JP3625633B2 - ガス拡散電極構造体とその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ガス供給を円滑に行い得るガス拡散電極構造体とその製造方法に関し、より詳細にはガス供給を円滑にして水酸化ナトリウム製造や過酸化水素製造用電解において大きな省エネルギー効果を達成できるガス拡散電極構造体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術とその問題点】
電気分解は化学工業において、良好な製品の選択性、併産する物質が極めて少ないこと、プロセスが比較的単純で取扱いが容易であること、製品の品質が高いこと等の理由から汎用される技術であり、更に環境問題に関しても環境汚染よりむしろ環境浄化に繋がるケースが多いことからも注目されている。更に運転条件が比較的マイルドで原料の利用率が高くかつ廃棄物が極めて少ないという特徴を有している。
従って前記電気分解はクロルアルカリ電解を代表とする素材産業の中で重要な役割を果たしている。このように重要な役割を持つが、クロルアルカリ電解に要する消費エネルギーが大きく、日本のようにエネルギーコストが高い国ではその省エネルギー化が大きな問題となる。例えばクロルアルカリ電解では環境問題の解決とともに省エネルギー化を達成するために、水銀法から隔膜法を経てイオン交換膜法へと転換され、約25年で約40%の省エネルギー化を達成してきた。しかしこの省エネルギー化でも不十分で、エネルギーである電力コストが全製造費の50%を占めている。現行の方法を使用する限りこれ以上の電力節約は不可能なところまで来ている。さらなる省エネルギー化を達成するためには、従来と異なる電極反応を用いる等の抜本的に変えなければならない。その例として通常の水溶液電解と殆ど同じ条件で運転できる高分子固体電解質型燃料電池等で採用されているガス拡散電極の使用は現在考えられる中で最も可能性が高く、電力節約が大きい手段である。
【0003】
ガス拡散電極は、反応物質としてガスを電極表面に供給しやすい性質を有することを特徴とし、燃料電池等の用途を踏まえて開発されてきた。最近になってガス拡散電極を工業電解に利用することが検討され始め、例えば過酸化水素のオンサイト製造装置では酸素還元反応を行なうための疎水性陰極が利用されている(Industrial Electrochemistry (2nd Edit.) p279〜、1991) 。又アルカリ製造や各種回収プロセスでは対極反応としての陽極の酸素発生或いは陰極の水素発生の代替として、陽極での水素酸化あるいは陰極での酸素還元反応をガス拡散電極を用いて行ない、消費電力の低減を図っている。又亜鉛採取等の金属回収あるいは亜鉛めっきの対極としても水素陽極による減極が可能であることが報告されている。
しかしながらこれらの工業電解系では、溶液やガスの組成あるいは運転条件が燃料電池の場合と比較して単純でないために、前記電極の寿命や性能が十分に得られないという問題点がある。
【0004】
食塩電解による水酸化ナトリウム製造プロセスにおける一例を述べる。工業用原料として重要である水酸化ナトリウム及び塩素は主として食塩電解により製造されている。この電解プロセスは前述の通りの変遷を経て、イオン交換膜を隔膜とし、過電圧の小さい活性化陰極を使用するイオン交換膜法に移行してきた。この間、水酸化ナトリウム1トンの製造の電力原単位は約2000kWhまで減少した。更に従来法のように陰極で水素発生を行なわせる代わりに水素発生を伴わない酸素還元反応を行なわせれば、理論分解電圧は従来の2.19Vから0.96Vとなり、1.23Vの低減が可能になり、大幅な省エネルギー化が期待できる。
又前記食塩電解の応用技術として、中和塩である硫酸ナトリウムの酸とアルカリへの電解分離へのガス拡散電極の使用がある。従来は陽極として酸素発生電極を陰極として水素発生電極を使用していたが、陽極として水素ガス拡散電極を使用し該ガス拡散電極に供給される水素として陰極で発生する水素を使用することにより大幅な電圧低下を実現している。
【0005】
従来の電解反応が、
であり、ガス拡散電極を使用する電解反応は、
となり、理論的に約1.2 V、実際には電極過電圧が加わって約1.5 Vの差が出ており、実際の電解電圧でも50%以上の電圧削減が可能になっている。
これらの新プロセスを工業的に実現するためには高性能かつ上記電解系で十分な安定性を有する酸素ガス拡散陰極(酸素を供給ガスとするガス拡散陰極)又は水素ガス拡散陽極(水素を供給ガスとするガス拡散陽極)の開発が不可欠になる。
現在最も一般的に行なわれている酸素ガス拡散陰極を用いた食塩電解槽の概略図を図1に示す。
【0006】
この電解槽1では、陽イオン交換膜2により該電解槽1が陽極室3と陰極室4に区画され、更に該陰極室4は酸素ガス拡散陰極5により溶液室6とガス室7に区画されている。原料となる酸素ガスはガス室7側から酸素ガス拡散陰極5のガス相面に供給され、酸素ガス拡散陰極5内を拡散し該陰極5内の触媒層で水と反応して水酸化ナトリウムを生成する。従ってこの電解法に用いられる陰極は、酸素のみを十分に透過し、かつ水酸化ナトリウムの溶液室からガス室への透過を妨げ、いわゆる気液分離型のガス拡散電極でなければならない。このような要求を満たす電極として現在食塩電解用として提案されている酸素ガス拡散陰極は、カーボン粉末とPTFEを混合しシート状に成形した電極基体に銀、白金等の触媒を担持させたガス拡散電極が中心となっている。
従来の食塩電解における陽極反応及び陰極反応はそれぞれ次の通りであり、理論分解電圧は2.19Vとなる。
陽極反応:2Cl− →Cl2 + 2e (1.36V)
陰極反応:2H2 O + 2e → 4OH− + H2 (−0.83V)
【0007】
ここで陰極に酸素を供給しながら電解すると、水素が供給酸素で消費されて陰極反応は次のようになる。
陰極反応:2H2 O+O2 +4e → 4OH− (0.40V)
従って理論的には1.23V、実用的電流密度範囲でも0.8 V程度の電力消費を低減でき、水酸化ナトリウム1トン当たり700 kWhの節減になる。このような省エネルギー化の観点から1980年代以降、ガス拡散電極を利用する食塩電解の実用化が検討されているが、このタイプの電極には次のような欠点があった。
【0008】
▲1▼ 電極材料として用いられるカーボンが高温で水酸化ナトリウム及び酸素の共存下では容易に劣化し、電極性能を著しく低下させる。
▲2▼ 液圧の上昇及び電極の劣化に伴い発生する水酸化ナトリウムのガス室側へのリークを防止することが困難である。
▲3▼ 実用レベルで必要な大きさ(1m2 以上)の電極の作製が困難である。
▲4▼ 槽内の圧力は高さによって変化し、それを補償する供給酸素ガス圧分布を与えることが困難である。
▲5▼ 陰極液の溶液抵抗損失があり、又溶液の攪拌の動力を必要とする。
▲6▼ 実用化に際し、既存の電解設備の大幅な改良が必要になる。
▲7▼ 酸素ガスとして空気を利用すると、空気中の炭酸ガスが水酸化ナトリウムと反応して炭酸ナトリウムとしてガス拡散電極の細孔に析出するため、ガス拡散能が低下してしまう。
【0009】
これらの問題点を解決する電解法が図2に示す電解槽を使用するセロギャップ型電解法である。この電解法では、電解槽8の酸素ガス拡散陰極9とイオン交換膜10を密着することにより図1の溶液室を無くし、原料である酸素ガス及び水を供給し、又生成物である水酸化ナトリウムも同じ側から回収することを特徴としている。
この電解法を用いると、溶液室とガス室との間のガスリークが無くなるため、前記問題点▲2▼が解消し、又電極とイオン交換膜が密着した構造であるため従来のイオン交換膜法の電解設備をあまり改良することなく使用できるため、前記問題点▲5▼▲6▼も解決される。
この電解プロセスに適した酸素ガス拡散陰極に要求される性能は、ガス透過性が高いこと、水酸化ナトリウムによる湿潤を避けるために必要な疎水性が高いこと、及び水酸化ナトリウムが電極内を移動するのに必要な透過性が高いことである。このような目的のために前記酸素ガス拡散陰極はニッケルや銀等の耐久性金属で作製されており,前記問題点▲1▼が解決されて、長時間の電解が期待できる。
【0010】
又この電解プロセスでは、酸素供給側に透過してきた水酸化ナトリウムを回収するので,従来のように陰極により溶液室とガス室に区画することが不要になる。従って電極は液が透過性しても問題が起こらず、大型化も比較的に容易になると考えられ、問題点▲3▼が解決される。溶液室が存在せず、従って高さ方向による液圧変化を受けないため、当然問題点▲4▼は起こりえない。又生成した水酸化ナトリウムが、必然的に電極内部を通って酸素供給側に移動するため、問題点▲7▼が起こりにくくなる。
このようにガス拡散電極を工業電解系に適合させる試みは継続的に行なわれ、種々の改良が施され、成果が上がっている。しかし高さが1mにも達する既存の電解槽を利用する場合には、上述の構造を有するガス拡散電極でも本来の電解性能が充分に得られない。その理由として、酸素供給側に移動するアルカリ溶液に加えて、重力により高さ方向に移動した液が、電極内部に滞留するので、ガス供給が阻害されることが挙げられる。
この欠点を解消するために、ガス拡散電極に凹凸を付けあるいは一定高さごとに庇状の案内板を取り付けて電解液の電解表面からの離脱を促進したりする試みが成されているが、特に大型電解槽の場合には十分な液離脱が達成できずに電圧が高くなる傾向があり、完全な解決策が提示されていないという問題点が残っていた。
【0011】
【発明の目的】
本発明は、前述の従来技術の問題点、つまりガス拡散電極方式の電解、例えば酸素ガス拡散電極をイオン交換膜に密着させて電解を行なうゼロギャップ型の食塩電解、水素ガス拡散電極を有する3室法電解槽を使用する塩分離や過酸化水素生成電解におけるガス拡散電極表面へのガス供給が円滑でないという問題点を解決し、低電解電圧下で水酸化ナトリウムや過酸化水素等を製造できるガス拡散電極構造体とその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【問題点を解決するための手段】
本発明に係わるガス拡散電極構造体は、親水性多孔層、該親水性多孔層の片面に形成された液及びガス透過性の電極物質層及び前記親水性多孔層の他面に密着するイオン交換膜を含んで成ることを特徴とするガス拡散電極構造体であり、本発明に係わるガス拡散電極構造体の製造方法は、親水性多孔層の片面の少なくとも一部に電極物質を含有するペーストを塗布し、加熱及び焼付けを行って前記親水性多孔層の片面に液及びガス透過性の電極物質層を形成し、かつ前記親水性多孔層の他面にイオン交換膜を密着させることを特徴とするガス拡散電極構造体の製造方法であり、前記親水性多孔層の焼結又は焼付けを電極物質層の焼付けと同時に行っても良い。
【0013】
以下本発明を詳細に説明する。
従来からガス拡散電極の食塩電解等の工業電解への適用は検討され報告されている。例えば陰極室を酸素ガス拡散陰極により溶液室とガス室とに区画するタイプの電解槽では、イオン交換膜と陰極間の液による液抵抗は無視できないほど大きい。
イオン交換膜と陰極を密着させるゼロギャップタイプは、この液抵抗を低減させるために開発された技術である。例えば食塩電解の場合、前述した陰極反応:2H2 O+2e→4OH− +H2 がイオン交換膜と陰極との界面で生じ、生成した水酸化ナトリウムは溶液として酸素ガス拡散陰極を透過して該陰極のガス相側から取り出される。この場合水酸化ナトリウムの流れ方向と酸素含有ガスの流れ方向が逆であるため、溶液が酸素電極内に滞留したり、ガス供給速度が遅くなったりする。
【0014】
例えば酸素ガス拡散陰極を食塩電解に使用する場合とガス発生電極を食塩電解に使用する場合における電流密度の増加に対する電解電圧の上昇は、前者の方が後者の約1.5 〜2倍であることが知られている。これは酸素ガス拡散陰極の特性として捉えられ、その主要因は反応の種類ではなく、電極反応以外の過電圧に依るものであることが判っている。その過電圧上昇の原因の1つが酸素ガス拡散陰極に対する供給ガス不足であり、例えば食塩電解の場合、ガス源を空気とする場合と純酸素とする場合では前者の方が約200 mV過電圧が高くなることが知られている。又供給量を増加した方が過電圧が低くなるが、生成物の取り出しに支障を来たし、結局円滑なガス供給もできなくなる。
【0015】
本発明は、この酸素ガス拡散陰極を食塩電解に使用する場合以外にも、水素ガス拡散陽極を3室法の塩分離に使用する場合、及びガス拡散電極を過酸化水素の電解製造に使用する場合等における電解生成物を含む溶液の取り出しと原料ガスの供給を共に円滑に行ない得る電解槽で使用するガス拡散電極構造体とその製造方法を提供することも目的とし、これによりガス拡散電極を使用する工業電解槽の実現の可能性が高くなる。
本発明では、イオン交換膜とガス拡散電極の電極物質層を密着させて設置するゼロギャップ型電解槽の前記イオン交換膜と電極物質層間に親水性多孔層を設けて、イオン交換膜−親水性多孔層−電極物質層によりガス拡散電極構造体を構成する。この親水性多孔層は、イオン交換膜で生成する水酸化ナトリウムや過酸化水素を溶解した溶液の全部又は一部を、該親水性多孔層を通して電極室の周囲、特に下部に抜き出して前記溶液がイオン交換膜と電極物質層間に滞留する時間を短くし、これにより電極物質層背面からの酸素含有ガスや水素含有ガス等の原料ガスの供給を円滑に行なうようにしたものである。従って本発明によると生成物を溶解した溶液の円滑な抜き出しと原料ガスの円滑な供給という方向の異なる操作を最大効率で行ない、電解電圧を従来以上に低減してガス拡散電極を工業電解へ適用する道を大きく開くことを可能にする。
このガス拡散電極構造体は、食塩電解の酸素ガス拡散陰極としても、塩分離の水素ガス拡散陽極としても、過酸化水素製造用ガス拡散電極としても使用でき、各種電解のガス拡散電極として有用である。
【0016】
液抵抗の面から見れば、イオン交換膜と電極物質層との間には何も存在しないことが好ましいので、本発明の親水性多孔層を両者間に挿入しないほうが良いことになり、挿入すれば電解電圧は上昇する。しかし純水電解のようなイオン交換膜を固体電解質として利用する場合以外はイオン交換膜と電極とが密着しなければならない必然性はなく、前記親水性多孔層の挿入による電解電圧の上昇分以上の効果が現れれば、全体としての省エネルギー化が達成できる。
本発明はまさにこの効果を狙ったもので、前述の溶液を親水性多孔層を通して取り出すことにより、ガス供給の円滑化を達成し、これにより前記親水性多孔層の挿入による上昇分以上の電解電圧の低減を行い、全体として省エネルギー化を図ろうとするものである。
【0017】
又親水性多孔層が連続した液層であると、この液層の高さ方向に前記電極物質層へ掛かる圧力差が生じ、大型化へのネックになる可能性がある。
本発明に係わるガス拡散電極構造体は、前述の通りイオン交換膜−親水性多孔層−電極物質層により構成され、例えばこの構造体を食塩電解槽の酸素ガス拡散陰極としてイオン交換膜と密着状態でガス室のみから成る陰極室に収容すると、該陰極室には溶液室がなく酸素ガス拡散陰極の背面側にはガス圧が等しく掛かっていること、及び前記溶液は前記親水性多孔層から実質的に液滴として抜き出され、該親水性多孔層内には連続的な液層が生じているのではなく途中で途切れた液膜状になっていると考えることが妥当であることから、高さ方向の圧力変化を酸素ガス拡散陰極が受けることはない。これは本発明のガス拡散電極構造体を3室法電解槽の水素ガス拡散陽極あるいは過酸化水素製造用ガス拡散電極に適用した場合も同様である。
【0018】
本発明で使用する電極物質層は従来のガス拡散電極の特徴を活かしたまま使用できる。例えばチタン、ニオブ、タンタル、ステンレス、ニッケル、ジルコニウム、カーボン、銀などの耐食性材料から成る金網、粉末焼結体、金属繊維焼結体、発泡体等の材料を、必要に応じて前処理洗浄して電極物質層とするか、又はその表面に、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム,銅、銀、コバルト、鉛等の金属又はそれらの酸化物等を担持した導電性グラファイトやカーボンブラック粉末、又は金属銀粉末単独あるいは白金や白金族金属合金を担持した酸化チタン等のセラミックをバインダーであるフッ素樹脂と混練してペーストとし、このペーストを150 〜300 ℃で加熱又はホットプレスにより焼付けを行って電極物質層とする。なお前記金網等の表面に、混練物を塗布し焼き付けても良い。電極物質層の多孔性を更に高めるためには前記ペースト中にアルコールやエチレングリコール等の加熱により分解又は揮発する化合物を添加しすれば良い。又このような分解性又は揮発性物質でなく、発泡剤を添加しても良いことは勿論である。
【0019】
反応ガスの物質移動を速やかに行なうために、疎水性材料を、前記電極物質層や集電体に分散担持することが好ましい。疎水性材料としては、フッ化ピッチ、フッ化黒鉛、フッ素樹脂等が望ましく、特にフッ素樹脂は均一かつ良好な性能を得るために、200 から400 ℃の温度において焼成することも好ましい。フッ素成分の粉末の粒径は0.005 〜100 μmとすることが好ましい。疎水性や親水性の部分は電極断面方向に沿ってそれぞれ連続していることが望ましい。
耐食性や経済性の観点から、前記電極物質層に貴金属めっき特に銀めっきを施すことが望ましい。疎水性銀めっき浴は、例えば、チオシアン化銀10〜50g/リットル、チオシアン化カリウム200 〜400 g/リットルの水溶液中へ、PTFE粒子10〜200 g/リットル、及び界面活性剤10〜200 g/(g/PTFE)を添加して調製し、適度に攪拌しながら、室温にて電流密度0.2 〜2A/dm2 で電着させる。めっき厚としては1〜300 μmのときに良好な疏水性及び耐食性を発現する。めっき後はアセトン等で充分に洗浄することが好ましい。
【0020】
本発明においてイオン交換膜とガス拡散電極間に位置する親水性多孔層は電子の移動には寄与しないため、導電性は無くても良い。その材質は特に限定されないが、例えば食塩電解では高濃度の水酸化ナトリウムと約100 ℃で接触するため十分な耐性を有することが必要である。又塩分離用陽極として使用する場合には電位はほぼ同じであるが電解液が強酸になることが多いため、耐酸性の材料であることが必要である。更に電解槽内に設置されるイオン交換膜は必ずしも完全な平面ではないので、前記電極物質層もそれに沿ってある程度変形できるフレキシビリティを有することが望ましく、換言すると圧力の不均一が生ずる場合に変形して前記圧力を吸収する材料であることが望ましい。
前記親水性多孔層の材質としては、例えば酸化ジルコニウム、酸化珪素及び酸化チタン等の金属酸化物、カーボン、炭化珪素等のセラミックス、親水性化したPTFE、EEP等の樹脂、ニッケル、ステンレス、銀等の金属や合金などがあり、前記した樹脂以外の材料の場合はバインダーである30%以下のフッ素樹脂とともに焼き付け、必要に応じて前処理洗浄して親水性多孔層とする。
【0021】
前記親水性多孔層の形状は厚さが0.01〜10mm、好ましくは0.1 〜1mmのシート状とすることが好ましく、更に電解液を常に保持し得る材料及び構造であることが好ましく、例えばその構造としては、網、織物、不織物、発泡体があり、特に粉末を原料として孔形成剤と各種バインダーでシート状に成形した後、溶剤により孔形成粒子を除去した焼結板又はそれを重ねた物が好ましい。
親水性多孔層を構成する粉末の平均気孔率はこれに限定されるものではないが50〜90%、望ましくは70〜90%とする。気孔率が90%を越えると物理強度が弱くなって取扱い上の問題が生じ、又50%未満では保水率及び透水率が低くなり更に電解時の電気抵抗が大きくなる。他の条件にも依るが、気孔率を50〜90%にするための親水性多孔層材料の平均粒径は5〜10μm程度であり、粒度分布はできるだけ小さくすることが好ましい。
【0022】
該親水性多孔層の厚さは、イオン交換膜から該電極物質層に向かって流れる電解液の量、つまり該親水性多孔層により除去されるべき電解液の量に応じて加減すれば良いが、前記厚さを500 〜1000μmと厚くする場合には、使用する粒子の平均粒径もそれに対応して大きくすることが好ましい。該親水性多孔層が厚いと電解電圧が高くなり電力原単位が悪くなることがある。
又該親水性多孔層を前述した金属酸化物等の粒子とバインダーのみで構成すると強度が不十分になり取扱いが不便になることがある。この場合には金属フォームや金属メッシュあるいは炭素繊維やフッ素樹脂等を心材として使用し、この心材の両面に前記粒子及びバインダーによる多孔層を形成すれば良い。但しこの心材も前述した親水性多孔層の材質に関して述べた特性が必要であり、例えば食塩電解の酸素ガス拡散陰極として使用する場合には、金属銀や銀めっきを施した銅やニッケルを使用することが、又塩分離の水素ガス拡散陽極として使用する場合には、耐酸性のあるチタンやジルコニウム又はハステロイを使用することが望ましい。この心材も親水性多孔層と同様に電子の移動には寄与しないため、導電性でも非導電性でも良いが、電極としての作用はできるだけ小さくすることが好ましい。
【0023】
このような心材を有する親水性多孔層を製造するには、心材の両面に上述した原料粉末とフッ素樹脂の混練物を塗布し、僅かに圧力を掛けながら例えば200 〜350 ℃程度の温度でホットプレスして成型することができる。
この親水性多孔層をイオン交換膜と電極物質層間に配置するには、前記イオン交換膜と電極物質層間に挟み、電解液の液高さによる水圧差0.1 〜30kgf/cm2 程度の圧力で一体化することができる。又前記親水性多孔層を予め電極物質層の膜側表面又はイオン交換膜の電極物質層側表面に形成し、該イオン交換膜及び電極物質層を密着させて所定位置に配置するようにしても良い。
しかしながら液及びガス透過性を有する前記電極物質層は、前記親水性多孔層の片面の少なくとも一部に該電極物質層を構成する成分である電極物質の混練物を含有するペーストを塗布し、加熱及び焼付けを行って形成することが望ましい。この加熱は例えば空気中200 〜350 ℃で行うことができる。200 ℃未満でも加熱焼付けは可能であるが、その場合は添加する化合物をより分解又は揮発しやすいものとする。加熱温度が350 ℃を越えるとバインダーであるフッ素樹脂の分解が生じ始めるため短時間での処理が必要になり、又高温度では触媒粒子同士の焼結や不活性化が進行しやすくなる。このようにペースト塗布による電極物質層の形成条件は電極物質の種類やバインダーの種類に応じて適宜設定する必要がある。
【0024】
更に親水性多孔層を前述の該多孔層形成粒子とバインダーであるフッ素樹脂から成る加熱焼結前の親水性多孔層前駆体とし、この前駆体の片面の少なくとも一部に前述した通り電極物質層を構成する成分である電極物質の混練物を含有するペーストを塗布し、これを加熱焼結することにより親水性多孔層の焼結と電極物質層の焼結を一度の加熱処理操作で行い、作業性の向上を図ることもできる。
このように構成されるこの親水性多孔層付き電極物質層は電解槽内に収容される際に常にイオン交換膜に接触するように設置され、イオン交換膜−親水性多孔層−電極物質層から成るガス拡散電極構造体となる。
【0025】
食塩電解に本発明のガス拡散電極構造体を使用する場合、イオン交換膜としてはフッ素樹脂系の陽イオン交換膜が耐食性の面から好適である。陽極は通常のDSAと呼ばれるチタン製の不溶性電極を使用することが望ましく、他の電極の使用も可能である。
電解条件は、例えば温度60〜90℃、電流密度10〜100 A/dm2 とすることが好ましく、必要に応じて供給酸素含有ガスを加湿する。加湿方法としては、電解槽入口に70〜95℃に加湿された加湿装置を設け、前記酸素含有ガスを通すことにより制御する。現在市販されている膜の性能では、陽極液の濃度を200 g/リットル以下、特に170 g/リットル付近に維持すると、酸素含有ガスの加湿は不要になる。得られる水酸化ナトリウム濃度は25〜40%程度が適当であるが、基本的にはイオン交換膜の性能により決定される。
【0026】
本発明のガス拡散電極構造体を設置した電解槽を使用して食塩電解を行なうと、酸素ガス拡散陰極のイオン交換膜側表面近傍で主として生成する水酸化ナトリウムを前記親水性多孔層を通してつまり酸素ガス拡散陰極を通さずに抜き出すことができる。その際に該親水性多孔層がシード状であると、前記水酸化ナトリウムがその周縁に達しなければ抜き出されず、抜き出しまでに比較的長時間を要することがある。この問題点を解決するために、本発明では、例えばシートを複数に分割して各分割シートの一端を、例えば1〜5mm幅のスリットやガイドを形成した酸素ガス拡散陰極のこれらの隙間から電極背面に達するように配置すると、生成水酸化ナトリウムが周縁に達する前に、短時間でイオン交換膜と酸素ガス拡散陰極間から抜き出される。
【0027】
図3は、本発明に係わる酸素ガス拡散陰極を使用する食塩電解用電解槽の一例を示す縦断面図である。
電解槽本体11は、イオン交換膜12により陽極室13と陰極室14に区画され、前記イオン交換膜12の陽極室13側にはメッシュ状の不溶性陽極15が密着し、該イオン交換膜12の陰極室14側にはシート状の親水性多孔層16が密着し更に該親水性多孔層16の陰極室側には液透過型酸素ガス拡散陰極17が密着し、該酸素ガス拡散陰極17にはメッシュ状の陰極集電体18が接続され該集電体18により給電されるようになっている。
なお19は陽極室底部近傍の側壁に形成された陽極液(飽和食塩水)導入口、20は陽極室上部近傍の側壁に形成された陽極液(未反応食塩水)及び塩素ガス取出口、21は陰極室上部近傍の側壁に形成された(加湿)酸素含有ガス導入口、22は陰極室底部近傍の側壁に形成された水酸化ナトリウム及び過剰酸素の取出口である。
【0028】
この電解槽11の陽極室13に陽極液である飽和食塩水を供給しかつ陰極室14に加湿した酸素含有ガス例えば純酸素や空気を供給しながら両電極15、17間に通電すると、イオン交換膜12の陰極室14側表面で水酸化ナトリウムが生成する。通常の電解槽ではこの水酸化ナトリウムは水溶液として酸素ガス拡散陰極を透過してその陰極室側表面に達する。しかし図示の電解槽11ではイオン交換膜12と酸素ガス拡散陰極17の間に親水性多孔層16が存在するため、前記水酸化ナトリウム水溶液は前記陰極17内を透過するよりも抵抗が小さくなる、前記親水性多孔層16内を分散し、特に重力により下降して該親水性多孔層16の下端に達して液滴として陰極室14底部に落下して貯留される。
この電解槽を図2等の従来の電解槽と比較すると、図2の従来型電解槽では、生成する水酸化ナトリウム水溶液は密度の高い酸素ガス拡散陰極内を透過しなければならず、従って電極内での滞留時間が長くなり、供給される酸素含有ガスの円滑な透過を阻害し、反応を律速するガス供給が不十分になるため見掛け上の陰極過電圧が上昇し、槽電圧が高くなる。それに比べ図3の電解槽では、生成する水酸化ナトリウム水溶液の反応サイトからの取り出しが比較的抵抗の小さい親水性多孔層内の分散により行なわれ、陰極内に殆ど滞留しないため、反応ガスの供給が円滑に行なわれ、従って低い電圧が維持される。
【0029】
図4は、生成する水酸化ナトリウム水溶液を更に円滑に取り出すことのできる図3の電解槽の一部を改良した要部斜視図で、図4aは陰極を複数に分割した例、図4bは陰極にスリットを形成した例を示す。
図4aでは、酸素ガス拡散陰極17aを複数に分割して陰極片17bとし、かつ親水性多孔層16aも対応する数の親水性多孔層片16bに分割している。各親水性多孔層片bの下端は前記陰極17b方向に折り曲げられ上下に隣接する陰極17b間を通って該陰極17bの背面に達し、折曲片16cを形成している。
【0030】
この電解槽を使用して電解を行なうと、図3の電解槽の場合と同様に、イオン交換膜の陰極室側表面で生成する水酸化ナトリウム水溶液が親水性の親水性多孔層片16b内を透過する。該親水性多孔層16bが分割されているので、前記水酸化ナトリウム水溶液は周縁部まで移動せずに各親水性多孔層片16b内をその下端部までの比較的短い距離を移動すれば陰極17b方向に折り曲げられた折曲片16cから液滴として落下する。それ故図3の電解槽よりも円滑に液抜きを行なうことができる。
図4bは陰極を複数に分割せず、陰極17cに横長の四角形の形状のスリット23を形成した例である。図4aのように陰極を複数に分割すると各分割片ごとに給電する必要があって煩雑であるが、図4bのように陰極17cにスリット23を形成し、このスリット23を通して陰極16bの折曲片16cを陰極背面に位置させるようにすると、陰極への給電を単一の集電体で行なえるため、更に好都合である。
【0031】
【実施例】
次に本発明に係わるガス拡散電極構造体の製造方法及び該ガス拡散電極構造体を使用する食塩電解及び塩分離の実施例を記載するが、該実施例は本発明を限定するものではない。
【0032】
【実施例1】
見掛け厚さ0.2 mmの炭素繊維の織物を心材とし、該心材の両面に、平均粒径7μmの酸化ジルコニウム粉末と、固形分として該酸化ジルコニウムの30重量%に相当するフッ素樹脂を含むフッ素樹脂の水分散体であるデュポン社の30J(バインダー)の混練物を塗布し、見掛け厚さ0.5 mmの板状体を作製し、この板状体に1kg/cm2の圧力を掛けながら250 ℃で15分間ホットプレスして焼結して、親水性多孔層とした。
この親水性多孔層の片面に、平均粒径1μmの銀粒子表面に白金を焼き付けた触媒物質の分散体を塗布した後、平均粒径3μmの銀粒子を前記30Jをバインダーとして見掛け厚さ0.1 mmとなるように塗布した(白金担持量は3g/m2 )。これを1kg/cm2の圧力を掛けながら200 ℃で15分間ホットプレスして、前記親水性多孔層の片面に電極物質層を作製した。
【0033】
この親水性多孔層付き電極物質層の該親水性多孔層を、電解面積が100 cm2 (10cm×10cm)である2室法の小型イオン交換膜電解槽の陰極室にデュポン社製ナフィオン961 であるイオン交換膜と密着するように設置し陰極を構成した。陰極室の集電体は厚さ1mmの銅の穴明き板の表面に銀をめっきしたものを用いた。陽極として、酸化ルテニウム系の電極物質を被覆したチタン製のエクスパンドメッシュ基体から成る不溶性金属電極を用い、前記陰極とともに前記イオン交換膜を相互に密着するように挟み込んだ。陰極室にはドレーンを設け、生成した陰極液は全て下方に抜くようにした。
陽極室には180 g/リットルの食塩水を循環し、陰極室にはPSA法により酸素富化した酸素濃度90%のガスを理論量の1.2 倍供給しながら食塩電解による水酸化ナトリウムの製造を行ったところ、電流密度が30A/dm2 で電解電圧が2.01Vであり、100 時間以上の連続運転を行っても安定した電解が可能であった。
【0034】
【比較例1】
実施例1で使用した炭素繊維織物の表面に、平均粒径1μmの銀粒子表面に白金を焼き付けた触媒物質の分散体を塗布した後、平均粒径3μmの銀粒子を前記30Jをバインダーとして見掛け厚さ0.1 mmとなるように塗布して電極物質層とした(白金担持量は3g/m2 )。
この電極物質層を陰極とし、直接イオン交換膜に密着させたこと以外は実施例1と同一条件で電解を行ったところ、初期電圧は2.0 Vであったが、徐々に電圧が上昇し、8時間後には100 mV上昇した。電解を中断して30分後に再開したところ、電圧は2.0 Vに戻っており、電圧時間の経過とともに再度徐々に電圧上昇が起こった。これは電極物質層裏面に透過した電解液が酸素供給を阻害しているからと推測できる。
【0035】
【実施例2】
実施例1の見掛け厚さ0.5 mmの板状体を60℃で乾燥して親水性多孔層とした。
この親水性多孔層の片面に、平均粒径0.3 μmの銀の超微粉とデキストリン及びエチレングリコールから成るペーストを見掛け厚さ3μmとなるようにドクターブレード法で塗布し乾燥した後、更に平均粒径7μmの銀粒子とフッ素樹脂分散液デュポン社製30Jとの混練物を塗布し、1kg/cm2の圧力を掛けながら300 ℃で30分間ホットプレスして、前記親水性多孔層の片面に電極物質層を作製して親水性多孔層付き電極物質層とした。
この親水性多孔層付き電極物質層の該親水性多孔層を、2室法イオン交換膜電解槽の陰極室内にデュポン社製ナフィオン961 であるイオン交換膜と密着するように設置し陰極を構成した。陽極として、酸化ルテニウム系の電極物質を被覆した不溶性金属電極を用い、前記陰極とともに前記イオン交換膜を相互に密着するように挟み込んだ。
陽極室には180 g/リットルの食塩水を循環し、陰極室には水蒸気を飽和させた酸素ガスを送りながら温度90℃、電流密度30A/dm2 で電解を行ったところ、電解電圧は2.05Vであり、安定した電解が継続できた。
【0036】
【実施例3】
実施例1で使用した10cm×10cmの電極物質層はそのままにし、これに密着している親水性多孔層の縦方向の長さを下向きに1cm延ばして11cmとし、下端の余っている長さをイオン交換膜の反対側に引出して導液部とし、集電体の隙間を通して裏側に導いた。この親水性多孔層付き電極物質層を10枚用意し縦方向に連結して高さ100 cmの2室法イオン交換膜電解槽に組み込んだ。
このような構成の親水性多孔層付き電極物質層を使用したこと以外は実施例1と同一条件で電解を行ったところ、電流密度30A/dm2 で電解電圧2.00Vであり、電解液は前記導液部を通って電極物質層の外側に滴下していることが観察され、前記電極物質層を直接透過する該電極物質層の裏側への滲み出しは殆ど見られずその量は液全体の20%未満と推測できた。
100 時間の連続電解でも電圧変化は見られず、電流密度を40A/dm2 まで上昇させたところ電解電圧は2.15Vまで上昇したが、経時的な電圧変化は見られなかった。
【0037】
【実施例4】
線径0.1 mmのチタン製の線を織って作製したメッシュを心材としてその表面全体に平均粒径10μmの酸化チタン粉末とフッ素樹脂分散液30Jを混練したペーストを塗布し300 ℃で焼き付けて親水性多孔層とした。該親水性多孔層の気孔率は約80%であった。
該親水性多孔層の片面に、塩化白金酸のエチレングリコール溶液を塗布し、水素気流中で300 ℃に30分間保持することにより白金金属を析出させて電極物質層とした。
【0038】
この親水性多孔層付き電極物質層を次のようにして3室法による塩分離装置の陽極として使用した。つまり陽極室と中間室を陰イオン交換膜で、又中間室と陰極室を陽イオン交換膜で区画した電解槽の陽極として、前記ガス拡散電極構造体を親水性多孔層が前記陰イオン交換膜と密着するように設置し、対極である陰極としてはニッケルメッシュを使用した。
中間室に硝酸ナトリウム水溶液を供給し、陽極室には陰極室で発生した水素とその10重量%に相当する水素をボンベから供給し、陰極室には脱イオン水を滴下して生成する水酸化ナトリウム濃度が15%に保持されるよう調節しながら、温度45℃、電流密度20A/dm2 で電解を行った(なお陽極室には水蒸気を加えて硝酸濃度が10%となるように調節した)。この電解により、電解電圧2.4 Vで安定した塩分離が進行し、陽極室で硝酸が、陰極室で水酸化ナトリウムが電流効率80%で得られた。
【0039】
【比較例2】
陽極として酸素発生型の不溶性金属電極としたこと以外は実施例4と同一条件で電解を行ったところ、電解電圧は3.9 Vであった。
【0040】
【比較例3】
親水性多孔層を形成していない電極物質層を使用したこと以外は実施例4と同一条件で電解を行ったところ、一部の硝酸が分解するためか、陽極の電圧が不安定で最大電流密度が10A/dm2 に制限され、それ以上では電解が不可能であった。
【0041】
【実施例5】
線径0.1 mmのチタン製の線を織って作製したメッシュを心材とし、その両面に平均粒径5μmのシリカ粉末とシリコン系発泡材並びにフッ素樹脂水分散剤を混練した物を塗布し乾燥して親水性多孔層とした。
親水性カーボンブラックとフッ素樹脂水分散剤30Jの混練物を平面状に成型し、該成型体の片面に、塩化白金酸のエチレングリコール溶液を塗布し、水素気流中で300 ℃に30分間保持することにより白金金属を析出させて電極物質層とした。前記親水性多孔層と電極物質層の白金析出側を密着させ、1kg/cm2の圧力を掛けながら250 ℃でホットプレスして、前記親水性多孔層の片面に電極物質層を作製して親水性多孔層付き電極物質層とした。この親水性多孔層の気孔率は約85%であった。
【0042】
この親水性多孔層付き電極物質層を3室法塩分離電解装置の陽極として使用し、実施例4と同様の装置を構成した。
中間室に200 g/リットルの硫酸ナトリウムを供給し、陰極室には陰極液(水酸化ナトリウム)濃度が100 g/リットルとなるように脱イオン水を供給した。又陽極供給ガスとして、陰極発生水素に水を再飽和したガスを使用した。温度45℃、電流密度10A/dm2 で電解を行ったところ、電解電圧2.75V、電流効率85%であり、100 時間の連続電解後も安定した運転が継続できた。
【0043】
【発明の効果】
本発明のガス拡散電極構造体は、親水性多孔層、該親水性多孔層の片面に形成された液及びガス透過性の電極物質層及び前記親水性多孔層の他面に密着するイオン交換膜を含んで成ることを特徴とするガス拡散電極構造体である。
従来のガス拡散電極を使用する電解槽特にガス拡散電極をイオン交換膜に密着させるゼロギャップタイプの電解槽では、イオン交換膜表面で生ずる目的生成物が比較的密度の高い前記ガス拡散電極を透過してつまり供給される反応ガスの供給方向と反対方向に、換言すると反応ガスの供給を阻害しながら前記ガス拡散電極を透過しなければならず、生成物が増加するほど反応ガスの反応サイトへの供給が阻害されて電解電圧が上昇するという問題点があった。
【0044】
これに対し本発明のガス拡散電極構造体では、電極物質層とイオン交換膜の間に親水性多孔層を配置したため、従来はその殆ど全てが前記ガス拡散電極を透過して取り出されなければならなかった水酸化ナトリウム水溶液等の生成物がガス拡散電極(電極物質層)を透過せずに前記親水性多孔層を通って反応ガスの供給方向は対向することなくイオン交換膜表面から取り出すことができる。従って生成物量が増加しても、反応ガス供給には殆ど影響がなく、電圧を低く維持したまま、所定の電解反応を継続できる。
親水性多孔層は該多孔層構成粒子とバインダーとの混練ペーストを焼き付けることにより製造できるが、これのみでは強度が十分でない場合があり、その際には心材を用い該心材の両面に前記ペーストを塗布し加熱することにより機械的強度の高いガス拡散電極構造体とすることができる。
【0045】
本発明方法は、親水性多孔層の片面の少なくとも一部に電極物質を含有するペーストを塗布し、加熱及び焼付けを行って前記親水性多孔層の片面に液及びガス透過性の電極物質層を形成し、かつ前記親水性多孔層の他面にイオン交換膜を密着させることを特徴とするガス拡散電極構造体の製造方法である。
前述した本発明に係わるガス拡散電極構造体は、別途製造した親水性多孔層と電極物質層を圧力を加えることにより機械的に密着させることにより構成しても良いが、前記方法のように親水性多孔層表面に電極物質含有ペーストを塗布し加熱すると両者が強く結合して機械的な強度が増強される。更に親水性多孔層と電極物質層が一体化するため運搬等が簡単になり、取扱いが容易になる。
更に焼結前の親水性多孔層前駆体の片面の少なくとも一部に前記方法と同様にペーストを塗布し加熱焼結することにより親水性多孔層の焼結と電極物質層の焼結を一度の加熱処理操作で行うことができ、これにより作業性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の食塩電解槽の一例を示す概略図。
【図2】従来の食塩電解槽の他の例を示す概略図。
【図3】本発明に係わるガス拡散電極構造体を使用する食塩電解用電解槽の一例を示す縦断面図。
【図4】本発明に係わるガス拡散電極構造体を使用する食塩電解用電解槽の他の例を示す縦断面図で、図4aは陰極を複数の分解した例を、図4bは陰極にスリットを形成し例を示す。
【符号の説明】
11・・・電解槽本体 12・・・イオン交換膜 13・・・陽極室 14・・・陰極室 15・・・不溶性陽極 16・・・親水性多孔層 17・・・酸素ガス拡散陰極
18・・・集電体
Claims (4)
- 親水性多孔層、該親水性多孔層の片面に形成された液及びガス透過性の電極物質層及び前記親水性多孔層の他面に密着するイオン交換膜を含んで成ることを特徴とするガス拡散電極構造体。
- 親水性多孔層が心材を有する請求項1に記載のガス拡散電極構造体。
- 親水性多孔層の片面の少なくとも一部に電極物質を含有するペーストを塗布し、加熱及び焼付けを行って前記親水性多孔層の片面に液及びガス透過性の電極物質層を形成し、かつ前記親水性多孔層の他面にイオン交換膜を密着させることを特徴とするガス拡散電極構造体の製造方法。
- 親水性多孔層前駆体の片面の少なくとも一部に電極物質を含有するペーストを塗布し加熱することにより前記親水性多孔層の焼結又は焼付け及び電極物質層の焼付けを同時に行って前記親水性多孔層の片面に液及びガス透過性の電極物質層を形成し、かつ前記親水性多孔層の他面にイオン交換膜を密着させることを特徴とするガス拡散電極構造体の製造方法。
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