図1は、ハイブリッド車両に適用される本発明の本実施形態のハイブリッド車両を示す図である。図1に示されるように、ハイブリッド車両1は、内燃機関としてのエンジン10と、電動機11と、電動機11と電力を授受する蓄電装置2と、自動変速機31と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)からなる制御装置21とを備える。
制御装置21は、エンジン10、電動機11及び自動変速機31を制御する。また、制御装置21は、各種演算処理を実行するCPU211と、このCPU211で実行される各種演算プログラム、各種テーブル、演算結果等を記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)212とを備え、車両速度、アクセルペダルの操作量、及び後述するエンジン10の回転数等を表す各種電気信号が入力されると共に、演算結果等に基づいて駆動信号を外部に出力する。
自動変速機31は、エンジン10の駆動力(機械的動力)が伝達されるエンジン出力軸32と、ディファレンシャルギア45及び車輪軸46を介して駆動輪としての左右の前輪(駆動輪)4,4に動力を出力する出力ギア33と、ギア比の異なる6つのギア列G2〜G7とを備える。なお、図1では、左右の車輪4,4は、片方の車輪4のみ記載し、もう片方の車輪4は省略している。
また、自動変速機31は、変速比順位で奇数番目の各変速段を確立する奇数番ギア列G3,G5,G7の駆動ギア73,75,77を回転自在に軸支する第1入力軸34と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立する偶数番ギア列G2,G4,G6の駆動ギア72,74,76を回転自在に軸支する第2入力軸35と、リバースギアGRを回転自在に軸支するリバース軸36を備える。尚、第1入力軸34はエンジン出力軸32と同一軸線上に配置され、第2入力軸35及びリバース軸36は第1入力軸34と平行に配置されている。
また、自動変速機31は、第1入力軸34に回転自在に軸支されたアイドル駆動ギア80と、アイドル軸37に固定されアイドル駆動ギア80に噛合する第1アイドル従動ギア81と、第2入力軸35に固定された第2アイドル従動ギア82と、リバース軸36に固定され第1アイドル従動ギア81に噛合する第3アイドル従動ギア83とで構成されるアイドルギア列GIを備える。尚、アイドル軸37は第1入力軸34と平行に配置されている。
自動変速機31は、油圧作動型の乾式摩擦クラッチ又は湿式摩擦クラッチからなる第1クラッチ51及び第2クラッチ52を備える。第1クラッチ51は、エンジン10の駆動力を第1入力軸34に伝達させることができる係合状態と、この伝達を断つ開放状態(係合状態が解除されている状態)とに切替自在に構成されている。また、第1クラッチ51は、係合状態において、締結量を変化させることで、伝達することができる駆動力を調整することができる。
第2クラッチ52は、エンジン10の駆動力を第2入力軸35に伝達させることができる係合状態と、この伝達を断つ開放状態(係合状態が解除されている状態)とに切替自在に構成されている。また、第2クラッチ52は、係合状態において、締結量を変化させることで、伝達することができる駆動力を調整することができる。エンジン出力軸32は第1アイドル従動ギア81及び第2アイドル従動ギア82を介して第2入力軸35に連結される。
両クラッチ51,52は、素早く状態が切り替えられるように電気式アクチュエータにより作動されるものであることが好ましい。尚、両クラッチ51,52は、油圧式アクチュエータにより作動されるものであってもよい。
また、自動変速機31には、エンジン出力軸32と同軸上に位置させて、遊星歯車機構15が配置されている。遊星歯車機構15は、サンギア16と、リングギア17と、サンギア16及びリングギア17に噛合するピニオン19を自転及び公転自在に軸支するキャリア18とからなるシングルピニオン型で構成される。本実施形態では、遊星歯車機構15のギア比(リングギア17の歯数/サンギア16の歯数)をgとしている。
サンギア16は、第1入力軸34に固定されている。キャリア18は、3速ギア列G3の3速駆動ギア73に連結されている。リングギア17は、ロック機構60により変速機ケース7に解除自在に固定される。
ロック機構60は、リングギア17が変速機ケース7に固定される固定状態、又はリングギア17が回転自在な開放状態の何れかの状態に切替自在なブレーキ機構で構成されている。
尚、ロック機構60は、シンクロメッシュ機構に限らず、同期機能がないドグクラッチ、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ、ワンウェイクラッチ、2ウェイクラッチ等で構成してもよい。また、遊星歯車機構15は、シングルピニオン型に限らず、サンギアと、リングギアと、互いに噛合し一方がサンギア、他方がリングギアに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型で構成してもよい。この場合、例えば、サンギア(第1要素)を第1入力軸34に固定し、リングギア(第3要素)を3速ギア列G3の3速駆動ギア73に連結し、キャリア(第2要素)をロック機構60で変速機ケース7に解除自在に固定するように構成すればよい。
遊星歯車機構15の径方向外方には、中空の電動機11が配置されている。換言すれば、遊星歯車機構15は、中空の電動機11の内方に配置されている。電動機11は、ステータ12とロータ13とを備える。
また、電動機11は、制御装置21の指示信号に基づき、パワードライブユニット14を介して制御される。制御装置21は、パワードライブユニット14を、蓄電装置2の電力を消費して電動機11を駆動させる駆動状態と、ロータ13の回転力を抑制させて発電し、発電した電力をパワードライブユニット14を介して蓄電装置2に充電する回生状態とに適宜切り替える。
出力ギア33を軸支する従動軸38には、第1従動ギア41と、第2従動ギア42と、第3従動ギア43とが固定されている。第1従動ギア41は、2速駆動ギア72及び3速駆動ギア73に噛合する。第2従動ギア42は、4速駆動ギア74及び5速駆動ギア75に噛合する。第3従動ギア43は、6速駆動ギア76及び7速駆動ギア77に噛合する。
このように、2速ギア列G2と3速ギア列G3の従動ギア、4速ギア列G4と5速ギア列G5の従動ギア、及び6速ギア列G6と7速ギア列G7の従動ギアをそれぞれ1つのギア41,42,43で構成することにより、自動変速機の軸長を短くすることができ、FF(前輪駆動)方式の車両への搭載性を向上させることができる。
また、第1入力軸34には、リバースギアGRに噛合するリバース従動ギア44が固定されている。
第1入力軸34には、シンクロメッシュ機構で構成された、第1噛合機構61と第3噛合機構63とが設けられている。第1噛合機構61は、3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、7速駆動ギア77と第1入力軸34とを連結した7速側連結状態、3速駆動ギア73及び7速駆動ギア77と第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。第3噛合機構63は、5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。
第2入力軸35には、シンクロメッシュ機構で構成された、第2噛合機構62と第4噛合機構64とが設けられている。第2噛合機構62は、2速駆動ギア72と第2入力軸35とを連結した2速側連結状態、6速駆動ギア76と第2入力軸35とを連結した6速側連結状態、2速駆動ギア72及び6速駆動ギア76と第2入力軸35との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。第4噛合機構64は、4速駆動ギア74と第2入力軸35とを連結した4速側連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。
リバース軸36には、シンクロメッシュ機構で構成され、リバースギアGRとリバース軸36とを連結した連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在なリバース用噛合機構65が設けられている。
以下、3速側連結状態、5速側連結状態及び7速側連結状態のいずれかの状態になっていることを、奇数側インギア状態という。また、2速側連結状態、4速側連結状態及び6速側連結状態のいずれかの状態になっていることを、偶数側インギア状態という。
ここで、第1クラッチ51が本発明の第1態様及び第3態様における「第1断接装置」に相当する。第2クラッチ52が本発明の第1態様及び第3態様における「第2断接装置」に相当する。また、奇数番ギア列G3,G5,G7が本発明の第1態様及び第3態様における「第1変速機構」に相当し、偶数番ギア列G2,G4,G6が本発明の第1態様及び第3態様における「第2変速機構」に相当する。なお、電動機11が接続される入力軸に偶数番ギア列の駆動ギアを軸支又は固定し、電動機11が接続されていない入力軸に奇数番ギア列の駆動ギアを軸支又は固定するようにしてもよい。なお、本実施形態のハイブリッド車両1では、従動軸38を、1つの軸で構成しているが、これに限らず、2つの軸で構成するものであってもよい。
また、当該ハイブリッド車両1は、車両を構成する部材の回転数を検知する回転角センサ又は回転数センサとして構成される回転数検知手段を複数備える。これらの複数の回転数検知手段は、内燃機関回転数検知手段91と、電動機回転数検知手段92と、第2入力軸回転数検知手段93と、駆動輪回転数検知手段94と、従動軸回転数検知手段95とである。
内燃機関回転数検知手段91は、エンジン出力軸32の回転数(以下、「エンジン回転数」という)Neを検知する。電動機回転数検知手段92は、電動機11の出力軸を検知する。なお、電動機11の出力軸は、第1入力軸34であるため、電動機回転数検知手段92が検知する回転数は、第1入力軸34の回転数(以下、「第1入力軸回転数」という)Nm1と同じである。第2入力軸回転数検知手段93は、第2入力軸35の回転数(以下、「第2入力軸回転数」という)Nm2を検知する。駆動輪回転数検知手段94は、左右の車輪4,4のそれぞれの回転数を検知する。従動軸回転数検知手段95は、従動軸38の回転数(以下、「従動軸回転数」という)Ncを検知する。
本実施形態では、電動機回転数検知手段92が回転角センサ(レゾルバ)で構成され、複数の回転数検知手段91〜95のうち電動機回転数検知手段92以外の回転数検知手段が回転数センサで構成される。電動機回転数検知手段92は、他の回転数検知手段に比べ、高精度に回転数を検知可能に構成される。
制御装置21には、これらの複数の回転数検知手段91〜95が検知した回転数が電気信号として入力される。制御装置21は、駆動輪回転数検知手段94により検知された左右の車輪4,4のそれぞれの回転数より、その平均を算出した値を、駆動輪回転数Nwとして検知する。以上より、制御装置21は、エンジン回転数Ne、第1入力軸回転数Nm1、第2入力軸回転数Nm2、駆動輪回転数Nw、及び従動軸回転数Ncを検知することができる。
また、当該ハイブリッド車両1は、当該ハイブリッド車両1の左右の被駆動輪である後輪(図示省略)の回転数を検知する回転数センサとして後輪回転数検知手段96を備える。制御装置21には、後輪回転数検知手段96により検知された左右の後輪のそれぞれの回転数が電気信号として入力される。制御装置21は、左右の後輪のそれぞれの回転数の平均を算出した値を後輪の回転数として検知する。
ここで、内燃機関回転数検知手段91が、本発明の第1態様及び第3態様における内燃機関回転数検知手段に相当し、本発明の第2態様及び第4態様における駆動源回転数検知手段に相当する。また、電動機回転数検知手段92が、本発明の第1態様及び第3態様における電動機回転数検知手段、入力軸回転数検知手段及び第1入力軸回転数検知手段に相当し、本発明の第2態様及び第4態様における駆動源回転数検知手段及び変速機回転数検知手段に相当する。
また、第2入力軸回転数検知手段93が、本発明の第1態様及び第3態様における入力軸回転数検知手段及び第2入力軸回転数検知手段に相当し、本発明の第2態様及び第4態様における変速機回転数検知手段に相当する。また、駆動輪回転数検知手段94及びこの信号に基づいて制御装置21が左右の車輪4,4の回転数の平均を算出して回転数を得ることが、本発明の第1態様〜第4態様における駆動輪回転数検知手段に相当する。
また、従動軸回転数検知手段95が、本発明の第1態様及び第3態様における従動軸回転数検知手段に相当し、本発明の第2態様及び第4態様における変速機回転数検知手段に相当する。また、後輪が本発明の第1態様〜第4態様における別の車輪に相当し、後輪回転数検知手段96が、本発明の第1態様〜第4態様における別車輪回転数検知手段に相当する。
次に、上記のように構成された自動変速機31の作動について説明する。
自動変速機31では、第1クラッチ51を係合させることにより、電動機11の駆動力を用いてエンジン10を始動させることができる。
エンジン10の駆動力を用いて1速段を確立する場合には、ロック機構60により遊星歯車機構15のリングギア17を固定状態とし、第1クラッチ51を締結させて係合状態とする。ここで、エンジン10の駆動力のみによる走行をENG走行という。
エンジン10の駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチ51、第1入力軸34を介して、遊星歯車機構15のサンギア16に入力され、エンジン出力軸32に入力されたエンジン10の回転数が1/(g+1)に減速されて、キャリア18を介し3速駆動ギア73に伝達される。
3速駆動ギア73に伝達された駆動力は、3速駆動ギア73及び第1従動ギア41で構成される3速ギア列G3のギア比(駆動ギアの歯数/従動ギアの歯数)をiとして、1/{i(g+1)}に変速されて第1従動ギア41及び従動軸38を介し出力ギア33から出力され、1速段が確立される。
このように、自動変速機31では、遊星歯車機構15及び3速ギア列で1速段を確立できるため、1速段専用の噛合機構が必要なく、これにより、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
尚、1速段において、車両が減速状態にあり、且つ蓄電装置2のSOC(State Of Charge:充電量、バッテリ残容量)に応じて、制御装置21は、電動機11でブレーキをかけることにより発電を行う減速回生運転を行う。また、蓄電装置2のSOCに応じて、電動機11を駆動させて、エンジン10の駆動力を補助するHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行、又は電動機11の駆動力のみで走行するEV(Electric Vehicle)走行を行うことができる。
また、EV走行中であって車両の減速が許容された状態であり且つ車両速度が一定速度以上の場合には、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、電動機11の駆動力を用いることなく、車両の運動エネルギーを用いてエンジン10を始動させることができる。
また、1速段で走行中に2速段にアップシフトされることを制御装置21が車両速度やアクセルペダルの操作量等の各種電気信号から予測した場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2入力軸35とを連結させる2速側連結状態又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
エンジン10の駆動力を用いて2速段を確立する場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2入力軸35とを連結させた2速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結して係合状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2入力軸35、2速ギア列G2及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
尚、2速段において、制御装置21がアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結した3速側連結状態又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
逆に、制御装置21がダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を、3速駆動ギア73及び5速駆動ギア75と第1入力軸34との連結を断つニュートラル状態とする。
これにより、アップシフト又はダウンシフトを、第1クラッチ51を係合状態とし、第2クラッチ52を開放状態とするだけで行うことができ、変速段の切り替えを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
また、2速段においても、車両が減速状態にある場合、蓄電装置2のSOCに応じて、制御装置21は、減速回生運転を行う。2速段において減速回生運転を行う場合には、第1噛合機構61が3速側連結状態であるか、ニュートラル状態であるかで異なる。
第1噛合機構61が3速側連結状態である場合には、2速駆動ギア72で回転される第1従動ギア41によって回転する3速駆動ギア73が第1入力軸34を介して電動機11のロータ13を回転させるため、このロータ13の回転を抑制しブレーキをかけることにより発電して回生を行う。
第1噛合機構61がニュートラル状態である場合には、ロック機構60を固定状態とすることによりリングギア17の回転数を「0」とし、第1従動ギア41に噛合する3速駆動ギア73と共に回転するキャリア18の回転数を、サンギア16に連結させた電動機11により発電させることによりブレーキをかけて、回生を行う。
また、2速段においてHEV走行する場合には、例えば、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、ロック機構60を開放状態とすることにより遊星歯車機構15を各要素が相対回転不能な状態とし、電動機11の駆動力を3速ギア列G3を介して出力ギア33に伝達することにより行うことができる。または、第1噛合機構61をニュートラル状態として、ロック機構60を固定状態としてリングギア17の回転数を「0」とし、電動機11の駆動力を1速段の経路で第1従動ギア41に伝達することによっても、2速段によるHEV走行を行うことができる。この場合、2速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
エンジン10の駆動力を用いて3速段を確立する場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態として、第1クラッチ51を締結させて係合状態とする。この場合、エンジン10の駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチ51、第1入力軸34、第1噛合機構61、3速ギア列G3を介して、出力ギア33に伝達され、1/iの回転数で出力される。
3速段においては、第1噛合機構61が3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結させた3速側連結状態となっているため、遊星歯車機構15のサンギア16とキャリア18とが同一回転となる。
従って、遊星歯車機構15の各要素が相対回転不能な状態となり、電動機11でサンギア16にブレーキをかければ減速回生となり、電動機11でサンギア16に駆動力を伝達させれば、HEV走行を行うことができる。この場合、3速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
また、第1クラッチ51を開放して(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)、電動機11の駆動力のみで走行するEV走行も可能である。
3速段において、制御装置21は、車両速度やアクセルペダルの操作量等の各種電気信号に基づきダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2入力軸35とを連結する2速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2入力軸35とを連結する4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
これにより、第2クラッチ52を締結させて係合状態とし、第1クラッチ51を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切替えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
エンジン10の駆動力を用いて4速段を確立する場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結させて係合状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2入力軸35、4速ギア列G4及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
4速段で走行中は、制御装置21が各種電気信号からダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結した3速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
逆に、制御装置21が各種電気信号からアップシフトを予測している場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、又は、この状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、第1クラッチ51を締結させて係合状態とし、第2クラッチ52を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
4速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、制御装置21がダウンシフトを予測しているときには、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1入力軸34とを連結した3速側連結状態とし、電動機11でブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。この場合、4速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
制御装置21がアップシフトを予測しているときには、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とし、電動機11によりブレーキをかければ減速回生、電動機11から駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。この場合、4速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、5速ギア列G5、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
エンジン10の駆動力を用いて5速段を確立する場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とする。5速段においては、第1クラッチ51が係合状態とされることによりエンジン10と電動機11とが直結された状態となるため、電動機11から駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、電動機11でブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
尚、5速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチ51を開放状態とすればよい(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)。また、5速段でのEV走行中に、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、エンジン10の始動を行うこともできる。
制御装置21は、5速段で走行中に各種電気信号から4速段へのダウンシフトが予測される場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2入力軸35とを連結させた4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2入力軸35とを連結する6速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
これにより、第2クラッチ52を締結させて係合状態とし、第1クラッチ51を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切替えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
エンジン10の駆動力を用いて6速段を確立する場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2入力軸35とを連結させた6速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結させて係合状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2入力軸35、6速ギア列G6及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
6速段で走行中は、制御装置21が各種電気信号からダウンシフトを予測している場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
逆に、制御装置21が各種電気信号からアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1入力軸34とを連結した7速側連結状態、又は、この状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、第1クラッチ51を締結させて係合状態とし、第2クラッチ52を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
6速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、制御装置21がダウンシフトを予測しているときには、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1入力軸34とを連結した5速側連結状態とし、電動機11でブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。この場合、6速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、5速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
制御装置21がアップシフトを予測しているときには、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1入力軸34とを連結した7速側連結状態とし、電動機11によりブレーキをかければ減速回生、電動機11から駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。この場合、6速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1入力軸34、7速ギア列G7、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
エンジン10の駆動力を用いて7速段を確立する場合には、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1入力軸34とを連結した7速側連結状態とする。7速段においては、第1クラッチ51が係合状態とされることによりエンジン10と電動機11とが直結された状態となるため、電動機11から駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、電動機11でブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
尚、7速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチ51を開放状態とすればよい(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)。また、7速段でのEV走行中に、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、エンジン10の始動を行うこともできる。
制御装置21は、7速段で走行中に各種電気信号から6速段へのダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2入力軸35とを連結させた6速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、6速段へのダウンシフトを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
エンジン10の駆動力を用いて後進1速段を確立する場合には、ロック機構60を固定状態とし、リバース用噛合機構65をリバースギアGRとリバース軸36とを連結した連結状態として、第2クラッチ52を締結させて係合状態とする。これにより、エンジン出力軸32の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、リバースギアGR、リバース従動ギア44、サンギア16、キャリア18、3速ギア列G3及び従動軸38を介して後進方向の回転として、出力ギア33から出力され、後進1速段が確立される。
このとき、ロック機構60を固定状態にする代わりに、第1噛合機構61により3速側連結状態にすれば後進3速段を確立でき、第1噛合機構61により7速側連結状態にすれば後進7速段を確立でき、第3噛合機構63により5速側連結状態にすれば後進5速段を確立できる。
制御装置21は、複数の回転数検知手段91〜95が検知した回転数から、当該ハイブリッド車両1の走行速度に対応した回転数を算出する。本実施形態では、走行速度に対応した回転数を本発明における「基準となる回転数」としている。本実施形態では、走行速度に対応した回転数は、駆動輪回転数検知手段94が正しく動作している場合に検知される左右の車輪4,4の回転数の平均としている。制御装置21は、走行速度に対応した回転数及び車輪の外径に基づいて、走行速度(単位は、例えば[km/h])を算出できる。
以下、エンジン回転数Neに基づいて得られた走行速度に対応した回転数を「エンジン走行速度回転数Ve」といい、第1入力軸回転数Nm1に基づいて得られた走行速度に対応した回転数を「第1入力軸走行速度回転数Vm1」といい、第2入力軸回転数Nm2に基づいて得られた走行速度に対応した回転数を「第2入力軸走行速度回転数Vm2」といい、駆動輪回転数Nwに基づいて得られた走行速度に対応した回転数を「駆動輪走行速度回転数Vw」といい、従動軸回転数Ncに基づいて得られた走行速度に対応した回転数を「従動軸走行速度回転数Vc」という。
制御装置21は、エンジン回転数Neに、エンジン10と車輪4との間のギア比を乗算して、エンジン走行速度回転数Veを算出する。この「エンジン10と車輪4との間のギア比」は、「自動変速機31の現在確立されている変速段の変速比」、「出力ギア33とディファレンシャルギア45のギア比」及び「ディファレンシャルギア45の入力と出力のギア比(所謂、最終減速比)」を乗算した値である。
図2に示されるように、エンジン走行速度回転数Veは、「第1クラッチ51がエンジン10の駆動力を第1入力軸34に完全に伝達している状態であり、且つ奇数側インギア状態である」場合か、又は「第2クラッチ52がエンジン10の駆動力を第2入力軸35に完全に伝達している状態であり、且つ偶数側インギア状態である」場合のいずれかで有効となる。換言すれば、HEV走行及びENG走行しているときにのみ有効な値となる。
制御装置21は、第1入力軸回転数Nm1に、第1入力軸34と車輪4との間のギア比を乗算して、第1入力軸走行速度回転数Vm1を算出する。この「第1入力軸34と車輪4との間のギア比」は、「変速比順位で奇数番目のいずれかの変速段が確立されているときの当該変速段の変速比」、「出力ギア33とディファレンシャルギア45とのギア比」及び「ディファレンシャルギア45の入力と出力のギア比(所謂、最終減速比)」を乗算した値である。図2に示されるように、第1入力軸走行速度回転数Vm1は、奇数側インギア状態のときにのみ有効な値となる。
制御装置21は、第2入力軸回転数Nm2に、第2入力軸35と車輪4との間のギア比を乗算して、第2入力軸走行速度回転数Vm2を算出する。この「第2入力軸35と車輪4との間のギア比」は、「変速比順位で偶数番目のいずれかの変速段が確立されているときの当該変速段の変速比」、「出力ギア33とディファレンシャルギア45とのギア比」及び「ディファレンシャルギア45の入力と出力のギア比(所謂、最終減速比)」を乗算した値である。図2に示されるように、第2入力軸走行速度回転数Vm2は、偶数側インギア状態のときにのみ有効な値となる。
制御装置21は、駆動輪回転数Nwをそのまま駆動輪走行速度回転数Vwとして扱う。図2に示されるように、駆動輪回転数Nwは、車両の状態に依らず常に有効な値となる。
制御装置21は、従動軸回転数Ncに、従動軸38と車輪4との間のギア比を乗算して、従動軸走行速度回転数Vcを算出する。この「従動軸38と車輪4との間のギア比」は、「出力ギア33とディファレンシャルギア45とのギア比」及び「ディファレンシャルギア45の入力と出力のギア比(所謂、最終減速比)」を乗算した値である。図2に示されるように、駆動輪回転数Nwは、車両の状態に依らず常に有効な値となる。
以上のように、本実施形態では、制御装置21が5つの基準となる回転数(以下、「基準回転数」という)を算出している。制御装置21は、これらの基準回転数に基づいて、複数の回転数検知手段91〜95に異常があるか否かを判定している。以下、この判定について説明する。
制御装置21は、5つの基準回転数の中から3つの基準回転数を選択する。制御装置21は、複数の回転数検知手段91〜95に優先順位を設定している。
まず、制御装置21は、車輪4に回転出力(すなわち駆動力又は機械的動力)を伝達する経路上で、車輪4に近い回転数検知手段を優先的に選択する(以下、「優先選択1」という)。「車輪4に回転出力(機械的動力)を伝達する経路」とは、電動機11又はエンジン10からの回転出力(すなわち駆動力又は機械的動力)が車輪4に伝達される経路である。
また、上記経路の途中にギア等の噛合の数が少ない回転数検知手段を、車輪4に近い回転数検知手段としている。すなわち、回転数検知手段が検知した回転数から基準回転数を算出するときに、各ギアのギア比を乗算する数が少ない程近くなる。乗算する数が少ない回転数検知手段を優先的に選択することで、計算誤差が少なくなり、本来の走行速度に対応した回転数に近い値になる。このため、優先選択1において優先順位の高い順番に並べると、「駆動輪回転数検知手段94」→「従動軸回転数検知手段95」→「電動機回転数検知手段92、第2入力軸回転数検知手段93、内燃機関回転数検知手段91」となる。
優先選択1が、本発明の第1態様〜第4態様における「前記複数の回転数検知手段を選択するときに、前記駆動輪に機械的動力を伝達する経路上で当該駆動輪に近い部材の回転数を検知する回転数検知手段を優先的に選択する」ことに相当する。
また、優先選択1において、優先順位が同じもの、すなわち、電動機回転数検知手段92、第2入力軸回転数検知手段93、及び内燃機関回転数検知手段91については、これらはそれぞれが同程度に近いという。すなわち、電動機回転数検知手段92、第2入力軸回転数検知手段93、及び内燃機関回転数検知手段91は、それぞれが、本発明の第1態様〜第4態様における「前記駆動輪に同程度に近い部材の回転数を検知する回転数検知手段」であることに相当する。
次に、制御装置21は、車輪4に回転出力(機械的動力)を伝達する経路上で、車輪4との係合が解除されにくい部材の回転数を検知する回転数検知手段、すなわち、車輪4との間に断接手段を介する数が少ない部材の回転数を検知する回転数検知手段を優先的に選択する(以下、「優先選択2」という)。ここで、断接手段とは、本実施形態では、第1クラッチ51、第2クラッチ52、ロック機構60、第1噛合機構61、第2噛合機構62、第3噛合機構63、及び第4噛合機構64である。
これにより、回転数を検知している最中に、変速機の変速動作等により断接手段の断接状態が変化することで、(例えば、第1クラッチ51が係合状態から開放状態に変わることで)、当該回転数が有効から無効になることを発生しづらくしている。このようなことが発生すると、再度回転数を取得する必要があり、回転数の検知、ひいては、後述する回転数検知手段の異常を判定する処理速度が長くなる。このため、優先選択2のように選択することで、処理速度が長くなることを低減できる。
このため、優先選択2において優先順位の高い順番に並べると、「駆動輪回転数検知手段94」→「従動軸回転数検知手段95」→「電動機回転数検知手段92、第2入力軸回転数検知手段93」→「内燃機関回転数検知手段91」となる。
優先選択2が、本発明の第1態様〜第4態様における「前記複数の回転数検知手段を選択するときに、前記駆動輪に機械的動力を伝達する経路上で当該駆動輪との係合が解除されにくい部材の回転数を検知する回転数検知手段を優先的に選択する」ことに相当する。
また、優先選択2において、優先順位が同じもの、すなわち、電動機回転数検知手段92及び第2入力軸回転数検知手段93については、これらはそれぞれが同程度に係合が解除されにくい部材の回転数を検知する回転数検知手段である。すなわち、電動機回転数検知手段92及び第2入力軸回転数検知手段93は、それぞれが、本発明の第1態様〜第4態様における「同程度に係合が解除されにくい部材の回転数を検知する回転数検知手段」であることに相当する。
次に、制御装置21は、回転数を検知する精度が高い回転数検知手段を優先的に選択する(以下、「優先選択3」という)。これにより、より実際の走行速度に対応した回転数に近い値を取得しやすくなる。上述したように、本実施形態では、複数の回転数検知手段91〜95のうち電動機回転数検知手段92が、他の回転数検知手段91,93〜95に比べて高精度に構成されている。このため、優先選択3において優先順位の高い順番に並べると、「電動機回転数検知手段92」→「駆動輪回転数検知手段94、従動軸回転数検知手段95、第2入力軸回転数検知手段93、内燃機関回転数検知手段91」となる。
優先選択3が、本発明の第1態様〜第4態様における「前記制御手段は、前記選択時に同程度に係合が解除されにくい部材の回転数を検知する回転数検知手段については、回転数を検知する精度の高い回転数検知手段を優先的に選択する」ことに相当する。
以上のように、制御装置21が、優先選択1→優先選択2→優先選択3の順番で回転数検知手段の優先順位を決定することで、まず、優先選択1により、「駆動輪回転数検知手段94」→「従動軸回転数検知手段95」という順番が決まり、この次の優先順位として「電動機回転数検知手段92、第2入力軸回転数検知手段93、内燃機関回転数検知手段91」の3つが同じ順位となる。そして、優先選択2により、優先選択1で同じ順位となる3つが、「電動機回転数検知手段92、第2入力軸回転数検知手段93」→「内燃機関回転数検知手段91」という順番に並ぶ。そして、優先選択3により、優先選択2で同じ順位となる2つが、「電動機回転数検知手段92」→「第2入力軸回転数検知手段93」という順番に並ぶ。
以上のようにして、複数の回転数検知手段91〜95を優先順位の高い順番に並べると、「駆動輪回転数検知手段94」→「従動軸回転数検知手段95」→「電動機回転数検知手段92」→「第2入力軸回転数検知手段93」→「内燃機関回転数検知手段91」となる。すなわち、これらの複数の回転数検知手段91〜95により検知された回転数に基づいて得られた基準回転数の優先順位としては、図3に示されるように、「駆動輪走行速度回転数Vw」→「従動軸走行速度回転数Vc」→「第1入力軸走行速度回転数Vm1」→「第2入力軸走行速度回転数Vm2」→「エンジン走行速度回転数Ve」となる。
このように、複数の回転数検知手段91〜95を優先順位を付けることと、各基準回転数Ve,Vm1,Vm2,Vw,Vcを優先順位を付けることは同等である。以下、「回転数検知手段に検知された回転数に基づいて得られた基準回転数」を単に「回転数検知手段に応じた基準回転数」という。
優先選択1の後に優先選択2により回転数検知手段の優先順位を決定することが、本発明の第1態様〜第4態様における「前記複数の回転数検知手段を選択するときに、前記駆動輪に機械的動力を伝達する経路上で当該駆動輪に近い部材の回転数を検知する回転数検知手段を優先的に選択し、当該選択時に前記駆動輪に同程度に近い部材の回転数を検知する回転数検知手段については、前記駆動輪に機械的動力を伝達する経路上で当該駆動輪との係合が解除されにくい部材の回転数を検知する回転数検知手段を優先的に選択する」ことに相当する。
次に、制御装置21は、上述のように現在の車両の状態に基づいて各基準回転数Ve,Vm1,Vm2,Vw,Vcのそれぞれが有効か否かを判定する(図2を参照)。そして、制御装置21は、各基準回転数Ve,Vm1,Vm2,Vw,Vcから、無効として判定された基準回転数を除外した基準回転数のみで優先順位を付ける。制御装置21は、このようにして決定された回転数検知手段(すなわち基準回転数)の優先順位の順番に従って、3つの回転数検知手段(すなわち基準回転数)を選択する。
このとき、優先順位の順番で1番目(優先度1)の回転数検知手段を第1検知手段とし、この第1検知手段に応じた基準回転数を第1基準回転数V1とする。また、優先順位の順番で2番目(優先度2)の回転数検知手段を第2検知手段とし、この第2検知手段に応じた基準回転数を第2基準回転数V2とする。同様に、優先順位の順番を3番目以降のものをn(但し、nは自然数)で表わしたとき、優先順位の順番でn番目(優先度n)の回転数検知手段を第n検知手段とし、この第n検知手段に応じた基準回転数を第n基準回転数Vnとする。
以下に、様々な車両の状態による例をいくつか示す。
例えば、3速段でHEV走行中のときには、「第1クラッチ51が締結」、「奇数側インギア状態」、及び「偶数側インギア状態ではない」ので、エンジン走行速度回転数Veと第1入力軸走行速度回転数Vm1と駆動輪走行速度回転数Vwと従動軸走行速度回転数Vcとの4つが有効な回転数となり、第2入力軸走行速度回転数Vm2の1つが無効な回転数となる。
このときには、基準回転数の優先順位は、「駆動輪走行速度回転数Vw」→「従動軸走行速度回転数Vc」→「第1入力軸走行速度回転数Vm1」→「エンジン走行速度回転数Ve」となる。従って、制御装置21は、このときに、第1基準回転数V1を駆動輪走行速度回転数Vwとし、第2基準回転数V2を従動軸走行速度回転数Vcとし、第3基準回転数V3を第1入力軸走行速度回転数Vm1とする。
また、3速段でEV走行中のときには、「第1クラッチ51及び第2クラッチ52が開放」、「奇数側インギア状態」、及び「偶数側インギア状態ではない」ので、第1入力軸走行速度回転数Vm1と駆動輪走行速度回転数Vwと従動軸走行速度回転数Vcとの3つが有効な回転数となり、エンジン走行速度回転数Veと第2入力軸走行速度回転数Vm2との2つが無効な回転数となる。
このときには、基準回転数の優先順位は、「駆動輪走行速度回転数Vw」→「従動軸走行速度回転数Vc」→「第1入力軸走行速度回転数Vm1」となる。従って、制御装置21は、このときに、第1基準回転数V1を駆動輪走行速度回転数Vwとし、第2基準回転数V2を従動軸走行速度回転数Vcとし、第3基準回転数V3を第1入力軸走行速度回転数Vm1とする。
また、3速段でHEV走行中に4速側連結状態にプレシフトしているときには、「第1クラッチ51が締結」、「奇数側インギア状態」、及び「偶数側インギア状態」であるので、エンジン走行速度回転数Veと第1入力軸走行速度回転数Vm1と第2入力軸走行速度回転数Vm2と駆動輪走行速度回転数Vwと従動軸走行速度回転数Vcとの5つが有効な回転数となる(無効な回転数は無し)。
このときには、基準回転数の優先順位は、「駆動輪走行速度回転数Vw」→「従動軸走行速度回転数Vc」→「第1入力軸走行速度回転数Vm1」→「第2入力軸走行速度回転数Vm2」→「エンジン走行速度回転数Ve」となる。従って、制御装置21は、このときに、第1基準回転数V1を駆動輪走行速度回転数Vwとし、第2基準回転数V2を従動軸走行速度回転数Vcとし、第3基準回転数V3を第1入力軸走行速度回転数Vm1とする。
また、4速段でENG走行中のときには、「第2クラッチ52が締結」、「奇数側インギア状態ではない」、及び「偶数側インギア状態」であるので、エンジン走行速度回転数Veと第2入力軸走行速度回転数Vm2と駆動輪走行速度回転数Vwと従動軸走行速度回転数Vcとの4つが有効な回転数となり、第1入力軸走行速度回転数Vm1の1つが無効な回転数となる。
このときには、基準回転数の優先順位は、「駆動輪走行速度回転数Vw」→「従動軸走行速度回転数Vc」→「第2入力軸走行速度回転数Vm2」→「エンジン走行速度回転数Ve」となる。従って、制御装置21は、このときに、第1基準回転数V1を駆動輪走行速度回転数Vwとし、第2基準回転数V2を従動軸走行速度回転数Vcとし、第3基準回転数V3を第2入力軸走行速度回転数Vm2とする。
制御装置21は、上記のように選択された第1〜第3の基準回転数V1〜V3のそれぞれの差分を算出する。詳細には、制御装置21は、第1基準回転数V1と第2基準回転数V2との差(以下、「第1差」という)|V1−V2|を算出し、第2基準回転数V2と第3基準回転数V3との差(以下、「第2差」という)|V2−V3|を算出し、第3基準回転数V3と第1基準回転数V1との差(以下、「第3差」という)|V3−V1|を算出する。ここで、AとBとの差とは、A−Bの絶対値又はB−Aの絶対値のいずれであってもよい。
その後、制御装置21は、第1判定処理部2111により、第1差|V1−V2|が所定値α以下か否かを判定し、第2判定処理部2112により、第2差|V2−V3|が所定値α以下か否かを判定し、第3判定処理部2113により、第3差|V3−V1|が所定値α以下か否かを判定する。ここで所定値αは、互いの基準回転数が同等であることを判定できる値に設定される。すなわち、回転数検知手段の測定誤差や実際に検知した回転数から基準回転数を算出するときに発生する誤差等を考慮して、予め実験等により決定され、メモリ212に記憶されている。
図4に示されるように、第1基準回転数V1として選択された基準回転数の基となる回転数を検知した回転数検知手段(例えば、第1基準回転数V1がエンジン走行速度回転数Veである場合には、内燃機関回転数検知手段91)に異常がある場合には、第1差|V1−V2|〜第3差|V3−V1|のうち第1基準回転数V1を基にして算出された差が所定値αより大きくなる。すなわち、第1差|V1−V2|が所定値αより大きくなり(第1判定処理部の判定結果が否定的)、第2差|V2−V3|が所定値α以下になり(第2判定処理部の判定結果が肯定的)、第3差|V3−V1|が所定値αより大きくなる(第3判定処理部の判定結果が否定的)。
また、第2基準回転数V2として選択された基準回転数の基となる回転数を検知した回転数検知手段に異常がある場合には、第1差|V1−V2|〜第3差|V3−V1|のうち第2基準回転数V2を基にして算出された差が所定値αより大きくなる。第1差|V1−V2|が所定値αより大きくなり(第1判定処理部の判定結果が否定的)、第2差|V2−V3|が所定値αより大きくなり(第2判定処理部の判定結果が否定的)、第3差|V3−V1|が所定値α以下になる(第3判定処理部の判定結果が肯定的)。
また、第3基準回転数V3として選択された基準回転数の基となる回転数を検知した回転数検知手段に異常がある場合には、第1基準回転数V1及び第3基準回転数V3の場合と同様に、第1差|V1−V2|〜第3差|V3−V1|のうち第3基準回転数V3を基にして算出された差が所定値αより大きくなる。第1差|V1−V2|が所定値α以下になり(第1判定処理部の判定結果が肯定的)、第2差|V2−V3|が所定値αより大きくなり(第2判定処理部の判定結果が否定的)、第3差|V3−V1|が所定値αより大きくなる(第3判定処理部の判定結果が否定的)。
以上より、制御装置21は、第1判定処理部2111及び第2判定処理部2112の判定結果が否定的であり、且つ第3判定処理部2113の判定結果が肯定的である場合には、第2検知手段は異常であると判定し、第1検知手段及び第3検知手段は正常であると判定する。また、制御装置21は、第2判定処理部2112及び第3判定処理部2113の判定結果が否定的であり、且つ第1判定処理部2111の判定結果が肯定的である場合には、第3検知手段は異常であると判定し、第1検知手段及び第2検知手段は正常であると判定する。
また、制御装置21は、第1判定処理部2111及び第3判定処理部2113の判定結果が否定的であり、且つ第2判定処理部2112の判定結果が肯定的である場合には、第1検知手段は異常であると判定し、第2検知手段及び第3検知手段は正常であると判定する。また、制御装置21は、第1判定処理部2111、第2判定処理部2112、及び第3判定処理部2113の判定結果が肯定的である場合には、第1検知手段、第2検知手段及び第3検知手段は全て正常であると判定する。
このようにして、制御装置21は、第1検知手段、第2検知手段及び第3検知手段のそれぞれについて、正常又は異常を判定する。そして、優先度4以下の優先度の回転数検知手段(すなわち基準回転数)については、「当該回転数検知手段に応じた基準回転数」と、「第1検知手段、第2検知手段及び第3検知手段のうち正常として判定された回転数検知手段に応じた基準回転数」との差を比較し、所定値α以下か否かを判定する。このとき、差が所定値α以下であれば当該回転数検知手段は正常とし、差が所定値αより大きいならば当該回転数検知手段は異常とする。
例えば、上述した例のように、3速段でHEV走行中に4速側連結状態にプレシフトしているときには、優先度1が駆動輪走行速度回転数Vwであり、優先度2が従動軸走行速度回転数Vcであり、優先度3が第1入力軸走行速度回転数Vm1であり、優先度4が第2入力軸走行速度回転数Vm2であり、優先度5がエンジン走行速度回転数Veである。このとき、例えば、この場合の第1検知手段となる駆動輪回転数検知手段94が少なくとも正常である場合には、優先度4の第2入力軸走行速度回転数Vm2と優先度1の駆動輪走行速度回転数Vwとの差が所定値α以下か否かにより、第2入力軸回転数検知手段93が正常(α以下)か異常(αより大きい)かを判定する。次に、優先度5のエンジン走行速度回転数Veと優先度1の駆動輪走行速度回転数Vwとの差が所定値α以下か否かにより、内燃機関回転数検知手段91が正常(α以下)か異常(αより大きい)かを判定する。
本実施形態では、回転数検知手段が5つであるため、最大でも優先度が5までであるが、これより多い場合には、その時点で有効な基準回転数の全て(優先度が4以下全て)に対してこのような判定が行われる。このように、正常と判定された回転数検知手段と比較するだけで正常か異常かを判定しているので、回転数検知手段の数が多い場合であっても、回転数検知手段が正常か否かを速やかに判定できる。
また、特許文献1のように2つの回転数検知手段の検知結果を比較する場合には、一方の回転数検知手段に異常がある場合には、他方の回転数検知手段が正常な場合であっても当該他方の回転数検知手段が正常か異常かを判定できない。しかしながら、本実施形態では、いずれか1つの回転数検知手段に異常があった場合であっても、残りの回転数検知手段で、当該残りの回転数検知手段が正常か否かを判定できる。
このような優先度4以下の優先度の回転数検知手段が、本発明の第1態様〜第4態様における「前記複数の回転数検知手段のうち前記選択時に選択されなかった回転数検知手段」に相当する。また、優先度4以下の優先度の回転数検知手段が正常か否かを判定することが、本発明の第1態様〜第4態様における「前記複数の回転数検知手段のうち前記選択時に選択されなかった回転数検知手段を、前記選択された回転数検知手段のうち正常と判断された回転数検知手段が検知した回転数に基づいて得られる前記基準となる回転数と、前記選択されなかった回転数検知手段が検知した回転数に基づいて得られる前記基準となる回転数とを得て、当該得られた2つの回転数の差が、所定の値以下であるときに当該選択されなかった回転数検知手段を正常であると判定し、所定の値より大きいときに当該選択されなかった回転数検知手段を異常であると判定する」ことに相当する。
制御装置21は、このような複数の回転数検知手段91〜95が正常か異常かの判定を、当該ハイブリッド車両1の始動時に行い、以降は所定の間隔(例えば、10msec)毎に行う。また、制御装置21は、自動変速機31の変速段が切り替わったときやプレシフトの状態が変化したとき、すなわち、複数の断接手段(第1クラッチ51、第2クラッチ52、第1噛合機構61、第2噛合機構62、第3噛合機構63、第4噛合機構64)のいずれかの状態が切り替わったときには、図2に示されるように各基準回転数Ve,Vm1,Vm2,Vw,Vcの有効及び無効が変わるので、このようなときにおいても当該判定を行う。
制御装置21は、回転数が無効と判定された場合と同様に、複数の回転数検知手段91〜95のうち3つの回転数検知手段を選択するときに、前回のタイミングで異常と判定された回転数検知手段を除外する。
例えば、上述した例のように、3速段でHEV走行中に4速側連結状態にプレシフトしているときに、前回の判定で従動軸回転数検知手段95が異常と判定されている場合には、制御装置21は、優先度1を駆動輪走行速度回転数Vwとし、優先度2を第1入力軸走行速度回転数Vm1とし、優先度3を第2入力軸走行速度回転数Vm2とし、優先度4をエンジン走行速度回転数Veとする。
次に、制御装置21は、上述のように現在の車両の状態に基づいて各基準回転数Ve,Vm1,Vm2,Vw,Vcのそれぞれが有効か否かを判定する(図2を参照)。そして、制御装置21は、各基準回転数Ve,Vm1,Vm2,Vw,Vcから、無効として判定された基準回転数を除外した基準回転数のみで優先順位を付ける。制御装置21は、このようにして決定された回転数検知手段(すなわち基準回転数)の優先順位の順番に従って、3つの回転数検知手段(すなわち基準回転数)を選択する。
また、制御装置21は、所定の期間、正常か異常かの判定がされていない回転数検知手段がある場合には、当該回転数検知手段に応じた基準回転数が有効になったときには、当該回転数検知手段が、優先度1〜優先度3に入るように、すなわち、優先的に選択されるようにしている。これにより、正常か否かが不明な回転数検知手段を、優先順位の高い他の2つの回転数検知手段と積極的に比較することで、より精度良く正常か異常かを判定することができる。ここで、所定の期間は、回転数検知手段に異常がある場合に速やかに把握できる程度の時間になるように、予め実験等により決定され、メモリ212に記憶される。
また、このような所定の期間、正常か異常かの判定がされていない回転数検知手段がある場合には、ハイブリッド車両1のドライバビリティを損なわない範囲で、当該回転数検知手段に応じた基準回転数が有効になるように、積極的にハイブリッド車両1の状態を変更してもよい。例えば、奇数段による走行が所定の期間継続しており、第2入力軸回転数検知手段93に応じた基準回転数である第2入力軸走行速度回転数Vm2が所定の期間有効になっていない場合には、偶数側インギア状態にして、第2入力軸回転数検知手段93が正常か異常かを判定できるようにする。これにより、複数の回転数検知手段が異常になる前に、正常か異常かを判定することができ、正常か異常かが不明な回転数検知手段を少なくし、制御を高精度に実行できる。
このように制御装置21により優先的に選択されるようにすることが、本発明の第1態様〜第4態様における「前記複数の回転数検知手段を選択するときに、所定の期間選択されていない回転数検知手段を優先的に選択する」ことに相当する。
また、無効と判定された回転数が多い場合に、いずれかの回転数検知手段が異常であると判定された場合等のように、2つの基準回転数しか選択できないような場合には、制御装置21は、2つの基準回転数の差が所定値α以下の場合には、当該2つの基準回転数に応じた回転数検知手段のそれぞれを正常であると判定し、当該2つの基準回転数の差が所定値αより大きい場合には、当該2つの基準回転数に応じた回転数検知手段のそれぞれを異常であると判定する。
例えば、3速段でEV走行中のときには、従動軸回転数検知手段95が異常である場合には、第1入力軸走行速度回転数Vm1と駆動輪走行速度回転数Vwの差が所定値α以下か否かを判定する。このとき、当該差が、所定値α以下の場合には、電動機回転数検知手段92及び駆動輪回転数検知手段94は正常であると判定し、所定値αより大きい場合には、電動機回転数検知手段92及び駆動輪回転数検知手段94は異常であると判定する。
制御装置21は、上記のように、各基準回転数Ve,Vm1,Vm2,Vw,Vcを算出することで、車両の走行速度に対応した回転数を得ることができる。制御装置21は、このようにして得た走行速度に対応した回転数に基づいて車両の様々な制御を行う。このため、制御装置21が安定した車両の制御を行うためには、正確な走行速度に対応した回転数を得ることが重要である。
従って、制御装置21は、正確な走行速度に対応した回転数が得ることができないような状態になることを極力避けるために、車両の作動に制限をかけるような制御を行う場合がある。これにより、車両の作動に制限をかけてでも、可能な限り車両を停止させずに走行することが可能になる。
以下、図5を参照して、上記のように複数の回転数検知手段91〜95のいずれかに異常が発生したと判定される場合に、制御装置21が実行する当該ハイブリッド車両1の作動制限について説明する。
制御装置21は、内燃機関回転数検知手段91が正常であり、且つ内燃機関回転数検知手段91以外の回転数検知手段のうち、3つの回転数検知手段が異常であると判定された場合には、EV走行を禁止すると共に、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のトルクトラッキング制御を禁止する(以下、「作動制限1」という)。
ここで、トルクトラッキング制御とは、第1クラッチ51又は第2クラッチ52が完全に駆動力を伝達する係合状態になっている場合において、例えば、油圧式クラッチ等の場合には油圧を調整することにより、エンジン10が出力する駆動力に応じた係合力(クラッチトルク、すなわち当該係合力によりクラッチが伝達可能な最大トルク)に制御し、第1クラッチ51又は第2クラッチ52が係合状態から開放状態へ移行する際の変位量(ストローク量)を小さくすることで、速やかに係合状態から開放状態への移行ができるようにする制御のことである。
トルクトラッキング制御により、エンジン10が出力する駆動力が小さいときには、係合力を小さくすることで、係合力が大きい場合に比べて速やかに開放状態へ移行することができる。また、必要以上の係合力を発生させる必要がないので、エネルギー効率を向上することができる。
この場合には、エンジン走行速度回転数Veの値が正常であり、且つエンジン走行速度回転数Ve以外の各基準回転数Vm1,Vm2,Vw,Vcのうちの3つの基準回転数の値が異常である。このため、エンジン走行速度回転数Veを有効にするために、ENGの駆動力により走行、すなわち、HEV走行又はENG走行する必要がある(図2参照)。このため、制御装置21は、EV走行を禁止する。
また、エンジン走行速度回転数Veを有効にするために、第1クラッチ51又は第2クラッチ52のいずれかを完全に駆動力が伝達できる状態を保持する必要がある(図2参照)。このため、トルククラッキング制御のようにエンジン10の駆動力に応じて係合力を変えるような制御では、エンジン10の出力する駆動力の急激な増加により、第1クラッチ51又は第2クラッチ52が一時的に駆動力の一部を伝達できなくなる、すなわち完全に駆動力を伝達できる状態ではなくなる可能性がある。これにより、トルクトラッキング制御を禁止することで、エンジン10の出力する駆動力に拘らず、常に第1クラッチ51又は第2クラッチ52のいずれかが完全に駆動力が伝達できる状態を保持している。
なお、本実施形態の作動制限1は、回転数検知手段が5つであるため、内燃機関回転数検知手段91以外の回転数検知手段のうち3つの回転数検知手段が異常であるか判定しているが、例えば、従動軸が2つあり、これらの従動軸にそれぞれ回転数検知手段を設ける場合、すなわち、回転数検知手段が6つ以上になるような場合もある。このような場合には、作動制限1を、「内燃機関回転数検知手段91が正常であり、内燃機関回転数検知手段91以外の回転数検知手段のうち3つ以上の回転数検知手段が異常であると判定された場合には、EV走行を禁止すると共に、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のトルクトラッキング制御を禁止する」こととなる。
作動制限1が、本発明の第1態様及び第3態様における「前記複数の回転数検知手段のうち前記内燃機関回転数検知手段以外の回転数検知手段のうち、3つ以上の回転数検知手段が、異常であると判定されたか又は正常であると判定されなかった場合には、前記電動機の駆動力のみによる走行、及び前記第1断接装置及び前記第2断接装置のトルクトラッキング制御を禁止する」ことに相当する。
制御装置21は、従動軸回転数検知手段95及び駆動輪回転数検知手段94が異常である場合、すなわち、従動軸走行速度回転数Vc及び駆動輪走行速度回転数Vwの値が異常な場合には、第1入力軸34及び第2入力軸35共にニュートラルになることを禁止する(以下、「作動制限2」という)。ここで、第1入力軸34がニュートラルになる状態とは奇数側インギア状態ではない状態であり、第2入力軸35がニュートラルになる状態とは偶数側インギア状態ではない状態である。すなわち、奇数側インギア状態ではない状態と偶数側インギア状態ではない状態が同時に発生すること、換言すれば変速段が確立されていない状態が発生することが禁止される。
この場合には、制御装置21が、当該ハイブリッド車両1の走行速度に対応した回転数として、第1入力軸走行速度回転数Vm1、第2入力軸走行速度回転数Vm2、又はエンジン走行速度回転数Veを使用する必要がある。これらのいずれかの基準回転数が有効になる場合は、奇数側インギア状態又は偶数側インギア状態のいずれかの場合である(図2参照)。このため、制御装置21が作動制限2を行うことで上記の基準回転数を有効にし、当該ハイブリッド車両1の正確な走行速度に対応した回転数を得ることができる。
作動制限2が、本発明の第1態様及び第3態様における「前記従動軸回転数検知手段及び前記駆動輪回転数検知手段が、異常であると判定されたか又は正常であると判定されなかった場合には、複数の変速段のうちいずれか1つを常に係合状態に保持する」ことに相当する。
制御装置21は、第2入力軸回転数検知手段93が正常であり、電動機回転数検知手段92及び内燃機関回転数検知手段91が異常であり且つ当該3つの回転数検知手段以外の回転数検知手段のうち少なくとも1つの回転数検知手段が異常である場合には、第2噛合機構62と第4噛合機構64の両方を同時にニュートラル状態にすることを禁止する(以下、「作動制限3」という)。換言すると、制御装置21は、第2入力軸走行速度回転数Vm2の値が正常であり、第1入力軸走行速度回転数Vm1及びエンジン走行速度回転数Veの値が異常であり、且つ当該3つの基準回転数以外の基準回転数のうち少なくとも1つの値が異常である場合に、作動制限3が行われる。
このため、制御装置21は、作動制限3において、2速側連結状態、4速側連結状態又は6速側連結状態のいずれかの状態である場合に、この状態を維持する。また、制御装置21は、偶数側インギア状態でない場合には、当該ハイブリッド車両1の走行状態に応じて、2速側連結状態、4速側連結状態又は6速側連結状態のいずれかの状態になるように、第2噛合機構62又は第4噛合機構64を制御する。そして、これ以降、偶数側インギア状態の切り替えを禁止する。
この場合には、制御装置21が、当該ハイブリッド車両1の走行速度に対応した回転数として、第2入力軸走行速度回転数Vm2を使用する必要がある。第2入力軸走行速度回転数Vm2が有効になる場合は、偶数側インギア状態の場合である(図2参照)。このため、制御装置21が作動制限3を行うことで第2入力軸走行速度回転数Vm2を有効にし、当該ハイブリッド車両1の正確な走行速度に対応した回転数を得ることができる。
作動制限3が、本発明の第1態様及び第3態様における「前記内燃機関回転数検知手段及び前記第1入力軸回転数検知手段が異常であると判定されたか又は正常であると判定されなかった場合、且つ前記複数の回転数検知手段のうち当該2つの回転数検知手段及び前記第2入力軸回転数検知手段以外の回転数検知手段の少なくとも1つが異常であると判定されたか又は正常であると判定されなかった場合には、前記第2変速機構による前記第2入力軸と前記駆動輪との係合の解除を禁止する」ことに相当する。
制御装置21は、電動機回転数検知手段92が正常であり、第2入力軸回転数検知手段93及び内燃機関回転数検知手段91が異常であり且つ当該3つの回転数検知手段以外の回転数検知手段のうち少なくとも1つの回転数検知手段が異常である場合には、第1噛合機構61と第3噛合機構63との両方を同時にニュートラル状態にすることを禁止する(以下、「作動制限4」という)。換言すると、制御装置21は、第1入力軸走行速度回転数Vm1の値が正常であり、第2入力軸走行速度回転数Vm2及びエンジン走行速度回転数Veの値が異常であり、且つ当該3つの基準回転数以外の基準回転数のうち少なくとも1つの値が異常である場合に、作動制限4が行われる。
このため、制御装置21は、作動制限4において、3速側連結状態、5速側連結状態又は7速側連結状態のいずれかの状態である場合に、この状態を維持する。また、制御装置21は、奇数側インギア状態でない場合には、当該ハイブリッド車両1の走行状態に応じて、3速側連結状態、5速側連結状態又は7速側連結状態のいずれかの状態になるように、第1噛合機構61又は第3噛合機構63を制御する。そして、これ以降、奇数側インギア状態の切り替えを禁止する。
この場合には、制御装置21が、当該ハイブリッド車両1の走行速度に対応した回転数として、第1入力軸走行速度回転数Vm1を使用する必要がある。第1入力軸走行速度回転数Vm1が有効になる場合は、奇数側インギア状態の場合である(図2参照)。このため、制御装置21が作動制限4を行うことで第1入力軸走行速度回転数Vm1を有効にし、当該ハイブリッド車両1の正確な走行速度に対応した回転数を得ることができる。
作動制限4が、本発明の第1態様及び第3態様における「前記内燃機関回転数検知手段及び前記第2入力軸回転数検知手段が異常であると判定されたか又は正常であると判定されなかった場合、且つ前記複数の回転数検知手段のうち当該2つの回転数検知手段及び前記第1入力軸回転数検知手段以外の回転数検知手段の少なくとも1つが異常であると判定されたか正常であると判定されなかった場合には、前記第1変速機構による前記第1入力軸と前記駆動輪との係合の解除を禁止する」ことに相当する。
制御装置21は、複数の回転数検知手段91〜95のうち4つ以上の回転数検知手段が異常である場合、すなわち、各基準回転数Ve,Vm1,Vm2,Vw,Vcのうち4つ以上の基準回転数の値が異常である場合には、自動変速機31の変速制御を禁止する(以下、「作動制限5」という)。ここで、自動変速機31の変速制御とは、変速段の切り替え(例えば、2速段から3速段へのアップシフト等)や、第1噛合機構61〜第4噛合機構64による2速側連結状態〜7速側連結状態のいずれかの状態の変更である。
なお、本実施形態では、回転数検知手段が5つであるので、4つ以上の回転数検知手段が異常である場合とは、すなわち、3つの回転数検知手段が異常と判定されているとき、上述した回転数検知手段の選択により残りの2つの回転数検知手段を選択し、当該2つの回転数検知手段に応じた基準回転数の値の差が所定値αより大きい場合である。
すなわち、本実施形態において、4つ以上の回転数検知手段が異常であるとは、実質的に5つの回転数検知手段が異常であることと同等である。換言すれば、本実施形態において、4つ以上の回転数検知手段が異常であるとは、複数の回転数検知手段91〜95のうち正常であると判定された回転数検知手段が無いことと同等である。
このような場合には、当該ハイブリッド車両1の走行速度に対応した回転数として正常な値が得られないので、制御装置21は、自動変速機31の制御を適切に行えない。このため、制御装置21が作動制限5を行うことで不適切な制御になることを抑制している。
作動制限5が、本発明の第1態様及び第3態様における「前記複数の回転数検知手段のうち正常であると判定された回転数検知手段が無い場合には、前記第1変速機構及び前記第2変速機構による係合状態の変更を禁止する」ことに相当する。また、複数の回転数検知手段91〜95のうち4つ以上の回転数検知手段が異常である場合に、当該ハイブリッド車両1の走行速度に対応した回転数として正常な値が得られないとしていることが、本発明の第1態様〜第4態様における「前記複数の回転数検知手段のうち正常であると判定された回転数検知手段が無い場合には、前記複数の回転数検知手段により検知した当該車両の走行速度に対応した回転数は不正であるとする」ことに相当する。
以上のように、制御装置21は、複数の回転数検知手段91〜95に異常がある場合に、その状況に応じてハイブリッド車両1の作動を制限することで、適切な制御を行うことができる。これにより、可能な限り車両を停止させずに走行することができる。
制御装置21は、複数の回転数検知手段91〜95のうち4つ以上の回転数検知手段が異常である場合、すなわち、複数の回転数検知手段91〜95のうち正常であると判定された回転数検知手段が無い場合には、上述したように、当該ハイブリッド車両1の走行速度に対応した回転数として正常な値が得られない。
このような場合には、制御装置21は、後輪回転数検知手段96により検知された回転数に基づいて算出した後輪の回転数を当該ハイブリッド車両1の走行速度に対応した回転数として使用する。このことが、本発明の第1態様〜第4態様における「前記別車輪回転数検知手段により検知された当該車両の別の車輪の回転数に基づいて当該車両の走行速度に対応した回転数を得る」ことに相当する。
また、制御装置21は、駆動輪回転数検知手段94が正常である場合には、駆動輪走行速度回転数Vwと後輪回転数検知手段96によって検知された回転数との差を比較して、所定値α以下である場合には、後輪回転数検知手段96が正常であると判定する。なお、後輪回転数検知手段96によって検知された回転数は、駆動輪回転数検知手段94よって検知された駆動輪回転数Nwと同様に、そのままの値を走行車速として扱う。
このことが、本発明の第1態様〜第4態様における「前記駆動輪回転数検知手段が正常であると判定された場合には、前記別の車輪の回転数と前記駆動輪の回転数との差が、所定の値以下であるときには前記別車輪回転数検知手段が正常であると判定し、所定の値より大きいときには前記別車輪回転数検知手段が異常であると判定する」ことに相当する。
以上のように、本実施形態のハイブリッド車両1では、複数の回転数検知手段91〜95のうち、現時点で異常と判定されておらず、且つ現時点の車両の状態により有効なものの中から、3つの回転数検知手段を上述のような優先順位に従って選択する。その後、第1判定処理部2111、第2判定処理部2112、及び第3判定処理部2113により、所定の基準回転数と他の2つの基準回転数との差が所定値以下であるか否かを、3つの基準回転数に対してそれぞれ行う。これにより、特許文献1のように2つの回転数検知手段の検知結果を比較する場合とは異なり、より高精度に且つ速やかに回転数検知手段が正常か異常かを判定することができる。
なお、本実施形態のハイブリッド車両1では、制御装置21が、優先選択1→優先選択2→優先選択3の順番で複数の回転数検知手段91〜95の優先順位を決定しているが、これに限らない。例えば、「優先選択2→優先選択3→優先選択1」の順番であったり、「優先選択3→優先選択1→優先選択2」の順番であってもよい。この順番は、それぞれの車両の構成に応じて、回転数検知手段が正常か異常かを速やかに且つ高精度に判定可能になっていればよい。
また、本実施形態のハイブリッド車両1の自動変速機31は、従動軸38を1つの軸で構成しているがこれに限らず、2つの軸で構成してもよい。この場合には、それぞれの2つの軸に回転数検知手段を設けてもよい。また、自動変速機31の構成は本実施形態のものに限らない。
また、本実施形態のハイブリッド車両1では、回転数検知手段を5つ備えているがこの数はこれに限らず、6つ以上であってもよい。なお、回転数検知手段が3つ以上であれば、より高精度に回転数検知手段が正常か異常かを判定することができるという効果が得られる。また、4つ以上の回転数検知手段を備えている場合であれば、上述したような優先順位により回転数検知手段を3つ選択すればよい。