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JP2022022915A - 鋼材 - Google Patents

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JP2022022915A
JP2022022915A JP2020119470A JP2020119470A JP2022022915A JP 2022022915 A JP2022022915 A JP 2022022915A JP 2020119470 A JP2020119470 A JP 2020119470A JP 2020119470 A JP2020119470 A JP 2020119470A JP 2022022915 A JP2022022915 A JP 2022022915A
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JP2020119470A
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隆行 米澤
Takayuki Yonezawa
鉄平 大川
Teppei Okawa
浩史 中村
Hiroshi Nakamura
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Nippon Steel Corp
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Abstract

【課題】厚さ方向およびそれに直交する方向のいずれにおいても耐疲労き裂伝播特性に優れ、高い強度を有する鋼材を提供する。
【解決手段】鋼材の化学組成が、質量%で、C:0.01~0.30%、Si:0.03~0.60%、Mn:0.50~2.50%、P:0.030%以下、S:0.010%以下、Al:0.002~0.050%、N:0.0010~0.0080%、Ti:0.003~0.030%、残部:Feおよび不純物であり、Ceqが0.25~0.55であり、鋼材の表面から1/4tの位置における金属組織が、ベイナイト、マルテンサイト、および高ひずみフェライトから選択される1種以上を、合計の面積%で、15%以上含み、鋼材の圧延方向が長手方向と一致するように採取された試験片を用いた引張試験において、上降伏点σSUと下降伏点σSLとの比σSL/σSUが0.97以上である、鋼材。
【選択図】 なし

Description

本発明は、鋼材に関する。
近年、船舶、海洋構造物、橋梁、建設機械、建築物、タンクなどの溶接構造物を建造するにあたっては、設計の合理化、使用する鋼材重量の低減、および薄肉化による溶接施工の省力化を図るため、高強度鋼材が適用される事例が多くなってきている。このため、適用される高強度鋼材には、優れた延性に加えて、構造安全性を確保するため、優れた耐疲労特性を有していることが要求されている。
溶接構造物では、溶接止端部から疲労き裂が発生し、溶接構造物の鋼材中を伝播して、破壊(疲労破壊)する事例が多い。これは、溶接止端部がその形状から応力集中部となりやすいことに加えて、溶接後に引張の残留応力が生じることなどに起因するとされている。
仮に、疲労き裂が発生したとしても、その後の鋼材中のき裂伝播速度を低減させることができれば、溶接構造物の疲労寿命を延長することができる。このようなことから、鋼材の耐疲労き裂伝播特性を向上させることが強く要望されている。
このような要望に対し、例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.06~0.20%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.10%以下、S:0.006%以下、Al:0.10%以下を含み、平均で150HV未満の硬さを有するフェライト相を体積率で60%以上含み、第二相が平均で240HV未満の硬さを有する相で、板厚中央位置および板厚1/4位置における(200)面のX線回折強度比が2.0以上または(110)面のX線回折強度比が2.5以上で、かつ{100}面、{110}面、{111}面、{211}面のうちのいずれかの面が、圧延面に対して5°以内に揃ったフェライト粒コロニーの板厚方向の厚さが、板厚中央位置および板厚1/4位置において平均で5μm以下である溶接構造用厚鋼板が記載されている。
また、特許文献2には、質量%で、C:0.03~0.15%、Si:0.60%以下、Mn:0.80~1.80%を含み、Ti:0.005~0.050%、Nb:0.001~0.1%のうちから選ばれた1種または2種を含む組成を有し、表裏面から板厚方向に2mmの位置から板厚方向の3/10位置までの範囲で、板面に平行な(110)面のX線強度比が2.0以上である厚鋼板が記載されている。
特開2008-214646号公報 特開2010-242211号公報
特許文献1および2に記載された技術では、α-γ二相域またはフェライト単相域で強加工を施して、特定方位の集合組織を発達させている。
さらに、特許文献1および2に記載された技術によれば、板厚方向における疲労き裂伝播速度は低減することができるが、板厚方向以外の方向における疲労き裂伝播速度の低減については一切考慮されていない。実際の溶接構造物においては、鋼材の厚さ方向のみならず幅方向および長さ方向などにも、疲労き裂は伝播し、破壊に至るケースが多々ある。特許文献1および2に記載された技術には、一方向の疲労き裂伝播速度を極度に低減させた代償として、例えば、鋼板の長さ方向の疲労き裂が加速され進展して、終局的な破壊に至る可能性が内包されている。
本発明は、従来技術の問題を解決し、厚さ方向およびそれに直交する方向のいずれにおいても耐疲労き裂伝播特性に優れ、高い強度を有する鋼材を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の鋼材を要旨とする。なお、本発明における「鋼材」には、厚鋼板、鋼管、形鋼、薄鋼板等が含まれるものとする。
(1)鋼材の化学組成が、質量%で、
C :0.01~0.30%、
Si:0.03~0.60%、
Mn:0.50~2.50%、
P :0.030%以下、
S :0.010%以下、
Al:0.002~0.050%、
N :0.0010~0.0080%、
Ti:0.003~0.030%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で定義される炭素当量Ceqの値が0.25~0.55であり、
前記鋼材の圧延方向および厚さ方向に平行な断面において、前記鋼材の厚さをtとした時に、前記鋼材の表面から1/4tの位置における金属組織が、ベイナイト、マルテンサイト、およびKAM値が0.5°以上の値を有する高ひずみフェライトからなる群から選択される1種以上を、合計の面積%で、15%以上含み、
前記鋼材の圧延方向が長手方向と一致するように採取された試験片を用いた引張試験において、上降伏点σSUと下降伏点σSLとの比σSL/σSUが0.97以上である、
鋼材。
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合はゼロとする。
(2)前記化学組成が、下記(ii)式を満足する、
上記(1)に記載の鋼材。
0.5≦Ti/N≦5.0 ・・・(ii)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
(3)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
Cu:2.00%以下、
Ni:3.00%以下、
Cr:1.00%以下、
Mo:1.00%以下、
Nb:0.060%以下、
V :1.00%以下、および
B :0.0030%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有するものである、
上記(1)または(2)に記載の鋼材。
(4)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
Ca:0.010%以下、
Mg:0.010%以下、および
REM:0.010%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有するものであり、かつ
下記(iii)式を満足する、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の鋼材。
0.0005≦Ca+Mg+REM≦0.0080 ・・・(iii)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合はゼロとする。
(5)前記鋼材の表面から1/2tの位置における平均転位密度が3.0×1014/m以上である、
上記(1)から(4)までのいずれかに記載の鋼材。
本発明によれば、厚さ方向およびそれに直交する方向のいずれにおいても耐疲労き裂伝播特性に優れ、高い強度を有する鋼材を得ることが可能である。
板内方向の疲労き裂伸展試験に用いるCT試験片の寸法を示す図である。 板厚方向の疲労き裂伸展試験に用いる3点曲げ試験片の寸法を示す図である。
本発明者らは、鋼の組織と耐疲労き裂伝播特性との関係について種々研究を重ねた。その結果、疲労き裂先端近傍の組織が繰返し軟化した場合、き裂閉口荷重が上昇し、き裂伝播速度を低減できることを知見した。そして、転位密度の高い組織の割合を一定以上確保するとともに、引張試験における上降伏の発現を抑制することにより、繰返し負荷により組織が軟化し、き裂伝播方向に依らず、き裂伝播速度を顕著に低減させることができることを見出した。
このメカニズムについて、本発明者らは可動転位密度が関与していると推測している。繰返し軟化特性は、組織中の転位の中でも可動転位の密度に依存し、可動転位密度を十分高くすることで、疲労き裂先端の組織が繰返し軟化し、き裂伝播方向に依らず、耐疲労き裂伝播特性を向上させることが可能となると考えている。転位密度の高い組織は、後述するEBSDによって特定できるが、可動転位と不動転位とを区別することは難しい。そのため、可動転位密度の直接的な測定は困難であるが、転位密度の高い組織の割合および引張試験における上降伏の有無が、可動転位密度の指標となると推測するに至った。
また、本発明者らは、オーステナイトを低温で変態させ、かつ変態後の温度履歴を適正範囲に調整することにより、転位密度の高い組織の割合が一定以上であり、かつ引張試験における上降伏の発現が抑制された鋼板を、生産性を損なうことなく得られることを突き止めた。さらに、化学組成および製造条件を適正範囲に調整することにより、鋼材の厚さを問わず所望の強度、延性、靭性を安定して得られることを見出した。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
(A)化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.01~0.30%
Cは、固溶強化さらには焼入れ性向上を介して、強度増加に寄与する元素である。このような効果により所望の高強度を確保するためには、C含有量を0.01%以上とする。一方、溶接性および継手靭性の低下を抑制するとともに、繰返し軟化に寄与する可動転位量の減少を抑制するためには、C含有量を0.30%以下とする。C含有量は0.04%以上であるのが好ましく、0.20%以下であるのが好ましい。
Si:0.03~0.60%
Siは、安価な脱酸元素であり、固溶強化を介して強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、Si含有量を0.03%以上とする。一方、溶接性および継手靭性の低下を抑制するためには、、Si含有量を0.60%以下とする。溶接性、または母材および継手靭性への要求が厳しい鋼材の場合は、Si含有量は0.03%以上であるのが好ましく、0.50%以下であるのが好ましい。
Mn:0.50~2.50%
Mnは、母材の強度および靭性を向上させる元素として有効である。このような効果を得るためには、Mn含有量を0.50%以上とする。一方、溶接性および継手靭性の低下を抑制するためには、Mn含有量を2.50%以下とする。Mn含有量は0.80%以上であるのが好ましく、0.90%以上であるのがより好ましい。また、Mn含有量は2.00%以下であるのが好ましく、1.80%以下であるのがより好ましい。
P:0.030%以下
Pは、鋼材中へ不可避的に存在する。Pは脆化を促進させることから、P含有量を0.030%以下とする。P含有量は、できるだけ少ないことが望ましい。しかしながら、Pを低減することは溶製上、多大なコストアップを招き、実用性を損なうことから、P含有量は0.001%以上であってもよい。P含有量は0.025%以下であるのが好ましい。
S:0.010%以下
Sは、不可避不純物であり、鋼材中では硫化物系介在物として存在する。Sは機械的性質、特に延性および靭性を著しく劣化させる。そのため、S含有量を0.010%以下とする。延性および靭性を確保するためには、S含有量は少ないほど望ましく、S含有量は0.005%以下であるのが好ましい。ただし、Sを低減することはコストアップを招くことから、S含有量は0.001%以上であってもよい。
Al:0.002~0.050%
Alは、脱酸元素であるとともに、AlNによりオーステナイト粒径の微細化に有効な元素である。このような効果を発揮するためには、Al含有量を0.002%以上とする。一方、鋼片の表面品位の低下や靭性に有害な介在物の形成を抑制するためには、Al含有量を0.050%以下とする。Al含有量は0.020%以上であるのが好ましく、0.040%以下であるのが好ましい。
N:0.0010~0.0080%
Nは、Alと共に窒化物を形成し、オーステナイト粒径の微細化に有効な元素である。このような効果を発揮するためには、N含有量を0.0010%以上とする。一方、固溶Nによる脆化および伸び特性の低下を抑制するためには、N含有量を0.0080%以下とする。N含有量は0.0015%以上であるのが好ましい。また、N含有量は0.0060%以下であるのが好ましく、0.0050%以下であるのがより好ましい。
Ti:0.003~0.030%
Tiは、微量の含有により延性向上に寄与する。このような効果を発揮するためには、Ti含有量を0.003%以上、0.030%以下とする。Ti含有量は0.006%以上であるのが好ましく、0.020%以下であるのが好ましい。
また、N含有量に対するTi含有量の比率を0.5以上にすることにより、固溶Nを低減し、伸び特性を向上させるだけでなく、スラブの表面疵の発生を防止することが可能となる。さらに、N含有量に対するTi含有量の比率を5.0以下にすることにより、TiCの生成を抑制し、伸び特性を向上させることができる。そのため、優れた延性を得たい場合には、Ti含有量はN含有量との関係において、下記(ii)式を満足することが好ましい。
0.5≦Ti/N≦5.0 ・・・(ii)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
本発明の鋼材の化学組成において、上記の元素に加えて、強度の向上を目的として、さらにCu、Ni、Cr、Mo、Nb、VおよびBからなる群から選択される少なくとも1種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
Cu:2.00%以下
Cuは、固溶して強度増加に寄与するとともに、耐全面腐食性および耐局部腐食性向上にも有効であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cu含有量が過剰であると、鋼片の表面割れの助長、継手靭性の劣化等、悪影響も顕在化する。そのため、Cu含有量は2.00%以下とする。Cu含有量は1.50%以下であるのが好ましく、1.00%未満であるのがより好ましい。上記の効果をより確実に得たい場合は、Cu含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.03%以上であるのがより好ましい。
Ni:3.00%以下
Niは、強度確保および靭性向上に有効であるとともに、Cuを添加した場合に生ずる熱間脆性の改善に有効に寄与するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Ni含有量が過剰であると、溶接性が低下するとともに、コストが上昇する。そのため、Ni含有量は3.00%以下とする。Ni含有量は2.00%以下であるのが好ましい。上記の効果をより確実に得たい場合は、Ni含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.03%以上であるのがより好ましい。
Cr:1.00%以下
Crは、焼入れ性を向上させ、強度増加に寄与するとともに、耐候性の向上にも寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cr含有量が過剰であると、溶接性、靭性が低下する。そのため、Cr含有量は1.00%以下とする。Cr含有量は0.50%以下であるのが好ましい。上記の効果をより確実に得たい場合は、Cr含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.03%以上であるのがより好ましい。
Mo:1.00%以下
Moは、強度増加に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Mo含有量が過剰であると、溶接性、靭性の低下を招くとともに、コストが上昇する。そのため、Mo含有量は1.00%以下とする。Mo含有量は0.50%以下であるのが好ましい。上記の効果をより確実に得たい場合は、Mo含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.03%以上であるのがより好ましい。
Nb:0.060%以下
Nbは、微量の添加により組織微細化に寄与し、母材強度確保に有効な元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nb含有量が過剰であると、溶接部を硬化させて著しく靭性を劣化させる。そのため、Nb含有量は0.060%以下とする。Nb含有量は0.030%以下であるのが好ましい。上記の効果をより確実に得たい場合は、Nb含有量は0.002%以上であるのが好ましく、0.003%以上であるのがより好ましい。
V :1.00%以下
Vは、析出強化により強度上昇に寄与するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、V含有量が過剰であると、継手靭性を損なうことがある。そのため、V含有量は1.00%以下とする。V含有量は0.50%以下であるのが好ましい。上記の効果をより確実に得たい場合は、V含有量は0.01%以上であるのが好ましく、0.03%以上であるのがより好ましい。
B :0.0030%以下
Bは、微量添加により焼き入れ性を高め母材強度向上に寄与するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、B含有量が過剰であると、伸びおよび継手靭性を劣化させる。そのため、B含有量は0.0030%以下とする。上記の効果をより確実に得たい場合は、B含有量は0.0003%以上であるのが好ましい。
本発明の鋼材の化学組成において、上記の元素に加えて、靭性および延性等の向上を目的として、さらにCa、MgおよびREMからなる群から選択される少なくとも1種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
Ca:0.010%以下
Mg:0.010%以下
REM:0.010%以下
Ca、MgおよびREMは、いずれも硫化物を形成することで粗大な介在物(延伸MnS等)の生成を抑制するため、必要に応じて含有させてもよい。一方、いずれの含有量も過剰になれば効果は飽和し、粗大な酸化物または硫化物を形成して靭性および伸びを劣化させる。そのため、Ca、MgおよびREMの含有量は、いずれも0.010%以下とする。Ca、MgおよびREMの含有量は、いずれも0.008%以下であるのが好ましい。
優れた延性を得たい場合には、これらの元素の合計含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。また、粗大な酸化物または硫化物による靭性および伸び特性の劣化を防止する観点からは、これらの元素の合計含有量を0.0080%以下とすることが好ましい。
すなわち、下記(iii)式を満足することが好ましい。上記合計含有量は0.0010%以上であるのがより好ましく、0.0015%以上であるのがさらに好ましい。また、上記合計含有量は0.0060%以下であるのがより好ましく、0.0040%以下であるのがさらに好ましい。
0.0005≦Ca+Mg+REM≦0.0080 ・・・(iii)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合はゼロとする。
ここで、本発明において、REMはSc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。なお、ランタノイドは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加される。
Ceq:0.25~0.55
本発明の鋼材は、上記した組成を有し、さらに、焼入れ性および溶接性の指標として、下記(i)式で定義される炭素当量Ceqの値を0.25~0.55とする。
Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合はゼロとする。
加速冷却工程において所望の組織を得る観点から、上記した(i)式で定義される炭素当量Ceqを0.25以上とする。また、延性、靭性、および溶接性の低下を抑制する観点から、Ceqを0.55以下とする。Ceqは0.27以上であるのが好ましく、0.45以下であるのが好ましい。
本発明の鋼材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。不純物としては、例えば、O:0.01%以下が許容できる。
(B)金属組織および機械的特性
本発明の鋼材の金属組織について説明する。なお、以下の説明において「%」は、「面積%」を意味する。また、本発明では、鋼材の圧延方向断面において、鋼材の厚さをtとした時に、該鋼材の表面から1/4tの位置における組織を該鋼材の「金属組織」とする。ここでいう鋼材の厚さとは、鋼板の場合は板厚、鋼管の場合は肉厚、形鋼の場合はフランジの板厚を意味する。
ベイナイト、マルテンサイト、および高ひずみフェライト:合計で15%以上
本発明において、所望の繰返し軟化特性を得るのに必要な可動転位は、オーステナイトを低温で変態させることにより導入させる。ベイナイト、マルテンサイト、およびKAM(Kernel Average Misorientation)値が0.5°以上の値を有する高ひずみフェライトからなる群から選択される1種以上の組織(以下、これらの組織をまとめて「高転位密度組織」ともいう。)の合計面積率が15%未満であると、可動転位密度が不足して所望の繰返し軟化特性が発現せず、優れた耐疲労き裂伝播特性を得ることができない。そのため、高転位密度組織の面積率は、合計で15%以上とする。高転位密度組織の面積率は、30%以上であるのが好ましく、100%であってもよい。なお、KAM値が0.5°以上の値を有する高ひずみフェライトには、ベイニティックフェライト、ウイッドマンステッテンフェライト、およびアシキュラーフェライト等が含まれる。
残部の組織は、KAM値が0.5°未満の値を有する低ひずみフェライトおよびパーライトであり、残留オーステナイト(残留γ)等が含まれてもよい。
ここで、本発明において、金属組織の面積率は以下のように求める。上述のように、まず、鋼材の圧延方向および厚さ方向に平行な断面において、鋼材の厚さをtとした時に、鋼材の表面から1/4tの位置から試料を採取する。そして、該試料の圧延方向断面(いわゆるL方向断面)を観察する。
具体的には、前記試料の観察面を鏡面に研磨し、電解研磨によってひずみ影響層を除去した後、1以上の視野にて、合計で2.0×10-8以上の面積に、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission Scanning Electron Microscope)を用いて、後方電子線回折解析(EBSD:Electron Back Scattering Diffraction)を行い、KAMにより各測定点周辺における局所方位差をマップ化する。次いで、EBSD測定した領域をナイタール腐食した後、FE-SEM(観察倍率1000倍)にて、炭化物析出を観察した。
KAM法とは、測定データの中の、ある正六角形のピクセルの隣り合う6個(第一近似)、さらに、その外側の12個(第二近似)、また、さらに、その外側の18個(第三近似)のピクセル間の方位差を平均し、その値を、その中心のピクセルの局所方位差(KAM値)とする計算を各ピクセルに行う方法である。
本発明では、測定ステップを0.2μmとし、第三近似のKAM値が、1°以上かつ炭化物が析出していない領域をマルテンサイト、1°以上かつ炭化物が析出している領域をベイナイト、1°以下かつ0.5°以上の領域を高ひずみフェライトと定義した。
σSL/σSU:0.97以上
上述のように、疲労き裂先端近傍の組織が繰返し軟化するためには、特に可動転位密度を高める必要がある。そして、可動転位密度を高めるためには、高転位密度組織の面積率を上記の範囲にすることに加えて、圧延方向の引張特性において、上降伏点σSUと下降伏点σSLとの比σSL/σSUが0.97以上である必要がある。σSL/σSUが0.97未満の場合には、転位が不動化しており、優れた耐疲労き裂進展特性に必要な繰返し軟化特性を得難くなる。
上降伏点σSU、および下降伏点σSLは、JIS Z 2241:2011に準拠して測定する。具体的には、鋼板の場合は、鋼板の板厚をt、幅をWとした時に、表面から1/2tの位置かつ鋼板の端面から1/4Wの位置から圧延方向に平行な方向に採取した、1B号引張試験片を用いる。また、鋼管である場合は、鋼材の表面から1/2tの位置から圧延方向に直交する方向に採取した、14B号試験片を用いる。さらに、形鋼である場合は、フランジの板厚をt、幅をFとした時に、フランジの表面から1/2tの位置かつフランジの外側から1/2Fの位置から圧延方向に直交する方向に採取した、1B号試験片を用いる。なお、上降伏点、下降伏点が観測されない場合は、σSL/σSU=1.0とみなす。
平均転位密度:3.0×1014/m以上
上述のように、可動転位密度を高めるため、高転位密度組織を所定量以上確保する。高転位密度組織の割合が高いことは、金属組織中の転位密度の増加を意味する。すなわち、可動転位密度をより確実に高めるためには、平均転位密度は3.0×1014/m以上であることが好ましい。平均転位密度に上限を設ける必要はないが、過剰に高いと延性が著しく劣化するおそれがある。そのため、平均転位密度は14.0×1014/m以下であることが好ましい。
平均転位密度は、以下の方法で求めることができる。まず、鋼材から、試験片の厚さ方向が鋼材の厚さ方向と一致するように、転位密度測定用の試験片を採取する。鋼材の形状にもよるが、試験片の大きさは、例えば、幅20mm×長さ20mm×厚さ2mmである。この場合、試験片の測定面は、幅20mm×長さ20mmの面である。鋼板の場合は、表面から1/2tの位置かつ鋼板の端面から1/4Wの位置から試験片を採取する。鋼管の場合は、表面から1/2tの位置から試験片を採取する。また、形鋼の場合は、フランジの表面から1/2tの位置かつフランジの外側から1/2Fの位置から試験片を採取する。
試験片の観察面を鏡面研磨し、さらに、10体積%の過塩素酸(酢酸溶媒)を用いて電解研磨を行い、表層の加工ひずみを除去する。処理後の測定面に対して、X線回折法(XRD:X-Ray Diffraction)により、体心立方構造(鉄)の(110)、(211)、(220)面のピークの半値幅βを求める。
XRDにおいては、線源をCoKα線、管電圧を30kV、管電流を10mAとして、半値幅βを測定する。さらに、X線回折装置由来の半値幅を測定するため、LaB(六ホウ化ランタン)の粉末を用いる。
上述の方法で求めた半値幅βとWilliamson-Hallの式(下記(I)式)から、試験片の不均一ひずみεを求める。
β×cosθ/λ=0.9/D+2ε×sinθ/λ ・・・(I)
ここで、θ:回折角度(rad)、λ:X線の波長(nm)、D:結晶子径(nm)
さらに、求めた不均一ひずみεと下記(II)式とを用いて、平均転位密度ρ(m-2)を求めることができる。
ρ=14.4×ε/b ・・・(II)
ここで、b:体心立方構造(鉄)のバーガースベクトル(b=0.248(nm))
本発明における鋼材は、厚さ方向およびそれに直交する方向のいずれにおいても耐疲労き裂伝播特性に優れ、高い強度を有する。
本発明において、「高い強度」とは、引張強さTS:490MPa以上である場合をいう。また、「耐疲労き裂伝播特性に優れる」とは、き裂伝播方向によらず、疲労き裂伝播速度da/dNが、少なくともΔK:15MPa・m0.5で1.60×10-8(m/cycle)以下、ΔK:25MPa・m0.5で8.0×10-8(m/cycle)以下である場合をいう。
なお、上記した各応力拡大係数範囲におけるき裂伝播速度の上限値は、材料学会編「金属材料疲労き裂進展抵抗データ集」vol.1、p55に記載されたNK船級KA鋼についての応力拡大係数範囲と疲労き裂伝播速度の関係のデータバンド上限を基準値として、同じ応力拡大係数範囲で疲労き裂伝播速度が基準の1/2以下となる場合を目安として決定した。
繰返し軟化率:0.96以下
本発明に係る鋼材は、繰返し応力-ひずみ曲線測定試験で、最大引張・圧縮ひずみ±0.010、繰返しひずみ速度0.8%/s、最大ひずみまでの波数10、最大ひずみからひずみ零までの波数10の漸増・漸減繰り返し負荷を20回与えたときの1回目の最大ひずみ時の応力σと15回目から20回目までにおける最大ひずみ時の応力の平均値σ15-20との比σ15-20/σで示される繰返し軟化率が0.96以下となる、繰返し軟化特性を有することが好ましい。
なお、鋼板の場合は、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、該鋼板の端面から1/4Wで、かつ、該鋼板の表面から1/2tの位置における圧延方向および幅方向の繰返し応力-ひずみ曲線測定試験で繰返し軟化率を測定する。鋼管の場合は、鋼管の表面から1/2tの位置における圧延方向の繰返し応力-ひずみ曲線測定試験で繰返し軟化率を測定する。また、形鋼の場合は、フランジの表面から1/2tの位置かつフランジの外側から1/6Fの位置における圧延方向およびフランジ高さ方向の繰返し応力-ひずみ曲線測定試験で繰返し軟化率を測定する。
前記繰返し応力-ひずみ曲線測定試験では、鋼材に負荷するひずみは、引張と圧縮とが交互に付与される両振り波形とし、漸増・漸減波形にてひずみ漸増後のひずみ範囲は0.024とし、ひずみ制御により繰返しひずみ速度0.8%/sとした。ひずみ漸増過程では12波で最大ひずみに達し、ひずみ漸減過程でも12波でひずみ量が0となるようにする。この漸増・漸減過程を1ブロックとし、第1ブロック目の最大ひずみに対応する応力を応力σ、第15ブロック目から第20ブロック目までのそれぞれのブロックにおける最大ひずみに対応する応力の平均値をσ15-20とする。
このようにして求めた繰返し軟化率σ15-20/σは、応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m0.5から25MPa・m0.5の条件にて伝播した疲労き裂先端近傍における組織の繰返し軟化特性と良好な相関関係を示す。なお、ここでいう「疲労き裂先端近傍」とは、最大荷重時に引張塑性変形し、最小荷重時に圧縮塑性変形するき裂先端の繰返し塑性域をいう。
疲労き裂先端近傍が繰返し軟化することで、疲労き裂が閉口する応力拡大係数Kclが上昇し、疲労き裂伝播速度が遅くなる。き裂伝播方向に依らず優れた耐疲労き裂進展特性を得るには、圧延方向および幅方向における繰返し軟化率σ15-20/σが0.96以下であることが好ましい。
繰返し軟化による疲労き裂伝播の低下は、繰返し軟化率が0.94以下では、ほぼ飽和するため、繰返し軟化を最大限活用できる望ましい範囲は、繰返し軟化率σ15-20/σが0.94以下である。なお、繰返し軟化率が過剰に低いと、鋼材が脆化するおそれがあるため、0.80以上であるのが好ましい。
(D)製造方法
本発明に係る鋼材の製造条件について特に制限はないが、上記の化学組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉、真空溶解炉等の公知の方法を用いて溶製し、得られた鋼素材に、後述する熱間圧延工程および加速冷却工程を順に行うことで製造することができる。各工程について説明する。
熱間圧延工程においては、上記の化学組成を有する鋼素材を加熱温度:900~1300℃の温度範囲まで加熱した後、Arを超えて900℃以下の温度範囲内で累積圧下率:50~75%となる熱間圧延を施す。なお、温度は鋼材表面温度とする。
加熱温度:900~1300℃
鋼素材の加熱温度が900℃未満では、変形抵抗が高くなり圧延機への負荷が増大し、生産性が低下する。一方、再加熱温度が1300℃を超えると、加熱時のスケールによって表面疵が生じやすく、圧延後の手入れ負荷が増大することに加えて、結晶粒が粗大化し、所望の靭性を確保できにくくなる。このため、鋼素材の再加熱温度は900~1300℃の範囲とする。
Arを超えて900℃以下の温度範囲内での累積圧下率:50~75%
再加熱された鋼素材を、所望の板厚および形状が満足できるように熱間圧延する。延性の向上を図る場合、熱間圧延を施す時に、粗圧延した後、鋼片の表面温度がArを超えて900℃以下の温度範囲内で、累積圧下率が50~75%となる条件で仕上圧延を行う。
Arは鋼を冷却する際のフェライト変態開始温度であり、下記(v)式で求められる。ここで、鋼組成としてのArの値が大きいほど高温でフェライト変態するため、フェライト粒内の転位密度が低下し、伸び特性が向上するが、耐疲労き裂伝播特性が劣化する。したがって、Arは820℃以下であるのが好ましい。
Ar=910-310×C+65×Si-80×Mn-20×Cu-55×Ni-15×Cr-80×Mo ・・・(v)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない元素は0として計算するものとする。
仕上圧延における終了温度がAr以下では2相域圧延となり、延伸したフェライトを形成し、厚さ方向に直交する方向における耐疲労き裂伝播特性が劣化する。一方、仕上圧延における終了温度が900℃超では再結晶域圧延となり、フェライトが粗大化して強度-延性バランスを劣化させる。
また、累積圧下率が50%以上であると、オーステナイト中のフェライト核生成サイトが増え、フェライトを細粒化することで、伸びと強度がバランス良く向上する。一方、累積圧下率が75%を超えると生産性が劣化する。そのため、累積圧下率を50~75%とする。累積圧下率は55~65%とするのが好ましい。
次に、加速冷却工程においては、Ar-50℃以上の温度域から、下記(iv)式で求められるT℃以下の温度域まで冷却を施し、積算焼戻しパラメータが16500以下となる条件で冷却を終了する。ここでの温度も鋼材の表面温度である。
=511+254×C+18.2×Mn+10.6×Ni+7.26×Cr+4.5×Mo・・・(iv)
なお、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない元素は0として計算するものとする。
また、加速冷却の開始温度からT℃までの平均冷却速度は、例えば、25℃/sを超えて70℃/s以下とする。なお、平均冷却速度は鋼材の厚さ方向での平均値を用いるものとする。鋼材内部での冷却速度が遅くなると、鋼材内部で焼きが十分に入らずに転位密度が低下するだけでなく、σSL/σSUが低下するおそれがある。その場合、鋼材の疲労き裂伝播速度が低下するおそれがある。よって、鋼材の表面だけでなく内部の冷却速度も考慮し、上記のように鋼材の厚さ方向での平均冷却速度を25℃/sを超えて70℃/s以下とする。板厚内部の冷却速度は、鋼材表面温度から伝熱解析によって求める。
加速冷却開始温度:Ar-50℃以上
加速冷却開始温度が、Ar-50℃未満では、組織がフェライト+パーライト主体の組織となり、所望の高強度を確保できなくなるとともに、転位密度が低下し、耐疲労き裂伝播特性が劣化する。
加速冷却停止温度:T℃以下
加速冷却の停止温度がT℃を超える温度域では、転位の回復および固溶Cによる転位のピン止めが生じるため、所望の繰返し軟化特性が確保できず、耐疲労き裂伝播特性が劣化する。そのため、加速冷却停止温度はT℃以下とする。より好ましくは、T-30℃以下である。停止温度の下限は特に制限はないが、200℃未満となると延性の劣化を招くとともに生産性を低下させるため、延性または生産性の向上を図る場合は、200℃以上が好ましい。
平均冷却速度:25℃/sを超えて70℃/s以下
加速冷却の開始温度からT℃までの平均冷却速度が、25℃/s以下では、組織がフェライト+パーライト主体の組織となり、所望の高強度を確保できなくなるとともに、転位密度が低下し、耐疲労き裂伝播特性が劣化する。一方、70℃/sを超えると、延性および靭性を劣化させる。よって、平均冷却速度は25℃/sを超えて70℃/s以下とする。
積算焼戻しパラメータ:16500以下
加速冷却過程の変態によって導入された転位は、加速冷却過程および加速冷却後の放冷過程で転位の回復および固溶Cによる転位のピン止めが生じる。加速冷却において、T℃以下となって以降の冷却過程および加速冷却後の放冷過程における積算焼戻しパラメータLMPが16500を超えた場合、顕著な転位の回復および固溶Cによる転位のピン止めが生じるため、所望の繰返し軟化特性が確保できず、耐疲労き裂伝播特性が劣化する。そのため、加速冷却においてT℃以下となって以降の冷却過程および加速冷却後の放冷過程における積算焼戻しパラメータLMPは、16500以下とする。より好ましくは、15000以下である。
積算焼戻しパラメータLMPは、以下の方法で求めることができる。加速冷却においてT℃以下となった時点を基準に以降の冷却過程および加速冷却後の放冷過程の温度履歴を計測する。そして、下記(III)式、および(IV)式から積算等価焼戻し時間τ(h)を求める。
Δτ=10(Ti+273)/(Tf+273)(20logti)-20 ・・・(III)
τ=ΣΔτ ・・・(IV)
但し、式中の各記号の意味は以下のとおりである。
:サンプリング時間(h)
:各サンプリング時間の平均温度(℃)
Δτ:各サンプリング時間の等価焼戻し時間(h)
さらに、求めた積算等価焼戻し時間τと下記(V)式とを用いて、積算焼戻しパラメータLMPを求めることができる。
LMP=T(20+logτ) ・・・(V)
なお、本発明では、上記した加速冷却工程、または焼入れ工程を終了した後、焼戻し工程を行ってもよい。焼戻し工程は、加速冷却工程を終了した後、室温まで冷却することなく、直ちにオンラインで実施してもよく、室温まで冷却した後、別ラインで再加熱して実施してもよい。
焼戻し工程は、積算焼戻しパラメータLMPが11000~16000となる焼戻し処理を施す工程とする。これにより、強度、延性、および靭性の調整を行うことができる。LMPが11000未満では、焼戻し処理を施しても延性および靭性には、ほとんど変化が生じない。一方、16000以上では、転位の回復および固溶Cによる転位のピン止めが生じるため、所望の繰返し軟化特性が確保できず、耐疲労き裂伝播特性が劣化する。このため、焼戻し処理における焼戻しパラメータLMPは11000~16000に限定する。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例に用いた供試鋼の化学組成を表1に示す。各供試鋼は造塊後、分塊圧延により、または連続鋳造により鋼片としたものである。
得られた鋼片から、表2に示す条件で鋼板を製造した。本実施形態においては鋼板としているが、これに限定されず、鋼管または形鋼であっても同様である。
Figure 2022022915000001
Figure 2022022915000002
得られた鋼板について、以下の方法により、金属組織観察を行い、各組織の面積率の測定を行った。まず、鋼板の圧延方向断面において、鋼板の幅および厚さをそれぞれWおよびtとしたときに、鋼板の端面から1/4Wで、かつ、鋼板の表面から1/4tの位置から金属組織観察用の試験片を切り出した。そして、試験片の圧延方向断面を鏡面に研磨し、電解研磨によってひずみ影響層を除去した後、200μm×150μmの視野にて、測定ステップを0.2μmでEBSDを行い、KAMを測定し、マップ化した。得られたKAMマップから、組織を同定するとともに、市販の画像解析ソフトを用いて、高転位密度組織の面積率を算出した。
また、前記鋼板から試験片を採取し、平均転位密度評価試験、引張試験、繰返し軟化率評価試験、疲労き裂進展試験を実施した。試験方法は次の通りとした。
(1)平均転位密度評価試験
前記鋼板の表面から1/2tの位置から、幅20mm×長さ20mm×厚さ2mmの転位密度測定用の試験片を採取し、幅20mm×長さ20mmの面を鏡面研磨し、さらに、10体積%の過塩素酸(酢酸溶媒)を用いて電解研磨を行い、表層の加工ひずみを除去した。そして、処理後の測定面に対して、X線回折法により、体心立方構造(鉄)の(110)、(211)、(220)面のピークの半値幅βを求めた。求めた半値幅βから、以下の(I)式から、試験片の不均一ひずみεを求め、(II)式を用いて、平均転位密度ρ(m-2)を算出した。
β×cosθ/λ=0.9/D+2ε×sinθ/λ ・・・(I)
ρ=14.4×ε/b ・・・(II)
但し、上記式中の各記号の意味は以下のとおりである。
θ:回折角度(rad)
λ:X線の波長(nm)
D:結晶子径(nm)
b:体心立方構造(鉄)のバーガースベクトル(b=0.248(nm))
(2)引張試験
引張試験は、JIS Z 2241:2011に準拠し、鋼板の表面から1/2tの位置から、引張方向が圧延方向に平行な方向となるよう、1B号引張試験片を採取し、引張試験を実施し、上降伏点σSUと下降伏点σSLの比σSL/σSU、0.2%耐力YS、引張強さTS、全伸びt-ELを求めた。なお、引張強さTSが490MPa以上、全伸びt-ELが、鋼板板厚が5mm超10mm以下で15%以上、鋼板板厚が10mm超15mm以下で16%以上、鋼板板厚が15mm超20mm以下で17%以上、鋼板板厚が20mm超25mm以下で18%以上、鋼板板厚が25mm超30mm以下で19%以上、鋼板板厚が30mm超40mm以下で20%以上、鋼板板厚が40mm超50mm以下で21%以上である場合を〇、それ以外を×とした。
(3)繰返し軟化率評価試験
鋼板の表面から1/2tの位置から、直径が10mmで、平行部長さが30mmであり、負荷方向が圧延方向と直交する方向(板幅方向)、および負荷方向が圧延方向となる、2種の丸棒試験片を採取した。そして、前記試験片の平行部に高精度伸び計を装着し、電気油圧式サーボ疲労試験機を用いて、ひずみ制御で、ひずみ漸増・漸減波形の軸力負荷を行った。ひずみ漸増の後のひずみ範囲は2.0%とし、漸増過程では10波で最大ひずみみに達し、漸減過程では10波でひずみ零となるようにした。この漸増、漸減過程を一組として、この一組を以下では「ブロック」という単位で表すこととした。第1ブロック目の最大ひずみに対応する応力を応力σ、第15ブロック目から第20ブロック目までのそれぞれのブロックにおける最大ひずみに対応する応力の平均値をσ15-20とし、繰返し軟化率σ15-20/σを算出した。なお、そのほかの負荷条件は下記の通りとした。
・応力比 : -1.0
・環境計 : 室温大気中
・ゲージ長さ : 25mm
・ひずみ速度 : 0.8%/s
(4)疲労き裂進展試験
板内方向の疲労き裂進展特性は、ASTM E647に準拠し、鋼板から疲労き裂が進展する方向が圧延方向と直交する方向(板幅方向)と、疲労き裂が進展する方向が圧延方向(板長方向)となる、2種のCT試験片を採取した。採取位置および試験片厚は、板厚25mm以下の鋼板では全厚、板厚25mm超の鋼板では鋼板の表面から1/2tの位置を中心に両面減厚して25mm厚とした。試験片寸法は図1に示すとおりであり、CT試験片を用いた疲労き裂伝播試験の条件は以下の通りとした。
・応力比 : 0.1
・試験周波数 : 15Hz
・環境 : 室温大気中
・き裂長さ測定: 背面ひずみゲージによる除荷弾性コンプライアンス法
・背面ゲージ長: 2mm
板厚方向の疲労き裂進展特性は、鋼板から疲労き裂が進展する方向が板厚方向となるよう図2に示す3点曲げ試験片を採取した。採取位置および試験片厚は、板厚10mm以下の鋼板では全厚、板厚10mm超の鋼板では鋼板の表面から1/2tの位置を中心に両面減厚して10mm厚とした。3点曲げ試験片を用いた疲労き裂伝播試験の条件は以下の通りとした。
・荷重負荷方式: 3点曲げ
・応力比 : 0.1
・環境 : 室温大気中
・き裂長さ測定: 直流電位差法
そして、疲労き裂が進展する時の応力拡大係数範囲ΔK:15MPa・m0.5における疲労き裂伝播速度が1.60×10-8(m/cycle)以下、ΔK:25MPa・m0.5における疲労き裂伝播速度が8.0×10-8(m/cycle)以下である場合を〇として評価した。それ以外の場合を×とした。
これらの測定結果を表3および4に示す。なお、表3における「繰返し軟化率」とは、負荷方向が板幅方向および圧延方向で測定した繰返し軟化率の平均値を意味し、表4における「き裂伝播方向:板内方向」とは、疲労き裂が進展する方向が板幅方向および圧延方向で測定したき裂伝播速度で、値が大きい方向における値を意味する。
Figure 2022022915000003
Figure 2022022915000004
試験No.1~26は、いずれも本発明の化学組成の鋼片を本発明の要件に従って製造した鋼材であり、高い強度と優れた延性とを兼備し、さらに疲労き裂伝播速度は、き裂の進展方向に依らず、応力拡大係数範囲ΔKが15MPa・m0.5のとき、1.60×10-8(m/cycle)以下、ΔKが25MPa・m0.5のとき、8.0×10-8(m/cycle)以下を満足し、優れた耐疲労き裂進展特性を有する鋼板となっている。試験No.35は、仕上圧延における終了温度が高かったため延性が劣化する結果となったが、優れた耐疲労き裂進展特性を有する鋼板となっている。
一方、試験No.27および28は、本発明の製造要件は満足しているが、化学組成が規定範囲から外れている。No.27は、C含有量が高く、繰返し軟化率が本発明の規定を満足しないため、板内方向のき裂伝播速度が劣り、また炭素当量Ceqも高いため、延性にも劣った。また、No.28は、炭素当量Ceqが小さいため、高転位密度組織の面積率、平均転位密度が小さく、繰返し軟化率が本発明の規定を満足しなかったため、き裂伝播速度が劣った。
また、試験No.29~34は、本発明の化学組成は規定範囲内であるが、製造要件が外れているため、き裂伝播速度が劣った。試験No.29は、加速冷却工程における水冷停止温度およびLMPが高く、試験No.31は、加速冷却工程における平均冷却速度が低く、試験No.34は、加速冷却工程におけるLMPが高かったため、高転位密度組織の面積率は本発明の要件を満足したものの、σSL/σSUが本発明の要件を満足しなかった。また、試験No.29および試験No.31は、引張強さTSも不足していた。
試験No.30は、加速冷却工程を行わず、高転位密度組織の面積率およびσSL/σSUが本発明の要件を満足しなかった。試験No.32および33は、仕上圧延における終了温度が低かったため、高転位密度組織の面積率が本発明の要件を満足しなかった。その結果、これらの例では、繰返し軟化率が本発明の規定を満足せずに、板内方向における耐疲労き裂伝播特性が劣る結果となった。
本発明によれば、厚さ方向およびそれに直交する方向のいずれにおいても耐疲労き裂伝播特性に優れ、高い強度を有する鋼材を得ることが可能である。本発明に係る鋼材は、船舶、海洋構造物、橋梁、建設機械、建築物、タンクなど各種溶接構造物用として好適である。

Claims (5)

  1. 鋼材の化学組成が、質量%で、
    C :0.01~0.30%、
    Si:0.03~0.60%、
    Mn:0.50~2.50%、
    P :0.030%以下、
    S :0.010%以下、
    Al:0.002~0.050%、
    N :0.0010~0.0080%、
    Ti:0.003~0.030%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記(i)式で定義される炭素当量Ceqの値が0.25~0.55であり、
    前記鋼材の圧延方向および厚さ方向に平行な断面において、前記鋼材の厚さをtとした時に、前記鋼材の表面から1/4tの位置における金属組織が、ベイナイト、マルテンサイト、およびKAM値が0.5°以上の値を有する高ひずみフェライトからなる群から選択される1種以上を、合計の面積%で、15%以上含み、
    前記鋼材の圧延方向が長手方向と一致するように採取された試験片を用いた引張試験において、上降伏点σSUと下降伏点σSLとの比σSL/σSUが0.97以上である、
    鋼材。
    Ceq=C+Mn/6+(Cr+Mo+V)/5+(Ni+Cu)/15 ・・・(i)
    但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合はゼロとする。
  2. 前記化学組成が、下記(ii)式を満足する、
    請求項1に記載の鋼材。
    0.5≦Ti/N≦5.0 ・・・(ii)
    但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表す。
  3. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Cu:2.00%以下、
    Ni:3.00%以下、
    Cr:1.00%以下、
    Mo:1.00%以下、
    Nb:0.060%以下、
    V :1.00%以下、および
    B :0.0030%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有するものである、
    請求項1または請求項2に記載の鋼材。
  4. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、
    Ca:0.010%以下、
    Mg:0.010%以下、および
    REM:0.010%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有するものであり、かつ
    下記(iii)式を満足する、
    請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の鋼材。
    0.0005≦Ca+Mg+REM≦0.0080 ・・・(iii)
    但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合はゼロとする。
  5. 前記鋼材の表面から1/2tの位置における平均転位密度が3.0×1014/m以上である、
    請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の鋼材。
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