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JP2017109254A - 耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 - Google Patents

耐チッピング性、耐摩耗性にすぐれた表面被覆切削工具 Download PDF

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JP2017109254A
JP2017109254A JP2015243412A JP2015243412A JP2017109254A JP 2017109254 A JP2017109254 A JP 2017109254A JP 2015243412 A JP2015243412 A JP 2015243412A JP 2015243412 A JP2015243412 A JP 2015243412A JP 2017109254 A JP2017109254 A JP 2017109254A
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宏彰 柿沼
Hiroaki Kakinuma
宏彰 柿沼
智行 益野
Satoyuki Masuno
智行 益野
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Mitsubishi Materials Corp
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Abstract

【課題】乾式高速高切り込み断続切削加工において、層間剥離を起こすこともなく、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】工具基体表面に、平均層厚0.2〜5.0μmのAlとCrの複合窒化物層が設けられた表面被覆切削工具において、AlとCrの複合窒化物層を、組成式:(Al1−xCr)Nで表した場合、0.02≦x≦0.2(但し、xは原子比)を満足する平均組成を有し、該層は、Crの含有割合xが0≦x<0.1であるCr濃度の低い結晶粒と、Crの含有割合xが0.1≦x≦0.4であるCr濃度の高い結晶粒とからなり、Cr濃度の高い結晶粒は20〜50面積%の面積割合を占め、平均粒径は0.05〜0.5μmであり、平均アスペクト比は5〜100である表面被覆切削工具。
【選択図】 図1

Description

本発明は、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を備えた表面被覆切削工具に関し、さらに詳しくは、炭素鋼、合金鋼などの乾式高速高切り込み断続切削加工に供した場合においても、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生することなく、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関する。
一般に、被覆工具には、各種の鋼や鋳鉄などの被削材の旋削加工や平削り加工にバイトの先端部に着脱自在に取り付けて用いられるインサート、被削材の穴あけ切削加工などに用いられるドリルやミニチュアドリル、さらに被削材の面削加工や溝加工、肩加工などに用いられるソリッドタイプのエンドミルなどがあり、またインサートを着脱自在に取り付けてソリッドタイプのエンドミルと同様に切削加工を行うインサート式エンドミルなどが知られている。
従来から、被覆工具としては、例えば、WC基超硬合金、TiCN基サーメット、cBN焼結体を工具基体とし、これに硬質被覆層を形成した被覆工具が知られており、切削性能の改善を目的として種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、超硬合金、サーメット、セラミックス、cBN焼結体、高速度鋼を工具基体とする被覆工具において、硬質被覆層を、工具基体側から、領域A、領域B及び領域Cに区分し、領域AはSi非含有層(例えば、AlN層、(Cr,Al)N層)、領域BはSiの組成勾配層、領域CはSiと、Al、 Y及び周期表の4、5または6族から選択される少なくとも二つの追加元素との窒化物、炭化物または ホウ化物またはそれらの混合物として構成することにより、耐摩耗性を改善することが提案されている。
また、特許文献2には、工具基体表面に、TiAlN層等の窒化物層を形成し、この上に、TiCN層等の炭窒化物層を形成し、最表面層としてAlN層を形成することにより、耐摩耗性を改善することが提案されている。
さらに、特許文献3には、工具基体表面に形成した硬質被覆層の最表面に、(Al1−a−b−cCraBbZc)Xからなる層(ただし、XはN、C、CN、NO、CO、CNOのうちの少なくとも一つであり、ZはW、Mo、Ta、Cb(Nb)のうちの少なくとも一つであり、かつ、0.2≦a≦0.5、0.01≦b≦0.2、0.001≦c≦0.04を満足する)を形成することによって、耐摩耗性と耐酸化性を改善することが提案されている。
特開2011−115941号公報 特開2013−252607号公報 特開2010−504439号公報
前記特許文献1〜3で提案されている被覆工具は、高硬度を有することからすぐれた耐摩耗性は期待できるが、乾式高速高切り込み断続切削加工のように、通常の切削条件では起こりえないほどの発熱を伴い、また、切れ刃にきわめて大きな負荷が作用する切削条件においては、チッピング発生や高温硬さの低下が生じ、また、積層構造からなる硬質被覆層の層間剥離が発生するため、耐チッピング性、耐摩耗性が十分とはいえない。
そのため、乾式高速高切り込み断続切削加工のような高熱発生を伴うとともに、切れ刃にきわめて大きな負荷が作用する切削加工において、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を示す被覆工具が求められている。
そこで、本発明者らは、前記課題を解決すべく硬質被覆層の構造について鋭意検討したところ、次のような知見を得た。
工具基体表面に、例えばアークイオンプレーティング装置を用いて、AlとCrの複合窒化物(以下、「AlCrN」で示す場合がある。)からなる硬質被覆層を蒸着形成したのち、得られた被覆工具の硬質被覆層に特定の条件で熱処理(温度、時間、冷却条件)を施し組織の改質を行うと、工具基体表面と垂直な硬質被覆層の断面について観察した場合、Cr濃度の高い結晶粒とCr濃度の低い結晶粒がいずれも柱状組織として形成されること、また、同じく硬質被覆層の断面を観察した場合、Cr濃度が低い結晶粒が硬質被覆層の主体相を構成するとともに、Cr濃度の高い結晶粒は、特定の平均粒径、特定のアスペクト比を有する柱状組織として形成されることを見出した。
そして、前記硬質被覆層において、Cr濃度が低い結晶粒(言い換えれば、組成がAlNに近い結晶粒)は熱伝導率が高いため、硬質被覆層の抜熱効果に優れ、刃先が高温になることを抑制し、一方、Cr濃度の高い結晶粒が特定の平均粒径、特定のアスペクト比で存在することによって、耐摩耗性、耐チッピング性の向上が図られる。
さらに、従来の被覆工具では、工具基体表面と平行に層が積層されているため、切削加工時の負荷によって層間剥離が発生するという問題があったが、本発明では、Cr濃度が低い結晶粒とCr濃度の高い結晶粒が、いずれも、柱状組織として形成されているため、高負荷が作用した場合であっても、層間剥離が発生する恐れはない。
したがって、本発明の被覆工具は、乾式高速高切り込み断続切削加工のような高熱発生を伴うとともに、切れ刃にきわめて大きな負荷が作用する切削加工において、層間剥離を起こすこともなく、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮することを見出したのである。
また、硬質被覆層に施す前記特定の条件の熱処理とは、工具基体表面にAlCrN層を蒸着した後、昇温速度8〜15℃/minで800〜1100℃の温度範囲に昇温し、同温度範囲にて窒素ガス雰囲気中で0.5〜3.0時間加熱保持し、次いで、10℃/min以下の冷却速度で冷却する(炉冷に相当)という熱処理であって、この熱処理によって、Cr濃度の高い結晶粒が特定の平均粒径、特定のアスペクト比の柱状組織として形成され、また、Cr濃度が低い結晶粒についても、六方晶構造を有する柱状組織として形成される。
本発明は、前記の知見に基づいてなされたものであって、
「 WC基超硬合金およびTiCN基サーメットのいずれかからなる工具基体表面に、平均層厚0.2〜5.0μmのAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
(a)前記AlとCrの複合窒化物層を、
組成式:(Al1−xCr)Nで表した場合、0.02≦x≦0.2(但し、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
(b)前記AlとCrの複合窒化物層は、Crの含有割合xが0≦x<0.1であるCr濃度の低い結晶粒と、Crの含有割合xが0.1≦x≦0.4であるCr濃度の高い結晶粒とから構成され、
(c)前記工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面を、オージェ電子分光装置(AES)を用いた測定によるCr濃度の濃淡(高低)の分布と後方散乱電子回折装置を用いた各々の結晶粒形状の測定結果を照らし合わせて求めた前記Cr濃度の高い結晶粒が所定観察範囲に占める面積割合は20〜50面積%であり、かつ、前記Cr濃度の高い結晶粒の平均粒径は0.05〜0.5μmであり、
(d)前記工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面を、オージェ電子分光装置(AES)を用いた測定によるCr濃度の濃淡(高低)の分布と後方散乱電子回折装置を用いた各々の結晶粒形状の測定結果を照らし合わせて求めた前記Cr濃度の高い結晶粒の形状から求めた平均アスペクト比は5〜100である、
ことを特徴とする表面被覆切削工具。」
を特徴とするものである。
つぎに、本発明の被覆工具について、より詳細に説明する。
硬質被覆層を構成するAlCrN層の組成を、
組成式:(Al1−xCr)N
で表した場合、AlCrN層全体にわたるCrの平均含有割合x(但し、xは原子比。以下、同じ)は、0.02≦x≦0.2を満足する。
本発明では、硬質被覆層としてAlCrN層を形成しているが、硬質被覆層全体におけるCrの平均含有割合xが0.02より小さいと耐摩耗性に優れるCr濃度の高い結晶粒が十分存在せず、高負荷切削加工において短寿命にいたる。一方、高負荷切削加工における高温強度を確保し、チッピング、欠損等の異常損傷発生を抑制するという観点からは、Crの平均含有割合xが大きいほどよいが、その一方、xの値が0.2を越えると、熱伝導性の高いAlNの形成が十分でなく、抜熱効果が得られないとともに、相対的なAlの平均含有割合の減少によって、高温硬さの低下、耐熱性の低下が生じ、偏摩耗の発生、熱塑性変形の発生等により耐摩耗性が劣化するようになる。よって、AlCrN層全体にわたるCrの平均含有割合xは、0.02≦x≦0.2と定めた。
本発明のAlCrN層の平均層厚が0.2μm未満であると、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、平均層厚が5.0μmを超えると、結晶粒が粗大化し、高負荷切削加工において、チッピングが発生しやすくなることから、本発明のAlCrN層の平均層厚は0.2〜5.0μmと定めた。
本発明は、硬質被覆層として、前記の平均組成を有するAlCrN層を蒸着形成した後、後記する熱処理を施すことによって、均一組成のAlCrN層ではなく、AlCrN層中にCr濃度の高い結晶粒とCr濃度の低い結晶粒が共存する組織を有するAlCrN層を形成する。
図1に、本発明被覆工具のAlCrN層の縦断面概略模式図を示すが、図に示されるように、硬質被覆層中には、Cr濃度の高い結晶粒とCr濃度の低い結晶粒が共存して形成される。
つまり、AlCrN層全体としてのCrの平均含有割合xは0.02≦x≦0.2を満足するが、本発明のAlCrN層では、層内にCr濃度の濃淡(高低)の分布が形成される。
そして、このCr濃度の濃淡(高低)の分布の存在は、工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy:SEM)にて硬質被覆層を特定し、オージェ電子分光装置(Auger Electron Spectroscopy:AES)を用いて元素マッピングすることによって確認することができ、また、前記観察範囲と同視野を後方散乱電子回折装置(Electron BackScatter Diffraction:EBSD)を用いた測定によって、各々の結晶粒形状を特定するとともに、前記走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置による元素マッピングの結果と照らし合わせることで、該観察視野範囲に存在するCr濃度の高い結晶粒の面積割合を求めることができる。
本発明の硬質被覆層におけるCr濃度が低い結晶粒(言い換えれば、組成がAlNに近い結晶粒)は熱伝導率が高いため、硬質被覆層の抜熱効果に優れ、乾式高速高切り込み断続切削加工において刃先が高温になることを抑制するが、Crの含有割合xが0.1以上になるとその効果が低下する。なお、本発明では、Crの含有割合x=0の場合、即ち、AlN結晶粒である場合をも含めてCr濃度が低い結晶粒という。
また、Cr濃度の高い結晶粒は、すぐれた高温強度、耐酸化性を備えることから、硬質被覆層の耐チッピング性、耐摩耗性の向上が図られるが、Crの含有割合xが0.1未満であるとその効果が少なく、一方、Crの含有割合xが0.40を超えると、相対的にAlの含有割合が少なくなることによって、高温硬さ、耐摩耗性が低下する。
したがって、Cr濃度が低い結晶粒におけるCrの含有割合xは0≦x<0.1、また、Cr濃度の高い結晶粒におけるCrの含有割合x0.1≦x≦0.40とする。
本発明のAlCrN層からなる硬質被覆層について、工具基体表面と垂直な硬質被覆層の表面を、前記走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置を用いて元素分析し、Cr濃度の高い結晶粒の面積割合を求めた時、面積割合が20面積%未満であると、高温強度が十分でなく、また、高温硬さも低下するため、乾式高速高切り込み断続切削加工のような高熱発生を伴うとともに、切れ刃にきわめて大きな負荷が作用する切削加工において、耐チッピング性、耐摩耗性が低下する。
一方、Cr濃度の高い結晶粒の面積割合が50面積%を超えると、熱伝導性、抜熱性の低下により、切削加工時の発熱抑制効果が低下し、耐酸化性の劣化、高温硬さの低下を招くことになる。
したがって、工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面について観察・測定したCr濃度の高い結晶粒の面積割合は、20〜50面積%とする。
なお、Cr濃度の高い結晶粒の面積割合は、例えば、工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面の2μm×3μmの領域にわたって、走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置を用いた元素分析によって求めることができる。
Cr濃度の高い結晶粒の面積割合については前記のとおりであるが、より一段とその効果を発揮させるためには、前記Cr濃度の高い結晶粒の平均粒径及び平均アスペクト比が重要である。
前記同様に工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面について、走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置を用いて元素マッピングすることによりCr濃度の濃淡(高低)の分布を確認することができ、かつ、後方散乱電子回折装置を用いた測定によって、各々の結晶粒形状を特定するとともに、前記走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置による元素マッピングの結果と照らし合わせることで、Cr濃度の高い複数の結晶粒のみに着目した結晶粒各々の粒径を測定し、それらの平均値をCr濃度の高い結晶粒の平均粒径として求めた時、平均粒径が0.05μm未満では、AlCrN層の高温強度向上効果が少なく、一方、平均粒径が0.5μmを超えると、結晶粒の粗大化により、高負荷切削加工において、チッピングが発生しやすくなる。
したがって、Cr濃度の高い結晶粒の平均粒径は0.05〜0.5μmと定めた。
前記同様に工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面について、走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置を用いて元素マッピングすることによりCr濃度の濃淡(高低)の分布を確認することができ、かつ、後方散乱電子回折装置を用いた測定によって、各々の結晶粒形状を特定するとともに、走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置による元素マッピングの結果と照らし合わせることで、Cr濃度の高い複数の結晶粒のみに着目した結晶粒各々の粒径を特定することができる。そして、Cr濃度の高い複数の結晶粒について、それぞれの結晶粒の工具基体表面に垂直な方向の最大長さを長径として測定し、また、それぞれの結晶粒の工具基体表面に平行な方向の最大長さを短径として測定し、長径/短径によってそれぞれの結晶粒のアスペクト比を算出し、それらの平均値をCr濃度の高い結晶粒の平均アスペクト比として求めた時、平均アスペクト比が5未満では、高温硬さ、耐摩耗性の向上が十分でなく、一方、平均アスペクト比が100を超えると、結晶粒が粗大化しやすく、高負荷切削加工において、チッピングが発生しやすくなる。
したがって、Cr濃度の高い結晶粒の平均アスペクト比は5〜100と定めた。
なお、本発明でいうCr濃度の高い結晶粒の「粒径」、「長径」、「短径」、「アスペクト比」は、工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面について、後方散乱電子線回折装置、走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置を用いた次のような測定により求めることができる。
まず、硬質皮膜断面について2μm×3μmの範囲にて後方散乱電子線回折装置を用い、前記観察視野範囲内における各々の結晶粒形状を5視野に対して求めた場合に、走査型電子顕微鏡に付属したオージェ電子分光装置を用い、各結晶粒についてCr濃度を求め、前記規定のCrの含有割合x0.1≦x≦0.40であるCr濃度の高い結晶粒を抽出し、Cr濃度の高い結晶粒が測定断面に占める面積割合を算出する。
さらに、該Cr濃度の高い結晶粒の結晶粒形状測定結果より、工具基体表面に垂直な方向の最大長さを長径として測定し、また、それぞれの結晶粒の工具基体表面に平行な方向の最大長さを短径とした場合に、求めた短径と長径の和の半分を粒径とする。また、短径に対する長径の比を各々算出し、その平均値を結晶粒の平均アスペクト比とする。
本発明のAlCrN層は、図2(a)、(b)として示すPVDの一種であるアークイオンプレーティング(以下、「AIP」で示す)装置を用い、例えば、以下に示すような条件で成膜することができる。
また、本発明では、Cr濃度の高い結晶粒およびCr濃度の低い結晶粒のいずれの組織も柱状組織とすることが望ましいが、以下に示す条件で成膜することによって、柱状組織のAlCrN層を成膜することができる。特に、Cr濃度の高い結晶粒については、平均粒径が0.05〜0.5μmの範囲内であり、また、平均アスペクト比が5〜100の結晶粒を成膜することができる。
≪成膜条件≫
反応雰囲気圧:3〜6Pa
装置内温度:400〜600℃
工具基体に印加する直流バイアス電圧:100〜300V
アーク電流:50〜150A
本発明では、柱状組織のAlCrN層をAIP装置で成膜した後、所定雰囲気で、所定の加熱温度、加熱保持時間、所定の速度での冷却からなる熱処理を施して、硬質被覆層の一部を相変態させることによってCr濃度の低い結晶粒を形成し、Cr濃度の高い結晶粒およびCr濃度の低い結晶粒が混在した硬質被覆層を形成させる。
AlCrN層成膜後の熱処理条件(加熱保持条件、冷却条件等)は、例えば、次のとおりである。
昇温速度:8〜15℃/min
熱処理雰囲気:窒素ガス、0.2〜1.0atm、
加熱温度:800〜1100℃、
加熱保持時間:0.5〜3.0h、
加熱保持後の冷却速度:10℃/min以下、
上記熱処理によって、該硬質皮膜は相変態を引き起こすため、体積変化が各々の結晶粒に引き起こされるが、昇温速度及び冷却速度を適切な条件で実施することで相変態に伴う体積変化や昇温による熱膨張により誘起される応力を制御することができる。昇温速度及び冷却速度が上記範囲内でないと高圧縮応力が付与されることによる切削時のはく離や、低圧縮応力による耐欠損性の欠如による切削時の微小チッピングなどが起きてしまう。また、加熱温度と加熱保持時間はAIP装置で蒸着形成したAlCrN層からAlNへ相変態させる割合を制御することができ、加熱温度が低すぎる、もしくは加熱保持時間が短いと、優れた熱伝導性を有し、抜熱効果の高いAlNを十分に含有させることができず、加熱温度が高すぎる、もしくは加熱保持時間が長すぎると耐摩耗性の高いAlCrNが少なくなってしまうという理由から、昇温速度、熱処理雰囲気、加熱温度と加熱保持時間を上記所定の範囲とした。
本発明の被覆工具は、硬質被覆層として所定組成のAlCrN層が設けられ、かつ、該AlCrN層は、柱状組織のCr濃度の高い結晶粒とCr濃度の低い結晶粒から構成され、工具基体表面に垂直な硬質被覆層断面を観察した場合、Cr濃度の高い結晶粒は、20〜50面積%の面積割合を占め、平均粒径は0.05〜0.5μmであり、工具基体表面に垂直な硬質被覆層断面を観察した場合、Cr濃度の高い結晶粒の平均アスペクト比は5〜100であることから、乾式高速高切り込み断続切削加工のような高熱発生を伴うとともに、切れ刃にきわめて大きな負荷が作用する切削加工に供した場合、層間剥離を起こすこともなく、すぐれた耐チッピング性と耐摩耗性を発揮する。
本発明被覆工具のAlCrN層の縦断面概略模式図を示す。 本発明被覆工具のAlCrN層を形成するためのAIP装置の概略図であり、(a)は正面図、(b)は側面図を示す。
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
なお、具体的な説明としては、WC基超硬合金を工具基体とする被覆工具について説明するが、TiCN基サーメットを工具基体とする被覆工具についても同様である。
工具基体の作製:
原料粉末として、Co粉末、VC粉末、Cr粉末、TiC粉末、TaC粉末、NbC粉末、WC粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてボールミルで72時間湿式混合し、減圧乾燥した後、100MPaの圧力でプレス成形し、これらの圧粉成形体を焼結し、所定寸法となるように加工して、ISO規格SEEN1203AFTN1のインサート形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Cを作製した。

硬質被覆層の成膜:
前記工具基体A〜Cに対して、図1に示すアークイオンプレーティング装置を用いて、硬質被覆層を形成した。
なお、図2のAl−Cr合金ターゲットとしては、目標とするAlCrN層の平均組成に応じた組成のAl−Cr合金ターゲットを用いた。
(a)工具基体A〜Cを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、AIP装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着する。また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のAl−Cr合金ターゲットを配置した。
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、0.5〜2.0PaのArガス雰囲気に設定し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−200〜−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、もって工具基体表面をアルゴンイオンによって5〜30分間ボンバード処理し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して表2に示す3.0〜6.0Paの範囲内の所定の反応雰囲気とすると共に、同じく表2に示す装置内温度に維持し、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に表2に示す−100〜−300Vの範囲内の所定の直流バイアス電圧を印加し、かつ、Al−Cr合金ターゲットからなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に表2に示す50〜150Aの範囲内の所定の電流を流してアーク放電を発生させ、工具基体表面に、表2に示される目標組成、目標平均層厚のAlCrN層からなる硬質被覆層を蒸着形成した被覆工具を作製し、
(d)次いで、前記被覆工具を、表3に示す条件で熱処理し、同じく、表3に示す条件で冷却することにより、表4に示す本発明の被覆工具(以下、「本発明工具」という)1〜9を作製した。


比較のため、前記工具基体A〜Cに対して、図2に示すAIP装置を用いて、表5に示す条件でAlCrN層を蒸着形成し、次いで、表6に示す条件で、熱処理、その後の冷却を行い/あるいは行わずに、表7に示す比較例の被覆工具(以下、「比較例工具」という)1〜9を作製した。



上記で作製した本発明工具1〜9および比較例工具1〜9の工具基体表面に垂直な硬質被覆層断面の2μm×3μmの各5視野について、走査型電子顕微鏡(SEM)、オージェ電子分光装置(AES)を用いた測定により、Cr濃度の濃淡(高低)の分布を確認し、かつ、同観察視野について後方散乱電子回折装置を用いた測定によって、各々の結晶粒形状を特定するとともに、前記走査型電子顕微鏡、オージェ電子分光装置による元素マッピングの結果と照らし合わせることで、Cr濃度の高い複数の結晶粒のみに着目し、Cr濃度の高い結晶粒が測定領域に占める面積割合を求めた。
さらに、上記観察結果からCr濃度の高い結晶粒について結晶粒形状を求めることで、長径と短径を測定し、これから粒径を算出し、その算出値を平均することによって、平均粒径を求めた。
また、上記結晶粒形状測定による長径と短径を測定結果からアスペクト比を算出し、その算出値を平均することによって、平均アスペクト比を求めた。
表4、表7に、上記で求めた各種の値を示す。
次いで、本発明工具1〜9および比較例工具1〜9について、以下の条件で、乾式高速高切り込み断続切削加工試験を実施した。
切削条件A:
被削材:JIS・SCM435、
切削速度:240m/min.、
切り込み:2.9mm、
送り:0.22mm/rev.、
切削時間:12分、
の条件での合金鋼の乾式高速高切り込み断続切削加工試験(通常の切削速度および切り込みは、それぞれ、200m/min.、1.0mm)。
切削条件B:
被削材:JIS・S15C、
切削速度:300m/min.、
切り込み:3.2mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:14分、
の条件での炭素鋼の乾式高速高切り込み断続切削加工試験(通常の切削速度および切り込みは、それぞれ、270m/min.、2.0mm)。
切削条件C:
被削材:JIS・SCr440、
切削速度:260m/min.、
切り込み:3.0mm、
送り:0.21mm/rev.、
切削時間:15分、
の条件での合金鋼の乾式高速高切り込み断続切削加工試験(通常の切削速度および切り込みは、それぞれ、220m/min.、1.5mm)。
表8、表9、表10にその結果を示す。



表8〜表10の結果によれば、本発明工具1〜9については、いずれの切削条件でもチッピングの発生はなく、また、逃げ面摩耗幅の平均は、切削条件Aで約0.24mm、切削条件Bで約0.24mm、切削条件Cで約0.25mm、であって、層間剥離を起こすこともなく、すぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を示した。
これに対して、比較例工具1〜9については、切削条件A〜Cのいずれにおいても、チッピングの発生、あるいは、逃げ面摩耗の進行により、短時間で寿命に至ることは明らかである。
本発明の表面被覆切削工具は、各種の鋼などの通常の切削条件での切削加工は勿論のこと、特に高熱発生を伴うとともに、切刃部に対して大きな負荷がかかる乾式高速高切り込み断続切削加工において、すぐれた耐チッピング性および耐摩耗性を発揮し、長期に亘ってすぐれた切削性能を示すものであるから、切削加工装置の高性能化、並びに切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。

Claims (1)

  1. WC基超硬合金およびTiCN基サーメットのいずれかからなる工具基体表面に、平均層厚0.2〜5.0μmのAlとCrの複合窒化物層からなる硬質被覆層が設けられた表面被覆切削工具において、
    (a)前記AlとCrの複合窒化物層を、
    組成式:(Al1−xCr)Nで表した場合、0.02≦x≦0.2(但し、xは原子比)を満足する平均組成を有し、
    (b)前記AlとCrの複合窒化物層は、Crの含有割合xが0≦x<0.1であるCr濃度の低い結晶粒と、Crの含有割合xが0.1≦x≦0.4であるCr濃度の高い結晶粒とから構成され、
    (c)前記工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面を、オージェ電子分光装置(AES)を用いた測定によるCr濃度の濃淡(高低)の分布と後方散乱電子回折装置を用いた各々の結晶粒形状の測定結果を照らし合わせて求めた前記Cr濃度の高い結晶粒が所定観察範囲に占める面積割合は20〜50面積%であり、かつ、前記Cr濃度の高い結晶粒の平均粒径は0.05〜0.5μmであり、
    (d)前記工具基体表面に垂直な硬質被覆層の断面を、オージェ電子分光装置(AES)を用いた測定によるCr濃度の濃淡(高低)の分布と後方散乱電子回折装置を用いた各々の結晶粒形状の測定結果を照らし合わせて求めた前記Cr濃度の高い結晶粒の形状から求めた平均アスペクト比は5〜100である、
    ことを特徴とする表面被覆切削工具。

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