疲労特性を向上させるために特定の添加元素に注目して、Pの固溶強化および/またはCuの析出強化を利用する発明が開示されている。すなわち、上記の特開平4−276016号公報には、Pの固溶強化とCuの析出強化によって疲労強度を向上させる技術が開示されている。
【0005】
さらに疲労特性と伸びフランジ性を兼ね備えた高強度鋼板として、特開平5−331591号公報では、ミクロ組織をフェライトとマルテンサイトまたはフェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトとし、フェライト相にε−Cuを析出させて疲労強度と伸びフランジ性を向上させる技術が開示されている。また、特開平6−145792号公報では、ミクロ組織をフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの三相とし、それぞれの相の体積分率を規定して強度と伸びフランジ性を確保するとともに、Cuの析出強化によって疲労特性を向上させる技術が開示されている。
【0006】
さらに、特開平8−60240号公報では、ミクロ組織をフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの三相とし、それぞれの相の体積分率を規定して強度延性バランスを確保し、Cuの析出強化によって疲労特性を向上させる技術が開示されている。一方、特開平9−137249号公報では、ミクロ組織をフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの三相とし、それぞれの相の体積分率を特定するとともにTi、Nbの炭化物でフェライト相を析出強化し、さらに表面近傍のフェライト粒径と鋼板表面の粗さを規定して疲労特性を向上させる技術が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ロードホィールのディスク等の一部の部品においては、伸びフランジ性等の加工性とともに疲労耐久性が大変に重要であり、上記従来技術では、満足する特性が得られないといわざるを得ない。すなわち、上記特開平4−276016号公報に記載の発明では、結晶粒界に偏析し粒界脆化を引き起こすPが0.05〜0.12%添加されることが必須であるため、疲労破壊の起点となる粒界破壊が起こった場合、疲労特性が著しく劣化する可能性がある。さらに、同文献には、Pによる粒界脆化等を抑制するBの添加については何も記載されていない。
【0008】
また、上記特開平5−331591号公報に記載の発明では、フェライト相にε−Cuを析出させているため延性が低下して加工性が悪くなる可能性がある。また、上記特開平6−145792号公報に記載の発明では、熱履歴等によりフェライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの各相の体積分率が変動しやすく、それによって延性等の特性が大きく影響されるため鋼板の長手方向や幅方向の材質のばらつきを生じやすいという問題点がある。また、上記特開平8−60240号公報に記載の発明では、仕上圧延後に二段階の冷却を行なうことを必須としており操業上温度管理が難しく歩留が低いという問題点がある。
【0009】
さらに、上記特開平9−137349号公報に記載の発明では、析出強化に有効なTi、Nbの炭化物を得るために熱間圧延前の加熱炉工程において高い溶体化温度での加熱が必要なため操業コストや省エネルギーの観点から好ましくない。そこで、本発明は、上記従来技術の課題を有利に解決できる、疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板およびその鋼板を安定して製造できる製造方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、現在通常に採用されている連続熱間圧延設備により工業的規模で生産されている熱延鋼板の製造プロセスを念頭において、熱延鋼板の疲労特性と加工性の両立を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、固溶しているCuもしくはCu単独で構成される粒子サイズが2nm以下のCu析出物が疲労特性向上に非常に有効であり、かつ加工性も損なわないことを見出し、本発明をなしたものである。
【0011】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 質量%にて、C:0.03〜0.20%、Si:0.1〜2.5%、Mn:0.5〜3.0%、P:≦0.02%、S:≦0.01%、Al:0.005〜1.0%、Cu:0.2〜1.2%、B:0.0002〜0.0020%、Ni:0.1〜1.0%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼片の熱間圧延に際し、Ar 3 変態点以上で熱間仕上圧延を終了した後、20℃/s以上の冷却速度で冷却して、350℃から550℃の温度で巻き取り、ミクロ組織が、ベイナイト、またはフェライトおよびベイナイトからなり、鋼中のCuの存在状態が固溶状態またはCu単独で構成される粒子の大きさで2nm以下の析出状態である鋼板を得ることを特徴とする疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板の製造方法。
【0012】
(2)前記鋼片が、さらに、質量%にて、Ca:0.005〜0.02%、REM:0.005〜0.2%の一種または二種を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板の製造方法。
【0013】
(3)前記鋼片が、さらに、質量%にて、Mo:0.05〜1.0%、V:0.02〜0.2%、Ti:0.01〜0.2%、Nb:0.01〜0.1%、Cr:0.01〜1.0%、Zr:0.02〜0.2%の一種または二種以上を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板の製造方法。
【0014】
(4)前記熱間圧延に際し、粗圧延終了後、高圧デスケーリングを行ない、Ar3 変態点以上で熱間仕上圧延を終了することを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれた1項に記載の疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板の製造方法にある。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明に至った基礎研究結果について説明する。
まず、Cu単独で構成される粒子サイズの疲労特性に及ぼす効果についての調査を行った。そのための供試材は、次のようにして準備した。すなわち、0.05%C−1.0%Si−1.4%Mn−0.01%P−0.001%S−0.03%Al−1.0%Cu−0.0003%Bに成分調整し溶製した鋳片を熱間圧延して常温で巻き取った鋼板を、100〜600℃で1時間等温保持した後、炉冷する熱処理を施し、Cu単独で構成される粒子のサイズを変化させた鋼板を得た。これらの鋼板について疲労試験を行った結果を、図1に示す。この結果より、Cu単独で構成される粒子の平均サイズと疲労限度比には強い相関があり、Cu単独で構成される粒子の平均サイズが2nm以下で疲労限度比が著しく向上することを新規に知見した。
【0016】
このメカニズムは必ずしも明らかではないが、固溶しているCuもしくはCu単独で構成される粒子サイズが2nm以下のCu析出物は繰返し荷重下での差すべりを抑制し、繰返し荷重による表面のすべりステップの形態を粗で深い状態から密で浅い状態に変化させ、そこでの応力集中が緩和されるために疲労き裂の発生抵抗を向上させると推測される。
また、熱間圧延条件等を制限することによって、Cu単独で構成される粒子の平均サイズが2nm以下という鋼板を製造できることも新たに知見した。
【0017】
次に、B元素の疲労特性に及ぼす効果についての調査を行った。そのための供試材は、次のようにして準備した。すなわち、0.05%C−1.0%Si−1.4%Mn−0.01%P−0.001%S−0.03%Al鋼をベースにして、1.0%のCuを添加した鋼とCuを添加しない鋼に、さらに、B含有濃度を変化させた鋼を成分調整し溶製した鋳片を、熱間圧延して450℃で巻き取り、ミクロ組織が、ベイナイト、またはフェライトおよびベイナイトを有する鋼板を得た。なお、以下ベイナイトとはベイニティックフェライトおよびアシキュラーフェライト組織も含み、一部残留オーステナイトを含むことも許容されるものである。これらの鋼板について疲労試験を行った結果を、図2に示す。この結果より、1.0%のCuを添加した鋼に限り、B含有濃度と疲労限度比に強い相関があり、さらに、Bの含有濃度が2ppm以上で疲労限度比が著しく向上することを新規に知見した。
【0018】
なお、引張試験による機械的性質については、JIS Z 2201記載の5号試験片にて、JIS Z 2241記載の試験方法で測定した。また、鋼板の疲労特性は、図3に示すような板厚3.0mm、長さ98mm、幅38mm、最小断面部の幅が20mm、切り欠きの曲率半径が30mmである疲労試験片を用い、完全両振りの平面曲げ疲労試験によって得られた2×106回での疲労強度σWを鋼板の引張り強さσBで除した値(疲労限度比σW/σB)で評価した。
【0019】
また、鋼中のCu単独で構成される粒子は、供試鋼の1/4厚のところから透過型電子顕微鏡サンプルを採取し、エネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X−ray Spectroscope:EDS)や電子エネルギー損失分光(Electron Energy Loss Spectroscope:EELS)の組成分析機能を加えた、200kVの加速電圧の電界放射型電子銃(Field Emission Gun:FEG)を搭載した透過型電子顕微鏡によって観察した。観察される粒子の組成は、上記EDSおよびEELSによりCu単独であることを確認した。また、本発明で規定するCu単独で構成される粒子のサイズは、観察される粒子のサイズをそれぞれ測定したもののその一視野での平均の値である。
【0020】
次に、本発明の鋼板のミクロ組織およびCuの存在状態について説明する。鋼板のミクロ組織は、優れたバーリング加工性(伸びフランジ性)を確保するために、ベイナイト、またはフェライトおよびベイナイトとする。ただし、必要に応じ一部残留オーステナイトを含むことを許容するものである。なお、良好な伸びフランジ性を確保するためには、一部残留オーステナイトを含むベイナイトの体積分率が30%以上が好ましい。また、良好な伸びを得るためにはベイナイトの体積分率が70%以下が好ましい。ここで、フェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトの体積率とは鋼板の圧延方向断面厚みの1/4厚における光学顕微鏡で200〜500倍で観察されたミクロ組織中のそれらの組織の面積分率で定義される。
【0021】
また、鋼中のCuの存在状態が固溶状態またはCu単独で構成される粒子の大きさで2nm以下の析出状態とする。これにより、加工性の劣化につながる静的強度の上昇を抑えつつ、すなわち、ベイナイト、またはフェライトおよびベイナイトからなる鋼板の優れた加工性を損なうことなく、疲労特性を向上させることができる。一方、Cu単独で構成される粒子の大きさが2nm超であると、Cuの析出強化により鋼板の静的強度が著しく上昇するため、加工性が著しく劣化することになる。また、このようなCuの析出強化では、疲労限は静的強度の上昇ほどには向上しないので疲労限度比が低下してしまう。そのため、Cu単独で構成される粒子の大きさは、2nm以下とする必要がある。
【0022】
次に、本発明の化学成分の限定理由について説明する。
Cは、0.20%超含有していると加工性及び溶接性が劣化するので、0.20%以下とする。また0.03%未満であるとベイナイトの体積率が減少し、強度が低下するので0.03%以上とする。
Siは、固溶強化元素として強度上昇に有効である。当該するミクロ組織において所望の強度を得るためには、0.1%以上含有する必要がある。しかし、2.5%超含有すると加工性が劣化する。そこで、Siの含有量は0.1%超、2.5%以下とする。
【0023】
Mnは、固溶強化元素として強度上昇に有効である。当該するミクロ組織において所望の強度を得るためには、0.5%以上必要である。また、3.0%超添加するとスラブ割れを生ずるため、3.0%以下とする。
Pは、0.02%超添加すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすだけでなく、粒界に偏析して粒界強度を低下させ粒界脆化を起こすので、0.02%以下とする。
【0024】
Sは、多すぎると熱間圧延時の割れを引き起こすので極力低減させるべきであるが、0.01%以下ならば許容できる範囲である。
Alは、溶鋼脱酸のために0.005%以上添加する必要があるが、コストの上昇を招くため、その上限を1.0%とする。また、あまり多量に添加すると、非金属介在物を増大させ伸びを劣化させるので好ましくは0.5%以下とする。
【0025】
Cuは、本発明の最も重要な元素一つであり、固溶もしくは2nm以下の粒子サイズに析出させることにより疲労特性を改善する効果がある。ただし、0.2%未満では、その効果は少なく、1.2%を超えて含有すると巻取り中に2nm超の大きさに析出して析出強化により鋼板の静的強度が著しく上昇するため、加工性が著しく劣化することになる。また、このようなCuの析出強化では、疲労限は静的強度の上昇ほどには向上しないので疲労限度比が低下してしまう。そこで、Cuの含有量は0.2〜1.2%の範囲と限定する。
【0026】
Bは、本発明の最も重要な元素の一つであり、Cuと複合添加されることによって疲労限を上昇させる効果がある。ただし、0.0002%未満ではその効果を得るために不十分であり、0.0020%超添加するとスラブ割れが起こる。よって、Bの添加は、0.0002%以上、0.0020%以下とする。
Niは、Cu含有による熱間脆性防止のために添加する。ただし、0.01%未満ではその効果が少なく、1.0%を超えて添加してもその効果が飽和するので、0.01〜1.0%とする。
【0027】
CaおよびREMは、破壊の起点となったり、加工性を劣化させる非金属介在物の形態を変化させて無害化する元素である。ただし、0.005%未満添加してもその効果がなく、Caならば0.02%超、REMならば0.2%超添加してもその効果が飽和するのでCa:0.005〜0.02%、REM:0.005〜0.2%添加することが好ましい。
【0028】
さらに、強度を付与するために、Mo、V、Ti、Nb、Cr、Zrの析出強化もしくは固溶強化元素の一種または二種以上を添加しても良い。ただし、それぞれ、0.05%、0.02%、0.01%、0.01%、0.01%、0.02%未満ではその効果を得ることができない。また、それぞれ、1.0%、0.2%、0.2%、0.1%、1.0%、0.2%を超え添加してもその効果は飽和する。
【0029】
次に、本発明の製造方法の限定理由について、以下に詳細に述べる。
本発明では、目的の成分含有量になるように成分調整した溶鋼を鋳込むことによって得たスラブを、高温鋳片のまま熱間圧延機に直送してもよいし、室温まで冷却後に加熱炉にて再加熱した後に熱間圧延してもよい。再加熱温度については特に制限はないが、1350℃以上であると、スケールオフ量が多量になり歩留まりが低下するので、再加熱温度は1350℃未満が望ましい。
【0030】
熱間圧延工程は、粗圧延を終了後、仕上げ圧延を行うが、最終パス温度(FT)がAr3 変態点以上の温度域で終了する必要がある。これは、熱間圧延中に圧延温度がAr3 変態点を切るとひずみが残留して延性が低下するためである。仕上げ温度の上限は本発明の効果を得るためには特に定める必要はないが、操業上スケール疵が発生する可能性があるのため、1000℃以下とすることが好ましい。ここで、粗圧延終了後に高圧デスケーリングを行う場合は、鋼板表面での高圧水の衝突圧P(MPa)×流量L(リットル/cm2 )≧0.0025の条
件を満たすことが好ましい。
【0031】
鋼板表面での高圧水の衝突圧Pは以下のように記述される。(「鉄と鋼」1991 vol.77 No.9 p1450参照)
P(MPa)=5.64×P0×V/H2
ただし、
P0(MPa):液圧力
V(リットル/min):ノズル流液量
H(cm):鋼板表面とノズル間の距離
【0032】
流量Lは以下のように記述される。
L(リットル/cm2)=V/(W×v)
ただし、
V(リットル/min):ノズル流液量
W(cm):ノズル当たり噴射液が鋼板表面に当たっている幅
v(cm/min):通板速度
衝突圧P×流量Lの上限は本発明の効果を得るためには特に定める必要はないが、ノズル流液量を増加させるとノズルの摩耗が激しくなる等の不都合が生じるため、0.02以下とすることが好ましい。
【0033】
さらに、仕上げ圧延後の鋼板の最大高さRyが15μm(15μmRy,l2.5mm,ln12.5mm)以下であることが好ましい。これは、例えば金属材料疲労設計便覧、日本材料学会編、84ページに記載されている通り熱延または酸洗ままの鋼板の疲労強度は鋼板表面の最大高さRyと相関があることから明らかである。また、その後の仕上げ圧延はデスケーリング後に再びスケールが生成してしまうのを防ぐために5秒以内に行うのが望ましい。
【0034】
仕上圧延を終了した後は、指定の巻取温度(CT)まで20℃/s以上の冷却速度で冷却するが、20℃/s未満の冷却速度では、パーライトが生成してしまう危険性があるので、20℃/s以上の冷却速度で冷却する。冷却速度の上限は本発明の効果を得るためには特に定める必要はないが、実際の工場設備能力等を考慮すると100℃以下である。
次に巻取温度が350℃未満では目的とするベイナイト体積率を得ることができず、550℃超ではパーライトが生成してしまい疲労強度著しく低下する。従って巻取温度は350℃〜550℃とする。
【0035】
【実施例】
以下に、実施例により本発明をさらに説明する。
表1に示す化学成分を有するA〜Zの鋼は、転炉にて溶製して、連続鋳造後、表2に示す加熱温度(SRT)で再加熱し、粗圧延後に同じく表2に示す仕上げ圧延温度(FT)で1.2〜5.4mmの板厚に圧延した後、表2に示す時間で滞留後、表2に示す冷却速度(CR)で冷却し巻取温度(CT)でそれぞれ巻き取った。なお一部については粗圧延後に衝突圧2.7MPa、流量0.001リットル/cm2の条件で高圧デスケーリングを行った。ただし、表中の化学組成についての表示は質量%である。
【0036】
このようにして得られた熱延板の引張試験は、供試材を、まず、JIS Z 2201記載の5号試験片に加工し、JIS Z 2241記載の試験方法に従って行った。表2にその試験結果を示す。鋼板圧延方向断面厚みの1/4厚を光学顕微鏡で200〜500倍で観察した組織の体積率を合わせて表2に示す。
さらに、図3に示すような長さ98mm、幅38mm、最小断面部の幅が20mm、切り欠きの曲率半径が30mmである平面曲げ疲労試験片にて、完全両振りの平面曲げ疲労試験を行った。鋼板の疲労特性は、2×106回での疲労強度σWを鋼板の引張り強さσBで除した値(疲労限度比σW/σB)で評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
一方、バーリング加工性(伸びフランジ性)については日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の穴拡げ試験方法に従って評価した。
また、Cu単独で構成される粒子は、供試鋼の1/4厚のところから透過型電子顕微鏡サンプルを採取し、エネルギー分散型X線分光(EDS)や電子エネルギー損失分光(EELS)の組成分析機能を加えた、200kVの加速電圧の電界放射型電子銃(FEG)を搭載した透過型電子顕微鏡によって観察した。観察される粒子の組成は、上記EDSおよびEELSによりCu単独であることを確認した。また、本発明で規定するCu単独で構成される粒子のサイズは、観察される粒子のサイズをそれぞれ測定したもののその一視野での平均の値である。
【0040】
本発明に沿うものは、鋼A−1、A−6、B、C、D、F、H、K、L、N、O、Qの12鋼であり、ベイナイト、またはフェライトおよびベイナイトからなり、鋼中のCuの存在状態が、固溶状態またはCu単独で構成される粒子の大きさが2nm以下の析出状態である疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板が得られている。
【0041】
上記以外の鋼は、以下の理由によって本発明の範囲外である。すなわち、鋼A−2は、熱間圧延後の巻取温度(CT)が本発明の範囲より高いのでパーライトが生成してしまい十分な穴拡げ率(λ)が得られない。鋼A−3は、熱間圧延後の巻取温度(CT)が本発明の範囲より低いのでマルテンサイトが生成してしまい十分な穴拡げ率(λ)が得られない。鋼A−4は、熱間圧延後の冷却速度(CR)が本発明の範囲外であるのでパーライトが生成してしまい十分な穴拡げ率(λ)が得られない。鋼A−5は、仕上圧延終了温度(FT)が本発明の範囲外であるのでひずみが残留して延性が低下するだけでなく十分な穴拡げ率(λ)が得られない。
【0042】
鋼Eは、Cの含有量が本発明の範囲外であるので目的とするミクロ組織中が得られず十分な穴拡げ率(λ)が得られない。鋼Gは、Mnの含有量が本発明の範囲外であるので、目的とするミクロ組織中が得られず十分な穴拡げ率(λ)が得られない。鋼Iは、Pの含有量が本発明の範囲外であるのでPが粒界に偏析して粒界強度を低下させるため十分な疲労限度比が得られていない。鋼Jは、Cuの含有量が本発明の範囲より多いので巻取り中に2nm超の大きさに析出して析出強化により鋼板の静的強度が著しく上昇するため、加工性が著しく劣化することになる。
【0043】
また、このようなCuの析出強化では、疲労限は静的強度の上昇ほどには向上しないので疲労限度比が低下してしまう。従って十分な疲労限度比が得られていない。鋼Mは、Bの含有量が本発明の範囲外であるのでCuと複合添加されることで発現する疲労特性向上効果を得ることができず十分な疲労限度比も得られていない。鋼Pは、Cuの含有量が本発明の範囲より少ないので疲労特性を改善する効果が少なく十分な疲労限度比が得られていない。
【0044】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板およびその鋼板を安定して製造できる製造方法を提供するものであり、これらの熱延鋼板を用いることにより、バーリング加工性(伸びフランジ性)を十分に確保しつつ疲労特性の大幅な改善が期待できるため、本発明は、工業的価値が高い発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に至る予備実験の結果を、Cu単独で構成される粒子の大きさと疲労限度比の関係で示す図である。
【図2】本発明に至る予備実験の結果を、B元素の濃度と疲労限度比の関係で示す図である。
【図3】疲労試験片の形状を説明する図である。
Claims (4)
- 質量%にて、
C :0.03〜0.20%、
Si:0.1〜2.5%、
Mn:0.5〜3.0%、
P:≦0.02%、
S:≦0.01%、
Al:0.005〜1.0%、
Cu:0.2〜1.2%、
B :0.0002〜0.0020%、
Ni:0.1〜1.0%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼片の熱間圧延に際し、Ar 3 変態点以上で熱間仕上圧延を終了した後、20℃/s以上の冷却速度で冷却して、350℃から550℃の温度で巻き取り、ミクロ組織が、ベイナイト、またはフェライトおよびベイナイトからなり、鋼中のCuの存在状態が固溶状態またはCu単独で構成される粒子の大きさで2nm以下の析出状態である鋼板を得ることを特徴とする疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板の製造方法。 - 前記鋼片が、さらに、質量%にて、
Ca:0.005〜0.02%、
REM:0.005〜0.2%
の一種または二種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板の製造方法。 - 前記鋼片が、さらに、質量%にて、
Mo:0.05〜1.0%、
V :0.02〜0.2%、
Ti:0.01〜0.2%、
Nb:0.01〜0.1%、
Cr:0.01〜1.0%、
Zr:0.02〜0.2%
の一種または二種以上を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板の製造方法。 - 前記熱間圧延に際し、粗圧延終了後、高圧デスケーリングを行ない、Ar 3 変態点以上で熱間仕上圧延を終了することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の疲労特性に優れた高バーリング性熱延鋼板の製造方法。
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