以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
(I)水性組成物 本発明の水性組成物は、(A)ビタミンA類を含有する。
「ビタミンA類」としては、レチノール、レチナール、レチノイン酸、及びこれらの薬理学的に許容される塩又は誘導体が挙げられる。より具体的には、レチノール、レチナール、レチノイン酸、パルミチン酸レチノール(レチノールパルミチン酸エステル)、酢酸レチノール(レチノール酢酸エステル)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールが好ましい。ビタミンA類としてパルミチン酸レチノール又は酢酸レチノールを用いた場合、ビタミンA類の安定化効果がより顕著になる。
上記のビタミンA類は、1種単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ビタミンA類としては、合成物を用いてもよいし、又は天然物から得られる抽出物(例えば、ビタミンA油など)を用いてもよい。ここでビタミンA油とは、レチノールを含有する水産動物の組織等から得られる脂肪油、若しくはその濃縮物、又はそれらに植物油を適宜添加したものである。また本発明に用いられるビタミンA類は、例えば、DSMニュートリションジャパン株式会社、BASFジャパン株式会社などから入手可能である。
本発明の水性組成物中におけるビタミンA類の含有量は、5000〜50000単位/100mLである。この範囲内では、水性組成物中のビタミンA類の優れた安定性、かつ、水性組成物の優れた澄明性及び蒸散抑制効果を全て発揮することができる。なお、好ましくは、10000〜50000単位/100mLである。この範囲内では、上記効果に加えて、更に薬理効果の向上、及び経時的な変性による特異臭の発生を抑制できるという効果も得られる。同様の観点から、より好ましくは、25000〜50000単位/100mLである。
なお、ビタミンA類の含有量における1単位とは、第十六改正日本薬局方ビタミンA定量法等に記載の手法により求められる国際単位を意味し、1I.U.とも表記される。例えば、第十六改正日本薬局方の医薬品各条において、酢酸レチノールの場合、1gにつき250万単位以上(1単位=0.40μg以下)の含有量であること、パルミチン酸レチノールの場合は、1gにつき150万単位以上(1単位=0.667μg以下)の含有量であること、ビタミンA油として用いる場合には、1gにつき3万単位以上(1単位=33.3μg以下)の含有量であることが、それぞれ規定されている。
本発明の水性組成物は、更に、(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分を含有する。これらの中でも、特にロウ類を含有することが好ましい。ロウ類を含有する場合、水性組成物中のビタミンA類の安定性がより一層向上する。
「ロウ類」とは、高級脂肪酸と高級アルコールのエステルを指す。具体的には、ミツロウ、鯨ロウ、ラノリン、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、木ロウ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、ラノリンを用いると、ビタミンA類の安定性がより向上する。ラノリンとしては、液状ラノリン、硬質ラノリン、還元ラノリン、精製ラノリン等が挙げられるが、使用感に優れるとの観点やラメラ構造安定化の観点から、特に精製ラノリンが好ましい。
「炭化水素類」とは、炭素と水素とからなる化合物であり、具体的には、流動パラフィン、軽質流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、α−オレフィンオリゴマー、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、パラフィ
ン、白色ワセリン、黄色ワセリン等が挙げられるが、これらに限定されない。
「エステル油」とは、アルコールと脂肪酸のエステルであり、具体的には、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、イソノナン酸イソノニル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
「植物油」とは、植物を原料とする油であり、具体的には、大豆油、米油、菜種油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、アーモンド油、ヒマシ油、オリーブ油、カカオ油、椿油、ヒマワリ油、パーム油、アマ油、シソ油、シア油、ヤシ油、ホホバ油、グレープシード油、及びアボガド油などが挙げられるが、これらに限定されない。
(A)成分に対する(B)成分の配合量は、ビタミンA類1単位に対して、(B)成分が0.2〜200μgであることが好ましい。この範囲であると、過度な油分による負の作用を生じることなく、ビタミンA類の安定化を高められるという効果がより顕著になる。同様の理由により、0.3〜1.5μgであることがより好ましい。
水性組成物への(B)成分の配合量は、水性組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.01〜1w/v%であることが好ましい。この範囲であると、ビタミンA類の安定化に対して有効性を維持しながら、眼に対する違和感を低減できるという効果がより顕著になる。同様の理由により、0.01〜0.5w/v%であることがより好ましい。
本発明の水性組成物は、(C)脂溶性抗酸化剤を更に含有する。
(C)脂溶性抗酸化剤には、医薬品、医薬部外品又は化粧品分野において皮膚外用剤の成分として市販されているジブチルヒドロキシトルエン(以下、「BHT」と略する)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、トコフェロール、トコフェロール誘導体又はその薬理学的に許容される塩(酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールカルシウムなど)、ノルジヒドログアヤレチン酸、没食子酸プロピル、脂溶性ビタミンC誘導体などを用いることができる。上記トコフェロール及びトコフェロール誘導体としては、α、β、γ、δ―トコフェロール及びこれらの誘導体を用いることができる。上記トコフェロールは、d体(天然ビタミンE等)又はdl体の別を問わず使用できる。
これらの脂溶性抗酸化剤は、1種単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記脂溶性抗酸化剤の中でもトコフェロール又はトコフェロール誘導体を用いることが好ましい。トコフェロール又はトコフェロール誘導体を配合することで、水性組成物中のビタミンA類の安定性がより向上する。また、水性組成物が(B)成分及び(D)成分を含む場合、水性組成物が白濁してしまう場合があるが、トコフェロール又はトコフェロール誘導体を配合することにより、白濁を抑制し、澄明化することができる。
水性組成物への(C)成分の配合量は、使用感や効果等を考慮して適宜選択できるが、水性組成物の総量に対して、(C)成分が総量で好ましくは0.005〜0.1w/v%、より好ましくは0.01〜0.07w/v%、更に好ましくは0.03〜0.06w/v%が例示される。
本発明の水性組成物は、(D)非イオン界面活性剤を更に含有する。非イオン界面活性剤としては、薬理学的に許容されるものを用いることができる。
(D)非イオン界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE(10)ヒマシ油、POE(35)ヒマシ油等のPOEヒマシ油類;POE(50)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50)、POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。これらの非イオン界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の非イオン界面活性剤の中でも、好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POEヒマシ油類、又はPOE硬化ヒマシ油類;更に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60が用いられる。
水性組成物への(D)成分の配合量は、非イオン界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や配合量、水性組成物の用途等に応じて適宜設定できる。(D)成分の配合量の一例として、水性組成物の総量に対して、(D)成分が総量で好ましくは、0.01〜0.5w/v%、より好ましくは、0.05〜0.5w/v%、更に好ましくは、0.1〜0.5w/v%が例示される。
なお、一定量の(D)非イオン界面活性剤を用いて(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分を溶解する際に白濁が生じることがある。しかしながら、(B)成分と(D)成分とを含む水性組成物に、(A)成分と(C)成分とを配合することにより、水性組成物の白濁が抑制でき、澄明性が向上する。本発明における澄明性は、例えば、600nmにおける可視光透過率により評価することができる。
本発明の水性組成物は、(E)キレート剤を更に含有してもよい。(E)成分を配合することにより、ビタミンA類の安定性をより一層良好にすることができ、さらに水性組成物の澄明性及び蒸散抑止効果をバランスよく発現することができる。
(E)キレート剤には、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミンヒドロキシエチル三酢酸(HEDTA)、クエン酸、酒石酸、コハク酸、アスコルビン酸、フィチン酸、ポリリン酸、メタリン酸又はそれらの塩等が挙げられる。EDTAの塩としては、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限されず、例えばEDTAナトリウム、EDTA二ナトリウム、EDTA四ナトリウム等のアルカリ金属塩を挙げることができる。EDTA又はその塩は、水和物の形態で使用することもできる。水和物の形態のものとして、具体的には、EDTA二ナトリウムの2水和物(以下、「エデト酸ナトリウム」ともいう。)が例示できる。HEDTAの塩としては、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限されず、例えばHEDTA三ナトリウム等を挙げることができる。これらのキレート剤は、1種単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
水性組成物への(E)成分の配合量は、高過ぎると刺激感を生じたり、低過ぎると効果が低減することを考慮して、適宜選択できるが、水性組成物の総量に対して、(E)成分が総量で好ましくは0.0005〜0.5w/v%、より好ましくは0.001〜0.2w/v%、更に好ましくは0.003〜0.1w/v%、特に好ましくは0.004〜0.05w/v%が例示される。
本発明において水性組成物中のビタミンA類の安定性が向上する理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、以下のように推察している。すなわち、(A)成分及び(B)成分を含む水性組成物に(D)成分を配合すると、(A)成分と(B)成分との結合体が(D)成分により形成されたミセルのパリセード層内に取り込まれた複合体を形成する。このとき、複合体中では(A)成分がミセルの内側に、(B)成分がミセルの外側に位置するようにパリセード層内で配向する。すると、水性組成物中の溶存酸素等のビタミンA類を変性させる物質は、(A)成分と反応し難くなる。その結果、水性組成物中のビタミンA類の安定性がより一層向上すると考えられる。ただし、上記はあくまで推察であり、水性組成物中のビタミンA類の安定性のメカニズムを限定するものではない。
本発明の水性組成物中に形成されるミセルの大きさは平均粒子径として20〜100nmが好ましい。ここで、本発明のミセルの平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(例えば大塚電子FPAR−1000)を用いてバッチ式測定法により測定された散乱光データから動的光散乱理論により粒度分布を自動計算させることによって得たメジアン径を意味する。メジアン径は頻度分布が累積50%に相当する粒子径である。
本発明の水性組成物は、更に緩衝剤を配合してもよい。本発明の水性組成物に配合できる緩衝剤としては、薬理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、アミノ酸緩衝剤等が挙げられる。
ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤としては、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トロメタモール)等;アミノ酸緩衝剤として、各種アミノ酸(イプシロン-アミノカプロン酸、アスパラギン酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム等)が例示できる。これらの緩衝剤は、1種単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
緩衝剤としては、ホウ酸及びホウ砂を併用するか、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンを用いると、優れた防腐効果が得られ、ビタミンA類の安定性の点でも適している。
水性組成物への緩衝剤の配合量は、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や配合量、水性組成物の用途等に応じて適宜設定できる。緩衝剤の配合量の一例として、水性組成物の総量に対して、緩衝剤が総量で好ましくは0.01〜5w/v%、より好ましくは0.05〜3w/v%、更に好ましくは0.1〜2w/v%が例示される。
本発明の水性組成物は、目的に応じて種々の製剤形態をとることができる。例えば、本発明の水性組成物の形態として、液状、半固形状(軟膏等)等を挙げることができる。ここで水性組成物とは、水を含有する組成物を意味し、通常は、組成物中に水を50質量%以上、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上含有するものを意味する。水性組成物に含有される水は、薬理学的に許容されるものであればよい。例えば、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水を使用できる。これらの定義は第十六改正日本薬局方に基づく。
また、本発明の水性組成物は、医薬品や医薬部外品等の製剤として使用でき、例えば、眼科用組成物、鼻腔用組成物、経口用組成物、点耳用組成物、皮下投与用組成物、皮膚外用組成物等の様々な用途で使用することができる。
ここで、眼科用組成物には、点眼剤、人工涙液、洗眼剤、眼軟
膏、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズケア用剤(コンタクトレンズ消毒剤、コンタクトレンズ用保存剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄保存剤等が含まれる)等が含まれる。また、鼻腔用組成物には、点鼻剤、鼻洗浄液等が含まれる。経口用組成物には、内服薬(例えば、液剤、シロップ剤、エキス剤)、口腔咽頭薬、含嗽薬等が含まれる。点耳用組成物には、点耳薬が含まれる。皮下投与用組成物としては、注射剤等が含まれる。
上記用途の中でも、眼科用組成物は、経口用組成物等の他の用途の組成物に比べて、配合成分の濃度が非常に低いことが多く、僅かの配合量低下であっても大きな問題となりかねない。また眼科用組成物は、製造工程において、濾過滅菌用のフィルター部材との相互作用や、異物試験のための透過性を考慮する必要や、高い感受性を有する眼組織へ適用するための安全性・官能特性の担保、鼻涙管経由で感じる味覚特性、瞼や衣服への付着なども考慮する必要があり、処方設計上の制約が極めて高い。とりわけ眼科用組成物の中でも点眼剤は、1回の使用量が極微量であるため配合量低下の影響は大きく、小さなノズル(中栓)から内容物を滴下するため、ノズル付近に溢れ出た点眼剤成分が析出や変色をしないような工夫も求められる。本発明の効果に鑑みれば、本発明の水性組成物の好適な一例として、眼科用組成物が挙げられ、特に好適な例として点眼剤が挙げられる。
本発明の水性組成物のpHについては、薬理学的に許容できる範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の水性組成物のpHの一例として5〜9、好ましくは5.5〜8.5、更に好ましくは6〜8、より好ましくは6.5〜7.5、となる範囲を挙げることができる。また、上記pH範囲内であれば、眼やレンズに適用しても安全であり、眼科用の水性組成物として有用である。
本発明の水性組成物は、更に必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節することができる。適切な浸透圧比は該組成物の用途や形態等により異なるが、通常0.4〜2.5、好ましくは0.5〜1.8、更に好ましくは0.6〜1.7、より好ましくは0.85〜1.55、特に好ましくは0.95〜1.30程度である。
本発明の水性組成物において浸透圧比は、第十六改正日本薬局方の浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)に基づき、生理食塩液に対する浸透圧比として求める。
上記pH及び浸透圧比の調整は無機塩及び多価アルコール、糖アルコール、糖類などを用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。
本発明の水性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、上記成分の他に種々の薬理活性成分や生理活性成分を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの薬理活性成分や生理活性成分として、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された各種医薬における有効成分が例示できる。
薬理活性成分又は生理活性成分としては、具体的には、次のような成分が挙げられる。 抗ヒスタミン剤又は抗アレルギー剤:例えば、フマル酸ケトチフェン、イプロヘプチン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、クロモグリク酸ナトリウム、トラニラスト、ペミロラストカリウム等。 充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。 殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。 ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、パンテノール、パントテン酸カルシウム等。アミノ酸類:例えば、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。 消炎剤:例えば、グリチルリチン酸ニカリウム、アズレンスルホン酸、アラントイン、トラネキサム酸、イプシロン−アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム等。 収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。 その他:例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム、プラノプロフェン等。
また、本発明の点眼剤には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や製剤形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。 増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等。 糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。 糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。 防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。 pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。 等張化剤: 例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、グリセリン、プロピレングリコールなど。 安定化剤:例えば、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。 香料又は清涼化剤:例えば、メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
(II)ビタミンA類安定化剤及び安定化方法 前述のように、ビタミンA類を含む水性組成物に、(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分を配合することによって、ビタミンA類の安定化が可能になる。従って、更に本発明は、(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分を含有する、ビタミンA類安定化剤、及びビタミンA類を含有する水性組成物に、(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分を配合する、ビタミンA類安定化方法をも提供する。当該ビタミンA類安定化剤及び安定化方法において、ビタミンA類、及び、(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分の種類や配合割合、その他の配合成分等については、前記(I)の水性組成物の欄に記載の通りである。
(III)澄明化剤及び澄明化方法 一定量の(D)非イオン界面活性剤を用いて(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分を溶解する際に白濁が生じることがある。本発明者らは、(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と(D)非イオン界面活性剤とを含む水性組成物に、脂溶性ビタミンを配合することにより、水性組成物の白濁が抑制でき、澄明性が向上することを見出した。したがって、更に本発明は、(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と(D)非イオン界面活性剤とを含む水性組成物の澄明化剤であって、脂溶性ビタミンを含有する、澄明化剤、及び、(B)ロウ類、炭化水素類、エステル油及び植物油からなる群から選択される少なくとも1種の油分と(D)非イオン界面活性剤とを含む水性組成物に、脂溶性ビタミンを配合する、水性組成物の澄明化方法を提供する。なお、本発明における澄明性は、例えば、600nmにおける可視光透過率により評価することができる。
脂溶性ビタミンとしては、例えば、ビタミンA類及びビタミンE類が挙げられる。ビタミンA類とは、ビタミンA(即ち、レチノール)及びその誘導体(例えば、レチノールの各種異性体及びエステル類等)を指す。具体的には、ビタミンA類として、レチノール、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、酪酸レチノール、プロピオン酸レチノール、オクチル酸レチノール、ラウリル酸レチノール、オレイン酸レチノール、リノレン酸レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノイン酸メチル、レチノイン酸エチル、レチノイン酸レチノール、ビタミンA脂肪酸エステル、δ−トコフェリルレチノエート、α−トコフェリルレチノエート及びβ−トコフェリルレチノエートなどが挙げられるが、これらに限定されない。ビタミンE類とは、α,β,γ,δ−トコフェロール及びこれらの誘導体(例えば、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール)、α,β,γ,δ−トコトリエノール及びこれらの誘導体、ビタミンEリノレート等が挙げられる。上記トコフェロール及びトコトリエノールは、d体(天然ビタミンE等)又はdl体の別を問わず使用できる。
上記脂溶性ビタミンは、1種単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、ビタミンA類とビタミンE類とを組み合わせて用いたときに澄明化の効果が顕著になる。ビタミンA類とビタミンE類との組み合わせの具体例としては、パルミチン酸レチノールと酢酸トコフェロールとの組み合わせが好ましい。
脂溶性ビタミンの配合量は、例えば、ビタミンA類を用いる場合には、水性組成物100mLあたり、好ましくは5000〜50000単位であり、より好ましくは10000〜50000単位であり、更に好ましくは25000〜50000単位である。ビタミンE類を用いる場合には、水性組成物の総量に対して、ビタミンEが総量で好ましくは0.005〜0.05w/v%であり、より好ましくは0.01〜0.05w/v%であり、更に好ましくは0.02〜0.05w/v%である。
また、ビタミンA類とビタミンE類とを組み合わせて用いる場合の両者の比率は、ビタミンA類1単位に対してビタミンE類が好ましくは0.1〜10μgであり、より好ましくは、0.6〜1.6μg
であり、更に好ましくは、0.8〜1.2μgである。
当該澄明化剤及び澄明化方法において、(B)成分及び(D)成分、並びに脂溶性ビタミン類を除くその他の配合成分等については、前記(I)の水性組成物の欄に記載の通りである。
以下に、試験例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
[試験例1 ビタミンA類の安定性評価―1] 表1の処方に従って試験液を調製した。具体的には、ホウ酸及びホウ砂以外の成分(パルミチン酸レチノール、酢酸−d−α−トコフェロール、l−メントール、精製ラノリン、ジブチルヒドロキシトルエン及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)を秤量し、遮光下で70℃温浴内で攪拌し5倍予製液(脂溶性成分予製液)を調製した。別にホウ酸及びホウ砂を溶解させた水溶液を用意し、先に調製した5倍予製液を投入した後、精製水でメスアップすることで試験液を調製した。これらの試験液を、透明ガラスバイアルに空隙率が10%以下になるように充填し密封後、遮光条件で4℃及び50℃で2週間保管した。2週間後、取り出した試験液中に含まれるパルミチン酸レチノールの含有量をHPLC法によって定量し、下式に従いビタミンA類残存率として算出した。その結果を図1に示す。ビタミンA類残存率(%)=(50℃品のパルミチン酸レチノール含有量/4℃品のパルミチン酸レチノール含有量)×100
(A)成分であるパルミチン酸レチノールと(B)成分である精製ラノリンとを含有する実施例1の処方は、(B)成分を含まない比較例1の処方に比べ、ビタミンA類残存率が高く、ビタミンA類の安定性が向上していることが分かる。すなわち、(B)成分である精製ラノリンを配合することにより、ビタミンA類の安定性が向上する。また、実施例1〜4の処方によれば、精製ラノリンの配合量が増加するに伴いビタミンA類の安定性が向上していることが分かる(図1)。
[試験例2 ビタミンA類の安定性評価―2] 表2の処方に従い、試験例1と同様にして試験液を調製した。これらの試験液を、透明ガラスバイアルに空隙率が10%以下になるように充填し密封後、遮光条件で4℃及び60℃で4日間保管した。保管後、取り出した試験液中に含まれるパルミチン酸レチノールの含有量をHPLC法によって定量し、下式に従いビタミンA類残存率として算出した。その結果を図2に示す。ビタミンA類残存率(%)=(60℃品のパルミチン酸レチノール含有量/4℃品のパルミチン酸レチノール含有量)×100
(A)成分であるパルミチン酸レチノールと(B)成分である精製ラノリンと(D)成分であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60とを含む参考例1の処方に、(C)成分である酢酸トコフェロールを更に配合すると(実施例5)、ビタミンA類残存率が更に高くなり、ビタミンA類の安定性がより向上していることが分かる。また、実施例5の処方に(E)成分であるエデト酸ナトリウムを更に配合すると(実施例6)、ビタミンA類残存率が更に高くなり、ビタミンA類の安定性がより向上していることが分かる。また、実施例6の処方に(C)成分であるジブチルヒドロキシトルエンを更に配合すると(実施例7)、ビタミンA類残存率が更に高くなり、ビタミンA類の安定性がより向上していることが分かる。(図2)。
[試験例3 澄明性評価―1] 表3の処方に従い、試験例1と同様にして試験液を調製した。調製直後、試験液の白濁程度を、光透過率を測定することにより評価した。UVspectrophotometer UV−2450(島津製)により600nmの光線透過率(%)を測定した。得られた結果を図3に示す。
(B)成分である精製ラノリン及び(D)成分であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を配合した比較例2の処方に比べて、更にパルミチン酸レチノールを配合した参考例1の処方は、600nmの光透過率が高く、澄明性が向上していることが分かる。すなわち、脂溶性ビタミンであるパルミチン酸レチノールの配合により(B)成分及び(D)成分により生じた白濁を澄明化することができる。 また、参考例1の処方に(C)成分である酢酸トコフェロールを加えた実施例5の処方、実施例5の処方に(E)成分であるエデト酸ナトリウムを加えた実施例6の処方、及び、実施例6の処方に(C)成分であるジブチルヒドロキシトルエンを加えた実施例7の処方は、参考例1と同等の高い澄明性を有していることが分かる。
[試験例4 澄明性評価―2] 表4の処方に従い、試験例1と同様にして通常使用量の5倍予製液を調製し、その可視光透過率を測定した。ここで、5倍予製液における可視光透過率を測定したのは、試料間での澄明性の差を強調するためである。可視光透過率は600nmの光透過率を測定した。それぞれの外観写真を図4に示す。
表4に示す通り、(B)成分である精製ラノリンと(D)成分であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60とを含む水性組成物(参考例2)に、脂溶性ビタミンであるパルミチン酸レチノールを配合することで(参考例3)、600nmの光線透過率が高まり、澄明性が向上していることが分かる。また、脂溶性ビタミンである酢酸トコフェロールを更に配合させることで(実施例8)、600nmの光線透過率が更に高まり、澄明性が更に向上していることが分かる。上記結果は、図4の外観写真を対比することでも明らかである。
[試験例5 澄明性及び蒸散抑制評価] 表5の処方に従い、試験例1と同様にして試験液を調製し、その可視光透過率と蒸散抑制効果を評価した。 蒸散抑制効果は以下のようにして評価した。すなわち、スライドガラスに調製した試験液約20mgを滴下し、室温で1時間静置した。静置前後の製剤重量を測定し、その重量変化から、乾燥蒸散による蒸散率(%)を算出した。得られた結果を図5に示す。 粒子径は、大塚電子FPAR−1000を用いて粒度分布を自動計算させることによって得たメジアン径として求めた。 可視光透過率は600nmの光透過率を測定した。 白濁の目視評価は、以下のようにして行った。すなわち、白濁がなく澄明であるものを○と評価し、やや白濁があるものを△と評価し、重度な白濁があるものを×と評価した。
表5及び図5に示す通り、(A)成分であるパルミチン酸レチノールの濃度が5000〜50000単位/100mLの範囲では、蒸散率が低いことから蒸散抑制効果が高いことが分かる。また、この範囲では、600nmの光透過率が高く白濁の目視評価も良好である。すなわち、5000〜50000単位/100mLの範囲では、水性組成物の澄明性と蒸散抑制効果が両立している。一方、パルミチン酸レチノールの濃度が5000単位/100mL未満であると、澄明性は良好であるものの、蒸散率が増加する。パルミチン酸レチノールの濃度が50000単位/100mLを越えると澄明性が低下する。パルミチン酸レチノールの濃度が100000単位/100mLを超えると蒸散率が増加する。