しかしながら,圧搾線が形成された吸収体においては,圧搾線が形成された部分の拡散性と圧搾線が形成されていない領域(非圧搾領域)の拡散性の差が大きい。この拡散性の差が原因となり,体液が圧搾線に沿って広く拡散するものの非圧搾領域への吸収が進まないという現象が生じ,体液が圧搾線に沿って吸収体の端部まで到達して,その端部から漏れ出すという問題があった。
より具体的に説明すると,圧搾線が形成された吸収体においては,体液が吸収体に吸収される際に,毛細管現象によって,体液が圧搾線に沿って時間的に先に拡散し,非圧搾領域においては後から拡散することとなる。このように,圧搾線が形成された部位と非圧搾領域においては,体液の拡散時間に時差がある。吸収体を構成する吸収性材料の坪量が低い場合には,上記拡散時間の時差はそれほど大きな問題とはならないが,体液の吸収量を増やすために吸収性材料の坪量を高くすると,非圧搾領域における吸液時間がより遅くなる。このため,高吸収量の吸収体においては,圧搾線が形成された部位と非圧搾領域とで体液の拡散時間の時差がさらに大きくなり,場合によっては圧搾線ばかりが体液で濡れて,非圧搾領域では殆ど体液を吸収できないという事態も生じ得る。さらに,圧搾線が形成された部位は,吸収性材料が圧縮されているため非圧搾領域と比較して体液の吸収量は少ない。従って,多量の体液が圧搾線に沿って吸収体の端部まで到達し,外部への漏れの原因になる可能性があった。
また,上記の問題を解消するために,吸収体に形成する圧搾線の間隔を狭くして,非圧搾領域に体液が浸透しやすくするという対策も考えられる。しかしながら,圧搾線とその周囲は吸収体の剛性が高くなるため,圧搾線の間隔を狭くしてその密度を高めると,吸収体全体の肌触りが硬くなり,吸収性物品の着用感を損なうという問題がある。
そこで,本発明は,体液の吸収量を高めつつ拡散性を向上させるために吸収体に圧搾線を形成した吸収性物品において,圧搾線を密に形成しなくても,非圧搾領域に効果的に体液を拡散させ,広い範囲で体液を吸収できるようにすることを解決課題とする。
本発明の発明者は,上記課題の解決手段について鋭意検討した結果,吸収体を2層以上で積層して体液の吸収量を高めつつ,各吸収体に圧搾線を形成し,さらに各吸収体に形成された圧搾線を交差させることとした。これにより,各吸収体には圧搾線を密に形成しなくても,非圧搾領域に効果的に体液を拡散させることが可能となり,広い範囲で体液を吸収できるようになるという知見を得た。そして,本発明者は,この知見に基づけば上記の課題を解決できることに想到し,本発明を完成させた。具体的に説明すると,本発明は以下の構成を有する。
本発明は,使い捨ておむつや,尿とりパッド,生理用ナプキンなどの吸収性物品に関する。吸収性物品は,液透過性のトップシート10と,バックシート20と,これらの間に積層して配置された少なくとも2つの吸収体30,40とを備える。なお,バックシート20としては,液不透過性のシート部材を用いることが好ましいが,液透過性のシート部材を用いることもできる。2つの吸収体30,40は,それぞれ,当該吸収体が厚み方向に窪んだ圧搾線31,41を複数有している。そして,2つの吸収体の圧搾線31,41は,平面方向からみて少なくとも部分的に交差している。なお,圧搾線31,41は,吸収体のトップシート側(肌対向面側)が窪んだものであってもよいし,バックシート側(肌非対向面側)が窪んだものであってもよいし,これらの両側が窪んだものであってもよい。また,「平面方向からみる」とは,トップシート10又はバックシート20と対面する方向からみることを意味する。
上記構成のように,2つの吸収体30,40を厚み方向に積層して配置することで,吸収性物品全体の吸収量を高めることができる。また,各吸収体30,40に圧搾線31,41を形成することで,体液の拡散性を高めることができる。そして,互いの圧搾線31,41を交差するように各吸収体30,40を配置することで,圧搾線が形成されていない領域(非圧搾領域)にも効果的に体液を浸透させることが可能となる。つまり,一方の吸収体の圧搾線に沿って拡散した体液が,他方の吸収体の非圧搾領域に吸収されやすくなる。このため,一方の吸収体の圧搾線に沿って拡散した体液が端部に到達しにくくなり,外部へと漏れ出す事態を効果的に防止できる。また,2層の吸収体30,40の広い範囲で体液を吸収できるようになるため,体液の吸収量が向上するとともに,長時間の着用であっても着用者に対して不快感を与えにくい。さらに,2層の吸収体30,40のそれぞれに圧搾線31,41を形成することで,各吸収体に圧搾線を密に形成する必要がなくなる。このため,各吸収体の肌触りが硬くなることを回避することができる。
本発明の吸収性物品において,2つの吸収体30,40は,それぞれ,圧搾線31,41によって周囲を囲われた非圧搾領域32,42を複数有していることとしてもよい。この場合に,一方の吸収体の圧搾線の少なくとも一部が,他方の吸収体の非圧搾領域に重なることが好ましい。
上記構成のように,非圧搾領域32,42は圧搾線31,41によって周囲を囲われた部位であるため,この非圧搾領域32,42にも体液を導きやすくなる。また,少なくとも一方の吸収体の圧搾線の一部が他方の吸収体の非圧搾領域に重なっていることで,圧搾線を通じて拡散した体液を,非圧縮領域に導入しやすくなる。
本発明の吸収性物品において,2つの吸収体30,40は,それぞれ,圧搾線31,41が交差した交点部33,43を複数有していることとしてもよい。この場合に,一方の吸収体の交点部の少なくとも一部が,他方の吸収体の非圧搾領域に重なることが好ましい。
上記構成のように,各吸収体30,40に形成された交点部33,43では圧搾線31,41が交差しているため,体液が滞留しやすくなっている。そして,この一方の吸収体の交点部を他の吸収体の非圧搾領域に重ねることで,交点部に滞留した体液を非圧搾領域に効果的に浸透させることが可能となる。
本発明の吸収性物品において,各吸収体30,40が交点部33,43を複数有している場合,一方の吸収体の交点部と他方の吸収体の交点部とが,少なくとも部分的に重なることが好ましい。すなわち,一方の吸収体に形成された複数の交点部のうちの少なくとも一部が,他方の吸収体に形成された複数の交点部のうちの少なくとも一部と重なっていればよい。
上記構成のように,各吸収体の交点部同士を重ねることで,この重なった交点部を介して,一方の吸収体から他方の吸収体へと体液を効果的に流通させることができる。つまり,一方の吸収体の圧搾線に沿って拡散した体液は,一度交点部で滞留することになるが,その際に他方の吸収体の交点を通じて,他方の吸収体の圧搾線へと移る。このように,各吸収体の交点部同士を重ねることで,両吸収体の圧搾線の液拡散機能を効果的に発揮できる。
本発明において,2つの吸収体は,トップシート10側に位置する第1の吸収体30と,バックシート20側に位置する第2の吸収体40であるとする。この場合に,第2の吸収体40は,第1の吸収体30側の面が窪んだ圧搾線41が形成されており,当該圧搾線41が形成された部位において第1の吸収体30との間に隙間が形成されていることが好ましい。
上記構成のように,第1の吸収体30と第2の吸収体40との間に隙間が形成されていることで,トップシート10側から第1の吸収体30に吸収された体液が,当該隙間へと流れ込み,第2の吸収体40に効果的に拡散されるようになる。
本発明の吸収性物品において,第1の吸収体30は,第2の吸収体側の面が窪んだ圧搾線31が形成されており,当該圧搾線31が形成された部位において第2の吸収体40との間に隙間が形成されていることが好ましい。
上記構成のように,第1の吸収体30の裏側の面を窪ませた圧搾線31を形成することで,第1の吸収体30に浸透した体液が第2の吸収体40へと流れ落ちやすくなる。
本発明の吸収性物品は,さらに,トップシート10と第1の吸収体30との間,又は,バックシート20と第2の吸収体40との間に,第3の吸収体70を備えることとしてもよい。この場合,第3の吸収体70も,第1の吸収体30及び第2の吸収体40と同様に,当該吸収体が厚み方向に窪んだ圧搾線71を複数有していることが好ましい。
上記構成のように,第3の吸収体70をさらに備えることで,吸収性本体全体の吸収量を向上させることができる。また,第3の吸収体70にも圧搾線71を形成することで,液拡散性を維持できる。
本発明の吸収性物品において,一方の吸収体の前記圧搾線は,吸収性物品の長手方向に向かって延びるものであり,他方の吸収体の圧搾線は,吸収性物品の幅方向に向かって延びるものであることとしてもよい。
上記構成のように,長手方向に延びる一方の吸収体の圧搾線と,幅方向に延びる他方の吸収体の圧搾線を交差させることで,体液を長手方向に拡散させると同時に,幅方向にも拡散させることが可能となる。特に,体液は長手方向に拡散しにくく,体液は幅方向の端部から漏れやすい。このため,上層に配置された吸収体に長手方向に延びる圧搾線を形成し,下層に配置された吸収体に幅方向に延びる圧搾線を形成することが好ましい。これにより,最初に上層の吸収体に接触した体液を長手方向に拡散させ,その後,下層の吸収体に浸透した体液を補助的に幅方向へと拡散させることができる。その結果,体液を長手方向に効率良く拡散させることができると同時に,幅方向の端部からの漏出を防止できる。
本発明の吸収性物品において,一方の吸収体は,圧搾線によって周囲を囲われた非圧搾領域を複数有しており,他方の吸収体の圧搾線は,吸収性物品の長手方向に向かって延びるものか,又は吸収性物品の幅方向に向かって延びるものであってもよい。
上記構成のように,一方の吸収体に形成された圧搾線を,例えば格子状のパターンとして,圧搾線によって周囲を囲われた非圧搾領域を形成し,他方の吸収体に形成された圧搾線を長手方向又は幅方向に向かって延びるように形成することもできる。このような形態によっても,2つの吸収体の圧搾線31,41は,平面方向からみて少なくとも部分的に交差することとなるため,非圧搾領域に効果的に体液を拡散させ,広い範囲で体液を吸収することが可能となる。
本発明によれば,体液の吸収量を高めつつ拡散性を向上させるために吸収体に圧搾線を形成した吸収性物品において,圧搾線を密に形成しなくても,非圧搾領域に効果的に体液を拡散させ,広い範囲で体液を吸収することが可能となる。その結果,吸収性物品の着用感を損なうことなく,吸収体の端部からの体液の漏れを防止できる。
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜変更したものも含む。
本願明細書において,「A〜B」とは,「A以上B以下」であることを意味する。
また,本願明細書において,「長手方向」とは,吸収性物品のうち,着用者の腹部側に位置する前身頃と着用者の背部側に位置する後身頃とを結ぶ方向を意味する。また,「幅方向」とは,吸収性物品の長手方向に平面的に直交する方向を意味する。本願の図1において,吸収性物品の長手方向はY軸で示されており,吸収性物品の幅方向はX軸で示されている。
また,本願明細書において,「肌対向面」とは,吸収性物品の着用時において着用者の肌に対向する面を意味する。また,「肌非対向面」とは,吸収性物品の着用時において着用者の肌に対向しない面を意味している。
[1.第1の実施形態]
図1から図5を参照して,本発明の第1の実施形態に係る吸収性物品について説明する。第1の実施形態に係る吸収性物品は,大型の尿とりパッドとして構成されている。図1は,吸収性物品100全体の平面図であり,図2は,図1に示されたII−II線における断面形状を模式的に示している。なお,図2の断面図においては,吸収性物品100の構成を分かりやすく示すために,各種の構成部材の間に隙間を設けて描画しているが,実際には構成部材の間には隙間はほとんど形成されない。
図1に示されるように,吸収性物品100は,着用者の腹部側に位置する前身頃1と,着用者の背部側に位置する後身頃2と,これらの間に位置する股下部3とに,長手方向に区分することができる。具体的に説明すると,吸収性物品100は,その平面視において,ひょうたん型若しくは砂時計型と表現することのできる形状となっている。すなわち,吸収性物品100は,股下部3に,吸収性物品100の横幅が最も狭くなった部位であるくびれ部が存在する。他方で,吸収性物品100の前身頃1と後身頃2には,股下部3のくびれ部よりも幅方向の左右外側に延出する部位であるサイドフラップが存在する。つまり,サイドフラップが形成された部分において,前身頃1と後身頃2の横幅は,股下部3のくびれ部における横幅よりも広く形成されている。このように,吸収性物品100はひょうたん型(砂時計型)とすることができる。ただし,吸収性物品100の形状は適宜変更することができ,例えば単純な矩形状とすることも可能である。
また,図1及び図2に示されるように,吸収性物品100は,基本的に,液透過性のトップシート10と,液不透過性のバックシート20と,これらの間に介在する複数の吸収体30,40を有している。本願明細書において,トップシート10側に位置する吸収体を「上層吸収体30」(第1の吸収体)とし,バックシート20側に位置する吸収体を「下層吸収体40」(第2の吸収体)とする。図2の断面図に示されるように,上層吸収体30と下層吸収体40は,その厚み方向に重ねられている。また,上層吸収体30と下層吸収体40は,両者の相対的位置がずれないように,ホットメルト接着剤などの接着剤を利用して接合されている。トップシート10は,積層された吸収体30,40の肌対向面側を被覆しており,バックシート20は,積層された吸収体30,40の肌非対向面側を被覆している。図1及び図2に示されるように,各吸収体30,40の周囲においては,トップシート10とバックシート20が,ホットメルト接着剤や,ヒートシール,あるいは超音波シールなどによって互いに接合されている。これにより,各吸収体30,40は,トップシート10とバックシート20の接合部によって周囲を囲われたものとなる。また,吸収性物品100の幅方向左右両側に,一対の立体ギャザー50が形成されている。一対の立体ギャザー50は,吸収体の左右両側において起立するものであり,尿漏れを防ぐための防漏壁として機能する。さらに,吸収性物品100は,バックシート20の肌非対向面を覆うカバーシート60を備えていてもよい。以下,吸収性物品100を構成する各部材について説明する。
トップシート10は,着用者の股下の肌に直接接し,尿などの体液を吸収体30,40へ透過させるためのシート状の部材である。このため,トップシート10は,柔軟性が高い液透過性材料で構成される。トップシート10を構成する液透過性材料の例は,織布,不織布,又は多孔性フィルムである。また,例えばポリプロピレンやポリエチレン,ポリエステル,ナイロンのような熱可塑性樹脂の繊維を親水化処理してさらに不織布にしたものを用いることとしてもよい。不織布としては,エアスルー不織布,ポイントボンド不織布,スパンボンド不織布,メルトブロー不織布などを挙げることができる。
バックシート20は,トップシート10を透過して吸収体30,40に吸収された体液が,おむつの外部へ漏出することを防止するためのシート状の部材である。このため,バックシート20は,液不透過性材料によって構成されることが好ましい。バックシート20を構成する液不透過材料の例は,ポリエチレン樹脂からなる液不透過性のフィルムである。特に,バックシート20としては,液不透過性を維持しつつ通気性を確保するために,0.1〜4μmの微細な孔が複数形成された微多孔性ポリエチレンフィルムを用いることが好ましい。
吸収体30,40は,尿などの体液を吸収し,吸収した体液を保持するための部材である。吸収体30,40は,液透過性のトップシート10と,液不透過性のバックシート20の間に配置される。上層吸収体30と下層吸収体40は,ホットメルト接着剤などによって接合し,互いの相対位置がずれないようにされていることが好ましい。各吸収体30,40は,吸収性材料34,44と,それを被覆するコアラップシート35,45によって構成されている。吸収性材料34,44としては,例えば,針葉樹や広葉樹などの繊維材料を解砕してなるフラッフパルプや,高吸水性ポリマー(SAP),親水性シートを用いることとしてもよい。また,吸収性材料34,44としては,フラッフパルプ,高吸水性ポリマー,又は親水性シートのうち1種類を単独で用いてもよいし,2種類以上を組合せて併用することもできる。一般的に,吸収性材料34,44は,フラッフパルプの中に高吸水性ポリマーを散布したものによって構成される。コアラップシート35,45は,吸収性材料34,44を覆うことによってその形状を保持するためのシート部材である。コアラップシート35,45としては,液透過性を有するシート部材が用いられる。コアラップシート35,45の例は,ティッシュペーパのような薄葉紙や,公知の不織布を用いることができる。
また,本発明において,上層吸収体30と下層吸収体40の大きさは異なることが好ましい。特に,本発明において,上層吸収体30の長さ及び幅は,下層吸収体40の長さ及び幅よりも小さくなっていることが好ましい。この場合に,上層吸収体30は,吸収性物品100の股下部3を中心に,下層吸収体40の上に重ねて配置される。これにより,体液の排泄量が多い股下部3における吸収量を増加させることができる。ただし,上層吸収体30と下層吸収体40の大きさ及び形状は全く同一であってもよい。
一対の立体ギャザー50は,吸収体の左右両側において起立するものであり,尿漏れを防ぐための防漏壁となる。立体ギャザー50は,一般的に,サイドシート51と一又は複数の弾性伸縮部材52によって構成される。サイドシート51は,股下部3においては,幅方向の外側部分がトップシート10やバックシート20の肌対向面側に接合され,幅方向の内側部分は接合される開放されている。そして,開放されたサイドシート51の内側端部に,一又は複数の弾性伸縮部材52が,長手方向の沿った伸長状態で固定されている。このため,弾性伸縮部材52が収縮すると,サイドシート51の内側端部が弾性伸縮部材52の収縮力によって立ち上がるとともに,弾性伸縮部材52が収縮した部位に皺(ギャザー)が形成される。サイドシート51としては,例えば,カードエンボスやスパンボンド等の製法により得られた不織布シートを使用することができ,特に防水性及び通気性が高いSMSやSMMS等の不織布シートを用いることが好ましい。
カバーシート60は,バックシート20を補強し,かつ,その手触りを良くするための部材である。カバーシート60は,バックシート20の肌非対向面側に貼り合わせられる。カバーシート60を構成する材料としては,織布や不織布が用いられる。特に,カバーシート60を構成する材料として,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエステルのような熱可塑性樹脂からなる不織布又は湿式不織布を用いることが好ましい。
図1及び図2に示されるように,本発明に係る吸収性物品100は,各吸収体30,40に,当該吸収体30,40を厚み方向に窪ませた圧搾線31,41が複数形成されている点を特徴の一つとしている。つまり,圧搾線31,41は,上層吸収体30と下層吸収体40のそれぞれに複数形成されている。圧搾線31,41は,肌対向面側と肌非対向面側の両側又はいずれか一方側から各吸収体30,40を部分的に押圧して圧縮することによって形成することが可能である。このため,圧搾線31,41が形成された部位においては,各吸収体30,40における吸収性材料34,44の密度が高まることとなる。そして,上層吸収体30に形成された圧搾線31と下層吸収体40に形成された圧搾線41は,平面方向からみたときに少なくとも部分的に互いに交差するパターンをなしている。以下では,上層吸収体30に形成された圧搾線31のパターンと,下層吸収体40に形成された圧搾線41のパターンについて詳しく説明する。
図3(a)及び(b)は,上層吸収体30と下層吸収体40を概念的に分離して横に並べて表示した平面図である。また,図3(c)及び(d)は,III−III線における各吸収体30,40の断面形状を模式的に示している。また,図4(a)は,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態を示しており,図4(b)は,IV−IV線における吸収体の断面形状を模式的に示している。さらに,図5は,上層吸収体30に形成された圧搾線31のパターンと,下層吸収体40に形成された圧搾線41のパターンを拡大して示したものである。
図3から図5に示されるように,上層吸収体30には,圧搾線31が方形格子状のパターンで形成されている。ここにいう「方形格子状のパターン」とは,長手方向と平行に延びる複数の圧搾線と幅方向と平行に延びる複数の圧搾線とが交差して,四角形状の非圧搾領域が区画されるパターンをいう。特に,本実施形態において,上層吸収体30における圧搾線31のパターンは,圧搾線31によって四方を囲われた非圧搾領域32がすべて正方形状となる規則的なパターン(正方形格子状のパターン)となっている。このように,上層吸収体30には,複数の圧搾線31と,圧搾線31によって周囲を囲われた非圧搾領域32と,圧搾線31が交差した交点部33が形成されているものと観念することができる。以下では便宜的に,上層吸収体30における圧搾線31を「上側圧搾線31」,非圧搾領域32を「上側非圧搾領域32」,交点部33を「上側交点部33」と称する。
一方で,下層吸収体40には,圧搾線41が斜方形格子状のパターンで形成されている。ここにいう「斜方形格子状のパターン」とは,長手方向及び幅方向に対して傾斜した方向に延びる複数の圧搾線が交差して,斜方形(菱形)の非圧搾領域が区画されるパターンをいう。特に,本実施形態において,下層吸収体40における圧搾線41のパターンは,圧搾線41によって四方を囲われた非圧搾領域42がすべて正斜方形(正菱形)となる規則的なパターン(正斜方形格子状のパターン)となっている。このように,下層吸収体40においても,複数の圧搾線41と,圧搾線41によって周囲を囲われた非圧搾領域42と,圧搾線41が交差した交点部43が形成されているものと観念することができる。以下では便宜的に,下層吸収体40における圧搾線41を「下側圧搾線41」,非圧搾領域42を「下側非圧搾領域42」,交点部43を「下側交点部43」と称する。
また,本実施形態において,上側圧搾線31は,上層吸収体30を肌対向面側から圧縮して窪ませることにより形成されたものである。同様に,下側圧搾線41は,下層吸収体40を肌対向面側から圧縮して窪ませることにより形成されたものである。このため,下層吸収体40に下側圧搾線41が形成された部位には,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態において両者の間に隙間が形成されることとなる。
図4及び図5は,正方形格子状の上側圧搾線31のパターンと,正斜方形格子状の下側圧搾線41のパターンを重ねた状態を示している。各図からわかるように,本実施形態において,上側非圧搾領域32の面積は,下側非圧搾領域42の面積よりも大きくなっている。このため,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねたときに,上側非圧搾領域32(正方形)の範囲の中に,下側非圧搾領域42(正斜方形)が収まることとなる。
また,本実施形態では,ある上側非圧搾領域32(正方形)を画定する4辺の上側圧搾線31に,それぞれ,ある下側非圧搾領域42(正斜方形)を画定する4つの下側交点部43が重なっている。このため,図4及び図5に示されるように,上側非圧搾領域32(正方形)の範囲に下側非圧搾領域42(正斜方形)がピッタリと収まっていることがわかる。すなわち,上側非圧搾領域32(正方形)の中心(対角線の交点)と,下側非圧搾領域42(正斜方形)の中心(対角線の交点)が一致している。さらに,図3に示したように,上側非圧搾領域32(正方形)の長手方向の長さLは,下側非圧搾領域42(正斜方形)の長手方向に沿った対角線の長さD1とほぼ等しい(L=D1)。また,上側非圧搾領域32(正方形)の幅方向の長さBは,下側非圧搾領域42の幅方向に沿った対角線の長さD2とほぼ等しい(B=D2)。なお,本願明細書における「ほぼ」とは,±5%の誤差を許容することを意味する。これらの条件を満たすことで,上側非圧搾領域32(正方形)を画定する4辺の上側圧搾線31に,それぞれ,ある下側非圧搾領域42(正斜方形)を画定する4つの下側交点部43が重なることとなる。
また,図4及び図5に示されるように,上側交点部33は,それぞれ,下側非圧搾領域42(正斜方形)の中心(対角線の交点)に重なっている。別の見方をすれば,複数の下側非圧搾領域42(正斜方形)には,上側交点部33が重なるものと,上側交点部33が重ならないものとが存在する。図4及び図5に示した例では,下側非圧搾領域42の複数の列のうち,1列おきに,上側交点部33が重なるものの列と,上側交点部33が重ならないものの列が交互に並んでいることがわかる。同様に,下側非圧搾領域42の複数の行のうち,1行おきに,上側交点部33が重なるものの行と,上側交点部33が重ならないものの行が交互に並んでいることがわかる。
上記のように,上側圧搾線31のパターン(正方形格子状)と下側圧搾線41のパターン(正斜方形格子状)を形成することで,1つの吸収体に圧搾線を密に形成しなくても,非圧搾領域に効果的に体液を拡散させ,2層の吸収体全体の広い範囲で体液を吸収できる。つまり,上層吸収体30の上側圧搾線31に沿って拡散した体液が,下層吸収体40の下側非圧搾領域42に吸収されることになる。このため,上層吸収体30の上側圧搾線31に沿って拡散した体液が端部に到達しにくくなり,外部へと漏れ出す事態を効果的に防止できる。また,2層の吸収体30,40の広い範囲で体液を吸収できるようになるため,体液の吸収量が向上するとともに,長時間の着用であっても着用者に対して不快感を与えにくい。各吸収体30,40に形成された交点部33,43では,圧搾線31,41が交差しているため,体液が滞留しやすくなっている。そこで,上層吸収体30の上側交点部33を下層吸収体40の下側非圧搾領域42に重ねることで,上側交点部33に滞留した体液を下側非圧搾領域42に効果的に浸透させることが可能となる。
また,本実施形態のように,上側交点部33が重なる下側非圧搾領域42の列及び行を1列置き及び1行置きとすることで,上層吸収体30に浸透した体液を,より遠くの領域まで拡散させることができる。このため,上層吸収体30に浸透した体液を,下層吸収体40の広い範囲に拡散及び浸透させることが可能となる。
また,圧搾線は,溝として液体を流す機能と,圧搾部周辺の非圧搾領域に毛細管現象を利用して液体を圧搾部に沿って拡散させる機能がある。溝として機能しない形態で使われた場合においても,一方の吸収体の圧搾線から他方の吸収体の圧搾線又は非圧搾領域へと液体の受け渡しが起こる。その理由は次の通りである。すなわち,圧搾線は,吸収体を構成する吸収性材料を圧力で潰したものである。このため,圧搾線が形成された部位において吸収体が液体を吸収すると厚さが変化する。すなわち,圧搾線にあるパルプやSAPが吸液すると,時間をかけてパルプ間の間隔が緩み,またSAPは膨潤するため,圧搾線が徐々に浅くなり,最後には膨潤後の非圧搾領域と厚みがほぼ同じになる。このように,圧搾線は吸収前には深さがあっても吸液が進行するとともに徐々に深さが浅くなる。このため,一方の吸収体の圧搾線からそれに重なる他方の吸収体に設けられた圧搾線又は非圧搾領域に液体を受け渡しやすくなる。つまり,最初の状態で圧搾線は溝となっているため,液体がこの圧搾線に優先して流れ込む。そして,圧搾線が形成された部位は吸液が進むと圧搾線が膨潤するため,前述のとおり,膨潤した圧搾線に重なる他方の吸収体に設けられた圧搾線又は非圧搾領域へと液体が移動する。
ここで,吸収性物品の構成要素に関する具体的な数値について説明する。例えば,各吸収体30,40の厚み,すなわち非圧搾領域32,42の厚みは,5mm〜20mmであることが好ましく,特に8mm〜15mmであることが好ましい。また,圧搾線31,41が形成された部位における各吸収体30,40の厚みは,1mm〜10mmであることが好ましく,特に2mm〜5mmであることが好ましい。ただし,当然のことながら,圧搾線31,41が形成された部位の厚みは,非圧搾領域32,42の厚みよりも小さくなる。例えば,圧搾線31,41が形成された部位の厚みは,非圧搾領域32,42の厚みに対して,3%〜50%であり,特に5%〜20%であることが好ましい。
また,各圧搾線31,41の幅は,1mm〜5mmであることが好ましく,特に2mm〜4mmであることが好ましい。また,図2に示した上側非圧搾領域32の長さLは,10mm〜50mmであることが好ましく,特に20mm〜40mm,あるいは30mmであることが好ましい。上側非圧搾領域32の幅Bの好ましい数値範囲は,前述した長さLと同様である。長さLと幅Bは,ほぼ等しいことが好ましいが,異なっていてもよい。つまり,上側非圧搾領域32の形状は,正方形に限られず,その他の四角形とすることも可能である。また,図2に示した下側非圧搾領域42の長手方向における対角線の長さD1は,10mm〜50mmであることが好ましく,特に20mm〜40mm,あるいは30mmであることが好ましい。下側非圧搾領域42の幅方向における対角線の長さD2の好ましい数値範囲は,前述した長さD1と同様である。長さD1と長さD2は,ほぼ等しいことが好ましいが,異なっていてもよい。つまり,下側非圧搾領域42の形状は,正斜方形(正菱形)に限られず,その他の斜方形とすることも可能である。また,前述のように,長さLと長さD1がほぼ等しく,幅Bと長さD2がほぼ等しくなることが好ましい実施形態であるが,本発明はこれに限定されない。
また,各吸収体30,40に形成された圧搾線31,41は,股下部近傍に排出された体液を前身頃及び後身頃まで広く拡散することができるように,長手方向に亘って広い範囲に形成されていることが好ましい。具体的には,圧搾線31,41が形成された領域の長手方向の長さは,各吸収体30,40の長手方向の長さに対して60%以上であることが好ましく,60%〜100%,70%〜100%,又は80%〜100%であることが特に好ましい。また,各吸収体30,40に形成された圧搾線31,41は,幅方向の中心近傍に排出された体液を幅方向外側に広く拡散することができるように,幅方向に亘って広い範囲に形成されていることが好ましい。具体的には,圧搾線31,41が形成された領域の幅方向の最大幅は,各吸収体30,40の幅方向の最少幅に対して60%以上であることが好ましく,60%〜100%,70%〜100%,又は80%〜100%であることが特に好ましい。
なお,本実施形態では,上側圧搾線31が,非圧搾領域の面積が比較的大きくなる正方形格子状のパターンで形成され,下側圧搾線41が,非圧搾領域の面積が比較的小さくなる正斜方形格子状のパターンで形成されている例を説明した。ただし,この圧搾線のパターンは,上側圧搾線31と下側圧搾線41とで入れ替えることもできる。つまり,前述した正方形格子状のパターンを下側圧搾線41のパターンとして適用し,正斜方形格子状のパターンを上側圧搾線31のパターンとして適用することも可能である。
また,図では,圧搾線31,41が,各吸収体30,40を構成する吸収性材料34,44及びコアラップシート35,45の両方を窪ませることにより形成された例を示している。ただし,圧搾線31,41は,少なくとも吸収性材料34,44を圧縮して窪ませることにより形成されたものであればよい。つまり,吸収性材料34,44を圧縮して圧搾線31,41を形成した後に,その吸収性材料34,44を被覆するようにコアラップシート35,45を接合することとしてもよい。この意味において,圧搾線31,41は,各吸収体30,40を構成する吸収性材料34,44に形成されていれば足りる。
[2.第2の実施形態]
続いて,図6から図8を参照して,本発明の第2の実施形態に係る吸収性物品について説明する。第2の実施形態については,前述した第1の実施形態と同じ構成について説明を省略し,第1の実施形態と異なる構成を中心に説明を行う。
図6(a)及び(b)は,上層吸収体30と下層吸収体40とを分離して示しており,図6(c)及び(d)は,VI−VIにおける断面形状を示している。図7(a)は,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態を示し,図7(b)は,VII−VIIにおける断面形状を示している。また,図8は,上層吸収体30に形成された圧搾線31のパターンと,下層吸収体40に形成された圧搾線41のパターンを拡大して示したものである。なお,図6及び図7では,概念的に,上層吸収体30と下層吸収体40のみを抽出して示している。図6及び図7において図示は省略しているが,ここで説明する第2の実施形態も,前述した第1の実施形態と同様に,少なくともトップシート10とバックシート20を備えるものであり,さらに一対の立体ギャザー50及びカバーシート60を備えていてもよい。
第2の実施形態は,各吸収体30,40に形成された圧搾線31,41のパターンが,第1の実施形態とは異なっている。図6から図8に示されるように,上層吸収体30には,上側圧搾線31が正斜方形格子状のパターンで形成されており,下層吸収体40には,下側圧搾線41が正方形格子状のパターンで形成されている。ここにいう正斜方形格子状のパターンと正方形格子状のパターンは,第1の実施形態で説明したものと基本的に同じである。ただし,第2の実施形態では,上層吸収体30と下層吸収体40とを重ねた状態において,上層吸収体30に形成された正斜方形格子状のパターンと下層吸収体40に形成された正方形格子状のパターンの相対的な位置関係が,第1の実施形態とは異なっている。
図7及び図8に示されるように,第2の実施形態では,各吸収体30,40を重ねた状態において,上層吸収体30の上側交点部33と下層吸収体40の下側交点部43とが重なっている。さらに,上層吸収体30における複数の上側交点部33の中には,下層吸収体40の下側非圧搾領域42の中心(対角線の交点)と重なるものが存在する。特に,上層吸収体30の上側圧搾線31のパターンと下層吸収体40の下側圧搾線41のパターンとが重なる範囲においては,全ての下側非圧搾領域42の範囲内に,上側交点部33が存在していることとなる。このため,第2の実施形態では,正方形状をなす下側非圧搾領域42の対角線に相当する位置に,上側圧搾線31が重なっていることがわかる。さらに,第2の実施形態では,上側非圧搾領域32の範囲内に下側圧搾線41が重なっていることがわかる。
このように,第2の実施形態では,上側非圧搾領域32の範囲内に下側圧搾線41が重なり,下側非圧搾領域42の範囲内に上側圧搾線31及び上側交点部33が重なり,且つ,上側交点部33と下側交点部43とが重なっている。従って,上層吸収体30の上側圧搾線31に沿って拡散した体液は,下層吸収体40に落ちて下側非圧搾領域42に吸収される。また,上層吸収体30の上側交点部33に滞留した体液は,下層吸収体40に落ち,下側交点部43を通じて下側圧搾線41に沿って拡散する。さらに,下層吸収体40の下側圧搾線41に沿って拡散した体液は,上層吸収体30の上側非圧搾領域32に吸収される。また,下側圧搾線41は,上側圧搾線31の格子状パターンの対角線方向に体液を拡散することもできる。これにより,このようなパターンを形成することで,従来では吸収時間が遅いとされていた非圧搾領域32,42にも迅速に体液を導くことが可能となる。
このように,第2の実施形態のパターンは,第1の実施形態のパターンと比較して,体液の吸収速度が早いものであるといえる。これに対して,第1の実施形態のパターンは,第2の実施形態のパターンと比較して,体液の拡散範囲が広いものであるといえる。第1の実施形態のパターンと第2の実施形態のパターンのいずれを採用するかは,吸収性物品に求められる性能を考慮して適宜決定すればよい。
なお,各圧搾線31,41の幅,上側非圧搾領域32の長手方向における対角線の長さD1や幅方向における対角線の長さD2,あるいは下側非圧搾領域42の長手方向の長さLや幅Bの値については,前述した第1の実施形態と同様の範囲とすることが好ましい。
[3.第3の実施形態]
続いて,図9から図10を参照して,本発明の第3の実施形態に係る吸収性物品について説明する。図9(a)及び(b)は,上層吸収体30と下層吸収体40とを分離して示しており,図9(c)及び(d)は,IX−IXにおける断面形状を示している。図10(a)は,上層吸収体30と下層吸収体40を重ねた状態を示し,図10(b)は,X−Xにおける断面形状を示している。図9及び図10は,概念的に,上層吸収体30と下層吸収体40のみを抽出して示している。図示は省略しているが,ここで説明する第3の実施形態も前述した第1の実施形態と同様に,少なくともトップシート10とバックシート20を備えるものであり,さらに一対の立体ギャザー50及びカバーシート60を備えていてもよい。
第3の実施形態において,上層吸収体30には,長手方向に延びる上側圧搾線31が複数形成されている。図示した例において,上層吸収体30は,幅方向の中央に位置する中央圧搾線31aと,左方に位置する左圧搾線31bと,右方に位置する右圧搾線31cを有する。各圧搾線31a,31b,31cは,上層吸収体30の前身頃から股下部を通り後見頃まで延びている。中央圧搾線31aは,長手方向に沿って全体が一直線状に形成されている。これに対して,左圧搾線31bと右圧搾線31cは,それぞれ,前身頃1側の端部に位置する直線状の前側直線部36a,後見頃側の端部に位置する直線状の後側直線部36b,及び股下部3において前側直線部36aと後側直線部36bよりも幅方向の内側に位置する直線状の股下直線部36cに分かれている。さらに,左圧搾線31bと右圧搾線31cは,それぞれ,前側直線部36aと股下直線部36cを繋ぐように斜めに傾斜した前側傾斜部36dと,後側直線部36bと股下直線部36cを繋ぐように斜めに傾斜した後側傾斜部36eを有している。これにより,中央圧搾線31aと左右の圧搾線31b,31cの間の間隔は,前身頃側及び後見頃側において比較的離れており,股下部において比較的近いものとなっている。上層吸収体30の股下部は,着用者の股下から排泄された体液に触れやすい部位であるため,この部位における圧搾線31の間隔を小さくすることで,長手方向に向かって体液を拡散しやすくなる。なお,本実施形態において,上層吸収体30には,幅方向に向かって延びる圧搾線は形成されていない。このため,上層吸収体30には圧搾線の交点部が存在しない。
一方,下層吸収体40には,幅方向に延びる下側圧搾線41が複数形成されている。図示した例において,下層吸収体40には,幅方向に沿って延びる直線状の下側圧搾線41が,前身頃から後見頃にかけて長手方向に規則的な間隔で配置されている。なお,本実施形態において,下層吸収体40には,長手方向に向かって延びる圧搾線は形成されていない。このため,下層吸収体40には圧搾線の交点部が存在しない。
上記した上層吸収体30と下層吸収体40を厚み方向に重ねると,図10に示されるように,上層吸収体30の上側圧搾線31と下層吸収体40の下側圧搾線41とが交差する。このように,長手方向に延びる複数の上側圧搾線31と,幅方向に延びる他方の吸収体の圧搾線を交差させることで,体液を長手方向に拡散させると同時に,幅方向にも拡散させることが可能となる。特に,体液は長手方向に拡散しにくく,また体液は幅方向の端部から漏れやすい。このため,上層吸収体30に長手方向に延びる上側圧搾線31を形成し,下層吸収体40に幅方向に延びる下側圧搾線41を形成する。これにより,最初に上層吸収体30に接触した体液を長手方向に拡散させ,その後,下層吸収体40に浸透した体液を補助的に幅方向へと拡散させることができる。その結果,体液を長手方向に効率良く拡散させることができると同時に,幅方向の端部からの漏出を防止できる。
[4.吸収体の断面形状の例]
前述した第1,第2,及び第3の実施形態においては,上層吸収体30及び下層吸収体40の肌対向面側を窪ませた圧搾線31,41を形成する例について説明した。ただし,本発明はこれに限定されるものではない。以下,各吸収体の断面形状の別の例について説明する。
図11は,上層吸収体30と下層吸収体40の断面形状の例を示している。図11(a)に示された例において,上層吸収体30の圧搾線31は,肌非対向面側を窪ませたものとなっており,下層吸収体40の圧搾線41は,肌対向面側を窪ませたものとなっている。このため,上層吸収体30と下層吸収体40は互いに対向する面に圧搾線31,41が形成されている。このようにすることで,圧搾線31,41が形成された部位において,上層吸収体30とか下層吸収体40の間に隙間が生じる。これにより,上層吸収体30から下層吸収体40へと流れ落ちた体液が,下層吸収体40の広い範囲に拡散するようになる。
図11(b)に示された例において,上層吸収体30の圧搾線31は,肌対向面側と肌非対向面側の両方を窪ませたものとなっており,下層吸収体40の圧搾線41は,肌対向面側のみを窪ませたものとなっている。このように,上層吸収体30の肌対向面側と肌非対向面の両方を窪ませることで,上層吸収体30の表面上における体液の拡散性を維持しつつ,上層吸収体30と下層吸収体40の間の隙間をより多く確保できる。このため,上層吸収体30と下層吸収体40の両方の広い範囲に体液を拡散させることができる。
図11(c)に示された例において,上層吸収体30の圧搾線31は,肌対向面側と肌非対向面側の両方を窪ませたものとなっており,また,下層吸収体40の圧搾線41も,肌対向面側と肌非対向面側の両方を窪ませたものとなっている。これにより,図11(b)に示した例と同様に,上層吸収体30の表面上における体液の拡散性を維持しつつ,上層吸収体30と下層吸収体40の間の隙間をより多く確保できる。また,下層吸収体40の肌対向面側と肌非対向面の両方を窪ませることで,下層吸収体40の表面上における拡散性を維持しつつ,さらに下層吸収体40の裏面側にも体液を効率的に浸透させることができる。つまり,下層吸収体40の裏面側にはバックシート20(図2参照)が配置されている。そして,下層吸収体40とバックシート20の間に隙間を設けることで,バックシート20にまで到達した体液が下層吸収体40の圧搾線41を通じてさらに拡散し,下層吸収体40の裏面側に吸収される。これにより,上層吸収体30及び下層吸収体40の全体によって体液を吸収することができる。
図11(d)に示された例において,上層吸収体30の圧搾線31は,肌対向面側を窪ませたものとなっており,下層吸収体40の圧搾線41は,肌非対向面側を窪ませたものとなっている。このため,上層吸収体30と下層吸収体40とはほぼ隙間なく接合されている。このように,上層吸収体30と下層吸収体40の間に隙間を作らないように接合することも可能である。
図12は,上層吸収体30と下層吸収体40に加えて,追加吸収体70(第3の吸収体)をさらに備える吸収性物品の例を示している。図12の例において,追加吸収体70は,上層吸収体30の肌対向面側,すなわち上層吸収体30とトップシート10(図2参照)の間に配設されている。ただし,追加吸収体70は,下層吸収体40の肌非対向面側,すなわち下層吸収体40とバックシート20(図2参照)の間に配設することも可能である。追加吸収体70は,上層吸収体30と下層吸収体40と同様に,複数の圧搾線71を有していることが好ましい。圧搾線71は,図12に示されるように,追加吸収体70の肌対向面側を窪ませたものであってもよいし,追加吸収体70の肌非対向面側を窪ませたものであってもよい。追加吸収体70の圧搾線71のパターンは特に限定されないが,第1,第2,及び第3の実施形態において説明した圧搾線のパターンを適宜適用することができる。なお,図示は省略するが,追加吸収体70に加えて,さらに一又は複数の吸収体を重ね合わせることも可能である。
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施形態の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。
例えば,第1の実施形態及び第2の実施形態で説明した格子状のパターンをなす圧搾線と,第3の実施形態で説明した長手方向又は幅方向の一方向に延びる圧搾線とを組み合わせることも可能である。すなわち,積層された2つの吸収体のうち,一方の吸収体を,圧搾線によって周囲を囲われた非圧搾領域を複数有するものとし,他方の吸収体を,長手方向又は幅方向に向かって延びる複数の圧搾線を有するものとすることもできる。例えば,上層吸収体30に,図3(a)で示した方形格子状の圧搾線を形成し,下層吸収体40に,図9(b)で示した幅方向に沿って延びる複数の圧搾線を形成することもできるし,その逆も可能である。また,例えば,上層吸収体30に,図9(a)で示した長手方向に沿って延びる複数の圧搾線を形成し,下層吸収体40に,図3(b)で示した斜方形格子状の圧搾線を形成することもできるし,その逆も可能である。
本願明細書では,本発明に係る吸収性物品が尿とりパッドである場合を例に挙げて説明したが,本発明はこれに限られるものではなく,パンツ型の使い捨ておむつや,テープ型の使い捨ておむつ,あるいは生理用ナプキンにも適用可能である。