JP3558763B2 - グラフト重合体を製造する方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定のシラン化合物、該シラン化合物より誘導され得る、グラフト重合体等の重合体および該重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高分子材料の高機能化・高性能化を目的として、グラフト重合体の合成の検討が行われている。グラフト重合体の一般的な合成方法としては、(1)幹となる重合体をグラフト鎖となる重合体と高分子−高分子反応で結合させる方法、(2)幹となる重合体にグラフト鎖となるモノマーを反応させてグラフト鎖の重合を行う高分子−モノマー反応による方法、(3)幹となるモノマーとグラフト鎖となる重合体との共重合による、いわゆるマクロモノマー法が知られている。
上記(1)および(2)のグラフト重合体の合成方法は、押出機を反応場として利用する、いわゆるリアクティブプロセッシングと呼ばれる手法により、優れた経済性で実施することができることから、工業的に広く採用されている。すなわち、上記(1)の合成方法は、互いに反応し得る2種類の官能基、例えばカルボキシル基と水酸基、酸無水物基とアミノ基などを、それぞれ分子鎖の途中に有する重合体と分子鎖末端に有する重合体とを押出機中で混練することによって行うことができる。また、上記(2)の合成方法は、ラジカルを発生し得る基、例えば、ペルオキシド基、アゾ基、チオール基、過酸エステル基、不飽和基などの官能基を分子鎖の途中に有する重合体とラジカル開始剤、例えば、過酸化ベンゾイルなど、を混練することによってラジカルを発生させ、次いで、これにモノマーを添加し混練条件で反応させることによって行うことができる。
また、上記(3)の合成方法は、リビング重合法により合成された平均分子量および分子量分布が制御されたマクロモノマーを使用することによって、グラフト鎖の化学構造が制御されたグラフト重合体を得ることができる点で注目されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
高分子材料は、その用途に応じて最適な性能を持たせることが一層重要視されており、ポリマーアロイ技術の進展とともに、平均分子量、分子量分布、グラフト鎖の鎖長、グラフト鎖の数等が精緻に制御されたグラフト重合体が工業的レベルで要求されている。
【0004】
しかしながら、従来の合成方法では、グラフト重合体をその分子構造を精緻に制御して合成することが困難であり、所望の物性が得られ難いのが実情である。
例えば、上記(1)の合成方法の場合、幹となる重合体は一般的にはラジカル重合で合成されるため、グラフト点となる官能基が該重合体中に確率論的に導入されるのみである。その結果、最終的に得られるグラフト重合体において、グラフト点の間隔およびグラフト鎖の数が精緻に制御されているということはできない。また、上記(1)の合成方法において、アニオン重合法を用いて製造された幹となる重合体を使用することも可能である。すなわち、アニオン開始剤を用いてモノマーを重合させて活性なアニオン末端を有する重合体を得、これにトリハロゲン化シラン化合物(例えば、メチルトリクロロシラン、エチルトリブロモシラン、プロピルトリクロロシラン等)を反応させることによって、分子末端にジハロゲン化シリル基を有する重合体を得、次いで、この分子末端にジハロゲン化シリル基を有する重合体の1分子に対して、アニオン末端を有する重合体の2分子(これらの2分子は分子構造が相違していてもよい)を反応させることによって、グラフト鎖の鎖長およびグラフト点の位置が制御された、グラフト鎖が1個のグラフト重合体を合成することが、理論上では可能である。しかしこの方法の場合、実際には、重合体の添加順などにおいて反応条件上の制約があること、重合体同士のカップリング反応などの副反応が起こる可能性が高いことなどから、所望の構造のグラフト重合体を選択的に、しかも再現性よく合成することは非常に難しい。
上記(2)の合成方法の場合、幹となる重合体は一般的にはラジカル重合法で合成されるため、上記(1)の合成方法の場合と同様に、グラフト点の間隔、グラフト点の数、グラフト鎖の鎖長、分子量分布等が精緻に制御されたグラフト重合体を得ることは困難である。
また、上記(3)の合成方法の場合、平均分子量および分子量分布が制御されたマクロモノマーを使用しても、それをラジカル重合法でモノマーと共重合すれば、得られるグラフト重合体において、グラフト鎖の数は確率論的にしか制御することができない。また、マクロモノマーとモノマーとをイオン重合法で共重合する場合には、両者の構造に類似性があることが必要とされるなどの制約のため、汎用性が低い。
【0005】
ところで、1,1−ジフェニルエチレン等の1,1−ジアリールエチレンは、自己重合性がないこと、リビングポリマーのアニオン末端と反応してカルボアニオンを定量的に生成することなどの特長を有することから、重合体を平均分子量、分子量分布等を精緻に制御して合成する目的で、応用が試みられている。1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を分子末端に有する重合体を操作性よく、かつ再現性よく合成することができれば、グラフト鎖の鎖長、グラフト点の数、グラフト点の間隔などが制御されたグラフト重合体を、工業的に製造することが可能となり、該グラフト重合体のエラストマー、プラスチック材料、樹脂改質剤等への用途展開が格段に拡大するものと期待される。
【0006】
しかして、本発明の第一の目的は、1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体を操作性よく、かつ再現性よく合成することを可能にし、かつそれ自体の合成も容易である新規な低分子化合物を提供することにある。本発明の第二の目的は、該低分子化合物から操作性よく、かつ再現性よく誘導され得る1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体を提供することにある。本発明の第三の目的は、該重合体から操作性よく、かつ再現性よく誘導され得、かつグラフト重合体の前駆物質として有用である、官能基含有構造が分子鎖中に導入された重合体を提供することにある。本発明の第四の目的は、該官能基含有構造が分子鎖中に導入された重合体から操作性よく、かつ再現性よく誘導され得、かつグラフト鎖の分子量、グラフト点の数、グラフト点間の鎖長などの構造が制御され得るグラフト重合体を提供することにある。本発明の第五の目的は、上記1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を分子鎖末端に有する重合体を操作性よく、かつ再現性よく製造する方法を提供することにある。本発明の第六の目的は、上記官能基含有構造が分子鎖中に導入された重合体を操作性よく、かつ再現性よく製造する方法を提供することにある。また、本発明の第七の目的は、上記グラフト重合体を操作性よく、かつ再現性よく製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究した結果、1,1−ジアリールエチレンに相当する基とハロゲン化炭化水素基とを有する特定のシラン化合物が、重合体の分子鎖末端に1,1−ジアリールエチレンに相当する基を定量的かつ操作性よく導入することを可能にし、また、それにより得られる、1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体から、分子構造が極めて制御されたグラフト重合体を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明によれば、上記の第一の目的は、一般式
【0009】
【化6】
【0010】
(式中、Ar1はアリール基を表し、Ar2はアリーレン基を表し、R1およびR2はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、R3はアルキレン基またはアリーレン基を表し、X1はハロゲン原子を表す。)
【0011】
で示されるシラン化合物(以下、「シラン化合物(I)」という)を提供することにより達成される。
【0012】
本発明によれば、上記の第二の目的は、一般式
【0013】
【化7】
【0014】
(式中、Ar1はアリール基を表し、Ar2はアリーレン基を表し、R1およびR2はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、R3はアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【0015】
で示される基を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体(以下、「ジアリールエチレン末端重合体(II)」という)を提供することにより達成される。
【0016】
本発明によれば、上記の第三の目的は、分子鎖中に、一般式
【0017】
【化8】
【0018】
(式中、Ar1はアリール基を表し、Ar2はアリーレン基を表し、R1およびR2はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれアルキレン基またはアリーレン基を表し、X2はハロゲン原子を表す。)
【0019】
で示される基を少なくとも1個有する重合体(以下、「ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)」という)を提供することにより達成される。
【0020】
本発明によれば、上記の第四の目的は、分子鎖中に、一般式
【0021】
【化9】
【0022】
(式中、Ar1はアリール基を表し、Ar2はアリーレン基を表し、R1およびR2はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【0023】
で示される分岐構造を少なくとも1個有するグラフト重合体(以下、「グラフト重合体(IV)」という)を提供することにより達成される。
【0024】
本発明によれば、上記の第五の目的は、上記シラン化合物(I)とカルボアニオン末端を有する重合体とを、該シラン化合物を該カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1モル以上の割合で使用して、反応させることを特徴とする上記ジアリールエチレン末端重合体(II)の製造方法を提供することにより達成される。
【0025】
本発明によれば、上記の第六の目的は、上記ジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体を反応させ、次いで、得られた生成物に一般式
【0026】
【化10】
【0027】
(式中、R4はアルキレン基またはアリーレン基を表し、X3およびX4は相互に異なるハロゲン原子を表す。)
【0028】
で示されるジハロゲン化炭化水素化合物(以下、「ジハロゲン化炭化水素化合物(V)」という)を反応させることを特徴とする上記ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)の製造方法を提供することにより達成される。
【0029】
本発明によれば、上記の第七の目的は、上記ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)とカルボアニオン末端を有する重合体とを反応させることを特徴とする上記グラフト重合体(IV)の製造方法を提供することにより達成される。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0031】
上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)において、Ar1が表すアリール基としては、フェニル基、o−、m−またはp−トリル基、ナフチル基などが例示され、これらの中でもフェニル基が好ましい。Ar2が表すアリーレン基としては、o−、m−またはp−フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基などが例示され、これらの中でもo−、m−またはp−フェニレン基、とりわけm−フェニレン基が好ましい。R1およびR2は、それぞれメチル基、エチル基などのアルキル基またはフェニル基、o−、m−もしくはp−トリル基、ナフチル基などのアリール基を表すが、これらの中でもメチル基が好ましい。R3は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのアルキレン基またはo−、m−もしくはp−フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基などのアリーレン基を表すが、これらの中でもトリメチレン基が好ましい。
上記一般式(I)において、X1が表すハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、これらの中でも塩素原子が好ましい。
上記一般式(III)、(IV)および(V)において、R4は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのアルキレン基またはo−、m−もしくはp−フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基などのアリーレン基を表すが、これらの中でもトリメチレン基が好ましい。
上記一般式(III)においてX2が表すハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、これらの中でも塩素原子が好ましい。
上記一般式(V)においてX3およびX4がそれぞれ表す相互に異なるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選ばれたものが好ましく、これらの中でも塩素原子と臭素原子の組み合わせが好ましい。
【0032】
本発明のシラン化合物(I)としては、例えば、1−[3−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[3−[(2−クロロエチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[3−[(クロロメチル)メチルエチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[4−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[2−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[3−[(ヨードメチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン等が挙げられる。中でも、合成操作および精製操作の容易さ等の観点から、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレンが好ましい。
なお、本発明のシラン化合物(I)は、ハロゲン原子がケイ素原子に直結していないために、加水分解を受けにくいなど安定性が高く、空気中においても変質しにくい。したがって、その使用等にあたって、取り扱いが容易である。
【0033】
シラン化合物(I)は、例えば、1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレン、1−(4−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレン、1−(3−クロロフェニル)−1−フェニルエチレン等の一般式
【0034】
【化11】
【0035】
(式中、Ar1およびAr2は前記定義のとおりであり、X5は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表す。)
【0036】
で示されるハロゲン化物から合成したグリニヤール試薬と、(クロロメチル)(クロロ)ジメチルシラン、(2−クロロエチル)(クロロ)ジメチルシラン、(3−クロロプロピル)(クロロ)ジメチルシラン等の一般式
【0037】
【化12】
【0038】
(式中、R1、R2、R3およびX1は前記定義のとおりであり、X6は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表す。)
【0039】
で示されるジハロゲノシラン化合物とを、等モル程度の割合で反応させることにより、容易に合成することができる。該反応は通常、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒;THF(テトラヒドロフラン)、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒などの有機溶媒中、攪拌下に、−100℃〜+100℃程度の範囲内の温度で行うことができる。
反応後、得られた反応混合物からのシラン化合物(I)の単離・精製は、例えば、以下の方法によって行うことができる。すなわち、反応混合物を、必要に応じて溶媒を蒸発除去した後、THF、トルエン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン等の有機溶媒に溶解し、その溶液を−40℃以下の温度に冷却し、その溶液に、ジアリール基由来のカルボアニオンを示す赤色が生じるまで、ジフェニルエチレンダイマーのジリチウム塩、ジフェニルヘキシルリチウム等のジフェニルメチル型アニオンを、THF、トルエン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン等の有機溶媒の溶液の形で滴下し、その温度でさらに数時間攪拌した後、常温まで昇温してアニオンを失活させ(カルボアニオン色は消失する)、有機溶媒を蒸発させ、次いで残留物を蒸留することによって、目的のシラン化合物(I)を分離取得することができる。
【0040】
本発明のジアリールエチレン末端重合体(II)は、上記一般式(II)で示される基を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体であるが、その分子鎖が線状である重合体としては、該基が分子鎖の片方の末端に存在している重合体と該基が分子鎖の両方の末端に存在している重合体とに大別される。いずれの場合においても、分子鎖の主体は、アニオン重合性単量体からなる重合体であることが好ましい。アニオン重合性単量体からなる重合体の好適な例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンテニルメタクリレート等のメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンテニルアクリレート等のアクリレートなどを主たる重合単位とするポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を主たる重合単位とするポリ(メタ)アクリロニトリル系重合体;1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンを主たる重合単位とするポリ共役ジエン系重合体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−ブチルスチレン、メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、3−エチル−1−ビニルナフタレン、p−N,N−ジメチルアミノスチレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニル芳香族化合物を主たる重合単位とする芳香族系重合体;上記の重合単位の複数からなる共重合体(例えば、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、ブタジエン−スチレン共重合体等)等を挙げることができる。
ジアリールエチレン末端重合体(II)の分子量についてはとくに制限されることなく、目的に応じて適宜好適なものとすればよい。ただし、ジアリールエチレン末端重合体(II)を分子構造の制御されたグラフト重合体の前駆重合体として使用する目的においては、数平均分子量で300〜500000の範囲内にあることが好ましく、500〜100000の範囲内であることが特に好ましい。また、その目的においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法から求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0〜1.3の範囲内であることが好ましく、1.0〜1.1の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
ジアリールエチレン末端重合体(II)は、シラン化合物(I)とカルボアニオン末端を有する重合体とを反応させることによって製造することができる。該反応においては、シラン化合物(I)をカルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1モル以上の割合で使用する。シラン化合物(I)の使用量がカルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1モル未満の場合には、シラン化合物(I)の1分子に対してカルボアニオン末端を有する重合体の2分子が反応するなどの副反応が生じるため好ましくない。シラン化合物(I)の使用量の上限値について特に制限はないが、必要量以上に使用しても無意味であり、むしろ反応後に除去すべき未反応のシラン化合物(I)の量が増大することになる。以上の点から、シラン化合物(I)の使用量は、カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1〜3モルの範囲内となるような割合が好ましく、1〜1.2モルの範囲内となるような割合がより好ましい。
シラン化合物(I)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応は、一般に、−100℃〜+150℃の範囲内、好ましくは−90℃〜+100℃の範囲内、より好ましくは−80℃〜+80℃の範囲内の温度で両者を接触させることによって、容易に、かつほぼ定量的に進行させることができる。なお、この場合、副反応を抑制するために、反応系から水、空気等の不純物をできるだけ除去しておくことが好ましい。また、該反応は、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒などの有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0042】
上記のカルボアニオン末端を有する重合体は、カルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体であり、カルボアニオンを分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体およびカルボアニオンを分子鎖の両方の末端に有する線状重合体が例示される。カルボアニオンを分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体をシラン化合物(I)と反応させることにより、ジアリールエチレン末端重合体(II)として、一般式(II)で示される基を分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体を得ることができる。また、カルボアニオンを分子鎖の両方の末端に有する線状重合体をシラン化合物(I)と反応させることにより、ジアリールエチレン末端重合体(II)として、一般式(II)で示される基を分子鎖の両方の末端に有する線状重合体を得ることができる。
【0043】
カルボアニオン末端を有する重合体は、アニオン重合法、ハロゲン原子を分子鎖末端に有する重合体をリチオ化する方法などの常法に従って製造することができる。分子構造の制御されたグラフト重合体を製造する目的においてはカルボアニオン末端を有する重合体の分子構造もできるだけ制御されていることが好ましい。この観点からは、カルボアニオン末端を有する重合体として、アニオンリビング重合法によって得られたカルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体、いわゆるリビングポリマーを使用するのが好ましい結果を与える。
上記のカルボアニオン末端を有する重合体をアニオンリビング重合法によって製造する場合、常法に従って、アニオン重合開始剤を使用してアニオン重合性単量体を重合させればよい。アニオン重合開始剤としては、カルボアニオンを分子鎖の片末端のみに有する重合体を製造したい場合には、モノリチオ化合物等の単官能性のアニオン重合開始剤を用い、また、カルボアニオンを分子鎖の両末端に有する重合体を製造したい場合には、ジリチオ化合物等の二官能性のアニオン重合開始剤を用いる。単官能性のアニオン重合開始剤としては、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等が例示され、また、二官能性のアニオン重合開始剤としては、1,4−ジリチオブタン、ジリチオブタジエン、ジリチオナフタレン等が例示される。これらのアニオン重合開始剤は、ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンなどと組み合わせて開始剤系を形成させてもよい。アニオン重合性単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンテニルメタクリレート等のメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンテニルアクリレート等のアクリレート;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−ブチルスチレン、メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、3−エチル−1−ビニルナフタレン、p−N,N−ジメチルアミノスチレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニル芳香族化合物等を挙げることができる。これらの単量体は単独で、または2種類以上の組み合わせで用いられる。アニオン重合性単量体を2種類以上の組み合わせで同時に使用して重合させることにより、任意の単量体組成の共重合体を得ることができる。また、1種類の単量体の重合が終了した後、引き続き他の種類の単量体と順次重合させることにより、任意の単量体組成および構造を有するブロック重合体(ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはマルチブロック共重合体)を得ることができる。
アニオンリビング重合は溶媒の不存在下で行うことが可能であるが、適当な有機溶媒の存在下で行うことも可能である。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒などが挙げられる。アニオンリビング重合の反応温度は、使用する重合開始剤、単量体および溶媒の種類等により異なるが、通常−100℃〜+150℃の範囲内の温度が好ましく、−80℃〜+80℃の範囲内の温度がより好ましい。重合条件としては、通常のアニオンリビング重合で採用される重合条件を用いることが可能であり、重合開始剤および重合末端のリビングサイトを失活させないため、重合系内に酸素、二酸化炭素、水等が混入しない条件を採用することが好ましい。例えば、高真空下または水分をできるだけ除去した雰囲気下(例えば、乾燥窒素雰囲気下)で、脱気・脱水した溶媒中に重合開始剤を添加した後、単量体を加えてアニオン重合させる。重合反応は、バッチ式または連続式のどちらの方式でも行うことができ、また、重合開始剤と単量体の全量を一度には加えずに、徐々に添加しながら重合させてもよい。
ジアリールエチレン末端重合体(II)の平均分子量は、その製造のために使用するカルボアニオン末端を有する重合体の平均分子量によって任意に制御することができる。カルボアニオン末端を有する重合体をアニオンリビング重合法によって製造する場合、得られるカルボアニオン末端を有する重合体の平均分子量は、単量体と重合開始剤とのモル比によってほぼ一義的に決まるため、単量体と重合開始剤との使用量の割合を適宜変更することによって、該平均分子量を所望の値に容易に制御することが可能である。
【0044】
上記のようにしてアニオンリビング重合法によって得られたカルボアニオンリビングポリマーを含有する反応系に、必要に応じてジフェニルスチレン、α−メチルスチレン等を添加して分子鎖末端を修飾した後、所定量のシリル化合物(I)をそのままもしくは溶媒に溶解した状態で添加し、反応させることによってジアリールエチレン末端重合体(II)を製造するのが簡便であるため、特に好ましい。反応後、得られた反応混合物からのジアリールエチレン末端重合体(II)の単離・精製は、例えば、以下の方法によって行うことができる。すなわち、反応混合物から溶媒を蒸発除去し、得られた粗生成物を、溶媒による分別法(例えば、ソックスレー抽出)、GPC分画分取法などの分別操作に供することによって、ジアリールエチレン末端重合体(II)の精製物を得ることができる。なお、ジアリールエチレン末端重合体(II)を後述のカルボアニオン末端を有する重合体との反応に使用する場合には、該ジアリールエチレン末端重合体(II)として精製物を使用することは必ずしも必要ではなく、上記の粗生成物を使用することもできる。
【0045】
ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)は、分子鎖中に、上記一般式(III)で示される基を少なくとも1個有する重合体であるが、重合体を構成する該基以外の部分(すなわち、分子鎖の主体)は、アニオン重合性単量体からなる重合体の断片であることが好ましい。アニオン重合性単量体からなる重合体の好適な例としては、ジアリールエチレン末端重合体(II)に関して前記したものと同様のものを挙げることができる。
ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)の分子量についてはとくに制限されることなく、目的に応じて適宜好適なものとすればよい。ただし、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)を分子構造の制御されたグラフト重合体の前駆重合体として使用する目的においては、数平均分子量で500〜1500000の範囲内にあることが好ましく、1000〜500000の範囲内であることが特に好ましい。また、その目的においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法から求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0〜1.5の範囲内であることが好ましく、1.0〜1.3の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
上記のハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)は、ジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体を反応させ、次いで、得られた生成物にジハロゲン化炭化水素化合物(V)を反応させることによって、操作性よく、かつ再現性よく製造することができる。
【0047】
上記のジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応は、ジアリールエチレン末端重合体(II)を、該重合体(II)に可溶であり、かつカルボアニオンを失活させない溶媒に溶解し、カルボアニオン末端を有する重合体の溶液と混合することにより容易に進行する。ジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体との使用割合は、ジアリールエチレン末端重合体(II)中の一般式(II)で示される基のモル数が、カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンのモル数の1モルに対して、1〜2モルの範囲内となるような割合であることが好ましく、1〜1.2モルの範囲内となるような割合であることがより好ましく、約1モルとなるような割合であることが特に好ましい。使用する溶媒としては、重合体の種類等に応じて適宜好適なものを選択すればよいが、一般に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;THF、ジオキサン等のエーテル;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素などが好適である。該反応は、カルボアニオンを失活させないため、系内に酸素、二酸化炭素または水等が混入しない条件で行うことが好ましく、例えば、高真空下または水分をできるだけ除去した雰囲気下(例えば、乾燥窒素雰囲気下)で、脱気・脱水した溶媒を用いて行うのがよい。また、反応温度は、−100℃〜+150℃の範囲内の温度が好ましい。
【0048】
なお、カルボアニオン末端を有する重合体とは、前記のように、カルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体であり、カルボアニオンを分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体およびカルボアニオンを分子鎖の両方の末端に有する線状重合体が例示される。カルボアニオン末端を有する重合体は、アニオン重合法、ハロゲン原子を分子鎖末端に有する重合体をリチオ化する方法などの常法に従って製造することができる。分子構造の制御されたグラフト重合体を製造する目的においてはカルボアニオン末端を有する重合体の分子構造もできるだけ制御されていることが好ましい。この観点からは、カルボアニオン末端を有する重合体として、アニオンリビング重合法によって得られたカルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体、いわゆるリビングポリマーを使用するのが好ましい結果を与える。溶媒中でのアニオンリビング重合法によって得られたリビングポリマーの溶液を、ジアリールエチレン末端重合体(II)との反応に使用することができる。
【0049】
上記のジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応によって、反応混合液中にカルボアニオンを有する付加反応生成物が形成される。得られた生成物とジハロゲン化炭化水素化合物(V)との反応は、ジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応終了後、反応生成物を含有する反応混合液に、ジハロゲン化炭化水素化合物(V)を添加して、カルボアニオンを失活させることにより行うことができる。ジハロゲン化炭化水素化合物(V)としては、例えば、ブロモクロロメタン、ヨードクロロメタン、1−ブロモ−2−クロロエタン、1−ブロモ−3−クロロプロパン、2−ブロモクロロベンゼン、2−ブロモ−5−クロロトルエンなどを挙げることができる。ジハロゲン化炭化水素化合物(V)は、ジアリールエチレン末端重合体(II)との反応に使用したカルボアニオン末端を有する重合体のカルボアニオンの1モルに対して、1モル以上の割合で使用するのが好ましく、1〜5モルの範囲内の割合で使用するのがより好ましい。また、その反応温度は、−100℃〜+150℃の範囲内の温度が好ましい。
ジハロゲン化炭化水素化合物(V)を用いた反応後、得られた反応混合液からのハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)の単離・精製は、例えば、以下の方法によって行うことができる。すなわち、反応混合液から溶媒を蒸発除去し、得られた粗生成物を、溶媒による分別法(例えば、ソックスレー抽出)、GPC分画分取法などの分別操作に供することによって、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)の精製物を得ることができる。なお、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)を後述のカルボアニオン末端を有する重合体との反応に使用する場合には、該ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)として精製物を使用することは必ずしも必要ではなく、上記の粗生成物を使用することもできる。
【0050】
グラフト重合体(IV)は、分子鎖中に、グラフト点として上記一般式(IV)で示される分岐構造を少なくとも1個有する重合体であるが、重合体を構成する該分岐構造以外の部分(すなわち、分子鎖の主体)は、アニオン重合性単量体からなる重合体の断片であることが好ましい。アニオン重合性単量体からなる重合体の好適な例としては、ジアリールエチレン末端重合体(II)に関して前記したものと同様のものを挙げることができる。
グラフト重合体(IV)の分子量についてはとくに制限されることなく、使用目的に応じて適宜好適なものとすればよい。分子構造の制御を重視する場合においては、数平均分子量で1000〜2500000の範囲内にあることが好ましく、1500〜1000000の範囲内であることが特に好ましい。また、その場合においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法から求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0〜1.7の範囲内であることが好ましく、1.0〜1.5の範囲内であることがより好ましい。
【0051】
グラフト重合体(IV)は、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)とカルボアニオン末端を有する重合体とを反応させることによって、操作性よく、かつ再現性よく製造することができる。
上記のハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応は、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)を、該重合体(II)に可溶であり、かつカルボアニオンを失活させない溶媒に溶解し、カルボアニオン末端を有する重合体の溶液と混合することにより容易に進行する。ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)およびカルボアニオン末端を有する重合体の使用割合は、カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンのモル数が、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)中の一般式(III)で示される基の1モルに対して、1〜3モルの範囲内となるような割合であることが好ましく、1〜1.2モルの範囲内となるような割合であることがより好ましく、約1モルとなるような割合であることが特に好ましい。使用する溶媒としては、重合体の種類等に応じて適宜好適なものを選択すればよいが、一般に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;THF、ジオキサン等のエーテル;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素などが好適である。該反応は、カルボアニオンを失活させないため、系内に酸素、二酸化炭素または水等が混入しない条件で行うことが好ましく、例えば、高真空下または水分をできるだけ除去した雰囲気下(例えば、乾燥窒素雰囲気下)で、脱気・脱水した溶媒を用いて行うのがよい。また、反応温度は、−100℃〜+150℃の範囲内の温度が好ましい。
【0052】
なお、カルボアニオン末端を有する重合体としては、前記のように、カルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体であり、カルボアニオンを分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体およびカルボアニオンを分子鎖の両方の末端に有する線状重合体が例示される。カルボアニオン末端を有する重合体は、アニオン重合法、ハロゲン原子を分子鎖末端に有する重合体をリチオ化する方法などの常法に従って製造することができる。分子構造の制御されたグラフト重合体を製造する目的においてはカルボアニオン末端を有する重合体の分子構造もできるだけ制御されていることが好ましい。この観点からは、カルボアニオン末端を有する重合体として、アニオンリビング重合法によって得られたカルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体、いわゆるリビングポリマーを使用するのが好ましい結果を与える。溶媒中でのアニオンリビング重合法によって得られたリビングポリマーの溶液を、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)との反応に使用することができる。
【0053】
上記のハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応後、得られた反応混合液からのグラフト重合体(IV)の単離・精製は、例えば、以下の方法によって行うことができる。すなわち、反応混合液から溶媒を蒸発除去し、得られた粗生成物を、溶媒による分別法(例えば、ソックスレー抽出)、GPC分画分取法などの分別操作に供することによって、グラフト重合体(IV)の精製物を得ることができる。
【0054】
本発明のグラフト重合体(IV)は、グラフト鎖長、グラフト点の間隔および数、ならびに全体の平均分子量および分子量分布において高い均一性を有することができる。
本発明のグラフト重合体(IV)は、それ自体が各種プラスチック、軟質樹脂およびエラストマーとして有用であるばかりでなく、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ナイロン66などのポリアミド;(メタ)アクリル樹脂;スチレンブロック共重合体等のエラストマー;ポリ塩化ビニルなどの、他の重合体に対する改質剤、またはこれらの他の重合体の2種類以上を含む組成物における相溶化剤としても有用である。
【0055】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、高真空下(絶対圧で0.001Pa以下)のでの反応は、ブレークシール付きガラス製装置を用いて行った。
【0056】
《実施例1》[1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレンの合成]
攪拌用モーター、滴下ロートおよび還流冷却器の付いた2リットル三つ口フラスコ内を十分に乾燥し、窒素ガスで置換した。フラスコ内に削状マグネシウム12.0g(0.50モル)を入れ、300mlのTHFに溶解させたブロモベンゼン72g(0.47モル)の溶液を滴下ロートからフラスコ中に30分かけて滴下しながら、攪拌下に反応させてグリニャール試薬(フェニルマグネシウムブロミド)を合成した。
次いで、滴下ロートに、200mlのTHFに溶解させたm−ブロモアセトフェノン70g(0.35モル)の溶液を入れ、これを、フラスコ中のグリニャール試薬含有混合物に15分間かけて滴下しながら、攪拌下に反応させた。得られた反応混合物を20%希硫酸で処理(加水分解)した後、エーテルで抽出し、抽出液をエバポレートすることにより、1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエタン−1−オールを得た。これを、20%希硫酸と共に120℃で2時間、加熱攪拌することにより脱水反応を行い、1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレンを生成させた。得られた1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレンは、減圧蒸留により精製した(沸点148℃/3.5mmHg)。1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレンの収量は62gで、収率は68%であった。
【0057】
削状のマグネシウム2.3g(0.96モル)を反応装置に入れ、高真空下に保持した後、反応系を密封した。次いで、THF(120ml)と上記の1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレン15.5gとの溶液をブレークシールを破って反応器内に移し、室温下で、6時間攪拌することによって、1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレンのグリニャール試薬を調製した。
得られたグリニャール試薬とTHFとの混合物に対し、窒素気流下で、(3−クロロプロピル)(クロロ)ジメチルシラン102g(0.60モル=グリニャール試薬と等モル量)を加え、反応させた。12時間以上反応させた後、THFを蒸留して除去した。反応器内の残留物は、主として、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレンであった(粗収率:100%)。
上記の残留物をTHFに溶解し、その溶液を−78℃に冷却しながら、カルボアニオンの存在を示す赤色に発色するまでジフェニルエチレンダイマーのジリチウム塩のTHF溶液を滴下した。この溶液をその温度でさらに数時間攪拌し、赤色が消失しないことを確認した後、温度を室温まで上昇させたところ、溶液の赤色が消失した。この溶液からTHFを蒸留除去し、次いで残留物を蒸留することによって、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレンの精製物を得た。
【0058】
《実施例2》[3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を片方の分子鎖末端に有するポリスチレンの合成]
sec−ブチルリチウムを開始剤として用いてトルエン中、室温でスチレンを重合することによって片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリスチレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.10)50g(0.01モル)を含有するトルエン溶液を調製し、これに、1,1−ジフェニルエチレン1.8g(0.015モル)を加えることによって分子鎖末端に1,1−ジフェニルエチレン単位を付加させた。この1,1−ジフェニルエチレン型カルボアニオンを分子鎖の片末端に有するリビングポリスチレンのトルエン溶液に、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン18.0g(0.05モル)のTHF溶液を滴下し反応させた。反応は即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からはポリスチレンの2量化等の副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からはポリスチレンの分子鎖の片末端に3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基が、ほぼ定量的に導入されていることが確認された。
【0059】
《実施例3》[3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を片方の分子鎖末端に有するポリメチルメタクリレートの合成]
sec−ブチルリチウムと1,1−ジフェニルエチレンからなる開始剤を用いてメチルメタクリレートをTHF中、−78℃で重合することによって、片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリメチルメタクリレート(Mn=4000、Mw/Mn=1.06)20g(0.005モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに1,1−ジフェニルエチレン1.4g(0.075モル)を加えることによって分子鎖末端に1,1−ジフェニルエチレン単位を付加させた。この1,1−ジフェニルエチレン型カルボアニオンを分子鎖の片末端に有するリビングポリメチルメタクリレートのTHF溶液に、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン9.0g(0.025モル)のTHF溶液を滴下し反応させた。反応は即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からはポリメチルメタクリレートの2量化等の副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からはポリメチルメタクリレートの分子鎖の片末端に3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基が、ほぼ定量的に導入されていることが確認された。
【0060】
《実施例4》[3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を両方の分子鎖末端に有するポリスチレンの合成]
ジリチオナフタレンを開始剤として用いてTHF中、−78℃でスチレンを重合することによって両方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリスチレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.08)25g(0.005モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに、1,1−ジフェニルエチレン2.7g(0.015モル)を加えることによって分子鎖末端に1,1−ジフェニルエチレン単位を付加させた。この1,1−ジフェニルエチレン型カルボアニオンを分子鎖の両末端に有するリビングポリスチレンのTHF溶液に、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン18.0g(0.05モル)のTHF溶液を滴下し反応させた。反応は即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からはポリスチレンの2量化等の副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からはポリスチレンの分子鎖の両末端に3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基が、ほぼ定量的に導入されていることが確認された。
【0061】
《実施例5》[1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されたポリスチレンブロックとポリイソプレンブロックとからなるジブロック共重合体の合成]
sec−ブチルリチウムを開始剤として用いてトルエン中、室温下でイソプレンを重合することにより片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリイソプレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.10)50g(0.01モル)を含有するトルエン溶液を調製し、これに、実施例2で得られた3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を片方の分子鎖末端に有するポリスチレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.10)50g(0.01モル)のトルエン溶液を滴下し、室温下で60分間反応させた。次いで、これに、1−ブロモ−3−クロロプロパン1.57g(0.01モル)を滴下したところ、反応が即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からは副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からは、1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されたポリスチレンブロックとポリイソプレンブロックとからなるジブロック共重合体(Mn=10000、Mw/Mn=1.10)が得られていることが確認された。
【0062】
《実施例6》[両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有し、各ブロックが1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されているトリブロック共重合体の合成]
sec−ブチルリチウムを開始剤として用いてTHF中、−78℃でイソプレンを重合することによって片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリイソプレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.08)100g(0.02モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに、実施例4で得られた3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を両方の分子鎖末端に有するポリスチレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.08)50g(0.01モル)のTHF溶液を0℃で滴下し、さらにその温度で3時間反応させた。次いで、0℃で、これに1−ブロモ−3−クロロプロパン3.14g(0.02モル)を滴下したところ、反応が即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からは副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からは、両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有し、各ブロックが1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されているトリブロック共重合体(Mn=15000、Mw/Mn=1.08)が得られていることが確認された。
【0063】
《実施例7》[ポリスチレンブロック、ポリイソプレンブロックおよびポリメチルメタクリレートブロックの1個ずつが1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−1−フェニルペンタメチレン基によって連結されている星型グラフト重合体の合成]
sec−ブチルリチウムと1,1−ジフェニルエチレンからなる開始剤を用いてTHF中、−78℃でメチルメタクリレートを重合することによって片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリメチルメタクリレート(Mn=4000、Mw/Mn=1.06)20g(0.005モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに、実施例5で得られた1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されたポリスチレンブロックとポリイソプレンブロックとからなるジブロック共重合体(Mn=10000、Mw/Mn=1.10)50g(0.005モル)のTHF溶液を−78℃で滴下した。さらにその温度で約12時間反応させた。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からは副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からは、ポリスチレン鎖とポリイソプレン鎖との接続部位にポリメチルメタクリレート鎖を一個有するABC星型グラフト重合体(14000、Mw/Mn=1.10)が得られていることが確認された。
【0064】
《実施例8》[幹が両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有するトリブロック共重合体からなり、各ブロックの接続部2か所にそれぞれ存在する1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基をグラフト点として、2個のポリメチルメタクリレートブロックをグラフト鎖として有するグラフト重合体の合成]
sec−ブチルリチウムとジフェニルエチレンからなる開始剤を用いてTHF中、−78℃でメチルメタクリレートを重合することによって片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリメチルメタクリレート(Mn=4000、Mw/Mn=1.06)40g(0.01モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに、実施例6で得られた両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有し、各ブロックが1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されているトリブロック共重合体(Mn=15000、Mw/Mn=1.08)75g(0.005モル)のTHF溶液を−78℃で滴下した。さらにその温度で約12時間反応させた。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からは副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からは、幹が両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有するトリブロック共重合体からなり、各ブロックの接続部2か所にそれぞれ1個のポリメチルメタクリレート鎖が結合しているグラフト重合体(Mn=23000、Mw/Mn=1.10)が得られていることが確認された。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、グラフト鎖の長さ、グラフト点の数、グラフト点間の鎖長等の分子構造;平均分子量および分子量分布が均一に制御されたグラフト重合体が提供される。本発明によれば、グラフト点で分断される幹中のブロックおよびグラフト鎖のブロックに相当する各重合体を逐次的に結合させる手法を採用することによって、かかる特長を有するグラフト重合体を容易に、かつ再現性よく製造し得る方法が提供される。また、本発明によれば、該方法における原料化合物または中間体として有用な低分子化合物および重合体、ならびに該重合体を容易に、かつ再現性よく製造することが可能な方法が提供される。
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定のシラン化合物、該シラン化合物より誘導され得る、グラフト重合体等の重合体および該重合体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高分子材料の高機能化・高性能化を目的として、グラフト重合体の合成の検討が行われている。グラフト重合体の一般的な合成方法としては、(1)幹となる重合体をグラフト鎖となる重合体と高分子−高分子反応で結合させる方法、(2)幹となる重合体にグラフト鎖となるモノマーを反応させてグラフト鎖の重合を行う高分子−モノマー反応による方法、(3)幹となるモノマーとグラフト鎖となる重合体との共重合による、いわゆるマクロモノマー法が知られている。
上記(1)および(2)のグラフト重合体の合成方法は、押出機を反応場として利用する、いわゆるリアクティブプロセッシングと呼ばれる手法により、優れた経済性で実施することができることから、工業的に広く採用されている。すなわち、上記(1)の合成方法は、互いに反応し得る2種類の官能基、例えばカルボキシル基と水酸基、酸無水物基とアミノ基などを、それぞれ分子鎖の途中に有する重合体と分子鎖末端に有する重合体とを押出機中で混練することによって行うことができる。また、上記(2)の合成方法は、ラジカルを発生し得る基、例えば、ペルオキシド基、アゾ基、チオール基、過酸エステル基、不飽和基などの官能基を分子鎖の途中に有する重合体とラジカル開始剤、例えば、過酸化ベンゾイルなど、を混練することによってラジカルを発生させ、次いで、これにモノマーを添加し混練条件で反応させることによって行うことができる。
また、上記(3)の合成方法は、リビング重合法により合成された平均分子量および分子量分布が制御されたマクロモノマーを使用することによって、グラフト鎖の化学構造が制御されたグラフト重合体を得ることができる点で注目されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
高分子材料は、その用途に応じて最適な性能を持たせることが一層重要視されており、ポリマーアロイ技術の進展とともに、平均分子量、分子量分布、グラフト鎖の鎖長、グラフト鎖の数等が精緻に制御されたグラフト重合体が工業的レベルで要求されている。
【0004】
しかしながら、従来の合成方法では、グラフト重合体をその分子構造を精緻に制御して合成することが困難であり、所望の物性が得られ難いのが実情である。
例えば、上記(1)の合成方法の場合、幹となる重合体は一般的にはラジカル重合で合成されるため、グラフト点となる官能基が該重合体中に確率論的に導入されるのみである。その結果、最終的に得られるグラフト重合体において、グラフト点の間隔およびグラフト鎖の数が精緻に制御されているということはできない。また、上記(1)の合成方法において、アニオン重合法を用いて製造された幹となる重合体を使用することも可能である。すなわち、アニオン開始剤を用いてモノマーを重合させて活性なアニオン末端を有する重合体を得、これにトリハロゲン化シラン化合物(例えば、メチルトリクロロシラン、エチルトリブロモシラン、プロピルトリクロロシラン等)を反応させることによって、分子末端にジハロゲン化シリル基を有する重合体を得、次いで、この分子末端にジハロゲン化シリル基を有する重合体の1分子に対して、アニオン末端を有する重合体の2分子(これらの2分子は分子構造が相違していてもよい)を反応させることによって、グラフト鎖の鎖長およびグラフト点の位置が制御された、グラフト鎖が1個のグラフト重合体を合成することが、理論上では可能である。しかしこの方法の場合、実際には、重合体の添加順などにおいて反応条件上の制約があること、重合体同士のカップリング反応などの副反応が起こる可能性が高いことなどから、所望の構造のグラフト重合体を選択的に、しかも再現性よく合成することは非常に難しい。
上記(2)の合成方法の場合、幹となる重合体は一般的にはラジカル重合法で合成されるため、上記(1)の合成方法の場合と同様に、グラフト点の間隔、グラフト点の数、グラフト鎖の鎖長、分子量分布等が精緻に制御されたグラフト重合体を得ることは困難である。
また、上記(3)の合成方法の場合、平均分子量および分子量分布が制御されたマクロモノマーを使用しても、それをラジカル重合法でモノマーと共重合すれば、得られるグラフト重合体において、グラフト鎖の数は確率論的にしか制御することができない。また、マクロモノマーとモノマーとをイオン重合法で共重合する場合には、両者の構造に類似性があることが必要とされるなどの制約のため、汎用性が低い。
【0005】
ところで、1,1−ジフェニルエチレン等の1,1−ジアリールエチレンは、自己重合性がないこと、リビングポリマーのアニオン末端と反応してカルボアニオンを定量的に生成することなどの特長を有することから、重合体を平均分子量、分子量分布等を精緻に制御して合成する目的で、応用が試みられている。1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を分子末端に有する重合体を操作性よく、かつ再現性よく合成することができれば、グラフト鎖の鎖長、グラフト点の数、グラフト点の間隔などが制御されたグラフト重合体を、工業的に製造することが可能となり、該グラフト重合体のエラストマー、プラスチック材料、樹脂改質剤等への用途展開が格段に拡大するものと期待される。
【0006】
しかして、本発明の第一の目的は、1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体を操作性よく、かつ再現性よく合成することを可能にし、かつそれ自体の合成も容易である新規な低分子化合物を提供することにある。本発明の第二の目的は、該低分子化合物から操作性よく、かつ再現性よく誘導され得る1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体を提供することにある。本発明の第三の目的は、該重合体から操作性よく、かつ再現性よく誘導され得、かつグラフト重合体の前駆物質として有用である、官能基含有構造が分子鎖中に導入された重合体を提供することにある。本発明の第四の目的は、該官能基含有構造が分子鎖中に導入された重合体から操作性よく、かつ再現性よく誘導され得、かつグラフト鎖の分子量、グラフト点の数、グラフト点間の鎖長などの構造が制御され得るグラフト重合体を提供することにある。本発明の第五の目的は、上記1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を分子鎖末端に有する重合体を操作性よく、かつ再現性よく製造する方法を提供することにある。本発明の第六の目的は、上記官能基含有構造が分子鎖中に導入された重合体を操作性よく、かつ再現性よく製造する方法を提供することにある。また、本発明の第七の目的は、上記グラフト重合体を操作性よく、かつ再現性よく製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究した結果、1,1−ジアリールエチレンに相当する基とハロゲン化炭化水素基とを有する特定のシラン化合物が、重合体の分子鎖末端に1,1−ジアリールエチレンに相当する基を定量的かつ操作性よく導入することを可能にし、また、それにより得られる、1,1−ジアリールエチレンに相当する構造を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体から、分子構造が極めて制御されたグラフト重合体を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明によれば、上記の第一の目的は、一般式
【0009】
【化6】
【0010】
(式中、Ar1はアリール基を表し、Ar2はアリーレン基を表し、R1およびR2はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、R3はアルキレン基またはアリーレン基を表し、X1はハロゲン原子を表す。)
【0011】
で示されるシラン化合物(以下、「シラン化合物(I)」という)を提供することにより達成される。
【0012】
本発明によれば、上記の第二の目的は、一般式
【0013】
【化7】
【0014】
(式中、Ar1はアリール基を表し、Ar2はアリーレン基を表し、R1およびR2はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、R3はアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【0015】
で示される基を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体(以下、「ジアリールエチレン末端重合体(II)」という)を提供することにより達成される。
【0016】
本発明によれば、上記の第三の目的は、分子鎖中に、一般式
【0017】
【化8】
【0018】
(式中、Ar1はアリール基を表し、Ar2はアリーレン基を表し、R1およびR2はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれアルキレン基またはアリーレン基を表し、X2はハロゲン原子を表す。)
【0019】
で示される基を少なくとも1個有する重合体(以下、「ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)」という)を提供することにより達成される。
【0020】
本発明によれば、上記の第四の目的は、分子鎖中に、一般式
【0021】
【化9】
【0022】
(式中、Ar1はアリール基を表し、Ar2はアリーレン基を表し、R1およびR2はそれぞれアルキル基またはアリール基を表し、R3およびR4はそれぞれアルキレン基またはアリーレン基を表す。)
【0023】
で示される分岐構造を少なくとも1個有するグラフト重合体(以下、「グラフト重合体(IV)」という)を提供することにより達成される。
【0024】
本発明によれば、上記の第五の目的は、上記シラン化合物(I)とカルボアニオン末端を有する重合体とを、該シラン化合物を該カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1モル以上の割合で使用して、反応させることを特徴とする上記ジアリールエチレン末端重合体(II)の製造方法を提供することにより達成される。
【0025】
本発明によれば、上記の第六の目的は、上記ジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体を反応させ、次いで、得られた生成物に一般式
【0026】
【化10】
【0027】
(式中、R4はアルキレン基またはアリーレン基を表し、X3およびX4は相互に異なるハロゲン原子を表す。)
【0028】
で示されるジハロゲン化炭化水素化合物(以下、「ジハロゲン化炭化水素化合物(V)」という)を反応させることを特徴とする上記ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)の製造方法を提供することにより達成される。
【0029】
本発明によれば、上記の第七の目的は、上記ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)とカルボアニオン末端を有する重合体とを反応させることを特徴とする上記グラフト重合体(IV)の製造方法を提供することにより達成される。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0031】
上記一般式(I)、(II)、(III)および(IV)において、Ar1が表すアリール基としては、フェニル基、o−、m−またはp−トリル基、ナフチル基などが例示され、これらの中でもフェニル基が好ましい。Ar2が表すアリーレン基としては、o−、m−またはp−フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基などが例示され、これらの中でもo−、m−またはp−フェニレン基、とりわけm−フェニレン基が好ましい。R1およびR2は、それぞれメチル基、エチル基などのアルキル基またはフェニル基、o−、m−もしくはp−トリル基、ナフチル基などのアリール基を表すが、これらの中でもメチル基が好ましい。R3は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのアルキレン基またはo−、m−もしくはp−フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基などのアリーレン基を表すが、これらの中でもトリメチレン基が好ましい。
上記一般式(I)において、X1が表すハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、これらの中でも塩素原子が好ましい。
上記一般式(III)、(IV)および(V)において、R4は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのアルキレン基またはo−、m−もしくはp−フェニレン基、トリレン基、ナフチレン基などのアリーレン基を表すが、これらの中でもトリメチレン基が好ましい。
上記一般式(III)においてX2が表すハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、これらの中でも塩素原子が好ましい。
上記一般式(V)においてX3およびX4がそれぞれ表す相互に異なるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子からなる群から選ばれたものが好ましく、これらの中でも塩素原子と臭素原子の組み合わせが好ましい。
【0032】
本発明のシラン化合物(I)としては、例えば、1−[3−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[3−[(2−クロロエチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[3−[(クロロメチル)メチルエチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[4−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[2−[(クロロメチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン、1−[3−[(ヨードメチル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン等が挙げられる。中でも、合成操作および精製操作の容易さ等の観点から、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレンが好ましい。
なお、本発明のシラン化合物(I)は、ハロゲン原子がケイ素原子に直結していないために、加水分解を受けにくいなど安定性が高く、空気中においても変質しにくい。したがって、その使用等にあたって、取り扱いが容易である。
【0033】
シラン化合物(I)は、例えば、1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレン、1−(4−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレン、1−(3−クロロフェニル)−1−フェニルエチレン等の一般式
【0034】
【化11】
【0035】
(式中、Ar1およびAr2は前記定義のとおりであり、X5は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表す。)
【0036】
で示されるハロゲン化物から合成したグリニヤール試薬と、(クロロメチル)(クロロ)ジメチルシラン、(2−クロロエチル)(クロロ)ジメチルシラン、(3−クロロプロピル)(クロロ)ジメチルシラン等の一般式
【0037】
【化12】
【0038】
(式中、R1、R2、R3およびX1は前記定義のとおりであり、X6は塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子を表す。)
【0039】
で示されるジハロゲノシラン化合物とを、等モル程度の割合で反応させることにより、容易に合成することができる。該反応は通常、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒;THF(テトラヒドロフラン)、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒などの有機溶媒中、攪拌下に、−100℃〜+100℃程度の範囲内の温度で行うことができる。
反応後、得られた反応混合物からのシラン化合物(I)の単離・精製は、例えば、以下の方法によって行うことができる。すなわち、反応混合物を、必要に応じて溶媒を蒸発除去した後、THF、トルエン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン等の有機溶媒に溶解し、その溶液を−40℃以下の温度に冷却し、その溶液に、ジアリール基由来のカルボアニオンを示す赤色が生じるまで、ジフェニルエチレンダイマーのジリチウム塩、ジフェニルヘキシルリチウム等のジフェニルメチル型アニオンを、THF、トルエン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン等の有機溶媒の溶液の形で滴下し、その温度でさらに数時間攪拌した後、常温まで昇温してアニオンを失活させ(カルボアニオン色は消失する)、有機溶媒を蒸発させ、次いで残留物を蒸留することによって、目的のシラン化合物(I)を分離取得することができる。
【0040】
本発明のジアリールエチレン末端重合体(II)は、上記一般式(II)で示される基を少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体であるが、その分子鎖が線状である重合体としては、該基が分子鎖の片方の末端に存在している重合体と該基が分子鎖の両方の末端に存在している重合体とに大別される。いずれの場合においても、分子鎖の主体は、アニオン重合性単量体からなる重合体であることが好ましい。アニオン重合性単量体からなる重合体の好適な例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンテニルメタクリレート等のメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンテニルアクリレート等のアクリレートなどを主たる重合単位とするポリ(メタ)アクリル酸エステル系重合体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等を主たる重合単位とするポリ(メタ)アクリロニトリル系重合体;1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンを主たる重合単位とするポリ共役ジエン系重合体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−ブチルスチレン、メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、3−エチル−1−ビニルナフタレン、p−N,N−ジメチルアミノスチレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニル芳香族化合物を主たる重合単位とする芳香族系重合体;上記の重合単位の複数からなる共重合体(例えば、スチレン−メチルメタクリレート共重合体、ブタジエン−スチレン共重合体等)等を挙げることができる。
ジアリールエチレン末端重合体(II)の分子量についてはとくに制限されることなく、目的に応じて適宜好適なものとすればよい。ただし、ジアリールエチレン末端重合体(II)を分子構造の制御されたグラフト重合体の前駆重合体として使用する目的においては、数平均分子量で300〜500000の範囲内にあることが好ましく、500〜100000の範囲内であることが特に好ましい。また、その目的においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法から求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0〜1.3の範囲内であることが好ましく、1.0〜1.1の範囲内であることがより好ましい。
【0041】
ジアリールエチレン末端重合体(II)は、シラン化合物(I)とカルボアニオン末端を有する重合体とを反応させることによって製造することができる。該反応においては、シラン化合物(I)をカルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1モル以上の割合で使用する。シラン化合物(I)の使用量がカルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1モル未満の場合には、シラン化合物(I)の1分子に対してカルボアニオン末端を有する重合体の2分子が反応するなどの副反応が生じるため好ましくない。シラン化合物(I)の使用量の上限値について特に制限はないが、必要量以上に使用しても無意味であり、むしろ反応後に除去すべき未反応のシラン化合物(I)の量が増大することになる。以上の点から、シラン化合物(I)の使用量は、カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1〜3モルの範囲内となるような割合が好ましく、1〜1.2モルの範囲内となるような割合がより好ましい。
シラン化合物(I)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応は、一般に、−100℃〜+150℃の範囲内、好ましくは−90℃〜+100℃の範囲内、より好ましくは−80℃〜+80℃の範囲内の温度で両者を接触させることによって、容易に、かつほぼ定量的に進行させることができる。なお、この場合、副反応を抑制するために、反応系から水、空気等の不純物をできるだけ除去しておくことが好ましい。また、該反応は、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒などの有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0042】
上記のカルボアニオン末端を有する重合体は、カルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体であり、カルボアニオンを分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体およびカルボアニオンを分子鎖の両方の末端に有する線状重合体が例示される。カルボアニオンを分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体をシラン化合物(I)と反応させることにより、ジアリールエチレン末端重合体(II)として、一般式(II)で示される基を分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体を得ることができる。また、カルボアニオンを分子鎖の両方の末端に有する線状重合体をシラン化合物(I)と反応させることにより、ジアリールエチレン末端重合体(II)として、一般式(II)で示される基を分子鎖の両方の末端に有する線状重合体を得ることができる。
【0043】
カルボアニオン末端を有する重合体は、アニオン重合法、ハロゲン原子を分子鎖末端に有する重合体をリチオ化する方法などの常法に従って製造することができる。分子構造の制御されたグラフト重合体を製造する目的においてはカルボアニオン末端を有する重合体の分子構造もできるだけ制御されていることが好ましい。この観点からは、カルボアニオン末端を有する重合体として、アニオンリビング重合法によって得られたカルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体、いわゆるリビングポリマーを使用するのが好ましい結果を与える。
上記のカルボアニオン末端を有する重合体をアニオンリビング重合法によって製造する場合、常法に従って、アニオン重合開始剤を使用してアニオン重合性単量体を重合させればよい。アニオン重合開始剤としては、カルボアニオンを分子鎖の片末端のみに有する重合体を製造したい場合には、モノリチオ化合物等の単官能性のアニオン重合開始剤を用い、また、カルボアニオンを分子鎖の両末端に有する重合体を製造したい場合には、ジリチオ化合物等の二官能性のアニオン重合開始剤を用いる。単官能性のアニオン重合開始剤としては、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム等が例示され、また、二官能性のアニオン重合開始剤としては、1,4−ジリチオブタン、ジリチオブタジエン、ジリチオナフタレン等が例示される。これらのアニオン重合開始剤は、ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンなどと組み合わせて開始剤系を形成させてもよい。アニオン重合性単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ペンテニルメタクリレート等のメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンテニルアクリレート等のアクリレート;アクリロニトリル;メタクリロニトリル;1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−ブチルスチレン、メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、3−エチル−1−ビニルナフタレン、p−N,N−ジメチルアミノスチレン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニル芳香族化合物等を挙げることができる。これらの単量体は単独で、または2種類以上の組み合わせで用いられる。アニオン重合性単量体を2種類以上の組み合わせで同時に使用して重合させることにより、任意の単量体組成の共重合体を得ることができる。また、1種類の単量体の重合が終了した後、引き続き他の種類の単量体と順次重合させることにより、任意の単量体組成および構造を有するブロック重合体(ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはマルチブロック共重合体)を得ることができる。
アニオンリビング重合は溶媒の不存在下で行うことが可能であるが、適当な有機溶媒の存在下で行うことも可能である。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル系溶媒などが挙げられる。アニオンリビング重合の反応温度は、使用する重合開始剤、単量体および溶媒の種類等により異なるが、通常−100℃〜+150℃の範囲内の温度が好ましく、−80℃〜+80℃の範囲内の温度がより好ましい。重合条件としては、通常のアニオンリビング重合で採用される重合条件を用いることが可能であり、重合開始剤および重合末端のリビングサイトを失活させないため、重合系内に酸素、二酸化炭素、水等が混入しない条件を採用することが好ましい。例えば、高真空下または水分をできるだけ除去した雰囲気下(例えば、乾燥窒素雰囲気下)で、脱気・脱水した溶媒中に重合開始剤を添加した後、単量体を加えてアニオン重合させる。重合反応は、バッチ式または連続式のどちらの方式でも行うことができ、また、重合開始剤と単量体の全量を一度には加えずに、徐々に添加しながら重合させてもよい。
ジアリールエチレン末端重合体(II)の平均分子量は、その製造のために使用するカルボアニオン末端を有する重合体の平均分子量によって任意に制御することができる。カルボアニオン末端を有する重合体をアニオンリビング重合法によって製造する場合、得られるカルボアニオン末端を有する重合体の平均分子量は、単量体と重合開始剤とのモル比によってほぼ一義的に決まるため、単量体と重合開始剤との使用量の割合を適宜変更することによって、該平均分子量を所望の値に容易に制御することが可能である。
【0044】
上記のようにしてアニオンリビング重合法によって得られたカルボアニオンリビングポリマーを含有する反応系に、必要に応じてジフェニルスチレン、α−メチルスチレン等を添加して分子鎖末端を修飾した後、所定量のシリル化合物(I)をそのままもしくは溶媒に溶解した状態で添加し、反応させることによってジアリールエチレン末端重合体(II)を製造するのが簡便であるため、特に好ましい。反応後、得られた反応混合物からのジアリールエチレン末端重合体(II)の単離・精製は、例えば、以下の方法によって行うことができる。すなわち、反応混合物から溶媒を蒸発除去し、得られた粗生成物を、溶媒による分別法(例えば、ソックスレー抽出)、GPC分画分取法などの分別操作に供することによって、ジアリールエチレン末端重合体(II)の精製物を得ることができる。なお、ジアリールエチレン末端重合体(II)を後述のカルボアニオン末端を有する重合体との反応に使用する場合には、該ジアリールエチレン末端重合体(II)として精製物を使用することは必ずしも必要ではなく、上記の粗生成物を使用することもできる。
【0045】
ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)は、分子鎖中に、上記一般式(III)で示される基を少なくとも1個有する重合体であるが、重合体を構成する該基以外の部分(すなわち、分子鎖の主体)は、アニオン重合性単量体からなる重合体の断片であることが好ましい。アニオン重合性単量体からなる重合体の好適な例としては、ジアリールエチレン末端重合体(II)に関して前記したものと同様のものを挙げることができる。
ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)の分子量についてはとくに制限されることなく、目的に応じて適宜好適なものとすればよい。ただし、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)を分子構造の制御されたグラフト重合体の前駆重合体として使用する目的においては、数平均分子量で500〜1500000の範囲内にあることが好ましく、1000〜500000の範囲内であることが特に好ましい。また、その目的においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法から求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0〜1.5の範囲内であることが好ましく、1.0〜1.3の範囲内であることがより好ましい。
【0046】
上記のハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)は、ジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体を反応させ、次いで、得られた生成物にジハロゲン化炭化水素化合物(V)を反応させることによって、操作性よく、かつ再現性よく製造することができる。
【0047】
上記のジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応は、ジアリールエチレン末端重合体(II)を、該重合体(II)に可溶であり、かつカルボアニオンを失活させない溶媒に溶解し、カルボアニオン末端を有する重合体の溶液と混合することにより容易に進行する。ジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体との使用割合は、ジアリールエチレン末端重合体(II)中の一般式(II)で示される基のモル数が、カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンのモル数の1モルに対して、1〜2モルの範囲内となるような割合であることが好ましく、1〜1.2モルの範囲内となるような割合であることがより好ましく、約1モルとなるような割合であることが特に好ましい。使用する溶媒としては、重合体の種類等に応じて適宜好適なものを選択すればよいが、一般に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;THF、ジオキサン等のエーテル;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素などが好適である。該反応は、カルボアニオンを失活させないため、系内に酸素、二酸化炭素または水等が混入しない条件で行うことが好ましく、例えば、高真空下または水分をできるだけ除去した雰囲気下(例えば、乾燥窒素雰囲気下)で、脱気・脱水した溶媒を用いて行うのがよい。また、反応温度は、−100℃〜+150℃の範囲内の温度が好ましい。
【0048】
なお、カルボアニオン末端を有する重合体とは、前記のように、カルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体であり、カルボアニオンを分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体およびカルボアニオンを分子鎖の両方の末端に有する線状重合体が例示される。カルボアニオン末端を有する重合体は、アニオン重合法、ハロゲン原子を分子鎖末端に有する重合体をリチオ化する方法などの常法に従って製造することができる。分子構造の制御されたグラフト重合体を製造する目的においてはカルボアニオン末端を有する重合体の分子構造もできるだけ制御されていることが好ましい。この観点からは、カルボアニオン末端を有する重合体として、アニオンリビング重合法によって得られたカルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体、いわゆるリビングポリマーを使用するのが好ましい結果を与える。溶媒中でのアニオンリビング重合法によって得られたリビングポリマーの溶液を、ジアリールエチレン末端重合体(II)との反応に使用することができる。
【0049】
上記のジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応によって、反応混合液中にカルボアニオンを有する付加反応生成物が形成される。得られた生成物とジハロゲン化炭化水素化合物(V)との反応は、ジアリールエチレン末端重合体(II)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応終了後、反応生成物を含有する反応混合液に、ジハロゲン化炭化水素化合物(V)を添加して、カルボアニオンを失活させることにより行うことができる。ジハロゲン化炭化水素化合物(V)としては、例えば、ブロモクロロメタン、ヨードクロロメタン、1−ブロモ−2−クロロエタン、1−ブロモ−3−クロロプロパン、2−ブロモクロロベンゼン、2−ブロモ−5−クロロトルエンなどを挙げることができる。ジハロゲン化炭化水素化合物(V)は、ジアリールエチレン末端重合体(II)との反応に使用したカルボアニオン末端を有する重合体のカルボアニオンの1モルに対して、1モル以上の割合で使用するのが好ましく、1〜5モルの範囲内の割合で使用するのがより好ましい。また、その反応温度は、−100℃〜+150℃の範囲内の温度が好ましい。
ジハロゲン化炭化水素化合物(V)を用いた反応後、得られた反応混合液からのハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)の単離・精製は、例えば、以下の方法によって行うことができる。すなわち、反応混合液から溶媒を蒸発除去し、得られた粗生成物を、溶媒による分別法(例えば、ソックスレー抽出)、GPC分画分取法などの分別操作に供することによって、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)の精製物を得ることができる。なお、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)を後述のカルボアニオン末端を有する重合体との反応に使用する場合には、該ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)として精製物を使用することは必ずしも必要ではなく、上記の粗生成物を使用することもできる。
【0050】
グラフト重合体(IV)は、分子鎖中に、グラフト点として上記一般式(IV)で示される分岐構造を少なくとも1個有する重合体であるが、重合体を構成する該分岐構造以外の部分(すなわち、分子鎖の主体)は、アニオン重合性単量体からなる重合体の断片であることが好ましい。アニオン重合性単量体からなる重合体の好適な例としては、ジアリールエチレン末端重合体(II)に関して前記したものと同様のものを挙げることができる。
グラフト重合体(IV)の分子量についてはとくに制限されることなく、使用目的に応じて適宜好適なものとすればよい。分子構造の制御を重視する場合においては、数平均分子量で1000〜2500000の範囲内にあることが好ましく、1500〜1000000の範囲内であることが特に好ましい。また、その場合においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法から求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0〜1.7の範囲内であることが好ましく、1.0〜1.5の範囲内であることがより好ましい。
【0051】
グラフト重合体(IV)は、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)とカルボアニオン末端を有する重合体とを反応させることによって、操作性よく、かつ再現性よく製造することができる。
上記のハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応は、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)を、該重合体(II)に可溶であり、かつカルボアニオンを失活させない溶媒に溶解し、カルボアニオン末端を有する重合体の溶液と混合することにより容易に進行する。ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)およびカルボアニオン末端を有する重合体の使用割合は、カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンのモル数が、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)中の一般式(III)で示される基の1モルに対して、1〜3モルの範囲内となるような割合であることが好ましく、1〜1.2モルの範囲内となるような割合であることがより好ましく、約1モルとなるような割合であることが特に好ましい。使用する溶媒としては、重合体の種類等に応じて適宜好適なものを選択すればよいが、一般に、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;THF、ジオキサン等のエーテル;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素などが好適である。該反応は、カルボアニオンを失活させないため、系内に酸素、二酸化炭素または水等が混入しない条件で行うことが好ましく、例えば、高真空下または水分をできるだけ除去した雰囲気下(例えば、乾燥窒素雰囲気下)で、脱気・脱水した溶媒を用いて行うのがよい。また、反応温度は、−100℃〜+150℃の範囲内の温度が好ましい。
【0052】
なお、カルボアニオン末端を有する重合体としては、前記のように、カルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体であり、カルボアニオンを分子鎖の片方の末端のみに有する線状重合体およびカルボアニオンを分子鎖の両方の末端に有する線状重合体が例示される。カルボアニオン末端を有する重合体は、アニオン重合法、ハロゲン原子を分子鎖末端に有する重合体をリチオ化する方法などの常法に従って製造することができる。分子構造の制御されたグラフト重合体を製造する目的においてはカルボアニオン末端を有する重合体の分子構造もできるだけ制御されていることが好ましい。この観点からは、カルボアニオン末端を有する重合体として、アニオンリビング重合法によって得られたカルボアニオンを少なくとも一方の分子鎖末端に有する重合体、いわゆるリビングポリマーを使用するのが好ましい結果を与える。溶媒中でのアニオンリビング重合法によって得られたリビングポリマーの溶液を、ハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)との反応に使用することができる。
【0053】
上記のハロゲン化炭化水素基含有重合体(III)とカルボアニオン末端を有する重合体との反応後、得られた反応混合液からのグラフト重合体(IV)の単離・精製は、例えば、以下の方法によって行うことができる。すなわち、反応混合液から溶媒を蒸発除去し、得られた粗生成物を、溶媒による分別法(例えば、ソックスレー抽出)、GPC分画分取法などの分別操作に供することによって、グラフト重合体(IV)の精製物を得ることができる。
【0054】
本発明のグラフト重合体(IV)は、グラフト鎖長、グラフト点の間隔および数、ならびに全体の平均分子量および分子量分布において高い均一性を有することができる。
本発明のグラフト重合体(IV)は、それ自体が各種プラスチック、軟質樹脂およびエラストマーとして有用であるばかりでなく、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;ナイロン66などのポリアミド;(メタ)アクリル樹脂;スチレンブロック共重合体等のエラストマー;ポリ塩化ビニルなどの、他の重合体に対する改質剤、またはこれらの他の重合体の2種類以上を含む組成物における相溶化剤としても有用である。
【0055】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
なお、高真空下(絶対圧で0.001Pa以下)のでの反応は、ブレークシール付きガラス製装置を用いて行った。
【0056】
《実施例1》[1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレンの合成]
攪拌用モーター、滴下ロートおよび還流冷却器の付いた2リットル三つ口フラスコ内を十分に乾燥し、窒素ガスで置換した。フラスコ内に削状マグネシウム12.0g(0.50モル)を入れ、300mlのTHFに溶解させたブロモベンゼン72g(0.47モル)の溶液を滴下ロートからフラスコ中に30分かけて滴下しながら、攪拌下に反応させてグリニャール試薬(フェニルマグネシウムブロミド)を合成した。
次いで、滴下ロートに、200mlのTHFに溶解させたm−ブロモアセトフェノン70g(0.35モル)の溶液を入れ、これを、フラスコ中のグリニャール試薬含有混合物に15分間かけて滴下しながら、攪拌下に反応させた。得られた反応混合物を20%希硫酸で処理(加水分解)した後、エーテルで抽出し、抽出液をエバポレートすることにより、1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエタン−1−オールを得た。これを、20%希硫酸と共に120℃で2時間、加熱攪拌することにより脱水反応を行い、1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレンを生成させた。得られた1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレンは、減圧蒸留により精製した(沸点148℃/3.5mmHg)。1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレンの収量は62gで、収率は68%であった。
【0057】
削状のマグネシウム2.3g(0.96モル)を反応装置に入れ、高真空下に保持した後、反応系を密封した。次いで、THF(120ml)と上記の1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレン15.5gとの溶液をブレークシールを破って反応器内に移し、室温下で、6時間攪拌することによって、1−(3−ブロモフェニル)−1−フェニルエチレンのグリニャール試薬を調製した。
得られたグリニャール試薬とTHFとの混合物に対し、窒素気流下で、(3−クロロプロピル)(クロロ)ジメチルシラン102g(0.60モル=グリニャール試薬と等モル量)を加え、反応させた。12時間以上反応させた後、THFを蒸留して除去した。反応器内の残留物は、主として、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレンであった(粗収率:100%)。
上記の残留物をTHFに溶解し、その溶液を−78℃に冷却しながら、カルボアニオンの存在を示す赤色に発色するまでジフェニルエチレンダイマーのジリチウム塩のTHF溶液を滴下した。この溶液をその温度でさらに数時間攪拌し、赤色が消失しないことを確認した後、温度を室温まで上昇させたところ、溶液の赤色が消失した。この溶液からTHFを蒸留除去し、次いで残留物を蒸留することによって、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレンの精製物を得た。
【0058】
《実施例2》[3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を片方の分子鎖末端に有するポリスチレンの合成]
sec−ブチルリチウムを開始剤として用いてトルエン中、室温でスチレンを重合することによって片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリスチレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.10)50g(0.01モル)を含有するトルエン溶液を調製し、これに、1,1−ジフェニルエチレン1.8g(0.015モル)を加えることによって分子鎖末端に1,1−ジフェニルエチレン単位を付加させた。この1,1−ジフェニルエチレン型カルボアニオンを分子鎖の片末端に有するリビングポリスチレンのトルエン溶液に、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン18.0g(0.05モル)のTHF溶液を滴下し反応させた。反応は即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からはポリスチレンの2量化等の副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からはポリスチレンの分子鎖の片末端に3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基が、ほぼ定量的に導入されていることが確認された。
【0059】
《実施例3》[3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を片方の分子鎖末端に有するポリメチルメタクリレートの合成]
sec−ブチルリチウムと1,1−ジフェニルエチレンからなる開始剤を用いてメチルメタクリレートをTHF中、−78℃で重合することによって、片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリメチルメタクリレート(Mn=4000、Mw/Mn=1.06)20g(0.005モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに1,1−ジフェニルエチレン1.4g(0.075モル)を加えることによって分子鎖末端に1,1−ジフェニルエチレン単位を付加させた。この1,1−ジフェニルエチレン型カルボアニオンを分子鎖の片末端に有するリビングポリメチルメタクリレートのTHF溶液に、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン9.0g(0.025モル)のTHF溶液を滴下し反応させた。反応は即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からはポリメチルメタクリレートの2量化等の副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からはポリメチルメタクリレートの分子鎖の片末端に3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基が、ほぼ定量的に導入されていることが確認された。
【0060】
《実施例4》[3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を両方の分子鎖末端に有するポリスチレンの合成]
ジリチオナフタレンを開始剤として用いてTHF中、−78℃でスチレンを重合することによって両方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリスチレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.08)25g(0.005モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに、1,1−ジフェニルエチレン2.7g(0.015モル)を加えることによって分子鎖末端に1,1−ジフェニルエチレン単位を付加させた。この1,1−ジフェニルエチレン型カルボアニオンを分子鎖の両末端に有するリビングポリスチレンのTHF溶液に、1−[3−[(3−クロロプロピル)ジメチルシリル]フェニル]−1−フェニルエチレン18.0g(0.05モル)のTHF溶液を滴下し反応させた。反応は即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からはポリスチレンの2量化等の副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からはポリスチレンの分子鎖の両末端に3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基が、ほぼ定量的に導入されていることが確認された。
【0061】
《実施例5》[1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されたポリスチレンブロックとポリイソプレンブロックとからなるジブロック共重合体の合成]
sec−ブチルリチウムを開始剤として用いてトルエン中、室温下でイソプレンを重合することにより片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリイソプレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.10)50g(0.01モル)を含有するトルエン溶液を調製し、これに、実施例2で得られた3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を片方の分子鎖末端に有するポリスチレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.10)50g(0.01モル)のトルエン溶液を滴下し、室温下で60分間反応させた。次いで、これに、1−ブロモ−3−クロロプロパン1.57g(0.01モル)を滴下したところ、反応が即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からは副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からは、1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されたポリスチレンブロックとポリイソプレンブロックとからなるジブロック共重合体(Mn=10000、Mw/Mn=1.10)が得られていることが確認された。
【0062】
《実施例6》[両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有し、各ブロックが1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されているトリブロック共重合体の合成]
sec−ブチルリチウムを開始剤として用いてTHF中、−78℃でイソプレンを重合することによって片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリイソプレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.08)100g(0.02モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに、実施例4で得られた3−[[3−(1−フェニルビニル)フェニル]ジメチルシリル]プロピル基を両方の分子鎖末端に有するポリスチレン(Mn=5000、Mw/Mn=1.08)50g(0.01モル)のTHF溶液を0℃で滴下し、さらにその温度で3時間反応させた。次いで、0℃で、これに1−ブロモ−3−クロロプロパン3.14g(0.02モル)を滴下したところ、反応が即座に進行し、リビングアニオンの存在を示す溶液の赤色が消滅した。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からは副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からは、両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有し、各ブロックが1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されているトリブロック共重合体(Mn=15000、Mw/Mn=1.08)が得られていることが確認された。
【0063】
《実施例7》[ポリスチレンブロック、ポリイソプレンブロックおよびポリメチルメタクリレートブロックの1個ずつが1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−1−フェニルペンタメチレン基によって連結されている星型グラフト重合体の合成]
sec−ブチルリチウムと1,1−ジフェニルエチレンからなる開始剤を用いてTHF中、−78℃でメチルメタクリレートを重合することによって片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリメチルメタクリレート(Mn=4000、Mw/Mn=1.06)20g(0.005モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに、実施例5で得られた1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されたポリスチレンブロックとポリイソプレンブロックとからなるジブロック共重合体(Mn=10000、Mw/Mn=1.10)50g(0.005モル)のTHF溶液を−78℃で滴下した。さらにその温度で約12時間反応させた。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からは副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からは、ポリスチレン鎖とポリイソプレン鎖との接続部位にポリメチルメタクリレート鎖を一個有するABC星型グラフト重合体(14000、Mw/Mn=1.10)が得られていることが確認された。
【0064】
《実施例8》[幹が両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有するトリブロック共重合体からなり、各ブロックの接続部2か所にそれぞれ存在する1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基をグラフト点として、2個のポリメチルメタクリレートブロックをグラフト鎖として有するグラフト重合体の合成]
sec−ブチルリチウムとジフェニルエチレンからなる開始剤を用いてTHF中、−78℃でメチルメタクリレートを重合することによって片方の分子鎖末端にカルボアニオンを有するリビングポリメチルメタクリレート(Mn=4000、Mw/Mn=1.06)40g(0.01モル)を含有するTHF溶液を調製し、これに、実施例6で得られた両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有し、各ブロックが1−[3−(トリメチレンジメチルシリル)フェニル]−5−クロロ−1−フェニルペンチル基で連結されているトリブロック共重合体(Mn=15000、Mw/Mn=1.08)75g(0.005モル)のTHF溶液を−78℃で滴下した。さらにその温度で約12時間反応させた。
得られた反応混合液をメタノール中に投入し、再沈を行った。沈殿物をベンゼンに溶解し、凍結乾燥を行った。
このようにして得られた生成物のGPC測定からは副反応は起こっておらず、またプロトンNMR測定からは、幹が両端にポリイソプレンブロックを有し、中間にポリスチレンブロックを有するトリブロック共重合体からなり、各ブロックの接続部2か所にそれぞれ1個のポリメチルメタクリレート鎖が結合しているグラフト重合体(Mn=23000、Mw/Mn=1.10)が得られていることが確認された。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、グラフト鎖の長さ、グラフト点の数、グラフト点間の鎖長等の分子構造;平均分子量および分子量分布が均一に制御されたグラフト重合体が提供される。本発明によれば、グラフト点で分断される幹中のブロックおよびグラフト鎖のブロックに相当する各重合体を逐次的に結合させる手法を採用することによって、かかる特長を有するグラフト重合体を容易に、かつ再現性よく製造し得る方法が提供される。また、本発明によれば、該方法における原料化合物または中間体として有用な低分子化合物および重合体、ならびに該重合体を容易に、かつ再現性よく製造することが可能な方法が提供される。
Claims (7)
- 請求項1記載のシラン化合物とカルボアニオン末端を有する重合体とを、該シラン化合物を該カルボアニオン末端を有する重合体中のカルボアニオンの1モルに対して1モル以上の割合で使用して、反応させることを特徴とする請求項2記載の重合体の製造方法。
- 請求項3記載の重合体とカルボアニオン末端を有する重合体とを反応させることを特徴とする請求項4記載のグラフト重合体の製造方法。
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