JP2024142069A - フェライト系ステンレス鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】所望する耐熱性を得られる化学組成を有しながらも、靭性および加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.002~0.03%、Si:0.1~1.0%、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.030%以下、Cr:17.0~19.5%、Mo:0.05~0.3%、Nb:0.05~0.2%、Cu:0.8~1.5%、N:0.002~0.03%、Ti:0~0.4%、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、[5(C+N)≦Ti]を満足し、結晶粒径が20~40μmであり、断面硬さが170HV以下であり、板厚5mm以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
【選択図】 なし
【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.002~0.03%、Si:0.1~1.0%、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.030%以下、Cr:17.0~19.5%、Mo:0.05~0.3%、Nb:0.05~0.2%、Cu:0.8~1.5%、N:0.002~0.03%、Ti:0~0.4%、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、[5(C+N)≦Ti]を満足し、結晶粒径が20~40μmであり、断面硬さが170HV以下であり、板厚5mm以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
【選択図】 なし
Description
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板に関する。
自動車用排ガス経路部材は、フェライト系ステンレス鋼が適用されることが多い。この理由は、フェライト系ステンレス鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼と比較し、高価かつ希少金属に分類されるNiの含有量が少なく、低コストであるためである。
排ガス経路部材は、エキゾーストマニホールド、触媒、マフラーなど様々な部品から構成され、それら部品をつなげる際、フランジと呼ばれる締結部品が使用される。フランジは、剛性確保のため、5mmの厚さを超える厚手フランジが使用されることが多い。通常、厚さを厚くした場合、靭性は低くなる。このため、上記用途のフェライト系ステンレス鋼では、靭性が低いという問題があった。そこで、特許文献1および2には、靭性を向上させたフェライト系ステンレス鋼板が開示されている。
例えば、特許文献1に開示されたフェライト系ステンレス鋼板では、靭性低下の要因となる粗大なTiN析出をZr添加により解消している。また、特許文献2に開示されたフェライト系ステンレス鋼板では、Cu系の析出物を制御することで、靭性を向上させている。
加えて、近年、環境規制強化に対応するため、排ガス温度上昇による燃費向上が検討されており、フランジ用フェライト系ステンレス鋼にも、さらなる耐熱性の向上が要求されてきている。
しかしながら、特許文献1に開示されたフェライト系ステンレス鋼板は、高温強度の向上に有効なNbを低減させており、耐熱性に関し、改善の余地がある。一方、耐熱性を向上させようとすると、加工性が低下する場合もある。また、特許文献2に開示されたフェライト系ステンレス鋼板は、Nbの代わりに、耐熱性向上に有効なCuを含有しているが、熱延板であり、加工性が低く、フランジ成形できない可能性がある。
以上を踏まえ、本発明は、所望する耐熱性を得られる化学組成を有しながらも、靭性および加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のフェライト系ステンレス鋼板を要旨とする。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.002~0.03%、
Si:0.1~1.0%、
Mn:1.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.030%以下、
Cr:17.0~19.5%、
Mo:0.05~0.3%、
Nb:0.05~0.2%、
Cu:0.8~1.5%、
N:0.002~0.03%、
Ti:0~0.4%、
Ni:0~0.5%、
V:0~0.5%、
W:0~0.5%、
Co:0~0.5%、
Zr:0~0.5%、
Al:0~1.0%、
Sn:0~0.5%、
B:0~0.005%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
結晶粒径が20~40μmであり、
断面硬さが170HV以下であり、
板厚5mm以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
5(C+N)≦Ti ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
C:0.002~0.03%、
Si:0.1~1.0%、
Mn:1.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.030%以下、
Cr:17.0~19.5%、
Mo:0.05~0.3%、
Nb:0.05~0.2%、
Cu:0.8~1.5%、
N:0.002~0.03%、
Ti:0~0.4%、
Ni:0~0.5%、
V:0~0.5%、
W:0~0.5%、
Co:0~0.5%、
Zr:0~0.5%、
Al:0~1.0%、
Sn:0~0.5%、
B:0~0.005%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
結晶粒径が20~40μmであり、
断面硬さが170HV以下であり、
板厚5mm以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
5(C+N)≦Ti ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
(2)前記化学組成が、質量%で、
Ni:0.01~0.5%、
V:0.01~0.5%、
W:0.05~0.5%、
Co:0.01~0.5%、
Zr:0.01~0.5%、
Al:0.01~1.0%、
Sn:0.01~0.5%、
B:0.0002~0.005%、
Ca:0.0002~0.01%、
Mg:0.0002~0.01%、および
REM:0.0002~0.01%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
Ni:0.01~0.5%、
V:0.01~0.5%、
W:0.05~0.5%、
Co:0.01~0.5%、
Zr:0.01~0.5%、
Al:0.01~1.0%、
Sn:0.01~0.5%、
B:0.0002~0.005%、
Ca:0.0002~0.01%、
Mg:0.0002~0.01%、および
REM:0.0002~0.01%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
(3)熱延焼鈍鋼板である、上記(1)または(2)に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
本発明によれば、所望する耐熱性を得られる化学組成を有しながらも、靭性および加工性に優れるフェライト系ステンレス鋼板を得ることができる。
本発明者らは、耐熱性、靭性、および加工性を向上させるため、種々の検討を行い、以下の知見を得た。
(a)Nbは、耐熱性を向上させるが、加工性を低下させることがある。また、Nbは、再結晶温度を上昇させ、製造性を低下させる場合がある。近年、製造時のCO2低減として、焼鈍時の燃焼ガス使用量低下も求められており、再結晶温度の低温化も求められている。このため、Nbを低減する一方、Cuを一定量含有させるのが好ましい。なお、フランジの溶接時の鋭敏化を抑制するため、Tiを含有させ、耐食性を向上させるのが望ましい。
(b)熱延後の残留ひずみ量を増加させ、焼鈍時の結晶粒径を微細化するのが好ましい。この結果、粗大なTiNが析出した状態においても、靭性を向上させることができる。さらに、焼鈍条件の最適化により、焼鈍後の冷却時に微細Cuの析出を抑制し、加工性を向上させることができる。
本発明の一実施形態は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の各要件について詳しく説明する。
1.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する 。
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する 。
C:0.002~0.03%
C(炭素)は、成形性と耐食性とを劣化させ、高温強度の低下をもたらす。このため、C含有量は、0.03%以下である。成形性、および耐食性の観点から、C含有量は、極力低減するのが好ましいが、現存の製鋼設備では、C含有量を0.002%未満に低下させるには大きなコスト増加を招く。このため、C含有量は、0.002%以上である。C含有量は、0.003~0.02%の範囲であるのが好ましく、0.003~0.015%であるのがより好ましい。
C(炭素)は、成形性と耐食性とを劣化させ、高温強度の低下をもたらす。このため、C含有量は、0.03%以下である。成形性、および耐食性の観点から、C含有量は、極力低減するのが好ましいが、現存の製鋼設備では、C含有量を0.002%未満に低下させるには大きなコスト増加を招く。このため、C含有量は、0.002%以上である。C含有量は、0.003~0.02%の範囲であるのが好ましく、0.003~0.015%であるのがより好ましい。
Si:0.1~1.0%
Si(ケイ素)は、脱酸剤としても有用な元素であるとともに、耐酸化性を改善する元素である。このため、Si含有量は、0.1%以上である。しかしながら、Siが過剰に含有されると、常温延性が低下する。このため、Si含有量は、1.0%以下である。Si含有量は、0.15~0.6%の範囲であるのが好ましい。
Si(ケイ素)は、脱酸剤としても有用な元素であるとともに、耐酸化性を改善する元素である。このため、Si含有量は、0.1%以上である。しかしながら、Siが過剰に含有されると、常温延性が低下する。このため、Si含有量は、1.0%以下である。Si含有量は、0.15~0.6%の範囲であるのが好ましい。
Mn:1.0%以下
Mn(マンガン)は、脱酸剤として含有される元素であるとともに、長時間使用中にMn系酸化物表層に形成し、スケール密着性の向上に寄与する。しかしながら、Mnが過剰に含有されると、酸化増量を著しく増加させてしまうのみならず、高温でγ相が生成しやすくなる。この結果、耐熱性が低下する。このため、Mn含有量は、1.0%以下である。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.1%以上であるのが好ましい。Mn含有量は、0.2~0.8%の範囲であるのが好ましい。
Mn(マンガン)は、脱酸剤として含有される元素であるとともに、長時間使用中にMn系酸化物表層に形成し、スケール密着性の向上に寄与する。しかしながら、Mnが過剰に含有されると、酸化増量を著しく増加させてしまうのみならず、高温でγ相が生成しやすくなる。この結果、耐熱性が低下する。このため、Mn含有量は、1.0%以下である。一方、上記効果を得るためには、Mn含有量は、0.1%以上であるのが好ましい。Mn含有量は、0.2~0.8%の範囲であるのが好ましい。
P:0.04%以下
P(リン)は、靭性を低下させる有害元素であり、可能な限り低減するのが好ましい。このため、P含有量は、0.04%以下とである。P含有量は、0.03%以下であるのがより好ましい。しかしながら、P含有量を過剰に低減すると、精錬コストが増加する。このため、P含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
P(リン)は、靭性を低下させる有害元素であり、可能な限り低減するのが好ましい。このため、P含有量は、0.04%以下とである。P含有量は、0.03%以下であるのがより好ましい。しかしながら、P含有量を過剰に低減すると、精錬コストが増加する。このため、P含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
S:0.030%以下
S(硫黄)は、伸びを低下させて、成形性に悪影響を及ぼすとともに、耐食性を低下させる有害元素でもあるため、可能な限り低減するのが好ましい。このため、S含有量は、0.030%以下である。S含有量は、0.010%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましい。しかしながら、S含有量を過剰に低減すると、精錬コストが増加する。このため、S含有量は、0.0005%以上であるのが好ましい。
S(硫黄)は、伸びを低下させて、成形性に悪影響を及ぼすとともに、耐食性を低下させる有害元素でもあるため、可能な限り低減するのが好ましい。このため、S含有量は、0.030%以下である。S含有量は、0.010%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましい。しかしながら、S含有量を過剰に低減すると、精錬コストが増加する。このため、S含有量は、0.0005%以上であるのが好ましい。
Cr:17.0~19.5%
Cr(クロム)は、ステンレス鋼の特徴である耐食性、耐酸化性を向上させるのに有効な重要元素である。また、Cr含有量が、17.0%未満では、800℃での長時間使用時の耐酸化性が得られない。このため、Cr含有量は、17.0%以上である。しかしながら、Crは、室温において鋼を固溶強化し、硬質化、低延性化する元素であり、特に19.5%を超えて含有させると、成形性への弊害が顕著となる。このため、Cr含有量は、19.5%以下である。Cr含有量は、17.5~19.0%の範囲であるのが好ましい。
Cr(クロム)は、ステンレス鋼の特徴である耐食性、耐酸化性を向上させるのに有効な重要元素である。また、Cr含有量が、17.0%未満では、800℃での長時間使用時の耐酸化性が得られない。このため、Cr含有量は、17.0%以上である。しかしながら、Crは、室温において鋼を固溶強化し、硬質化、低延性化する元素であり、特に19.5%を超えて含有させると、成形性への弊害が顕著となる。このため、Cr含有量は、19.5%以下である。Cr含有量は、17.5~19.0%の範囲であるのが好ましい。
Mo:0.05~0.3%
Mo(モリブデン)は、高温強度、耐酸化性、および耐食性を向上させる元素である。加えて、熱延焼鈍後の冷却時のCu析出を抑制し加工性を向上させること、熱間圧延時に導入されるひずみの回復を抑制することに寄与する。この結果、靭性を向上させる効果がある。このため、Mo含有量は、0.05%以上である。しかしながら、Moは高価な元素であるため、過剰に含有されると、製造コストが増加する。また、固溶強化により鋼を硬質化するため、加工性を低下させてしまう。このため、Mo含有量は、0.3%以下である。Mo含有量は、0.25%以下であるのが好ましく、0.2%以下であるのがより好ましい。
Mo(モリブデン)は、高温強度、耐酸化性、および耐食性を向上させる元素である。加えて、熱延焼鈍後の冷却時のCu析出を抑制し加工性を向上させること、熱間圧延時に導入されるひずみの回復を抑制することに寄与する。この結果、靭性を向上させる効果がある。このため、Mo含有量は、0.05%以上である。しかしながら、Moは高価な元素であるため、過剰に含有されると、製造コストが増加する。また、固溶強化により鋼を硬質化するため、加工性を低下させてしまう。このため、Mo含有量は、0.3%以下である。Mo含有量は、0.25%以下であるのが好ましく、0.2%以下であるのがより好ましい。
Nb:0.05~0.2%
Nb(ニオブ)は、高温強度および熱疲労特性を向上させる効果を有する。具体的には、熱延焼鈍後の冷却時のCu析出を抑制し加工性を向上させること、熱間圧延時に導入されるひずみの回復を抑制することに寄与する。この結果、靭性を向上させる効果がある。これらの効果は0.05%以上で発現することから、Nb含有量は、0.05%以上である。しかしながら、Nbが過剰に含有されると、Laves相の生成により靭性の低下をもたらす。また、加工性を低下させ、断面硬さを過剰に高くする。加えて、熱延後の再結晶温度を上昇させる。このため、Nb含有量は、0.2%以下である。Nb含有量は、0.06~0.18%の範囲であるのが好ましく、0.07~0.17%の範囲であるのがより好ましい。
Nb(ニオブ)は、高温強度および熱疲労特性を向上させる効果を有する。具体的には、熱延焼鈍後の冷却時のCu析出を抑制し加工性を向上させること、熱間圧延時に導入されるひずみの回復を抑制することに寄与する。この結果、靭性を向上させる効果がある。これらの効果は0.05%以上で発現することから、Nb含有量は、0.05%以上である。しかしながら、Nbが過剰に含有されると、Laves相の生成により靭性の低下をもたらす。また、加工性を低下させ、断面硬さを過剰に高くする。加えて、熱延後の再結晶温度を上昇させる。このため、Nb含有量は、0.2%以下である。Nb含有量は、0.06~0.18%の範囲であるのが好ましく、0.07~0.17%の範囲であるのがより好ましい。
Cu:0.8~1.5%
Cu(銅)は、600~800℃程度の中温度域における高温強度向上に有効な元素である。本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板では、高温強度向上に有効なNbを極力低減する必要があり、Nbの代わりにCuを含有させる。このため、Cu含有量は、0.8%以上である。Cu含有量は、1.0%以上であるのが好ましい。しかしながら、Cuが過剰に含有されると、耐酸化性と加工性を低下させる上、ε-Cuの粗大化を促進させる。このため、Cu含有量は、1.5%以下である。
Cu(銅)は、600~800℃程度の中温度域における高温強度向上に有効な元素である。本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板では、高温強度向上に有効なNbを極力低減する必要があり、Nbの代わりにCuを含有させる。このため、Cu含有量は、0.8%以上である。Cu含有量は、1.0%以上であるのが好ましい。しかしながら、Cuが過剰に含有されると、耐酸化性と加工性を低下させる上、ε-Cuの粗大化を促進させる。このため、Cu含有量は、1.5%以下である。
また、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、靭性および加工性を向上させる観点から下記(ii)式を満足するのが好ましい。
0<Cu-2Mo-3Nb≦1.0…(ii)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
0<Cu-2Mo-3Nb≦1.0…(ii)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
(ii)式中辺値が0以下である場合、靭性、加工性のいずれかが低下しやすくなる。このため、(ii)式中辺値は0超であるのが好ましく、0.1以上であるのがより好ましく、0.2以上であるのがさらに好ましい。一方、(ii)式中辺値が1.0以下である場合も、靭性、加工性のいずれかが低下しやすくなる。このため、(ii)式中辺値は、1.0以下であるのが好ましく、0.8以下であるのがより好ましく、0.7以下であるのがさらに好ましい。
N:0.002~0.03%
N(窒素)は、高温で粗大かつ硬質なTiNとして析出し、熱間圧延時に析出物周りのひずみ場を形成し、圧延伸長組織の分断に寄与する。この効果は、0.002%以上で発現することから、N含有量は、0.002%以上である。しかしながら、Nが過剰に含有されると、Cと同様、成形性、耐食性、および高温強度の低下をもたらす。このため、N含有量は、0.03%以下である。精錬コスト等の観点から、N含有量は、0.003~0.02%の範囲であるのが好ましく、0.003~0.015%の範囲であるのがより好ましい。
N(窒素)は、高温で粗大かつ硬質なTiNとして析出し、熱間圧延時に析出物周りのひずみ場を形成し、圧延伸長組織の分断に寄与する。この効果は、0.002%以上で発現することから、N含有量は、0.002%以上である。しかしながら、Nが過剰に含有されると、Cと同様、成形性、耐食性、および高温強度の低下をもたらす。このため、N含有量は、0.03%以下である。精錬コスト等の観点から、N含有量は、0.003~0.02%の範囲であるのが好ましく、0.003~0.015%の範囲であるのがより好ましい。
Ti:0~0.4%
Ti(チタン)は、C、およびNを固定して、成形性と、耐食性、特に、溶接部の粒界腐食性とを向上させる効果を有する。本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板では、Nb含有量を低減するため、C、およびNの固定のため、Tiは、重要な元素となる。また、C、およびNを固定することで析出したTi炭窒化物は、熱間圧延時にひずみ場の発生源となり、圧延伸長組織の分断に寄与し、熱延焼鈍後の結晶粒径の微細化に寄与する。このため、下記(i)式を満足する必要がある。
Ti(チタン)は、C、およびNを固定して、成形性と、耐食性、特に、溶接部の粒界腐食性とを向上させる効果を有する。本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板では、Nb含有量を低減するため、C、およびNの固定のため、Tiは、重要な元素となる。また、C、およびNを固定することで析出したTi炭窒化物は、熱間圧延時にひずみ場の発生源となり、圧延伸長組織の分断に寄与し、熱延焼鈍後の結晶粒径の微細化に寄与する。このため、下記(i)式を満足する必要がある。
5(C+N)≦Ti ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
Ti含有量が、(i)式を満足せず、5(C+N)未満であると、C、およびNを完全には固定することができず、鋭敏化が発生し、結果的に耐食性と耐酸化性が低下してしまう。しかしながら、Ti含有量が、0.4%を超えると、靭性の低下および表面疵の発生を誘発する。このため、Ti含有量は、0.4%以下である。Ti含有量は、0.15~0.35%の範囲であるのが好ましい。Ti含有量は、0.2~0.3%の範囲であるのが好ましい。
上記の元素に加えて、さらにNi、V、W、Co、Zr、Al、Sn、B、Ca、Mg、およびREMから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
Ni:0~0.5%
Ni(ニッケル)は、フェライト系ステンレス鋼の靭性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Niは高価な元素であり、強力なオーステナイト相生成元素であるため、過剰に含有されると、鋼の製造コストを上昇させるとともに、高温でγ相が生成しやすくなり耐熱性を低下させる。このため、Ni含有量は、0.5%以下である。Ni含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Ni(ニッケル)は、フェライト系ステンレス鋼の靭性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Niは高価な元素であり、強力なオーステナイト相生成元素であるため、過剰に含有されると、鋼の製造コストを上昇させるとともに、高温でγ相が生成しやすくなり耐熱性を低下させる。このため、Ni含有量は、0.5%以下である。Ni含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ni含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
V:0~0.5%
V(バナジウム)は、NbまたはTi同様、炭窒化物生成元素であり、これらを微細析出させることで高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、製造性が低下する。このため、V含有量は、0.5%以下である。V含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
V(バナジウム)は、NbまたはTi同様、炭窒化物生成元素であり、これらを微細析出させることで高温強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Vが過剰に含有されると、製造性が低下する。このため、V含有量は、0.5%以下である。V含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
W:0~0.5%
W(タングステン)は、高温強度を高める効果を有する。しかしながら、Wは、高価な元素であり、過剰に含有されると、製造コストが増加する。加えて、金属間化合物を生成し、鋼の靭性を低下させる。このため、W含有量は、0.5%以下である。W含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
W(タングステン)は、高温強度を高める効果を有する。しかしながら、Wは、高価な元素であり、過剰に含有されると、製造コストが増加する。加えて、金属間化合物を生成し、鋼の靭性を低下させる。このため、W含有量は、0.5%以下である。W含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.05%以上であるのが好ましい。
Co:0~0.5%
Co(コバルト)は、高温強度を向上させるとともに、熱膨張係数も低下させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Coは高価な元素であり、過剰に含有されると、製造コストが増加する。加えて、固溶強化により鋼を硬質化するため、加工性を低下させてしまう。このため、Co含有量は、0.5%以下である。Co含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Co(コバルト)は、高温強度を向上させるとともに、熱膨張係数も低下させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Coは高価な元素であり、過剰に含有されると、製造コストが増加する。加えて、固溶強化により鋼を硬質化するため、加工性を低下させてしまう。このため、Co含有量は、0.5%以下である。Co含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Zr:0~0.5%
Zr(ジルコニウム)は、耐酸化性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有されると、金属間化合物が生成し、鋼の靭性を低下させる。このため、Zr含有量は、0.5%以下である。Zr含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Zr(ジルコニウム)は、耐酸化性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Zrが過剰に含有されると、金属間化合物が生成し、鋼の靭性を低下させる。このため、Zr含有量は、0.5%以下である。Zr含有量は、0.4%以下であるのが好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Al:0~1.0%
Al(アルミニウム)は、脱酸元素として添加される他、耐酸化性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Alが過剰に含有されると、固溶強化により鋼を硬質化し、靭性を低下させる。このため、Al含有量は、1.0%以下である。Al含有量は、0.6%以下であるのが好ましく、0.2%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Al(アルミニウム)は、脱酸元素として添加される他、耐酸化性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Alが過剰に含有されると、固溶強化により鋼を硬質化し、靭性を低下させる。このため、Al含有量は、1.0%以下である。Al含有量は、0.6%以下であるのが好ましく、0.2%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Al含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Sn:0~0.5%
Sn(スズ)は、常温の機械的特性を大きく劣化させず、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snが過剰に含有されると、製造性が著しく低下する。このため、Sn含有量は、0.5%以下である。Sn含有量は、0.3%以下であるのが好ましく、0.2%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
Sn(スズ)は、常温の機械的特性を大きく劣化させず、耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snが過剰に含有されると、製造性が著しく低下する。このため、Sn含有量は、0.5%以下である。Sn含有量は、0.3%以下であるのが好ましく、0.2%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は、0.01%以上であるのが好ましい。
B:0~0.005%
B(ボロン)は、加工性、特に二次加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Bが過剰に含有されると、溶接性および靭性が低下する。このため、B含有量は、0.005%以下である。B含有量は、0.003%以下であるのが好ましく、0.0015%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
B(ボロン)は、加工性、特に二次加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Bが過剰に含有されると、溶接性および靭性が低下する。このため、B含有量は、0.005%以下である。B含有量は、0.003%以下であるのが好ましく、0.0015%以下であるのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
Ca:0~0.01%
Ca(カルシウム)は、連続鋳造時に発生しやすいノズル閉塞を防止する効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Caが過剰に含有されると、表面欠陥が発生しやすくなる。このため、Ca含有量は、0.01%以下である。Ca含有量は、0.005%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
Ca(カルシウム)は、連続鋳造時に発生しやすいノズル閉塞を防止する効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Caが過剰に含有されると、表面欠陥が発生しやすくなる。このため、Ca含有量は、0.01%以下である。Ca含有量は、0.005%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ca含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
Mg:0~0.01%
Mg(マグネシウム)は、スラブの等軸晶率を向上させ、加工性および靭性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、鋼の靭性および表面性状が低下する。このため、Mg含有量は、0.01%以下である。Mg含有量は、0.005%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
Mg(マグネシウム)は、スラブの等軸晶率を向上させ、加工性および靭性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Mgが過剰に含有されると、鋼の靭性および表面性状が低下する。このため、Mg含有量は、0.01%以下である。Mg含有量は、0.005%以下であるのが好ましく、0.003%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Mg含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
REM:0~0.01%
REM(希土類元素)は、耐酸化性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、REMが過剰に含有されると、溶接性および靭性が低下する。このため、REM含有量は、0.01%以下である。REM含有量は、0.008%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
REM(希土類元素)は、耐酸化性を改善する効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、REMが過剰に含有されると、溶接性および靭性が低下する。このため、REM含有量は、0.01%以下である。REM含有量は、0.008%以下であるのが好ましく、0.005%以下であるのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.0002%以上であるのが好ましい。
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることが多い。
本実施形態の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、フェライト系ステンレス鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
2.結晶粒径
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、熱間圧延後焼鈍された鋼板であり、熱間圧延で形成された加工組織が焼鈍により再結晶することで、加工性を得ることができる。
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、熱間圧延後焼鈍された鋼板であり、熱間圧延で形成された加工組織が焼鈍により再結晶することで、加工性を得ることができる。
ここで、本実施形態の鋼板においては、加工性と合わせて靭性を確保するために、結晶粒径は、20~40μmである。再結晶後の結晶粒径が20μm未満であると、硬質となり、加工性および靭性が低下する。一方、再結晶後の結晶粒径が40μmを超えると、靭性が低下し、加工時の割れを誘発してしまう。結晶粒径は、25~38μmの範囲であるのが好ましく、25~35μmであるのがより好ましい。
なお、上記結晶粒径は、以下の手順で測定される。鋼板のL断面(板幅方向に垂直な断面)をコロイダル研磨後、研磨ひずみを除去するため、電解研磨する。続いて、板厚中心部を、走査型電子顕微鏡を用いた電子線後方散乱回折(EBSD)法によって方位差マップを求め、この方位差マップから求積法で算出した平均結晶粒面積と同じ面積を有する円の直径を結晶粒径として求める。なお、測定範囲は、十分な数の結晶粒が含まれる2mm×2mmの範囲とすればよい。また、結晶粒界は、結晶方位差が15°以上の境界と定義する。
3.断面硬さ
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、フランジ成形可能な加工性を担保する必要がある。このため、断面硬さは、170HV以下である。なお、断面硬さとは、後述するが、鋼板のL断面の硬さのことである。
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、フランジ成形可能な加工性を担保する必要がある。このため、断面硬さは、170HV以下である。なお、断面硬さとは、後述するが、鋼板のL断面の硬さのことである。
断面硬さが170HVを超えると、硬質化し過ぎて、フランジ成形がしにくくなるからである。断面硬さは、168HV以下であるのが好ましく、166HV以下であるのがより好ましい。なお、断面硬さの下限は、特に、限定されないが、本実施形態の鋼板の化学組成においては、150HV以上であるのが好ましい。
断面硬さは、以下の手順で測定される。鋼板のL断面(板幅方向に垂直な断面)が露出するように樹脂に埋め込み、露出した断面を研磨、電解エッチングした後、板厚中央部で測定する。硬度測定は、JIS Z 2244:2009 ビッカース硬度測定に準拠して測定され、HV1.0(9.8N)、すなわち、試験荷重を1kgfとする。板厚中央部にて5点測定し、その平均値を断面硬さとする。
4.板厚
本実施形態の鋼板は、排ガス経路の種々の部品を締結するフランジに適用されるものである。このため、剛性確保のために、板厚は、5mm以上である。板厚が5mm未満であると、十分な剛性が確保できず、使用時の変形により、シール性の低下が生じやすくなる。なお、板厚の上限は特に、限定されない。板厚が厚すぎると、加工性および靭性が生じる、フランジの重量が増加する。このため、板厚は、10mm以下であるのが好ましく、9mm以下であるのがより好ましい。
本実施形態の鋼板は、排ガス経路の種々の部品を締結するフランジに適用されるものである。このため、剛性確保のために、板厚は、5mm以上である。板厚が5mm未満であると、十分な剛性が確保できず、使用時の変形により、シール性の低下が生じやすくなる。なお、板厚の上限は特に、限定されない。板厚が厚すぎると、加工性および靭性が生じる、フランジの重量が増加する。このため、板厚は、10mm以下であるのが好ましく、9mm以下であるのがより好ましい。
5.製造方法
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
上記化学組成を有する鋼を溶製し、常法でスラブを製造する。得られたスラブを加熱し、熱間圧延を行う。スラブの加熱温度については、特に限定されないが、通常、1150~1250℃の範囲とすることが多い。
熱間圧延における仕上温度は、920~850℃の範囲にする。熱間圧延における仕上温度が920℃を超えると、熱間圧延で導入した加工ひずみが回復し、その後の焼鈍組織に伸長粒が残存しやすくなる。この結果、結晶粒が過剰に粗大化してしまい、却って靭性が低下する場合がある。一方、仕上温度が850℃未満であると、添加したCuが微細析出し、熱延板靭性を低下させるとともに、表面疵が生成しやすくなる。また、断面硬さが増加する場合がある。
実機等で製造する場合、上記熱間圧延後、400~200℃の温度域で巻取処理がされるのが好ましい。巻取り温度が400℃超であると、靭性低下をもたらす微細Cu相およびFeTiP等が析出しやすくなる。一方、巻取温度が200℃未満であると、コイル形状が不良になる。
熱間圧延後に熱延板焼鈍を行う。熱延板焼鈍の際の焼鈍温度は、850~920℃の範囲とする。上記焼鈍温度が850℃未満であると、再結晶が完了せず、断面硬さが過剰に高くなる場合がある。また、再結晶粒が本実施形態の範囲を満足しにくくなる。一方、焼鈍温度が920℃を超えると、焼鈍における製造コストが増加する。また、焼鈍時間は、2分以内とする。焼鈍時間を2分以内にすることで、所望する大きさの結晶粒を得るためである。
また、熱延板焼鈍後の800~400℃の温度域の冷却における平均冷却速度を5℃/s以上とするのが好ましい。上記800~400℃の温度域における平均冷却速度が5℃/s未満であると、当該温度域を通過時にCu析出物が析出し、硬質化して加工性、靭性の低下をもたらす。なお、熱延板焼鈍後に必要に応じて、酸洗を行ってもよい。
以下、実施例によって本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼を、真空溶解で溶製し、厚さ200mmの鋳型に鋳造した後、1230℃で2時間加熱し、表2に示す熱延条件で熱間圧延を施し、400℃以下まで冷却することで、厚さ5~8mmの熱延板を得た。次に、熱延板を表2に示す焼鈍温度で1分焼鈍した後、冷却し、熱延焼鈍鋼板(フェライト系ステンレス鋼板)を得た。なお、上記焼鈍において、800~400℃の温度域における平均昇温速度および冷却速度は、全て5℃/sとなるように調整した。
得られた熱延焼鈍鋼板の結晶粒径および断面硬さを、以下の手順で測定した。また、以下の手順で、シャルピー衝撃値を測定した。
(結晶粒径)
鋼板のL断面(板幅方向に垂直な断面)をコロイダル研磨後、研磨ひずみを除去するため、電解研磨した。続いて、板厚中心部を、走査型電子顕微鏡を用いた電子線後方散乱回折(EBSD)法によって方位差マップを求め、この方位差マップから求積法で算出した平均結晶粒面積と同じ面積を有する円の直径を結晶粒径として求めた。なお、測定範囲は、十分な数の結晶粒が含まれる2mm×2mmの範囲とした。また、結晶粒界は、結晶方位差が15°以上の境界と定義した。
鋼板のL断面(板幅方向に垂直な断面)をコロイダル研磨後、研磨ひずみを除去するため、電解研磨した。続いて、板厚中心部を、走査型電子顕微鏡を用いた電子線後方散乱回折(EBSD)法によって方位差マップを求め、この方位差マップから求積法で算出した平均結晶粒面積と同じ面積を有する円の直径を結晶粒径として求めた。なお、測定範囲は、十分な数の結晶粒が含まれる2mm×2mmの範囲とした。また、結晶粒界は、結晶方位差が15°以上の境界と定義した。
(断面硬さ)
鋼板のL断面(板幅方向に垂直な断面)が露出するように樹脂に埋め込み、露出した断面を研磨、電解エッチングした後、板厚中央部について測定した。硬度測定は、JIS Z 2244:2009 ビッカース硬度測定に準拠して測定され、HV1.0(9.8N)、すなわち、試験荷重を1kgfとした。板厚中央部にて5点測定し、その平均値を断面硬さとした。
鋼板のL断面(板幅方向に垂直な断面)が露出するように樹脂に埋め込み、露出した断面を研磨、電解エッチングした後、板厚中央部について測定した。硬度測定は、JIS Z 2244:2009 ビッカース硬度測定に準拠して測定され、HV1.0(9.8N)、すなわち、試験荷重を1kgfとした。板厚中央部にて5点測定し、その平均値を断面硬さとした。
(シャルピー衝撃値)
加工時の割れ発生の評価として、熱延焼鈍鋼板の靭性を測定した。熱延焼鈍鋼板から、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように熱延板と同じ板厚で、Vノッチのサブサイズシャルピー衝撃試験片を作製し、JIS Z 2242:2018に記載の試験方法に従って、各試験片に対して室温(23℃±5℃)で5本実施した。測定した吸収エネルギーを断面積で除すことで衝撃値を算出し、5本のうち、最も低い衝撃値を表中のシャルピー衝撃値として記載した。加工時の靭性が良好であるという観点から、シャルピー衝撃値が30J/cm2以上である場合を良好な特性であると評価した。以下、結果をまとめて、表2に示す。
加工時の割れ発生の評価として、熱延焼鈍鋼板の靭性を測定した。熱延焼鈍鋼板から、試験片の長手方向が圧延方向と平行になるように熱延板と同じ板厚で、Vノッチのサブサイズシャルピー衝撃試験片を作製し、JIS Z 2242:2018に記載の試験方法に従って、各試験片に対して室温(23℃±5℃)で5本実施した。測定した吸収エネルギーを断面積で除すことで衝撃値を算出し、5本のうち、最も低い衝撃値を表中のシャルピー衝撃値として記載した。加工時の靭性が良好であるという観点から、シャルピー衝撃値が30J/cm2以上である場合を良好な特性であると評価した。以下、結果をまとめて、表2に示す。
本実施形態の要件を満足するNo.1~3、6、8、10~22は、良好な靭性および加工性を示した。一方本実施形態の要件を満足しないNo.4、5、7、9、23~27は、靭性および加工性の内、少なくとも一方が劣る結果となった。
No.4および5は、鋼の化学組成は本実施形態の要件を満足したが、熱延板焼鈍の際の温度が好ましい条件を満足しなかった例であったため、結晶粒が粗大になる一方、未再結晶粒も残存したため、断面硬さも大きくなった。No.7および9は、鋼の化学組成は本実施形態の要件を満足したが、熱延の際の仕上温度が好ましい条件を満足しなかった例であったため、靭性が低下した。また、No.7については、断面硬さも増加した。No.23~27が、本実施形態の化学組成を満足しなかった例であったため、断面硬さ、靭性のうち、少なくとも、一方が劣る結果になった。
Claims (3)
- 化学組成が、質量%で、
C:0.002~0.03%、
Si:0.1~1.0%、
Mn:1.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.030%以下、
Cr:17.0~19.5%、
Mo:0.05~0.3%、
Nb:0.05~0.2%、
Cu:0.8~1.5%、
N:0.002~0.03%、
Ti:0~0.4%、
Ni:0~0.5%、
V:0~0.5%、
W:0~0.5%、
Co:0~0.5%、
Zr:0~0.5%、
Al:0~1.0%、
Sn:0~0.5%、
B:0~0.005%、
Ca:0~0.01%、
Mg:0~0.01%、
REM:0~0.01%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
結晶粒径が20~40μmであり、
断面硬さが170HV以下であり、
板厚5mm以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
5(C+N)≦Ti ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。 - 前記化学組成が、質量%で、
Ni:0.01~0.5%、
V:0.01~0.5%、
W:0.05~0.5%、
Co:0.01~0.5%、
Zr:0.01~0.5%、
Al:0.01~1.0%、
Sn:0.01~0.5%、
B:0.0002~0.005%、
Ca:0.0002~0.01%、
Mg:0.0002~0.01%、および
REM:0.0002~0.01%、
から選択される一種以上を含有する、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。 - 熱延焼鈍鋼板である、請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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