JP3752575B2 - 磁気テープ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高記録密度特性に優れた塗布型の磁気テープに関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気テープは、オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータ用テープなど種々の用途があるが、特にデータバックアップ用テープの分野では、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化にともない、1巻当たり数十〜100GBの記録容量のものが商品化されている。また、今後1TBを超える大容量バックアップテープが提案されており、その高記録密度化は不可欠である。
【0003】
このような高記録密度化に対応した磁気テープを製造するにあたっては、磁性粉の微粒子化とそれらの塗膜中への高密度充填、塗膜の平滑化、磁性層の薄層化に関する高度な技術が用いられている。
【0004】
また、記録密度を大きくするために、記録信号の短波長化と共に、トラックピッチの狭幅化も行われており、再生ヘッドがトラックを正確にトレースできるようにサーボトラックも併用されるシステムが登場している。
【0005】
磁性粉末の改良に関しては、主として、短波長記録に対応するために、年々、微粒子化とともに、磁気特性の改善がはかられており、従来は、オーディオ用や家庭用のビデオテープに使用されていた強磁性酸化鉄、Co変性強磁性酸化鉄、酸化クロムなどの磁性粉末が主流であったが、現在では、粒子サイズが100nm程度の針状の金属磁性粉末が提案されている。また、短波長記録時の減磁による出力低下を防止するために、年々、高保磁力化がはかられ、鉄−コバルトの合金化により、198.9kA/m程度の保磁力が実現されている(特許文献1〜3)。さらに、針状の磁性粉末に比べて薄層塗布型磁気記録媒体を得るのに適した磁性粉末として、粒子形状が板状で、粒子サイズ(粒子径)が50nm程度の微粒子のバリウムフェライト磁性粉末も知られている(特許文献4)。
【0006】
一方、媒体製造技術の改良に関しては、各種官能基を有するバインダ樹脂や、上記の磁性粉末を使用した場合の分散技術の改善、さらには塗布工程後に行われるカレンダ技術の向上により、磁性層の表面平滑性が著しく向上し、短波長出力の向上に大きく寄与している(特許文献5〜7)。
【0007】
しかしながら、近年の高密度化に伴い、記録波長が短波長化されているため、磁性層の厚さが厚いと、最短記録波長領域においては、従来の磁性粉末の飽和磁化や保磁力程度では出力が数分の1程度しか得られず、また極めて短い記録波長を使用するため、従来それほど問題とならなかった記録再生時の自己減磁損失や磁性層の厚さに起因する厚み損失の影響が大きくなり、十分な分解能が得られないという問題があった。このような問題に対しては、上記したような磁性粉末による磁気特性の改善や媒体製造技術による表面性向上だけでは克服できないため、磁性層の厚さを低減することが提案されている。
【0008】
すなわち、一般に、磁性層の有効厚さは、システムに利用される最短記録波長の1/3程度といわれているため、例えば0.3μmの最短記録波長においては、磁性層の厚さは0.1μm程度が必要とされている。また、テープを収納するカセット(カートリッジともいう)の小型化に伴い、容積当たりの記録容量を向上させるため、磁気テープ全体を薄層化する必要があり、このため、磁性層も必然的に薄層化する必要がある。さらに、記録密度を高めるためには、磁気ヘッドから発生する書き込み磁束を微小面積にしなければならず、また磁気ヘッドも小型化されてきているため、発生磁束量が低下することとなるが、上記のような微小な磁束により完全な磁化反転を生じせしめるためにも、磁性層を薄層化することが必要となる。
【0009】
ところが、磁性層の厚さを低減すると、非磁性支持体の表面粗さが磁性層表面に影響を及ぼし、磁性層の表面性が劣化しやすくなる。また、磁性層単層のみを薄層化する場合、磁性塗料の固形分濃度を低下するか、塗布量を低減するといった方法が考えられるが、これらの手法によっては、塗布時の欠陥が生じたり、磁性粉末の充填性を向上させることができず、また塗膜強度を弱めてしまうおそれがある。このため、媒体製造技術の改良により磁性層を薄層化する場合、非磁性支持体と磁性層との間に下塗層を設け、この下塗層が湿潤状態にあるうちに上層磁性層を塗布する、いわゆる同時重層塗布方式が提案されている(特許文献8)。
【0010】
磁性層の厚さを低減すると、磁性塗膜の厚さの不均一性の影響が表れやすくなり出力変動が大きくなる。これは、エラーレートの増加につながる。非磁性支持体上に非磁性下塗層と磁性層を、非磁性下塗層が湿潤状態のうちに磁性層を塗布する方法で設ける磁気媒体においては、塗布、磁場配向、乾燥工程で非磁性下塗層と磁性層との界面に乱れが生じやすく、磁性層厚さ変動の大きな要因になっていた。磁性層の厚さ変動を小さくすることに関しては、非磁性下塗層の乾燥後に磁性層を塗布したり、非磁性塗料および磁性塗料のチクソトロピック性を近似させたり、非磁性塗料に針状フィラーを含ませたりするといった技術が提案されている(特許文献9〜11)。
【0011】
上記のような重層構成の記録層の特性を向上させるために、下塗層やバックコート層に板状粒子を含ませた磁気記録媒体も知られている。このようなものとしては、例えば、2層以上の下塗層を有する磁気記録媒体において下層下塗層に板径が0.1〜2μmの板状粒子を含ませたもの(特許文献12)、下塗層に板径が0.01〜3μmの板状粒子と分子量が3万以上のエポキシ樹脂とを含ませたもの(特許文献13)、バックコート層に板状のマグネタイトを含ませたもの(特許文献14)、磁性層の平均厚さが1.1μm以上の磁気記録媒体においてバックコート層に板径が0.5〜3.0μmの板状粒子を含ませたもの(特許文献15)がある。
【0012】
記録トラック幅を狭くしてテープ幅方向の記録密度を高くすると、磁気テープからの漏れ磁束が小さくなるため、再生ヘッドに微小磁束でも高い出力が得られる磁気抵抗効果型素子を使用したMRヘッドを使用する必要がある。
【0013】
MRヘッド対応の磁気テープには、例えば特許文献16や特許文献17に記載されたものがある。これらの特許文献に記載された磁気記録媒体では、その磁束(残留磁束密度と厚さの積)を特定の値範囲にしてMRヘッドの出力の歪を防止したり、磁性層表面のへこみを特定の値以下にしてMRヘッドのサーマル・アスペリティを低減させたりしている。
【0014】
また、記録トラック幅を狭くすると、オフトラックによる再生出力の低下が問題になるので、これを避けるためにトラックサーボが必要になる。トラックサーボ方式には、光学トラックサーボ方式(特許文献18)や磁気サーボ方式があるが、いずれの方式を採用するにしても、箱状のケース本体の内部に磁気テープを収めた磁気テープカートリッジ(カセットテープともいう)においては、磁気テープ巻装用のリールを一つしか持たない1リール型(単リール型)にして、その上でカートリッジから引き出した磁気テープにトラックサーボを行う必要がある。これは、テープ走行速度を高める(例えば2.5m/秒以上にする)と、テープ繰り出し用とテープ巻き取り用の2つのリールを持った2リール型では安定走行できないためである。また、2リール型ではカートリッジサイズが大きくなり、体積当たりの記録容量が小さくなる。
【0015】
先に述べたようにトラックサーボ方式には磁気サーボ方式と光学サーボ方式があるが、前者は、サーボトラックバンドを磁気記録により磁性層に形成し、これを磁気的に読み取ってサーボトラッキングを行うものであり、後者は、凹部アレイからなるサーボトラックバンドをレーザー照射等でバックコート層に形成し、これを光学的に読み取ってサーボトラッキングを行うものである。なお、磁気サーボ方式にはバックコート層にも磁性を持たせ、このバックコート層に磁気サーボ信号を記録する方式(特許文献19)があり、また光学サーボ方式にはバックコート層に光を吸収する材料等で光学サーボ信号を記録する方式(特許文献20)もある。
【0016】
通常、リニア記録タイプのコンピュータ用テープでは、長手方向に記録トラックが書き込まれるが、再生ヘッドのトラック幅(再生トラック幅)は、記録トラック幅よりもかなり小さく設定される[例えば、(記録トラック幅:約28μm,再生トラック幅:約12μm)、(記録トラック幅:約24μm,再生トラック幅:約12μm)]。このようにすることでオフトラックマージンを大きくし、約3μm程度の磁気テープの位置の変動(エッジウィーブや温度・湿度による寸法変化に基づく変動)や装置間のトラックずれが約3μm程度あってもオフトラックによる再生出力の低下が殆どないように設計されている。また、これだけオフトラックマージンがあれば磁気テープのエッジウィーブや幅方向の温度・湿度寸法安定性についても、あまり注意を払う必要がなかった。
【0017】
ところが、コンピュータ用テープの記録容量を数100GB以上にするためには、記録トラック幅を小さくする必要があることから、幅方向の温度・湿度膨張係数の小さい磁気テープが求められている。温度・湿度膨張係数を規定した磁気記録媒体としては、温度膨張係数が1.8×10-4〜1.0×10-8/℃である磁気記録媒体(特許文献21)、テープ長手方向の湿度膨張係数が5×10-6/%RH以下である磁気テープ(特許文献22)、幅方向の温度膨張係数が0.0015%/℃以下で、湿度膨張係数が0.0015%/%RH以下である磁気テープ(特許文献23)などがある。
【0018】
【特許文献1】
特開平3−49026号公報
【特許文献2】
特開平5−234064号公報
【特許文献3】
特開平6−25702号公報
【特許文献4】
特公平6−18062号公報
【特許文献5】
特公昭64−1297号公報
【特許文献6】
特公平7−60504号公報
【特許文献7】
特開平4−19815号公報
【特許文献8】
特開昭63−187418号公報
【特許文献9】
特開平10−69635号公報(第10−11頁)
【特許文献10】
特開2001−134919号公報(第6頁)
【特許文献11】
特開2001−256633号公報(第5頁)
【特許文献12】
特開平6−004854号公報(第2−5頁)
【特許文献13】
特開平7−326036号公報(第2−3頁)
【特許文献14】
特開平9−198650号公報(第2−3頁)
【特許文献15】
特開平11−273053号公報(第2−3頁)
【特許文献16】
特開平11−238225号公報
【特許文献17】
特開2000−40217号公報
【特許文献18】
特開平11−213384号公報
【特許文献19】
特開平11−126327号公報
【特許文献20】
特開平11−126328号公報
【特許文献21】
特開平10−228623号公報(第4−5頁)
【特許文献22】
特開平11−096545号公報(第2−3頁)
【特許文献23】
特開平11−250449号公報(第3−4頁)
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、これら磁性粉末および媒体製造技術の向上も、現在では、ほぼ限界に達している。とくに磁性粉末の改良に関しては、針状の磁性粉末を使用する限り、粒子サイズは実用上100nm程度が限度である。なぜなら、これよりも微粒子化すると、比表面積が著しく大きくなり、飽和磁化が低下するのみならず、バインダ樹脂中で磁性粉末を分散させることが著しく困難になるためである。
【0020】
保磁力に関しては、磁気ヘッドの技術革新により、さらに高保磁力を有する媒体に対しても、記録は可能な状況にある。とくに長手記録方式においては、磁気ヘッドで記録消去が可能な限り、記録および再生減磁による出力低下を防止するため、保磁力はできる限り高くすることが好ましい。したがって、磁気記録媒体の記録密度を向上させるための現実的な方法で、最も効果的な方法は、磁気記録媒体を高保磁力化することである。
【0021】
また、長手記録の本質的な課題である、記録および再生減磁による出力低下の影響を低減するためには、磁性層の厚さはさらに薄くすることが有効であるが、前記した粒子サイズが100nm程度の針状の磁性粉末を使用する限り、磁性層の厚さにも限界が生じる。すなわち、長手配向によって、針状粒子は平均的には針状方向が媒体の面内方向に平行になるように並ぶが、粒子の分散には分布があるため、針状方向が媒体面に垂直になるように並ぶ粒子も存在する。このような粒子が存在すると、媒体の表面平滑性を損ない、ノイズ増大の原因となる。このような問題は、磁性層の厚さが薄くなるほど、より深刻となる。
【0022】
さらに、磁性層を薄層化しようとする場合、磁性塗料を大量の有機溶剤で希釈する必要があるが、従来の微粒子化した針状の磁性粉末では磁性塗料の凝集を生じやすく、また乾燥時に大量の有機溶剤を蒸発させるため、磁性粉末の配向性が低下しやすく、長手記録であるテープ状媒体では配向性が悪く、薄層化しても、配向性の悪化と表面性の悪化のために、所期の電磁変換特性を得ることが困難になるという問題がある。したがって、長手記録においては、磁性層の厚さを薄くすることが、記録特性を向上させるうえで有効であることがわかっているにもかかわらず、従来の針状の磁性粉末を使用する限り、磁性層の厚さをさらに薄層化した塗布型磁気記録媒体を得ることは困難な状況にある。
【0023】
なお、前述したように特許文献4等に開示されているバリウムフェライト磁性粉末の形状や粒子サイズ(粒子径)は、針状の磁性粉末に比べて、薄層塗布型磁気記録媒体を得るのに適している。しかしながら、バリウムフェライト磁性粉末は酸化物であるため、飽和磁化は高々70Am2 /kg(70emu/g)程度で、針状の金属または合金磁性粉末のような100Am2 /kg(100emu/g)以上の飽和磁化を得ることは理論的に不可能である。このため、バリウムフェライト磁性粉末を用いると、磁性層の厚さの薄い塗布型磁気記録媒体を得ることはできても、従来の磁気誘導型磁気ヘッドを再生ヘッドに使用するシステムでは、磁束密度が低いために出力が低く、高密度磁気記録媒体には適さなかった。このことが理由で、高記録密度磁気記録媒体用の磁性粉末としては、これまでは、前記したような針状の磁性粉末が主流となっていたのである。しかしながら、高感度の磁気抵抗効果型磁気ヘッドを再生ヘッドに使用するシステムでは、バリウムフェライト磁性粉の上記欠点が解消されるので、本願発明の磁気記録媒体に使用可能である。
【0024】
以上説明してきたように、磁気記録媒体の記録密度を向上させるための効果的な手法である磁性層の薄層化において、磁性粉末の保磁力、飽和磁化をできる限り高い値に維持して、かつ粒子サイズを小さくすることが極めて重要な課題となる。この課題を克服するため、まず、従来の磁性粉末の磁気特性に着目すると、現状の針状の磁性粉末は、保磁力の起源が針状形状による形状異方性に基づいているため、高保磁力化には理論的な限界が存在する。つまり、形状異方性では、磁気異方性の大きさが、2πIs(ここで、Isは飽和磁化)で表され、飽和磁化に比例する。したがって、保磁力の起源を形状異方性に基づいている針状の磁性粉末では、飽和磁化が大きくなるほど保磁力も大きくなる。
【0025】
金属および合金の飽和磁化は、スレータポーリング曲線からよく知られているように、例えばFe/Co比が70/30付近のFe−Co合金において最大値を示すことから、保磁力も上記の組成において最大値を示すことになる。このようなFe/Co比が70/30付近の針状のFe−Co合金磁性粉末は、すでに実用化されているが、既述したとおり、針状の磁性粉末を使用する限り、理論的に現在の保磁力である198.9kA/m程度が限界であり、さらに高保磁力を得ることは困難な状況にある。また、このような針状の磁性粉末では、薄層塗布の磁気記録媒体に適さないものとなる。
【0026】
形状異方性における磁気異方性の大きさは、上述のとおり2πIsで表され、磁性粉末の針状比(粒子長さ/粒子直径)が約5以上のときは、係数はほぼ2πで表されるが、針状比が5未満になると係数は急激に小さくなり、球状になると異方性は消滅する。すなわち、磁性粉末として、Fe金属やFe−Co合金のような磁性材料を使用する限り、磁性粉末の形状としては、理論的にも針状形状にせざるを得ないのが実状である。
【0027】
従来においても、短波長記録再生特性を向上させるために、非磁性支持体上に膜厚2.0μm程度の下塗層を設け、その上に膜厚0.15〜0.2μm程度の磁性層を設けることが行われているが、さらなる記録密度の向上のためには磁性層の厚さは、0.01μm以上、0.09μm以下が好ましく、0.06μm以下がより好ましく、0.04μm以下がさらにより好ましい。下塗層の厚さは0.2μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。また、下塗層の厚さは1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらにより好ましい。なお、下塗層は非磁性であることが好ましい。下塗層が磁性をもつ場合、その上の磁性層に記録された信号が下塗層の磁気記録信号により乱されたり、下塗層の磁気記録信号により再生信号が歪んだりする場合があるためである。
【0028】
さらに、前述したように、コンピュータテープの記録容量の高容量化を図るために記録トラックピッチの狭幅化が進んでおり、テープ1巻当たりの記録容量が1TBに迫っているが、それ以上のものを実現しようとすると、記録トラック幅は計算上、12μm以下であることが要求される。再生トラック幅は、得られる出力とオフトラックマージンとの兼ね合いで決定されるが、(記録トラック幅−再生トラック幅)は、現状の12μmから5μm以下になると予想される。その時には、オフトラックマージンはかなり厳しくなる。例えば、記録トラック幅が12μm、再生トラック幅が10μmとすると、(記録トラック幅−再生トラック幅)は両側で2μm、片側で1μmとなり、磁気テープと装置のオフトラックマージンはそれぞれ0.5μmと非常に狭くなる。このような場合、エッジウィーブ量は0.8μm未満が好ましく、0.6μm未満がより好ましい。最も好ましいのは零である。
【0029】
狭幅化が進むトラックピッチに対応してトラックを正確にトレースするためには、テープエッジ−データトラック、テープエッジ−サーボトラック、サーボトラック−データトラック間の寸法が温度・湿度変化に対して一定であること、すなわち、テープの幅方向の温度・湿度膨張係数が小さいことが必要である。このような観点からいうと、テープの幅方向の温度膨張係数(熱膨張係数)は(0〜8)×10-6/℃が好ましく、(0〜6)×10-6/℃が、より好ましい。また、テープの幅方向の湿度膨張係数は(0〜10)×10-6/%RHが好ましく、(0〜8)×10-6/%RHが、より好ましい。最も好ましいのは零である。
【0030】
トラックピッチを狭幅化すると、磁性塗膜の厚さの不均一性の影響が表れやすくなって出力変動が大きくなる。これは、エラーレートの増加につながる。非磁性支持体上に非磁性下塗層と磁性層を、非磁性下塗層が湿潤状態のうちに磁性層を塗布する方法で設ける磁気記録媒体においては、塗布、磁場配向、乾燥工程で非磁性下塗層と磁性層との界面に乱れが生じやすく、磁性層厚さ変動の大きな要因になっていた。そこで、磁性層厚さ変動を小さくするために、先に述べた特許文献9〜11に記載されているように、非磁性下塗層の乾燥後に磁性層を塗布したり、非磁性塗料および磁性塗料のチクソトロピック性を近似させたり、非磁性塗料に針状フィラーを含ませたりするといった方法が提案されているものの、これらには次のような難点がある。
【0031】
すなわち、非磁性下塗層の乾燥後に磁性層を塗布する方法では、磁性層厚さを0.09μm以下、より好ましいとされる0.06μm以下、さらに好ましいとされる0.04μm以下にすることは困難である。また、非磁性塗料および磁性塗料のチクソトロピック性を近似させる方法や、非磁性塗料に針状フィラーを含ませる方法では、磁性層厚さが1μm以下のもので、(塗膜厚さ変動量(Δd))/(塗膜厚さ(d))を0.5以下、(塗膜厚さ変動量の標準偏差(STDEVΔd))/(塗膜厚さ(d))を0.2以下、磁性層厚さが0.01〜0.3μmのもので、(塗膜厚さ変動量の標準偏差(STDEVΔd))/(塗膜厚さ(d))を0.5以下の程度にしかすることができない。磁性層がさらに、薄膜化されるに伴い、厚さ変動量は同じであっても、変動率(%)(=(塗膜厚さ変動量(Δd)/塗膜厚さ(d))×100)はさらに大きい値となるので、後に詳述する本発明の磁気テープの如き、磁性層厚さが0.09μm以下、より好ましくは0.06μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下の磁気テープを実現しようとすると、前述した値以上に磁性層厚さの均一化を図る必要がある。
【0032】
本発明は、上記したような各課題に対してブレイクスルー的な技術を提供するためになされたものであり、テープ1巻当たり1TB以上の記録容量に対応しうる高記録密度特性に優れた磁気テープおよび磁気テープカートリッジを提供することを目的としている。
【0033】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の目的に対し、薄層磁性層を有する塗布型磁気記録媒体の記録密度を飛躍的に高めるために必要な磁性粉の特性は、下記の(1)〜(5)のとおりであるとの基本的指針の下、素材の探索ならびに磁気記録媒体に適した製造方法等についての研究開発を行った。
【0034】
(1)磁気ヘッドでの記録消去が可能な範囲で、できる限り高保磁力である。
(2)可能な限り大きい飽和磁化を有し、かつ資源的に豊富に存在する元素を主体にした磁性粉である。
(3)粒子形状は、充填性に優れた板状、粒状または楕円状である。
(4)飽和磁化を維持できる範囲で、できる限り微粒子である。
(5)一方向が磁化容易方向となる、一軸磁気異方性を有する磁性粉である。
【0035】
本発明者は、上記指針を全て満たす磁性粉について、検討したところ、粒子径が5〜50nm(より好ましくは5〜30nm、さらに好ましくは5〜25nm)の範囲にある板状、粒状ないし楕円状の磁性粉末が、これらの指針を全て満たし、すぐれた高密度磁気記録媒体が得られることを見い出したものである。このような磁性粉にはバリウムフェライトと希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末があるが、中でも希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末は、粒状ないし楕円状の超微粒子の磁性粉末であるにもかかわらず、これを使用した磁気記録媒体は、高保磁力および高磁束密度が容易に得られるものであることが明らかになった。
【0036】
このような知見に基づいて、本発明は、非磁性支持体の一方の面に、磁性粉を含む磁性層を形成し、かつ、非磁性支持体と磁性層との間に形成された非磁性粉を含む下塗層と、他方の面に形成された非磁性粉を含むバックコート層の少なくとも一層を有する磁気テープにおいて、次のように構成したことを特徴とする。すなわち、前記磁性層の厚さが0.05μm以上、0.09μm以下で、記録トラック幅が76μmの磁気誘導型記録ヘッドで波長2μmの信号を記録し、トラック幅38μmの磁気抵抗効果型再生ヘッド(磁気抵抗効果型素子の厚さ:0.05μm)で再生したときの、テープの長手方向および幅方向の少なくとも一方の再生出力変動が8%以下である構成とする(請求項1)。また、前記磁性層の厚さが0.01μm以上、0.05μm未満で、記録トラック幅が76μmの磁気誘導型記録ヘッドで波長2μmの信号を記録し、トラック幅38μmの磁気抵抗効果型再生ヘッド(磁気抵抗効果型素子の厚さ:0.05μm)で再生したときの、テープの長手方向および幅方向の少なくとも一方の再生出力変動が10%以下である構成とする(請求項2)。
【0037】
なお、前記磁性粉として、粒子径が5〜50nmの範囲(より好ましくは5〜30nm、さらに好ましくは5〜25nm)にある板状、粒状ないし楕円状の磁性粉を使用し、この磁性粉を含む磁性層の厚さを0.09μm以下(より好ましくは0.06μm以下)に設定するのが好ましい。また、下塗層、バックコート層の少なくとも一層に、粒子径(板面方向の粒子径)が10〜100nm(より好ましくは10〜49nm)の非磁性板状粒子を含有させるのが好ましい。また、本明細書において、磁性粉末の粒子径、非磁性板状粒子の粒子径(以下、数平均粒子径、平均粒子径もしくは平均粒子サイズともいう)とは、透過型電子顕微鏡(TEM)にて倍率25万倍で撮影した写真から粒子サイズを実測して、500個の平均値により求められるものである。また、本発明でいう「楕円状」の粒子には、「楕円体状」の粒子と「楕円板状」の粒子の両方が含まれる。
【0038】
下塗層やバックコート層に板状粒子を含ませることは、先に述べた特許文献9や特許文献12〜15などに開示されているが、これらは以下に示す点で本発明とは異なるものである。
【0039】
特許文献9に記載の技術は、下塗層に板径が00.5〜1.0μmで、かつ板状比が5〜20の板状粒子を含ませ、磁性層と下塗層との界面の乱れを小さくするものであるが、磁性層に針状の磁性粉を用いる磁気テープに関するものであり、板状、粒状ないし楕円状の磁性粉を用いる本発明とは異なる。また、板状粒子を下塗層に含ませた場合の温度・湿度寸法安定性の向上などの効果についても開示されていない。
【0040】
特許文献12に記載の技術は、2層以上の下塗層を有する磁気記録媒体において、下層下塗層に板径が0.1〜2μmの板状粒子を含ませたものであるが、本発明とは磁気記録媒体の構成や板状粒子のサイズが異なる。
【0041】
特許文献13に記載の技術は、下塗層に板径が0.01〜3μmの板状粒子と分子量3万以上のエポキシ樹脂を含ませたものであるが、磁性層に針状の磁性粉を用いる磁気テープに関するものであり、板状、粒状ないし楕円状の磁性粉を用いる本発明とは異なる。
【0042】
特許文献14に記載の技術は、バックコート層に板状のマグネタイトを含ませたものであるが、マグネタイトは磁性粒子なので、非磁性板状粒子を用いる本発明とは異なる。
【0043】
特許文献15に記載の技術は、磁性層の平均厚さが1.1μm以上の磁気記録媒体において、バックコート層に板径が0.5〜3.0μmの板状粒子を含ませたものであるが、本発明とは磁性層の厚さ、板状粒子のサイズが異なる。
【0044】
上記のような板状、粒状ないし楕円状で、かつ極めて粒子サイズの小さい微粒子の磁性粉を使用した磁気テープは、磁性粉末間の磁気的相互作用が小さく、したがって、急激な磁化反転が可能となり、磁化反転領域が狭くなるため、従来の針状形状の磁性粉を使用した磁気テープに比べて、よりすぐれた記録特性が得られることも見い出された。また、本発明の磁気記録媒体は、磁性層の厚さが0.09μm以下と薄いときに、とくに効果を発揮するが、このように磁性層の厚さが薄い媒体では、反磁界による減磁の影響も少なくなり、すぐれた記録特性を示すことがわかった。
【0045】
上記特定構成の板状、粒状ないし楕円状の超微粒子の磁性粉末には、バリウムフェライト、希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末があるが、中でもより高保磁力および高磁束密度が容易に得られる希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末を代表例として、以下詳述する。
【0046】
下塗層の薄層化についても、鋭意検討を行った結果、粒子径(板面方向の粒子径)が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の非磁性板状粒子を含ませることにより厚さが均一で表面平滑性の優れた下塗層が得られることを見い出した。この範囲が好ましいのは、10nm未満であると粒子の表面エネルギーが大きくなって分散が困難になり、100nmを越えると磁性層の表面粗さが大きくなる傾向がでてくるからである。また、下塗層と磁性層との界面の乱れが少なくなるために、磁性層の塗膜厚さのむらが少なくなることも見い出した。
【0047】
磁気テープの温度・湿度寸法安定性については、前記下塗層に粒子径が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の非磁性板状粒子を含ませること、および/またはバックコート層に粒子径(板面方向の粒子径)が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の非磁性板状粒子を含ませることにより、非磁性板状粒子の重なりによりバインダ樹脂のテープ面内方向(テープの長手方向や幅方向)の温度・湿度膨張が押さえ込まれるため、問題としているテープ幅方向の温度・湿度寸法安定性が大きく向上することがわかった。
【0048】
さらに、非磁性板状粒子を含ませることで、(磁性層+下塗層)、バックコート層の塗膜厚さむらが少なくなり、テープを巻き取った原反の変形(スジ、エッジの巻きズレ)が少なくなることにより、テープ幅にスリットする際にできるエッジウィーブが小さくなることがわかった。
【0049】
請求項2〜4の各発明に係る磁気テープは、上記の磁性粉、磁性層、非磁性板状粒子の構成を採用した場合に好適に得られるものである(ただし、上記以外の構成を採用することを排除するものではない)。このうち、請求項2に係る発明は、非磁性支持体の一方の面に、磁性粉を含む磁性層を形成し、かつ、非磁性支持体と磁性層との間に形成された非磁性粉を含む下塗層、他方の面に形成された非磁性粉を含むバックコート層の少なくとも一層を有し、記録トラック幅が12μm以下で、4m/秒以上のテープ走行速度で使用される磁気テープにおいて、テープ幅方向の温度膨張係数が(0〜8)×10-6/℃(より好ましくは(0〜6)×10-6/℃)、湿度膨張係数が(0〜10)×10-6/%RH(より好ましくは(0〜8)×10-6/%RH)であり、かつ、テープ走行時に走行基準側となる一方のテープエッジまたはその反対側となるテープエッジに存在するエッジウィーブ量が0.8μm未満であることを特徴とするものである。
【0050】
磁気テープの温度・湿度膨張係数については、先に述べたように例えば特許文献21〜23に開示されているが、これらは以下の示す点で本発明とは異なるものである。
【0051】
特許文献21に記載のものは、デイスク状磁気記録媒体に関するものであり、磁気テープに関する本発明とは異なる。
【0052】
特許文献22に記載のものは、長手方向の湿度膨張係数に関するものであり、幅方向の湿度膨張係数に特徴のある本発明とは異なるものである。
【0053】
特許文献23に記載のものは、磁気テープの幅方向の温度膨張係数を0.0015%/℃以下、湿度膨張係数を0.0015%/%RH以下としたもので、本発明のテープ幅方向の温度膨張係数が(0〜8)×10-6/℃、湿度膨張係数が(0〜10)×10-6/%RHの範囲を含んでいるが、本発明は好ましい温度・湿度膨張係数の範囲を特許文献23の範囲よりもさらに限定したものである。加えて、本発明は、サーボトラッキングをより正確に行わせるための重要な要素としてテープエッジに存在するエッジウィーブ量があることを見い出したもので、前記温度・湿度膨張係数の好ましい範囲を満たし、かつ前記エッジウィーブ量の値が0.8μm未満であることを満たすことではじめて達成できるようにしたものである。これらの点で、特許文献23に記載のものと本発明とは異なる。
【0054】
また、請求項3に係る発明は、非磁性支持体の一方の面に、磁性粉を含む磁性層を形成し、かつ、非磁性支持体と磁性層との間に形成された非磁性粉を含む下塗層と、他方の面に形成された非磁性粉を含むバックコート層の少なくとも一層を有する磁気テープにおいて、前記磁性層の厚さが0.05μm以上、0.09μm以下で、記録トラック幅が76μmの磁気誘導型記録ヘッドで波長2μmの信号を記録し、トラック幅38μmの磁気抵抗効果型再生ヘッド(磁気抵抗効果型素子の厚さ:0.05μm)で再生したときの、テープの長手方向および幅方向の少なくとも一方の再生出力変動が8%以下(より好ましくは6%以下)であることを特徴とするものである。
【0055】
さらに、請求項4に係る発明は、非磁性支持体の一方の面に、磁性粉を含む磁性層を形成し、かつ、非磁性支持体と磁性層との間に形成された非磁性粉を含む下塗層、他方の面に形成された非磁性粉を含むバックコート層の少なくとも一層を有する磁気テープにおいて、前記磁性層の厚さが0.01μm以上、0.05μm未満で、記録トラック幅が76μmの磁気誘導型記録ヘッドで波長2μmの信号を記録し、トラック幅38μmの磁気抵抗効果型再生ヘッド(磁気抵抗効果型素子の厚さ:0.05μm)で再生したときの、テープの長手方向および幅方向の少なくとも一方の再生出力変動が10%以下(より好ましくは8%以下)であることを特徴とするものである。
【0056】
【発明の実施の形態】
高密度塗布型磁気テープ等の磁気記録媒体用として、従来使用されてきた針状の鉄コバルト合金磁性粉末では、前記した基本的指針のうち、(1)の保磁力の値が理論的限界に近づいており、また(4)の粒子サイズに関しても、現状のものより微粒子化すると均一分散することが極めて困難になり、しかも最大の問題点は、本質的に(3)と(5)の指針を同時に実現することが不可能なことである。なぜなら、保磁力の起源が針状形状とすることによる形状磁気異方性に基づいているため、その針状比は最小でも5程度までしか下げることができず、これよりも下げると一軸異方性が低下し、保磁力が小さくなるからである。
【0057】
本発明者は、前記の基本的指針の下、上記従来の形状磁気異方性に基づく磁性粉末とは異なる観点から磁気特性の向上を目指すべく各種の磁性粉末を合成してその磁気異方性を調べた。その結果、希土類、鉄およびホウ素を少なくとも構成元素とした希土類−鉄−ホウ素系磁性材料では、大きな結晶磁気異方性を有しているため、針状形状にする必要がなく、粒状ないし楕円状の磁性粉末としても一方向に大きな保磁力を発現させうるものであることがわかった。なお、本発明にいう楕円状の磁性粉末とは、長軸径と短軸径の比が2以下のものを指し、従来の磁気記録媒体用の磁性粉末とは本質的にその形状が相違するものである。
【0058】
希土類−鉄−ホウ素系磁性材料は、一般に、粉末冶金的方法によるサブミクロンオーダの粒子を用いた高性能磁石材料として知られている。例えば永久磁石用のネオジム−鉄−ホウ素系磁性材料はNd2 Fe14Bで表される組成を有し、800kA/m以上の極めて大きな保磁力を有している。しかし、磁気記録媒体の保磁力は記録ヘッドとの関係において決定され、通常、磁気ヘッドの飽和磁束密度の約1/6程度の保磁力の磁気記録媒体までしか磁気記録できないといわれているため、上記のような高すぎる保磁力では磁気ヘッドでの記録消去が不可能で、磁気記録媒体用の磁性粉末としては使用できない。
【0059】
本発明者は、前記した指針に基づき、磁気記録媒体用として適当な保磁力を得るためには、上記の永久磁石用に比べて鉄に対する希土類元素の添加量を少なくし、またホウ素の添加量を多くすることが有効であることを見い出した。また、希土類−鉄−ホウ素系磁性材料は、上記のようにNd2 Fe14Bで表される組成の化合物がとくに高い保磁力を示すことが知られているが、本発明者は、希土類元素として、Ndに代えてサマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、イットリウム(Y)を使用した場合でも、上記構成とすることで磁気記録媒体用として十分な大きさの保磁力が得られることも見い出した。つまり、これまでは、希土類元素としてネオジムが注目されてきたが、磁気記録媒体用にはネオジム以外の希土類元素も使用できることを本発明者がはじめて明らかにしたものである。
【0060】
永久磁石用として知られていたネオジム以外のサマリウム、テルビウム、イットリウムなどの希土類元素についても、磁気記録媒体用としてネオジムと同様の効果が奏される理由は明らかではない。推測では磁気記録媒体用として粒子サイズが極めて小さくなると表面効果が強調され、希土類元素とホウ素、遷移金属との反応が活発になることが原因でないかと考えられる。いずれにしても、これまで永久磁石用として注目されてきた希土類−鉄−ホウ素系磁性材料を、永久磁石用よりも低保磁力領域の磁気記録媒体用として着目し、実用化に成功したのは本発明者が最初であり、全く新しい材料分野を開発するに至ったものである。
【0061】
本発明者は、上記知見を踏まえて、さらに検討した結果、希土類−鉄−ホウ素系磁性材料について、永久磁石用の材料として知られている組成より、希土類元素の含有量を少なくするなどの手段を加えることにより、さらには磁性粉末のコアー部分を金属鉄または鉄合金、外層部分を希土類−鉄−ホウ素化合物とした構造とした、粒子径(平均粒子サイズ)が5〜50nm(より好ましくは5〜30nm、さらに好ましくは5〜25nm)の粒状ないし楕円状の希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末としたときに、磁気ヘッドでの記録消去が可能な範囲内で、高い保磁力を示し、薄層領域の塗布型磁気記録媒体として極めてすぐれた電磁変換特性を付与できることを見い出した。また、この種の磁性粉末における希土類には、イットリウム、イッテルビウム、セシウム、プラセオジウム、サマリウム、ランタン、ユーロピウム、ネオジム、テルビウムなどから選ばれる少なくとも1種の元素が用いられるが、その中でも、ネオジムとサマリウム、テルビウム、イットリウムを用いたときに、高い保磁力が得られやすいこともわかった。
【0062】
このような特定の希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末を、薄層領域の塗布型磁気記録媒体に適用すると、高保磁力と高飽和磁化とを同時に達成できる。すなわち、上記の磁性粉末は、希土類元素の含有量を大幅に少なくするか、あるいは磁性粉末のコアー部分に金属鉄または鉄合金を主に含有するため、これ固有の高い飽和磁化が得られ、とくに金属鉄または鉄合金をコアー部分とし、このコアー部分を鉄−コバルト合金としたときに、最も高い飽和磁化が得られる。また、この金属鉄または鉄合金は形状異方性がないため、これ単独では保磁力が低くなるが、これに少量の希土類とホウ素を含有させると、保磁力が大幅に増加する。または金属鉄もしくは鉄合金をコアー部分とし、このコアー部分を包摂する外層部分を希土類−鉄−ホウ素化合物とすると、この化合物が高い保磁力を有するため、磁性粉末全体として高保磁力を示し、この場合に、上記化合物自体は飽和磁化は比較的低いが、金属鉄または鉄合金の高飽和磁化が維持されるため、結局、高飽和磁化と高保磁力とが同時に達成される。
【0063】
このように、本発明において好適に用いられる上記特定の希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末は、金属鉄または鉄合金の磁気異方性と、希土類−鉄−ホウ素化合物の磁気異方性とが磁気的相互作用により一体化し、とくにコア―部分と外層部分とからなる粒子構造であっても、単一磁性体と同様の挙動を示して、すぐれた磁気特性を発揮するものと考えられる。このような粒子内部で複数種の磁気異方性が磁気的相互作用により結合して一体化することは、本発明者がはじめで見い出したものであり、これは従来の常識を打ち破る画期的なものといえる。
【0064】
また、本発明者は、上記希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末の粒子サイズについて検討した結果、粒子径(平均粒子サイズ)が5〜50nm(より好ましくは5〜30nm、さらに好ましくは5〜25nm)であるときに、磁性層のすぐれた磁気特性を達成できることを見い出した。従来の針状の磁性粉末では、高い保磁力を維持するには、平均粒子サイズが100nm程度までが限界であったが、本発明において好適に用いられる上記磁性粉末は、主に結晶異方性に保磁力の起源を有するため、平均粒子サイズが5nmまでの極めて微細な粒子とすることができ、このような微粒子としてもすぐれた磁気特性を発揮させることができる。より好ましい平均粒子サイズとしては8nm以上、とくに好ましくは10nm以上である。
【0065】
上記磁性粉末の粒子径(平均粒子サイズ)が大きすぎると、磁性層中での磁性粉末の充填性が低下するとともに、磁性層を薄層化した場合に表面性を低下させ、さらに、磁気記録媒体とした際に粒子の大きさに起因する粒子ノイズが大きくなる。したがって、平均粒子サイズとしては50nm以下とする必要があり、好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下である。このように設定すると、極めて高い充填性が得られ、すぐれた飽和磁束密度を達成できる。
【0066】
本発明において好適に用いられる上記希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末において、高飽和磁化に寄与する金属鉄または鉄合金のうち、鉄合金とする場合の合金種としては、Mn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属がある。その中でも、Co、Niが好ましく、とくにCoは飽和磁化を最も向上できるので、好ましい。上記の遷移金属元素の量としては、鉄に対して、5〜50原子%とするのが好ましく、10〜30原子%とするのがより好ましい。
【0067】
また、希土類−鉄−ホウ素化合物を構成する希土類の量は、磁性粉末全体中、鉄に対して0.2〜20原子%、好ましくは0.3〜15原子%、より好ましくは0.5〜10原子%であり、また同ホウ素の量は、磁性粉末全体中、鉄に対して0.5〜30原子%、好ましくは1〜25原子%、より好ましくは2〜20原子%である。上記両原子%は、蛍光X線分析により測定される値である。上記希土類およびホウ素の量とすることにより、粒子内部で複数種の磁気異方性の磁気的相互作用による結合がより強固になって一体化され、高性能磁気記録媒体用の磁性粉末として最適な80〜400kA/mの保磁力が得られる。
【0068】
つぎに、上記希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末の粒子形状について、磁性塗料の分散性や薄層磁性層を形成するための特性の観点より、説明する。まず、従来の針状の磁性粉末では、ノイズ低減などの記録特性向上のために、粒子サイズを小さくしているが、その結果、必然的に比表面積が大きくなって、バインダ樹脂との相互作用が大きくなり、バインダ樹脂への分散時に均一な分散体を得ることが困難になり、また薄層塗布のために大量の有機溶剤で希釈すると磁性粉末の凝集が生じやすくなり、配向性や表面性が劣化する。このことから、塗布型磁気記録媒体として使用しうる磁性粉末の粒子サイズには限界がある。
【0069】
これに対して、本発明において好適に用いられる上記希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末は、粒子形状が粒状ないし楕円状であり、比表面積が最小となる球形に近い形状をとることが可能である。このため、従来の磁性粉末と比べて、バインダ樹脂との相互作用が小さく、磁性塗料の流動性が良好で、磁性粉末どうしがたとえ凝集体を形成しても、分散が容易となり、磁性層を薄層塗布する場合にとくに適した磁性塗料を調製できるものであることがわかった。また、その結果として、平均粒子サイズを前記した5nm程度としても十分に実用可能であることがわかった。
【0070】
先に述べたように、長手記録の本質的な課題である、記録および再生減磁による出力低下の影響を低減するには、磁性層の厚さを薄くすることが有効であるが、粒子サイズが100nm程度の針状の磁性粉末を使用する限り、磁性層の厚さにも限界が生じる。なぜなら、磁界配向により、針状粒子は、平均的に針状方向が媒体の面内方向に平行になるように並ぶが、この配向には分布があるため、針状方向が媒体面に垂直になるように分布した粒子も存在する。このような粒子が存在すると、針状の磁性粉末が磁性層表面から突き出て、媒体の表面性を損ない、ノイズを著しく増大させる原因となる。この問題は、磁性層の厚さが薄くなるほど顕著になるため、針状の磁性粉末を使用する限り、磁性層の厚さが0.09μm程度以下で表面の平滑な塗膜を作製することは難しいのが現状である。
【0071】
また、磁性層の薄層化のために、非磁性支持体と磁性層との間に下塗層を設ける場合、下塗層が湿潤状態の内に針状磁性粉末を含有する磁性塗料を下塗層上に塗布する同時重層塗布方法では、磁性粉末が下塗層に引きずられるため、磁性層の界面で下塗層へ針状磁性粉末が突出しやすくなり、さらに配向が乱れやすくなって、所望の角型比が得られないとともに、磁性層表面の平滑性を低下させることとなる。このことも、針状磁性粉末を用いた場合の薄層塗布で高密度化を行う妨げの要因のひとつとなっていると考えられる。
【0072】
これに対して、本発明において好適に用いられる希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末は、粒子サイズが小さいだけでなく、粒子形状が粒状ないし楕円状であって、球形に近い形状をとることも可能であるため、針状の磁性粉末のように磁性層の表面から粒子が突き出るような現象は生じず、また下塗層を設ける場合に針状磁性粉末と比べて下塗層に磁性粉末が突出することを低減でき、表面平滑性が極めて良好な磁性層を形成できる。また、磁性層の厚さが薄くなると、磁性層からの磁束が小さくなり、その結果、出力が低下する問題を生じるが、本発明に使用する上記磁性粉末は、粒子形状が粒状ないし楕円状で、球形に近い形状をとることも可能なため、針状の磁性粉末に比べて、磁性粉末を磁性層中に高充填しやすく、その結果、高磁束密度が得られやすいという大きな利点も有している。
【0073】
さらに、飽和磁化についていえば、金属または合金磁性粉末は、一般に、粒子サイズが小さくなると比表面積が大きくなって、飽和磁化に寄与しない表面酸化層の割合が大きくなり、飽和磁化に寄与する磁性体部分が小さくなる。つまり、粒子サイズが小さくなるにしたがい、飽和磁化も小さくなる。この傾向は針状の磁性粉末においてとくに顕著であり、長軸長が100nm付近を境として急激に飽和磁化が小さくなる。このような飽和磁化の減少も、使用可能な粒子サイズの限界を決める要因のひとつとなっている。これに対して、上記希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末は、粒子形状が粒状ないし楕円状であるため、同一体積で比較した場合、比表面積は最小となり、微粒子であるにもかかわらず、高い飽和磁化を維持することが可能となるのである。
【0074】
本発明において好適に用いられる希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末の形状を、「粒状ないし楕円状」と表現しているのは、ほぼ粒状のものから楕円状のものまでのすべてを含み(つまり、ほぼ粒状から楕円状までの中間的な形状のものも含み)、その中に含まれるいずれの形状であってもよいことを意味する。つまり、従来の磁性粉末の形状である「針状」と区別するため、このような表現としたものである。上記形状の中でも、比表面積が最も小さい球状ないし楕円状のものが好ましい。この形状は、粒子サイズの場合と同様に、透過型電子顕微鏡により、観察できる。
【0075】
以上のように、上記希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末は、飽和磁化、保磁力、粒子サイズ、粒子形状のすべてが薄層磁性層を得るのに本質的に適しており、これを使用して磁性層の平均厚さが0.09μm以下(特に0.06μm以下)である磁気記録媒体を作製したときに、とくにすぐれた記録再生特性が得られることを見い出したものである。上記の磁性粉末の中でも、磁性層の平均厚さが0.09μm以下である磁気記録媒体において高記録密度領域での特性を向上するため、飽和磁化が80〜200A・m2 /kg(80〜200emu/g)であるものを使用するのが好ましい。
【0076】
なお、本明細書において、磁性粉末の保磁力および飽和磁化は、試料振動型磁力計を使用して、25℃で印加磁界1273.3kA/m(16kOe)で測定したときの基準試料による補正後の値を意味するものである。
【0077】
本発明において好適に用いられる希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末は、例えば、以下の方法により、製造できる。まず、ネオジムやサマリウムなどの希土類イオンおよび鉄イオンまたはこれと必要によりMn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属イオンを含有する水溶液とアルカリ水溶液とを混合して、希土類および鉄またはこれと上記遷移金属との共沈物を生成する。希土類イオンおよび鉄イオンや遷移金属イオンの原料には、硫酸鉄、硝酸鉄などが用いられる。つぎに、上記の共沈物に、ホウ素化合物を加え、これを60〜400℃で加熱処理して、ホウ素を含有する希土類と鉄(またはこれと上記遷移金属)との酸化物を生成する。
【0078】
上記ホウ素化合物は、ホウ素の供給元であると同時に、粒子の極度な焼結を防止しながら、目的とする粒子サイズに結晶成長させるための融剤(フラックス)としての作用も兼ねている。このようなホウ素化合物は、とくに限定されるものではないが、H3 BO3 などが好ましく用いられる。また、ホウ素化合物は、共沈物に固体状態で混合することもできるが、共沈物とホウ素が均一に混合されるように、共沈物の懸濁液中にホウ素を溶解混合し、乾燥させて水を除去したのち、加熱処理する方が良好な物性の磁性粉末が得られる。
【0079】
つぎに、上記加熱処理物を水洗し、余剰のホウ素を除去して、乾燥させ、水素などの還元雰囲気中、400〜800℃で加熱還元すると、希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末が得られる。耐食性などの向上のため、他の元素を含ませてもよいが、この場合でも、磁性粉末全体中の希土類およびホウ素の量は、鉄に対しそれぞれ0.2〜20原子%および0.5〜30原子%であるのが望ましい。
【0080】
また、上記と異なる方法として、まず、鉄イオンまたはこれと必要によりMn、Zn、Ni、Cu、Coなどの遷移金属イオンを含有する水溶液とアルカリ水溶液とを混合して、鉄またはこれと上記遷移金属との共沈物を生成する。この場合も、鉄イオンや遷移金属イオンの原料には硫酸鉄、硝酸鉄などが用いられる。つぎに、この共沈物にネオジムやサマリウムなどの希土類塩とホウ素化合物を加え、これを60〜400℃で加熱処理して、ホウ素を含有する希土類と鉄(またはこれと上記遷移金属)との酸化物を生成する。ついで、余剰のホウ素を除去し、前記同様に水素ガス中で加熱還元すると、希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末が得られる。この方法は、コアー部分が主に金属鉄または上記遷移金属との鉄合金で、外層部分が主に希土類−鉄−ホウ素化合物である構造の希土類−鉄−ホウ素系磁性粉末を得るのに適している。なお、この方法においても、磁性粉末には、耐食性などの向上のため、他の元素を含ませることもできるが、この場合でも、磁性粉末全体中の希土類およびホウ素の量は、鉄に対しそれぞれ0.2〜20原子%および0.5〜30原子%であるのが望ましい。
【0081】
粒子径(平均粒子径)が50nm以下の超微粒子磁性粉を塗膜中に高充填化し、かつ高分散させるためには、下記のような工程で塗料製造を行うことが好ましい。混練工程の前工程として、磁性粉の顆粒を解砕機を用いて解砕し、その後、混合機でリン酸系の有機酸等やバインダ樹脂と混合し、磁性粉の表面処理、バインダ樹脂との混合を行う工程を設ける。混練工程として、連続式2軸混練機により固形分濃度80〜85重量%、磁性粉に対するバインダ樹脂の割合が17〜30重量%で混練を行う。混練工程の後工程としては、連続式2軸混練機かまたは他の希釈装置を用いて、少なくとも1回以上のバインダ樹脂溶液および/または溶媒を加えて混練希釈する工程、サンドミル等の微小メデイア回転型分散装置による分散工程などにより塗料分散を行う。
【0082】
磁性層には六方晶バリウムフェライト粉末を添加することができる。添加する六方晶バリウムフェライト粉末の保磁力は、120〜320kA/mが好ましく、飽和磁化量は、50〜70A・m2 /kg(50〜70emu/g)が好ましい。なお、この磁性層の磁気特性と、強磁性粉末の磁気特性は、いずれも試料振動型磁束計で外部磁場1273.3kA/m(16kOe)での測定値をいうものである。
【0083】
六方晶バリウムフェライト粉末では、粒子径(板面方向の粒子径)5〜50nmが好ましく、5〜30nmがより好ましく、5〜25nmがさらに好ましい。粒子径が5nm未満になると、磁性粉の凝集力が増大するために塗料中への分散が困難になり、50nmより大きいと、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなる。また、板状比(粒径/板厚)は2〜10が好ましく、2〜5がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。なお、上記の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影した写真から粒子サイズを実測し、500個の平均値により求めたものである。また、六方晶バリウムフェライト粉末のBET比表面積は、1〜100m2 /gが好ましく用いられる。
【0084】
下塗層に使用する非磁性粒子としては、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム等があるが、酸化鉄単独または酸化鉄と酸化アルミニウムの混合系が使用される。通常、長軸長0.05〜0.2μm、短軸長5〜200nmの非磁性の酸化鉄を主に使用し、必要に応じて粒子径0.01〜0.1μmのカーボンブラック、粒子径0.1〜0.5μmの酸化アルミニウムを補助的に含有させることが多い。上記非磁性粒子およびカーボンブラックは特に粒度分布がシャープとは言えず、下塗層の厚さが1.0μm以上の場合はあまり問題にならなかったが、下塗層の厚さが1.0μm以下になると、粒度分布の大粒子径部分の粒子が下塗層の表面粗さに影響を与えるので1.0μm以下に薄層化することが難しかった。
【0085】
そこで、本発明者らは、超微粒子で粒度分布の小さい、下塗層に好適な酸化アルミニウム粒子等の非磁性板状粒子を得るために鋭意検討した結果、粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmの非磁性板状粒子を得ることができた。なお、非磁性板状粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて倍率25万倍で撮影した写真から粒子サイズ(板面方向の最大粒子径)を実測して、500個の数平均値により求めたものである。
【0086】
本発明に使用する粒子径が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の板状酸化アルミニウム粒子等の非磁性板状粒子には大きく二つの特徴がある。一つは、超微粒子の板状であるため、1.0μm以下の薄層塗布においても厚みむらが小さく、また下塗層と磁性層との界面の平滑性が低下することもない。二つ目の特徴は、板状の粒子が重なった状態で塗膜が形成されるので、塗膜の平面方向の補強効果が大きく、同時に温度、湿度の変化に対する寸法安定性も大きくなる。
【0087】
例えば、酸化アルミニウム粒子の製造法としては、各種の方法が知られている。一般的には、焼成法で作製した酸化アルミニウムをボールミル等で粉砕することにより微粒子化する方法(粉砕法)が採られている。しかし、この方法で作製した酸化アルミニウム粒子は粒子サイズ分布が広く、さらに機械的に粉砕するため、粒子サイズとしては、サブミクロンサイズが限界で、さらに微粒子化することは困難である。
【0088】
中和反応により、水酸化アルミニウムの沈殿物を作り、この水酸化アルミニウムを空気中加熱処理すると、酸化アルミニウム粒子を得ることができる。しかし、この方法では、粒子径の小さい酸化アルミニウム粒子を得ることはできるが、粒子形状が粒状の不定形であり、塗膜の平滑化、補強、温度、湿度の変化に対する寸法安定化等の効果が得られない。さらに粒子間凝集による2次粒子が生じやすく、均一な分散液とするために、大きなエネルギーと極めて長時間の分散が必要であるという問題がある。
【0089】
例えば特開平7−315833号公報には、焼成法で作製された平板状アルミナを、非金属媒体を用いて長時間微粉砕し、凝集を破壊することが示されている。この方法では、粉砕により微粒子化するため、微粒子化に限界があり、かつ本質的に粒子径分布が広くなる。
【0090】
一方、水熱合成法を利用した板状アルミナの製造法が古くから知られている。例えば特公昭37−7750号公報や特公昭39−13465号公報の記載によれば、板状アルミナが得られているが、その粒子径は、数ミクロンから数百ミクロンであり、粒子の微細化の点で問題がある。
【0091】
また、あらかじめ大きさをサブミクロンオーダーに調整した水酸化アルミニウムを水やアルカリ水溶液中、350℃以上の高温下で水熱処理を行い、サブミクロンオーダーの板状酸化アルミニウムとする製造方法が知られている(例えば、特開平5−17132号公報、特開平6−316413号公報)。この方法では、結晶性に優れた板状酸化アルミニウムが得られ易い水熱反応を利用して水酸化アルミニウムを酸化アルミニウムに結晶変態させる。そのため、高温での反応になり、高圧に耐える特殊な反応容器が必要となる。さらに、この方法は、高温下での水熱反応を利用しているため、サブミクロンサイズの粒子径の大きい酸化アルミニウム粒子を製造するには適しているが、100nm以下の微細な酸化アルミニウム粒子を製造するには適していないと考えられる。
【0092】
以上のように、粒子径が100nm以下の結晶性が良好でかつ粒子径分布がシャープな微粒子の酸化アルミニウムが要求されてきたにもかかわらず、このような要求を満たす酸化アルミニウム粒子はこれまで開発されていなかった。
【0093】
本発明者は、上記のような要求を満たす板状酸化アルミニウム粒子等の非磁性板状粒子(微粒子)をあらたに開発したが、このような非磁性板状粒子を磁気テープの下塗層に使用すれば、薄層塗布における厚みむらの低減、下塗層と磁性層との界面の平滑性の向上、塗膜平面方向の強度向上、温度変化や湿度変化に対する寸法安定性の向上等が可能になることを見い出した。なお、同様の効果(厚みむらの低減、平滑性の向上、塗膜平面方向の強度向上、温度変化や湿度変化に対する寸法安定性の向上等)は、磁性層、バックコート層に対しても見られる。したがって、磁性層、およびバックコート層にこの非磁性板状粒子を添加すれば、磁性層厚さが0.09μm以下、さらに好ましくは0.06μm以下である本発明の磁気テープにおいても、厚さの変動量が極めて小さく、平滑で、強度や、温度変化や湿度変化に対する寸法安定性が高い磁気テープを得ることができる。
【0094】
磁性層の厚さの変動量を測定する方法として、従来、先述した特許文献10および11等で開示されているように、磁気テープのスライス断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)にて10000〜100000倍で写真観察し、多数ポイントを測定しその値を得ていたが、この方法ではスライス断面を得るときに、塗膜面がずれたり、下塗層と磁性層との界面があいまいな部分があるために、正確な値が得られにくく、また、電子顕微鏡を使うことから、測定個所がテープのごく一部に限られるなどの問題点があった。
【0095】
本発明者らは、この点についても検討し、磁性塗膜厚さに対して、十分長波長な信号を磁気テープに記録することによって磁性層全体に磁気記録し、その信号出力の変動を読み出すことにより、厚さ情報を出力変動量として捕らえることを試みた。磁性塗膜厚さに対して、十分長い(例えば10倍以上)波長の信号は磁性塗膜に飽和記録されるので、その信号出力は塗膜厚さに比例する。この測定方法と、従来のテープ断面の写真から測定する方法とを比較した結果、信号出力の変動量と磁性層厚さの変動量との間には相関が認められた。また、比較的細かいピッチ(テープの長さ方向に2.54mmピッチ)で長さ50mから信号出力の変動を読み取って得られた信号出力の変動量データは、比較的粗いピッチ(テープの長さ方向に25.4cmピッチ)でテープカートリッジ全長から得られたデータとも相関が認められた。そこで、テープ長50mの範囲で、テープの長さ方向に2.54mmピッチで出力変動量を読み取り厚さ変動の指標とした。本測定方法では、ヘッド位置を幅方向にずらして同様の測定を行うことにより、異なる幅位置の出力変動量(厚さ変動量)データも得られる。
【0096】
ここで、上記の新たに開発した非磁性板状粒子の製造方法について、酸化アルミニウム粒子を例にとって説明する。下塗層に好適な酸化アルミニウムを得るに当たっては、まず第一工程として、オキシアルカリアミンを含むアルカリ水溶液にアルミニウム塩の水溶液を添加し、得られたアルミニウムの水酸化物あるいは水和物を、水の存在下で110〜300℃の温度範囲で加熱処理する水熱反応処理により、目的とする形状、粒子径に整える。
【0097】
このときに問題となるのは、アルカリ性溶液にも酸性溶液にも溶解し、中性付近のpHにおいてしか沈殿物を作らないという、アルミニウムの水酸化物あるいは水和物の特異な性質である。しかし、水熱反応により目的の形状、粒子径を有するアルミニウム水酸化物あるいは水和物にするためには、アルカリ溶液とする必要がある。本発明者らは、このトレードオフ関係にある性質を克服するために鋭意検討してきた結果、pH10付近においてのみ目的とする反応が進行することを見い出した。
【0098】
次に、第二工程として、前記のアルミニウムの水酸化物あるいは水和物を空気中加熱処理する。これらの工程を経ることにより、粒子径分布が均一で、焼結、凝集が極めて少なく、結晶性の良好な板状酸化アルミニウム粒子が得られる。
【0099】
このように酸化アルミニウム粒子の製造において、形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とに分離するという、全く新規な発想により、これまでの製造方法では不可能であった、粒子の形状が板状で、かつ粒子径(平均粒子径)が10nmから100nmの範囲にある酸化アルミニウム粒子の開発に成功したものである。ここで、板状とは、板状比(最大径/厚さ)が2を超えるものをいい、100以下が好ましい。さらに、3以上50以下がより好ましく、4以上30以下が、よりいっそう好ましく、5以上10以下が最も好ましい。前記の範囲が好ましいのは、板状比が2以下では例えば下塗層に用いた時に、粒子が塗布面から立ち上がるものが存在し、塗膜の平滑化効果が小さくなり、100を超えると、塗料製造時に粒子が破壊される場合があるためである。
【0100】
また、このように形状、粒子径を整えることを目的とする工程と、その材料が本来有する物性を最大限に引き出すことを目的とする工程とに分離する製造方法は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の、さらにはこれらの元素の混晶系の粒子径(数平均粒子径)5〜100nmの各種の酸化物または複合酸化物にも適用できる。
【0101】
なお、テープ長手方向の残留磁束密度と磁性層厚さの積は、0.0018〜0.05μTmが好ましく、0.0036〜0.05μTmがより好ましく、0.004〜0.05μTmがさらに好ましい。この範囲が好ましいのは、0.0018μTm未満では、MRヘッドによる再生出力が小さく、0.05μTmを越えるとMRヘッドによる再生出力が歪みやすいからである。このような磁性層を有する磁気記録媒体は、記録波長を短くでき、加えて、MRヘッドで再生した時の再生出力を大きくでき、しかも再生出力の歪が小さく出力対ノイズ比を大きくできるので好ましい。
【0102】
下塗層および/またはバックコート層に、粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の板状粒子を含ませることにより、テープの温度・湿度寸法安定性、エッジウィーブを小さくできることはすでに述べた。また、本発明者らは、磁気テープ原反を所定幅の磁気テープにスリッティングする手段として使用する図1に例示したようなスリットマシン100についても検討し、その結果、さらにエッジウィーブを低減させることができた。
【0103】
テープ送り速度が4m/秒程度で、オフトラックを引き起こす範囲のエッジウィーブ量をもった短周期(例えば、50mm以下)のエッジウィーブができる原因について調べた結果、磁気テープ原反Gをスリッティングする際の当該テープ原反Gのばたつきによる短周期テンション変動が原因であることがわかった。この結果を基に、本発明者らは、スリットマシンを構成している各種要素の改良を行った。具体的には、図1に例示したようなスリットマシン100において、巻き出し原反から刃物駆動部60のスリット刃物群61・62に至るウェブ経路中のテンションカットローラ50の改良、刃物駆動部60に動力を伝達するタイミングベルト・カップリング(図示せず)の改良、刃物駆動部60の機械的振動の抑制等である。なお、図1中の符号90・91は、磁気テープ原反Gの走行経路に沿って配置したガイドを示す。
【0104】
上記改良の結果、スリッティング後の磁気テープ3において、テープエッジに存在する短周期(周期fが50mm以下)のエッジウィーブのエッジウィーブ量を大幅に低減することができた。上記改良の中、図2に示すように、磁気テープ原反の張力を制御するために使用されるテンションカットローラ50であるサクションローラの吸引孔51を多孔質材料で形成したメッシュサクションローラに改良したことが、短周期のエッジウィーブによるテープ幅方向の変動を抑制する手段として最も有効であった。なお、図2に例示したサクションローラ部は、図示しない吸引源に連通されて磁気テープ原反を吸引する吸引孔51と、外周面に磁気テープ原反が接触するテープ接触部52とを有し、これらをテンションカットローラ50の外周面に沿って一定間隔をあけて交互に配置した構成である。
【0105】
テープ送り速度が6m/秒程度で、オフトラックを引き起こし易い周期(例えば、60〜70mm)のエッジウィーブができる原因について調べたところ、刃物駆動部に動力を伝達するタイミングベルト、カップリングに原因があることが分かった。タイミングベルトを平ベルトに、金属カップリングをゴムカップリングにすることで中周期のエッジウィーブを大幅に低減することができた。
【0106】
さらに、比較的長周期のエッジウィーブ量を低減する方法について検討した結果、刃物駆動部を動力伝達装置を使用せず、モータからダイレクトドライブすれば、エッジウィーブ量が極端に小さくなることも見い出した。
【0107】
また、エッジウィーブの周期を、テープ送り速度が8m/秒以上の速い速度でも、オフトラックを引き起こさない範囲の長周期(例えば、100mm以上)にする方法について検討した結果、スリッティング速度を速くすれば、周期fがスリッティング速度の比率に応じて長くなり、エッジウィーブ量は殆ど変化しないものの、オフトラックへの影響を低減できることが分かった。
【0108】
次に、本発明の磁気テープの構成要素についてさらに詳述する。
【0109】
〈非磁性支持体〉
磁性支持体の厚さは、用途によって異なるが、通常、2〜5μmのものが使用される。より好ましくは2.5〜4.5μmである。この範囲の厚さの非磁性支持体が使用されるのは、2μm未満では製膜が難しく、またテープ強度が小さくなり、5μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、テープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0110】
非磁性支持体の長手方向のヤング率は9.8GPa(1000kg/mm2 )以上が好ましく、10.8GPa(1100kg/mm2 )以上がより好ましい。非磁性支持体の長手方向のヤング率が9.8GPa(1000kg/mm2 )以上がよいのは、長手方向のヤング率9.8GPa(1000kg/mm2 )未満では、テープ走行が不安定になるためである。また、ヘリキャルスキャンタイプでは、長手方向のヤング率(MD)/幅方向のヤング率(TD)は、0.60〜0.80の特異的範囲が好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.65〜0.75の範囲がより好ましい。長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が、0.60〜0.80の特異的範囲がよいのは、0.60未満または0.80を越えると、メカニズムは現在のところ不明であるが、磁気ヘッドのトラックの入り側から出側間の出力のばらつき(フラットネス)が大きくなるためである。このばらつきは長手方向のヤング率/幅方向のヤング率が0.70付近で最小になる。さらに、リニアレコーディングタイプでは、長手方向のヤング率/幅方向のヤング率は、理由は明らかではないが、0.70〜1.30のが好ましい。このような特性を満足する非磁性支持体には二軸延伸の芳香族ポリアミドベースフィルム、芳香族ポリイミドフィルム等がある。
【0111】
〈下塗層〉
下塗層の厚さは0.2μm以上、1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらにより好ましい。この範囲が好ましいのは、0.2μm未満では、磁性層の厚さむら低減効果、耐久性向上効果が小さいためである。1.0μmを越えると磁気テープの全厚が厚くなり過ぎてテープ1巻当りの記録容量が小さくなるためである。
【0112】
下塗層には、膜厚の均一性、表面平滑性の確保、剛性、寸法安定性の制御のために、先に述べたような粒子径が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の非磁性板状粒子を添加する。非磁性板状粒子の成分は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、既述した製法で作製した板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粒子を添加する。下塗層には、下塗層中の全無機粉体の重量を基準にして、板状ITO粒子を、15〜95重量%となるように添加する。10nm〜100nmの板状のグラファイトのようなカーボンを板状のITOの代わりに使用してもよい。必要に応じてカーボンブラックを添加してもよい。カーボンブラックは粒子径が10nm〜100nmのものが好ましい。また、さらに、従来公知の酸化鉄、酸化アルミニウムなどの酸化物粒子を添加してもよい。その場合、できるだけ微粒子(例えば10nm〜100nm)のものを用いるのが好ましい。なお、下塗層に使用するバインダ樹脂は、磁性層と同様のものが用いられる。
【0113】
〈潤滑剤〉
下塗層には磁性層と下塗層に含まれる全粉体に対して0.5〜5.0重量%の高級脂肪酸を含有させ、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させると、ヘッドとの摩擦係数が小さくなるので好ましい。この範囲の高級脂肪酸添加が好ましいのは、0.5重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、5.0重量%を越えると下塗層が可塑化してしまい強靭性が失われるおそれがあるからである。また、この範囲の高級脂肪酸のエステル添加が好ましいのは、0.2重量%未満では、摩擦係数低減効果が小さく、3.0重量%を越えると磁性層への移入量が多すぎるため、テープとヘッドが貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるためである。脂肪酸としては、炭素数10以上の脂肪酸を用いるのが好ましい。炭素数10以上の脂肪酸としては、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能にすぐれる直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。磁性層における脂肪酸の添加量としては、下塗層と磁性層の間で脂肪酸が転移するので、特に限定されるものではなく、磁性層と下塗層を合わせた脂肪酸の添加量を上記の量とすればよい。下塗層に脂肪酸を添加すれば、必ずしも磁性層に脂肪酸を添加しなくてもよい。
【0114】
磁性層には磁性粉末に対して0.5〜3.0重量%の脂肪酸アミドを含有させ、0.2〜3.0重量%の高級脂肪酸のエステルを含有させると、テープ走行時の摩擦係数が小さくなるので好ましい。この範囲の脂肪酸アミドが好ましいのは、0.5重量%未満ではヘッド/磁性層界面での直接接触が起りやすく焼付き防止効果が小さく、3.0重量%を越えるとブリードアウトしてしまいドロップアウトなどの欠陥が発生するおそれがあるからである。脂肪酸アミドとしてはパルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数が10以上の脂肪酸アミドが使用可能である。また、上記範囲の高級脂肪酸のエステル添加が好ましいのは、0.2重量%未満では摩擦係数低減効果が小さく、3.0重量%を越えるとヘッドに貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるためである。なお、磁性層の潤滑剤と下塗層の潤滑剤の相互移動を排除するものではない。
【0115】
〈磁性層〉
磁性層の厚さは、0.01μm以上、0.09μm以下が好ましく、0.06μm以下がより好ましく、0.04μm以下がさらに好ましい。この範囲が好ましいのは、0.01μm未満では得られる出力が小さいのと、均一な磁性層を塗布するのが困難であり、0.09μmを超えると短波長記録に対する分解能が低下するためである。
【0116】
磁性層厚さの変動量は、テープ長50mに、記録トラック幅が76μmの磁気誘導型記録ヘッドで波長2μmの信号を記録し、トラック幅38μmの磁気抵抗効果型再生ヘッド(磁気抵抗効果型素子の厚さ:0.05μm)で再生したときの再生出力を一定間隔で読み取り、変動量を測定することで評価した。長手方向の出力変動量は例えば、(1)平均変動率(%)=((各ポイントの出力−平均出力)の絶対値/平均出力値)×100 の平均値、(2)出力の標準偏差(%)=((全ポイントの出力の標準偏差)/平均出力値)×100、で定義される。幅方向の出力変動量は、波長2μmの信号を記録再生するトラック位置を幅方向にずらせて同様に測定することができる。前記出力の平均変動率は、磁性層の厚さが0.05μm以上、0.09μm以下で、テープの長手方向、幅方向の少なくとも一方向において、8%以下、より好ましくは6%以下、磁性層の厚さが0.01以上、0.05μm未満で、テープの長手方向、幅方向の少なくとも一方向において10%以下、より好ましくは8%以下である。
【0117】
磁性層(下塗層の場合も同様)に用いるバインダ樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂の中から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタン樹脂とを組み合わせものが挙げられる。中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体とポリウレタン樹脂を併用するのが好ましい。ポリウレタン樹脂には、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタンなどがある。
【0118】
官能基として、−COOH、−SO3 M、−OSO3 M、−P=O(OM)3 、−O−P=O(OM)2 [これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、−OH、−NR' R''、−N+ R''' R''''R''''' [これらの式中、R' 、R''、R''' 、R''''、R''''' は水素または炭化水素基を示す]、エポキシ基を有する高分子からなるウレタン樹脂等のバインダ樹脂が使用される。このようなバインダ樹脂を使用するのは、上述のように磁性粉等の分散性が向上するためである。2種以上の樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させるのが好ましく、中でも−SO3 M基どうしの組み合わせが好ましい。
【0119】
これらのバインダ樹脂は、磁性粉100重量部に対して、7〜50重量部、好ましくは10〜35重量部の範囲で用いられる。特に、バインダ樹脂として、塩化ビニル系樹脂5〜30重量部と、ポリウレタン樹脂2〜20重量部とを、複合して用いるのが最も好ましい。
【0120】
これらのバインダ樹脂とともに、バインダ樹脂中に含まれる官能基などと結合させて架橋する熱硬化性の架橋剤を併用するのが望ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどや、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパンなどの水酸基を複数個有するものとの反応生成物、上記イソシアネート類の縮合生成物などの各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常1〜30重量部の割合で用いられる。より好ましくは5〜20重量部である。しかし、下塗層の上にウエット・オン・ウエットで磁性層が塗布される場合には下塗塗料からある程度のポリイソシアネートが拡散供給されるので、ポリイソシアネートを併用しなくても磁性層はある程度架橋される。
【0121】
また、磁性層には、先に述べたような粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmの非磁性板状粒子を添加してもよい。また、必要に応じて、従来公知の研磨材を添加することができるが、これらの研磨材としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素、など主としてモース硬度6以上のものが単独または組み合せで使用される。研磨材の粒径としては、厚みが0.01〜0.09μmと薄い磁性層では、通常粒子径(数平均粒子径)で10nm〜150nmとすることが好ましい。添加量は磁性粉末に対して5〜20重量%が好ましい。より好ましくは8〜18重量%である。
【0122】
さらに、本発明の磁性層には導電性向上のために、既述した製法で作製した板状ITO粒子、板状カーボンブラック、導電性向上と表面潤滑性向上を目的に従来公知のカーボンブラック(CB)を添加することができるが、これらのカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmのものが好ましい。この範囲が好ましいのは、粒子径が10nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、出力低下の原因になるためである。添加量は磁性粉末に対して0.2〜5重量%が好ましい。より好ましくは0.5〜4重量%である。
【0123】
〈バックコート層〉
本発明の磁気テープを構成する非磁性支持体の他方の面(磁性層が形成されている面とは反対側の面)には、走行性の向上等を目的としてバックコート層を設けることができる。バックコート層の厚さは0.2〜0.8μmが好ましい。この範囲が良いのは、0.2μm未満では、走行性向上効果が不充分で、0.8μmを越えるとテープ全厚が厚くなり、1巻当たりの記録容量が小さくなるためである。カーボンブラック(CB)としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用できる。通常、小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックを使用する。小粒径カーボンブラックには、粒子径(数平均粒子径)が5nm〜200nmのものが使用されるが、粒子径10nm〜100nmのものがより好ましい。この範囲がより好ましいのは、粒子径が10nm以下になるとカーボンブラックの分散が難しく、粒子径が100nm以上では多量のカーボンブラックを添加することが必要になり、何れの場合も表面が粗くなり、磁性層への裏移り(エンボス)原因になるためである。大粒径カーボンブラックとして、小粒径カーボンブラックの5〜15重量%、粒子径300〜400nmの大粒径カーボンブラックを使用すると、表面も粗くならず、走行性向上効果も大きくなる。小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラック合計の添加量は無機粉体重量を基準にして60〜98重量%が好ましく、70〜95重量%がより好ましい。中心線平均表面粗さRaは3〜8nmが好ましく、4〜7nmがより好ましい。バックコート層に磁性があると磁気記録層の磁気信号が乱れる場合があるので、通常、バックコート層は非磁性である。
【0124】
また、バックコート層には、強度、温度・湿度寸法安定性向上等を目的に、先に述べたような粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmの非磁性板状粒子を添加することができる。非磁性板状粒子の成分は、酸化アルミニウムに限らず、セリウムなどの希土類元素、ジルコニウム、珪素、チタン、マンガン、鉄等の元素の酸化物または複合酸化物が用いられる。導電性改良の目的で、既述した製法で作製した板状ITO(インジウム、スズ複合酸化物)粒子や板状カーボンブラックを添加してもよい。バックコート層には、バックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして、板状ITO粒子とカーボンブラックを、その合計量が60〜98重量%となるように添加する。カーボンブラックは粒子径(数平均粒子径)が10nm〜100nmのものが好ましい。また、必要に応じて、粒子径が0.1μm〜0.6μmの酸化鉄を添加してもよい。添加量はバックコート層中の全無機粉体の重量を基準にして2〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。
【0125】
バックコート層には、バインダ樹脂として、前述した磁性層や下塗層に用いる樹脂と同じものを使用できるが、これらの中でも摩擦係数を低減し走行性を向上させるため、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを複合して併用することが好ましい。バインダ樹脂の含有量は、通常、前記カーボンブラックと前記無機非磁性粉末との合計量100重量部に対して40〜150重量部、好ましくは50〜120重量部、より好ましくは60〜110重量部、さらに好ましくは70〜110重量部である。前記範囲が好ましいのは、50重量部未満では、バックコート層の強度が不十分であり、120重量部を越えると摩擦係数が高くなりやすいためである。セルロース系樹脂を30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂を20〜50重量部使用することが好ましい。また、さらにバインダ樹脂を硬化するために、ポリイソシアネート化合物などの架橋剤を用いることが好ましい。
【0126】
バックコート層には、前述した磁性層や下塗層に用いる架橋剤と同様の架橋剤を使用する。架橋剤の量は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常、10〜50重量部の割合で用いられ、好ましくは10〜35重量部、より好ましくは10〜30重量部である。前記範囲が好ましいのは、10重量部未満ではバックコート層の塗膜強度が弱くなりやすく、35重量部を越えるとSUSに対する動摩擦係数が大きくなるためである。
【0127】
〈有機溶剤〉
磁性塗料、下塗塗料、バックコート塗料に使用する有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で又は混合して使用され、さらにトルエンなどと混合して使用される。
【0128】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例、比較例の部は重量部を示す。また、実施例、比較例の平均粒径は、粒子径(数平均粒子径)を示す。
【0129】
実施例1:
《超微粒子磁性粉の合成》
0.074モルの硝酸鉄(III)と0.002モルの硝酸ネオジムを600ccの水に溶解した。この硝酸塩水溶液とは別に、0.222モルの水酸化ナトリウムを600ccの水に溶解した。この水酸化ナトリウムの水溶液に、上記の硝酸塩水溶液を加えて、5分間撹拌し、鉄とネオジムの水酸化物(共沈物)を生成した。この水酸化物を水洗したのち、ろ過して水酸化物を取り出した。この水酸化物(水を含んだ状態)に、さらに30ccの水と0.5モルのホウ酸(H3 BO3 )を加えて、ホウ酸水溶液中で60℃に加熱しながら鉄とネオジムの水酸化物を再分散させた。この分散液をバットに広げ、60℃で4時間乾燥して水を除去し、鉄とネオジムからなる水酸化物とホウ酸の均一混合物を得た。
【0130】
この混合物を解砕し、アルミナルツボに入れて、空気中、200℃で4時間加熱処理して、ホウ素が結合したネオジム−鉄酸化物とした。この反応に際し、ホウ酸は、ホウ素の供給元であると同時に、粒子の極度な焼結を防止しながら、目的とする粒子サイズに結晶成長させるための融剤(フラックス)としての作用も兼ねている。この加熱処理物を水洗し、余剰のホウ素を除去し、ホウ素が結合したネオジム−鉄酸化物粒子を取り出した。この酸化物粒子を、水素気流中、450℃で4時間加熱還元し、ネオジム−鉄−ホウ素系磁性粉末とした。その後、水素ガスを流した状態で室温まで冷却し、窒素/酸素混合ガスに切り換えて、温度を再び60℃まで昇温し、窒素/酸素混合ガス気流中、8時間の安定化処理を行ったのち、空気中に取り出した。
【0131】
得られたネオジム−鉄−ホウ素系磁性粉末は、蛍光X線による測定で、鉄に対するネオジムの含有量が2.4原子%、鉄に対するホウ素の含有量が9.1原子%であった。この磁性粉末は、透過型電子顕微鏡(倍率:25万倍)で観察した結果、図4に示すようにほぼ球状ないし楕円状の粒子で、粒子径(以下、数平均粒子径、平均粒径、平均粒子サイズで示す。)は25nmであった。また、1273.3kA/mの磁界を印加して測定した飽和磁化は132A・m2 /kg(132emu/g)、保磁力は191.8kA/m(2410Oe)であった。
【0132】
《板状アルミナ粒子の合成》
0.075モルの水酸化ナトリウムと10mlの2−アミノエタノールを80mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を調整した。このアルカリ水溶液とは別に、0.0074モルの塩化アルミニウム(III)七水和物を40mlの水に溶解して、塩化アルミニウム水溶液を調整した。前者のアルカリ水溶液に、後者の塩化アルミニウム水溶液を滴下して、水酸化アルミニウムを含む沈殿物を作製し、その後塩酸を滴下することにより、pHを10.2に調整した。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、約1000倍の水で水洗した。
【0133】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.0に再調整し、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0134】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0135】
得られた酸化アルミニウム(つまりアルミナ)粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒径分布が30〜50nmと狭い(平均粒径:40nm)四角板状の粒子であることがわかった。
【0136】
得られた酸化アルミニウム粒子を、さらに空気中1250℃で1時間、加熱処理した。得られた酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、α−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒径分布が40〜60nmと狭い(平均粒径:50nm)四角板状の粒子であった。
【0137】
《板状ITO粒子の合成》
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解して、アルカリ水溶液を調整した。これとは別に、0.067モルの塩化インジウム(III)四水和物と0.007モルの塩化スズ(IV)五水和物を400mlの水に溶解して、塩化スズと塩化インジウムの水溶液を調整した。前者のアルカリ水溶液に、後者の塩化スズと塩化インジウムの水溶液を滴下して、スズとインジウムから成る水酸化物あるいは水和物の沈殿物を作製した。このときのpHは10.2であった。この沈殿物を室温で懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.6になるまで水洗した。
【0138】
次に、この沈殿物の懸濁液に水酸化ナトリウムの水溶液を添加して、pHを10.8に再調整し、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0139】
得られた水熱処理生成物を、pHが7.8になるまで水洗した後、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行ってスズ含有酸化インジウム粒子(ITO粒子)とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0140】
得られたスズ含有酸化インジウム粒子について、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒径分布が30〜50nmと狭い(平均粒径:40nm)円板状あるいは四角形状の粒子であることがわかった。
【0141】
このスズ含有酸化インジウム粒子のX線回折スペクトルを測定したところ、X線回折スペクトルは、単一構造の物質から構成されていることを示しており、インジウムがスズで置換されたスズ含有酸化インジウムとなっていることがわかった。
【0142】
《非磁性板状酸化鉄粒子の合成》
0.75モルの水酸化ナトリウムと100mlの2−アミノエタノールを800mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を作製した。このアルカリ水溶液とは別に、0.074モルの塩化第二鉄(III)六水和物を400mlの水に溶解して塩化第二鉄水溶液を作製した。前記アルカリ水溶液に前記塩化第二鉄水溶液を滴下して、水酸化第二鉄を含む沈殿物を作製した。このときのpHは11.3であった。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、pHが7.5になるまで水洗した。
【0143】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、オートクレーブに仕込み、150℃で2時間、水熱処理を施した。
【0144】
水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行ってアルファー酸化鉄粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0145】
得られたアルファー酸化鉄粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、アルファーヘマタイト構造のスペクトルが明瞭に観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒径分布が40〜60nmと狭い(平均粒径:50nm)の六角板状の粒子であることがわかった。
【0146】
《下塗塗料成分》
(1)
・板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm) 35部
・板状ITO粉末(平均粒径:40nm) 65部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0147】
《磁性塗料成分》
(1)混練工程
・超微粒子粒状磁性粉 (Nd−Fe−B) 100部
(Nd/Fe:2.4at%、
B/Fe:9.1at%、
σs:132A・m2 /kg(132emu/g)、
Hc:192kA/m(2410Oe)、
粒子径(数平均粒子径。以下、平均粒径で示す):25nm)
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 14部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂(PU) 5部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm) 10部
・板状ITO粉末(平均粒径:40nm) 5部
・メチルアシッドホスフェート(MAP) 2部
・テトラヒドロフラン(THF) 20部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 9部
(2)希釈工程
・パルミチン酸アミド(PA) 1.5部
・ステアリン酸n−ブチル(SB) 1部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 350部
(3)配合工程
・ポリイソシアネート 1.5部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 29部
【0148】
上記の下塗塗料成分において(1)を回分式ニーダで混練したのち、(2)を加えて攪拌の後サンドミルで滞留時間を60分として分散処理を行い、これに(3)を加え攪拌・濾過した後、下塗塗料(下塗層用塗料)とした。
【0149】
これとは別に、上記の磁性塗料の成分において(1)混連工程成分を予め高速混合しておき、その混合粉末を連続式2軸混練機で混練し、さらに(2)希釈工程成分を加え連続式2軸混練機で少なくとも2段階以上に分けて希釈を行い、サンドミルで滞留時間を45分として分散し、これに(3)配合工程成分を加え攪拌・濾過後、磁性塗料とした。
【0150】
上記の下塗塗料を、芳香族ポリアミドフイルム(厚さ3.3μm、MD=11GPa、MD/TD=0.70、商品名:ミクトロン、東レ社製)からなる非磁性支持体(ベースフィルム)上に、乾燥、カレンダ後の厚さが0.6μmとなるように塗布し、この下塗層上に、さらに上記の磁性塗料を磁場配向処理、乾燥、カレンダー処理後の磁性層の厚さが0.06μmとなるようにウエット・オン・ウエットで塗布し、磁場配向処理後、ドライヤおよび遠赤外線を用いて乾燥し、磁気シートを得た。なお、磁場配向処理は、ドライヤ前にN−N対抗磁石(5kG)を設置し、ドライヤ内で塗膜の指蝕乾燥位置の手前側75cmからN−N対抗磁石(5kG)を2基50cm間隔で設置して行った。塗布速度は100m/分とした。
【0151】
《バックコート層用塗料成分》
・板状ITO粉末(平均粒径:40nm) 80部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 10部
・非磁性板状酸化鉄(平均粒径:50nm) 10部
・ニトロセルロース 45部
・ポリウレタン樹脂(−SO3 Na基含有) 30部
・シクロヘキサノン 260部
・トルエン 260部
・メチルエチルケトン 525部
【0152】
上記バックコート層用塗料成分をサンドミルで滞留時間45分として分散した後、ポリイソシアネート15部を加えてバックコート層用塗料を調整し濾過後、上記で作製した磁気シートの磁性層の反対面に、乾燥、カレンダ後の厚みが0.5μmとなるように塗布し、乾燥した。
【0153】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧200×9.8N/cm(200kg/cm)の条件で鏡面化処理し、磁気シートをコアに巻いた状態で70℃で72時間エージングしたのち、1/2インチ幅に裁断した。
【0154】
スリットマシン(磁気テープ原反を所定幅の磁気テープに裁断する装置)は、構成している各種要素を下記のように改良したものを用いた。巻き出し原反からスリット刃物群に至るウェブ経路中にテンションカットローラを設け、このテンションカットローラをサクションタイプとし、吸引部を多孔質金属を埋め込んだメッシュサクションとした。刃物駆動部に動力を伝達する機構を持たないモーター直結のダイレクトドライブとした。
【0155】
裁断後のテープを200m/分で走行させながら磁性層表面に対しラッピングテープ研磨、ブレード研磨そして表面拭き取りの後処理を行い、磁気テープを作製した。この時、ラッピングテープにはK10000、ブレードには超硬刃、表面拭き取りには東レ社製トレシー(商品名)を用い、走行テンション0.294Nで処理を行った。上記のようにして得られた磁気テープを、カートリッジに組み込み、コンピュータ用の磁気テープカートリッジ(以下、コンピュータ用テープともいう)を作製した。
【0156】
このようにした得られたコンピュータ用テープを図3に示す。このコンピュータ用テープは、図3に示すように、上下ケース1a・1bを蓋合わせ状に接合してなる角箱状のケース本体1を有し、ケース本体1の内部に配置した1個のリール2に磁気テープ3を巻装している。ケース本体1の前壁6の一側端には、テープ引出口4が開口してある。テープ引出口4は、スライド開閉可能なドア5で開閉できるようになっている。リール2に巻装した磁気テープ3をケース外へ引き出し操作するために、磁気テープ3の繰り出し端にテープ引出具7が連結されている。図3中の符号20は、ドア5を閉じ勝手に移動付勢するためのドアばねを示す。
【0157】
実施例2:
磁性粉を下記の合成法のものに変更したことを除き、実施例1と同様にして実施例2のコンピュータ用テープを作製した。
【0158】
《超微粒子磁性粉の合成》
0.098モルの硝酸鉄(III)と0.042モルの硝酸コバルトと0.002モルの硝酸ネオジムを200ccの水に溶解した。この硝酸塩水溶液とは別に、0.42モルの水酸化ナトリウムを200ccの水に溶解した。上記の硝酸塩水溶液に、上記の水酸化ナトリウムの水溶液を加えて、5分間撹拌し、鉄とコバルトとネオジムの水酸化物を生成した。この水酸化物を水洗したのち、ろ過して水酸化物を取り出した。この水酸化物(水を含んだ状態)に、さらに150ccの水と0.1モルのホウ酸を添加して、ホウ酸水溶液中で鉄とコバルトとネオジムの水酸化物を再分散させた。この分散液を90℃で2時間加熱処理したのち、水洗して余剰のホウ酸を除去し、60℃で4時間乾燥して、ホウ酸を含有した鉄とコバルトとネオジムからなる水酸化物を得た。
【0159】
この水酸化物を、空気中、300℃で2時間加熱脱水したのち、水素気流中、450℃で4時間加熱還元し、ネオジム−鉄−コバルト−ホウ素系磁性粉末とした。その後、水素ガスを流した状態で室温まで冷却し、窒素/酸素混合ガスに切り換えて、温度を再び650℃まで昇温し、窒素/酸素混合ガス気流中、8時間の安定化処理を行ったのち、空気中に取り出した。
【0160】
得られたネオジム−鉄−コバルト−ホウ素系磁性粉末は、蛍光X線による測定で、鉄に対するネオジムの含有量が1.9原子%、鉄に対するコバルトの含有量が40.1原子%、鉄に対するホウ素の含有量が7.5原子%であった。この磁性粉末は、透過型電子顕微鏡(倍率:25万倍)で観察した結果、実施例1と同様にほぼ球状ないし楕円状の粒子で、平均粒径(数平均粒子サイズ)は20nmであった。また、1273.3kA/mの磁界を印加して測定した飽和磁化は157A・m2 /kg(157emu/g)、保磁力は174.3kA/m(2190Oe)であった。
【0161】
実施例3:
磁性粉を合成時の空気中加熱処理温度を実施例1の200℃、4時間から120℃、4時間に変更した以外は実施例1と同様の方法で合成し、粒子径を15nmとした以外は、実施例1と同様にして実施例3のコンピュータ用テープを作製した。
【0162】
実施例4:
超微粒子粒状磁性粉の代わりに超微粒子板状磁性粉(Ba−フェライト)(平均粒径(板径)=25nm、BET=67m2 /g、Hc=222kA/m(2790Oe)、σs=49.4A・m2 /kg(49.4emu/g))を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例4のコンピュータ用テープを作製した。
【0163】
実施例5:
下塗層の板状アルミナの量を10重量部から40重量部に変え、板状ITOの量を90重量部から60重量部に変えた以外は、実施例4と同様にして実施例5のコンピュータ用テープを作製した。
【0164】
実施例6:
磁性層厚さが0.06μmから0.04μm、下塗層厚さが0.6μmから0.45μmになるように変更した以外は、実施例5と同様にして実施例6のコンピュータ用テープを作製した。
【0165】
実施例7:
磁性塗料の成分中、板状アルミナ粉末(平均粒径:50nm)10重量部および板状ITO粉末(平均粒径:40nm)5重量部を、粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm)10重量部およびカーボンブラック(平均粒径:75nm)2重量部にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして実施例7のコンピュータ用テープを作製した。
【0166】
実施例8:
バックコート層用塗料の成分中、板状ITO粉末(平均粒径:40nm)80重量部を0重量部、カーボンブラック(平均粒径:25nm)10重量部を80重量部、板状酸化鉄(平均粒径:50nm)10重量部を0重量部にそれぞれ変更し、さらにカーボンブラック(平均粒径:0.35μm)10重量部、粒状酸化鉄(平均粒径:0.4μm)10重量部をそれぞれ添加した以外は、実施例7と同様にして実施例8のコンピュータ用テープを作製した。
【0167】
参考例:
実施例1の《下塗塗料成分》中の組成を下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして参考例のコンピュータ用テープを作製した。
【0168】
《下塗塗料成分》
(1)
・針状酸化鉄(平均粒径:100nm) 68部
・粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 8部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0169】
実施例10:
実施例8の《下塗塗料成分》中の組成を下記のように変更した以外は、実施例8と同様にして実施例10のコンピュータ用テープを作製した。
【0170】
《板状アルミナ粒子(40nm)の合成》
0.075モルの水酸化ナトリウムと10mlの2−アミノエタノールを80mlの水に溶解し、アルカリ水溶液を調整した。このアルカリ水溶液とは別に、0.0065モルの塩化アルミニウム(III)七水和物を40mlの水に溶解して、塩化アルミニウム水溶液を調整した。前者のアルカリ水溶液に、後者の塩化アルミニウム水溶液を滴下して、水酸化アルミニウムを含む沈殿物を作製し、その後塩酸を滴下することにより、pHを10.2に調整した。この沈殿物を懸濁液の状態で20時間熟成させたのち、約1000倍の水で水洗した。
【0171】
次に、上澄み液を除去した後、この沈殿物の懸濁液を、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.0に再調整し、オートクレーブに仕込み、200℃で2時間、水熱処理を施した。
【0172】
得られた水熱処理生成物を、ろ過し、90℃で空気中乾燥した後、乳鉢で軽く解砕し、空気中600℃で1時間の加熱処理を行って酸化アルミニウム粒子とした。加熱処理後、未反応物や残存物を除去するために、さらに超音波分散機を使って水洗し、ろ過乾燥した。
【0173】
得られた酸化アルミニウム(つまりアルミナ)粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、γ−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒径分布が20〜40nmと狭い(平均粒径:30nm)四角板状の粒子であることがわかった。
【0174】
得られた酸化アルミニウム粒子を、さらに空気中1250℃で1時間、加熱処理した。得られた酸化アルミニウム粒子について、X線回折スペクトルを測定したところ、α−アルミナに対応するスペクトルが観測された。さらに、透過電子顕微鏡で形状観察を行ったところ、粒径分布が30〜50nmと狭い(平均粒径:40nm)四角板状の粒子であった。
【0175】
《下塗塗料成分》
(1)
・板状アルミナ粉末(平均粒径:40nm) 35部
・板状ITO粉末(平均粒径:40nm) 65部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0176】
比較例1:
実施例1の《磁性塗料成分》における(1)混練工程、《下塗塗料成分》、《バックコート層用塗料成分》中の組成を下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1のコンピュータ用テープを作製した。ただし、磁性粉を粒子径(平均軸長)100nmの針状粉に変えたので、磁性層厚さは0.06μmにコントロールできず、0.11μmになった。
【0177】
《磁性塗料成分》
(1)混練工程
・針状強磁性鉄系金属粉 100部
(Co/Fe:30at%、
Y/(Fe+Co):3at%、
Al/(Fe+Co):5at%、
σs:145A・m2 /kg(145emu/g)、
Hc:187kA/m(2350Oe)、
平均軸長:100nm、軸比7)
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 14部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂(PU) 5部
(含有−SO3 Na基:1.0×10-4当量/g)
・粒状アルミナ(平均粒径:80nm) 10部
・カーボンブラック(平均粒径:75nm) 5部
・メチルアシッドホスフェート(MAP) 2部
・テトラヒドロフラン(THF) 20部
・メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(MEK/A) 9部
【0178】
《下塗塗料成分》
(1)
・針状酸化鉄(平均粒径:100nm) 68部
・粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 8部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0179】
《バックコート層用塗料成分》
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 80部
カーボンブラック(平均粒径:0.35μm) 10部
粒状酸化鉄(平均粒径:50nm) 10部
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂(SO3 Na基含有) 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
【0180】
比較例2:
実施例1の《下塗塗料成分》、《バックコート層用塗料成分》中の組成を下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして比較例2のコンピュータ用テープを作製した。
【0181】
《下塗塗料成分》
(1)
・針状酸化鉄(平均粒径:100nm) 68部
・粒状アルミナ粉末(平均粒径:80nm) 8部
・カーボンブラック(平均粒径:25nm) 24部
・ステアリン酸 2.0部
・塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 8.8部
(含有−SO3 Na基:0.7×10-4当量/g)
・ポリエステルポリウレタン樹脂 4.4部
(Tg:40℃、含有−SO3 Na基:1×10-4当量/g)
・シクロヘキサノン 25部
・メチルエチルケトン 40部
・トルエン 10部
(2)
・ステアリン酸ブチル 1部
・シクロヘキサノン 70部
・メチルエチルケトン 50部
・トルエン 20部
(3)
・ポリイソシアネート 1.4部
・シクロヘキサノン 10部
・メチルエチルケトン 15部
・トルエン 10部
【0182】
《バックコート層用塗料成分》
カーボンブラック(平均粒径:25nm) 80部
カーボンブラック(平均粒径:0.35μm) 10部
粒状酸化鉄(平均粒径:50nm) 10部
ニトロセルロース 45部
ポリウレタン樹脂(含有−SO3 Na基) 30部
シクロヘキサノン 260部
トルエン 260部
メチルエチルケトン 525部
【0183】
比較例3:
非磁性支持体(ベースフィルム)を芳香族ポリアミドフィルム(厚さ3.3μm、MD=11GPa、MD/TD=0.70、商品名:ミクトロン、東レ社製)から芳香族ポリアミドフィルム(厚さ3.3μm、MD=14GPa、MD/TD=1.20、商品名:ミクトロン、東レ社製)に変更し、スリットマシンの構成要素を、テンションカットローラをサクションタイプの吸引部に多孔質金属を埋め込んだメッシュサクション、刃物駆動部に動力を伝達する機構を持たないモーター直結のダイレクトドライブから、テンションカットローラを通常のサクションタイプ、刃物駆動部に動力を伝達する機構をゴムベルトとゴムカップリンダに変更した以外は比較例2と同様にして、比較例3のコンピュータ用テープを作製した。
【0184】
〔評価〕
各実施例および比較例、参考例で得られたコンピュータ用テープの特性評価は、以下のようにして行った。
【0185】
〈磁性層の表面粗さ〉
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000による走査型白色光干渉法にてScan Lengthを5μmで測定した。測定視野は、350μm×260μmである。磁性層の中心線平均表面粗さをRaとして求めた。
【0186】
〈出力と出力対ノイズ〉
テープの電磁変換特性測定には、ドラムテスターを用いた。ドラムテスターには電磁誘導型ヘッド(トラック幅25μm、ギャップ0.1μm)とMRヘッド(8μm)を装着し、誘導型ヘッドで記録、MRヘッドで再生を行った。両ヘッドは回転ドラムに対して異なる場所に設置されており、両ヘッドを上下方向に操作することで、トラッキングを合わせることができる。磁気テープはカートリッジに巻き込んだ状態から適切な量を引き出して廃棄し、更に60cmを切り出し、更に4mm幅に加工して回転ドラムの外周に巻き付けた。
【0187】
出力及びノイズは、ファンクションジェネレータにより波長0.2μmの矩形波を書き込み、MRヘッドの出力をスペクトラムアナライザーに読み込んだ。0.2μmのキャリア値を媒体出力Cとした。また0.2μmの矩形波を書き込んだときに、出力及びシステムノイズを差し引いた値の積分値をノイズ値Nとして用いた。更に両者の比をとってC/Nとし、C、C/Nともにリファレンスとして用いている比較例1テープの値との相対値を求めた。
【0188】
〈テープの温度・湿度膨張係数〉
作製した磁気テープ原反の幅方向から、幅12.65mm、長さ150mmの試料を準備し、温度膨張係数は、20℃、60%RHと40℃、60%RHとの試料長の差から求めた。湿度膨張係数は、20℃、30%RHと20℃、70%RHとの試料長の差から求めた。
【0189】
〈エッジウィーブ量の測定〉
走行基準側となるテープエッジにおけるエッジウィーブ量は、サーボライター(走行速度5m/s)にエッジウィーブ量測定装置(キーエンス社製)を取り付け、テープ長さ50mにわたって連続測定した。ついで、得られたエッジウィーブ量のフーリエ解析を行い、周期f(mm)のエッジウィーブ量を求めた。テープ走行速度を、V(mm/s)としたときの周波数V/f(1/s)が50(1/s)以上の成分がオフトラックの原因になるので、本発明でいうエッジウィーブ量とは、V/f(1/s)が60(1/s)以上のものをいう。実施例、比較例ではV/f(V=400mm/s、f=65mm)=61.5(1/s)のエッジウィーブ量を求めた。エッジウィーブオフトラック量はLTOドライブ装置でテープを走行させ求めた。
【0190】
〈温湿度オフトラック量〉
温度10℃、湿度10%RHから、温度29℃、湿度80%RHに環境が変化したときのトラック位置の最大ズレ量(サーボトラックから1400μm離れた位置のトラックズレ)をテープの温度膨張係数、湿度膨張係数から求めた。
【0191】
〈出力低下〉
上記エッジウィーブオフトラック量と温度・湿度オフトラック量の合計値から、記録トラック幅12μm、再生ヘッドトラック幅10μmの条件で記録再生を行ったときの、同一装置を使用した場合の出力低下量と、トラック位置が1.5μmずれた装置を使用した場合の出力低下量を計算により求めた。
【0192】
〈出力変動〉
磁性層厚さの変動量は、DLTドライブを用いて、2.54m/秒の速度でテープを走らせ、テープ長50mに、記録トラック幅が76μmの磁気誘導型記録ヘッドで波長2μmの信号を記録し、トラック幅38μmの磁気抵抗効果型再生ヘッドで再生し、その再生出力を1000個/秒間隔で読み取り(テープ上の長さで2.54mm間隔)、その変動量を測定することで評価した。長手方向の出力変動率は、平均変動率(MD;テープ長手方向における値であることを示す。表1〜3においても同様。)(%)=((各ポイントの出力−平均出力)の絶対値/平均出力)×100の平均値、で定義し、上記の操作をテープの幅方向に5トラック行い、その平均値をテープの長手方向の出力変動率とした。幅方向の出力変動量は、上記データを、テープの長手方向の各ポイントでの各トラックの出力値から、平均変動率(TD;テープ幅方向における値であることを示す。表1〜3においても同様。)(%)=((各トラックの出力−5トラックの平均出力)の絶対値/5トラックの平均出力)×100 を求め50m長の各ポイントの平均値をテープの幅方向の出力変動率とした。
【0193】
表1ないし表3に、以上の結果と、各実施例および比較例、参考例で採用した条件をまとめて示す。
【0194】
【表1】
【0195】
【表2】
【0196】
【表3】
【0197】
表1ないし表3から明らかなように、本発明の実施例1〜8、10に係る各コンピュータ用テープ(磁気テープ)は、比較例1および比較例2に係るコンピュータ用テープに比べて、電磁変換特性に優れ、温度・湿度安定性が良好で、エッジウィーブ量が小さいため、温度や湿度が変化した場合でもオフトラック量が少ない。また、テープ長手方向および幅方向の出力変動が小さい。すなわち、磁性層厚さの変動が小さい。なお、オフトラック量は、記録トラック幅が12μm、再生ヘッドトラック幅が10μmとして計算により評価したが、1TB容量のコンピュータ用テープで予想される記録トラック幅が10μm以下、再生ヘッドトラック幅が8μm以下の条件では、実施例と比較例とのオフトラック量の差は、一層顕著になると予想される。
【0198】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、高い再生出力およびC/N等を有し、温度・湿度安定性に優れた磁気テープおよび磁気テープカートリッジが得られる。これにより、例えば1TB以上の記録容量に対応できるコンピュータ等用のバックアップテープを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】磁気テープを作製するに当たって使用したスリットマシンの全体構成を簡略化して示す図である。
【図2】図1のスリットマシンにおけるサクションローラ部の断面構造を示す部分拡大断面図である。
【図3】本発明の実施例で作製した磁気テープカートリッジ(コンピュータ用テープ)を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施例1で使用したネオジム−鉄−ホウ素系磁性粉末粒子の透過型電子顕微鏡写真(倍率:25万倍)を示す図である。
【符号の説明】
1 箱状のケース本体
2 リール
3 磁気テープ
Claims (1)
- 非磁性支持体と、
この非磁性支持体の一方の面に塗布形成された、非磁性粉を含む非磁性下塗層と、
この非磁性下塗層が湿潤状態にあるうちに該下塗層の上に塗布形成された、磁性粉を含む磁性層と、
非磁性支持体の他方の面に塗布形成された、非磁性粉を含むバックコート層とからなり、
磁性層に磁気的に読み取られるサーボトラッキング用のサーボトラックバンドが形成され、磁気抵抗効果型素子を利用した再生ヘッドよって磁気記録信号が再生される1/2インチ幅のリニア記録タイプのコンピュータ用の磁気テープであって、
前記磁性層の厚さが0.01〜0.09μmであり、
前記磁性層に含まれた磁性粉が、平均粒子径5〜25nmの板状、粒状ないし楕円状(針状を除く)の磁性粉であり、
前記下塗層の厚みが 0. 2〜 0. 8μmであり、
前記下塗層に含まれた非磁性粉が、粒子径10〜100nmの非磁性の板状酸化物粒子であり、
記録トラック幅が12μm以下で、4m/秒以上のテープ走行速度で使用される磁気テープにおいて、テープ幅方向の温度膨張係数が( 0. 9〜 2. 0)×10 -6 /℃、湿度膨張係数が( 6. 5〜 9. 8)×10 -6 /%RHであり、
テープ走行時に走行基準側となる一方のテープエッジまたはその反対側となるテープエッジに存在するエッジウィーブ量が 0. 8μm未満であり、
DLTドライブを用いて、 2. 54m/秒の速度でテープを走らせ、テープ長50mに、記録トラック幅が76μmの磁気誘導型記録ヘッドで波長2μmの信号を記録し、トラック幅38μmの磁気抵抗効果型再生ヘッド(磁気抵抗効果型素子の厚さ:0.05μm)で再生し、その再生出力を1000個/秒間隔で読み取り(テープ上の長さで 2. 54 mm 間隔)、この操作をテープの幅方向に5トラック行い、その平均値をテープの長手方向の出力変動率としたときの、テープの長手方向および幅方向の再生出力変動率が5.1%以上10%以下であることを特徴とする磁気テープ。
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