以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
まず、図1を用いて、実施形態に係る無段変速機の制御装置1の構成について説明する。図1は、無段変速機の制御装置1、及び、該無段変速機の制御装置1が適用された無段変速機30等の構成を示すブロック図である。
エンジン10は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン10では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)13により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン10に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータ61により検出される。さらに、スロットルバルブ13には、該スロットルバルブ13の開度を検出するスロットル開度センサ14が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタが取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン10の各気筒では、吸入された空気とインジェクタによって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
上述したエアフローメータ61、スロットル開度センサ14に加え、エンジン10のカムシャフト近傍には、エンジン10の気筒判別を行うためのカム角センサが取り付けられている。また、エンジン10のクランクシャフト15近傍には、クランクシャフト15の位置を検出するクランク角センサが取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン コントロールユニット(以下「ECU」という)60に接続されている。また、ECU60には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセルペダルセンサ62、及び、エンジン10の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサも接続されている。
エンジン10のクランクシャフト15には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ20を介して、エンジン10からの駆動力を変換して出力する無段変速機30が接続されている。
トルクコンバータ20は、主として、ポンプインペラ21、タービンランナ22、及び、ステータ23から構成されている。クランクシャフト15に接続されたポンプインペラ21がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ21に対向して配置されたタービンランナ22がオイルを介してエンジン10の動力を受けて出力軸25を駆動する。両者の間に位置するステータ23は、タービンランナ22からの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ21に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
また、トルクコンバータ20は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ24を有している。トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ24が締結されていないとき(非ロックアップ状態のとき)はエンジン10の駆動力をトルク増幅して無段変速機30に伝達し、ロックアップクラッチ24が締結されているとき(ロックアップ時)はエンジン10の駆動力を無段変速機30に直接伝達する。トルクコンバータ20を構成するタービンランナ22の回転数(タービン回転数)は、タービン回転数センサ56により検出される。検出されたタービン回転数は、後述するトランスミッション コントロールユニット(以下「TCU」という)40に出力される。
無段変速機30は、リダクションギヤ31(又は前後進切替機構)を介してトルクコンバータ20の出力軸25と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定シーブ34aと、該固定シーブ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動シーブ34bとを有し、それぞれのシーブ34a、34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。
一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定シーブ35aと、該固定シーブ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動シーブ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34、35に対するチェーン36の巻き掛け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き掛け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き掛け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。また、プライマリプーリ34の回転数をNpとし、セカンダリプーリ35の回転数をNsとすると、変速比iは、i=Np/Nsで表される。
ここで、プライマリプーリ34(可動シーブ34b)には油圧室(油圧シリンダ室)34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35(可動シーブ35b)には油圧室(油圧シリンダ室)35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定、変更される。なお、ここで、「プライマリプーリ34のクランプ力Fp=プライマリ油圧Pp×油圧室34cの受圧面積」であり、「セカンダリプーリ35のクランプ力Fs=セカンダリ油圧Ps×油圧室35cの受圧面積」である。
無段変速機30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)50によって調圧される。バルブボディ50は、複数のスプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ(電磁弁)を用いてバルブボディ50内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプから吐出された油圧を調整して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。
また、バルブボディ50では、チェーン36のグロススリップ(滑り)を生じない適切なクランプ力(プーリ側圧)を発生させるようにしている。ここで、セカンダリプーリ35の油圧室35cに供給されるセカンダリ油圧は、チェーン36に要求される伝達トルクに応じて調整される。また、プライマリプーリ34の油圧室34cに供給されるプライマリ油圧は、目標変速比などに応じた値に調整される。なお、バルブボディ50は、例えば、車両の前進、後進を切り替える前後進切替機構等にも油圧を供給する。
ここで、車両のフロアやセンターコンソール等には、運転者による、自動変速モード(「D」レンジ)と手動変速モード(「M」レンジ)とを択一的に切り替える操作を受付けるシフトレバー(セレクトレバー)51が設けられている。シフトレバー51には、シフトレバー51と連動して動くように接続され、該シフトレバー51の選択位置を検出するレンジスイッチ59が取り付けられている。レンジスイッチ59は、TCU40に接続されており、検出されたシフトレバー51の選択位置が、TCU40に読み込まれる。なお、シフトレバー51では、「D」レンジ、「M」レンジの他、パーキング「P」レンジ、リバース「R」レンジ、ニュートラル「N」レンジを選択的に切り替えることができる。
シフトレバー51には、該シフトレバー51がMレンジ側に位置するとき、すなわち手動変速モードが選択されたときにオンになり、シフトレバー51がDレンジ側に位置するとき、すなわち自動変速モードが選択されたときにオフになるMレンジスイッチ52が組み込まれている。Mレンジスイッチ52もTCU40に接続されている。
一方、ステアリングホイール53の後側には、手動変速モード時に、運転者による変速操作(変速要求)を受付けるためのプラス(+)パドルスイッチ54及びマイナス(-)パドルスイッチ55が設けられている(以下、プラスパドルスイッチ54及びマイナスパドルスイッチ55を総称して「パドルスイッチ54、55」ということもある)。プラスパドルスイッチ54は手動でアップシフトする際に用いられ、マイナスパドルスイッチ55は手動でダウンシフトする際に用いられる。
プラスパドルスイッチ54及びマイナスパドルスイッチ55は、TCU40に接続されており、パドルスイッチ54、55から出力されたスイッチ信号はTCU40に読み込まれる。また、TCU40には、プライマリプーリ34の回転数を検出するプライマリプーリ回転センサ57や、セカンダリ軸37の回転数(すなわちセカンダリプーリ35の回転数)を検出する出力軸回転センサ(特許請求の範囲請求に記載の車速検出手段に相当)58が接続されている。さらに、TCU40には、プライマリプーリ34に供給されるオイルの圧力(油圧)を検出するプライマリ油圧センサ71や、セカンダリプーリ35に供給されるオイルの圧力(油圧)を検出するセカンダリ油圧センサ72なども接続されている。
上述したように、無段変速機30は、シフトレバー51を操作することにより選択的に切り替えることができる2つの変速モード、すなわち、自動変速モード、手動変速モードを備えている。自動変速モードは、シフトレバー51をDレンジに操作することにより選択され、車両の走行状態に応じて変速比を自動的に変更するモードである。手動変速モードは、シフトレバー51をMレンジに操作することにより選択され、運転者の変速操作(パドルスイッチ54、55の操作)に従って変速比を切り替えるモードである。
無段変速機30のクランプ力制御や変速制御は、TCU40によって実行される。すなわち、TCU40は、上述したバルブボディ50を構成するソレノイドバルブ(電磁弁)の駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、無段変速機30のクランプ力や変速比を変更する。
ここで、TCU40には、CAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン10を総合的に制御するECU60等と相互に通信可能に接続されている。
TCU40、及び、ECU60は、それぞれ、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。
ECU60では、カム角センサの出力から気筒が判別され、クランク角センサの出力によって検出されたクランクシャフト15の回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU60では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び、水温等の各種情報が取得される。さらに、ECU60では、例えば、エンジン回転数及び吸入空気量に基づいて、エンジン10のエンジントルクが算出される。ここで、エンジン10のエンジントルクは、例えば、エンジン回転数と吸入空気量とエンジントルクとの関係を定めたマップ(エンジントルクマップ)を予め記憶しておき、該エンジントルクマップを検索することにより求めることができる。
そして、ECU60は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びに各種デバイスを制御することによりエンジン10を総合的に制御する。ECU60は、CAN100を介して、エンジン回転数、アクセルペダル開度、及び、エンジントルク等の情報をTCU40に送信する。
TCU40は、ECU60から送信されるエンジン回転数、アクセルペダル開度、及び、エンジントルク(すなわちバリエータ入力トルク)等の各種情報を受信する。また、TCU40は、例えば、車輪速センサによって検出された車速情報等もCAN100を通して受信する。
そして、TCU40は、ECU60からCAN100を介して受信されたエンジン10のエンジントルクに基づいて、クランプ力(プーリ側圧)を調節する。特に、TCU40は、個体バラツキや経時変化に応じ、バリエータのクランプ力(油圧)を、チェーン36がグロススリップしない範囲で、できる限り低減する機能を有している。そのため、TCU40は、学習値取得部41、及び、クランプ力制御部42を機能的に有している。TCU40では、EEPROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、学習値取得部41、及び、クランプ力制御部42の各機能が実現される。すなわち、TCU40は、特許請求の範囲に記載の制御ユニットとして機能する。
TCU40(学習値取得部41)は、車速が所定速度以上で、該車速の変動幅が所定範囲内(すなわち略一定)であり、入力トルクの変動幅が所定範囲内(略一定)であり、かつ、変速比が、プライマリプーリ34又はセカンダリプーリ35が機械的なストッパ(メカニカルストッパ)に当接している(すなわちプーリがロー側の端及びハイ(OD)側の端に設けられているメカニカルストッパに当たっている)最低速変速比(最もロー側の変速比)又は最高速変速比(最もハイ側の変速比)である場合に、学習条件が成立していると判断する。
そして、TCU40(学習値取得部41)は、上述した所定の学習条件が成立した場合に、入力トルクが略一定の状態(又は、固定した状態)で、セカンダリプーリクランプ力Fs(油圧)を徐々に下げて行き、変速比iが極小値をとるとき、すなわち、di/dFsが正勾配から負勾配に転じるときのセカンダリプーリクランプ力Fs’を学習値として取得する。なお、上述したように、「セカンダリプーリクランプ力Fs=セカンダリ圧Ps×受圧面積」で求められる。
ここで、図2に、無段変速機30のセカンダリプーリ35のクランプ力と変速比との関係を示す。図2のグラフの横軸はセカンダリプーリクランプ力Fsであり、縦軸は変速比iである。図2に示されるように、プーリがメカニカルストッパに当たっている状態で、入力トルクを一定にして、セカンダリプーリクランプ力Fsを減少させていくと、変速比iがハイ側に動いて、極小を迎えた後、上昇し始める点(変曲点)が現れ、その後グロススリップ点(図2中の×点)に至る。
そこで、TCU40(学習値取得部41)は、変速比iの極小点におけるセカンダリプーリクランプ力Fs’を学習値(Fs’)として取得する。また、TCU40(学習値取得部41)は、セカンダリプーリクランプ力Fsのデフォルト値(初期設定値)と学習値Fs’との比(Fs初期値/学習値Fs’)を学習補正係数Cとして取得する。
TCU40(学習値取得部41)は、最低速変速比(最もロー側の変速比)と最高速変速比(最もハイ側の変速比)とにおいて学習を行い、最低速変速比(最ロー)と最高速変速比(最ハイ)とにおいて学習値を取得する。そして、TCU40(学習値取得部41)は、最低速変速比における学習値と最高速変速比における学習値とに基づいて、最低速変速比と最高速変速比との間の学習値を例えば直線補間により内挿する。
そして、TCU40(学習値取得部41)は、セカンダリプーリクランプ力Fsのデフォルト値(初期設定値)と学習値Fs’との比である学習補正係数C(=Fs/Fs’)を求め、学習補正係数テーブルに記憶する。ここで、図3に、学習補正係数(学習値)テーブルの一例を示す。図3において、縦軸は変速比iである。学習補正係数(学習値)テーブルでは、変速比i(格子点)毎に学習補正係数Cが与えられている。
また、TCU40(学習値取得部41)は、経時変化に対応するため、定期的に繰り返して上述した学習を実行する。そして、定期的に学習値Fs’を取得して、学習補正係数Cを求め、上述した学習補正係数テーブルを更新する。
なお、TCU40(学習値取得部41)は、学習を開始した際に、変速比iの変化勾配(di/dFs)が負の場合には、バリエータのスリップを防止するため(すなわち、セカンダリプーリクランプ力Fsがグロススリップ点に至ることを防止するため)、学習を一時中断して、セカンダリプーリクランプ力Fsを所定値(例えば、セカンダリプーリクランプ力Fsの初期値にマージンを加えた値)まで上昇させた後、学習を再開する(すなわち、セカンダリプーリクランプ力Fsを徐々に下げて行く)。
TCU40(クランプ力制御部42)は、入力トルクに基づいて、チェーン36の滑りを生じないようにクランプ力を調節する。そのため、TCU40(クランプ力制御部42)は、取得された学習値(学習補正係数C)を用いて、セカンダリプーリクランプ力の制御目標値である目標セカンダリプーリクランプ力を調節(補正)する。
より具体的には、TCU40(クランプ力制御部42)は、次式(1)で示されるように、変速比iおよび入力トルクTinに応じて設定される必要セカンダリプーリクランプ力Fsを、セカンダリプーリクランプ力のデフォルト値(初期設定値)と学習値Fs’との比である学習補正係数Cで除算して、目標セカンダリプーリクランプ力Fsを算出する。
目標Fs=必要Fs×(1/学習補正係数C)×安全マージンS ・・・(1)
ここで、必要セカンダリプーリクランプ力Fsの取得の仕方について説明する。TCU40のEEPROM等には、変速比iと入力トルクTinと必要セカンダリプーリクランプ力Fsとの関係を定めたマップ(必要セカンダリプーリクランプ力マップ)が記憶されており、変速比iと入力トルクTinとに基づいてこの必要セカンダリプーリクランプ力マップが検索されることにより必要セカンダリプーリクランプ力Fsが取得される。
ここで、必要セカンダリプーリクランプ力マップの一例を図4に示す。図4において、横軸は入力トルクTin(Nm)であり、縦軸は変速比iである。必要セカンダリプーリクランプ力マップでは、変速比iと入力トルクTinとの組み合わせ(格子点)毎に必要セカンダリプーリクランプ力データが与えられている。
また、TCU40のEEPROM等には、上述した学習補正係数テーブルが記憶されており、変速比iに基づいてこの学習補正係数テーブルが検索されることにより学習補正係数Cが取得される。なお、上記安全マージンSとしては最小値が設定される。
そして、TCU40(クランプ力制御部42)は、目標セカンダリプーリクランプ力Fsと実セカンダリプーリクランプ力とが一致するように、バルブボディ50を駆動制御することにより、チェーン36の滑りを防止しつつ、かつ過剰とならないように、無段変速機30のクランプ力(プーリ側圧)を調節する。
次に、図5、図6を参照しつつ、無段変速機の制御装置1の動作について説明する。図5は、無段変速機の制御装置1によるクランプ力学習処理の処理手順を示すフローチャートである。図6は、無段変速機の制御装置1による目標クランプ力設定処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、TCU40において、所定時間毎(例えば10ms毎)に繰り返して実行される。
まず、図5を参照しつつ、無段変速機の制御装置1によるクランプ力学習処理について説明する。ステップS100では(学習前は)、初期値定数(デフォルト値)を用いて求められたバリエータの必要クランプ力に基づいてクランプ力が制御される。
次に、ステップS102では、クランプ力の学習条件が成立したか否かについての判断が行われる。ここで、学習条件が成立していない場合には、ステップS100に処理が移行し、上述したように、初期値定数(デフォルト値)を用いて求められたバリエータの必要クランプ力に基づいてクランプ力が制御される。一方、学習条件が成立したときには、ステップS104に処理が移行する。なお、学習条件については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
ステップS104では、入力トルクTin一定の状態でセカンダリプーリクランプ力Fsが徐々に下げられる。次に、ステップS106では、変速比iの変化勾配(di/dFs)が負勾配であるか否かについての判断が行われる。ここで、変速比iの変化勾配が負勾配の場合には、ステップS108において、セカンダリプーリクランプ力の初期値にマージンが足された値までセカンダリプーリクランプ力が上昇される。その後、ステップS106に処理が移行し、上述したステップS106の処理が再度実行される。一方、変速比iの変化勾配が負勾配ではないとき(正勾配のとき)には、ステップS110に処理が移行する。
ステップS110では、変速比iの変化勾配が正から負に変化したか否かについての判断が行われる。ここで、変速比iの変化勾配が正から負に変化していない場合には、変速比iの変化勾配が正から負に変化するまで、さらにセカンダリプーリクランプ力Fsが徐々に下げられる。一方、変速比iの変化勾配が正から負に変化したときには、ステップS112に処理が移行する。
ステップS112では、変速比iの極小点におけるセカンダリプーリクランプ力Fs’が学習値として取得される。次に、ステップS114では、学習補正係数C(=Fs初期値/学習値Fs’)が求められ、上述した学習補正係数テーブルが更新される。その後、本処理から一旦抜ける。
次に、図6を参照しつつ、無段変速機の制御装置1による目標クランプ力設定処理について説明する。まず、ステップS200では、変速比iおよびバリエータ入力トルクTinが読み込まれる。次に、ステップS202では、変速比iおよびバリエータ入力トルクTinを用いて必要セカンダリプーリクランプ力マップが検索され、必要セカンダリプーリクランプ力が取得される。
続くステップS204では、変速比iを用いて学習補正係数テーブルが検索され、学習補正係数Cが取得される。続いて、ステップS206では、上記(1)式を用いて目標セカンダリプーリクランプ力が求められる。なお、目標セカンダリプーリクランプ力の求め方については、上述したとおりであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
そして、ステップS208では、目標セカンダリプーリクランプ力と実セカンダリプーリクランプ力とが一致するように、バルブボディ50の電磁ソレノイド等が駆動される。その後、本処理から一旦抜ける。
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、所定の学習条件が成立した場合に、入力トルクが略一定の状態で、セカンダリプーリクランプ力が徐々に下げられ、変速比が極小値をとるときのセカンダリプーリクランプ力が学習値として取得され、取得された学習値を用いて、目標セカンダリプーリクランプ力が調節(補正)される。すなわち、セカンダリプーリクランプ力を下げつつ、変速比が極小値をとるときのセカンダリプーリクランプ力を検出して学習することで、実際にグロススリップする直前のセカンダリプーリクランプ力(油圧)を学習することができる。そして、その学習値を用いて目標セカンダリプーリクランプ力を調節ことで、実際にグロススリップが生じる直前までセカンダリプーリクランプ力(油圧)を下げることができる。すなわち、余分なマージンを下げることができる。その結果、バリエータのクランプ力を、チェーン36がグロススリップしない範囲で、できる限り低減することが可能となる。
本実施形態によれば、車速が所定速度以上で、該車速の変動幅が所定範囲内(すなわち略一定)であり、入力トルクの変動幅が所定範囲内(略一定)であり、かつ、変速比が、プライマリプーリ34又はセカンダリプーリ35が機械的なストッパ(メカニカルストッパ)に当接している最低速変速比(最もロー側の変速比)又は最高速変速比(最もハイ側の変速比)である場合に、学習条件が成立したと判断される。そのため、比較的安定した走行状態でセカンダリプーリクランプ力を変えて学習を実行することができる。
本実施形態によれば、最低速変速比(最もロー側の変速比)と最高速変速比(最もハイ側の変速比)とにおいて学習が行われ、最低速変速比(最ロー)と最高速変速比(最ハイ)とにおいて学習値が取得されるとともに、最低速変速比と最高速変速比との間の学習値が直線補間により内挿される。そのため、変速比毎の学習値を取得して記憶することができる。また、学習値を、変速比毎に目標セカンダリプーリクランプ力(油圧)の演算に反映させることができる。
本実施形態によれば、定期的に繰り返して学習が実行され、定期的に学習値が取得される。そのため、例えば、個別の経時変化にも対応することができ、スリップに対するロバスト性も確保することができる。
本実施形態によれば、変速比および入力トルクに応じて設定される必要セカンダリプーリクランプ力が、セカンダリプーリクランプ力のデフォルト値(初期設定値)と学習値との比である学習補正係数で除算されて、目標セカンダリプーリクランプ力が算出される。そのため、学習値を適切に目標セカンダリプーリクランプ力(油圧)に反映することができる。
本実施形態によれば、学習を開始した際に、変速比の変化勾配が負の場合には、セカンダリプーリクランプ力が所定値まで上昇された後、セカンダリプーリクランプ力が徐々に下げられる。ところで、変速比の変化勾配が負の場合には、既に変速比が極小値を超えていると推定され、そのままセカンダリプーリクランプ力(油圧)を下げていくとチェーン36がグロススリップするおそれがある。そのため、セカンダリプーリクランプ力を所定値まで上昇することにより、チェーン36がグロススリップすることを防止、すなわち、バリエータの保護を図ることができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明をチェーン式の無段変速機(CVT)に適用したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機等にも適用することができる。
また、システム構成は、上記実施形態には限られない。例えば、上記実施形態では、エンジン10を制御するECU60と、無段変速機30を制御するTCU40とを別々のハードウェアで構成したが、一体のハードウェアで構成してもよい。
さらに、上記実施形態では、セカンダリプーリクランプ力を補正する際に、学習補正係数Cを除算項として取り扱ったが、減算項(又は加算項)としてもよい。
なお、上記実施形態では、エンジントルクに応じてセカンダリプーリ35のクランプ力を制御する構成としたが、エンジントルクに応じてプライマリプーリ34のクランプ力を制御する構成としてもよい。