JP3733504B2 - 曲げ強度と衝撃特性に優れた浸炭部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、曲げ強度と衝撃特性に優れた浸炭部品に関し、より詳しくは、衝撃的な曲げ応力による破損が問題となる自動車の差動装置用歯車などの浸炭部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の差動装置に使用される歯車(傘歯車)の母材(素材鋼)には浸炭鋼が使用されているが、衝撃的な曲げ応力が作用して破損する場合がある。この応力は、車両を急発進、急停車させたり、凹凸道(悪路)を高速走行する場合などに生ずる衝撃的な負荷に起因するものである。
【0003】
上記の衝撃負荷が作用する場合の歪速度は、急発進や急停車の程度、悪路における走行速度の程度に応じて、さまざまである。このため、広い歪速度範囲の衝撃的な負荷に対して抵抗性を有する差動装置用歯車が、換言すれば、高歪速度と低歪速度との双方の下で曲げ強度に優れた差動装置用歯車が求められている。
【0004】
差動装置の傘歯車は、従来、JIS規格鋼のSCr420やSCM420などを母材として所望形状に加工した後、これに浸炭処理を施して製造されてきた。
【0005】
しかし、最近のエンジンの高出力化や部品軽量化などの動きは、ますます高い曲げ強度を必要としており、前記のJIS規格鋼を母材とした場合には、上記の衝撃的な負荷に対しては充分な寿命が得られない。そこで、上記の衝撃的な負荷に対する抵抗性を高めるために、浸炭処理を前提とした鋼が特開昭62−1843号公報に提案されている。すなわち、前記公報には、SiとMoを複合添加し(重量%で、Mo:0.5〜1.0%で、且つ、Mo+Si:1〜2%)、衝撃強度を高めた鋼が開示されている。
【0006】
しかしながら、本発明者らの研究によると、前記公報に提案された鋼を母材とした浸炭歯車を用いても、上記のようなエンジンの高出力化や軽量化を行った場合の衝撃的な負荷による破損には、必ずしも対応できるものではなく、充分な効果を有していないことが明らかになった。すなわち、前記公報に提案された鋼を母材とした場合には、差動装置用の傘歯車に必要な曲げ強度のうちでも、特に、低歪速度での曲げ強度を満足できるものではなかったのである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、自動車の差動装置用傘歯車などで問題となる広い歪速度範囲の衝撃的な負荷による破損に対して優れた抵抗性を有する浸炭部品、換言すれば、高い歪速度と低い歪速度との双方の条件の下で、曲げ強度に優れた浸炭部品を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記に示す曲げ強度と衝撃特性に優れた浸炭部品にある。
【0009】
すなわち、「母材が、重量%で、C:0.1〜0.3%、Mn:0.35〜1.1%、Cr:0.1〜1.1%で、且つ、Mn+Cr:0.6〜1.7%、B:0.001〜0.005%、Al:0.01〜0.1%、Mo:0.15%を超えて0.70%以下、Nb:0〜0.05%、Ti:0〜0.05%、N:0〜0.015%、Si:0.3%未満、Cu:0.4%以下、Ni:0.5%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、残部Fe及び不可避不純物の化学組成の鋼であって、浸炭硬化層の表面C量が重量%で0.6〜1.1%で、且つその浸炭硬化層におけるトルースタイトの面積分率が5〜50%であることを特徴とする曲げ強度と衝撃特性に優れた浸炭部品」である。
【0010】
ここで、「表面C量」とは「表面から0.1mmまでの領域における基地のC濃度(重量%)のこと」をいい、「トルースタイトの面積分率」は「浸炭硬化層の全域に亘るトルースタイトの平均の面積分率」のことを指す。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前記した目的を達成するため、浸炭部品の母材となる鋼材の化学組成及び浸炭部品の組織、並びに浸炭部品の破損の態様などについて研究を行った結果、下記の知見を得た。
【0012】
▲1▼浸炭後の母材の硬度は曲げ強度と相関を有する。すなわち、母材硬度の低下とともに浸炭部品の曲げ強度は大きく低下する。なお、「母材」とは浸炭硬化していない部分、すなわち浸炭硬化層以外の部分のことで、「素材鋼」のことをいう。
【0013】
▲2▼Bは鋼の焼入れ性を高める元素として知られているが、浸炭層のようにC含有量が高い場合には、焼入れ性向上効果は殆ど生じない。したがって、B添加鋼を浸炭焼入れすれば、母材の硬度だけを高めることができる。
【0014】
▲3▼Mn量、Cr量、Mn+Cr量(MnとCrの合計量)及びMo量を調整して焼入れ性を制御した鋼に適正量のBを添加して浸炭焼入れすれば、浸炭硬化層の全域に亘ってマルテンサイトと残留オーステナイトに加えてトルースタイトを生成させることができる。しかも、トルースタイト生成量(トルースタイトの面積分率)の制御は比較的容易である。
【0015】
なお、ここでいう「トルースタイト」とは、通常のガス浸炭を行った場合に鋼材表面部に見られる「不完全焼入れ層」とは異なったものである。すなわち、所謂「不完全焼入れ層」は、浸炭焼入れ時に鋼材表面部のCr、MnやSiなどの合金元素が酸化され、その周辺部で前記の合金元素(Cr、MnやSiなど)が欠乏し、焼入れ性が不足することが原因で生じた組織である。この組織は鋼材の表面に対して層状、あるいは粒界の酸化物に沿った形状で現出する。一方、上記の「トルースタイト」は、マルテンサイトと残留オーステナイトの中に粒状に観察されるもので、前記の所謂「不完全焼入れ層」とは明らかに形態が異なった組織である。この両者は、500倍程度の倍率で光学顕微鏡観察すれば容易に識別できる。
【0016】
▲4▼浸炭硬化層にトルースタイトが生成すると、静的曲げ強度とシャルピー衝撃値(衝撃特性)が共に向上する。しかし、トルースタイトの面積分率が大きくなりすぎると曲げ強度は劣化してしまう。
【0017】
▲5▼上記の▲1▼及び▲4▼から、浸炭部品における広い歪速度範囲の衝撃的な負荷による破損の発生、換言すれば、高い歪速度と低い歪速度との双方の条件下での曲げによる破損発生の問題を解決するには、浸炭焼入れ後の組織に関して、浸炭硬化層の組織はマルテンサイトと残留オーステナイト及び静的曲げ強度と衝撃特性に優れたトルースタイトとの混合組織とすれば良い。一方、母材の組織は、所望の曲げ強度を確保できるだけの硬度を有しておりさえすれば、何であっても良い。
【0018】
▲6▼浸炭硬化層の表面C量は、浸炭部品の耐摩耗性、曲げ強度及び靭性(衝撃特性)に影響を及ぼす。すなわち、浸炭硬化層の表面C量が重量%で0.6%を下回ると、耐摩耗性が劣化する。一方、重量%で1.1%を超えると、浸炭硬化層の脆化が著しいため、曲げ強度と衝撃特性は大きく低下してしまう。
【0019】
なお、「表面C量」とは、既に述べたように「表面から0.1mmまでの領域における基地のC濃度(重量%)のこと」を指す。「表面C量が0.6%を下回る」ということは、「前記領域でのC濃度分布が一部でも0.6%を下回る」ことをいう。同様に、「表面C量が1.1%を超える」ということは、「前記領域でのC濃度分布が一部でも1.1%を超える」ことをいう。
【0020】
表面C量(表面C濃度分布)は、例えば波長分散型EPMAなどの装置を用いて検量線により測定すれば良い。
【0021】
極表面においては特性X線の発生領域の問題から、試料のマウントなどが影響して正確な分析を行い難い場合があるが、このような時には最も表面に近くてマウントなどの影響が無い点から外挿して表面C量を読み取れば良い。
【0022】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0023】
以下に本発明の各要件について詳しく説明する。なお、成分含有量の「%」は「重量%」を意味する。
【0024】
(A)母材(素材鋼)の化学組成
C:0.1〜0.3%
Cは、浸炭焼入れ後の母材(素材鋼)の硬度を上昇させて、浸炭部品の曲げ強度を向上させる作用を有する。しかし、C含有量が0.1%未満では、添加効果に乏しい。一方、0.3%を超えると、靭性の低下をもたらし、シャルピー衝撃特性を劣化させてしまう。したがって、Cの含有量を0.1〜0.3%とした。なお、C含有量は0.15〜0.25%とすることが好ましい。
【0025】
Mn:0.35〜1.1%
Mnは、浸炭焼入れ後の母材の硬度を高めて、曲げ強度を上昇させる作用がある。しかし、その含有量が0.35%未満では添加効果に乏しい。一方、Mnを過剰に添加するとオーステナイト粒界の脆化を招くため、曲げ強度が却って劣化してしまう。特に、Mn含有量が1.1%を超えると曲げ強度の低下が顕著になる。したがって、Mnの含有量を0.35〜1.1%とした。なお、Mnの含有量は0.4〜1.0%とすることが望ましい。
【0026】
Cr:0.1〜1.1%
Crも浸炭焼入れ後の母材の硬度を高めて曲げ強度を上昇させる作用を有する。しかし、その含有量が0.1%未満では上記の作用が期待できない。一方、Crを過剰に添加するとオーステナイト粒界の脆化を招くため、曲げ強度が却って劣化してしまう。特に、Cr含有量が1.1%を超えると曲げ強度の低下が著しくなる。したがって、Crの含有量を0.1〜1.1%とした。なお、Crの好ましい含有量は0.2〜1.0%である。
【0027】
Mn+Cr:0.6〜1.7%
Mn+Cr量は浸炭硬化層のトルースタイト生成量に大きく影響し、これを通じて浸炭部品の特性を左右する。すなわち、この値が0.6%未満であると浸炭硬化層の全域に亘るトルースタイトの平均の面積分率が50%を超えてしまうので、浸炭部品の曲げ強度の劣化をきたす。一方、1.7%を超えると、浸炭硬化層でのトルースタイトの生成が困難となって、前記のトルースタイト面積分率が5%を下回ってしまい、浸炭部品の静的曲げ強度とシャルピー衝撃値(衝撃特性)の双方が劣化してしまう。したがって、MnとCrの含有量の和であるMn+Crの量を0.6〜1.7%とした。なお、Mn+Cr量は0.8〜1.6%とすることが好ましい。
【0028】
B:0.001〜0.005%
Bは、本発明において重要な元素である。Bには、浸炭後に焼入れされる浸炭層の焼入れ性は上昇させずに、母材の焼入れ性だけを高める作用がある。このため、母材硬度の上昇を通じて浸炭部品の曲げ強度を高める作用を有する。しかし、Bの含有量が0.001%未満では添加効果に乏しく、0.005%を超えて含有させても前記効果は飽和してコストの上昇をきたすことに加えて、熱間加工性の劣化を招く。したがって、Bの含有量を0.001〜0.005%とした。なお、Bの含有量は0.0015〜0.003%とすることが好ましい。
【0029】
Al:0.01〜0.1%
Alは、浸炭処理時のオーステナイト粒の粗大化を抑制して、浸炭焼入れ後の硬化層及び母材部の結晶粒を微細化する作用がある。しかし、その含有量が0.01%未満では前記作用は発揮されず、結晶粒の粗大化によって、浸炭部品の曲げ強度と衝撃特性が共に低下してしまう。一方、0.1%を超えると前記作用が飽和する。したがって、Alの含有量を0.01〜0.1%とした。なお、Alの望ましい含有量は0.02〜0.05%である。
【0030】
Mo:0.15%を超えて0.70%以下
Moは、鋼の焼入れ性を高める作用を有する。更に、マルテンサイトの靭性を高める作用も有する。しかし、その含有量が0.15%以下では靭性向上効果に乏しい。一方、靭性を向上させるために多量に添加すると、浸炭硬化層の焼入れ性が上昇し過ぎてトルースタイトを生成させることができなくなる。この場合、Mn量、Cr量及びMn+Cr量を既に述べた範囲に調整することによって、靭性の向上と浸炭硬化層でのトルースタイトの生成の両者を達成させることが可能であるが、Moの含有量が0.70%を超える場合には、たとえMn量、Cr量及びMn+Cr量を既に述べた範囲に調整してもトルースタイトの生成が困難となるし、母材の被削性や冷間鍛造性が低下してしまう。したがって、Moの含有量を0.15%を超えて0.70%以下とした。なお、Moの好ましい含有量は0.2〜0.5%である。
【0031】
Nb:0〜0.05%
Nbは添加しなくても良い。添加すれば浸炭処理時のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、浸炭焼入れ後の硬化層及び母材部の結晶粒を微細化する作用がある。この効果を確実に得るには、Nbは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.05%を超えると前記作用が飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Nbの含有量を0〜0.05%とした。
【0032】
Ti:0〜0.05%
Tiも添加しなくても良い。添加すれば浸炭処理時のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、浸炭焼入れ後の硬化層及び母材部の結晶粒を微細化する作用がある。この効果を確実に得るには、Tiは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.05%を超えると前記作用が飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Tiの含有量を0〜0.05%とした。
【0033】
N:0〜0.015%
Nは含有させなくても良い。含有させれば、窒化物を生成して浸炭処理時のオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制し、浸炭焼入れ後の硬化層及び母材部の結晶粒を微細化する作用がある。この効果を確実に得るには、Nは0.003%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.015%を超えると前記作用が飽和し、更には前記したB添加の効果が失われてしまう。したがって、Nの含有量を0〜0.015%とした。なお、N含有量の上限は0.012%とすることが好ましい。
【0034】
Si:0.3%未満
Siは、ガス浸炭した場合に浸炭部品の表面のオーステナイト粒界に粒界酸化層を生成させる。このため、浸炭部品の曲げ強度と衝撃特性が低下してしまう。特にその含有量が0.3%以上になると、粒界酸化層が表面下の深い位置まで生成するようになり、浸炭部品の曲げ強度と衝撃特性の低下が著しくなる。したがって、Siの含有量を0.3%未満とした。なお、Si含有量は0.15%以下とすることが望ましい。
【0035】
Cu:0.4%以下
Cuは、鋼の熱間加工性を低下させてしまう。特に0.4%を超えて含有すると、熱間加工時における加工性の著しい劣化をきたす。したがって、Cuの含有量の上限を0.4%とした。なお、Cu含有量は0.3%以下とすることが望ましい。
【0036】
Ni:0.5%以下
Niは、切削加工時の被削性を低下させてしまう。特に0.5%を超えて含有すると、被削性の著しい劣化をきたす。したがって、Niの含有量の上限を0.5%とした。なお、Ni含有量は0.3%以下とすることが望ましい。
【0037】
P:0.03%以下
Pは浸炭硬化層の強度と靭性(衝撃特性)を劣化させ、特にその含有量が0.03%を超えると、浸炭部品の曲げ強度と靭性の劣化が著しくなる。したがって、Pの含有量の上限を0.03%とした。なお、Pの含有量は0.025%以下とすることが好ましい。
【0038】
S:0.03%以下
Sも浸炭硬化層の強度と靭性を劣化させる。特にその含有量が0.03%を超えると、浸炭部品の曲げ強度と靭性の劣化が著しくなる。したがって、Sの含有量の上限を0.03%とした。なお、Sの含有量は0.025%以下とすることが好ましい。
【0039】
(B)浸炭硬化層の表面C量
浸炭硬化層の表面C量は、浸炭部品の耐摩耗性、曲げ強度及び衝撃特性に大きな影響を及ぼす。浸炭硬化層の表面C量が0.6%未満であると、浸炭部品の表面硬度が低くなってしまい、充分な耐摩耗性を付与させることができない。一方、1.1%を超えると浸炭硬化層が脆化して、浸炭部品の曲げ強度と衝撃特性が共に低下してしまう。したがって、浸炭後の表面C量を0.6〜1.1%とした。なお、浸炭後の表面C量は0.7〜1.0%とすることが好ましい。
【0040】
(C)浸炭硬化層の組織
浸炭硬化層に生成したトルースタイトは、浸炭部品の曲げ強度と衝撃値を向上させる作用がある。このため、広い歪速度範囲の衝撃的な負荷による破損に対して優れた抵抗性を有する浸炭部品を得るためには、浸炭部品の浸炭硬化層の組織を制御することが重要である。したがって、本発明においては、浸炭焼入れ後の浸炭硬化層の組織を規定する。
【0041】
一般に、浸炭焼入れした部品の浸炭硬化層における主組織はマルテンサイトと残留オーステナイトから構成される。しかし、Mn量、Cr量、Mn+Cr量及びMo量を厳密に制御した上で適正量のBを添加した、本発明の対象鋼を母材(素材鋼)とした部品の場合には、浸炭焼入れで、前記の浸炭硬化層にマルテンサイトと残留オーステナイトに加えてトルースタイトが生成する。
【0042】
浸炭硬化層におけるトルースタイトの面積分率が5%未満の場合には、前記の浸炭部品の曲げ強度と衝撃値を向上させる作用が期待できない。一方、トルースタイトの面積分率が50%を超えると、曲げ強度が低下してしまう。したがって、浸炭硬化層におけるトルースタイトの面積分率を5〜50%とした。なお、浸炭硬化層におけるトルースタイトの面積分率の好ましい範囲は10〜40%である。
【0043】
浸炭後の母材部組織に関しては、特にこれを制限する必要はない。すなわち、母材は所望の曲げ強度を確保できるだけの硬度を有しておりさえすれば、その組織は何であっても良い。
【0044】
本発明の対象鋼を母材とした部品の場合には、通常の浸炭焼入れを施すだけで、上記の浸炭硬化層における組織を得ることができる。
【0045】
しかし、前記したトルースタイトの面積分率は、浸炭焼入れ時の冷却速度の大きな部分では小さく、冷却速度が遅くなる部分では逆に大きくなる。したがって、通常の浸炭焼入れを施す場合には、浸炭焼入れ時の質量効果を考えて、対象とする部品のサイズは外径(例えば対象部品が「歯車」の場合、歯先円の直径に相当)で、約25mmから約200mmまでとすることが好ましい。一方、対象とする部品のサイズに関係なく、容易に所望の組織とするためには、浸炭焼入れ時の冷却速度を調整すれば良い。これには、冷却媒体(焼入れ剤)として水、油、塩(ソルト)などを適宜選び、適当な温度で用いれば良い。
【0046】
本発明に係わる浸炭部品は、上記した化学組成を有する母材(素材鋼)を、例えば通常の方法で溶製した後、熱間で圧延又は鍛造し、更に必要に応じて熱処理を行い、次いで切削や圧造などで所望の部品形状とした後、浸炭焼入れを行い、必要に応じて低温での焼戻しや研削、研磨をして製造される。
【0047】
【実施例】
表1及び表2に示す化学組成の鋼を通常の方法によって150kg真空溶製した。表1における鋼 A〜M は本発明対象鋼(以下、本発明鋼という)、表2における鋼 N〜V は成分のいずれかが本発明で規定する範囲から外れた比較鋼である。比較鋼のうち鋼 Vは衝撃特性に優れた浸炭用鋼として知られている高Si−高Mo鋼である。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
次いで、これらの鋼を通常の方法によって鋼片とした後、1200℃に加熱してから、1200〜1000℃の温度で熱間鍛造して直径20mmの丸棒とし、更に、925℃で焼準した。
【0051】
こうして得られた焼準後の丸棒から、図1に示す曲げ試験片とJIS3号シャルピ−衝撃試験片を切り出した。
【0052】
(実施例1)
本発明鋼である鋼 Aを母材とする前記した2種類の試験片に対して、浸炭条件を表3のa〜dと変えて、図2に示すヒートパターンで浸炭焼入れを施し、その後180℃で2時間の焼戻しを行った。なお、浸炭条件a〜dのすべてにおいて、浸炭後の試験片は220℃の塩浴中に焼入れした。
【0053】
【表3】
【0054】
この後、上記の処理を施した試験片を用いて、常温(室温)でのシャルピー衝撃試験と、常温3点曲げ試験(スパン45mm、切り欠き底の歪速度0.02/秒)を実施した。なお、3点曲げ試験は試験片が破損するまでの最大荷重で評価し、これを3点曲げ強度とした。更に、EPMAによる浸炭硬化層の表面C量測定を行った。又、表面からの硬度分布を測定して浸炭硬化層を特定し、光学顕微鏡を用いて浸炭硬化層の組織観察を行った。
【0055】
表4に試験結果を示す。この表4は、3点曲げ強度とシャルピー衝撃値(衝撃特性)に及ぼす浸炭硬化層の表面C量の影響を示すものである。なお、表4の浸炭硬化層の組織に関し、トルースタイト以外の部分(面積分率)はマルテンサイトと残留オーステナイトであることを意味する。
【0056】
【表4】
【0057】
表4から、浸炭硬化層の表面C量が本発明で規定する値より高い浸炭条件dの比較例の場合には、本発明例の浸炭条件a〜cに比べて曲げ強度とシャルピー衝撃値が共に低いことが明らかである。すなわち、浸炭条件dでは、表面C量が1.15%と高すぎるために浸炭硬化層、特に表面部の浸炭硬化層が脆化し、浸炭硬化層にトルースタイトが生成しているにも拘らず、曲げ強度と衝撃値が共に低い。
【0058】
(実施例2)
本発明鋼である鋼 A〜M と、比較鋼である鋼 N〜V を母材とする前記の2種類の試験片に対して、表3のaの浸炭条件で、図2に示すヒートパターンの浸炭焼入れを施し、その後180℃で2時間の焼戻しを行った。なお、本実施例においても浸炭後の試験片はすべて220℃の塩浴中に焼入れした。
【0059】
この後、上記の浸炭焼入れ・焼戻しした試験片を供試材として、実施例1の場合と同じ条件で、シャルピー衝撃試験と、3点曲げ試験を行った。又、実施例1の場合と同様に、EPMAによる浸炭硬化層の表面C量測定、硬度分布測定による浸炭硬化層の特定及び光学顕微鏡を用いた浸炭硬化層の組織観察を行った。
【0060】
表5に試験結果を示す。
【0061】
【表5】
【0062】
本発明鋼を母材とする試験片では、表3のaの浸炭条件による浸炭焼入れによって、本発明で規定する範囲の浸炭硬化層における表面C量と組織が共に得られている。そして、いずれの鋼を母材とした場合も2300kgf以上の3点曲げ強度と、13.0kgf・m/cm2 以上のシャルピー衝撃値が得られている。このように本発明鋼を母材とした場合には、高Si−高Moの従来鋼(鋼 V)を母材とした場合より曲げ強度と衝撃値がいずれも高く、曲げ強度と衝撃特性に優れていることが明らかである。
【0063】
一方、鋼 N〜U の比較鋼を母材とした場合には、3点曲げ強度とシャルピー衝撃値のいずれか一方、あるいは双方の値が低い。
【0064】
鋼 Nは、Mn+Crの量が本発明で規定する値よりも高い。このため、鋼 Nを母材とする場合には、浸炭硬化層にトルースタイトが生成せず、曲げ強度とシャルピー衝撃値が共に低い。
【0065】
鋼 Oは、Mn+Crの量が本発明で規定する値よりも低い。このため、鋼 Oを母材とする場合には、浸炭硬化層にトルースタイトが過剰に生成して、曲げ強度が低い。
【0066】
鋼 Pは、Crの含有量が本発明で規定する値よりも高い。このため、浸炭硬化層のトルースタイトの面積分率は本発明で規定する範囲内にあるが、曲げ強度が低い。
【0067】
鋼 Qは、Mnの含有量が本発明で規定する値よりも高い。このため、浸炭硬化層のトルースタイトの面積分率は本発明で規定する範囲内にあるが、曲げ強度が低い。
【0068】
鋼 Rは、Mn及びCrの含有量が本発明で規定する値よりも低く、且つ、Mn+Crの量が本発明で規定する値よりもずいぶんと低い。このため、鋼 Rを母材とする場合には、浸炭硬化層にトルースタイトが多量に生成し曲げ強度が低い。
【0069】
鋼 SはMn、Cr及びMn+Crの量が本発明で規定する値より高い。この鋼S を母材とする場合には、浸炭硬化層にトルースタイトが生成しないことと、Mn及びCrが過剰であることとが重なって曲げ強度と衝撃値はいずれも低い。
【0070】
鋼 Tは、Bの含有量が本発明で規定する値より低い。このため、鋼 Tを母材とする試験片は母材の硬度が極めて低く、曲げ強度が低い。ちなみに、鋼 Tの母材硬度はHv290であった。一方、B、NとTiを除いた他の成分元素の含有量が鋼 Tとほぼ同じである本発明鋼 Hの場合、母材硬度はHv360であった。
【0071】
鋼 Uは、Mn+Cr及びMoの量が本発明で規定する値より高い。この鋼 Uを母材とする場合には、浸炭硬化層にトルースタイトが生成しないので曲げ強度と衝撃値はいずれも低い。
【0072】
【発明の効果】
本発明の浸炭部品は、曲げ強度と衝撃特性に優れることから、広い歪速度範囲の衝撃的な負荷による破損が問題となる自動車の差動装置用歯車などの浸炭部品として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いた3点曲げ試験片の形状を示す図である。
【図2】実施例で施した浸炭焼入れのヒートパターンを示す図である。
Claims (1)
- 母材が、重量%で、C:0.1〜0.3%、Mn:0.35〜1.1%、Cr:0.1〜1.1%で、且つ、Mn+Cr:0.6〜1.7%、B:0.001〜0.005%、Al:0.01〜0.1%、Mo:0.15%を超えて0.70%以下、Nb:0〜0.05%、Ti:0〜0.05%、N:0〜0.015%、Si:0.3%未満、Cu:0.4%以下、Ni:0.5%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、残部Fe及び不可避不純物の化学組成の鋼であって、浸炭硬化層の表面C量が重量%で0.6〜1.1%で、且つその浸炭硬化層におけるトルースタイトの面積分率が5〜50%であることを特徴とする曲げ強度と衝撃特性に優れた浸炭部品。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP23673697A JP3733504B2 (ja) | 1997-09-02 | 1997-09-02 | 曲げ強度と衝撃特性に優れた浸炭部品 |
Applications Claiming Priority (1)
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