以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸であるタイヤ回転軸(図示省略)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、タイヤ回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面であり、タイヤ赤道面CLは、空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向における中心位置であるタイヤ幅方向中心線と、タイヤ幅方向における位置が一致する。タイヤ幅は、タイヤ幅方向において最も外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。また、以下の説明では、タイヤ子午断面とは、タイヤ回転軸を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の要部を示す子午断面図である。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ子午断面で見た場合、タイヤ径方向の最も外側となる部分にタイヤ周方向に延在して環状に形成されるトレッド部2が配設されており、トレッド部2は、ゴム組成物から成るトレッドゴム4を有している。また、トレッド部2の表面、即ち、当該空気入りタイヤ1を装着する車両(図示省略)の走行時に路面と接触する部分は、接地面3として形成され、接地面3は、空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成している。トレッド部2には、接地面3にタイヤ周方向に延びる周方向溝25と、タイヤ幅方向に延びるラグ溝(図示省略)とがそれぞれ複数形成されており、これらの周方向溝25とラグ溝とにより、トレッド部2の表面には複数の陸部20が画成されている。
なお、周方向溝25は、タイヤ周方向に直線状に延在してもよく、タイヤ周方向に延びつつタイヤ幅方向に振幅する波形状やジグザグ状に設けられてもよい。ラグ溝も、タイヤ幅方向に直線状に延在してもよく、タイヤ幅方向に延びつつタイヤ周方向に傾斜したり、タイヤ幅方向に延びつつタイヤ周方向に湾曲したり屈曲したりして形成されていてもよい。
また、トレッド部2が有するトレッドゴム4は、接地面3を形成するキャップゴム4aと、キャップゴム4aのタイヤ径方向内側に位置するベースゴム4bとを有している。即ち、トレッド部2は、キャップゴム4aとベースゴム4bとがタイヤ径方向に積層されることにより構成されている。これらのキャップゴム4aとベースゴム4bは、60℃でのtanδが0.3以下である。
なお、ここでいうtanδは、JIS−K6394に準拠して、粘弾性スペクロトメーター(東洋精機製作所製)を用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪み±2%、温度60℃の条件にて測定されるものである。
タイヤ幅方向におけるトレッド部2の両外側端にはショルダー部5が位置しており、ショルダー部5のタイヤ径方向内側には、一対のサイドウォール部8が配設されている。即ち、一対のサイドウォール部8は、トレッド部2のタイヤ幅方向両側に配設されており、換言すると、サイドウォール部8は、タイヤ幅方向における空気入りタイヤ1の両側2箇所に配設されている。このように形成されるサイドウォール部8は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出する部分になっており、ゴム材料であるサイドゴム9を有している。
一対のサイドウォール部8のそれぞれのタイヤ径方向内側には、ビード部30が配設されている。ビード部30は、サイドウォール部8と同様に、タイヤ赤道面CLの両側2箇所に配設されており、即ち、ビード部30は、一対がタイヤ赤道面CLのタイヤ幅方向における両側に配設されている。また、各ビード部30には、それぞれビードコア31が配設されている。
また、トレッド部2のタイヤ径方向内側には、ベルト層14が設けられている。ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とが積層されている。一対の交差ベルト141、142は、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの傾斜角として定義されるベルト角度が、所定の範囲内(例えば、20°以上55°以下)になっている。また、一対の交差ベルト141、142は、ベルト角度が互いに異なっている。このため、一対の交差ベルト141、142は、ベルトコードの傾斜方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造として構成されている。
ベルトカバー143は、スチール、またはポリエステルやレーヨンやナイロン等の有機繊維材から成るベルトカバーコードをコートゴムで被覆して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの傾斜角として定義されるベルト角度が、所定の範囲内(例えば、0°以上10°以下)になっている。本実施形態では、ベルトカバー143は、一対の交差ベルト141、142全体を覆って配設されている。また、一対のベルトカバー143は、例えば、1本或いは複数本のベルトカバーコードをコートゴムで被覆して成るストリップ材であり、このストリップ材を交差ベルト141、142の外周面に対してタイヤ周方向に複数回かつ螺旋状に巻き付けて構成される。また、ベルトカバー143は、これ以外の構成でもあってもよい。ベルトカバー143は、例えば、一対の交差ベルト141、142のタイヤ幅方向端部付近のみに配設されていてもよく、または、交差ベルト141、142全体を覆うベルトカバー143と、交差ベルト141、142のタイヤ幅方向端部付近のみに配設されるベルトカバー143とが積層されていてもよい。
ベルト層14のタイヤ径方向内側、及びサイドウォール部8のタイヤ赤道面CL側には、ラジアルプライのコードを内包するカーカス層10が連続して設けられている。このため、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、いわゆるラジアルタイヤとして構成されている。カーカス層10は、1枚のカーカスプライから成る単層構造、或いは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向の両側に配設される一対のビード部30間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。
詳しくは、カーカス層10は、タイヤ幅方向における両側に位置する一対のビード部30のうち、一方のビード部30から他方のビード部30にかけて配設されており、カーカス層10の両端部付近は、ビードコア31を包み込むようにビード部30でビードコア31に沿ってタイヤ幅方向外側に巻き返されている。このため、カーカス層10は、一対のビード部30間に架け渡されるカーカス本体部11と、ビード部30においてビードコア31の周縁に沿って屈曲しながら折り返されてビードコア31のタイヤ径方向における外側端部32の位置からカーカス本体部11に接触しながらサイドウォール部8側に向かって延在するターンナップ部12とからなる。このうち、ターンナップ部12は、カーカス本体部11から連続して形成され、ビード部30におけるビードコア31が配設されている位置で、ビードコア31の周縁に沿ってタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側にかけて折り返されている。
また、ベルト層14は、このように一対のビード部30間に架け渡されるカーカス層10における、トレッド部2に位置する部分のタイヤ径方向外側に配置されている。また、カーカス層10のカーカスプライは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の有機繊維材から成る複数のカーカスコードを、コートゴムで被覆して圧延加工することによって構成されている。カーカスプライを構成するカーカスコードは、タイヤ周方向に対するカーカスコードの長手方向の傾斜角として定義されるカーカス角度が、80°以上90°以下の範囲内となって配設され、複数が並設されている。
ビード部30における、ビードコア31及びカーカス層10のターンナップ部12のタイヤ径方向内側やタイヤ幅方向外側には、リムフランジに対するビード部30の接触面を構成するリムクッションゴム17が配設されている。
また、カーカス層10の内側、或いは、当該カーカス層10の、空気入りタイヤ1における内部側には、インナーライナー16がカーカス層10に沿って配設されている。インナーライナー16は、タイヤ内面18に配設されてカーカス層10を覆う空気透過防止層であり、カーカス層10の露出による酸化を抑制し、また、タイヤに充填された空気の洩れを防止する。また、インナーライナー16は、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物によって構成される。ブチルゴムを主成分とするゴム組成物としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、ブチル系ゴムなどが採用され得る。ブチル系ゴムは、例えば、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)などのハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。
さらに、カーカス層10とインナーライナー16との間には、タイゴム40が配設されている。カーカス層10とインナーライナー16との間に配設されるタイゴム40は、タイヤ製造時に未加硫の空気入りタイヤ1をインフレートする際にカーカスコードがインナーライナー16に喰い込むことを抑制するための層であり、製造後の空気入りタイヤ1においては、空気透過防止性や乾燥路面における操縦安定性に寄与するものである。タイゴム40は、少なくともサイドウォール部8に位置するカーカス層10とインナーライナー16との間に配設されており、本実施形態では、タイゴム40は、トレッド部2を経てタイヤ幅方向両側のサイドウォール部8同士の間に亘って配設されている。
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ子午断面におけるトレッド部2のトレッドラジアスTRが、600mm以上1700mm以下の範囲内になっており、タイヤ外径と比較した場合、トレッドラジアスTRは、タイヤ外径の100%以上140%以下の範囲内になっている。即ち、トレッド部2は、接地面3の基準となるプロファイルが、比較的フラットな形状で形成されている。なお、この場合におけるトレッドラジアスTRは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で、タイヤ子午断面に沿った方向におけるトレッド部2の接地面3の半径をラジアス定規によって測定した値になっている。
ここでいう正規リムとは、JATMAで規定する「標準リム」、TRAで規定する「Design Rim」、或いは、ETRTOで規定する「Measuring Rim」である。また、正規内圧とは、JATMAで規定する「最高空気圧」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、或いはETRTOで規定する「INFLATION PRESSURES」である。また、トレッドラジアスTRは、800mm以上1500mm以下の範囲内であるのが好ましく、タイヤ外径と比較した場合は、タイヤ外径の110%以上130%以下の範囲内であるのが好ましい。
また、トレッド部2は、接地幅TWが、タイヤ最大幅SWの60%以上90%以下の範囲内になっている。ここでいう接地幅TWは、接地面3の接地端T同士のタイヤ幅方向における間隔である。接地端Tは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みして正規内圧を充填し、静止状態にて平板に対して垂直に置かれて正規荷重に相当する荷重を加えられたときの、接地面3における平板に接触する領域のタイヤ幅方向の両最外端をいい、タイヤ周方向に連続する。ここでいう正規荷重とは、JATMAで規定する「最大負荷能力」、TRAで規定する「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOで規定する「LOAD CAPACITY」である。
また、ここでいうタイヤ最大幅SWは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みして、正規内圧を充填して、空気入りタイヤ1に荷重を加えない無負荷状態のときの、サイドウォール部8の外側の表面から突出する構造物を除いたタイヤ幅方向における寸法が最大となる位置でのタイヤ幅方向における幅になっている。また、接地幅TWは、タイヤ最大幅SWの70%以上80%以下の範囲内であるのが好ましい。
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、タイヤ断面高さSHのタイヤ径方向内側の基準位置からタイヤ最大幅位置Wまでのタイヤ径方向における高さHWが、タイヤ断面高さSHに対して50%以上60%以下の範囲内になっている。ここでいうタイヤ断面高さSHは、トレッド部2における最もタイヤ径方向外側に位置している部分と、リム径基準位置BLとのタイヤ径方向における距離になっている。つまり、タイヤ断面高さSHは、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みして、正規内圧を充填して、空気入りタイヤ1に荷重を加えない無負荷状態のときの、タイヤ外径とリム径との差の1/2をいう。このため、タイヤ断面高さSHのタイヤ径方向内側の基準位置は、リム径基準位置BLになっており、タイヤ断面高さSHのタイヤ径方向内側の基準位置からタイヤ最大幅位置Wまでのタイヤ径方向における高さHWは、リム径基準位置BLからタイヤ最大幅位置Wまでのタイヤ径方向における距離になっている。また、タイヤ最大幅位置Wは、タイヤ最大幅SWとなる位置のタイヤ径方向における位置である。
なお、リム径基準位置BLからタイヤ最大幅位置Wまでのタイヤ径方向における高さHWは、タイヤ断面高さSHに対して52%以上56%以下の範囲内であるのが好ましい。
また、トレッド部2が有するトレッドゴム4は、センター位置における厚さGcと、ショルダー位置における厚さGsとが、Gc≧Gsの関係を満たしている。ここでいうセンター位置における厚さGcとショルダー位置における厚さGsとは、積層されるキャップゴム4aとベースゴム4bとを合わせた厚さになっている。
トレッドゴム4のこれらの厚さのうち、センター位置における厚さGcは、タイヤ赤道面CL上で接地面3の法線方向に測定されるトレッドゴム4の厚さになっている。即ち、本実施形態では、センター位置におけるトレッドゴム4の厚さGcは、接地面3とタイヤ赤道面CLとの交点を通る接地面3の法線方向における、ベルトカバー143の接地面3側の面と接地面3との距離になっている。また、ショルダー位置における厚さGsは、接地面3と接地端Tとの交点を通る接地面3の法線方向に測定されるトレッドゴム4の厚さになっている。即ち、本実施形態では、ショルダー位置におけるトレッドゴム4の厚さGSは、接地面3と接地端Tとの交点を通る接地面3の法線方向における、ベルトカバー143の接地面3側の面と接地面3との距離になっている。
なお、タイヤ赤道面CL上に周方向溝25が配設される場合は、センター位置におけるトレッドゴム4の厚さGcは、接地面3におけるタイヤ赤道面CLに最も近い位置で接地面3の法線方向に測定されるトレッドゴム4の厚さになる。
また、トレッドゴム4のセンター位置における厚さGcとショルダー位置における厚さGsとは、それぞれタイヤ断面高さSHの2%以上10%以下の範囲内になっている。また、トレッドゴム4のセンター位置における厚さGcとショルダー位置における厚さGsとは、それぞれ3mm以上13mm以下の範囲内になっている。なお、トレッドゴム4のセンター位置における厚さGcとショルダー位置における厚さGsとは、それぞれタイヤ断面高さSHの3%以上7%以下の範囲内であるのが好ましく、それぞれ5mm以上10mm以下の範囲内であるのが好ましい。
図2は、図1に示すサイドウォール部8及びビード部30の詳細図である。サイドウォール部8は、サイドゴム9の厚さが比較的薄くなっており、具体的には、タイヤ最大幅位置Wにおけるカーカス層10のタイヤ幅方向外側に位置するサイドゴム9の厚さGwが、1mm以上4mm以下の範囲内になっている。なお、タイヤ最大幅位置Wでのサイドゴム9の厚さGwは、2mm以上3mm以下の範囲内であるのが好ましい。
また、カーカス層10のターンナップ部12は、リム径基準位置BLから、ターンナップ部12のタイヤ径方向外側の端部であるターンナップエッジ部12aまでのタイヤ径方向における高さTUHが、タイヤ断面高さSHの10%以上40%以下の範囲内になっている。即ち、ターンナップ部12は、ターンナップエッジ部12aがタイヤ最大幅位置Wよりもタイヤ径方向内側に位置している。なお、ターンナップ部12の、リム径基準位置BLからターンナップエッジ部12aまでのタイヤ径方向における高さTUHは、20%以上30%以下の範囲内であるのが好ましい。
図3は、図2に示すビード部30の詳細図である。カーカス層10とインナーライナー16との間に配設されるタイゴム40は、タイヤ径方向内側の端部であるタイゴム端末部41のタイヤ径方向における位置が、ターンナップ部12のターンナップエッジ部12aと、ビードコア31のタイヤ径方向における外側端部32との間に位置している。つまり、タイゴム端末部41は、ターンナップ部12のターンナップエッジ部12aよりもタイヤ径方向内側に位置しており、ビードコア31の外側端部32よりもタイヤ径方向外側に位置している。このため、タイゴム40は、ターンナップ部12に対して、タイヤ径方向にオーバーラップして配設されている。
詳しくは、ターンナップ部12に対するタイゴム40のオーバーラップ量H1は、ビードコア31の外側端部32とターンナップエッジ部12aとの間隔であるターンナップ幅Htの、20%以上60%以下の範囲内になっている。このうち、ターンナップ幅Htは、ビードコア31の外側端部32を通るカーカス層10の法線をターンナップ部内側基準線Luiとし、ターンナップエッジ部12aを通りターンナップ部内側基準線Luiに平行な線をターンナップ部外側基準線Luoとする場合における、ターンナップ部内側基準線Luiとターンナップ部外側基準線Luoとの距離でありになっている。なお、ターンナップ部内側基準線Luiは、具体的には、ビードコア31の外側端部32を通るカーカス本体部11の法線になっている。また、オーバーラップ量H1は、タイゴム端末部41を通りターンナップ部内側基準線Luiに平行な線をタイゴム端末部基準線Ltとする場合における、タイゴム端末部基準線Ltとターンナップ部外側基準線Luoとの距離になっている。
なお、ターンナップ幅Htに対するオーバーラップ量H1は、30%以上50%以下の範囲内であるのが好ましい。
また、タイゴム40とインナーライナー16とは、タイゴム端末部41の位置でのタイゴム40の厚さGtと、タイゴム端末部41に隣接する位置でのインナーライナー16の厚さGiとが、Gt≦Giの関係になっている。タイゴム端末部41の位置でのタイゴム40の厚さGtは、タイゴム端末部41を通るカーカス層10の法線Lc上でのタイゴム40の厚さになっており、インナーライナー16の厚さGiは、タイゴム端末部41を通るカーカス層10の法線Lc上でのインナーライナー16の厚さになっている。つまり、タイゴム40は、タイゴム端末部41を通るカーカス層10の法線Lc上おいて、タイゴム端末部41の位置での厚さGtが、インナーライナー16の厚さGi以下の厚さになっている。なお、タイゴム端末部41を通るカーカス層10の法線Lcは、具体的には、タイゴム端末部41を通るカーカス本体部11の法線になっている。また、タイゴム端末部41の位置でのタイゴム40の厚さGtは、タイゴム端末部41を通るカーカス層10の法線Lc上でのインナーライナー16の厚さGiの50%以下90%以下の範囲内であるのが好ましい。
なお、本実施形態では、タイゴム端末部41に隣接する位置でのカーカス本体部11のタイヤ径方向に対する傾斜角と、ビードコア31の外側端部32に隣接する位置でのカーカス本体部11のタイヤ径方向に対する傾斜角とは、ほぼ同じ角度になっているため、タイゴム端末部41を通るカーカス層10の法線Lcと、ターンナップ部内側基準線Luiに平行なタイゴム端末部基準線Ltとは、ほぼ一致する。
ビード部30に配設されるビードコア31は、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤ33からなり、タイヤ子午断面においてビードワイヤ33の複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成している。なお、ビードコア31は、タイヤ子午断面においてビードワイヤ33の複数の周回部分が列と層を形成していれば、単一のビードワイヤ33を連続的に巻回した、いわゆる一本巻き構造であってもよく、複数本のビードワイヤ33を引き揃えた状態で巻回した、いわゆる層巻き構造であってもよい。本実施形態では、タイヤ径方向最内側から順に3列の周回部分を含む層、4列の周回部分を含む層、3列の周回部分を含む層、2列の周回部分を含む層、1列の周回部分を含む層の計5層が積層された構造を有する。なお、以降の説明では、このようなビードワイヤ33の積層構造を「3+4+3+2+1構造」という。同様に、以降の説明では、ビードワイヤ33の積層構造を、各層に含まれる列の数をタイヤ径方向最内側の層から順に「+」で繋いだ同様の形式で表現する。さらに、本実施形態では、ビードコア31では、ビードワイヤ33が俵積み状に積層されている。なお、この場合における「俵積み」とは、互いに接している3つの周回部分の中心が略正三角形を形成する積み方であり、六方充填配置と呼称されることもある充填率の高い積層構造である。
図4は、図3に示すビードコア31の詳細図である。ビードコア31は、タイヤ子午断面におけるビードワイヤ33の複数の周回部分の共通接線によって形成された多角形をビードコア31の外郭形状34とすると、この外郭形状34は、タイヤ径方向外側に単一の頂点35を有すると共に、タイヤ径方向内側にこの頂点35と対向するように底辺36を有している。つまり、本実施形態では、ビードコア31は、ビードワイヤ33が3+4+3+2+1構造を有するため、五角形の外郭形状34を有している。また、ビードコア31は、外郭形状34の頂点35を挟む2辺がなす内角θ1が鋭角であり、ビードコア31全体としては、最大幅となる部位からタイヤ径方向外側に向かって徐々に幅が狭まる先細り形状となって形成されている。なお、以降の説明では、ビードコア31のこのような形状を「外径側楔形状」という。また、外郭形状34の頂点35は、タイヤ径方向におけるビードコア31の最外側に位置するため、外郭形状34の頂点35が、ビードコア31のタイヤ径方向における外側端部32になっている。
ビードコア31は、外径側楔形状で形成されるため、ビードコア31の廻りに折り返されるカーカス層10は、ビードコア31の周縁に沿って屈曲する。つまり、ビードコア31は、タイヤ子午断面における形状が略五角形になっているため、ビードコア31の周縁に沿って延在するカーカス層10も、略五角形状に屈曲している。さらに、カーカス層10のターンナップ部12における、ビードコア31のタイヤ径方向外側端よりもタイヤ径方向外側の部分は、カーカス層10のカーカス本体部11に接触しながら、カーカス層10のカーカス本体部11に沿ってサイドウォール部8側に向かって延在している。このため、ビード部30には、カーカス層10のカーカス本体部11とターンナップ部12とによって、ビードコア31を囲む閉鎖領域が形成されている。
カーカス層10のカーカス本体部11とターンナップ部12とによって形成された閉鎖領域には、実質的にビードコア31のみが存在している。このため、本実施形態に係る空気入りタイヤ1には、従来の空気入りタイヤで用いられるようなビードフィラーまたはそれに類するタイヤ構成部材(ビードコア31のタイヤ径方向外側に配置されてカーカス層10のカーカス本体部11とターンナップ部12とによって包み込まれてビード部30からサイドウォール部8にかけての剛性を高める部材)は配置されない。即ち、空気入りタイヤ1では、閉鎖領域には、ビードワイヤ33を被覆するインシュレーションゴムや、ビードコア31とカーカス層10との間に形成される僅かな隙間を埋めるゴムは存在しているが、従来の空気入りタイヤのような大きな体積を有するビードフィラーは用いられていない。本実施形態に係る空気入りタイヤ1では、タイヤ子午断面における閉鎖領域の面積Aに対する、閉鎖領域内に存在するゴムの総面積aの比率(a/A×100%)を閉鎖領域のゴム占有率とすると、ゴム占有率は、0.1%以上15%以下の範囲内になっている。
本実施形態に係る空気入りタイヤ1を車両に装着する際には、ビード部30にリムホイールを嵌合することによってリムホイールに空気入りタイヤ1をリム組みし、内部に空気を充填してインフレートした状態で車両に装着する。空気入りタイヤ1を装着した車両が走行すると、接地面3のうち下方に位置する部分の接地面3が路面に接触しながら当該空気入りタイヤ1は回転する。車両は、接地面3と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。
例えば、空気入りタイヤ1を装着した車両で乾燥した路面を走行する場合には、主に接地面3と路面との間の摩擦力により、駆動力や制動力を路面に伝達したり、旋回力を発生させたりすることにより走行する。また、濡れた路面を走行する際には、接地面3と路面との間の水が周方向溝25等の溝に入り込み、これらの溝で接地面3と路面との間の水を排水しながら走行する。これにより、接地面3は路面に接地し易くなり、接地面3と路面との間の摩擦力により、車両は所望の走行をすることが可能になる。
また、本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、トレッド部2の接地面3を構成するキャップゴム4aの60℃でのtanδが、0.3以下であるため、車両走行時におけるトレッド部2の発熱を抑えることができ、転がり抵抗を低減することができる。
また、トレッド部2のプロファイルが比較的フラットな形状になっているため、接地面3の接地時における接地面積を大きくすることができる。また、サイドウォール部8のサイドゴム9の厚さが薄くなっているため、空気入りタイヤ1の、タイヤ径方向におけるバネ定数を低減することができる。これにより、荷重負荷時にサイドウォール部8を撓み易くさせることができ、これによっても接地面積を大きくすることができる。本実施形態に係る空気入りタイヤ1は、これらのように接地面積を大きくすることができるため、車両の制動時における制動性能を確保することができる。また、荷重負荷時にサイドウォール部8を撓み易くさせることにより、サイドウォール部8を撓み易くすることによって空気入りタイヤ1が変形する際におけるサイドウォール部8の寄与率を上げることができ、トレッド部2でのエネルギーロスを相対的に低減することができるため、転がり抵抗を低減することができる。
また、カーカス層10とインナーライナー16との間に配設されるタイゴム40を、カーカス層10のターンナップ部12に対してオーバーラップさせて配設しているので、荷重負荷によってサイドウォール部8やビード部30が撓む際に、ターンナップ部12が配設されている位置とターンナップ部12が配設されていない位置とで撓み方が大幅に変化することを抑制することができる。つまり、サイドウォール部8は、サイドゴム9の厚さが薄くなっていることにより、剛性が低くなっているため、荷重負荷に対する撓み方が大きくなっている。このため、荷重負荷によってサイドウォール部8やビード部30が撓む場合、ターンナップ部12が配設されずに剛性が低い部分が撓んだ後に、ターンナップ部12が配設されてカーカス本体部11とターンナップ部12とが重なることによって剛性が高くなっている部分が撓むが、双方の部分では剛性が大幅に異なるため、荷重に対する撓み方が大幅に変化し易くなっている。
タイゴム40は、このように荷重に対する撓み方が大幅に変化し易くなるサイドウォール部8とビード部30との間にかけて配設されると共に、ターンナップ部12とカーカス本体部11とが接触するビードコア31の外側端部32の位置までは配設されずに、ターンナップ部12に対してオーバーラップしている。このため、ターンナップ部12が配設されてターンナップ部12とカーカス本体部11との2枚が重なっている部分と、ターンナップ部12が配設されずにカーカス本体部11の1枚のみが配設される部分との境界で、剛性が急激に変化することを抑制すると共に、双方の部分の剛性の差が大きくなり過ぎることを抑制することができる。これにより、荷重負荷時に撓み方が急激に変化することに起因する操安性能の低下を抑制することができる。
また、カーカス層10とインナーライナー16との間に配設されるタイゴム40は、ターンナップ部12に対するオーバーラップ量H1が、ターンナップ幅Htの20%以上60%以下の範囲内であるため、荷重負荷時にサイドウォール部8やビード部30の撓み方が急激に変化することを、より確実に抑制することができる。つまり、ターンナップ部12に対するタイゴム40のオーバーラップ量H1が、ターンナップ幅Htの20%未満である場合は、オーバーラップ量H1が小さ過ぎるため、ターンナップ部12が配設されている位置とターンナップ部12が配設されていない位置との境界で剛性が急激に変化することを、タイゴム40によって抑制し難くなる。この場合、荷重負荷時にサイドウォール部8やビード部30の撓み方が急激に変化することを、抑制し難くなる。また、ターンナップ部12に対するタイゴム40のオーバーラップ量H1が、ターンナップ幅Htの60%よりも大きい場合は、オーバーラップ量H1が大き過ぎるため、ターンナップ部12が配設されている位置とターンナップ部12が配設されていない位置とで剛性の差が大きくなり過ぎることを抑制し難くなる。この場合、剛性差が大き過ぎるため、荷重負荷時にサイドウォール部8やビード部30の撓み方が急激に変化することを、抑制し難くなる。また、ターンナップ部12に対するタイゴム40のオーバーラップ量H1が、ターンナップ幅Htの60%よりも大きい場合は、タイゴム40が配設される範囲が大きくなるため、軽量化を図る際に、軽量化を図り難くなる虞がある。
これに対し、ターンナップ部12に対するタイゴム40のオーバーラップ量H1が、ターンナップ幅Htの20%以上60%以下の範囲内である場合は、サイドウォール部8からビード部30にかけた剛性変化を緩やかにすることができる。つまり、ターンナップ部12のタイヤ径方向外側の位置から、ターンナップ部12が配設される位置にかけた剛性変化を緩やかにすることができる。これにより、荷重負荷時にサイドウォール部8やビード部30の撓み方が急激に変化することを、より確実に抑制することができ、撓み方が急激に変化することに起因する、乗り心地性能を含む操安性能の低下を、より確実に抑制することができる。これらの結果、制動性能の低下と転がり抵抗の悪化を抑えつつ、操安性能を向上させることができる。
また、タイゴム端末部41の位置でのタイゴム40の厚さGtと、タイゴム端末部41に隣接する位置でのインナーライナー16の厚さGiとが、Gt≦Giの関係であるため、タイゴム40が配設される位置と、タイゴム40が配設される位置のタイヤ径内側の位置とで剛性差が大きくなり過ぎることを、より確実に抑制することができる。この結果、より確実に操安性能を向上させることができる。
また、タイゴム端末部41の位置でのタイゴム40の厚さGtが、タイゴム端末部41に隣接する位置でのインナーライナー16の厚さGiよりも薄くなるようにすることにより、空気入りタイヤ1の製造時におけるエアの入り込みを抑制することができる。つまり、タイゴム40の厚さGtが厚過ぎる場合は、タイゴム40が配設される位置のタイヤ径方向内側で、インナーライナー16とカーカス層10との間の隙間が大きくなり過ぎる虞がある。この場合、空気入りタイヤ1の製造時においてインナーライナー16とタイゴム40とカーカス層10を貼り合わせる際に、タイゴム40が配設されない位置にエアが入り込み、部材同士の密着性が低下する虞がある。これに対し、タイゴム40の厚さGtがインナーライナー16の厚さGiよりも薄くなるようにすることにより、タイゴム40の厚さGtが厚くなり過ぎることに起因する、製造時のエアの入り込みを抑えることができる。この結果、部材同士の密着性を向上させることができる。
また、タイヤ子午断面におけるトレッド部2のトレッドラジアスTRが、600mm以上1700mm以下の範囲内であるため、接地面積をより確実に確保することができる。つまり、トレッド部2のトレッドラジアスTRが、600mm未満である場合は、接地面3が接地した際における接地面積を確保し難くなる虞があり、制動性能を確保し難くなる虞がある。また、トレッド部2のトレッドラジアスTRが、1700mmより大きい場合は、接地面3が接地した際に、タイヤ赤道面CL付近の接地性が低下する虞があり、制動性能を確保し難くなる虞がある。
これに対し、トレッド部2のトレッドラジアスTRが、600mm以上1700mm以下の範囲内である場合は、接地面3が接地した際における接地面積をより確実に確保することができる。この結果、より確実に制動性能を確保することができる。
また、トレッド部2の接地幅TWが、タイヤ最大幅SWの60%以上90%以下の範囲内であるため、接地面積をより確実に確保することができる。つまり、トレッド部2の接地幅TWが、タイヤ最大幅SWの60%未満である場合は、接地面3が接地した際における接地面積を確保し難くなる虞があり、制動性能を確保し難くなる虞がある。また、トレッド部2の接地幅TWが、タイヤ最大幅SWの90%より大きい場合は、ショルダー部5寄りの接地性は上がる一方で、タイヤ赤道面CL付近の接地性が低下する虞があり、制動性能を確保し難くなる虞がある。
これに対し、トレッド部2の接地幅TWが、タイヤ最大幅SWの60%以上90%以下の範囲内である場合は、接地面3が接地した際における接地面積をより確実に確保することができる。この結果、より確実に制動性能を確保することができる。
また、リム径基準位置BLからタイヤ最大幅位置Wまでのタイヤ径方向における高さHWが、タイヤ断面高さSHに対して50%以上60%以下の範囲内であるため、耐久性の低下を抑えつつ、より確実に制動性能と低転がり抵抗を確保することができる。つまり、タイヤ最大幅位置Wは、サイドウォール部8において最も撓み易い部分であるが、リム径基準位置BLからタイヤ最大幅位置Wまでのタイヤ径方向における高さHWが、タイヤ断面高さSHの50%未満である場合は、タイヤ最大幅位置Wがビード部30に近付き過ぎる虞がある。ビード部30付近は、カーカス本体部11とターンナップ部12とが重ねられることにより剛性が高くなっており、撓み難い部位であるため、タイヤ最大幅位置Wがビード部30に近付き過ぎると、タイヤ径方向におけるバネ定数を効果的に低減するのが困難になる虞がある。この場合、荷重負荷時にサイドウォール部8を撓み易くして接地面積を大きくしたり、荷重負荷によって空気入りタイヤ1が変形する際におけるサイドウォール部8の寄与率を上げたりするのが困難になる虞がある。また、リム径基準位置BLからタイヤ最大幅位置Wまでのタイヤ径方向における高さHWが、タイヤ断面高さSHの60%を超える場合は、タイヤ最大幅位置Wがトレッド部2に近付き過ぎる虞がある。この場合、タイヤ構造上に無理が生じ、耐久性が低下する虞がある。
これに対し、リム径基準位置BLからタイヤ最大幅位置Wまでのタイヤ径方向における高さHWが、タイヤ断面高さSHに対して50%以上60%以下の範囲内である場合は、タイヤ最大幅位置Wが、ビード部30やトレッド部2に近付き過ぎることを抑制することができる。これにより、耐久性が低下すること抑制しつつ、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向におけるバネ定数を、より確実に低減することができる。この結果、耐久性の低下を抑制しつつ、より確実に制動性能の低下と転がり抵抗の悪化を抑えることができる。
また、サイドウォール部8は、タイヤ最大幅位置Wにおけるサイドゴム9の厚さGwが、1mm以上4mm以下の範囲内であるため、耐カット性の低下を抑えつつ、より確実に制動性能と低転がり抵抗を確保することができる。つまり、タイヤ最大幅位置Wにおけるサイドゴム9の厚さGwが1mm未満である場合、サイドゴム9の厚さGwが薄過ぎるため、石等の障害物がサイドウォール部8に接触した際における損傷のし難さである、耐カット性が低下する虞がある。また、タイヤ最大幅位置Wにおけるサイドゴム9の厚さGwが4mmを超える場合、サイドゴム9の厚さGwが厚過ぎるため、タイヤ径方向におけるバネ定数を効果的に低減するのが困難になる虞がある。この場合、荷重負荷時にサイドウォール部8を撓み易くして接地面積を大きくしたり、荷重負荷によって空気入りタイヤ1が変形する際におけるサイドウォール部8の寄与率を上げたりするのが困難になる虞がある。
これに対し、タイヤ最大幅位置Wにおけるサイドゴム9の厚さGwが、1mm以上4mm以下の範囲内である場合は、耐カット性を確保しつつ、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向におけるバネ定数を、より確実に低減することができる。この結果、耐カット性の低下を抑制しつつ、より確実に制動性能の低下と転がり抵抗の悪化を抑えることができる。
また、トレッドゴム4は、センター位置における厚さGcとショルダー位置における厚さGsとが、それぞれタイヤ断面高さSHの2%以上10%以下の範囲内であるため、トレッド部2の摩耗寿命を確保しつつ、接地面3の接地時における接地面積を、より確実に確保することができる。つまり、トレッドゴム4のセンター位置における厚さGcやショルダー位置における厚さGsが、タイヤ断面高さSHの2%未満である場合は、トレッドゴム4の厚さが薄過ぎるため、摩耗寿命が不十分になり、耐久性を確保し難くなる虞がある。また、トレッドゴム4のセンター位置における厚さGcやショルダー位置における厚さGsが、タイヤ断面高さSHの10%を超える場合は、トレッドゴム4の厚さが厚過ぎるため、トレッド部2の面外曲剛性が高くなり、接地面3の接地時における接地面積を効果的に大きくするのが困難になる虞がある。この場合、車両の制動時における制動性能を確保し難くなる虞がある。
これに対し、トレッドゴム4のセンター位置における厚さGcやショルダー位置における厚さGsが、タイヤ断面高さSHの2%以上10%以下の範囲内である場合は、トレッド部2の摩耗寿命を確保しつつ、トレッド部2の面外曲剛性が高くなることを抑制することによって、接地面3の接地時における接地面積を、より確実に確保することができる。この結果、耐久性の低下を抑制しつつ、より確実に制動性能の低下を抑えることができる。
さらに、トレッドゴム4は、センター位置における厚さGcと、ショルダー位置における厚さGsとが、Gc≧Gsの関係を満たすため、トレッド部2における接地端T付近を撓ませ易くすることができ、接地面3におけるショルダー部5寄りの部分を接地させ易くすることができる。この結果、より確実に接地面積を大きくすることができ、制動性能の低下を抑えることができる。
また、トレッドゴム4の厚さをこれらのように構成することにより、制動性能を確保することができるため、tanδが低いキャップゴム4aを使用することができる。この結果、ヒステリシスロスを低減させることができ、より確実に転がり抵抗を低減することができる。
また、カーカス層10が有するターンナップ部12は、リム径基準位置BLからターンナップエッジ部12aまでのタイヤ径方向における高さTUHが、タイヤ断面高さSHの10%以上40%以下の範囲内であるため、ビード部30の剛性を確保しつつ、より確実に制動性能と低転がり抵抗を確保することができる。つまり、リム径基準位置BLからターンナップエッジ部12aまでの高さTUHが、タイヤ断面高さSHの10%未満である場合は、ビード部30の剛性が不十分になり、荷重負荷時にサイドウォール部8からビード部30にかけた範囲が撓み過ぎる虞がある。この場合、撓みが大き過ぎるため、操安性能を確保し難くなる虞がある。また、リム径基準位置BLからターンナップエッジ部12aまでの高さTUHが、タイヤ断面高さSHの40%を超える場合は、リム径基準位置BLからターンナップエッジ部12aまでの高さTUHが高過ぎるため、タイヤ径方向におけるバネ定数を効果的に低減するのが困難になる虞がある。この場合、荷重負荷時にサイドウォール部8を撓み易くして接地面積を大きくしたり、荷重負荷によって空気入りタイヤ1が変形する際におけるサイドウォール部8の寄与率を上げたりするのが困難になる虞がある。
これに対し、リム径基準位置BLからターンナップエッジ部12aまでの高さTUHが、タイヤ断面高さSHの10%以上40%以下の範囲内である場合は、ビード部30の剛性を確保しつつ、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向におけるバネ定数を、より確実に低減することができる。この結果、より確実に制動性能の低下と転がり抵抗の悪化を抑えつつ、操安性能を向上させることができる。
[変形例]
なお、上述した実施形態に係る空気入りタイヤ1では、ビードコア31のビードワイヤ33は、積層構造が3+4+3+2+1構造になっているが、ビードワイヤ33は、これ以外の構造で積層されていてもよい。図5は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、ビードワイヤ33が6層で積層される場合の説明図である。ビードコア31のビードワイヤ33は、例えば、図5に示すように、タイヤ径方向における内側から外側に向かって順に、4列の周回部分を含む層、5列の周回部分を含む層、4列の周回部分を含む層、3列の周回部分を含む層、2列の周回部分を含む層、1列の周回部分を含む層の計6層が積層された構造であってもよい。即ち、ビードワイヤ33の積層構造は、4+5+4+3+2+1構造であってもよい。このように、ビードワイヤ33が6層で積層される場合でも、タイヤ子午断面におけるビードコア31の外郭形状34が、タイヤ径方向外側に頂点35が位置し、タイヤ径方向内側に底辺36が位置する五角形の形状で形成され、外径側楔形状で形成されるのが好ましい。
図6は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、ビードワイヤ33が5層で積層される場合の変形例についての説明図である。また、ビードコア31のビードワイヤ33は、5層で積層される場合でも、図6(a)に示すように、俵積みの5+4+3+2+1構造であってもよく、図6(b)に示すように、俵積みの4+4+3+2+1構造であってもよく、図6(c)に示すように、タイヤ径方向最内側の層と、当該タイヤ径方向最内側の層に対してタイヤ径方向外側で隣接する層とが俵積みではなく直列積みになった4+4+3+2+1構造であってもよい。つまり、図6(c)に示す積層構造では、タイヤ径方向最内側の層と、当該タイヤ径方向最内側の層に対してタイヤ径方向外側で隣接する層とが、タイヤ幅方向に垂直に積層されている。
図6に示したいずれの構造も、少なくとも一部が俵積み状に積層されているため、全体が直列積みで積層された構造のビードワイヤ33よりも、ビードワイヤ33を密に配してビードワイヤ33の充填率を高めることができる。これにより、ビード部30の剛性や耐圧性能を良好に確保して走行性能を維持しながら、空気入りタイヤ1の質量を軽減し、これら性能をバランスよく発揮することができる。
なお、ビードワイヤ33の充填率に着目すると、図6(a)及び図6(b)のように、全てのビードワイヤ33が俵積み状に積層されることが好ましい。また、ビードコア31の形状に関して、ビードコア31全体の形状の安定性を高めるには、ビードコア31全体の形状を、タイヤ幅方向におけるビードコア31の中心に対して、線対称にすることが好ましい。この観点からは、図6(a)及び図6(c)のような形状が好ましい。
図7は、実施形態に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、ビードワイヤ33が6層で積層される場合の変形例についての説明図である。また、ビードコア31のビードワイヤ33は、6層で積層される場合には、図7(a)に示すように、俵積みの3+4+4+3+2+1構造で、且つ、4列の周回部分が含まれる2層が積層される際に、タイヤ幅方向にずれる構造であってもよく、図7(b)に示すように、タイヤ径方向内側から2番目の層とそのタイヤ径方向内側に隣接する層とが俵積みではなく直列積みになった3+4+4+3+2+1構造であってもよい。ビードコア31が有するビードワイヤ33の積層構造は、これらのように様々な構造で積層することができるため、積層構造については、空気入りタイヤ1全体の構造や重視する特性等を考慮して、適宜選択するのが好ましい。
また、上述した実施形態では、タイゴム40の厚さGtや、タイゴム端末部41に隣接する位置でのインナーライナー16の厚さGiの方向を規定する、タイゴム端末部41を通るカーカス層10の法線Lcは、タイゴム端末部基準線Ltとほぼ一致するが、タイゴム40の厚さGtやインナーライナー16の厚さGiの方向を規定するカーカス層10の法線Lcは、タイゴム端末部基準線Ltとは角度が異なっていてもよい。つまり、タイゴム端末部基準線Ltは、ビードコア31の外側端部32を通るカーカス本体部11の法線であるターンナップ部内側基準線Luiに平行な仮想線になっているが、ビードコア31の外側端部32に隣接する位置でのカーカス本体部11のタイヤ径方向に対する傾斜角と、タイゴム端末部41に隣接する位置でのカーカス本体部11のタイヤ径方向に対する傾斜角とが異なる場合は、タイゴム40の厚さGtやインナーライナー16の厚さGiの方向を規定するカーカス層10の法線Lcと、タイゴム端末部基準線Ltとは、角度が異なっていてもよい。
また、上述した実施形態では、インナーライナー16は、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物によって構成されているが、インナーライナー16は、これ以外の材料によって構成されていてもよい。インナーライナー16は、例えば、熱可塑性樹脂や、熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物などから構成されていてもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などが採用され得る。
エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBRおよび低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC、CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム〔例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕などが採用され得る。
インナーライナー16を、熱可塑性樹脂、或いは熱可塑性エラストマー組成物から構成した場合には、インナーライナー16を、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物から構成する場合と比較して、インナーライナー16を薄型化することができる。これにより、タイヤ重量を大幅に軽減することができる。
また、上述した実施形態では、タイゴム40は、トレッド部2を経てタイヤ幅方向両側のサイドウォール部8同士の間に亘って配設されているが、タイゴム40は、タイヤ幅方向両側のサイドウォール部8同士の間に亘って連続して配設されていなくてもよい。タイゴム40は、タイヤ幅方向における一方のサイドウォール部8側に配設されるタイゴム40と、他方のサイドウォール部8側に配設されるタイゴム40とで分割されていてもよく、例えば、ベルト層14のタイヤ径方向内側の位置でタイゴム40は分割されていてもよい。タイゴム40は、少なくともサイドウォール部8に位置するカーカス層10とインナーライナー16との間に配設されていればよく、サイドウォール部8同士の間に亘って連続するか分割されるかに関わらず、タイゴム端末部41のタイヤ径方向における位置が、ターンナップ部12のターンナップエッジ部12aとビードコア31の外側端部32との間に位置し、ターンナップ部12に対してタイゴム40がタイヤ径方向にオーバーラップして配設されていればよい。
[実施例]
図8A〜図8Cは、空気入りタイヤの性能評価試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する比較例の空気入りタイヤとについて行なった性能評価試験について説明する。性能評価試験は、制動性能と、転がり抵抗と、操縦安定性の試験について行った。
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが205/60R16 92Vサイズの空気入りタイヤ1を、リムサイズ16×6.0JのJATMA標準のリムホイールにリム組みし、空気圧を180kPaに調整して行った。
各試験項目の評価方法は、制動性能については、排気量が1500ccの前輪駆動の試験車両に試験タイヤを装着して2名乗車相当の荷重を付与し、乾燥路面のテストコースで100km/hの速度から制動を開始して完全に停止するまでの制動距離を測定した。制動性能は、測定した制動距離の逆数を、後述する従来例1を100とする指数で示した。この数値が大きいほど制動距離が短く、制動性能が優れていることを示している。
また、転がり抵抗については、室内のドラム試験機(ドラム径:1707mm)を使用し、ISO28580に準拠し荷重4.8kN、速度80km/hの条件における転がり抵抗係数を算出した。その結果を、後述する従来例の転がり抵抗係数の逆数を100とする指数で示した。この指数が大きいほど転がり抵抗が低いことを示している。
また、操縦安定性については、試験タイヤを装着した上記試験車両でテストコースを走行した際における、テストドライバーによるフィーリング評価を行い、後述する従来例を100とする指数で表すことによって評価した。この数値が大きいほど、乗り心地性能を含む操縦安定性に優れていることを示している。
性能評価試験は、従来の空気入りタイヤの一例である従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1である実施例1〜13と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する空気入りタイヤである比較例1との15種類の空気入りタイヤについて行った。このうち、従来例の空気入りタイヤは、タイゴム端末部41がビードコア31の外側端部32よりもタイヤ径方向内側に位置しており、ターンナップ幅Htに対するオーバーラップ量H1が60%よりも大きくなっている。また、比較例は、タイゴム端末部41がビードコア31の外側端部32よりもタイヤ径方向外側に位置しているものの、ターンナップ幅Htに対するオーバーラップ量H1が20%未満になっている。
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1〜13は、全てタイゴム端末部41のタイヤ径方向における位置が、ターンナップエッジ部12aとビードコア31の外側端部32との間の位置になっており、ターンナップ幅Htに対するオーバーラップ量H1が、20%以上60%以下の範囲内になっている。さらに、実施例1〜13に係る空気入りタイヤ1は、タイゴム端末部41の位置でのタイゴム40厚さGtとインナーライナー16の厚さGiとの関係や、トレッドラジアスTRの大きさ、接地幅TW/タイヤ最大幅SW、タイヤ最大幅位置Wの高さHW/タイヤ断面高さSH、タイヤ最大幅位置Wでのサイドゴム9の厚さGw、センター位置でのトレッドゴム4の厚さGc/タイヤ断面高さSH、ショルダー位置でのトレッドゴム4の厚さGs/タイヤ断面高さSH、トレッドゴム4のセンター位置での厚さGcとショルダー位置での厚さGsとの関係、ターンナップ部12の高さTUH/タイヤ断面高さSHが、それぞれ異なっている。
これらの空気入りタイヤ1を用いて性能評価試験を行った結果、図8A〜図8Cに示すように、実施例1〜13に係る空気入りタイヤ1は、従来例に対して、制動性能が低下したり転がり抵抗が悪化したりすることを抑制しつつ、操縦安定性を向上させることができる。つまり、実施例1〜13に係る空気入りタイヤ1は、制動性能の低下と転がり抵抗の悪化を抑えつつ、操安性能を向上させることができる。