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JP3616166B2 - トレハロースとその製造方法並びに用途 - Google Patents

トレハロースとその製造方法並びに用途 Download PDF

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JP3616166B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トレハロースとその製造方法並びに用途に関し、詳細には、マルトースを含有せしめた栄養培地に、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する微生物を培養し、得られるトレハロース、又は、これを含む糖質、及び該糖質の製造方法並びにその用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
グルコースを構成糖とする非還元性糖質として、古くからトレハロース(α、α−トレハロース)が知られており、その存在は、『アドバンシズ・イン・カーボハイドレイト・ケミストリー(Advances in Carbohydrate Chemistry)』、第18巻、第201乃至225頁(1963年)アカデミック・プレス社(米国)及び『アプライド・アンド・エンビロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)』、第56巻、第3213乃至3215頁(1990年)などにも記載されているように、少量ながら、微生物、きのこ、昆虫など広範囲に及んでいる。トレハロースのような非還元性糖質は、アミノ酸や蛋白質等のアミノ基を有する物質とアミノカルボニル反応を起こさず、含アミノ酸物質を損なわないことから、褐変、劣化を懸念することなく利用、加工できることが期待され、その工業的製造方法の確立が望まれている。
【0003】
トレハロースの製造方法としては、例えば、特開昭50−154485公報で報告されている微生物菌体を用いる方法や、特開昭58−216695公報で提案されているマルトース・ホスホリラーゼとトレハロース・ホスホリラーゼとの組合わせでマルトースを変換する方法などが知られている。しかしながら、微生物菌体を用いる方法は、該菌体を出発原料とし、これに含まれるトレハロースの含量が、通常、固形物当たり15w/w%(以下、本明細書では、特にことわらない限り、w/w%を単に%と略称する)未満と低く、その上、これを抽出、精製する工程が煩雑で、工業的製造方法としては不適である。また、マルトース・ホスホリラーゼ及びトレハロース・ホスホリラーゼを用いる方法は、いずれもグルコース−1リン酸を経由しており、その基質濃度を高めることが困難であり、また、両酵素の反応系が可逆反応で目的物の生成率が低く、更には、両酵素の反応系を安定に維持して反応をスムーズに進行させることが困難であって、未だ、工業的製造方法として実現するに至っていない。
【0004】
これに関係して、『月刊フードケミカル』、8月号、第67乃至72頁(1992年)、「澱粉利用開発の現状と課題」の「オリゴ糖」の項において、「トレハロースについては著しく広い応用範囲が考えられるが、本糖の澱粉糖質からの直接糖転移、加水分解反応を用いた酵素的生産は、現在のところ学術的には不可能であるといわれている。」と記載されているように、澱粉を原料とし、酵素反応によってトレハロースを製造することは、従来、学術的にも不可能であると考えられてきた。
【0005】
一方、澱粉を原料として製造される澱粉部分分解物、例えば、澱粉液化物、各種デキストリン、各種マルトオリゴ糖などは、通常、その分子の末端に還元基を有し還元性を示すことが知られている。このような澱粉部分分解物を、本明細書では、還元性澱粉部分分解物と称する。一般に、還元性澱粉部分分解物は、固形物当たりの還元力の大きさをデキストロース・エクイバレント(Dextrose Equivalent、DE)として表している。この値の大きいものは、通常、分子が小さく低粘度で、甘味が強いものの、反応性が強く、アミノ酸や蛋白質などのアミノ基を持つ物質とアミノカルボニル反応を起こし易く、褐変し、悪臭を発生して、品質を劣化し易い性質のあることが知られている。
【0006】
このような還元性澱粉部分分解物の種々の特性は、DEの大小に依存しており、還元性澱粉部分分解物とDEとの関係は極めて重要である。従来、当業界では、この関係を断ち切ることは不可能とさえ信じられてきた。
【0007】
還元性澱粉部分分解物とDEとの関係を断ち切る唯一の方法は、還元性澱粉部分分解物を高圧水素添加法などによって、その還元基を糖アルコールに変換して非還元性糖質にする方法である。しかし、この方法は、高圧オートクレーブを必要とし、多量の水素やエネルギーを消費するのみならず、防災上からも高度な安全施設や管理を必要としている。その上、得られる還元性澱粉部分分解物の糖アルコールは、原料の還元性澱粉部分分解物がグルコースのみからなるのに対し、グルコースとソルビトールとから構成される点で異なり、それを摂取することによって、一過性ではあるが、難消化、緩下の症状を起こす懸念もある。従って、還元性澱粉部分分解物の構成糖であるグルコースを変えることなく、その還元力を低減若しくは消滅させる方法の確立が望まれる。
【0008】
これを解決するために、本発明者等は、先に、特願平6−144092号明細書で、マルトースをトレハロースに変換する新規マルトース・トレハロース変換酵素(本酵素を、本明細書を通じて、マルトース・トレハロース変換酵素と称する。)を開示し、本マルトース・トレハロース変換酵素を利用して、マルトースからトレハロースとこれを含む糖質の製造方法を確立した。
【0009】
しかしながら、微生物を培養して該酵素を産生せしめる培養時間に加えて、酵素回収の時間、マルトースからのトレハロースへの酵素反応時間を必要とし、工業的に実施する上でかなりの長時間を要する欠点のあることが判明した。マルトースからトレハロースを生産するに際し、該酵素の生産をも含めて、より簡便に、容易に実施しうるトレハロースの製造方法の確立が望まれる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、マルトースからのトレハロースを、簡便に、短時間に製造しうる新規方法を確立し、併せて、その用途を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記課題を解決するために、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する微生物の培養状況と該酵素の産生状況について鋭意研究を続けてきた。その結果、該微生物は、マルトース・トレハロース変換酵素をかなり早期から産生していることを見出すとともに、培養中の栄養培地に、マルトースを共存せしめることにより、容易にトレハロースを生成、蓄積することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、マルトースを含有せしめた栄養培地に、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する微生物を培養し、得られるトレハロース、又は、これを含む糖質、及び該糖質の製造方法、並びに、該糖質を含有せしめた組成物を確立するものである。本発明において、マルトースとしては、とりわけ、澱粉を液化したものにβ−アミラーゼ又はβ−アミラーゼとともに澱粉枝切酵素を、作用させて得られるものが好適であり、また、微生物としては、とりわけ、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有している微生物の利用が、トレハロース生産にとって極めて有利である。このようにして得られるトレハロースやこれを含む糖質は、安定性が高く、取扱いが容易で、広範な用途に利用でき、例えば、飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0013】
本発明で用いるマルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する微生物としては、マルトースをトレハロースに変換する酵素を産生する微生物であればよく、例えば、特願平6−144092号明細書に開示されるピメロバクター属、シュードモナス属及びサーマス属に属する微生物が好適である。
【0014】
微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、マルトース・トレハロース変換酵素を産生しうる栄養培地であって、トレハロース生成のための基質となるマルトースを含有するものが採用される。必要に応じて、微生物が資化しうる他の炭素源、例えば、グルコース、フラクトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、糖蜜などの糖質、更には、クエン酸、コハク酸などの有機酸、又は、その塩を併用することも随意である。培地に含有せしめるマルトースの濃度は、20w/v%以下、望ましくは15w/v%以下、更に望ましくは5乃至10w/v%付近が好適である。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物や、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物が適宜用いられる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩などが適宜用いられる。更に、必要に応じて、アミノ酸、ビタミンなども適宜用いられる。
【0015】
培養条件は、微生物が生育し、マルトース・トレハロース変換酵素を産生すればよく、通常、温度4乃至80℃、望ましくは20乃至75℃、pH5乃至9、望ましくは6乃至8.5から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は微生物が増殖し得る以上の時間であればよく、望ましくは10乃至100時間である。また、培養液の溶存酸素濃度に特に制限はないが、通常は、0.5乃至20ppmが好ましい。そのために、通気量を調節したり、撹拌したり、通気に酸素を追加したり、また、ファーメンター内の圧力を高めるなどの手段が採用される。また、培養方式は、回分培養、連続培養又は半連続培養のいずれでもよい。
【0016】
このようにして、マルトースを含有せしめた栄養培地に、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する微生物を培養して、培養物中にトレハロースを生成、蓄積せしめることができる。また、必要ならば、別に調製したマルトース・トレハロース変換酵素を、培養中の栄養培地に補足して、トレハロースの生成速度を高めることも、また、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤などの界面活性剤及び/又は卵白リゾチームなどの溶菌酵素を培養中の栄養培地に加えてトレハロースの生成速度を高めることも有利に実施できる。このようにして、生成、蓄積されたトレハロースは、培養物中の不溶物を分離し、得られる液体部分に含まれる。
【0017】
トレハロースを含有する培養物は、まず、公知の固液分離法、例えば、濾過又は遠心分離などにより、除菌液とし、これを常法に従って、濃縮し、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩して精製し、濃縮し、シラップ状製品とする。更に乾燥して粉末状製品にすることも随意である。必要ならば、培養物をそのまま平膜又は中空糸膜などの膜濾過にかけ、菌体などの不溶物とともに溶性の蛋白質、核酸などの高分子物を除去するか、又は、予め、遠心分離などにより不溶物を除去し、次いで、膜濾過により溶性高分子物を除去した後、常法に従って、濃縮、脱色、脱塩して精製し、トレハロース、又は、これを含む糖質製品を有利に製造することができる。
【0018】
次に、本発明のトレハロース生成に寄与しているマルトース・トレハロース変換酵素について説明する。酵素活性は、培養物の菌体及び除菌液いずれにも認められ、菌体及び除菌液を粗酵素液として採取することも、また、培養物全体を粗酵素液として用いることもできる。培養物から菌体を除去するには公知の固液分離法が採用される。例えば、培養物そのものをそのまま遠心分離する方法、あるいは、プレコートフィルターなどを用いて濾過分離する方法、平膜、中空糸膜などの膜濾過により分離する方法などが適宜採用される。除菌液をそのまま酵素液として用いることができるが、一般的には、濃縮して用いられる。濃縮方法としては、例えば、硫安塩析法、アセトン及びアルコール沈殿法、平膜、中空糸膜など膜濃縮法などが採用される。
【0019】
更に、除菌液及びその濃縮物を公知の方法により固定化することもできる。例えば、イオン交換体への結合法、樹脂及び膜などとの共有結合・吸着法、高分子物質を用いた包括法などが採用される。また、培養物から分離した菌体もそのまま粗酵素として用いることができるが、これを固定化して用いてもよい。一例として、これをアルギン酸ナトリウムと混合して、塩化カルシウム溶液中に滴下して粒状にゲル化させて固定化する。この粒状化物をさらにポリエチレンイミン、グルタールアルデヒドで処理して固定化してもよい。菌体から酵素を抽出して、その抽出液を粗酵素液として用いることもできる。例えば、超音波による破砕法、ガラスビーズ及びアルミナによる機械的破砕法、フレンチプレスによる破砕法などで菌体から酵素を抽出し、遠心分離又は膜濾過などで清澄な粗酵素液を得ることができる。
【0020】
本酵素液はそのまま用いることができるが、公知の方法によって更に精製して利用することができる。一例として、培養液の処理物を硫安塩析して濃縮した粗酵素標品を透析後、東ソー株式会社製『DEAE−トヨパール』などを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、同社製『ブチルトヨパール』などを用いた疎水カラムクロマトグラフィー、同社製『トヨパール HW−55』などを用いたゲル濾過クロマトグラフィーを用いて精製することにより、電気泳動的に単一な酵素を得ることができる。
【0021】
このようにして得られるマルトース・トレハロース変換酵素は、一般的には、例えば、下記の理化学的性質を有する。
(1) 作用
マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、約57,000乃至120,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法により、pI約3.8乃至5.1。
(4) 活性阻害
1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害を受ける。
(5) 起源
微生物により産生された酵素である。
【0022】
由来微生物の違いによる具体例を示せば次の通りである。
【ピメロバクター・スピーシーズ R48由来のマルトース・トレハロース変換酵素】
(1) 作用
マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。
1モルのマルトース又はトレハロースからそれぞれ約1モルのトレハロース又はマルトースを生成する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、約57,000乃至67,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法で、pI約4.1乃至5.1。
(4) 活性阻害
1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害を受ける。
(5) 至適温度
pH7.0、60分間反応で、20℃付近。
(6) 至適pH
25℃、60分間反応で、pH約7.0乃至8.0。
(7) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、30℃付近まで安定。
(8) pH安定性
20℃、60分間保持で、pH約6.0乃至9.0。
【0023】
【シュードモナス・プチダ H262由来のマルトース・トレハロース変換酵素】
(1) 作用
マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。
1モルのマルトース又はトレハロースからそれぞれ約1モルのトレハロース又はマルトースを生成する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、約110,000乃至120,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法で、pI約4.1乃至5.1。
(4) 活性阻害
1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害を受ける。
(5) 至適温度
pH7.0、60分間反応で、37℃付近。
(6) 至適pH
35℃、60分間反応で、pH約7.3乃至8.3。
(7) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、40℃付近まで安定。
(8) pH安定性
35℃、60分間保持で、pH約6.0乃至9.5。
【0024】
【サーマス・アクアティカス ATCC33923由来のマルトース・トレハロース変換酵素】
(1) 作用
マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。
1モルのマルトース又はトレハロースからそれぞれ約1モルのトレハロース又はマルトースを生成する。
(2) 分子量
SDS−ゲル電気泳動法で、約100,000乃至110,000ダルトン。
(3) 等電点
アンフォライン含有電気泳動法で、pI約3.8乃至4.8。
(4) 活性阻害
1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害を受ける。
(5) 至適温度
pH7.0、60分間反応で、65℃付近。
(6) 至適pH
60℃、60分間反応で、pH約6.0乃至6.7。
(7) 温度安定性
pH7.0、60分間保持で、80℃付近まで安定。
(8) pH安定性
60℃、60分間保持で、pH約5.5乃至9.5。
【0025】
マルトース・トレハロース変換酵素の活性は、次のようにして測定する。基質としてマルトース20w/v%(10mMリン酸塩緩衝液、pH7.0)1mlに酵素液1mlを加え、反応温度を25℃、35℃あるいは60℃とし、60分間反応させた後、100℃で10分間加熱して反応を停止させる。この反応液を正確に50mMリン酸塩緩衝液pH7.5で11倍に希釈し、その希釈液0.4mlにトレハラーゼ含有溶液(1単位/ml)を0.1ml添加したものを45℃、120分間インキュベートした後、この反応液中のグルコース量をグルコースオキシダーゼ法で定量する。対照として、予め100℃で10分間加熱することにより失活させた酵素液及びトレハラーゼを用いて同様に測定する。上記の測定方法を用いて、増加するグルコース量からマルトース・トレハロース変換酵素により生成するトレハロース量を求め、その活性1単位は、1分間に1μmoleのトレハロースを生成する酵素量と定義する。
【0026】
なお、反応温度は、マルトース・トレハロース変換酵素が、ピメロバクター属に属する微生物由来の場合に25℃とし、シュードモナス属に属する微生物由来の場合に35℃とし、サーマス属に属する微生物由来の場合に60℃とした。
【0027】
次に、本発明で使用される澱粉は、とうもろこし澱粉、米澱粉、小麦澱粉などの地上澱粉であっても、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉などの地下澱粉であってもよい。澱粉を液化するには、通常、澱粉を水に懸濁した澱粉乳、望ましくは濃度10%以上、更に望ましくは約20乃至50%とし、これを加熱して機械的に液化しても、酸又は酵素で液化してもよい。液化の程度は、比較的低いものが適しており、望ましくはDE15未満、更に望ましくはDE10未満のものが好適である。酸で液化する場合には、例えば、塩酸、燐酸、蓚酸などで液化し、その後、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウムなどで必要pHに中和して利用すればよい。酵素で液化する場合には、α−アミラーゼ、とりわけ、耐熱性の液化型α−アミラーゼの使用が適している。
【0028】
本発明で澱粉液化溶液からマルトースを産生するために用いるβ−アミラーゼは、公知方法により、甘藷、大豆、小麦麩などの植物、バチルス属に属する微生物の培養物などから調製してもよく、また、市販の酵素剤を利用することも随意である。また、本発明で用いる澱粉枝切酵素は、澱粉を比較的低DEに液化したもの、望ましくは、DE15未満の液化溶液に作用し、澱粉の枝分かれ結合を加水分解する酵素であって、公知のプルラナーゼ、イソアミラーゼなどが有利に利用でき、また、市販の酵素剤を利用することも有利に実施できる。
【0029】
酵素の使用量は、作用条件、反応時間によって適宜選べばよいが、通常、基質である澱粉液化溶液に対して、固形物グラム当たり、β−アミラーゼの場合、約1乃至100単位から選ばれ、澱粉枝切酵素の場合、約1乃至2,000単位から選ばれる。
【0030】
このようにして得られるマルトースは、本発明の培養方法によるトレハロース、又は、これを含む糖質製造用の糖源として有利に利用できる。また、市販のマルトースを利用することも有利に実施できる。マルトースを栄養培地に含有せしめる時期は、トレハロースが生成できる時期であればよく、培養初期から含有せしめておくことも、培養途中から含有せしめることも随意である。また、連続又は半連続培養する場合には、例えば、トレハロースを生成せしめた培養培地の一部を抜き出し、これと同容量のマルトースを含有せしめた栄養培地を追加して培養すればよい。また、培養を、澱粉液化溶液にβ−アミラーゼ又はβ−アミラーゼとともに澱粉枝切酵素を共存せしめた栄養培地で行うことも随意である。
【0031】
このようにして得られるトレハロースを含む培養物は、常法により、濾過、遠心分離などして菌体などの不溶物を除去した後、濃縮、活性炭で脱色、H型、OH型イオン交換樹脂で脱塩して精製し、濃縮し、シラップ状製品とする。更に、乾燥して粉末状製品にすることも随意である。必要ならば、更に、精製、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィー、活性炭カラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコール及びアセトンなど有機溶媒による分別、適度な分離性能を有する膜による分離、更には、酵母での発酵処理、アルカリ処理などによる残存している還元性糖質の分解除去などの方法を1種又は2種以上組合わせて精製することにより、最高純度のトレハロース製品を得ることも容易である。
【0032】
とりわけ、工業的大量生産方法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィーの採用が好適であり、例えば、特開昭58−23799号公報、特開昭58−72598号公報などに開示されている強酸性カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーにより夾雑糖類を除去し、目的のトレハロース含量を向上させた低還元性糖質を有利に製造することができる。この際、固定床方式、移動床方式、擬似移動床方式のいずれの方式を採用することも随意である。
【0033】
このようにして得られた本発明のトレハロースを含む糖質を、必要により、グルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼで分解し、甘味性、還元力などを調整したり、粘性を低下させたりすることも、また、水素添加して残存する還元性糖質を糖アルコールにして還元力を消滅せしめることなどの更なる加工処理を施すことも随意である。
【0034】
とりわけ、本発明のトレハロースを含む糖質に対して、グルコアミラーゼ又はα−グルコシダーゼを作用させてトレハロースとグルコースとの混合溶液とし、これを、前述の精製方法、例えば、イオン交換カラムクロマトグラフィーなどにより、グルコースを除去すれば、トレハロース高含有画分を採取することができる。これを精製、濃縮して、シラップ状製品を得ることも、更に濃縮して過飽和にし、晶出させてトレハロース含水結晶又は無水結晶トレハロースを得ることも有利に実施できる。
【0035】
トレハロース含水結晶を製造するには、例えば、純度約60%以上、濃度約65乃至90%のトレハロース高含有液を助晶缶にとり、必要に応じて、0.1乃至20%の種晶共存下で、温度95℃以下、望ましくは10乃至90℃の範囲で、撹拌しつつ徐冷し、トレハロース含水結晶を含有するマスキットを製造する。また、減圧濃縮しながら晶析させる連続晶析法を採用することも有利に実施できる。マスキットからトレハロース含水結晶又はこれを含有する含蜜結晶を製造する方法は、例えば、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法など公知の方法を採用すればよい。
【0036】
分蜜方法の場合には、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、トレハロース含水結晶と蜜(母液)とを分離し、必要により、該結晶に少量の冷水をスプレーして洗浄することも容易な方法であり、より高純度のトレハロース含水結晶を製造するのに好適である。噴霧乾燥方法の場合には、通常、濃度70乃至85%、晶出率20乃至60%程度のマスキットを高圧ポンプでノズルから噴霧し、結晶粉末が溶解しない温度、例えば、60乃至100℃の熱風で乾燥し、次いで30乃至60℃の温風で約1乃至20時間熟成すれば非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。また、ブロック粉砕方法の場合には、通常、水分10乃至20%、晶出率10乃至60%程度のマスキットを約0.1乃至3日間静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを粉砕又は切削などの方法によって粉末化し乾燥すれば、非吸湿性又は難吸湿性の含蜜結晶が容易に製造できる。
【0037】
また、無水結晶トレハロースを製造するには、トレハロース含水結晶を乾燥して変換させることもできるが、一般的には、水分10%未満の高濃度トレハロース高含有溶液を助晶缶にとり、種晶共存下で50乃至160℃、望ましくは80乃至140℃の範囲で撹拌しつつ無水結晶トレハロースを含有するマスキットを製造し、これを比較的高温乾燥条件下で、例えば、ブロック粉砕、流動造粒、噴霧乾燥などの方法で晶出、粉末化して製造される。
【0038】
このようにして製造される本発明のトレハロース、又はこれを含む糖質は、還元性が低く安定であり、他の素材、特にアミノ酸、オリゴペプチド、蛋白質などのアミノ酸を有する物質と混合、加工しても、褐変することも、異臭を発生することもなく、混合した他の素材を損なうことも少ない。また、還元力が低いにもかかわらず低粘度であり、良質で上品な甘味を有している。
【0039】
更に、本発明のトレハロースはトレハラーゼにより容易にグルコースにまで分解することから、経口摂取により、消化吸収され、カロリー源として利用される。虫歯誘発菌などによって、醗酵されにくく、虫歯を起こしにくい甘味料としても利用できる。また、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、他の糖の晶出防止性、難醗酵性、糊化澱粉の老化防止性などの性質を具備している。
【0040】
また、本発明のトレハロースは、経管栄養剤、輸液剤などとして非経口的に使用され、毒性、副作用の懸念もなく、よく代謝、利用され、生体へのエネルギー補給に有利に利用することができる。また、安定な甘味料であることにより、トレハロース含水結晶の場合には、プルラン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドンなどの結合剤と併用して錠剤の糖衣剤として利用することも有利に実施できる。
【0041】
また、無水結晶トレハロースの場合には、食品、医薬品、化粧品、その原材料、又は加工中間物などの含水物の脱水剤としても有利に利用でき、安定で高品質の粉末、顆粒、錠剤など固状物を容易に製造することができる。
【0042】
従って、本発明のトレハロース、又はこれを含む糖質は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤、脱水剤などとして、飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0043】
本発明のトレハロース、又は、これを含む糖質は、そのまま甘味付けのための調味料として使用することができる。必要ならば、例えば、粉飴、ブドウ糖、マルトース、蔗糖、異性化糖、蜂蜜、メープルシュガー、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ラクトスクロース、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、レバウディオシド、グリチルリチン、L−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料の1種又は2種以上の適量と混合して使用してもよく、また必要ならば、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0044】
また、本発明のトレハロース、又は、これを含む糖質の粉末乃至結晶状製品は、そのままで、又は必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤などと混合して、顆粒、球状、短棒状、板状、立方体、錠剤など各種形状に成型して使用することも随意である。
【0045】
また、本発明のトレハロース、又は、これを含む糖質の甘味は、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般の飲食物の甘味付け、呈味改良に、また品質改良などに有利に利用できる。
【0046】
例えば、アミノ酸、ペプチド類、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、核酸系調味料、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調味料として有利に使用できる。
【0047】
また、例えば、せんべい、あられ、おこし、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羮、水羊羮、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディーなどの洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト、スプレッドなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢こんぶ、さきするめ、ふぐみりん干しなどの各種珍味類、のり、山菜、するめ、小魚、貝などで製造されるつくだ煮類、煮豆、ポテトサラダ、こんぶ巻などの惣菜食品、ヨーグルト、チーズなどの乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜のビン詰、缶詰類、清酒、合成酒、リキュール、洋酒などの酒類、コーヒー、紅茶、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席しるこ、即席スープなどの即席食品、更には、離乳食、治療食、ドリンク剤、ペプチド食品、冷凍食品、乾燥食品などの各種飲食物への甘味付けに、呈味改良に、また、品質改良などに有利に利用できる。
【0048】
また、家畜、家禽、その他蜜蜂、蚕、魚などの飼育動物のために飼料、餌料などの嗜好性を向上させる目的で使用することもできる。その他、タバコ、練歯磨、口紅、リップクリーム、内服液、錠剤、トローチ、肝油ドロップ、口中清涼剤、口中香剤、うがい剤など各種固形物、ペースト状、液状などで嗜好物、化粧品、医薬品などの各種組成物への甘味剤として、又は呈味改良剤、矯味剤として、さらには品質改良剤、安定剤などとして有利に利用できる。
【0049】
品質改良剤、安定剤としては、有効成分、活性などを失い易い各種生理活性物質又はこれを含む健康食品、医薬品などに有利に適用できる。例えば、インターフェロン−α、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、ツモア・ネクロシス・ファクター−α、ツモア・ネクロシス・ファクター−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキンIIなどのリンホカイン、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモンなどのホルモン、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、スレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロールなどのビタミン、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス、乳酸菌、酵母などの生菌、ローヤルゼリーなどの各種生理活性物質も、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の液状、ペースト状又は固状の健康食品や医薬品などに容易に製造できることとなる。
【0050】
以上述べたような各種組成物にトレハロース、又は、これを含む糖質を含有せしめる方法は、その製品が完成するまでの工程に含有せしめればよく、例えば、混和、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化など公知の方法が適宜選ばれる。その量は、通常0.1%以上、望ましくは1%以上含有せしめるのが好適である。次に実験により本発明をさらに具体的に説明する。
【0051】
まず、新規微生物ピメロバクター・スピーシーズ R48、シュードモナス・プチダ H262及びサーマス・アクアティカス ATCC33923からのマルトース・トレハロース変換酵素について説明し、次いで、他の公知微生物からのマルトース・トレハロース変換酵素について説明する。
【0052】
【実験1 酵素の生産】
グルコース2.0w/v%、ポリペプトン0.5w/v%、酵母エキス0.1w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム0.06w/v%、硫酸マグネシウム・7水塩0.05w/v%、炭酸カルシウム0.5w/v%、及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコに100mlずつ入れ、オートクレーブで115℃、30分間滅菌し、冷却して、ピメロバクター・スピーシーズ R48(FERM BP−4315)を接種し、27℃、200rpmで24時間回転振盪培養したものを種培養とした。
【0053】
容量30lのファーメンターに種培養の場合と同組成の培地を約20l入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液1v/v%を接種し、温度27℃、pH6.0乃至8.0に保ちつつ、約40時間通気攪拌培養した。
【0054】
培養液のマルトース・トレハロース変換酵素活性は、0.55単位/mlであった。培養液の一部を採り、遠心分離して菌体と培養液上清とに分離し、更に菌体を50mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)に懸濁し、元の培養液と同じ液量とした後、菌体懸濁液と培養液上清のマルトース・トレハロース変換酵素活性を測定したところ、菌体懸濁液には、0.5単位/mlの活性が、培養液上清には、0.05単位/mlの活性が認められた。なお、本酵素の活性は、反応温度を25℃にして測定した。
【0055】
【実験2 酵素の精製】
実験1で得た培養液を遠心分離して湿重量約0.5kgの菌体を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約5lをエドモンドビューラー社製『ヴィブローゲン セルミル』にかけ、菌体を破砕し、この破砕処理液を遠心分離(15,000G、30分間)することにより、約4.5lの上清を得た。その上清液に飽和度0.3になるように硫安を加え溶解させ、4℃、4時間放置した後、遠心分離することにより上清を回収した。
【0056】
更に、その液に飽和度0.8になるように硫安を加え溶解させ、4℃、一夜放置した後、遠心分離することにより硫安塩析物を回収した。
【0057】
得られた硫安塩析物を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離して不溶物を除いた。その透析液(400ml)を2回に分けて、『DEAE−トヨパール』を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行った。
【0058】
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素は『DEAE−トヨパール』に吸着し、食塩を含む同緩衝液でカラムから溶出した。溶出した酵素活性画分を回収した後、1M硫安を含む同緩衝液に対して透析し、その透析液を遠心分離して不溶物を除き、次に、東ソー株式会社製『ブチルトヨパール 650』を用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行った。吸着したマルトース・トレハロース変換酵素を硫安1Mから0Mのリニアグラジエントによりカラムより溶出させ、酵素活性画分を回収した。
【0059】
続いて、ファルマシア・エルケイビー社製『モノQ HR5/5』を用いたイオン交換クロマトグラフィー(ゲル量10ml)を行い、溶出した酵素活性画分を回収した。精製の各ステップにおける酵素活性量、比活性、収率を表1に示す。
【0060】
【表1】
Figure 0003616166
【0061】
精製した酵素標品を7.5w/v%濃度ポリアクリルアミドを含むゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一で純度の高い標品であった。
【0062】
【実験3 酵素の性質】
実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ゲル濃度10w/v%)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社製)と比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約57,000乃至67,000ダルトンであった。
【0063】
精製マルトース・トレハロース変換酵素標品を2w/v%アンフォライン(ファルマシア・エルケイビー社製)含有等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に供し、泳動後、蛋白バンド及びゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点はpI約4.1乃至5.1であった。
【0064】
本酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定方法に準じて調べた。結果を図1(温度の影響)、図2(pHの影響)に示した。酵素の至適温度は、pH7.0、60分間反応で20℃付近、至適pHは、25℃、60分間反応で約7.0乃至8.0であった。本酵素の温度安定性は、酵素溶液(50mMリン酸緩衝液、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。また、pH安定性は、本酵素を各pHの50mM緩衝液中で20℃、60分間保持した後、pHを7.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。それぞれの結果を図3(温度安定性)、図4(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は30℃付近までであり、pH安定性は約6.0乃至9.0であった。なお、本酵素活性は、1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害された。
【0065】
【実験4 各種糖質への作用】
各種糖質を用いて、基質になりうるかどうかの試験をした。グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース、可溶性澱粉、アミロース(平均重合度18)、トレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビオース、コージビオース、イソマルトース、セロビオース、マルチトール、シュクロース、マルツロース、ツラノース、パラチノース、トレハルロース、あるいはラクトースの溶液、更に、α−グルコース・1−リン酸と等量のグルコース、又は、β−グルコース・1−リン酸と等量のグルコースとを含む溶液を調製した。
【0066】
これらの溶液に、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を基質固形物グラム当たりそれぞれ2単位ずつ加え、基質濃度を5w/v%になるよう調し、これを20℃、pH7.0で24時間作用させた。酵素反応前後の反応液をメルク社製『キーゼルゲル60』(アルミプレート、20×20cm)を用いた薄層クロマトグラフィー(以下、TLCと略称する。)にかけ、それぞれの糖質に対する酵素作用の有無を確認した。TLCは展開溶媒に1−ブタノール:ピリジン:水=6:4:1(容積比)を用い、室温で1回展開した。発色は20%硫酸−メタノール溶液を噴霧し、110℃で10分間加熱しておこなった。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
Figure 0003616166
【0068】
表2の結果から明かなように、本発明の酵素は、試験した多種の糖質のうち、マルトースとトレハロースにのみ作用し、その他の糖質、とりわけ、α−グルコース・1リン酸とグルコースとを含む系や、β−グルコース・1−リン酸とグルコースとを含む系に作用しないことから、従来知られているマルトース・ホスホリラーゼやトレハロース・ホスホリラーゼなどのホスホリラーゼとは違い、新規な酵素であることが判明した。
【0069】
【実験5 マルトース又はトレハロースからの生成物】
最終濃度5%のマルトース水溶液に実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素を基質固形物グラム当たり2単位加え、20℃、pH7.0で24時間作用させた。酵素反応液の糖組成は、ガスクロマトグラフィー(以下、GLCと略称する。)で分析した。酵素反応液の一部を乾固し、ピリジンに溶解した後トリメチルシリル化したものを分析試料とした。ガスクロマトグラフ装置は株式会社島津製作所製『GC−16A』、カラムはジー・エル・サイエンス株式会社製『2%シリコンOV−17/クロモゾルブW』を充填したステンレスカラム(3mmφ×2m)、キャリアーガスは窒素ガスを流量40ml/分で、カラムオーブン温度は160℃から320℃まで7.5℃/分の昇温速度で分析した。検出は水素炎イオン検出器を用いた。その結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
Figure 0003616166
【0071】
表3の結果から明かなように、反応生成物Xが多量に生成し、その保持時間が市販トレハロースのそれと一致していることが判明した。反応生成物Xを同定するために次の確認試験を行った。すなわち、前述のマルトースを基質とした酵素反応液を糖濃度2%になるよう20mM酢酸緩衝液、pH4.5で希釈し、この0.5mlにグルコアミラーゼ(生化学工業株式会社製)0.1単位を加え40℃で20時間反応させた。
【0072】
また、同様に酵素反応液を糖濃度2%になるよう20mMリン酸緩衝液、pH7.0で希釈し、この0.5mlにトレハラーゼ0.5単位を加え40℃で20時間反応させた。マルトースを基質とした酵素反応液、そのグルコアミラーゼ処理液及びトレハラーゼ処理液をGLCで分析、比較したところ、グルコアミラーゼ処理によりマルトースは完全にグルコースに分解され、反応生成物Xは分解されずに残存していた。
【0073】
一方、トレハラーゼ処理によりマルトースは残存していたが、反応生成物Xは完全にグルコースに分解された。グルコアミラーゼ及びトレハラーゼの反応特性を考慮すると、本発明の新規酵素によって生成するマルトースからのオリゴ糖はトレハロースであると判断される。
【0074】
更に、トレハロースを基質として、マルトースの場合と同様の条件で精製酵素を作用させ、その反応液も同様にGLC分析したところ、本発明の酵素によってトレハロースからはマルトースが生成することが判明した。以上のGLC分析結果をまとめて表4に示す。
【0075】
【表4】
Figure 0003616166
【0076】
表4の結果から明かなように、本発明の酵素は、マルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換する。その平衡点は、トレハロース側に片寄っており、マルトースからのトレハロースへの変換率が高く、約70%以上になることが判明した。
【0077】
【実験6 トレハロース生成に及ぼすマルトース濃度の影響】
マルトース濃度を2.5%、5%、10%、20%あるいは40%で、温度20℃、pH7.0にて、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。
【0078】
この反応液の全糖量をアンスロン硫酸法で、還元糖量をソモギー・ネルソン法でグルコース換算で定量し、全糖量に対する還元糖量の割合を還元力として算出した。
【0079】
また、この反応液を糖濃度約1%になるよう希釈し、少量限外濾過器、日本ミリポアリミテッド製『モルカットII LGC』にて除蛋白を行い、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略称する。)にて糖組成を分析した。HPLCの装置は東ソー株式会社製『CCPDシステム』、分析カラムは株式会社ワイエムシィー製『YMC−pack PA−03』(4.6mmφ×250mm)、溶離液はアセトニトリル:水=78:22(容積比)を流速1.2ml/minで、検出は示差屈折計で行った。それらの結果を表5に示す。
【0080】
【表5】
Figure 0003616166
【0081】
表5の結果から明かなように、基質のマルトース濃度に関係なく、マルトースからのトレハロースへの変換反応はよく進行し、トレハロースへ約80%変換した。
【0082】
【実験7 トレハロース生成に及ぼす温度の影響】
マルトース濃度20%で、pH7.0にして、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて、温度5℃、10℃、15℃、20℃あるいは25℃で反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。この酵素反応液を実験6と同様にして、HPLCにて糖組成を分析した。各温度、各時間でのトレハロース含量を表6に示す。
【0083】
【表6】
Figure 0003616166
【0084】
表6の結果から明かなように、反応温度が高いほどトレハロース生成速度は大きくなる傾向にあったが、温度5℃でもマルトースからのトレハロースへの変換反応はよく進行し、トレハロースへ約82%変換した。
【0085】
【実験8 マルトースからのトレハロースの調製】
マルトース(株式会社林原生物化学研究所製)10重量部を水40重量部に溶解し、温度15℃、pH7.0にて、実験2の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて48時間反応させ、次いで100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。本溶液には、トレハロースを固形物当たり約74%含有していた。本溶液を活性炭で脱色し、イオン交換樹脂(H型及びOH型)にて脱塩して精製し、濃度約78%に濃縮して、トレハロース含水結晶を種晶として固形物当たり0.1%添加し、室温に一夜放置したところ、結晶が析出した。得られたマスキットを分蜜し、結晶に少量の水をスプレーして結晶を洗浄し、純度99.8%の極めて高純度のトレハロース含水結晶約3.0重量部を得た。
【0086】
【実験9 酵素の生産】
グルコース2.0w/v%、硫酸アンモニウム1.0w/v%、リン酸二カリウム0.1w/v%、リン酸一ナトリウム0.06w/v%、硫酸マグネシウム0.05w/v%、炭酸カルシウム0.3w/v%、及び水からなる液体培地を、500ml容三角フラスコに100mlずつ入れ、オートクレーブで115℃で、30分間滅菌し、冷却して、シュードモナス・プチダ H262(FERMBP−4579)を接種し、27℃、200rpmで24時間回転振とう培養したものを種培養とした。
【0087】
容量30lのファーメンターに種培養の場合と同組成の培地を約20l入れて、加熱滅菌、冷却して温度27℃とした後、種培養液1v/v%を接種し、温度27℃、pH6.5乃至8.0に保ちつつ、約20時間通気攪拌培養した。
【0088】
培養液のマルトース・トレハロース変換酵素活性は、0.12単位/mlであった。培養液の一部を採り、遠心分離して菌体と培養液上清とに分離し、更に菌体を50mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)に懸濁し、元の培養液と同じ液量とした後、菌体懸濁液と培養液上清のマルトース・トレハロース変換酵素活性を測定したところ、菌体懸濁液には、0.11単位/mlの活性が、培養液上清には、0.01単位/mlの活性が認められた。なお、本酵素の活性は、反応温度を35℃にして測定した。
【0089】
【実験10 酵素の精製】
実験9で得た培養液を遠心分離して湿重量約0.45kgの菌体を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約2lを超高圧菌体破砕装置(大日本製薬株式会社販売『ミニラボ』)で処理し、菌体を破砕し、この破砕処理液を遠心分離(15,000G、30分間)することにより、約1.7lの上清を得た。その上清液に飽和度0.7になるように硫安を加え溶解させ、4℃、一夜放置した後、遠心分離することにより硫安塩析物を回収した。
【0090】
得られた硫安塩析物を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離して不溶物を除いた。その透析液(400ml)を2回に分けて、『DEAE−トヨパール』を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量300ml)を行った。
【0091】
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素は『DEAE−トヨパール』に吸着し、食塩を含む同緩衝液でカラムから溶出した。溶出した酵素活性画分を回収した後、同緩衝液に対して透析し、再度、『DEAE−トヨパール』を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量80ml)を行った。吸着したマルトース・トレハロース変換酵素を食塩0.1Mから0.3Mのリニアグラジエントによりカラムより溶出させ、酵素活性画分を回収した。
【0092】
続いて、東ソー株式会社製造『トヨパール HW−55S』を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル量400ml)を行い、溶出した酵素活性画分を回収した。精製の各ステップにおける酵素活性量、比活性、収率を表7に示す。
【0093】
【表7】
Figure 0003616166
【0094】
精製した酵素標品を7.5w/v%濃度ポリアクリルアミドを含むゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一で純度の高い標品であった。
【0095】
【実験11 酵素の性質】
実験10の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ゲル濃度7.5w/v%)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社製)と比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約110,000乃至120,000ダルトンであった。
【0096】
精製マルトース・トレハロース変換酵素標品を2w/v%アンフォライン(ファルマシア・エルケイビー社製)含有等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に供し、泳動後、蛋白バンド及びゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点はpI約4.1乃至5.1であった。
【0097】
本酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定方法に準じて調べた。結果を図5(温度の影響)、図6(pHの影響)に示した。酵素の至適温度は、pH7.0、60分間反応で37℃付近、至適pHは、35℃、60分間反応で約7.3乃至8.3であった。本酵素の温度安定性は、酵素溶液(50mMリン酸緩衝液、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。また、pH安定性は、本酵素を各pHの50mM緩衝液中で35℃、60分間保持した後、pHを7.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。それぞれの結果を図7(温度安定性)、図8(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は40℃付近までであり、pH安定性は約6.0乃至9.5であった。なお、本酵素活性は、1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害された。
【0098】
【実験12 各種糖質への作用】
反応温度を35℃とした以外は、実験4の方法に準じて、実験10で得たシュードモナス・プチダ H262の精製酵素を各種糖質に作用させて、基質になりうるかどうかの試験をした。その結果、シュードモナス・プチダ H262の酵素は、ピメロバクター・スピーシーズ R48の酵素と同様、マルトースとトレハロースにのみ作用しマルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換した。その平衡点は、トレハロース側に片寄っており、マルトースからのトレハロースへの変換率が高く、約70%になることが判明した。
【0099】
【実験13 トレハロース生成に及ぼすマルトース濃度の影響】
マルトース濃度を5%、10%、20%あるいは30%で、温度35℃、pH7.0にて、実験10の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。
【0100】
この反応液を用いて、実験6と同様に還元力及び糖組成を測定した。それらの結果を表8に示す。
【0101】
【表8】
Figure 0003616166
【0102】
表8の結果から明らかなように、基質のマルトース濃度に関係なく、トレハロースを約70%生成した。
【0103】
【実験14 マルトースからのトレハロースの調製】
マルトース(株式会社林原生物化学研究所販売)10重量部を水40重量部に溶解し、温度35℃、pH7.0にして、実験例10の方法で得た本発明の精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2単位加えて48時間反応させ、次いで100℃で10分間加熱して酵素を失活させた。本溶液には、トレハロースを固形物当たり約69%含有していた。本溶液を活性炭で脱色し、イオン交換樹脂(H型及びOH型)にて脱塩して精製し、濃度約78%に濃縮して、トレハロース含水結晶を種晶として固形物当たり0.1%添加し、室温に一夜放置したところ、結晶が析出した。得られたマスキットを分蜜し、結晶に少量の水をスプレーして結晶を洗浄し、純度99.7%の極めて高純度のトレハロース結晶約2.3重量部を得た。
【0104】
【実験15 酵素の生産】
ポリペプトン0.5w/v%、酵母エキス0.1w/v%、硝酸ナトリウム0.07w/v%、リン酸二ナトリウム0.01w/v%、硫酸マグネシウム0.02w/v%、塩化カルシウム0.01w/v%及び水からなる液体培地を、pH7.5に調整した後、500ml容三角フラスコに100mlずつ入れ、オートクレーブで120℃で、20分間滅菌し、冷却して、サーマス・アクアティカス ATCC33923を接種し、60℃、200rpmで24時間回転振とう培養したものを種培養とした。
【0105】
容量30lのファーメンター2基に種培養の場合と同組成の培地をそれぞれ約20l入れて、加熱滅菌、冷却して温度60℃とした後、種培養液1v/v%を接種し、温度60℃、pH6.5乃至8.0に保ちつつ、約20時間通気攪拌培養した。
【0106】
培養液のマルトース・トレハロース変換酵素活性は0.35単位/mlであった。培養液の一部を採り、遠心分離して菌体と培養上清液とに分離し、更に菌体を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、元の培養液と同じ液量とした後、菌体懸濁液と培養上清液のマルトース・トレハロース変換酵素活性を測定したところ、菌体懸濁液には0.33単位/mlの酵素活性が、また、培養液上清には0.02単位/mlの酵素活性が認められた。なお、本酵素の活性は、反応温度を60℃にして測定した。
【0107】
【実験16 酵素の精製】
実験15で得た培養液を遠心分離して湿重量約0.28kgの菌体を回収し、これを10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。この菌体懸濁液約1.9lを、超音波破砕機(株式会社日本精機製作所製『モデルUS300』)で処理し、菌体を破砕した。この破砕処理液を遠心分離(15,000G、30分間)することにより、約1.8lの上清を得た。その上清に飽和度0.7になるように硫安を加え溶解させ、4℃、一夜放置した後、遠心分離機にかけ、硫安塩析物を回収した。
【0108】
得られた硫安塩析物を10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に溶解させた後、同じ緩衝液に対して24時間透析し、遠心分離して不溶物を除いた。その透析液(1560ml)を、東ソー株式会社製『DEAE−トヨパール 650』を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィー(ゲル量530ml)を3回に分けて行った。
【0109】
本発明のマルトース・トレハロース変換酵素は『DEAE−トヨパール』に吸着し、食塩を含む同緩衝液でカラムから溶出した。溶出した酵素活性画分を回収した後、1M硫安を含む同緩衝液に対して透析し、次に、『ブチルトヨパール 650』を用いた疎水カラムクロマトグラフィー(ゲル量380ml)を行った。吸着したマルトース・トレハロース変換酵素を硫安1Mから0Mのリニアグラジエントによりカラムより溶出させ、酵素活性画分を回収した。
【0110】
次に、『トヨパール HW−55S』を用いたゲル濾過クロマトグラフィー(ゲル量380ml)を行い、溶出した酵素活性画分を回収した。
【0111】
続いて、ファルマシア・エルケイビー社製『モノQ HR5/5』を用いたイオン交換クロマトグラフィー(ゲル量1.0ml)を行い、食塩0.1Mから0.35Mのリニアグラジエントにより溶出した酵素活性画分を回収した。精製の各ステップにおける酵素活性量、比活性、収率を表9に示す。
【0112】
【表9】
Figure 0003616166
【0113】
精製した酵素標品を5w/v%濃度ポリアクリルアミドを含むゲル電気泳動により酵素標品の純度を検定したところ、蛋白バンドは単一で純度の高い標品であった。
【0114】
【実験17 酵素の性質】
実験16の方法で得た精製マルトース・トレハロース変換酵素標品をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(ゲル濃度7.5w/v%)に供し、同時に泳動した分子量マーカー(日本バイオ・ラッド・ラボラトリーズ株式会社製)と比較して本酵素の分子量を測定したところ、分子量約100,000乃至110,000ダルトンであった。
【0115】
精製マルトース・トレハロース変換酵素標品を2%w/vアンフォライン(ファルマシア・エルケイビー社製)含有等電点ポリアクリルアミドゲル電気泳動法に供し、泳動後、蛋白バンド及びゲルのpHを測定して本酵素の等電点を求めたところ、等電点はpI約3.8乃至4.8であった。
【0116】
本酵素活性に及ぼす温度、pHの影響を活性測定方法に準じて調べた。結果を図9(温度の影響)、図10(pHの影響)に示した。酵素の至適温度は、pH7.0、60分間反応で65℃付近、至適pHは、60℃、60分間反応で約6.0乃至6.7であった。本酵素の温度安定性は、酵素溶液(50mMリン酸緩衝液を含む、pH7.0)を各温度に60分間保持し、水冷した後、残存する酵素活性を測定することにより求めた。また、pH安定性は、本酵素を各pHの50mM緩衝液中で60℃、60分間保持した後、pHを7.0に調整し、残存する酵素活性を測定することにより求めた。それぞれの結果を図11(温度安定性)、図12(pH安定性)に示した。本酵素の温度安定性は約80℃付近までであり、pH安定性は約5.5乃至9.5であった。なお、本酵素活性は、1mMCu++、Hg++又は50mMトリス塩酸緩衝液で阻害された。
【0117】
【実験18 各種糖質への作用】
反応温度を50℃とした以外は、実験4の方法に準じて、実験16で得たサーマス・アクアティカス ATCC33923の精製酵素を各種糖質に作用させて、基質になりうるかどうかの試験をした。その結果、サーマス・アクアティカスATCC33923の酵素はピメロバクター・スピーシーズ R48の酵素、あるいは、シュードモナス・プチダ H262の酵素と同様、マルトースとトレハロースにのみ作用しマルトースをトレハロースに変換し、トレハロースをマルトースに変換した。その平衡点は、トレハロース側に片寄っており、マルトースからトレハロースへの変換率が高く、70%以上になることが判明した。
【0118】
【実験19 トレハロース生成に及ぼすマルトース濃度の影響】
マルトース濃度を2.5%、5%、10%、20%あるいは40%で、温度60℃、pH6.5にて、実験16の方法で得たサーマス・アクアティカス ATCC33923の精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2.5単位加えて反応させ、72時間目に反応液を採取し、100℃で30分間加熱して酵素を失活させた。この反応液を用いて、実験6と同様に還元力及び糖組成を測定した。その結果を表10に示した。
【0119】
【表10】
Figure 0003616166
【0120】
表10の結果から明らかなように、基質のマルトース濃度に関係なく、トレハロースを約70%生成した。
【0121】
【実験20 トレハロース生成に及ぼす温度の影響】
マルトース濃度20%で、pH6.5にして、実験16の方法で得たサーマス・アクアティカス ATCC33923の精製マルトース・トレハロース変換酵素をマルトースグラム当たり2.5単位加えて、温度40℃、50℃、60℃、あるいは70℃で反応させ、経時的に反応液を採取し、100℃で30分間加熱して酵素を失活させた。この反応液を実験6と同様にして、HPLCにて糖組成を分析した。各温度、各時間でのトレハロース含量を表11に示す。
【0122】
【表11】
Figure 0003616166
【0123】
表11の結果から明らかなように、マルトースからのトレハロースへの変換率は反応温度が低いほど高く、40℃においてトレハロースへ約80%変換した。
【0124】
【実験21 他の微生物からのマルトース・トレハロース変換酵素の生産とその性質】
公知微生物のうち、本発明のマルトース・トレハロース変換酵素産生能の確認された特定の微生物を、実験15の場合に準じて三角フラスコにて48時間培養した。培養液の酵素活性を調べた後、実験16の方法に準じて、培養液を破砕装置にかけ、その上清を透析して、部分精製酵素を得、実験17の方法に従って、その性質を調べた。結果を表12に示した。
【0125】
【表12】
Figure 0003616166
【0126】
表12に示すこれらサーマス属に属する公知微生物由来の部分精製酵素を用いて、実験18の方法に従って、各種糖質への作用を調べたところ、サーマス・アクアティカス ATCC33923由来の酵素の場合と同様に、マルトースとトレハロースにのみ作用し、マルトースからトレハロースを生成することが判明した。
【0127】
また、サーマス・ルーバー ATCC35948のマルトース・トレハロース変換酵素は、サーマス・アクアティカス ATCC33923の酵素に比し、その至適温度、安定温度は低かったが、他のサーマス属の酵素は、サーマス・アクアティカス ATCC33923の酵素とほぼ同じ性質を示し、耐熱性の高いことが判明した。
【0128】
【実験22 調製したトレハロースの理化学的性質】
実験8の方法で調製したトレハロースの高純度標品を用いて理化学的性質を調べた。融点は97.0℃、比旋光度は[α]20 +199゜(c=5)、融解熱 は57.8KJ/mole、溶解度は25℃の水に対し、無水物として77.0gであった。これらの物性値は、同時に測定した市販トレハロース含水結晶(和光純薬工業株式会社製)の値とよく一致した。
【0129】
【実験23 生体内での利用試験】
厚治等が、『臨床栄養』、第41巻、第2号、第200乃至208頁(1972年)で報告している方法に準じて、実験8において調製した高純度トレハロース標品(純度99.8%)30gを20w/v%水溶液とし、これをボランティア3名(健康な26才、27才、30才の男性)にそれぞれ経口投与し、経時的に採血して、血糖値及びインスリン値を測定した。対照としては、グルコースを用いた。その結果、トレハロースは、グルコースの場合と同様の挙動を示し、血糖値、インスリン値ともに、投与後、約0.5乃至1時間で最大値を示した。トレハロースは、容易に消化吸収、代謝利用されて、エネルギー源になることが判明した。従って、本発明の方法で得られるトレハロース及びこれを含む糖質は、エネルギー補給用糖源として好適である。
【0130】
【実験24 急性毒性試験】
マウスを使用して、実施例A−6において調製した高純度トレハロース含水結晶を経口投与して急性毒性試験を行った。その結果、トレハロースは低毒性の物質で、投与可能な最大投与量においても死亡例は認められなかった。従って、正確な値とはいえないが、そのLD50値は、50g/kg以上であった。
【0131】
【実験25 培養法によるトレハロース生成に与えるマルトース濃度の影響】
マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する微生物を、マルトースを2乃至20w/v%含有せしめた栄養培地に培養し、培養物中のトレハロース収量に与えるマルトース濃度の影響を調べた。培養方法は、ピメロバクター・スピーシーズ R48(FERM BP−4315)の場合、栄養培地が、グルコース2.0w/v%の代わりに、別滅菌したマルトースを2乃至20w/v%を含有せしめた培地とした以外は、実験1と同様にファーメンターで27℃、72時間培養し、更に界面活性剤(ポリオキシエチレン・ソルビタン・モノパルミテート、和光純薬工業株式会社販売『Tween 40』)を0.1v/v%加えて24時間培養を続けた。また、サーマス・アクアティカス ATCC33923の場合、栄養培地を別滅菌したマルトースを2乃至20w/v%を含有せしめた培地とした以外は、実験15と同様にファーメンターで60℃、24時間培養し、更に、界面活性剤『Tween 40』を0.1v/v%加えて24時間培養を続けた。培養物は、遠心分離して、上清に含まれるトレハロース含量(mg/ml)をHPLCで測定した。結果は、表13に示す。
【0132】
【表13】
Figure 0003616166
【0133】
表13の結果から明らかなように、栄養培地中のマルトースが濃度20w/v%以下、望ましくは15w/v%以下、更に望ましくは5乃至10w/v%付近でトレハロース収量が高く、トレハロース生産に好適であることが判明した。
【0134】
以下、本発明のマルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する微生物を利用したトレハロース、又はこれを含む糖質の製造方法を実施例Aで、トレハロース、又は、これを含む糖質を含有せしめた組成物を実施例Bで示す。
【0135】
【実施例A−1】
濃度10%馬鈴薯澱粉乳(pH5.5)にα−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製『スピターゼ HS』)を澱粉グラム当たり2単位加えて攪拌下、加熱糊化・液化させ、直ちにオートクレーブ(120℃)を20分間行った後、温度50℃、pH5.0に調整した。これにβ−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)を澱粉グラム当たり20単位及びイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり500単位の割合になるように加えて24時間反応させ、次いで、95℃に加熱して酵素を失活させ、濾過、脱色して、マルトース含量約92%の糖液を得た。糖源として、グルコース2.0w/v%の代わりに、前述の糖液を別滅して固形物当たり10w/v%を使用した以外は、実験1の方法に準じて調製した栄養培地をファーメンターにとり、これにマルトース・トレハロース変換酵素産生能を有するピメロバクター・スピーシーズ R48(FERM BP−4315)の種培養物を1v/v%植菌し、実験1と同様に27℃で72時間通気攪拌培養し、更に、界面活性剤(アルキルフェノール・ポリオキシエチレンエーテル、和光純薬工業株式会社販売『Triton X−100』)を0.2v/v%加えて培養を24時間続けた。この培養物を濾過して不溶物を除去し、得られる濾液を、95℃に加熱して酵素を失活させた後、濃縮し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形物当たり約65%の収率で得た。本品は、固形物当たりトレハロースを約44%含有しており、温和な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤、賦形剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0136】
【実施例A−2】
実施例A−1の方法で得た培養物の濾液に、固形物グラム当たり10単位のグルコアミラーゼ、ナガセ生化学工業株式会社製『グルコチーム』をpH5.0、50℃で24時間作用させ、次いで、加熱失活、脱色、脱塩精製して得られる糖液を原糖液とし、トレハロースの含量を高めるため、ナトリウム型強酸性カチオン交換樹脂(東京有機化学工業株式会社製『XT−1016』、架橋度4%)を用いたイオン交換カラムクロマトグラフィーを行った。樹脂を内径5.4cmのジャケット付きステンレス製カラム4本に充填し、直列につなぎ、樹脂層全長20mとした。カラム内温度60℃に維持しつつ、糖液を樹脂に対して、5v/v%加え、これに60℃の温水をSV0.15で流して分画し、グルコースを除去し、トレハロース高含有画分を採取した。更に、精製、濃縮し、真空乾燥し、粉砕して、トレハロース高含有粉末を固形物当たり、約35%の収率で得た。本品は、トレハロースを約97%含有しており、極めて低い還元性、まろやかで上品な甘味を有し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0137】
【実施例A−3】
実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有画分を、常法に従って、活性炭で脱色し、イオン交換樹脂により脱塩して精製した溶液を濃度約70%に濃縮した後、助晶機にとり、種晶としてトレハロース含水結晶約2%を加えて徐冷し、晶出率約45%のマスキットを得た。本マスキットを乾燥塔上のノズルより150kg/cmの高圧にて噴霧した。これと同時に85℃の熱風を乾燥塔の上部 より送風して底部に設けた移送金網コンベア上に捕集し、コンベアの下より45℃の温風を送りつつ、金網コンベア上に捕集した結晶粉末を乾燥塔外に徐々に移動させ取り出した。この取り出した結晶粉末を、熟成塔に充填して温風を送りつつ10時間熟成させ、結晶化と乾燥を完了し、トレハロース含水結晶粉末を原料のトレハロース高含有糖液に対して固形物当たり約90%の収率で得た。本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、安定剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0138】
【実施例A−4】
実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有画分を、実施例A−3と同様に精製し、次いで、蒸発釜にとり、減圧下で煮詰め、水分約3.0%のシラップとした。次いで、助晶機に移し、これに種晶として無水結晶トレハロースをシラップ固形物当たり1%加え、120℃で攪拌助晶し、次いで、アルミ製バットに取り出し、100℃で6時間晶出熟成させてブロックを調製した。次いで、本ブロックを切削機にて粉砕し、流動乾燥して、水分約0.3%の無水結晶トレハロース粉末を、原料のトレハロース高含有糖液に対して、固形物当たり約85%の収率で得た。本品は、食品、化粧品、医薬品、その原材料、又は加工中間物などの含水物の脱水剤としてのみならず、上品な甘味を有する白色粉末甘味料としても、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0139】
【実施例A−5】
濃度33%とうもろこし澱粉乳に炭酸カルシウムを0.1%加えた後、pH6.5に調整し、これにα−アミラーゼ(ノボ社製『ターマミール60L』)を澱粉グラム当たり0.2%加え、95℃で15分間反応させた。その反応液をオートクレーブ(120℃)を30分間行った後、55℃に冷却し、これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり500単位及びβ−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)を澱粉グラム当たり30単位加え、48時間反応させ、次いで、95℃に加熱して酵素を失活させ、濾過、脱色して、マルトース含量約84%の糖液を得た。糖源として、前述の糖液を別滅菌して固形物当たり10w/v%を追加した以外は、実験9の方法に準じて調製した栄養培地をファーメンターにとり、これにマルトース・トレハロース変換酵素産生能を有するシュードモナス・プチダ H262(FERM BP−4579)の種培養物を1v/v%植菌し、実験9と同様に27℃で48時間通気撹拌培養し、更に、界面活性剤『Tween 40』を0.2v/v%加えて24時間培養を続けた。この培養物を濾過して不溶物を除去し、得られる濾液を、95℃に加熱して酵素を失活させた後、濃縮し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形物当たり約50%の収率で得た。本品は、固形物当たりトレハロースを約64%を含有しており、低還元性、温和な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、各種飲食物、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0140】
【実施例A−6】
実施例A−5の方法で得たシラップを濃度約80%に濃縮して助晶機にとり、種晶としてトレハロース含水結晶粉末約1%を加え、攪拌しつつ徐冷、晶出させた。次いで、バスケット型遠心分離機で分蜜し、結晶を少量の水でスプレーし、洗浄して高純度トレハロース含水結晶を固形物当たり約20%の収率で得た。本品は、実験22と同様の理化学的性質を示し、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。更には、工業試薬、化学原料などに利用することも有利に実施できる。
【0141】
【実施例A−7】
濃度10%とうもろこし澱粉乳(pH5.5)にα−アミラーゼ『スピターゼHS』を澱粉グラム当たり2単位加えて撹拌下、加熱糊化・液化させ、直ちにオートクレイブ(120℃)を20分間行った後、温度55℃、pH5.0に調整した。これにイソアミラーゼ(株式会社林原生物化学研究所製)を澱粉グラム当たり300単位及びβ−アミラーゼ(ナガセ生化学工業株式会社製)を澱粉グラム当たり20単位の割合になるように加えて24時間反応させ、次いで、95℃に加熱して酵素を失活させ、濾過、脱色して、マルトース含量約92%の糖液を得た。糖源として、前述の糖液を別滅菌して固形物当たり10w/v%を追加した以外は、実験15の方法に準じて調製した栄養培地をファーメンターにとり、これにマルトース・トレハロース変換酵素産生能を有するサーマス・アクアティカスATCC 33923の種培養物を1v/v%植菌し、実験15と同様に60℃で40時間通気撹拌培養し、更に、界面活性剤『Triton X−100』を0.1v/v%及び培養液1l当たり卵白リゾチーム50mgを加えて16時間培養を続けた。この培養物を濾過して不溶物を除去し、得られる濾液を、95℃に加熱して酵素を失活させた後、濃縮し、常法に従って活性炭で脱色・濾過し、H型及びOH型イオン交換樹脂により脱塩して精製し、更に濃縮して濃度約70%のシラップを固形物当たり約55%の収率で得た。本品は、固形物当たりトレハロースを約68%含有しており、温和な甘味、適度の粘度、保湿性を有し、甘味料、呈味改良剤、安定剤、賦形剤などとして各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0142】
【実施例A−8】
実施例A−7の方法で得たシラップを濃度約85%に濃縮して助晶機にとり、種晶約1%を混合した後、バットにとり、20℃で4日間静置して晶出固化させ、次いで切削機にて粉砕し、乾燥して含蜜型トレハロース含水結晶粉末を固形物当たり約95%の収率で得た。本品は、実質的に吸湿性を示さず、取扱いが容易であり、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品などの各種組成物に有利に利用できる。
【0143】
【実施例A−9】
実施例A−7の方法で得たシラップを濃度約80%に濃縮して助晶機にとり、実施例A−6と同様に晶出、分蜜して高純度のトレハロース含水結晶を固形物当たり約20%の収率で得た。本品は、実験22と同様の理化学的性質を示し、実施例A−6と同様に、各種飲食物、化粧品、医薬品などの各種組成物、更には、工業試薬、工業原料、化学原料などに有利に利用できる。
【0144】
【実施例B−1 甘味料】
実施例A−3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末1重量部に、α−グリコシルステビオシド(東洋精糖株式会社販売『αGスイート』)0.01重量部及びL−アスパルチル−L−フェニルアラニンメチルエステル(味の素株式会社販売『アスパルテーム』)0.01重量部を均一に混合し、顆粒成型機にかけて、顆粒状甘味料を得た。本品は、甘味の質が優れ、蔗糖の約2倍の甘味度を有し、甘味度当たりカロリーは、蔗糖の約1/2に低下している。本甘味料は、それに配合した高甘味度甘味物の分解もなく、安定性に優れており、低カロリー甘味料として、カロリー摂取を制限している肥満者、糖尿病者などのための低カロリー飲食物などに対する甘味付けに好適である。また、本甘味料は、虫歯誘発菌による酸の生成が少なく、不溶性グルカンの生成も少ないことより、虫歯を抑制する飲食物などに対する甘味付けにも好適である。
【0145】
【実施例B−2 ハードキャンディー】
濃度55%蔗糖溶液100重量部に実施例A−1の方法で得たトレハロース含有シラップ30重量部を加熱混合し、次いで減圧下で水分2%未満になるまで加熱濃縮し、これにクエン酸1重量部及び適量のレモン香料と着色料とを混和し、常法に従って成型し、製品を得た。本品は、歯切れ、呈味良好で、蔗糖の晶出、変形も起こらない高品質のハードキャンディーである。
【0146】
【実施例B−3 チョコレート】
カカオペースト40重量部、カカオバター10重量部、蔗糖30重量部、実施例A−6の方法で得た高純度トレハロース含水結晶20重量部を混合してレファイナーに通して粒度を下げた後、コンチェに入れて50℃で2昼夜練り上げる。この間に、レシチン0.5重量部を加え、充分に混和分散させた。次いで、温度調節機で31℃に調節し、バターの固まる直前に型に流し込み、振動機でアワ抜きを行い、10℃の冷却トンネルを20分間くぐらせて固化させた。これを型抜きして包装し製品を得た。本品は、吸湿性がなく、色、光沢共によく、内部組織も良好で、口中でなめらかに溶け、上品な甘味とまろやかな風味を有する。
【0147】
【実施例B−4 チューインガム】
ガムベース3重量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに蔗糖4重量部及び実施例A−3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末3重量部とを加え、更に適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。本品は、テクスチャー、風味とも良好なチューインガムである。
【0148】
【実施例B−5 加糖練乳】
原乳100重量部に実施例A−5の方法で得たトレハロース含有シラップ3重量部及び蔗糖1重量部を溶解し、プレートヒーターで加熱殺菌し、次いで濃度70%に濃縮し、無菌状態で缶詰して製品を得た。本品は、温和な甘味で、風味もよく、乳幼児食品、フルーツ、コーヒー、ココア、紅茶などの調味用に有利に利用できる。
【0149】
【実施例B−6 乳酸菌飲料】
脱脂粉乳175重量部、実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有粉末80重量部及び特開平4−281795号公報で開示されているラクトスクロース高含有粉末50重量部を水1,200重量部に溶解し、65℃で30分間殺菌し、40℃に冷却後、これに、常法に従って、乳酸菌のスターターを30重量部植菌し、37℃で8時間培養して乳酸菌飲料を得た。本品は、風味良好な乳酸菌飲料である。また、本品は、オリゴ糖を含有し、乳酸菌を安定に保持するだけでなく、ビフィズス菌増殖促進作用をも有する。
【0150】
【実施例B−7 粉末ジュース】
噴霧乾燥により製造したオレンジ果汁粉末33重量部に対して、実施例A−6の方法で得た高純度トレハロース含水結晶50重量部、蔗糖10重量部、無水クエン酸0.65重量部、リンゴ酸0.1重量部、L−アスコルビン酸0.1重量部、クエン酸ソーダ0.1重量部、プルラン0.5重量部、粉末香料適量をよく混合撹拌し、粉砕し微粉末にしてこれを流動層造粒機に仕込み、排風温度40℃とし、これに、実施例A−5の方法で得たトレハロース高含有シラップをバインダーとしてスプレーし、30分間造粒し、計量、包装して製品を得た。本品は、果汁含有率約30%の粉末ジュースである。また、本品は異味、異臭がなく、長期に安定であった。
【0151】
【実施例B−8 カスタードクリーム】
コーンスターチ100重量部、実施例A−1の方法で得たトレハロース含有シラップ100重量部、マルトース80重量部、蔗糖20重量部及び食塩1重量部を充分に混合し、鶏卵280重量部を加えて撹拌し、これに沸騰した牛乳1,000重量部を徐々に加え、更に、これを火にかけて撹拌を続け、コーンスターチが完全に糊化して全体が半透明になった時に火を止め、これを冷却して適量のバニラ香料を加え、計量、充填、包装して製品を得た。本品は、なめらかな光沢を有し、温和な甘味で美味である。
【0152】
【実施例B−9 ういろうの素】
米粉90重量部に、コーンスターチ20重量部、蔗糖40重量部、実施例A−3の方法で得たトレハロース含水結晶粉末80重量部及びプルラン4重量部を均一に混合してういろうの素を製造した。ういろうの素と適量の抹茶と水とを混練し、これを容器に入れて60分間蒸し上げて抹茶ういろうを製造した。本品は、照り、口当たりも良好で、風味も良い。また、澱粉の老化も抑制され、日持ちも良い。
【0153】
【実施例B−10 あん】
原料あずき10重量部に、常法に従って、水を加えて煮沸し、渋切り、あく抜きして、水溶性夾雑物を除去して、あずきつぶあん約21重量部を得た。この生あんに、蔗糖14重量部、実施例A−7の方法で得たトレハロース含有シラップ5重量部及び水4重量部を加えて煮沸し、これに少量のサラダオイルを加えてつぶあんをこわさないように練り上げ、製品のあんを約35重量部得た。本品は、色焼けもなく、舌ざわりもよく、風味良好で、あんパン、まんじゅう、だんご、もなか、氷菓などのあん材料として好適である。
【0154】
【実施例B−11 パン】
小麦粉100重量部、イースト2重量部、砂糖5重量部、実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有粉末1重量部及び無機フード0.1重量部を、常法に従って、水でこね、中種を26℃で2時間発酵させ、その後30分間熟成し、焼き上げた。本品は、色相、すだちともに良好で適度な弾力、温和な甘味を有する高品質のパンである。
【0155】
【実施例B−12 ハム】
豚もも肉1,000重量部に食塩15重量部及び硝酸カリウム3重量部を均一にすり込んで、冷室に1昼夜堆積する。これを水500重量部、食塩100重量部、硝酸カリウム3重量部、実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有粉末40重量部及び香辛料からなる塩漬液に冷室で7日間漬け込み、次いで、常法に従い、冷水で洗浄し、ひもで巻き締め、燻煙し、クッキングし、冷却包装して製品を得た。本品は、色合いもよく、風味良好な高品質のハムである。
【0156】
【実施例B−13 粉末ペプチド】
濃度40%食品用大豆ペプチド溶液(不二製油株式会社製『ハイニュートS』)1重量部に、実施例A−6の方法で得た高純度トレハロース含水結晶2重量部を混合し、プラスチック製バットに入れ、50℃で減圧乾燥し、粉砕して粉末ペプチドを得た。本品は、風味良好で、プレミックス、冷菓などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。
【0157】
【実施例B−14 粉末味噌】
赤味噌1重量部に実施例A−4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末3重量部を混合し、多数の半球状凹部を設けた金属板に流し込み、これを室温下で一夜静置して固化し、離型して1個当たり約4gの固形味噌を得、これを粉砕機にかけて粉末味噌を得た。本品は、即席ラーメン、即席吸物などの調味料として有利に利用できる。また、固形味噌は、固形調味料としてだけでなく味噌菓子などとしても利用できる。
【0158】
【実施例B−15 粉末卵黄】
生卵から調製した卵黄をプレート式加熱殺菌機で60乃至64℃で殺菌し、得られる液状卵黄1重量部に対して、実施例A−4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末4重量部の割合で混合した後バットに移し、一夜放置して、トレハロース含水結晶に変換させてブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、粉末卵黄を得た。本品は、プレミックス、冷菓、乳化剤などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。また、美肌剤、育毛剤などとしても有利に利用できる。
【0159】
【実施例B−16 化粧用クリーム】
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール2重量部、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン5重量部、実施例A−2の方法で得たトレハロース高含有粉末2重量部、α−グリコシル ルチン1重量部、流動パラフィン1重量部、トリオクタン酸グリセリル10重量部及び防腐剤の適量を、常法に従って加熱溶解し、これにL−乳酸2重量部、1,3−ブチレングリコール5重量部及び精製水66重量部を加え、ホモゲナイザーにかけ乳化し、更に香料の適量を加えて撹拌混合しクリームを製造した。本品は、抗酸化性を有し、安定性が高く、高品質の日焼け止め、美肌剤、色白剤などとして有利に利用できる。
【0160】
【実施例B−17 粉末薬用人参エキス】
薬用人参エキス0.5重量部に実施例A−4の方法で得た無水結晶トレハロース粉末1.5重量部を混捏した後、バットに移し、2日間放置してトレハロース含水結晶に変換させブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、分級して粉末薬用人参エキスを得た。本品を適量のビタミンB1及びビタミンB2粉末とともに顆粒成型機にかけ、ビタミン含有顆粒状薬用人参エキスとした。本品は、疲労回復剤、強壮、強精剤などとして有利に利用できる。また、育毛剤などとしても利用できる。
【0161】
【実施例B−18 固体製剤】
ヒト天然型インターフェロン−α標品(株式会社林原生物化学研究所製)を、常法に従って、固定化抗ヒトインターフェロン−α抗体カラムにかけ、該標品に含まれるヒト天然型インターフェロン−αを吸着させ、安定剤であるウシ血清アルブミンを素通りさせて除去し、次いで、pHを変化させて、ヒト天然型インターフェロン−αを実施例A−6の方法で得た高純度トレハロース含水結晶を5%含有する生理食塩水を用いて溶出した。本液を精密濾過し、約20倍量の無水結晶マルトース粉末、株式会社林原商事販売『ファイントース』に加えて脱水、粉末化し、これを打錠機にて打錠し、1錠(約200mg)当たりヒト天然型インターフェロン−αを約150単位含有する錠剤を得た。本品は、舌下錠などとして、一日当たり、大人1乃至10錠程度が経口的に投与され、ウイルス性疾患、アレルギー性疾患、リューマチ、糖尿病、悪性腫瘍などの治療に有利に利用できる。とりわけ、近年、患者数の急増しているエイズ、肝炎などの治療剤として有利に利用できる。本品は、本発明の非還元性糖質と無水結晶マルトースが共に安定剤として作用し、室温で放置してもその活性を長期間よく維持する。
【0162】
【実施例B−19 糖衣錠】
重量150mgの素錠を芯剤とし、これに実施例A−9の方法で得た高純度トレハロース含水結晶40重量部、プルラン(平均分子量20万)2重量部、水30重量部、タルク25重量部及び酸化チタン3重量部からなる下掛け液を用いて錠剤重量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、同じトレハロース含水結晶粉末65重量部、プルラン1重量部及び水34重量部からなる上掛け液を用いて、糖衣し、更に、ロウ液で艶出しして光沢の在る外観の優れた糖衣錠を得た。本品は、耐衝撃性にも優れており、高品質を長期間維持する。
【0163】
【実施例B−20 練歯磨】
配合
第2リン酸カルシウム 45.0重量部
プルラン 2.95重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5重量部
グリセリン 20.0重量部
ポリオキシエチレンソルビタンラウレート 0.5重量部
防腐剤 0.05重量部
実施例A−8の方法で得たトレハロース含水結晶粉末 12.0重量部
マルチトール 5.0重量部
水 13.0重量部
上記の材料を常法に従って混合し、練歯磨を得た。本品は、適度の甘味を有しており、特に子供用練歯磨として好適である。
【0164】
【実施例B−21 流動食用固体製剤】
実施例A−6の方法で製造した高純度トレハロース含水結晶500重量部、粉末卵黄270重量部、脱脂粉乳209重量部、塩化ナトリウム4.4重量部、塩化カリウム1.8重量部、硫酸マグネシウム4重量部、チアミン0.01重量部、アスコルビン酸ナトリウム0.1重量部、ビタミンEアセテート0.6重量部及びニコチン酸アミド0.04重量部からなる配合物を調製し、この配合物25グラムずつ防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして製品を得た。本品は、1袋分を約150乃至300mlの水に溶解して流動食とし、経口的、又は鼻腔、胃、腸などへ経管的使用方法により利用され、生体へのエネルギー補給用に有利に利用できる。
【0165】
【実施例B−22 輸液剤】
実施例A−6の方法で製造した高純度トレハロース含水結晶を水に濃度約10w/v%に溶解し、次いで、常法に従って、精密濾過してパイロジェンフリーとし、プラスチック製ボトルに無菌的に充填し施栓して製品を得た。本品は、経日変化もなく安定な輸液剤で、静脈内、腹腔内などに投与するのに好適である。本品は濃度10w/v%で血液と等張で、グルコースの場合の2倍濃度でエネルギー補給できる。
【0166】
【実施例B−23 輸液剤】
実施例A−9の方法で製造した高純度トレハロース含水結晶と下記の組成のアミノ酸配合物とがそれぞれ5w/v%、30w/v%になるように水に混合溶解し、次いで実施例B−22と同様に精製してパイロジェンフリーとし、更に、プラスチック製バックに充填し施栓して製品を得た。
アミノ酸配合物の組成(mg/100ml)
L−イソロイシン 180
L−ロイシン 410
L−リジン塩酸塩 620
L−メチオニン 240
L−フェニルアラニン 290
L−スレオニン 180
L−トリプトファン 60
L−バリン 200
L−アルギニン塩酸塩 270
L−ヒスチジン塩酸塩 130
グリシン 340
本品は、糖質とアミノ酸との複合輸液剤にもかかわらず、トレハロースが還元性を示さないため、経日変化もなく安定な輸液剤で、静脈内、腹腔内などへ投与するのに好適である。本品は、生体へのエネルギー補給のみならず、アミノ酸補給のためにも有利に利用できる。
【0167】
【実施例B−24 外傷治療用膏薬】
実施例A−8の方法で製造したトレハロース含水結晶粉末200重量部及びマルトース300重量部に、ヨウ素3重量部を溶解したメタノール50重量部を加え混合し、更に10w/v%プルラン水溶液200重量部を加えて混合し、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、トレハロースによる細胞へのエネルギー補給剤としても作用することから、治癒期間が短縮され、創面もきれいに治る。
【0168】
【発明の効果】
上記から明らかなように、マルトースを含有せしめた栄養培地に、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有する微生物を培養することにより、培養物から非還元性糖質を極めて簡便、短時間に製造することができることとなり、トレハロース、又は、これを含む糖質の工業的な製造を容易にする。また、マルトースとして、澱粉を液化した溶液にβ−アミラーゼ又はβ−アミラーゼとともに澱粉枝切酵素を作用させて得られるマルトースを利用すれば、澱粉からのトレハロース収量を著しく高め、その工業的な製造を容易にする。このようにして得られるトレハロース又はこれを含む糖質は、安定性に優れ、良質で上品な甘味を有している。また、経口摂取により消化吸収され、カロリー源となる。とりわけ、トレハロースは非経口的にも使用され、よく代謝利用される。従って、本発明のトレハロース、又は、これを含む糖質は、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤、安定剤、賦形剤などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品など各種組成物に有利に利用できる。
【0169】
本発明の確立は、安価で無限の資源である澱粉から、従来望むべくして容易に得られなかったトレハロース、又は、これを含む糖質を工業的に大量かつ安価に提供できる全く新しい道を拓くこととなり、それが与える影響は、食品、化粧品、医薬品業界は言うに及ばず、農水畜産業、化学工業にも及びこれら産業界に与える工業的意義は計り知れないものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】ピメロバクター・スピーシーズ R48のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図2】ピメロバクター・スピーシーズ R48のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図3】ピメロバクター・スピーシーズ R48のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図4】ピメロバクター・スピーシーズ R48のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図5】シュードモナス・プチダ H262のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図6】シュードモナス・プチダ H262のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図7】シュードモナス・プチダ H262のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図8】シュードモナス・プチダ H262のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図9】サーマス・アクアティカス ATCC33923のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図10】サーマス・アクアティカス ATCC33923のマルトース・トレハロース変換酵素の酵素活性に及ぼすpHの影響を示す図である。
【図11】サーマス・アクアティカス ATCC33923のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼす温度の影響を示す図である。
【図12】サーマス・アクアティカス ATCC33923のマルトース・トレハロース変換酵素の安定性に及ぼすpHの影響を示す図である。

Claims (5)

  1. マルトースを含有せしめた栄養培地に、マルトース・トレハロース変換酵素産生能を有するピメロバクター属、シュードモナス属及びサーマス属から選ばれる微生物を培養し、得られる培養物からトレハロース、又は、これを含む糖質を採取することを特徴とするトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
  2. 栄養培地に、マルトースを20w/v%以下含有せしめることを特徴とする請求項1記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
  3. 栄養培地に、マルトースとともに界面活性剤を含有せしめることを特徴とする請求項1又は2記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
  4. マルトースが、澱粉を液化したものに、β−アミラーゼ又はβ−アミラーゼとともに澱粉枝切酵素を作用させて得られるマルトースである請求項1乃至3のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
  5. 培養物又はこれから得られるトレハロースを含む糖質に、グルコアミラーゼ、又はα−グルコシダーゼを作用させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のトレハロース、又は、これを含む糖質の製造方法。
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