図1に示すように、共振装置は、マイクロメータサイズ又はナノメータサイズの電気機械共振器1と、対応する結合振動回路と、を備えるオシレータを形成する。共振装置は、バイアス素子2に接続される。共振器1は、可動素子3と、少なくとも1つの固定素子4と、を備える。可動素子3は、固定素子4に対して振動することができる。固定素子4は、少なくとも共振器1の可動素子3の励振手段に相当する。このように、励振手段は、共振器1の集積部を形成すると見なされる。従って、共振器1は、励振端子Eを備える。励振端子Eは、固定素子4から発生する励振力を制御し、励振電極とも呼ばれる。
励振手段は、容量型又は熱伸縮型であることが有用であるが、可動素子3の作動に適したその他の型とすることもできる。
共振装置は、固定素子4に対する可動素子3の動きの検出手段も備える。検出手段は、可動素子3の動きを電気信号に変換する。この電気信号は、固定素子4に対する可動素子3の位置を表す信号である。従って、共振器は、端子Dを備える。端子Dからは、可動素子3の動きを表す信号が、外部に送信され、それによりフィードバックループに送信される。
検出手段は、容量型又は圧電抵抗型であることが有用であるが、可動素子3の位置を測定するのに適したその他の型とすることもできる。
図1の特定の実施形態では、追加の固定素子8を備える共振器1を使用することができる。この追加の固定素子8は、追加の励振端子に対応づけることができる。追加の固定素子は、励振検出信号のデカップリングを改善するための検出電極である。共振器1の特性の制御を向上させるために、バイアス電圧Vgが追加の固定素子8に加えられる。バイアス電圧Vgは、第1トランジスタ6の動作点を制御可能にする。追加の励振電極は、容量型の励振にのみ使用可能である。
可動素子3の動きの検出手段は、追加の固定素子8(図1及び図2を参照)により実現することができる。その他の実施形態では、可動素子3は、検出手段(図3〜図5を参照)を備えることもできるし、検出手段を構成することもできる。
オシレータを形成するために、振動条件を満たすように、共振器1の可動素子3の動きを表す信号が変換、一般的には増幅及び位相シフト、されなければならない。そのとき、変換された代表信号は、励振手段を用いて、すなわち共振器1の励振端子Eを介して、共振器1に再び入力される。
信号の変換は、検出手段を励振端子Eに接続するフィードバックループにおいて実現され、バイアス素子2が少なくとも1つの容量性負荷5、本実施形態ではキャパシタ、を備えるという事実により実現される。容量性負荷5は、励振端子Eと基準電圧GNDとの間に接続される。検出手段により共振器1から送信される電流信号は、増幅され、及び/又は、電圧に変換され、且つ、容量性バイアス素子2を用いて90°又はπ/2だけ位相シフトされる。
それにより、検出手段は、固定素子4に対する可動素子3の動きを表す検出信号を、共振器1の励振入力に接続されるフィードバックループに供給する。
従来、振動条件は、バルクハウゼン条件により定義される。これにより、電子回路に対応づけられる、電子回路の伝達関数Gと共振器の伝達関数Hとの積は1以上の利得を持たなければならず、且つ、フィードバックループからの信号と共振器1からの信号との位相差はkを整数として2.k.πに等しくなければならないことになる
共振器1の伝達関数Hは、共振器1の機械的特性と、励振手段の伝達関数と、を考慮する。従って、共振器1の伝達関数Hは、質量、剛性、及び減衰係数の関数、すなわち、共振器の幾何学的パラメータ及び共振器の組込条件の関数である。
対応づけられた回路の伝達関数は、フィードバックループ及び検出手段の伝達関数に対応する。検出手段及び励振手段が利得Kであると見なす場合には、バルクハウゼン条件は、以下のように再定義することができる。
− フィードバックループが、フィードバックループに入力される信号とフィードバックループから出力される信号との間のπ/2に相当する位相シフトを行うのに十分であること。
− 対応づけられた回路の絶対値が、以下の式1に相当すること。
この定義より、オシレータを形成するには、フィードバックループが、上記位相シフトを行うことができ、且つ、自立した振動を得るのに十分な利得を保証することができる装置を備えていなければならないことになる。
これらの条件は、第1トランジスタ6を追加することにより(図1を参照)、又はフィードバックループに直列に接続された第1トランジスタ6及び第2トランジスタ7を追加することにより(図2を参照)、得ることができる。第2トランジスタ7は、第1トランジスタ6からの出力に分配される電流の値を増幅する増幅トランジスタである。従って、フィードバックループは、直列に接続された最大でも2つのトランジスタ、すなわち第1トランジスタ6及び第2トランジスタ7、を備えている。以下の例では、容量性負荷5は、フィードバックループに集積される。特殊な実施形態(図示せず)では、容量性負荷は、第1及び第2トランジスタが作製される集積回路の金属配線路により形成される。従って、フィードバックループは、直列に接続される最大2つのトランジスタだけでなく、例えば抵抗及びキャパシタ等の数個の受動素子も備えることができる。特定の実施形態では、フィードバックループは、第1トランジスタ6のみにより、又は第1トランジスタ6及び第2トランジスタ7により形成される。
共振素子では、第1トランジスタ6は、基準電圧GNDと励振端子Eとの間に接続される。第2トランジスタ7は、基準電圧GNDと励振端子Eとの間の第1トランジスタ6に直列に接続することができる。第1トランジスタ6及び第2トランジスタ7は、電界効果型又はバイポーラ型とは無関係にすることもできる。このように、第1トランジスタ6及び第2トランジスタ7は、同一型とすることもできるし、異なる型とすることもできる。
第1トランジスタ6が電界効果型である場合には、第1トランジスタ6の第1ソース/ドレイン電極は、基準電圧GNDに接続される。第2ソース/ドレイン電極は、励振端子Eに直接接続されるか、又は第2トランジスタ7を用いて接続される。
バイアス素子2は、第1トランジスタ6の動作体制(operating regime)、又は第1トランジスタ6及び第2トランジスタ7の動作体制を強制可能にし、且つ、端子Eの信号と検出端子Dの信号との間の位相シフトを保証する。また、バイアス素子2は、可動素子3を励振可能にする。
図1及び図2に示すように、共振器の振動特性を調節するように、可動素子3には、バイアス電圧Vpolを用いてバイアスをかけることができる。
容量性手段による励振検出の場合には、可動素子3の両側に設けられる2つの異なる電極、すなわち、2つの固定素子4,8、を使用することが有用である。一方の電極は、可動素子3の励振を行う。また、他方の電極は、可動素子3の動きの検出を行う。このように、静電気結合は、2つの電極間で大きく減少する。図3に示すように、単一の固定素子4のみを備える共振器を使用することも考えられる。そのとき、この単一の固定素子4は励振手段を備えるのに対して、可動素子3は、検出手段を備える又は検出手段を構成する。
第1トランジスタ6の導電率は、検出手段から出力される検出信号により制御される。このように、固定素子4に対する可動素子3の位置に依存して、検出信号の振幅は、変化し、且つ、第1トランジスタ6の2端子間を流れる電流を変化させる。
共振器1は、面内動作をすることもできるし、面外動作をすることもできる。共振器1は、例えば、組込−フリー(embedded-free)ビーム型(単一組込)とすることもできるし、組込−組込(embedded-embedded)ビーム型(二重組込)とすることもできるし、その他の公知の型とすることもできる。
フィードバックループを共振器1の極めて近くに集積することができるので、最大でも2つのトランジスタ6,7のみを備えるフィードバックループを使用することが特に有用である。それにより、共振素子が占める表面積を大きく低減することができる。また、浮遊容量も大きく低減する。これらの浮遊容量は、有用な信号の損失の原因及びいかなる見込み振動も妨げる背景雑音の発生の原因となる。
第1トランジスタ6が共振器1の極めて近くに設けられるので、浮遊容量の影響は、トランジスタ6の入力容量及び共振器1の静的容量と比較して無視できる。
第1トランジスタ6のバイアスは、励振端子Eに対して第1トランジスタ6又は第2トランジスタ7(トランジスタ7が設けられる場合)に接続されるバイアス素子2を用いて実現される。
オシレータの特定の実施形態では、励振及び検出は容量型である。図1に示すように、フィードバックループは、第1トランジスタ6により形成される。第1トランジスタ6の制御電極、ゲート電極又はベース電極は、検出手段、すなわち、端子Dに接続される。このようにして、検出手段は、第1トランジスタ6の導電率を調節する。第1トランジスタ6により分配される電流は、増幅することもできるし、励振手段により生成される作動力を制御しなくても良い。
共振器のその他の実施形態では、例えばナノワイヤ型の可動素子を使用することにより、励振を容量型とすることもできるし、検出を圧電抵抗型とすることもできる。図4及び図5に示すように、ナノワイヤは、バイアス電圧Vpolと検出端子Dとの間に接続される。そのとき、可動素子3として作動するナノワイヤは、励振手段により作動する。前述の実施形態の場合には、フィードバックループは、第1トランジスタ6(図4を参照)により構成されるか、又は第1トランジスタ6及び第2トランジスタ7(図5を参照)により構成される。
図6に示すように、共振器1と、励振手段と、検出手段と、は浮遊トランジスタにより形成することができる。特に、本実施形態は、文献「by Colinet et al. ”Measurement of Nano-Movement Based on In-Phase Suspended-Gate MOSFET Detection Compatible with a Front-End CMOS Process” ISSCC 2008, 18.2」及びWO 2007135064号で説明されている。本実施形態では、第1トランジスタ6は電界効果トランジスタであり、且つ、第1トランジスタ6のゲートは共振器1の可動素子3により少なくとも部分的に形成される。それにより、チャネルと可動素子3との間のMOS容量の値をチャネルに対する可動素子3の位置に応じて変化させることができる。そのとき、第1トランジスタ6のチャネルは、第1トランジスタ6の導電率を制御する検出手段、すなわち、固定素子4として作動する。
図7に示すように、この型のオシレータに関して、バイアス素子2は、電源端子Vddに対してバイアス抵抗9と直列に接続されるキャパシタ5を備えることができる。この場合には、抵抗9及びキャパシタ5と共通の端子は、励振端子Eに接続される。
例示目的でいえば、共振器が組込−組込ビーム型である場合には、共振器の長さは14[μm]であり、共振器の幅は1[μm]である。ビームの厚さは340[nm]であり、ビームと励振検出電極との間の距離は100[nm]である。各電極の表面積は14×0.34[μm2]である。典型的には、この型の共振器の性能係数は、負荷の無い状態で1000である。共振器の有効質量は約14.8×10−11[g]であり、共振器の有効剛性は100.9[N/m]である。共振器の共振周波数は4.6[MHz]である。
図8の例では、バイアス素子2は、電源電圧Vddと励振端子Eとの間に接続される抵抗9と、励振端子Eと基準電圧GNDとの間に接続されるキャパシタ5と、により形成される。また、検出手段から出力される検出信号には、追加の電圧Vgが加えられる追加の抵抗10を用いてバイアスがかけられる。抵抗9,10は、10[MOhm]未満の抵抗を有する。また、励振端子Eに加えられるバイアス電圧は5[V]である。第1トランジスタ6の容量が10[fF]であり、バイアス素子2のキャパシタ5の容量が0.5[pF]である場合には、フィードバックループの最小相互コンダクタンスは、29.6[μS]でなければならない。この例では、そのような相互コンダクタンスの値が単一のトランジスタにより容易に得られるので、第2トランジスタ7は不要である。
図9に示すように、バイアス抵抗9を、励振端子Eと電源電圧Vddとの間に接続される第3トランジスタ11に置き換える変形例も可能である。この場合には、第3トランジスタの制御端子に加えられるバイアスVSは、バイアス電流を調節することができる。第3トランジスタ11の制御電極に加えられる所定電圧VSは、トランジスタの動作型を固定することができる。電圧VSは、励振端子の電圧と等しくすることができる。そのとき、制御電極は、励振端子に接続される。所定電圧VSを固定するための外部電源を使用することも考えられる。
その他の代替の実施形態では、第1トランジスタ6には、検出端子と第1トランジスタ6の制御電極との間に接続される追加の抵抗10を用いてバイアスをかけられる。図10に図示される特定の実施形態及び上述のその他の実施形態の組み合わせでは、第4トランジスタ12を用いて追加の抵抗を実現することもできる。第4トランジスタ12の制御電極に加えられる第2所定電圧VWは、一定の電圧である。この第2所定電圧VWは、追加の固定素子8の電圧と等しいことが有用であり、代替には外部電源から生ずる電圧と等しい。
さらにその他の実施形態では、共振器1により形成されるオシレータを実現することもできる。その共振器1は、容量性手段と、圧電抵抗手段により行われる共振器1の動きの検出、例えば面外動作の検出と、により励振する。
本実施形態では、励振電極は、可動素子3の下に設けられることが有用であり、典型的には二重組込ビームである。圧電抵抗力センサは、ビーム上に設けられる。また、ビームが変換したときに、センサは抵抗が変化したことを読み取る。センサの抵抗を計測することにより、ビームの動きを検出することができる。
前述の実施形態に関しては、フィードバックループのトランジスタ6,7の相互コンダクタンスは、圧電抵抗型の検出手段の利得及び励振手段の利得を考慮しなければならない。相互コンダクタンスは、共振器に付随する位相雑音と、第1トランジスタ6に付随する位相雑音と、第2トランジスタ7に付随する位相雑音と、もし適用可能であれば圧電抵抗センサに付随する位相雑音と、も考慮しなければならない。
例示目的でいえば、共振器が組込−組込ビーム型である場合には、共振器の長さは14[μm]であり、共振器の幅は340[μm]である。ビームの厚さは160[nm]であり、ビームと励振検出電極との間の距離は100[nm]である。各電極の表面積は14×0.34[μm2]である。典型的には、この型の共振器の性能係数は、負荷の無い状態で1000である。共振器の有効質量は約14.8×10−11[g]であり、共振器の有効剛性は3.57[N/m]である。共振器の共振周波数は7.8[MHz]である。センサは、2のセンサ係数を有するAlSi型である。励振電極の長さは、ビームの長さの1/4である。検出手段の利得は0.45[Ohm.nm−1]である。
バイアス素子2は、電源電圧Vddと励振端子Eとの間に接続されるバイアス抵抗9と、励振端子と基準電圧GNDとの間に接続されるキャパシタ5と、により形成される。また、検出手段から出力される検出信号には、追加の抵抗10を用いてバイアスがかけられる。抵抗9の抵抗値は10[MOhm]未満であり、抵抗10の抵抗値は50[Ohm]未満であり、励振端子Eに加えられるバイアスは5[V]である。第1トランジスタ6の容量は10[fF]であり、バイアス素子のキャパシタ5の容量は0.5[pF]である。圧電抵抗力センサに加えられる電圧は1[V]である。これらの条件下では、フィードバックループの最小相互コンダクタンスは、156[μS]でなければならない。この例では、そのような相互コンダクタンスの値が単一のトランジスタにより容易に得られるので、第2トランジスタは不要である。
その他の実施形態では、容量性作動及び圧電抵抗検出を有する共振器1を備えるオシレータを実現することも考えられる。例えば、この共振器は、面内動作をすることもできる。共振器1のレバレッジアームは、静電気力により作動する。また、共振器の振動動きは、このレバレッジアームに垂直に置かれたセンサの圧縮/伸張応力を含む。
前述の実施形態の変形例では、共振器1は、ナノワイヤにより形成される。励振は容量性手段により行われる。また、検出は圧電抵抗手段により行われる。実際には、ナノワイヤは極めて大きな圧電抵抗効果を示す。その圧電抵抗効果は、検出手段の極めて高い変換利得を得られるようにする。フィードバックループが供給しなければならない電子回路の利得はますます小さくなるので、本実施形態は特に有用である。抵抗変化がナノワイヤの変形により生じるので、共振器は、第1トランジスタ6に接続される可変抵抗としてナノワイヤを使用することにより得られる。
さらにその他の実施形態では、励振手段は熱型であるのに対して、検出手段は圧電抵抗型である。そのような実装は、「Bargatin et al. “Efficient electrothermal actuation of multiple mode of high-frequency nanomechanical resonators”, Applied Physics Letters 90, 2007」により提案されている。
オシレータのトポロジは、コルピッツ型である。また、第1トランジスタ6、又は第1トランジスタ6及び第2トランジスタ7には、容量性バイアス素子2を用いてバイアスがかけられる。そのとき、バイアス素子2は、トランスインピーダンス増幅器として作動する。トランスインピーダンス増幅器は、共振器1から発生する直流電流を励振端子Eの適切な電圧に変換するのに使用される。
増幅電圧Vcasは、第2トランジスタ7から出力される電流を調節できるように、第2トランジスタ7の制御電極に加えられる。従って、励振端子にバイアスがかけられる。
このアーキテクチャは、オシレータの機能に特化した共通集積型(co-integrated)ハイブリッド共振器/第1トランジスタ能動部品から構成される。そのとき、オシレータの異なる素子には、第1電界効果トランジスタ6の利得及び信号の位相シフトを固定するためにバイアスがかけられる。
共振器1のサイズの縮小が、固定された検出励振素子のすぐ近くで適切な可動素子を得られるようにするので、この回路は特に有用である。このサイズ縮小、特にナノワイヤの使用により、変換装置の利得が結果として大きく増加する。従って、フィードバックループは、典型的にはトランジスタの利得又は直列の2つのトランジスタの利得である自然利得(natural gain)を示さなければならない。
フィードバックループの相互コンダクタンスは、共振器1の幾何学的パラメータと、共振器1に結合する励振検出手段の幾何学的パラメータと、の関数であるので、1又は2つのトランジスタにより形成されるフィードバックループは、極めて現実的である。
また、共振器1と、フィードバックループと、検出手段と、を同じ基板上に作製することにより、集積密度が向上する。このことは、特に、共振装置のマトリクスを基板上に作製できるようにする。例示目的でいえば、約100[μm2]の電子的なフィードバック回路を有する共振装置を実現することができる。