前記課題を解決するためになされた本発明は、送信信号を増幅する第1アンプと、前記第1アンプによって増幅された送信信号を処理する送信回路と、前記送信回路で処理された送信信号を送信するアンテナと、前記第1アンプの活性化と非活性化とを交互に繰り返す制御部と、を備え、前記制御部が前記第1アンプを活性化しているときの前記アンテナから前記送信回路を見たインピーダンスをZonT、前記制御部が前記第1アンプを非活性化しているときの前記アンテナから前記送信回路を見たインピーダンスをZoffT、とするとき、前記送信回路は、前記アンテナのインピーダンスと前記ZonTとを整合させ、かつ前記ZoffTを電圧反射係数Γの絶対値が大きくなるように、前記ZonTと前記ZoffTとを遷移させる第1インピーダンス整合回路と、前記ZoffTをハイインピーダンス状態に遷移させる第1位相調整回路と、を備えるものである。
これによって、第1アンプが活性化しているときと不活性化しているときで、インピーダンスの値を大きく変化させることができ、パワーアンプの特性に依存せず、かつ送信特性を劣化させることなく、無線通信装置の構成要素からアンテナスイッチモジュールを排除して消費電力低減とコスト低減を達成することができる。
また、本発明は、前記第1インピーダンス整合回路は、前記ZonTと前記アンテナのインピーダンスとが整合するように作用する第1のコンデンサを備えるものである。
これによって、スミスチャート上で送信回路のインピーダンスを遷移させて、アンテナとZonTとのインピーダンスを整合させ、かつZoffTの電圧反射係数Γの絶対値を大きくすることができる。
また、本発明は、前記第1のコンデンサの一端を前記第1のアンプと前記第1位相調整回路との間に接続し、前記第1のコンデンサの他端をグラウンドに接地するように構成したものである。
これによって、スミスチャート上で送信回路のインピーダンスを遷移させて、アンテナとZonTとのインピーダンスを整合させ、かつZoffTの電圧反射係数Γの絶対値を大きくすることができる。そして、第1のコンデンサは基板上に配線パターンによって形成されるから、コストアップが発生しない。
また、本発明は、前記第1位相調整回路は、ZoffT>2×ZonTとなるように、前記送信信号の位相を変化させるようにしたものである。
これによって、アンテナスイッチモジュールを備えることなく、受信時に受信信号が送信回路に流入することを防止できる。
また、本発明は、アンテナと、前記アンテナで受信した受信信号を処理する受信回路と、前記受信回路で処理された受信信号を増幅する第2アンプと、前記第2アンプの活性化と非活性化とを交互に繰り返す制御部と、を備え、前記制御部が前記第2アンプを活性化しているときの前記アンテナから前記受信回路を見たインピーダンスをZonR、前記制御部が前記第2アンプを非活性化しているときの前記アンテナから前記受信回路を見たインピーダンスをZoffR、とするとき、前記受信回路は、前記アンテナのインピーダンスと前記ZonRとを整合させ、かつ前記ZoffRを電圧反射係数Γの絶対値が大きくなるように、前記ZonRと前記ZoffRとを遷移させる第2インピーダンス整合回路と、前記ZoffTをハイインピーダンス状態に遷移させる第2位相調整回路と、を備えるものである。
これによって、第2アンプが活性化しているときと不活性化しているときで、インピーダンスの値を大きく変化させることができ、低雑音増幅器の特性に依存せず、かつ受信特性を劣化させることなく、無線通信装置の構成要素からアンテナスイッチモジュールを排除して消費電力低減とコスト低減を達成することができる。
また、本発明は、前記第2インピーダンス整合回路は、前記ZonRと前記アンテナのインピーダンスとが整合するように作用する第2のコンデンサを備えるようにしたものである。
これによって、スミスチャート上で受信回路のインピーダンスを遷移させて、アンテナとZonRとのインピーダンスを整合させ、かつZoffRの電圧反射係数Γの絶対値を大きくすることができる。
また、本発明は、前記第2のコンデンサの一端を前記第2のアンプと前記第2位相調整回路との間に接続し、前記第2のコンデンサの他端をグラウンドに接地したものである。
これによって、スミスチャート上で受信回路のインピーダンスを遷移させて、アンテナ
とZonRとのインピーダンスを整合させ、かつZoffRの電圧反射係数Γの絶対値を大きくすることができる。そして、第2のコンデンサは基板上に配線パターンによって形成されるから、コストアップが発生しない。
また、本発明は、前記第2位相調整回路は、ZoffR>2×ZonRとなるように、前記受信信号の位相を変化させるようにしたものである。
これによって、アンテナスイッチモジュールを備えることなく、送信時に送信信号が受信回路に流入することを防止できる。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、第1実施形態の無線通信装置の親機100の全体斜視図、(b)は無線通信装置の子機200の全体斜視図である。以降、図1(a)、図1(b)を用いて、第1実施形態に係る無線通信装置の親機100と子機200の概要について説明する。
第1実施形態では、主にDECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)に準拠したディジタルコードレス電話機を例示して説明する。DECTは2011年に策定されたディジタルコードレス電話機の標準規格であり、1.9GHz帯(1,895,616Hz〜1,902,528Hz)の周波数を使用し、通信方式はTDMA−WB(時分割多元接続方式)を採用している。DECTでは他機器との電波干渉による通信障害を低減できることや、使用する周波数帯である1.9GHzは無線LANや電子レンジと干渉がないので、ファクスや電話による通話品質を維持できるとされている。またDECTは、広帯域の音声/データを通信することができる方式として知られ、周波数チャネルの使用状況を常時モニタリングし、装置自身が最適なチャネルを選択することで効率良く周波数帯域を利用できる。
なお、後述する無線部12の特徴的な構成は、DECT方式のみならず、例えば世界的に広く利用されているGSM(登録商標、Global System for Mobile Communications)方式の携帯電話機、スマートフォン、PHS、WLAN、無線送受信機能を有する携帯情報端末(タブレット)等全般に応用することができ、また、DCS(Digital Cellular System)方式を採用した自動車電話、携帯電話にも応用することができる。
図1(a)において、ユーザは通常の固定電話と同様に、親機100の表示部6と操作部7を使って通話する相手方の電話番号の呼び出しやキー入力を行い、図示しない公衆回線(有線)と接続された他の電話機との間で音声データをやりとりする。親機100にはマイクロフォン8とスピーカ9が設けられており、ユーザはいわゆるハンズフリーの状態で相手方と会話をすることができる。
図1(b)において、ユーザは子機200を用いて親機100を経由して音声データを送受信することができる。子機200においても、ユーザは表示部14と操作部15を使って通話する相手方の電話番号をキー入力等する。子機200にも送信すべき音声を取得するマイクロフォン16と、受信信号を復調した音声を出力する通話用スピーカ17、リンガ用スピーカ18が設けられている。
親機100はアンテナ(親機アンテナ)5を有し、子機200に備えられたアンテナ13(子機アンテナ)との間で、所定の周波数の搬送波に重畳したディジタル音声データを相互に送受信する。これによって、親機100と子機200の間においてワイヤレスで通話をすることができる。
図2は、無線通信装置の親機100の概略を示すブロック構成図である。親機100は既に説明したユーザインタフェースとしての表示部6、操作部7、マイクロフォン8、スピーカ9の他に、外部インタフェースとして電話回線インタフェース1を備えており、親機100は電話回線インタフェース1を介して公衆回線と接続する。また、親機100にはフラッシュメモリ等で構成された記憶部3が設けられ、例えば、使用頻度の高い接続先の電話番号や、親機100を留守番電話として使用する際に、相手方から送信された音声データをディジタル化して記憶する。
また、親機100には信号処理部10が設けられ、信号処理部10はアナログマルチプレクサ10a、コーデック10b、CPUブロック10f、符号化/復号化部10d、TDD/TDMAプロセッサ10e、CPUブロック10fに搭載されたディジタルスピーチプロセッサ(音声処理装置)10c、アンプモジュール30で構成される。以降、信号処理部10の構成要素について説明する。
アナログマルチプレクサ10aは、電話回線インタフェース1を介して入力された音声信号、マイクロフォン8で受信した音声信号、スピーカ9へ出力される音声信号(音声信号はいずれもアナログ信号)の入出力チャネルから1つのチャネルを選択する。
コーデック10bは、いわゆるオーディオコーデックであり、具体的にはディジタル信号とアナログ信号を相互に変換するDA変換器及びAD変換器で構成される。コーデック10bによって、電話回線インタフェース1を介して親機100に入力されたアナログ音声信号とマイクロフォン8で取得されたアナログ音声信号はAD変換されてディジタル音声信号が生成される。他方、後に説明するディジタルスピーチプロセッサ10cでディジタル処理を施されたディジタル音声信号は、コーデック10bでDA変換されてアナログ音声信号が生成され、このアナログ音声信号がスピーカ9から出力される。
CPUブロック10fは図示しないCPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ワークメモリとしてのRAM(read only memory)、これらを結合したバス等で構成され、親機100全体の動作を制御する。そして、CPUブロック10fには音声信号処理を実行するディジタルスピーチプロセッサ10cが搭載されている。ディジタルスピーチプロセッサ10cはコーデック10bによってAD変換されたディジタル音声信号、または後述の符号化/復号化部10dによって復号されたディジタル音声信号に対して、ノイズやエコーのキャンセルや、特定音声周波数の強調処理、暗号化/復号化等を実行する。なお、これらの音声信号処理は一般的には高速畳み込み演算によるフィルタリング処理を基本とすることが多く、これらの信号処理に特化したDSP(Digital Signal Processor)等で処理を行ってもよく、もちろん図示しないCPUとディジタルスピーチプロセッサ10cを1つのプロセッサで構成してもよい。また、信号処理部10全体を1つのDSPで構成しても構わない。
符号化/復号化部10dは、ディジタルスピーチプロセッサ10cの出力のうちアンテナ5を介して無線通信(送信)が行われるディジタル信号を符号化し、他方、アンテナを介して受信した信号(ここでは、既にディジタル化されている)を復号化する。符号化/復号化部10dは、例えばADPCM(Adaptive Differential Pulse Code Modulation)方式を採用している。ADPCM方式では注目データと直前に数値化したデータとの差を数値化することにより、音質を損なうことなくデータ量を減らすことができる。単純なPCM(Pulse Code Modulation)方式では16ビット必要なデータを、音質を落とさずに12ビット程度まで圧縮できるとされている。これによってデータの伝送効率を向上している。
TDD/TDMA(Time Division Duplex/Time Division Multiple Access)プロセッサ10eは、伝送に用いる搬送周波数をタイムスロットと呼ばれる単位に分割して、同一周波数において複数の通信を可能にする(時分割多元接続)。このように同一周波数を共有して、ごく短い間にデータ送受信を行うため、実質的に送信と受信を同時に実行しているかのように見せることができる。更に、TDMAでは、周波数帯域を分割するFDMA(Frequency Division Multiple Access:周波数分割多元接続)を併用することにより、多数のチャンネルを確保し、かつ周波数の干渉を避けることができる。このようにTDD/TDMAプロセッサ10eは、短時間のうちに送信と受信を周期的に切り替えているが、具体的にはTDD/TDMAプロセッサ10eは、無線部12(以降、図4参照)に設けられ送信信号を増幅するパワーアンプ31(第1アンプ、以降PAと呼称する)と受信信号を増幅するローノイズアンプ36(第2アンプ、以降LNAと呼称する)のON(活性化)とOFF(不活性化)を交互かつ排他的に繰り返す制御部として機能する。この活性化と不活性化は、例えばPA31とLNA36への電源供給を制御することで実現してもよいし、各アンプの入出力段のいずれかにゲート回路を設ける等の構成としてもよい。これによって、PA31がONのときLNA36は必ずOFFに、LNA36がONのときPA31は必ずOFFになるように制御される。この交互かつ排他的な制御は、例えば200Hz程度で周期的に行なわれる。
なお、TDD/TDMAプロセッサ10eには図示しないDA変換器とAD変換器が内蔵されている。TDD/TDMAプロセッサ10eは、ディジタルスピーチプロセッサ10cから符号化/復号化部10dを介して入力されたディジタル信号(送信信号)をDA変換器によってアナログ信号に変換してアンプモジュール30に出力し、他方、無線部12のLNA36からアンプモジュール30を介して入力されたアナログ信号(受信信号)をAD変換器によってディジタル信号に変換して符号化/復号化部10dに出力する。このように、TDD/TDMAプロセッサ10eと無線部12の間はアンプモジュール30を含むアナログ信号のインタフェースが構成されている。
無線部12では、アンプモジュール30が出力した送信信号(アナログ信号)を送信回路37(図4参照)を介してアンテナ5から放出し、他方、アンテナ5によって受信された受信信号(アナログ信号)を受信回路38(図4参照)を介してTDD/TDMAプロセッサ10eに出力する。なお、アンプモジュール30と無線部12に含まれる送信回路37、受信回路38の構成は後に詳述する。
図3は、無線通信装置の子機200の概略を示すブロック構成図である。子機200は、既に説明したように、表示部14、操作部15、マイクロフォン16、通話用スピーカ17、記憶部11、リンガ用スピーカ18、アンテナ13、信号処理部10、無線部12で構成されている。
子機200は一般的に可搬性を持たせるため小型に設計されるが、基本的な機能は図2を用いて説明した親機100と同等である。即ち、子機200の信号処理部10及び無線部12の構成と機能は、親機100で説明した信号処理部10と無線部12と実質的に同じである(従って同一の符号を付している)。よって、子機200におけるこれらの詳細な説明は省略するが、以降、実際の基板構成等を説明する際は、便宜上、より小型に構成された子機200を主に参照して説明を続ける。
図4は、信号処理部10に設けられたアンプモジュール30、及び無線部12の概略を示すブロック構成図である。無線部12は送信回路37と受信回路38で構成され、送信回路37と受信回路38は接続点39で電気的に接続され、この接続点39がアンテナ13と接続されている。なお、ここでいう「電気的に接続され」とは「送信回路37の出力端と受信回路38の入力端の間に一切の素子が介在しない」ということを意味しない。後に説明するように送信回路37の出力と受信回路38の入力がコンデンサを介して接続されているような場合も「電気的に接続され」に含まれる。これはDECTのように使用帯域が高周波の場合、上述の2端点に設けられたコンデンサはDCカットの機能を備えるものの高周波の信号を導通させることが可能だからである。
アンプモジュール30はPA(第1アンプ)31とLNA(第2アンプ)36で構成される。PA31は電力増幅器であり、PA31の入力端Txは信号処理部10のTDD/TDMAプロセッサ10eに接続され、TDD/TDMAプロセッサ10eから出力された送信信号(アナログ信号)が入力される。LNA36は低雑音増幅器であり、受信回路38から出力された受信信号(アナログ信号)が入力され増幅される。LNA36の出力端RxはTDD/TDMAプロセッサ10eに接続されTDD/TDMAプロセッサ10eには増幅された受信信号(アナログ信号)が渡される。なお、アンプモジュール30は主にアナログ回路で構成されており、信号部10はいわゆるデジアナ混載チップとして構成されている。
また、TDD/TDMAプロセッサ10eはアンプモジュール30に対して図示しない制御信号を出力しており、PA31とLNA36の活性化(ON),不活性化(OFF)を制御する。なお、この不活性化の状態には、PA31の全部のみならず一部の電源の遮断、PA31内部回路の遮断、入力/出力信号のゲート回路による遮断等が含まれる。
送信回路37は第1インピーダンス整合回路32と第1位相調整回路33から構成される。第1インピーダンス整合回路32は、PA31が活性化した状態では送信回路37の出力とアンテナ13の間でインピーダンスを整合させ、一方、PA31が不活性化した状態では送信回路37とアンテナ13のインピーダンスを不整合にする。
そして、第1位相調整回路33は、PA31が活性か不活性かにかかわらず、送信回路37の接続点39側で、インピーダンスを一律に回転させ、PA31が活性化しているときはインピーダンスの整合状態を保ち、LNA36が不活性化しているときはハイインピーダンス状態に遷移させる。
受信回路38は第2インピーダンス整合回路35と第2位相調整回路34から構成される。第2インピーダンス整合回路35と第2位相調整回路34の機能は、基本的に上述した送信回路37と同じである。即ち、第2インピーダンス整合回路35は、LNA36が活性化した状態ではアンテナ13と受信回路38の間でインピーダンスを整合させ、一方、LNA36が不活性化した状態ではアンテナ13と受信回路の間でインピーダンスを不整合にする。
そして、第2位相調整回路34は、LNA36が活性か不活性かにかかわらず、受信回路38の接続点39側で、インピーダンスを一律に回転させ、LNA36が活性化しているときはインピーダンスの整合状態を保ち、LNA36が不活性化しているときはハイインピーダンス状態に遷移させる。
即ち、複素平面であるスミスチャート上の円を上下に半分に割った水平線上(この線は純抵抗成分を表しており、以降、実軸と呼称する)の50Ω点(正規化インピーダンスでは1Ωの点を指す、以下「R50点」と呼称する)を設定したとき、第1インピーダンス整合回路32は、PA31が活性化した状態では送信回路37の出力のインピーダンスをR50点の近傍に遷移させ、PA31が不活性化した状態では送信回路37の出力インピーダンスをR50点から大きく離間する位置に遷移させる。
そして、第1位相調整回路33は、送信回路37の出力(即ち接続点39)において、インピーダンスをR50点を中心とする円上で回転させる。具体的には、第1位相調整回路33は送信信号に位相シフトを生じさせることでインピーダンスの軌跡を回転させる。ここで、第1位相調整回路33はR50点を中心とする円上で、PA31の活性化/不活性化のいかんにかかわらず、一律にインピーダンスを回転させるから、PA31が活性化したときのインピーダンスは(R50点の近傍なので)回転によっても整合状態を保つ。一方のPA31が不活性化したときのインピーダンスは回転によって大きく変化し、回転角(即ち、送信信号の位相のシフト量)を調整することで、ハイインピーダンス状態に遷移させることができる。
なお、送信回路37における第1インピーダンス整合回路32、第1位相調整回路33と、受信回路38における第2インピーダンス整合回路35、第2位相調整回路34は第1実施形態において特徴的な構成要素である、これらの作用については、後にスミスチャートを用いて詳細に説明する。
図5は、送信回路37と受信回路38の具体的な構成を示す構成図であり、図6は、送信回路37と受信回路38を基板上に実装した状態を示す説明図であり、図7は、送信回路37と受信回路38の基板上の実際のディメンジョン(寸法)を示す説明図であり、図8は、信号処理部10及びその周辺回路を基板上に実装した状態を示す説明図であり、図9(a)〜(d)は、送信回路37と受信回路38をシールドする構成の説明図、(e)は多層基板の構成を示す説明図である。
図5において、右上から左下に向かう斜線部分は伝送線路又はインダクタを表し、左上から右下に向かう斜線部分はコンデンサを表しているが、送信回路37及び受信回路38における細線はダミー線であり、構成要素の接続関係のみを示し、長さや幅を持たない。このように、送信回路37と受信回路38は少なくともインダクタとコンデンサを回路要素として含んでいる。
また、図7に示す“W”は回路を構成する配線パターンの幅を示し、“L”は同様に配線パターンの長さを示す。そして、“W”“L”に続く数値は基板上における実際の数値であって、単位は[mm]である。
また、以降の説明において、送信回路37と受信回路38が実装された基板を第1基板59aと呼称し、信号処理部10が実装された基板を第4基板59dと呼称する。
また、以降の説明における種々のコンデンサは、第1基板59に形成した配線パターン(銅箔)と、第1基板59aとともに多層基板を構成する第2基板59b及び第3基板59cのグラウンドパターンとの間で形成されている(図9(e)参照)。つまり、基板の主たる材料であるガラスエポキシ樹脂がコンデンサにおける絶縁層を構成する。これらのコンデンサの一端は回路に並列に接続され、かつその他端はグラウンドパターンそのものであって、接地されている。なお、コンデンサの容量は第1基板59aと第2基板59b,第3基板59c上のパターン間距離(即ち基板の厚さ)によって調整することができる。
また、図8は第4基板59dの配線パターンのレイアウトを示しており、第4基板59d上に実装される信号処理部10はその外枠部分を点線で、DCカットコンデンサ46は黒く塗り潰した四角形として記載している。
以降、図5、図6、図7、図8、図9を用いて、第1実施形態の送信回路37と受信回路38の構成及びこれらの周辺構成について詳細に説明する。
図6に示すように、送信回路37を構成する第1インピーダンス整合回路32(一部の伝送線路を除く)、第1位相調整回路33、第1バラン40、及び受信回路38を構成する第2インピーダンス整合回路35(一部の伝送線路を除く)、第2位相調整回路34、第2バラン41は、第1基板59a上に配線パターンのみによって形成されている。
また、図8に示すように、第1インピーダンス整合回路32と第2インピーダンス整合回路35の一部を構成する伝送線路は、第4基板59d上に配線パターンのみによって形成されている(詳細は後述する)。
このようにディスクリート部品を一切使用しないことでコストを大幅に低減することができる。なお、図6においてGPが示すハッチング部分は、グラウンドパターンを示している。このように送信回路37、受信回路38は基板内においてもグラウンドパターンGPに取り囲まれている。
また、図9(e)に示すように、この第1基板59aは多層基板のうちの1枚である。第1実施形態では4層の多層基板が用いられ、上層から下層に向けて第4基板59d、第2基板59b、第1基板59a、第3基板59cの順に積層され、全体の厚みは約1mmとされている。このうち最上層の第4基板59d上にはアンプモジュール30(図示せず)を内蔵した信号処理部10が実装されている。
図9(b),(d)に示すように第2基板59b、第3基板59cにおいても、第1基板59aと同様にGPはグラウンドパターンを示し、第2基板59b及び第3基板59cはほぼ全面にグラウンドパターンが形成されている。第1基板59aには上述してきた送信回路37、受信回路38、電源ライン45等が形成されている。
図9(a)〜(d)において、PAは第1基板59aにおける送信/受信回路配置領域、及び第2基板59b、第3基板59c、第4基板59dにおいてその対応領域を示している。第1基板59aは第2基板59bと第3基板59cに、その主面を両面から挟まれた構成を有している。そして第2基板59bと第3基板59cにおいて第1基板59aの送信/受信回路配置領域PAと対応する領域は一部を除いてグラウンドパターンが形成されており、これによって第1基板59a上に形成された送信回路37と受信回路38は電磁シールドによって外部の電磁波から遮断される構成となっている。
更に、図6に示すように、第1基板59aにおいて、送信回路37を構成する第1インピーダンス整合回路32、第1位相調整回路33、第1バラン40及び受信回路38を構成する第2インピーダンス整合回路35、第2位相調整回路34、第2バラン41の周囲には多数のviaホール55が設けられている。このviaホール55は、第1基板59aを挟む第2基板59bと第3基板59cのグラウンドパターン間を相互に接続しており、送信回路37と受信回路38は、これが形成された第1基板59aの両主面側のみならず、基板内においても電磁シールドによって保護される。
ただし、第2基板59bと第3基板59cによって構成される電磁シールドには、一部に窓領域BAが設けられ(図9(b)、図9(d)参照)、窓領域BAにはグラウンドパターンが形成されていない。第1基板59aにおいて窓領域BAに対応する領域には、後述する第2バラン41(図5等参照)の共振器が設けられており、この部分をグラウンドパターンで挟むことで生じる容量成分による弊害(共振器の波長選択性能の低下)を防止している。
以降、送信回路37を構成する個別要素について、送信信号が通過する経路の順に説明
する。
図5に示すように、PA31は3段の増幅器を備えている。入力端Txから近い側の2つの段には、電源ライン45をレギュレータ29で調整した電力が供給され、主にロジック回路の動作電源として用いられる。送信回路37の入力側に最も近い第3段目の増幅器(最終段増幅器31a)に電源を供給する構成については後述する。
ここで、既に説明したように、最上層の基板である第4基板59d上に実装されている(図8、図9(e)参照)信号処理部10(アンプモジュール30を内蔵する)において、PA31は差動信号を出力しており、この差動信号はviaホール43aと43bを介して、最上層の第4基板59dから3層目の第1基板59aに伝達される。
第1インピーダンス整合回路32は、2つの差動信号をそれぞれ受け持つ一組の伝送線路LI1,LI2及びコンデンサC1,C2で構成される。伝送線路LI1とLI2は第4基板59dに配線パターンを引き回して形成され(図8参照)、PA31の差動信号の出力端に直列に接続されている。コンデンサC1,C2は第1基板59aに配線パターンを引き回して形成され(図6参照)、その一端が伝送線路LI1,LI2の出力側に並列に接続され、他端は接地されている。
ここで、伝送線路LI1,LI2の長さ及びコンデンサC1,C2の容量(これらの要素に印加される信号の周波数と、これらが形成された基板上における、配線パターンの長さ、幅(面積)等によって具体的数値が決定される)は、PA31が活性化した状態で送信回路37とアンテナ13のインピーダンスマッチングを図るように決定される。具体的には、例えば図7に示すコンデンサC1,C2の形状(面積)によって、その静電容量を例えば3.6pFに設定することで、PA31が活性化している際のインピーダンスが調整される。なお、第1インピーダンス整合回路32を構成するインダクタLI1,LI2、及びコンデンサC1,C2による、送信回路37のインピーダンス調整過程は、後にスミスチャートを用いて詳細に説明する。
第1インピーダンス整合回路32の出力は第1バラン40に渡される。第1バラン40は差動信号をシングルエンド信号に変換するものであり、インダクタL3によって構成されている。そして、図7に示すように、インダクタL3を構成する配線パターンの具体的な長さは38mmとされている。
さて、DECTで使用される1.9GHz帯において、空間波長λは、
λ=c/f=3×108/1.9×10−9=158mm(但しcは光速)・・・(式1)
と計算される。しかしながら第1基板59aは多層基板を構成する1枚であり、中間層として他の基板(誘電体)に包囲されているため、波長が短縮される。第1実施形態では第1基板59a乃至第4基板59dとして、ガラス繊維の布にエポキシ樹脂をしみ込ませ熱硬化処理を施し板状にした、いわゆるガラスエポキシ基板を採用しており、この基板の誘電率ε=4.2であることから、基板内波長λgは、
λg=λ/√ε=158mm/4.2=77mm・・・(式2)
となる。そしてλg/4となる伝送線路長(上の例では77/4≒19mm)が配線パターンを設計する際の基本単位となる。
図7によれば第1バラン40を構成するL3の長さは38mmであり、これはおよそλg/2に相当する。あるインピーダンス負荷に伝送線路を付加して信号位相を変えたとき、スミスチャート上ではインピーダンスを示す座標がR50点を中心とする円上を回転するように遷移する。即ち、信号位相を変えることによってインピーダンスを変化させることができる。例えば初期のインピーダンスZ=0とすると、伝送線路長がλg/4変化するごとに、インピーダンスZは∞と0(いずれも実軸上の点)を繰り返すように変化する。第1バラン40の場合は、インダクタL3をλg/2の長さで形成することで、バランの入出力間で信号位相が変化しないようにしている。ただし、第1バラン40は差動信号をシングルエンド信号に変換する構成を有するため、アンテナ13側からみた送信回路37は並列回路を備えることとなる。従って、第1インピーダンス整合回路32の出力インピーダンスがスミスチャートの実軸上の成分のみ(R0)である場合、第1バラン40の介在によって、アンテナ13から見た送信回路37のインピーダンスはR0/2に半減する。この結果、第1バラン40の出力インピーダンスはスミスチャート上のR50点近傍に設定され、PA31が活性化状態において第1バラン40の出力はアンテナ13とのインピーダンスマッチングが図られる。
図10(a)は第1位相調整回路33の構成を示す構成図、(b)は第1位相調整回路33の等価回路の説明図である。以降、図10(a),(b)を併用して、第1位相調整回路33の構成と動作について説明する。
図10(a)に示すように、第1位相調整回路33は入力段の側からインダクタL4、L5を直列に配置し、入力端とインダクタL4の間、インダクタL4とL5の間、インダクタL5と出力端の間にそれぞれコンデンサC3,C4,C5の1端を接続し、他端を接地した構成となっている。このように、第1位相調整回路は少なくともインダクタとコンデンサを明示の回路要素として含む。この構成は図10(b)の等価回路に示すように、結果的にΠ型のローパスフィルタを2段直列配置したものとなっており、2つのインダクタL4,L5間のコンデンサC4は、ローパスフィルタの第1段と第2段の間で共用する構成としている。ローパスフィルタは信号位相を遅らせる作用があるため、この構成によってもスミスチャート上においてインピーダンスをR50点を中心として回転させることができる。ただし、ローパスフィルタの減衰特性を高めようとすると、結果的に信号位相を大きくシフト(遅延)することになり、このときのスミスチャート上の回転は一周を超えたものとなる。
インダクタL4とL5の間に配置されたコンデンサC4は、これを構成する第1段の出力側と第2段の入力側の容量が同一であれば、実質的に任意の容量値を用いてローパスフィルタを構成することができる。そしてコンデンサC4の値を調整することで、ローパスフィルタ全体としての減衰量の設定や位相調整を高い自由度で容易に行うことができる。例えば減衰特性を急峻にするのであればC4の値を大きくすればよい。
さて、従来ディスクリート素子でローパスフィルタを構成した場合、素子自体による寄生インダクタンス成分や寄生容量成分が発生し、特に高周波領域の減衰特性が不十分となって位相調整が事実上困難であった。第1実施形態では、配線パターンを引き回して位相調整部としてのローパスフィルタを形成し、これを上述したように多層基板を用いてシールド構造とすることで初めて、実用上十分な高周波特性を得ている。
なお、図7に示すように、第1位相調整回路33の入力端に設けたコンデンサC3はW=2.2mm,L=5.0mm(面積=11mm2)とされている。一方の出力端に設けたコンデンサC5はW=2.9mm,L=3.8mm(面積=11.02mm2)とされ、コンデンサC3とコンデンサC5の間で容量を若干異ならせている。このように第1段の入力端と第2段の出力端のコンデンサの容量値を微小量変化させることで、一般的にローパスフィルタの帯域を拡張することができる。
さて、上述したように、送信回路37の内部においてPA31が活性化した状態では第1バラン40の出力インピーダンスは既にアンテナ13とマッチングが図られている(即ち、スミスチャート上ではR50点近傍のインピーダンス値となっている)。このような整合が図られた状態で信号位相を変化させた場合、R50点を中心とする円上をインピーダンスは遷移する。即ち、もともとインピーダンスが整合した状態においては、インピーダンスは回転中心であるR50点の近傍にあるため、信号位相を変化させても確立した整合が破綻することはない。
理論的にはインピーダンス負荷に直列に接続する伝送線路の長さを調整することで信号位相を変化させることができるが、第1実施形態では敢えて第1位相調整回路33をローパスフィルタによって構成している。ここで、伝送線路の長さによって位相を変化させない理由は、伝送線路を引き回することで線路長が極めて長くなってしまう場合があるからである。一般的にローパスフィルタにおいて減衰特性を向上させる場合は位相遅れを大きくするが、これを伝送線路長のみで実現しようとすると、例えば3/4λgの位相遅れを達成するには19mm×3=54mmもの配線長が必要となる。54mmという線路長が回路設計に与える影響の大きさは、図7の寸法をみれば容易に推察されるが、ローパスフィルタであれば2段構成で容易に実現できる。
一般的に、PA31の出力端のインピーダンスはPA31が活性化されたときと不活性化されたときで異なっており、上述した第1インピーダンス整合回路32、第1バラン40、第1位相調整回路33によってインピーダンスマッチングが図られるのは、あくまでもPA31が活性化した状態においてである。逆に言えば、PA31が不活性化している状態では、第1バラン40の出力インピーダンスはスミスチャート上のR50点にはない(即ち、アンテナ13との間でインピーダンスマッチングが図られていない)。従って、第1インピーダンス整合回路32と第1バラン40によって、インピーダンス特性をR50点から離間する状態に遷移させておき、第1位相調整回路33によって送信信号の信号位相を変化させると、PA31が不活性化している際の送信回路37のインピーダンスはR50点を中心として大きく回転(変化)し、信号位相の変化量に応じて、ハイインピーダンス状態に遷移させることができる。
これによって、PA31が活性化されている状態(つまり送信時)では、送信回路37の出力端はアンテナ13からみたときにインピーダンスマッチングが図られ、一方でPA31が不活性化されている状態(つまり受信時)では、送信回路37の出力端はアンテナ13からみたときにハイインピーダンス状態となって、送信回路37側に受信信号が流入することが防止される。
なお、第1実施形態では、上述したように第1位相調整回路33はローパスフィルタを構成しているが、バンドパスフィルタ特性を持たせるようにしてもよい。
以上述べてきた信号処理を施された送信信号は、第1接続点39aを通過した後viaホール43eを経由して第1基板59aから最上層の第4基板59dへと送られる。そして第4基板59d上でDCカットコンデンサ46を介して接続されたアンテナ13から空中に放出される。このDCカットコンデンサ46によって電源ライン45に印加された電圧はアンテナ13側に漏れることなく、送信信号のみがアンテナに送られる。
以降、図5、図6、図7、図8、図9に戻って、受信回路38を構成する個別要素について、受信信号が通過する経路の順に説明する。
アンテナ13で受信された受信信号は、第2接続点39bを通過したのちviaホール43fによって第4基板59dから第1基板59aの受信回路38に送られる。受信信号は、まず第2位相調整回路34に入力される。
図5、図6に示すように、第2位相調整回路34は伝送線路LI3のみで構成されている。これは、上述した送信回路37では、単に信号位相をシフトするのみならず信号ノイズを除去する必要から位相調整回路をローパスフィルタで構成しているが、受信回路38ではLNA36はノイズ源となりにくくフィルタは不要であり、単純にインピーダンス負荷に直列に伝送線路を接続するのみで、LNA36が不活性の状態における受信回路38のインピーダンスをハイインピーダンス状態に遷移できる。もちろん、これは第1実施形態で採用したLNA36の特性に適応した構成であって、他のLNA36によっては、線路長がより長くなることもあり得るが、いずれにせよ配線パターン長を調整して容易に整合を図ることができる。もちろん、送信回路37の第1位相調整回路33のように、積極的に信号位相を回転させるフィルタを設けてもよい。
第2位相調整回路34の出力は第2バラン41に入力される。第2バラン41はその入力端に並列に接続され、かつ他端を接地されたコンデンサC11と、基板上にあって互いに対向して設けられたインダクタL12,L13と、インダクタL13の両端にそれぞれ並列に接続され、かつ他端を接地されたコンデンサC12,C13で構成されている。なお、図6においてはコンデンサC12,C13は第2インピーダンス整合回路35を構成するコンデンサC14,C15と共用されている。
第2バラン41ではシングルエンド信号である受信信号を差動信号(差動入力)に変換するが、送信回路37に含まれる第1バラン40とは異なり、対向配置したインダクタL12,L13によってトランス、即ち共振器を構成している。共振器の内部では、共振条件を満たす周波数の電磁波しか存在できないため、第2バラン41は事実上のバンドパスフィルタ特性を備える。これによってアンテナ13で受信した信号のうち、不要な周波数の電磁波が排除される。また、第2バラン41はシングルエンド信号を差動信号に変換する構成上、第2バラン41をアンテナからみたときのインピーダンスは、後に説明する第2インピーダンス整合回路35によって、LNA36の入力インピーダンスがスミスチャート上の実軸に遷移されている前提において、第2インピーダンス整合回路35の入力インピーダンスの1/2となる。上述したように第2バラン41は、その対向する位置(図9(b),(c)の窓領域BAを参照)にグラウンドパターンを設けておらず、これによってバンドパスフィルタの特性改善を図っている。
第2バラン41の出力は第2インピーダンス整合回路35に入力される。第2インピーダンス整合回路35は、2つの差動信号をそれぞれ受け持つ一組のコンデンサC14,C15及び伝送線路LI5,LI6で構成される。コンデンサC14とC15は第1基板59aに配線パターンを引き回して形成され(図6参照)、その一端が伝送線路LI5,LI6の入力側に並列に接続され、他端は接地されている。伝送線路LI5とLI6は第4基板59dに配線パターンを引き回して形成され(図8参照)、LNA36の差動信号の入力端に直列に接続されている。
ここで、伝送線路LI5,LI6の長さ及びコンデンサC14,C15の容量(これらの要素に印加される信号の周波数と、これらが形成された基板上における、配線パターンの長さ、幅(面積)等によって決定される)は、LNA36が活性化した状態で受信回路38とアンテナ13のインピーダンスマッチングを図るように決定される。具体的には、例えば図7に示すコンデンサC14(但し、C12の容量も含む),C15(但し、C13の容量も含む)の形状(面積)によって、その静電容量を設定することで、LNA36が活性化している際のインピーダンスが調整される。
第2インピーダンス整合回路35の出力はviaホール43c,43dを介して第1基板59aから最上層の第4基板59dに送られ、第4基板59dに実装された信号処理部10に含まれるアンプモジュール30のLNA36に入力される。LNA36は受信信号
を増幅してTDD/TDMAプロセッサ10eに送出する。
以降、図5、図7、図8を用いて第1実施形態の電源ライン45の構成(電源供給のための構成)について説明する。
図5に示すように、電源ライン(電源)45はコンデンサC21とインダクタL21を備え、インダクタL21の一端は第1接続点39aで送信回路37の出力端と接続されている。図7に示すように、電源ライン45に接続されたコンデンサC21は回路上ではオープンスタブ56を形成している。ここで、スタブ(Stub)とは高周波回路において伝送線路に並列に接続される分布定数線路であり、特に終端負荷の種類により、先端が開放しているものはオープンスタブ(Open stub)と呼称される。第1実施形態ではオープンスタブ56の長さを19mmに設定している。また、オープンスタブ56とインダクタL21の接続点をP1とするとき、第1接続点39aと点P1の間に配置された(即ち、電源ライン45に直列に挿入された)インダクタL21の伝送線路長も19mmとされている。この19mmは上述したようにλg/4に相当する。従って、このように構成すると、電源ライン45のインピーダンスを0とするとき、電源ライン45から見たオープンスタブ56の終端及び送信回路37の出力端(即ち、第1接続点39a)においては、インピーダンスが∞であることを意味する。ここで、回路がインピーダンス=∞として振る舞うのは、あくまでも搬送波である1.9MHzに対してであるから、1.9MHzに変調された送信回路37の出力は電源ライン45に流入することはできない。同様に、アンテナ13で受信された1.9MHzの受信信号が電源ライン45に流入することもできない。従って、この構成によって、送信回路37やアンテナ13から電源にノイズが混入することを確実に防止することができる。
その一方で、電源ライン45からは、第1接続点39aと送信回路37を介して、PA31の最終段増幅器31aにDC電源が供給される。DECT規格における送信電力(空中線電力)は平均で10mW程度であるが、この最終段増幅器31aは比較的大きな電力を消費し、かつ数百Hzで活性化(ON)と不活性化(OFF)を繰り返すためラッシュ電流等によるノイズ源となりやすい。従来の構成では、電源ライン45をアンプモジュール30に直接接続して電源を供給しており、最終段増幅器31aで発生したノイズは電源ラインを介して無線通信装置を構成する様々な電気的要素に伝搬する可能性があり、最終段増幅器31aのノイズ対策が課題となっていた。つまり、最終段増幅器31aに直接給電すると、基本波f0の高調波成分(2×f0,3×f0...)の全てを遮断する給電回路が必要となって複雑化してしまうのである。
しかしながら第1実施形態によれば、仮に最終段増幅器31aでノイズが発生したとしても、このノイズは送信回路37を通過することになり、送信回路37に設けられた第1位相調整回路33(インダクタとコンデンサを含む回路要素で構成されるローパスフィルタ)によって減衰される。即ち、DECTであれば基本波f0である1.9GHzのみ遮断すれば済む。更に、電源ライン45を介して他のノイズ成分が混入しても、このローパスフィルタによってこのノイズ成分を減衰することができる。即ち、回路要素が構成する単一のローパスフィルタによって、送信信号上のノイズと電源側からのノイズのいずれをも抑制することができる。
また、第1接続点39aで接続された電源ライン45は、既に説明したλg/4の長さに相当する伝送線路を持つオープンスタブ56とインダクタL21によって遮断されるから、搬送波に起因するノイズが電源ライン45に混入することがなくなる。これによって最終段増幅器31aで発生したノイズが電源ライン45を介して、装置全体に伝搬することが防止される。
一方、受信回路38の出力が接続されたLNA36は一般に低消費電力であり、高周波ノイズは発生しないため、電源ライン45から直接的に(信号処理部10を介して)電源供給を受けている(図示せず)。
さて、図5によれば、第1実施形態の構成は、送信回路37の出力と電源ライン45を接続する第1接続点39aと、アンテナ13と受信回路38の入力を接続する第2接続点39bを有し、第1接続点39aと第2接続点39bをコンデンサ(DCカットコンデンサ46)を介して接続している。
より具体的には、電源ライン45と送信回路37の出力端の接続は第1基板59aの第1接続点39aで行われる(図6参照)。この第1接続点39aはviaホール43eを介して第4基板59dに導かれる(図8参照)。一方、受信回路38の入力端はviaホール43fを介して第1基板59aから第4基板59dに導かれ、第4基板59d上でアンテナ13と接続されて第2接続点39bを構成する(図8参照)。そして、第1接続点39aと第2接続点39bは、第4基板59dに表面実装されたコンデンサ46を介して接続されている(図8参照)。
このように、第1接続点39aと第2接続点39bは直接接続されているわけではない。しかしながら、上述したように本発明の無線通信装置がとりあつかう、例えば1.9GHzといった高周波帯では、コンデンサは事実上の導通状態であるから、第1接続点39aと第2接続点39bは電気的に接続された単一の接続点39を構成していると考えてよい。このことを考慮すると、第1実施形態に係る無線通信装置は、電波を送信するアンテナ13と、アンテナ13から送信する送信信号を増幅するPA31(より詳細には、PA31に含まれる最終段増幅器31a)と、PA31によって増幅された送信信号を信号処理する送信回路37と、PA31に電力を供給する電源ライン45と、送信回路37の出力とアンテナ13を電気的に接続する接続点39とを備え、電源ライン45を接続点39に接続し、送信回路37を介してPA31に電力を供給するものであるということができる。
ただし上述の説明は、無線通信装置の送信回路37の周辺構成のみを特定するものであり、これに受信に係る構成を付加すると、第1実施形態は、電波を送受信するアンテナ13と、アンテナ13から送信する送信信号を増幅するPA31(より詳細には、PA31に含まれる最終段増幅器31a)と、PA31によって増幅された送信信号を信号処理する送信回路37と、アンテナ13で受信した受信信号を信号処理する受信回路38と、PA31に電力を供給する電源ライン45と、送信回路37の出力と受信回路38の入力とアンテナ13を接続する接続点39を備え、電源ライン45を接続点39に接続し、送信回路37を介してPA31に電力を供給するものであるということができる。
図11(a)〜(d)は、高周波回路を構成する要素のパラメータが変化した場合のスミスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示す説明図である。
図11(a)は、50Ωの負荷に直列にインダクタンスを付加した場合のスミスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスは、スミスチャートの実軸においてインピーダンス=∞の点(実軸∞Ω点、以降「R∞点」と呼称する)で接する円上を回転するように遷移する。
図11(b)は、50Ωの負荷に並列(一端は接地)にコンデンサを付加した場合のスミスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスはスミスチャートの実軸においてインピーダンス=0の点(実軸0Ω点、以降「R0点」と呼称する)で接する円上を回転するように遷移する。
図11(c)は、あるインピーダンス負荷に並列に抵抗成分(R)を付加した場合のスミスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスは、スミスチャートのR0点に漸近するように遷移する。初期のインピーダンスが実軸上に存在すれば、インピーダンスは実軸上をR0点方向に遷移する。
図11(d)は、あるインピーダンス負荷に直列に伝送線路を接続した場合のスミスチャート上におけるインピーダンスの軌跡を示している。このときインピーダンスはR50点を中心とする円上を回転するように遷移する。このスミスチャート上における軌跡の回転は、伝送線路中の信号位相が変化することによって発生する。信号の波長をλとするとき、信号位相が1/4λシフトする毎にインピーダンスはスミスチャート上を半回転する。即ち、信号位相がλだけシフトする過程で、インピーダンスはスミスチャート上を2回転することになる。通常、高周波回路において信号位相をシフトしようとする場合、回路に直列に伝送線路を付加するが、例えばローパスフィルタを直列に挿入することで、信号位相をシフトさせ(遅らせる)、伝送線路の付加と同じ作用を得ることができる。
図12は、送信回路37を模式的に表したブロック図、図13は、PA31が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、PA31の出力における実測インピーダンスを示す説明図、図14は、PA31が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、伝送線路LI1,LI2によるインピーダンス変化を説明する説明図、図15は、PA31が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第1インピーダンス整合回路32の出力のインピーダンス変化を示す説明図、図16は、PA31が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第1バラン40の出力のインピーダンス変化を示す説明図、図17は、PA31が活性化(ON)及び不活性化(OFF)しているときの、第1位相調整回路33の出力のインピーダンス変化を示す説明図である。
以降、図12〜図17を用いて、第1実施形態の送信回路37の各部におけるインピーダンスの状態について詳細に説明する。以降の説明では、簡単のために送信回路37を例にとるが、受信回路38に関しても同様である。
なお、以降の説明において、PA31が活性化しているときのアンテナ13から送信回路37を見たインピーダンスをZonT、PA31が非活性化しているときのアンテナ13から送信回路37を見たインピーダンスをZoffTと呼称する。
図13は、PA31の出力(図12のCX1)においてPA31が活性化している場合とPA31が不活性化している場合のインピーダンスを例示するものである。内部を点でハッチングした丸印はPA31が活性化している状況を、内部を斜線でハッチングした丸印はPA31が不活性化している状況を示している。図13では、これらの二つの丸印はいずれもR50点から殆ど等距離にあって、R50点からスミスチャートの外周に向かうほど大きくなる電圧反射係数Γに関してはいずれも略同一とされている。以降説明するように、第1実施形態の無線通信装置は、初期的な電圧反射係数Γが活性化時と不活性化時で略同一な増幅器を用いても、活性化時のインピーダンスをマッチング状態に遷移させ、不活性化時のインピーダンスをハイインピーダンス状態にするという従来技術にはない特徴を備える。
図14は、第1インピーダンス整合回路32における伝送線路LI1,LI2による(図12のCX2)インピーダンス変化を示している。回路に直列に伝送線路LI1,LI2を付加することで線路内の信号位相がシフトし、図11(d)で説明したようにインピーダンスはR50点を中心とする円上を回転する。
なお、図14〜図17では、点でハッチングした実線丸印はPA31がONのときのインピーダンス(遷移後)を、点でハッチングした破線丸印はPA31がONのときのインピーダンス(遷移前)を、斜線でハッチングした実線丸印はPA31がOFFのときのインピーダンス(遷移後)を、斜線でハッチングした破線丸印はPA31がOFFのとのインピーダンス(遷移前)をそれぞれ表している。
図14に示すように、伝送線路LI1,LI2によって、インピーダンスはスミスチャート上を回転し、2つのインピーダンス状態はR0点からの距離が不均一になるように調整される。ただし、伝送線路LI1,LI2によってインピーダンスが変化した後(遷移後)であっても、二つの実線丸印はR50点からほぼ等距離にあり、電圧反射係数Γは変化していない。
図15は、第1インピーダンス整合回路32の出力(図12のCX3)におけるインピーダンスを示している。即ち、図15は、コンデンサC1,C2によるインピーダンス変化の前後を示すものである。図11(b)で説明したように、コンデンサの存在によってインピーダンスはスミスチャート上のR0点に接する円上を回転するが、このコンデンサの容量値は、少なくともPA31がONのときの送信回路37のインピーダンスが実軸上に遷移する値が選択される。
なお、図15では、PA31がOFFのときのインピーダンスも実軸上に遷移している。これは必須の条件ではないものの理想的な遷移状態であり、これを実現するために、「コンデンサC1,C2による回転の結果、PA31がONのときとOFFのときの双方で、遷移後の送信回路37のインピーダンスが実軸上に移動するように」R50点を中心とする回転量を設定、即ち、伝送線路L1,L2Rの伝送線路長を設定しておくのが望ましい。
このように、第1インピーダンス整合回路32は、ZonTとZoffTをスミスチャートの実軸に近づくように遷移させる。
図16は、第1バラン40の出力(図12のCX4)におけるインピーダンスを示している。上述したように、アンテナ13からみたとき、第1バラン40は並列回路を含むことから、インピーダンスが純抵抗である場合(即ち、実軸上に存在する場合)は、アンテナ13から見たときのインピーダンスは半減する。これによって、PA31がONのときのインピーダンスはR50点に接近し、PA31がOFFのときのインピーダンスはR0点に接近する。即ち、第1インピーダンス整合回路32と第1バラン40は協働して、PA31がONのときのインピーダンスをR50点に近づける、つまりアンテナ13とのインピーダンスを整合するように機能し、PA31がOFFのときのインピーダンスがR50点からより遠くに外すように(R0点に近づけるように)機能する。
ここで、第1バラン40は形式的には差動信号をシングルエンド信号に変換する要素だが、上述したように、その機能にはインピーダンス整合機能が含まれており、機能的には、第1バラン40は第1インピーダンス整合回路32に含まれる。このように、第1バラン40を含む第1インピーダンス整合回路32は、PA31が活性化したときの送信回路37の電圧反射係数Γが0近傍になるように、かつPA31が不活性化したときの送信回路37の電圧反射係数Γが大きくなるように(より正確には、電圧反射係数Γの絶対値が1に近づくように)インピーダンスを遷移させる。
即ち、第1インピーダンス整合回路32(第1インピーダンス整合回路32と第1位相調整回路33の間に設けられた並列回路としての第1バラン40を含む)は、ZonTを電圧反射係数Γが0近傍になるように、かつZoffTを電圧反射係数Γの絶対値が大き
くなるようにインピーダンスを遷移させる。
図17は、第1位相調整回路33の出力(即ち、送信回路37の出力。図12のCX5)におけるインピーダンスを示している。第1実施形態における第1位相調整回路33は、上述したように二段のローパスフィルタを備え、これによって送信信号の信号位相をシフトする。これによって、ローパスフィルタは回路に直列に伝送線路を付加したものと同様に振る舞い、R50点を中心とする円上をインピーダンスが回転するが、第1実施形態ではスミスチャート上でインピーダンスが1周を超えて回転するように信号位相のシフト量を決定している。より具体的には、第1位相調整回路33は上述した第1基板59a内を伝搬する送信信号(波長λg)に対して信号位相を3/4λgだけシフトし、その結果スミスチャート上でインピーダンスが1.5周するようにしている。単に位相調整機能のみを持たせる場合は、第1位相調整回路33において1/2λgを超える位相シフトは不要であるが、減衰特性を向上させて、第1位相調整回路33の持つローパスフィルタ機能(送信信号に対するノイズ除去及び電源ライン45からのノイズ混入防止)を強化するには、このように信号位相を大きくシフトすることが望ましい。一方で、位相調整の側面では、第1位相調整回路33は、信号位相を1/4λgだけシフトするのと等価であり、これによって、PA31が不活性化のときの送信回路37のインピーダンスは、遷移前のR0点近傍から遷移後はR∞点近傍に移動し、ハイインピーダンス状態となる。
なお、上述した例では、初期的なPA31のインピーダンスの状態を図13として説明したが、LI1,LI2,C1,C2の値の設定によっては、第1インピーダンス整合回路32は、様々な状態にあるインピーダンスを、一旦図13の状態を経由して、図14〜図16の状態に遷移させることもできる。このように、第1実施形態は、PA31を活性化/不活性化したときの、送信回路37のインピーダンスがスミスチャートの軸対称(即ち、L/C性)の関係となるようにし、その後に上述した過程に従ってインピーダンスを遷移させている、ということができる。
以上、送信回路37における第1位相調整回路32(第1バラン40を含む)と第1位相調整回路33の構成及び動作について詳細に説明したが、受信回路38についても、インピーダンスマッチング状態とハイインピーダンス状態を分離する過程は全く同様である。よって詳細な説明は省略するが、LNA36が活性化しているときのアンテナ13から受信回路38を見たインピーダンスをZonR、LNA36を非活性化しているときのアンテナ13から受信回路38を見たインピーダンスをZoffRとして、上述したZonTとZoffTと同様の関係になるように、回路を構成するパラメータを選定すればよい。
図18(a)は、PAが活性化しているときのアンテナからみたインピーダンスの状態を示す説明図、(b)はLNAが活性化しているときのアンテナからみたインピーダンスの状態を示す説明図である。
図18(a)に示すように、PA31がON(かつLNA36がOFF)のとき、送信回路37の出力インピーダンスはアンテナ13とのマッチングが図られアンテナ13から電波が放出されるが、受信回路38の入力インピーダンスはハイインピーダンス状態となり、送信回路37の出力が受信回路38に流入することが防止される。
他方、図18(b)に示すように、PA31がOFF(かつLNA36がON)のとき、送信回路37の出力インピーダンスはハイインピーダンス状態となり、受信回路38の入力インピーダンスはアンテナ13とのマッチングが図られ、アンテナ13で受信された電波は受信回路38にのみ送られ、送信回路37は何ら影響を受けない。
図19(a)は、スミスチャート上においてハイインピーダンス状態を説明する説明図、(b)はハイインピーダンス状態における電流フローを示す説明図、(c)は図19(b)の等価回路である。
以降、図19(a),(b),(c)を用いて、送信回路37と受信回路38のハイインピーダンス状態について具体的に説明する。
図19(a)に示すように、第1実施形態においてはスミスチャートの実軸上4Ω(ただし、図19(a)の実軸数値は、正規化インピーダンスを示しており、一般的には50Ω×4倍=200Ωの点をいう。以降、R200点と呼称する)よりも右側、即ち実軸上で200Ω以上の高抵抗となる範囲をハイインピーダンス状態としている。
図19(b)は、送信回路37の出力とアンテナ13のインピーダンスマッチングが図られ、受信回路38の入力はハイインピーダンス状態となっている状態を示している。このとき送信回路37の出力インピーダンスZsとアンテナ13のインピーダンスZL1はいずれも50Ωである。一方、受信回路38の入力はハイインピーダンス状態であり、その入力インピーダンスZL2=200Ωである。このとき、図19(b)に示すように送信回路37から電流iが流出し、これがアンテナ13に電流i1、受信回路38に電流i2として分流する。この等価回路を描くと図19(c)のようになる。
この等価回路について、まず反射損を評価する。ZL1とZL2から構成される並列回路の全抵抗をZLと表すと、電圧反射係数Γは
Γ=(ZL−Zs)/(ZL+Zs)・・・・(式3)
と表される。ここで全抵抗ZL=1/(1/200+1/50)=40Ωだから、ハイインピーダンス状態を200Ωとしたときの電圧反射係数Γは、
Γ=(40−50)/(40+50)=−0.11となる。
反射損失RLは、
RL=1−Γ2・・・・(式4)
と定義されるから、
RL=1−0.112=0.987となり、これは−0.05dBに相当する。
次に分流に伴う損失を計算する。
アンテナ13のインピーダンスZL1、受信回路38のインピーダンスZL2とすると、アンテナ13側に流入する電流i1は、{200/(200+50)}iとなる。ここで、
P=v×i1・・・・(式5)より
P={200/(200+50)}v×i1=0.8v×i1
これは−0.97dBに相当する。
即ち、全体損失=反射損失+分流損失=−0.05−0.97=−1.02dBとなることがわかる。
図20は、PA31を活性化、LNA36を不活性化したときの受信回路38の入力インピーダンスと全損失の関係を示すグラフである。
図20は、図19(c)においてZs=ZL1=50Ωに固定して、受信回路38の入力インピーダンスを変化させたときの損失(上述の反射損失と分流に伴う損失の合計)をグラフにしたものである。従来、アンテナスイッチモジュールとディスクリート部品を用いてRF回路を構成した場合、経験上、約−1.0dBの損失であれば、同時送受信における音質には問題がないとされている。従って、−1.0dBの損失は、一般的に回路設計の際の設計目標とされる。このように、第1実施形態の構成によっても設計目標は達成されることが分かった。
また、発明者等が行った官能評価等によれば、損失が約−1.5dBより大きくなると音質等について劣化が認められることから、この−1.5dBの損失は許容損失と考えられている。図20によれば、このときの受信回路38の入力インピーダンスは約112Ωである。
即ち、送信回路37のPA31または受信回路38のLNA36が不活性化されると、アンテナ13からみたとき送信回路37の出力インピーダンスまたは受信回路38の入力インピーダンスはハイインピーダンス化されるが、ハイインピーダンス化された際の具体的なインピーダンス値Zとしては、最低限の値としてZ≧112Ω(50Ωとの対比ではr=2.24倍)、望ましくはZ≧200Ω(同r=4倍)とするのが望ましい。
このように、ZonTは50Ωであるから、第1位相調整回路33はZoffT>2×ZonTとなるように、送信信号の位相を変化させている。