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JP2014039516A - シノビオリンプロモーターを含む増殖制御型ウイルスベクター - Google Patents

シノビオリンプロモーターを含む増殖制御型ウイルスベクター Download PDF

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Kenichiro Kozai
健一郎 小戝
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Kagoshima University NUC
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Abstract

【課題】特異性が高く、治療効果の高い関節リウマチの遺伝子治療のためのツールを提供すること。
【解決手段】シノビオリンプロモーターの制御下にある、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸を含む発現カセット、該発現カセットを含むベクター、好ましくはウイルスベクター、より好ましくは増殖制御型ウイルスベクター。前記ベクターを含有する滑膜細胞の増殖阻害剤、特に関節リウマチ治療剤。シノビオリンプロモーターを含むベクターを含有する滑膜細胞の異常増殖および/またはそれが関与する疾患の診断剤、特に関節リウマチ診断剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、シノビオリンプロモーターを含む関節リウマチの遺伝子治療用ベクター、特に増殖制御型ウイルスベクターに関する。より詳細には、本発明は、シノビオリンプロモーターを含むことにより、関節リウマチの滑膜細胞で正常細胞より優位に増殖するアデノウイルスベクター、および/または異常滑膜細胞で特異的に細胞毒性因子または治療因子を発現するベクターに関する。また、本発明は、シノビオリンプロモーターを担持するベクターを含む、関節リウマチ治療用医薬組成物に関する。
関節リウマチ(2002年に日本リウマチ学会で慢性関節リウマチから改名された。本明細書では「RA」と略記する場合もある)は、多発する関節炎と進行性の関節破壊(関節の変形、機能障害)を主症状とする全身性炎症疾患であり、世界人口の約1%が罹患しており、日本でも60〜70万人のRA患者がいると言われている。その原因は未だ不明であるが、免疫機能亢進を基盤とする慢性の炎症性自己免疫疾患であり、滑膜細胞の異常増殖が認められる。
現在のところ、RAの根治薬(療法)は無く、既存の治療法[非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、副腎皮質ステロイド薬、抗リウマチ薬(DMARDs)/免疫抑制剤、抗サイトカイン療法]は、免疫調節/抑制作用によるRAの進行遅延や抗炎症・鎮痛作用による関節炎に対する対症療法であるが、これらの治療は不十分な治療効果に加え、副作用が強く、感染・発がんの危険性もあるため、画期的な治療効果を持つ新しい治療薬の開発が強く望まれている。
シノビオリン(Synoviolin)は、RA患者の滑膜細胞ライブラリーから、抗滑膜細胞抗体を用いた免疫スクリーニングによりクローニングされたタンパク質であり、小胞体において不良タンパク質を分解し、ERストレスを軽減する機能を担うE3ユビキチンリガーゼである(非特許文献1)。シノビオリンを過剰に発現させたトランスジェニックマウスでは、関節において滑膜の増生、骨、軟骨破壊が認められ、RAと酷似した症状を示した。逆に、シノビオリンを欠損させたヘテロKOマウスはコラーゲン誘導関節炎の惹起に対して抵抗性を示した。このことから、従来の免疫亢進だけでなく、滑膜細胞でのシノビオリンの亢進自体がRAの成因であるとの説が提唱され、シノビオリンの発現や酵素活性の阻害による新規なRA治療戦略が模索されている。
ヒトシノビオリン遺伝子のプロモーター領域は同定されており(特許文献1、非特許文献2)、該プロモーターへの転写因子の結合を阻害するデコイ核酸を用いた(即ち、シノビオリンプロモーターを治療ターゲットとする)RA治療が提案されている(特許文献2)。しかしながら、シノビオリンプロモーター自体をRA治療や他の治療用途に利用した先行例は皆無である。
国際公開第2005/019456号パンフレット 国際公開第2005/093067号パンフレット
Amano, T. et al., Gene Dev., 17: 2436-49 (2003) Tsuchimochi, K. et al., Mol. Cell. Biol., 25(16): 7344-56 (2005)
本発明の目的は、より治療効果が高く安全な関節リウマチの治療薬を提供することである。また、本発明の別の目的は、シノビオリンプロモーター自体を用いた遺伝子治療薬を提供することである。
本発明者は、新しいがん治療戦略として、「多因子で癌特異化する増殖制御型アデノウイルスベクター(m-CRA)」の作製法を開発し(Nagano et al. Gene Ther 2005)、さらにがん特異的に発現するSurvivin遺伝子のプロモーターを搭載したm-CRA(Survivn反応性m-CRA)を開発し、該m-CRAがRASC特異的に増殖してがん細胞を死滅させることを確認し、m-CRAが有望ながん治療薬となることを実証した(Kamizono J. et al., Cancer Res, 2005)。即ち、m-CRAの治療原理は、「標的細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーター活性を利用してウイルスを標的細胞のみで増殖させ、該細胞を特異的に殺傷する、該細胞から放出されたウイルスは周辺の標的細胞に感染し、前記サイクルを繰り返すことにより、病巣内のすべての標的細胞を特異的に殺傷することができる」というものである。本発明者らは、かかる原理に基づけば、本技術はがんの治療薬に留まらず、「特定の細胞が異常増殖することが疾患の主因となっている」ような他の難病の治療薬としても応用可能であろうと発想し、「滑膜細胞の異常増殖」が病因である関節リウマチに、m-CRAによる遺伝子治療を適用することを試みた。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、シノビオリン遺伝子プロモーターでウイルスの複製に必要な遺伝子の発現調節を行うm-CRA(シノビオリン反応性m-CRA)を用いると、実際に異常増殖する滑膜細胞に特異的に細胞死を誘導することを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は:
[1]細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合したシノビオリンプロモーターを含む発現カセット;
[2]上記[1]記載の発現カセットを含むベクター;
[3]ベクターがウイルスベクターである、上記[2]記載のベクター;
[4]更に、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがシノビオリンプロモーターまたはシノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターで置換されていることを特徴とする、上記[3]記載のウイルスベクター;
[5]少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、またはE1BΔ55Kである、上記[4]記載のウイルスベクター;
[6]シノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターが、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターである、上記[4]記載のウイルスベクター;
[7]哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターが、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)である、上記[6]記載のウイルスベクター;
[8]少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがシノビオリンプロモーターで置換されていることを特徴とするウイルスベクター;
[9]更に、少なくとも1つの他のウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがシノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターで置換されていることを特徴とする、上記[8]に記載のウイルスベクター;
[10]少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、およびE1BΔ55Kから選択される因子である、上記[8]または[9]記載のウイルスベクター;
[11]更に、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合した、シノビオリンプロモーターまたはシノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターを含む発現カセットを包含する、上記[8]〜[10]のいずれかに記載のウイルスベクター;
[12]シノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターが、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターである、[9]または[11]記載のウイルスベクター;
[13]哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターが、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)である、上記[12]に記載のウイルスベクター;
[14]ウイルスベクターが、細胞溶解性ウイルスベクターである、上記[4]〜[13]のいずれかに記載のウイルスベクター;
[15]細胞溶解性ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、上記[14]記載のウイルスベクター;
[16]上記[2]〜[15]のいずれかに記載のベクターを含有する、滑膜細胞の増殖阻害剤;
[17]関節リウマチの治療用である、上記[16]記載の剤;
[18]シノビオリンプロモーターを含むベクターを含有する、滑膜細胞の異常増殖の診断剤;および
[19]関節リウマチの診断用である、上記[18]記載の剤
を提供する。
本発明によれば、滑膜細胞の異常増殖を効果的に抑制することができ、関節リウマチなどの該異常増殖が関与する疾患の治療が可能になる。
シノビオリン反応性CRAの作製に必要なプラスミドの構造を示す模式図である。 シノビオリン反応性CRAの用量依存的な関節リウマチ滑膜細胞(RASC)殺傷効果を示す図である。上図は、シノビオリン反応性CRA感染72時間後のRASCの顕微鏡像を示し、下図は、Mock感染RASCの細胞数に対する各MOIでシノビオリン反応性CRAに感染させたRASCの細胞数の比を示すグラフである。 シノビオリン反応性CRAのRASCおよび正常滑膜細胞(Normal SC)殺傷効果(図3A)、並びに各細胞におけるウイルス遺伝子(E1Aおよびファイバー)の発現(図3B)を示す図である。
本発明は、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合したシノビオリンプロモーターを含む発現カセット、および当該発現カセットを有するベクターに関する。当該ベクターは、シノビオリンプロモーターが異常増殖する滑膜細胞で特異的な高プロモーター活性を発揮することに基づき、該滑膜細胞で選択的に細胞毒性因子または治療因子を産生させることができる(本発明の第一のベクター)。このうち、好ましい実施態様においては、細胞毒性因子としてウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子を搭載するウイルスベクターが用いられる。当該ウイルスベクター(本発明の第二ベクター)は、異常増殖する滑膜細胞で特異的に増殖してこれを溶解することにより、該滑膜細胞選択的に細胞毒性(細胞障害性)を発揮する。すなわち、本発明の第二のベクターは、本発明の第一のベクターの一実施態様として捉えることができるが、標的疾患細胞(滑膜細胞)に対する作用機序が、非ウイルスベクターを含む非増殖型ベクターと大きく異なるので、以下、まず広義の本発明のベクターである本発明の第一のベクターについて説明した後、別途、狭義の本発明のベクターである本発明の第二のベクターについて詳細に説明することとする。
1.本発明の第一のベクター
(1)シノビオリンプロモーター
ヒトおよびマウスのシノビオリン遺伝子のプロモーター領域は同定されており(GenBank accession Nos. DD137763.1およびDD137762.1)、マウスシノビオリンプロモーターの下流にレポーター遺伝子や選択マーカー遺伝子を挿入した、プロモーター機能の解析のためのプラスミドベクターや、KOマウス作製のためのターゲッティングベクターは報告されている。しかし、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターをシノビオリンプロモーターで置換したウイルスベクターや、細胞毒性に関与したり、治療活性(即ち、滑膜細胞の増殖抑制作用および/またはRA治療活性)を有するタンパク質やRNAをコードする核酸がシノビオリンプロモーターと機能的に連結されているベクター、ならびに、これらのベクターのRA治療効果については報告が無かった。また、マーカー遺伝子をシノビオリンプロモーターと機能的に連結したベクターを利用したRAの診断用途は報告されていない。特に、RA滑膜細胞(RASC)でのシノビオリンの発現亢進に着目して、シノビオリン依存的にウイルス増殖を引き起こしRASCを特異的に殺傷するという、RA特異的な増殖制御型ウイルスの作製のためにシノビオリンを用いた例は皆無である。
内因性シノビオリンはRASCで高発現しているが、正常細胞にもユビキタスに発現しており、特に分泌能力の高い細胞(例:膵臓、精巣、脾臓、神経細胞など)で相対的に高発現しているとの報告がある。しかしながら、本発明のベクターに搭載され、外因的に導入されたシノビオリンプロモーターは、RASCなどの標的疾患細胞で正常細胞よりも優位に下流に連結された遺伝子の発現を駆動する(例えば、図3参照)。このようなシノビオリンプロモーターの高度な特異性は、内因的なシノビオリンの発現パターンからは予測不可能なものである。尚、本明細書において「特異的」であるとは、正常細胞で全く転写活性を示さない場合に限定されるわけではなく、治療上許容される範囲で正常細胞においても遺伝子発現を駆動する場合も包含される。
本発明のベクターに用いられるシノビオリンプロモーターは、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)由来のシノビオリン遺伝子のプロモーターであれば特に制限はないが、治療対象である哺乳動物に応じて、それと同種のシノビオリンプロモーターを用いることが好ましい。本発明は、好ましくはヒトに対する医薬の提供を目的とするので、本発明のベクターに用いられるシノビオリンプロモーターは、好ましくはヒトシノビオリン遺伝子のプロモーターである。
シノビオリンプロモーターのヌクレオチド配列長は、RASCなどの異常増殖する滑膜細胞に特異的で、かつ目的の疾患に対して十分な治療活性を発揮する程度に、下流に連結された遺伝子の転写を活性化し得る限り特に制限されない。例えば、ヒトシノビオリンプロモーターの場合、転写開始点を+1として-94〜-1位のヌクレオチド配列[配列番号1に示されるヌクレオチド配列(WO 2005/019456において配列番号2として開示されるヌクレオチド配列; GenBankにaccession No. DD137763.1として登録されている)中2105〜2198番目のヌクレオチド配列]を含んでいれば、目的の特異性および転写活性が得られうる。シノビオリンプロモーターの当該領域は哺乳動物間で高度に保存されており、例えばヒト−マウス間では97.8%の同一性を有する。従って、好ましくは、本発明のベクターに用いられるシノビオリンプロモーターは、配列番号1または配列番号2(WO 2005/019456において配列番号1として開示されるヌクレオチド配列; GenBankにaccession No. DD137762.1として登録されている)に示されるヌクレオチド配列中少なくとも2105〜2198番目のヌクレオチド配列を含む。また、ヒトシノビオリンプロモーターの転写開始点を+1として-684〜-515位のヌクレオチド配列(配列番号1に示されるヌクレオチド配列中1515〜1684番目のヌクレオチド配列)も哺乳動物間で高度に保存されており、例えばヒト−マウス間では81.9%の同一性を有する。従って、本発明のベクターに用いられる好ましいシノビオリンプロモーターは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列中1515〜1684番目のヌクレオチド配列、あるいは当該部分ヌクレオチド配列に対応する、配列番号2に示されるヌクレオチド配列中の部分ヌクレオチド配列を含むことができる。さらに、シノビオリンプロモーターは、転写開始点より下流に位置する調節領域(例えば、第1イントロン中のエンハンサー配列)を含んでもよい。シノビオリンプロモーターのヌクレオチド配列長の上限も特に制限はないが、5’上流域の長さが大きくなりすぎると却ってプロモーターの転写活性や特異性に好ましくない影響を与える場合がある。例えば、ヒトシノビオリンプロモーターの場合、転写開始点を+1として-2055〜+845位のヌクレオチド配列(配列番号1に示されるヌクレオチド配列中144〜3043番目のヌクレオチド配列)であれば、目的の特異性および転写活性が得られうる。従って、好ましい一実施態様においては、本発明のベクターに用いられるシノビオリンプロモーターとして、配列番号1に示されるヌクレオチド配列中144〜3043番目のヌクレオチド配列、あるいは当該部分ヌクレオチド配列に対応する、配列番号2に示されるヌクレオチド配列中の部分ヌクレオチド配列を含む核酸が挙げられる。他の哺乳動物由来のシノビオリンプロモーターを用いる場合も、同様にして好ましい領域を選択することができる。例えば、ヒトまたはマウスのシノビオリンmRNAの配列情報をもとに目的の哺乳動物のゲノムDNAをBlast検索し、シノビオリン遺伝子の染色体上の位置を特定し、当該遺伝子の5’上流配列から、上記保存領域の配列を手掛かりにして、目的の特異性および転写活性を有するプロモーター断片を同定することができる。尚、配列番号2に示されるマウスシノビオリンプロモーター配列は、GenBankに登録されるマウス第19番染色体(NC_000085)のシノビオリン遺伝子のヌクレオチド配列と、上記2つの高度保存領域以外の領域で配列にコンフリクトがあるが、上記の教示に従えば、当業者は容易に目的の特異性および転写活性を有するマウスシノビオリンプロモーター断片を取得することができる。
シノビオリンプロモーターはまた、天然の哺乳動物由来シノビオリンプロモーターとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸であって、該天然プロモーターと実質的に同一の特性を有する核酸を包含する。「実質的に同一の特性」とは、RASCなどの標的疾患細胞特異的な遺伝子発現を駆動する性質を意味し、転写活性の程度は野生型プロモーターと同等(例えば、約0.5〜約2倍)であることが好ましいが、目的の疾患に対して十分な治療活性を発揮できる程度の遺伝子発現を駆動し得る限り、量的要素は異なっていてもよい。例えば、ヒトまたはマウスシノビオリンプロモーターの場合、配列番号1または2に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸が挙げられる。このような核酸としては、例えば、配列番号1または2に示されるヌクレオチド配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、特に好ましくは約97%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するヌクレオチド配列を含有する核酸などが挙げられる。本明細書におけるヌクレオチド配列の相同性は、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool) を用い、以下の条件 (期待値=10; ギャップを許す; フィルタリング=ON; マッチスコア=1; ミスマッチスコア=-3) にて計算することができる。
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning, 2nd ed. (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989) に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。ストリンジェントな条件としては、(1) 洗浄に低イオン強度及び高温、例えば、50℃で0.015 M 塩化ナトリウム/0.0015 M クエン酸ナトリウム/0.1% 硫酸ドデシルナトリウムを使用し、(2) ホルムアミドのような変性剤、例えば、0.1% ウシ血清アルブミン/0.1% フィコール/0.1% ポリビニルピロリドン/750 mM 塩化ナトリウム、75 mM クエン酸ナトリウムを含む50 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 6.5) とともに、50% (v/v) ホルムアミドを42℃で使用することを特徴とする反応条件が例示される。あるいは、ストリンジェントな条件は、50% ホルムアミド、5xSSC (0.75 M NaCl、0.075 M クエン酸ナトリウム)、50 mM リン酸ナトリウム (pH 6.8)、0.1% ピロ燐酸ナトリウム、5xデンハート溶液、超音波処理鮭精子DNA (50 mg/ml)、0.1% SDS、及び10% 硫酸デキストランを42℃で使用し、0.2xSSC及び50% ホルムアルデヒドで55℃で洗浄し、続いて55℃でEDTAを含有する0.1xSSCからなる高ストリンジェント洗浄を行うものであってもよい。当業者は、プローブ長等のファクターに応じて、ハイブリダイゼーション反応および/または洗浄時の温度、緩衝液のイオン強度等を適宜調節することにより、容易に所望のストリンジェンシーを実現することができる。
シノビオリンプロモーターは、ヒトまたは他の哺乳動物(例:サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)由来の細胞・組織から抽出したゲノムDNAより、公知のシノビオリン遺伝子プロモーター配列[例えば、GenBank accession Nos. DD137763.1(ヒト)およびDD137762.1(マウス)、あるいは、ヒト11番染色体(GenBank accession No. NC_000011)の11q13領域の配列(相補鎖)、マウス19番染色体(GenBank accession No. NC_000085)の19A領域の配列を参照]からなる核酸をプローブとして該プロモーター領域を含むゲノムDNAをクローニングし、DNA分解酵素、例えば、適当な制限酵素を用いて所望の部分プロモーター配列を含むDNA断片に切断、ゲル電気泳動で分離後、所望のバンドを回収してDNAを精製することにより調製することができる。あるいは、上記細胞の粗抽出液もしくはそこから単離したゲノムDNAを鋳型として、公知のシノビオリン遺伝子プロモーターの配列情報を基に合成したプライマーを用いたPCRにより、シノビオリンプロモーター部分配列を増幅、単離することもできる。シノビオリンプロモーターのヌクレオチド配列が未知の哺乳動物については、該動物のシノビオリンcDNA配列をクエリーとして該動物のゲノムDNAに対してBLAST検索を行うことにより、該動物のシノビオリンプロモーター領域のヌクレオチド配列を入手することができる。
また、シノビオリンプロモーターは、公知のシノビオリン遺伝子プロモーター配列(例えば、配列番号1または2で表されるヌクレオチド配列)を基に、そのヌクレオチド配列の全部または一部を含む核酸を、市販のDNA/RNA自動合成装置を用いて化学合成することによっても得ることができる。
(2)細胞毒性因子/治療因子
本発明のベクターに用いられる、シノビオリンプロモーターの制御下にある細胞毒性因子をコードする核酸は、例えば、該核酸が転写(および翻訳)された場合に、直接的もしくは間接的に、細胞に対して死、もしくは少なくとも増殖阻害をもたらす限り、いかなるタンパク質またはRNAをコードするものであってもよい。
また、本発明のベクターに用いられる、シノビオリンプロモーターの制御下にある治療因子をコードする核酸は、該遺伝子が転写(および翻訳)された場合に、細胞毒性作用以外の作用によって直接的もしくは間接的に標的疾患(滑膜細胞の異常増殖が関与する疾患)に対して治療効果をもたらす限り、いかなるタンパク質(もしくはRNA)をコードするものであってもよい。
細胞毒性因子としては、例えば、サイトカイン遺伝子(GM−CSF、IL−2、IL−4、IFNなど)、アポトーシス誘導遺伝子(Fasなど)、イオンチャネル(ナトリウムチャネルなど)の構成タンパク質をコードする遺伝子、プロドラッグを毒物に変換することによって細胞を傷害しうるタンパク質の遺伝子(自殺遺伝子)(HSV−チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼなど)等が挙げられるが、これらに限定されない。
治療因子としては、標的疾患が関節リウマチ(RA)の場合、例えば、炎症性サイトカイン(IL−1、IL−6、TNF−αなど)に対する抗体の遺伝子、炎症性サイトカインの可溶性レセプターをコードする遺伝子、炎症性サイトカイン遺伝子に対するアンチセンスRNAやsiRNAをコードする遺伝子、抗炎症性サイトカイン(IL−4、IL−10など)遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。
後述するとおり、本発明のベクターが増殖型ウイルスベクター(狭義の本発明のベクター)である場合、好ましくは、シノビオリンプロモーターの発現制御下におかれる細胞毒性因子として、該ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が挙げられる。上述のとおり、本明細書において、細胞毒性因子とは、直接的もしくは間接的に細胞に対して死、もしくは少なくとも増殖阻害をもたらす因子をいうので、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子もこれに包含される。
本発明のベクターに搭載される細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸は、1種類であってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の場合、2種以上の細胞毒性因子または2種以上の治療因子を用いてもよいし、1種以上の細胞毒性因子と1種以上の治療因子とを併用してもよい。また、2種以上の核酸が搭載される場合、少なくとも1種の核酸がシノビオリンプロモーターの制御下にあればよく、他の核酸の発現を制御するプロモーターは特に限定されない。しかしながら、後述の本発明の第二のベクター以外のベクター(非増殖型ベクター)を使用する場合、標的細胞以外への細胞毒性因子および/または治療因子の望ましくない影響を避けるために、ベクターに搭載される細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸は、いずれも標的疾患細胞(例えば、RASC)特異的な発現を可能にするプロモーターの制御下におかれることが望ましい。そのようなプロモーターとしては、シノビオリンプロモーターの他、例えば標的疾患が関節リウマチ(RA)の場合、炎症性サイトカイン(IL−1、IL−6、TNF−αなど)およびそのレセプター遺伝子のプロモーター、CTGFプロモーター、VEGFプロモーター、TGF−βプロモーター、E2Fプロモーター、Tertプロモーター、Survivinプロモーターなどの標的疾患細胞で特異的に発現し得る遺伝子のプロモーター、メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターなどの誘導性プロモーター等を用いることができる。メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に標的疾患細胞の位置に局所投与することにより、任意の時期に標的疾患細胞特異的に細胞毒性因子または治療因子の発現を誘導することができる。あるいはPLoS One. 2010 Jun 25;5(6):e11310.などの文献に記載されたような、関節リウマチ(RA)の滑膜細胞で特異的に高発現する遺伝子や、治療反応性の良し悪しで滑膜細胞で発現に違いがある遺伝子(同文献のSupplementary Table 1)などのプロモーターや発現制御ユニットも使用することができる。
(3)他のベクター要素
細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸は、それを産生する細胞・組織から自体公知の方法によりcDNAとして単離することができ、シノビオリンプロモーターの下流に機能的に連結することができる。シノビオリンプロモーターの制御下にある細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸を含む発現カセットは、好ましくは該核酸の下流に適当なポリアデニレーション配列を含む。
本発明のベクターは、宿主細胞で自律増幅するための複製起点や、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子 (テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等) をさらに含有することもできる。
(4)ベクターの種類
本発明のベクターは、ウイルスベクターであっても非ウイルスベクターであってもよいが、好ましくはアデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターである。アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能であり、導入遺伝子の宿主染色体への組込みが極めて稀である等の利点を有する。特に、パッケージングシグナル (ψ) 以外のアデノウイルスゲノムのほぼ全長を導入遺伝子に置換したgutted (gutless) ベクターの開発によって、第一世代ベクターにおける免疫原性の問題が解消され、それに伴い導入遺伝子発現の長期持続性が実現された。同様に、アデノ随伴ウイルスも、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、動物実験で生体内投与により導入遺伝子の発現が長期にわたって持続することが知られているので、本発明におけるウイルスベクターとして好ましい。
一方、本発明のベクターが非ウイルスベクターの場合、シノビオリンプロモーターの制御下にある治療因子をコードする核酸を含む発現カセットを含む。ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド (例: pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド (例: pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド (例: pSH19、pSH15)、動物細胞発現プラスミド (例: pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo) などを用いることができる。ここで「治療因子」とは上記と同義であり、標的疾患が関節リウマチ(RA)であれば、上記した各種RA治療因子を例示できる。
本発明の非ウイルスベクターは、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素 (dhfr) 遺伝子 [メソトレキセート (MTX) 耐性]、アンピシリン耐性(Ampr) 遺伝子、ネオマイシン耐性 (Neor) 遺伝子 (G418耐性) 等が挙げられる。
非ウイルスベクターを使用する場合、該ベクターの導入は、ポリL-リジン-核酸複合体などの高分子キャリアーを用いるか、リポソームに被包して行うことができる。リポソームはリン脂質からなる数10〜数100 nmの粒径のカプセルで、その内部にシノビオリンプロモーターの制御下にある治療遺伝子を含むプラスミド等のベクターを封入できる。あるいは、パーティクルガン法を用いてベクターを標的細胞に直接導入することもできる。
2.本発明の第二のベクター(増殖型ウイルスベクター)
好ましい実施態様において、本発明は、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがシノビオリンプロモーターで置換されていることを特徴とする標的疾患特異的増殖型ウイルスベクター(conditionally replicating virus:CRV)に関する(以下、「シノビオリンプロモーター依存性CRV」ともいう)。シノビオリンプロモーター依存性CRVは、関節リウマチの滑膜細胞(RASC)などの標的疾患細胞において特異的に(正常細胞よりも優位に)増殖することを特徴とする。該ウイルスベクターは、RASCなどの標的疾患細胞で特異的にウイルスの増殖を引き起こすだけでなく、増幅された結果、該標的疾患細胞を殺傷(溶解)する。さらに、溶解した細胞から放出されたウイルスは周辺のベクター未導入の疾患細胞に感染し、このステップが繰り返されることで、最終的には病巣内のすべての疾患細胞に本発明のベクターが導入され、治療効果を得ることができる。
本発明のシノビオリンプロモーター依存性CRVは、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸を、シノビオリンプロモーターの制御下におくことにより構築することができる。「ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子」とは、ウイルスの構造タンパク質などの、ウイルスが自己複製を行うために必須のタンパク質、またはウイルスがアッセンブリを行うために必須のタンパク質のいずれかを意味する。より具体的には、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸は、用いるウイルス種によって異なるが、例えばアデノウイルスの場合、感染初期から転写が開始されて後のウイルスタンパク質の転写制御に働く初期遺伝子(Early gene)であるE1A、E1B、E2およびE4、または後述のRb結合領域欠損型E1A(E1AΔ24)、p53結合領域欠損型E1B(E1BΔ55K)などが挙げられる。特にE1Aは、アデノウイルスの感染後最初に転写され、E1Aの発現がなければその後のウイルス複製が起こらないことより、シノビオリンプロモーターで関節リウマチ(RA)などの標的疾患特異的にウイルス増殖制御を行なう目的に非常に適している遺伝子であるが、ウイルスの複製に必須のその他の初期遺伝子を制御することでも同様の効果を得ることができる。また、アデノウイルスの構造遺伝子をコードする核酸の後期遺伝子(Late gene)のL1、L2、L3、L4およびL5などは、感染後の細胞分裂が起こる後期に転写されて、ウイルス構造を構成するタンパク質であるが、これらの後期遺伝子をシノビオリンプロモーターで発現制御してもRAなどの標的疾患特異的にウイルス増殖制御を行なうことができる。このように、本発明のシノビオリンプロモーター依存性増殖型ウイルスベクターにおいてシノビオリンプロモーターで発現制御されるウイルスタンパク質をコードする遺伝子は、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須のウイルス遺伝子であれば、いずれのものでもよい。かかるシノビオリンプロモーター依存性増殖型ウイルスベクターは、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸の内因性プロモーターをシノビオリンプロモーターで置換することにより得ることができる。好ましくは、本発明の増殖型アデノウイルスベクターにおいて、E1Aおよび/またはE1Bをコードする核酸、より好ましくは少なくともE1Aをコードする核酸がシノビオリンプロモーターの制御下におかれる。
細胞内に導入されたシノビオリンプロモーター依存性CRVは、シノビオリンプロモーターが活性化されない環境下(例えば、正常細胞)では増殖できないため、当該細胞は傷害を受けない。一方、シノビオリンプロモーター依存性CRVが、シノビオリンプロモーターが活性化される環境(例えば、標的疾患細胞)内に侵入すると、そこでウイルスが増殖し、ウイルスタンパク質の細胞毒性により細胞が傷害される。溶解した細胞から放出されたウイルスは周辺のベクター未導入の細胞に次々と感染し、同様のステップが繰り返される。こうして、最終的には病巣内のすべての疾患細胞に本発明の増殖型ウイルスベクターが導入され得る。
ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸の少なくとも1つがシノビオリンプロモーターの制御下におかれていれば、ウイルスの増殖はシノビオリンプロモーターが活性化される環境下に限定されるので、他のウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸は任意の外来性プロモーターの制御下に置かれてよい。シノビオリンプロモーターと異なる外来性プロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス (CMV) 由来プロモーター (例: CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 由来プロモーター (例: HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス (RSV) 由来プロモーター (例: RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス (MMTV) 由来プロモーター (例: MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス (MoMLV) 由来プロモーター(例: MoMLV LTR)、単純ヘルペスウイルス (HSV) 由来プロモーター (例: HSVチミジンキナーゼ (TK) プロモーター)、SV40由来プロモーター (例: SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV) 由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス (AAV) 由来プロモーター (例: AAV p5プロモーター)、アデノウイルス (AdV) 由来プロモーター(Ad2またはAd5主要後期プロモーター) など、並びにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質の遺伝子プロモーターなどの、哺乳動物において恒常的に発現し得るプロモーターを用いることができる。あるいは、標的疾患細胞で特異的に発現し得る遺伝子のプロモーターや誘導性プロモーターを用いることもできる。標的疾患細胞で特異的に発現し得る遺伝子のプロモーターとしては、例えば、標的疾患が関節リウマチ(RA)の場合、炎症性サイトカイン(IL−1、IL−6、TNF−αなど)およびそのレセプター遺伝子のプロモーター、CTGFプロモーター、VEGFプロモーター、TGF−βプロモーター、E2Fプロモーター、Tertプロモーター、Survivinプロモーターなどが挙げられる。また、誘導性プロモーターとしては、例えば、メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターなどを用いることができる。メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターを用いた場合、上記と同様の方法により、標的疾患細胞特異的にウイルスタンパク質の発現を誘導することができる。あるいはPLoS One. 2010 Jun 25;5(6):e11310.などの文献に記載されたような、関節リウマチ(RA)の滑膜細胞で特異的に高発現する遺伝子(同文献のSupplementary Table 1)や、治療反応性の良し悪しで滑膜細胞で発現に違いがある遺伝子などのプロモーターや発現制御ユニットも使用することができる。
また、2以上のウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸をシノビオリンプロモーターの制御下におく場合、用いるプロモーターは同一のプロモーターであってもよいし、別個のものであってもよい。例えば、IRESや口蹄疫ウイルス由来の2A配列等を介して2以上のウイルスタンパク質を1つのシノビオリンプロモーターの制御下におくこともできる。また、シノビオリンプロモーター依存性CRVが、更に細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合したシノビオリンプロモーターを含む発現カセットを備えていてもよい。
本発明のウイルスベクターは、ウイルスタンパク質の、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的疾患細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域を欠損させてもよい。例えば、標的疾患が関節リウマチの場合、正常細胞でのウイルス増殖のためには、細胞周期を回すためにRbやp53を不活性化することが必要であるが、異常増殖中のRASCではすでに細胞周期が回っている状態にあるので、RASCでのアデノウイルスの増殖には、E1AのRb結合領域やE1Bのp53結合領域は必要ではない。したがって、例えばアデノウイルスの場合、E1A24KDaの領域を欠損させ(E1AΔ24)、E1B55KDaの領域を欠損させ(E1BΔ55)、またはE1B19KDaの領域を欠損させる(E1BΔ19)ことにより、RASC特異的なウイルスの増殖が可能になる。特に、p53はシノビオリンの基質であるため、シノビオリンを高発現する細胞環境においてはp53タンパク質の酵素分解が亢進していると考えられ、E1Bのp53結合領域の欠損はウイルス増殖におけるRASC特異性をより高め得る。このタイプの増殖型ウイルスベクターの場合、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードするすべての核酸が、シノビオリンプロモーターなどのRASC特異的なプロモーターの制御下におかれていなくても、RASC特異的な増殖を起こすことができる。
したがって、本発明はまた、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードするいずれの核酸もシノビオリンプロモーターの制御下になく、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的疾患細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域(例えば、E1A24KDaの領域、E1B55KDaの領域、および/またはE1B19KDaの領域)が欠損したウイルスベクターであって、シノビオリンプロモーターに細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸が機能的に連結したベクターをも包含する。もちろん、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的疾患細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域を欠損させたウイルスタンパク質をコードする核酸が、シノビオリンプロモーターの制御下におかれてもよいし、該欠損ウイルスタンパク質以外のウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のいずれかが、シノビオリンプロモーターの制御下におかれてもよい。これらの場合は、本発明の増殖型ウイルスベクターは、必ずしもシノビオリンプロモーターの制御下にある治療遺伝子をさらに含む必要はない。
本発明の増殖型ウイルスベクターは、上記1.の(3)において本発明の第一ベクターについて記載したのと同様の他のベクター要素を含むことができる。
本発明の特に好ましい一実施形態では、本発明者らが開発した多因子がん特異的増殖制御型組換えアデノウイルス系(m−CRA;特開2005−046101号及び国際公開第WO2005/012536号)の一部として、シノビオリンプロモーターを用いる。m−CRAの構築に好適に用いられるプラスミドベクターの例を、図1に提示する。図中で、プラスミドベクターP1のうち、プロモーターAおよび/またはプロモーターBとしてシノビオリンプロモーターを用い、プラスミドベクターP2のプロモーターC(治療遺伝子の発現を制御する)として、シノビオリンプロモーターもしくは別の標的組織特異的プロモーターまたは構成的プロモーター等の他の任意のプロモーターを用いることができる。標的組織特異的プロモーターとしては、標的組織がRASCであれば、RASCで特異的に発現する上記の各種プロモーターを例示できる。プロモーターCに制御される治療遺伝子としては、標的疾患が関節リウマチであれば、上記した各種関節リウマチ治療遺伝子を例示できる。
後述の実施例に示した具体的な実施形態では、シノビオリンプロモーターと機能的に連結したE1A遺伝子(24KDa領域を欠損していてもよい)、及び構成的プロモーター(CMVプロモーターなど)と機能的に連結したE1B遺伝子(19KDa又は55KDa領域を欠損していてもよい)を含むプラスミドベクターP1、構成的プロモーター(CMVプロモーターなど)と機能的に連結されたレポーター遺伝子(治療遺伝子のモデル系として)を含むプラスミドベクターP2、並びにE1領域を欠失するアデノウイルスゲノム(ファイバー遺伝子内に標的細胞特異的な変異を有していてもよい)を含むバックボーンプラスミドP3が提供される。これら3種のプラスミドを適宜組み合わせ、CreリコンビナーゼLoxPシステムを用いてプラスミド融合と、各プラスミドに搭載された薬剤耐性遺伝子とoriを利用した目的プラスミドの選択により、シノビオリンプロモーター−E1A発現カセット、構成的プロモーター−E1B発現カセットおよび構成的プロモーター−細胞毒性因子または治療因子発現カセットを搭載した、RASC特異的増殖型アデノウイルス(CRA)ベクタープラスミドを作製する。続いて該ベクターを用いて、E1Aを相補する細胞株(例:293細胞)にトランスフェクションすることにより、CRAベクターを作製することができる。E1A遺伝子、E1Bの発現を制御するプロモーター、治療遺伝子の発現を制御するプロモーター、治療遺伝子、さらにはバックボーンのファイバー遺伝子を他の要素に置換することにより、さらに多因子による高度な増殖および発現制御が可能となる。
3.本発明のベクターの投与形態
上記本発明の第一および第二のベクターは、RASCなどの標的疾患細胞で特異的に細胞毒性因子(ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子を含む)および/または治療因子を発現させることができるので、必要に応じて薬理学的に許容し得る担体とともに混合して注射剤などの種々の製剤形態とした後に、滑膜細胞の増殖阻害剤、あるいは該標的疾患、好ましくは関節リウマチ(RA)をはじめとする滑膜細胞の異常増殖が関与する疾患の治療薬として用いることができる。ここで薬理学的に許容し得る担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤; 液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
賦形剤の好適な例としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
結合剤の好適な例としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
崩壊剤の好適な例としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
溶剤の好適な例としては、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
懸濁化剤の好適な例としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
着色剤の好適な例としては、水溶性食用タール色素(例: 食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素)、水不溶性レーキ色素 (例: 前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素 (例: β-カロチン、クロロフィル、ベンガラなど) などが挙げられる。
甘味剤の好適な例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。
本発明のベクターを含有する滑膜細胞の増殖阻害剤・疾患治療剤の投与は、治療対象動物自身の標的細胞 (あるいは治療対象動物と同種異形もしくは異種の動物における細胞) を体外に取り出し、培養してから導入を行って体内に戻す (あるいは移植する) ex vivo法と、投与対象の体内に直接ベクターを投与して導入を行うin vivo法のいずれかで行われるが、in vivo法で行うことが好ましい。ex vivo法の場合、標的細胞へのベクターの導入は、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法等により行うことができる。また、in vivo法の場合、該製剤の投与は、例えば、注射、カテーテル、バルーンカテーテル、局所注入、本発明のベクターを組み込んだインプラントの病変部への移植などにより行うことができる。
本発明のベクターを含有する疾患治療剤の投与量は、ベクターの種類、標的細胞におけるプロモーター活性、治療遺伝子の種類、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、例えば、ウイルスベクターとしてアデノウイルスを用いる場合、従来のがん遺伝子治療の臨床試験において、腫瘍結節内注入の場合にウイルス粒子 (particle) で1x1010, 1x1011, 1x1012粒子(例えば文献のMolecular Therapy vol. 18 no. 2, 429-434 feb. 2010) を用いて安全性が確認されているため、同量が投与の目安となる。例えば、成人1回あたり約1x108 〜 1x1014粒子、好ましくは約1x1010 〜 1x1012 粒子である。ただし、増殖型ウイルスベクターを用いる場合、最初に全部の標的疾患細胞にベクターを導入する必要は無く、実際にはこれ以下の量で十分であると考えられる。感染多重度(MOI)としては、50〜500、好ましくは100〜500、より好ましくは200〜500の範囲で適宜選択することができる。
一方、非ウイルスベクターをリポソームに被包して用いる場合には、体重約4 kgのカニクイザルを用いた臨床研究では666 μgのDNAを静脈投与して安全性が確認されているため同量が目安となる。例えば成人1回投与量は約2〜約10 mgで、好ましくは約5〜約8 mgである。
本発明はまた、シノビオリンプロモーターを含むベクターを含有する滑膜細胞の異常増殖、並びに当該異常増殖が関与する疾患、好ましくは関節リウマチの診断剤を提供する。本発明の診断剤は、外因的に導入されたシノビオリンプロモーターが、増殖中の滑膜細胞特異的に、即ち、正常細胞よりも優位に下流に機能的に連結された遺伝子の発現を駆動し得る特性に基づき、該遺伝子の発現レベルを指標に滑膜細胞の異常増殖を検出するというものである。シノビオリンプロモーターの下流に機能的に連結される遺伝子としては、該遺伝子の発現が容易にモニタリングできるものであれば特に制限はなく、例えば、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子、β−ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子などの各種レポーター遺伝子が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、上記滑膜細胞の増殖阻害剤・疾患治療剤として用いられる増殖型ウイルスベクターを使用して、細胞傷害性を指標として遺伝子発現をモニタリングすることもできる。
例えば、被験者の、滑膜細胞の異常増殖あるいはそれが関与する疾患が疑われる病変部から採取した細胞に、シノビオリンプロモーターを含むベクターを導入し、該細胞におけるレポーター遺伝子の発現や該細胞の溶解性を検出することにより、好ましくは対照正常細胞に該ベクターを導入した場合と比較することにより、正常細胞よりも有意にレポーター遺伝子の発現レベルや細胞の溶解性が高い場合に、該被験者は、滑膜細胞が異常増殖を起こしている可能性が高い、あるいは当該異常増殖が関与する疾患を発症している可能性が高いと診断することができる。
本発明の診断剤で診断可能な疾患としては関節リウマチ等、滑膜の増殖や関節の炎症が病気と関連しているものが挙げられるが、これらに限定されない。より好ましくは関節リウマチなどである。
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
1.アデノウルスベクターの作製
1.1 シノビオリンプロモーター
pBSK/SyL3.65wt(聖マリアンナ大学中島利博博士より供与)をNcoI/XhoIにて制限酵素消化し、シノビオリンプロモーターを含む精製DNA断片を切り出した後に、Klenowフラグメントにて平滑末端とした。
1.2 シャトルベクターpΔPr−wtE1A−CMV−E1BΔ55KD
pHM5(スタンフォード大学、Mark A.Kay博士より供与;Human Gene Therapy,1999,10:2013−2017)にアデノウイルスの野生型E1A領域(wtE1A)、CMVプロモーター、55kDa領域欠損型E1B領域(E1BΔ55KD)、及びウシ成長因子ポリアデニレーションシグナル(BGHp)が組み込まれたpΔPr−wtE1A−CMV−E1BΔ55KDは、以下のように作製した。
アデノウイルスゲノムのE1A領域のコード領域及びポリアデニレーション領域(wtE1A)は、pXC1(Microbix)を鋳型としてプライマー(センス:5’−TCAGTCGCATGCGCGGCCGCTACGTAACGCGTTACCCGGTGAGTTCCTCAAGAGGC−3’(配列番号3);アンチセンス:5’−GGACGTCCTAGGGTCGACGCCCCATTTAACACGCCATGCAAG−3’(配列番号4))を用いてPCRにより増幅した。55kDa領域を欠損したE1Bのコード領域及びポリアデニレーション領域(E1BΔ55KD)は、Gene Ther. 2005 Sep;12(18):1385-93.に記載のように増幅してΔPr−wtE1Aに挿入し、pΔPr−wtE1A−ΔPr−E1BΔ55KDを得た。
ウシ成長因子ポリアデニレーションシグナル(BGHp)は、pRc/RSV(Invitrogen)を鋳型としてプライマー(センス:5’−TCAGTCGGATCCGCATGCATCTAGAGCTCGCTGATC−3’(配列番号5);アンチセンス:5’−GGACGTGAATTCCATAACTTCGTATAATGTATGCTATATGAGGTAATTCAGAAGCCATAGAGCCCACCGCA−3’(配列番号6))を用いてPCRにより増幅し、適当なプラスミドベクターにクローニングした。BamHI/EcoRI制限部位を用いてBGHp断片を得て、pΔPr−wtE1A−ΔPr−E1BΔ55KDに挿入した。
さらに、CMVプロモーター断片をpRc/CMV(Invitrogen)からGene Ther. 2005 Sep;12(18):1385-93.に記載のように増幅して、上記のpΔPr−wtE1A−ΔPr−E1BΔ55KDに挿入し、pΔPr−wtE1A−CMV−E1BΔ55KDを得た。
1.3 増殖制御型プラスミドベクター
上記1.1で得たシノビオリンプロモーター配列(配列番号2)をpΔPr−wtE1A−CMV−E1BΔ55KDのE1Aの上流にそれぞれ挿入し、pSynoviolin−wtE1A−CMV−E1BΔ55KDを得た。
1.4 RASC特異的増殖制御型アデノウイルス(CRA)ベクタープラスミド
上記1.3で得られた増殖制御型プラスミドからI−CeuI/PI−SceI制限部位を用いて切り出した断片を、pUni/CMV−EGFP(Invitrogen)からの配列(CMVプロモーターに機能的に連結されたEGFPコード配列)とともに、アデノウイルスゲノム配列を担持するプラスミドpAdHM4(スタンフォード大学、Mark A.Kay博士より供与)に組み入れた。
こうして得られた増殖制御型アデノウイルスベクタープラスミド、pAdSynoviolin−wtE1A−CMV−E1BΔ55KD/CMV−EGFPは、アデノウイルスゲノムのE1及びE3領域以外の部分と、シノビオリンプロモーターと機能的に連結されたE1A領域、CMVプロモーターと機能的に連結されたE1B領域、及びCMVプロモーターに機能的に連結されたEGFPコード配列を有する。
1.5 293細胞でのアデノウイルス作製
上記1.4で得られた増殖制御型アデノウイルスベクタープラスミドをヒト胎児腎細胞由来の293細胞にトランスフェクションした。293細胞の培養には、10%FBS添加DMEMを用いた。トランスフェクションは、リン酸カルシウム法(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,Inc.,9.1.4〜9.1.9,1999)にしたがい行った。具体的には、1.5mLのHEPES緩衝生理食塩液(pH7.1)に上記アデノウイルスゲノムを含む直鎖状DNA20μg、サケ精子DNA(SIGMA)20μgの合計40μgのDNAを加え、2.5M CaCl 75μLを撹拌しながら滴下し、室温で30分間静置した後、培養液を撹拌しながら293細胞に滴下した。COインキュベーター中で細胞を4時間半静置した後、10%FBS添加α−MEMと1%アガロースゲル溶液を等量混合した溶液を培養ディッシュに重層し、固形培地中で293細胞の培養を続けた。アデノウイルスが産生されると、293細胞は細胞変性し、プラークを形成する。
トランスフェクション後1週間程度でプラークが出現したので、固形培地ごとプラークを回収し、培地に懸濁して−80℃で保存した(ウイルスシード液)。
次に、得られたウイルスシード液に対して凍結・融解を3回繰り返して、細胞からウイルスを放出させ、これを用いて培養中の293細胞に感染させた。変性細胞を培地ごと回収し、これを新たな293細胞に感染させた。徐々にスケールを拡大して、最終的には15cmディッシュ40枚の293細胞に感染させ、変性細胞を培地ごと回収した。細胞変性後、培地ごと細胞を回収して、1,000rpmで遠心し、上清を除去して24mLのリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に懸濁し、−80℃で保存した。
この細胞浮遊液に対して凍結・融解を3回繰り返し、1,000rpmで遠心して上清を回収し、塩化セシウム密度勾配遠心を、まず10℃、35,000rpm、1時間実施し、続いて10℃、35,000rpm、18時間実施し、ウイルスが含まれるバンドを回収した。得られたウイルス液を、脱塩カラムでさらに精製した。
得られたウイルスは、AdSynoviolin−wtE1A−CMV−E1BΔ55KD/CMV−EGFP(Synoviolin−CRA)である。
2.細胞への感染・細胞数の測定
RA患者より採取したリウマチ滑膜組織または半月板損傷患者より得た正常滑膜組織よりそれぞれ滑膜細胞を初代培養し、10継代程度を行い均一となった細胞を用いた。感染前日に、リウマチ滑膜細胞(RASC)および正常滑膜細胞1000個/wellとなるように96 wellプレートに播種し、Synoviolin−CRAを異なるMOIにて感染させた。感染72時間後に、細胞の形態を倒立顕微鏡下にて観察した。また、細胞数をCell counting kit(WST−8)にて測定した。
2.1 Synoviolin−CRAの量依存的RASC殺傷効果
RASCにSynoviolin−CRAを種々のMOI(0〜500)で感染させた結果を図2に示す。図2Aは、左からMock感染(None)、MOI1、MOI5およびMOI10で感染させたRASCの形態を示す顕微鏡像であり、図2Bは、Mock感染(MOI0)させたRASCの細胞数に対する各MOIで感染させたRASCの細胞数を示している。Synoviolin−CRAは、RASCをウイルス量依存的に殺傷した。
2.2 Synoviolin−CRAのRASC特異性
RASCおよび正常滑膜細胞にSynoviolin−CRAを種々のMOI(0〜500)で感染させた結果を図3Aに示す。RASCでは、ウイルス量依存的に著明な細胞死が誘導された。これに対して正常滑膜細胞では、ウイルス量依存的な細胞死がみられなかった。しかも、さらに驚くべきことに、非増殖型のウイルスですら、ほとんどの正常な細胞種に著明な細胞死を誘導する高力価(MOI500)で感染させた場合でも、約半分ないし2/3の正常滑膜細胞は生存していた(一方、RASCは、同量で約30%の生存率にすぎなかった)。
このことから、シノビオリンプロモーターを用いた制限増殖型アデノウイルスベクターは、異常増殖する滑膜細胞に対して極めて特異的に作用する、安全な遺伝子治療薬として利用可能であることが示された。
3.RT−PCRによるウィルス感染の確認
上記2における細胞数のカウント後、細胞をPBSにて洗滌し、Isogenを加えて細胞を溶解後にマイクロチューブに回収した。Isogenのプロトコールに従って全RNAを精製し、精製した全RNAをテンプレートとしてInvitrogen社Superscript IIIを用いてcDNAを合成した。このcDNAを用い、下記のプライマーにて特異的フラグメントをPCR増幅した。増幅したフラグメントは1%アガロースゲルにて電気泳動し、EtBrにて染色後UVトランスイルミネーターにてバンドを検出した。
プライマー:
E1A(センス):5’−TCAGTCGCATGCGCGGCCGCTACGTAACGCGTTACCCGGTGAGTTCCTCAAGAGGC−3’(配列番号7)
(アンチセンス):5’−GGACGTCCTAGGGTCGACGCCCCATTTAACACGCCATGCAAG−3’(配列番号8)
Fiber(センス):5’−GTTCCTGTCCATCCGCACCCACTATCTTCATGTTG−3’(配列番号9)
(アンチセンス):5’−AGTGGCAGTAGTTAGAGGGGGTGAGGCAGTGATAG−3’(配列番号10)
GAPDH(センス):5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC−3’(配列番号11)
(アンチセンス):5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA−3’(配列番号12)
結果を図3Bに示す。RASCでは、シノビオリンプロモーターに制御されるE1A遺伝子の発現がウイルス量依存的に増大したのに対し、正常滑膜細胞では、高MOIでもE1A遺伝子の発現が抑制されており、シノビオリンプロモーターのRASC特異性が確認された。
本発明によれば、特異性が高く効果的な関節リウマチ治療のためのツールが提供されるため、本発明は医療分野での有用性を有する。
配列番号3〜12:プライマー

Claims (19)

  1. 細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合したシノビオリンプロモーターを含む発現カセット。
  2. 請求項1記載の発現カセットを含むベクター。
  3. ベクターがウイルスベクターである、請求項2記載のベクター。
  4. 更に、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがシノビオリンプロモーターまたはシノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターで置換されていることを特徴とする、請求項3記載のウイルスベクター。
  5. 少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、またはE1BΔ55Kである、請求項4記載のウイルスベクター。
  6. シノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターが、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターである、請求項4記載のウイルスベクター。
  7. 哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターが、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)である、請求項6記載のウイルスベクター。
  8. 少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがシノビオリンプロモーターで置換されていることを特徴とするウイルスベクター。
  9. 更に、少なくとも1つの他のウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターがシノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターで置換されていることを特徴とする、請求項8に記載のウイルスベクター。
  10. 少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、およびE1BΔ55Kから選択される因子である、請求項8または9記載のウイルスベクター。
  11. 更に、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に結合した、シノビオリンプロモーターまたはシノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターを含む発現カセットを包含する、請求項8〜10のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
  12. シノビオリンプロモーターとは異なる外来性プロモーターが、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターである、請求項9または11記載のウイルスベクター。
  13. 哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターが、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)である、請求項12に記載のウイルスベクター。
  14. ウイルスベクターが、細胞溶解性ウイルスベクターである、請求項4〜13のいずれか1項に記載のウイルスベクター。
  15. 細胞溶解性ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項14記載のウイルスベクター。
  16. 請求項2〜15のいずれか1項に記載のベクターを含有する、滑膜細胞の増殖阻害剤。
  17. 関節リウマチの治療用である、請求項16記載の剤。
  18. シノビオリンプロモーターを含むベクターを含有する、滑膜細胞の異常増殖の診断剤。
  19. 関節リウマチの診断用である、請求項18記載の剤。
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